< 碇シンジ誕生日企画 >
第三新東京都市に来てから僕の日常は激変した。それまで普通の暮らしをしていた僕が、いきなりエヴァのパイロットになったんだ。
正直、戦うのは厭々だった。でもみんなとの協力もあって、何とか使徒の脅威から世界を守ることが出来た。
世界が平和になったいま、僕は一応NERVの保護下にはあるけど、エヴァに乗ることも無くなって割に自由になった。
ごく普通の学生に戻った僕は、同じチルドレンのアスカや綾波と一緒に、同じ高校に進学した。
学校だけでなくクラスまでアスカや綾波と一緒。そのうえケンスケやトウジに委員長までいて、中学のときと大して変わらない。
しかも驚いたことに、マナまで一緒のクラスだ。なんでもNERVと戦自が和解したから、隠れる必要は無くなったんだって。
こうして今は友達に囲まれ、戦いのない平和で退屈な日常が―――戻ってこないんだよね・・・・未だに。
「 Happy−Birthでえと (1) 」
入学してはや二ヶ月が過ぎた。新しい学校にもだいぶ馴れてきたけど、相変わらず僕の周囲は騒々しく、落ち着きがない。
その主な原因は、綾波、アスカ、マナの三人にある。
彼女たちって、仲が悪いのか相性が悪いのか知らないけど、しょっちゅうぶつかり合ってはケンカしたがるんだよね。
でも心底嫌い合ってるわけじゃないと思う。だって、本当に嫌なら顔すら見たくないと思うんだ。
なんだかんだ言って三人一緒にいることが多いし、ケンカするのも一種のコミニュケーションなのかな?彼女たちにとっては。
ただその騒ぎに、僕を巻き込むのはカンベンして欲しい。おかげで、しょっちゅう胃の痛い思いをしてるんだ。
以前そんな愚痴をクラスの友達に洩らしたことがあった。そしたらそのとき、ケンスケが凄く冷たい声でこういったんだ。
「なに被害者ヅラしてんだ、シンジ?そもそもオマエが原因だぜ。」
そう言われてもサッパリ心当たりが無い。何故?って訊いたら、周りの男子たちはただ恨めしそうに、僕を睨んだだけだった。
トウジなんて呆れたような顔をしながら 「それでこそセンセや」 なんて一人で納得してるし、訳わかんないや。
ケンスケが言ってたけど、彼女たち三人は入学したときから凄い人気で、今や学校内のアイドル的存在なんだって。
だからかな?彼女たちと一緒にいる機会の多い(そんなこと無いと思うけど)僕が、羨ましく見えるのかもしれない。
実際、彼女たちとはエヴァがあったから知り合えたようなもので、みんなが考えてるような関係じゃないのにね。
とにかく、僕がひそかに憧れてた地味で穏やかな高校生活は、もはや遠い存在となっていた。
―――――――――――― △▼△▽ ――――――――――――
一日の授業が終わり、帰り仕度を始めた僕の席に、マナが笑顔で駆け寄ってきた。
「ね〜シンジぃっ、今週の金曜、どうしよっか?」
「え?その日って何かあったかな?」
「またまたぁトボケちゃって〜。金曜日っていったら、六月六日でしょ。」
「ああ、そういやこの学校、創立記念日だから休みなんだよね。」
「それだけ?」
「は?まだ何かあったっけ?」
「もう!シンジの誕生日に決まってるじゃない。」
「誕生日・・・・・・?」
一呼吸の空白の後、ああ、って間抜けな声を上げてしまった。
すっかり忘れてた。そっか、もうすぐ僕は16になるんだ。
「あっきれた〜っ、ホントに忘れてたの?」
「う、うん。別に誕生日だからって予定とか無いし、お祝いとかするわけでもないし。」
今までだって、誕生日に格別嬉しいことなんて無かったから、どうせ今年も、何事もないまま過ぎていくんだろうなと思った。
「アタシが祝ってあげる!ね、プレゼントなにがいい?」
「ありがとう。でも別に、気を使わなくてもいいよ。自分で忘れてたくらいだもん。」
「へへっ、じゃあシンジが忘れられないようなぁ、ステキな誕生日にするからね。」
僕の手をギュッと強く握り締めながら、とろけるような笑顔で・・・って、ちょっとマナッ、顔近すぎッ!!
「ちょっと!なに抜け駆けしてんのよっ!?」
いきなり凄い力で、首根っこごと後ろに引っぱられた。
「グフッ!!」
Yシャツがモロに喉を締め付け―――い、息出来ないっ!首の骨折れそうっ!!
「アスカ、手を離しなさい。あなたに碇くんを殺す権利はない。」
妙に冷静な綾波の声で、ようやく首が解放された。
ドサンと尻餅をついたのも構わず、めいっぱい息を吸う。・・・・・・ああ、空気が美味しい。
「まったく、ワザとらしい深呼吸しちゃって。助けてあげたんだから感謝しなさい。」
・・・・・・いや、別に振りでもなんでもなく、死ぬとこだったんですけど。
「シンジってば可哀そう。あんな馬鹿力で首を締められたうえ、感謝しろだなんて・・・。」
「う、うっさいわねぇっ!もともとの発端はアンタでしょうが!!」
「どーしてぇ?アタシはただシンジに、誕生日の相談をしただけだよ。」
「は?アンタ、誕生日だったの?」
ようやく落ち着いてきた僕の顔を、キョトンとした表情でアスカが覗き込む。
「・・・金曜日にね。六月六日なんだ。」
「あっら〜あ〜っ!アスカさんてば、知らなかったんだぁ〜〜。」
マナがあからさまに勝ち誇った笑みで挑発する。・・・はぁ、また始まったよ。
「な、何よっ?なんでこのアタシがバカシンジの誕生日まで、知ってなきゃいけないのよ?」
「そ〜だよねぇ、タダの同居人だしぃ〜〜。それ以外の関係なんてこれっぽっちも無いもんねぇ〜〜。」
「同居、というより寄生ね。碇くんを拠り代にしないと、人並みの生活すら維持できない寄生生物。」
「アンタに言われたくないわよっっ!!」
ああっ、綾波まで火事場にガソリン撒かないでよ。
またアスカがキレたりしたら・・・・やばい、なんとか話を逸らさないと。
「そ!そりゃ僕は誕生日のことなんて、誰にもなーんにも言わなかったもん。アスカだって知ってるわけないよ、ね?」
・・・・・・ん?じゃあ何で、マナは知ってたんだ?
「あれ、マナには言ったっけ?」
「まーかせてっ!シンジの誕生日なんて、出会うまえから知ってるよ!なんたって一流のスパイだったもんねっ!!」
マナ・・・・・いくら過去のしがらみが無くなったからって、そんな大っぴらに言わなくても・・・・・。
「なによ偉そうに。つまりは他人のプライバシーを嗅ぎ回ってたわけでしょ。まぁ、スパイ女にはお似合いですこと。」
「あーっ!ムカつくなあその言い方。今どき職業に貴賎なんて無いもん!」
そういう問題じゃない、と思う。
「碇くん、私はちゃんとプレゼントを用意してるから、楽しみに待ってて。」
「あ、ありがとう。綾波も知っててくれたんだ?」
凄くビックリした。綾波が知ってるだけでも驚きなのに、その上プレゼントまで・・・。
「へ〜ぇ、あんたもすました顔しながら、陰でコソコソやってんのねぇ。」
「失礼ね。私は彼女のように姑息な真似はしていない。正々堂々、正面からMAGIのパスワードを破ったわ。」
・・・えーっと、ちょっと前にリツコさんがもの凄〜く落ち込んでたのって、もしかして君の仕業?
っていうか、僕の誕生日を調べるくらいで、なんでそこまでするの?普通に訊いてくれればいいのに。
「大体、誕生日プレゼントを本人に訊くなんて、心が通じてない証拠。私にはちゃんと、碇くんの欲しいものが解ってる。」
綾波は鞄から紙切れを取り出すと、ペラリと僕に見せた。
・・・・・・・あの、僕の目って悪いんでしょうか?・・・・・・・『コンイントドケ』 って読めるんですけど・・・・・・。
「準備は万全。後は碇くんがここに印鑑を押せば、二人は永遠に一緒なの・・・・。」
一点の曇りもない綾波の笑顔はとても綺麗で、まるで天使のようだ。
・・・・・・でもさ、僕の心をどう読んだのか知らないけど、君の視力も思いっきり悪そうだね・・・・・・。
「えーとぉ・・・・誕生日が来ても僕はまだ16歳なんで、結婚出来ませんが・・・・。」
「男女平等。私が結婚出来るから、碇くんも結婚していいの。」
「でも綾波も、まだ16じゃないでしょ?三月生まれなんだし。」
「大丈夫。そんなのどうにでもするから。」
どうにでも 「する」 んですか・・・・・。じゃあ年齢なんて、ハナッから関係ないような・・・・・。
「コワいわよねぇ、世間知らずって。」
「違うよアスカさん。あれは知らないんじゃなくて、無視してんのよ。」
「よけいタチ悪いじゃない。ったく、男女平等だの唱える前に、常識ってものを学びなさいよ。」
僕もその意見には同意するけど、出来れば三人一緒に勉強してくれると、ものすごーく助かる。
いつの間にか、僕らの半径5メートル以内から人が消えていた。逃げ遅れた生徒は、机をバリケード代わりにして見守っている。
・・・・まあ仕方ないか。このままエスカレートしたらどうなるのか、この二ヶ月間ですっかり知られちゃったようだし。
バリケードの向こうで、ケンスケとトウジがしきりに腕を動かしている。『そろそろマルく収めろ』 というブロックサインだ。
二人ともそれがどんなに難しいか、知ってるくせに・・・・ああ、委員長までサイン出してるよ。助ける気無さそうだね、my friends。
「とっ、とにかく二人とも、プレゼントなんて気にしないで。その気持ちだけでじゅ〜ぶん嬉しいから。」
「もう、遠慮しなくっていいってば!すっごく豪華なプレゼントを用意するからねっ。」
「やっぱり解ってないのね。碇くんは心が篭らないモノなんかに、釣られる人じゃないの。」
「ええっ!それってやっぱ、アタシが欲しいってこと?」
「そう、あなた "モノ" だったのね。知らなかったわ。」
「へへっ、シンジのモノなら良いんだもーん。」
「・・・めげない人。」
あ、やっぱダメだ。収集つかないや。
「はいはい、アンタらずっと、バカの展覧会やってなさい。シンジ、こんなの放っといて帰るわよ。」
そう言ってアスカがグッと僕を引っ張る。
・・・・だから、襟を掴まないでってば。
「ずるーい、まだ話は終わってないよ。」
言うが早いか、マナが僕の右腕をガシッと掴む。
「じゃあ、私はこちら。」
負けじと綾波も、僕の左腕をガッチリ抱え込む。
「もーっ、鬱陶しいわねアンタたちっ!!とにかく早く帰るの!テレビ見たいんだからっ!!」
アスカが歩き出すもんだから、僕は後ろ向きのまま引っぱられる。これじゃまるで強制連行だよ。
「ね、ねえみんな?自分で歩けるから離して欲しいんだけど。」
三人とも、僕の言葉は完全に黙殺。そのうえ左右の二人がますます身体を寄せてきたもんだから、いっそう歩き辛い。
おまけに気のせいか、男子生徒の視線が怨念のように僕に纏わりついてくる。僕のせいじゃないのに。
教室を出るとき、合掌しているトウジと、にこやかにハンカチを振るケンスケの姿が目に入った。・・・・薄情者。
―――――――――――― △▼△▽ ――――――――――――
結局、マンションに帰宅するまで、僕はこの格好のままだった。いま思い返しても恥ずかしい。
綾波やマナの自宅は方向が違うんだけど、当然のように一緒について来る。まあいつものことだ。
アスカは着替えた後、リビングでTVを陣取る。後の二人も一緒にTVを眺める。これもまあ、いつものことだ。
僕は着替えもそこそこ、ジュースとお菓子を用意し、お盆に載せて持っていく。これも・・・ちょっと情けないけど・・・いつものことではある。
ただちょっと違ったのは、リビングの前に行ったとき、マナが笑顔で通せんぼをしてたことだ。
「ごめんねシンジ。アタシたちだけで話があるから、ちょっと外しておいて。お・ね・が・い。」
「シンジぃ、勝手に入ってきたりしたら、タダじゃおかないからね。」
「う、うん。わかったよ。」
お盆を渡すとピシャリと扉が閉まり、なにやらヒソヒソ聞こえてくる。
気になるので聞き耳を立ててみたくはあるけど、気付かれたときのことを思うと、そんな勇気も湧いてこない。
いいや。少なくとも怒鳴り声とかしないし、束の間でも平和が訪れるのは有難い。おとなしくキッチンに戻ろう。
ミサトさんが帰ってくるまでに夕食の支度、と・・・・・ふう、この時間がいちばん落ち着くなあ。
僕って将来、主婦業が向いてるのかも。なんだか情けない未来図になりそうなので、考えないようにしよう。
夕食の支度が出来上がったので、リビングまで呼びに行った。
「あの〜〜、ご飯出来たんだけど。」
・・・・・・返事がない。いままでみんな、『ご飯』 の言葉には即座に反応してたのに。
なんか不安だ。ちょっとだけ覗いてみようか?でも、怒られそうだしなあ。
「たっだいま〜っ!!」
どうしようか迷ってると、玄関の方からミサトさんの声がした。やばっ!!
アスカたちに気付かれないよう抜き足のまま、速攻でキッチンへ戻る。
「おっ、おかえりなさい!」
「どうしたの?そんな慌てちゃって。」
「い、いや別に・・・・・そうそう!夕食の支度出来ましたから。」
「ありがと〜ん!お腹ペコペコよぉ。」
僕が返事する間にもミサトさんは缶ビールを開け、一息で流し込む。
「ぷっはぁ〜〜っ、やっぱ仕事の後のビールは最高だわ。」
「あ、座ってて下さい。いまご飯つぎますから。」
「あら・・・・ところで、あのコたちは?」
「えっと、三人ともリビングでなにやら話し込んでますけど。」
「ご飯も忘れてなんて珍しいわね。いいわ、先食べましょ。」
ミサトさんと一緒に食べようとしたとき、バタバタと足音が鳴り響き、アスカが顔を出した。
「ちょっとシンジッ!ご飯出来たんならさっさと呼びに来なさいよ、まったく。」
「いや、呼んだけど・・・。」
「わ〜い、いっただきま〜す。」
「葛城さん、お醤油とって下さい。」
後から来たマナと綾波も早速食べ始める。どうやら僕のささやかな反論は聞こえてないらしい。別にいいけどさ。
食事の時は一番平和だ。きっとみんな、食べるのが好きなんだろな。沢山食べてくれるのは、僕も嬉しい。
「ところでアンタたちさあ、なに話し込んでわけ?」
ビキッ!
あ、あれ?気のせいかなあ・・・・・・和やかな雰囲気がひび割れたような音が聞こえたけど。
「シンジ・・・・・・。食べ終わったらリビングに来なさい。話があるから。」
「う・・・・うん。」
妙に硬いアスカの声音。なんだか凄く嫌な予感する。でも僕に、首を横に振れるはずもない。
ほかほかのご飯がなぜか、最後の晩餐のように思えた。
片付けを終えてリビングへ入ると、アスカ、綾波、マナの三人が並んで座っていた。
みんな無言なのがかえって不気味だ。妙な圧力をヒシヒシと感じる。ああ、逃げ出したい・・・。
「・・・・・そ、そのぅ、何か用・・・・・?」
「はぁ?用があるから呼んだんでしょ。」
「そ、そうだよね。はは・・・・。」
ううっ、なんか怖いよ〜っ。
「私が話すわ。碇くんが怯えるからアスカは黙ってて。」
「へぇへぇ、悪うござんした。」
「碇くん、お誕生日のプレゼントの事だけど・・・。」
えっ、まだその話って続いてたんだ。
「あのう、学校でも言ったけど気にしないで。
僕たち使えるお小遣いも限られてるから無理させたくないし、その気持ちだけで充分だよ。」
「ええ、きっと碇くんはそう言うと思ったから、モノを贈るのは止めにしたの。」
「やっぱこういうのって気持ちが大事だし、ちゃんと心が伝わるものにしたいもんね。」
「ま、そんなわけで何がいいのか、三人で話し合ったってわけよ。」
・・・なんか、じんと来てしまった。僕なんかのために、そこまで考えてくれてたなんて・・・。
「―――ありがとうみんな。いまの言葉だけでも、すっごく嬉しいよ。」
「それで結論として、私たちのうち誰か一人だけが、その日の時間を碇くんにプレゼント出来ることに決定しました。」
「時間?」
「生涯に一度きりしかない、碇くんの16歳のお誕生日。大切な日に大切な人と過ごしたいと願うのは、当然の帰結。」
「は、はぁ・・・・。」
「だから当日、碇くんが一緒に過したいと思う相手を決めて欲しいの。」
え〜と、つまりそれって・・・・・・。
「も〜っ、ニブいなあシンジ。要は、わ・た・しとデートしよってこと。」
「あなたと決まったわけじゃない。」
「・・・あの〜、とどのつまりデートの相手を選びなさい、ということですか?」
「なによ、その抜けた顔。こんな美少女がデートしてやってもいいって言ってるんだから、もっと嬉しそうな顔しなさい。」
・・・・・・嬉しいというか、すごく辛い選択なんですが。
「アスカさんはイヤイヤみたいだから、放っといていいよ。」
「勝手な注釈つけるなっ!!」
「・・・それで碇くん、誰を選ぶの?」
綾波はさっきから全然まばたきしない。マナも目だけは笑ってない。
アスカからも意味不明の殺気がビンビン伝わってくるし、・・・こ、こりゃヘタなことは言えそうにない。
「そ、そのぉ、皆さんのお気持ちは凄〜ぉく嬉しいんですがぁ・・・・・・。」
「・・・・アン?このアタシがここまで言って上げてるのよ。まさか、断るつもりじゃないわよねぇ?」
「い、いえっ!・・・・・あの、せっかくだから、みんな一緒では・・・・・どうかなと・・・・・・・。」
「バカシンジッ!!四人も連れ立ってぞろぞろ歩いて、どこがデートなのよっっ!?」
は、はい。ごもっとも・・・・・・。
「シンジは優しいから、余っちゃう二人に気を使ってるんだろうけど、でもいいのよ、自分の心に正直になれば。」
「霧島さん、ナイフで脅すのは反則。」
とか言いながら、綾波の手からもオレンジの光が揺らめいてるし、こ、こんな状況で選べるわけないじゃん!!
「―――ははーん、四人そろってなに面白そうな相談してるかと思えば、デートの約束かあ。」
「ミサト、まだ話は終わってないんだから、邪魔しに来ないでよ。」
「邪魔なんてしないわよぉ。にしてもシンちゃんってばモテモテで羨ましいわぁ〜、ニクイよっ!くのっ。」
ミサトさん、絶対面白がっているでしょ?
「あの〜、出来れば時間を、もうちょっと貰えたいんだけど。」
「はぁ?誰を選ぶか考える余地なんて、どこにも無いでしょが。」
「ホントホント。凶暴な人と凶悪な人に挟まれながらも健気に頑張る、美少女マナちゃんしかいないよね。」
「まだ六月に入ったばかりなのに、早くも脳にカビが生えたようね。かわいそうな人。」
だからそうやって、ギスギスした雰囲気作んないでってば。
「ほらほらみんな、シンちゃん困ってるじゃない。ちょっとくらい待ってあげたら?」
「ま、確かにシンジに即断即決を求める方が間違いだったわ。んじゃ、明後日までに決めること。」
「アスカ、木曜日までじゃダメかなぁ?」
「あのねえ、女の子は色々準備しなきゃいけないのっ!相手の都合も考えなさいよ!」
じゃあ、僕の都合はどうなのさ・・・・・・。
「はい。スケジュール表渡しとくから、ちゃ〜んとデートの計画も建てといてね。楽しみにしてるよ、シンジ。」
一瞬、マナから満面の笑みで手渡された紙切れが、死刑執行の契約書に見えてしまった。
「そうそう、前もって言っとくけど、遅くとも夜の8時には帰ってらっしゃい。」
「え〜っ、何でぇーー?」
「アタシにだってお祝いさせてくれてもいいじゃん。他のみんなも呼んどくから、パーッとやりましょっ!」
「・・・・結局、飲んで騒ぎたいだけでしょ。アンタは。」
「まーまー、カタイこと言いっこなし。それまでは好きにしてもいいわよん。シンちゃんももうオットナ〜なんだしぃ。」
止めるどころか煽ってるよ、この人・・・・・・。
「じゃあ碇くん、今日はこれで。」
「おやすみなさ〜い、シンジ。」
綾波とマナが帰ったあと、僕は自室に篭って考え始めた。けど、なかなか決められない。
別にデートぐらいで悩まなくたって、と思うかも知れないけど、あの様子だと誰を選んでも一騒動ありそうな気がする。
そもそも僕のデートの経験なんて、いままでに一回だけ。マナと一緒に、芦ノ湖へ行ったことくらいしかない。
あのときはちょっと頑張って遠出したけど、今回は時間も限られてるし、雨に振られると台無しだもんなあ。
デートのやり方なんて他に知らないし・・・・・・うーん、どうしてみんな、僕なんかとデートする気になったんだろ?
ひょっとしたら僕って、意外とモテるんじゃ・・・・・・はは、まさかね。誕生日ってことで特別なんだろうな、きっと。
でも最大の難問は誰と一緒に行くか、なんだよね・・・・・・・・・困ったなあ・・・・・・・・・。
―――――――――――― △▼△▽ ――――――――――――
「・・・・・・で、これがアンタの結論ってわけ?」
「・・・・・・は、はい・・・・・・。」
暴発しそうな怒りを必死で押し殺しているアスカの声音に、僕は正座したまま首をすくめた。
「ひどいよシンジ、よりによってさあ・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
マナも頬を膨らまして僕を睨む。綾波はさっきから一言も喋らないけど、その視線がいかにも不服そうだ。
「ご、ごめん、その・・・・・・やっぱり、ムリがあるかな?」
「あったりまえよッ!!同じ日にとっかえひっかえデートしようなんて、虫が良すぎるわっっ!!!」
バンッ!!アスカは僕の差し出したスケジュール表を、力いっぱい床に叩き付けた。
 8時 〜 12時: |  マナ |  映画館 〜 昼食 |
12時 〜 16時: |  綾波 |  美術館 〜 喫茶店で一休み |
16時 〜 20時: |  アスカ |  水族館 〜 軽く夕食 |
「おまけに映画館とか美術館だとか、もうちょっと他に思いつかないの!?」
「ほ、ほら、ここんとこ天気悪いしさ、屋内の方がいいと思って。」
「大体、なんでアタシんときは水族館なんて辛気臭いとこ選ぶわけ?」
「え〜っ、あたしは別に水族館でもいいけどなぁ。」
「アンタに言ってんじゃないのッ!!」
ううっ、余計に火種撒いちゃったよ。
「わかったわ碇くん。この結論に至ったのも、あの二人の報復が怖いから、なのね。・・・大丈夫、速やかに排除するから。」
「ハンッ、大きな口叩いてんじゃないわよ、ファースト。」
「あたしは別に二人相手でもかまわないけどぉ〜。いい機会だから此処で決着つける?お二人さん。」
「・・・望むとこ。」
ユラリと立ち上がる三人の姿はさながら、再起動するエヴァ・・・・・・なんて言ってる場合じゃないっ!!
「み、みんな待って!ケンカはダメだよッッ!!ね、ちょっと、落ち着こうよ。」
「なに傍観者ヅラしてんのよっ!!だいたいアンタがビシッと決められないから悪いんでしょっ!!」
「ほ、ホントにゴメン。けどやっぱり、誰かに決めちゃうと他の人が仲間外れになっちゃうし、それで・・・・。」
「仲間外れって・・・・・・・あのねぇ・・・・・・・。」
三人は顔を見合わせると、申し合わせたように、ハァ〜〜〜っと長い長い溜め息をついた。
「バカでトロくて鈍感で断熱材並みに伝わりにくいとは思ってたけど、ここまでとはね。」
「私たちの今までの表現が、生ぬる過ぎたのかしら?」
「ねぇねぇ、この際、誰が一番かっていうのを、このデートで決めちゃわない?」
「いいわね、それ。」
「ええ、問題ないわ。」
な、なんの相談してんだろ?
「よし決定ッ!!受けて立とうじゃないの。悪いけど本気出すから、アンタたち後悔しないでね。」
「それは私の台詞。」
「そうと決まればさっそく準備準備っと。じゃあシンジ、金曜日にね〜。」
僕だけ蚊帳の外にされてる間に話がまとまったらしく、マナと綾波は帰っていった。
えと、イマイチ状況がつかめないんだけど、これでOKってことでいいのかな?
「じゃ、アタシもそろそろ寝るから。シンジ、当日は覚悟しときなさいよ。」
去り際に見せたアスカの不敵な笑みに、もの凄い不安が全身を襲った。
いまさらだけど・・・・・・、とんでもないことしちゃったのかな、ボク・・・・・・。
< 続 >