ドドドドドドド!!!

シュミレーション空間の中を、幾多の弾丸が一機の量産エヴァめがけて飛ぶ。


チュチュチュイン!!!


が、全てそのエヴァが盾にした高層ビルの中へと吸い込まれていった。


『ちっ!!ビルの影に入られたか!!これじゃ長距離からは手が出せん』

『近接装備部隊、突撃しろ!!援護する!!』

『『『了解!』』』


掛け声も勇ましく、三機のエヴァがビルに向かって特攻する。

後方からの弾幕支援付だ。


ギイイン!!

ドウン!!!

ガガガガガン!!!!


響き渡る爆音や炸裂音。


『ぐ・・・弾幕をはりすぎて何も見えないじゃないか!』

『な、近接部隊、反応ロスト!!!』

『なにいいい!?』



「駄目ね。あいつら」

シュミレーション内を映し出す画面を見ながら、ミサトが言う。

「あんなものですよ。シンジ君だって、三年前はあんな感じだったじゃないですか」

「・・・何気にひどいこと言うわね、マヤ」

「す、すいません・・・」

「まあ、シンジ君はこの三年、加持の奴に色々と鍛えられたらしいし、

エヴァでの実戦経験も、なんだかんだ言って一番多いしねえ・・・。

訓練始めて数ヶ月の若造が通用したら、それこそ困るわ」

三年前の使徒との戦いを思い出し、遠い目をするミサト。

「あ・・・そろそろけりが着きそうですね」



ガン!!!

『がは!!!』

鮮やかなアッパーカットをもらい吹っ飛ばされる量産型エヴァ。

シュミレーション訓練とはいえ、打撃や着弾による衝撃はある程度再現され、パイロットに降りかかる。

特に人体急所への一撃はけっこう痛かったりするのだ。

『いてて・・・。碇一尉、もう少し手加減してくれてもいいじゃないですか・・・』

訓練生が顎を撫でながら愚痴る。

『ご、ごめん。こっちは遠距離系の武器なしで、格闘主体だからうまく力を抜けなくて・・・』

倒れている量産型に手を貸すシンジのエヴァ。

見た目がどこか滑稽である。



休憩室


「ちい・・・意図的に碇機の装備を近距離専用に変えるように、

シュミレーション課の『同士』に頼んといたのによ」


「まさか武器使わずに五機のエヴァを沈めるとは・・・。

やはり新人のぺーぺーでは話にならんか」


「・・・じゃあ、今度の訓練のときは対戦エヴァを10機に増やして見るか?」


「なに!?できるのか?」


「ああ。作戦課にも『同士』は何人かいるからな!」


「よし!!では、『碇シンジの情けないところを見せて、女子職員を幻滅させる』作戦、

は続行だな!」


「「おお!!!」」


・・・例の組織、密かに数を増しながら暗躍中のようである。



止まった星の中で・・・

第十話 戦いの序奏曲





「・・・暇ねえ〜」


国連軍所属・太平洋第四艦隊旗艦・『アクアエリー』

その甲板に、惣流・アスカ・ラングレーはいた。

ちなみに国連艦隊といっても、ようは先のサードインパクトから辛うじて生き残った艦船の寄せ集めなので、

見た目はあまりパッとしなかった。

ただし、この『アクアエリー』だけは三年の間に国連が作り上げた数少ない船のひとつなので

軍事装備、生活設備共にばっちりである。

ドイツから回収したエントリープラグもこの艦に収納されていた。


ともかく、この最新鋭戦艦の上で、

アスカは水着とサングラス、ビーチパラソルやトロピカルジュースをお供に暇を玩んでいた。

・・・本当に暇なのだろうか?


「そ、惣流二尉、ご機嫌は如何でしょうか?」

若い女性士官がビクビクしながら、日光浴を営んでいるアスカに話しかけた。

彼女、今アスカの周りにある海水浴グッズ一式を理不尽な要求にもめげずに収集した人物である。

よく調達できたものだ。

「あーいいわよ。天気もいいし、絶好の日光浴日和よね〜・・・。

・・・って、そんなにビクつかなくてもいいのよ?」

かなり距離をとって縮こまっている姿にアスカが苦笑する。

「す、すいません・・・チルドレンの方と話すのは緊張して・・・」

そう言いながらも、にじにじと近づいてくる女性士官。

顔つきから見るに、大体アスカと同じぐらいの歳であろうか?

「別に緊張することなんて何もないわよ?

チルドレンっていう呼称だって、肝心のエヴァがないんじゃ意味なんてないんだし。

まあ、階級は私のほうが上みたいだけどね」

女性士官の三尉を示す階級章を指差しながらアスカはサングラスを取った。

テーブルにそれを置き、ジュースを一口飲む。

「でも、チルドレンといえば例の『使徒』との戦いを勝利に導いた方々ですし・・・

私たち若い士官の間では英雄です!」

「・・・ありがとう」

目の前の女性士官が急に眩しい存在に見えた。


当然のことだが『英雄』というのは軍部や生き残ったネルフ諜報部による誇大的な情報操作による、

『作られた』イメージである。


(別に自分は『英雄』ではない。『自分』を認めてほしくて、エヴァに乗っていた、ただの十四歳の少女)


それがアスカの当時の自分に対する見解である。

それを疑う気もなく、自分のことを『英雄』と言って、

純粋にあこがれている彼女の姿が、羨ましくもあり・・・悲しくもあった。


「・・・どうされました?」


「ん・・・なんでもないのよ」


一瞬落ち込んだ顔を、すぐにほころぶ様な笑顔を見せるアスカ。

女性士官でさえあまりの美しさに言葉を失った。


「ま・・・ほんとに『英雄』って称号が似合うのはシンジだけよ」

「シンジ・・・って碇シンジさんですか!?」

「そ、そうだけど・・・」

自分は階級付けだったにもかかわらず、シンジが『さん』付けだったことを訝しげに思うアスカ。


「会ってみたかったんですよ〜、18歳で国連軍一尉、後のネルフ総司令を約束された男の人ですよね?

顔も優しそうだったし・・・今回会えるのを期待してたんですけどね。

・・・あ、決して惣流二尉だったのが残念な訳じゃないんですけど!!」


アスカは興奮気味な彼女の言葉に答えることなく、頭を抱えていた。


(か、海外の軍部にまで蔓延ってるなんて・・・。

これを知ったらレイがどうするか・・・)


現時点で、シンジにちょっかいを出して無事に済む若い女性はアスカだけである。

その他の女性が手を出せばどういう目にあうかは、前回述べたとおりだ。


(シンジと会わせなくて良かったわ。この若さで『仏』になるのはいくらなんでも不憫よね・・・)


心底そう思うアスカ。


「あの〜、惣流二尉・・・?」


「ん?・・・あ〜、ごめんごめん。なんでもないの。・・・それよりさあ・・・」


「はい?」


「ジュースのお代わりお願いできる?」


「は、はいいいいい!!」


天下の国連海軍の若手将校を『パシリ』に使いつつ、日本への帰路を優雅に楽しむアスカだった。




「疲れた・・・」

自室のベッドに倒れこむシンジ。


三年間、ネルフ諜報部として加持の元で働いてきたシンジは、当然現在の量産エヴァに関して、

知識もなければ、操縦経験もレイ、アスカに大きく遅れをとっていた。

よって、長期任務から帰還した今回を機会に、連日シュミレーションによる猛訓練を繰り返している。

もっとも三年前には飽きるほどやったことなので、感覚を思い出すのは難しくなかった。

しかし・・・。


「今日なんか重火装備のエヴァ『二十機』の相手させられたし・・・さすがに疲れるよなあ・・・」


ぐぐ・・・っと伸びをするシンジ。


小意地になった某組織、最後はガトリングガン、改良型ポジトロンライフル、大型スマッシュホークなどで全身を固めたエヴァをぶつけてきたが、

それでもシンジには通用せず、三時間に渡る激闘の末撃破された。

その作戦の意図と出所に気づいた某蒼髪の美少女により、その組織は半壊したが、それは別の話である。


「それにしても・・・久々に格闘技の演習もしたいのに・・・加持さん、どこ行っちゃったんだろう?」


今のシンジの職務に、必要なのはエヴァの操縦技術より、銃や格闘術であることは明らかである。

だが、この人手不足真っ只中のネルフ、そういったものに心得があるのは加持だけだった。

ところがその加持、数日前『探し物をしてくる』の書置き一つを残して、忽然と姿を消してしまったのだ。


(はあ・・・困るよなあ、加持さんがいないと。

訓練も一人じゃ限界があるし、諜報部も機能しないし・・・)


シンジがそんなことを愚痴っていると、


コンコン


「碇君・・・いい?」


「ああ、綾波、いいよ、開けて」


シンジは忘れていた。

彼がなぜ加持と共に海外への長期出張をしてまで逃走したのか。

その原因があった日の夜は、今と全く同じ状況なのである。

すなわち・・・。


1、アスカ、ミサト共にいない(ミサトはネルフ本部で残業中)

2、食事、風呂共に済ませ、あとは寝るだけである。

3、唯一の部外者、ペンペンは既にレイ特性ディナーを食べて冷蔵庫の中でお休み中。


・・・とても危険な状況である。

だが、訓練で疲れたシンジの脳細胞は、いつもの警報を鳴らしてくれなかった。


ギイ・・・


「どうしたの、あやな・・・ぶっ!!」


ベッドに寝転んでいたシンジは一気に窓際まで退避した。


「あ、綾波!!!なんて格好してるのさ!!?」


レイは髪が湿っており、頬が上気している・・・そう『風呂上りスタイル』だった。

それだけならば辛うじて問題ない。

しかし、その身に纏うのが大きめのバスタオル一枚だけというのはいささか・・・いや、かなりまずい。


「碇君・・・」


綾波はシンジの言葉には答えず、ゆっくりと近づいてくる。

そう、間違いなく女としてシンジを『誘って』いた。


「あ、綾波!!そういうのはもっと大人になってから・・・ね?」


以前にシンジが用いた逃げ口上である。


「もう私たち今年で18だけど・・・」


「う・・・!!」


(十八才か〜・・・責任取らされちゃうよな〜)


加持に鍛えられて三年、こういうことに関しても柔軟な考え方ができるようになったシンジだった。


ピピピ・・・ピピピ・・・!!


追い詰められたねずみ状態のシンジの耳に、本部からの緊急コール音が届く。


「あ、ネルフからだ!ちょっとごめん、綾波!!!」


レイから背を向け、携帯電話を取るシンジ。

その場しのぎにしかならないが、少しでも問題は先延ばしにしたいのが人間である。


(あ〜・・・なんか大問題だったらいいなあ・・・そしたらこの場を抜けて本部にいく口実になるし)


けっこう罰当たりなことを考えているシンジだった。


シュル・・・


祈りながら携帯を開くシンジの後ろで、布が摩れる音がする。


(・・・タオル取った音かなんかかな・・・)


背中から一気に汗が噴出す。

今視線を後ろに送れば、いろいろなものを一気に無くしそうな予感がひしひしと伝わってくる。


それこそ全身全霊をかけてネルフ本部に通信に繋ぐ。

とりあえずの突破口はこの手にこれしかないのだ。


「はい。シンジです・・・」


だが・・・その内容は。


悪い意味で。


シンジの期待に答えた。



「碇君!!早く本部に来て!!!


初号機が・・・初号機が暴走してるの!!!」



それは、破滅への序奏。


つづく




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