Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.15 ) |
- 日時: 2010/08/08 22:23
- 名前: JUN
- 「暑い……」
「だからってねえアンタ、その格好はいくらなんでもないわ」 「暑いもの……」 「その露出度は流石にないわ。私だって出来ないわよ」 「服は着てるわ」 「全裸じゃなければいいってもんでもないわ。下にちょろっと穿いてるだけじゃない」 「碇くんが帰ってきたら着るわ」 「…………」 もうちょっと乙女の恥じらいってもんをねえ……と言いかけてやめた。暖簾に腕押しと言う奴だ。 半裸の少女の姿を見てみる。うつ伏せなのが救いだろう。嫉妬してしまいそうなほどに滑らかな曲 線を描く背中は、きっとシンジが見たら鼻血を吹くのだろう。それはそれで面白そうな気もした。役 得よ、シンジ。同級生のこんな姿、シンジじゃなきゃ見られないわよ。などと自分のことを棚にあげ て思ってみる。自分もバスタオルだけで部屋をうろついたりすることはあるのだから、あまり人のこ とは言えないだろう。
くす、と笑みがこぼれた。こいつが自分の家で寝ているなんて、少し前ならありえなかったことだ。 和解は無駄ではなかったのかもしれない。こんな無防備な姿は見られなかったから。伸びきったその 姿は、さながら一昔前のたれパ○ダのようだ。まったく、シンジもこんなの彼女にしててよく我慢で きるわね、私が男なら襲ってるわ。などと悪態をつきつつ、壁にかかった時計に目をやった。四時四 十五分。そろそろ帰ってくるわね。シンジは夕飯の買い物に行っている。 「レイ、起きなさい」 「……ぅうん」 肩を掴んで揺らすと、軽く眉根を寄せていやいやをするように首を振ってみせる。まったく、かわ いいわね。 「シンジが帰ってくるわ」 「ん……」 不満げな顔をしながらふらふらと立ち上がり、鞄に入った着替えを取りに玄関へ向かう彼女に、ア スカは軽く顔を火照らせた。ちょっとは隠しなさいよね、結構大きいんだ…… 少し魅了されてしまった自分に喝を入れるようにかるく首を左右に振る。ごっ、と鈍い音がするの でレイのほうを見ると、レイは壁に頭をぶつけていた。 「いたい……」 「……あんたばかぁ?」 レイの側に行って頭を撫でてやる。涙ぐんだ顔が可愛らしい。 「ほら、ホントに帰ってきちゃうから」 「うん……ありがと、アスカ……」 ぐいぐいと後ろからレイを押す。なんだかんだで憎めないのは彼女の得な性質だ。自分も思ったよ り姉御気質なのだろう。
「ほらほら、早く取って着替え――」 「ただいまぁ……」
――うわ、最悪……
気の抜けた声は、その後に自分へと降りかかる出来事への前奏曲にも思えた。
レイの様子を顧みる。レイは上半身に何一つ纏っていない。純白のショーツが、下半身を覆う唯一 のものだ。そのショーツもうっすら浮かべた汗のせいで、ほんのりと透けているのだ。何が、などと 野暮なことを訊いてはならない。乙女の花園である。 半ば強引に背中を押したせいで、レイは胸を突き出すような形になっている。玄関口に置いた荷物 を取りに行っているために、レイとシンジは今、互いの間隔が一メートルと離れていない。 つまり……
見る見るうちにシンジの顔が紅潮する。あ、面白い。 「あ、あやなみ、これは……」 うろたえるシンジ。アスカがフォローを入れようとする。しかし、 「いかりくん、おかえり……」 レイは言うやいなや、シンジの胸にぽすんと顔を埋めた。 「あっ、あや……」 「ちょっと、レイ――」
きゅっ
瞬間、シンジが鼻血を吹いた。
「ほらレイ、だから言ったじゃん」 「ごめんなさい……」 うなだれてしまったレイを見て、アスカはふっとため息を漏らした。どうもこの友人は他人に怒ら れない天性の資質を持っているのかもしれない。 「まあ次こんなことなければいいのよ。ちゃんと家にいるときも服を着なさい」 「はい……」 「う、ん……」 微妙に悩ましい声を上げて、シンジが目を開く。レイを見ると、また顔が紅く染まった。 「あ、綾波……」 「……碇くん、ごめんなさい」 「え、いや……」 「役得だわねえシンジ。愛しのレイちゃんのおっぱいが見られて」 「っ、な、何言うんだよアスカ!」 「あ〜ら、顔真っ赤にしてたじゃない」 シンジがうろたえるのを見て、アスカがけらけらと笑う。 「もう……!」 顔を紅くしたまま台所に向かうシンジに、レイは心配げな表情をする。 「アスカ、碇くんが怒ったわ」 「心配しなくていいわよ。あんなの怒ってるポーズに過ぎないんだから」 「アスカ、今晩ご飯抜き!」 「えっ!?」 台所からかかった急な宣告に、アスカは一変しておろおろし始める。やっぱり葛城家の主はシンジ なのだなと、レイはふと思った。 「ちょ、ちょっとシンジ……」 「綾波、お魚は食べられる?」 「火が通してあれば、大丈夫」 「あの、シンジ君……」 「そっか。卵は?」 「それも、火が通してあれば」 「シンジさん……」 「じゃあ、それで考えてみるよ」 「ありがとう……」 「…………」
自分を無視して話すシンジたちに、ついにアスカは完全に沈黙した。 「碇くん、私もお料理したい」 「ああ、ありがとう。助かるよ」 シンジの元に歩いていったレイ。残されたアスカはさめざめと涙を流した。
「何すればいい?」 「そうだな、ネギ切ってくれるかな。お鍋にするよ。結局卵使わないけど」 「お雑炊になるわ」 「あ、そうだね」
見よう見まねでネギを切ってみる。手つきが少々危なっかしいが、手を切るようでもない。
さくん さくん
「うまいうまい」
かあっ、と頬が熱くなる。目を合わせるのが恥ずかしくて、シンジのほうを見ることができない。 きっと素敵な笑顔で自分を見てくれているはずなのに。先ほどの自分の行動を改めて大胆に思う。人 間眠いと何をするか分からないものだ。
「……碇くん」 「なに?」 「アスカ……いいの?」 「いいんだよ。たまには思い知らせてあげないと」 「でも――」
シンジは急にレイの耳元に口を寄せると、小さな声で言った。 「心配しなくても、ちゃんと反省してるみたいだから食べさせてあげるよ」
くす、と笑ってウインクをしてみせるシンジ。胸がきゅんとなる。
「ひゃっほうっ!」 「あ……」
シンジは苦笑いをした。レイのほうに目配せして、 「聞こえてたみたいだね」 「そうね……」 よかったと思う。優しいシンジこそシンジだ。
「あ、あの、碇くん……」 「なに、今度は」 「さ、さっきのこと、だけど……」 「え、ああ……」
シンジが心持ち顔を背ける。包丁のリズムが少し乱れた。
「いや、ほんとに、ごめん綾波」 「べ、別にいいんだけど、その……」 レイの手が止まる。 「わ、私の胸、どうだった……?」 耳まで真っ赤にしながら、レイは言った。 「え、いや、その……」
「き、綺麗だったと、思うよ、すごく……」
顔が火照る。嬉しいのに、顔を上げることが出来ない。ごまかすように残ったネギを大きく切る。
「あ、ありがと……」
しん、と静まり返る。窓の外から染み入る蝉時雨が、レイの鼓膜を優しく震わせていた。アスカは聞いていたのだろうか。多分、聞こえていたと思う。 野菜を切り終え、平べったいざるにあける。シンジは出汁をとった土鍋を持ち、レイはざるを持っ た。
鍋を持ったシンジが、自分の後ろを通り過ぎる。通り過ぎる瞬間、少しだけレイのほうに顔を寄せ、
「他の男に見せちゃ、だめだからね……」
レイがびっくりして振り返ったとき、シンジは既に、カセットコンロに鍋をセットしていた。アスカは満面の笑みで、カセットコンロに火をつけていた。
おしまい
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