Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.26 ) |
- 日時: 2010/08/17 20:48
- 名前: JUN
- キスしてくださいvol.3
「碇くん、あれ、なに?」 「ん?ああ、あれは金魚すくいって言うんだよ。後でやってみようか」 「今は……だめなの?」 「うん。あんまり早くやるとかさばるからね。帰り際にするくらいでいいんだよ。あったまっちゃう し」 「そう……」 「あ、綾波。あれとかどう?リンゴ飴」 「りんご……あめ?」 「うん。リンゴを飴でコーティングしてあるんだ。甘くて美味しいよ」 「食べてみたい」 「ん、分かった」 シンジが一本の輝くリンゴ飴を手渡すと、レイは目を丸くした。 「きれい……」 「綾波の眼みたいだ」 さらりとシンジがそんなことを言ってのけると、レイは少し紅くなった。 「食べてごらん」 「うん」 かりっ、と丸いそれを齧る。おいしい、とレイが言った。 「よかった」 そっとレイの背中に手を回し、さりげなく近くのベンチに連れて行く。レイが腰を下ろすと、シン ジもその隣に腰掛けた。 「下駄、辛くない?」 「平気」 「痛かったら、すぐ言うんだよ」 「うん」
かりっ、とまた齧る。シンジはその姿を微笑みながら見つめた。
「浴衣、似合うね」 「そう?」 「うん。凄く。こんなところで他の男に見せるのもったいないくらい」 「そんなにほめられると恥ずかしい……」 「こうして見ると、やっぱり綾波は和風美人なんだね。色っぽいよ」 「ん……」 レイは何も言わなくなった。恥ずかしいと、ん、と声を上げて黙り込む。レイ自身は意識していな いが、ちょっとした癖だ。 「あ、綾波」 「え……?」 瞬間、シンジがレイに顔を寄せ、唇の端をぺろりと舐める。思わぬ急接近に、レイは刹那固まった。 「飴、ついてた」 かあっ、と頬を紅潮させ、視線を逸らす。百合をあしらった浴衣の肩に手をかけ、シンジが微笑む。女殺し、とレイが呟いた。 「お祭りは開放的になるからね。僕もちょっとだけ大胆になるよ」 「ん……」 「リンゴ飴の次はなんにしようか。何でも言って」 余裕の笑みが、少し悔しい。こっちはこんなに恥ずかしいのに。どうにかして困らせてやりたくな る。
「じゃ……キス、してください」 「えっ……」 途端に落ち着きを失い、辺りを見回す。人の唇を舐めておいて今更何を動揺しているのか、と心の 中で悪態をつく。碇くんのせいだわ、わたしをいじめるから。 「ここで……?」 「他にどこがあるの?」 いざせんとしてキスするのは恥ずかしいらしい。思わぬ弱みを見つけたレイは内心ほくそ笑んだ。 「早く」 目を閉じて顎を突き出す。レイ自身恥ずかしくないわけではないが、シンジのキスが、レイは好き だった。シンジはしばし躊躇っていたようだが、やがて観念したらしく、レイの頭を優しく抱き寄せ た。 「ふ……」 どれ位の人が、今のわたしたちを見ているのだろう。公衆の面前でキスなんて、バカップルだと思 われているかもしれない。 それでもいい。わたしは幸せだから。
「はぁ……」
頬を紅くリンゴのように染め、レイとシンジが見詰め合う。レイの眼の端には、僅かに涙が溜まっ ていた。
「碇くん、好き……」 「……僕もだよ、綾波」
祭りの喧騒が嘘のように、二人の間は静かだった。ことんとレイがシンジの肩に頭を乗せると、シ ンジは何も言わずに髪を梳く。そんな些細なことが幸せだった。下駄は少し歩きにくいけれど、碇く んと一緒ならどこまででも歩いていけるから。
「綾波の髪、いい匂いがする」 「汗かいてるから……汚いわ」 「そんなことないよ。すごく……」 いい匂い、とシンジが言うとレイはまた、ん……と言って黙り込んだ。
「次は、どうしたい?」 「金魚すくいをして……それから、わたしの家にきて」 「分かった。金魚鉢も買わなきゃ」 「泊まっていって、くれる?」 「もちろん。明日まで一緒にいよう。夜中まで、いっぱいお話しようね」 「やった……」
無邪気な笑顔を輝かせながらレイが思わず呟く。レイらしからぬ台詞に、シンジは驚いた表情をし た。
「あ、碇くん」 「え……?」
ちゅっ
「……お礼。リンゴ飴、ご馳走様」
言ってレイは紅くなった顔を誤魔化すように立ち上がり、数歩先からシンジのほうを振り返る。
「行きましょう……?」 「あ、うん……」
立ち上がりつつ、シンジは思わず呟いた。
「ご馳走様って、それはこっちの台詞じゃあ…………」
二人きりの部屋で我慢が出来るかどうか、シンジは激しく不安に駆られるのだった。
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