Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.28 ) |
- 日時: 2010/08/21 00:06
- 名前: のの
- Day Tripper!!
出張編第2話
「魔術師」
------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 「僕はもしや、変態かなにかだと思われちゃいないか」 もう本当に今更ながらに、愚兄――愚かな私の、ではなく文字通り愚かな兄――の渚カヲルが、昼休みの時間に呟いた。 蝉時雨にもまぎれない程度には大きな声だった。
アスカとマナ以外の女子はお弁当をまだもぐもぐ、他の皆は水筒からお茶を、もしくはパックの牛乳を飲んで食堂につっ かかったお昼ごはんを流し込んでいる最中のこと。
そもそも、そぼろとでんぶでごはんに桜の木を生やした自作のお弁当を自慢もせずに平然と平らげておいて、本当に今 更のことを、とんだ場違いなことを言っていた。
「つうか、それ以外にアンタを表現する術があんの?」 ひと足先にわたしと同じお弁当を平らげたアスカは短いスカートの足を組んでふんぞり返りながら、彼のほうを見もせ ずに言った。反り返りすぎて消化に悪いよ、と洞木さんが言うのもおかまいなし。
「いや、ほら、渚君はハンサムじゃないですか、すごく……」 山岸さんがフォローしながら、いつもの小声でフォローしながらジュウシマツに餌をあげる時くらい微量のごはんを箸 でつまみ、ぱくり。私より細いだけのことはある感じ。
「それを覆い尽くす程の溢れる独自性が邪魔をしてる、というわけだな」 相田君が半年前に購入したビデオカメラについた細かい傷を気にしながらレンズを義兄に向けると、彼は(普通なら) 驚くべき整った笑顔をカメラに向けた。 「俺にそんな顔をするなって。だから変態だって思われるんだぞ」 「おやおや、知っている間柄だと遠慮がないな、相田君」
「それ、加持さんに昔言われたなあ」 碇くんがやや場違いな感慨深さを口にした。今はスイカおじさんの話をしなくても良いと思う。嫉妬深いミサトさんに 聞こえたら、ふてくされるのに決まっているから。
「加持さんて言えばさ、この間軽井沢のアウトレットで見かけたよ」
「つうかなによマナ、あんたアタシを誘わず買い物とか行っていいの?」
「え、駄目っすか。そりゃすいやせんねー」 牛丼弁当(十一枚つづりで2,500円の食券にて購入)を平らげたマナが歯にはさまったスジを取ろうと口をもごも ご。
「ねえちょっと、僕の話を聞いてくれよ」 「なによ」 すでに喧嘩腰なのがアスカの良いところ。この場合は。
「いやね、とにかく変態扱いされて嬉しいわけじゃないよ、僕だって。だからここは、変態よりはまず変人、変人から 更に奇人、奇術師、魔術師の類と呼ばれるようになりたいモノじゃないか」
「そないな考えやから、いらんこと言われるんやと思うけどなあ……」 鈴原君のつぶやきはあまりに正しいので、思わずその場に沈黙が沈み込んできた。
マナに至っては最近彼女だけに大流行中の百人一首のかるたをめ くり出している始末。女の子は興味のない男子には冷たいのね。
「しかしそれは、本当の魔術の類を君らが見たことないから思うだけさ」
「A・Tフィールドって魔術的だったけどなあ……」 碇くんが今度は身も蓋もない感慨を。未来のお嫁さんとしては少し恥ずかしい。
「レイ、あんたが照れるとこじゃないでしょーが」 アスカのつっこみは手が出るから困る。今も肩を叩かれました。痛いのです。
「まあまあ、喧嘩をやめて、皆も二人を止めてくれ。僕のために争わないでよ、これ以上」
「……はあ、まあ」
「ほいでさー、まあいいからそんなにゆーなら魔術を見せてもらうっきゃないよねえ?」 一生懸命百人一首を暗記中のマナが、とても興味深そうに死んだ眼でぐるりと見渡した。
「……うん、まあ」
「そう、ねえ」
「多少は、その、ねえ?」
「でもなんか、最終的に、ねえ、面白いかどうかが鍵って言うか……ねえ?」
「ねえねえ言ってるねえ。おっと、僕のはわざじゃないぞーう」
がばりと立ち上がって両手を広げて「セーフ!」のポーズ。
「……う、うざい」
「手足の長さを無駄遣いしてるわね」
「うるさいのう、ワシ眠いんやで?」
「ふふ、それなら爆睡団長のトウジ君、君をも驚かせる魔術を疲労してしんぜよう!」 愚兄はその腕を伸ばして、煽るマナの手からかるたを奪った。
「あにすんのよー」
「まあまあ、見ているがいいっ」 掌に乗せたまま、ポケットから渋茶色に名作忍者漫画の主人公のほっぺたみたいなぐるぐる巻きが描かれた風呂敷をひ ろげてかるたに被せた。
眉をハの字に寄せて、気難しそうな顔で右手を風呂敷の上で右に左に指まで滑らかに動かしながらぶつぶつと呟いている。
完全にアレな使徒だ。ちがった、今はいちおう人、人間。
「そおーれ、チチンプイプイ!」
でもやっぱり完全にアレだよな、という顔をした皆と眼が合った。みんな顔中に「めんどくせえ」と貼ってある。
風呂敷を大げさに取り払い、かるたを目の前の机に静かに伏せて戻す。
「さあどうぞ、霧島マナさん」
「ほほう、どれどれ」
ベタ好きのマナがなんだかんだ、にやにやしながら一枚めくった。
「あ、渋いわ最初から」
そしてもう一枚。
「ありゃ!?」
さらにもう一枚。
「うそ!」
残りのすべてをひっくり返して……97枚、すべて同じ柄。
「ふははは、驚いたかい!?これが秘術『スベ・テ・セミーマル』さ!!」
「解説しよう!!『スベ・テ・セミーマル』とはかざした手のごべは!!!」
あ、喉を。
「どおおおおしてくれるのよおおおおおお!!!」
悶絶する愚兄に散らばる蝉丸法師とマナの足が降り注いだ。
そんな、夏の終わりのワンシーン。
「綾波、きれいなシメじゃないよ、別に……」
碇くん、無遠慮な指摘。
じゃあ……夏らしい蝉時雨。どうかしら?
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