Re: 突発短編集(予定)《掌話的小話》 ( No.28 ) |
- 日時: 2016/11/06 16:16
- 名前: 何処 ID:PIMzY8y9or0
- 「ご馳走様」「…様」
「じゃあ、食器片付けるわ。あ、貴方は座ってていいから。」「ああ…」
朝食後、黙々と研究レポートを書き続けている彼…いや、昨日入籍は済ませたから“夫”だ。 勝手場に立ち、私は数枚の食器が乗った盆から皿と小皿、それに昨日買った夫婦茶碗を水屋に浸し、傍らの茶筒から急須へ茶葉を移し、空の盆へ急須とやはり昨日買ったばかりの夫婦湯飲みを乗せた。 茎茶も熱い湯で淹れれば美味しいものだと知って、良く伯父が家の茶を温いと文句を言っていた理由が解った。
足音を忍ばせ彼…夫の向かいへ座る。安普請の床が軋む音にも気付かずに夫は書類に没頭していた。
今や懐かしの魔法瓶から湯を急須へ移す。本当なら急須も湯呑みも湯で温めておきたいのだがその湯が勿体無い。 そんな発想すら想像もしなかっただろう昔の自分より、今の自分の方が満足している…満ち足りていると一体何人が信じてくれるだろう。 ふと笑みが溢れる。茶葉を蒸らし終わり、湯呑みへと濃緑の茶を淹れる。
コポコポコポコポ…
「…どうぞ…」
「…ん?あ!うん、有難う。」
「「…」」
私の淹れたお茶を前に、夫は出しかけた手をそのままに又黙りこくり、じっと湯呑みの中を眺めていた。
【私がおばあちゃんになっても】
「…冷めるわよ?」
「……だ…」
「え?」
微かに聞こえた台詞に思わず問い返す。
「…茶柱だよ、ユイ。」
「え?あら本当に。」
安アパートの一室、大家さんから頂いた年期の入った古い小さな卓袱台(ちゃぶだい)に身を乗り出し夫の湯呑みを覗くと、そこには確かに一本の茶柱が立っていた。
「あら本当。」
「…縁起がいい…」
夫の呟きについ吹き出す。
「…何だ?」
「だ…だって…ぷぷっ」
「…何がおかしい?」
その仏頂面に又可笑しくなる。 合理主義の塊の夫が稀に見せるこう言う意外と可愛い所が好き。
「…貴方の口から“縁起”とか聞いたら…ぷぷっ!」
「…意外か?」
「ええ、やっぱり貴方も日本人だなって…」
「…そうかな?」
「ええ、船大工の息子さん。」
「これはこれは、月の御子よりお墨付きを得られるとは光栄だな。 まあ、最も…」
何かを言いかけ、口をつぐんだ夫の言いたかったであろう台詞を私は口調を真似て続けた。
「“茎八分の茶葉に欠け急須で茶柱が出ない方が珍しい”ですか?」
「…未だ覚えてるのか…」
忘れる訳が無い。 そう、初めて此所に来た時、出された縁欠け湯呑みの中に立つ茶柱に感嘆する私に仏頂面で告げた台詞だ。
「ええ…でも、確かに縁起が良いわ。」
「…碇の本家を飛び出して、風呂なし便所共用の格安アパートでの御飯事生活がか?」
「ええ、おまま事なこの貧乏生活が。」
「…」
「貴方には悪いと思っているわ、節介私を通して碇本家に食い込むチャンスだったのに。」
「…仕方ない、何事にもイレギュラーは付き物だ。それに…」
「?」
「…君を売女呼ばわりした婚約者を殴ったのは私のミスだ。」
「“元”よ。それも大学院への跳び級前に向こうの素行不良で破談済みの。」
「…奴の言う通り、確かに君の家名と資産目当てだった事は認めよう。だが君への侮辱は許せなかった。」
「…嬉しかったわ。怖かったけど。」
「…すまん。」
「…まあ、この状態も悪く無いわ。綾波の軛から離れて、こうして貴方と過ごすのもね。」
「いざとなれば裏死海文書の解析でぼちぼち研究者として暮らすのも悪く無いか…」
「そうね、いずれセカンドインパクトまでの話ですものね…」
「…副議長には諦めて貰うしかないな。」
「あら駄目よ、生きているからには最後まで諦めちゃ。だって生きているんですもの。」
「…君には敵わないな、確かに狭き門は常に開いている。諦めるには未だ早いか…」
「そうよ、諦めるのは何時でも…あら?」
「どうした?」
「見て!私のにも茶柱!」
「…安物の茶器茶葉にも取り柄はあるな。」
「?」
「こうして下らない呪いめいた迷信を比較的高確率に見る事が出来る。」
「あら?さっきゲンを担いでいたのはどなた?それに安物なんてとんでもないわ。値段が安くてしかも縁起がいいなんて素晴らしいじゃない。」
「…全くこれだから君には敵わないな。」
ピンポーン「六分儀さーん、電報でーす!」
「?電報?六分儀?副議長は電報なぞ使わん筈だが…」
「?他の住民に六分儀なんて居ないし…あ、私が出るわ…はーい、只今ー。」
ガチャガチャ、パタパタパタパタ…ガラッ
ーーー
コポコポコポコポ…
「…どうぞ…」
「…あ、有難う。」
「「…」」
私の淹れたお茶を前に、夫は出しかけた手をそのままに又黙りこくり、じっと湯呑みの中を眺めていた。
「…冷めるわよ?」
「……だ…」
「え?」
微かに聞こえた台詞に思わず問い返す。
「…見て、茶柱だよ、レイ。」
「え?あら本当。」
郊外一軒家の一室、半年前骨董屋で購入した大分年期の入った古い小さな卓袱台へ身を乗り出し夫の湯呑みを覗くと、そこには確かに一本の茶柱が立っていた。
「…縁起がいいわね…」
思わず出た私の台詞を聞いた瞬間、夫が吹き出した。
「…何?」
「だ…だって…ぷぷっ」
「…何かおかしい?」
仏頂面になる自分を自覚しても表情の変化は止まらない、と言うか止める気も無い。 そんな私の様子が更に可笑しいようで、夫は未だ笑っている。
「だ、だって君の口から“縁起”とか聞いたら…ぷぷっ!」
「…意外かしら?」
「え、いや、て言うか君も変わったなあって…」
「…そうかしら?」
「うん、奥さん。昔からすれば嘘みたいだよ。」
「あなた、一緒にこれだけ暮らして変わらない訳無いでしょう?」
「まあ、お互い老けたのは…痛っ!」
「そう言う事じゃなくて…でも、確かに縁起が良いでしょ。」
「まあ、確かに…あいつ、元気でやってるかな?」
「ええ、今頃おまま事な新婚生活を楽しんでるでしょ?私達の時みたいに。」
「…だろうね…」
「…」
「…」
「…静かだね…」
「…そうね…」
「嘘みたいだよ…あんなに騒がしかったこの家がこんなに静かになるなんて。」
「…そうね…」
「なあ、君と結婚して、子供が出来た時の事覚えてる?」
「忘れる方が無理よ…奇跡だのオーセブンだの煩かったわ。」
「リツコさんだけだったね、“0では無い以上可能性はある”って言ったのは。」
「最も懐妊したと報告したら、やっぱりあの台詞をこっそり呟いてたわ。」
「あの台詞?…あ!」
「そう、あの台詞。」
「「有り得ないわ!?」」 「…実際懐妊したのだから、有り得たのにね。」
「全くだね。でも…」
「言わないで。」
「…皆の言う通り、ネルフに残った方が良かったかな。そうすればあの子も」
「あなた」
「…ごめん。」
「私達は今こうして生活しているわ。飼い殺しよりはマシだったんでしょ?」
「…結果はこれだけどね。」
「…まあ、この状態も悪く無いわ。こうして貴方と過ごすのも。」
「そうだね、こうして又僕らだけで暮らすのも悪く無いか…」
「じゃ、又“綾波”と“碇くん”から始める?」
「え?そりゃまた一体…考えただけでもどうにも何かくすぐったいなぁ。」
「「…クスクスクス…」」
「…結局あの子には言えなかったわね…」
「…うん、実はその事なんだけど…」
「?」
「…君には悪いと思ってる…。」
「!まさか伝えたの?」
「うん…全部話した。奇跡ってのは滅多に起こらないから奇跡なんだとは言えなかったけどね、でも確率は話した。」
「何で…でも…そうね、いずれ話さなければいけないのですもの…」
「…諦めて貰うしかないな。」
「何故?私達って言う成功例があるのに何故諦める必要が有るの?」
「う…」
「生きているからには最後まで諦める必要は無いわ。だって生きているんですもの。」
「…君には敵わないな、確かに狭き門は常に開いている。諦めるには未だ早いか…」
「そうよ、諦めるのは何時でも…あら?」
「どうした?」
「見て!私のにも茶柱!」
「…あ、本当だ。」
「…ねぇ、これでも奇跡は二度は無いって言える?」
「…全くこれだから君には敵わないな。」
ピンポーン「碇さーん、電報でーす!」
「?電報?」「何かしら?この時分に電報なんて珍しい…はーい、只今ー。」
ガチャガチャ、パタパタパタパタ…ガラッ
http://www.youtube.com/watch?v=PIMzY8y9or0
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