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[554] サイト開設十周年カウントダウン企画・八月
日時: 2010/07/28 18:30
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・蝉時雨
・キスしてください

です。では、どうぞ。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.3 )
日時: 2010/07/30 18:03
名前: JUN

 

                キス、してください


もしもあなたとの距離が遠いなら、あなたが私のことを見てくれないなら、私があなたの側にいる意味
はない……――






「ねえ、碇くん」
「なに?綾波」
 束の間の昼休み、そうレイが声をかけると、シンジは優しく答えた。
「…………」
 しかしシンジの思いに反して、なにやらレイは切なげな表情をしている。
「どうしたの?綾波」
「……なんでもない」
 言うやいなや立ち去ってしまったレイに、シンジは首を傾げた。

――何かあったのかな?

 シンジは心配になった。ややもすればストレスを溜め込みがちになるレイである。何か悩みがあるなら
手伝ってあげたい、とシンジは思った。ましてレイは無二の恋人である。愛しい彼女の悩みは、自分も共
有してあげたかった。
 しかし当面の相談はアスカにするのだろう、きっと。昔の仲の悪さからは考えられないほど、今二人は
良好な人間関係を築き上げている。何かあれば、きっと自分にもアクションがある。


 その時、シンジの携帯電話が鳴った。

「はい、もしもし」
『もしもし、シンジ君?』
「はい。どうしたんですか、ミサトさん」
『ブッ――ツー、ツー、ツー』
「……切れたし」

 悪戯か、だとすればたちが悪い。しかしミサトがそんなことをするとも考えづらいので、きっと充電切
れか何かなのだろう。そう結論付けたシンジが、携帯電話をしまおうとすると、

 また電子音が鳴り響いた。

「はい、もしもし」
『もしもし、シンジ君』
「はい。どうしたんですリツコさん、急に。さっきもミサトさんが――」
『ブッ――ツー、ツー、ツー』
「……何なんだよ」
 二度目となると、流石に何か作為的なものを疑わざるを得ない。次電話があって同じことになったら怒
ってやろうと軽く心に決めつつ、シンジは自分の席に腰を下ろした。

「ねえ、バカシンジ」
「なんだよ、アスカ」
「何よ、このアタシが話しかけてんのに、その態度。まあいいわ。明日のお弁当、ハンバーグがいい」
「分かった。でも綾波のも作るから、豆腐ハンバーグとかいいかな」
「相変わらずベッタリね〜、鬱陶しいくらい。で、なにそれ、美味しいの?」
「多分ね」
「ま、アンタのことだからまずいもんは作んないでしょ。期待しとくわ」
「はいはい」
 
「ねえ、碇君」
「どうしたの、委員長」
「今週は週番だから、よろしくね。綾波さんと」
「分かった」
「それじゃ」
「うん」

「なあ、センセ」
「なに、トウジ」
「ケンスケがな、新しいゲーム買ったらしいねん。しにいこうや」
「いいね、また予定空けとくよ」
「分かった。ほなな」
「うん」

「なあ、シンジ」
「なに、ケンスケ」
「今度シンジん家で勉強しようぜ」
「珍しいね、ケンスケが勉強なんて…………あ、そういうことか」
「ミサトさんによろしく言っといてよ」
「あの人結構だらしないよ」
「いいさ、そこがまたいいんじゃないか」
「そんなもんかな」
「そうだよ。だから、よろしくな」
「うん、わかった」

「やあ、シンジくん」
「どうしたの?カヲル君」
「いや、それだけ分かればいいよ。また今度ご飯でも食べに行こう」
「あ、うん……」



 なんなんだ、今日は。なんだかんだで自分が接点を持つ全てのヒトと話した気分だ。

 そんなことを考えていると、また電子音が鳴り響いた。流石にたまりかねたシンジは通話口に向けて怒
鳴った。

「ああもう!うるさい!!」
『ぴゃっ!?』
「えっ」

 通話口から聞こえてきたどこか抜けて聞こえる声は、多分――

「マヤさん?」
『え、ええ。ごめんね、シンジ君』

 何だ、マヤさんか。彼女なら大歓迎である。シンジ(作者)にとってレイに続く心のオアシスだったり
するのだから。

「すいません。誰かの悪戯と勘違いしまして。何かごようですか?何でも言ってください」

 その差はなんだ、と言いたいのは、きっと作者だけではないはずだ。けれどそれは甘んじて受けねばな
らぬ。主人公なのだから。

『あ、あのね……シンジ君』
「はい」
『ご、ごめんなさい!』

 ガチャッ

 ――なんだろう、このフられた感じ

 いいさ、僕には綾波がいる。あの綺麗な眼を思うだけでどんな辛いことにも耐えられるさ。

そんなことを考えながら後ろを向くと、ちょうどレイが背後に立っていた。嬉しくなったシンジは声をか
ける。

「ねえ、綾波――」

 言いかけて、シンジの声が止まった。様子がおかしい。唇を軽く噛み締め、シンジが大好きな真紅の眸
は心なしか潤んでいる。

「どうしたの?」
「碇くん。私、もうあなたと、いられない……」

 長いまつげに縁取られたレイの大きな眸から、大粒の涙がこぼれ落ちる。思いがけないことに、シンジ
は焦った。

「な、何言ってるんだよ綾波!急に」
「だって、私……」 
 
 顔を伏せてしまったレイの側に行き、そっとその細い手首を握った。

「どうしたの、綾波。言ってごらん」

「……碇くん、アスカのこと、なんて呼ぶ?」
 心持ち顔を上げ、レイが言った。
「え……アスカ、だけど」
「ヒカリさんの、ことは?」
「委員長、だね……」
「葛城三佐は?」
「ミサトさん」
「赤木博士は?」
「リツコさん、かな」
「伊吹ニ尉は?」
「マヤさん」
「渚くんは?」
「カヲル君、って呼ぶね」

 大きくしゃくりあげ、レイは最後に言った。

「私の、ことは?」
「……綾波」
「うっ、うっ……」
「だからなんでそこで泣くの?」
「わ、私だけ……あだ名でも、下の名前でもない……うっ」
「へ?」
「他の人は、みんな、違うのに……」
「――それだけ?」

 シンジはぽかんと、その場に立ち尽くした。正直慰めてやる気が起きづらいのは何故だろう。

「正直、何が駄目なのか分からないんだけど……」
「うっ、私だけ、他人行儀……私たち、恋人同士なのに…………」
 言って崩れ落ちてしまった。流石のシンジも段々良心が痛んでくる。周りの視線が辛い。
「綾波、立って」
 膝をついたシンジは、レイの肩を掴んで立ち上がらせる。足に力が入っていないらしく、そのままシン
ジの胸に倒れこんだ。その背中を、シンジはぎゅっと抱き締める。
「……あぅ」
「……馬鹿だよ。綾波は。他人行儀なわけないじゃないか。綾波は、僕の一番大事なひとなんだから……」
「でも、でも……」
「あのね……綾波。呼び方なんて、些細なことなんだよ。心配しないで。それに……」
「そ、それに……?」
「――僕は大好きだよ、綾波っていう名前。すごく、綺麗だから……」
「ほ……ほんとう?」
「うん、漢字も綺麗だし。だから僕は、ずっと君の事を綾波って呼んでるんだよ……」
「碇くん……」
「だから、心配しないで。綾波が、一番だから……」
「うっ、いかりく、ごめんなさ――」
「謝らないで、綾波。心配させた僕が悪いんだ。だから…………一つだけ、綾波の言うこと、何でも聞い
てあげる……」

 レイが胸の中からほんの少しだけ顔を上げ、シンジを見た。紅い眸はうるうると揺れ、動揺を物語って
いた。

「だ、だったら……」
「なに?」
「キス、してください……」
「こ、ここで……?」
 レイはこく、と首肯した。
「みんなが、見てるけど――」
「みんなが見てる方がいい……碇くんがどこにも行かないように、私以外の女の人、見てほしくないから……」
 
 背中に強い視線を感じる。殺気、と言ってもいい。綾波ファンはアスカファンに並んで多いのだ。今で
も時折告白されていると聞く。無論全て断っているとも聞くが。

「誰にも、取られたくないから……!」

「……分かった、キス、するよ。目を閉じて、綾波」

 レイがゆっくりと目を閉じて顎を突き出すと、シンジはレイの頭を抱き寄せた。シンジの方が背が高い。
レイはほんの少しだけ背伸びをした。
 背後から、あぁ、と脱力したような声が漏れるが、シンジの耳には入っていなかった。どうでもよかっ
た。ほんのりと暖かい彼女の唇はしっとりと濡れていて、色気にも似たものを備え始めていた。

「んん……」

 レイの口から甘く、押し殺したような声が漏れる。レイが満足して唇を離すまで、シンジはずっと彼女
の頭を抱きかかえつづけた。

「満足、した?」
「……すごく。私、幸せ」
 シンジが腕に籠めた力を少し緩めると、レイがまた崩れ落ちそうになった。
「あ、綾波?」
「……ごめんなさい。力が、はいらな……」
「無理しないで、綾波」
 シンジは一瞬悪戯っぽく微笑み、レイの膝に腕を回すと、そのまま抱きかかえた。
「きゃっ」
「軽いね、綾波」
 お姫様抱っこをされたレイは、顔を真っ赤にした。
「碇くん、恥ずかし……」
「なにが?」
「こ、こんなの……」
 シンジは優しくレイを見つめた後、耳元でそっと囁く。
「かわいいよ、綾波…………綾波が言ったんだよ。自分だけを見て欲しいって」
「で、でも……」
「……そうだ、綾波。呼び方が不安って言ったね」
「うん……」
「心配しなくても、いつか綾波のことを名前で呼ぶようになるよ……」
「え……?」
「だって、綾波は……」

 少し深めにレイを抱きかかえ、シンジは言った。

「僕の、将来のお嫁さんだからね……」
「ほんとう……?」
「本当だよ」

 もう一度だけ口付け、シンジはそのまま言った。

「愛してるよ…………レイ」
「いか――シンジ、大好き…………!」



「もー帰れよあんた等……」

 アスカの声は、どこまでも説得力を帯びて、教室に響いた。
メンテ

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