Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.30 ) |
- 日時: 2010/08/21 15:31
- 名前: JUN
- キスしてくださいvol.4
「どうしよう、これ……」 シンジは呆然として呟いた。手の打ちようがないとはこのことだ。身動きが取れない。取ろうと思 えば取れるのだろうが、それをするにはいささか度胸が必要だった。起こしてしまう。それに、起こ した後の対策を考えていない。今の彼女の状態からして、妙な事態に陥るかもしれない。既に妙な事 態に陥ってはいるのだが、それとこれとは別である。だが、このままいつまでもこうしているのはさ らに問題がある。よし、起こそう。
「あのぉ……」 「んん……」 「あの、すいません……」 「うぅん……」 「起きてよ」 「むにゅ……」 「起きてください、綾波……」
酔いつぶれた綾波レイは、いつまで経っても起きない。
発端は些細なことだった。レイを家に招待したシンジは「適当に座ってて。冷蔵庫にあるもの、何 でも飲んでいいよ」と言って、自らは風呂の掃除をしていた。夜勤明けのミサトは、NERVか家かい ずれかでシャワーを浴びる。どちらにでも対応できるよう早めに風呂桶を綺麗にしておくのがシンジ の習慣だった。
アスカもミサトもいないから、からかわれることもなく色々な話が出来る。もしかしたらキスくら い出来るかもしれない。ミサトはいつ帰るか分からないが、それでも話をする時間くらいあるだろう。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、シンジが風呂桶をこすっていると、ふと思うことがあった。冷蔵庫 にジュースってあったっけ……?
ない、とシンジは思った。ビールだけだ。でもまあよい。紅茶かコーヒーでも淹れよう。紅茶がい いかな。僕らの思い出の飲み物だから。初めて淹れたときはちょっと苦かったけど、今は大分上手に なっているから。
シャワーで風呂桶に付いた洗剤を流しつつ、シンジはこの後のことに想いを馳せた。からかわれる 相手がいるせいで、なかなか二人きりになれなかった。キスも数えるほどしかしていない。今日はち ょっと勇気を出して、積極的になってみよう。
「ごめんね綾波、待っ…………た?」 「ふにゅ……いかりくん…………」
顔を色っぽく紅潮させたレイは、シンジの胸に顔を埋め、安らかな眠りについた。
「確かに何でも飲んでいいって言ったけどさあ……」
テーブルの上に置かれたビールの空き缶を眺めつつ、シンジは呟いた。レイはシンジの首っ玉に抱 きついたまま離れない。時折んっ、などと高い声を上げる度に、シンジの心臓が止まりそうになる。
――無防備だよう……綾波ぃ
「起きてよぉ、綾波……」
この上なく情けない声をシンジが上げる。この情けなさの理由は多々あるが、一番はやはり色々と 立てていた算段がご破算になってしまったことだろう。キスしようとすれば不可能ではないが、意識 がなければ意味がないと思う。
「いかりくん、ねこがほしいっていってた……」 「へ?」 「ぺっとがほしいって……」
寝言なのか判別しかねる。うわ言のようにふわふわと、レイは何の脈絡もなく呟いた。そういえば 昔クラスでそんなことを言った気がするな。犬派か猫派かで分かれて……
「そ、それがどうかしたの?」 「いかりくんがねこほしいなら、わたし、いかりくんのねこになる……」 「はい?」 「いかりくんのぺっとになる……」 「えと、綾波さん?」 「にゃん……」 「…………」
昔こんな話を書いた気がするが、気のせいである。別物である。レイはうっすらと目を開け、とろんとした表情でシンジを見て、みゃん、ともう一声鳴く。
……どうしよう、萌える
新しい性癖への扉が開きそうになる。襲い掛かってしまいそうで、シンジは妙に危機感を覚えた。 レイはさらにきつくシンジに抱きつき、シンジは息苦しさを覚えた。酔ったレイの恐ろしさを肌で 感じる。缶ビール一本でこうもとろとろになるレイがかわいくもあり、怖くもあった。
「いかりくん、きす、して……」 「へ?」 「きす、きす……」 「え、いや、ちょっと」 「してくれないの……?いかりくん、わたしときすするの、やなの……?」 「いや、そうじゃなくて」 「おねがい、きす、してください……いかりくん…………」
酔ったレイは積極的らしい。色々な一面を発見して、シンジは戸惑いと喜びを感じる。キスしよう にも、レイはシンジに抱きついている。その体勢からキスするのは不可能だ。
「じゃ、じゃあ一回離れてよ。近すぎて出来ないから」 「や、はなれない。いかりくんは、わたしのものだもの……」 「どこにも行かないから。ね?一回離れてよ。キスできないよ?」 「ん……」
いかにも渋々、レイが距離を取る。シャツをしっかり握っている辺り、離れたくないと言った感じ だ。 「目、閉じて」 「…………はい……」 なんだかんだで計画は達成できるらしい。結果オーライだ。意識もあるのだから、ポリシーにも反 さない。
「好きだ、綾波……」
折れそうに細い身体をそっと抱き締め、ゆっくりキス。アルコールの影響か、うっすら開けた口か ら漏れる吐息は荒い。重ねた唇からは、アルコールの匂いとレイ自身の果実のような甘い香り、ほん のりと汗の匂いも混ざって扇情的な香りがした。
「はぅ……」
そんな匂いと、レイの甘い声に誘われ、シンジの掌がレイの胸元に伸びる。唇を離したレイがうっすらと微笑んで、その手を取った。 「綾波、いい……?」 「碇くんだから、いい……」 「綾波…………!」
まさにシンジがレイを押し倒そう、そう思って肩に手をかけたその時――
「たっだいま〜!シンちゃん、おふ……ろ…………」
時が、止まった――――
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