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[554] サイト開設十周年カウントダウン企画・八月
日時: 2010/07/28 18:30
名前: tamb

月々のお題に沿って適当に書いて投下して頂こうという安易な企画です。作品に対するものは
もちろん、企画全体に対する質問や感想等もこのスレにどうぞ。詳細はこちらをご覧下さい。
http://ayasachi.sweet-tone.net/kikaku/10y_anv_cd/10y_anv_cd.htm

今月のお題は

・蝉時雨
・キスしてください

です。では、どうぞ。
メンテ

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Re: サイト開設十周年カウントダウン企画・八月 ( No.5 )
日時: 2010/08/01 23:29
名前: JUN

「やられたわ」
 そう言ったレイの口調は、どこか楽しげですらあった。後頭部に当てられた銃口が、かえってその場の
空気を和らげているようにすら見えた。
 辺りを包む蝉時雨が、レイの鼓膜を震わせていた。




                   蝉時雨


「迂闊だったね」
「そうね」
 そう言った後、
「まったく――迂闊だったと言わざるを得ないわ。碇くんに背中を取られるなんて」
「僕も強くなった、ってことじゃない?」
「かもしれないわ。今となっては、あまり――」
 ふふ、と押し殺したような笑い声を上げ、
「……関係ないけど」
「そうとも限らない」
「――え?」

 レイが疑問の声を上げると、シンジはふっと笑った。

「綾波も知っての通り、今の綾波の運命は、僕が握っている。それ相応のペナルティが、綾波を待ってる。分かるね」
「……ええ」
 後頭部に突きつけられたそれを急に意識する。僅かな恐怖を感じた。
「でも、それは綾波にとって歓迎できることじゃない。だから――チャンスをあげる」
「チャンス?」
「そうだ。綾波は、アスカとパートナーを組んでるね」
「……っ、まさか……」
「そう。綾波に――」

 背後のシンジはレイの耳元に唇を寄せ、囁いた。

「アスカを、裏切って欲しい」
「な……」
「悪い話じゃない。綾波は最悪の結果を避けられる。僕も――復讐が可能になる」
「復讐?」
「……さっき、カヲル君をロストした」
 レイがはっと息を呑む。暫しの沈黙の後、
「そう。アスカが、渚君を……」
「そうだ。だから綾波、これは取引になる。正直、僕一人でアスカをやれる可能性は五分。綾波の協力が
あれば、十中八九成功する。だから――」
「断るわ」

 シンジの言葉を遮り、レイは言った。

「私には、アスカを裏切ることなんて、できないもの」
「……そっか。残念だよ――とてもね。でも、これでよかったのかもしれないね」
「そうね。正直、碇くんと別の道を選んだ時から、こうなる気がしてた」
「避けられなかった……ってことかな」
「そう、ね」

「最後に……一つだけ教えて」
「なんだい?」
「私はずっと、碇くんの気配には注意を払っていた。渚君ならともかく、碇くんの気配は、絶対に察知す
る自信があった。でも、気づいたら碇くんは私の後ろに立っていた。あり得ない、とまでは言わないけれ
ど、不自然だわ。どうして……?」
「それは――この、蝉の声だよ」
「蝉?」
「そうだ。この蝉の声が、僕の気配を隠してくれた。木の上で待ち伏せしていても、綾波は気づかなかっ
た。綾波がこの木の下に来た瞬間に、背後に飛び降りる。難しいことじゃない。音を立てずに飛び降りる
くらいの訓練は受けてるからね」
「……そう、そういうこと」
「他に訊きたいことは?」
「ないわ」
「そう。じゃあ――」
「ええ」

 夏の日差しに不釣合いな引き金を引く音が、蝉時雨の中静かに響き渡った。





「ファーストを、ロストしました」
「そう。多分、シンジ君ね……」
 落ち着いたマヤの声に、ミサトもコーヒーをすすりながら静かに答えた。
「これで、アスカとシンジ君の一騎打ちね」
「そうね」
 リツコは皮肉めいた笑みを浮かべ、ミサトに言った。
「けれど、きっと説得しようとしたでしょうね」
「……多分ね。レイがシンジ君に接触してからロストするまで、不自然なくらい時間があった。シンジ君
のことだから、恐らく――」
「寝返り……かしらね」
「多分、そうでしょうね。渚君を倒したと、アスカから報告があった。シンジ君としてはなんとしてもア
スカを倒したいところでしょう。そこでレイに接触。味方につければ、これ以上有効な策はない」
「けれど、レイは受け入れなかった」
「そうね。でも昔のレイなら、恐らく――いえ、ないわね」
「聞かなかったでしょうね」
「そうね。任務の遂行が第一だろうから。今回は友情を取った形」
 いつの間にかリツコは煙草に火をつけており、紫煙を吐き出しながらマヤの横に行き、パソコンの画面
に目をやる。
「泣かせる話じゃない。けど、私に言わせれば愚かとしか言いようがないわね。寝返っていれば、最悪の
結果だけは避けられたわ。作戦部長様は、どう考えるのかしら?」
 首をこきこきと鳴らしながら、ミサトはアンニュイな笑みを浮かべた。
「悔しいけど、今回ばかりはリツコと同意見ね。折角のチャンス、感情に流されずにいればあるいは、ペ
ナルティを避け、巧く渡っても行けた。軍人としてはあり得ないレベルね」
「あなたがそれを言うのかしら」
「うるさいわね。過ぎたことよ」
「さて……あとは」
「そう。アスカか……シンジ君か」
「結果次第で、今日の一杯の味が決まるわね」
「ま、そうなるわね……」

 リツコの吐き出した紫煙はいつまでも、天井にわだかまっていた。


















「く、く、悔しい……!バカシンジなんかに……」
「悪いねアスカ。今回ばかりは」
「全く、アスカにやられた時は終わったと思ったよ。でも、シンジ君があだ討ちをしてくれたからね」
「碇くん、今回は強かったわ。あの交渉は魅力的だった。腹黒かったけど」
「だってね、ずっと負けっぱなしだったから、たまには鼻をあかしたくなって。結局綾波は乗ってこなか
ったけど」
「当たり前でしょ!レイはアンタなんかの取引には乗らないわ」
「うーん、残念だなあ。ま、それでも……分かってるよね」
「分かってるわ」
「分かってるわよ。全く、次は見てなさいよ!」
「アスカもたじたじだね。それじゃ……」

 カヲルとシンジは声をそろえて、

「ゴチになりまーっす!」
「くぅぅ……!」

 こうして『第三回“NERVチルドレンチーム対抗ゴチバトル”』は碇・渚チームの初勝利となった。

「なんにしようかな。カヲル君は何がいい?」
「そうだね。折角アスカとレイちゃんが奢ってくれるんだから、ちょっと高いものを……」
「ちょっと!ラーメンじゃないの!?」
「うーん、仕方ないな。じゃあいつものラーメン屋でいいよ。シンジ君は?」
「まあ、いいかな。次も勝てば済む話だし」
「負けないわよ!次は」
「私も……負けない」
「綾波に通用する交渉術を身につけておくよ」
「……乗らないわ」
「どうかな?」
 シンジはくすくすと笑った。
「まあ、次は正々堂々、ね」
「そうね」

 そう言ったとき、シンジの前にネギラーメンが運ばれてきた。



















「ふう、おなか一杯だよ」
「私も」
 レイを送っていく道すがら、シンジは言った。
「綾波って、意外とよく食べるよね」
「そう?」
「そうだよ。いつもお昼食べてなかったから、小食だと思ってた」
「そうでもないわ」
「まあいいと思うよ。綾波細いし。これ以上痩せたら大変だもんね。体重いくら?」
「……女の子に聞いちゃ駄目」
「あ、ごめんごめん」
 シンジはゆっくりとレイの背後に回り、くびれた腰に腕を回した。
「じゃ、量ってみよう」
「え……きゃっ」
 急に抱え上げられ、レイは小さく叫んだ。
「わ、軽い」
「お、下ろして……」
 レイがばたばたと暴れると、シンジはそっと下ろした。
「ごめんね、怒った?」
「……怒ってないけど、びっくりした」
「そっか。でも本当に軽かったよ。ダイエットなんかしちゃ駄目だからね」
「でも、最近お腹がぷにぷにするの」
「そうは思わなかったけどな」
「碇くんが美味しいものばっかり作るから」
「そう言ってくれると嬉しいな。ぷにぷにってこの辺?」
「……そのへん。あんまり触らないで。恥ずかしいから」
「…………この辺は?」
「やんっ」
 レイがじとっとシンジを睨むと、シンジはまた明るく笑った。
「ぷにぷにしてたよ。初めて触ったときより軟らかいね」
「……ばか」
「さ、行こう?もう真っ暗だよ」
 腑に落ちない表情ながら、レイはシンジの手を取った。



 夜になると、あれほどうるさかった蝉時雨は去り、代わりに河鹿蛙が鳴き始めていた。

「どのくらいぷにぷにしてるか、後でじっくり確かめてあげるから」
「……せくはらおやぢ」
「ひどいな、それ」


 シンジの手は初めて握ったあの時と同じで、とても暖かかった。
メンテ

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