Re: 突発短編集(予定)《掌話的小 ( No.5 ) |
- 日時: 2014/03/30 15:37
- 名前: 何処 ID:BInHyClrnkU
- 【桜華抄】
…又、この季節が来る。
季節の消えた世界でもその残渣は未だに生き残り、稀にその姿を現す。 ここ、松代には僅かではあるが山間には未だに桜が生き残り、その枝に薄く紅を載せた白い花弁を綻ばせている。
研究所の長い廊下を一人歩く。 ふと足を停め柔らかな日差しの差し込む窓を向いて、私は外の風景に目をやった。 何故かは知らない、只の気紛れだろう、何の考えも期待も無く私は日差しの向こうに視線を向けていた。 だが視界に飛び込んできたその光景は私の予想を裏切っていた。
いつか見た景色の幻がそこに在った。
私は遠景の山腹に僅かに挿す幾つかの白い標から目を離す事が出来ず、唯一人立ち尽くしていた。
「…どうしました?ああ、桜ですか。」
「…」
不意に横から若い女の声が聞こえる。 返事もせず横目で観遣るが、気にも留めぬ様子の女は笑顔で私を見上げていた。
その声の主は書類の束を持った未だ若い研究員だった。 眼鏡を外しているせいかも知れない、私がネルフの総司令だと知ってか知らずか、その研究員は白衣の裾を翻して私と同じように窓の外を眺める。
「ほら、あそこのあの桜、神社の境内に咲いてるんです。 あそこは門前まで車で行けるんで時間があったら見て来るといいですよ。とっても綺麗ですから!」
「…良く知っているな。」
「そりゃあ地元ですから! 割と穴場なんで、この時期あそこは散策するのに最高なんです、人も少ないし綺麗ですよー。」
屈託無い笑顔の眩しさに間が挿したのだろう、私の口も未だ少女さの残る彼女に向け開いていた。
「…桜は好きか?」
「はい。でも…何か儚いですよね。」
「…儚いか…」
「ええ。咲いても風で直ぐ舞い散ってしまうし、可憐な分可哀想って言うか儚いような…」
改めて窓の外に視線を遣る。
「もう群生は北海道や高山…此処等だと美ヶ原や上高地ぐらいしか残ってないんですよね…」
「…」
「…もう、私の小さい時に見たあの凄い花吹雪は観れないのかなと思うと…」
ふと、妻の横顔が脳裏を過る
「桜はな…再生の証だ。」
「え?」
「冬に耐え、春に花咲き、散って葉にその場を譲り、夏繁った葉は秋に散り桜は冬の眠りを待つ。 春に咲き夏に繁り秋に散って冬に枯れ、又春に咲く…言わば輪廻転生の写し身だ。 命在る限り、再生は為り希望は残る。喩え一輪の花でもそれは再生と…希望の証。」
「希望の…」
私の口からかつて妻が語った台詞が溢れる。
「今、生きている…ならばどんな物にも可能性…希望がある。」
「そう…でしょうか…」
「そうだ。」
「…」
「絶望とは容易い、故に人は諦める。希望とは願望では無い、故に人はその道程に絶望する… 望み、目指し、己の手で狭き門を開け初めて希望は姿を現す。 今、君がここに居る理由は何だ?絶望したくなかったからではないか?」
研究員は頷いて台詞を継いだ。
「そう…ですね、その為のネルフでしたね…」
「ああ。その為のネルフだ…」
窓の外、山腹に浮かぶ白い標を私と研究員は言葉も無く見続けている。
…次はレイを連れてこよう…
何処かから微かにユイとシンジの笑い声が聞こえた。
《The Material World》 http://www.youtube.com/watch?v=BInHyClrnkU&sns=em
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