宇宙大動乱 ( No.51 ) |
- 日時: 2021/08/26 22:01
- 名前: 月影桜花姫
- ジャンル
スペースオペラ
世界観 宇宙文明
登場人物 大銀河帝国軍 【ブラッドフォード】 出身地:大銀河帝国 誕生日:宇宙新暦692年7月16日 星座:牡牛座 実年齢:30歳 所属:大銀河帝国軍 役職:大総統 階級:総帥 性別:男性 身長:168cm 体重:68kg 血液型:AB型 一人称:私 性格:冷静沈着、合理主義、強硬 趣味:ライフル射撃
【ストライダー】 出身地:大銀河帝国 誕生日:宇宙新暦674年3月22日 星座:牡羊座 実年齢:48歳 所属:大銀河帝国軍 役職:副総統 階級:大将 性別:男性 身長:199cm 体重:88kg 血液型:B型 一人称:私 性格:適当、面倒臭がり 趣味:プラモデル作成
【ホムンクルス】 種別:クローン人間 所属:大銀河帝国軍 生産数:700万人〜7億人
タイラントキラー 【ウィグノール】 出身地:大銀河帝国 誕生日:宇宙新暦678年9月28日 星座:天秤座 実年齢:44歳 所属:大銀河帝国軍〜タイラントキラー 役職:総帥 階級:中将 性別:男性 身長:200cm 体重:89kg 血液型:AB型 一人称:私 性格:生真面目 趣味:骨董品集め、サバイバルゲーム
【ウェンフィールド】 出身地:大銀河帝国 誕生日:宇宙新暦700年8月17日 星座:獅子座 実年齢:22歳 所属:タイラントキラー〜ホープセイバーズ 役職:職業軍人 階級:大佐 性別:男性 身長:176cm 体重:76kg 血液型:O型 一人称:私 性格:誠実 趣味:ホラーゲーム
ホープセイバーズ 【ルーヴェルハルト】 出身地:大銀河帝国 誕生日:宇宙新暦668年4月25日 星座:牡牛座 実年齢:54歳 所属:大銀河帝国軍〜ホープセイバーズ 役職:総帥 階級:少将 性別:男性 身長:198cm 体重:87kg 血液型:A型 一人称:私 性格:穏和、野心的 趣味:宇宙旅行
【セレスティノ】 出身地:大銀河帝国 誕生日:宇宙新暦698年11月15日 星座:蠍座 実年齢:24歳 所属:タイラントキラー〜ホープセイバーズ 役職:職業軍人 階級:大尉 性別:男性 身長:180cm 体重:80kg 血液型:B型 一人称:私 性格:信実 趣味:設計
登場国家 『大銀河帝国』 成立日:宇宙新暦376年7月4日 総人口:900億人
自治領 『ユートピアサイド』 統治勢力:大銀河帝国軍 総人口:70億人
『エデンスター』 統治勢力:タイラントキラー 総人口:50億人
『ホープエリア』 統治勢力:ホープセイバーズ 総人口:20億人
登場兵器 大銀河帝国軍 『アルセイス』 諸元 正式名:上級大将専用宇宙戦艦アルセイス 所属:大銀河帝国軍 建造所:ユートピアサイド軍事工場 艦種:宇宙戦艦 同型艦:7隻 起工日:宇宙新暦722年3月27日 進宙日:宇宙新暦722年4月24日 就役日:宇宙新暦722年4月30日 全長:400m 全幅:220m 全高:80m 総重量:70万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 輸送要員:300人〜800人 兵装 990mm超弩級波動砲ケラウノス:1基 600mm高エネルギー連装砲:2基 50mm対空パルスレーザー機関砲:8基 光子魚雷発射機:2基 多目的ミサイル発射機:12基 艦載機:4機※無人機 装甲 主砲装甲:990mm 舷側装甲:750mm 甲板装甲:550mm 装甲材質:エターナルメタル 動力炉:ハイパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『スレイプニル』 諸元 正式名:宇宙要塞母艦スレイプニル 所属:大銀河帝国軍 建造所:プルトロン軍事工場 艦種:宇宙空母 同型艦:18隻 起工日:宇宙新暦722年4月29日 進宙日:宇宙新暦722年5月26日 就役日:宇宙新暦722年5月30日 全長:990m 全幅:860m 全高:140m 総重量:9900万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 輸送要員:5万人〜8万人 兵装 990mm超弩級怪光砲ケラウノス:1基 600mm高エネルギー連装砲:6基 50mm対空パルスレーザー機関砲:80基 光子魚雷発射機:12基 多目的ミサイル発射機:30基 艦載機:400機※無人機 装甲 主砲装甲:990mm 舷側装甲:800mm 甲板装甲:720mm 装甲材質:貴金属 動力炉:ハイパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『セイバードラゴン』 諸元 正式名:宇宙戦艦セイバードラゴン 所属:大銀河帝国軍 建造所:ユートピアサイド軍事工場 艦種:宇宙戦艦 同型艦:2万隻 起工日:宇宙新暦652年4月22日 進宙日:宇宙新暦654年9月19日 就役日:宇宙新暦654年12月27日 全長:800m 全幅:600m 全高:120m 総重量:500万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:320人 輸送要員:2万人〜4万人 兵装 800mm高エネルギー連装砲:8基 50mm対空パルスレーザー機関砲:40基 光子魚雷発射機:8基 多目的ミサイル発射機:20基 艦載機:90機 装甲 主砲装甲:750mm 舷側装甲:500mm 甲板装甲:460mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能
『バジリスク』 諸元 正式名:宇宙巡洋艦バジリスク 所属:大銀河帝国軍 建造所:ユートピアサイド軍事工場 艦種:宇宙巡洋艦 同型艦:6万隻〜8万隻 起工日:宇宙新暦722年3月26日 進宙日:宇宙新暦722年4月12日 就役日:宇宙新暦722年4月15日 全長:200m 全幅:140m 全高:40m 総重量:5万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 兵装 300mm高エネルギー連装砲:3基 50mm対空パルスレーザー機関砲:12基 光子魚雷発射機:2基 艦載機:1機〜2機※無人機 装甲 主砲装甲:440mm 舷側装甲:250mm 甲板装甲:130mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『アスピドケロン』 諸元 正式名:宇宙駆逐艦アスピドケロン 所属:大銀河帝国軍 建造所:メティス軍事工場 艦種:宇宙駆逐艦 同型艦:9万隻〜15万隻 起工日:宇宙新暦722年5月14日 進宙日:宇宙新暦722年5月26日 就役日:宇宙新暦722年6月4日 全長:180m 全幅:150m 全高:40m 総重量:4万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 兵装 250mm高エネルギー連装砲:4基 40mm対空パルスレーザー機関砲:12基 光子魚雷発射機:2基 艦載機:2機※無人機 装甲 主砲装甲:370mm 舷側装甲:240mm 甲板装甲:230mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『スペースバード』 諸元 機種:宇宙戦闘機 所属:大銀河帝国軍 初飛行:宇宙新暦699年12月24日 生産数:8万機 運用開始:宇宙新暦700年6月2日 全長:17m 全幅:16m 全高:6m 総重量:14t 全速力:マッハ15 搭乗員:1人 武装 30mm対空用パルスレーザー:2基 多目的ミサイル〜光子魚雷:2基 設備 スーパーレーダー シールド装置
『セイバードローン』 諸元 機種:無人機 所属:大銀河帝国軍 初飛行:宇宙新暦722年4月26日 生産数:780万機 運用開始:宇宙新暦722年5月12日 全長:15m 全幅:14m 全高:4m 総重量:12t 全速力:マッハ15〜超光速 武装 30mm対空用パルスレーザー:2基 光子魚雷:4基 設備 スーパーレーダー シールド装置 シールドジャミング装置 ステルス機能
『ケルベロス』 諸元 機種:無人機 所属:大銀河帝国軍 初飛行:宇宙新暦722年6月30日 生産数:400万機 運用開始:宇宙新暦722年7月15日 全長:16m 全幅:12m 全高:5m 総重量:20t 全速力:マッハ22〜超光速 武装 50mm対空用パルスレーザー:2基 新型光子魚雷:4基 設備 スーパーレーダー シールド装置 シールドジャミング装置 ステルス機能
タイラントキラー 『サラマンダー』 諸元 正式名:宇宙戦艦サラマンダー 所属:タイラントキラー 建造所:ヘブンスター軍事工場 艦種:宇宙戦艦 同型艦:750隻 起工日:宇宙新暦628年1月24日 進宙日:宇宙新暦630年5月25日 就役日:宇宙新暦650年7月30日 全長:780m 全幅:540m 全高:90m 総重量:300万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:280人 輸送要員:2万人〜3万人 兵装 550mm高エネルギー連装砲:8基 40mm対空パルスレーザー機関砲:38基 光子魚雷発射機:4基 多目的ミサイル発射機:16基 艦載機:150機 装甲 主砲装甲:650mm 舷側装甲:480mm 甲板装甲:240mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能
『レヴィアタン』 諸元 正式名:宇宙戦闘母艦レヴィアタン 所属:タイラントキラー 建造所:ヘブンスター軍事工場 艦種:宇宙空母 同型艦:560隻 起工日:宇宙新暦718年3月29日 進宙日:宇宙新暦719年4月13日 就役日:宇宙新暦719年7月12日 全長:960m 全幅:530m 全高:120m 総重量:620万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:20人 輸送要員:4万人〜6万人 兵装 320mm高エネルギー連装砲:2基 50mm対空パルスレーザー機関砲:44基 艦載機:400機※無人機 装甲 主砲装甲:480mm 舷側装甲:340mm 甲板装甲:190mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『シーサーペント』 諸元 正式名:宇宙巡洋艦シーサーペント 所属:タイラントキラー 建造所:ヘブンスター軍事工場 艦種:宇宙巡洋艦 同型艦:4万隻 起工日:宇宙新暦720年1月27日 進宙日:宇宙新暦720年2月28日 就役日:宇宙新暦720年4月24日 全長:250m 全幅:180m 全高:50m 総重量:6万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 兵装 280mm高エネルギー連装砲:4基 50mm対空パルスレーザー機関砲:14基 光子魚雷発射機:4基 艦載機:2機〜4機※無人機 装甲 主砲装甲:470mm 舷側装甲:290mm 甲板装甲:150mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『スペースドローン』 諸元 機種:無人機 所属:タイラントキラー 初飛行:宇宙新暦720年2月27日 生産数:500万機 運用開始:宇宙新暦720年11月29日 全長:14m 全幅:12m 全高:3m 総重量:12t 全速力:マッハ14〜超光速 武装 20mm対空用パルスレーザー:2基 多目的ミサイル〜光子魚雷:2基 設備 スーパーレーダー シールド装置 シールドジャミング装置
『ホワイトピクシー』 諸元 機種:無人機 所属:タイラントキラー 初飛行:宇宙新暦721年3月12日 生産数:2万機 運用開始:宇宙新暦721年3月15日 全長:18m 全幅:16m 全高:6m 総重量:15t 全速力:マッハ20〜超光速 武装 50mm対空用パルスレーザー:2基 多目的ミサイル〜光子魚雷:6基 設備 スーパーレーダー シールド装置 シールドジャミング装置 ステルス機能
ホープセイバーズ 『リトルヴィーナス』 諸元 正式名:宇宙戦艦リトルヴィーナス 所属:ホープセイバーズ 建造所:ホープエリア軍事工場 艦種:宇宙戦艦 同型艦:4隻 起工日:宇宙新暦652年4月25日 進宙日:宇宙新暦654年9月19日 就役日:宇宙新暦654年12月27日 全長:850m 全幅:650m 全高:200m 総重量:600万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 輸送要員:5万人〜8万人 兵装 990mm超弩級対艦防衛砲サイクロプス:1基 450mm高エネルギー連装砲:8基 50mm対空パルスレーザー機関砲:40基 光子魚雷発射機:12基 多目的ミサイル発射機:30基 艦載機:120機〜140機※無人機 装甲 主砲装甲:950mm 舷側装甲:580mm 甲板装甲:560mm 装甲材質:エターナルメタル 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『フェンリル』 諸元 正式名:宇宙巡洋艦デュラハン 所属:ホープセイバーズ 建造所:ホープエリア軍事工場 艦種:宇宙巡洋艦 同型艦:4万隻〜5万隻 起工日:宇宙新暦720年11月26日 進宙日:宇宙新暦721年12月30日 就役日:宇宙新暦721年2月24日 全長:350m 全幅:280m 全高:65m 総重量:7万t 全速力:超光速※ワープ機能 全出力:測定不能 航続距離:無限光年 乗組員:1人〜3人 兵装 450mm高エネルギー連装砲:4基 50mm対空パルスレーザー機関砲:16基 光子魚雷発射機:2基 艦載機:5機※無人機 装甲 主砲装甲:680mm 舷側装甲:420mm 甲板装甲:270mm 装甲材質:貴金属 動力炉:スーパーリアクター 設備 スーパーレーダー シールド装置 ワープ機能 ステルス機能
『ハイパードローン』 諸元 機種:無人機 所属:ホープセイバーズ 初飛行:宇宙新暦721年4月15日 生産数:900万機 運用開始:宇宙新暦721年5月30日 全長:12m 全幅:8m 全高:4m 総重量:8t 全速力:マッハ22〜超光速 武装 50mm対空用パルスレーザー:2基 新型光子魚雷:2基 設備 スーパーレーダー シールド装置 シールドジャミング装置 ステルス機能
作中用語 『ケラウノス』超大型戦略高エネルギー兵器 『ツァーリーボンバ』超大型戦略貫通ミサイル 『ダウンフォール』銀河系殲滅兵器 『メティス基地』小惑星 『プルトロン基地』人工惑星 『メタリックアイ』小惑星 『エターナルメタル』特殊超合金 『スーパーリアクター』無限動力炉 『ハイパーリアクター』新型無限動力炉
第一話
艦隊戦闘
太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。 「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」 セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超巨大宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。 「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」 セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。 「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」 「はっ!承知しました!」 通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全艦隊に敵艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。 「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍艦隊の真正面に突入するぞ…」 「はっ!ワープ機能作動!」 ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。 「艦長!スペースレーダーが反応しました!」 サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。 「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」 旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦を布告する。 「恐らく敵軍の艦隊だろう…」 すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。 「艦長!敵艦隊です!総数七万隻…大艦隊です!」 「敵艦隊の総数は七万隻か…」 今現在投入された戦力では大銀河帝国軍宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。 「直進せよ…」 ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。 「艦長!敵軍の大艦隊が味方艦隊に接近中です!如何されますか?」 問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。 「急接近する敵軍艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」 最前線の宇宙戦艦部隊を中心に全艦が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。 「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…多目的ミサイルで対応せよ…」 旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。シールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。 「艦首が被弾しました!」 「本艦への被害状況は?」 ウィグノールは乗組員に問い掛ける。 「艦首は大破です…」 「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」 ブリッジの乗組員が恐る恐る…。 「ですが奴等の多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」 長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するシールド機能が搭載されるのが基本である。 「恐らく奴等の実弾兵器にはシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」 シールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。 「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」 するとウィグノールが無表情で…。 「狼狽えるな…」 戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。 (こんなにも劣勢なのに冷静なんて…) 同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。 「ブラッドフォード大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」 「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」 「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」 「愚衆政治国家の実現なんて…所詮は夢物語だな…」 大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。 「大総統…如何されましたか?」 するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。 「前方の敵軍艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」 ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。 「スペースレーダーが反応しました!」 「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」 周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。 「味方艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影…」 「小型の機影だと?」 小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。 「恐らく宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」 「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」 「はっ!承知しました!」 通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙艦隊のスペースレーダーが再度反応する。 「スペースレーダーが反応しました!味方艦隊の上空より無数の敵機です!」 「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」 ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。 「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」 「承知しました…」 大銀河帝国軍の宇宙艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型シールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。 「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」 「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」 ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。 「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」 スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。大銀河帝国軍にも宇宙用の偵察型ドローンは使用されるが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型シールド機能が搭載されたのである。ドローン技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。 「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたか…」 同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦戦闘用の大型ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦はシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。 「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」 すると直後…。 「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」 スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。シールド機能が使用出来なくなる。 「大変です!本艦のシールド機能が無力化されました…」 セイバードラゴンのシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。 「狼狽えるな…」 こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。 「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」 爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。 「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」 「えっ!?ロケットエンジンが!?」 先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。 「大総統…脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」 ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。 「止むを得ないな…」 ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。 「大総統…危機一髪でしたね♪」 一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。 「何が危機一髪だ…」 ブラッドフォードは睥睨したのである。 「ひっ!」 睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。 「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」 同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動部隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは撤退を決意したのである。 「全艦隊に撤退の命令を通信させろ…」 「承知しました…」 通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。 「本船もワープさせろ…」 総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙艦隊を眺望する。 「艦長!敵軍が撤退します!」 ウィグノールは無表情で…。 「防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」 今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。タイラントキラーでは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。
第二話
亡命艦隊
第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。 (今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…) 今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。 「誰だ?」 大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。 「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」 大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。 (誰かと思いきや…) 「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」 ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。 「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」 ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。 「貴様…」 「失礼です♪失礼です♪」 ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。 「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」 ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。 「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」 ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。 「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」 「結局貴様の用事とは?」 ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。 「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で見物しませんか?」 「承知した…」 ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。 「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」 「承知しました…」 ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。 「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」 軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。 「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」 近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。 「新型艦か…」 地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。 「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」 三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。 「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させられますよ♪」 するとストライダーは新型艦を紹介する。 「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」 バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。 「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」 ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。 (大総統…) ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。 「此奴は…」 ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。 「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」 ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。 「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」 「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」 大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。 「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」 ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。 「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」 ブラッドフォードは無表情で…。 「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」 「大総統…」 (本当に偏屈だな…) ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。 「今後の開発プランとやらは?」 「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」 ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。 「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」 「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」 すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。 「ん?通信機だと?」 ブラッドフォードは応答する。 「私だが…一体何事だ?」 「ブラッドフォード大総統!大変です!」 「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」 ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。 「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」 第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。 「愚民の暴走程度で報告するな…」 「えっ!?」 ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。 「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」 「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」 躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。 「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」 ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。 「承知しました…大総統…」 ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。 「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」 ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。 「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」 「であれば一日も早くタイラントキラーの本土を攻略するべきだな…」 同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『ヘブンスター』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。 「ウィグノール総帥!緊急事態です!」 「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」 ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。 「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」 ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。 「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」 「残念ですが…本当みたいです…」 「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」 ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。 「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」 ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。 「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」 ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。 「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」 「私は当然…本気だ!」 「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!ヘブンスターから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」 現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるヘブンスターから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され最悪味方艦隊全滅の可能性も否定出来ない。 「タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でヘブンスターの滅亡も予想されましょう…」 実際タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪ヘブンスターの滅亡も否定出来ない。 「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」 直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。 「ん?ホログラム?」 ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。 「ん?通信兵か?」 「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」 「緊急事態だと?今度は何事だ?」 「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『メタリックアイ』に接近中との情報です…」 小惑星メタリックアイとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。 「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の奇襲部隊か?」 「現段階では不明ですが…恐らくは…」 ウィグノールは再度問い掛ける。 「宇宙艦隊の規模は?」 「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」 「極小規模の小艦隊だな…」 「ウィグノール総帥…如何されますか?」 ウィグノールは一息するなり…。 「小惑星メタリックアイに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」 「承知しました…」 宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のヘブンスターから推定百四十光年に位置する小惑星…。メタリックアイの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はヘブンスターでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。
第三話
奇襲大作戦
宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。 「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」 タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。 「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」 通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。 「奴等…行動を開始したな…」 ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるヘブンスターに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。 「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」 「援軍は不要だ…」 問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。 「援軍は不要ですと?」 「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」 「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」 ブラッドフォードは一息するなり…。 「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」 「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」 ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。 「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上部隊と民間人が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」 大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。 「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」 (今現在ユートピアサイドの地上部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…) ユートピアサイドに配置された味方の地上部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。 「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」 「はっ!承知しました!」 ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの大サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。 「改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」 「上出来だ…」 ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。 「出撃は五分後だ…」 「承知しました…」 五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。 「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」 「奇襲作戦か…」 タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上部隊は動揺したのである。 「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」 「総数六万隻の大艦隊です…地上部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」 現実問題地上部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。 「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」 地上部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。 「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」 ウィグノールは一息したのである。 「民間人への被害は最小限に努力しろ…」 数秒後…。 「全軍攻撃開始!敵軍を排除せよ!」 タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上部隊の基地と周辺区域を攻撃したのである。地上部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラムで地上の様子を再度直視する。 「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」 タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。 「非常に奇妙だな…」 「奇妙ですと?」 奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。 「何が奇妙なのですか?」 「敵軍の地上部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」 ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。 「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」 戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。 「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河全体の民主主義が実現するのです!」 するとウィグノールは恐る恐る…。 「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」 「えっ!?敵軍のトラップですと?」 直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。 「ん?何事だ…」 モニターを作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級宇宙戦艦が映写される。 「此奴は…大銀河帝国軍の…」 「セイバードラゴン級宇宙戦艦だな…改良型か…」 「ですが船底に大型戦艦クラスの超大型ミサイルらしき物体が確認出来ます…物体はミサイルなのでしょうか?」 ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。 「ウィンフィールド…」 「如何されましたか?ウィグノール総帥…」 普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。 (ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…) ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。 「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」 ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。 「えっ!?今更撤退ですと!?」 「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」 「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」 ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。 (コンピュータゲームみたいだな…) ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードはモニターでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。 「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」 一息するなり…。 「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」 改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。 「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」 ウィグノールはモニターの超大型ミサイルを直視する。 (此奴は大銀河帝国軍の新型兵器か…止むを得ないか…) 不本意であるが…。 「全軍に伝達する!全艦隊…即刻撤退せよ!」 直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。 「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」 「主力の宇宙艦隊は無事だが…」 先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自身の自爆攻撃によって推計五百万人の兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。民間からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。
第四話
猛反撃開始
ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。 「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」 軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。 「大総統♪こんな場所で一体何を?」 「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」 「新型兵器の見物ですか♪」 副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。 「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」 「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」 艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。 「えっ?改名って…」 ストライダーは困惑したのである。 「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アルセイス』だ…」 「えっ…アルセイスって…」 ストライダーはハッとする。 「アルセイスとは…大総統の令夫人の名前では…」 「勿論…彼女の名前だ…」 アルセイスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの夫人の名前である。 「大総統が希望すのであれば…」 新型宇宙戦艦の艦名はアルセイスと改名される。 「此奴の性能は?」 アルセイスは全長四百メートルサイズで全幅は二百二十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり主砲…。超弩級波動砲『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。 「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」 「エターナルメタルだと?」 エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。 「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」 「であれば好都合だ…」 三日後…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アルセイスでありブラッドフォードが乗艦したのである。 「全軍に伝達する!今回は小惑星メタリックアイを確保…タイラントキラーの防衛艦隊を殲滅せよ!」 今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国宇宙艦隊は小惑星メタリックアイを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星メタリックアイの宙域へと到達する。
反帝国主義
宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星ヘブンスターを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派のルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの残存艦隊の一部が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残党勢力が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。 「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」 「大銀河帝国に穏健派の軍人は不要だ…」 (彼奴は目障りだからな…) ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。 「ホープセイバーズですが…如何されますか?」 問い掛けられたブラッドフォードは即答する。 「当然として…敵対勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
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アフターウォーズ ( No.52 ) |
- 日時: 2021/08/27 10:19
- 名前: 月影桜花姫
- 第一話
開戦
世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『アプセラス帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。終戦後は超大国としての地位と資源を牛耳ったのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得したアプセラス帝国であるが…。アプセラス帝国の圧政に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ解放区』と命名されアプセラス帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ解放区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ解放区の勢力拡大を危惧したアプセラス帝国はメガラニカ解放区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ解放区本土を攻撃目標に直進したのである。アプセラス帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンにはアプセラス帝国国家元首である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。 「大総統!徹底的にメガラニカ解放区を撃滅しましょう!」 「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国であるアプセラス帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」 ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ解放区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。 「メガラニカ解放区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」 「全軍を警戒態勢に移行させろ…」 「承知しました…」 ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。 「全軍…警戒態勢に移行せよ…」 すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。 「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」 スーパーレーダーはアプセラス帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。アプセラス帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在アプセラス帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。 「何事だ?」 ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。 「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」 スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。 「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」 すると直後…。 「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」 四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。 「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」 ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。 「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」 各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年アプセラス帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。 「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」 「最先端の科学技術の結晶であるアプセラス帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」 ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。 「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」 総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。アプセラス帝国軍の大艦隊はメガラニカ解放区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ解放区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。 「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」 メガラニカ解放区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。 「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」 ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。アプセラス帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。 「味方艦隊の圧倒的優勢です!」 旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。 「アプセラス帝国軍の圧勝は確実だな…」 「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ解放区なんて…」 乗組員達はアプセラス帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ解放区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。 「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」 「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…アプセラス帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」 乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。 「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」 「狼狽えるな…」 ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。 「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ解放軍が圧倒的に不利ですよ…」 ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。 「時間だな…」 周囲の乗組員達はハッとした表情で…。 「えっ…何が時間なのですか!?」 一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。 「作戦を開始する…」 ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。 「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」 「はっ!」 周囲の者達はポカンとする。 「一体何を開始するのか?」 同時刻…。メガラニカ解放区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ解放区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景にアプセラス帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。 「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ解放区の南方地帯全域を空爆せよ…場合によっては非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」 「はっ!」 ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ解放区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死にアプセラス帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。 「大総統♪アプセラス帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」 副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。 「当然の結果だな…」 ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。 「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」 「承知しました…」 ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。 「スーパーレーダーが反応しました!」 特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。 「今度は何事だ!?」 ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。 「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」 「移動物体だと?敵機か?」 ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。 「此奴は…」 飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。 「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」 「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」 「戦闘用ドローンですと?」 ブラッドフォードは一息するなり…。 「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」 「承知しました…大総統…」 戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。 「大総統…敵軍のドローンです…」 「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」 ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。 「なっ!?シールドでしょうか!?」 「シールドだと?」 「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」 「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」 電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年ではアプセラス帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。 「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」 ドローン関連の科学技術ではメガラニカ解放区がアプセラス帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ解放軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方のアプセラス帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。 「艦長…上空より敵機が接近中です!」 対空パルスレーザーの弾幕がアプセラス帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。 「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」 「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」 本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。 「大昔の大戦だな…」 アプセラス帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。 「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」 特殊無線技士が報告する。 「即刻回避だ!」 ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。 「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」 メガラニカ解放軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。 「大総統…アプセラス帝国軍の劣勢です…」 形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。 「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」 同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。 「大総統!現状ではアプセラス帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」 撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。 「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」 実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。 「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」 ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。 「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」 特殊無線技士が報告する。 「敵機だと?」 数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。 「ぐっ!」 艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。 「大総統!大丈夫ですか!?」 副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。 「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」 先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。 「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」 「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」 「であればダメージコントロールを急行せよ…」 乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。 (戦闘を続行し続ければアプセラス帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…) 味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。 「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」 ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始したアプセラス帝国軍の艦隊にメガラニカ解放軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦でアプセラス帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ解放軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。アプセラス帝国の権威が失墜したのである。
第二話
大艦巨砲主義
メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ解放区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ解放軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力によりアプセラス帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。アプセラス帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。 「大総統…一週間の短期間でアプセラス帝国の統治領の約半分がメガラニカ解放軍の猛反撃により占拠されました…アプセラス帝国軍は劣勢の状態です…」 「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」 ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。 「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ解放区はアプセラス帝国以上に消耗した状態です!」 今現在のメガラニカ解放区とアプセラス帝国の国力は一対十八でありメガラニカ解放区は圧倒的に不利である。メガラニカ解放軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量のアプセラス帝国軍を圧倒する。メガラニカ解放軍の快進撃によりアプセラス帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ解放軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。 「メガラニカ解放軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」 するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。 「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」 「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」 ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前のアプセラス帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治のアプセラス帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来たのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。 「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」 ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。アプセラス帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。 「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」 近日ではアプセラス帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ解放軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続けるアプセラス帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。 「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」 開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。 「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」 「ケルベロスは…」 ケルベロスとはアプセラス帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。 「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ解放軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」 メガラニカ南方海戦でアプセラス帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦でアプセラス帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ解放軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。 「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」 二枚目の設計図を直視する。 「ん?此奴は…」 「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『ティタニア』です…」 「超砲撃型戦艦…ティタニア?」 正式名は超砲撃型戦艦ティタニアであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがティタニアは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。 「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」 ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。 「戦艦ティタニアは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」 「電磁投射砲か…」 電磁投射砲は現在アプセラス帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。 「海軍開発部の大計画では戦艦ティタニアの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」 「エターナルメタルだと?」 エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。 「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」 「であれば建造を急行するべきだな…」 直後である。 「大総統!緊急事態です!」 通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。 「緊急事態だと?一体何事だ?」 ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。 「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍の攻勢で占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」 「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」 ルーヴェルハルトは驚愕したのである。 「残念ですが…」 メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人ものアプセラス帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ解放軍の強襲で全滅したのである。 「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…パシフィスゾーン基地だな…」 パシフィスゾーン基地とは最南端に位置する離島…。パシフィスゾーン本島を防衛するアプセラス帝国軍守備隊の本拠地である。アプセラス帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。 「大総統…即刻パシフィスゾーン本島に援軍を派遣させますか?」 「援軍は不要だ…」 「えっ!?」 ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。 「本気ですか!?大総統!?」 「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」 「如何して援軍を派遣しないのですか!?パシフィスゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」 ブラッドフォードは再度無表情で返答する。 「パシフィスゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」 「陽動作戦ですと?」 「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…パシフィスゾーンに侵攻中のメガラニカ解放軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」 パシフィスゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。パシフィスゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。 「特殊弾頭ミサイルですと!?パシフィスゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」 特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。 「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」 小国家だったアプセラス帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。 「敵味方諸共…殲滅するのですか?」 「最早多少の犠牲は止むを得ない…」 ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。 「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもパシフィスゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」 「承知しました…」 ルーヴェルハルトは不本意であるが承諾したのである。
第三話
攻防戦
五月二十七日早朝…。メガラニカ解放軍の大艦隊がアプセラス帝国最終防衛区域パシフィスゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。パシフィスゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。 「一体何事だ!?」 「スーパーレーダーが反応したぞ!」 即座に立体映像のホログラムで確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。 「此奴はメガラニカ解放軍の艦隊だな…パシフィスゾーンを攻略するみたいだ…」 「如何しましょう…総司令官…」 「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!パシフィスゾーンは徹底的に死守しろ!」 守備隊の陸軍総司令官が各員に指示したのである。 「はっ!」 パシフィスゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありパシフィスゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。 「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」 「はっ!」 通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ解放軍の大艦隊がパシフィスゾーンの防衛区域へと到達したのである。 「総司令官…メガラニカの大艦隊が防衛区域に到達しました…」 「防衛戦を開始するか…」 攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーでアプセラス帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。 「艦長…敵部隊を確認しました…」 レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。 「ホログラムを作動させろ…」 乗組員は艦内のホログラムを作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。 「旧型の兵器ばかりか…」 「如何されますか?」 乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。 「即刻迎撃せよ…ドローン兵器を発進させろ…」 「承知しました…」 旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のパシフィスゾーン防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。パシフィスゾーン防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。ドローン部隊の猛反撃からパシフィスゾーン防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。 「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」 通信兵の報告にパシフィスゾーン総司令部は混乱する。 「ドローン部隊を使用したか…」 総司令官は一瞬沈黙するも…。 「守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始する!」 「承知しました…」 基地内の将兵達は承諾したのである。 「民間人は緊急用シェルターに避難させろ…」 陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ解放軍のドローン部隊がパシフィスゾーン領空へと到達する。 「メガラニカのドローンだ!」 「海上の防衛部隊は全滅したのか?」 「兎にも角にも迎撃するぞ!」 陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。 「陸上部隊の八割が壊滅しました…」 守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。 「なっ!?壊滅状態だと!?」 「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」 総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。 「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」 ホログラムを作動させるとメガラニカ解放軍の大艦隊が映写される。 「敵軍の大艦隊だぞ…パシフィスゾーンの領海に到達したのか!?」 メガラニカ解放軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ解放軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ解放軍艦隊はノーダメージでパシフィスゾーンの領海へと到達出来たのである。 「本土から援軍は出動したのか!?」 総司令官が通信兵に問い掛ける。 「無線では…本土から潜水艦が一隻出動したと…」 「はっ?」 総司令官は絶句する。 「こんな状況で潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」 「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」 現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北からアプセラス帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり大艦隊は派遣出来なかったのである。 「畜生が…」 通信兵の報告に総司令官はピリピリする。 (パシフィスゾーンは陥落しろと?総本部は本土での戦闘を決断したのか?) 総司令官は決断したのである。 「総員…援軍は期待出来ないが…精一杯パシフィスゾーンを死守するぞ!」 「はっ!承知しました…」 絶望的状況下であるが守備隊の将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるパシフィスゾーン上陸作戦が開始されたのである。上陸部隊の戦力は主力戦車五十二両…。装甲車と軽量の戦闘車が六十四両投入される。二万人の海兵隊が上陸したのである。今回の上陸作戦では最新型の地上用ドローンである無人戦車を五機投入…。試作段階であるが実戦配備されたのである。
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桜花姫 ( No.53 ) |
- 日時: 2021/08/27 10:55
- 名前: 月影桜花姫
- 第一話
闇夜
太古の大昔…。極東の島国『日倭浄土国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。日倭浄土国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。 「荒神山か…」 荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として荒神山へは近寄れない。 「何やら無数の妖気が感じられる…」 (如何やら今回も大群だな…) 僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。 「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」 周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。 「荒神山の頂上だな…」 天辺からは南国の村里が眺望出来る。 「絶妙の景色だ…」 (即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…) 直後である。 「ん!?」 (気配だ…) 突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。 (此奴は妖気か?) 「如何やら大群みたいだな…」 姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。 (人影みたいだな…) 体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。 「人間では無さそうだな…」 周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。 (此奴は…) 人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。 「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」 人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。 「食人餓鬼が出現するとは…」 (相手が食人餓鬼程度なら…) 三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。 「妖怪よ…成仏せよ…」 焼死した食人餓鬼に合掌する。 「安心は出来ないな…」 今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。 「大群だな…」 無数の食人餓鬼はふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。 「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」 総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。 「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」 再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。 「今度は…」 (食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…) 恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。 「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」 (厄介なのが出現したな…) 体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。 「熱風!?」 三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。 (絶大なる妖力だな…) 熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。 (予想以上に強力だな…) 「一か八か…」 直後…。黒雲が天空を覆い包む。 「死滅せよ!」 黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。 「はぁ…はぁ…」 先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。 「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」 (戻ろうか…) 一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。 「なっ!?」 (複数の妖気か!?) すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。 「百鬼食人餓鬼か…」 (三体も出現するなんて…) 最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。 (不本意だが…撤退しなければ…) 撤退する直前…。 「えっ…」 今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。 「今度は別の妖気だ…」 (百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?) 不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。 (遭遇すれば…私は確実に殺される…) 「即刻退散しなければ…」 退散する寸前…。 「えっ…」 三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。 (女性?) 女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。 (彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…) 女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。 「氷結の妖術…発動!」 女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。 「所詮は雑魚ね…」 すると女性は三蔵郎を凝視し始める。 「なっ!?」 三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。 「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」 女性は笑顔で名前を名乗る。 「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」 桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。 「貴女様は妖怪でしたか…」 桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。 (姿形のみなら人間の小町娘ですが…) 三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。 (彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…) 可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。 「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」 「えっ…」 (人間を…殺さないって!?) 本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。 (摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?) 桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。 (一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?) すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。 「あんた…不思議そうな表情ね♪」 「えっ!?」 桜花姫は説明する。 「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」 「特殊ですと?」 「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」 桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。 「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」 (彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…) 三蔵郎は再度桜花姫に質問する。 「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」 桜花姫は笑顔で即答したのである。 「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」 (気紛れだったか…) 理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。 「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」 桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。 「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」 「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」 (私が大妖怪ですって♪) 桜花姫は内心大喜びする。 「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」 すると桜花姫は恐る恐る…。 「あんたの名前は?」 「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」 自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。 「私も西国に戻ろうかしら…」 桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。 「露天風呂で入浴しましょう♪」 田舎村の西国であるが…。日倭浄土国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。 「露天風呂だ♪」 天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。 (折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪) 桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。 「変化の妖術…発動!」 変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。 「入浴するわよ♪」 巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。 「極楽♪極楽♪」 彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。 (妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?) 直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。 「えっ?」 (気配だわ…) 何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。 (妖気かしら?) 「如何やら妖怪みたいね…」 気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。 「誰かと思いきや…」 露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。 「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」 「桜花姫…入浴中だったのね…」 彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。 「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」 「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」 粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。 「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」 「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」 桜花姫は笑顔で謝罪する。 「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは相当の物好きね♪」 揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。 「あんた…私に殺されたいみたいね…」 「私に用事かしら?」 桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。 「大変なの…桜花姫…」 「何が大変なのよ?」 雪女郎に恐る恐る問い掛ける。 「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」 「問題だったかしら?」 「大問題よ!」 桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。 「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」 噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。 「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」 雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。 「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」 桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。 (桜花姫…) 「あんたは本当に気楽ね…」 桜花姫の様子に呆れ果てる。 「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」 以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。 「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」 「桜花姫…」 断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。 「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」 雪女郎は自宅へと戻ったのである。 「面白くなったわね♪」 内心大喜びする。
第二話
大海戦
南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。 「東国だわ…」 東国とは日倭浄土国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も日倭浄土国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。 「非常に美味だわ♪」 彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。 「えっ?」 (誰かしら?僧侶っぽいわね…) 隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。 (彼には見覚えが…) 「誰だったっけ?」 僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。 「ひょっとして三蔵郎様?」 すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。 「桜花姫様?如何してこんな場所に?」 三蔵郎は小声で問い掛ける。 「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」 三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。 「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」 警戒する三蔵郎に問い掛ける。 「あんた…私を信用出来ないの?」 「信用するも何も…失礼ですが貴女様は魑魅魍魎の集合体です…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」 実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。 「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」 桜花姫は笑顔で即答する。 「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」 「えっ!?毛嫌いですと!?」 三蔵郎は驚愕したのである。 「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」 「一匹狼って…」 (同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?) 平気そうな彼女に不思議がる。 (月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…) すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。 (彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?) 桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。 「ん!?」 (別の妖気か!?) 突如として妖気を察知…。三蔵郎は警戒する。 「えっ?」 桜花姫も妖気に反応したのである。 「三蔵郎様も察知したみたいね…」 「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」 突如として南国の海域より妖気を察知する。 「南国に妖怪が出現したのね♪」 「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」 妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。 「面白そうね♪私の出番かしら♪」 「私は即刻妖怪を退治しなくては…」 三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。 「えっ!?三蔵郎様!?」 桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。 「はぁ…はぁ…」 (三蔵郎様を見失っちゃったわ…) 桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。 「仕方ないわね…」 (妖術を使用しちゃいましょう♪) 桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。 「三蔵郎様♪」 「うわっ!桜花姫様!?」 突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。 「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」 「勿論よ♪」 すると桜花姫は笑顔で…。 「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」 「仕方ないですね…」 三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。 「到着したわね♪」 「ですが妖怪は?」 海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。 「如何されましたか?」 「法師様ですか…」 「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」 「妖怪ですと?」 「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」 数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。 「一瞬妖怪に殺されるかと…」 「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」 すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。 「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」 「海難入道ですか?」 海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達の霊魂が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死するのが通例である。 「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」 三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。 「海難入道は私が仕留めるわ♪」 「えっ…桜花姫様?」 桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。 「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」 「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…」 漁師達は呆れ果てる。 「私が人間ですって♪」 桜花姫は笑顔で…。 「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」 「あんたが妖怪だって?」 「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」 自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。 「仕方ないわね…」 桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。 「桜餅に変化しなさい♪」 変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。 「なっ!?俺達の漁船が…」 「桜餅に…」 変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。 「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」 漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。 「あんたは…本当に妖怪なのか?」 「勿論♪私は正真正銘妖怪よ♪」 問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は身震いした様子で恐る恐る後退りしたのである。 「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」 「殺されちまう!逃げろ!」 周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。 「逃げちゃったわ…」 「当然の反応でしょうね…」 現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。 「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」 再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。 「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」 三蔵郎は驚愕する。 「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」 桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。 「海難入道は?」 海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき物体は何一つとして確認出来ない。 (こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…) すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。 「妖気!?」 (ひょっとして海難入道の妖気かしら?) 接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。数秒後…。暗闇の遠方より白鯨らしき巨大移動物体が接近する。 「何かしら?」 巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主であり全体的に真蛸らしき物体だったのである。 (巨大真蛸…) 「海難入道だわ…」 海中の巨大移動物体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は大島に匹敵する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。 「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様は妖怪…月影桜花姫だな…人魚に変化したのか?」 海難入道は人語で発言したのである。 「私は人魚にも変化出来るからね♪」 桜花姫は笑顔で返答する。 「今現在の俺は空腹だ…邪魔するなら貴様も食い殺すぞ…」 海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり相手が妖怪であっても捕食する。 「私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」 「はっ?」 桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。 「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では俺を仕留められる妖怪は存在しないぞ…」 海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るが…。海中で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。 「噂話は熟知したぞ…近頃貴様は人間の僧侶に加勢して…同種の妖怪達を征伐したらしいな?」 「人間に加勢したから何よ?私は邪魔者を仕留めただけよ♪」 桜花姫は笑顔で反論したのである。 「貴様…気に入らないな…」 「如何する♪」 「死滅しろ…」 海難入道は即座に触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。 「危機一髪だったわね♪」 「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」 「今度は私の出番ね♪」 桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。 「あんたこそ死滅しなさい♪」 両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。 「直撃♪」 雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。 「えっ?」 「残念だったな…桜花姫よ…」 桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。 「吸収するなんて…」 (海難入道には妖術が通用しないのかしら…)
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アクアヴィーナス ( No.54 ) |
- 日時: 2021/08/28 22:09
- 名前: 月影桜花姫
- 第一話
魔獣
多種多様の生命体が生息する『アクアスター』の深海底地帯には上半身が人間の女性…。下半身が銀鱗の大魚である人魚達が楽園『アクアユートピア』で生息する。アクアユートピアとは人魚達の理想郷であり別名人魚王国とも呼称される。場所が深海底からか外敵も皆無であり正真正銘深海底の理想郷だったのである。平和の日常が数十年と継続されたが…。近頃ではアクアユートピアの近辺にて深海底の魔獣が出現するとの噂話が国全体に出回る。魔獣出現の噂話が出回ってより数日後…。とある一人の人魚がアクアユートピアの市街地を無我夢中に遊泳する。 「アクアユートピアに魔獣が出現するなんて…」 彼女の名前は【アクアヴィーナス】…。赤髪のストレートロングとアクアカラーの瞳孔が特徴的である。服装はピンク色のロングドレスと両方の耳朶には金剛石のイヤリング…。赤毛の頭髪には海星型のヘアアクセサリーが確認出来る。 (アクアユートピアは毎日が平和だけれども…正直退屈しちゃうよ…) 「私が魔法使いみたいに魔法を駆使出来るなら…地上界の冒険とか極悪非道の魔獣を征伐したいな♪」 彼女は非常に子供っぽい性格であり全世界の冒険と魔獣征伐を夢見る人魚である。外見のみなら人間の童顔美少女であるが…。年齢的には成人女性であり精神年齢はお子ちゃま同然である。 「こんな場所で遊泳し続けても面白くないし…戻ろうかな?」 アクアヴィーナスはスイスイと自宅へと直行する。アクアユートピアの家屋敷は地上界の建造物と比較すると非常に独特であり貝殻型やら海星型の家屋敷が数多く確認出来る。無事に自宅へと戻ったアクアヴィーナスは変身を解除するなり…。人間の女性へと戻ったのである。人魚達の室内での生活は魔法によって人魚に変身しなくても生活出来る。 「戻ったよ♪」 リビングルームへと入室するが室内は無人である。 「私だけか…」 ゴロゴロとリビングルームのソファーベットに寝転ぶ。ゴロゴロと寝転んだアクアヴィーナスであるが魔獣が気になるのかソワソワしたのである。 「魔獣が気になるわね…」 (【ウェンディーネ】からは絶対に外出するなって忠告されたけど…) ウェンディーネとはアクアヴィーナスの悪友でありアクアヴィーナスと居候する。子供っぽいアクアヴィーナスとは正反対であり母親みたいな性格である。 「室内でジッとし続けるのも退屈だし…」 ウェンディーネからは今回の魔獣出現には関与するなと忠告されたが…。全世界の冒険と魔獣征伐を夢見る彼女にとって今回は魔獣遭遇の絶好機だったのである。 (遭遇するだけなら♪) 「魔獣に遭遇したら即座に逃走しちゃえば大丈夫よね?」 アクアヴィーナスはアクアユートピアからの脱出を決意する。同時刻…。国内の歓楽街に出掛けたウェンディーネであるがアクアヴィーナスの様子が気になったのか家屋敷へと帰宅する。 (アクアヴィーナスが気になるわね…) 「戻ろうかな♪」 ウェンディーネは金髪のポニーテールとアクアカラーの瞳孔が特徴的である。両方の耳朶には純金のイヤリング…。金髪の頭髪には海星型のヘアアクセサリーが確認出来る。数分後…。自宅へと戻った彼女は変身を解除させるなり室内へと入室する。 「アクアヴィーナス?」 人気は皆無でありウェンディーネは恐る恐るリビングルームへと入室したのである。 「ん?アクアヴィーナスは?」 リビングルームは空っぽであり誰一人として確認出来ない。 「ひょっとしてアクアヴィーナス…」 彼女は一瞬ドキッとする。 「出掛けちゃったのかな?」 戦慄したウェンディーネは即刻…。 「【スキュラン】様に依頼しないと!」 スキュランとはアクアユートピアの国長であり多種多様の魔法を扱える唯一の魔女である。アクアユートピアの人魚達が深海底地帯で無事に生活出来るのも彼女の魔力であり大勢の人魚達から尊敬される。 (スキュラン様ならアクアヴィーナスの居場所が…) 同時刻…。アクアヴィーナスはアクアユートピアの国境へと到達する。 「アクアユートピアの国境だね♪」 無事にアクアユートピアの国境に到達出来たが…。国境には二人組の人魚の警備員が厳重に警備中であり容易には外出出来ない。 (警備員が二人も…外出出来ないわね…) 「如何しましょう?」 困惑した彼女は頭部のヘアアクセサリーに接触する。 (一か八か…) アクアヴィーナスは近辺の岩場に潜伏するなり…。警備員の足場を標的に海星型のヘアアクセサリーを力一杯投擲したのである。アクアヴィーナスのヘアアクセサリーは見事に警備員の足場に接触…。 「ん?」 「何事かしら?」 物音に反応したのか警備員達は足場のヘアアクセサリーに反応する。 「海星型のヘアアクセサリーだわ…一体誰のかしら?」 (脱出出来るチャンスだわ!) 警備員達の様子にアクアヴィーナスは力一杯力泳するなり…。全身全霊の力泳によってアクアユートピアの国境を突破したのである。 (脱出成功だわ♪) 国外への脱出成功にアクアヴィーナスは大喜びする。 (本当に魔獣は出現するのかしら?) 恐る恐る周囲の海中を眺望するものの…。深海底は全体的に暗闇であり何一つとして確認出来ない。 (暗闇ばかりだわ…) アクアユートピアはスキュランの魔法によって国全体が街灯で光明であったものの…。国外の深海底地帯はスキュランの魔法の範囲外であり完全なる未知の領域である。 「こんなにも暗闇ばかりでは何も発見出来ないわね…」 (こんなにも暗闇では魔獣なんて遭遇出来なさそうだわ…) 暗闇に戦慄したのかアクアヴィーナスはアクアユートピアに戻りたくなる。 (何も進展しないし…戻ろうかな?一人で暗闇の深海底を移動するのも心細いし…) 即刻アクアユートピアに戻ろうと決意した直後である。近辺から不吉の轟音が響き渡る。 「きゃっ!一体何よ!?」 正体不明の轟音にアクアヴィーナスはビクビクする。アクアヴィーナスは恐る恐る海底下を直視するなり…。戦慄したのである。 「きゃっ!」 海底下には白骨化した無数の鯨類は勿論…。多種多様の魚介類やら殺害された人魚達の白骨体が無数に確認出来る。 「如何してこんなにも白骨体が…」 (魔獣に食べられちゃったのかしら?) 海底下を凝視し続けると粉砕された無数の沈没船の残骸も発見する。 (沈没船だわ…深海底の墓場みたいね…) 「今度こそ戻りましょう…」 今度こそアクアユートピアに戻ろうかと思いきや…。背後から極度の胸騒ぎを感じる。 (胸騒ぎを感じるわ…一体何かしら?) 恐る恐る背後を警戒するなり…。 「蛍光体?」 彼女の背後には正体不明の蛍光体が暗闇の深海底で浮遊する。周囲が極度の暗闇であり蛍光体の正体は不明である。 「何かしら?」 蛍光体を直視し続けると蛍光体の中心部に瞳孔らしき黒点が確認出来る。 「瞳孔!?目玉だわ…」 蛍光体が巨大生物の眼球であると確信する。すると巨大生物の眼球がギョロギョロと蠢動したのである。 「ひっ!」 アクアヴィーナスは巨大生物の眼球に畏怖するなり全身が膠着する。すると直後…。巨大生物の体表が蛍光色に発光したのである。 「巨大水蛸!?」 アクアヴィーナスの目前に出現したのは規格外の超巨大水蛸でありビクビクするアクアヴィーナスをギロリと凝視する。 「ひょっとして【ダークオクタルス】!?」 ダークオクタルスとは超古代から深海底地帯で生息する巨大海洋生物である。多種多様の魚類やら大型海洋生物は勿論…。人魚をも捕食する。普段は南海の深海底で生息するものの…。空腹であれば海面上へと浮上するなり人間達が乗船する船舶をも沈没させ沈没船諸共乗組員達を捕食する。 「魔獣の正体はダークオクタルスだったのね…」 近頃アクアユートピアの近辺に出現した魔獣の正体がダークオクタルスであると再認識したのである。 (海底下に埋没する白骨体と沈没船はダークオクタルスに捕食された残骸だったのね…) アクアヴィーナスは恐る恐る後退りする。数秒後…。無数の触手がアクアヴィーナスを急襲したのである。 「きゃっ!」 触手で襲撃されたアクアヴィーナスであったが危機一髪回避する。 (逃げないと食い殺されちゃうわ!) アクアヴィーナスはダークオクタルスから力一杯力泳するなり逃亡したのである。必死に逃亡するアクアヴィーナスにダークオクタルスは猛スピードで追撃する。アクアヴィーナスは無我夢中に海底下を力泳するなり…。沈没した大型船を発見する。 (沈没船だわ…) アクアヴィーナスは即座に沈没船の内部へと潜伏したのである。 アクアヴィーナスの行方を見失ったダークオクタルスは沈没船に密着する。危機一髪ダークオクタルスから逃げ切ったアクアヴィーナスであるが彼女が潜入したのは大型船の格納庫であり無数のビヤ樽が確認出来る。 (如何やら格納庫みたいね…) 「沈没船から脱出してもダークオクタルスに捕食されるし…こんな場所で潜伏し続けても時間の問題よね…」 アクアヴィーナスは困惑する。 「一体如何すれば…」 同時刻…。悪友のウェンディーネは国長のスキュランの家屋敷へと訪問する。恐る恐る玄関口のドアをノックしたのである。 「失礼します…」 するとドアから緑髪の人魚が出迎える。 「誰かと思いきや…あんたはウェンディーネ…一体何事かしら?」 緑髪の人魚こそアクアユートピアの国長であるスキュランであり摩訶不思議の魔法を扱える。 「スキュラン様大変です!アクアヴィーナスが…アクアヴィーナスが…」 「アクアヴィーナス?」 スキュランは一瞬沈黙するなり…。 「アクアヴィーナスって…問題児のアクアヴィーナスかしら?」 アクアユートピアではアクアヴィーナスは天然の問題児として有名であり国全体から問題児として認識される。 「外出するなって忠告したのに外出しちゃいました…」 「外出って…」 スキュランは呆れ果てたのか苦笑いする。 「別に外出だけなら…問題無さそうだけど…」 「ですがアクアヴィーナスは常日頃から魔獣を征伐したいとか…全世界を冒険したいって口喧しくて…ひょっとしたら一人で国外に…」 すると直後…。二人の警備員がスキュランの家屋敷に訪問する。 「スキュラン様…失礼します…」 「あんた達は警備員…何事かしら?」 「スキュラン様…国境にこんな代物が…」 警備員の一人がスキュランに落とし物を手渡したのである。 「ん?遺失物?誰かのヘアアクセサリーかしら?」 警備員が手渡した遺失物とは海星型のヘアアクセサリーでありウェンディーネがヘアアクセサリーを直視するとソワソワする。 「海星型のヘアアクセサリーって…」 「ん?ウェンディーネ?突然如何しちゃったのよ?」 ウェンディーネは恐る恐る…。 「彼女の…アクアヴィーナスのだわ…」 「アクアヴィーナスの?如何して国境に彼女のヘアアクセサリーが…」 するとウェンディーネがハッとする。 「ひょっとしてアクアヴィーナスは意図的にヘアアクセサリーを国境に投棄したのね…アクアユートピアから脱出する手段として…」 アクアユートピアは警備が厳重であり容易には国外への逃亡は不可能である。 「彼女は私達の警備をヘアアクセサリーで見事に突破したのですね…」 「私達は警備員として不覚です…」 警備員達は悔悟したのである。 「気にしないの…あんた達は何も悪くないから♪」 スキュランは二人の警備員を気にするなと元気付ける。 「スキュラン様♪」 「今後は厳重に警備するのよ…油断大敵♪」 「承知しました…スキュラン様…」 「ですがスキュラン様…アクアヴィーナスはアクアユートピアから脱出したのですか?彼女が無事なのか不安です…」 不安がるウェンディーネにスキュランは断言する。 「魔法で彼女の居場所を調査するわね…」 「スキュラン様…」 スキュランはリビングルームへと移動したのである。ウェンディーネも彼女に同行するなり恐る恐るスキュランのリビングルームへと入室する。リビングルームの中心部には水色の水晶玉が確認出来る。 「水晶玉かしら?」 「魔法の水晶玉よ…リビングルームの水晶玉でアクアヴィーナスの居場所を察知するわね…」 スキュランは水晶玉に接触する。すると水晶玉がスキュランの魔力に反応したのかピカッと発光したのである。 「きゃっ!」 水晶玉の発光によりウェンディーネは両目を瞑目させる。水晶玉が発光してより数秒後…。水晶玉の表面からアクアヴィーナスの様子が投影されたのである。 「アクアヴィーナスだわ!無事だったのね…」 アクアヴィーナスの様子にウェンディーネはホッとしたのか一安心する。 「如何やら彼女の居場所は沈没船の船内みたいね…」 沈没船の船内であるがアクアヴィーナスは非常にビクビクした様子である。 「ビクビクした様子だわ…」 「如何やら一大事みたいね…」 同時刻…。沈没船の船内ではアクアヴィーナスはダークオクタルスの襲撃に畏怖したのである。 「私は如何すれば…」 (非武装だし魔法なんて扱えないし…魔獣に食い殺されるのも時間の問題だわ…) すると直後…。船内の板壁がガタガタッと物音が響き渡る。 「ひっ!何よ…」 アクアヴィーナスは物音に恐怖したのである。数秒後…。ダークオクタルスの二本の触手が船内の板壁を貫通させるなりニョロニョロと格納庫を弄り回る。 「えっ…蛸足!?」 (ダークオクタルスの…触手だわ…) アクアヴィーナスの極度の恐怖心によって全身が膠着化したのである。 (今度こそ…食い殺されるわ…) ダークオクタルスに食い殺されるのを覚悟するが…。格納庫を弄り回った触手は退散したのである。 (ん?触手が…) 「気付かれなかったのかしら?」 気付かれなかったアクアヴィーナスはホッとしたのか一安心する。 (ひょっとしてダークオクタルスは物音に反応するのかしら…) 一息したアクアヴィーナスは恐る恐る周囲のビヤ樽を確認するとドクロマークのビヤ樽を発見したのである。 「ドクロマークだわ…ひょっとして爆薬かしら?」 ドクロマークのビヤ樽に接触するなり…。 (爆薬だったら魔法を扱えない私でも…) 「ダークオクタルスを仕留められちゃうかも知れないわね♪」 楽観視した直後である。 「きゃっ!」 真下の床板から触手が出現するなりアクアヴィーナスを拘束…。触手の吸盤が皮膚に密着すると身動き出来なくなる。 「ぐっ!」 (油断しちゃったわ…) すると彼女の前面に位置する板壁が破壊されるとワーム型の口先が出現したのである。 「きゃっ!」 (ダークオクタルスの口先かしら…) ズルズルと口先に引き摺り込まれる。 (今度こそ私はダークオクタルスの餌食だわ…) 今度こそ最期を覚悟するが…。入手したドクロマークのビヤ樽を直視すると爆薬でダークオクタルスを仕留められるのではと思考する。 (爆薬をダークオクタルスの口先に…) 「一か八か!」 ダークオクタルスに捕食される寸前…。アクアヴィーナスは一か八か力一杯入手したドクロマークのビヤ樽を投擲したのである。投擲したドクロマークのビヤ樽は口先の歯牙に接触すると数秒後…。爆散したのである。ドクロマークのビヤ樽に接触したダークオクタルスは大ダメージにより口先から大量の鮮血と肉片が格納庫全域に染色する。ダークオクタルスは苦悶により触手で拘束したアクアヴィーナスを船内の板壁に吹っ飛ばしたのである。 「ぎゃっ!」 アクアヴィーナスはグッタリと横たわる。するとダークオクタルスは即座に逃亡したのである。 「ダークオクタルスが…」 アクアヴィーナスは全身の脱力感により膠着する。すると直後…。背後より人気を感じる。 「ん!?誰かしら?」 恐る恐る背後を警戒するなり…。 「アクアヴィーナス…」 「ひっ!ウェンディーネと…スキュラン様!?」 人気の正体とは悪友のウェンディーネと国長のスキュランだったのである。 「アクアヴィーナス…如何やら無事だったみたいね♪」 スキュランは笑顔で発言する。 「魔法も使用出来ないあんたが魔獣のダークオクタルスを撃退しちゃうなんて…普通の人魚なら不可能ね…」 スキュランはアクアヴィーナスに感心したのである。 「ダークオクタルスには逃げられちゃったけどね♪」 アクアヴィーナスは微笑む。すると無口であったウェンディーネがアクアヴィーナスを睥睨するなり…。 「アクアヴィーナス…あんたは…」 「ウェンディーネ?」 ウェンディーネは恐る恐るアクアヴィーナスに近寄った直後である。アクアヴィーナスの頭部にゴツンと拳骨…。 「ぎゃっ!」 ウェンディーネの拳骨にスキュランも沈黙したのである。 (ウェンディーネ…) アクアヴィーナスの頭頂部にたん瘤がプックラと形作られる。 「アクアヴィーナス!罰則として三日間のスイーツタイムは禁止だからね!」 「スイーツタイムの禁止って如何してよ!?三日間も…」 「如何してって?あんたが誰にも相談せず勝手に行動したからよ!あんたの一人の行動によって国全体が大騒ぎだったのよ!」 本来なら死罪であるが穏便のスキュランにより罰則は三日間のスイーツタイムの禁止のみだったのである。スキュランが笑顔で…。 「本来ならアクアヴィーナスの行動は重罪だけれどね♪今回は結果的にダークオクタルスを撃退しちゃったみたいだし…アクアユートピアは勿論♪深海底に平和が戻ったからね♪三日間のスイーツタイムは我慢しなさい♪」 「スキュラン様…御免なさい…ウェンディーネも…」 アクアヴィーナスはスキュランとウェンディーネに謝罪する。 「今回の大騒ぎでダークオクタルスもアクアユートピアへは金輪際近寄らないでしょうね♪」 するとスキュランは海星型のヘアアクセサリーをアクアヴィーナスに手渡したのである。 「あんたのヘアアクセサリーよ♪アクアヴィーナス♪」 「私のヘアアクセサリーだわ!?如何してスキュラン様が?」 「国境で警備員があんたのヘアアクセサリーを回収したのよ♪感謝するなら彼女達に感謝するのね…」 ヘアアクセサリーを手渡されたアクアヴィーナスは即座にヘアアクセサリーを装飾する。 「アクアヴィーナス♪ウェンディーネ♪アクアユートピアに戻りましょう♪」 彼女達はアクアユートピアへと戻ったのである。移動中…。ウェンディーネが恐る恐るアクアヴィーナスに問い掛ける。 「アクアヴィーナス?」 「何よ?ウェンディーネ…」 アクアヴィーナスは赤面するなり…。 「御免ね…アクアヴィーナス…」 ウェンディーネの突然の謝罪にアクアヴィーナスは動揺したのである。 「突然如何しちゃったの!?ウェンディーネ?」 「私自身…今迄過保護過ぎちゃったのかも知れないわ…あんたを不必要に束縛しなければ今回みたいな大騒ぎには発展しなかったでしょうし…あんたを理解出来れば今回の大騒ぎは回避出来たのかなって…」 (ウェンディーネ…) ウェンディーネの発言にアクアヴィーナスは笑顔で返答する。 「ウェンディーネ♪気にしないで♪私なら大丈夫だから♪」 するとスキュランが笑顔で…。 「私が魔法を扱えなければアクアヴィーナスみたいな行動は出来ないわね♪あんたの行動力は超一流よ♪行動力だけなら私を上回るわね♪」 「スキュラン様♪」 スキュランに絶賛されたアクアヴィーナスは大喜びする。 「アクアヴィーナス?」 「ん?何かしら?ウェンディーネ?」 ウェンディーネの表情が赤面するなり…。 「あんたは今後も冒険したいのよね?」 ウェンディーネの問い掛けにアクアヴィーナスは断言する。 「勿論よ♪許可されたら即刻活動するわよ♪」 即答するアクアヴィーナスにウェンディーネとスキュランは苦笑いしたのである。 「アクアヴィーナスらしいわね…今度国外で活動するなら私も一緒に同行しちゃうわね…」 「ひょっとしてウェンディーネも冒険したいの♪」 アクアヴィーナスは大喜びするがウェンディーネはピリピリするなり…。 「あんたが心配なだけよ!人騒がせなあんたを一人で活動させれば国全体が大騒ぎに発展するからね!私はあんたの監視役だから!勘違いしないでよね…」 ウェンディーネの発言にスキュランは笑顔で賛同する。 「私もウェンディーネと同意見よ♪正直アクアヴィーナスには監視役が必要不可欠ね…」 「スキュラン様も…」 「単独で行動させないからね♪お子ちゃまアクアヴィーナスちゃん♪」 ウェンディーネはアクアヴィーナスを揶揄したのである。 「誰がお子ちゃまですって!」 揶揄するウェンディーネにアクアヴィーナスは反応する。 「あんたが人一倍お子ちゃまなのは事実でしょう♪お子ちゃまアクアヴィーナスちゃん♪」 「ウェンディーネ!」 アクアヴィーナスはプンプンする。 「今回のアクアヴィーナスの四苦八苦でダークオクタルスの大騒ぎも無事に終息したみたいだから♪国外での活動は許可するわよ♪アクアヴィーナス♪」 「全世界を冒険出来るの!?」 「全世界を冒険したければ冒険しなさい♪監視役と一緒に行動するのが必須条件だけれどね…」 無事に国外での活動を許可されたアクアヴィーナスであるが…。今後国外で活動する場合はウェンディーネとの同行が必須条件だったのである。 「約束だからね…アクアヴィーナス…私に無許可で単独活動したら今度こそ一年間スイーツタイムは厳禁よ!」 アクアヴィーナスは笑顔で即答する。 「勿論よ♪約束するわね♪」 人騒がせなアクアヴィーナスであったが…。結果的に彼女の予想外のドタバタによってアクアユートピアに平和が戻ったのである。
第二話
秘密基地
ダークオクタルスによる魔獣事件から二週間後の真昼…。ウェンディーネは久方振りに海面上へと浮上したのである。暇潰しに晴天の天空をボーっと眺望する。 「晴天の天気ね…」 天空を飛行する白鳥を眺望するなり…。 (私も白鳥みたいに広大無辺の天空を自由自在に飛翔出来れば…) するとハッとしたのか正気に戻ったのである。 (私は一体何を思考しちゃったのかしら?天空を飛行したいなんて夢物語を想像しちゃうなんて…) 「アクアヴィーナスみたいだわ…」 アクアヴィーナスに類似すると感じると自分自身が気恥ずかしくなる。 (アクアユートピアに戻りましょう…) アクアユートピアに戻ろうかと思いきや…。 「ん?何かしら?」 ウェンディーネが浮上する海面上の海域から数千メートルの長距離に正体不明の船影らしき物体を発見したのである。 「船影みたいだわ…人間かしら?」 遠方の船影を凝視し続けると船影の正体はドクロマークの小型帆船であると認識する。 「ドクロマークだわ…」 (ひょっとして海賊船?) 同時刻…。小型帆船の船内では見張り役の乗組員が双眼鏡で海面上のウェンディーネを発見する。 「ひょっとして人魚なのか!?」 「ん?人魚だって?」 見張り役の人魚発言の一言に周囲の乗組員達が反応したのである。 「西側の数千メートルの長距離に金髪の人魚を発見しました…」 「本当に人魚だったのか?」 「大魚の尾鰭を確認したので恐らくは人魚かと…」 別の乗組員が双眼鏡で海面上のウェンディーネを確認する。 「彼奴は人魚の小娘だぜ…如何やら本物みたいだな…」 「ですが人魚が実在するなんて…」 「即刻船長に報告しろ…人魚の小娘が出現したと…」 見張り役は即座に船長室へと移動したのである。恐る恐るドアをノックするなり船長室へと入室する。 「失礼します…船長…」 「ん?一体何事かな?」 船長は大柄の大男であり左手の義手は金無垢のフックである。 「本船の近辺より一匹の人魚の小娘を発見しました…如何しますか?」 「人魚の小娘だと?」 (人魚の小娘を発見したからって…報告しやがって…) 見張り役の報告に一瞬苛立ったものの…。 (人魚の小娘を捕獲すると大金を確保出来るかも知れないな♪) 人魚の捕獲によって大金を獲得出来ると思考する。 (人魚の小娘を【プランケン】博士に密売すれば…) プランケンとは天才科学者であり天才的頭脳によって多種多様の新型兵器は勿論…。最新式の生活必需品を開発した世界一の天才科学者である。表向きは世界各国に貢献する天才科学者であるが…。裏社会では社会的に役立たないと判断した人間達を人体実験に利用するマッドサイエンティストとして暗躍する。 (小娘でも…人魚なんて滅多に遭遇出来ないからな♪人魚の小娘をプランケン博士に密売しちまえば大喜びで大金を支払うだろうよ♪) 船長は薄笑いするなり…。 「即刻人魚の小娘を捕獲しろ!間違っても死なせるなよ…」 「承知しましたぜ♪」
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桜花姫※妖怪奇譚 ( No.55 ) |
- 日時: 2021/08/29 19:39
- 名前: 月影桜花姫
- 第一話
闇夜
太古の大昔…。極東の島国『天球神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。天球神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。 「荒神山か…」 荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟同然であり人間は誰一人として荒神山へは近寄れない。 「何やら無数の妖気が感じられる…」 (如何やら今回の相手も大群だな…) 僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。 「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」 周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。 「荒神山の頂上だな…」 天辺からは南国の村里が眺望出来る。 「絶妙の景色だ…」 (即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…) 直後である。 「ん!?」 (気配だ…) 突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。 (此奴は妖気か?) 「如何やら大群みたいだな…」 姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。 (人影みたいだな…) 体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。 「人間では無さそうだな…」 周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。 (此奴は…) 人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。 「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」 人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。 「食人餓鬼が出現するとは…」 (相手が食人餓鬼程度なら…) 三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。 「妖怪よ…成仏せよ…」 焼死した食人餓鬼に合掌する。 「安心は出来ないな…」 今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。 「大群だな…」 無数の食人餓鬼はふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。 「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」 総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。 「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」 再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。 「今度の相手は…」 (食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…) 恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。肉塊の怪物は巨体の人型であるが…。全身の体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。 「此奴は食人餓鬼の親玉…【百鬼食人餓鬼】か…」 百鬼食人餓鬼は通常の食人餓鬼の集合体であり食人餓鬼の親玉である。 (厄介なのが出現したな…) 体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。 「熱風!?」 三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。 (絶大なる妖力だな…) 熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。 (予想以上に強力だな…) 「一か八か…」 直後…。黒雲が天空を覆い包む。 「死滅せよ!」 黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。 「はぁ…はぁ…」 先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。 「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」 (戻ろうか…) 一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。 「なっ!?」 (複数の妖気か!?) すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。 「百鬼食人餓鬼か…」 (三体も出現するなんて…) 最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。 (不本意だが…撤退しなければ…) 撤退する直前…。 「えっ…」 今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。 「今度は別の妖気だ…」 (百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?) 不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。 (遭遇すれば…私は確実に殺される…) 「即刻退散しなければ…」 退散する寸前…。 「えっ…」 三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。 (女性?) 女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。 (彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…) 女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。 「氷結の妖術…発動!」 女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。 「所詮は雑魚ね…」 すると女性は三蔵郎を凝視し始める。 「なっ!?」 三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。 「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」 女性は笑顔で名前を名乗る。 「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」 桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。 「貴女様は妖怪でしたか…」 桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。 (姿形のみなら人間の小町娘ですが…) 三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。 (彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…) 可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。 「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」 「えっ…」 (人間を…殺さないって!?) 本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。 (摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?) 桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。 (一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?) すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。 「あんた…不思議そうな表情ね♪」 「えっ!?」 桜花姫は説明する。 「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」 「特殊ですと?」 「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」 桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。 「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」 (彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…) 三蔵郎は再度桜花姫に質問する。 「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」 桜花姫は笑顔で即答したのである。 「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」 (気紛れだったか…) 理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。 「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」 桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。 「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行し続けても不可能でしょう…」 「私が大妖怪なんてあんたは大袈裟ね♪」 (私が大妖怪ですって♪) 桜花姫は内心大喜びする。 「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」 すると桜花姫は恐る恐る…。 「あんたの名前は?」 「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」 自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。 「私も西国に戻ろうかしら…」 桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。 「露天風呂で入浴しましょう♪」 田舎村の西国であるが…。天球神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。 「露天風呂だ♪」 天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。 (折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪) 桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。 「変化の妖術…発動!」 変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。 「入浴するわよ♪」 巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。 「極楽♪極楽♪」 彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。 (妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?) 直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。 「えっ?」 (気配だわ…) 何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。 (妖気かしら?) 「如何やら妖怪みたいね…」 気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。 「誰かと思いきや…」 露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。 「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」 「桜花姫…入浴中だったのね…」 彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。 「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」 「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」 粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。 「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」 「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」 桜花姫は笑顔で謝罪する。 「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは相当の物好きね♪」 揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。 「あんた…私に殺されたいみたいね…」 「私に用事かしら?」 桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。 「大変なの…桜花姫…」 「何が大変なのよ?」 雪女郎に恐る恐る問い掛ける。 「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」 「問題だったかしら?」 「大問題よ!」 桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。 「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」 噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。 「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」 雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。 「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」 桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。 (桜花姫…) 「あんたは本当に気楽ね…」 桜花姫の様子に呆れ果てる。 「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」 以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。 「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」 「桜花姫…」 断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。 「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」 雪女郎は自宅へと戻ったのである。 「面白くなったわね♪」 内心大喜びする。
第二話
大海戦
南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。 「東国だわ…」 東国とは天球神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も天球神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。 「非常に美味だわ♪」 彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。 「えっ?」 (誰かしら?僧侶っぽいわね…) 隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。 (彼には見覚えが…) 「誰だったっけ?」 僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。 「ひょっとして三蔵郎様?」 すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。 「桜花姫様?如何してこんな場所に?」 三蔵郎は小声で問い掛ける。 「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」 三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。 「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」 警戒する三蔵郎に問い掛ける。 「あんた…私を信用出来ないの?」 「信用するも何も…失礼ですが貴女様は魑魅魍魎の集合体です…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」 実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。 「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」 桜花姫は笑顔で即答する。 「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」 「えっ!?毛嫌いですと!?」 三蔵郎は驚愕したのである。 「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」 「一匹狼って…」 (同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?) 平気そうな彼女に不思議がる。 (月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…) すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。 (彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?) 桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。 「ん!?」 (別の妖気か!?) 突如として妖気を察知…。三蔵郎は警戒する。 「えっ?」 桜花姫も妖気に反応したのである。 「三蔵郎様も察知したみたいね…」 「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」 突如として南国の海域より妖気を察知する。 「南国に妖怪が出現したのね♪」 「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」 妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。 「面白そうね♪私の出番かしら♪」 「私は即刻妖怪を退治しなくては…」 三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。 「えっ!?三蔵郎様!?」 桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。 「はぁ…はぁ…」 (三蔵郎様を見失っちゃったわ…) 桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。 「仕方ないわね…」 (妖術を使用しちゃいましょう♪) 桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。 「三蔵郎様♪」 「うわっ!桜花姫様!?」 突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。 「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」 「勿論よ♪」 すると桜花姫は笑顔で…。 「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」 「仕方ないですね…」 三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。 「到着したわね♪」 「ですが妖怪は?」 海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。 「如何されましたか?」 「法師様ですか…」 「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」 「妖怪ですと?」 「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」 数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。 「一瞬妖怪に殺されるかと…」 「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」 すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。 「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」 「海難入道ですか?」 海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達の霊魂が妖怪化した化身…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。海難入道と遭遇した人間は溺死するのが通例である。 「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」 三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。 「海難入道は私が仕留めるわ♪」 「えっ…桜花姫様?」 桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。 「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」 「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…」 漁師達は呆れ果てる。 「私が人間ですって♪」 桜花姫は笑顔で…。 「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」 「あんたが妖怪だって?」 「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」 自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。 「仕方ないわね…」 桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。 「桜餅に変化しなさい♪」 変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。 「なっ!?俺達の漁船が…」 「桜餅に!?如何してこんな…」 変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。 「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」 漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。 「あんたは…本当に妖怪なのか?」 「勿論♪私は正真正銘妖怪なのよ♪」 問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は身震いした様子で恐る恐る後退りしたのである。 「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」 「殺されちまう!逃げろ!」 周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。 「逃げちゃったわ…」 「当然の反応でしょうね…」 現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。 「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」 再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。 「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」 三蔵郎は驚愕する。 「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」 桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。 「海難入道は?」 海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき物体は何一つとして確認出来ない。 (こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…) すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。 「妖気!?」 (ひょっとして海難入道の妖気かしら?) 接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。数秒後…。暗闇の遠方より白鯨らしき巨大移動物体が接近する。 「何かしら?」 巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主であり全体的に真蛸らしき物体だったのである。 (巨大真蛸…) 「海難入道だわ…」 海中の巨大移動物体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は大島に匹敵する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。 「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様はあらゆる妖怪の集合体…月影桜花姫だな…人魚に変化したのか?」 海難入道は人語で発言したのである。 「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るからね♪」 桜花姫は笑顔で返答する。 「今現在の俺は空腹だ…邪魔するなら貴様も食い殺すぞ…」 海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり自身が空腹であれば相手が妖怪であっても捕食する。 「空腹ね…私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」 「はっ?」 桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。 「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では俺を仕留められる妖怪は皆無であるぞ…」 海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るが…。海中で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。 「噂話は熟知したぞ…近頃貴様は人間の僧侶に加勢して…同種の妖怪達を征伐したらしいな?」 「人間に加勢したから何よ?私は鬱陶しい邪魔者を仕留めただけなのよね♪」 桜花姫は笑顔で反論したのである。 「貴様…気に入らないな…」 「気に入らないなら如何するのかしら♪」 「死滅しろ…」 海難入道は即座に触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。 「危機一髪だったわね♪」 「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」 「今度は私の出番ね♪」 桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。 「あんたこそ死滅しなさい♪」 両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。 「直撃♪直撃♪」 雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。 「えっ?」 「残念だったな…桜花姫よ…」 桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。 「妖力を吸収するなんて…」 普段は冷静の桜花姫であるが…。海難入道の吸収能力に一瞬動揺する。 (海難入道には妖術が通用しないのかしら…) 「不思議そうな表情だな…桜花姫…俺はあらゆる妖力を吸収出来…妖術を無力化出来るのだ…」 海難入道の最強の特殊能力である吸収能力は自身の肉体に接触した多種多様の妖力を吸収出来…。あらゆる妖術を無力化出来る。基本的に妖力を駆使した攻撃法では海難入道は仕留められない。 「貴様程度の妖術では俺を仕留められない!」 (妖術が通用しないなんて…此奴は意外と厄介だわ…) あらゆる魑魅魍魎の集合体である桜花姫でも…。妖力を吸収する妖怪を仕留めるのは非常に困難である。 (出直そうかな?) 恐る恐る後退りする。後退りする桜花姫に…。 「先程の威勢は如何した?俺に恐怖したか?」 「別に…」 問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。 「貴様は妖力だけなら大妖怪に匹敵するな…是非とも貴様を捕食したい…」 「私を捕食ですって?」 「あらゆる妖怪の集合体である貴様を食い殺せば…俺は大妖怪の領域に到達出来るからな♪」 豪語する海難入道に桜花姫は笑顔で…。 「私を捕食なんて…あんた程度の妖怪に出来るかしら♪」 桜花姫は笑顔で挑発したのである。 「貴様…本当に食い殺されたいらしいな…」 「食い殺せるのであれば私を食い殺しなさいよ♪」 桜花姫は再度挑発する。 「妖怪の小娘風情が…貴様は本当に気に入らない小娘だな…」 すると蛸足の巨大触手で桜花姫を拘束したのである。 「えっ?」 「貴様を食い殺す!」 一口で桜花姫を捕食…。口内で彼女を咀嚼したのである。 「所詮はこんな程度の妖怪だ…」 すると直後…。桜花姫を捕食した影響からか先程よりも妖力が急上昇したのである。 (俺の妖力が増大化したぞ!) 「今日から俺も大妖怪の仲間入りだな♪」 妖力のみなら今現在の海難入道は大妖怪に匹敵…。海難入道は強大化した自身の妖力に大喜びしたのである。すると直後…。 「ん?」 海難入道の全身が白煙に覆い包まれ…。二町規模の巨大さである海難入道の肉体が消滅したのである。すると白煙の内部から海難入道によって食い殺された桜花姫が出現…。彼女は無傷であり平気そうな様子だったのである。 「海難入道を仕留めたし♪」 (陸地に戻りましょう♪) 桜花姫は再度瞬間移動の妖術を駆使…。海岸の砂浜へと戻ったのである。 「なっ!?桜花姫様!?」 三蔵郎と合流する。 「三蔵郎様♪妖怪は無事征伐したわ♪」 「征伐されたみたいですね…一瞬桜花姫様の妖気が消滅したので食い殺されたのかと…」 「一度海難入道に捕食されたけどね♪」 桜花姫は一時的に海難入道に捕食されたものの…。体内から海難入道の肉体と同化したのである。 「反対に私が海難入道を捕食したのよ♪」 「えっ…捕食?」 今現在海難入道は桜花姫の肉体の一部に変化する。 「兎にも角にも…海難入道は仕留めたから南国の海域は大丈夫よ♪」 「ですが事件は無事解決したので安心ですね…」 三蔵郎も一安心したのである。
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桜花姫※リメイク ( No.56 ) |
- 日時: 2021/08/30 08:39
- 名前: 月影桜花姫
- 第一話
闇夜
太古の大昔の出来事である。天地歴三千二百六十二年四月八日…。極東に位置する青海原の島嶼では俗界の理想郷とも呼称される多神教の小規模民国『天球神国』が誕生する。天球神国は原生林の島国地帯であるものの…。国内では武力による戦乱が各地で頻発したのである。弱肉強食の戦乱時代が終焉してより千年後…。共存共栄の安穏時代は非常に安穏であり毎日の日常生活が退屈にも感じられる。天地歴一万二十年三月下旬…。近頃は度重なる神隠しやら無数の亡者達による超常現象が各農村地帯で頻発したのである。同年の五月上旬の真夜中…。赤色の着物姿の女性が一人で南国の荒神山を視察する。彼女の名前は不寝番の【月影桜花姫】である。 「噂話の荒神山かしら?」 桜花姫とは表向きだけなら西国の小町娘であるが…。悪霊退治屋を自称する無所属の不寝番である。彼女は強大なる妖術を駆使しては多種多様の超常現象は勿論…。無数の亡者達による怪異事件を解決させた数多くの快挙により国全体の有名人である。外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。 「目的地の荒神山に到着したわね…」 こんなにも人間的雰囲気の桜花姫であるが…。彼女自身は人間の血族とは無縁の超自然的生命体であり妖女の母親と人間の父親の混血である。両目の瞳孔が半透明の血紅色である理由も純血の妖女である母親の血統が影響する。妖女とは摩訶不思議なる超常現象やら妖術を多用する女性達の総称化である。肉体の天寿には束縛されるものの…。半永久的に不老長寿の肉体を維持出来る。一握りの最上級妖女であれば通常の妖女よりも妖力が桁違いであり長命であると予測される。桜花姫は正真正銘最上級に位置する妖女である。桜花姫は悪霊相手には容赦せず…。基本的に人間には手出ししない不殺生の判官贔屓であり余程の難局に遭遇しなければ人間達には手出ししない。 (村人達は大袈裟なのよね…) 「こんなにも他愛無い超常現象なのに村人達は不必要に戦慄しちゃって…」 彼女自身性格的には温厚篤実であるものの…。肉体的には非常に愚鈍であり人一倍ひ弱である。神出鬼没の不吉なる超常現象に遭遇しても戦慄しないものの…。非常に無鉄砲で無計画であり悪戦苦闘の場面も頻繁である。 「私は平気だけど…荒神山って普通の人間であれば誰でも戦慄しそうな雰囲気だわ…」 桜花姫は娯楽の感覚で暗闇に覆い包まれた荒神山の天辺へと到達する。周囲は非常に物静かであり僅少の風音が山道に響き渡る程度である。 「頂上は意外と物静かね…」 (悪霊が出現するかしら?) 悪霊とは亡者達の怨念が実体化した存在であり生者を敵対視する。戦乱時代以前の古来より悪霊は存在するが…。大勢の人間達が殺し合った戦乱時代から悪霊の出現頻度が増加したのである。神出鬼没であり各地に出現…。村人を襲撃したのである。すると直後…。 「えっ?」 (人気だわ…) 天辺から人気を感じる。天辺の中心地より小柄の人影らしき気配を察知…。 「こんな真夜中に誰かしら?」 彼女は非常に警戒した様子で恐る恐る荒神山頂上の中心地に近寄る。 「一体何者よ?」 頂上の人影とは小柄の体格の僧侶だったのである。 (誰かと思いきや…) 「ひょっとしてあんたは人間の僧侶かしら?」 僧侶は非常に物静かな雰囲気であり無表情であるものの…。 「大変失礼しましたね…私は僧侶の【三蔵郎】ですよ…」 三蔵郎と名乗る僧侶は紳士的に謝罪したのである。 「あんたは人間の僧侶だったのね…一瞬悪霊と勘違いしちゃったわよ…」 「戦慄されたのであれば失礼しちゃいましたね…」 「別に戦慄しないわよ…」 すると三蔵郎は恐る恐る…。 「大変失礼なのですが…ひょっとすると貴女様は花魁の娘さんでしょうか?」 桜花姫は三蔵郎と名乗る僧侶の花魁発言に苛立つなり…。 「なっ!?誰が花魁ですって…勘違いしないでよね!私は小町娘よ!」 桜花姫に怒号された三蔵郎は即座に謝罪する。 「大変失礼しました…ですが貴女様みたいな容姿端麗の娘さんがこんなにも不吉の荒神山で一体何を?」 (私が容姿端麗ですって♪) 三蔵郎の容姿端麗の発言に桜花姫は内心大喜びしたのである。 「あんたは三蔵郎様だったかしら♪私が容姿端麗なんて三蔵郎様は非常に大袈裟ね♪」 彼女は三蔵郎の質問に即答する。 「私は神出鬼没の悪霊退治屋の妖女だからね♪今回は荒神山で頻発する超常現象を追跡中だったのよ♪」 「貴女様は妖女だったのですか…」 近頃南国に聳え立つ荒神山では不吉なる超常現象が合計十四件も発生したのである。荒神山は不吉の名称であるが荒神山の天辺から眺望出来る南国の村里の景色は非常に絶景であり観光地としては勿論…。大勢の旅人達が野営目的に荒神山で野宿したのである。今現在では荒神山は平穏の観光地として有名であるが大昔の戦乱時代…。荒神山は千年以上前の戦乱時代では各戦場で戦死した戦死者達やら飢饉によって餓死した領民達の火葬場として利用されたのである。戦乱時代に成仏出来なかった神出鬼没の亡者達の目撃情報が噂話として南国全域に出回る。天球神国を実行支配する東国武士団に荒神山に出没した悪霊征伐の依頼が殺到したものの東国の武士団は勿論…。各地方の武士団も静観状態であり実質悪霊関連の問題には放置状態だったのである。 「荒神山で発生した超常現象を追跡中だったのですね…」 「近頃は国全体で超常現象が頻発したからね♪」 「近頃は大変物騒ですからね…」 一時期は沈静化した状態であったが…。最近では悪霊による怪異事件が各地で多発化し始める。三蔵郎は地面の無数の石ころに土鍋を設置させる。土鍋に多種多様の野菜類やら鹿肉は勿論…。貴重品である鯨肉で料理する。 「貴女様も如何でしょうか?味見するだけでも…」 炬火によって土鍋の食材を煮付ける。 (味噌汁だわ♪美味しそうね…) 土鍋の味噌汁を凝視し続けると桜花姫も三蔵郎の調理する味噌汁を頬張りたくなる。 「三蔵郎様の夕食かしら?」 桜花姫は無我夢中に土鍋の味噌汁を凝視し続けたのである。 「炭火の鶏肉も如何でしょうか?麦飯も用意しますよ…」 「私にも!?」 一瞬困惑するものの…。 (大変美味そうだからね♪) 「空腹だから私にも食事させてね♪御免あそばせ♪」 食いしん坊の桜花姫は手渡された味噌汁を即座に平らげる。 「一瞬で平らげるなんて…娘さんは相当空腹だったのですね…」 三蔵郎は味噌汁を一瞬で平らげた桜花姫を直視するなり苦笑いする。 「非常に美味だったわ♪」 満足気に炭火の鶏肉を頬張る。 「飲料水は如何でしょうか?」 三蔵郎は恐る恐る瓢箪を桜花姫に手渡したのである。 「ひょっとして梅酒かしら?私は酒類が人一倍大嫌いなのよね…」 桜花姫は酒類が人一倍苦手であり微量でも摂取すると気味悪くなる。 「大丈夫ですよ…緑茶ですから一安心しなされ…」 「緑茶なら一安心だわ♪」 すると三蔵郎は恐る恐る質問したのである。 「大変失礼なのですが…娘さんの名前は何ですか?」 桜花姫は笑顔で即答する。 「私の名前は桜花姫…月影桜花姫よ♪」 「えっ!?月影桜花姫様ですと!?」 三蔵郎は大変驚愕したのである。 「ひょっとして貴女様が多種多様の超常現象を解決させた伝説の最上級妖女…月影桜花姫様でしたか…」 「勿論よ♪」 「ですがこんなにも不吉の荒神山で最上級妖女である月影桜花姫様と対面出来るなんて…大変光栄ですな♪」 「大袈裟ね♪」 すると桜花姫も三蔵郎に問い掛ける。 「三蔵郎様はこんなにも暗闇の荒神山で一体何を?」 三蔵郎は暗闇の夜空を眺望するなり…。 「私にとっての道楽ですかね…」 「道楽ですって?」 「私にとって自然界での食卓こそが醍醐味なのですよ♪春夏秋冬の季節の変化…常日頃から森林浴の音色…川水の風音は精神的にも肉体的にも非常に沈静化されましょう…こんなにも殺伐とした雰囲気の荒神山でも…」 「如何にも聖職者っぽい主義主張だわ…」 (三蔵郎様は典型的に堅苦しい人間みたいね…) 桜花姫は内心三蔵郎の思考を堅苦しく感じる。 「想像力は十人十色多種多様ですからね…」 三蔵郎は無表情で広大無辺の夜空を眺望したのである。 「無数の星月夜が認識出来る森羅万象とは非常に広大無辺ですな…摩訶不思議の森羅万象には圧倒されますよ…」 (三蔵郎様…残念だけれども…私には何が何やら全然理解出来ないわ…) 三蔵郎の発言に桜花姫は困惑する。 「広大無辺の森羅万象とは非常に興味深い超常現象ですな…」 (三蔵郎様は一体何を発言したいのかしら?) 桜花姫は三蔵郎の発言に困惑し続けるものの…。彼女は無言で首肯したのである。すると三蔵郎から意味深の発言を拝聴する。 「近頃…私の寺院近隣の墓場から不吉の気配を察知しましてね…」 無表情だった三蔵郎の表情が一瞬険悪化したのである。 「不吉の気配ですって?一体何かしら?」 「近頃…悪運にも大勢の村人達が息絶えたのでしょうね…死去した彼等の怨恨なのでしょうか?」 (大勢の村人達が息絶えた?) 「ひょっとすると悪霊の仕業かも知れないわね…」 (先程から悪霊の気配が…) 桜花姫は不吉の霊力を感じる。 「非常に戦慄だわ…」 「桜花姫様?悪霊の追跡は如何されるのですか?」 「勿論継続するわよ!神出鬼没の悪霊と遭遇したとしても最上級の妖女である私が問答無用で征伐しちゃうからね♪」 「最上級妖女である桜花姫様が悪霊を征伐されるのであれば一安心ですな…」 桜花姫は荒神山の天辺で三蔵郎と対談し続けても無意味であると判断するなり…。 「三蔵郎様…御免あそばせ♪」 「如何されましたか?桜花姫様…」 「私は常日頃から悪霊征伐で大忙しだからね…即刻今回の超常現象の主要因を追跡しないと…」 「私は是非とも桜花姫様の上首尾を見届けましょう…」 桜花姫は即座に超常現象を追跡したのである。桜花姫の周辺は自然林であるものの…。 「悪霊の魔窟みたいだわ…」 普段は観光地として有名であるが真夜中の荒神山は闇夜の魔窟であり極度の不吉さと殺伐さを感じさせる。すると背後より無数の気配が接近するのを察知…。恐る恐る背後を確認する。 「突然胸騒ぎが…」 桜花姫は極度の胸騒ぎを感じるなり背後からの襲撃に警戒したのである。 「一体何事かしら?」 恐る恐る背後からの襲撃を警戒するものの…。 「人間の気配は感じられないわね…」 周辺の自然林は暗闇であり背後には何も確認出来ない。 「ひょっとして私の勘違いだったのかしら?」 桜花姫の誤認識かと思いきや…。 「えっ!?」 何やら背後の地面より無数の殺気を感じる。 「何かしら…」 (地面からだわ…) 背後の地面より小柄の人影が無数に出現したのである。 「此奴は悪霊!?」 無数の人影は真夜中の暗闇によって姿形の認識が非常に困難であるものの…。極度の腐敗と悪臭により悪霊であると再認識する。全身が血塗れの状態であり皮膚の腐敗が原因なのか両目からは眼球と下腹からは体内の臓物が噴出した醜悪なる姿形…。全体的に皮膚と人骨のみの肉体であり非常にどす黒い醜悪なる風貌である。 「死滅した人間達の末路だわ…」 体格的には女性よりも一回り小柄であり初生児の体格であるものの…。姿形による老若男女の区別は出来ない。身動きは非常に鈍足であり発語も支離滅裂である。 (悪臭から判断して…) 「悪霊の【食人餓鬼】かしら…」 食人餓鬼とは大昔の戦乱時代…。再起不能の疫病やら飢饉による衰弱死から悪霊へと変貌した醜悪なる亡者達の総称化である。埋葬されなかった悪影響により未来永劫成仏出来ないらしく今現在も俗界にて半永久的に徘徊し続ける。彼等は非常に強欲であり極度の空腹からか生者と遭遇すると即刻敵対視…。新鮮なる人間の血肉を無我夢中に捕食する。新鮮なる人間の血肉こそ食人餓鬼にとっての嗜好品であり捕食こそが彼等の共通性である。南国の地方では別名として疫病神とも呼称される。 「即刻面白くなったわね♪」 食人餓鬼の大群は人海戦術により無抵抗の桜花姫へと殺到する。 「私に大勢で真剣勝負なんて軽佻浮薄だわ♪」 普通の人間であれば極度に戦慄する場面であるものの…。桜花姫は無数の悪霊との遭遇を娯楽的に感じられる。 「悪霊は悪霊でも雑魚が相手なら楽勝ね♪」 桜花姫は咄嗟に妖術を発動…。血紅色であった両目の瞳孔が半透明化した瑠璃色の碧眼へと変化したのである。 「瞳術…」 (『天道眼』…) 天道眼とは自然界を翻弄出来る屈指の瞳術であり多種多様の超常現象を発動出来る。天道眼を開眼した妖女は念力の妖術やら超常現象は勿論…。応用出来れば現存する多種多様の超自然を自由自在に発揮出来る。天道眼から発動される妖術は非常に怪力乱神であり噂話では広大無辺の森羅万象をも翻弄させる超自然的現象を実現化させるとも…。存命中の妖女でさえも天道眼の秘密は不明瞭であり誰一人として明確化出来なかったのである。特定の地方では別名万能眼とも呼称される。 「私も人気者だわ♪」 彼等が桜花姫の近辺へと到達する寸前…。天道眼の発動によって殺到する食人餓鬼の皮膚が超高温の火炎の妖術により焼殺されたのである。 「醜悪なる亡者達…成仏しなさい♪」 食人餓鬼の肉体は高熱の発火現象によって一瞬で黒焦げに焼殺される。 「楽勝だったわ♪」 桜花姫の佇立する地面周辺には黒焦げに焼殺された食人餓鬼の焼死体が無数に埋没したのである。 「悪霊でも微弱の食人餓鬼程度なら火炎の妖術だけでも容易に仕留められちゃうわね♪」 すると彼女の背後から無数の霊力を感じる。 「えっ?今度は何かしら?」 背後の地面より無数の食人餓鬼が出現したのである。 「鬱陶しい奴等ね…」 背後から無数の食人餓鬼が桜花姫に殺到する。 「あんた達は命知らずだわ♪氷結しなさい♪」 桜花姫の妖力によって彼等の肉体が一瞬で凍結化したのである。氷結の妖術により無数の食人餓鬼は身動き出来なくなる。数秒後…。 「あんた達も成仏するのね♪」 (念力の妖術…発動!) 桜花姫は念力の妖術によって凍結化した食人餓鬼の肉体を粉砕させる。凍結化した彼等の肉体は一瞬で崩れ落ちたのである。 「えっ?」 今度は食人餓鬼とは別物の霊力を感じる。 「今度は何かしら…食人餓鬼とは別物みたいだわ…」 すると眼前の地面より戦乱時代の甲冑を装備した人骨が出現する。甲冑の人骨は非常に巨体であり背丈は成人男性を一回り上回る。 (鎧兜の人骨…) 「ひょっとして戦死者達の悪霊…【骸骨荒武者】かしら?」 骸骨荒武者とは戦乱時代に息絶えた戦死者達の無念の集合体であり生者を敵対視する。 「埋葬されなかった戦死者達の亡霊が出現するなんて…」 骸骨荒武者は右手の刀剣で桜花姫に斬撃するものの…。骸骨荒武者の身動きは非常に鈍足であり人一倍身体能力が愚鈍の桜花姫でも容易に回避出来る。 「危機一髪だったわ…」 桜花姫は恐る恐る後退りするなり…。 「戦乱時代の戦死者達…成仏するのね…」 (砂金に変化しなさい!) 砂金の妖術を発動した影響により骸骨荒武者の肉体を砂金に変化させる。砂金に変化した骸骨荒武者の肉体は一瞬で崩れ落ちる。 「他愛無いわね♪」 骸骨荒武者を仕留めた桜花姫は一安心するが…。暗闇の背後より複数の霊力を感じる。 「えっ?霊力かしら?」 警戒した桜花姫は恐る恐る背後を確認する。すると彼女の背後には三体の骸骨荒武者が出現したのである。 「骸骨荒武者だわ…三体も出現するなんて…」 悪霊を仕留めるのは余裕であるが鬱陶しく感じる。 「鬱陶しい奴等ね…」 桜花姫は体内の妖力を収縮…。両手に高熱の火球を形成したのである。 「成仏しなさい♪」 形成した高熱の火球で一体の骸骨荒武者を粉砕する。 「二体とも仕留めましょう♪」 二体の骸骨荒武者を仕留める直前…。背後から何者かによる火縄銃の銃撃で背中を狙撃されたのである。 「ぐっ!」 火縄銃で狙撃された桜花姫は地面に横たわる。背中の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。 (迂闊だったわ…一体誰が…) 暗闇の自然林より火縄銃を武装した一体の骸骨荒武者が出現する。暗闇の自然林より桜花姫の背後から彼女を狙撃したのである。骸骨荒武者は鈍足で横たわった桜花姫に近寄る。 (私を如何するのかしら?) 二体の骸骨荒武者も横たわった桜花姫に近寄るなり刀剣を抜刀する。 (殺されちゃうわね…兎にも角にも一か八か…) 桜花姫は分身の妖術を発動…。血塗れの肉体が白煙により消滅する。突然消滅した桜花姫に動揺したのか三体の骸骨荒武者は周囲を警戒したのである。暗闇の自然林から桜花姫の本体が出現…。 「残念だったわね♪あんた達が攻撃したのは私の分身体よ♪」 桜花姫は両手より高熱の雷撃の妖術を発動したのである。雷撃の妖術によって三体の骸骨荒武者は撃破される。すると荒神山の無数の悪霊を全滅させた影響からか突如として荒神山から感じられた重苦しい霊力が感じられなくなる。 「如何やら荒神山に蔓延る骸骨荒武者と食人餓鬼は全滅したみたいね…」 一安心した桜花姫は恐る恐る荒神山から脱出したのである。 「荒神山の超常現象は無事解決だわ♪」 とある獣道にて小柄の老婆と小柄の美少女に遭遇する。 「こんな真夜中の夜道に何者かしら?」 彼女達は非常に小柄の体格である。 「あんた達は薬屋の【蛇骨鬼】婆ちゃんと孫娘の【小猫姫】かしら!?」 「桜花姫姉ちゃん!?」 小猫姫は純血の山猫の妖女であり外見的には人間の美少女とも間違えられる。蛇骨鬼の愛娘であり桜花姫にとっては妹分である。小猫姫は桜花姫との遭遇に大喜びする。 「蛇骨鬼婆ちゃん♪桜花姫姉ちゃんだよ♪」 「こんな真夜中の夜道に誰かと思いきや…あんたは最上級妖女の月影桜花姫ちゃんだね?久方振りだね…桜花姫ちゃん♪」 「あんた達こそ♪」 久方振りの蛇骨鬼と小猫姫との再会に桜花姫は大喜びしたのである。 「こんなにも暗闇の荒神山で桜花姫ちゃんと出くわしちゃうなんて非常に奇遇だね…」 蛇骨鬼は神族と命名される人外種族の一員であり異名は蛇神と呼称される。外見のみなら小柄の人間の老婆であり村里の村人達からは人間の老婆とも間違えられる。神族とは太古の大昔より世界各地に君臨した人外の少数民族である。神族は多種多様の姿形に変化が可能であり蛇骨鬼は基本的に小柄の老婆の姿形で活動する。古代の世界では大勢の神族が世界各地で活動中であったが…。今現在では絶滅状態であり蛇神の蛇骨鬼を除外する神族は皆無である。唯一純血の神族として断定出来るのは天球神国出身者の蛇骨鬼…。実質彼女のみである。蛇骨鬼の同行者である小猫姫は蛇骨鬼にとって孫娘であり唯一の家族であるが…。小猫姫は正真正銘の純血の妖女であり神族とは無縁の孤児である。 「あんた達はこんなにも暗闇で物騒なのに大丈夫なのかしら?」 「私は大丈夫だよ♪真夜中の夜道は面白いもん♪」 小猫姫は真夜中でも平気なのか笑顔で断言する。 「桜花姫ちゃん…あんたみたいな人一倍容姿端麗の小娘が真夜中の夜道を単独で出歩くなんて…」 「こんな私が容姿端麗なんて♪蛇骨鬼婆ちゃんは大袈裟ね♪」 (私が容姿端麗ですって♪) 蛇骨鬼に大袈裟と発言するが内心では大喜びしたのである。 「私は毎日が任務で大忙しだからね…」 「桜花姫姉ちゃんの任務って?」 小猫姫は不思議そうな表情で問い掛ける。 「私の任務はね…夜遊びよ♪」 桜花姫は笑顔で夜遊びと返答したのである。 「夜遊びって面白いのかな?」 (桜花姫ちゃんは…) 夜遊びと発言する桜花姫に蛇骨鬼は苦笑いする。 「悪霊征伐かね?こんなにも不吉の真夜中にあんたも勇猛果敢だね…」 「別に…私自身悪霊征伐は面白いから大丈夫なのよ♪内心私にとって悪霊征伐なんて常日頃の道楽だからね♪」 桜花姫は笑顔で即答したのである。 「あんたが悪霊征伐の悪影響で過労死しちゃったら大変だからね…私の傷薬でも必要不可欠かな?」 「残念だったわね♪私には凡庸の傷薬なんて不必要なのよ…何よりも私にとっての傷薬は私自身の妖力だから♪私の妖力は万能薬なのよ♪」 桜花姫は自身の妖力の強大さを自慢する。 「蛇骨鬼婆ちゃんこそ常日頃の薬品の研究なんかで過労死しないでよ♪」 「私は過労死しないよ…最上級妖女の桜花姫ちゃんには私の傷薬は不必要みたいだね…」 (桜花姫ちゃんには不必要だったか…) 蛇骨鬼は内心残念がる。 「達者でね♪桜花姫姉ちゃん♪」 「あんた達こそ達者でね♪」 すると蛇骨鬼と小猫姫は荒神山より退去する。 「私も即刻西国に戻ろうかしら…」 桜花姫は祖国である西国の家屋敷へと無事に戻ったのである。
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桜花姫※リメイク ( No.57 ) |
- 日時: 2021/08/30 08:41
- 名前: 月影桜花姫
- 第二話
天神山
西国の領内には天神山と命名される小山が存在する。荒神山での亡者達との戦闘から三日後の真夜中…。小山である天神山から複数の霊力を感じる。 「霊力だわ…一体何かしら?」 (場所は…天神山ね…) 天神山は太古の大昔に天空の女神が降臨した伝説から天神山と命名される。十数年前は天神山に七軒の集落家屋が建築され村人達が住居したものの…。今現在では廃屋のみが残存した状態であり住居者達の行方は不明であり今現在でも家族の消息は確認出来ない現状である。悪霊に食い殺されたのではと噂話が西国全域に出回る。気になった桜花姫は即座に天神山へと直行する。桜花姫の自宅から天神山への距離は三町程度であり比較的近辺だったのである。数分後…。天神山に到達する。 (胸騒ぎだわ…) 天神山に近寄ると極度の胸騒ぎを感じる。桜花姫は警戒するも天神山の天辺へと移動する。山道を移動中…。周辺の天然林より蛍光色の無数の鬼火が飛来する。 「鬼火だわ…」 無数の鬼火は天神山の天辺に移動したのである。 (天神山の天辺に無数の鬼火…気になるわね…) 数分間が経過すると桜花姫は天神山の天辺に到達したのである。天辺には廃神社と鳥居が確認出来る。 「廃神社だわ…」 桜花姫は恐る恐る鳥居を潜り抜ける。 「不吉の霊力を感じるわね…」 鳥居を潜り抜けると不吉の霊力を感じる。 (一体何が出現するかしら?) 恐る恐る周辺を警戒するのだが…。彼女の周囲は蛍光色の鬼火ばかりで悪霊らしき物体は何一つ確認出来ない。 「霊力は感じられるけれど…」 直後…。 「えっ?」 (何かしら?) 背後より極度の悪寒戦慄が桜花姫の全身を膠着させる。桜花姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。 「霊力の正体はあんただったのね…」 桜花姫の背後に出現したのは空中を浮遊する女性の頭部らしき巨体の生首であり全頭高は推定五尺程度である。 「悪霊の【大生首】だったかしら…」 大生首とは肉体が頭首のみの悪霊であり戦乱時代の最中匪賊達に犯され…。最終的に斬首された女性と子供達の無念の集合体である。大生首は色白の女性の生首であるが…。本体は規格外に巨大であり不吉の大目玉が桜花姫を直視すると不吉の笑顔で微笑む。 「気味悪いわね…」 すると今度は赤子らしき産声が天神山の頂上全域に響き渡る。 「今度は子供の産声かしら?」 暗闇の天然林より浮遊する赤子らしき巨大生首が三体も出現したのである。 「今度は子供の大生首かしら?」 桜花姫は合計四体の大生首に包囲される。 (天神山の集落で村人達が行方不明なのは大生首の仕業っぽいわね…) 天神山の行方不明事件は大生首の仕業であると予想する。すると四体の大生首は口先を開口すると周囲の鬼火を吸収したのである。 (鬼火を吸収したわ…) 四体の大生首が周辺の鬼火を吸収すると先程よりも霊力が強大化する。 「先程よりも霊力が増幅されたみたいね…」 桜花姫は両目を瞑目するなり体内の妖力を増大化…。 (天道眼…発動!) 瞳術の天道眼を発動させる。 「天道眼さえ発動しちゃえば数多の妖術を使用出来るのよね♪」 天道眼は伝説の瞳術であり天道眼を開眼した妖女は数多の妖術を発動出来る。 「鬱陶しいから成仏しなさい♪」 桜花姫は火炎の妖術を発動…。両手から火球を発射したのである。発射された火球は真正面に対峙する女性の大生首に直撃…。爆散したのである。無数の血肉が地面に散乱する。 「楽勝だわ♪他愛無いわね…」 女性の大生首を仕留めたかと思いきや…。 「えっ?」 大生首の血肉から猛毒の黒煙が発生する。 「なっ!?」 (ひょっとして瘴気かしら?) 大生首の血肉から発生した猛毒の瘴気は地面を溶解させたのである。 (大生首は仕留められた直後に霊能力を発動するのね…) 「多少の瘴気なら大丈夫だけれど…」 桜花姫は妖女と人間の混血であり多少の瘴気であれば平気であるものの…。肉体的には脆弱であり純血の妖女を下回る。 (私自身は勿論…西国全体が瘴気で汚染されるわね…) 地面の草木が猛毒の瘴気で枯死する。すると桜花姫も息苦しくなる。 「ぐっ!」 最早毒死するのは時間の問題である。 (瘴気に対抗するなら…) 桜花姫は一か八か浄化の妖術を発動する。 「浄化の妖術…発動!」 浄化の涼風を生成するなり大生首の血肉から発生した猛毒の瘴気を浄化したのである。同時に浄化の涼風に感触した三体の赤子の大生首が笑顔で消滅…。成仏したのである。 「彼等は成仏したみたいね♪一件落着だわ♪」 桜花姫は一安心する。すると先程火炎の妖術で粉砕された女性の大生首は土壌へと戻ったのである。猛毒の瘴気で汚染された地面の草木が元通りに生成される。 「自然も元通りに戻ったわ♪」 天神山に蔓延る不吉の霊力も消滅する。 「無事に事件も解決出来たし…戻りましょう♪」 無事に事件を解決した桜花姫は自宅へと戻ったのである。
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桜花姫※リメイク ( No.58 ) |
- 日時: 2021/08/30 08:42
- 名前: 月影桜花姫
- 第三話
死闘
天神山での重苦しい闇夜から三日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。東国とは天球神国でも比較的老熟した全国一の城下町…。総人口も天球神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな餡蜜と桜餅を頬張る。 「非常に美味だわ♪」 彼女は無我夢中に和菓子を頬張り続けるものの…。 「えっ?」 (誰かしら?僧侶っぽいわね…) 隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。 (彼には見覚えが…) 「誰だったっけ?」 僧侶らしき人物とは三日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。 「ひょっとして三蔵郎様?」 桜花姫は恐る恐る…。 「ん?」 三蔵郎は桜花姫の存在に気付いたのである。 「誰かと思いきや…貴女様は最上級妖女の月影桜花姫様でしたか!?南国の荒神山から無事に戻られたのですね♪」 「本当に三蔵郎様だったのね♪」 「ですがこんな茶店で桜花姫様と再会出来るなんて非常に奇遇ですな♪」 三蔵郎は桜花姫と再会するなり大喜びする。 「如何して三蔵郎様は和菓子屋に?」 「茶店で満喫するのは私にとって道楽ですからね♪」 「奇遇だわ…勿論私もね♪」 桜花姫は無我夢中に和菓子を頬張ったのである。 「ひょっとして桜花姫様も和菓子が大好きなのですか?」 桜花姫は即答する。 「勿論よ♪三蔵郎様も?」 三蔵郎も笑顔で返答したのである。 「勿論私も和菓子は大好きですよ♪和菓子屋は私にとって醍醐味ですからね♪」 すると三蔵郎は突発的に顔色を変化させる。 「桜花姫様?」 「何よ?三蔵郎様?」 「桜花姫様は悪霊退治屋として粉骨砕身されたと各村落の村人達から拝聴しました…近頃の噂話なのですが…」 桜花姫は即座に三蔵郎からの噂話を拝聴する。 「噂話ですって?一体何かしら?」 「近頃…北国では各村落の赤子の神隠しが頻発しましてね…」 近頃北国では幼子の行方不明事件が頻発したのである。村人達は必死に行方不明の子供達を捜索するのだが…。子供達は誰一人として発見出来ない。依然として子供達は誰一人発見されず悪霊による神隠しか匪賊達による人攫いであると予測する。 「神隠しですって?興味深いわね♪」 「村人達の噂話では一昨日の出来事ですかね?神隠しが匪賊達による悪逆無道なのか…神出鬼没の悪霊の仕業なのかは不明瞭とされますが…」 「一昨日の出来事ね…」 (非常に面白そうだわ♪私の出番が到来したかしら♪) 桜花姫は突発的に闘争心が充溢したのである。 「三蔵郎様!如何やら今回の事件は私の出番みたいね♪」 「ひょっとして桜花姫様…」 桜花姫は笑顔で即答する。 「勿論征伐するわよ!即刻悪霊を仕留めないとね♪」 「ですが桜花姫様…現段階では今回の神隠しの主原因が悪霊の仕業なのか如何なのかは不明瞭ですよ…匪賊達による人攫いかも知れませんし…」 三蔵郎は極度の心配性なのか非常に不安視したのである。 「村人達の噂話では桜花姫様は敵対者が極悪非道だったとしても人間には手出しされないみたいですが…敵対者が極悪非道の匪賊達であれば如何されるのですか?」 桜花姫は極度に不安視する三蔵郎に即答する。 「無論人一倍温厚篤実の私でも…極悪非道の匪賊達であれば即刻仕留めちゃうからね♪相手が人間だからって手加減しないから大丈夫よ♪」 普段は温厚篤実の桜花姫であるが残虐非道の匪賊達には滅法無慈悲である。 「一安心ですね!桜花姫様は極楽浄土の女神様を連想しますからね♪相手が人間の匪賊達であれば困惑されるのではと私自身心配しちゃいましたよ♪」 「私が極楽浄土の女神様ですって♪私が極楽浄土の女神様なんて三蔵郎様も大袈裟ね♪」 極楽浄土の女神様と同一視された桜花姫は内心では大喜びする。 「私に手出し出来る人間がこんな島国の天球神国に実在するのかしら♪最上級妖女の私に手出し出来るのであれば是非とも対面したいわね♪」 莫大なる妖力を保有する最上級妖女の桜花姫にとって多人数による人海戦術は無意味である。桜花姫が単独であったとしても戦力的には全国各地の武士団全勢力に匹敵するのではと各村落の領主達が独自で推測…。村人達には間違っても最上級妖女の桜花姫だけには手出しするなとこっ酷く忠告したのである。 「ですが今回の神隠しの敵対者が極悪非道の匪賊でも油断大敵ですよ!桜花姫様の多用される妖術は天下無双かも知れませんが…油断すれば絶体絶命へと直結するでしょう…」 (三蔵郎様は極度の心配性だわ…) 彼女自身内心では口喧しいと感じるものの三蔵郎に感謝する。 「助言感謝するわね…三蔵郎様…」 桜花姫は即座に北国へと出掛けたのである。 「彼女は電光石火ですね…」 三蔵郎は城下町から疾走する桜花姫を見届ける。一時間後…。桜花姫は東国と北国の国境に位置する田舎村へと到達する。北国の村里は非常に殺風景であり過疎化した麦畑ばかりである。 「北国って随分と殺風景の田舎町なのね…」 不可解にも国境の村里には村人が誰一人として確認出来ない。 「無人地帯だわ…」 適当に麦畑を眺望し続けるなり赤子を抱き抱えた白装束の長髪の女性が村里にて佇立したのである。 「えっ?村里の親子かしら?」 桜花姫は恐る恐る赤子を抱き抱える女性へと近寄るなり…。 「母親は大怪我したのね…」 母親の白装束は血塗れであり皮膚の表面には無数の外傷が確認出来る。 「一体彼女に何が?」 桜花姫は一瞬戦慄するものの…。 「大丈夫かしら?」 恐る恐る女性の安否を確認する。母親は無表情であったものの…。恐る恐る近寄る桜花姫を凝視するなり無言の様子で彼女を睥睨したのである。母親に睥睨された桜花姫は母親に腹立たしくなる。 「何よ?」 (腹立たしいわね…) 桜花姫も母親に睥睨し返したのである。すると数秒後…。母親は無言で一目散に逃走したのである。 「如何して母親は私から逃走しちゃったのかしら?」 桜花姫は即座に逃走中の母親を追跡する。 「彼女って…俗界の人間だったのかしら?」 母親は墓場へと潜入したのである。 「墓場だわ…」 桜花姫は母親を追尾するなり恐る恐る墓場へと潜入する。 「先程の母親は一体何者だったのかしら?」 (彼女からは霊力らしい霊力は感じられなかったけれども…) 赤子を抱き抱える母親らしき人物が俗界の人間なのか如何なのかを疑問視したのである。 「雰囲気と姿形から判断して…」 (ひょっとすると彼女の正体って俗界とは無縁の化身なのかも知れないわね…悪霊なのかしら?) 桜花姫は母親の正体が悪霊であると推測する。すると先程の母親らしき女性と再度遭遇したのである。即刻近寄ろうかと思いきや…。 「えっ!?如何して全裸なのよ!?」 母親は白装束を脱衣した状態であり全裸である。 (恥知らずだわ…) 彼女は赤子を抱き抱えた状態から母乳と赤子の前頭部を密着させる。 「何するのよ!?」 処女の桜花姫にとって非常に不愉快であり一瞬膠着化する。桜花姫は恐る恐る墓石から母親の様子を観察したのである。 (母親は一体何を!?) すると赤子の肉体が液体化するなり赤子の肉体諸共母親の体内へと一瞬で捕食…。 「ひっ!赤子の肉体を吸収するなんて…」 予想外の出来事により桜花姫は愕然とする。 「人間の血肉を吸収出来る特質…」 母親は桜花姫を凝視…。不吉の表情微笑んだのである。 「ひょっとして神隠しの真犯人は悪霊の【亡霊女房】だったのね…」 亡霊女房とは人間の赤子を捕食する母親の悪霊であり姿形のみなら人間の女性である。亡霊女房は戦乱時代に頻発する戦乱やら疫病によって赤子が死去した母親達の無念の集合体…。人間の赤子を体内へと吸収する性行為も赤子への執着と愛情表現である。桜花姫は咄嗟に亡霊女房の近辺へと接近する。 「私が母親達の霊魂であるあんたを成仏させるわ!」 桜花姫は妖力を蓄積させるなり落雷の妖術を発動…。入道雲を天空全域へと凝縮させたのである。 「亡霊女房…覚悟するのね!」 天空全域が入道雲に覆い包まれたかと思いきや…。入道雲から落雷攻撃を発動させる。落雷は亡霊女房の頭頂部へと落下したのである。 「直撃したわね…」 強烈なる落雷攻撃によって桜花姫は一瞬両目を閉眼させる。落雷の破壊力は地面を容易く陥没させたのである。 「瞬殺だったわ♪」 亡霊女房は肉体が非常に脆弱であり無数の血肉やら手足の肉片は勿論…。体内の臓物が地面に散乱する。 「彼女を仕留めたかしら?」 桜花姫は恐る恐る両目を見開くなり亡霊女房を仕留めたか如何なのかを再確認したのである。 「如何やら亡霊女房を仕留めたみたいね♪」 叫喚地獄の場面であるものの…。 「無防備の状態で落雷が直撃しちゃえば誰だって死滅するわよね♪」 桜花姫は今度こそ手応えを感じる。 「亡霊女房を無事征伐したから私は戻りましょうかね…」 桜花姫は一安心したのか西国へと戻ろうかと思いきや…。 「えっ!?」 背後から極度の胸騒ぎを感じる。 (胸騒ぎだわ…) 「何かしら!?」 背後より微弱の霊力を察知したのである。彼女は恐る恐る背後を警戒するなり…。 「此奴…鬱陶しいわね…」 肉体を粉砕された亡霊女房の血肉が融合化したのである。亡霊女房の肉体は数秒間で元通りに復活する。 「粉砕された肉体が一瞬で元通りなんて…亡霊女房は不死身の肉体ね…」 (生命力と治癒力だけなら規格外だわ…) 亡霊女房は桜花姫の愕然とした表情を凝視するなり不吉の表情で微笑む。亡霊女房は口辺から猛毒の溶解液を噴射したのである。 「毒液!?」 桜花姫は咄嗟に妖力で半透明の防壁を形作るなり…。危機一髪溶解液から本体を防備したのである。半透明の防壁周辺の地面は亡霊女房が噴射した猛毒の溶解液によって液状化する。 「如何やら危機一髪ね…」 (妖力の防壁を発動しなかったら大怪我だったわ…) 桜花姫は一安心するものの…。彼女の表情が険悪化したのである。 「私は亡霊女房の霊力を見縊り過ぎたわね…」 体内の妖力を蓄積させるなり念力の妖術を発動…。すると亡霊女房の肉体が肥大化したのである。 「破裂するのね♪」 皮膚の表面からどす黒い大量の血液が流れ出るなり…。超常現象によって体内から肉体を破裂させる。地面には無数の肉片やら血肉が散乱する。 「亡霊女房は再復活するかしら?」 先程発動した念力の妖術は様子見であり亡霊女房の肉体が再生能力によって元通りに復活するのか如何なのかを再確認したかったのである。亡霊女房の肉体は一瞬で破裂したものの…。破裂した無数の肉片が再度融合化するなり亡霊女房の肉体は元通りに戻ったのである。 「本当に再復活したわね…」 (私にもこんな再生能力が…) 桜花姫は内心亡霊女房の再生能力を羨望する。 「亡霊女房の再生能力の攻略法は?」 即座に透視能力を発揮出来る天眼の妖術を発動させる。 (亡霊女房の弱点は何かしら?) 天眼の妖術の透視能力によって亡霊女房の腹部中心部より水晶玉を発見する。 「えっ?亡霊女房の体内から水晶玉だわ…」 (気になるわね…ひょっとして水晶玉は亡霊女房の本体なのかしら?) 桜花姫は念力の妖術を再発動…。体内より亡霊女房の腹部を破裂させる。亡霊女房の腹部が破裂した直後…。亡霊女房の破裂した体内より本体である水晶玉を摘出したのである。 「水晶玉だわ♪」 水晶玉が地面へと落下したかと思いきや…。 「ん?」 水晶玉は蛍光色へと発光したのである。すると周辺の地面に散乱した無数の血肉が水晶玉へと密着するなり…。 「如何やら体内の水晶玉こそが亡霊女房の本体っぽいわね…」 数秒間で亡霊女房の肉体は元通りに復活したのである。 「弱点さえ見破れちゃったら楽勝だわ♪」 亡霊女房の弱点を見破った桜花姫は念力の妖術によって水晶玉を粉砕…。体内の水晶玉が粉砕されると亡霊女房の再生能力が発動しなくなる。 「亡霊女房…完全消滅しなさい…」 即座に火炎の妖術を発動…。 「今度こそ亡霊女房を仕留めたわね…」 粉砕された亡霊女房の肉体諸共体内の水晶玉の破片を焼失させる。 「母親達の霊魂…成仏するのね…」 桜花姫は周辺を恐る恐る警戒するなり西国へと無事戻ったのである。 (彼女は…) 「亡霊女房は予想外に手強かったわね…」 無事に家屋敷へと戻った桜花姫は一息するなり…。寝転んだのである。 「随分派手に妖術を連発しちゃったからかしら…」 妖力を余分に連発した結果…。 「極度に息苦しいのよね…」 体内の妖力を過剰に消耗したのである。 「亡霊女房は私より格下だけれども…」 (最上級妖女である私が格下の悪霊を相手に消耗戦なんてね…) 今回の出来事から自分自身の傲慢さと力不足を痛感したのである。 「今回は完全に軽率だったわね…」
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桜花姫※リメイク ( No.59 ) |
- 日時: 2021/08/30 08:43
- 名前: 月影桜花姫
- 第四話
雪国
亡霊女房との血みどろの戦闘から二週間後の早朝である。三人の匪賊達が北国の過疎化した廃村へと侵入する。 「無人の廃村みたいですぜ♪頭領♪」 大柄の匪賊が周辺を眺望したのである。 「過疎地か…人気は無さそうだな…」 「無人の廃村なら俺達の潜窟として利用出来ますぜ♪」 小柄の匪賊が笑顔で発言する。 「であれば廃村を占拠するか…」 廃村は無人であり潜窟として利用するのであれば好都合であると判断する。すると中柄の匪賊が小声で恐る恐る…。 「頭領!頭領!」 「何事だ?」 「村娘です…村娘を発見しました…」 「ん?村娘だと?」 中柄の匪賊は仲間の二人を案内したのである。廃村の中心地にはとある祭壇が設置され…。祭壇の近辺には小柄の女性が徘徊する。素顔は不明だが黒髪の長髪であり白装束の着物姿である。三人の匪賊達は近辺の民家から恐る恐る白装束の女性を観察する。 「本当だな…」 「彼女は一体何を?」 すると小柄の匪賊が赤面するなり…。 「可愛らしい雰囲気ですね♪胸部の谷間とか♪」 「えっ…」 「此奴…」 赤面する小柄の匪賊に二人は苦笑いしたのである。 「如何してこんな場所に村娘が一人で?」 中柄の匪賊が身震いした様子で発言する。 「ひょっとして彼女…悪霊とか?」 中柄の匪賊の発言に二人は困惑したのである。 「はっ?」 「貴様は馬鹿か?村娘は人間だろう…所詮悪霊なんて単なる子供騙しだな…」 二人の匪賊は全否定するのだが…。 「ですがこんなにも人気の無さそうな廃村で村娘が一人で行動するなんて可笑しいですよ!不自然だ…」 「大袈裟だな…」 すると小柄の匪賊が恐る恐る…。 「えっ?彼女は?」 「ん?」 先程祭壇の近辺で徘徊中だった村娘を見失ったのである。 「村娘は雲隠れしたか?」 中柄の匪賊が畏怖した様子で…。 「恐らく彼女は廃村の地縛霊ですよ…即刻廃村から逃げましょう…」 畏怖する中柄の匪賊に匪賊の頭領が怒号する。 「何が悪霊だ!大体村娘が悪霊だって証拠が存在するのか!?」 怒号した直後…。背後より極度の悪寒戦慄と気配を感じる。 「えっ…」 彼等は恐る恐る背後を警戒するなり…。 「ひっ!」 彼等の背後には先程祭壇の近辺で徘徊中だった白装束の女性が三人の背後に佇立したのである。 (此奴…一瞬で移動したのか…) 彼女は美的の容姿であるが青色の口紅…。両目の瞳孔は血紅色であり人間の女性とは無縁の雰囲気だったのである。匪賊の頭領は恐る恐る…。 「貴様…本物の悪霊なのか?」 すると白装束の女性は笑顔の表情で匪賊の頭領に接触したのである。 「ん?一体何を?」 直後…。 「なっ!?」 匪賊の頭領は一瞬で全身が氷結され肉体が崩れ落ちる。 「ひっ!此奴は悪霊だ!」 「殺されちまう!逃げろ!」 二人の匪賊は極度の恐怖心からか一目散に逃走したのである。二人は廃村の郊外にて一休みする。 「はぁ…はぁ…」 「俺達…廃村で本物の悪霊と遭遇しちまうなんて…」 「最悪だな…頭領は殺されちまうし…」 直後である。 「えっ?」 再度極度の寒気を感じる。 「ひょっとして…」 すると小柄の匪賊の左側真横より先程の白装束の女性が笑顔で凝視する。 「ひっ!悪霊!?」 彼等は落涙するなり一目散に逃走…。全力で疾走したのである。同日の真昼…。天球神国全域にて猛吹雪による寒風が各農村地帯で頻発したのである。突如として頻発した猛吹雪は農村の村人達を衰弱死させる。僧侶の三蔵郎はとある蔵屋敷の窓際から恐る恐る外部の雪景色を眺望したのである。 (近頃は暴風雪が頻発しますね…) 「ひょっとして今回も悪霊が出現した悪影響でしょうか?」 三蔵郎は頻発する猛吹雪を超常現象の悪影響であると認識する。 「超常現象による天変地異ですかね?」 同時刻…。桜花姫は自宅にて無我夢中に大好きな小倉汁粉を頬張る。 「非常に美味だわ♪」 単独での間食であるものの…。人一倍食いしん坊の桜花姫は一瞬で小倉汁粉を平らげる。 「近頃寒風が頻発するわね…」 極度の胸騒ぎを感じる。 (こんなにも猛吹雪が頻発するなんて不吉だわ…) 桜花姫は気になったのか天道眼を発動したのである。すると北国の廃村より珍妙なる妖力を察知する。 「えっ?北国の廃村から妖力を感じるわ…」 (ひょっとして今回は妖女の仕業かしら…) 即座に北国の廃村へと出向いたのである。 「今回の相手は誰かしら?」 亡霊女房での悪戦苦闘により極度の胸騒ぎを感じる。移動を開始してより一時間後…。目的地の廃村へと到着する。 「目的地の廃村だけれども…正真正銘雪国なのね…」 廃村全域が雪景色であり村人は誰一人として確認出来ない。 「如何やら人間の気配は無さそうだわ…」 乱層雲と極度の猛吹雪の悪影響により妖力を感じられなくなる。 「暴風雪の悪影響かしら?超常現象を特定化出来ないわね…」 適当に歩行した直後…。 「人肉の悪臭だわ…一体何かしら?」 積雪より大勢の凍結化した村人達が確認出来る。 「村人達は凍結化で息絶えたのね…」 彼女は天道眼を発動するなり…。 「なっ!?」 突発的に胸騒ぎが彼女の身体髪膚を膠着化させる。 「妖力を感じるわ…」 (如何やら今回の相手は妖女みたいね…) 桜花姫の背後から莫大なる妖力の気配を察知したのである。 「私の背後かしら…ん?」 桜花姫は恐る恐る背後を凝視する。 「女性だわ…一体誰かしら?」 白装束の長髪の女性が桜花姫の隣接へと急接近するなり…。 「きゃっ!」 白装束の女性は口移しにより桜花姫に接吻したのである。接吻された桜花姫は白装束の女性を非常に気味悪がる。 「突然何するのよ!変態女!見ず知らずの女性に口移しなんて不潔だわ…」 女性の破廉恥さから桜花姫は恐る恐る後退りする。 「あんたの感触…ひょっとして氷水かしら?」 先程の口移しにより女性から極度の悪寒戦慄を感じる。 「ぐっ!体内の妖力が…」 氷麗姫による接吻の悪影響からか桜花姫の妖力が微量に消耗する。 「誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の【氷麗姫】だったのね…」 粉雪妖女の氷麗姫とは純血の妖女であり氷雪系統の妖術を多用する妖女である。恐る恐る後退りする桜花姫に氷麗姫は不吉の表情で微笑む。 「今回の猛吹雪の主要因は氷麗姫…あんたの仕業だったのね…」 桜花姫は氷麗姫に火炎の妖術を発動させる。超高温の火炎攻撃によって氷麗姫の肉体が一瞬で崩れ落ちたのである。 「仕留めたかしら?えっ!?」 すると桜花姫の周辺の積雪から無数の女体が形作られる。 「氷麗姫の分身体かしら?」 氷麗姫は冷風を放出するものの…。桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動するなり氷麗姫の放出する冷風から本体を防備したのである。 「分身なんて面倒臭いわね…」 本体の判別は困難であるものの…。 「氷麗姫にとって私は相性的に最悪だったわね♪」 桜花姫にとって火炎系統の妖術は得意中の得意妖術であり氷雪系統の妖術を多用する氷麗姫を相手に桜花姫は余裕の様子である。 「凡庸の妖女が最上級妖女の私に真剣勝負なんて無謀なのよ♪」 氷雪系統の妖術を多用する氷麗姫にとって桜花姫は最悪の天敵であり桜花姫は微笑むなり…。 「あんたは喋れなくても恐怖心は感じられるのね♪」 氷麗姫は微笑する桜花姫に戦慄したのである。 「覚悟しなさい…氷麗姫ちゃん♪」 桜花姫は天道眼を発動するなり…。 「本体諸共死滅しなさいね♪氷麗姫♪」 天空より無数の火球を廃村全域に落下させたのである。猛烈なる火球の猛攻撃によって氷麗姫の無数の分身体を焼失させる。火球の破壊力は非常に強力であり猛攻撃による超高温の火炎攻撃が氷麗姫本体を一瞬で焼失させたのである。氷麗姫の悲痛の阿鼻叫喚が廃村全域へと響き渡る。 「氷麗姫は死滅したかしら…」 氷麗姫を仕留めた影響により猛吹雪が沈静化する。 「氷麗姫を仕留めた影響かしら?」 寒風も感じられなくなる。 「天変地異は無事解決ね♪即刻戻ろうかしら…」 天変地異が終息するなり…。桜花姫は無事に西国へと戻ったのである。 「今回は楽勝だったわね♪」 一安心した彼女は家屋敷にて寝転ぶものの…。直後である。左耳より極度の悪寒戦慄を感じる。 「きゃっ!」 悪寒戦慄に身震いした桜花姫は恐る恐る左辺を直視するなり…。先程焼殺した氷麗姫が寝転んだ状態で桜花姫を凝視する。 「えっ!?あんたは!?」 突然の出来事により桜花姫は驚愕したのである。氷麗姫は桜花姫を凝視するなり微笑む。すると氷麗姫は不吉の笑顔で…。 「あんたは人一倍容姿端麗の妖女だわ♪」 氷麗姫は人間の口言葉で発言したのである。 (えっ!?氷麗姫って喋れるの!?) 桜花姫は人間界の公用語で発語する氷麗姫に愕然とする。 「あんたは最上級妖女の月影桜花姫だったわね♪」 すると氷麗姫は桜花姫に接触したのである。直後…。 「ぎゃっ!」 桜花姫は氷麗姫の金縛りの妖術によって身動き出来なくなる。 (金縛りの妖術かしら?身動き出来なくなるなんて…) 「残念だったわね♪あんたが雪国で死滅させたのは私の分身体なのよ♪私は分身体からでも復活出来るから本体が焼殺されても大丈夫だからね♪油断大敵よ…月影桜花姫ちゃん♪」 氷麗姫は粉雪分身の妖術で形作った分身体の欠片のみでも残存すれば本体が死滅したとしても容易に復活出来る。先程は雪国にて氷雪の欠片を桜花姫の着物に密着させた状態で…。桜花姫の家屋敷に潜入出来たのである。 (復活ですって!?) 氷麗姫は桜花姫に密着するなり…。 「私はね…あんたみたいな妖女の小娘が人一倍大好きなのよ♪あんたみたいな小娘とこんな小部屋で二人だけだと接吻したくなっちゃうわ♪」 氷麗姫は表情が赤面すると桜花姫に口移ししたのである。氷麗姫によって無理矢理に口移しされた直後…。体内の妖力が氷麗姫の吸収能力によって吸収される。 「ぐっ!」 (体内の妖力が…) 妖力の消耗によって衰弱死するかと思いきや…。桜花姫の肉体が白煙により一瞬で消滅したのである。 「えっ!?桜花姫は?」 氷麗姫の背後より何者かが背中に接触する。 「きゃっ!」 「残念だったわね♪あんたが口移ししたのは私の分身体よ♪」 「桜花姫!?」 桜花姫は氷麗姫に接吻される直前に分身の妖術を発動…。氷麗姫の吸収能力の無力化に成功する。氷麗姫の口移しによって吸収された妖力は微量だったのである。 「分身体で欺瞞するなんて…悪知恵だけは一人前だわ…」 「悪因悪果よ♪今度こそ死滅するのね…氷麗姫♪」 桜花姫は変化の妖術を発動する。変化の妖術とはあらゆる物体を別の物体に変化させる変幻自在の妖術である。 「桜餅に変化しなさい♪」 すると氷麗姫の肉体が桜花姫の大好きな桜餅に変化させる。 「美味しそうだわ♪」 桜花姫は変化の妖術によって桜餅に変化した氷麗姫を食い殺したのである。 「美味だわ♪」 桜餅に変化させた氷麗姫を捕食すると吸収された妖力が回復する。変化の妖術で食べ物に変化させた対象物を食べれば消耗した妖力も回復させられる。 「彼女に吸収されちゃった妖力も戻ったし♪一石二鳥ね♪」 桜花姫は再度寝転んだのである。
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桜花姫※リメイク ( No.60 ) |
- 日時: 2021/08/30 08:43
- 名前: 月影桜花姫
- 第五話
幻術
氷麗姫との死闘から四日後の真夜中…。南国の村里では若齢の村娘達が衰弱化する不吉の超常現象が頻発したのである。噂話を聴取した桜花姫は欣喜雀躍の気分で南国の村里へと直行する。 「今度も悪霊事件っぽいわね♪今度は一体何が出現したのかしら♪」 一時間後…。南国の村里に到達したのである。 「今回は悪霊の仕業かしら♪ひょっとして今度も妖女の仕業かしら♪」 桜花姫は村里に到達するものの…。村里は非常に物静かであり誰一人として村人は確認出来ない。村里全体が重苦しい空気からか極度の息苦しさを感じさせる。 「過疎地だからかしら?人気は感じられないわね…」 すると直後…。各家屋敷から無数の物音が響き渡る。 「えっ?何かしら?」 各家屋敷より出刃包丁を所持した老若男女が同時に外出する。 「村人達!?」 (様子が可笑しいわね…) 彼等は無表情であり精気を感じられない。 「村人達は如何しちゃったのかしら?」 村人達は無表情で桜花姫を直視した直後…。 「何よ?」 彼女に殺到したのである。 「人間の分際で私に手出しするなんて無謀なのよ♪」 桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。 「あんた達は熟睡しちゃいなさい♪」 念力の妖術により殺到する村人達を気絶させたのである。 「他愛無いわね♪」 桜花姫は恐る恐る一人の村人に接触する。 「不自然だったわね…村人達は誰かに操作された様子だったわ…」 直後…。 「きゃっ!」 近辺の路地裏から女性らしき悲鳴が響き渡る。 (えっ?女性の悲鳴だわ…) 「一体何事かしら?」 同時刻…。村道の路地裏では一人の若齢の村娘が花魁らしき色白の女性に捕捉されたのである。 「私からは逃げられないわよ♪好い加減観念しなさい♪」 「きゃっ!誰か!誰か!」 村娘は必死に抵抗するものの…。花魁らしき色白の女性は外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。 「村里で無事なのはあんただけよ♪あんたの清心を頂戴するわね♪」 色白の女性は赤面した表情で無理矢理に接吻…。 「ぐっ!」 色白の女性に口移しされた直後である。村娘は全身が脱力するなり…。意識が喪失した状態で地面に横たわる。色白の女性は満足気に…。 「美味しいわね♪女子の清心は純真無垢だから非常に美味だわ♪」 清心を完食した女性は即座に退散するものの…。直後である。 「如何やら今回の事件はあんたの仕業だったみたいね♪」 色白の女性は背後の桜花姫を直視する。 「誰かと思いきや…あんたは最上級の妖女…月影桜花姫だったかしら♪」 「あんたは悪霊の【亡霊新婦】だったわね♪悪霊なのに喋れるなんて…」 亡霊新婦とは亭主に殺害された令夫人の亡霊である。姿形こそ色白で赤色の着物姿の女性であるが正真正銘悪霊であり人間界の公用語で会話出来る。接吻によって人間の清心を吸収する女性の悪霊であり純真無垢の女子の清心こそ彼女にとって最高の嗜好品である。 「悪霊の分際なのにひ弱の女の子を相手に接吻なんて…あんたは余程の悪趣味みたいね♪」 桜花姫に挑発された亡霊新婦であるが…。彼女は笑顔で返答する。 「あんたは口喧しい小娘だわ…あんたの清心も吸収しちゃおうかしら♪」 「出来るかしら♪私は其処等の女の子みたいに簡単には接吻出来ないわよ♪」 桜花姫は亡霊新婦に挑発したのである。 「月影桜花姫…無論あんたは妖女だから手加減しないわよ…」 亡霊新婦は笑顔の表情から険悪化した表情に一変する。 「えっ?」 亡霊新婦は幻術を発動すると地面より半透明の触手が無数に出現…。半透明の無数の触手が桜花姫の全身を拘束したのである。 「きゃっ!」 (ひょっとして幻術かしら…) 桜花姫は半透明の触手によって身動き出来なくなる。亡霊新婦は一歩ずつ膠着状態の桜花姫に近寄る。 「折角だからね♪暇潰しにあんたの清心も頂戴するわね♪」 亡霊新婦は表情が赤面するなり…。 「私に遭遇したのが不運だったのよ…月影桜花姫♪覚悟出来たかしら♪」 亡霊新婦は身動き出来なくなった桜花姫に口移ししたのである。 「ぐっ!」 (体内の妖力が…吸収されちゃうわ…) 亡霊新婦の口移しにより体内の妖力が吸収される。 「あんたの清心も美味だわ♪」 (衰弱死するのね…) 大喜びした直後…。 「ん!?ぎゃっ!」 亡霊新婦は気味悪くなったのか突如として吐血したのである。 (えっ!?一体何が…如何して亡霊新婦は吐血したの?) 吐血した亡霊新婦は恐る恐る後退りするなり…。 「ぐっ…あんたは純真無垢の清心とは程遠いわ…」 膠着状態の桜花姫を睥睨したのである。 「如何してあんたの心情は人一倍どす黒く下劣なのかしら…あんたみたいな不潔と遭遇したのは久方振りね…」 亡霊新婦の発言に苛立ったのか腹立たしくなる。 「なっ!誰よりも温厚篤実の女神様である私に不潔ですって!?」 亡霊新婦に怒号した桜花姫は即座に天道眼を発動…。亡霊新婦の幻術を無力化したのである。桜花姫の全身に密着する半透明の触手も消滅する。 「私の幻術を自力で解除するなんて…」 亡霊新婦は自力で幻術を解除させた桜花姫に驚愕したのである。 「残念だったわね♪亡霊新婦♪天道眼を発動しちゃえば幻術だって無力化出来るのよ♪」 「天道眼ですって?」 「今度は私の出番みたいね♪」 桜花姫は変化の妖術を発動…。 「女神様の私に不潔って失言した天罰よ♪飴玉に変化しちゃいなさい♪」 変化の妖術により亡霊新婦の肉体を大好きな飴玉に変化させる。 「亡霊新婦は飴玉に変化したわね♪成仏しなさい♪」 桜花姫は即座に飴玉に変化した亡霊新婦を頬張る。 「美味だわ♪」 すると直後…。先程亡霊新婦に清心を吸収された村娘が恐る恐る目覚めたのである。 「えっ?私は一体何を…」 村娘の様子に桜花姫は一安心する。 「如何やら亡霊新婦に吸収された村人達の清心が無事に戻ったみたいね♪一件落着かしら♪」 事件が解決すると桜花姫は即刻西国へと戻ったのである。
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