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日時: 2020/12/25 07:49
名前: 黒狼武者

第一話

奇襲攻撃
人類史上最大級の大戦争…。旧世界最終戦争から十二年後の出来事である。史上最悪の大量破壊兵器により旧世界の巨大高度文明は大崩壊…。世界各地の大都市部は荒廃化したスラム街状態であり全世界の彼方此方が暴徒化した無法者達の魔窟だったのである。当然として秩序は皆無であり生存者達は食糧品の争奪戦…。殺し合ったのである。世界全体が弱肉強食の大混乱期時代であったが…。〔エルピスコロニア〕と命名される小大陸では大量破壊兵器の悪影響が皆無であり大勢の生存者達が小大陸エルピスコロニアに移住したのである。半年間も経過すればエルピスコロニアの各地に無数の村落が形成され…。一部の地域では小規模の文明社会が再構築されたのである。各地に小規模の復興都市が形成されてより三年が経過…。大洋の絶島よりホワイトセイバーと名乗る大規模武装集団が小大陸エルピスコロニアに上陸したのである。彼等は圧倒的武力で各地の村落を占拠…。大勢の村民達を抑圧したのである。ホワイトセイバーの上陸から半年後…。北方地帯では別の大規模武装勢力が出現したのである。彼等は武装集団のホワイトセイバーに宣戦布告…。エルピスコロニア内地で二大勢力による大事変が勃発したのである。
「突撃隊!敵軍を蹴散らせよ!」
時間帯は真夜中の深夜帯…。主戦場は砂漠化した大平原であり周囲の様子は容易に確認出来る。武装集団の最高指導者らしき軍人の合図と同時に軍隊用のサバイバルナイフと護身用のハンドガンを装備した迷彩服の戦闘員達が武装集団ホワイトセイバーの駐留地に突入したのである。
「ん?こんな時間帯に何事だ?」
「彼等は?」
ホワイトセイバーの駐屯地では二人の警備兵が表門にて警備中…。
「ん!?奴等は新自由解放軍の突撃隊だぞ!」
新自由解放軍とは小規模の自治領新自由解放区を実効支配する新世界有数の大規模武装集団の一種…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する軍閥の巨大軍事勢力である。名称のみならホワイトセイバーと同様に慈善団体を連想させるが…。実態としては残虐非道の無法者集団であり村落での略奪やら暴行は日常茶飯事である。今現在新自由解放軍はエルピスコロニアの北方地帯全域を武力により占拠…。新自由解放区の支配領域は日に日に拡大化したのである。
「奴等の奇襲攻撃か…」
警備兵達は新自由解放軍の突撃隊を確認したのである。
「敵襲だ!敵襲だぞ!」
睡眠中だった大勢の戦闘員達が即座に反応し始める。
「敵襲だと!?新自由解放軍の奴等だな!」
「奴等の襲撃か!?奇襲とは卑劣だな…」
突撃隊の人数は推計三百人前後…。相対する駐留地のホワイトセイバー守備隊は推計六百人規模であり総兵力は圧倒的に新自由解放軍を上回る。
「防衛戦だ!防衛戦を徹底せよ!」
ホワイトセイバー守備隊の戦闘員達は即座に護身用の小銃やらハンドガンで応戦…。駐留地内部では両勢力による銃撃戦が開始されたのである。戦闘開始から五分間が経過…。双方で合計二百人以上の死傷者が続出する。
「即刻回転型機関砲を用意しろ…無法者集団を撃退するのだ!」
駐留地のホワイトセイバー守備隊は六連発の回転型機関砲を配備したのである。
「此奴で新自由解放軍の奴等を蹴散らしちまえ!無数の弾丸をぶっ放せ!」
回転型機関砲の乱射により数秒間で四十人以上の突撃隊を死傷させる。戦力では防衛戦を徹底するホワイトセイバー守備隊が圧倒的に有利であり新自由解放軍の突撃隊は数分間で戦力が半減…。
「畜生が…」
「奴等は…想像以上に手強いな…」
新自由解放軍の装備品はサバイバルナイフとハンドガンのみであり武装豊富のホワイトセイバーと比較すれば貧相だったのである。ホワイトセイバー守備隊の予想以上の抵抗により突撃隊の戦闘員達は疲弊し始める。
「こんな状態では全滅しちまう!一先ずは撤退だ!撤退しろ!」
彼等の猛反撃によって新自由解放軍突撃隊は撤退を余儀無くされる。戦意喪失により新自由解放軍の突撃隊は敵前を逃亡する戦闘員達が出始め…。十数人もの戦闘員達が自軍の陣地へと戻ったのである。
「なっ!?貴様等!?」
独断で撤退した戦闘員達に最高指導者らしき大柄の軍人は怒号し始める。
「何故戦場から戻ったのだ!?誰が陣地に戻れと命令した!?」
怒号する大柄の軍人であるが逃亡した戦闘員達は恐る恐る…。
「ですが総大将殿…今回の戦闘は圧倒的に俺達が不利ですぜ…」
「多勢に無勢ですぜ!総大将殿!サバイバルナイフとハンドガンだけでは奴等には対抗出来ませんぜ…俺達は一度出直してから…」
「黙れ!私に命令するな!敵前逃亡は重罪だぞ!」
大柄の軍人は護身用のハンドガンで一人の戦闘員を射殺する。
「今度は誰が射殺されたいか?返答しろ…」
意見した一人の戦闘員が銃殺され…。
「ひっ!」
「えっ…総大将殿…」
逃亡した周囲の戦闘員達が大柄の軍人に畏怖したのである。
「貴様等は泣く子も黙る新自由解放軍の勇士達なのだぞ!死にたくなければ即刻主戦場に戻れ…戻らなければ即刻射殺する!」
戦闘員達は極度の恐怖心からかビクビクした様子であり全身が膠着する。
「貴様等…」
『役立たずの弱卒風情が…やっぱりこんな無法者連中では戦果は期待出来ないな…』
弱腰の彼等の様子に大柄の軍人は呆れ果てる。現実問題…。新自由解放軍の戦闘員達は大半が其処等の無法者達で構成された無法者集団であり大戦果は期待出来ない。対するホワイトセイバーは旧世界最終戦争で活躍したとされる各国家の正規軍人達である。両勢力の武器の性能は勿論…。実戦経験も士気も其処等の無法者達で構成された新自由解放軍とは段違いである。すると大柄の軍人の背後より…。
「【ウィルフィールド】…苛立っても仕方ない…」
ウィルフィールドとは新自由解放軍の総帥であり同軍の最高指導者である。極度の思想家であり荒廃化した新世界の主導権掌握を夢見る。性格は苛烈で厳格なのは勿論…。野心的で支配的であり大勢の部下達からは総大将と畏怖される。世界最終戦争当時はテロ支援国家であるサウスアイランド共和国の陸軍部隊に所属…。最前線で活躍したとされる。
「ん?」
「現実的に…こんな弱卒連中だけで戦闘に勝利するなんて夢物語だぞ…」
ウィルフィールドの背後には特殊型ヘルメットと全身アーマーを装備した小柄の特殊部隊員らしき将兵が佇立する。
「誰かと思いきや…貴殿は最精鋭の【ストレイダス】か…」
「えっ!?」
「ストレイダスって…」
ストレイダスの名前に周囲の戦闘員達は驚愕したのである。
「此奴は…伝説の殺し屋の…」
「本物なのかよ?此奴は本物のストレイダスなのか?」
「如何してストレイダスがこんな場所に?本人なのか?」
ストレイダスとは荒廃した新世界各地で活躍する伝説の殺し屋…。残虐非道の暗殺者として知られる危険人物であり世界各地の無法者達からも畏怖されたのである。ストレイダスは世界的にも有名であるが…。素顔は特殊型ヘルメットの着用により不明である。今現在彼自身に関連する出自やら詳細は不明瞭でありストレイダスの正体を熟知する人物は少数とされる。一説では傭兵として世界最終戦争で活躍したとの噂話も一部存在する。彼自身の異名としては伝説の殺し屋が一般的であるが…。一部の地域によっては地獄の殺人鬼とも呼称される。
「此奴は最近配属させた新自由解放軍にとって最強の即戦力であり俺達の最精鋭なのだ…伝説の殺し屋であるストレイダスならば百人力の大戦果は期待出来るだろう♪」
ウィルフィールドは恐る恐る…。
「ストレイダスよ…敵軍の陣地に突入して思う存分に敵兵達を殺し回るのだ…伝説の殺し屋である貴殿なら出来るよな?」
「仕方ないな…」
ストレイダスはウィルフィールドの命令を掌握すると常人をも超越した超高速移動で移動したのである。
「ストレイダスは…人間なのか?一瞬だったぞ…」
「彼奴は怪物の間違いでは?」
「現実なのか…」
ストレイダスの高スピードに陣地の各戦闘員達はハッとした表情で驚愕する。周囲の者達は先程の光景が現実なのか幻覚なのか混乱したのである。するとウィルフィールドは陣地の各戦闘員達に解説し始める。
「ストレイダスの正体は〔ポストヒューマン〕…旧世界の科学者達が創造した新人類の一人だぞ…」
「ポストヒューマンって?」
ポストヒューマンとは旧世界の高度の科学技術によって創造された人工性生命体…。所謂人造人間の総称化である。世界最終戦争によりポストヒューマンに関連する大半の資料と研究施設は焼失したものの…。一部の残存資料ではポストヒューマンは常人を超越した身体能力と不老長寿の肉体である記述のみは現存する。
「ですが総大将殿…怪物みたいな百人力の兵隊を味方に出来ましたね…」
「ストレイダス…彼奴は単純に戦闘と殺戮さえ出来れば満足らしいからな…」
野心家のウィルフィールドにとって自身の目的の遂行にストレイダスの好戦的性格は非常に好都合だったのである。
『何よりも狂戦士のストレイダスを新自由解放軍の一兵卒として扱えるのは奇跡だったな…彼奴一人で戦局を左右するからな…正直ストレイダス以外の連中は…』
野心家のウィルフィールドにとってストレイダスこそが戦略的に重要である反面…。ストレイダス以外の人員は単なる役立たずの手駒だったのである。同時刻…。ストレイダスは数秒間でホワイトセイバー守備隊の駐屯地へと到達する。
「なっ!?此奴は敵軍の新手か!?」
「常人以上の高スピードだったぞ!彼奴は本当に人間なのか!?」
「彼奴…何者だ?」
ストレイダスの高スピードに最前線の敵味方の戦闘員達は強豪のストレイダスに注目したのである。彼等がストレイダスに注目し始めた直後…。
「貴様等…覚悟するのだな…」
改造された両腕の高性能型機械義手の先端からは銀色の鉤爪が出現する。
「戦闘を開始する…」
ストレイダスは神速の身動きで敵兵に急接近したかと思いきや…。変形させた機械式の鉤爪で目前の敵兵を斬撃したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
ストレイダスは数秒間で三人の敵兵を殺害…。床面にはバラバラに斬撃された敵兵の肉片やら鮮血が飛散する。ストレイダスは常人をも超越した戦術的存在であり最早人型の殺戮兵器同然だったのである。
「うわっ!此奴は人型の怪物だ!」
ホワイトセイバー守備隊の戦闘員達は強豪のストレイダスに畏怖したのか護身用の機関銃は勿論…。回転型機関砲で新手のストレイダスに攻撃を集中させたのである。
「彼奴に集中攻撃だ!怪物みたいな兵士を打っ殺せ!」
合計数百発もの銃弾がストレイダスに集中するものの…。ストレイダスは神速の身動きで無数の銃弾を容易に回避したのである。
「なっ!?敵兵は一瞬で…やっぱり怪物なのか!?」
「敵兵の姿形が消失したぞ…怪物みたいな兵士は一体!?」
一瞬の身動きでストレイダスは敵軍の猛攻を回避…。対するホワイトセイバーの戦闘員達は周囲を警戒するのだがストレイダスの姿形は確認出来ない。
「敵軍の怪物みたいな兵士は!?」
「見失っちまったぜ…彼奴はゴーストみたいだな…」
すると回転型機関砲を装備する戦闘員の背後より…。
「えっ…貴様は!?」
ストレイダスは機械式の鉤爪でホワイトセイバーの戦闘員を瞬殺したのである。同時に回転型機関砲の無力化に成功する。
「新兵が敵軍の戦力を無力化させたぞ!」
「反撃開始だ!奴等を打っ殺しちまえ!」
ストレイダスの大攻勢により形勢は完全に逆転…。一時的に戦意喪失した新自由解放軍の突撃隊であるがストレイダスの参戦によって彼等の士気が発揚したのである。
「形成が逆転したな!」
「総員!ホワイトセイバーを駆逐しろ!」
突撃隊の猛反撃が開始される。十数分間の戦闘で駐留地のホワイトセイバー守備隊は後退し始め…。数分後にはホワイトセイバーの守備隊は撤退したのである。
「奴等が撤退を開始したぞ!」
「俺達の大勝利だ!」
ホワイトセイバーの駐留地は新自由解放軍に完全占拠され…。突撃隊の戦闘員達は新自由解放軍の勝利に大喜びしたのである。結果的に今回の夜襲作戦で新自由解放軍は推計二百人以上の戦闘員達が死傷…。一方ホワイトセイバーの駐留地守備隊は推計百五十人以上の将兵達が死傷したのである。戦闘に辛勝した新自由解放軍はホワイトセイバーの駐留地に放置された多数の重火器やら装甲車を戦利品として確保出来…。合計五十五人もの敵兵達を捕虜として拘束したのである。基地内での戦闘が終了してより数十分後…。
「見事だったぞ♪ストレイダス♪貴殿の孤軍奮闘で敵軍の駐留地を無事に占領出来たのだ!空前絶後の大戦果だぞ♪」
ウィルフィールドは笑顔で功労者のストレイダスに近寄る。予想以上の大戦果にウィルフィールドは大喜びしたのである。
「ストレイダスよ…貴殿は全軍の次期総帥候補に相応しい存在なのだ♪単なる一兵卒では勿体無い人材だぞ…」
ウィルフィールドの発言から周囲の戦闘員達は新兵のストレイダスに驚愕する。
「えっ!?ストレイダスは新兵なのに…次期総帥候補って…」
「初戦で次期総帥に任命されるなんて凄過ぎる…ストレイダスは別格だな…」
「実際…今回の戦闘では新兵のストレイダスが参戦しなかったら俺達は完全に敗北しただろうからな…怪物のストレイダスが新自由解放軍の次期総帥に任命されるのも当然だろうよ…今回は此奴の応戦で逆転出来たからな…」
一方次期総帥候補に任命されたストレイダスであるが…。
「何が次期総帥候補だ…俺にとって次期総帥なんて地位は無価値だな…」
ストレイダスは無表情で次期総帥の地位を無価値であると断言する。
「次期総帥が…無価値だと?」
総大将のウィルフィールドは勿論…。
「えっ…此奴は…」
「ストレイダスの野郎は本気かよ…」
周囲の戦闘員達もハッとした表情でありストレイダスの返答に愕然とする。
「ストレイダスよ…新自由解放軍の次期総帥候補は大名誉なのだぞ!貴殿は新時代の覇者として全世界を掌握したくないのか!?全世界の主導権を掌握出来る絶好のチャンスなのだぞ…」
現実問題…。今現在は全世界が荒廃化したスラム街状態であり新自由解放軍にとって脅威なのは圧倒的武力を保持するホワイトセイバーのみである。野心家のウィルフィールドの問い掛けに…。
「全世界の覇者なんて殺し屋の俺には無縁だな…次期総帥候補なら俺以外の奴等にでも譲渡しろ…」
ストレイダスは無関心そうな態度で返答したのである。
「俺は一人の一兵卒として思う存分に戦闘と戦争を体感出来れば大満足だからな…総帥なんて面倒なだけだ…」
実際好戦的性格であるストレイダスに思想は勿論…。野心は皆無でありストレイダスは最前線で戦闘と戦争さえ体感出来れば大満足だったのである。
「ストレイダス…」
『最前線の一兵卒としては上出来だが…此奴は想像以上に気難しい性格だな…』
ウィルフィールドは内心不服であったが…。
「ストレイダスが今後も暴れ回りたければ思う存分に暴れまわるのだな…其方が大満足なら構わんが…」
『恐らく今後も各地で戦闘が頻発するだろうからな…狂戦士のストレイダスにとっては好都合だろうよ…』
大戦闘に勝利した新自由解放軍本隊は一先ず本拠地の新自由解放区へと撤収したのである。

第二話

極秘任務
ホワイトセイバーの駐屯地を占拠してより三日後の早朝…。地下壕の密室にてウィルフィールドとストレイダスは合流したのである。
「ストレイダスか…」
「ウィルフィールド…こんな朝っぱらから俺に用事か?」
ストレイダスは無表情で発言する。するとウィルフィールドは恐る恐る…。
「其方に極秘の単独任務だぞ…」
「俺に極秘の単独任務だと?」
「嗚呼…」
ウィルフィールドの単独任務の一言にストレイダスは興味深そうな様子で反応したのである。表情こそ無表情であるが…。内心ではワクワクしたのである。一方のウィルフィールドは数秒間沈黙するのだが…。恐る恐る発言する。
「ストレイダス…今回の任務内容なのだが…」
ウィルフィールドはストレイダスに任務内容を説明したのである。
「今現在…東方地帯に存在するスラム街は敵軍のホワイトセイバーによって占拠された状態なのだ…」
東方地帯のスラム街には数十人規模のホワイトセイバーが軍事拠点として活用…。今現在スラム街はホワイトセイバーの魔窟状態だったのである。
「此処は俺達新自由解放軍にとっても重要拠点だ…東方地帯のホワイトセイバーを駆逐しなければ奴等によって新自由解放区本土が攻略されるかも知れないからな…」
此処を放置し続ければ先日占拠した駐屯地を奪還され…。場合によっては新自由解放軍本拠地の新自由解放区本土が彼等によって攻略される可能性も否定出来なくなる。
「本来なら今回の任務では多人数を動員するべきなのだが…先日の戦闘で多人数は動員出来ないのだ…大変かも知れないが…」
ウィルフィールドは気難しそうな様子でストレイダスに依頼する。
「悪いがストレイダスよ…其方が単独でスラム街のホワイトセイバーを駆逐出来ないか?正直こんな最重要任務は其方以外の人員には依頼出来ないのだ…」
新自由解放軍は先日の戦闘で大勢の戦闘員達が死傷…。一度の戦闘では数百人規模の軍勢を動員出来なかったのである。今回の任務の失敗は本拠地新自由解放区の滅亡を意味する。現状の新自由解放軍にとって最精鋭であるストレイダス以外の人物には依頼出来ない。一方のストレイダスは無表情で…。
「スラム街の奴等を一蹴するだけか?楽勝だな…」
ストレイダスの返答にウィルフィールドは安堵する。
「其方には期待するぞ♪ストレイダス♪」
『此奴の性格が好戦的なのが何よりだな…』
ウィルフィールドは内心ストレイダスの様子にホッとしたのである。
「今回の任務が無事成功すれば…貴殿には報酬として一年分の食糧品を提供するぞ♪勿論酒類も存分にサービスするからな♪」
ウィルフィールドはストレイダスに報酬を提示するのだが…。
「ウィルフィールド…俺に報酬は不要だぞ…」
ストレイダスは報酬が不要であると断言したのである。
「えっ?ストレイダス…」
ストレイダスの返答にウィルフィールドは拍子抜けする。
「報酬が不要だと?其方は本気なのか?」
「俺は戦闘さえ出来れば満足だからな…報酬なら其処等の無法者連中にでも譲渡するのだな…俺に必要なのは戦場だけだ…」
ストレイダスは無表情で退室したのである。
「彼奴は…本当に戦闘以外の物事には無関心だな…」
『俺としては非常に好都合なのだが…』
ストレイダスは好戦的性格上…。戦闘以外の物事には無関心でありウィルフィールドは内心好都合であると感じる。密談が終了してより十数分後…。ストレイダスは東方地帯への移動を開始したのである。
「早速出掛けるか…」
『場所は…東方地帯だったか…』
本拠地の新自由解放区から移動してより二時間後…。ストレイダスは東方地帯のスラム街らしき場所へと到達する。
『如何やら此処が目的地のスラム街みたいだな…』
すると荒廃化した道路上より…。
「ん!?彼奴は!?」
「貴様は侵入者か!?」
迷彩服の無頼漢達がストレイダスの存在に気付いたのである。数人の無頼漢達がストレイダスに接近する。
「貴様!此処はホワイトセイバーの領土だぞ!」
「此処は進入禁止区域だ!死にたくなかったら即刻失せやがれ!」
警告されたストレイダスであるが…。
「俺の目的は…此処の制圧だ…」
ストレイダスの発言に彼等は絶句する。
「はっ?此奴…正気かよ?」
「制圧って…貴様は本気なのか?一人でスラム街を制圧するって?」
彼等はストレイダスの発言に呆れ果てたのである。
「であれば仕方ないな…此処からは実力行使だ…」
ストレイダスは右腕の機械義手を銃火器の形状に変形させる。
「なっ!?此奴!?」
「右腕が銃火器だと!?貴様の右腕は機械義手だったのか!?」
「此奴はサイボーグなのか!?」
戦闘員達はストレイダスの右腕の機械義手に驚愕したのである。
「貴様は一体…何者だ?」
戦闘員の一人に問い掛けられるとストレイダスは自身の名前を名乗る。
「俺はストレイダス…殺し屋とでも…」
「ストレイダスって…」
ストレイダスの名前に戦闘員達は戦慄したのである。
「此奴がポストヒューマンで…伝説の殺し屋のストレイダスか…」
「本物かよ!?本当に此奴が…殺し屋のストレイダスなのか!?」
ストレイダスは無表情で右腕の砲口から蛍光色の高エネルギー光弾を射出…。
「ぎゃっ!」
戦闘員の一人を射殺したのである。
「うわっ!此奴は右腕から光弾を発射したぞ!」
ストレイダスの両腕の高性能型機械義手は銃火器形態にも変形させられ…。銃火器形態に変形させた高性能型機械義手の砲口からは高エネルギー光弾を射出出来る特殊型高エネルギー銃器が内蔵される。両腕に内蔵された特殊型高エネルギー銃器は通称〔サイコブラスター〕と呼称され…。ストレイダスにとって最大の武装である。サイコブラスターはストレイダス自身の精神力を高火力のエネルギー源に変換…。光学系統の高エネルギー兵器として使用出来る。サイコブラスターのエネルギー源はストレイダス自身の精神力であり実質的には無制限に高エネルギー光弾を発射出来…。火力は自由自在とされる。現段階ではサイコブラスターの最大火力は未知数とされるが…。旧世界の科学者達の見解では大都市部をも一撃で焦土化させられると予想される。
「即死しろ…」
ストレイダスは右腕のサイコブラスターで高エネルギーを収束…。サイコブラスターの砲口から弾丸サイズに縮小させた高エネルギー光弾を連射する。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
無数の高エネルギー光弾で周囲の戦闘員達を射殺したのである。
「うわっ!此奴!?仲間を!?」
周囲の戦闘員達は無頼漢達の悲鳴に反応…。護身用の拳銃を携帯したのである。
「敵襲か!?」
「新自由解放軍の襲撃か!?」
「敵兵を仕留めろ!」
戦闘員達は荒廃した各ビルから通信機で情報を交換…。ストレイダスの居場所を正確に特定する。
「標的を狙撃しろ…」
「敵兵を打っ殺せ…」
戦闘員達は各ビルの屋上からストレイダスを標的に狙撃したのである。
「ん?」
『奴等は…無線で情報交換か?』
一方のストレイダスは各ビルの屋上からの狙撃を察知…。超高速移動で無数の銃弾を回避したのである。
『こんな攻撃が俺に通用するか…』
ストレイダスは右腕のサイコブラスターで各ビルの屋上に潜伏する各戦闘員達に反撃…。小威力の高エネルギー光弾で殺害したのである。
『俺を相手取るには戦力不足だな…』
ストレイダスは今回の任務も他愛無いと感じる。
『やっぱり今回も簡単だったな…』
すると直後である。
「ん?」
『バズーカ砲か…』
前方よりバズーカ砲を装備した戦闘員が出現する。
「覚悟しやがれ!」
戦闘員はバズーカ砲を発射したのである。
『こんな攻撃…』
ストレイダスはバズーカ砲の砲弾が直撃するものの…。ストレイダスの全身アーマーは非常に硬質であり無傷だったのである。
「えっ…バズーカ砲でノーダメージなんて…」
戦闘員は愕然とする。
「片付けるか…」
ストレイダスは右腕のサイコブラスターでバズーカ砲を装備した戦闘員を殺害したのである。
『無力化出来たな…』
スラム街の戦闘員達はストレイダスには通常の武装が通用しないと確信…。スラム街から逃走し始める。
『奴等は撤退するのか?』
「今回の任務は終了か…」
任務成功を確信した直後…。
「ん?」
前方の道路上より重厚装甲の重戦車が出現したのである。
「今度の相手は重戦車か…」
『此奴が敵軍の本命だな…』
戦車砲でストレイダスを標的に砲撃を開始…。
『こんな程度の砲撃…俺には通用しない…』
ストレイダスは戦車砲の砲弾を容易に回避する。
『重戦車が相手なら…サイコブラスターを高出力で…』
ストレイダスは精神力を集中させたと同時に…。サイコブラスターの砲口から高エネルギーの球体を形作ったのである。
『此奴で鉄屑の塊状を破壊するか…』
サイコブラスターから高出力の高エネルギー光弾を射出する。射出された高出力の高エネルギー光弾は前方の重戦車に直撃…。重戦車は一瞬で爆散したのである。
『所詮は鉄屑の塊状だ…他愛無いな…』
今回のストレイダスの奇襲によって東方地帯のスラム街に暗躍するホワイトセイバー守備隊は事実上壊滅…。守備隊の残党達は東方地帯のスラム街から撤退したのである。
『任務は成功だ…やっぱり今回も楽勝だったな…』
数時間後に東方地帯のスラム街は新自由解放軍の精鋭部隊によって占拠され…。戦利品として十三両もの重戦車と重武装の攻撃ヘリコプター一機を鹵獲出来たのである。

第三話

ドローン工場
東方地帯のスラム街を占拠してより二日後の早朝…。ウィルフィールドとストレイダスは地下壕にて密談する。
「ストレイダスよ…先日の戦闘は見事であった…一人で東方地帯のスラム街を制圧するとは…」
東方地帯のスラム街の占拠によってホワイトセイバーは駆逐されたのである。今現在東方地帯は新自由解放軍の勢力圏であり活動範囲が広範囲化する。
「ウィルフィールド…今回も俺に単独任務だろう?今度の任務内容は?」
ストレイダスは無関心そうな態度で発言したのである。
「其方は本当に好戦的だな…」
ウィルフィールドは内心呆れ果てるものの…。
「であれば今度は南方地帯に位置する…ドローン工場を攻略しろ…」
「ドローン工場だと?」
南方地帯は工業地帯の跡地でありドローン工場が存在する。此処は大戦前の時期には最先端の工業地帯として発展したのだが…。世界最終戦争によって工業地帯は荒廃化したのである。今現在では無人のゴーストタウンであるものの…。唯一ドローン工場だけは今現在でも健在でありホワイトセイバーの重要軍事拠点として活用されたのである。工場としての機能も万全であり機材さえ入手出来ればドローン兵器の製造は勿論…。既存の兵器の改造も容易に出来る。
「南方地帯のドローン工場を占拠出来れば…新自由解放軍の戦力は確実に急上昇するだろう…戦力の強化を期待出来るからな♪」
「であれば早速ドローン工場のホワイトセイバーを蹴散らせるか…」
ストレイダスが行動を開始する寸前…。
「ストレイダスよ…間違っても工場の技術者達と工場内のドローン兵器は極力破壊するなよ…」
ウィルフィールドは警告したのである。
「攻撃する対象は完全武装の戦闘員だけに限定するのだぞ…」
一方のストレイダスはウィルフィールドの警告に内心面倒であると感じるものの…。
「安心しろ…ウィルフィールド…俺は無抵抗の非戦闘員には手出ししないからよ…奴等が俺に手出しするなら別だが…」
ストレイダスは地下壕の密室から退室する。
『ストレイダス…本当に大丈夫だろうか?』
「彼奴は正直…暴走するかも知れないからな…」
ウィルフィールドは内心ストレイダスが独断で行動しないか不安視したのである。一方のストレイダスは本拠地の新自由解放区から脱出すると南方地帯へと移動を開始する。移動を開始してより三時間後…。南方地帯に到達したのである。
『如何やら此処が…南方地帯みたいだな…』
ストレイダスは南方地帯に到達するのだが…。確認出来るのは荒廃化した建造物ばかりであり人気は感じられない。
「誰一人として人気は感じられないな…」
『やっぱり此処はゴーストタウンだな…』
南方地帯を探索してより一時間後…。工場らしき建造物を発見する。
『如何やら此処が目的地のドローン工場みたいだな…』
ストレイダスは工場らしき建造物が目的地のドローン工場であると確信…。警戒した様子でドローン工場に進入する。
『早速任務を開始するか…』
ストレイダスが工場内に進入した直後である。
「ん!?貴様は何者だ!?」
「彼奴は侵入者か!?」
ドローン工場の内部には小銃を装備した警備兵達が十数人程度配置され…。
「彼奴は部外者だ!構わん!侵入者を射殺しろ!」
彼等は侵入者であるストレイダスに発砲し始める。
『愚か者達が…銃撃程度で俺を殺せるか…』
ストレイダスは即座に両腕の機械義手を機械式の鉤爪形態に変形…。無数の銃弾を機械義手で無力化したのである。
「畜生が!侵入者は両腕の機械義手で銃弾を無力化しやがったか!」
するとストレイダスは両腕の機械義手を銃器形態に変形…。
『武装した奴等は攻撃対象だったな…完膚なきまでに仕留めるか…』
特殊型高エネルギー銃器サイコブラスターで警備兵達に反撃したのである。高出力の高エネルギー光弾を連射…。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
武装した警備兵達はストレイダスのサイコブラスターで容易に蹴散らされる。
『やっぱり他愛無いな…』
ストレイダスは一階の警備兵達を全滅させると二階の大部屋へと移動する。
『此処には…』
二階の大部屋には六人の作業員らしき人物達が作業中であり侵入者のストレイダスに戦慄したのである。
「ひっ!」
「あんたは…何者だ!?」
作業員達は非武装でありビクビクした様子である。
「安心しろ…貴様等みたいな非力の奴等を打っ殺しても面白くないからな…」
彼等はストレイダスの返答に安堵する。
「あんたは…俺達に手出ししないのか?」
「はぁ…冷や冷やしたよ…」
すると工場長らしき人物が恐る恐るストレイダスに近寄る。
「俺達は此処を管理する技術屋だ…」
彼等は単なる技術屋であり本来は無所属の中立である。今現在ドローン工場はホワイトセイバーの管理下であり彼等はホワイトセイバーに多数の無人兵器を製造させられ…。無料でホワイトセイバーに提供し続けたのである。
「俺達は四六時中重労働だからな…正直限界だよ…」
彼等は奴隷状態であり四六時中無休で強制的に労働させられ…。肉体的にも精神的にも限界だったのである。
「あんたは一体何者だ?軍人みたいだが…」
ストレイダスは工場長に問い掛けられると自身の名前を名乗る。
「俺はストレイダスだ…単なる殺し屋とでも…」
ストレイダスの名前に六人の技術者達は驚愕する。
「ストレイダスだって?あんたが伝説の殺し屋の…」
「あんたがポストヒューマンのストレイダスなのか…こんな場所で本物の殺し屋と遭遇するとは…俺達は不運だな…」
普段なら名乗っただけで戦慄されるのが定番であるが…。彼等は疲労困憊の状態であり畏怖する気力も皆無だったのである。
「俺は此処の戦闘員達を蹴散らせ…ドローン工場を占拠しに参上したのだ…俺に抵抗しないなら俺は貴様等を非戦闘員と判断する…」
ストレイダスの発言に一人の技術者が恐る恐る問い掛ける。
「あんたは此処を占拠って…あんたの所属する組織は?」
「新自由解放軍だ…」
ストレイダスは即答する。
「えっ…新自由解放軍だって?」
新自由解放軍の一言に四人の技術者達は畏怖したものの…。
「俺達はあんた等に協力するから…一休みしたい…」
一人の技術者は一休みを条件に新自由解放軍への協力を承諾したのである。
「一休みしたければ思う存分に一休みしやがれ…」
ストレイダスは彼等に休憩を許可する。
「ん?」
すると直後…。
「轟音か?今度は何事だ?」
外部より轟音が響き渡る。ストレイダスは外部の轟音が気になったのか窓側の様子を確認したのである。
「上空にヘリコプターか?」
一機の大型垂直離着陸機が低空で飛行…。ドローン工場に接近中だったのである。
「ひっ!奴等の…ホワイトセイバーの大型垂直離着陸機だ!」
「此処が爆破されるぞ!」
技術者達は空中の大型垂直離着陸機に動揺し始め…。攻撃に畏怖したのである。大型垂直離着陸機はホワイトセイバー所属の機体でありドローン工場の襲撃中に警備兵が総本部に通信…。侵入者と技術者達諸共ドローン工場の完全爆破を要請したのである。
『奴等…ドローン工場諸共爆破か…』
「止むを得ないな…」
ストレイダスは即座に最下層へと移動し始め…。ドローン工場の屋上にて大型垂直離着陸機を迎え撃ったのである。すると上空の大型垂直離着陸機は対地ミサイルを発射…。十数発もの対地ミサイルが超音速でドローン工場に急接近する。
『こんなミサイル攻撃なんか…』
屋上のストレイダスは即座に右腕をサイコブラスター形態に変形…。サイコブラスターの高エネルギー光弾で十数発もの対地ミサイルを迎撃したのである。ストレイダスはサイコブラスターの連射により対地ミサイルを全弾迎撃出来…。ドローン工場の防衛に成功したのである。
『今度は此奴で…』
ストレイダスは精神力を集中させるとサイコブラスターの銃口から特大の高エネルギー光弾を射出…。サイコブラスターの特大高エネルギー光弾は上空の大型垂直離着陸機に命中したのである。高エネルギー光弾が機体に命中した直後…。大型垂直離着陸機は空中で爆散したのである。
『敵機を撃墜したか…他愛無いな…』
ストレイダスの孤軍奮闘によりドローン工場は新自由解放軍が完全占拠…。工場内で強制労働させられた六人の技術者達も無事に解放されたのである。技術者達は解放の謝意として新自由解放軍に全面協力…。工場内で製造された多数のドローン兵器等を新自由解放軍に無料で提供したのである。

第四話

農地
ドローン工場制圧作戦から三日後の真昼…。ストレイダスは地下壕の密室にてウィルフィールドと合流したのである。
「ストレイダスよ♪ドローン工場も単独で制圧するとは見事であった♪技術者達の協力により多数のドローン兵器も入手出来たのだ♪新自由解放軍の戦力は急上昇したぞ♪」
ウィルフィールドは大喜びするのだが一方のストレイダスは無表情で…。
「ウィルフィールド…今度も任務か?」
ストレイダスは単独任務であると察知する。
『ストレイダスらしい反応だな…』
一方のウィルフィールドはストレイダスの無関心そうな態度に苦笑いするものの…。
「ストレイダスには西方地帯の農村の制圧を依頼したいのだ…」
「今度は農村の制圧か…」
西方地帯は広範囲の農村地帯が開拓され…。実質食糧品の宝庫だったのである。此処も敵軍のホワイトセイバーに占拠され…。数多くの食糧品は彼等が独占したのである。
「俺は農村地帯を牛耳るホワイトセイバーの連中を一蹴するだけか?」
「こんな任務…狂戦士の其方にしか依頼出来ないからな…」
「であれば即刻出掛けるか…」
ストレイダスは西方地帯へと移動する直前…。
「ストレイダス…注意事項だが…」
「注意事項だと?」
「前回のドローン工場同様…標的は村落を牛耳るホワイトセイバーの連中だけだからな…間違っても村民達には手出しするなよ…」
「安心しろ…俺は無抵抗の人間には手出ししない…」
ウィルフィールドの注意事項を承諾する。ストレイダスは本拠地の新自由解放区から西方地帯へと移動したのである。新自由解放区から移動してより二時間後…。目的地の西方地帯へと到達したのである。
『此処が目的地の西方地帯か…随分と殺風景だな…』
西方地帯は広大無辺の殺風景の景色であり村民達の姿形は確認出来ない。
『ホワイトセイバーの奴等は?』
ストレイダスが西方地帯へと進入した直後…。上空より二機のボール型の飛行物体がストレイダスに急接近する。
『ん?警備用のドローンか?』
上空のボール型飛行物体は警備用ドローンだったのである。
「侵入者ヲ発見…侵入者ヲ発見…」
「攻撃シマス…攻撃シマス…」
すると機体中央部分に確認出来る赤色のレンズから高熱のレーザートーチを射出する。対するストレイダスは即座に両腕の機械義手でガード…。レーザートーチを無力化したのである。
『所詮は我楽多だな…こんな程度の火力で俺を仕留められるか…』
ストレイダスは即座に左腕を銃器形態に変形…。サイコブラスターの銃口から小威力の高エネルギー光弾を射出したのである。サイコブラスターの高エネルギー光弾で二機の警備用ドローンは容易に撃墜され…。空中で爆散したのである。
『所詮は鉄屑の玩具…他愛無いな…』
警備用ドローンが爆散した直後…。各家屋から小銃やらサバイバルナイフを装備した戦闘員達が出現する。
「警備用ドローンが破壊されるとは…」
「如何やら貴様が噂話の…ストレイダスって狂戦士みたいだな…」
ストレイダスの存在は各地の戦闘記録から熟知され…。西方地帯でもストレイダスの噂話は周知されたのである。
「貴様等は此処を牛耳る…ホワイトセイバーだな?」
ストレイダスが彼等に問い掛けるのだが…。
「構わん!此奴を射殺しろ!」
一方のホワイトセイバーの将兵達は問答無用で攻撃を開始する。小銃の銃口から無数の銃弾が発砲されたのである。数百発もの銃弾がストレイダスの全身アーマーに直撃するのだが…。ストレイダスはノーダメージだったのである。
「えっ…此奴…」
「銃弾が通用しないのか?」
「此奴…やっぱり怪物だな…」
ストレイダスの機械義手と各部の全身アーマーはユニバースメタルと命名される特殊性超硬合金が使用され…。通常の弾丸では貫通出来ない代物である。
「こんな玩具みたいな武装では俺は仕留められないぞ…」
ストレイダスは左腕のサイコブラスターで周囲の将兵達を小威力の高エネルギー光弾で射殺…。周囲の将兵達を一掃したのである。
『任務は完了か…』
ストレイダスは新自由解放区へと戻ろうかと思いきや…。
「ん?今度は…」
すると前方の地面より金属類の巨大物体が出現したのである。
『此奴は…』
巨大物体は地底重戦車であり車体前方には円錐型の大型ドリルを搭載…。
「地底重戦車か…」
『此奴が此処の主力か…』
地底重戦車とは地底を掘り進む目的で開発された掘削用の特殊車両である。本来の用途としては掘削用の作業車であり非武装であるが…。戦闘用の地底重戦車として改修されたのである。車体の上部には戦車用の戦車砲が搭載され…。対人戦闘用の小型機関砲を二基増設されたのである。
『何が相手だろうと…』
ストレイダスは左手のサイコブラスターから高威力の高エネルギー光弾を射出…。地底重戦車に直撃したのである。
「ん?」
地底重戦車の表面から高エネルギーの防壁が発生し始め…。サイコブラスターの高エネルギー光弾を無効化したのである。
『サイコブラスターが無力化されるとは厄介だな…此奴はシールド装置か…』
地底重戦車は車体内部に高エネルギー系統の武装を無効化出来る特殊シールド発生装置が搭載されたのである。当然としてストレイダスのサイコブラスターでも特殊シールドは貫通出来ない。ストレイダスは無表情であるが…。一瞬驚愕する。
『如何するか?』
すると地底重戦車の車体上部の戦車砲がストレイダスの方向へと作動し始め…。砲撃を開始したのである。
「ん!?」
ストレイダスは咄嗟に砲撃を回避…。
『先程の砲撃…ひょっとして電磁投射砲か?』
電磁投射砲は所謂レールガンである。砲弾の速度は超音速以上とされ…。威力は絶大である。
『電磁投射砲の直撃は俺でも危険だな…』
ストレイダスは一瞬後退りする。電磁投射砲は非常に強力であり頑強のストレイダスでも危険である。
『地底重戦車をスクラップ化するなら…』
ストレイダスは最速で両腕の機械義手を鉤爪形態に変形させる。
「破壊するか…」
ストレイダスは神速の身動きで地底重戦車に急接近したのである。両腕の鉤爪で地底重戦車の車体を両断…。
『地底重戦車を破壊出来たな…』
ストレイダスは地底重戦車の破壊に成功したのである。地底重戦車を破壊した直後…。各家屋から十数人もの将兵達がストレイダスに投降したのである。ストレイダスの孤軍奮闘により西方地帯の農村地帯は新自由解放軍に占拠され…。新自由解放軍は大量の食糧品を確保出来たのである。

第五話

精鋭部隊
西方地帯攻略作戦から六日後の真昼…。新自由解放区の大広間にて大勢の戦闘員達が大集結したのである。
「新自由解放軍の勇士達よ…全員…集合したな…」
総大将のウィルフィールドが周囲の者達を確認する。
「諸君等の奮闘によって難敵のホワイトセイバーが弱体化したのは周知の事実…」
各地の重要拠点の陥落によりホワイトセイバー総軍は大多数の戦力を喪失…。一部であるが軍内部の求心力の低下により新自由解放軍に寝返る将兵達も出始める。各地の残党達は海岸の東方地帯本拠地へと後退したのである。
「精鋭部隊である諸君等に最終任務だ…」
最終任務の一言に彼等は愕然とする。
「えっ…最終…」
「最終任務だって…本当なのか?」
ウィルフィールドは一息したのである。
「諸君等の最後の最重要任務は…東方地帯の海岸に位置する本拠地を占拠…彼等にとって最大戦力である超弩級要塞戦艦〔ヘビーエンプレス〕を拿捕するのだ…」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスとは世界最終戦争で大活躍した超弩級戦略型ミサイル艦である。戦時下での所属勢力こそ不明であるが…。今現在はホワイトセイバーの旗艦として利用される。全長は四百メートル規模と規格外に超大型であり現場の将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称されたのである。本艦の装甲はストレイダスの肉体と同様に特殊性超硬合金ユニバースメタルが駆使され…。ユニバースメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。本艦の兵装は多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速以上の速度で発射出来る電磁投射連装砲が搭載されたのである。対空用の兵装として高エネルギー機関砲八基と実弾系統の対空機関砲を合計四基搭載される。甲板の後方には艦載機として一機の大型輸送機か偵察用の小型無人機を十二機搭載出来る。艦内底部には合計四席の上陸用舟艇…。四両の重戦車を搭載出来る。本艦の動力炉は特殊無限機関とされるリアクターボールであり航続距離は実質無限海里とされる。特殊設備として艦橋上部に高性能型レドームが設置され…。艦内にはホログラム装置やら高エネルギー系統の武装を遮断出来る特殊シールド装置が搭載される。
「ホワイトセイバーは各地の重要拠点を喪失したが…奴等の戦力は依然として健在である!奴等にとって最大戦力であるヘビーエンプレスを拿捕しなくては…新自由解放軍がホワイトセイバーに勝利するのは不可能であろう…」
ウィルフィールドは再度一息する。
「奴等のヘビーエンプレスを確保出来れば…最早全世界を制覇したのも同然なのだ!各地の悪党達から全世界の万民を解放出来る…」
ヘビーエンプレスには大都市部をも一撃で焦土化させられる特殊弾頭ミサイルを搭載したとの噂話も確認出来…。ホワイトセイバーから本艦を拿捕出来れば全世界の主導権獲得も容易とされる。
「今回の任務が成功すれば…新時代の覇者は俺達で確定だからな!」
ウィルフィールドの発言に戦闘員達の戦意が発揚し始める。
「俺達が新世界の覇者か!」
「今回の任務♪ワクワクするな♪」
「思う存分に大暴れするぜ!」
戦闘員達はワクワクした様子であったが…。
『愚か者達が…いい気味だな♪無法者集団の分際で何が精鋭部隊だ…』
ウィルフィールドは彼等の様子に一瞬ニヤリと冷笑したのである。
『所詮貴様等無法者連中は俺にとって手駒同然なのだからな♪こんな烏合の衆でも…陽動作戦では役立つかも知れないな♪』
ウィルフィールドにとって彼等は手駒以下の存在であり自身の判断で不要であると判断した者達を選出…。名ばかりの精鋭部隊として集合させたのである。
『今回の大作戦で無法者連中が一掃されれば♪一先ず食糧問題は解決だな♪』
今回の大規模作戦は表向きこそヘビーエンプレスの拿捕であるが…。本来の目的は部下達に対する食糧問題の打開であり不要人員の削減である。
『ホワイトセイバーの旗艦ヘビーエンプレスは一強のストレイダスに一任すれば大丈夫だろう…今回の作戦は一石二鳥だな♪』
新自由解放軍最精鋭のストレイダスには事前にホワイトセイバー旗艦ヘビーエンプレスの拿捕を要請…。彼に極秘の単独任務を承諾させたのである。翌日の早朝…。新自由解放軍の名ばかり精鋭部隊は総勢六百人以上の総人員でホワイトセイバー本拠地へと進軍したのである。最低限であるが…。彼等には旧式軽戦車数両が投入される。名ばかり精鋭部隊は本拠地の新自由解放区から移動してより四時間後…。目的地とされる東方地帯の海岸近辺へと到達したのである。
「ひょっとして海岸の大型船が…目的のヘビーエンプレスか?」
「此奴は想像以上の巨大さだ…ヘビーエンプレスは本物の移動要塞だな…」
「此奴が過去の大戦争で活躍した巨大戦艦か…ホワイトセイバーの奴等はこんな代物を保有するとは…」
新自由解放軍の戦闘員達は海岸に停泊中の旗艦ヘビーエンプレスに驚愕する。すると戦闘員の一人が恐る恐る…。
「彼奴は?」
「彼奴って?誰だよ?」
「ストレイダスだよ…ストレイダスの野郎は?」
「えっ…ストレイダスだって?」
「彼奴は総大将のお気に入りだよな?今回の最終任務ではストレイダスの野郎は参加しないのか?」
今回の大作戦では随一の最精鋭であるストレイダスが不在だったのである。
「彼奴…一人で逃げちまったのかよ!?」
「ストレイダスの野郎!折角の最終任務で…」
「ストレイダスの野郎は気紛れなのか?今回の大作戦こそ彼奴が重要なのに…」
「今回の任務…ストレイダスが不在で大丈夫なのか?」
「俺達だけで…任務を達成出来るのか?」
彼等はストレイダスの不在に不安視する。すると直後である。
「えっ…」
ホワイトセイバーの本拠地である軍港にて停泊中の超弩級要塞戦艦…。ヘビーエンプレスが攻撃を開始する。前後の甲板より対地ミサイルが多数発射されたのである。
「多数のミサイル攻撃だ!」
「着弾するぞ!逃げろ!」
対地ミサイルの飽和攻撃により新自由解放軍の名ばかり精鋭部隊は総崩れ…。十数発もの対地ミサイルの着弾により合計三百人もの戦闘員達が死傷したのである。
「大丈夫か!?」
「今度は敵艦の主砲が起動し始めたぞ!退避だ!総員退避!」
今度は主砲である電磁投射連装砲で砲撃を開始…。一度の砲撃で二百人以上の戦闘員達が即死したのである。電磁投射連装砲の砲撃により推定二キロメートルの地面が陥没…。即死した戦闘員達は遺体が完膚なきまでに蒸発したのである。実質ヘビーエンプレスの飽和攻撃によって新自由解放軍の名ばかり精鋭部隊は壊滅…。残存した大半の戦闘員達が恐怖心で主戦場から逃亡し始めたのである。

第六話

拿捕
新自由解放軍の名ばかり精鋭部隊が撤退を開始し始めた同時刻…。ヘビーエンプレス艦内ではホワイトセイバーの乗組員達がホログラム装置により立体化された戦場の立体映像を観戦したのである。
「此奴は圧倒的だな…新自由解放軍の地上部隊は実質総崩れか…」
「やっぱり俺達の圧勝だな♪地上部隊程度で史上最強の海上移動要塞…ヘビーエンプレスに真正面から挑戦するなんて自殺行為だぜ♪」
「陸上部隊の奴等はこんな烏合の衆を相手に後退させられたのか?」
彼等は冷笑し始める。すると一人の戦闘員が恐る恐る…。
「俺達の最終手段…特殊弾頭で奴等の本拠地を一掃させないか?形成逆転のチャンスだぜ…新自由解放区を陥落させれば俺達の天下は確定的だぞ…」
「特殊弾頭か…最早極悪非道の奴等に手加減は不要だな…」
彼等は特殊弾頭の使用に賛成したのである。
「早速特殊弾頭の安全装置を解除しろ♪」
乗組員達は早速特殊弾頭の発射準備を開始する。
「攻撃目標は当然として…本拠地の新自由解放区だな♪」
特殊弾頭の安全装置を解除する寸前…。艦橋上部に設置された高性能型レドームが反応したのである。
「ん?レドームが反応したぞ…」
「一体何事だ?大勝利の瞬間なのに…」
一人の乗組員が艦内のホログラム装置を作動させる。
「ん?此奴は味方の攻撃ヘリコプターだろうか?」
ホログラム装置は立体化された攻撃ヘリコプターを映写させたのである。
「レドームは上空の攻撃ヘリコプターに反応したのか…」
「此奴は味方の機体だが…敵軍に鹵獲された攻撃ヘリコプターだぞ…此奴は敵軍の新手だろうか?」
甲板後方の上空より…。新自由解放軍に鹵獲された一機の攻撃ヘリコプターがヘビーエンプレスに急接近したのである。
「ひょっとして奴等の残党か?」
「人騒がせだな…一機の攻撃ヘリコプターでヘビーエンプレスに接近するなんて…この期に及んで自爆攻撃でも仕掛けるのか?」
「最早奴等に手加減は不要だ…敵機を撃墜するぞ…」
甲板後方に搭載された対空用の高エネルギー機関砲が作動し始め…。急接近中の攻撃ヘリコプターを標的に高エネルギー光弾が射出されたのである。高エネルギー光弾は数秒間で上空の攻撃ヘリコプターに直撃…。機体は上空にて爆散したのである。艦内の乗組員達は上空の光景をホログラム装置で観戦する。
「敵軍の攻撃ヘリコプターを撃墜したな…」
「当然だろう…攻撃ヘリコプター一機で鉄壁のヘビーエンプレスに挑戦するとは無謀なのだ…」
「兎にも角にも…特殊弾頭で奴等の本拠地を焦土化させるか…」
特殊弾頭を発射する直前…。艦内の警報装置が作動したのである。
「ん!?艦内の警報装置が作動し始めたぞ!」
「警報装置だと!?今度は何事だ!?」
突然の警報装置の作動にブリッジ内部の乗組員達は動揺し始める。警報装置が作動し始めた数秒後…。何者かがブリッジ内部に侵入したのである。
「なっ!?貴様は一体…何者だ!?」
「此奴は敵兵か!?如何してこんな場所に侵入出来た!?」
大勢の乗組員達が侵入者に動揺するのだが…。一人の乗組員が冷静に問い掛ける。
「敵兵がこんな場所に潜入出来るとは…貴様は一体何者だ?」
乗組員達の問い掛けに侵入者は名前を名乗り始める。
「俺の名前は…ストレイダスだ…」
ストレイダスの名前に乗組員達は畏怖したのである。
「ストレイダスだと?」
「ストレイダスって…貴様が伝説の殺し屋の…」
「此奴が噂話の怪物みたいな兵士か…近頃は東方地帯のスラム街やらドローン工場を単独で制圧したらしいな…」
ストレイダスの存在は敵軍のホワイトセイバーでも有名であり怪物みたいな兵士として周知される。
「敵軍の本命は…此奴だったのか?」
「であれば先程の…地上の大部隊は陽動だったのか…」
大半の者達が恐怖心で全身が身震いする。
「狼狽えるな!こんな野郎!」
一人の乗組員が拳銃を携帯したのである。一方のストレイダスは呆れ果てる。
『愚か者が…』
ストレイダスは右腕を銃器に変形させる。サイコブラスターの銃口から小威力の高エネルギー光弾が発射され…。
「ぎゃっ!」
乗組員の一人をサイコブラスターで殺害したのである。一方のストレイダスは周囲の者達に無表情で問い掛ける。
「今度は…誰が死にたいか?死にたければ俺に抵抗しろ…」
乗組員達は警戒した様子で恐る恐るストレイダスに投降…。
「降参するよ…」
「降参だ…俺達は抵抗しない…」
「旗艦も特殊弾頭も放棄するからよ…俺はこんな場所で死にたくないからな…」
彼等はストレイダスに命乞いしたのである。
『命乞いか…』
ストレイダスは当初こそ彼等を殺そうかと思考するのだが…。
『命乞いとは情けない奴等だが…正直こんな無価値の奴等を打っ殺しても面白くないからな…』
ストレイダスにとっては戦闘こそが唯一の娯楽であり無抵抗の人間達を殺戮するのは面白くないと思考する。
「貴様等は幸運だったな…俺の気紛れで命拾い出来たのだから…」
するとストレイダスはブリッジ内部から退室したのである。ブリッジ内部の乗組員達は命拾い出来…。安堵したのである。
「はぁ…一瞬ストレイダスに殺されるかと…」
「やっぱり殺し屋の彼奴が相手では…新自由解放軍に勝利出来たとしても…正直ストレイダスは何を仕出かすか予想出来ないな…」
「如何するよ?ストレイダスが相手だと此の先…投降する以外に…」
「単独でヘビーエンプレスの艦内に潜入出来る規格外の兵士だからな…」
「投降も止むを得ないか…」
彼等は不本意であるが…。新自由解放軍への投降を決定したのである。戦闘終了後…。ストレイダスの奇襲によって今回の戦闘も新自由解放軍の辛勝に終了したのである。新自由解放軍は名ばかり精鋭部隊こそ陽動作戦で壊滅するのだが…。攻撃ヘリコプターによるストレイダスの艦内への突入により超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスと特殊弾頭は無力化されたのである。今回の戦闘により現地のホワイトセイバーは全面的に投降…。残存戦力と各人員は新自由解放軍の戦闘員として吸収されたのである。主力の超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスと多数の大型輸送艦を拿捕した新自由解放軍は目標の第一段階であったエルピスコロニア全域の国家化に成功…。新自由解放軍最高指導者のウィルフィールドはエルピスコロニア全土の最高指導者として君臨したのである。

最終話

攻略目標
ホワイトセイバー旗艦…。ヘビーエンプレス強奪作戦から三日後の早朝である。ウィルフィールドとストレイダスは地下壕の密室で対談する。
「ストレイダス♪其方の大活躍によって新自由解放軍はエルピスコロニア全域の主導権を掌握出来たのだからな♪其方の功績は絶大だ!」
ウィルフィールドは新自由解放軍の勝利は勿論…。念願だったエルピスコロニアの主導権掌握に大満足の様子であり一日中上機嫌だったのである。
「其方は大勝利の功労者であるからな♪ストレイダスには感謝しても感謝し切れない♪是非とも其方には新自由解放軍の次期総帥を任命したいな♪」
ウィルフィールドにとってストレイダスは自身の後釜候補であったが…。ストレイダス本人は無関心そうな態度だったのである。
「任務は?今後は如何するよ?ウィルフィールド?」
ストレイダスの無関心そうな態度にウィルフィールドは内心苦笑いする。
『最初の一言で任務って…ストレイダスは本当に戦闘以外の物事には無関心だな…』
ウィルフィールドはストレイダスの態度に苦笑いするものの…。ストレイダスの問い掛けに返答したのである。
「目標の第一段階は無事に達成出来たが…最終目標である全世界制覇には程遠いからな…今後も其方の協力が必要不可欠だろう…」
今現在世界各地は荒廃化した状態であり武装勢力やら無法者集団が彼方此方に小規模の拠点を構築…。一定の勢力圏を支配した状態だったのである。
「前回の大作戦で俺達はヘビーエンプレスと相当数の人員を確保出来たからな♪何よりも大量破壊兵器の特殊弾頭を入手出来たのは奇跡だ♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスの艦内には戦略兵器の大型特殊弾頭を二発搭載出来…。新自由解放軍は大量破壊兵器の特殊弾頭を確保出来たのである。
「今後は各大陸の上陸作戦も容易に出来るだろうよ♪」
「今後は俺達でも戦争らしい戦争が出来るのか?」
ウィルフィールドはストレイダスの問い掛けに満面の笑顔で返答する。
「勿論だとも♪ストレイダス♪今後は新自由解放軍でも各地で戦争らしい戦争が展開出来るからな♪場合によっては特殊弾頭を使用出来るかも知れないな♪」
ホワイトセイバーから超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスやら相当数の必要人員を確保した結果…。今後は大陸での大規模作戦も容易に展開出来るとされる。
「今後の任務は如何するよ…ウィルフィールド?」
「今度の攻略目標だが…極東の大洋に存在する…東洋の孤島を攻略する予定だ♪東洋の孤島なら大艦隊の軍港としても活用出来そうだからな…」
東洋の孤島には荒廃化した軍港が確認され…。大型船の停泊施設として好都合だったのである。
「東洋の…孤島だと?」
「世界最終戦争が勃発する以前は高度の文明社会が形成されたみたいだが…今回の任務では今迄みたいな戦闘は期待出来ないだろうな…」
旧世界最終戦争が勃発する数十年前…。極東の孤島には極東の理想郷と呼称された小規模の島国が存在したのである。極東の島国は歴史的文化財が豊富だったらしく非常に繁栄したものの…。時代の変化により幾多の繁栄と衰退を経験したのである。最終的には超大国の最重要軍事拠点として利用され…。旧世界最終戦争の勃発により国全体が焦土化したのである。今現在は陸地の一部に建造物の残骸が確認出来るものの…。島内は自然林ばかりの無人地帯同然だったのである。
「無人島の攻略だと?今回は面白くないな…」
ストレイダスは任務内容に落胆する。
「真偽は不明だが…数千年前の伝承だろうか?」
「数千年前の伝承だと?」
極東の孤島には太古の大昔…。荒唐無稽の魔女伝説が有名であり荒廃化した新世界でも一部の生存者達が極東の魔女伝説を熟知する。
「極東の孤島では太古の大昔に荒唐無稽の魔女達が存在したらしいぞ♪ひょっとするとストレイダスは今回の任務で本物の魔女に遭遇出来るかも知れないぞ♪」
ウィルフィールドは興味深そうな様子で発言する。
「魔女伝説なんて…子供騙しだな…」
ストレイダスはウィルフィールドの冗談に呆れ果てる。
「所詮魔女なんて迷信かも知れないが…現実世界に荒唐無稽の魔女が存在したら面白いよな♪俺も荒唐無稽の魔女に遭遇出来るなら遭遇したい気分だよ♪」
荒唐無稽の魔女の存在を夢見るウィルフィールドにストレイダスは呆れ果てた様子で凝視したのである。
『何が荒唐無稽の魔女だよ…此奴は子供みたいだな…』
するとウィルフィールドは一息する。
「兎にも角にも…極東の孤島には現地の住民は存在しないだろうが…今度は極東の無人島を占拠する!部下達にも伝播するからな…ストレイダスは下準備するのだぞ…」
「嗚呼…」
『極東の孤島には…今現在でも荒唐無稽の魔女とやらが存在するのか?』
ストレイダスは無表情であったが…。内心極東の無人島に荒唐無稽の魔女が存在するのか興味深くなる。
完結

ジャンル
SFアクション
バイオパンク

世界観
世紀末的世界

登場キャラクター
【ウィルフィールド】
出身地:サウスアイアンド共和国※テロ支援国家
年齢:45歳
分類:人間
性別:男性
所属:新自由解放軍
身長:197cm
体重:97kg
血液型:AB型
一人称:私、俺
性格:苛烈、厳格、野心的、支配的
趣味:ライフル射撃、長期間の船旅、工作活動

【ストレイダス】
出身地:不明
年齢:不明※20代後半〜30代前半
分類:ポストヒューマン、サイボーグ
性別:男性
所属:新自由解放軍
異名:伝説の殺し屋、地獄の殺人鬼
身長:168cm
体重:770kg
血液型:不明
一人称:俺
性格:好戦的、無欲恬淡、合理的、気紛れ
趣味:戦闘、戦争、昼寝

【フィルドルク】
出身地:イーストアイランド
年齢:不明※20代後半〜30代前半
分類:ポストヒューマン、サイボーグ
性別:男性
所属:ホワイトセイバー
異名:処刑者、人間兵器
身長:168cm
体重:770kg
血液型:不明
一人称:俺
性格:冷徹、好戦的、合理的
趣味:戦闘、戦争、狩猟

登場兵器
〔サイコブラスター〕
分類:特殊型高エネルギー銃器
材質:ユニバースメタル※特殊性超硬合金
エネルギー源:精神力

〔ヘビーエンプレス〕
分類:超弩級戦略型ミサイル艦
別名:超弩級要塞戦艦
所属:ホワイトセイバー〜新自由解放軍
全長:400m
全幅:80m
全高:90m
全備総重量:70万t※満載排水量
全速力:33ノット
全出力:33万馬力
航続距離:無限海里
乗組員:15人〜20人
輸送要員:160人〜180人前後
兵装
990mm電磁投射連装砲:2基
150mm高エネルギー機関砲:8基
120mm対空機関砲:4基
多目的ミサイル発射機:80基
特殊弾頭:2基
艦載機:1機※大型輸送機〜12機※小型無人機
上陸用舟艇:2隻〜4隻
重戦車:2両〜4両
装甲
主砲装甲:880mm
舷側装甲:660mm
甲板装甲:550mm
動力炉:リアクターボール※特殊無限機関
装甲材質:ユニバースメタル
特殊設備
高性能型レドーム
ホログラム装置※立体映像
特殊シールド装置

登場国家
〔エルピスコロニア〕
総人口:130万人

作中用語
〔ポストヒューマン〕新人類※人造人間

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桜花姫 ( No.41 )
日時: 2021/08/17 09:54
名前: 月影桜花姫

第七話

魔獣

一週間後の早朝…。太平神国の裏側に位置する孤島では神族の冥王鬼が到達する。
「今現在でも近海の海底下に…」
(十二人の最高神によって封印された魔獣が存在するか…)
数百万年前の超古代時代…。神族の最盛期であり地上界には高度化された無数の神族による文明社会が構築されたのである。とある望月某日…。天空より全長が小大陸規模もの魔獣が出現したのである。魔獣は世界各地で暴れ回り大勢の神族やら人間達を虐殺…。大陸の陸地をバリバリと食い散らかしたのである。神族でも最強の部類である十二人の最高神と交戦…。長期戦であったが最高神の神通力によって魔獣は深海底にて封印されたのである。魔獣の封印には成功するも…。十二人の最高神は神通力の消耗によって衰弱死したのである。魔獣の暴走によって地形が大幅に変化…。魔獣の暴走こそ神族が弱体化する決定的要因だったのである。
「今回は超古代に神族を殺害した魔獣を復活させ…地上界の人間達を駆逐する…」
冥王鬼は天道眼の効力により結界を発動…。目的地である深海底へと移動したのである。数分後…。冥王鬼は目的地の海底下へと到達する。周辺は暗闇の海中であったが目的地の海底下中心部には規格外の巨大海亀らしき岩石物体が確認出来る。
「此奴が…魔獣…【羅刹獣】か…」
羅刹獣は全身が凸凹の岩石の肉体である。凸凹した岩石の甲羅には無数の巨大人面…。尻尾の部分は巨大海蛇が確認出来る。封印された羅刹獣の全身には金剛石で形作られた巨大鉄鎖により封殺され…。完全に身動き出来ない状態である。すると冥王鬼の神通力に反応したのか巨大人面の一部が海中を浮遊する冥王鬼をギロッと直視する。
「こんな深海底に小娘か?貴様…一体何者だ?」
巨大人面は人語で発言したのである。
「私は…冥王鬼…神族の一員だ…」
「貴様…神族の小娘か?今度こそ封印された私を死滅させるか?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「貴様を封印から解放する…」
封印から解放すると発言した冥王鬼であるが…。羅刹獣の巨大人面は失笑したのである。
「貴様正気か?最高神ですら衰弱化させた私を貴様みたいな小娘が解放するとは…貴様は余程の命知らずであるな…」
「鬱陶しい…貴様は解放されたくないのか?」
「復活させた瞬間…私は再度暴れ回る…今度こそ全世界の滅亡は確定的であるぞ…」
「地上界全域を滅亡させるには貴様の絶大なる魔力が必要不可欠なのだ…地上界の滅亡は私にとって好都合…」
「地上界の滅亡か…」
すると今度は別の巨大人面が発言する。
「貴様が私を封印から解放するのか!?であれば即刻封印を解除させろ!今度こそ大暴れして全世界を打っ壊すからよ♪」
別の巨大人面は失笑するなり…。
「私を復活させた瞬間…チビッ子の姉ちゃんを食い殺しちまうぜ♪」
巨大人面の発言に冥王鬼は呆れ果てる。
「封印から解放させたとしても今現在の羅刹獣は弱体化した状態だ…間違っても天道眼を所持する私を殺せないぞ…」
長期間の封印の効力からか羅刹獣の魔力は超古代時代から相当弱体化したのである。
「畜生が…本調子であればこんな小娘簡単に打っ殺せるのだが…」
「今現在の状態であれば…貴様に協力するのが正解みたいだな…」
「神族の小娘に協力するのは気に入らないが…止むを得ない…」
(交渉成立だな…)
冥王鬼は微笑する。
「早速貴様の封印を解除する…」
冥王鬼は瞑目するなり…。
「天道眼…発動!」
群青色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「羅刹獣…貴様の封印を解除する…はっ!」
直後…。念力の効力により羅刹獣の全身の身動きを封殺した金剛石の巨大鉄鎖がバリっと破壊されたのである。すると封印が全面的に解除され…。本体の先端部分に位置する頭部がハイテンションで大喜びしたのである。
「ヤッタゼ!トウトウフウインガカイジョサレタカ!ヒサカタブリニチジョウデオオアバレシテヤルゼ!」
本体の先端に位置する頭部部分が冥王鬼を直視するなり…。
「フウインヲカイジョシタノハシンゾクノネエチャンカ!?アリガトサンヨ♪チジョウノガイチュウドモヲクイコロシニデカケルカ!」
(此奴…下手すれば扱い切れないかも知れないな…)
羅刹獣は殺戮と破壊のみの破壊者である。本来の魔力が戻れば天道眼を駆使しても羅刹獣をコントロールするのは非常に困難であると感じる。
(羅刹獣が多少弱体化したのが何よりだな…)
同時刻…。深海底地帯のアクアユートピアでは深海底魔女のスキュランが魔法の水晶玉で深海底の異変をキャッチする。
「えっ?」
(水晶玉が反応したわ…)
魔法の水晶玉を直視するなり…。
「なっ!?此奴は…」
魔法の水晶玉には冥王鬼と封印が解除された羅刹獣が映写される。
「此奴は超古代に地上界で暴れ回った魔獣…羅刹獣だったかしら?」
(胸騒ぎの原因は此奴だったのね…)
スキュランは恐怖心からか全身がプルプルする。
「伝承では羅刹獣の大暴れで全世界が滅亡寸前だったとか…」
魔法の水晶玉に映写された冥王鬼を直視したのである。
(羅刹獣は封印が解除されたのかしら?ひょっとして小柄の少女が羅刹獣の封印を…)
「兎にも角にも…アクアユートピアの人魚達には国外の外出を徹底的に禁止させないと…」
スキュランは即刻国外への外出禁止をアクアユートピア全域に発令…。国外への外出は全面禁止され国境は完全に封鎖されたのである。二人の人魚の側近がスキュランの家屋敷に訪問する。
「スキュラン様…国外への外出禁止を発令しました!」
「国境もシールド魔法で封鎖しました…国内の安全は確保出来た模様です」
「完了したのね…上出来だわ…」
するとドアがノックされたのである。
「誰かしら?」
ウェンディーネがソワソワした様子で入室する。
「スキュラン!大変よ!」
「えっ!?今度は何事!」
ウェンディーネの様子にスキュランは吃驚したのである。
「アクアヴィーナスが…出掛けちゃったの…」
彼女は落涙する。
「えっ…アクアヴィーナス…国外に出掛けちゃったの!?」
スキュランは呆れ果てる。
「はぁ…」
(彼女は人一倍弱虫なのにトラブルメーカーね…)
すると側近は恐る恐る…。
「スキュラン様…彼女を救出しますか?」
スキュランは一息する。
「彼女には悪いけれど…救出は出来ないわ…」
「えっ!?スキュラン!?」
スキュランの発言にウェンディーネはビクッと反応したのである。
「アクアヴィーナスは如何なるのよ!?」
「正直私にはアクアユートピアの国内を守護するのが精一杯なの…彼女には悪いけど…」
「スキュラン…」
ウェンディーネは絶望する。同時刻…。国外へと出掛けたアクアヴィーナスは深海底を移動中に極度の胸騒ぎを感じる。
(先程から胸騒ぎを感じるわ…)
恐怖心によりビクビクする。
「アクアユートピアに戻ろうかな…」
戻ろうかと思いきや…。海底下を直視すると岩石の塊状が移動するのを発見する。
「えっ…」
(何かしら…)
岩石の移動物体は規格外の巨大さである。海底下の移動物体を凝視し続けると上部の表面には無数の巨大人面が確認出来る。
「ひっ!」
(人面だわ…)
無数の巨大人面にアクアヴィーナスは畏怖したのである。移動物体を凝視し続けると小大陸規模の規格外の巨大海亀であると認識する。
(ひょっとして海亀の怪物かしら?)
すると甲羅の表面に存在する巨大人面の一部が直上のアクアヴィーナスを発見するなり…。
「ん?彼奴は人魚の小娘か?」
巨大人面は人語で発言したのである。
「如何やら人魚の小娘みたいだな…」
「肩慣らしには好都合だが…如何する?」
「人魚の小娘を食い殺しちまうか?」
無数の人面が相談し始める。すると本体の先端に位置する海亀の頭部が大声で…。
「セナカノガンメン!サッキカラコソコソハナシヤガッテ…オレハクウフクナンダ!ダイチヲクウノガサキダ!アンナコバンザメデハハラノタシニモナラン…ホウチシテオケ!」
海亀の頭部が怒号すると甲羅の無数の人面は沈黙したのである。海亀の怪物は大南海へと直進…。アクアヴィーナスは命拾いしたのである。
「はぁ…はぁ…」
(一瞬食い殺されるかと…)
アクアヴィーナスは周辺を警戒するなり…。
(先程の怪物は一体何者だったのかしら?)
「イーストユートピアの桜花姫なら海亀の怪物を退治出来るかな?」
アクアヴィーナスは即刻太平神国に直行したのである。同時刻…。桜花姫は暇潰しに東国の茶店に来店したのである。彼女は大好きな桜餅を頬張る。
「桜餅は美味ね♪」
すると彼女の背後より…。
「桜花姫♪」
何者かが彼女の背中を接触する。
「きゃっ!」
桜花姫は驚愕したのである。
「誰よ!?吃驚するじゃない!」
背後を直視すると背後の人物は氷麗姫…。彼女だったのである。
「えっ?氷麗姫…あんただったのね…」
「御免あそばせ♪」
笑顔で謝罪する。
「あんた…吃驚させないでよね…折角の娯楽が台無しじゃない…」
「御免♪御免♪」
氷麗姫も同席したのである。
「今日は何事かしら?」
桜花姫が問い掛けると氷麗姫は真剣そうな表情で…。
「あんたの妹分の小猫姫だけどね…今日の早朝に自害し掛けたの…」
「えっ…小猫姫が自害ですって…」
蛇骨鬼が老衰してより小猫姫は精神的に参ったのか出刃包丁で自害し掛けたのである。
「今日は私が阻止したから大丈夫だったけど…」
今回は氷麗姫の参上により氷結の妖術を駆使…。危機一髪自害を阻止したのである。
「一歩間違えれば…彼女…本当に自殺しちゃうかも…」
「小猫姫…」
蛇骨鬼の霊体との会話により自然界と一体化した事実を小猫姫に説明するも…。彼女は納得しなかったのである。
「小猫姫は?」
「三蔵郎の寺院よ…」
今現在小猫姫は三蔵郎の寺院で寝転び…。三蔵郎が彼女の様子を見守る。
「三蔵郎様…大丈夫かな?」
(正直不安だわ…)
小猫姫が脱走しないか正直不安だったのである。
「大丈夫よ…桜花姫♪三蔵郎は人間だけど死霊餓狼とも互角に接戦した実力者なのよ♪小猫姫でも簡単には…」
直後…。桜花姫の姿形が消失する。
「えっ!?桜花姫は!?」
同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により三蔵郎の寺院へと瞬間移動したのである。
「三蔵郎様?」
玄関の戸口をノックするのだが…。
「無反応ね…」
桜花姫は恐る恐る寺院へと進入したのである。
「三蔵郎様は…」
客室へと入室すると客室では三蔵郎がグッタリとした表情で横たわる。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫はソワソワした表情で三蔵郎に近寄るなり安否を確認する。
「はぁ…」
(三蔵郎様は大丈夫そうね…)
ホッとしたのか一安心したのである。すると横たわる三蔵郎の左側の真横には木魚が確認出来る。
「如何して木魚がこんな場所に…」
すると横たわった三蔵郎が目覚める。
「うっ!私は…」
「三蔵郎様?大丈夫?」
「えっ?桜花姫様でしたか…ん!?小猫姫様…」
「小猫姫?」
三蔵郎は恐る恐る…。
「私は…小猫姫様に木魚で殴打されて…」
「えっ!?小猫姫が!?」
桜花姫はゾッとしたのである。
(ひょっとして彼女…)
彼女は恐怖心からか全身が身震いする。即座に二階の居間へと移動したのである。
「えっ?桜花姫様?」
二階の居間に到達すると屏風を直視する。
「小猫姫…」
屏風に装飾された霊斬刀が無くなったのである。
「えっ!?私の霊斬刀が…」
三蔵郎は精神的ショックからか全身が脱力する。
「一体誰が…私の霊斬刀を窃盗したのでしょうか…」
桜花姫は小声で…。
「小猫姫かしら…」
「えっ?小猫姫様が?」
「三蔵郎様…御免なさいね…」
桜花姫は自分自身に口寄せの妖術で小猫姫の居場所へと自身を口寄せしたのである。小猫姫は霊斬刀を所持した状態で東国と南国の国境に位置する山道にて移動する。
「えっ…桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は突発的に出現した桜花姫と遭遇…。一時的に佇立する。
「私からは逃げられないわよ…大人しく霊斬刀を渡しなさい…」
すると小猫姫は睥睨するなり…。
「渡さない…今日は私の命日なの…」
小猫姫は落涙したのである。
「私を死なせてよ…桜花姫姉ちゃん…」
「はぁ…小猫姫…」
桜花姫は呆れ果てる。
「あんたが自害したって…誰も大喜びしないわよ…」
「私は一人では何も出来ないし…未来に希望なんて無いよ…」
「あんた…」
「私を殺したければ殺せば?桜花姫姉ちゃんの大好きな桜餅に変化させて私を食い殺しちゃえば?」
苛立った桜花姫は無表情で…。
「小猫姫?」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
力一杯小猫姫の頬っぺたを引っ叩いたのである。
「きゃっ!」
小猫姫は地面に横たわる。
「あんたみたいな意気地なしは桜餅に変化させても不味いだけよ…」
桜花姫は無表情であり霊斬刀を回収する。
「霊斬刀は三蔵様の所有物だからね…」
すると桜花姫は再度無表情で発言したのである。
「今日からあんたとは絶縁ね…自害したければ勝手に自害しなさい…」
桜花姫は退散したのである。移動中…。
(小猫姫の馬鹿…)
涙腺より涙が零れ落ちる。小猫姫の様子が気になるのか再度戻ろうかと思いきや…。突発的にグラグラッと地面が地響きにより震動したのである。
「なっ!?」
(ひょっとして地震かしら…)
地響きは数秒間で沈静する。
「先程の地響きは一体何だったのかしら?」
すると彼女の前方より…。
「桜花姫!」
「えっ…」
ピンク色のロングドレスと赤髪の小柄の女性が桜花姫に近寄る。
「あんたはアクアユートピアのアクアヴィーナス?」
「はぁ…はぁ…桜花姫…」
赤髪の女性はアクアユートピアのアクアヴィーナスであり非常にソワソワした様子だったのである。
「大丈夫?アクアヴィーナス?今度は何事かしら?」
「桜花姫…大変なの!」
アクアヴィーナスは真剣そうな表情で…。
「西海の深海底で海亀みたいな怪物が出現したの!陸地みたいに巨体だったわ…」
「海亀みたいな怪物?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
(幼少期に蛇骨鬼婆ちゃんが…先程の地震は怪物の仕業かしら?)
神族の昔話で旧世界を襲撃した巨体の怪物の伝承を想起したのである。
(大昔の伝承と関連するかしら…)
「気になるわね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「如何しましょう…」
彼女は恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。
「海亀の怪物の正体が旧世界を襲撃した魔獣であれば…私以外では対抗出来ないわ…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは絶望により沈黙する。
(最上級妖女の私でも全世界規模の怪物を攻略出来るかしら…)
普段なら大喜びで征伐に出掛けるのだが…。今回の戦闘は今迄の戦闘とはスケールが桁外れであり自身の妖力のみで怪物に対抗出来るかは正直未知数だったのである。
「アクアヴィーナスは東国の三蔵郎様の寺院で待機しなさい…寺院へは私が案内するから…」
「えっ?三蔵郎様って誰なの?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「三蔵郎様は人間の僧侶よ♪仏様を擬人化した存在だから大丈夫よ♪」
「えっ?はぁ…」
アクアヴィーナスは珍紛漢紛であったが桜花姫と一緒に東国の寺院へと急行したのである。
「三蔵郎様!」
桜花姫は玄関をノックする。
「えっ?桜花姫様…ん?同行者の女性は?」
アクアヴィーナスは恐る恐る名前を名乗る。
「私は…アクアヴィーナスです…」
すると桜花姫が笑顔で紹介する。
「彼女は人魚王国のアクアユートピアの人魚なの♪」
「貴女様は異国の人魚の女性ですか♪」
三蔵郎は一瞬アクアヴィーナスに見惚れる。
「三蔵郎様…一定の時間だけど…彼女を保護出来ないかしら?」
「保護ですと?」
桜花姫は超古代の魔獣が出現した事実を洗い浚い報告したのである。
「えっ!?旧世界に封印された魔獣が出現したのですか!?」
するとアクアヴィーナスがボソッと一言…。
「私は深海底で海亀みたいな怪物と遭遇しました…遭遇した当初は魔獣に食い殺されるかと…」
アクアヴィーナスは恐怖心から涙腺から涙が零れ落ちる。
「ですがアクアヴィーナス様が無事なのが何よりですよ♪」
「感謝します…」
桜花姫は三蔵郎に霊斬刀を手渡したのである。
「三蔵郎様?」
「えっ?霊斬刀…」
すると三蔵郎は恐る恐る…。
「小猫姫様は無事ですか?」
問い掛けられた桜花姫は一瞬ビクッと反応するも笑顔で返答する。
「彼女なら…大丈夫よ♪小猫姫は自害しないって約束したから♪」
「であれば一安心ですね♪」
「小猫姫はソッとしましょう…」
「承知しました♪」
直後である。再度地面がグラグラッと震動する。
「なっ!?」
「地響きだわ!」
「今度も地震だわ…」
(魔獣の仕業かしら?)
突然…。近辺より摩訶不思議の神力を感じる。
(えっ?何かしら?神通力でも妖力でも無いわね…ひょっとして神族!?)
桜花姫は警戒したのである。
「三蔵郎様!アクアヴィーナスは即刻寺院に避難して!」
「えっ!?桜花姫!?」
「一体何が発生したのですか?」
桜花姫は恐る恐る…。
「神族が接近中なの…」
「神族ですと!?」
「危険そうなの…」
「下手すれば殺されるかも…」
三蔵郎は承諾する。
「承知しました…桜花姫様…」
すると寺院の表門より…。木刀を所持した青色の着物姿の女性が進入したのである。
「彼女は…」
「誰かしら?」
桜花姫は恐る恐る…。
「彼女は冥王鬼…神族の一員よ…」
「彼女が神族ですか?人間の女性みたいですね…」
すると冥王鬼は無表情で発言する。
「亡者の集合体…月影桜花姫よ…貴様は死後の世界である地獄から脱出するとは…」
「私は天国でも地獄でも脱出するから安心しなさい…」
「悪運だけは人一倍だな…」
直後…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「貴様…神族の眼光を…」
「残念だったわね♪あんたから一時的に天道眼を奪取されたけど霊魂巨神木の精霊から再度頂戴したのよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に冥王鬼は内心苛立ったのか一言…。
「霊魂巨神木はこんな小娘に味方するとは…」
「私は即刻魔獣を仕留めたいの…邪魔しないで…」
冥王鬼は魔獣の一言に反応する。
「魔獣か…」
普段は無表情の冥王鬼であるが微笑したのである。
「何が可笑しいのよ?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「魔獣を封印から解放させたのは誰であろう私だからな…今頃は世界各地で大暴れだろうよ…」
「えっ!?あんたが!?」
彼女の発言に一同は反応したのである。すると三蔵郎は恐る恐る…。
「魔獣とは…ひょっとして伝説の羅刹獣でしょうか?」
「羅刹獣って?」
「羅刹獣は太古の旧世界で大暴れした海亀の怪物ですよ…伝承では十二人の最高神によって封印されたと…」
三蔵郎は桜花姫とアクアヴィーナスに説明する。
「ですが如何して神族の一員である冥王鬼が…古代の怪物を復活させたのですか?怪物によって数百人もの神族が惨殺されたのですよね?」
三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。すると冥王鬼は即答する。
「大勢の仲間達が羅刹獣によって殺されたが…今現在の私は羅刹獣以上に地上界を君臨する人間達こそ殲滅したい…」
「冥王鬼は如何して人間達を殲滅したいのですか?」
「私が人間達を殲滅したい理由だと?」
冥王鬼は一息するなり…。
「貴様達も人類の歴史学を勉学すれば理解出来るだろうが…人間の歴史は戦争と自然界を汚染させるばかりだ…恐らく未来の世界でも戦争は何度も勃発するだろう…」
彼女の発言に桜花姫はハッとする。
(スキュランの時空の光球…)
桜花姫は時空の光球で発現された数多の戦争の光景を想起したのである。
(今後も戦乱時代みたいな時代が何度も到来するのかしら?)
正直自身も戦乱時代を体験出来ればと希求する。
(面白そうだわ♪今後の時代を見届けたいわね…)
するとアクアヴィーナスが恐る恐る問い掛ける。
「如何してあんたは本来仕留めるべき相手を復活させたのよ?あんたは神族だし…人間達を仕留めるなら一人でも簡単でしょう?」
問い掛けられた冥王鬼はアクアヴィーナスに返答する。
「地上界の人間達だけを殲滅するなら私一人でも容易いが…太平神国には数多くの妖女が安住する桃源郷だ…最上級妖女である桜花姫が死後の地獄から生還したからには…」
正直桜花姫が俗界に戻ったのは予想外であり目的を達成するのに数多の妖女と彼女の存在は不都合だったのである。今度は三蔵郎が質問する。
「人間達を殲滅したとしても羅刹獣と神族である冥王鬼は敵対関係です…羅刹獣は大勢の神族を殺害した強者ですし貴女様も殺される可能性だって否定出来ませんよ…」
「であれば今度は羅刹獣を殲滅するだけだ…今現在の羅刹獣は長年の封印で相当弱体化した状態だ…私単独でも簡単に仕留められる…」
「私から天道眼を奪取したのは魔獣の羅刹獣の封印を解除したかったからなのね…」
「えっ!?桜花姫様?天道眼を奪取されたって…」
「先日の出来事だけどね…」
問い掛けられた桜花姫は先日の出来事を洗い浚い公言したのである。
「桜花姫様は彼女に天道眼を奪取されたなんて…」
「死後の世界にも幽閉されちゃったし…一苦労だったわ…」
所詮羅刹獣は人間達を殲滅する手駒であり瞳術の天道眼を所持した冥王鬼にとって弱体化した羅刹獣は目的を完遂させる手駒だったのである。
「遅かれ早かれ羅刹獣の封印を解除した以上…全世界が滅亡するのは時間の問題だ…」
すると冥王鬼は天道眼を発動…。
「貴様達の身動きを封殺する…」
直後である。冥王鬼の金縛りによって三蔵郎とアクアヴィーナスは身動き出来なくなる。
「なっ!?」
「えっ!?」
二人は身動きを封殺される。
「三蔵郎様!?アクアヴィーナス!?」
(金縛りでしょうか?)
三蔵郎は身動きしたいが金縛りにより身動き出来ない。
(身動き出来ないよ…)
アクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。
「二人の身動きは封殺出来たが…月影桜花姫…妖女である貴様には私の金縛りが通用しなかったか…」
桜花姫には冥王鬼の金縛りが発動されず自由自在に身動き出来たのである。桜花姫は冥王鬼を睥睨するなり…。
「冥王鬼…あんたは本当に気に入らないわ…」
(蛇骨鬼婆ちゃんからは此奴を救済してって依頼されたけれど…)
天道眼を所持する冥王鬼と交戦するなら全力で力戦しなければ勝利出来ないと確信する。
(中途半端では今度こそ地獄に逆戻りね…)
桜花姫も天道眼を発動したのである。
「貴様も天道眼を発動したか…天道眼を発動したとしても私の木刀は妖力を吸収する神器…貴様が勝利する可能性は皆無だぞ…」
冥王鬼の木刀は霊魂巨神木の小枝から形作られた神器であり妖力による攻撃は木刀に吸収される。桜花姫は恐る恐る後退りする。
(天道眼を使用出来ても…単独で此奴を仕留められるかしら?)
すると直後である。
(えっ?霊斬刀が…)
三蔵郎の所持する霊斬刀がカタカタッと振動したかと思いきや…。空中を浮遊したのである。数秒後…。桜花姫の目前に落下したのである。
「えっ?霊斬刀?」
(ひょっとして所持しろと?)
摩訶不思議の超常現象であったが…。桜花姫は恐る恐る霊斬刀を所持したのである。
「霊斬刀だと?牢固石の刀剣か?」
冥王鬼は警戒する。
「私でも対抗出来るかも知れないわね…」
桜花姫 ( No.42 )
日時: 2021/08/17 09:55
名前: 月影桜花姫

第八話

最終決戦

同時刻…。小猫姫は南国の山道にて歔欷したのである。
(私は今後…如何すれば…蛇骨鬼婆ちゃんは死んじゃったし…私一人では何も出来ないよ…)
「私…死にたいよ…」
すると直後…。背後より摩訶不思議の気配を感じる。
「えっ?」
背後には白色の大蛇が歔欷し続ける小猫姫を凝視したのである。
「白蛇かな?」
小猫姫は恐る恐る白蛇に近寄る。すると白蛇が人語で…。
「小猫姫よ♪久し振りだね♪」
笑顔で発言したのである。
「えっ!?白蛇が喋った!?」
人語で発言する白蛇に小猫姫は驚愕する。
「別に吃驚しなくても♪私だよ♪蛇骨鬼♪」
白蛇は自身を蛇骨鬼と名乗る。
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃん?蛇骨鬼婆ちゃんなの?」
「勿論私だよ♪」
小猫姫は再度落涙するなり…。蛇骨鬼に密着したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん!」
「小猫姫…あんたは本当に甘えん坊だね♪」
すると蛇骨鬼は小声で…。
「心配させちゃったね…御免ね…小猫姫…今迄辛かっただろう?」
問い掛けられた小猫姫は小声で返答する。
「正直…」
「あんたは正直者だね♪」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「蛇骨鬼は死んじゃったのに如何して?」
小猫姫の問い掛けに蛇骨鬼は即答する。
「今現在の私は肉体こそ消滅しちゃったけど…私の霊魂は自然界と一体化したのさ♪」
蛇骨鬼は死後…。小猫姫の様子を観察した蛇骨鬼だがメソメソし続ける小猫姫を心配したのである。
「あんたの様子が気になってね♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…私…」
小猫姫は死にたくなった事実と桜花姫と絶縁した事実を洗い浚い告白したのである。
「桜花姫ちゃんと絶縁しちゃったのかね…」
「私…二度と桜花姫姉ちゃんとは…」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「私…本当は桜花姫姉ちゃんと仲直り出来るなら…仲直りしたいよ…」
仲直りしたいと本音を告白する小猫姫に蛇骨鬼は笑顔で…。
「安心しな♪小猫姫♪素直に謝罪すれば仲直り出来るさ♪」
「仲直り出来るかな?」
小猫姫は不安がる。
「桜花姫ちゃんは基本的に人間関係では無欲恬淡だからね♪」
「桜花姫姉ちゃんに謝罪するよ…」
小猫姫は内心不安であったが謝罪を決意する。すると蛇骨鬼は小猫姫を直視するなり…。
「小猫姫…あんたは小梅姫って名前の妖女と瓜二つだね…」
「小梅姫って誰なの?」
「小梅姫はね…元祖妖女…桃子姫の愛娘だよ♪」
桃子姫の名前に小猫姫は反応する。
「桃子姫って…千年前の妖女の…ひょっとして彼女の愛娘が私にそっくりなの?」
「勿論だよ♪」
すると蛇骨鬼は再度笑顔で…。
「ひょっとすると小猫姫は小梅姫の再来かも知れないね♪」
「えっ…私が…」
(元祖妖女の…愛娘の再来♪)
小猫姫は赤面するが内心では大喜びしたのである。一瞬であるが小猫姫はニコッと微笑む。
「おっ!小猫姫…笑顔が戻ったね♪」
「えっ?」
「小猫姫は笑顔が一番だよ♪」
すると直後…。実体化した蛇骨鬼の肉体であるが突如として半透明化したのである。
「えっ!?蛇骨鬼婆ちゃん!?肉体が半透明に…」
「如何やら時間みたいだね…」
「えっ…」
蛇骨鬼は最後に…。
「小猫姫…今後は大変かも知れないけどね…あんたはあんたらしく大勢の村人達と仲良く生活しな♪あんたは人一倍甘えん坊だけど人懐っこい性格だから大丈夫だよ♪勿論桜花姫ちゃんや三蔵郎とも仲良くね♪間違っても自害は駄目だよ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
「時たまだけど…私の墓参りは忘れずにね♪」
「約束するよ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
小猫姫は落涙し始める。
「最後だけどね…私にとってあんたとの生活は毎日が幸福だったよ♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
「感謝するね♪小猫姫♪」
半透明化した蛇骨鬼の肉体が消滅したのである。
「えっ…」
(蛇骨鬼婆ちゃんの肉体が…)
寂然と感じるが…。
「私…三蔵郎様の寺院に戻ろう…」
(戻って桜花姫姉ちゃんと三蔵郎様に謝罪しないと…)
小猫姫は三蔵郎の寺院へと直行したのである。同時刻…。寺院の庭園では桜花姫と冥王鬼が対峙する。
「死滅せよ…亡者の集合体…」
冥王鬼は木刀に自身の神力を集中…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を形成させる。
「雷球だわ…」
直後…。木刀の剣先から蛍光色の雷球が発射される。雷球が桜花姫に接近するが桜花姫は霊斬刀で一振り…。雷球を消滅させたのである。
「私の神力を消滅させるとは…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は自身の妖力を霊斬刀に集中させる。すると銀色だった霊斬刀の白刃は血紅色の霊気に覆い包まれる。
「貴様の所持する刀剣は妖刀だな…」
冥王鬼は勿論…。
(霊斬刀に血紅色の霊気…本物の妖刀みたいですね…)
三蔵郎も血紅色の霊気に覆い包まれた霊斬刀を直視すると正真正銘妖刀であると感じる。桜花姫は妖刀へと変化した霊斬刀を一振りする。すると直後…。霊斬刀の効力からか表門を消滅させる衝撃波を発生させる。寺院の前方近辺より推定二百メートル規模のクレーターが形作られる。
「えっ…」
桜花姫は勿論…。三蔵郎と霊斬刀の威力を直視するなり愕然とする。
(桜花姫様が妖力を集中させただけで…こんな威力を発揮出来るなんて…)
一方のアクアヴィーナスも…。
(恐らく桜花姫の魔力の効力よね…深海底魔女のスキュランが彼女に退治されるのも納得だわ…)
するとクレーターの中心部より結界を構築した冥王鬼が浮遊する。
「絶大なる妖力だ…貴様の力量は妖女のみならず…下手すると最高神に相当するかも知れないな…」
「私が…最高神に?」
冥王鬼は東国最高峰…。天空山を眺望したのである。
(桜花姫と仲間達を相手するのは後回しだ…)
冥王鬼は突如として姿形がパッと消滅する。
「冥王鬼!?」
(逃げられちゃった…)
桜花姫は身動き出来なくなった三蔵郎とアクアヴィーナスの金縛りを解除したのである。
「身動き出来るわ…」
「感謝しますね…桜花姫様…」
三蔵郎とアクアヴィーナスは桜花姫に感謝する。
「あんたは本当に最強ね…桜花姫…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫が最強であると発言したのである。
「勿論♪私は最上級妖女の月影桜花姫だからね♪」
彼女は笑顔で返答する。
「ですが桜花姫様が霊斬刀を一振りしただけで二町の陸地が一掃されるなんて…ひょっとすると霊斬刀は妖女が所持してこそ本来の力量を発揮するのかも知れませんね…」
直後である。
「えっ!?」
霊斬刀が虹色に発光したかと思いきや…。巫女装束の小柄の少女が霊斬刀の白刃から出現したのである。
「きゃっ!」
「うわっ!霊斬刀から女人が…」
「彼女は一体何者なの!?」
三蔵郎とアクアヴィーナスは驚愕する。桜花姫は突如として出現した巫女装束の女性に恐る恐る…。
「あんたは霊魂巨神木の精霊かしら?」
「私だ…」
霊魂巨神木の精霊は即答する。
「三蔵郎様から霊斬刀を私に手渡ししたのはあんたかしら?」
「無論である…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「彼女は一体何者なの?桜花姫…」
アクアヴィーナスの問い掛けに桜花姫は笑顔で返答する。
「彼女は世界樹の霊魂巨神木の精霊よ…姿形は小柄の少女だけど本体は世界樹だからね♪」
「貴女様は霊魂巨神木の精霊でしたか…」
(こんなにも美人なんて…)
三蔵郎は精霊に見惚れたのか赤面したのである。
「貴様はこんな私に見惚れたのか?」
問い掛けられた三蔵郎は動揺し始める。
「えっ!?私は別に…何も…」
三蔵郎は必死に誤魔化したのである。
(三蔵郎様は助平だわ♪)
桜花姫は三蔵郎の様子にニコッと微笑む。すると精霊は三蔵郎を直視するなりボソッと発言する。
「如何やら貴様が桜花姫の理解者である人間の僧侶か…悪霊の集合体に憑霊されても健康体とは…」
「意気衝天こそが私にとって美点ですからね♪私は一生涯現役ですよ!」
精霊に一生現役だと断言したのである。
「貴様だったら悪霊に憑霊されても大丈夫だな…」
すると今度は桜花姫が発言する。
「あんたは今迄雲隠れしたのね…」
霊魂巨神木の精霊は雲隠れした状態で桜花姫に追尾…。彼女と同行したのである。
「貴様には見破られたか…」
「当然でしょう♪私に雲隠れしても簡単に見破っちゃうからね♪」
桜花姫は最初から精霊が自身の背後に追尾したのを察知する。
「先程の絶大なる妖力だ…貴様だったら冥王鬼の暴走を阻止出来るかも知れないな…」
「早速冥王鬼を仕留めちゃいましょう♪」
「勿論ですとも♪桜花姫様♪即刻冥王鬼を降参させ…彼女の暴走から俗界を守護しましょう!」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「桜花姫?彼奴の居場所は?」
「冥王鬼の居場所なら千里眼の妖術で把握したから大丈夫♪」
桜花姫は冥王鬼が撤退した直後に千里眼の妖術を発動…。彼女の居場所を正確に把握したのである。
「冥王鬼の居場所は天空山の頂上よ♪」
「天空山とは東国の最高峰ですか…」
冥王鬼は天空山の頂上にて逃亡…。潜伏したのである。一同は天空山へと移動する直前…。
「えっ…」
とある白猫が桜花姫の目前に接近したのである。
「白猫かしら?」
桜花姫は恐る恐る近寄る。
「こんな場所に白猫が…」
すると直後である。白猫の肉体から白煙が発生する。
「えっ?」
白猫が白煙に覆い包まれたかと思いきや…。ポンッと小柄の少女が出現する。
「えっ!?白猫が女の子に!?」
アクアヴィーナスは驚愕したのである。
「小猫姫…」
白猫の正体は誰であろう山猫妖女の小猫姫…。彼女だったのである。
「白猫はあんただったのね…」
「桜花姫姉ちゃん…」
二人とも内心気まずいと感じる。小猫姫は多少強張った表情で落涙するなり…。
「桜花姫姉ちゃん…三蔵郎様…心配させちゃって御免なさい…」
小猫姫は二人に謝罪したのである。
「小猫姫様…」
「小猫姫…」
桜花姫も涙腺より涙が零れ落ちる。
「私こそ御免なさいね…小猫姫…」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫…」
(無慈悲の桜花姫でも…落涙するのね…)
落涙する桜花姫に三蔵郎とアクアヴィーナスは驚愕する。
「私は妹分の小猫姫に絶縁なんて…最低だよね…」
「私だって…何度も自害し掛けて…桜花姫姉ちゃんや三蔵郎様を心配させちゃったから…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私は何時迄もあんたの姉貴分だから心配しないでね♪」
桜花姫の発言に小猫姫も笑顔で返答する。
「勿論♪私だって何時迄も桜花姫姉ちゃんの妹分だよ♪」
彼女達は笑顔で断言したのである。
「金輪際自害は禁止だからね…小猫姫…約束出来るわよね?」
「大丈夫よ…蛇骨鬼婆ちゃんとも約束したから♪」
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃんって?」
彼女の発言に桜花姫は一瞬絶句する。小猫姫は先程の出来事を洗い浚い告白したのである。
「霊体だったけど…蛇骨鬼婆ちゃんと再会出来たから…私は大丈夫だよ♪」
「蛇骨鬼婆ちゃんは小猫姫が余程心配だったみたいね…」
(蛇骨鬼婆ちゃんも安心出来るよね…)
桜花姫は勿論…。三蔵郎も小猫姫の吹っ切れた様子に一先ずホッとする。
「ですが桜花姫様と小猫姫様が仲直り出来たので一安心ですね♪ホッとしましたよ♪」
「小猫姫との関係は一件落着だけど…冥王鬼を仕留めないとね…」
小猫姫は恐る恐る問い掛ける。
「冥王鬼って…誰なの?桜花姫姉ちゃん?」
「冥王鬼は神族の一員で…蛇骨鬼婆ちゃんの悪友よ…」
「蛇骨鬼婆ちゃんの…悪友?」
「彼女を復讐から…解放するのよ…」
普段の桜花姫であれば敵対者が人間であっても我先にと仕留めると断言するのだが…。今回ばかりは異例中の異例であると感じる。すると小猫姫は真剣そうな表情で…。
「桜花姫姉ちゃん!私にも協力させてよ!」
桜花姫はニコッと微笑む。
「勿論よ♪小猫姫♪協力してね!」
一同は再度直行する寸前…。
「悪友の私を放置するなんて意地悪ね♪桜花姫♪」
今度は粉雪妖女の氷麗姫が出現する。
「あんたは氷麗姫?」
すると氷麗姫はアクアヴィーナスの存在に気付くなり…。
「えっ?あんたは誰よ?異国の人間かしら?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で名前を名乗る。
「えっ…私は…アクアヴィーナスです…」
「彼女は人魚王国…アクアユートピアの人魚で私の悪友よ♪人一倍気弱だから意地悪しないでね♪」
「あんたは人魚なのね…」
(彼女…取っ付き難そうな性格だわ…根暗っぽいし仲良く出来なさそうね…)
氷麗姫は内心アクアヴィーナスと仲良くするのは困難であると感じる。桜花姫は周囲を確認する。
「全員集合したわね♪」
桜花姫は一息するなり…。
「今回は恐らく今迄の戦闘とは比較出来ない大激戦が予想されるわ…自宅に戻りたかったら遠慮せずに戻りなさい…無理強いしないから…」
桜花姫の発言に一同は即答する。
「私は桜花姫様に同行しますよ♪」
「私だって!」
「戻っても退屈だからね…協力するわ♪」
アクアヴィーナスも小声で返答する。
「私も…同行するわ…桜花姫…」
霊魂巨神木の精霊も…。
「貴様の奮闘…見届けるか…」
桜花姫の発言に一同は覚悟する。
(あんた達♪)
「成立ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「早速天空山の頂上に移動するわよ…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動する。自分自身の肉体と一同を天空山の頂上を目標にテレポート…。桜花姫一同は目的地である天空山の頂上へと無事に移動出来たのである。
「口寄せの妖術…成功♪」
「天空山の頂上ですか…」
「私達…一瞬で…」
周囲を眺望すると太平神国の村里全域が眺望出来る。
「絶景の景色だわ♪今日が観光だったら最高なのに…」
観光なら最高であると発言する氷麗姫に桜花姫が笑顔で…。
「冥王鬼を片付けてから思う存分観光しちゃえば♪」
「冥王鬼は?」
すると一同の背後より一人の小柄の女性が佇立する。
「貴様達は幸運だな…」
「冥王鬼!?」
一同は背後の冥王鬼に驚愕したのである。
「貴様達…儀式を開始する…」
「儀式ですって?一体何を?」
桜花姫が問い掛けると冥王鬼はニヤッとした表情で…。
「月影桜花姫よ…天道眼の本当の効力を直視するのだ…」
「天道眼の本当の効力ですって?」
精霊は身震いし始める。
「此奴は危険だ!」
普段は物静かな霊魂巨神木の精霊であるが…。非常にソワソワした様子であり一同は絶句する。
「一体如何しちゃったのよ!?」
「全員…死にたくなければ私か桜花姫の肉体に接触するのだ!」
「えっ…」
混乱した一同であるが三蔵郎と氷麗姫には精霊が接触…。アクアヴィーナスと小猫姫には桜花姫が接触したのである。すると数秒後…。冥王鬼は再度天道眼を発動する。
「神族を除外する地上界の愚劣なる生命体…冥界の愚劣なる亡者達よ…神族の神世界から完全に浄化せよ…」
直後である。地上界全域の人間達は勿論…。あらゆる生命体が粒子状の発光体に変化するなり消滅したのである。アクアユートピアではウェンディーネが消滅し始める自身の肉体に恐怖する。
「えっ!?全身が…」
ウェンディーネは肉体諸共消滅したのである。国境のスキュランはアクアユートピア全体をシールド魔法で守護するのだが…。彼女は恐る恐る消滅し始める自身の肉体を直視したのである。
「消滅の魔法かしら…」
(私…二度も殺されるのね…)
消滅の恐怖よりも空虚に感じられる。深海底のアクアユートピアの人魚達は勿論…。海中の生物達も消滅したのである。同時刻…。死後の世界である地獄では亡者達が粒子状の発光体に変化したのである。
「はっ?」
地獄の住人である鬼殺丸は周囲の悪霊が消滅する光景を直視する。
「亡者達が…」
周囲の悪霊が粒子状の発光体に変化…。消滅したのである。
「一体何が発生しやがった?ん?」
自身の肉体を直視すると無数の粒子状の発光体へと変化…。肉体が消滅し始める。
(畜生が…俺も消滅するのか…)
鬼殺丸も消滅したのである。死後の世界である地獄は虚無の世界であり亡者は誰一人として存在しない。同時刻…。天空山の頂上では冥王鬼が桜花姫一行を凝視する。
「非常に残念だな…貴様達だけは無事だったか…」
すると氷麗姫が恐る恐る…。
「えっ…一体何が発生したのよ!?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「何が発生したか?神族を除外する低次元の種族を…存在諸共消滅させたのだ…」
冥王鬼の発言に一同は絶句したのである。
「なっ!?」
「存在を…消滅ですって!?」
「地上界の下等生物達は無論…冥界の薄汚い亡者達も全員駆除したからな…神族の支配する神世界に薄汚い害虫の存在は相応しくない…駆除して当然であろう?」
冥王鬼の発動した消滅の効力により地上界は勿論…。死後の世界である冥界は無人地帯であり今現在無事なのは桜花姫一行だけである。
「天道眼と神通力を所持する桜花姫と霊魂巨神木を駆除出来なかったのは非常に残念だ…貴様達は幸運だったな…」
天道眼に対抗出来るのは神通力か天道眼を所持する妖女か霊魂巨神木のみであり冥王鬼の消滅の効力でも桜花姫と霊魂巨神木は消滅を無効化…。無事だったのである。
「えっ…ウェンディーネ母様は?」
恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスに冥王鬼は即答する。
「勿論アクアユートピアの人魚達も消滅した…」
「えっ…ウェンディーネ母様が…」
(死んじゃったの…)
「アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスは落涙したのである。
「勿論人魚の貴様も仕留めるから安心しろ…」
冥王鬼の横暴さに腹立たしくなった三蔵郎は即座に護身用の連発銃を所持…。
「冥王鬼!」
「えっ!?三蔵郎様!?」
周囲の者達は三蔵郎の様子に吃驚する。
「何が神族ですか!?何が神世界ですか!?神族であっても貴女様みたいな極悪非道の大悪党は絶対に看過出来ません!」
三蔵郎は鬼神の表情であり冥王鬼を睥睨したのである。
「えっ…」
(普段は誰よりも仏様みたいな三蔵郎様が…)
桜花姫は勿論…。
(えっ…三蔵郎様…仁王様みたい…)
(三蔵郎って…こんな人物だったっけ?)
小猫姫と氷麗姫も睥睨する三蔵郎に畏怖したのである。桜花姫は恐る恐る…。
「三蔵郎様…あんまり彼女を挑発すると…」
「ですが桜花姫様!彼女は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の大悪党なのですよ!今回の大罪は神族であっても絶対に許容出来ません!」
「三蔵郎様…相手は神族なのよ!?彼女に反抗すれば三蔵郎様が殺されちゃうわ…」
桜花姫は必死に三蔵郎を制止するのだが三蔵郎は只管に怒号する。
「冥王鬼!今回ばかりは私が神族である貴女様を征伐します!」
怒号し続ける三蔵郎に冥王鬼は呆れ果てる。
(人間風情が…)
「貴様は命知らずだな…人間の分際で天道眼を所持する私を征伐すると?片腹痛いわ…」
三蔵郎は最早後戻りが出来ないと覚悟する。
(一か八か…)
「冥王鬼…覚悟!」
三蔵郎は一か八か冥王鬼に連発銃を発砲したのである。
「所詮人間の玩具で…」
(無謀だな…)
冥王鬼は木刀でガードするのだが…。
「はっ!?」
連発銃の弾丸は木刀を屈折させ冥王鬼の胸部を貫通したのである。
「ぐっ…貴様…」
冥王鬼は口先から吐血する。
「えっ…」
一同は予想外の事態に再度絶句したのである。
「冥王鬼の…木刀が…」
本来なら鋼鉄をも両断出来る冥王鬼の木刀であるが…。一発の銃弾によって簡単に屈折したのである。三蔵郎は身震いした表情で恐る恐る…。
「冥王鬼…最後の最後で油断しましたね…油断大敵ですよ…」
すると桜花姫が不思議そうな表情で問い掛ける。
「如何して三蔵郎様の連発銃で…冥王鬼の木刀が簡単に屈折したのかしら?」
桜花姫の疑問に三蔵郎は即答する。
「彼女の木刀は恐らく小面蜘蛛と同質の素材で形作られた代物でしょう…」
冥王鬼の木刀は霊魂巨神木の小枝で形作られた代物である。冥王鬼の木刀は妖力を吸収出来る反面…。妖力を使用しない攻撃には無力である。
「彼女の木刀は妖力を吸収出来るかも知れませんが…妖力を使用しない攻撃なら通用するかも知れないと予想したのです…」
「人間である私の父様は此奴に殺されたのよ…」
すると霊魂巨神木の精霊が解説する。
「恐らくだが当時…貴様の父親…月影夜叉丸が彼女に殺害されたのは装備品の木刀に自身の神力を混入させたのであろう…」
冥王鬼の木刀は自身の神力を混入すると鋼鉄をも両断出来る。真逆に神力を混入しなければ単なる木刀同然である。
「完全に油断だったのね…」
「正直…一か八かの大博打でしたが…」
三蔵郎自身は大博打であり冥王鬼に反撃されるのを覚悟で発砲…。冥王鬼に殺害されるのは覚悟したのである。三蔵郎の大博打で胸部を怪我した冥王鬼であるが…。自身の神力により傷口を治癒させる。
「貴様等…地上界の存在で…全員死滅させる!」
冥王鬼は口寄せにより周囲の地面から三体の小面蜘蛛を出現させたのである。
「蜘蛛の怪物!?」
「ひっ!小面蜘蛛だわ!?」
「桜花姫姉ちゃん!撃退出来ないの!?」
三体の小面蜘蛛は桜花姫一行の周囲を包囲する。
「三体の小面蜘蛛よ!二人を除外して四人は妖女だ!食い殺せ!」
小面蜘蛛は死亡した神族の霊魂が器物に憑霊した悪霊である。霊魂巨神木から誕生した器物の存在であり妖力は通用しない。
「如何するのよ!?桜花姫!?小面蜘蛛には妖術は通用しないわよ!」
桜花姫以外の二人の妖女は勿論…。アクアヴィーナスはビクビクするなり力一杯桜花姫に密着する。妖女が小面蜘蛛を仕留めるのは実質困難であり妖力を使用しても吸収されるだけである。
「桜花姫様…武器を使用しても三体の小面蜘蛛を同時に相手では…」
正直多勢に無勢であり武器を所持する三蔵郎だけで三体の小面蜘蛛を仕留めるのは実質不可能…。桜花姫は一瞬瞑目する。
「一か八か…」
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は神通力を駆使しなければ発動出来ない口寄せの妖術を使用したのである。自身の細胞を三体の小面蜘蛛の体内に口寄せする。桜花姫の様子に冥王鬼は恐る恐る…。
「ん?貴様…一体何を発動した?妖術を駆使しても小面蜘蛛には通用しないぞ…」
「単なる大博打よ…」
桜花姫は即答する。
「大博打だと?」
すると数秒後…。三体の小面蜘蛛がポンッと白煙に覆い包まれる。
「なっ!?小面蜘蛛が…」
白煙に覆い包まれた三体の小面蜘蛛が三人の桜花姫に変化したのである。
「えっ!?如何して桜花姫が…」
「桜花姫姉ちゃんが三人も!?」
「ひょっとして彼女達は…桜花姫様の分身体でしょうか?」
「如何して蜘蛛の怪物が桜花姫に変化したのかしら?」
突然の出来事に一同は驚愕する。すると冥王鬼は桜花姫に睥睨するなり…。
「貴様…小面蜘蛛の体内に異物を混入させたな?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「口寄せの妖術で小面蜘蛛の体内に私自身の細胞を混入させたのよ♪」
彼女は口寄せの妖術で自身の細胞を小面蜘蛛の体内に混入…。侵食させ自身の分身体に変換させたのである。
「小面蜘蛛の肉体を利用して自身の分身体を形作るとは…貴様は小娘の外見とは裏腹に中身は怪物同然だな…」
冥王鬼の怪物発言にピリピリする。
(地上界の女神様である私を怪物ですって…)
「私の分身体!彼女の身動きを封殺しなさい!」
三体の分身体は冥王鬼に金縛りの妖術を発動…。
「ぐっ…」
冥王鬼は完全に身動き出来なくなる。
(木刀さえ破壊されなければ…畜生…)
最早木刀が無くなった状態では天道眼を所持しても桜花姫と三体の分身体に対抗するのは不可能である。
(神世界の再興は間近なのに…私はこんな小娘に殺されるのか…)
桜花姫は一歩ずつ身動き出来なくなった冥王鬼に近寄る。すると小猫姫が大声で…。
「桜花姫姉ちゃん!彼女を殺さないで!」
「えっ?小猫姫?」
制止する小猫姫に一同と冥王鬼はハッとした表情で小猫姫に注目する。
「冥王鬼は蛇骨鬼婆ちゃんの友人なのよ…彼女を殺しちゃったら蛇骨鬼婆ちゃん…絶対に悲しんじゃうよ…」
小猫姫は落涙したのである。すると桜花姫は笑顔で返答する。
「大丈夫よ♪小猫姫♪私は彼女を救済したいの♪蛇骨鬼婆ちゃんと約束したからね♪安心しなさい♪」
桜花姫は金縛りの妖術を解除…。解放したのである。
「えっ!?桜花姫!?折角此奴の身動きを封殺したのに…金縛りを解除しちゃうの!?」
アクアヴィーナスは警戒したのか恐る恐る後退りする。
「大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪彼女は大分弱体化したわ♪抵抗しないわよ…」
冥王鬼は先程の消滅の効力により神力を消耗…。最早抵抗出来ない状態である。冥王鬼はバタッと横たわる。
「大丈夫!?冥王鬼!?」
小猫姫が近寄る。冥王鬼は恐る恐る直視するなり…。
「小娘…敵対者である私を庇護するとは…」
「あんたは蛇骨鬼婆ちゃんの友人でしょう?庇護するのは当然だよ…」
小猫姫の発言に冥王鬼は苦笑した様子で返答する。
「貴様は蛇神の蛇骨鬼の知人か?神族の一員なのにこんな小娘と交流したのか…蛇骨鬼は…」
冥王鬼は蛇骨鬼に呆れ果てる。
「蛇骨鬼婆ちゃんにとって…私と桜花姫姉ちゃんは孫娘なの…」
「貴様達が…孫娘だと?」
すると小猫姫は再度涙が零れ落ちる。
「貴様…」
冥王鬼は恐る恐る小猫姫に問い掛ける。
「蛇骨鬼は?」
「蛇骨鬼婆ちゃんは…老衰で死んじゃったよ…」
「老衰か…」
(蛇骨鬼…)
冥王鬼は無表情であり沈黙したのである。沈黙する冥王鬼に桜花姫は再度問い掛ける。
「冥王鬼…如何するのよ?今度こそ私と勝負する?」
問い掛けられた冥王鬼は一瞬苛立つも…。
(今更桜花姫と勝負しても…)
「降参するよ…最早神力も空っぽの状態だ…こんな状態では貴様と勝負しても敗北するだけだからな…」
不本意であるが冥王鬼は降参する。
「あんた♪意外と潔白なのね♪」
(此奴…)
冥王鬼はヘラヘラする桜花姫にピリピリしたのである。すると三蔵郎は恐る恐る…。
「冥王鬼?貴女の神力で消滅された村人達を元通りには戻せませんか?」
問い掛けられた冥王鬼は一瞬困惑したのである。
「あんた…今度も私達に手出しするの?」
桜花姫が問い掛けると冥王鬼は彼女に睥睨するなり…。
「私の敗北だ…神世界の再興を実現出来ないのは残念だったが…人間達への復讐は達成したからな…今更貴様達に手出ししても無意味だ…」
冥王鬼の様子に一同はホッとする。
「再生は可能なのですか?」
「再度天道眼を発動すれば消滅した生命体を復活させられるが…生憎私には神力が消耗した状態だ…再度復活させるには莫大なる神力を回復させなくては…」
すると桜花姫が恐る恐る…。
「私にも出来ないかしら?」
桜花姫の問い掛けに冥王鬼は無表情で返答する。
「貴様自身も神族の眼光を所持する最上級妖女であるが…相当の妖力が必要不可欠だ…場合によっては術者が衰弱死するかも知れない…」
「えっ…」
「術者が…衰弱死ですと…」
桜花姫以外の一同は衰弱死の一言にビクッと反応したのである。
「あんた達♪心配しなくても私なら大丈夫よ♪」
「ですが桜花姫様…」
「あんたが死んじゃったら…」
「桜花姫姉ちゃんが死んじゃったら私…今度こそ…」
「あんた達…」
極度に心配する一同に困惑する。すると直後…。
「きゃっ!」
「地響きです!」
「今度も地震かしら!?」
再度グラグラッと地響きが発生したのである。
「なっ!?」
三蔵郎は東方の海面上に直視する。
「桜花姫様!?東海の海面上に岩石の巨島が此方に接近中です!」
海面上には標高のみでも天空に到達する規格外の巨大移動物体が出現…。
「岩石の巨島ですって?」
桜花姫も岩石の巨島に注目したのである。
「えっ…何かしら?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫に密着する。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「ひょっとして私が深海底で遭遇した…海亀の怪物かしら…」
「えっ…海亀の怪物?彼奴が…」
巨大移動物体は全体的に海亀の形状であり全身は凸凹した岩石の肉体…。尻尾の部分は巨大海蛇であり背中の甲羅部分には無数の巨大人面が確認出来る。
「地震の正体は彼奴だったのね…」
先程から自身が頻発したのは怪物が世界各地で暴れ回った影響である。すると冥王鬼が恐る恐る…。
「魔獣…羅刹獣だな…」
羅刹獣の一言に霊魂巨神木の精霊が反応する。
「羅刹獣だと?此奴が天空から出現した旧世界の魔獣か…こんなにも規格外の怪物だったとは…」
「羅刹獣は神族でも十二人の最高神が全身全霊で封印した規格外の怪物だぞ…封印解除直後であれば私一人でも仕留められる程度の実力だったが…」
氷麗姫は恐る恐る問い掛ける。
「えっ…彼奴はあんたでも仕留められないの!?」
「残念だが…」
羅刹獣は先程よりも魔力が増大化…。最早全盛期に匹敵する状態だったのである。
「こんなにも急速に魔力が増大化するとは予想外だった…」
(世界各地の大陸を暴食したのか?)
氷麗姫が恐る恐る問い掛ける。
「如何すれば彼奴を仕留められるのよ!?彼奴を仕留める方法とか…」
「私に神力が戻れば…一か八か…」
桜花姫が笑顔で…。
「私が羅刹獣を仕留めるわ♪」
仕留めると断言した桜花姫であるが周囲の者達は猛反対する。
「桜花姫様!?本気なのですか!?相手は全世界を破壊し兼ねない規格外の怪物なのですよ…」
「今回ばかりは桜花姫姉ちゃんでも…」
「あんた達は心配性ね♪私は最上級妖女なのよ♪今回だって大丈夫よ!」
周囲の者達の反応に桜花姫は只管笑顔で返答したのである。すると霊魂巨神木の精霊がボソッと一言…。
「仙女に覚醒すれば…」
「えっ?仙女ですって?」
一同は精霊に注目する。
「桜花姫が今度も仙女に覚醒出来れば…羅刹獣を仕留められる確率が上昇するかも知れない…」
「私が仙女に…」
半年前の霊魂巨神木との戦闘を想起したのである。
「桜花姫様が仙女に覚醒出来れば…羅刹獣を征伐出来るのですね!」
「完全に仕留められるかは断言出来ないが…何も実行しないよりは…」
桜花姫は精霊に近寄るなり…。
「早速仙女に覚醒するわ!一体如何すれば仙女に覚醒出来るかしら?」
問い掛けられた精霊は一瞬沈黙するも発言し始める。
「特定の妖女が仙女に覚醒するには莫大なる妖力は勿論…瞳術の天道眼が必要不可欠だ…貴様自身の妖力のみでは力不足であるからな…仙女に覚醒するのであれば周囲の者達の妖力を存分に吸収しろ…」
「妖力を吸収?」
桜花姫は背後の氷麗姫と小猫姫は勿論…。アクアヴィーナスを直視する。
「如何やら今回はあんた達の妖力が必要みたいね…」
すると小猫姫は笑顔で…。
「桜花姫姉ちゃん♪私の妖力…吸収して…」
小猫姫は桜花姫の左手に接触すると急速に妖力を消耗したのである。
「ぐっ!」
「小猫姫…大丈夫?」
心配する桜花姫であるが…。小猫姫は笑顔で返答する。
「私なら大丈夫よ♪桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫の妖力は非常に莫大であり彼女の妖力を吸収すると今迄よりも桁外れの妖力が体内に蓄積される。すると氷麗姫は恐る恐る…。
「止むを得ないわね…私の妖力も吸収しなさい…」
氷麗姫は右手で桜花姫の胸部に接触したのである。
「いや〜ん♪」
「桜花姫♪あんたのおっぱいって…饅頭みたいね♪」
(氷麗姫…意外と助平なのね…)
乳房の接触により桜花姫は赤面する。
「なっ!?」
三蔵郎は赤面するも…。即座に瞑目したのである。必死に瞑目する三蔵郎に小猫姫は笑顔で…。
「三蔵郎様って意外と助平だね♪」
「えっ!?私は…別に…何も…」
三蔵郎は必死に誤魔化すものの赤面したのである。桜花姫の乳房を弄った氷麗姫であるが…。
「ぐっ…」
(桜花姫の吸収力は絶大ね…)
体内の妖力を吸収され数十秒で妖力の大半を消耗したのである。今度はアクアヴィーナスが近寄るなり…。
「桜花姫…私の魔力…吸収して…」
「アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であり恐る恐る桜花姫の右手に握手したのである。
「ぐっ!」
体内の魔力が急速に消耗…。桜花姫の体内へと吸収されたのである。
「御免ね…アクアヴィーナス…」
桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪する。
「大丈夫よ…桜花姫…気にしないで♪」
アクアヴィーナスは重苦しい状態だが…。笑顔で返答したのである。
「妖力は蓄積されたわ♪あんた達…感謝するわね♪」
桜花姫は彼女達に謝礼する。今度は三蔵郎を直視するなり…。
「三蔵郎様…」
「如何されましたか?」
霊斬刀を手渡したのである。
「返却するわね…今現在の私には不要みたい…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると直後…。桜花姫の全身がピカッと光り輝いたのである。
「なっ!?桜花姫様の肉体から閃光が…」
「一体何が…」
突然の彼女の発光に一同は瞑目する。数秒後…。周囲の者達が桜花姫に注目するが頂上の中心部には球状の発光体が確認出来る。
「発光体だわ…」
「桜花姫は?」
すると球状の発光体が女体を形成するなり…。巫女装束の女神へと変化したのである。
「えっ…女神様?」
「彼女は天女でしょうか…」
彼女は両目を瞑目した様子であり頭部には金冠…。背後の背中には円形の光背が確認出来る。三蔵郎は恐る恐る…。
「貴女様は…桜花姫様でしょうか?」
女性は三蔵郎を直視するなり笑顔で返答する。
「私よ♪桜花姫よ♪」
「桜花姫様ですか!?一瞬女神様かと…」
彼女は女神様の一言に赤面…。
「私が女神様なんて♪三蔵郎様は大袈裟ね♪」
内心では大喜びしたのである。
「あんた…桜花姫なの?別人みたいだわ…」
「普段よりも大人っぽいわね…」
氷麗姫とアクアヴィーナスも仙女である彼女に見惚れる。すると精霊が桜花姫に近寄るなり…。
「如何やら成功だな…月影桜花姫よ…今現在の貴様は半年前の貴様よりも強大であるぞ…今現在の貴様は百人力?千人力の妖女だな…」
「私は最上級妖女だから当然よ♪今回は小猫姫以外にも…氷麗姫とアクアヴィーナスの妖力も吸収したからね♪」
今迄で最大級の妖力を所持する。
「今現在の貴様であれば羅刹獣とも思う存分対抗出来そうだ…」
「勿論よ♪」
今度は冥王鬼が近寄る。
「月影桜花姫…貴様の神族の眼光と私の神力…吸収しろ…」
「えっ…冥王鬼…」
冥王鬼の表情を直視すると彼女の表情は先程の殺伐とした雰囲気は感じられない。
(彼女…仏様みたいな雰囲気ね…)
意外であると感じる。
「私は貴様の父親を殺害したからな…今現在の私に出来る唯一の贖罪だ…」
桜花姫はニコッと微笑む。
「気にしないで♪父様の一件は私の誕生日の前日の出来事でしょう♪私は気にしないから大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫姉ちゃん…」
「あんたは父親が殺されたのに…気にしないって…」
「桜花姫…彼女にとって家族の基準とは…」
気にしないと発言する桜花姫に周囲の者達は一瞬ドン引きしたのである。
「兎にも角にも…私は彼奴を仕留めるわね♪」
桜花姫は飛空の妖術を発動…。肉体が空中へと浮遊したのである。
「桜花姫様…御無事で…」
「桜花姫姉ちゃん!頑張って!」
「あんたらしく大暴れしなさいよ♪桜花姫♪」
一同は天空の桜花姫を見届ける。同時刻…。羅刹獣は太平神国に接近したのである。
「アトハココダケダ!チッポケナシマグニダガ…イガイトカミゴタメハアリソウダゾ…」
すると背中の甲羅部分の人面が発言し始める。
「此奴は島国か?小規模の島国だか…無数の生命体の気配を感じる…」
「生命体か♪こんな小規模の島国にも生命体が存在するのか?此奴は久方振りに満足出来そうだな♪」
「リクチノガイチュウモロトモシマグニヲクッテヤルゼ♪」
太平神国へと直行する羅刹獣であるが…。
「羅刹獣!あんたの相手は私よ!」
「ん!?」
「誰だ?」
「彼奴は?」
甲羅の無数の巨大人面が天空を浮遊する桜花姫を直視したのである。
「彼奴は天女の小娘か…」
「天女の小娘から妖力と神通力を感じるぞ…」
「天女の小娘が相手とは面白そうだ♪早速天女の小娘を打っ殺そうぜ♪」
甲羅の無数の巨大人面が会話し始める。すると前方の巨大海亀の頭部と尻尾部分の巨大海蛇が上空の桜花姫を直視したのである。
「アイツハテンニョノコムスメカ!?キサマハナニモノダ!?」
問い掛けられた桜花姫は即座に名前を名乗る。
「私は最上級妖女の月影桜花姫よ!羅刹獣!あんたを征伐するわ!」
征伐すると断言した桜花姫に甲羅の巨大人面の一部が反応したのである。
「貴様が私を征伐するだと?片腹痛いわ…」
「小娘は余程の命知らずみたいだな…手始めに天女の小娘を死滅させるか…」
すると海亀の頭部が再度発言する。
「シマグニヲクウノハアトマワシダ!マズハテンニョノコムスメカラブッコロシテヤルゼ!」
直後…。甲羅の無数の巨大人面が上空の桜花姫を直視するなり口部を開口したのである。
「一体何を?」
桜花姫は警戒する。直後である。
「トットトシニヤガレ!」
甲羅部分の無数の巨大人面が無数の火球を発射する。一発一発の火球は数十メートル規模であり大気圏上空にて爆散…。上空全体に大陸をも消滅させる大爆発と衝撃波が何百発も頻発したのである。桜花姫は上空を直視する。
(規格外の威力だわ…羅刹獣の火球が一発でも太平神国に直撃すれば陸地は完全に消滅するわね…)
すると一発の火球が上空の桜花姫に急接近…。
「なっ!?」
桜花姫は咄嗟に妖術を発動する。
(止むを得ないわね…)
異次元転送の妖術を発動…。自身に急接近する火球がパッと消滅したのである。火球は異次元空間へとテレポート…。異次元空間にて爆散する。
「危機一髪だったわ…」
羅刹獣の火球は一国をも消滅させる威力であり妖力の防壁でも防ぎ切れるか正直未知数だったのである。
「シブトイコムスメダナ!ヨウジュツデオレノコウゲキヲカイヒシヤガッタカ…」
すると甲羅の巨大人面が発言する。
「ひょっとすると天女の小娘は太古の最高神以上に厄介かも知れないな…」
甲羅の巨大人面は仙女の桜花姫を警戒したのである。
「勿論私は最上級妖女なのよ!即刻あんたを片付けちゃうから安心しなさい♪」
桜花姫の発言に苛立ったのか羅刹獣の海亀の頭部がギロッと天空の彼女を睥睨する。
「コイツ…コムスメノブンザイデ…ナメヤガッテ…ドウヤラコムスメハオレニコロサレタイミタイダナ…」
「今度は私が反撃するわよ!」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。高熱の雷球を形成したのである。
「死滅しなさい!」
羅刹獣の背中の甲羅を目標に高熱の雷球を発射…。背中の甲羅に直撃させたのである。
「直撃したわ!」
直撃したと同時に周辺がピカッと発光…。数十キロメートルもの大爆発を発生させたのである。地上界全域に衝撃波が発生…。絶大なる破壊力により天空山の頂上から桜花姫の奮闘を見守る一同も彼女の神通力に愕然とする。
「桜花姫様…神話の領域ですね…」
「現実なのかしら…」
「異次元の領域だわ…」
桜花姫の荒唐無稽の戦闘に恐怖すら感じる。同時刻…。桜花姫は爆心地を眺望する。
「羅刹獣は?えっ…」
羅刹獣は無傷であり掠り傷すら皆無だったのである。
「コノテイドノコウゲキリョクカ?キサマゴトキ…ショボイヨウジュツデハオレヲタオスコトハデキナイ…」
甲羅の巨大人面も桜花姫を直視…。失笑し始める。
「所詮貴様は小娘だ…」
「貴様程度の神通力では私は仕留められないぞ…」
(羅刹獣…予想以上に頑強ね…)
羅刹獣の肉体は金剛石をも上回る強度であり外部から羅刹獣の皮膚を直接破壊するのは困難である。桜花姫は羅刹獣の様子を直視するなり…。
(此奴の体内から何百体…何千体もの神族の怨念を感じるわ…)
古代の神族との大戦で羅刹獣は数百体から数千体もの神族を食い殺したのである。彼等の怨念が桜花姫を気味悪がらせる。
(羅刹獣を仕留めるには体内の神族の怨念を浄化しないと仕留められないわね…)
すると羅刹獣は海亀の頭部…。甲羅の無数の人面と尻尾の海蛇から雷撃の光線を全身から拡散…。発射したのである。
「えっ!?」
桜花姫は即座に神通力の防壁を発動…。雷撃の光線をガードしたのである。拡散された雷撃の光線は天空山の頂上にも発射される。危機を察知した桜花姫の三人の分身体が妖力の防壁を発動…。雷撃の光線から一同を守護したのである。一人の分身体が背後を直視…。
「大丈夫かしら?」
分身体の問い掛けに三蔵郎は笑顔で返答する。
「大丈夫ですよ♪感謝します…桜花姫様の分身体♪」
三蔵郎は一礼したのである。すると氷麗姫が恐る恐る…。
「こんな戦闘…全世界が滅亡しても可笑しくないわね…大昔の神族はこんな怪物を封印したのよね?」
霊魂巨神木の精霊が返答する。
「神族でも最上級に君臨する十二人の最高神でも…羅刹獣を封印するのが精一杯だった…神力の消耗と戦闘による後遺症で最高神は全滅したからな…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫かな?一人で羅刹獣を征伐出来るのかな?」
小猫姫は非常に不安がる。
「大丈夫よ…桜花姫なら…」
普段は小心者のアクアヴィーナスであるが…。大丈夫だと断言する。
「数週間前の出来事だけど私の祖国…アクアユートピアは極悪非道の魔女と無数のアンデッドに侵略されちゃったけど彼女の奮闘でアクアユートピアに平和が戻ったのよ…今回だって大丈夫よ…」
「えっ!?桜花姫様が貴女様の祖国を?」
三蔵郎は勿論…。一同は驚愕したのである。
「桜花姫…彼奴は私達に内緒で…」
「桜花姫姉ちゃんが異国でも悪霊を征伐したなんて…」
「恐らく彼女に私達の常識なんて通用しないわ…」
アクアヴィーナスの発言に精霊も賛同する。
「彼奴は存在自体が荒唐無稽だ…多分私達の常識は通用しないだろう…予想を裏切るであろうな…」
普段は無表情の精霊であるが…。僅少にも苦笑いする。三蔵郎は笑顔で…。
「兎にも角にも…私達に出来るのは桜花姫様の勝利の祈願です!桜花姫様の勝利を精一杯祈願しましょう♪」
同時刻…。
(直接攻撃は通用しないし…如何すれば?)
困惑した桜花姫であるがハッとしたのである。
(霊魂巨神木の悪霊を浄化させた…秘術は如何かしら?)
半年前の霊魂巨神木に憑霊した悪霊の集合体を浄化させた秘術…。日輪光を想起したのである。
(日輪光だったら…羅刹獣の体内の怨念を浄化出来るかも知れないわ…)
羅刹獣に通用するかは未知数だが…。一か八か日輪光の使用を決意する。桜花姫は両目を瞑目させる。突如として両目を瞑目させる桜花姫に羅刹獣は警戒したのである。すると甲羅の人面が会話し始める。
「ん?彼奴…一体何を?」
「小娘は恐怖で身動き出来なくなったか?」
海亀の頭部が返答する。
「イヤ…コイツハフシゼンダゾ…ナニカハジメルツモリダ…コムスメハナニカタクランデイヤガルニチガイナイゾ…」
「小細工か…」
桜花姫は再度両目を開眼させる。
「今度こそあんたを仕留めるわ!羅刹獣!」
「オレヲシトメルダト?キサマテイドノヨウジュツデハオレハシトメラレナイゾ…モハヤウツテガナイキサマガ…ドウヤッテオレヲシトメルトイウノダ?」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。虹色の粒子状の発光体が桜花姫の両手より収縮されたのである。
「ン?キサマ…イッタイナニヲスルキダ?」
直後…。
(秘術…)
「日輪光…発動!」
あらゆる怨念を浄化させる日輪光を発動する。両手に収縮された神通力の閃光を発射したのである。日輪光は羅刹獣の甲羅に直撃…。周囲全体が虹色に光り輝いたのである。光り輝く虹色の閃光に三蔵郎は感動…。涙腺より涙が零れ落ちる。
「神聖なる閃光ですね…桜花姫様でしょうか?」
「桜花姫姉ちゃんの…妖術なの?」
「彼女の発動したのは秘術…日輪光だ…」
精霊が解説する。
「日輪光って?」
「日輪光とは成仏出来ない亡者達を浄化させる史上最強の最終奥義だ…私も半年前に彼女の日輪光で悪霊の集合体から解放されたのだ…」
「彼女が…霊魂巨神木を…」
冥王鬼は桜花姫に対する認識が変化し始める。
(彼女なら…)
同時刻…。桜花姫によって日輪光を発射された羅刹獣だが怯まない。
「ナンダ?タダノヒカリカ?イタクモカユクモナイゼ!」
日輪光は怨念を浄化させる閃光であり殺傷能力は発揮されない。
(大丈夫…羅刹獣の体内の怨念は着実に弱体化したわ…)
桜花姫は冷静であり羅刹獣は不思議がる。
「ン?コムスメ?」
(レイセイダナ…)
数秒後…。
「神族の怨念!浄化されなさい!」
全力で日輪光を照射したのである。すると羅刹獣の全身より数千体もの神族の霊魂が出現…。日輪光の閃光により浄化されたのである。
「ナッ!?シンゾクノタマシイガ…ジョウカサレタダト!?」
体内の神族の霊魂は浄化され羅刹獣は弱体化…。甲羅の人面も沈黙したのである。
「羅刹獣…弱体化したわね♪」
「キサマ…」
羅刹獣は天空の桜花姫を睥睨する。
「観念しなさい…」
「コムスメガ…ナメタマネヲシヤガッテ!」
「古代の魔獣…あんたは桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は変化の妖術を発動したのである。規格外の巨大さの羅刹獣であるが…。変化の妖術の効力により白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
(羅刹獣は桜餅に変化したわね♪)
自分自身に口寄せの妖術を発動…。海面上にて移動したのである。海面上にプカプカと浮動し続ける桜餅を発見する。
「桜餅♪発見♪」
桜餅をパクっと頬張ったのである。
「美味だわ♪」
桜花姫は大喜びする。日輪光の使用によって神通力を消耗するも桜餅を頬張ると消耗した神通力が回復したのである。
「神通力は蓄積されたし♪天空山に戻りましょう♪」
再度口寄せの妖術を発動…。天空山の頂上へと無事戻ったのである。天空山の頂上にて突然ポンっと白煙が発生…。桜花姫が出現する。
「うわっ!桜花姫様!?」
「きゃっ!桜花姫!?」
突如として出現する桜花姫に周囲の者達は愕然とする。
「突然桜花姫姉ちゃんが出現するから吃驚したよ…」
「御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪したのである。
「ですが無事に戻られたのですね…桜花姫様…」
三蔵郎は感動の再会に落涙する。
「三蔵郎様…」
すると霊魂巨神木の精霊が近寄るなり…。
「見事だったぞ!月影桜花姫!十二人の最高神でも封印するのが精一杯だった羅刹獣を一人で征伐するとは…」
「羅刹獣を征伐出来たのは小猫姫達が協力したからよ…私一人では仕留められなかったわ…」
今度は冥王鬼が発言する。
「貴様が最高神を上回ったのは事実だ…最早俗界で貴様と拮抗出来る存在は皆無だぞ…貴様は最強の存在だ…」
「大袈裟ね…」
(私って…本当に最強の存在なのね♪)
内心では大喜びしたのである。今度は小猫姫と氷麗姫が近寄る。
「桜花姫姉ちゃんが無事に戻れたから一安心だよ♪」
「羅刹獣みたいな規格外の怪物を一人で仕留めちゃったからね…私は一生涯桜花姫には反抗出来ないわ…」
「あんた達♪」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「本当…あんたは私達の常識が通用しないわね…」
「私は地上界の女神様だからね♪」
地上界の女神様を自称する桜花姫に一同は苦笑いする。
「あんた達…如何して苦笑いするのかしら?」
桜花姫はムッとしたのである。数分後…。
「消滅した…人間達…羅刹獣によって破壊された世界各地の大陸を元通りに再生させるわね…」
天地創造の再生の妖術を発動する。冥王鬼によって消滅した人間達やら動物達は勿論…。羅刹獣の暴走で暴食された世界各地の大陸が元通りに再生したのである。
「完了♪消滅した民衆達と破壊された陸地が元通りに戻ったわ♪」
「桜花姫様…本物の女神様ですな…」
最早天道の領域であり一同は愕然とする。
「事件は無事に解決したわ♪戻りましょう♪」
戻ろうかと思いきや…。桜花姫は極度の疲労によりバタッと横たわる。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」
「桜花姫様!?」
「桜花姫!?」
神通力の消耗からか仙女の姿形から元通りの桜花姫に戻ったのである。
「桜花姫姉ちゃんが…元通りに…」
すると冥王鬼が恐る恐る接触する。
「安心しろ…彼女は極度の疲労で一時的に衰弱化しただけだ…」
「単純に疲労しただけなのですね…」
「人騒がせね…」
一同は一安心したのである。
「私達の出番は終了ね…」
桜花姫の三体の分身体が自然消滅する。
「えっ…桜花姫様の分身体が…」
「事件が無事に解決したからな…私も退散する…」
今度は霊魂巨神木の精霊が消滅したのである。
「今度は精霊が消滅したわ…」
すると氷麗姫が恐る恐る周囲の者達に問い掛ける。
「あんた達は如何するの?」
三蔵郎は返答する。
「私は寺院に戻りますよ…疲労された桜花姫様を介抱しなくては…」
「私も南国の天女の村里に戻ろうかな♪」
小猫姫は笑顔で返答したのである。アクアヴィーナスはソワソワした表情で…。
「私はアクアユートピアに戻らないと…母様達が心配するし…」
氷麗姫は恐る恐る冥王鬼に問い掛ける。
「あんたは如何するのよ?冥王鬼…」
「私は…」
正直気まずいのか冥王鬼は沈黙したのである。すると小猫姫が笑顔で彼女の両手を接触するなり…。
「冥王鬼姉ちゃん♪私と一緒に居候しない♪」
「えっ!?小猫姫?」
小猫姫の居候発言に氷麗姫は驚愕したのである。冥王鬼は恐る恐る…。
「こんな私で大丈夫なのか?山猫妖女の小猫姫よ…私は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の罪人だぞ…」
困惑した冥王鬼であるが小猫姫は平気そうな様子であり笑顔で返答する。
「消滅しちゃった人間達は元通りに戻れたのよ♪大丈夫よ♪」
「小猫姫…」
無表情の冥王鬼であったが…。彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。
(蛇骨鬼…彼女は…小猫姫は人一倍純粋だな…如何して蛇骨鬼が彼女を深愛するのか…理解出来るよ…)
「兎にも角にも…事件は無事に解決したのです♪戻りましょう♪」
三蔵郎は笑顔で発言する。事件が無事に解決すると一同は解散したのである。
桜花姫 ( No.43 )
日時: 2021/08/17 09:57
名前: 月影桜花姫

最終話

後日談

羅刹獣との大激戦から一週間後…。事件後アクアヴィーナスは無事にアクアユートピアに帰還したのである。スキュランと母親のウェンディーネにこっ酷く説教され大泣きするも…。翌日には無事を大喜びされる。ギクシャクしたスキュランとの関係も改善され今現在のアクアユートピアは本当の意味で楽園へと変化したのである。一方の氷麗姫は不倫により別居中だった亭主との関係改善に成功…。今現在では本当の夫婦として同居を再開する。一方居候生活を開始した小猫姫と冥王鬼の様子だが…。
「冥王鬼姉ちゃん♪蛇骨鬼婆ちゃんの墓参りしない♪」
「墓参りか…同行するよ…」
冥王鬼は小猫姫と一緒に蛇骨鬼の墓参りに移動したのである。墓場へと到達した彼女達は蛇骨鬼の墓石へと到達する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
小猫姫は恐る恐る合掌したのである。すると彼女の涙腺より一粒の涙が零れ落ちる。
「小猫姫…」
(彼女にとって蛇骨鬼との死別は相当辛かったのだろうな…)
冥王鬼は恐る恐る小猫姫に接触する。
「冥王鬼姉ちゃん?」
「蛇骨鬼は小猫姫と再会出来て…大喜びだろうよ♪」
「本当かな?」
「勿論だよ…蛇骨鬼にとって小猫姫は最愛の孫娘だからな♪」
「冥王鬼姉ちゃん♪」
「小猫姫には笑顔が一番だな…」
「本当?」
小猫姫に笑顔が戻ったのである。
「戻ろうか?小猫姫…」
「戻ろう♪戻ろう♪」
小猫姫は帰宅途中…。村里の村道にて小柄の若武者の美青年とぶつかったのである。
「きゃっ!」
「うわっ!」
小猫姫と若武者は地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫か!?」
ぶつかった若武者が恐る恐る…。
「失礼しました!御嬢さん…怪我は?大丈夫ですか?」
若武者は即座に謝罪したのである。
「私は…大丈夫よ…大丈夫だから…心配しないで…」
すると若武者と小猫姫は目線が合致…。
「えっ…」
「はぁ…」
両者は赤面したのである。若武者は内心…。
(俗界にこんな美人さんが存在するなんて…私は俗界の女神様と遭遇したのか!?)
一方の小猫姫も内心ドキドキする。
(如何してこんなに緊張するの!?ひょっとして…)
赤面する小猫姫に冥王鬼は微笑む。
(ひょっとすると小猫姫…恋心か♪)
すると直後である。半透明の白蛇が冥王鬼の背後に出現する。
(なっ!?)
「貴様は蛇神の蛇骨鬼か!?」
「冥王鬼よ…久方振りだね♪」
突如として冥王鬼の背後に出現したのは蛇神の蛇骨鬼だったのである。
「蛇骨鬼…如何して貴様が…」
「単なる挨拶だよ♪久方振りに大昔の悪友に再会したかったのさ♪元気そうで安心したよ…冥王鬼♪」
突然の超常現象に冥王鬼は混乱する。
「混乱するのも当然かね♪大丈夫♪時間は一時的に停止させたから♪」
冥王鬼は恐る恐る小猫姫と若武者を直視するなり…。
「如何やら今現在身動き出来るのは私と蛇骨鬼だけか…」
「蛇骨鬼よ…人一倍人間達を憎悪した貴様がこんなにも変化するとは…予想外だね♪」
「鬱陶しいな…貴様は…」
すると冥王鬼はボソッと小声で…。
「結局私は間違ったのか…」
「結果的に羅刹獣は桜花姫ちゃんによって仕留められた…遅かれ早かれ羅刹獣の封印は脆弱化した状態だったからね♪あんたが封印を解除しなくても封印は自力で解除されただろうよ…」
問い掛ける冥王鬼に蛇骨鬼は否定しなかったのである。
「人間達は野蛮だからね…あんたは今後も抑止力として活動しな♪悪人が出現すれば徹底的に征伐しなよ…勿論殺さない程度に♪」
「私が抑止力か…努力するよ…」
彼女は再度笑顔で…。
「今後も小猫姫と仲良くね♪」
「当然だ…彼女はあんたの孫娘だろう?」
「勿論だとも♪」
蛇骨鬼は笑顔で即答する。
「勿論…桜花姫ちゃんとも仲良くしなよ♪彼女も私の孫娘の一人だからね…」
「なっ!?」
桜花姫の名前にビクッと反応したのである。
(彼奴が蛇骨鬼の孫娘だと!?蛇骨鬼の感性が理解出来ないな…)
冥王鬼は桜花姫の名前にピリピリするが…。
「正直桜花姫は気に入らないが…努力するさ…」
すると突如として蛇骨鬼に肉体が消滅し始める。
「えっ…蛇骨鬼?」
「如何やら時間みたいだね…」
冥王鬼は恐る恐る…。
「消滅するのか…蛇骨鬼…」
「達者でね♪冥王鬼♪」
蛇骨鬼は消滅したのである。
「蛇骨鬼…」
蛇骨鬼が消滅すると停止された時間は再度経過し始める。すると若武者はホッとする。
「御嬢様に怪我が無さそうなので安心しましたよ♪」
若武者は恐る恐る…。
「御詫びなのですが…」
三両の小判を小猫姫に手渡したのである。
「えっ!?三両も!?」
純金の小判に小猫姫は驚愕する。
「怪我が無くても貴女様みたいな女性にぶつかっちゃいましたからね…是非とも貴女様に贖罪しなければ…」
「大袈裟だよ…別に私は大丈夫なのに…」
小猫姫は困惑したのである。
(人間にもこんな若武者が存在するのか…当分は様子見が必要だな…)
人一倍人間を憎悪する冥王鬼であるが…。若武者の行動に彼女は微笑む。すると冥王鬼は笑顔で…。
「人間の若者よ♪貴様は人一倍幸運だな…ぶつかったのが最上級妖女の桜花姫なら貴様みたいな小坊主…簡単に食い殺されただろうよ♪今回はぶつかった相手が小猫姫で幸運だったな…」
「えっ…小猫姫って…」
若武者の表情が変化する。
「貴女様…ひょっとして桜花姫様の妹分の…」
「私は…小猫姫…山猫妖女の小猫姫よ…」
小猫姫は恐る恐る名前を名乗る。すると若武者は大喜びしたのである。
「貴女様が山猫妖女の小猫姫様ですか♪私は小猫姫様が大好きでして…本日が休暇であれば…私と一緒に東国で遊歩しませんか?勿論料金は私が負担しますよ♪」
「えっ…」
(如何するべきなのかな?)
見ず知らずの若武者を相手に小猫姫は困惑するが…。冥王鬼は笑顔で発言する。
「折角の機会だ♪小猫姫よ…勉学として此奴と遊歩したら如何なのだ?」
小猫姫は赤面するが…。
「仕方ないね…」
承諾したのである。すると冥王鬼が若者に睥睨するなり…。
「人間の若武者よ…彼女は人一倍純粋だぞ…彼女を裏切れば私は即刻貴様を惨殺するから覚悟しろよ…」
「ひっ!承知しました…」
冥王鬼の表情に若武者はビクビクする。
(冥王鬼姉ちゃん…)
小猫姫は苦笑いしたのである。同時刻…。氷麗姫は暇潰しに東国の三蔵郎の寺院へと訪問する。
「三蔵郎?」
「誰かと思いきや…貴女様は氷麗姫ですか♪本日は如何されましたか?」
「暇潰しよ♪暇潰し♪」
「暇潰しですか…」
氷麗姫は周囲をキョロキョロしたのである。
「桜花姫は?」
桜花姫の居場所を問い掛けられた三蔵郎は恐る恐る…。
「桜花姫様なら先程桜餅を食べられてから…地獄に出掛けるとか…」
「えっ?地獄ですって?」
氷麗姫は珍紛漢紛だったのである。
「私自身も何が何やら…」
「彼奴は本当に気紛れね…」
同時刻…。
「口寄せの妖術成功♪」
桜花姫は口寄せの妖術により自分自身を死後の世界である地獄に口寄せしたのである。最早口寄せの妖術は死後の世界さえも行き来出来る領域へと到達する。死後の世界である地獄へと到達した彼女は周辺の景色を眺望するなり…。
「地獄は無数の悪霊が出現しそうな雰囲気ね♪」
(悪霊を仕留めるなら最適の場所だわ♪)
地獄の雰囲気にワクワクしたのである。彼女の目前には鬼神の甲冑を装着した武士が存在する。
「久し振りね♪鬼殺丸♪元気だったかしら?」
すると武士は警戒した様子で背後を直視したのである。
「なっ!?貴様は…」
「御免あそばせ♪」
武士は誰であろう地獄の住人…。鬼殺丸だったのである。
「貴様…月影桜花姫か!?二度と地獄へは逆戻りするなと忠告しただろ…」
鬼殺丸は桜花姫を睥睨…。非常に呆れ果てたのである。
「俗界は毎日が平和だから退屈なのよね♪地獄なら思う存分悪霊を征伐出来るし♪」
「貴様は相当の物好きだな…自分から地獄に参上するとは余程の単細胞か?」
すると直後…。周囲の亡者達が生者である桜花姫に気付いたのである。
「地獄の亡者達が生者である貴様に反応しやがったぞ…自分から地獄に参上したのを後悔するぜ…」
再度忠告された桜花姫であるが…。彼女は笑顔で返答する。
「後悔しないわ♪今度の私なら大丈夫よ♪」
「ん?」
(此奴…随分と余裕そうだな…)
桜花姫は余裕の様子であり鬼殺丸は非常に不思議がる。
「私には…」
桜花姫は瞳術である天道眼を発動…。血紅色だった瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
(桜花姫…)
「瞳孔が瑠璃色に発光するとは…」
「悪霊♪あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
周囲の亡者達に変化の妖術を発動したのである。
完結
桜花姫※別作品 ( No.44 )
日時: 2021/08/17 10:24
名前: 月影桜花姫

第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の妖怪達が出現し始める。五十年後の天地暦四千二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の妖怪達が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は妖怪達の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
(何やら無数の妖気が感じられる…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
(普通の人間は近寄れないな…)
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外である。
「妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体は妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等か…」
総勢数十体もの食人餓鬼に包囲されるも…。三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼を発火させたのである。三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上に落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が妖怪なのは確実であるが敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの妖気を感じる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の妖怪の集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は妖怪の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談♪冗談♪御免あそばせ♪」
笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪でも…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は妖怪の集合体です…正直桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じる。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気!?)
三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾するのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「妖術で先回りしたのですか?」
「勿論♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿と大好きな桜餅に変化したのである。
「なっ!?漁船が…」
「桜餅に!?」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは本物の妖怪なのか?」
「勿論♪」
笑顔で即答する。すると漁師達は恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!殺されちまう!」
「逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じる。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
ギルゾッド ( No.45 )
日時: 2021/08/17 10:39
名前: 月影桜花姫

第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。旧文明の復興を主眼に活動する勢力も誕生したのである。某月某日…。荒廃した主要都市部では巨大武装勢力『リベレーターズ』が敵対する巨大軍事勢力『地球革命軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
リベレーターズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「リベレーターズの突撃隊が突撃を開始したぞ!攻撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するリベレーターズの突撃隊は地球革命軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球革命軍の銃撃に畏怖した突撃隊は後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンのみである。人員でもリベレーターズは二百五十人であるが…。地球革命軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球革命軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来リベレーターズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球革命軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球革命軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のリベレーターズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ギルゾッド】か…」
「ギルゾッドだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も各地で生存が確認される。
「ギルゾッドって…暗闇の一匹狼だよな?」
ギルゾッドは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがリベレーターズに?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にリベレーターズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力だろうからな…」
ギルゾッドの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。
「ギルゾッド…敵軍を蹴散らすのだぞ…」
ルーヴェルハルトの指示にギルゾッドは無言であるが承諾したのである。ギルゾッドは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「リベレーターズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ギルゾッドは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマン?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「であれば非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球革命軍はギルゾッドに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がギルゾッドを急襲する。ギルゾッドは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ギルゾッドはノーダメージであり地球革命軍の将兵達は絶句する。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
メガラニカ大事変 ( No.46 )
日時: 2021/08/20 09:25
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。戦後の疲弊した世界各国を牛耳れる超大国としての地位と資源を獲得したのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の存在に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ解放区』と命名され太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ解放区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ解放区の勢力拡大を危惧した太平帝国はメガラニカ解放区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ解放区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンには太平帝国国家元首である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ解放区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ解放区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ解放区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ解放区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ解放区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ解放区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ解放区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ解放区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ解放軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ解放区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ解放区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ解放区の南方地帯全域を空爆せよ…非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ解放区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ解放区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ解放軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ解放軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ解放軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ解放軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ解放区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ解放軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ解放軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ解放区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ解放区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ解放区は圧倒的に不利である。メガラニカ解放軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ解放軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ解放軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ解放軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来たのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ解放軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ解放軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ解放軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『ティタニア』です…」
「超砲撃型戦艦…ティタニア?」
正式名は超砲撃型戦艦ティタニアであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがティタニアは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。
「戦艦ティタニアは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦ティタニアの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍に占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ解放軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…アポロゾーン基地だな…」
アポロゾーン基地とは最南端に位置する離島…。アポロゾーン本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻アポロゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?アポロゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「アポロゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…アポロゾーンに侵攻中のメガラニカ解放軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
アポロゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。アポロゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?アポロゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小国家だった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「敵味方諸共…殲滅するのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもアポロゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが承諾したのである。

第三話

攻防戦

五月二十七日早朝…。メガラニカ解放軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域アポロゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。アポロゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
「スーパーレーダーが反応したぞ!」
即座に立体映像のホログラムで確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ解放軍の艦隊だな…アポロゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!アポロゾーンは徹底的に死守しろ!」
守備隊の陸軍総司令官が各員に指示したのである。
「はっ!」
アポロゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありアポロゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ解放軍の大艦隊がアポロゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカの大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラムを作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…ドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のアポロゾーン防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。アポロゾーン防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。ドローン部隊の猛反撃からアポロゾーン防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にアポロゾーン総司令部は混乱する。
「ドローン部隊を使用したか…」
総司令官は一瞬沈黙するも…。
「守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始する!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「民間人は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ解放軍のドローン部隊がアポロゾーン領空へと到達する。
「メガラニカのドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?壊滅状態だと!?」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ解放軍の大艦隊が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…アポロゾーンの領海に到達したのか!?」
メガラニカ解放軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ解放軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ解放軍艦隊はノーダメージでアポロゾーンの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
総司令官が通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から潜水艦が一隻出動したと…」
「はっ?」
総司令官は絶句する。
「こんな状況で潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告に総司令官はピリピリする。
(アポロゾーンは陥落しろと?総本部は本土決戦を決断したのか?)
総司令官は決断したのである。
「総員…援軍は期待出来ないが…精一杯アポロゾーンを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるアポロゾーン上陸作戦が開始されたのである。
アフターウォーズ ( No.47 )
日時: 2021/08/21 20:28
名前: 月影桜花姫

第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。旧文明の復興を主眼に活動する勢力も誕生したのである。某月某日…。荒廃した主要都市部では『ホープセイバーズ』と呼称される巨大武装勢力が敵対する国連軍残存勢力『地球革命軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
ホープセイバーズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「ホープセイバーズの突撃隊が突撃を開始したぞ!即刻迎撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が迎撃を命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するホープセイバーズの突撃隊は地球革命軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球革命軍の銃撃に畏怖した突撃隊は後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンやらダガーナイフのみである。人員でもホープセイバーズは二百五十人程度であるが…。地球革命軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球革命軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来ホープセイバーズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥組織であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?今更撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球革命軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球革命軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のホープセイバーズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ノイザッグ】か…」
「ノイザッグだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も各地で生存が確認される。
「ノイザッグって…暗闇の一匹狼だよな?」
ノイザッグは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがホープセイバーズに所属した?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にホープセイバーズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力の戦力だからな…」
ノイザッグの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。ルーヴェルハルトの指示にノイザッグは無言であるが承諾したのである。ノイザッグは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「ホープセイバーズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ノイザッグは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマンか?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「敵兵がネオヒューマンであれば…非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球革命軍はノイザッグに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がノイザッグを急襲する。ノイザッグは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ノイザッグはノーダメージであり地球革命軍の将兵達は絶句する。するとノイザッグは無表情で…。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
ノイザッグは超能力を発動すると軍事工場を守備する五両の重戦車をペシャンコに破壊したのである。
「えっ!?重戦車が…」
ノイザッグの超能力に敵味方は驚愕する。
「畜生…重戦車を破壊されたか…」
破壊された重戦車に地球革命軍の兵士達は戦意喪失するが…。
「相手はネオヒューマン一人だ!彼奴を殲滅せよ!」
部隊長の命令にトーチカの兵士達は再度機関銃で攻撃したのである。
「無謀だな…」
ノイザッグは再度超能力を発動…。数千発もの機関銃の弾丸を停止させる。
「俺に金属類は通用しない…」
ノイザッグはあらゆる金属類を自由自在に操作出来る超能力であり彼に金属を使用した武器は通用しない。
「死滅しろ…」
停止させた無数の銃弾をトーチカの兵士達に返却したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
返却された無数の銃弾によりトーチカの兵士達は戦死する。
(勝利は目前だな…)
後方のルーヴェルハルトは勝利を確信したのである。
「敵軍は弱体化したぞ!総攻撃を開始しろ!」
ルーヴェルハルトは味方の戦闘員達に総攻撃を指示したのである。主力の突撃隊のみならず…。後方に位置する各戦闘員達も軍事工事への総攻撃に参加したのである。軍事工事はノイザッグの加勢により一時間程度で占拠…。地球革命軍の守備隊は軍事工事から撤退したのである。
「総大将♪敵軍の奴等撤退しましたぜ♪」
戦闘員達は勝利に大喜びする。
「初戦は冷や冷やしたが無事に軍事工場を確保出来たからな…結果オーライだ…」
ルーヴェルハルトはノイザッグに近寄るなり…。
「見事だったぞ♪ノイザッグ♪」
普段は厳格のルーヴェルハルトであるが笑顔で発言する。
「初戦でこんな大戦果とは…貴様は次期総帥候補決定だな♪」
「えっ!?次期総帥候補って…」
周囲の戦闘員達は次期総帥候補に任命されたノイザッグに驚愕したのである。
「此奴が…次期総帥候補だって!?」
「実質今回の戦闘で地球革命軍に勝利出来たのはノイザッグの力戦だからな…次期総帥候補に任命されても可笑しくないぞ…」
するとノイザッグは無表情で…。
「俺は単純に戦闘で気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…」
ノイザッグは人一倍好戦的であり戦闘に参加出来れば満足だったのである。
「総帥なんて称号は俺には不要だ…」
ノイザッグの返答に内心ガッカリするものの…。
「貴様が戦闘に参加したいのであれば思う存分戦闘しろ…恐らく今後も地球革命軍との戦闘は予想されるからな…」
今回の戦闘でホープセイバーズは四十三人の戦闘員が戦死するが軍事工場と戦闘車を十三両鹵獲したのである。未完成であるが航空戦力の戦闘用ドローンを十七機鹵獲する。
Re: 新世紀エヴァンゲリオン〔仮名〕※休止中 ( No.48 )
日時: 2021/08/24 19:23
名前: 月影桜花姫

第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上に落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。彼女の様子に正直意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪でも…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は妖怪の集合体です…正直桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気!?)
三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?漁船が…」
「桜餅に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは本当に妖怪なのか?」
「勿論♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来でも巨大真蛸らしき物体は確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。妖気が接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
アフターウォーズ ( No.49 )
日時: 2021/08/25 19:36
名前: 月影桜花姫

第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。荒廃した世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧やら領土の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。東方の亜大陸では旧文明の復興を主眼に活動する勢力が誕生したのである。某月某日…。荒廃した南方地帯の主要都市部では『ホープセイバーズ』と呼称される巨大武装勢力が敵対する国連軍残存勢力『地球新政府軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
ホープセイバーズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「ホープセイバーズの突撃隊が突撃を開始したぞ!即刻迎撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が迎撃を命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するホープセイバーズの突撃隊は地球新政府軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球新政府軍の銃撃に畏怖した突撃隊は即座に後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンやらダガーナイフのみである。人員でもホープセイバーズは二百五十人程度であるが…。地球新政府軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球新政府軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来ホープセイバーズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥組織であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?今更撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球新政府軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球新政府軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のホープセイバーズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪であり両手は黒色の手袋である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ノイザッグ】か…」
「ノイザッグだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も荒廃した各地で生存が確認される。
「ノイザッグって…暗闇の一匹狼だよな?」
ノイザッグは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがホープセイバーズに所属した?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にホープセイバーズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力の戦力だからな…」
ノイザッグの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。ルーヴェルハルトの指示にノイザッグは無言であるが承諾したのである。ノイザッグは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「ホープセイバーズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ノイザッグは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマンか?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「敵兵がネオヒューマンであれば…非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球新政府軍はノイザッグに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がノイザッグを急襲する。ノイザッグは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ノイザッグはノーダメージであり地球新政府軍の将兵達は絶句する。するとノイザッグは無表情で…。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
ノイザッグは超能力を発動すると軍事工場を守備する五両の重戦車をペシャンコに破壊したのである。
「えっ!?重戦車が…」
ノイザッグの超能力に敵味方は驚愕する。
「畜生…重戦車を破壊されたか…」
破壊された重戦車に地球新政府軍の兵士達は戦意喪失するが…。
「相手はネオヒューマン一人だ!彼奴を殲滅せよ!」
部隊長の命令にトーチカの兵士達は再度機関銃で攻撃したのである。
「無謀だな…」
ノイザッグは再度超能力を発動…。数千発もの機関銃の弾丸を停止させる。
「俺に金属類は通用しない…」
ノイザッグはあらゆる金属類を自由自在に操作出来る超能力であり彼に金属を使用した武器は通用しない。
「死滅しろ…」
停止させた無数の銃弾をトーチカの兵士達に返却したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
返却された無数の銃弾によりトーチカの兵士達は戦死する。
(勝利は目前だな…)
後方のルーヴェルハルトは勝利を確信したのである。
「敵軍は弱体化したぞ!総攻撃を開始しろ!」
ルーヴェルハルトは味方の戦闘員達に総攻撃を指示したのである。主力の突撃隊のみならず…。後方に位置する各戦闘員達も軍事工事への総攻撃に参加したのである。軍事工事はノイザッグの加勢により一時間程度で占拠…。地球新政府軍の守備隊は軍事工事から撤退したのである。
「総大将♪敵軍の奴等…撤退しましたぜ♪」
戦闘員達はホープセイバーズの勝利に大喜びする。
「初戦は冷や冷やしたが無事に軍事工場を確保出来たからな…結果オーライだ…」
ルーヴェルハルトはノイザッグに近寄るなり…。
「見事だったぞ♪ノイザッグ♪」
普段は厳格のルーヴェルハルトであるが笑顔で発言する。
「初戦でこんな大戦果とは…貴様は次期総帥候補決定だな♪」
「えっ!?次期総帥候補って…」
周囲の戦闘員達は次期総帥候補に任命されたノイザッグに驚愕したのである。
「此奴が…次期総帥候補だって!?」
「実質今回の戦闘でホープセイバーズが地球新政府軍に勝利出来たのはノイザッグの力戦がデカいからな…」
「今回の大戦果だ…ノイザッグが次期総帥候補に任命されても可笑しくないぞ…」
するとノイザッグは無表情で…。
「俺は単純に戦闘で気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…」
ノイザッグは人一倍好戦的であり戦闘に参加出来れば満足だったのである。
「総帥なんて称号は俺には不要だ…」
ノイザッグの返答に内心ガッカリするものの…。
「貴様が戦闘に参加したいのであれば思う存分戦闘しろ…恐らく今後も地球新政府軍との戦闘は予想されるからな…」
今回の軍事工場制圧作戦でホープセイバーズは四十三人の戦闘員が戦死するが軍事工場と戦闘車を十三両鹵獲したのである。未完成であるが…。航空戦力の戦闘用ドローンを十七機鹵獲する。

第二話

歓楽街

地球新政府軍の軍事工場を占拠してより三日後…。ホープセイバーズの戦闘員達は都市部の歓楽街の飲食店にてワイワイと泥酔する。南方地帯はスラム街ばかりだが…。歓楽街では飲食店も経営され大勢の人間達が飲食したのである。戦闘員達は店員と周囲の客人に自分達の武勇伝を自慢する。
「俺達は地球新政府軍の奴等を撃退したホープセイバーズの精鋭だぞ♪今度の南方地帯の支配者は俺達ホープセイバーズだからな♪」
「平伏するなら今後は俺達に平伏しろよ♪」
南方地帯全域は地球新政府軍の支配領域であったが…。三日前の戦闘の大敗北により地球新政府軍は撤退したのである。大袈裟に自慢し続ける彼等に周囲の店員や客人はポカンとする。すると一人の戦闘員が…。
「ん?彼奴は?」
「彼奴?誰だよ?」
「ノイザッグだよ…ノイザッグは?」
「ノイザッグなら出歩いたぜ…」
「一人で出歩きやがったのか?」
ノイザッグは酒場の雰囲気が大嫌いであり歓楽街を適当に出歩いたのである。すると道中…。とあるキャバクラを発見する。三人組のキャバ嬢がノイザッグを直視するなり…。
「男前の兵隊さん♪寄ってかない♪」
妖怪奇譚※仮名 ( No.50 )
日時: 2021/08/25 19:40
名前: 月影桜花姫

第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。
「えっ…」
今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは相当の物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は魑魅魍魎の集合体です…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気か!?)
突如として妖気を察知…。三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪よ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は身震いした様子で恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき物体は何一つとして確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道の妖気かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。数秒後…。暗闇の遠方より白鯨らしき巨大移動物体が接近する。
「何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主であり全体的に真蛸らしき物体だったのである。
(巨大真蛸…)
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は大島に匹敵する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様は妖怪…月影桜花姫だな…人魚に変化したのか?」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹だ…邪魔するなら貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり相手が妖怪であっても捕食する。
「私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では俺を仕留められる妖怪は存在しないぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るが…。海中で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。
「噂話は熟知したぞ…近頃貴様は人間の僧侶に加勢して…同種の妖怪達を征伐したらしいな?」
「人間に加勢したから何よ?私は邪魔者を仕留めただけよ♪」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「貴様…気に入らないな…」
「如何する♪」
「死滅しろ…」
海難入道は即座に触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念であったな…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「吸収するなんて…」
(海難入道には妖術が通用しないのかしら…)

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