一人目は笑わない

Written by 双子座   


7.

振り向かなくても後ろから来るのが誰だか、レイには気配だけで分かった。五感が――五感だ
けでなく第六感もだが――普通の人間よりも発達しているのだ。
「綾波」
「……何?」
レイは前を向いたまま答える。
その人物――シンジはレイに追いつくために少し早歩きで来たらしい。軽く息を切らせている。
「おはよう」
そう挨拶されてもレイは押し黙ったままで、シンジの方を見もしない。レイには挨拶をする習
慣がなかった。無駄だからだ。
シンジは特に気を悪くした風もなく、レイの横をやや遅れて歩いている。
学校まであと五百メートルといったところだった。
今日は湿度が低く、暑さも控えめで、過ごしやすい一日となることが予想された。空には刷毛
でさっと刷いたような雲が切れ切れに浮かんでいる。
気持ちのいい風が吹いていた。
登校中の生徒には珍しいものを見るように二人を横目で盗み見ていくものがいる。レイと誰か
が一緒に登校するなどはじめてのことだからだ。
「あの……さ」
シンジが躊躇いがちに声をかけてきた。
「ちょっと、いいかな……?」
「駄目」レイはそう言うと横目でシンジを盗み見る。
「えっ……」と、案の定、シンジはおどおどといかにも不安な顔をしている。
「冗談よ。何?」
「突然こんなこと言うの、何だけど……。綾波さえ良かったら……僕が料理を作るから、食べ
てもらえないかな」
レイはぴたりと歩みを止めて、はじめてシンジを真正面から見た。シンジも立ち止まる。緊張
で身体を硬くしているようだった。
「い、いやっ、その……ヘンなこと言ってごめん……」
この男は何でそういうことを言うのだろう? レイは心持ち眉をひそめて考える。私に料理を
作って、この男にどういうメリットがある?
レイは瞬きせずにシンジをじっと見つめている。ひょっとしてビデオの件がバレて、私に復讐
しようと言うのだろうか? ……いや、バレてもないし、そんなことをしでかす度胸もない。
「あの……綾波がイヤだったら、別に……」
レイの視線に何を感じたのか、シンジはもじもじしはじめた。
「ただ、この間綾波の部屋に行って思ったんだけど、綾波の食生活って……きっと、外食ばっ
かりじゃない? それじゃ身体に悪いから……」
シンジが何か喋っているが、頭に入ってこない。どうせ大したことは言ってないだろうから構
わない。
そうか。突然レイの疑問は氷解した。奴隷だからだ。奴隷が主人に尽くすのは当たり前だった。
そう言えばヤシマ作戦のときも何も言われてないのに防御役に立候補した。それと同じことな
のだろう。
こちらから何も言わずに奉仕するとは、なかなかよくできた奴隷だった。
「いいわ」と、レイはうなずいて歩き出した。
「そう?」
シンジの顔がぱっと輝いた。
レイはぱちぱちと目を瞬かせた。妙な気分がした。もっとも自分の心を覗き込んで妙な気分の
正体を突き止めようとはレイは思わなかった。内省というものをレイはしない。
「じゃあ、明後日でどうかな? ミサトさん出張で、ミサトさんの分作らなくていいんだ。作
らなくていいっていうか、本当は当番制で今日はミサトさんの番なんだけどね……」
「それでいい」
「ところで、綾波は何が好きなの?」
「肉」レイは即答した。「肉が、好き」
「そ、そう」
シンジはレイのあまりに直截な返答に多少ひるむ。レイのような繊細な少女の口から肉が好き
などという言葉が出るのはどことなく違和感がある。
「でも、バランスをとらないとダメだよ。肉ばっかりじゃ偏りが出るからね」
レイはまた不審に思う。なぜ私の身体を心配するのだろうか? 意味が分からないことを言う
男だった。私は誰の心配もしたことはない。
それとも――。奴隷はこうやって主人のことを何くれと心配するのだろうか? 今まで強制的
に言うことを聞かせてきたから、要領がよく分からない。少し鬱陶しい。
「大丈夫。薬、飲んでるから」
「くすり……?」
シンジは眉をひそめた。
「そう。赤木博士がくれるの」
「身体、どこか悪いの?」
「悪いように見える?」
「い、いや、見えないけど……」
実際具合が悪いと思うことはまるでない。ということはリツコはきちんと仕事をやっていると
いうことだ。現状に支障が無いなら思い煩うことはない。
「じゃあ、サプリメント……とかなのかなぁ?」
シンジは首をひねる。
「でも、栄養は食事から取ったほうがいいんだよ」
「そう」と、レイはそっけなく言う。別にどうでも良いことだった。
「何か、食べたいものある? いや、肉とかじゃなくて、料理の種類で」
「特にない」
「そう……? じゃあ、ハンバーグでいいかな。野菜サラダも作るから」
「それでいい」
「綾波の家に調理道具ってどれくらいある? 包丁は?」
「ない」
「フライパンとか、鍋は?」
「ない」
「そっか……。お茶碗は?」
「私の分だけ」
「うん。分かった。じゃあ、明後日」
教室に入って二人は分かれた。
レイは椅子を引きながら、ふと、すげなく断ってシンジが傷つく顔を見てもよかったと思った。
そうしなかったのは、多分、悪魔でもワルツを踊りだしそうなくらいに気候が良いせいに違い
なかった。


チャイムが鳴った。
レイは「鍵、空いてる」とだけ言う。やることがないので椅子に座っているところだった。レ
イは何もすることがない状況に何時間でも耐えることが出来た。
いや、耐えるという表現は違うかも知れない。椅子に座り、何をすることなく時間を過ごして
も、特に苦痛は感じない。
おじゃましますと控えめな声とともにシンジが入ってきた。右手にはスーパーの袋に入った調
理道具、左手には料理の材料。どちらもぎっしりと詰まっている。
シンジはレイの視線に気がついたようだった。
「フライパンとか包丁とか、持ってきたから。置いていくから、よかったら使って」
袋を床におろして、道具を出しはじめる。
「綾波の部屋……ずいぶんと、殺……シンプルな部屋だね」シンジは殺風景と口にしかけて、
あわてて言い換えた。「飾りつけとか、興味ない?」
「ない。してどうなるの?」
「え? いや、どうなるっていうか……。その方が、気分が変わって楽しくないかな」
レイは返答せず、しばらく沈黙が流れる。
「……じゃあ、作るよ。あんまり時間もないしね……。ちょっと台所借りるよ」
レイの耳に水が流れる音が聞こえてくる。それから包丁で何かを切っている音。ガスコンロを
点ける音。
「結構、料理も楽しいよ」
レイは何も言わない。料理が楽しいとはレイの理解の範疇のはるか外にある。
「確かに自分だけのための料理はちょっと空しい感じもするけど。誰かのために作る料理は楽
しいと思う。食べた人が喜んでくれるとね」
レイは笑いそうになった。逆ならともかく、誰かのためにレイが何かをするなど、考えられな
いことだった。シンジの思考はレイにとって異星人のそれと大差ない。
「綾波は、料理したことある?」
「ない」
あるわけがなかった。料理とは作らせるもので作るものではない。
「じゃあ、全部できあいのものなんだ……」
包丁の音が止まった。
「そういうのって……さみしいと思うな」
「さみしい?」
レイは小首を傾げた。できあいのものがさみしいという結びつきが理解不能な上に、そもそも
さみしいという感情自体をレイは感じたことがなかった。
レイは思う。辞書的に言えば、さみしいというのは満たされない、人恋しい気持ちのことだ。
だけど私は満たされてるし、人恋しいなど生まれてこのかた思ったことがない。
さみしいなどと感じたことがないし、これからも感じることはないのだ。
「どうしてさみしいの?」
シンジはそう問われて答えに窮したようだった。
「何て言うか……誰にも求められていないっていうか……。ごめん。失礼なこと言ってるね、
僕。別に綾波が求められてないって話じゃないんだ。綾波は、僕と違って優秀だしね。
ミサトさんと一緒に暮らすようになって、それからトウジとかケンスケとか、もちろん綾波と
かと知り合って、助けられたり、助けたりして、傷ついたり、傷つけたりして、そういうの…
…面倒だったり鬱陶しかったりするけど、それが当たり前なのかも知れないって、今、ちょっ
と思ってるんだ」
「分かる」と、レイは言った。
ヒトというのはたとえどれほど独裁的に見えようとも相互に補完された関係性のなかでしか生
きられない。
臣下あっての王であり、王あっての臣下ということだ。王だけの世界など存在しない。それは、
レイとて例外ではない。
レイはそこまで考えて、驚きのあまり顔を上げた。これは――あまり調子に乗るなという遠ま
わしの警告なのだろうか? 
まさか。どう考えてもシンジはそんなことを言えるタイプではない。
シンジは少し嬉しそうだった。
「分かってくれるんだ。ヘンなこと言って、困らせたらどうしようかと思ったけど……」
シンジはそこで言葉を止めた。トントンというリズミカルな包丁の音だけが、少しの間、部屋
に響く。
「できあいのものばかりって、自分はそれでいいかも知れないけど、他人が許さないと思うん
だ。そういう人がいないというのは、さみしいと思う。
綾波は気にしなくても、僕は……。僕が、イヤだから。それだと、僕がさみしいんだ。だから、
その、綾波さえ良ければ……。
今日みたいに、料理作りにくるから……。もちろん、綾波が迷惑じゃなければの話、だけど」
料理を作りに来るなどと、自分の手間と苦労でしかないことを言うのになぜ言いにくそうにす
るのか、レイには全く理解できない。もっとも理解しようとも思わなかったが。
まぁ、いつも同じ外食ばかりだと飽きるのは確かなことだった。やりたいというのならやらせ
ればいい。
「別に、構わないけど」と、レイは答えた。
シンジが顔を出して、「メニュー、いろいろ考えておくよ」と言った。その顔にはほっとした
ような、かすかな笑顔が浮かんでいる。

シンジが台所に立って、しばらく経った。
「綾波……。ちょっと、来てくれる?」
「……何?」
レイは心持ちむっとしながら立ち上がった。たとえお願いの形でも、他人から何かをしてくれ
と言われるのが嫌いなのだった。とはいえここで断るのはいくらなんでも子供っぽい。
台所に行くと、シンジがエプロンで手を拭きながら、
「良かったら、手伝ってくれるかな……。油揚げを切って欲しいんだ」
レイは眉をひそめる。なぜ私が? 作るのはあなた。食べるのは私。レイは、そう言おうとし
た。
「これ、綾波のエプロン」
シンジがビニール袋から真っ白なエプロンを取り出して広げて見せた。
「似合うと思うんだ。……着てみる?」
「え……」
レイにしては珍しいことに戸惑った。
「……いえ、いい」
「……そう?」
何となくぎこちない空気が流れる。シンジが咳払いをして、
「綾波も、少し料理を覚えたほうがいいと思う。別に、女の子だから料理をするのが当然とか
じゃなくて……。ほら、いざ作りたいと思ったときに、できるのとできないのとじゃ違うから」
レイは苛立ちを感じる。何かを頼まれるのも嫌だが、指図されるのはもっと嫌なのだ。
レイの表情から何を読み取ったのか、シンジはちょっと慌てて付け加えた。
「強制じゃないよ。イヤだったらいいんだ。今は料理ができない女の子だっていっぱいいるし」
「……別に」
レイはまたむっとした。こんなことぐらいできるに決まっている。
包丁を手にして油揚げを切ろうとする。
「ああっ!」
じっと見ていたシンジが声を上げる。
「?」
「危ないよ、左手……こうやって第二関節のところで折り曲げて……」
シンジの手が、レイの手に触れた。レイは自然とシンジを見る。
「あっ。ご、ごめん……」
シンジは慌てて謝る。
なぜ謝ったりするのか? 別に思いっきりぶつかったとか、痛い思いをしたわけではない。ま
ったくこの男はやる事なす事いちいち謝らなくては気が済まないのだろうか?
レイが何か言おうと口を開いたときだった。
玄関のチャイムが鳴った。
同時に「綾波様、緊急招集です」という男の声がした。


輸送機の振動に揺られながら、レイはまったくやる気のない表情で――といっても他人から見
るといつもの表情と変わりがないのだが――ミサトからブリーフィングを受けている。
相手が使徒でないのがやる気のない原因だった。何かを破壊するのがレイの喜びなのに、どう
やら今回はそうではないらしい。
「レイ、目標と並走し、私を背後部に取り付けて。以後は可能な限り目標の移動をせき止めて
ね」
「乗るの? あなたが?」
レイは少し驚いた顔でミサトを見る。
「そうよ」
「死ぬんじゃない? 私はあなたが死んでも別に構わないけど」
ミサトは苦笑した。
「ま、やれることやっとかないとね。後味悪いでしょ?」

……制御棒が本体に格納され、JAは停止した。
「葛城さん、死んだ? あ、生きてても返事しなくていいわよ。別にあなたの声なんて聞きた
くないから」
「……ったく、あんた何でそんなに口悪いのよ? 残念でした、生きてるわよ」
疲労困憊といった態のミサトの声が聞こえてくる。
「三十女はしぶといのね」                          
「まだ三十じゃあ・り・ま・せ・ん」
「似たようなものでしょ」
「神はディティールに宿るって言葉、知らない?」
「宿るにしてもあと何ヶ月かの短い命ね。……それにしてもわざわざお披露目の席で暴走なん
て、ずいぶん場をわきまえたロボットね」
「……ま、ね」
ミサトは黙りこくったまま、何か考えているようだった。
レイは肩をすくめる。誰がどんな目的でこの事件を仕組んだのか、あるいはただの偶然なのか。
いずれにせよ、レイには関係のないことだった。レイにとって、詰まらない仕事を一つこなし
だだけの話だ。
「ところでレイ、お食事のところ、悪かったわね」
「……何で知ってるの?」
口にしてから馬鹿なことを言ったとレイは思った。シンジに決まっている。
「シンちゃん、張り切ってたもの。あんたがちゃんと食べてるか心配してたわよ」
「そう」
「シンジ君、あんたを守れたこと、すごく嬉しそうにしてたわよ。世界を守るとかそんな大そ
れたことよりも、もっと身近な人を守れたことにね。
そういうのがシンジ君には合っているみたい。そりゃ私だって世界がどうとか、正直実感ない
けどね」
レイは声に出さずに失笑していた。誰が守ってもらった? 別にシンジなどいなくても、本当
の力を発揮すれば助けなどいらないのだ。
ただそうすると少し面倒なことになるので、しないだけ。見当違いもいいところだった。
「そんなわけだから……ま、あんまりシンジ君をいじめないようにね」
レイは返事をしない。シンジをいじめるなと言われてもそれは無理な相談だ。あれほどいじめ
がいのある人間もいないのだから。
「少し変わったのよ、シンジ君。最初のころみたいに皮肉も言うようになったし。料理の件は
かなり勇気がいったみたいだけどね。……レイ、あなたも変われるといいわね」
「……そんな必要、ない」
不意を衝かれて、答えるまでに少し時間がかかった。今日は意外なことを言われる日だ。
「今に分かるわ。三つ子の魂百までとは言うけれど、人間は環境が変わったら、変わらざるを
得ないのよ」
「……」
レイはなぜか不快な気分になり、無線のスイッチを無造作に切った。


帰ると、当然シンジはいなかった。
シンジには好きな時間に帰ってと言ってある。シンジは鍵はどうするのか訊いてきたが、この
マンションは保安部の監視がある上に、第3新東京市にいるのは関係者のみであり、
容易に外部から入れないよう封鎖されている。今の第3新東京市は日本でもっとも犯罪が少な
い都市といっても過言ではなかった。だから鍵などかける必要はない。
以上の理屈にシンジはうなずいた。それでも少し心配そうではあったが。
テーブルにシンジのメモとサランラップに包まれた食事が置いてある。メモを読んでみると、
"味噌汁はコンロで、その他はレンジで温めて。サラダは冷蔵庫に入ってる。味噌汁を温める
ときは、たまに鍋の底をかき混ぜること。突然沸騰して危険なことがあるから。
それから料理道具一式置いていきます。綾波も気が向いたら料理、してみて。それじゃ。碇"
メモから顔を上げて部屋を見回す。さきほどから違和感がある。
何回か見回してみて、違和感の正体が分かった。綺麗になっているのだ。わざわざ掃除までし
ていったらしい。
――ご苦労なこと。
肩をすくめると食事の支度にとりかかる。さすがのレイもレンジで温めたり、ガスコンロを点
けたりはするのだ。
よく考えると昼食を摂ってから何も口にしていない。
すぐに準備はできて、レイは食事に取りかかった。二口ほど口にすると、思わず感想を言って
いた。
「……おいしい」
ハンバーグは切ったとたんに肉汁があふれだし、小皿にとりわけてあった大根おろしを乗せて、
ワサビ醤油につけて食べるとさっぱりしてご飯がすすむ。
味噌汁もレイの好みを知っているかのような絶妙な塩加減だ。
冷静に考えれば特別においしいわけではないのかも知れない。空腹であることもおいしく感じ
る一因だろう。空腹に勝る調味料はないと言う。
いや、やはり、それだけではなかった。シンジの料理にはプロにはない何かがあった。それが
何であるかは分からなかったが。
エヴァに乗るより、料理人にでもなったほうがいいのではないだろうか、とレイは思った。あ
るいは家政婦やら主夫とか。
あっという間に食事を平らげると、何もすることがなくなった。あとはシャワーを浴びて眠く
なったら寝るだけだ。
いや、あった。今日はシンジの意外な側面を見ることができたのだから、メモしておく必要が
ある。
手帳を取り出して、シンジの行動とそれに対するレイの分析を書き出していく。
――碇シンジから料理の提案。自分に何の得もないにもかからず、部屋の掃除。 
――自分を支配する者に媚を売るのが習性になっているものと思われる……。
――料理はかなりの腕前。
……。
……。
ふと、シンジがエプロンを着てみないかと言ったときのことを思い出した。
……似合うと思うよ。
レイは立ち上がってエプロンを探しはじめた。シンジはきっと置いていったはずだ。
エプロンはハンガーにかかっていた。
手に取ると、鏡の前に立って身体にあててみる。
レイは首を傾げた。どこが似合っているか、分からない。
――馬鹿馬鹿しい。
エプロンを放り投げると、手帳を取り上げ、しまおうとして、最新のページに目が留まった。
そこには殴り書きのような字で、

碇君の手 あたたかい

と書いてあった。
レイは奇術を目の前で見せられた子供のように、じっと手帳を見つめた。
「何……?」
こんなことは自分は書いてないはずだった。まるで他人が書いたようだ。
しかし、もちろん他人が書いたわけがなかった。
レイは左手を右手で押さえた。突然、シンジの手の感触が蘇ったのだ。
……危ないよ、綾波。伸ばしっぱなしじゃなくて、こうやって第二関節のところで折り曲げて
……。
「……」
レイは無表情な顔でそのページを破くと、丸めて壁に思い切り投げつけた。
しばらく壁を見つめたあと、手帳も投げつける。鈍い音を立てて手帳は壁から床に落ちた。
立ち上がると、バスルームにいって手を洗い出した。
しかし、どんなに石鹸をつけて洗っても、シンジの手の感触は消えなかった。




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