一人目は笑わない

Written by 双子座   


エピローグ

レイはATフィールドを反転させた。
これでシンジがこれ以上侵蝕されるのは防げる。
――ありがとう、碇君。あなたに会えてよかった。
この間、あれだけ泣いたのに、また涙が零れ落ちてくる。
これが、最後の涙だった。
目を閉じ、決心すると、自爆装置に手をかけた。
「レイ、自爆する気!?」ミサトの叫び声が聞こえてくる。
そう。その通り。
唇に血がにじむほど歯を食い縛った。死にたくはなかった。こんなことを思うは初めてだ。
死にたくない。
まだ、シンジと話したいことが山ほどあった。
一緒に学校まで歩いていきたいし、料理も教えてもらいたい。
なにより、シンジの隣にいたかった。贅沢は言わない。ただ隣にいるだけでいい。
しかし、こうするしか方法はなかった。
シンジが死ぬよりはいい。それに――代わりはいるのだ。
レイに脳裏にLCLに浮かぶ自分の姿が蘇った。
――私に代わりは、いくらでもいる。
「碇君、さよなら」
――次の私を、よろしくね。
シンジは叫んだ。
「さよならなんて言うな、綾波! 絶対ダメだ!」 
「でも、これしかないの」
「そんなことないよ……なんとかなる。いや、僕がなんとかする。だから死んじゃダメだ、綾
波!」
なんとかするって、一体どうするのだろう。絶望にレイは首を振る。
「綾波、君の代わりはいないんだから!」
「私の代わりは……」
その瞬間、天啓が雷光のようにレイの背骨を貫いた。
これは、何とかなることなのだ。
碇君と、私とで、きっと何とかするのだ。
根拠は何もないが、それは確信を超えて、自明のことのように思えた。
今日の次は必ず明日が来るように。
今日は雨でも、明日も明後日も雨でも、たとえ永遠に降り続くように思えても、晴れの日がい
つかは来るように。
「……わかった。待ってるわ、碇君」
レイは手を元に戻して、モニターのシンジに向かって微笑んだ。

それは、綾波レイが生まれて初めて浮かべた、心からの――本当の、笑顔だった。




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