一人目は笑わない

Written by 双子座   


エピローグ2

加持は新聞を取るついでに郵便受けをチェックした。
たいがいは見ると頭が痛くなるような請求書や見るまでもない広告のチラシばかりなのだが、
今日は手紙が入っていた。差出人は加持のよく知る名前が書いてある。
その場で目を通した加持は、玄関に戻るなりキッチンにいるミサトに聞こえるように大声を上
げた。
「おい、あの二人、結婚するんだとさ」
「あーそう、やっとなのね」
ミサトがエプロンで手を拭きつつ顔を出す。「あの二人」で誰のことか分かるらしい。
「しかし、ま、あの二人が結婚とはね」加持は柄にもなくしみじみと「あれからもう十年だも
んなぁ。俺もお前も歳を取るわけだ」
「お前もは余計でしょ……。んで、式はいつなの?」
「決まったら案内状が来るさ」
「最近会ってない人たちとも会えるわね」
「そうだな」
別段何の含みもなく頷いた加持を、ミサトが曰くありげに見た。
「アスカも綺麗になってるだろうし、楽しみだわーってところかしら?」
「おいおい。やめてくれよ」加持は苦笑した。「俺にとってアスカは永遠に子供のままだよ」
実際どんなに大人になっても、加持から見れば十四歳のころのアスカにしか見えなかった。
「分かってるわよ。からかっただけ」
とミサトは言うが、加持にはどこか本気の部分があるように思えてならない。目も笑ってない
ように思えるのは気のせいだろうか?
「どんなに歳をとっても俺が愛しているのはお前だけさ」
「……あんたイイ歳してよくそういうこと真顔で言えるわね」
呆れた顔をするミサトだが、悪い気はしないらしい。態度も軟化したような気配がある。
「さ、冷めちゃう前に食べないとね」ミサトは子供の名前を呼んだ。「早く起きなさい。朝ご
はんよ」
よちよち歩きを卒業したばかりの年頃の、パジャマ姿の女の子が目をこすりながら寝室から出
てくる。加持の手にあるものを見て目をパチパチさせた。
「パパ、何もってるのー」
「ん? これか? 手紙だよ」
「なんのてがみー?」
「パパとママの知り合いがこんど結婚するっていう報告の手紙だよ」
「わたしパパとけっこんするー」
「おー、そうかそうか」
加持は相好を崩す。
「ねーママー、だれとだれがけっこんするのー?」
ミサトは腰を落として子供と目線を合わせると、囁いた。

それはね――。

(終わり)




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