「・・・シンジ君」
タカユキは自分の左手を右手で抱きかかえる。
「大丈夫・・・僕が守るから・・・だから、ゆっくり休んで・・・」
タカユキの言葉に合わせるように左手の震えは少しずつ収まっていく。
「そう・・・絶対に」
戦闘の翌日、タカユキは食堂で朝食をとっていた。
「おはよう、タカユキ君」
そこへ、ミサトが近づいてきた。
「おはようございます」
「調子はどう?」
「別に悪くありませんよ。ところで、もう会えるんですよね?」
タカユキは、食事の手を休め、ミサトを見る。
「ええ、会えるわよ」
「じゃあ、案内してください」
ミサトの言葉に頷き、タカユキは立ち上がる。
「あら、もういいの?」
ミサトはタカユキの朝食を見ながら言う。中身はまだ半分以上残っていた。
「今は、こっちの方が大事ですから」
タカユキがそう答えながら、食堂を出て行こうとするのでミサトは慌ててタカユキを追いかけた。
「失礼します。サードチルドレンを連れてきました」
「入りたまえ」
ゲンドウの言葉にミサトは中に入ろうとする。
「葛城さん」
しかし、中へ入る前にタカユキに呼び止められた。
「すみませんが、外してくれませんか」
「・・・そうね」
タカユキの言葉にミサトは少し迷ったが、昨日のエレベーター内でのタカユキの様子を思い出し、出て行った。
タカユキはゲンドウの前まで歩き、止まる。
「改めまして、お久しぶり・・・いや、始めましてと言うべきでしょうか、ゲンドウさんに、冬月コウゾウさん」
「!」
名前を呼ばれた冬月は驚いた。今までに冬月が「シンジ」と会ったことがあるのは、『あの日』だけのはずだったからだ。
冬月の様子には特に気にせずタカユキは続ける。
「僕がシンジ君ではないということは、もう知っているでしょうから特に言うことはありません。僕が話しにきたのはあれに乗る条件です」
「・・・なんだ」
「簡単なことですよ
1つ目、まず報酬として50億円もらいます
2つ目、あの敵との戦いにおいての作戦に意見を出すことの許可
これだけです」
「ちょっと待ってくれないかね」
タカユキの要望に慌てたのは冬月だった。1つ目の要望は別に慌てる必要は無い。50億程度ならすぐにでも用意できる。
問題は2つ目だった。表上では人類のために戦っているネルフである。その戦いでパイロット、しかも中学生の意見で作戦を決めていたら職員からの信用に関わることになるからだ。
「その2つを報酬とする理由を聞かせてくれないかね?」
「いいでしょう、まず1つ目の50臆円についてですが、これはシンジ君への謝罪と考えてもらいます」
「謝罪・・・かね」
「ええ、もっともあなたがシンジ君に犯した罪を考えれば、この程度では足りないくらいなんですけどね」
タカユキはゲンドウを見ながら答える。
これには冬月も同意した。ゲンドウには悪いが、今までの息子への行為からすれば当然の反応と言えるだろう。
「2つ目についてですが、あのエヴァンゲリオン・・・に乗るということは、シンジ君の命がかかっています。そこに昨日のような『歩くことだけ考えて』といったふざけた命令を素直に聞くわけにはいかないんですよ」
「しかしタカユキ君。こちらもパイロットの意見で作戦を立てるわけにはいかないのだよ」
タカユキの言葉はもっともであったが、冬月も立場上、認めるわけにはいかない。
「別に作戦を立てる気なんてありません。ただそちらの考えた作戦に対して僕が意見を口にするだけ・・・それを真に受けるのも無視するのもそちらの自由です」
「しかし「いいだろう」
今まで黙っていたゲンドウが冬月の言葉を制する。
「碇!?」
「今はチルドレンの確保が先決だ」
「・・・」
「それだけだな」
「・・・ええ、それでは」
タカユキはそれだけ言い残し司令室を出て行った。
「・・・いいのか碇、彼の人格はお前とユイ君の息子ではないのだぞ」
2人だけになった司令室に冬月の声が響く。
「初号機とのシンクロはできている」
「しかし彼は計画の要になる。問題が起こってからでは遅いぞ」
「そのためのダミーシステムだ」
「ダミーシステム・・・まだ30%も完成していないではないか」
「間に合わせますよ、冬月先生」
「・・・もう、後戻りはできんぞ」
「・・・」
冬月のため息まじりの言葉に、返事は返ってこなかった。
あとがき
キトウキノです。今回は短め。レイがでてこないし・・・LRSのはずなのに。
次回は出すつもりです。