「・・・もう、後戻りはできんぞ」
「・・・・」
冬月のため息まじりの言葉に、返事は返ってこなかった。
「タカユキ君、ちょっち寄りたい所があるんだけど、いいかしら」
ミサトは、助手席に座っているタカユキに尋ねる。
なぜ、タカユキがミサトの車に乗っているかというと、タカユキの住むことになるマンションへミサトが案内したいと言い出したからだ。当初ミサトは、自分のマンションに同居させようと考えていたが、タカユキ本人の希望と、親友からの口撃(誤字なし)により断念した。
「・・・どこ、です・・か」
タカユキは妙にどもりながら答える。よく見れば、笑顔も少し引きつっている。
それもそのはずだ。ミサトは昨日のタカユキを迎えに来たときとほぼ同じスピードを、車の多い一般道で出していたのだ。彼女の親友が初めて車に乗ったとき、3分でダウンしたのと比べれば凄いほうだろう。
「病院」
「病院?」
「そ、ファーストチルドレンのレイのとこ」
「・・・そうですか」
「あら?驚かないの?」
特に追求してこないタカユキにミサトは首をかしげる。
「僕のことを、サードと呼んでいたので・・・後、2人いると考えてもおかしくないでしょう」
「ああ、そういえば言ったわね」
話し込む二人を乗せ、ルノーは猛スピードで病院へと走っていった。
「ここよ、タカユキ君」
タカユキとミサトは病院のある一室の前で止まった。扉の横の名札には『綾波レイ』と書かれている。
「レイ、入るわよ」
返事を待たずミサトが入っていくので、タカユキもそれに続く。
中にはベッドが1つ。その上には、10人いたら9人は驚くであろう、蒼い髪と紅い目を持つ少女がいた。
「レイ調子はどう?」
「問題ありません」
ミサトの問いに抑揚のない声で返す。
「レイ、紹介するわ。サードチルドレンの・・・碇タカユキ君よ」
「葛城さん、いつの間に僕の苗字が碇になったのですか?」
タカユキがミサトの言葉を指摘する。
「えっ?・・・だって、苗字がないと後々困るでしょ?」
ミサトは少し考えるそぶりした後、あっけらかんと答える。
「そうかもしれませんが、碇というのは・・・」
「いやなの?」
「ええ、シンジ君と一緒だと考えればいいのですが、あの男・・・碇ゲンドウと一緒と考えると・・・」
「あなた・・・」
突然、今まで黙っていたレイが口を開く。
「碇司令のことが嫌いなの?」
「・・・そうだよ」
「何故?」
その顔には幾分怒りの表情が見える。
普段見ることのないレイの表情にミサトは目を見開いていた。
「何故って・・・」
タカユキは笑みのまま。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・そうだな」
「・・・・」
「あの男が間違っているからだよ」
「碇司令は間違ってなんてない・・・!」
言葉を強くするレイ。
その言葉にタカユキの笑みが消えた。
「どうして?君と僕という存在がいる時点で、あの男は間違っているじゃないか」
「!?」
今度はレイの目が見開く。
「・・・じゃあ、僕はこれで」
タカユキはレイに背を向け病室を出て行く。
「あっ、タカユキ君!?じ、じゃあお大事に、レイ!」
ミサトはありきたりな見舞いの言葉を残し、タカユキを追いかける。
1人残されたレイは未だにタカユキの言葉に驚愕していた。
ミサトはタカユキを送った帰り道を走りながら考えていた。
『君と僕という存在がいる時点であの男は間違っているじゃないか』
頭の中でタカユキの言葉が思い浮かぶ。
僕・・・タカユキの存在が間違っている、というのはなんとなくは予想ができる。
おそらくシンジのことだ。
司令がシンジを見捨てたりしなければシンジの人格は心の奥に沈むこともなく、自分という第二の人格も存在しなかった・・・ということだろう。あくまで推測だが・・・
わからないのは君・・・つまりレイの方だ。
何故、レイの存在が間違っているのだろう。たしか、レイの保護者は司令ということになっている。
司令がシンジを捨てレイを拾った、という事だろうか・・・
だが、それだけにしては言葉に重みがありすぎた気がするし、それ以前にレイの保護者が司令ということをタカユキは知らないはずだ。
「何かあるわね・・・」
ミサトは運転席で小さく呟く。
その言葉には確信のある響きが含まれていた・・・
レイもミサト同様、病室でタカユキのことを思い出していた。
何故・・・あんなこと言ったの?・・・
レイもミサト同様、彼のまるで自分の秘密を知っているかのような言葉に驚いていた。だがそれ以上に・・・
彼のあの目・・・
私は今までにいろいろな目で見られてきた。驚き、軽蔑、同情・・・すべてがその容姿に向けられたものだった。
彼の目は・・・違う。
彼は・・・哀しそうだった。
あとがき
キトウキノです。レイ・・・難しいですね(泣)
書くのにかなり手間取りました。うまく書けていればいいのですが・・・