司令がシンジを捨てレイを拾った、という事だろうか・・・
だが、タカユキはそんなことは知らないはずだ。
「何かあるわね・・・」
ミサトは運転席で小さく呟く。
その言葉には確信のある響きが含まれていた・・・


〜フタツのココロ〜

5.少年の名はどちらか


「碇・・・シンジです、よろしく」


タカユキとレイが出会った次の日、ミサトはあるマンションの一室まで来ていた。
昨日送ってきた『タカユキ』の部屋である。
新しい中学校へ入学するための打ち合わせをするために訪ねてきたのだ。
「・・・というわけで、来週から中学校に通ってもらうことになるけど、何か質問は?」
「要望があります。1つだけ・・・」
そう言いタカユキは人差し指を立てる。
「要望?」
「学校には、『シンジ君』として登校させていただきます」
「へっ?」
タカユキの言葉にミサトは声をあげる。
何を言っているのか分からない、といった感じだ。
「なんで?」
「この体はシンジ君のものです。だから、シンジ君が表に出られるようになった時、『タカユキ』となっていたら困るんです。
・・・前の学校でも、極力シンジ君として務めてきましたから、あそこで僕の存在を知っている人はいないはずです」
「・・・・」
タカユキの言葉は嘘ではない・・・とミサトは考えた。
タカユキが前にいた学校、家をミサトは調べ終えていた。その結果、タカユキという存在は学校どころか住んでいた家の中でさえ見えなかったのだ。
これでは、諜報部がシンジが二重人格ということを報告できなかったわけだ。
・・・しかし
「じゃあ、何で私達にはすぐに二重人格だって教えたのよ?」
タカユキはミサトに出会うとすぐにシンジであることを否定し、自分が二重人格者であることを打ち明けていた。
「わかりませんか?」
「わからないから聞いてるのっ!」
「・・・嫌だったんですよ」
急に声が低くなる。
「たとえ、上司と部下というだけでも・・・あの男と関係のある人間に、シンジ君の名前を口にしてほしくなかったんですよ・・・」
タカユキは笑みのまま・・・
しかし酷く冷たい笑みだとミサトは感じていた。
「要望・・・よろしいですね?」
タカユキの言葉にミサトは頷くことしかできなかった。


タカユキがシンジとして学校に登校し始めて3日がたった。
その中性的な顔に加えタカユキの普段から笑っている表情もあり、タカユキはクラスにすぐ打ち解け、今ではクラス中の女子に熱い視線をおくられる存在にまでなっていた。
「シンジ君、ちょっといい?」
タカユキの席に2人の女子生徒が近づいてきた。
「いいよ。何かな?」
タカユキはにっこり笑って頷く。
「あ、あのね・・・もう疎開が始まってるのに何でこの学校にきたの?」
「やっぱりウワサは本当?」
「ウワサ?」
首をかしげるタカユキ。
「とぼけないで、シンジ君があのロボットのパイロットだってウワサ!」
「あれ、本当なんでしょ?」
「ああ、そのこと・・・」
2人の話に合点がいったように頷く。
「本当だけど、教えてなかったかな?」
「きゃ〜、やっぱり!」
タカユキが答えたとたんに、教室が騒がしくなった。
「なになになに」
「やっぱホントなんだって、シンジ君がパイロットだっていうの」
「マジかよ」
「スッゲェ〜カッコイイ」
「どうやって選ばれたの?」
「テストとかあった?」
「怖くなかった?」
「あの怪獣みたいなの何なの?」
「必殺技とかないの?」
などと次々と言葉が出てくる。
そのせいか、教室に入ってきた者いたことに気付かなかった。
「転校生!!」
教室の裏から聞こえる声にクラス中の生徒が振り向く。
タカユキも例外ではなかった。
そこには上下とも黒いジャージ姿の男子生徒がいた。
「鈴原・・・1週間も学校休んでどうしたの」
クラスの委員長、洞木ヒカリの問いに答えずに、鈴原と呼ばれた少年は真っ直ぐタカユキのもとへ歩く。
「・・・転校生、わしは鈴原トウジや、ちょっと付き合ってくれへんか」
「・・・いいよ」


学校の屋上・・・
そこにはタカユキとトウジ以外に見当たらない。
授業と授業の間の10分程度の休み時間では、誰も屋上までは上がってこないようだ。
「・・・今、わしの妹は入院しとるんや。なんでかわかるか?」
「・・・・」
「われが、あれに乗って暴れたせいで、瓦礫の下敷きになったんや・・・!」
「・・・・」
「!・・・何とか答えんかい、われぇええ!」
何も答えないタカユキに対してトウジは拳を振り上げた。
日で焼けたコンクリートの上に横たわるタカユキ。トウジは倒れたタカユキの胸倉をつかみ、さらに殴ろうとする。
「お、おいトウジ!」
物陰に隠れて様子を見ていたらしいメガネの少年、相田ケンスケが慌ててトウジを抑える。
「トウジ!もう、そのくらいにしとけよ!」
「放さんかい、ケンスケ!わしはこいつを殴らんと、気がすまんのや!!」
「もう殴っただろうが!それに、パイロットに怪我でもさせたらおまえ、ただじゃすまないかもしれないだろ」
ケンスケの言葉にトウジの動きが止まった。
「・・・フン」
トウジは苦虫を噛み潰したような顔でシンジを睨むと、胸倉の手を離した。
「今度から、足下見て闘うんやな・・・どっちが味方なんかわからんで!」
そう言い残し、大股に立ち去る。ケンスケも慌ててトウジの後を追う。
「・・・・」
タカユキは終始無言であった。



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あとがき
キトウキノです。今回はトウジとケンスケそれにヒカリが登場しました。
そのせいかレイを出すことができず・・・何故?
次回はシャムシエル戦までいく予定です・・・たぶん・・・


作:キトウキノ

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