「今度から、足下見て闘うんやな・・・どっちが味方なんかわからんで!」
そう言い残し、大股に立ち去る。ケンスケも慌ててトウジの後を追う。
「・・・・」
タカユキは終始無言であった。


〜フタツのココロ〜

6.少女の疑問


「3度目の使徒襲来・・・思ったより早かったわね」
「前は15年、今回はたったの3週間ですからね」
ミサトの呟きに彼女の副官、日向マコトが答える。
「こっちの都合はお構いなし・・・女性に嫌われるタイプね」
ミサトが睨み付ける視線の先には第4使徒・シャムシェルの姿。
国連軍がミサイルで次々と攻撃しているが、ATフィールドに阻まれ効果を得られているようには思えない。
「・・・税金の無駄使いだな」
ため息まじりに呟く冬月。だが、いつもの相づちの声はない。
冬月の横の司令席は無人であった。
「委員会からエヴァンゲリオンの出動要請が来ています。司令は出張中ですが、どうしますか?」
「アレを放っておくわけにもいかないでしょ・・・タカユキ君?」
「・・・」
メインモニターにエントリープラグ内の映像が映る。タカユキは目を瞑っていた。
「出撃後、ATフィールド中和と共にパレットガンの一斉射撃。いいわね?」
「・・・」
「タカユキ君?」
「・・・聞こえてますよ」
タカユキは目を瞑ったまま答える。
「どうしたのかしら?・・・タカユキ君」
反応が鈍い彼の物言いに首を傾げるミサト。
「私に聞かないで。それより、早くしないと使徒がここまで来ちゃうわよ?」
「そうね・・・エヴァ初号機、発進!」
ミサトの号令と共に初号機が射出される。
モニターに注がれる視線。その中には深紅の瞳の少女の視線もあった。


「あ〜もう、まただよ」
広いシェルターの一角に、ある少年の声が木霊した。
「どうかしたんか、ケンスケ」
「見てくれよ、トウジ」
「ん〜〜?」
ケンスケが差し出した携帯テレビの画面をトウジが覗き込む。
「何や、小難しい文字ばっかやないかい」
「俺たち民間人には何も教えてくれないんだぜ」
ため息をつくケンスケ。
「・・・それよりトウジ」
「ん?」
「ないしょで外、出ないか」
ケンスケの言葉にテレビ画面から顔を上げるトウジ。そこには、不自然に眼鏡が光を反射させているケンスケがいた。
「なんやて?」
「1度でいいから上のドンパチ見てみたいんだよ」
「あほか!外に出たら死ぬやないか」
「ここにいたってわかりゃしないさ、それに・・・」
そこで一度言葉を切るケンスケ。
「トウジだってあの転校生の戦いを見守る義務があるんじゃないのか?」
「はぁ?・・・なんや、それ」
怪訝そうな顔をするトウジ。
「よく考えてみろよ。結局あいつがロボットに乗ってオレ達を守ってくれたんだぜ。それをよく考えもしないであんな風になぐったりして・・・いわゆる『借り』があるんじゃないのか?」
「う・・・」
ケンスケの言葉に声をつまらせるトウジ。
「・・・・」
「・・・・」
「お前・・・」
数秒の間の後、トウジはゆっくりと立ち上がった。
「ホンマ自分の欲望に素直なやっちゃな」
「とか何とか言っちゃって、お前も少しは反省してるんだろ?」
「アホ!!誰が反省しとるん・・・うぐっ」
「あっ委員長、オレ達ちょっとトイレね」
「んも〜〜ちゃんと済ませときなさいよ」
大声を出しそうになったトウジを慌てて抑え、ケンスケはそそくさとシェルターから抜け出した。


  ダダダダダダ・・・

タカユキは地上に出ると同時にトリガーを引いた。
しかしパレットガンから撃ち出された弾丸は、使徒を貫くことなく砕け散る。それは瞬く間に大量の粉塵をまき散らす結果となった。
「馬鹿!煙で前が見えない!」
視界をふさがれ、ミサトが怒鳴り声をあげる。
『・・・一斉射撃と命令したのはあなたです』
それに対して冷静に返答したタカユキは大きくバックステップをする。
それと一拍遅れで粉塵から光の鞭が飛び出してきた。
「使徒の状況は?」
「まったくダメージを受けていません」
ミサトの問いに即座に返答する伊吹マヤ。
「防御力の見積もりが甘かったわ。パレットガンがまったく役に立ってない。むしろ、煙で見えなくなるなら邪魔になるわね」
リツコが呟くように言う。
「今はどうにかなってるけど・・・」
メインモニターには、使徒の攻撃を紙一重でかわす初号機の姿。
だが、人間の動体視力と反射神経では鞭のように動く触手を2本同時に避け続けることなど不可能だ。
「もう時間の問題よ、ミサト」
「わかってるわよ・・・」
そう答えたもののいい作戦が思い浮かばず、ミサトは下唇を噛み締めていた。

後退する初号機を攻め続ける使徒。
その膠着状態に変化が訪れたのは、初号機の後退先が山のふもと辺りにさしかかった時だった。
初号機が後退するのを止めたのだ。
「どうしたのっ!?タカユキ君?」
『・・・・』
ミサトの問いには答えず、その場で使徒の攻撃を避け続けるタカユキ。
モニターに映るその顔には、いくらか焦りの色が見えていた。
「し、初号機の足下に民間人がいます!」
「なんですって!?」
マヤの目の前にあるモニターに、トウジ達のプロフィールが表示される。
「タカユキ君クラスメート!?」
「何故あんな所にいるの!?」
同時に叫ぶミサトとリツコ。
2人は、腰を抜かしたようにへたれこんでしまっている。
「あれじゃ、これ以上後退できないわ」
「どうすればいいの・・・」
「この状況では、2人を見捨てるしかないわね」
「そんな事できるわけないでしょう!」
リツコの言葉に即座に反応するミサト。
「でも今は使徒の殲滅を優先しなきゃいけないわ!」
「だからって――」
言い争いを始めてしまう2人。
『こうするしか・・・ないのか』
だから2人ともタカユキの呟きに気付かなかった。
『うおおおおおッ!!』
タカユキの咆哮と同時に使徒に向けて突進する初号機。その右手にはいつの間にかプログナイフが握られていた。
「「タカユキ君!?」」
突然の行動に司令室の2人は驚いたが、使徒の方は冷静だった。

  ドシュ!!

『ぐぅ?』
使徒の触手が初号機の腹部を貫く。
だが初号機は止まらなかった。
『ぅぁぁあああああッ!!』

  ドガガガガガガガガガガガ・・・!!

十数棟のビルを破砕してようやく初号機の突進は止まる。
その標的となった使徒はコアを完全に破壊され活動を停止した。

『はぁ、はぁ、はぁ・・・』
司令室に響くタカユキの声。その声は大きく疲労しているようだった。
「し、使徒の殲滅を確認・・・」
自分の仕事を思い出したように報告するマヤ。
それほどまでに初号機の動きは衝撃的だった。
「・・・タカユキ君のクラスメイトは?」
「今、保安部が保護しに向かっています」
「了解・・・」
頷いて保安部に連絡をするマヤ。
それを聞きながらミサトは大きく息を吐いた。
「タカユキ君に助けられたわね」
横ではリツコがミサトと同じように安堵していた。
「ええ、本当に・・・」
今の戦闘で自分はまったく役に立てなかった。タカユキの行動がなかったら自分達は負けていただろう。
「タカユキ君には頭が上がらないわね」
「私はこれから装備の見直しをするわ、あのままじゃ話にならないから」
「私も色々と練り直さないと」
「でもその前に・・・」
「・・・?」
「お仕置きの時間ね・・・」
「・・・今回は止めないわ、好きにやっちゃってちょうだい」
嬉しそうに呟くリツコにそれを促がすミサト。お仕置きとは勿論トウジとケンスケのことだ。あのような形で作戦の邪魔をしたのだから当然といえるだろう。
そんな2人の会話と共に、みなそれぞれの仕事場に戻っていく。
ただ1人・・・
(何故・・・?)
レイだけはタカユキの顔が映っているモニターを見続けていた。
その深紅の瞳はわずかに揺れていた・・・



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あとがき
キトウキノです。戦闘シーンがうまく書けているかどうか心配です。
レイに関してもほとんど書くことができませんでした・・・。
次こそはレイを主体で書きます・・・多分・・・。


作:キトウキノ

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