(何故・・・?)
レイだけはタカユキの顔が映っているモニターを見続けていた。
その深紅の瞳はわずかに揺れていた・・・
「おはようさん、センセ」
「オッス」
「おはよう、碇くん」
「おはよう、3人とも」
第4使徒との戦いから数日後、タカユキ(シンジ)、トウジ、ケンスケそしてヒカリは親友関係を築いていた。
きっかけは使徒戦の次の日の朝。
登校したタカユキが教室に入ってくるのを見つけるなり、トウジとケンスケが頭を下げたのだ。
「転校生、昨日はすまんかった!!」
突然の大声に、教室中の視線が3人に集まる。
だがトウジはおかまいなしに口を開いた。
「わしは、お前の戦っとるとこを見てお前がどんなに怖い思いしてるかはっきり分かった。せやけど昨日わしはお前になんもきかんと殴ってもうたし、戦いの邪魔までしてもうた・・・ほんまに悪かった!」
早口でまくしたてるトウジ。
その横ではケンスケも無言で頭を下げ続けている。それが彼なりの非の表し方なのだろう。
静寂に包まれる教室。
それを破ったのは、今まで黙って2人を見ていたタカユキだった。
「・・・いいんだよ、別に」
驚いた表情で顔を上げる2人に微笑むタカユキ。
「僕が君の妹を救えなかったのは事実だし・・・それに、人は誰でも間違いを犯してしまうものだから」
だけど・・・と言葉を繋げる。
「次は守れるかどうか分からない。だからもう2度と繰り返さないでね?」
「・・・ほんまに、すまんかった」
タカユキの言葉にトウジとケンスケは頷くことしかできなかった。
その後、トウジがタカユキに自分を殴るよう強制しようとしたり、ヒカリがトウジたちがいったい何をしたのかタカユキに詰め寄ったり、一部始終を聞いたヒカリが2人にすごい形相でお説教をしようとしたり、その顔を見たトウジとケンスケがNERVでのトラウマ(ミサトとリツコによる言葉では言い表せないほどのお仕置き)を思い出して絶叫したりなど大きな騒ぎになったのだが、結果として4人の仲を進展させる結果となった・・・
「そういやぁな、シンジ」
「何?トウジ君」
「今度、わしの妹に会ってくれんか?」
そこまで言ってバツの悪そうに頭をかくトウジ。
「いやな・・・この前見舞いに行った時にどうしても礼が言いたい言うての」
「この前トウジがシンジを殴ったのすっごい怒ってたしな」
「じゃかぁしいわい!!」
横から口を出したケンスケに怒鳴るトウジ。
「ほんで、ええか?シンジ」
「うん、いいよ別に」
「ホンマか?おおきにな」
タカユキの言葉にトウジは笑いながら礼を言う。
「ハルカちゃん、そんなに具合悪いの?」
心配そうな顔で尋ねるヒカリ。鈴原ハルカ・・・それがトウジの妹の名前だ。
「いや、両足に怪我してもうて歩けんだけや。再来週あたりには退院できるらしいでな」
「えっ?」
「そう、良かった」
「・・・?どうしたんだシンジ?」
怪訝そうなケンスケの声にトウジとヒカリもタカユキの方を見る。
そこには、どこか呆然とした顔をしたタカユキがいた。
「どこか具合でも悪いの」
「あっ、なんでもないよ」
ハッと我に帰ったように答えるタカユキ。
「悪かったの、そんな軽い怪我だったのに殴ってもうて」
「ううん、そういう訳じゃないんだ」
頭を左右に振りながら微笑むタカユキ。
その彼をじっと見つめる少女がいた。
(何故・・・?)
綾波レイである。
レイは前の作戦以来ずっと、タカユキの行動に疑問をもっていた。
何故あの時、2人を助けたのだろう・・・
あの時とはもちろん使徒との戦いの時だ。
チルドレンの仕事は使徒の殲滅。
人命救助など二の次でしかない。
それにあの2人は・・・
あの日、学校でタカユキが殴られたのをレイは知っていた。何故ならその後すぐに非常招集であることをタカユキに伝えに行ったからだ。
レイにも感情がないわけではない。めったに表には出さないが怒りもするし、悲しくなるときもある。
そこから考えてタカユキの行動は明らかに異様なことだった。
理不尽な理由で殴られ、命を賭けた戦いの邪魔までしてきた2人。
自分ならば命令があったなら最優先で助けるが、ないのなら無視して踏み潰していただろう。
だが彼は2人を助けるために後退を止め、使徒に突撃した。
自分を傷つけてまで・・・
その後も・・・
もっとレイを混乱させていたことが、次の日のタカユキたちのやりとりであった。
謝ってきた2人をタカユキは笑って許した。それも無条件で・・・
自分ならば怒ったりなどをするつもりはないが、少なくとも許すことはない。
そして今もタカユキは笑いながら2人と話している。
何故?
レイにとってタカユキの行動すべてが疑問であった。
間違い・・・
『・・・それに、人は誰でも間違いを犯してしまうものだから』
『君と僕という存在がいる時点で、あの男は間違っているじゃないか』
先日の彼の言葉と初めて会ったときの言葉。
教室で2人に言った言葉からは間違っても仕方がないと許しているニュアンスがある。
しかし、病室で聞いた言葉からは、そんなものは微塵も感じなかった。
同じ間違いなのに・・・どうして?
決して司令が間違っていると思っている訳ではない。しかし彼の中では間違った存在なのだろう。それは認めよう。しかし、同じ間違いであるはずなのに、あの2人と司令とでは何故ここまで違うのだろう・・・
「・・・さん、綾波さん」
深い思考の海に沈んでいたレイは最初、自分の名前が呼ばれていることに気付かなかった。
「?」
今まで執拗に名前を呼ばれたことなどなかったレイは怪訝そうに振り向いた。
「あ、気付いてくれた?」
そこには先程まで彼と話していた人がいた。名前は・・・
「洞木、ヒカリ?」
「えっ!?」
「・・・・」
「・・・・」
クラスメートの名前などレイはほとんど覚えていなかったが毎朝、あいさつをしてくる彼女のことは覚えていたようだ。もっとも返事をしたことなどいままでに1度もなかったが。
対するヒカリは完全に固まってしまっていた。初めて無視されなかったのを喜んだのも束の間、いきなりフルネーム、しかも呼び捨てで名前を呼ばれれば誰でも対応に困るだろう。
「何か用?」
「えっ?あっ!うん・・・あのね」
レイの言葉に再起動をはたすヒカリ。
「あのね、綾波さん・・・さっき、碇くんのこと見てたでしょう?」
「・・・え?」
私が・・・彼を見てた?
先程の自分の行動を思い出す。
「・・・そうかもしれない」
「でしょ?それでさっきからちょっと気になって・・・」
「何故?」
「えっ?」
「何故気になったの?」
「何故って、」
「あなたには、関係ないはずなのに・・・」
少し言いにくそうに答えるヒカリ
「失礼かもしれないけど、綾波さんっていつも本を読んでたでしょう?まるで一人だけの世界にいるみたいに・・・だけど碇くんがいる時はずっと彼を見てて、初めて他の世界に目を向けてくれたのかなって」
「っ!」
レイは驚いたように目を見開いた。
それを見て慌てて頭を下げるヒカリ。
「ごめんなさい!!お節介だった?」
「・・・いいえ」
「えっ?」
「・・・そうかもしれない」
私は彼のことが気になっていた・・・初めて出会ったときからずっと・・・
初めは彼の瞳に、今は彼の行動にも・・・
こんなことは今までなかった。碇司令にも・・・
「綾波さん」
また思考の海に沈みかけていたレイだが、再び現実に戻された。
「今日、綾波さんと話せて良かった。今まで話しかけても答えてくれなかったから」
「そう・・・」
「綾波さん?」
「何?」
「綾波さんのこと、レイさん・・・て呼んでいい?」
「・・・・」
「だめ?」
「・・・別にかまわないわ」
「ほんと?良かった、じゃあ、私のことは好きによんでいいから」
「・・・・」
「何か悩みがあったら私に言ってね、いつでも相談に乗るから、それじゃあ」
そう言い残して、教室を出て行くヒカリ。
いつの間にか放課後になっていたようだ。
私はどうしたのだろう。
彼女の言ったとおり、私は今まで会話をしたことがなかった。それは、他人との会話を必要とは思っていなかったからだ。しかし、先程は彼女と話をした。必要ないはずなのに。
でも、いやじゃなかった。
彼が来てから、自分の中で何かが少しずつ変化していく。そのことをレイは実感する。
それが何なのは、まだ分からない・・・
ヒカリは自宅への帰り道、笑みが絶えることはなかった。
委員長であるヒカリにとってレイの孤立は悩みの種でもあったし、委員長であることを抜かしても、レイが一人でいることをよしとはできなかった。だから、毎朝あいさつをして話しかけることができればと思っていたのだが、何時まで経っても進展はなかった。
しかし、このごろ彼女にある変化が起こったことに気が付いた。一人の少年のことをずっと見ているのだ。
碇シンジ・・・彼が彼女にとってどのような存在なのかは分からなかった。下手をすれば今より悪い展開になってしまうかもしれない。しかし何もしないよりはいいだろうと、駄目もとで話しかけたのだ。
結果は良かった。今まで返事すらしてくれなかったレイと会話をすることができたのだから・・・
「ふふっ」
再び微笑むヒカリ。
「これから仲良くなれればいいな」
それは、彼女の心からの願いであった。
次の日・・・
「おはよう、レイさん」
朝、1人で登校してきたレイにあいさつをするヒカリ。
「・・・・」
レイは無言のまま・・・しかし、無視したわけではなかった。
ペコ
軽く頷いたようにしか見えないレイのあいさつ。
しかし、ヒカリは満足げに笑みを浮かべていた。
あとがき
キトウキノです。今回からやっとレイが主体になっていきます。
今回書いてみて、トウジの関西弁がぜんぜん分からないことが発覚。けっこうテキトウな部分もあります。
一応、漫画やゲームの台詞を基にしているのですが難しいです(泣)
それでは・・・