新創世記のアダムとイヴ

〜Positively〜

第2話     芽生えるモノ



「あなた誰・・・?」

そんなレイの一言が、シンジの胸に突き刺さる

その一言は、シンジに初めて三人目のレイと会った時の事を思い出させた

少しは打ち解けてきたと思っていた矢先に、突然冷たい態度を取った彼女に感じた寂しさ

それを再び味わう事になるとは、シンジも思っていなかった

「そ、そんな・・・・・」

シンジは、その余りの衝撃に一歩、二歩と後退ると、バッと後ろに振り向き、駆け出した

別に何かを期待していたわけでは無かった、しかし、自分の事を忘れられているという現実を突きつけられて、シンジは逃げ出したのだ





シンジは、気がつくと紅い海のほとりに来ていた

浜辺に腰を下ろし、波をボーッっとみつめている

ただ、寄せては返す波をみつめていたシンジは、今更ながらに気がついた

「・・・・・波が立ってる・・・・・」

と、いう事に

だが、気がついたのはそれだけではない

「か、風が吹いてる・・・・・?今まで風なんて吹いてなかったのに・・・・・音が有る・・・・・静寂が支配していたこの世界に音が戻ってる!」

驚き、思わず立ち上がるシンジ

耳を澄ませば聞こえてくる、風と波の音

それは、シンジにある種の感動を与えた

目を閉じ、音だけの世界に魅入られていたシンジの耳に

「此処に居たのね」

レイの声が届く

ゆっくりと目を開き、レイに微笑むシンジ

どうして微笑む事が出来たのか、それはシンジにも判らなかった

ただ

音を聞いているうちに、自然と心が落ち着き、余裕が出来たのは確かだ

それが、微笑という形に行き着いたのかも知れないな・・・・・

そうシンジは思う

それが正しいのかどうかは判らない

だが、それで良いのだともシンジは思った

そんなシンジの傍で

何故、自分は此処に来たのだろう?何故だか判らないが、此処に彼が居る気がして、行かなければいけないという想いに囚われた・・・・・何故?

シンジの笑顔を見ながら、自分の心の動きと、行動を理解しようとするレイが居た

そんなレイを不思議そうに見つつも、手を差し出すシンジ

その手にレイはおずおずと自分の手を重ねる

掌から伝わる暖かさに、レイは不思議な感覚を覚えた

落ち着くような、頬が緩むような、そんな感覚

それが何を意味するものなのか、今のレイには判らない

だが、レイにはそれが非常に大切な事のように思えた





「それじゃ、行って来るね」

そう言いながら、出かけていくシンジ

そんなシンジを、レイは無言で見送る

無言のレイを悲しく思いながら、それでも生きていく為に食料を探しに出るシンジ

スーパーや商店街を歩き、食べられそうなものを見繕う

電気が作られていないため、肉などの生鮮食品は既に全てのものが駄目になっている

それでも、缶詰や乾燥肉、カップ麺など探せば食べられそうなものは幾らでもある

その中から、シンジは必ずその日分だけを持って帰っていた

他の人たちが何時帰ってきても食料に困らないように、と考えて

家に帰ると、シンジは食事の準備を始める

それをまた、無言でみつめるレイ

沈黙の空間に聞こえるのは、調理の音だけ

シンジはレイに話し掛けようと試みるが、どうしても過去の、そして今のレイの雰囲気に話し掛けられないでいる

食事の時間も、沈黙が二人の間に流れる

そんな日々を何日過ごしてきたのだろう・・・・・

遂に耐えられなくなったシンジが、レイに話し掛ける

それは他愛も無い事

だが、そんな話をレイは一生懸命に聞き入っているように見える

返事があるわけでも、相槌を打ってくれるでもないのに、それだけは何故かはっきりと感じ取れた

それが嬉しくて、シンジは饒舌になる

その事が、レイに変化を起こさせている事に気づかずに・・・・・





シンジは思うところがあって、二日分の食料を持ち帰ってきた

最近、レイの雰囲気が柔らかくなってきたと感じ、一日一緒に過ごそうと考えたのだ

二人で過ごす時間

それは穏やかな時の流れを作り出す

別に会話が続くわけではない

いや、シンジ一人がしゃべっている状態で、偶に沈黙する事もある

それでも、二人の間に暖かい空気が流れている

それは、レイが知らず知らずのうちに和らいだ雰囲気を醸し出しているから

だからこそ、シンジは沈黙に息苦しさを感じなかったのだ

それはレイの変化

新たな世界を作り出す引き金となる変化だった





シンジとレイはその日から、二日毎に連れ立って出掛けるようになった

二人の間には基本的には会話が無い

有ったとしても、シンジが一方的に話し掛けている位だ

だが、それでも二人の心の距離が近づいている事は、二人の体の距離から読み取れる

そう、まるでレイはシンジに寄り添うかのように、ぴったりとシンジの傍にひっついて歩いているのだ

それを嬉しくとも、恥ずかしくとも感じるシンジ

だが、傍に温もりを感じられる事を幸せに思っていた





二日毎に二人で出かけるようになったある日、レイがよく寝ていたため、シンジは一人で出かけた

数分後、レイは眠りから覚める

まだはっきりとしない意識の中、レイは辺りを見廻す

そこにあるはずの何かが足りない事に無意識に気がついて・・・・・

少しずつはっきりしていく意識の中、レイは気がついた

シンジが居ない事に

途端に胸を締め付けられる感じを受けるレイ

何かがこみ上げてきて・・・・・

手に、ポタッポタッと雫が落ちる

レイは無表情なまま、それを眺めると

「・・・・・これは何?・・・・・これは・・・・・涙?・・・・・私、泣いてるの?・・・・・そう、彼が居なくて・・・・・私寂しいのね」

そう呟いた時だった

空が急に曇りだすと、突然雨が降り始めた

まるでレイの心を表すかのように

「・・・・・・・・・・」

無表情に外を眺めるレイ

だが、心の中は悲しみで包まれている

レイは悲しさから逃れる為に、シンジを探しに出ようとした、その時

「あー、びっくりした。いきなり雨が降り出すんだもんなー」

玄関からシンジの声が聞こえてくる

その声に反応して、駆け出すレイ

シンジの姿を確認すると

レイはシンジの胸の中に飛び込む

「ど、どうしたの?綾波」

余りにも突然なレイの行動に驚き、問うシンジ

レイはシンジの問いに答えず、ただ抱きつく力を強くする

そんなレイに戸惑いながらも優しく髪を梳くシンジ

レイはただ、シンジの胸の中でじっとしていた





雨が止んだ頃、地面から姿を現したものがあった

それは緑・・・・・

レイに感情が芽生え、流した涙が雨となり

それが恵みとなって、緑が芽生えるのを促したのだ

それは、生き物が生きていく為の下準備のようなもの

そう、新たな楽園の礎となるものが今、生まれたのだ・・・・・



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後書き


新創世記第2話、お届けしました

ええ、感情が生まれるのも芽生えるなら、緑が生まれるのも芽生えるですから、それを掛けてみました

レイって元々感情を持ってた気がしたもので

ゲンドウの事悪く言われて怒ってたし、ヤシマ作戦の時も「本当は嬉しいのにね」って言ってたし・・・・・

って事で、感情を先にしました

次は表情ですね

無表情ながらの喜びや悲しみを表現するのに苦労しそうですが、頑張ります

それでは

タッチでした




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