シンジが夕食の用意をしている
それを、無表情にみつめていたレイであったが・・・・・
「手伝うわ」
シンジの隣に立って、手伝いを申し出た
驚き、目を瞠るシンジ
レイはそんなシンジに頓着せず
「何をすれば良いの?」
と、問い掛ける
「あ、そ、それじゃ、これをこう切って貰えるかな?」
驚きから覚めたシンジは、レイが手伝ってくれるという嬉しさに舞い上がる気持ちを抑えつつ
皮を剥いたニンジンを一切れ分切り、それをいちょう切りにしてみせて残りを渡す
「わかったわ」
シンジの作業を食い入るように見ていたレイは、軽く頷くとニンジンと向き合った
レイが手伝いを申し出たのには訳があった
別に暇だからではない
シンジの隣に居る事で感じる暖かさを
出来るだけ長い時間感じていたいからだ
無表情である為、シンジはその事に気づいていなかったが、確かにレイは今、喜びを感じていた
レイがシンジの隣に立って手伝うようになってから、幾日かが過ぎた
器用だったのだろうか、レイの包丁さばきは日増しに上手になっていく
最近では、簡単な料理ならシンジから任されるようになってきた
その事に喜びを感じるレイ
自分がシンジの役に立っていることを素直に嬉しく思う
喜びは、レイに一つの思いを抱かせる
自分が考えて作った料理をシンジに食べて貰いたい
そして、喜んで貰いたい
そんな思いを・・・・・
だが、今のレイにはそんなにレパートリーがあるはずも無く
それ以上に、何を作ればシンジに喜んで貰えるか判らない
レイはその事に少しの悲しみを感じ、料理していた手を止める
「如何したの?綾波」
手が止まってしまったレイを不思議そうに見るシンジ
「何でもないわ」
レイは無表情でそう言うと、再び料理をし始めた
あれから数日が経ったある日、シンジは用事があるからと一人で出掛けた
あれからそれなりにレパートリーの増えたレイは
シンジを驚かせたくて、喜ばせたくて、一人で料理を始める
手馴れた包丁捌きでサラダを作っていくレイ
肉が駄目なのはレイの根底にある何かなのか、やはり食べられない
だから、どうしてもサラダがメインになってしまう
だが、それだけでは駄目な事もレイは判っている
悩んだレイは、シンジに貰った料理のレシピを持ってきて
それを見ながら料理を再開する
作り始めたのはテンプラ
レイは魚介類なら食べる事が出来るし
なんと言ってもシンジが好きである事が決め手になったのだ
シンジの反応を楽しみに、料理をするレイ
その口元がうっすらと弧を描いていた
手に食料を持って帰って来るシンジ
廊下に漂う良い香りに、思わず鼻をヒクつかす
急いでキッチンに向かったシンジを出迎えたのは・・・・・
綺麗に盛られたサラダと、テンプラ、炊き立てのご飯だった
「こ、これ・・・・・綾波が作ったの!?」
驚きを隠さず問うシンジに
小さく頷く事で返すレイ
シンジは少しの間固まっていたが、レイの視線に我に返ると
「そ、それじゃ、食べようか」
レイを促して箸を取る
シンジは、最初に芋のテンプラに手を伸ばす
その動きをじっとみつめるレイ
シンジは居心地の悪さを感じながらも、レイの気持ちが判るから、みつめられる事には何も言わずテンプラを口に入れ
よく咀嚼してから飲み込む
その間、じっとしていたレイに
「美味しいよ」
そう笑顔で言葉を贈る
シンジの笑顔を見た瞬間、レイはそわそわと落ち着かなくなった
そんなレイの様子に
「如何したの?綾波」
と、シンジは問い掛ける
「貴方の笑顔を見て、心の奥底から何かが湧き上って来て・・・・・嫌な感じじゃない・・・・・凄く暖かいの・・・・・多分、私嬉しいんだと思う。ううん、嬉しいの。でも、こんな時どんな表情したら良いか判らなくて・・・・・」
レイの答えに一瞬驚くシンジ
だが、すぐに笑顔になると
「笑えば良いと思うよ」
昔、一度贈った言葉をもう一度レイに贈る
あの時と同じように、少しの間シンジをみつめていたレイは・・・・・
綺麗な笑顔を形作った
シンジの記憶にある、あの時の笑顔と同じ笑顔を・・・・・
レイがシンジの笑顔に導かれて、笑顔を取り戻した瞬間
空を覆っていた雲を切り裂き
太陽の光が辺り一面に降り注いだ
その瞬間、待っていましたとばかりに草木が成長を始め
それに誘われるように、紅い海から草食動物が還って来た
同時に、草食動物に導かれるように肉食動物も還って来て
此処に、二人の楽園が完成した
後書き
次の話が最終話ですね
さて、二人の楽園が完成したんですが・・・・・・
次のお話をお楽しみに
それでは
タッチでした