「シンちゃーん!」
トウジ達と共にゲーセンに来ていたシンジが、突如現れたミサトに、いきなり後から拘束される
「な、何ですか!?ミサトさん!」
何とか逃げようともがくシンジ
「あん、シンちゃん!そんなに激しくしちゃ駄目」
そんなシンジを大人しくさせようというのか、ミサトは妙に艶やかな声を出す
「な!何て声出してるんですか、ミサトさん!」
ミサトの声と周りからの視線に顔を真っ赤にしつつ、大人しくなるシンジ
「これから良い所に行きましょ?」
シンジが大人しくなった所でミサトは話を切り出す
「良い所・・・・・ですか?」
疑わしげな視線を向けて問うシンジに
「そ!い・い・と・こ・ろ!」
顔を寄せて、人差し指を立てながらミサトは答える
「で、でも。僕は今、トウジ達と遊んでるし、それにこの後・・・・・ごにょごにょ」
最後の方は言葉を濁しつつ反論するシンジ
「あら?それならトウジ君達も一緒に行く?それともシンちゃん・・・・・この後の用事ってそんなに大切な事なの?」
そう問うと、途端にチシャ猫のような笑みを浮かべ
「ひょっとしてシンちゃ〜ん。この後レイの家に行くのかな〜?そんでもって、レイとあ〜んな事やこ〜んな事するつもりなのかしら〜?」
そんな事を言い出す
「な!何言ってるんですか、ミサトさん!そ、そんな事あるわけ無いじゃないですか!」
真っ赤になって否定するシンジ
だが、そんなシンジに対して追い討ちが掛かる
「「ホンマ(本当)か?」」
「「あ・や・し・い・な〜」」
親友である筈の二人の疑いの言葉
更に、トウジがずずいとシンジに顔を寄せながら言葉を繋ぐ
「あ、綾波の胸!」
「綾波の太腿!」
「綾波の・・・・」
「「ふ・く・ら・は・ぎ〜!」」
最後にはハモる二人
そんな二人に顔を引き攣らせるシンジとミサト
「ホンマにナンもナイんやったら、ワイらと一緒にミサトさんについて行けるわな?」
目をギラつかせて迫り来るトウジの顔のあまりの迫力に、シンジは思わず
「う、うん」
と、頷いてしまう
「よっしゃー!ほな、早速出発や!」
そう言いながら歩き出すトウジに手を引っ張られるシンジ
シンジはレイに心の中で謝りながら、既に諦めの境地に達していた
レイはベッドの端でただボーっとしていた
別に、暇だからではない
今日はシンジがトウジ達と遊んだ後、この家に来る予定だったのだ
レイはシンジの訪問を非常に楽しみにしていた
また暖かさを感じていられると思って
なのに、ゲーセンで遊んでいる所でミサトに捕まり、強引にネルフの用事に付き合わされることになったので来られなくなった。と電話があったのだ
その途端、レイの瞳に涙が浮かぶ
涙を流すほどの事では無いのだが、レイにとってはシンジが家に訪れるという事はそれ程重大且つ、大切な事だった
涙が溢れ、レイの手の上に落ちる
その時になってやっと、レイは自分が泣いている事に気付いた
そんな自分に驚くレイ
「・・・これは・・・何?・・・これは・・・涙?・・・如何して私は泣いてるの?・・・私は何が悲しいの?」
涙によって、自分が悲しんでいるという事は理解できた
だが、何故悲しいのかはまだ判らない
だからこそ、レイは呆然としていたのだ
理解不能な自分の感情に
レイは混乱しながらも、思考の中に沈みこむ
自分はヒトではない
だから、感情など無いのだと思っていた
なのに、最近シンジの事で自分の中に、今まで感じた事の無い心の動きを感じるようになってしまった
このままでは、ゲンドウの計画に支障をきたすかもしれない
そう思う
だが、シンジと共に居る事の暖かさや嬉しさも捨てられない
そうも思う
自分がこのまま、今感じている事に流され続ければ、やがて殺されてしまう事は判っている
だからこそ
今感じているこの暖かさ、嬉しさを捨てて、元のゲンドウの為の「綾波レイ」に戻るか
それとも、シンジの傍に居て、この理解不能な、しかし、決して悪い気持ちだけじゃない、そんな感情を知る新たな「綾波レイ」になるか
その狭間でレイの心は揺れた
その為だろうか、レイは気付いていなかった
あれほど望んでいる「無に還る事」
それが選択肢の中に入っていない事に
レイは思考の淵から浮かび上がると、のそのそと動き出した
このまま此処でボーっとしていてもしょうがない
そう考えて、買い物に出る事にした
コンビニでお弁当を物色するレイ
本当はシンジのように自分で何かを作れば良いのだろう
だが、自分ではまだ何も調理が出来ないのだからしょうがない
だからといって、栄養補助剤だけで済ませてしまうと、それをシンジが知ってしまった時、辛そうな顔をするのは間違いない
それが嫌だから、肉の入ってなさそうな弁当を探すレイ
シンジと一緒なら、こんな事でも楽しいのにと思う
何とか選び出すと、レイはお弁当を買ってマンションに帰った
買ってきた弁当に箸をつけるレイ
だが、美味しいと感じない
シンジと一緒に食べた時には、コンビニの弁当もそれなりに美味しいと感じたのに
そんな思いがレイの心を包み込む
シンジが傍に居るか居ないかだけで、これだけ感じる事に差があるのだと気付くと
レイは急に悲しさが増した
再び流れる涙
それは、シンジが居ないという寂しさに対して流されたものだった
ただ、レイ自身は寂しいのだと理解していなかったが・・・・・
悲しみに沈み、ベッドに突っ伏して泣くレイ
そんな中鳴り渡る、携帯電話の着信音
それは、シンジから掛かってきた時に流れるメロディー
慌てて起き上がると、レイは涙を拭いつつ電話に出る
別に顔を合わせる訳でもないのに妙に気恥ずかしくて、声が上ずってしまう
スピーカーから聞こえてくるのは優しいシンジの声
シンジは、早く用事が済んだ為、今からこちらに来るらしい
シンジの言葉は、レイに笑顔を運んでくる
その事が嬉しくて、先程まで感じていた寂しさが一気に払拭される
それと共に、先程までとは違う理由の涙が・・・・・
その時、レイは初めて理解した
あの時にシンジが涙を流したわけを
あの言葉が偽りでは無い事を
そして、シンジという少年の中に、確かに自分という存在がいることを
その事が、自分の存在を希薄に感じていたレイの心に波紋を起こす
そして、暖かさを伴いながらレイの心に広がっていく
レイは思う
シンジの行動一つで自分はこんなにも色々と心が動いてしまう
その心の動きが気持ち良い事もあれば嫌な事もある
だから、今感じているそれらについてシンジに教えてもらおうと
その思いは、レイがヒトの世界に足を踏み出す本当の一歩になった
後書き
話の冒頭に、シンジがミサトに連れ出されるシーンを入れてみました
TVにはそんなシーンが無く、私が勝手に考えたストーリーですが、笑って頂けたなら幸いです
それでは
タッチでした