シンジはレイをマンションの自室まで送り届けると、帰り道を急ぐ
レイとの約束を護る為に
その足取りは軽やかなのだが
シンジ自身はその事に気がついていない
兎に角早く帰ってミサトさんと相談しよう・・・・・
そんな思いに囚われていたのだから
「ただいま!」
シンジは勢い良く、玄関に駆け込む
その余りの勢いに驚くミサトとアスカ
だが、シンジは彼女たちの驚きなど目に入っていないのだろう
「ミサトさん、お願いがあります!」
いきなりミサトにそう切り出した
「な、何かな?シンちゃん」
ミサトはえびちゅを口に持っていき、こめかみに汗を垂らしながら、シンジに問い掛ける
「綾波もこの家に住む事が出来るようにしてください!」
ストレートに、端的に、とんでもない事を頼むシンジ
ガターン!!
シンジのお願いを聞いた途端に、派手な音を立てつつ、椅子から転げ落ちるミサト
アスカはただ、呆然としている
「あたたたた・・・・・ど、どうしていきなりそんな事言うのかな?シンちゃん」
机に手をつき、立ち上がりながらシンジに問い掛けるミサト
その顔には汗がだらだらと流れ、眉はヒクついている
「綾波は今、一人で暮らしています・・・・・」
シンジの最初の一言に、ピクリと眉の動くアスカ
しかし、ミサトはそんな事知っている
だから
「そんな事知ってるわ。大体シンちゃん、貴方もずっと前から知ってたでしょ?」
えびちゅを喉に流し込みながらそう問う
「ええ、知っていました。でも、綾波が僕に言ったんです、寂しいって・・・・・。今まではそんな素振り見せなかったから、大丈夫かなとは思いつつも、何も言えなかったんです。でも、今日はっきりと言ったんです、寂しいって。だから・・・・・」
シンジの言葉に
「そう・・・・・」
とだけ返すミサト
「でもね、シンジ君。残念ながら、レイに関しては私は何も言えないの。レイだけは、特別なのよ・・・・・」
えびちゅを握り締めて、悔しそうに言葉を続ける
「綾波の部屋、パイプベッドと小さな箪笥位しかないんです。壁もコンクリートが打ちっぱなしだし・・・・・。大体、あれだけ大きなマンションに綾波一人しか住んでないんですよ!?いや、その前にあそこは再開発指定地域なんですよ?そんな人っ子一人住んでいない所に綾波だけが住んでるなんておかしいでしょう?」
ミサトの様子に、レイを何とかしてあげたいと思うシンジは、今置かれている環境についても話す
「そ・・・そんな・・・」
シンジの言葉に、驚くミサトとアスカ
だが、それでも自分が幾ら上申しても受け入れられないであろう事を知っているミサトは首を縦に振ろうとしない
「ミサトさん!ミサトさんは綾波が可哀相だと思わないんですか!?綾波が無表情なのは、今の環境のせいかも知れないんですよ!?」
ミサトの態度に、更に言い募るシンジ
「そうよミサト!レイが可哀相だわ!」
シンジを援護するようにミサトに詰め寄るアスカ
「わかったわ・・・・・」
家族となった少年少女の言葉に、遂に折れるミサト
ブルーな気持ちのミサトを他所に、シンジとアスカは喜び合っていた
重い足取りで司令室に向かうミサト
これからゲンドウにレイとの同居を直訴しに行くのだが、正直、却下されると思っている
そして、それは現実となる
ゲンドウにしてみれば、レイは今のままでいる事がベストなのだ
それを好き好んで、計画が破綻する方に持っていく人間など居はしない
だから、あっさりとミサトの直訴を却下した
大体、シンジと出会い、触れ合う事で感情が出来始めてしまっているのだ
これ以上、シンジと触れ合わせると、計画を破綻させるような事態になるかもしれないとも思う
一度は中学校に通わせる事自体をやめさせようかとも思った位だ
ただ、レイが中学校に通う事を強く望んだ為、仕方なく通わせているに過ぎない
此処で無理に通わせないようにしてしまえば、間違いなくレイの心は自分から離れてしまう
そう思ったから
レイの心が離れてしまう事も計画を失敗させる一要因であるのだ
三人目にしたらという考えも頭を過ぎった
だが、今の無口・無表情が二人目になってからの事だと知っているゲンドウにとって、それは賭けに近いと思える
一人目が赤木ナオコに殺された事で、人との触れ合いを恐れ、無口・無表情になった二人目のレイ
バックアップした記憶にも、心が影響を与えているらしいとはリツコの弁
つまり、三人目にした所でシンジを求め、ゲンドウから心が離れてしまう可能性がかなりの確率であるのだ
ゲンドウが何時ものポーズでそこまで考えた時だった
「ですが司令、レイもシンジ君との同居を望んでいます」
ミサトから告げられるレイの心境に戸惑うゲンドウ
此処で拒否してしまえば、レイの心は自分から離れてしまうかもしれない
そう考えて
当然、許可すればレイの心が成長してしまうのだから、どちらにしても計画が失敗してしまう
と、そこに冬月から救いの手が差し伸べられた
「葛城君の住んでいる部屋にはもう空き部屋無かったと思うが」
と
それを理由にもう一度拒否を言い渡そうとするが
「両隣は空いています。同居が無理としても、どちらかに引っ越させる事は可能です。また、この提案ならレイも了承してくれています」
ゲンドウが拒否する前に新たな提案をするミサト
レイが了承している事を付け加えて・・・・・
思案するゲンドウ
その時、ゲンドウの脳裏に弐号機パイロットの姿が浮かんだ
人に見てもらう事、必要と認められることに固執する彼女と、人に関心を示さないレイが同居すれば、レイはまた自分以外の人に対して心を閉ざすのではと思うゲンドウ
そこで、弐号機と同居する事を前提に許可を出すゲンドウ
ゲンドウは知らなかった
シンジとの触れ合いで、レイが人との絆を更に求めるようになっている事を
だから予想出来なかった
それがアスカの人に見てもらう、必要と認められるという欲求を満たす事になることを
ゲンドウが計画の遂行だけを考えて現状を把握していないがための認識の甘さであった
レイの心は弾んでいた
本当は、シンジと同じ家で暮らしたかったのだが、部屋がない以上しょうがない
だが、それを補うように二つの家のリビングを繋げたのだ
これで何時でもシンジに会える
そう思って・・・・・
それに、アスカも新しい家に移ってくる
二人が一緒に暮らしている事で胸に痛みを感じてきたが、これからはそんな事も無くなる事を無意識に理解しているし
アスカとも絆を感じているのだから、大歓迎といった所だろう
だが、それ以上にシンジの
「御免ね、綾波が寂しがっている事に気づいてあげられなくて・・・・・。そうだ、引っ越してきなよ!僕もアスカも一緒に住んでるんだし、綾波だけが別ってのはおかしいよ。そうだよ、そうしようよ!そしたらもう寂しくなくなるよ。僕が何時でも傍に居てあげられるから」
と言う言葉が嬉しかった
あの時、絆が深く結ばれたようで、心に温もりが溢れた事を感じたから
引越し先には既に家具が入っていた
シンジ達の家と繋がっている部分には扉があるが関係ない
これからは何時でもシンジが傍に居るのだから
綺麗に掃除された、それでいて人の温もりを感じる新しい家
レイは心が浮き上がるような感じを覚える
レイが一歩、新しい家に足を踏み入れた時
「「「お帰り」」」
三人に暖かく迎え入れられた
だからレイは応えた
「ただいま」
と、笑顔を添えて
これから始まる新しい暮らしに、期待で胸を膨らませながら
後書き
と、いう事で
7.5話と8話を纏めてみました
なんだかんだで結構変わりましたねー(^^;
まあ、こんなものですか(笑
それでは
タッチでした