「はい、暫くお待ちください」
案内係の女性がそう言うと、保留の音楽が受話器越しに流れてくる
言われたとおり暫く待っていると
「何だ?」
少し苛立ち気味に問いかけてくるゲンドウの声が聞こえてきた
「あ、あの、と、父さん」
そのプレッシャーに圧倒されたのか、シンジは上ずりながら声を発する
「どうした?早く言え!」
煮え切らないシンジに焦れたゲンドウの怒りの声がシンジの耳に突き刺さる
「あ、あの、実は今日、進路相談の面接があるから父兄に連絡しとけって言われたんだけど・・・・・」
右手を閉じたり開いたりしながら何とか用件を伝えるシンジ
だが
「そういうことは全て葛城君に一任してある、くだらん事で電話してくるな」
突き放した言い方をしてくるゲンドウ
最後の方は何故かノイズが混じっていて
「こんな電話いちいち取り次ぐんじゃない」
と、案内係の女性を叱りつけている所で電話が切れた
その不自然な切れ方に
「ん?」
疑問を持つシンジだった
「それは碇司令、本当に忙しかっただけじゃないの〜?」
シンジの話を聞いたアスカがそう言う
「そっかな〜?途中で切ったって言うより、何か故障したって感じだったんだけど」
アスカの言葉にも納得が行かないといった感じのシンジ
「んも〜、男の癖に!いちいち細かい事気にすンの止めたら?」
シンジの態度に、遂にアスカが切れた
そんな二人の様子を見ながらシンジの隣を黙って歩くレイ
シンジの隣に居る事で感じる暖かさをレイはことのほか気に入っていた
だが、シンジの暖かさを感じながらもレイは疑問を持っていた
ネルフにはMAGIがある
正副予備の三系統の電源全てが落ちるなどのありえない状況が起こらない限り、故障は無いはず
だからといって、いくらゲンドウとは言え、話の途中に電話を切るとも思えない
レイは何か妙な胸騒ぎを感じていた
ゲート前に着く三人
シンジがスリットにカードを通すが、何故かゲートが開かない
「あれ?」
カードを確認するが、自分のカードに間違いない
レイに代わってもらうがやはりゲートは開かない
すると
「何やってンの!?ホラ、代わンなさいよ!!」
焦れたアスカがレイを押し退けて自分のカードをスリットに通す
だが、やはりゲートはウンともスンともいわない
何度もスリット内を往復させるが、完璧に沈黙しているゲートに
「もぉ〜う!壊れてンじゃないの、コレ〜?」
アスカの堪忍袋の緒が切れた
他の施設を確認してみるが、やはり何処も反応しない
下で何かあったに違いないと気付くアスカとレイ
シンジの提案に従って、本部に電話してみるが繋がらない
レイは緊急用のマニュアルを鞄の中から取り出す
アスカもレイの行動を見て、マニュアルを取り出す
シンジはマニュアルを取り出さず、アスカと一緒に見る
二人の様子に気付いたレイはまた、胸に針を刺したような痛みを感じた
レイは最近、シンジが自分と何処か距離を置いているように感じていた
如何してそう感じるのかは分からない
何故なら、話しかけると今まで以上に暖かい笑顔で応じてくれるから
そんな事を考えていたが、此処に居てもしょうがないと判断して
「兎に角、本部に行きましょ?」
そう提案した
本部に向かう間、アスカがシンジに盛んに話しかけている
緊急事態だというのに楽しげな二人の会話
それがレイの心に針のように突き刺さり、心がささくれ立って行く
イライラが募っていくレイ
それと共に、寂しさと悲しさを感じる
絆を感じるこの二人を妬んでしまう自分に
いつか、置いていかれてしまうのではと思ってしまった自分に
レイはスカートの裾をぎゅっと掴んで俯き、立ち止まってしまう
そんなレイの様子に気がついたシンジが問いかける
「如何したの?」
と
首を振って答えるレイだが、動こうとはしない
心配したシンジがレイに近寄る
同じようにアスカもレイに近寄る
「大丈夫?」
心配そうに声をかけてくる二人に、顔を上げて笑顔を向けるレイ
そのまま、先頭をきって歩き出した
心配そうに追いかけるシンジとアスカ
何故なら、レイの笑顔は非常に弱弱しかったのだ
暗い本部内を時には迷い、時にはダクトを這いながら進んでいたシンジ達
だが、その目の前に瓦礫により開かなくなったゲートが鎮座ましましていた
困惑する二人を他所に
「しょうがないわ、ダクトを破壊してそこから進みましょ」
そう言って、手近な所にあった瓦礫を掴んでダクトを破壊し始めるレイ
シンジとアスカは最初呆然としていたが、すぐに手近な瓦礫を掴むと、一緒になってダクトを破壊し始めた
ダクトの中を這いながら進んでいる時
「ぜ〜ったい、前!見ないでよ。見たら殺す」
アスカがシンジに宣告するが、それが仇となり
「え?」
よく聞こえてなかったシンジが顔を上げてしまう
「馬鹿!バカ、ばか!見るなって言ったでしょ!」
宣告通り、蹴り殺すかのような勢いでシンジの顔を蹴るアスカ
だが、それが或る意味功を奏したといえる
振動によりダクトが崩れた所が、ケイジだったのだから
「エヴァは?」
シンジは体勢を立て直すと、リツコに問う
シンジの問いに、親指で後ろを指すリツコ
「スタンバイ、出来てるわ」
と答える
意外な答えにリツコの指の先を見ると、エントリープラグの固定準備が完了しているエヴァの姿が・・・・・
驚いて
「何も動かないのに」
と、呟く
その呟きに答えるリツコ
「人の手でね・・・・・司令のアイディアよ」
後半はゲンドウの方を振り返りながら
「父さんが・・・・・?」
次に出てきた意外な名前に、またもや呟くシンジ
「碇司令は、貴方達が来る事を信じて、準備してたのよ」
その呟きにもリツコが答える
ゲンドウが自分達を信じていたというリツコの言葉に
レイはゲンドウとの絆を再び認識した気持ちになった
強力な溶解液で本部に侵入を図る使徒
アスカが提示した作戦に、ディフェンスを買って出るレイ
だがそれは、アスカによって却下された
何故?という気持ちが沸き起こるレイ
自分では二人を護れないと認識されるほど不甲斐ないのだろうかと思う
だが違った
レイの表情を見て何か感じたのか、理由を説明するアスカ
曰く
前の作戦でアスカはシンジに借りが出来ていたらしい
それを返したいというアスカの言葉に納得するレイ
自分の役割がバックアップに決まると
二人を護るためには迅速な行動と確実な武器の回収、受け渡しが必要
そう自分に言い聞かせた
使徒を殲滅した後、三人で高台から街を眺める
停電により、真っ暗な街
だが、やがて街に灯りが戻る
「綾波、何を悩んでるのか、何を心配しているのか僕には分からない。でも、僕で力になれる事なら力になるから、だから僕に教えて欲しい。そして、元気になって」
突然のシンジの言葉に驚いて、シンジの方に振り向くレイ
そこには、恥ずかしそうに、でも、全てを受け止めてくれそうな優しげな笑みを浮かべたシンジの顔が
「レイ!アタシにも話しなさいよ!」
アスカもシンジと同じように自分を気遣ってくれる
そう思うと、レイの心を支配していた寂しさが、悲しさがすぅっと消えていった
そして、レイの暗闇に沈む心に、一筋の光が射した
後書き
殆ど付け加えだけですね
最後くらいでしょうか、変えたのは
如何でしょうか?
それでは
タッチでした