「如何、レイ、初めて乗った初号機は?」
リツコの声に、レイは目を開ける
それまで、レイは初号機の中にいることで感じる幸福感に身を任せていたのだ
誰かに包まれている
そんな感触
もう一つ、レイにとって水とは特別な物だ
慣れ親しんだ、安心できる感触
それが、レイにゲンドウを連想させる
昔ほどではないが、疑問も少し残っているが
レイにとってゲンドウの視線、言葉は慣れ親しんだ、安心できるものであることは確かなのだから
零号機でも水の気持ち良さは感じているレイにとって、初号機にある違いとは・・・・・
「・・・碇君の匂いがする」
その一言に尽きる
まるでシンジに抱かれているかのように感じて、それが安心感を増幅させているのだ
シンジの温もりを全身で感じていると言い換えても良いのかもしれない
だが、その幸福を壊す者が居るのは世の常
今回は朱金の髪を持つ少女がそうだった
「な〜にが『碇君の匂いがする』よ!」
突然繋がった通信モニターの向こうからアスカが喚いている
「アンタ!もう少し羞恥心持ちなさいよ!」
突然のアスカの言葉に驚いていたレイだったが、その一言にムッとすると
「羞恥心なら持ってるわ」
と反論する
レイの反論に、発令所の皆がざわめきだす
感情などと無縁と思っていた少女の反論
それは驚くのに十分な理由なのだから
アスカもレイの反論に一時呆然としていたが、気を持ち直すと
「持ってるなら『碇君の匂いがする』なんて言わないわよ!」
と噛み付く
「・・・そう・・・よく分からない」
小首を傾げて考え込み始めたレイに
「ア、アンタねぇ」
呆気に取られた後、浮き立つ青筋をほぐすようにコメカミに指を当て
「ワカンナイんなら、羞恥心持ってるなんて言うンじゃないわよ!!まったく」
と説教するアスカ
「・・・でも・・・羞恥心は持ってるわ」
尚も主張するレイ
「アンタまだ!」
アスカとレイの言い合いを聞きながら、これ以上のテストは無駄だと判断したリツコによって実験は中止された
一方、レイ・シンジと違い、一人機体連動実験を受けているアスカ
「全て正常位置」
という報告に
「当ったり前じゃない」
と小声で毒吐いた後
「所で、アタシは機体互換テスト、参加しなくて良いの?」
とミサトに訊ねる
アスカにしてみれば当たり前の質問なのだろうが、相手がミサトであることを忘れていた事が悪かった
「どうせ弐号機以外乗るつもりないんでしょ?」
と苦笑交じりに聞いてきた後で、突然チシャ猫のような笑みを浮かべると
「それともアスカ、ひょっとして〜、アンタもシンちゃんの初号機に乗りたいのかな〜?シンちゃんの匂いに包まれたいってか〜?」
そんな事を言い出すミサト
「な、なんでいきなりそうなるのよ!?そんなわけないでしょ!!」
アスカは顔を真っ赤にして喚くと、頬を膨らませプイッと横に顔を向けた
「あ〜ら強がっちゃって。そんなことじゃレイからシンちゃんを奪えないわよ」
と、アスカをからかいながらも
(確かに、弐号機の互換性・・・・・利かないわね)
と冷静に判断するミサト
そんなミサトに
「何でこのアタシがレイからシンジを奪わないといけないのよ〜」
と抗議しているアスカ
当然、発令所に来ていたレイはミサトの言葉を聞いて、モニターに映るアスカに冷たい視線を向けていた
引き続き、シンジによる零号機での機体互換テストが行われる
エントリープラグのインテリアに目を瞑った状態で収まっているシンジ
レイは発令所の一番前に立つと、静かにシンジの事を見守る
モニターされているシンジの状態は少し緊張気味であることを示している為
リツコがリラックスするように声を掛ける
シンジの緊張が適度なものになった所で始まる実験
リツコは、シンジにもレイの時と同じ質問をする
リツコの質問に返ってきた言葉は
「なんか、綾波の匂いがする」
だった
シンジの言葉に全身隈なく真っ赤にするレイ
アスカはエントリープラグの中で
「な〜にが綾波の匂いがするよ!」
と毒吐く
レイにとって嬉しいのは確かなのだが
身の置き場が無いという思いも駆け巡る
だが、異変はその直後に起こった
A10神経を接続して少しした頃、シンジの神経パルスに異常が発生する
それは零号機からの侵食
拘束具を壊し、暴れだす零号機
騒ぐ発令所
プラグ内をモニターする事も出来ない
シンジの無事を祈っていたのに起こってしまった暴走
レイはその事に呆然とし、その場に立ち尽くす
と、零号機の拳がレイの居る場所に繰り出され、打ち込まれる
何度も何度も・・・・・
やがて零号機は頭を抱えてフラつくと、壁に手を当て
己の頭を打ちつけ始める
その10秒後、予備電源の切れた零号機がやっと活動を止めた
救出後、病院に搬送されるシンジ
その後をアスカとレイも追おうとするが、リツコに止められる
睨みつけるようにリツコを見るレイとアスカ
だが
「今貴方達が行っても、何も出来ないのよ」
というリツコの言葉にしぶしぶ納得すると、帰宅するレイとアスカ
二人ともシンジの事故がショックなのか一言も喋らない
家に着くと二人はとっとと布団の中に潜り込み、己の心の中に埋没する
シンジが既に目を覚ましている事を知らずに・・・・・
次の日、開院時間と共に病院を訪れるレイとアスカ
シンジが既に目を覚ましていると聞き、慌ててシンジの部屋へと駆ける
看護士に注意されても全て無視
ガラッ
勢い良く病室の扉を開けると
「「シンジ(碇君)」」
と大声で呼びかける
そんな二人に笑顔を向けて
「来てくれたんだ、二人とも」
と応えるシンジ
シンジの笑顔に二人は顔を紅くする
それを誤魔化すように
「も、もう退院しても良いんでしょ、シンジ?さっさと此処から出るわよ!!」
と捲し立てるアスカ
レイもアスカの言葉に賛同するようにコクコクと頷いている
「う、うん、分かったから、ちょっと出て行ってくれる?着替えなくちゃいけないから」
苦笑しつつ、二人にお願いするシンジ
「わ、分かってるわよ!」
アスカはそう言うが否やとっとと出て行こうとする
だが、レイは動かない
「あ、綾波?」
そんなレイに声を掛けるシンジ
「・・・問題ないわ・・・それより碇君、早く着替えて・・・一緒に病院出ましょ」
真摯な瞳をシンジに向けてそう言い切るレイ
「い、いや、綾波に問題なくても僕には問題あるんだけど・・・・・」
冷や汗を掻きながらそう言うシンジに
「・・・何故?」
と、問いかけるレイ
「な、何故って・・・・・」
シンジが困り果てていると
「ちょっとレイ!何時まで此処に居るのよ!とっとと病室から出る!」
アスカが戻ってきてそう言いながらレイの手を引っ張る
「・・・何故?・・・問題ないわ」
アスカに対しても同じ事を言うレイ
「何が問題ないのよ!!大体アンタ羞恥心持ってるって言ったでしょうが!普通羞恥心持ってたらすぐに病室から出るわよ!」
と叫ぶアスカ
「・・・本当?」
シンジの方に振り返り、問うレイ
シンジはレイの問いに首を縦に振る事で答える
「・・・そう・・・分かったわ」
レイはそう言うと、スタスタと病室を出て行く
呆気に取られるシンジとアスカ
だが、シンジは気を持ち直すと
「アスカ?」
と声を掛ける
シンジの声に我に返ったアスカは
「そ、それじゃとっとと着替えるのよ」
そう言うと、病室を出て行く
そんなアスカを見ながらシンジは溜息を吐くと、着替え始めた
レイはうんざりしていた
家に着くまで、レイはシンジと共にアスカから羞恥心という物をずっと説かれていたのだ
しかも、前回ネルフが使徒に侵入されて、避難させられた時に裸でシンジに抱きついた事まで持ち出されて
真っ赤になって俯き、反論出来ないシンジとレイ
そんな中、レイは羞恥心というものを勘違いしていた事を知る
ただ、その代償は高かったようだが・・・・・
後書き
って事でリニューアル15話 匂い です
かなりの付け足しアンド変更ですね
如何でしょうか?
それでは
タッチでした