レイの心模様

第17話     悲愴なる決意


レイはアスカと一緒に暮らすようになってから、規則正しい生活をしている

今日も7時頃には目を覚ました

レイは起き上がると、着替えてシンジ達の方のリヴィングに向かうと

二つの家を繋ぐ扉を開ける

すると、キッチンの方からリズミカルな包丁の音が聞こえてきて

一緒に味噌汁の良い香りも漂ってきた

キッチンに顔を出すと、そこには料理をしているシンジの姿

レイはそんなシンジに一瞬見惚れるが、頭をプルプルと振ると皿を人数分並べ出す

「あ、綾波起きたんだ。お早う」

その音で気がついたのか、シンジは料理する手を止め振り返ると、笑顔でレイに挨拶する

シンジの笑顔に、動きを止めるレイ

「・・・お、お早う」

俯くと、再び手を動かしつつ、頬を染めてそう返すレイ

二人で行う朝の食事の準備

それをレイは心地よいものとして捉えていた





意識がゆっくりとクリアになっていく

どうやらシンクロテストが終わったらしい

と、シンジの通信モニターがオンになり、ミサトが現れる

「どうでした?ミサトさん」

何かを感じたのか、意気込んで聞くシンジに

「Ha〜i.You are NO.1!!」

と、親指を突き立てて笑顔で言うミサト

どうやら、シンジがシンクロ率でトップになったらしい

シンジもミサトの言葉に喜色満面の笑みを浮かべる

大切な二人の少女を護る為の力を手に入れたと・・・・・

それが誤解であることにシンジ自身気がついていない

また、大人達も、少女達も気がついていない

それはそうだろう、シンジ一人が胸の内で思っていることなのだから

もし、大人達が気がついていたとしても、指摘はしないだろう

折角それでやる気になっているシンジに水を注すような無粋な事を

自分達にとって都合の良い、今のシンジの状態を壊すような事をしない為に・・・・・

シンジのシンクロ率の上昇を素直に凄いと感じるレイ

「やるじゃない、シンジ。でも、次は負けないんだから」

アスカは何処か悔しそうに、でも、嬉しそうにそう言う

あのキスの事件以降、三人には何かと衝突があった

それこそ、何時、誰が暴走してもおかしくないほどの

しかし、ミサトの努力と、友人達の協力、そして、本人達の話し合いで今はなんとか以前のように話せるようになっていた

そのことも嬉しく思うレイ

失くしたくない絆

切れ掛かっていたそれが、再び繋がれたと感じて





突如として第三新東京市上空に現れた謎の物体

黒白の縞模様が入った球体がゆっくりと浮遊しながら中心部分に近付いてくる

MAGIはその物体の正体の判断を保留しているらしい

慎重に近付いていくエヴァ三機

オフェンスはシンジ

先行するシンジの為に、ミサトが様子見も兼ねて兵装ビルからの攻撃を命じる

球体に向かって飛び出すミサイル群

だが、着弾寸前に球体は姿を消す

その途端、発令所に鳴り響くアラート

「パターン、青!使徒です!!」

マヤがリツコの方に振り返り、そう叫ぶ

「何処!?」

リツコがマヤに場所を聞く

「反応は・・・・・出ました!攻撃した兵装ビルの直下です」

マヤの言葉と同時に、一気にそこから影のようなモノが拡がる

影のようなものは、その直上に在るもの全てを飲み込み始める

それは当然、エヴァとて例外ではなく

「うわぁ〜〜〜」

発令所内に響き渡るシンジの悲鳴

影が初号機の下まで伸びていたのだ

シンジに指示を出す際、何か参考になるようなものが分かればと、シンジから近い場所の兵装ビルを使用したのが仇になったようだ

沈み出す初号機

「なんだよコレ!?嫌だよ!助けてよ!!」

シンジのパニックに陥った声が聞こえてくる

「碇君!!」

シンジの状況を見て、救出に向かおうとするレイ

アスカの弐号機も動き出している

だが

「待ちなさい!二人とも!!」

ミサトから二人に制止の命令が下る

「ちょっ・・・・・」

アスカがミサトに文句を言う前に

「碇君を救出する方が先決です」

レイの切羽詰った言葉が発令所に届く

「迂闊に近寄ればシンジ君を救出する前に貴方達が飲み込まれてしまうのよ!」

ミサトの尤もな意見に動きを止める二人

その間にも初号機はどんどん飲み込まれていき、やがて完全に影の中に沈みこんだ

「いや〜!!?シンジ〜〜!!」

響き渡るアスカの絶叫

レイはただ呆然と、影のようなものを見つめる事しか出来ない

そんな二人に、更なる衝撃の命令

「撤退」

が下される

「そんな、碇君が!!」

レイが素早く反応する



「レイ、気持ちは分かるけど、貴方に何かシンジ君を救出する為の案はあるの?影に近付けば貴方まで飲み込まれる危険性のある中で、貴方もシンジ君も無事な救出案が。貴方が自分を犠牲にしてシンジ君を助けるなんて考えたら駄目よ。それをすれば、シンジ君が悲しむわ」

ミサトのそんな言葉にレイは悩み始める

だが、どんなに考えても答えなど出てこない

力なく首を振るだけ

アスカも何も思いつかないのだろう、黙ったままだ

「それじゃ良いわね?撤退して」

ミサトの言葉で撤退が決定した





「・・・・・・」

レイとアスカ、二人して黙り込んだまま更衣室のベンチに座り込んでいる

持て余す時間

気持ちは焦るが、妙案が浮かばない

大人達は大人達で救出作戦を考えているのだが、コレといった案は出ないようだ

こうしている間にも、シンジの命の危機は刻一刻と近付く

シンジに残されている時間は恐らく16時間ぐらいだろう

レイは心配で堪らない

アスカもずっと俯いたまま、唇を噛み締めている

そんな状態で、どれくらいの時間が経ったのだろうか

作戦会議室に召集される二人

「それでは、今回の作戦を伝達します」

何故か、ミサトではなくリツコが仕切る

ミサトはと見れば、悔しそうに唇を噛んでいる

二人の心に不安が過ぎり、それが現実となる

「今回の作戦は初号機のサルベージを最優先とします。この際、パイロットの生命は感知しません」

リツコの言葉に

「その命令は拒否します」

「ちょっとリツコ!アンタ何考えてんのよ!?」

そう叫んでリツコに詰め寄る二人と

「リツコ、初号機に拘る理由を教えてくれない?」

冷静にリツコに問うミサト

「パイロットには替えが効くわ。でも、エヴァの替えは効かない。それだけよ」

ミサトの問いに、クールに返すリツコ

その瞬間

「リツコ!!」

パン!

ミサトの怒声と共に、乾いた音が響く

ミサトの行動に誰も抗議をしない

誰も今回の作戦に対して賛成していないのだから当たり前な反応だろう

それに対してリツコが口にしたのは

「コレは司令からの命令です」

だった

この時、レイの中でゲンドウに対する不信感が一気に膨らんだ





「眠る事がこんなに疲れるなんて思わなかった」

シンジは眠りから目覚めると、そう呟きアクティヴモードに切り換えるが

「やっぱり真っ白か。レーダーもソナーも返ってこない」

そう言ってまた、生命維持モードに戻す

「生命維持モードに切り換えてから12時間」

グローブの時計で経過時間を確認し、シートに凭れ掛かると

「僕の命も後四、五時間か・・・・・」

と呟き、また目を瞑る

少しの間、眠っていたシンジが目を開けると

プラグの中が何か違う事に気付く

「水が濁ってきてる!浄化能力が落ちてきてるんだ!」

そう言って、口を押さえると

「は・・・・・く、臭い。血・・・・・血の匂いだ!」

その事でパニックに陥るシンジ

「嫌だ!此処は嫌だ!!」

そう叫び、内側から緊急脱出用のハッチを開けようとするが、ロックが外れない

「何でロックが外れないんだよ!」

扉を必死に叩くシンジ

「誰か此処から出して!ミサトさん、どうなってるんだよ!ミサトさん!アスカ!綾波!・・・リツコさん・・・・・父さん」

パニックが最高潮に達する

既に今、自分が置かれている状況に考えが及んでいない

「お願い・・・・・誰か・・・・・助けて」

ハッチのレバーを掴んだまま俯き呟く

また眠っていたシンジは、今度は寒さに目を覚し

「保温も酸素の循環も切れてる・・・・・寒い」

そう言って、シートの上で蹲る

左手のグローブの一点が赤色の点滅を始め、それを見たシンジが

「駄目だ、スーツも限界だ。此処までか・・・・・もう疲れた・・・・・何もかも・・・・・」

そう言うと目を瞑る

暫くすると、プラグ内に光が満ち、シンジの頬に光に包まれた手が伸ばされた・・・・・





作戦決行の時間になり、作戦場所に待機する零号機と弐号機

いままさに作戦が決行されようとした瞬間、それは起こった

使徒を引き裂いて現れる初号機

その姿はさながら鬼のよう

完全に姿を現した初号機は大きく咆哮すると、地上へと降り立つ

降り立った瞬間、完全に動きを止める初号機

エントリープラグが緊急イジェクトされ、救護班がプラグから気絶しているシンジを救出する

シンジが無事である事に安堵するレイ

その瞳には涙が光っていた





病院でシンジが目覚めるのを待つレイとアスカ

その時、レイは心の中で誓っていた

自分には代わりが居る

だが、シンジには代わりが居ない

自分にとって失ってはならない存在のシンジ

そんなシンジを今度は自分の命に換えても護ろうと

その誓いが後に悲劇を生む事になるとも知らずに・・・・・



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後書き


結構長くなりましたね(汗

今回は書き足しと修正だけなんですが・・・・・

如何でしたでしょうか?

それでは

タッチでした




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