「レイ、今日は良いのか?」
可動式通路で移動中、ゲンドウはレイに問いかけた
「ハイ、明日、赤木博士の所に行きます。明後日は学校へ」
『学校へ』の部分に嬉しさを滲ませるレイ
その事に気付かなかったのか、無視したのか
「学校はどうだ?」
と聞くゲンドウ
「問題ありません」
少し明るい感じで答えるレイ
「そうか、ならば良い」
ゲンドウはそれだけを言うと、口を噤んだ
学校を休んで実験に参加していたレイ
未だに拭いきれないゲンドウへの不信感
しかし、ゲンドウとの絆を大切に思う自分が居る事も確かで
それがレイを悩ませる
自分はゲンドウの元から去りたいのか、それとも、ゲンドウの元に居たいのか
その事を
可動式通路での会話中、その事だけを考え続けたレイ
だが、結局答えが出る事は無かった
ターミナルドグマに着くと、何時ものように全裸になってL.C.Lに浸かるレイ
その様子を、カプセルの向こう側から見つめるゲンドウ
自分を見つめるゲンドウの視線を確かに感じるレイ
だが、やはりそれは自分を通り越して別のものを見ているように感じる
一体、ゲンドウが何を見ているのかレイには分からない
ただ、その事にレイは哀しさを感じていた
思考の海に沈んでいるレイに掛かる
「レイ、あがって良いぞ」
と言うゲンドウの声
その声に目を開けると
「ハイ」
と、無感情に答えるレイ
「食事にしよう」
その耳に届いたゲンドウの言葉
「ハイ」
ゲンドウの心遣いに少し嬉しくなり、笑顔を浮かべる
実験後、マンションに戻るとトウジが来ていた
「お邪魔しとるで」
手を挙げてそう言うトウジに
「いらっしゃい」
と返す
それはシンジに教えてもらった言葉
人が自分の家を訪れた時に迎え入れる為の
その言葉を初めて使ったレイ
シンジ達の家に誰かが来る事はあっても、この家に誰かが来る事は無かったのだから
「何?」
訪問の意図を尋ねると
ダイニングのテーブルを指し
「アレが溜まっとったプリントや」
と言う
テーブルを見ると、確かに大量のプリントが
どうやら学校のプリントを持ってきてくれたらしい
そこに
「御免」
シンジがそう言いながら、レイの部屋から顔を覗かせる
「勝手に片付けたよ。ゴミ以外触ってない」
その言葉に、急いで自分の部屋を見に行くと
綺麗に掃除されているのが一目でわかった
それをシンジがしてくれたのかと思うと、嬉しくも恥ずかしくもあり、顔を赤らめてしまう
何とか
「有難う」
と口にしたレイは
自分をゲンドウ以上に気遣ってくれるシンジにより強い絆を感じていた
シンクロテスト後、ゲンドウに呼び出されるレイ
司令室に行くと
「レイ、フォースチルドレンを選抜した。この男だ」
そう言って、レイに写真を見せるゲンドウ
その写真に写っているのはトウジ
レイは眩暈しそうな不安を感じる
確か、死海文書によれば、参号機は使徒に乗っ取られるはず
そのパイロットに、よりにもよってシンジの親友である少年が選ばれたのだ
当然、参号機ごと使徒を殲滅することになるだろう
そうなると、この少年が助かる確率はかなり低い
もし、碇君が何も知らずに使徒を殲滅してしまったら・・・・・
その後で、乗っていたのがこの少年であることが分かってしまったら・・・・・
レイは震える己を抱きしめる
・・・・・碇君の心が壊れてしまう
その考えに至ってしまい
そんなレイの事など眼中に無いかのように
「どうだ、レイ。この男は使えると思うか?」
と問うゲンドウ
「分かりません」
レイは簡潔に答える
だが、その心の中は穏やかではない
自分は試されているのだろうかと
シンジと仲が良いことを知っていて、自分を三人目に変えるべきかどうか見定める為に
それは嫌だと素直に思うレイ
今三人目に変わってしまったら、もしもの時にシンジの心を護れないから
無に還るのは確かに自分の望みではあるが、それ以上に今はシンジを護りたい
そう思うから
だから、可も無く不可も無い答え方をした
レイの言葉に暫く黙っていたゲンドウだったが
「そうか」
そう言うと
「上がって良いぞ、レイ」
と続ける
「ハイ」
レイはそう答えると、司令室を後にした
いてもたってもいられない気持ちになって、帰宅を急ぐ
シンジにフォースチルドレンの事を伝える為に・・・・・
「トウジ、ちょっと良いかな?」
翌日、登校したシンジはトウジの姿を確認すると歩み寄り、声を掛ける
「あん?なんや、シンジ」
トウジはシンジの声に顔を向け、訊ねる
「ちょっと此処じゃ・・・・・」
自分の席でプラモデルのVTOLに自分の声で効果音を付けながらビデオを撮っているケンスケに、チラリと目をやると、言い難そうにそう言うシンジ
「ほな、屋上いこか」
シンジを誘って教室を出て行くトウジ
そんな二人を、レイは心配そうに見ていた
窓の外を眺めていると、暫くしてトウジの姿が見えた
その後ろにはシンジの姿も
一生懸命シンジが説明して、説得しているのであろう事が分かる
不安げにその様子を窓際で見ているレイ
と、シンジが笑顔になった
トウジがシンジに対してチルドレンになるつもりは無いと言ったのだろう
安堵するレイ
二人の姿は屋上から消え、一時間目の始まりを知らせるチャイムがなる頃には二人は教室に戻ってきていた
昼休憩を告げるチャイムが鳴る
そこにトウジを呼び出す放送が
不安げな顔をトウジに向けるシンジ
トウジはそんなシンジに笑顔を見せて手を挙げると、教室を後にした
ケンスケがシンジに近付く
いつも通り、屋上で弁当を食べようと誘うケンスケに頷くと、教室を出るケンスケとシンジ
やはりというか、何処からとも無く仕入れてきた参号機の情報を聞き出そうとするケンスケ
それをシンジは知らないの一点張りで逃れる
流石に、何も聞き出せないと悟ったのか、ケンスケは
「そうか」
と一旦身を引く
が、次のケンスケの言葉には、流石のシンジも驚いた
「じゃあ、四号機が欠番になったって話は?」
初めて聞く話に
「何それ?」
と、問うシンジ
「本当にこれも知らないのか?第二支部ごと吹っ飛んだってパパの所は大騒ぎみたいだったぜ?」
そんなケンスケの言葉に
「本当に?」
と問うシンジ
「おそらくな」
ケンスケは肩を竦めて答える
「ミサトさんからは何も聞いていない」
シンジの声に混じる怒気
「やっぱ、末端のパイロットには関係ないからな、知る必要無かったんじゃないか?」
とケンスケはフォローすると
「トウジの奴、遅いな」
と、話題を変えた
家に帰ったレイは、アスカに声を掛ける
「アスカ、ちょっと話があるの」
殆ど自分から話し掛けて来る事の無い少女の意外な行動に
「何、レイ?」
全ての動きを止めて問うアスカ
「・・・鈴原君が参号機のパイロット、フォースチルドレンに選ばれたわ」
アスカの問いに、そう答えるレイ
「な、何ですって〜!?」
アスカはそう叫ぶと
「ちょっとレイ、あのジャージ馬鹿がフォースに選ばれたって本当なの?」
レイに詰め寄る
アスカの余りの勢いに
コクンと頷いて返すだけのレイ
「はぁ〜」
アスカは溜息を吐くと、ベッドに腰を落とす
ベッドのスプリングを何気に楽しんだ後
「私は良いのよ。エヴァに乗る事に誇り持ってるから」
膝に肘をつき、手を額に押し当てて俯いた格好のまま、アスカが喋り出す
「危ない目に遭っても、それはしょうがないと思えるの。貴方もそうでしょ?」
顔を上げずに問うてくるアスカに
「ええ」
と返すレイ
「でも、シンジは違う。聞いた話だけど、シンジって最初はエヴァに乗ること拒否したんでしょ?で、重傷の貴方が乗る事になって、そんな貴方を助ける為に、シンジが乗った」
アスカの言葉に、少し眉をしかめつつ
「ええ」
レイは返す
「アイツはアタシ達の為なら危険を冒してくれる。でも、出来たらアタシ達にも乗って欲しくないって思ってるくらいだから・・・・・」
アスカの言葉が重くなる
「下手したら、壊れるわよ。シンジの心」
アスカの最後の言葉に
「ええ」
と頷くレイ
「なんとしてでも、アイツがエヴァに乗らないように説得しないと」
決意を漲らせて顔を上げるアスカだが
「無理よ。鈴原君が選ばれた以上、鈴原君じゃないといけない理由がある筈。私達のエヴァがそれぞれ専用パイロットを採用しているんですもの。だから、碇君の心を護る事を考えた方が良いわ」
レイの言葉に
「そう、そうよね」
アスカは何かを考えるように、そう答えた後、黙り込んだ
「・・・鈴原君」
次の日の昼休み、屋上で街並みを見下ろしていたトウジにレイは声を掛けた
「ん?なんや、綾波か」
トウジは一旦振り返り、レイの姿を確認すると
「シンジやったら、此処におらんでぇ」
前に向き直ってそう言う
そんなトウジに何を言えば良いのか分からないレイ
と
「知っとんのやろ?ワシの事。惣流も知っとるようやし」
確認するように聞いてくるトウジ
「うん」
頷いて返すレイ
「人の心配たぁ珍しいなぁ」
レイの答えを聞いて、ふとそんな事を口走るトウジ
「そう?よく分からない」
レイはトウジの言葉を咀嚼しかね、俯きそう答える
「お前が心配しとんのはシンジや」
そんなレイにトウジは少し笑顔になると、そう言う
トウジの言葉にレイはハッと顔を一瞬上げ、再び俯く
そう、レイは理解したのだ、自分の胸のうちを
自分が心配しているのはシンジ一人に対してだけだと
だからレイはトウジに
「そう、そうかも知れない」
と答えた
そんなレイに
「そうや」
と返すトウジ
そんな二人をヒカリは窓越しに、心配そうに見ていた
非常召集されるチルドレン達
新たな使徒が現れたという連絡が入ったのだ
死海文書を通して、使徒の正体を知っているレイとしては気が気でない
自分達ではトウジがエヴァに乗るのを止める事が出来なかった
そして、その事をシンジに伝えていない
大きな不安がレイを襲う
だが、それと共に、レイは知っていた
ダミープラグがある程度完成していることを
それと共にデータがインプットされている事も
ひょっとしたらダミープラグが使用されているかもしれない
ほんの少しのそんな希望を持って待機するレイ
そこに、使徒が現れる
それは紛れも無くエヴァ参号機
「目標?・・・・・アレがですか?」
参号機を目にして、シンジが震える声で問う
「そうだ、目標だ」
ゲンドウはそんな事はお構い無しに、断言する
「やっぱり、乗ってるのはトウジ?」
悔しさに唇を噛みながらそう言うシンジに
「恐らくね」
通信ウィンドウを開いてアスカが答える
と
「キャ〜〜〜!!!」
アスカの悲鳴が上がり、通信ウィンドウにサンドストームが吹き荒れる
「アスカ?アスカ!?」
シンジは必死に呼びかけるがアスカからの応答は無い
その間に、零号機が身を潜めている場所に近付く参号機
注意深くトウジが乗っているのかダミープラグなのかを見極める為に、参号機が通り過ぎるのを息を殺して待つレイ
参号機が通り過ぎた所で、粘着質の何かで射出が阻まれているエントリープラグを目にし、レイは希望が断たれたことを知った
「・・・・・乗っているわ・・・・・彼」
レイはそう呟くと、プラグに当てずに足止めしようと銃を構えた
が、使徒が奇妙な動きをしたかと思うと、一瞬にして上空に飛び上がった
レイが使徒の姿を捉える前に、上から圧し掛かられ、組しかれてしまう
もがくが、パワーの差なのか、抜け出せない
と、参号機から粘液質な何かが垂れ下がり始めた
それが零号機に達した時
レイは腕に何者かが侵食した事を感じた
更にもがこうとした瞬間
腕に肩から?がれたような激痛が走る
いや、実際零号機の腕が、肩の部分から発令所の信号でシンクロ切断する前に破棄されたのだ
余りの激痛にレイは気を失った
「目標は接近中、後フタマルで接触する。お前が倒せ」
ゲンドウの指示に前を見るシンジ
そこにはゆっくりと近付いてくる参号機の姿
「も、目標って言ったって・・・・・トウジが乗ってるんじゃないの?」
そう呟くシンジ
震えるトリガーに掛けられたシンジの指先
と、参号機が吼え、初号機に飛び掛ってきた
蹴倒される初号機
四つんばいになって着地した参号機を見ると、その背には途中まで射出されたエントリープラグ
「エントリープラグ!やっぱりトウジが乗ってるんだ!」
そう言うと、初号機を立ち上がらせるシンジ
ありえない程伸びて、初号機の喉を締め上げる参号機の腕
苦しむシンジ
そこに
「シンジ!何故戦わない?」
ゲンドウの声が聞こえてくる
「だって!トウジが乗ってるんだよ、父さん」
喉を締め上げられる苦しみに耐えながら答えるシンジに
「かまわん!そいつは使徒だ!我々の敵だ」
そう言うゲンドウ
「でも、でも、出来ないよ。助けなきゃ!人殺しなんて出来ないよ!」
それでもシンジは強情を張る
「お前が死ぬぞ」
そんなゲンドウの言葉にも
「良いよ!親友を殺すよりは良い!」
シンジはそう返す
此処に至ってゲンドウは席から立ち上がると
「構わん!パイロットと初号機のシンクロを全面カット!回路をダミーに切り換えろ」
と指示を出す
その声が聞こえた瞬間、苦しみから解放されるシンジ
いや、逆に苦しみへの入り口に立ったのかもしれない
なぜなら
シンジの意思に反して、反撃を始める初号機
自分の目の前で初号機が唸り声を上げて、残虐な行為に走る
「やめてよ父さん!こんなのやめてよ!」
ゲンドウに嘆願するシンジ
だが、その願いは聞き入れられない
「止まれよ!止まれ!止まれ!」
一生懸命にコントロールレバーを操作するが初号機は止まる気配を見せない
遂に、初号機は参号機からエントリープラグを取り出し
「やめろ!」
グシャ!
シンジの叫びなど無視して握りつぶす
「やめろ〜〜!!」
先程より大きな叫び声
そして・・・・・
レイはシンジの絶叫で目を覚ました・・・・・
後書き
何時もの倍くらいの量になっております(−−;
しかし、暗い、暗すぎる・・・・・
確か、此処から数話、痛い話が続くんですよね・・・・・
リニューアル、此処で止めて良いですか?
いや、真剣に・・・・・
なんだか、暗い話のせいか遅々として筆が進まなくて・・・・・
まあ、何とか頑張ってみますが・・・・・
それでは
タッチでした