レイの心模様

第19話     交差する心


「・・・碇君」

私は病院のベンチに腰掛、ふと呟いた

碇君の病室の前

そう、碇君は今、入院しているのだ

理由は初号機を私的占有し反乱を起こした為、L.C.L濃度を上げられ気絶したということらしい

何故碇君がそんな事をしたのか

ミサトさんに聞いてみた

あの時、碇君は鈴原君を殺しそうになったらしい

その指示を出したのが碇司令

ダミーシステムと言うものを使ったらしい

パイロットの意思とは関係なくエヴァが動くシステム

何度も止まれと叫んだ碇君を無視して動いた初号機は、最後に参号機のエントリープラグを握りつぶしたらしく

鈴原君は一命を取り留めたものの重傷を負い、右足まで失ってしまった

それを怒って、碇君は初号機に立て篭もったらしい

ミサトさんの説明を聞いて、私は納得してしまった

親友のために死を選ぼうとした碇君と、使徒殲滅を何よりも優先した碇司令

二人が二人らしく行動した為に起こった衝突

だからこそ、私の胸に不安感がこみ上げてくる

このまま碇君の心が壊れてしまうのではないかと

そうなると、碇君の温かい心に触れられなくなるかもしれない

それはとてもとても辛い事

私はこれから、碇君に何をしてあげれば良いのだろう・・・・・





数日後、退院したシンジの部屋を訪ねるレイ

そこは、今まで感じたことが無いほどの冷たさと拒絶感を含んだ意思で覆われているように感じられた

それでも、意を決して部屋に入る

が、目の前には荷造りが済まされたダンボールの数々

そして、自分に対して背を向けたまま拒絶感だけを滲ませるシンジの姿

その背から何時もの優しささえ、微塵も感じない

愕然とするレイ

漠然と感じていた不安が当たってしまった事に

「如何して出て行こうとするの?」

レイはシンジに問いかける

自分達の間には絆がある事を信じているから

しかし

「父さんが僕を裏切ったから。もう、誰も信じられないから」

ボソボソっとしたシンジの答えが返ってくる

レイは衝撃を受ける

自分との絆はシンジにとって取るに足らないものなのかもしれないと感じて

レイの心に冷たい風が吹く

「如何して、そういう事言うの?」

涙を浮かべて再び問うレイ

だが、レイの目に映るのは耳を塞ぎ蹲っているシンジの姿

自分の言葉がシンジの心に届かない事を悟ったレイ

失意のままシンジの部屋を出た





翌日、レイが起きた時には既にシンジは居なかった

元居た場所に戻った事を聞いたのはついさっきの事

何故シンジを引き止めることが出来なかったのか

悔やんでも悔やみきれないレイ

それは、アスカにしても一緒なのだと感じる

いつもと違い、明らかに精彩を欠く表情と声

明るさの一つも無いリヴィング

それでも時間というものは過ぎていく

二人は学校に行く為に家を出ようとした、その時

Prrrrrrr・・・・・・

鳴る電話

内容は使徒を確認したというもの

予定は変更され、直ちにネルフへと向かう三人

シンジの居ぬ間に第14使徒ゼルエルの来襲

心の整理が付かぬまま射出されていく弐号機

零号機は先の戦闘で失った右腕が治っておらず、今回は出撃が見合わされている

モニターで戦況を確認しながらも、シンジの事に思いを馳せるレイ

無茶苦茶な攻撃をするアスカ

まるでそれは八つ当たりしているかのように見えて・・・・・

だが、そんなアスカの攻撃をも意に介さず進んでくるゼルエル

その頃、発令所ではちょっとした騒ぎになっていた

初号機がレイを受け付けないのだ

シンクロ出来ないレイは零号機での待機を命じられる

初号機にダミープラグを挿入してみるが、パルスは悉く消滅してしまう

「私を拒絶するつもりか・・・・・ユイ?」

その様子を見ていたゲンドウがポツリと呟く

発令所が騒いでいる間にゼルエルは、弐号機の両腕を刎ね飛ばし

その首までも切り落とした

すぐにレイに出撃命令が出る

命令を聞いた瞬間、レイは覚悟を決めた

自分はどうなっても良い

シンジさえ、無事生き続けてくれればと

現在、最後の砦であるレイが死ねば、サードインパクトが起こるという考えは、このときレイの頭の中に無かった

そしてレイは出撃する

残る左手にN2爆弾を持って・・・・・

驚くミサト達

が、それに構わずレイはゼルエルに特攻をかける

ゼルエルのA・Tフィールドを中和し、もうすぐコアにN2爆弾が届くかと言う、その瞬間

コアは固い殻のようなもので覆われ、護られる

それは思いもしなかった事

レイは愕然とし、それが命取りとなった

ゼルエルの刃のような手が顔前に迫り

顔を割られる零号機

その激痛に、レイは気を失った





その時、シンジはスイカ畑で加持と話していた

両手と首を?がれた弐号機の横を、ゼルエルは悠然と過ぎ去る

そこに現れるは零号機

その右手はまだ再生されておらず、左手にN2爆弾を持っている

「綾波!」

思わず叫んでしまうシンジ

レイが何を考えているのか、分かってしまったから

そんなレイをただ見ていることしか出来ない自分に激しく

(このままで良いの?)

と、心の内で自分に問いかけるシンジ

そんなシンジの心に答えを導かせるかのように、顔を割られ倒れる零号機

シンジは決心する

トウジの事は許せない

でも、二人の少女を護らなければ、結局は自分も父親と同じなのだ

だから、最後まで戦う



加持の

「君になら出来る、君にしか出来ない事」

その言葉を胸に、シンジはネルフ本部へと向かう

大切で、護りたい二人の少女を助けるために

ケイジに着くと、初号機を見上げているゲンドウの姿

「僕を乗せてください」

そんなゲンドウにシンジは叫ぶ

「なんだお前は?」

シンジの言葉に下を見たゲンドウが問いかける

「僕は・・・初号機パイロット、碇シンジです!」

問いかけに答えるシンジ

「パイロットがこの非常時に何をしていた!直ぐに出撃だ!」

シンジの答えを聞いたゲンドウは一瞬唇を持ち上げると、厳しい顔でシンジにそう命令する

「ハイ!」

シンジもゲンドウの命令に答え、急いで初号機にエントリーする為、プラグへと向かった





初号機に乗り込むシンジ

発令所に侵入したゼルエルを取っ組み合いながらなんとか射出用のカタパルトまで押し出すと、抑えこむ

が、左手が吹き飛ばされる

一瞬苦痛の表情をしたシンジだったが

「ミサトさん!」

そう叫ぶ

そんなシンジに答えるかのように射出される初号機とゼルエル

ジオフロント内で一進一退の攻防を繰り広げる

だが、アンビリカルケーブルを装着していなかった為、内部電源が切れる初号機

猛然と反撃される中、シンジは必死に動けと念じる

と、シンジは何かに包まれるような感じを覚える

そのまま、意識が希薄になっていき・・・・・

動き出す初号機

ゼルエルの腕を?ぎ取り、自分の無くした腕につけると、左腕が一瞬にして復活した

そこからほぼ一方的にゼルエルを攻め続ける初号機

やがてゼルエルは活動を停止し

初号機が貪り始める

その様子を恐れを抱きつつ眺める発令所のスタッフ

食べ終わったのか、初号機が咆哮を上げると、防具がはじけ飛ぶ

それは、初号機の覚醒と解放の合図

皆、その異様な光景を固唾を飲んで見守っていた





(・・・ここは?)

何かに包まれながらも、浮遊しているそんな感覚に、目を覚ましたシンジは疑問を口にする

(・・・初号機の中よ)

そんなシンジの疑問に答える声

(・・・如何して僕は此処に居るの?)

姿の見えない、でも自分の問いに答えたものにまた問う

(・・・貴方の心にエヴァが同調したからよ)

再び答えが帰って来た

(・・・僕の心にエヴァが?)

三度の疑問

(・・・そう、使徒を倒したい。二人の少女を護りたいと願った貴方の心に私が同調したの)

三度の答え

(・・・そう)

(・・・ええ、そうよ)

(・・・貴方は誰?)

(・・・私はユイ・・・碇・・・ユイ)

(・・・母さん?)

(・・・ええ・・・貴方の母よ)

(・・・如何して此処に居るの?死んだんじゃなかったの?)

(・・・昔の実験で、自分で願ってこの場に留まったの。死んだわけじゃないわ)

(・・・如何して、この場に留まる事を願ったの?)

(・・・人の可能性を見つめて行きたかったから)

(・・・その為に僕を捨てたの?)

(・・・捨てたつもりは無かった。でも、結果的にはそうなってしまったの・・・御免なさい)

(・・・そんな!勝手だよ、母さん!)

(・・・そう、そうね。でも、私は如何しても未来を見たかったの)

(・・・母さんは僕より、未来の方が大切だったの?)

(・・・そんな事無いわ)

(・・・でも、僕は母さんが居なくなって辛い事ばかりだった。人殺しの子供の烙印を押されて苛められたり、お父さんから捨てられたり・・・)

(・・・そうね、私もゲンドウさんが貴方を手放すとは思わなかった・・・)

(・・・僕はもう、辛い事から逃げ出したいんだ)

(・・・辛い事から逃げ出して、何を願うの?)

(・・・僕に優しくして欲しい・・・僕を甘えさせて欲しい・・・僕を必要として欲しい)

(・・・シンジ・・・貴方は周りが見えていないだけ。貴方に優しくしてくれてる人も、甘えさせてくれてる人も、必要としてくれてる人も居るわ・・・よく思い出して)

(・・・本当に?)

(・・・本当よ)

(・・・信用して良いの?僕はもう傷つきたくない)

(・・・傷つく事を恐れて逃げていれば、真実は何も見えないわ)

(・・・本当に?)

(・・・本当よ)

(・・・もう、誰も傷つけたくない)

(・・・それは貴方の頑張り次第よ。貴方が逃げなければ誰も傷つかないわ)

(・・・本当に?)

(・・・本当よ)

(・・・僕は頑張れるのかな?)

(・・・それも貴方の頑張り次第。でも、貴方を支えてくれる人が沢山居るわ。だから逃げないで)

(・・・本当に?)

(・・・本当よ)

(・・・母さんも僕を支えてくれる?)

(・・・当たり前でしょ?私は貴方の母親なのよ)

(・・・本当に?)

(・・・本当よ・・・それと、お父さんを許してあげて)

(・・・父さんは僕を裏切ったんだ!止めてって言ったのに、トウジを傷つけたんだ!許せないよ!)

(・・・お父さんだけが悪いの?)

(・・・なんでそんな事聞くのさ)

(・・・確かにお父さんも悪い。だから二度とダミーもそしてレイちゃんも受け入れるつもりは無いわ。でもね、シンジ。もし貴方が鈴原君を傷つけないようにきちんと戦ってたら、結果は違ったと思わない?)

(・・・そ、それは・・・)

(・・・お父さんは貴方を心配してダミーを使ったのかも知れないわよ。不完全なのは分かってても、貴方を助ける為に)

(・・・父さんが、僕を助ける為に?)

(・・・そう)

(・・・そんな・・・)

(・・・そうね、私もゲンドウさんの考えは分からないわ。でも、その可能性もあるという事。それと、貴方が逃げなければ結果が違っていた事は確かだと思うわ)

(・・・うん)

(・・・だから、逃げずに頑張ってね。逃げない事に生きる価値があるのだから)

(・・・うん)

(・・・それじゃ、元の世界に戻りなさい。貴方を待ってる人たちが居るのだから)

(・・・うん。また、逢える?)

(・・・貴方が呼び掛けてくれれば)

(・・・判ったよ、母さん)

(・・・それじゃ、頑張るのよ)

(・・・うん)





プラグスーツを抱き締めて泣き咽ぶミサト

その横では初号機を仰ぎ見ながら、一心に祈りを捧げる二人の少女

バシャッ

ミサトの後ろでそんな音がする

驚き振り返ったミサトの視線の先には

うつ伏せて、向こうを向いてしまっているが確信できた

二人の少女の願いが届いたかのように

そこに全裸で倒れているのがシンジであると



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後書き


ふい〜、何とか書き上げましたリニューアル19話

ユイとの邂逅はかなり手をつけましたが如何でしょう?

さて、後3話でリニューアルも終わりですね

その後の話は一応リニューアル予定ありませんが、まあ、反応によるという事で(爆

それでは

タッチでした




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