真っ白な光がモニターから溢れ出し、発令所を包みこむ
その眩しさに目を瞑る発令所のメンバー達
それでも状況を確認しようと飛び交う怒声
眩しき光が収まり始めた頃、マコトは薄く目を開けモニターを見るもののモニターにはサンドストームが吹き荒れている
「駄目です!カメラもレーダーも全然反応しません!」
今確認できた事を大声で自分の上司に告げる
「何とかしなさいよ!」
そんな彼の声に答えたのはミサトではなくアスカ
しかし
「・・・アスカ・・・爆心地の周囲の磁場は乱れてるし、恐らくカメラは破壊されてると思うわ・・・爆風もまだ吹いてるようだし・・・もう少し現場が落ち着くまで待って頂戴」
そんなアスカにリツコが沈痛な表情で声を掛ける
「で、でも!」
今度はリツコに顔を向ける
「・・・無理なものは無理なの・・・お願いアスカ・・・分かって」
アスカから視線を外してそう言うリツコ
アスカはモニターに目を移し、二人の無事を祈った・・・・・
折角出来た心許せる仲間なのだから
全てが終われば楽しい生活を一緒に過ごせる筈なのだから
しかし、そんな事をしても不安は拭い去れない
あの時レイと一緒に出撃していれば或いは・・・・・
アスカの心に何も出来なかった事への悔しさが滲む
二人とも失ってしまったのかもしれない
その考えが浮かび、支配する
まるでソレが事実であるような思いに囚われ、心に大きな穴が開いた感じを受け、蹲って泣き始める
二人と過ごした束の間の楽しかった時間を思い出しつつ・・・・・
暫くして光が完全に消え、嵐も収まった
「レーダー回復!・・・しかし・・・エヴァ零号機の反応・・・無し・・・」
マコトの報告に
「初号機は!?」
アスカがマコトに問う
「戦自のVTOLが現場に到着、映像、入ります」
マコトがアスカに答える前にシゲルから報告がはいり、モニターが映る
其処には大きなクレーターと、その中に立つ初号機の姿
「おお〜!」
発令所全体から驚きの声が上がり
「ま、まさか!あの閃光はA・Tフィールドだったと言うの!?結界になりうるほどの!」
モニターのデータを解析していたリツコの叫びが響き渡った
「シ、シンジは!?」
今度はマヤに問うアスカ
「パイロットの生命反応確認!!アスカちゃん、大丈夫!シンジ君は生きてる!」
マヤの言葉に少し笑顔になるアスカ
その姿にホッとする発令所メンバー達
初号機はゆっくりとネルフ本部に向かって歩き出した
そんな中
「レイは?レイは無事なの?」
アスカがオペレーターに声を掛ける
その言葉に安堵の表情が一転して焦ったものに変わる
クレーターの中にはエントリープラグどころか零号機の破片すら見当たらない
「駄目です!エントリープラグ確認できません!」
シゲルの報告に
「そ、そんな・・・・・」
そう言いつつ目に涙を浮かべる発令所のメンバー達とへたり込むアスカ
しかし
「ま、待ってください!」
マコトがそう叫ぶと初号機の手を拡大し始めた
マコトの言葉と行動にモニターに目を向けていたメンバー達の顔に笑顔が戻る
そう、初号機の手の中にエントリープラグがあることを見て取り
シンジが無事である以上、レイも無事だろうと思い込んで・・・・・
アスカは涙を流していた
「良かった・・・」
そう呟きながら・・・・・
その横で
「マヤ、零号機のパイロットの様子・・・・・分かる?」
リツコは他のメンバーに聞こえないようにマヤに確認する
「駄目です。こちらからの信号は全て受け付けません」
マヤは青褪めながら同じように小声でリツコに返す
「MAGIの判断は?」
更に尋ねるリツコ
「エントリープラグは使徒一体分の爆発にでしたら耐えられますが、今回はそれに零号機の爆発も加わってますから・・・・・確率0%だそうです」
とマヤが答える
「そう・・・・・私は確認に行くけど、その事は部外秘にしておいて。後で様子を連絡するわ」
マヤからの報告を聞いたリツコはそう言うと、足早に発令所を後にした
リツコはケイジに着くとすぐさま緊急ハッチを開け、中の様子を確認する
そのリツコの目に飛び込んできた光景は・・・・・
リツコは動揺を必死に抑えるとまずゲンドウに連絡し、その後マヤに連絡した
連絡をし終えるとリツコは腕時計をチラリと見て
「少し時間有るわね」
そう言ってその場から姿を消した・・・・・
零号機のエントリープラグに手が届いたと思った瞬間、目の前に広がる眩くも白い光
それは懐かしくも暖かい波動でもってシンジを包み込んでいく
その波動はつい最近感じたものに酷似していて
だからシンジは呼びかけた
「綾波・・・・・?」
と
そう、機体交換実験の際に感じた彼女の波動と似ているのだから・・・・・
しかし聞こえてきたのは
クスクスクス
そんな楽しそうな笑い声
そして・・・・・
(・・・シンジ)
聞こえてきたのはゼルエルとの戦いのときに聞いた母の声
「・・・母さん?」
シンジは声を出した瞬間、暖かさに包まれ気が遠くなっていった・・・・・
(・・・シンジ)
そのユイの声に再び目覚めるシンジ
(・・・母さん・・・?・・・母さん、此処は?)
目覚めたシンジは目の前にユイが居て、でも周囲が真っ暗なことに疑問を感じ辺りを見回した後ユイに問う
(此処は初号機の中よ)
シンジの問いにユイが答える
(・・・初号機の中・・・)
鸚鵡返しに呟くシンジ
(そう、貴方に聞きたいことがあるの)
そんなシンジにユイがそう言う
(聞きたいこと?)
シンジはユイに顔を向け聞く
(そう、聞きたいこと)
もう一度言うユイ
(何?)
そんなユイにシンジが答える
(貴方はレイちゃんの事・・・好き?)
突然、何の脈絡も無い質問
(い、いきなり何聞くんだよ母さん!!?)
シンジは顔を真っ赤にして怒鳴る
(シンジ・・・これは重要な質問なの・・・で、如何なの?)
何処か楽しそうに聞くユイ
(・・・本当に重要なの?)
シンジはユイの雰囲気を敏感に感じ取り、ジト目で問う
(ええ、本当よ)
今度は真剣な感じが伝わってくる
(す・・・・・好きだと・・・・・思う)
ユイの真剣な感じにシンジは真っ赤になりながらそう答える
(シンジ・・・・・はっきりとして欲しいの・・・・・もし、レイちゃんが好きなら貴方にあの娘を支えて欲しいから・・・)
シンジの答えにもう一度真剣にそう聞くユイ
(・・・僕は今でも綾波を支えているつもりだよ?)
シンジは心外という感じですこし怒った感じでユイに答える
(確かに今までも支えてきたかもしれない。でも、私は今まで以上を望みたいの。そして、その為に貴方に覚悟して欲しいことがあるの・・・・・これを聞いたら貴方はあの娘を支えることが出来なくなるかもしれない・・・・・だから・・・・・)
ユイの言葉が憂いを帯びる
(・・・母さん・・・僕、綾波が好きだよ・・・これからも支えていきたいと思う・・・その覚悟は出来てるつもりだよ・・・)
そんなユイにそう答えるシンジ
(それじゃ、貴方に教えてあげる、レイちゃんの秘密を・・・でも、これを聞いたら貴方は後戻り出来なくなる・・・いえ、後戻りさせないわよ)
ユイはシンジの答えを聞いてそう言う
(・・・分かったよ、母さん)
シンジはしっかりと頷き答える
(あの娘は・・・レイちゃんは・・・・・私達の言う所の人間ではないわ・・・)
いきなりな言葉
(・・・え・・・?・・・う・・・嘘でしょ?)
その言葉にシンジはショックを受ける
(・・・シンジ・・・嘘じゃないの・・・)
そんなシンジにユイは冷徹な答えを返す
(そんな・・・だ・・・だって・・・)
何とか言葉を紡ごうとするが考えが纏まらない
(シンジ・・・・・使徒って何だと思う?)
いきなり変わる質問
(ソレと綾波の秘密と何か関係有るの?)
突然の質問にシンジが問う
(関係有るわ・・・それは後で教えてあげるから質問に答えて)
ユイの言葉にシンジは以前から考えていた事を答える
(使徒・・・・・神の使い・・・・・天使の名を持つ僕らの・・・・・敵・・・・・)
その答えに
(・・・そう・・・・・それは違うわよ、シンジ)
そう答えるユイ
(違う?如何いうこと?)
ユイの答えを聞いてシンジが問う
(「使徒」と言うのは私達人間が勝手に識別しやすいように名付けただけ・・・・・神の使いではないわ・・・・・。敵・・・・・はそうね、ある意味正しく、ある意味間違いね)
それは驚愕の事実
(如何いうこと?)
更に問うシンジ
(神はその昔、16種類の可能性を持つ生き物を生み出したわ、それが「使徒」。私達人間も群体としての可能性を与えられた「使徒」なのよ。そして・・・神はその中の一つの可能性だけが残るようにしたの、つまり生き残る為に私達は戦わないといけない・・・・・だから、神の使いではなく、敵と言えるのかもしれない)
ユイから衝撃の事実が明かされる
(そ、それじゃ僕達は・・・・・)
戸惑うシンジ
(そうよ。仕方が無いとは言え、同じ仲間を・・・ヒトを殺してきた事になるの・・・・・)
ユイは俯き、苦しそうにそう伝える
余りに衝撃的な一言
(ヒトは神により定められし運命によってお互いに殺し合い、生き残りをかけることになった)
それでも続くユイの言葉、しかし
(でも、必ずしも一つの可能性だけが生き残る必要はないと思わない?)
突然、ユイが微笑みながら聞いてくる
(如何いうこと?)
ソレに質問で返すシンジ
(つまり、使徒と共生できると思わない?って事よ。それが敵とは言えないとも言うこと)
ユイのその言葉に
(そ!そんな!無理だよ!)
そう答えるシンジ
(いいえ、出来るわ。現に今、貴方達は共生してるじゃない)
更なる爆弾発言
シンジはユイの言葉に動揺し
(それって、如何いう意味!?)
思わず大きな声でユイに尋ねる
だが、そんなシンジにユイは静かな声で
(そのままの意味よ)
と答える
シンジはユイの言葉に今までの会話を思い出し、一つの仮説に辿り着く
(ま、まさか・・・・・)
自分の考えに青褪めるシンジ
(そうよ、レイちゃんは半分使徒よ)
そして、追い討ちをかけるようにその考えは肯定される
(私が初号機に取り込まれた後、サルベージが実施されたのだけどそれが失敗。私の戻りたいと言う願いの篭った肉体の一部だけが辛うじてサルベージされただけなの。その私の肉体の一部の遺伝子と貴方が拾ってきた第弐使徒リリスのコアを使って生み出されたのが・・・・・レイちゃんよ)
そう付け加えられる
(そ、そんな・・・それじゃ綾波は・・・)
ユイの説明にシンジは蒼くなりながらそう呟く
(そう、入ってる心の違う私・・・それがレイちゃんよ)
シンジの言葉を継ぐユイ
その言葉がシンジの心を揺さぶる
が、考えてみたら余りにも思い当たることが多い
自分がレイに母親の姿を求めるのはその為なのかもしれない
そう考えると、その言葉をシンジは簡単に受け入れることが出来た
シンジはレイをレイとして見ていたのではなく、その先の母を見ていた事にショックを受け、悔やむ
自分は今まで何をしていたのだろうと
如何して彼女自身を見てあげることが出来なかったのだろうと
それと共に
(母さん・・・父さんはその事・・・知ってるの?)
生じた疑問をユイに向けるシンジ
(・・・知ってるわ・・・と言うより・・・レイちゃんを生み出した張本人の一人よ・・・私と再び逢う為だけに・・・)
シンジの疑問に苦しそうに答えるユイ
(・・・何だよそれ・・・)
シンジの表情も苦いものとなる
自分だけではなく、父もレイに母を重ねていただけなのを知り、更にショックを受ける
自分を自分としてみてもらえなかったレイの事に想いを馳せる
自分自身が苛められていたシンジにしてみればその悲しみはそれなりに分かる
いや、自分が受けてきた苛め以上に酷い行いをされてきたのだ
その悲しみは想像を絶するものだろう
シンジはそう思い、唇を噛み締める
が、それとは別に、レイは使徒なのだからと言う気持ちも湧き上がる
自分達と違う存在
それも母の遺伝子が使われている存在
だから、しょうがないじゃないか
そんな気持ちも・・・・・
様々な気持ちが渦巻き、シンジの心は混乱する
(シンジ、レイちゃんも私達と同じヒトであることは忘れないで。同じ「使徒」として私達と共に生きていけるわ。だから・・・これからもレイちゃんと仲良くしてあげて)
そんなシンジにそう言うユイ
(・・・今はちょっと心の整理がつかないけど・・・なんとか頑張ってみる)
そう返すシンジ
(ええ・・・・・レイちゃんにも生きてさえいれば誰でも幸せになれることを教えてあげて)
そう言うユイ
(それと、あの人の計画も教えておいてあげる。でも、どんなに酷いものであってもお父さんを許してあげて・・・そして・・・止めてあげて)
そう言ってシンジにゲンドウの計画を教えるユイ
(!!!!!母さんに逢う為だけに僕達を利用してるって言うの!?)
ゲンドウの計画を聞き、驚き叫ぶシンジ
(ええ、だから止めてあげて・・・この計画では後に何も残らないわ・・・そして許してあげて・・・あの人は自分が他人から拒絶されるのが怖いから自分から突き放してるけど、本当は人の温もりを求めてるの。だから唯一あの人を拒絶しなかった私をあの人は求めているのよ。もし、貴方があの人を受け入れることが出来ればあの人の暴走も止まると思うの)
そんなシンジをそう言って宥めるユイ
(幾らなんでも・・・許せるわけ無いじゃないか!!大体、本当にそんな事で父さんを止められるの!?)
シンジの言葉に
(シンジ・・・愛は盲目って言葉があるように、愛には善悪を考えることが出来なくなるくらいの力があると思うの。想いが強ければ強いほどそれは顕著になるとも思ってるわ。そして、想えば想うほどその人を忘れられなくなる。あの人の計画は想いの強さが具現化したものだと思うの。私をそれだけ愛してくれているって事だと思うからそれは嬉しいんだけど・・・・・。でも、貴方がきちんとあの人を受け入れてくれたら止まると思うわ。求めていた自分を拒絶しない人間を得ることが出来たって事で・・・だから、あの人を許してあげて)
そう答えるユイ
(・・・・・分かった・・・・・やっぱり今すぐとは言えないけど・・・・・父さんを許せるように頑張ってみる)
シンジがそう答えると
(有難う!シンジ)
そう言ってユイはシンジに抱きつくと
(それじゃ、そろそろ戻りなさい。皆貴方を待ってると思うから)
そう言ってシンジを離す
そのまま何かに引っ張られるようにユイの元から離れ始めるシンジ
遠ざかる温もりに
「頑張るよ・・・・・母さん」
そう声を掛けた
射し込む優しい日の光
それをレースのカーテンが遮る
白一色で統一された淋しい空間
その空間から聞こえてくるのは精密機械から発せられる音のみ
そう、此処は病院の一室
集中治療室と呼ばれるそこに、人の気配が・・・・・
精密機械がベッドの回りに配され
そこから多くの管が伸びている
その管の行き着く先・・・・・
そこには髪の蒼い少女の姿が
身体の各所に管の先が貼り付けられ、または刺し込まれている
その少女の名は・・・・・
『綾波レイ』
頭と片目を覆うように巻かれた包帯
腕にも包帯が巻かれている
やがて瞼が震えると、ゆっくりと目を覚まし
レイは辺りをゆっくりと見回すと・・・・・
「・・・・・まだ・・・・・生きてる」
とポツリと呟く
レイの纏う雰囲気は希薄で虚無感が漂っている
そして、その顔に浮かぶ表情は無
紅い瞳にも感情など宿っていない
レイはゆっくりとベッドから起き上がると、病室を出る
別に何かしたかったわけではない
それは、ただの無意識な行動
そんなものだった・・・・・
後書き
さて、リニューアルプロジェクト最後のストーリーの開始です
前回の後書きで書いたように前後編に分けさせていただきます
かなり変わったと思いますが如何でしたでしょうか?
それでは次は本当にこのプロジェクト最後、後編で