レイの心模様

第22話     新たなる道

〜中編〜


シンジが病院のベッドに座り込んで項垂れている

誰もレイの様子を教えてくれなかった為に

綾波は大丈夫だったのだろうか?

ひょっとしたら助けられなかったのでは?

そんな思いに囚われて・・・

その時

病室に入ってくるリツコ

「シンジ君?話があるの、私の所に来てくれる?」

その言葉に

「・・・・・はい」

シンジはそう答えると、のろのろと立ち上がり、リツコの後をついていった





「失礼します」

シンジはそう言ってリツコの研究室に入る

「話ってなんですか?」

リツコに示された椅子に座りつつ尋ねるシンジ

「レイの事よ」

シンジの問いにそう返すリツコ

「綾波は大丈夫なんですか!?」

そんなリツコの言葉にシンジが立ち上がりつつ聞く

「ええ、レイは助かったわ・・・・・」

シンジの問いに目を逸らしつつ答えるリツコ

それがシンジの不安を掻き立てる

「本当に綾波は助かったんですか!?」

リツコに詰め寄り、肩を掴むと激しく揺さぶりながら問うシンジ

その問いに答えず、シンジが落ち着くのを待つリツコ

「落ち着いた?」

手を離し、俯いているシンジにリツコが問い掛ける

「・・・・・はい」

シンジの答えを聞いて

「シンジ君、よく聞いて・・・」

シンジの目を覗き込みながらそう言うリツコ

シンジは

ごくっ・・・・・

唾を飲み込むと、ゆっくりと頷いた

「レイは確かに助かったわ・・・でも・・・激しい衝撃をLCLが吸収しきれずレイに負担が掛かったのか違う理由なのか分からないけど・・・・・」

リツコはそこまで言うと、一口コーヒーを口につけ

「あの娘にはここ最近の記憶が無くなってるの・・・・・勿論一時的なものである可能性もあるんだけど・・・・・このままと言う可能性もあるわ・・・・・」

そう言って溜息を吐く

「そ・・・・・そんな・・・・・リツコさん!何とかならないんですか!?」

再びリツコの肩を掴み揺さぶるシンジ

「・・・無理よ・・・人間の脳はその殆どが未だ解明されていないブラックボックスなの・・・無理に記憶を蘇らそうとすれば・・・・・下手なことをしたらレイは廃人になるわ」

リツコは揺さぶられながらもそう答える

「・・・・・そんな・・・・・嘘だ・・・」

そう言ってがっくりと項垂れるシンジ

「シンジ君、信じられないのなら直接自分で確かめたら良いわ。レイは目を覚ましてるから会える筈よ」

突き放すようにそう言うリツコ

「・・・・・分かりました・・・・・そうします」

シンジはリツコにそう答えると、研究室を出て行った





病院に向かって駆けるアスカ

その足取りは軽やかだ

彼女の大事な二人が目を覚ましたと聞いたから・・・・・

病院に着くとナースステーションに駆け寄るアスカ

看護師に二人の病室を聞こうとしたところで

「あれ、アスカ?」

そんな声がして、振り向くとそこにはミサトが

二人はまず、シンジの病室に向かう

コンコン

「シンジ、入るわよ?」

ノックの後、そう言うと病室に入るアスカ

が、そこには誰も居ない

外に出て表札を確認するとそこには『碇シンジ』と書かれている

ミサトの方に振り向くと

「ミサト!シンジが居ないわ!」

と声を掛ける

「なあんですって!?」

アスカの言葉に少し遅れてやってきたミサトが中を覗くとやはり誰も居ない

「アスカ・・・・・探すわよ」

そう言うと、踵を返すミサト

「じゃあ、ミサトはそっちをお願い。私はこっちを探すから」

ミサトの進行方向とは逆の方向を指差すアスカ

「分かったわ。病院全体を探すのに大体一時間くらいでしょうから一時間後に此処で落ち合いましょ」

ミサトはアスカにそう言うと歩き出す

アスカも

「了解」

そう言って歩き出した

アスカは最初に一階から調べる事にして、一階に下りる

玄関まで行くと、中に入ってくるシンジの姿が・・・・・

思わず泣きながら駆け寄り、シンジに抱きつくアスカ

シンジは最初驚いたものの、アスカの温もりを感じてソレを離さない様にするかのようにアスカを抱き締める

困った顔をしながらも、ゆっくりと優しくアスカの髪を梳くシンジ

その状況に最初うっとりとしていたアスカも、現状を思い出したのか

バッ!

と言う音が聞こえてきそうな程の勢いでシンジから離れると

「な、何いきなり抱きついてンのよ!この、馬鹿シンジ!!」

と悪態を吐く

そんなアスカらしさに思わず微笑んでしまうシンジ

レイの事があって重くなっていた気分がアスカによって和らげられた感じになっている

微笑むシンジに今まで以上の胸の高鳴りを感じるアスカ

顔に血が集まってくるのを感じている

どうにかソレを隠そうとしていた時、誰かが横を通り抜けシンジに抱きついた

その誰かとはミサト

シンジを抱き締め泣きじゃくっている

そんなミサトにおろおろするだけのシンジ

なんとかミサトを宥めようと思案し出した頃突然

「何時までシンジに抱きついてンのよ!」

とミサトをアスカが引き剥がす

その行動に呆気に取られるシンジとミサト

が、ミサトはすぐにチシャ猫のような笑みを浮かべる

からかわれる!

と身を固くするシンジとアスカ

だが・・・・・

「シンちゃん、目が覚めたら退院して良いって言われてたんだけど・・・・・帰る?」

ミサトは何事もなかったかのようにシンジに退院を告げる

その事にホッとするシンジ



ミサトの行動に不気味さを感じたアスカが擦り寄ってくる

さっきとは別の意味で身を固くするシンジと、更に笑みを深めるミサト

しかし、その場では何も言わず

「さっ!行きましょ」

と言ってシンジの荷物を持ってさっさと病室を出る

そんなミサトに

「済みません、ミサトさん。綾波を見舞いたいんで先に帰っててください」

とシンジが声を掛ける

そんなシンジの言葉に

「あ!アタシも!」

と言おうとしたアスカだったが

「そう?それじゃアスカと一緒に帰ってるから」

とミサトに引き摺られていく

何か喚いているアスカ

そんなアスカに心の中で謝りながらシンジはレイの病室に向かった





レイの病室の前まで来ると、窓から外を見ているレイを発見するシンジ

「綾波!」

シンジはレイが無事な姿を確認すると声を掛け、涙を流す



「・・・・・貴方・・・・・誰?」

衝撃の一言がレイの口から零れる

「!?僕だよ!碇シンジだよ!」

レイの問いに驚きそう返すシンジ

「そう・・・御免なさい、分からないの・・・多分・・・私・・・三人目だと思うから」

俯き、そう返すレイに

「・・・綾波・・・君が如何して三人目なんて言葉使うのか分からないけど・・・リツコさんが言ってた・・・記憶が混乱してるって・・・」

そう言うシンジ

レイが記憶のない事で不安になってそんな事を言っているのだろうと思って・・・・・

シンジの言葉に顔を上げるレイ

「だから・・・早く思い出して・・・僕の事を・・・アスカの事を・・・そして・・・ミサトさんの事を・・・」

そう言ってもう一度微笑むシンジ

レイはそんなシンジを食い入るようにみつめる

「大丈夫、綾波ならすぐに思い出せるよ。だから不安がらないで。僕達はずっと綾波の傍に居るから。僕がずっと君を護っていくから」

レイの不安を取り除こうとそう言うシンジ

そして二人はみつめあう

だが、シンジは恥ずかしくなったのかくるりと踵を返すと

「それじゃ、また明日ね」

そう言って帰っていく

シンジを見送るレイ

感じられなくなった暖かさに不安が募る

レイは病室に帰ると、ベッドに寝込み頭から布団を被る

これ以上温もりが逃げないように・・・・・





ミサトは先の使徒戦の事後処理が残っている為、アスカを残してネルフに戻る

一人家に取り残されるアスカ

シンジとレイの無事を知った今、急速に寂しさがこみ上げてくる

元々一人にされることに耐えられないアスカはシンジの部屋に篭り声を押し殺して泣く

一人の寂しさに耐え切れずに

少しでもシンジの存在を感じようと・・・・・

いつしか眠りに落ちていたアスカ

シンジは自分の部屋でアスカが寝ていたことに驚くが、安らかな寝顔を見て起こすのを止める

アスカに掛け布団を掛け直すと、部屋を出てリヴィングに移動する

アスカを起こさないようにソファーに腰掛け、イヤホンをしてS−DATを聞く

目を閉じ、音楽に聞き入るシンジ

どれ位の時間が経ったのだろう?

ふと人の気配を感じて目を開けると目の前にアスカの姿

「お早う」

シンジは微笑み、アスカに声を掛ける

そんなシンジに答えず、アスカはいきなり抱きつく

しがみ付き声を殺して泣くアスカをシンジは抱き締め、髪を梳く

アスカに心配をかけてしまっていた事を知っていたから

少しでもアスカの不安を取り除こうとして・・・・・

やがて、落ち着いたアスカが

「私のお父さんね・・・・・浮気してたの・・・・・」

ぽつぽつと自分の事を話し始める

父のこと、母のこと・・・・・

それはアスカの過去、心の傷

いつも気丈に振舞う彼女が初めて見せる弱々しい姿

彼女の態度の裏にあった辛い過去を聞き、シンジは涙を流す

少女の持つ心の傷の深さに心が痛くなって・・・・・

自分がどれだけ甘えていたのか痛感させられて・・・・・

だから、抱き締める力を強くする

そんなシンジの暖かさに、次第に自分を取り戻すアスカ

少しの間、シンジの腕の中でじっとしていたアスカだったが・・・・・

「な・・・・・なに抱きついてンのよ!!?馬鹿シンジ!!」

シンジを押し離してそう言うアスカ

そんなアスカを見たシンジは一瞬きょとんとしたが

やがて

「ははははははは」

笑い始めた

アスカは笑うシンジを最初は不機嫌な顔で見ていたが、やがて一緒に笑い出した





レイは布団の中でシンジの笑顔を思い出す

初めてなのに初めてじゃない感じ

胸に何か引っかかっている感じ

それは忘れていてはいけない何か

自分と言う存在に必要な何か

それを思い出すのに必要なキー

それがシンジの笑顔だとレイは直感で感じたから

必死に心の中を探すレイ

やがてそれはゆっくりと何かの形を成していく

それは、表情と呼ばれるもの

そう、先程見たシンジの微笑と同じようで何処か違う微笑み

そして

「笑えば良いと思うよ・・・・・」

シンジの言葉・・・・・

レイの心に衝撃が走る

次々に浮かび上がってくる思い出

それと共に思い出す

「碇君と一緒に居たい」

「碇君と一つになりたい」

シンジへの想い

こんなにも強い想いが自分の中にあったことに驚きながら

尚も自分の心の中を彷徨うレイ

まだ何か、思い出さないといけないものがある

そう思って

どれ位の時間が流れたのか、ゆっくりとレイは目を開く

その紅い瞳は涙に濡れ、揺れ動いている

思い出すのは使徒に侵食された時の事

シンジを傷つけない為に約束を破ってまでも自爆モードをスタートさせる自分

だが、そんな自分に向かってくる初号機

必死にやめてと呼びかけるが初号機は近づいてくる

初号機の手が近くまで迫ってきた時、目の前を光が覆いつくす

何処か暖かく、懐かしい波動を伴って

それと共に、レイは誰かの心を感じた

優しく、暖かいシンジとは違う誰かの想い

その想いで体を包み込まれたと感じたとき、意識の中に誰かの心が入ってきた

一瞬、心を固くするレイ

怯えを含みながら

(・・・あなた・・・誰?)

レイが問う

(私は・・・ユイ、碇ユイ。ネルフ司令碇ゲンドウの妻で、シンジの母たる存在)

その問いに答える声が

(・・・・・ユイ・・・・・博士・・・・・?)

その名に驚くレイ

(・・・・・ええ)

ユイはレイに答えると

「貴方に頼みたいことがあるの・・・・・)

と続ける

(・・・・・私に・・・・・?)

ユイの言葉にレイが問い返す

(ええ、私はもう、あの二人の元に還れないと思う・・・・・だから・・・・・届けて欲しいの・・・・・私の想いを・・・・・あの二人に・・・・・そして・・・・・受け継いで欲しいの・・・・・貴方に)

レイの問いにそう返すユイ

だが

(・・・・・無理)

にべもないレイの答え

(如何して?)

ユイがレイに問う

(・・・・・私も同じだから・・・・・私も碇君の元にもう還れないから・・・・・)

唇を噛み締め、そう答えるレイ

(いえ、貴方はまだ還れるわ)

レイの答えを聞いて、そう返すユイ

(・・・・・何故?)

レイの当然の問い

(私が貴方を護ったの・・・・・シンジが貴方を助けたいと強く願ったから・・・・・)

そう答えるユイ

(・・・・・私を・・・・・碇君が・・・・・?)

ユイの言葉に驚きながらも心の暖かくなるレイ

(そう、だから貴方はまだ生きてるし、当然還れるわ・・・・・私を信じて・・・・・)

ユイの言葉にこっくりと頷くレイ

(そう、有難う・・・・・)

その言葉を最後に、気を失うレイ

心に満ちる何かを感じながら・・・・・

「・・・・・・・・・・」

そこまで思い出し暫く無言で居たがやがて・・・・・

「・・・・・私・・・・・還って来れたのね」

そう言って、涙を流しながら微笑むレイ

手に落ちる涙の雫を感じ

「・・・・・これは・・・・・涙・・・・・そう・・・・・嬉しくても涙が出る・・・・・本当ね、碇君」

目の前にシンジの笑顔を思い浮かべながらそう呟き、もう一度微笑んだ

それは、初めてシンジに見せたものに母の優しさを加えた様な、そんな微笑だった



【前話】   【次話】

後書き


ども、タッチです

何だか妙に長くなったので結局またもや持越しです(^^;;;;;

う〜ん、やっぱり四話分を二つにするのは無理がありましたね(苦笑

それでは次こそ最後と言うことで・・・・・




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