手に零号機のエントリープラグを掴んだと思った瞬間、目の前に広がる眩くも白い光
それは、懐かしくも暖かい雰囲気でもって僕を包み込んでいく
その雰囲気は僕に最近の事を思い出させる
そう、あの機体交換実験の時の事を
だから、僕は呼び掛ける
「綾波・・・・・?」
と
クスクスクス
何処からとも無く聞こえてくる楽しげな笑い声
それは、綾波とも綾波で無いとも思える声
そして・・・・・
(・・・・・シンジ)
聞こえてきたのは
ゼルエルとの戦いの時に聞いた母の声・・・・・
「母さん・・・・・」
僕は母さんに答えながらも、暖かさに包まれながら気が遠くなるのを感じていた
(シンジ・・・・・レイちゃんが好きなのね)
いきなりトンでもない事を言い出す母さん
(い・いきなり何を言うんだよ母さん)
(だって、「綾波?」なんて言うんだもの)
まだ母さんはクスクスと笑っている
(しょ・しょうがないじゃないか!母さんと綾波って何となく纏ってる雰囲気が同じなんだから!)
咄嗟にそう言った後、僕は常々綾波に抱いていた母親みたいな感じに、遂に答えを見つけた
そう、母さんと綾波の持つ雰囲気と言うか気配が同じなのだ
今までは良く判らなかったけど、こうやって母さんと接していると良く判る
(シンジ・・・・・)
自分の考えに没頭していた僕に母さんが呼び掛けてくる
さっきまでの楽しげな雰囲気から一変した、真剣な雰囲気で
(あなたがそう思うのも良く判るわ・・・・・)
その言葉に僕は言い知れぬ不安を感じる
(あなたに教えてあげる・・・・・レイちゃんの秘密を・・・・・)
(あ・綾波の・・・・・・秘密・・・・・?)
湧き上がる不安を必死に抑えながら僕は母さんに聞き返した
(そう、あの娘は・・・・・レイちゃんは・・・・・私達が言う所の人間ではないわ・・・・・)
(う・嘘だ!綾波が人じゃないなんて、そんなの嘘だ!)
母さんの余りの言葉に、僕は大声でそれを否定する
(シンジ・・・・・私はヒトじゃないとは言ってないわ・・・・・私達の言う所の人間じゃないと言ったのよ・・・・・)
(同じじゃないか!何が違うんだよ!?)
(シンジ・・・・・使徒って何だと思う?)
(えっ!?)
母さんのいきなりの質問に僕の頭の中は真っ白になった
(シンジにとっての使徒って何?)
(使徒・・・・・神の使い・・・・・天使の名を持つ僕らの・・・・・敵・・・・・)
(・・・・・そう・・・・・。でも、それは違うわよ、シンジ)
(違う?何が違うのさ?)
(「使徒」と言うのは私達が勝手に識別しやすい様に名づけただけ・・・・・神の使いではないわ・・・・・。敵・・・・・は、そうね、ある意味正しく、ある意味間違いね)
(如何言う事?)
(シンジ、「使徒」と言う言葉を敢えて使うなら、私達人間もリリンと呼ばれる18番目の使徒なの)
(・・・・・え?)
(神は16種類の可能性を持つ生き物を産み出した・・・・・それが使徒。私達人間は群体での可能性を持って産まれたの・・・・・。そして、最後に生き残る可能性を決めるために今の戦いがあるとするのが裏死海文書)
(裏死海文書って?)
(簡単に言えば予言の書の事よ。今まで起こって来た人間の歴史全てが綴られていたわ。そして、使徒の事も。使徒が私達と同じヒトである事も書かれていたわ)
(そ・そんな!じゃ・じゃあ僕達は・・・・・)
(そうね、仕方が無いとはいえ、同じ仲間を、そう、ヒトを殺してきたって事になるわ)
それは余りにも衝撃的な一言だった為、僕の頭の中は飽和状態に陥ってしまった
僕は自分が正義の味方で無いとは思ってきたけど、まさかただヒト殺しをしていただけだとは思わなかったから
それでも母さんの言葉は続く
(だから、ある意味確かに使徒は敵ね。生き残る可能性を賭けて戦う相手だもの。でもね、シンジ。何も生き残る可能性が一つじゃなくても良いと思わない?)
(それって・・・・・)
(そうよ。使徒と共生できると思うの)
(そんな事、出来るわけ無いじゃないか!)
(いいえ、出来るわ。現に今、あなた達共生してるじゃない)
母さんの言葉が何を指すか僕はすぐに分かってしまった
動揺が隠せない
でも、確かめなくてはいけない
そんな思いに衝き動かされて
(そ、それって・・・・・)
そう言葉を搾り出す
(そうよ、レイちゃんは半分使徒よ)
覚悟はしていたけど、それは強い衝撃となって僕の胸を突き抜ける
(サルベージに失敗して出た、私の戻りたいという願いの篭った肉体の一部と、あなたが拾った第弐使徒リリスのコアから生まれたのがレイちゃんよ)
(そ・そんな・・・・・)
僕は余りの衝撃の連続に頭の中が濁っていくのを感じた
(そ、それじゃ・・・・・綾波は・・・・・)
(そう、レイちゃんは入ってる心の違う私と言う事よ)
それで全ては氷解した
綾波に感じる母親の匂い
父さんの綾波に対する態度
それらは、全て母さんから発せられる
母さんに向けられるものだったのだ
綾波を綾波として扱ってこなかった父さんに怒りを感じる
だけど、それは自分も一緒なのでは?
そんな思いに捕らわれる
一気に詰め込まれた情報がぐるぐると廻る頭の中
その中に一つ、引っ掛かる事があることに気づいた
何が引っ掛かるのか・・・・・
そして、気がついた
(母さん、一つ質問があるんだけど)
そう、確かめないといけない
(何?)
(今、母さんは僕達を第18使徒と言ったよね?)
僕の質問に母さんの雰囲気は何か嬉しそうな物に変わる
(ええ、そう言ったわよ?)
(でも、可能性は16なんだよね?)
(そうよ!良く気がついてくれたわね。実は第壱使徒アダムと第弐使徒リリスは厳密には使徒じゃないの)
(如何言う事?)
(アダムは使徒達の父的存在として、リリスは母的存在として生まれたの)
(じゃあ、使徒達は綾波を目指してここに来てるの?)
(いいえ、違うわ。本当のリリスがこの地下に居るからよ)
(!!!)
(シンジ、今は詳しく教えてあげられない。でも、レイちゃんも私達と同じヒトなの。そして、私達と共に生きていけるわ。だから使徒とも共生していけると思うし、これからもレイちゃんと仲良くしてあげて)
(自信ないけど・・・・・うん、分かった)
(シンジ、自信無いなんて悲しい事言わないで。あなたはレイちゃんを護って上げるんじゃなかったの?)
(そう誓ったけど・・・・・)
(半分使徒だといっても普通の女の子なのよ?だから・・・・・)
母さんの雰囲気が悲しみに変わる
でも、綾波は使徒なんだ!
僕が護らなくても十分強い筈なんだ!
僕は心の中でそう叫ぶ
まるで綾波にまで裏切られた気分になって
そして、今までの綾波の事を思い出す
何時も寂しさを身に纏っているレイ
無口だけど、人との絆を、人の温もりを求めるレイ
そんなレイを思い出す事で、僕は気がついた
そう!綾波は普通の女の子なんだ!
僕を必要としてくれる女の子なんだ!
仔猫のように僕に温もりを求める、か弱い一人の女の子なんだ!
と
(そうだよね、母さん!綾波は一人の女の子なんだ!うん、僕はこれからも綾波を護るよ)
僕は母さんにはっきりと宣言する
母さんの雰囲気がまた明るい物へと変わっていく
(有難うシンジ・・・・・。生きてさえいれば、誰でも幸せになれることをレイちゃんに教えてあげてね)
そう言った後、すぐに真剣な雰囲気に変わる
(シンジ、お父さんの計画も教えておいてあげる。でも、どんなに酷い事であっても、お父さんを許してあげて)
そう言うと、母さんは僕に父さんの計画を教えてくれた
(!!!!母さんに会う為だけに僕達を利用してるって言うの!?)
(ええ、でも、お願いだから許してあげて。あの人は不器用なのよ)
(そんなの許せるわけ無いじゃないか!それだけの事で皆が死ぬことになるかも知れないなんて!)
(でもシンジ、あなたもお父さんを責められないのよ?)
(どうしてさ!)
(あなたの願いを聞いてレイちゃんを助けたんだけど・・・・・そのせいで第3新東京市が壊滅したから・・・・・)
(な!)
(シンジ、もし、第3新東京市が壊滅する事が分かってたらレイちゃんを助けなかった?)
(そんな事無い!)
(そうよね、臭い言い方すれば愛は盲目って言葉があるように、善悪関係無く行動してしまう所があるでしょ?愛の力ってそれだけのパワーがあると思う。その想いが強ければ強いほど、力も大きくなる・・・・・。想えば想うほど、その人が忘れられなくなる。あの人の計画は、その力がその想いの強さに具現化したようなもの。私をそれだけ愛してくれているって事だろうから、それは嬉しい。でも、やっぱり間違ってる事だから正してあげないと。だから、阻止をしてあげて、あの人の計画を。そして、許してあげて、あなたのお父さんのことを)
(・・・・・うん。やっぱりすぐにとは言えないと思うけど、父さんを許せる様になるよ)
(有難う!シンジ・・・・・)
その言葉を最後に母さんに包まれる温もりが遠ざかっていくのを僕は感じた
だから、僕からも母さんに精一杯の感謝を込めて・・・・・
「有難う」
その気持ちを贈る
綾波を護る事を決意させてくれた事に対して
後書き
余りにも長くなったため前後編に分けます(^^;
長くなるだろうとは覚悟してたけどまさかこれほどとは(−−;
流石にLRS系SS最大の見せ場?(笑
ここでシンジにレイの秘密を教えたのは、ゲンドウからだけ聞いた場合、先に公開したアスカサイドのアスカのような態度をシンジも取ると思ったからです
そう、予め知っていれば覚悟できてる分、それが事実であるという衝撃に青褪めはしても、拒否はしないと思ったからです
そして、この話の中にレイに受け継がれたユイの心が(笑
皆さん分かりましたよね?(笑
次は後編です
遂にシンジのセリフが明らかに(爆
それでは
タッチでした