レイの心模様

外伝     母に感謝を・・・・・そして固める決意

後編 固める決意


すぐ近くに感じる母に似た気配と、それとは別の、護りたい少女の気配を感じて、シンジはゆっくりと目を開ける

その目に飛び込んできたのはまず、白い、見慣れた天井

またかと思うシンジに聞こえてくる、少女の声

「如何?シンジ、気分は?」

その声の主が誰だか分かるから

自分を気遣ってくれているのが嬉しくて

シンジは笑顔で少女に

「おはよう」

そう答えた

それは、少女の問いにきちんと答えた言葉ではなかったかもしれない

だが、少女にとって、シンジの笑顔が答えになる

穏やかで優しいシンジの笑顔、それがシンジの無事をしっかりと少女に伝えたのだ

途端に泣き出すアスカ

シンジはそんなアスカに一瞬戸惑うものの、自分を心配してくれていたのが痛いほど分かったから

シンジは黙ってアスカを抱き締める

感謝の思いを込めて

心配要らない事を伝える為に

そして、少女の髪を梳く

少女を宥めるように

少しの間じっとしていた少女だったが、いきなりパッと離れると

「な、何いきなり抱きついてンのよ!この、馬鹿シンジ!」

顔を真赤にしてそう怒鳴った

シンジは、そんなアスカの反応が彼女らしくて、ついつい微笑んでしまう

そんなシンジの笑顔に更に赤くなっていくアスカ

鈍感なシンジが、ますます赤くなるアスカを心配して、声を掛けようとした時

ガラッ!

そんな音がしたかと思うと、シンジは誰かに抱き締められた

だが、鼻腔に拡がるラベンダーの香りと、目の前に拡がる紫色にも見える艶やかな黒髪が、それが誰かをシンジに知らせていた

やはりそれは、シンジの姉代わりである女性、葛城ミサトであった

自分に縋り付いて泣くミサトを見て

最近、僕はミサトさんを泣かせてばかりだな

そんな事をシンジは考える

どうやってミサトを泣き止ませようかとシンジが思案していると

「何時までシンジに抱きついてンのよ!」

そう言って、アスカがミサトを引き離した

その行動に呆気に取られるシンジとミサト

だが、ミサトはすぐに何時ものニヤっとした笑みを浮かべる

からかわれると身を堅くするシンジとアスカ

だが、意外な事に

「シンちゃん、目が覚めたら退院して良いって言われてたから・・・・・。帰る?」

何事もなかったかのようにシンジに退院を告げるミサト

シンジがホッとしたのも束の間、余りのミサトの行動の不気味さに、アスカが擦り寄ってきた

さっきとは別の意味で身を堅くするシンジ

更に笑みを深めるミサト

だが

「さっ!行きましょ」

そう言ってミサトは、シンジの荷物を持つとさっさと病室を出ていった

慌てて追い掛けるシンジとアスカ

「ちょっち喉、乾いたわね」

そう言って休憩室に入るミサト

入ってすぐの所にあるベンチに座ると、続いて入ってくるシンジとアスカを楽しそうに見る

その視線に耐えられなくなったシンジが、レイの様子を見に行くと言って休憩室から出て、先ほどまで居た病室に戻る

「いってらっしゃ〜い」

脳天気なミサトの声を聞きながら、シンジはアスカに心の中で謝っていた





病室の前に着くと、そこにレイが立っているのをシンジは見つけた

「綾波!」

シンジはレイが無事であったことが、母がちゃんと彼女を護ってくれたことが嬉しくて、思わず涙し、レイを抱き締める

「ごめんなさい」

自分の胸から聞こえてきた言葉にシンジは驚く

だが、それが彼女をヒトなんだと確信させる

心を持つ、一人の少女なのだと

だからこそ、笑顔を向ける

彼女を受け入れた証として





車の中、散々からかわれるシンジとアスカ

それでも何とか家に辿りつくと、ミサトは仕事中だからと去っていく

家に入り、シンジがリヴィングのソファーで寛いでいると、アスカが隣に座った

「シンジ、私のお父さんね、浮気してたの」

そんな事をいきなり話し出すアスカに、シンジは如何したのかと視線を向ける

俯いた状態のアスカは、そのまま話しを続ける

それはアスカの過去、アスカの心の傷

いつも気丈に振舞う彼女が、初めて見せる弱々しい姿

彼女の態度の裏にあった辛い過去を聞き、シンジは涙を流す

自分がどれだけ甘えていたのかを痛感させられて

少女の持つ心の傷の深さに心が痛くなって

だからシンジはアスカを抱き締めた

少しでも彼女の心の負担を取り除きたくて

だからシンジはアスカの髪を梳いた

少しでもそれが慰めになればと

自分がそれほど役に立てない事も、そんな偉そうな態度を取れる人間ではない事も自覚している

それでも、こんな事で少しでもアスカの気が楽になるなら

そんな想いを込めて、笑顔を添えて





どれくらいの時間が経ったのだろうか?

電話でネルフに呼び出されるシンジとアスカ

ネルフのゲート前にはゲンドウが待っていた

途中、リツコの部屋に寄って、一行にリツコが加わる

リツコの雰囲気が何処か変わったことに気づきはする物の、如何変化したのかまでには思い至らないシンジ

だが、良い方向に変わったことだけは分かったから・・・・・

シンジは静かに微笑んだ

連れていかれたのは何処かのホール

ドクンッ!

その時、シンジの心臓が一つ大きく跳ねた

この場所に何の意味があるかおぼろげながらにも分かってしまったから

ゲンドウの言葉に、ここがレイの生まれた場所であると確信する

明りの灯されるホール

ホールに響く、アスカの悲鳴

ホールを取り囲むように水槽があり

その中には沢山の・・・・・・

レイ

驚きを伴いながらも、ゲンドウが語るレイの秘密を静かに聞く

先にユイから聞いていなければ拒否していたであろう、レイの秘密

それでも、護ると決めたから

だからシンジは、ゲンドウに力強く頷く

必ず護ってみせると

そのシンジの態度に、ゲンドウは今までシンジに見せなかった、父親らしい優しげな笑みを送ると

「済まなかったな」

その一言を残して、ホールから立ち去った

その父の背中に、寂しさと安堵を感じ

父が父なりに見せたレイへの思いやりに、シンジはゲンドウという人物の見方を変える事に決めた

許されざる道を、己の望みだけで進もうとする男としてでなく

たった一人の、自分の父親であるという見方に





再びマンションに戻ってくるシンジとアスカ

部屋のある階に着くと、家の前に蒼銀の髪を持つ少女の姿が

シンジは駆け寄る、彼女の元に

予め知らされていたレイの秘密

だが、事実を突きつけられた事で、シンジの中には逆にレイに対する想いが膨れ上がっていた

自分の過去など及びもしない、悲しき過去

それを押しつけたのは己の父親

謝罪の思いと同情が等分に入り混じった感情

だが、それ以上に感じる、少女を愛しいと想う気持ち

そんな複雑に絡み合う感情を、万感の想いを、精一杯込めてレイを抱き締めた

「僕は君を護り続ける。例え君が僕達と違う存在であったとしても、そんなのは僕には関係ない!一緒に生きていきたいと思うから。だから、もう二度と僕の前から消えるような事しないで」

と言う言葉を添えて


後書き


シンジサイド外伝、後編です

如何でしたでしょうか?

次はいよいよ彼の登場です(笑

少年○の方では悪役に徹しているみたいですが、このSSではTVver.でいきますので(笑

それでは

タッチでした




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