レイの心模様

第23話     もう一人の可能性


湖面を滑ってきた涼しい風をその身に受けつつ、レイは湖畔をゆっくりと歩く

零号機の爆発によって出来た元第3新東京市跡にある湖

自分には代わりが居るからと云う想いがあって、彼女の大切な人を護るために行った愚かな行為がもたらした結果

結局それは、大切な人を悲しませる事にしかならなかった

レイは昨夜のシンジの言葉を思い出す

シンジの言葉が嬉しくて微笑み返したが、シンジの身に危険が迫るのであれば、この身を挺して護りたい

それは、綾波レイとしてこのまま生きていく上での誓いだから

「碇君。もし、あなたの身に危険が迫るのであれば、私はやはり、この身を挺してでもあなたを護りたい。あなたが居なくなるのはとても辛い事だから。あなたには代わりが居ないから・・・・・。でも・・・・・私には・・・・・代わりが居るもの」

だからレイは切実なる想いを込めて、シンジにその想いを伝える

レイはシンジの顔に悲しげな微笑が浮かぶのを見た

そのままシンジに抱き締められるレイ

「綾波。もし、君が死んで代わりの綾波レイが生まれたとしても、それは僕にとって・・・・・、いや、君が知る、君を知る人達にとっては綾波レイじゃないんだよ」

レイは、そんなシンジの言葉にシンジの胸から顔を上げて、シンジを見る

「ねぇ、綾波。もし、僕に代わりが居たとして、僕が死んで代わりの僕が現れたら、綾波は如何感じるのかな?」

瞳を覗きこみながら質問して来るシンジ

「・・・・・そんなの・・・・・嫌」

少し考えた後、レイは結論を下す

「有難う。でも、それなら僕も、綾波が代わってしまうのが嫌なのは判ってくれるよね?」

シンジの言葉に目を見張るレイ

「例え同じ容姿であっても、その心は違うから。綾波、僕達は多分、見た目よりもその人の心に触れる事でその人となりを判断していると思う。その人と会話をする事で、その人と行動を共にする事で、その人を感じる。見た目が同じでも、感じる物が違えばその人じゃないと感じるから。だから、綾波が死んで、新しい綾波レイが生まれたとしても、その人は僕達にとっては綾波レイじゃ無いんだ。そして、僕にとっての綾波レイは、今抱き締めている君だけだから・・・・・。だから、お願いだから自分を大切にして欲しい。僕が危なかったら助けてくれれば良い。僕も助かる様に頑張るから。僕達が群体としての可能性を持って生まれたのなら、力を合わせることで必ず困難を解決出来るはずだから。」

その言葉がレイの心に染み入る

レイは涙する

己の存在を確かに認められた事に

自分が大切に思う少年に今の自分を認めてもらえた事に

それは、かけがえの無い言葉となって





深く思考の淵に下りていたレイは、急に立ち止まったシンジにぶつかってしまう

何事かと思い、顔を上げたときに聞こえてきたのはハミング

聞こえてくる方に顔を向けると、そこには一人の銀髪の少年が

「歌は良いね〜。歌はリリンが生み出した文化の極みだよ。そうは思わないかい?君達」

そう言いながら、レイ達の方に振り返った少年の瞳は紅

ドクン!

その容姿に、レイの鼓動が一つ大きく跳ねると共に心の中で警鐘が鳴った

彼が最後の使徒だと直感する

急ぎ、シンジを仰ぎ見るレイ

その時、レイは見た

一瞬驚いた表情を見せた後、彼らしい優しくもはにかんだ笑顔を浮かべるのを

シンジをずっと見てきたレイだからこそ、気づいた

シンジは自分を受け入れた様に、この少年も受け入れるつもりなのだと

それが良い事なのか如何なのかはわからない

でも、それがシンジの選んだ答えならと

レイも、この少年を受け入れる事を決めた

レイがそう心に決めた瞬間、辺りに響き渡る轟音

「アンタ馬鹿〜?何がリリンが生み出した文化の極みよ?訳わかンない事言ってんじゃないわよ!」

それまで、黙って二人を見ていた不満が爆発したかのように、カヲルに噛みつくアスカ

それにも少年は

「訳分からない事?そうかな?碇シンジ君」

笑顔でシンジに話しを振る

「え?ど、如何かな?・・・・・あれ?何で僕の名前を?」

戸惑いながらも返事した後、当然の疑問を口にするシンジ

「失礼だが、君はもう少し自分の立場を知る必要があると思うよ。碇シンジ君」

そう言いながら、湖畔に降り立つ少年

「僕はカヲル、渚カヲル。君達と同じ仕組まれた子供、フィフスチルドレンさ」

その言葉に一番激しく反応したのはやっぱりと言うか、アスカだった

「な!何ですって!?アンタみたいな訳わかンないのがチルドレンなの!?」

そんなアスカの言葉にも笑顔を向けるカヲル

「随分な言い様だね、惣流・アスカ・ラングレーさん?まあ、良いさ。今日はこれで失礼するよ。明日から宜しく」

そう言って、三人からカヲルは離れていった





カヲルも参加してのシンクロテスト後、珍しく一人でエスカレーターに乗っていたレイは終着点でカヲルと出会う

彼はレイに微笑み掛けてくると

「君は僕と同じだね。お互いこの星で生きていく体はリリンと同じ形に行き着いたか・・・・・」

そう声を掛けてくる

「・・・・・そうね。・・・・・あなたも私と同じね」

本当は「違うわ」とレイは言いたかった

だが、彼をシンジは受け入れている

それは自分と同じ

だからこそ、レイはカヲルの言葉を肯定した

リリンではない二人

しかし、シンジにその存在を受け入れられた二人

それが、レイに否定の言葉を思い留まらせた

そんなレイの返答にカヲルは笑みを深めると、踵を返して歩み去っていった

結局、彼が何を言いたかったのかわからなかったレイ

だが、もし、シンジに危害を加える様ならと思いつつ、レイも帰路を進む

ゲートが開くと、そこにはシンジとアスカが

揃って帰宅の途に着く三人、戦いの最中であるのに、その間には穏やかな空気が漂っていた





銀髪の少年が現れてから、シンジはその少年とばかり行動を共にしているせいか

レイは寂しさを感じていた

それは、アスカにとっても同じなのであろう

レイは、アスカの愚痴の聞き役にされていた

たった一人の少年によってもたらされた温もり

それを奪い去っていく新たな少年

自分の中に有るシンジという少年の存在の大きさに、レイは改めて驚かされた

そして、そんな存在を自分から奪う少年に敵愾心を感じ始める

アスカの愚痴を聞き、相槌を打つ

何時しか二人には共通の敵に対して、連帯感を感じる様になっていた

二人で、カヲルのもとに向かうシンジを何とか引きとめようと悪戦苦闘する

そんな二人の少女に対してシンジは一言

「大丈夫、彼は敵じゃないから」

笑顔と共に言う彼に、少女たちは毒気を抜かれる

余りにも澄み切った瞳に晒されて・・・・・





第1会議室に集まるネルフの主要メンバーとチルドレン

ゲンドウはゆっくりとカヲルに顔を向けると

「このまま、我々と生きていく気は無いかね?渚カヲル君。・・・・・いや、第17使徒、タブリス君」

カヲルはゲンドウの言葉に一瞬驚いた顔をするが、すぐに何時ものアルカイックスマイルを浮かべると

「知っていたのですか・・・・・。誰も驚かない所を見ると、皆さんご存知だった様ですね」

そう答えた後

「なら、ご存知の筈。我々はただ一つの可能性を残すために争っている事を・・・・・・。ですから、僕の答えは・・・・・、Noです」

と、はっきりと断った

カヲルのそんな言葉に

「カヲル君。生き残る可能性は一つじゃないといけないの?」

隣のシンジから声が上がる

「・・・・・如何言う事だい?」

流石のカヲルも少し戸惑いを見せる

レイはシンジに視線を送る

「僕達リリンは群体としての可能性を持っていると言うのなら、それだけ沢山の可能性があるって事だと思う。なら、カヲル君が持つ可能性も、僕達の可能性の一つになるんじゃないの?」

カヲルの疑問にシンジが答える

深く頷くネルフの面々

「・・・・・君は面白い考え方をするね。好意に値するよ」

カヲルもシンジの言葉に心を動かす

「でも、僕は君達にとって脅威となりうる存在だよ?そんな存在を生かしておいて良いのかい?僕にとって生と死は等価値なんだ。そして、シンジ君。僕は君を滅びの時から救いたい。だから、さあ、僕を殺しておくれ」

だが、それ以上にシンジに好意を感じるカヲルは、シンジの為にもと自分が居なくなる事を望んだ

「カヲル君。僕達は綾波を受け入れた。神様でさえ考えなかった事だと思う。それは僕達リリンに新しい道を開く一つの方向だと感じてる。だから、僕は君も受け入れたい。終息の時を乗り越えるために。いや、それ以上に親友として・・・・・」

シンジの言葉に、驚愕の表情をすると共に、レイに視線を走らせるカヲル

レイはそんなカヲルの視線を感じて、静かに頷く

「本当に僕は生きていて良いのかい?」

「当たり前だよ。いや、生きていて欲しい。僕達は友達なんだから」

その時、カヲルの目から涙が零れるのをレイは見た

不思議がるカヲル

そんなカヲルにレイは言葉を掛ける

「あなたは、自分が受け入れられた事が嬉しいのね・・・・・。あなたも彼と接している内に一人でいる事の寂しさを知ったのね・・・・・。」

その言葉に更に驚きの表情を浮かべるカヲル

レイの言葉を噛み締めるかのように黙り込んでいたカヲルだったが、やがてゆっくりと笑みを浮かべると

「・・・・・そう・・・だね・・・・・そうかも知れない」

そう言うと、ネルフスタッフに向き直り

「これからも宜しくお願いします」

そう言って頭を下げた


後書き


どうも、完全にオリジナルストーリーになってしまいました(^^;

しかも、その為に筆は遅々として進みませんでしたし・・・・・(−−;

これだと外伝要りませんね

という事で、26日投稿分が最終話になりそうです

それでは

タッチでした




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