「今回の対ゼーレ戦の作戦を伝達します」
第一会議室にミサトの凛とした声が響き渡る
「今までのネルフの作戦は、使徒の能力が未知数であり、また、何時現れるか判らなかったため後手に廻っていましたが、今回は相手が同じ人間であり、こちらに有利なカードが幾つも有る事から先手を打ちます」
ミサトの宣言に室内にどよめきが起こる
「有利なカードを切って先手を打つとして、具体的には如何するのかね?」
そんなどよめきの中、冬月が静かにミサトに尋ねる
「はい、赤木博士の報告によりますと、既に各国のマギは本部のマギの制御下に有ります。そこで、こちらからゼーレの補完計画を全てのマギを使って全世界に公表します。この際、アダムと呼ばれる使徒と他の使徒が接触する事でサードインパクトが起きる事も公表します。そして、それを阻止するためにエヴァを操り、使徒を倒してきたのがネルフであるとも。これで全世界の世論をこちらに付ける事が出来ると確信します。後は、ゼーレを構成する人間を告発、社会的に抹消します。上手くいけばゼーレが動き出す前に敵を封じ込める事が出来ます」
ミサトの情報戦案にリツコが補足する
「公表するデータにはゼーレが開発したエヴァを、使徒に似た生物型の兵器として加えます。この兵器を使ってゼーレの望む形のサードインパクトを起こそうとしている事も。各支部が作ったエヴァは我々のエヴァと違い、爬虫類を連想させるようなフォルムを持っていますので、誰も同じエヴァとは思わないでしょう。」
そう言いながら、各支部のマギから得た各国の量産型エヴァのスチールをモニターに映し出させるリツコ
その姿はまさに爬虫類と言え、とても同じエヴァと思えない物であった
一瞬静寂が辺りを包み込むが
「・・・・・では、それで頼む」
ゲンドウの厳かな声が静寂を破った
「はい」
リツコはゲンドウに頷くと、情報戦を仕掛ける為に会議室を後にする
「だが、これだけでゼーレが抑え込めるわけではないと思うが?」
そんな冬月の言葉に
「仮に攻めて来たとしても問題無いと推測します。複座によるエントリーでのシンクロ率は既に高い水準で安定しております。また、初号機、弐号機の連携にも何ら不安な部分は有りません。唯一弱点を挙げるとすれば、S2機関の作動が確認されている初号機に対して、弐号機が相変わらずアンビリカルケーブルによる電源供給であると言う点になりますが、そこはオフェンスを初号機、バックアップを弐号機に担当させ、出来るだけアンビリカルケーブルを切断されないようにすれば、後はロンギヌスの槍も有ります。勝利できる物と確信しております」
力強く断言するミサトに、冬月も
「そうか、それなら良い。だが、くれぐれも油断の無いようにな」
そう言って、口を結んだ
そんな冬月に軽く一礼すると、ミサトはチルドレン達に向き直り
「それじゃ、敵が来るまで戦闘待機しておいて」
そう言って、会議室を後にした
休憩室に移動する四人
思い思いの飲み物を買って、ベンチに腰掛ける
シンジの隣に寄り添うようにレイは腰掛ける
別に恐怖を感じているわけではない
それでも、何故かシンジの温もりを感じたくて
無意識のうちにそんな行動に出ていた
シンジはそんなレイの行動に少なからず驚いたような表情をするが、別に何を言うでもなく、缶ジュースのプルタブを引っ張って開封し、一口飲み込む
「いよいよだね」
シンジと同じようにジュースに口をつけようとしたレイの耳にシンジの声が届く
唇から缶を離してシンジを見つめるレイ
「この戦いが終われば、世界は平和になる筈。僕達も普通の子供として暮らしていける様になる筈なんだ」
自分に言い聞かす様に呟くシンジの手が微かに震えている事にレイは気付いた
そんなシンジの手に、レイのいる方向とは反対の方向から白い手が伸びてきて、重ねられる
「大丈夫よ、シンジ!アタシ達は一生懸命頑張ってきたし、リツコやミサトも頑張ってくれてる。信じましょ?ネルフの大人達を、アタシ達の努力を」
笑顔でシンジに話しかけるアスカ
そんなアスカの笑顔に励まされたのか
「うん、そうだよね。信じて良いんだよね」
そう言って笑顔を見せるシンジ
そんなシンジとアスカの様子にレイは悔しさを感じる
自然にシンジを励ます事の出来たアスカに
シンジを励ます事が出来なかった自分に
そんなレイを感じてか、手に重ねられるシンジとアスカの手
その暖かさ、優しさにレイは顔を上げる
そこにはシンジとアスカの笑顔
アスカの声がレイの耳に届く
「アタシはシンジを励ますことが出来る、でも、シンジに安らぎを与えられるのはアンタなんだから・・・・・。悔しいけど。」
その言葉に、レイはマジマジとアスカを見つめてしまう
アスカは照れているのか、顔を真っ赤にして
「兎に角!アンタに出来る事をしなさい!アタシに出来る事はアタシがするから!」
そう言ってそっぽを向いてしまう
アスカの態度に思わずレイは顔を綻ばせてしまう
そして、「自分に出来る事を」その言葉を胸に刻み込んだ
「綾波、そんな顔しないで。アスカの言う通り、君が傍に居てくれるだけでも、僕は安らげるんだから」
シンジの言葉も耳に届く
シンジの方に顔を向けるとそこには、シンジの優しい笑顔
それが嬉しくて、レイも二人に笑顔を見せる
そんな三人から少し距離を置くように、柱に寄り掛かって眺めていたカヲルは思う
これが群体としての可能性を秘めているリリン達の姿なのだと
一人一人が完璧なのではなく、不完全だからこそ、それぞれ補い合う事で無限の可能性を生み出していくのだと
その中に自分が入れる事を嬉しく思うと共に、異端である自分が入って崩れる事が無いかが心配になる
だからカヲルはそっと心に決めた
自分がリリンの発展に邪魔な存在となってしまったら、大人しくこの命を絶とうと
「皆!悪いけど、やっぱり敵さん動き出したから迎撃準備に入ってくれる」
カヲルを交えて穏やかな束の間を楽しんでいチルドレンにミサトから非情な連絡が入る
その連絡に身を固くするシンジ
そんなシンジの手がレイの手に包まれる
シンジはレイに顔を向けると、笑顔を見せる
そして
「・・・・・さあ、行こうか・・・・・」
チルドレン皆に呼びかける
無言で頷く三人
人類の存亡を賭けた戦いが今、始まろうとしていた