鈍感な三馬鹿
EVA外伝第四話
連休明けの火曜日。どこからもれたのかアスカがシンジに告白した、というのが学年中のうわさになっていた。
「意外だよな。惣流が碇のこと好きだったなんて」
「そうか?あいつ男っぽいから好きなシンジに辛く当たってただけじゃないのか?」
「そうとも考えられるわね。あ、アスカ…おはよう…」
「やべっ、逃げろ」
話しをしていたクラスメートは皆端に逃げてしまった。
「おはよう。シンジ」
「お、おはよう」
「そんなに固くならないでよ。こっちまで意識しちゃうじゃない」
少し頬を赤く染めながら苦笑いしてそう言ったアスカの顔は、周りの者をあっと言わせるほど新鮮かつ魅力的なものであった。それはシンジも例外ではなく、そのアスカの顔に見惚れてしまった。
「な、なによ。見つめないでよ、恥ずかしいわね」
そういうアスカの顔は先ほどよりも紅潮していた。
「ご、ごめん」
つられてシンジも赤くなる。それを面白くなさそうに見ていたのはレイとマナだった。
(何よ、シンジったら!鼻の下伸ばしちゃってさ!…でも今のアスカさんいい顔してた)
(私にはあんな表情は出来ない…碇くんを喜ばせるような顔は出来ない……)
隣の芝は青く見えるというが、2人ともシンジの前では今のアスカに劣るとも勝らない良い表情をしている。が、自分では見えないのだから仕方ない。
「あの3人ってさ…皆シンジのことが好きなんだよな」
「そうみたいやな。何かあるといっつも火花散らしてるしのう」
「鈍いトウジでも気づいてるのに……何でシンジは気づかないんだろうな」
「人間、自分のことには鈍感になるってもんや」
(それを委員長が聞いたらどう思うか…一番分かりやすいのはお前と委員長だってのに。相手居ない俺の身にもなってくれよ…)
(鈴原の馬鹿!自分のことに一番鈍感なのはあんたよ!)
「ん?どないしたんや委員長、そんな怖い顔して。わいなんかしたか?」
「何でもないわよ!」
「なんや、けったいなやっちゃ。なあ、ケンスケ?」
「さあな…自分のことに鈍感っていうのはお前にも当てはまると思うぞ」
「わしに?…なんのこっちゃ」
(…段々腹が立ってきたな。何で俺だけ相手が居ないんだ〜!!)
心の中で絶叫するケンスケであった。
(…確か山岸とかいう女がこいつのこと好きだったんとちゃうか?そこまで言うってことはこいつ気付いてるよな)
「なあ、ケンスケ。山岸って女知っとるやろ?」
「ああ、あのいつも本読んでる女だろ?守ってあげたいタイプだよな〜」
(ま、守ってあげたいタイプ…良かった、悪い印象持たれてなくて)
何気なく聞き耳をたたているマユミであった。意外と地獄耳なのかもしれない。
(なんや、こいつも気づいてないわ。結局同じやないか)
「三馬鹿はしょせん三馬鹿ってことよ」
「なんや惣流。お前人の心でも読めるのか?」
「あんたらの会話聞いてれば何考えてるかぐらい分かるわよ」
「けったいなやっちゃ。黙って人の話聞いてるなんてお前も暇人やな」
「暇人で悪かったわね!」
(アスカまたトウジと喧嘩してる。よくあんなに喧嘩のタネがあるよな)
逆に言えばアスカと喧嘩できるのはトウジぐらいということである。まあ、あの碧眼に睨まれればたいていの人は怖くていいかえせくなってしまうのだが。もっとも、アスカに言わせれば
「あの男には神経なんてないのよ」
といったところである。
(僕もあれぐらいアスカに言えたらな……もう少しアスカのこと理解できたかもしれないのに)
と少しトウジをうらやましく思うシンジだった。