交通事故──前編
EVA外伝第伍話
3連休が終わった火曜日の朝、マナは碇家の前に居た。
「おはようございます」
「おはよう、マナちゃん。わざわざ悪いわね〜」
「いえ、私が好きでしてることですから。シンジくんまだいますか?」
「今呼ぶわね。シンジ〜マナちゃんが迎えに来てくれたわよ〜!」
「は〜い、今行く〜それじゃ行ってくるね」
「うむ…あ、ちょっと待て。今日は車に気をつけるんだ、いいな?」
一体どこで覚えたのかは分からないが、ゲンドウはタロット占いに凝っていた。その的中率もなかなかのもので、最近では周りの者も信用するようになっていた。
「車か・・・分かった、気をつけるよ」
「不吉だな・・・いやな予感がする」
(一応ネルフに見張らせておくか)
「おはよう、マナ」
「おはよう、シンジ」
「じゃあ行ってくるね」
「行ってらしゃい、気をつけるのよ」
二人は仲良く登校していった。
「昨日はありがとね。楽しかったわ」
「こちらこそ。マナのおかげで楽しかったよ」
などと昨日のことを話しながら学校へ向かった。その途中の交差点で…
「でさー、山岸さんったらね…」
プー!
「マナ、危ない!」
「え?…きゃああああ!」
ドーン
鈍い音があたりに響いた。
「シンジー!」
マナは倒れたまま動かないシンジに駆け寄った。
「怪我は…無い?」
「私は大丈夫!」
「良かった…マナに怪我…無くて…」
「シンジ、しっかりして…」
こんなときでも自分を心配してくれるシンジに、マナは声にならない声で泣いた。
「マ…ナ最後は…笑って…よ」
「最後…?いやよ!シンジ、お願いだから死なないで〜…」
「マ…ナ。今まであ…りが…と」
そこまで言うとシンジは静かに目を閉じた。
「シンジ…?い、いや…いやああああ!!」
「シンジくん!?」
(一足遅かったか…)
「霧島さん、シンジくんを病院に運ぶわよ!」
「…………」
マナはシンジを傷付けてしまったと思い、放心状態にあった。
「しっかりして!こんなときに貴方がしっかりしないでどうするのよ!シンジくんを助けたくないの!?」
「助けたい…助けたいです!」
「じゃあ、シンジくんを車に運ぶの手伝って。急がないとまずいわ!」
「はい!」
とうに意識を失っていたシンジは、マナとミサトの手で病院に運ばれた。
「助かりますよね…?」
「大丈夫。シンジくんは絶対帰ってくるわ」
(待ってる人が何人もいるんだから…絶対帰ってくるのよ)
心の中でそう祈るミサトであった。
「シンジくん、シンジくん…」
「か、カヲルくん!?ど、どうして…生きてたの!?」
「僕じゃない。シンジくんが死にかけているんだ」
「僕が…?」
「ほら」
カヲルはシンジに病院の様子を見せた。
「そうか…僕はマナをかばって…」
「君はここに居るべき人間じゃない。早く元の世界に帰るんだ」
「あ、待ってよ!カヲルくん!?」
(そんな…僕はまだ1人なの?)
シンジの心は深い闇に落ちていった…