< 師弟対決企画記念品 >



「 S -

〜 エピローグ 〜 断罪世界のど真ん中でアイを叫んだもの 〜



ついに明らかになった、謎の少年の正体!
彼が告げた衝撃の事実は、矮小なる人間どもに畏怖をあたえ、自らの罪の重さに恐怖する!!・・・・・・予定だった。
が、その割に、しら〜〜〜っとしたムードだけが支配している。

盛りあがってない。

「・・・・・・え〜と・・・・・・。」

ツッコミどころが分からず途方にくれてたミサトが、やっとこさ口を開く。

「結局誰なの?アンタって。」

物分りの悪い作戦部長に少年が舌打ちする。もっとも、いまの名乗りで理解しろという方が無理な気がするが。

「フンッ、これだからバカどもは困る。俺の名はシンジ・ゼータ。人類を救うため、未来からやってきた。」

人類を救うなど臆面もなく言えるのが凄い。やはり正義の味方たるもの、これくらい自負がなければ務まらんのだろう。

「・・・・そうか、では君に再び頼みたい。エヴァンゲリオンに乗って、使徒を倒してくれ。」
「ふっ、副指令ッ!まだ彼が何者なのか、正体は判明してないんですよ?」
「ん?初対面の挨拶は済んだから、別にいいではないか。それよりも使徒をどうするかだ。」

物事に動じないというより、単にどうでもいいのだろう、シンジ・ゼータの素性はあっさりスルー。さすが実務主義者。

「ミサト、もうそんな事はどうでもいいの。シンジ———ゼータ君だったわね。恐いのは分かるけど、今はあなたしかいないのよ。」
「うむ、君のような少年を矢面に立たすのは、我々としても心苦しいのだが、他に方法がないのだ。」
「・・・・お、おメエらッ!勝手に話を進めんじゃねぇよ!!」

いきなり態度が子供っぽくなった。折角の会心の名乗りを ”そんなこと” 扱いされて、頭にきたのかもしれない。

「無駄だ二人とも。臆病者などに用はない。」

またややこしい奴が復帰した。いつの間にかゲンドウが、後ろ手を組んだ姿勢で立っている。
顔面から叩きつけられて失神した事実など無かったかのように、平然とした素振りでサングラスを押し上げる。
丈夫なサングラス———もとい、タフな男だ。

「臆病者だとぉ?」
「ああ、人類の存亡を掛けた戦いに臆病者は不要。帰りたいならぐずぐずしてないで、さっさと帰れ。」
「るっせぇっっ!どいつもこいつも使徒ぐらいでビビリやがって。あんなやつ、俺の敵じゃねえっっ!!」

喚きちらす少年の姿に予定通りと云わんばかり、ニヤリと笑うゲンドウ。

「ほう、そいつは頼もしい。ならば見せてもらおうか。」
「———っと、その手には乗らねぇぜ。」

いまの言葉でさすがに冷静さを取り戻したのか、口調が警戒を帯びる。

「申し訳ない。確かにこちらが要求するばかりで、君の言い分を聞いてなかったな。」

シンジ・ゼータが少し落ち着いたのを見計らって、冬月が口を差し挿む。

「だが我々としても、君にすがるしか手が無いのだよ。・・・どうだろう、ここは一つ交渉といこうじゃないか。何か要望はあるかね?」

ゲンドウが挑発的に投げつけた言葉を、冬月が柔らかく拾う。この辺りの呼吸は見事である。
ゲンドウが冬月にこだわったのも、或いはこれが理由なのかもしれない。

「交渉ねぇ・・・・。アンタらに払えるんかよ?」
「報酬というわけか。うむ、我々としても出来るだけのことはしよう。」
「そうかい。・・・じゃあ、使徒を倒したら100兆円、貰おうか。」
「100兆!? いくらなんでもそれは・・・・・・。」

法外過ぎる要求額に、さしもの冬月も絶句する。

「ほらみろ、出来ねえこと口にしてんじゃ———」 「よかろう、問題無い。」
「い、碇!?」
「ふ、100兆などせいぜい、国一つ傾く程度。世界が滅ぶことに較べれば、大した事ではない。」
「む・・・・・・確かにそうだな。」

無茶な理屈だが、ゲンドウの乱暴な意見にあっさり頷く冬月も冬月だ。

「よし、契約は成立した。早く乗れ。」
「ま、待てっ!ホントに100兆貰うぞっ、それでもいいのか?」
「ああ、別に私は困らん。」

あまりにもさらっと言われたので、シンジ・ゼータの方が焦った。
金とは無縁の世界で生きてきた彼は、ひょっとして大した要求じゃ無かったのかな〜〜っと考え込む。

「・・・よ、ようし、じゃあこれならどうだ?おまえの片足をもぎ取って、使徒の餌にしてやる。」
「かまわん。足一本で済むのなら安い物。片足だろうが両足だろうが、好きにするがいい。」
「し、司令っっ!?」

意外なゲンドウの言葉に、ミサトは心底驚いた。
彼の漢気に感動したのか、ちゃんと 『司令』 と呼んでいる。

「い、いけません司令っ!もしあなたの身に何かあったら、私は———。」

普段冷静なリツコも珍しく取り乱す。
その瞳には零れんばかりの涙が溢れ、最近の少女漫画でも滅多にお目にかかれぬほど、キラキラ輝いていた。

「気にするな赤城君。人類の為、この身を捧げる覚悟など、とうに出来ている。」

嘘だ。人類の未来など、奴の眼中にはない。あれは得意のハッタリだ。
金や力、ましてや権力など持たない野良犬のようだった少年時代から、彼はその度胸だけでここまでのし上がったのである。
が、この場でそれを理解してるのはただ一人、冬月ぐらいだろう。

「どうしたシンジ?私の命が欲しいのなら持ってゆくがよい。だが、私の魂(マイソウル)までは、奪うことはできんぞ。」
「ゲンドウさん・・・・・・・・・。貴方が死んだら、私もお供します・・・・・・・・・。」

堂々たる態度でのぞむゲンドウの左手を胸に抱き、リツコがハラハラと涙を零す。
当然、周囲の尊敬と同情の念は、二人に集中する。
いつの間にか立場が逆転していることに、シンジ・ゼータは呆然とした。これではまるで、自分は悪人ではないか。
なにより、人類の為に身を捧げる英雄と悲劇のヒロインのようにドラマチックな、二人の姿がムカつく。

「———え、ええいこうなりゃ何でもいいっ!オマエが困ることを言ってみろっっ!!」
「な、何よそれっ!?ムチャクチャじゃないっ!」

ミサトが抗議するが、完全に頭に血が昇っている今の彼に、なに言ってもムダだろう。

「・・・そうだな。強いて云えば饅頭が恐い。」
「まんじゅう?」
「ああ。特に、餡がたっぷりと入っていて、舌の上に甘味がまったりと後をひくやつ、あれはいかん。」

しばらく考え込んでいたシンジ・ゼータの口元が、だれかさんみたいにニヤリとつり上がる。

「よ〜し決まった。お前には後でまんじゅうをたらふく食ってもらう。忘れるなよ。」

打って変わって、余裕しゃくしゃく判決を下す。生まれてこのかた、落語を聞いたことがなかったのが彼のミスだろう。
捨てゼリフを残して背中を向けた少年の背後で、冬月がゲンドウに耳打ちする。

「まさかあんな手に引っ掛かるとはな。やっぱりただの子供というわけか。」
「・・・・・・・・・うむ。」

してやったりとばかりニヤリ笑いすると思ったら、意外にも苦々しい顔をしている。

「どうした、碇?」
「な、なんでもない。」

首を傾げていた冬月が、ふと或ることに思い当たった。

「そういえば、お前が饅頭を食べているのを見たこと無いが・・・・。まさか、本当に苦手なのか?」
「・・・・・・・・・・・・。」

図星である。『困ること』 を訊かれた彼は、単に脊髄反射で答えただけだった。

(成る程・・・・・ユイ君、君が言うように確かに 『かわいい』 やつかもしれん。)

「まあ、人類の為に身を捨てる覚悟があるのなら、饅頭など大した問題ではあるまい。そうだろう、碇?」

普段、なにかと面倒を押し付けられている仕返しか、人の悪い笑みを見せる冬月。

「・・・・・・冬月先生、確か甘いものはお好きでしたよね?」
「フフ・・・・饅頭ならミカサ堂のやつが絶品だな。あれだと100個くらいは美味しく頂ける。」
「早急に手配させます。」

だが冬月は、ここぞとばかり追い討ちを忘れない。

「経費では落とさんぞ。あと、玉露も忘れずにな。」
「クッ!・・・・た、頼んます。」

額に青筋浮かべながらも頭を下げる。自ら墓穴を掘る性格は、しっかり孫にも遺伝されているようだ。    注1



注1: 100兆円だろうが饅頭100コだろうが、  
要は相手が困りさえすれば断罪である)

∞∞∞∞



「ではシンジ・・・えっと・・・ゼータ君、今から簡単に操縦システムをレクチャするわネ。」

説明しようとするリツコを鼻でフンとあしらう。

「必要無い、って言ったろ。前にも話したが、アレに乗るつもりはねぇぜ。」
「エヴァなしで使徒には勝てないわ。まさか生身で戦うつもり?」
「戦う・・・・だぁ?戦闘にすらなんねぇよ。」

からかうようなリツコの言葉にあっさり答える。

「でしょ?だから・・・。」

「———た、大変ですっ!使徒がすぐそこまでっ!!」

ただひとり、オペレータ室に残っていた青葉の声が、ケージに響き渡る。

「なんですってっ!?」

ミサトが愕然とするが、使徒が侵攻中なのにあれだけ時間くってたら、それも当然だろう。
次の瞬間、使徒の放った光がケージの壁面を消失させた。どろどろに溶けた大穴から、首の無い異形の生物の姿が覗く。

「そっちから来てくれるとは、手間が省けたぜ。」
「何いってんのっ!これじゃもう間に合わな———。」

絶望的な声を上げるミサトを無視し、シンジ・ゼータは落ち着き払って、糸巻きのようなわっかをポケットから取り出す。
糸巻きの端を口に咥えて目を閉じ、俯き加減の横顔を見せながらピィーーーンと引っ張る。BGM付きでないのが惜しい。

「・・・・・・ピアノ線?」   注2
「邪魔だ。どいてろ。」

リツコが数歩後ずさると、口からピアノ線を放し、必殺技の名を叫ぶ。

注2: 特技そのいち − ピアノ線)

「妖糸縛鞭滅殺黒死斬!!」

裂ぱくの気合いと共に、右腕を真横に振って糸を投げつける。
シンジ・ゼータは目を閉じたままだ。にもかかわらずピアノ線は、正確に使徒の方向へ飛んだ。


ビシュゥゥゥーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!

光速に達したピアノ線は数十キロ先の使徒へと一瞬で伸び、敵のATフィールドをやすやすと貫通する。
使徒の眼なら糸に込められた、刃のようなATフィールドを視認出来たかもしれない。


ズワシャアァァァァッッッッッッ!!!!!!

敵のATフィールドを切り裂いたピアノ線は無防備な顔面を割り、そのまま真下へと降りる。
二つに分断された使徒の体が、左右に泣き別れとなった。

「「「「おおっっ!!」」」」

「ふっ・・・ちぃっとばかし力を入れすぎたか。」

周囲からのどよめきに目を開くと、使徒の遥か手前で、初号機の体までが今まさに、割れようとしている。
そう、使徒のいる方角は初号機の真後ろ。ちょうど延長線上だったのである。

「・・・・・・・・あら?」

壁面に固定されていた初号機も使徒と寸分違わず、上から下まで縦に切断されていた。

当然、コアも真っ二つ。



「ユッ!ユイィィィィィッッッッ!!!!!!!!」


憐れな ”髭” の、血を吐くような魂の叫びが、ケージ全体を埋め尽くした。    注3



注3: ゲンドウ断罪 + ユイ断罪)

∞∞∞∞




使徒は殲滅したものの、勝利した側の雰囲気は重苦しく・・・というか、めっちゃ間が悪い。
みごと左右対称にざっくり割れた初号機は、ロックボルトで半端に固定されたまま、壁から垂れ下がっている。
切り口から覗く、鮮やかな色の断面図がシュールだ。
人類の未来と自らの総てをかけた計画が潰えたゲンドウは、燃え尽きて真っ白になっていた。
廃人・・・いや、灰人の方が合ってるかもしれない。ビジュアルでお見せできないのが残念である。

「しょ、しょごーきが・・・・・・じんるいのさいしゅーへーきが・・・・・・。」

リツコもそうとうショックを受けたらしく、幼児退行した口調で、なにやらうわ言を繰り返している。
彼女にとっては計画云々より、自分が心血注いで作り上げたものを斬殺されたのがでかいだろう。
冬月など、血圧の上がり過ぎでひっくり返っている。年寄りのくせして甘いもの食い過ぎるからだ。   注4

文字通り一石二鳥で瞬殺したシンジ・ゼータも、さすがに居心地悪そうな顔をしていた。
別に初号機がどうなろうと知ったこっちゃない。ゲンドウその他の奴らには、云い気味とも言える。
が、そのつもりは無かったのにダメージを与えたのが、ちぃっとばかし決まり悪い。

注4: 冬月+リツコ まとめて断罪 )

「あーーーーっ。・・・さ、さいしょからアレ壊しちゃいけないって、言ってくれりゃいいのに。」

「ぬわんですってぇくうぉぉのガキィィィ!?あんたワザとやったんでしょっっ!!!!」


背後からぶっ飛んできたミサトの怒号にムッとへそを曲げた。言いがかりにもほどがある。

「んだとぉ、かってに決めつけんなっ!大体使徒はちゃーんと倒したんだ、文句ねえだろ!」
「ふざけないでよっ!!まだ戦いは始まったばっかなのに次はどーーすんのよ?次はっっ!?」
「へっ!いまだって何の役にも立たなかったじゃねーか。」
「なら次も、アンタが何とかしなさいよ!!」
「んなもん、オレのしったこっちゃねぇっ!!」

竜虎相打つ。睨み合う二人の姿を形容するに相応しい言葉だ。こっちの方がさっきの対使徒戦より、遥かに緊迫感がある。
にしても、相手がたとえ神だろうが使徒以上の化け物だろうが、怖れずにガンガン怒鳴り散らすミサトは立派すぎる。ステキだ。


「———あれ、お取り込み中ですかぁ?」
「あ、ああ・・・・・ちょっとね。」

ちょうどケージに入ってきたマヤが、唯一まともに話せそうなマコトに声をかけた。
そう、いままで出番は無かったが、ずーっと彼はここにいたのである。

「あのぅ、お客様なんですけど。」
「お客様ぁ?」

意外そうに振り返ったマコトが、マヤの背後に立っている黒ずくめの人物に気が付いた。
気のせいかその女性は、身体を透してうっすら向こうが見えている。しかも足がない。

「ゆ、ゆーれい!?」
「幽霊ではありません。・・・私は碇レイ。かつてファーストチルドレンとして、ここに居ました。」
「 ファーストチルドレン・・・・・・レイ・・・・・・?」

マコトはポカンと口を開け、糸杉のように立つ美女を、不躾なくらいまじまじと見た。
十分成熟した美貌は、匂うような色香と儚げな少女の面影を、奇跡のバランスで両立させている。
腰下まで伸びた青色の髪は、まろみを帯びた華奢な身体の上を、水のようにたおやかに流れる。
紅の瞳は変わりようがないが、その眼差しも表情も、マコトが知っている今のレイよりずいぶん柔らかい。
ふわふわ素材の黒いコートと帽子を纏った姿は、パスポートさえ持ってれば、銀河鉄道に乗っけて連れてってくれそうだ。

「で、では貴女も、未来から来たのですか!?」
「貴女も、ということは、やはりあの子は此処にいるのね?」
「あの子?」
「シンジ・ゼータ———私とシンジの、大切な一人息子です。」
「あ、それならあそこに・・・・・。」

マコトが指差すと、レイは音も無くそちらにすべり寄った。

「探したわ。シンジ・ゼータ。」
「か・・・・・・かあさん。」

突然現れた母の姿に、シンジ・ゼータは目の前の舌戦などすっかり忘れた。

「ア、アンタッ、コイツの母親ねっっ!?このクソガキ、とんでもないことをしてくれたのよっ!!」

荒れ狂うミサトは見境いなく、怒りの矛先をレイにむける。さすが暴れ牛。
母にインネンつけるミサトにムカッ腹を立てたシンジ・ゼータは、鼻をほじった指をピッと弾く。
弾き飛ばされたブツは正確に、大きく開いた ”牛” の口へとストライク。   注4

「う、うげ〜〜〜っっっ!!!」

ゲロ吐きそうな勢いでその場に崩れ落ちるミサト。たしかにこれは食らいたくない。
ざまあみろと云わんばかりのシンジ・ゼータに、レイが訊ねる。

注4: 特技そのに − 指弾。 ついでにミサト断罪)

「”とんでもないこと” って、何?」
「べ、別にっ、何でもねーって!」
「・・・・・・あれね。」

レイは、巨大な前衛アートのオブジェと化した初号機を見て、すぐ事情を理解した。
ま、あれだけデカけりゃ嫌でも目に入るだろう。

「ワ、ワザとじゃねえんだぜっ!なのにこのオバハンと来たら・・・・。」
「わざとじゃ無いのね。なら、元に戻しなさい。」
「そんな必要なんてねぇッッ!!こいつら重傷の母さんをひっぱり出してまで、アレに乗せようとしたんだぜっ!?」
「過去の私———厳密には違うけど———あの子なら大丈夫。もう傷は治したから。」
「で、でもよーーーっ!!」

また文句を言いかけたが、自分をじっと見据える紅い瞳に、言葉を飲み込む。

「・・・・・・チッ、わーーーったよ。」
「そう、良い子だわ。」

いかにも渋々といった顔で初号機へ歩いてゆく息子を、満足げに見守る。
うずくまってケロケロ戻していたミサトが何とか再起動し、勢い良くレイに問いただす。

「ね、ねぇアンタッ、元に戻すってどういうこと!?」
「見ていれば分かるわ。」

初号機の前に立ったシンジ・ゼータが左手をかざすと、銀髪から再び光が溢れ出す。
すると、磁石がひき合うかのように、左右に分割されていた初号機の体が合わさってゆく。
頭部まで寸分の狂いも無くピッタリくっ付くと、仕上げとばかりポケットからピアノ線を取り出した。

「はっっっ!」

気合と共に飛んだピアノ線が、たちまち初号機をぐるぐる巻きにする。
丁度いい長さでカットし、結び目をピッと作る。これで修復完了。

「あ、あんなんでくっ付くの?」
「・・・戻し斬り。組織を全く潰さずに斬ることで再び元通りに出来る。達人の腕と匠の切れ味がそろって、初めて可能な技。」
「は、はぁ・・・・・・。」

レイの解説にどう反応すべきか迷うミサト。どうやらレイも、長い年月でずいぶん変わったらしい。

(こ、これが戻し斬り・・・・・・まさかこの目で拝めるとは・・・・・・。)

ただ一人、元ネタが分かったマコトだけが、言い知れぬ感動に浸っていた。   注5



注5: 特技そのさん − 戻し斬り。 他の二つにくらべマイナーな技)

∞∞∞∞



初号機が取りあえず復元され、リツコもゲンドウも ”こちら側” に戻ってきたが、ちょっとした騒ぎがあった。
持病の糖尿病が悪化したのか、卒倒したまま起きあがってこない冬月は、救護班に運ばれ退場。
ゲンドウはレイの姿を見た途端、「ユイィィィッ!」 と喚きながら抱き付こうとしたが、身体を突き抜けそのまま壁に激突。
自爆した ”髭” はシンジ・ゼータによってピアノ線でぐるぐるに縛られ、す巻きにして転がされている。
たとえ実体が無くても、母親を抱きしめようとしたのがガマンならなかったらしい。吊られないだけまだマシだろう。

そんなこんなが一段落したところで、ミサトが頭をボリボリ掻きながら訊ねる。

「あ〜〜〜、レイ、だったわね。あんた、死んでるわけじゃ無いの?」
「ええ、私の力はあの子ほど強くない。だからこうして、未来から思念体を送るのが精一杯なのです。」

未来ねぇ・・・とミサトがぼやく。自分も巨大ロボットというリアリティの無いものに関わっているくせに、今ひとつ現実味が湧かないらしい。

「人類補完計画が発動したことで、私は特別な力を得た。でもあの子は最初から、私を遥かに凌ぐ力を持っている。」
「なんなのよ?その人類補完計画って。」
「この組織・・・・いえ、ゼーレの真の目的。でもそれは、碇指令が別の目的で利用するための、道具に過ぎなかった。」
「なんですって!?いったいどういう意味よ!」

説明しろと云わんばかりにリツコを振り返る。 どうやらミサトにとっては、足元に転がったゲンドウはもはや眼中にないらしい。
リツコは観念したようにため息をつくと、レイの顔をまっすぐ見た。

「あなたなら全部知ってるのでしょうね・・・・・・。私たちが何をしようとしたかも、これから先どうなるのかも。」
「ええ。でも、必ずしも同じ未来を辿るとは限らない。現にあの子が来た事で、歴史は変わったわ。」
「・・・・なら、違う未来も期待出来るのかしら。」

自嘲的に唇を歪めたリツコに、レイは不思議なぬくもりに満ちた微笑を返す。
自分がこの先、彼女にどういう仕打ちを行うにしろ、レイはそれを許してくれたのと気付き、すうっと心が軽くなった。

「ちょっとぉ!アタシを除けものにしないでよ。」

また会話からつま弾きにされそうだったミサトが、めげずに割って入る。
いつの間にか蚊帳の外に置かれてる自分の立場に、微妙な悪意のようなものを感じたのかもしれない。

「とにかくアンタたちには色々聴きたいわね。まず・・・。」
「———なぜキミはシンジ・ゼータなんだ?」

突然、意外な人物が口を開いた。やっと主導権を握ろうとしていたミサトが口をパクパクさせる。
その人物は居ながらにして居なかった男、今まで背景として壁に同化してた男———日向マコトであった。

「んなもん、しらねえよ。」

シンジ・ゼータが憮然とした顔で返事する。
スッとマコトは眼鏡を外すと、クルッと身体を半回転させ、ピシッとレイを指差す。
立ち振る舞いが、今までのドタバタくんだった彼とは全く違う。目元まで意味なく涼やかだ。

「そうだな。・・・いや失敬、貴女に聞くべきでした。何故、彼の名は、碇シンジ・ゼータなのかね?」

  そんなの、誰も気にしちゃいねえ。

ミサトはそうつっ込みたかったが、すでに立場は逆転。今や彼女が背景と化していた。
いきなり水を向けられ、きょとんとした感じのレイだったが、にわかに頬が桜色に染まる。

「『碇シンジ』———私にとって意味を持つのは、この名だけ。だからシンジの名を、外すわけにはいかない。」

そう答えたときの恋する乙女のような初々しさに、マコトのみならず女性陣も思わず見惚れた。
「ゲンドウは、碇ゲンドウではダメなのかーーーっ!」と足元で泣いているジジイなど、当然視界の片隅にすら入らない。

「ふむ、なるほど。だが、俺が知りたいのはそこではない。」

アゴに手を当て、犯人を追及する名探偵のようなポーズを決めながら、マコトが更に問いただす。

「そうね・・・名作の続編には、”Z” がつく。———これで、分かるかしら?」
「ふ、なめて貰っちゃあ困る。そこまではとっくに推理済みだ。」

髪の毛を逆立ててスーパー化する少年———生まれながらに親の力をアッサリ凌ぐ子供———そして ””。
これらの点が線となって結ばれたとき、マコトの推理は完成していた。ただ一点を除いて。

「だがその論理で追えば、彼の名は 『ゼータ』 ではなく 『ゼット』 になるはず。・・・何故、ゼータなんだ?」

そう、それがジグゾーパズルの最後の一ピースだ。

「響きがいいのもあるけど、もし弟が生まれたら、ダブルゼータと名付けられるから。」
「———成る程、そこまでは気付かなかった。」

してやられたようにマコトが呟く。普通気付くわけない、というか、感心するほどのことか?
しかしやはりここで、もし妹が生まれたらだとか、三人目以降はどうするのかなどと聞くのはヤボなのだろう。

「O.K、これで総てはつながった!・・・ふ、俺もまだまだだな。」
「・・・いえ、あなたもなかなかの推理ね。」

ニヒルに笑ってビッと親指を立てるマコトに、レイも不敵な笑みを返す。
お互い、意外なところで好敵手に遇えたことを喜んでいるのかもしれない。
ただ、勝手に盛り上がる二人はいいが、その他大勢として扱われた他の人間はしらけまくっていた。

「なんの話してんの・・・・・あれ?」

マンガに興味のないリツコは当然のごとくついていけない。

「んーとぉ、マコトくんてば普段アニメの事しか話さないんであたしとかワザと無視してるから相手してくれる人に遇えて嬉しいんですよ、きっと。」

なにげにヒドイことを楽しそうに解説するマヤ。
もう一人、ここに変わった奴がいることに気付かされ、リツコはこめかみを押さえた。

「くぅおのっ!!アタシを無視すんじゃ無いって言ってんでしょっっっ!!!」
「ぐふっ!!」

ことくごとく出番を取られたミサトの怒りのアッパーカットが突き刺さる。
宙高く舞い上がったマコトの身体がきりもみしながら落下し、顔面から派手に血を吹いて着地。

(こ、これが・・・・・・奴のファイナルショット。)

ミサトの足元から立ち昇った虹の幻影を脳裏に焼きつかせながら、暗闇へと意識を落とした。   ※ 注6


因みにその間、シンジ・ゼータはゲンドウに饅頭を押し込むので忙しかった。   ※ 注7



注6: 普段目立たない奴がたまにしゃしゃり出ると、こうなる)

注7: ゲンドウ断罪の公約実現。やはり約束は守らねば)

∞∞∞∞



気を取り直して、初めからレイの説明を受けるミサトたち。

  ———NERVが建造された理由。

  ———次々と迫り来る使徒の正体。

  ———ゼーレと名乗る組織と人類補完計画の実態。

  ———エヴァの正体とゲンドウの真の目的。

  ———そして結局、サードインパクトが起こってしまった未来のその後。

説明するレイより、むしろ聴く側の疲労の色が濃い。
それほど長く、そして重苦しい内容だった。


「・・・・ふーん。にわかには信じ難い話ね。」
「そうかもしれない。でも、今のが補完計画と、それが実行されたあとの世界。」

その言葉にますます眉根を寄せるミサト。否定しようにもつぎつぎ常識外のことを見せられ、反論する気も失せてきた。

(あの髭オヤジ・・・・。意識を取り戻したらビシバシ締め上げてやる。)

口に饅頭を詰めたまま気絶しているゲンドウを、殺意を込めた目で睨む。
沈んだ表情で腕組みするリツコの隣で、かわいらしく小首を傾げながらマヤが感想を述べる。

「んーとぉ、つまりは奥さんに見捨てられちゃったヤクザな男が未練たらたらでもう一度会いたいがため’だけ’にキ○ガイじじいどもの集団自殺計画を利用して この世界を巻き添えにしたあげく私たちみんな溶けちゃって、結局生き残ったのはレイちゃんたち家族三人だけってことですかぁ?」

身も蓋もない要約だが、ぶっちゃけ大筋はそんなもんだ。

「信じられない・・・・というより、信じたくないわね。そんなバカげた目的のために、私たちまで振り回されてたなんて。」

憑き物が落ちたような顔でリツコが呟く。実際、そんなことで一生を台無しにされたと知っては、たまったもんじゃ無いだろう。
別の意味で、彼女以上にショックを受けたものがいた。日向マコトである。
彼の心配事は、自宅に山のようにあるプレミアつきの初回限定DVDや、オークションで競り落とした初版本などの秘蔵の宝だ。

(ううむ・・・・・・まさか未来がそうなるとは・・・・・・とすると、俺の大切なアレらまで消えてしまうのか?)

イカンッ!それはイカン。たとえ人類が滅んでも、アレは文明の遺産として後世に残す義務がある。

(よしっ!こうなったらシェルターを作って、地下深くに埋めるしかあるまい。)

そのために俺の残りの人生を、シェルター建造に捧げよう———おのが進む道を見出したマコトは固く誓う。

      余談だが、彼の残した漫画やアニメはサードインパクト後も残り、何も無い世界で唯一の娯楽媒体となった。
      もともと娯楽を知らないレイやシンジ・ゼータがハマッたのは、今さら言うまでも無い。
      いわゆるタイムパラドックスにより、彼は歴史に少なからぬ影響を与えることになる。
      だが、その名が歴史に刻まれることだけは、永遠に無かった。



「———でもいまの話だとさあ、みんな死んじゃったわけじゃ無いみたいだし、なんとか生き還らせないわけ?」
「溶け合う前の自我を取り戻せば、戻ってくる可能性はあるわ。けれど、それが何時なのかは分からない。」

レイによると、サードインパクトから15年以上経っているにも関わらず、誰一人還ってきていないらしい。

「百年・・・千年、或いはもっと先かも・・・・・・。多分私が生きている間は、会えないような気がする。」
「そうなの・・・・・・。」
「・・・・・特に、シンジを狙ってたあの赤毛のおサルさんは海の底深く沈めたから、きっと一万年は還ってこれないはず・・・・・。」

クスッ

「?・・・なんの話よ。」
「・・・・・・何でもない。」

ミサトが聞き返したときにはもう、レイはもとの涼しげな表情に戻っていた。
一瞬彼女が、背筋が薄ら寒くなるような笑みを漏らしたように見えたが、気のせいかもしれない。そう思うことにしよう。    注8

「だからアンタたち親子は、未来を変えるために来たわけね。それともただ、その復讐だけが目的?」
「誤解しないで。私はいま、とても幸せ。優しい旦那さまと可愛い息子に恵まれて、これ以上の幸福はないもの。」

可愛い息子ぉ?と内心で毒づく。無論、おくびにも出さないが。

「私はただ、あの子を連れ戻しに来ただけ・・・。」

注8: アスカ断罪?・・・・いや、犯罪かもしれない)

「母さん———。」

連れ戻すという言葉に、シンジ・ゼータの身体が強張った。

「帰りましょう、シンジ・ゼータ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・イヤだ。」

「・・・・・何故?」

「母さんは、あそこは楽園だといった。俺たち親子三人の。・・・・・・でも、そうじゃなかった。」

彼の脳裡に、あの荒涼と広がる赤い海が甦る。
確かに皆、生きているのかもしれない。だが、誰とも会えないのだ。

「・・・だから俺は、バカげた補完計画など叩き潰して、この世界を・・・未来を、変えてやるんだ。」

「・・・・・どうして、そんなこというの?」

初めて我が子から拒絶をうけ、レイの表情が曇る。

「私は、みんな幸せだと思ってた。私もシンジも、・・・・勿論、貴方も。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「でも本当は・・・違ってた。・・・・・・そうなの?」
「お、俺はただ———。」

何か云いかけたが、悲しげな母の顔をまともに見ることができず、再び俯く。


「・・・・シンジも、貴方のことを心配している。」

ビクッ!

背中が大きく跳ねる。痛いところを突かれた。



「・・・・・・・・それでも・・・・・・・・イヤ、だ・・・・・・・・。」


「———シンジ・ゼータ———。」

「は、はいっ!」

氷点下まで下降したレイの声色に、背筋までシャキンッと凍る。


「お父さんにまで迷惑をかけてるのに、あなたはそれでも良いと言うの?」

「だ———だっ、だっ、だって。」

傍目に憐れなくらい舌がもつれている。心底ビビッてるに違いない。
が、グッと拳を握り締めると、いままで堪えていた感情を吐き出すように叫んだ。

「だって父さんはいいさっ!!好きな人とずーーーーっと一緒に居られるんだからっ!!」

「・・・・・お父さんや私のこと、嫌い?」
「そ、そうじゃないっ!!でも、あそこには同い年の子なんて、誰一人いないじゃないかっっ!!!」

そう、それは幼いころから見慣れた光景のはずだった。

  ———互いの頬を枕に、幸せな寝顔で昼寝するレイとシンジ。

  ———どこへ出かけても、片時もつないだ手を離さないレイとシンジ。

  ———お揃いのエプロンをつけ、寄り添いながら料理をつくるレイとシンジ。

  ———食事の時、少し照れながらも、レイの差し出す箸からおかずを頬張るシンジ。

  ———おはよう・おやすみ・愛してるよ、と、毎日最低三回はキスを欠かさないレイとシンジ。

昔は家族の幸福の象徴だったそれらが、いまでは視界に入るたび、何ともやるせない気分になってしまう。


「お、俺だってっ!!俺だって彼女さえいれば、母さんたちみたいに毎日あんなことや、こんなことも———。」

「な・・・・なにを言うのよ。」

アダルトな想像でもしたのか、薄く透けたレイの肌が、はっきり見て取れるほど朱くなる。

(・・・・・・いつ気付かれたのかしら?ちゃんと私たちと寝室は分けてたのに・・・・・・。)

内心かなり動揺しつつも、気を取り直して諭しにかかる。

「・・・・でもシンジ・ゼータ、まだ貴方には少し早いと思うの。」
「なんでっ、どうしてだよっ!?」
「貴方はまだ14才になったばかり。私もお父さんも、初めてのときは17才だったのよ。」
「そ、そんなの関係ないっ!14才で何が悪いのさ?」

念のためだが、シンジ・ゼータが知ってるのはせいぜいキス止まり。
”初めて” の立脚点からしてズレてるが、二人とも気付いちゃいない。

「・・・・確かに私は気にしてなかった。シンジさえよければ、何時でも準備は出来てたのに・・・・。」
「そうでしょっ!?お互い好きあってれば、全然問題無いよね?」
「でも私がそういうと、決まって 『ちゃんと僕が責任取れる年齢になってからね』 って言われたわ・・・・。」
「せ、責任は取る!取るよっ、もちろん!!」

まだファーストキスの相手とは必ず結ばれると信じている純情少年だ。

「シンジったらそういうとこ、変に義理堅くて・・・・。私のことを一番に想ってくれての言葉だったのは解るけど・・・・。」
「う〜ん、父さんらしいけど、ちょっと固すぎると思うな。」
「でも18才なんて待ちきれなかったから・・・だから私、考えたの。どうすればシンジが手を出してくれるか、って・・・・。」
「へっ?手を出すって・・・・・・あの、なんの話してんの?」

ようやく気付いたか、話が噛みあってないことに。
だがレイのスイッチは完全に、おのろけモードに入っている。

「いろいろチャレンジしてみたの・・・・。酔いつぶれない程度にお酒を飲ませたり、少し大胆に誘ってみたり・・・・。」
「お、おさけ?それに、誘うって・・・・。」
「でも結局、誕生日に 『一生忘れられないプレゼントが欲しいの』 ってシンジにおねだりしたのが、一番効果的だったわ・・・・。」

上気した頬に手をあて、うっとりと目を閉じるレイ。
どんなプレゼントだったのか、健全な少年には想像すらつかない。


「・・・・・・そういうわけで、私が17才になったその夜に、二人はようやく結ばれたのよ。」


「かあさん・・・・・・俺にはアナタの言ってることが、サッパリ理解できないよ・・・・・・。」


∞∞∞∞



目の前で漫才を繰り広げる親子をあっけに取られて見ていたリツコが、ボソッと口走る。

「・・・もしかしてあれって、単なる反抗期ってやつかしら?」
「んーとぉ、要はバカップルな両親に当てられっぱなしで身の置き所が無いから彼女欲しさにわざわざ時間を遡って家出した、ってことですよ。」
「・・・・・・・・容赦無いまとめ方をするわね、あなたも。」
「はい先輩っ!きっと指令に会いに来たのも、家出ついでにやり場のない鬱憤を晴らそうとしただけだとおもいまぁーーす。」

例によってなにが嬉しいのか、ニコニコしながら答えるマヤ。・・・でもそれ、図星突きまくり。

「ち、違うっっ!!俺はただ純粋に人類の未来のためにだなあ、天に代わって制裁を与えようと———。」

人類の未来と制裁を与えることのどこに関連があるのか、気付いて無いところが、彼の動揺の大きさを物語っている。

「———解りました。」
「え?」

スイッチが元に戻ったのか、追憶に入り浸っていたレイの意識が、いつの間にか還ってきている。

「ごめんなさい、貴方の気持ちを理解してあげられなくて・・・・。もう、子供じゃないのね。」

感慨深げに呟きながら、遠い眼差しで天井を仰ぐ。
シンジと出合った頃のことを思い出し、またトリップしかけているに違いない。

「そ、それじゃあ!?」
「・・・ええ、貴方の思い通りになさい。」
「ありがとう、母さん!」

喜ぶ我が子を愛しそうに見つめていたレイが、不意に表情を引き締め、厳かに告げる。

「但し、一つ条件があります。」
「・・・・・条件?」
「ええ————どんな世界になっても、私とシンジを必ず 『らぶらぶ』 にすること。」

「う・・・・・・うん、わかったよ。」

OKするしかあるまい。そうならないと、そもそも自分は存在出来ないのだから。
まあ彼としても、両親がくっつくことには何の異存も無い。

「そう、良かった。それさえ忘れなければ、あとは好きにしていいから。」

女神のような微笑みで、さらっと恐いことを言う。

「———す、好きにってそんな、無責任なっ!」

冗談じゃない。使徒より遥かに危険なものを押し付けられてたまるか。
焦ったミサトが文句を浴びせる間も無く、クルリとレイは背を向けた。

「じゃあ、私はこれで。」
「ちょっと待ちなさいっっ!!なにしに来たのよアンタはッ!?」

ひき止めようと伸ばしたミサトの手がレイの身体をスカッとすり抜け、勢いあまってすっ転ぶ。

「・・・その子をお願いします。私はもう行かなくては・・・。」

ますます透明になったレイの姿が、淡い光に包まれる。

「なに勝手なこと———あ、コラッ消えるなっ!待てっつーーーーのっっっ!!!」

「・・・・・・だめ、シンジが呼んでいる・・・・・・二人きりなんて、久しぶり・・・・・・・・・恋人気分・・・・・・・・・。(ぽっ)」

最後にベタなピンク色の擬音を残して、レイは消えて行った。





「なんつーーー親だ・・・・・・・・・。」

呆れかえったミサトの肩から、ずりっと制服がすべる。

「んーとぉ、結局私たちってば、まんまと厄介払いのダシに使われちゃったということでぇ・・・。」
「ちょ、ちょっとマヤッ!?さすがにそれはマズイわよっっ!!」

慌ててマヤの口を押えたリツコが、 背中からバッサリ斬られてはたまらんとばかり、そ〜〜っと後ろを振り返る。
が、ショックが大きかったのか、当の本人はひざ小僧を抱えたまま、くら〜〜〜く落ち込んでいた。

   (ほ、ホントにそうなの?・・・・・・俺は邪魔者だったの?・・・・・・いらない子なの?・・・・・・母さん・・・・・・。)




∞∞∞∞



———同じころ。

『来い』 という手紙一つで、のこのこ上京してきたお人好しの少年も、廃墟と化した待ち合わせ場所で、うずくまって泣いていた。


「うっうっ、誰も迎えにこないなんて・・・・・・。やっぱり僕は見捨てられたんだ・・・・・・。いらない子供だったんだ・・・・・・。」    注9




注9: 断罪話でよくあること − 本編系シンジ放置プレイ)



< 終 >




★ 巻末特別付録 「S - 設定資料」
    ネタばれ注意(笑) —— というか、先に見てしまってもサッパリわけ分からんと思います



後書き代わりのキャラコメント

作者

「こんにちは、対決企画敗北担当、ジョーカー役のクロミツです。見事この話をGETされたミレア様には、ご愁傷様としか申し上げられません。(笑)
さてさて、最後にはゲストとしてこの方をお招きしました。」

レイ

「・・・どうして、私がここにいるの?」

作者

「いや、やっぱり後書きにキャラコメントは不可欠ですから。・・・あ、因みにこの方は、シンジ・ゼータの母親の方のレイちゃんです。」

レイ

「だから、なぜ私なの?」

作者

「そりゃあ私はLRS人なんで、クソガキ お坊ちゃまが相手よりも、レイちゃんの方が・・・・。」

レイ

「いま、何か口篭らなかった?」

作者

「(ギクッ)き、気のせいですよ〜。」

レイ

「・・・・そう・・・・。」

作者

「・・・・は、はい・・・・。」

レイ

「・・・・・・・・・・・・。」

作者

「・・・・・・・・・・・・。」

レイ

「・・・・・・・・・・・・。」

作者

「・・・・・あ、あの〜っ、何か喋っていただけません?」

レイ

「こんな時、話題を提供するのはあなたの役目。」

作者

「まあそうなんですけど・・・・。どうも私、こういうのって苦手でして。」

レイ

「なら、やめればいいのに。キャラコメントなんて分不相応だわ。」

作者

「そうしたいのはやまやまなんですが、やっぱりこれが無いと片手落ちというか・・・私の読んだ作品にはみんなついてたもんで。」

レイ

「そうやって自分の力量の無さを、他人のせいにするわけね・・・。」

作者

「い、いえっ!決してそんなつもりはっ!!」

レイ

「つかえない人・・・・用済み・・・・。(クスッ)」

作者

「(後書きだけでも、誰かにお願いすればよかったかなぁ・・・)と、とにかく、いかがでしたか?」

レイ

「話題の振り方がまるでダメ。」

作者

「・・・・・うっ、それはもういいって。」

レイ

「そのうえ嘘吐きなのね。この話、シンジが逆行して無い。」

作者

「いえ、ちゃんと逆行してますよ。『碇シンジ・ゼータ』 が。」

レイ

「詭弁だわ。シンジ本人じゃない。」

作者

「当然です。だいたいシンジ君は普通の人間ですよ?時間を遡り、あまつさえ神の力を持つなんて、あるわけ無いじゃないですか。」

レイ

「・・・・・(冷たい視線)・・・・・。でも、それを考えるのがあなたの仕事。」

作者

「だって別に、仕事じゃないし。」

レイ

「そう、そう言って逃げるつもり?」

作者

「えーっと、じゃあレイちゃんは、黒死天使とか神殺しとかダー○ベイダーとかの異名を持ち、傭兵や殺し屋も真っ青の非情さで蟻以下の存在となった人間 たちをねちっこく嬲り殺し、脈絡もなく 『クゥワハハハァッ!』 などと狂気の高笑いをあげる逆行シンジ君が見たいと?」

レイ

「・・・・・・・・・そんなの私のシンジじゃ無い。」

作者

「おまけに全能の神となったシンジ君は、もはや一人の女性だけに愛を与えられなくなり、出会った女の子を片っ端から虜にするだけでは飽き足らず、 使徒をことくごとく美少女化してハーレムを築きあげ、レイちゃんはその取り巻きの一人に過ぎず・・・・・。」

レイ

絶ッッッ対、嫌っっっっ!!!!!!

作者

「でしょう?じゃあ良いじゃないですか。」

レイ

「だからって私とシンジの子供を、変なふうに書かないで。」

作者

「(・・・・・・いや、あれはむしろ、アナタの影響が大きいんじゃあ・・・・・・。)」

レイ

「どういう意味?」

作者

「わっ!!こ、心を読まないで下さいよっ。」

レイ

「・・・・・・(じ〜〜っ)・・・・・・。」

作者

「あ!でっ、でも彼も凶暴・・・もといケンカっ早いとこはあるけれど、世間知らず・・・じゃなくて世間ズレしてないし、お母さまの言うこともちゃんと聞くし、 なによりご両親のことが大好きな、親思いのいいお坊ちゃまじゃないですか!」

レイ

「ええ、あの子は少し照れ屋なところがあるけど、本当はとても素直な子なのよ。」

作者

「やっぱレイちゃんとシンジ君の教育が良かったんだな、うん。これもお二人の愛の賜物ですよっ!!(必死)」

レイ

「そ、そうかしら・・・・・。」

作者

「(・・・・・・ふう、なんとか誤魔化せたかな・・・・・・。)」

レイ

「(思い出しように)・・・・・・話を逸らしたのね?いま問題にしてるのはシンジ・ゼータじゃなくて、シンジのこと。」

作者

「(・・・・・・チッ!気付かれたか。)」

レイ

「そう。やっぱりあなた、嘘吐きね。きっと今までのも作り話なんだわ。あのシンジが、そんな酷いこと出来るわけないもの。」

作者

「い、いえ、世間にはいろんなシンジ君がいるんですよ。中にはレイちゃんを断罪するようなのまでいるし・・・・・・。」

レイ

「そんなの、絶対無い。シンジは私を、とても大切にしてくれるわ。」

作者

「う〜〜〜ん、ショックを受けると可哀そうだから見せなかったけど、じゃあ読んでみます?」

 

 
  ・・・・・・・・・ レイ、インターネットに向かって読書中 ・・・・・・・・・・
 

作者

「いかかでした?でもあなたのシンジ君は優しい旦那さまですから、あまり気を落とさないで・・・・。」

レイ

「・・・・・・沢山読んで、ひとつだけ解ったことがある。」

作者

「何ですか?」

レイ

「後書きで作者とキャラクターの掛け合いがあった場合、必ず作者はひどい目にあう、ってこと。」

作者

「(ギクッ!)い、いや、そ〜じゃない作品もあったような気が・・・・・・。」

レイ

「そう、これは作者を断罪するお話だったのね・・・・・・知らなかったわ。」

作者

「や、やっぱり怒ってません?そもそも私には断罪される理由が・・・!!」

レイ

「理由なんて誰も気にしないわ。断罪さえ執行されれば、それでお約束は果たされるもの。」

作者

「そ、それは違ッ・・・・・・なんか違わない気もするけど・・・・・・い、いやっ、やっぱり痛いのやだっっ!!」

レイ

「大丈夫、苦しむひまなんて無いから。」

作者

「こらっ!そんなでっかいATフィールドを展開するんじゃないっっっ!!ウワァァァァァァっっっっ!!」






  

・・・・・・プチッ・・・・・・






< 了 >

< Before




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