「シンジ君は、向かって右を。レイは向かって左の方を攻撃して!
 今後はシンジ君が攻撃する方を甲、もう片方を乙とします!」

 ミサトの声が響く。
 アスカからコントロールを替わったシンジは、その片割れに向かってソニックグレイヴを突き刺す。

「やったか!?」

 しかし、次の瞬間には、その穴はしっかり再生していた。

「ぜ、全然効いていない……」
「コアを狙って!」
「狙ってますけど……」

 さっきからシンジは何度かコアにソニックグレイヴを突き立てているのだが、全く効いていない。
 キズが入ってもすぐに再生する。
 と、ふとレイの方に目をやる。

「綾波っ!」

 レイは、「乙」相手に、相手の攻撃をかわすのが精一杯のようだ。

『綾波を守りたい』

 シンジの頭の中に、そのことが渦巻く。

「なんとしても、綾波を守るんだっ!!」

 弐号機の目が輝き、とたんにシンジのシンクロ率が跳ね上がる。
 もの凄いスピードで走り込み、「乙」に体当たりを食らわせてはねとばす。

「綾波、大丈夫!?」
「ええ……」

 レイを気遣うシンジ。
 そして、「乙」をソニックグレイブで突き刺し、「甲」の方へと投げ飛ばす。
 が、甲乙ともに立ち上がると、とたんにシンジの方へと向かってくる。
 シンジは自分でも気付かない内に、目視できるほどのATフィールドを張っていた。
 激突する使徒。
 そしてシンジは激しい肘打ちで「甲」の右腕をとばす。
 が、やはりとたんに再生する。

「ミサトさん、キリがありません!」
「くっ……」

 思わず爪を噛むミサト。

「碇君、上っ!」

 気がつくと、上からUNの戦闘機がでていた。
 こちらに気付いていながら、N2爆雷を投下する爆撃機。
 シンジはとっさにATフィールドを張るが、とても防ぎきれる物ではない。
 そもそも、ATフィールドで防げるのなら、使徒に対して使う意味がない。
 爆風を受けて、もろに吹っ飛ぶエヴァ2機。
 そのなかで、シンジは初号機を、いやレイを抱えるようにして庇う。


Together

第弐話 ― Aパート 護るモノ

 ミサトはその光景を見て、憤りを感じていた。
 確かに、彼らが、素性のよく分からない自分たちNERVに対して不信感を抱いていることは知っている。
 だが、だからといって、味方――もっとも、こちらは味方と思っているが、向こうがこちらを味方と見ているかどうかは疑問だが――がいるにも関わらず攻撃を仕掛けるのは、信じられない。

 一方、リツコは憤りを感じる暇すらなかった。

「マヤ、パイロット二名の状態は!?」
「ハイっ、レイ、若干不安定ですが、外傷はありません!」
「カメラ回復!映像、映します!」

 映った様子を見てリツコは驚愕した。
 弐号機が、初号機を包むようにしている。
 まるで、初号機を庇ったかのごとく…

「シンジ君の様子は?」
「脳波若干乱れ有り!呼吸、心音やや異常!意識不明!」

≪やっぱり……≫

 やはり、シンジはレイを庇ったに違いない。
 そうリツコは確信した。

「シンジ君へのコンタクト続けて!
 エヴァ両機も回収して!」
「「「はいっ!」」」


 シンジはまた彷徨っていた。

≪この前と同じ…
 弐号機の中?≫

 と、アスカの気配を感じる。

「惣流さん!?」
「あ、バカシンジね。」
「バカシンジはやめてよっ!?」
「………シンジ。何の用?」
「え、ああ。
 さっき、どうしてあんなに動けたのかな、って。
 惣流さん、何かした…?」
「答えて上げてもいいけど、その前に、『惣流さん』ってのやめなさい!」
「え、じゃあ、ア…アスカ?
 知ってるんなら、教えて欲しいんだけど…」

 そこでアスカは息をつく。

「あんたねぇ、自分の気持ちも分からないの?
 あのとき、アンタはファーストを守ろうと思ってたんでしょ?」
「そ、そうだけど……」
「で、エヴァとパイロットが強くシンクロできるのは、
 『何のために乗っているか』、『エヴァに乗って何をしたいのか』がはっきりしたとき。
 で、アンタは、『ファーストを護りたい』って思ったら、シンクロ率が上がったんだから、
 『ファーストを護りたいから、エヴァに乗ってる』ってことよ、アンタは。」
「なるほど……
 って、なんでそんなことアスカが知ってるのさ!」

 今更気づくシンジ。

「あのねぇ。
 エヴァに乗るってことは、パイロットのATフィールド、心の壁をエヴァに解放するってこと。
 つまり、心の中をエヴァに見せることになるのよ。」

 さすがに気付くシンジ。

「その……つまり、アスカは僕の心を、見ていたの…?」
「そ。
 シンクロが強くならないと、その人の心が見える訳じゃない。
 今回は、アンタの心がほんのちょっとだけ見えたのよ。
 ちゃんと守ってあげなさいよ。」
「う、うん…」

 何を思ったか、突然真っ赤になるシンジ。

「そんじゃ、まったね〜〜!」

 世界が暗転する。
 シンジは深いため息をついた。


 NERVでも数少ない自販機。
 ここにはおのずと、休息を求めて人が集まってくる。
 もっとも、それは平常時のこと。
 今は特に誰もいない。
 そんな中で加持は、缶コーヒーをすすっていた。
 と、そこに日向が現れる。

「どうしたんですか? こんなところで。」
「まぁ、ちょっと疲れてね。」

 加持の隣に腰を下ろす日向。

「加持さん、セカンドチルドレンの監察でこちらに来たんですよね…」
「ああ。」
「いつごろまでこっちにいるんですか?」

 ため息をつく加持。

「俺は明日にでも帰るつもりだったんだが、本日付けで辞令が下ってね。
 ここの諜報課に転属らしい。」
「そうなんですか……」

 それだけ言うと、立ち上がる日向。

「そういえば、葛城さん知りません……?」
「さぁ。
 ただ、責任者ってのは、責任をとるためにいるんだぜ。
 今頃書類の山にでも埋もれているんじゃないか。」

 ウインクをして、加持も反対側へと立ち去っていく。


 加持の予想通り、書類の山に埋もれるミサト。
 そんなミサトにコーヒーを渡しながら、笑顔でリツコが言う。

「UNからの被害報告、関係省庁からの抗議文とかは、それで全部よ。」
「ほぇ〜〜〜」
「碇指令、カンカンだったわよ。
 次をしくじったら、まず終わりね。
 そろそろ次の就職先を探したらどう?」
「な、何を言うのよ!
 縁起でもない…」

 落ち込むミサト。

「そうそう、あなたの首がつながるアイデアが有るんだけど、どうする?」

 ディスクをちらつかせるリツコ。
 ミサトはそのディスクに飛びつく。

「さっすが、赤木リツコ博士……」
「あら、そのアイデア、私のじゃないわよ。」
「じゃ、誰?」

 ミサトは怪訝な目を向ける。

「加持君のよ。」
「……
 やっぱいらね。」

 ミサトの苦労は続く。


 レイはシンジの病室にいた。
 別に、そこにいろと命令されたわけでもない。
 ただ、そこにいたかったから…
 シンジが、自分を庇ったと聞き、何故かここに来たくなったレイ。
 自分でも分からない、心の中から突き動かされるような思い。
 レイはそれに困惑を感じながらも、シンジの寝顔を見つめていると何故か落ち着いてくる。
 だから、シンジを穏やかに見つめるレイ。
 と、シンジがわずかに動く。
 少しぎょっとするレイ。

 あれからシンジは、意識をいっぺん回復したものの、疲労でまた倒れ、その後病室へと運ばれていた。
 目を覚ますシンジ。
 と、レイが自分を見ていたことに驚くシンジ。
 そして、既視感に襲われる。

≪ヤシマ作戦の時か…≫

 しかし、あのときとの違いもシンジは感じる。
 あのときと違い、レイの瞳はずっと優しそうな色をしている。
 と、レイもシンジが見つめていることに気付いたのか、不意に目を逸らす。

「碇君……
 ありがとう……」
「え?」
「あのとき……護って…くれて…」
「え…あ…うん…」

 見つめ合ったまま硬直する二人。
 しばらくして、レイは思い出したようにポケットに入れていた手帳を取り出し、読み始める。

「あの後の経過について説明するわ。
 UNによる新型N2爆雷の投下により、第7使徒は活動を停止。
 MAGIによると現在自己修復中。第2波は五日後の予定。
 エヴァ初号機・弐号機中破。
 修復完了まで後五日の見込み。」

 そこまで言うとレイは手帳をポケットに戻した。

「じゃ、休んでおいて…
 次、またそのうちに呼ばれると思うから。」

 部屋を出ていくレイ。
 また一人になるシンジ。
 しばし眠ろうとしたそのとき。

『エヴァンゲリオン初号機、零号機各パイロットは、至急第壱会議室まで来て下さい。』

 立ち上がって、病室を出ようとするシンジ。
 倒れたのは疲労によるものであるため、眠ってしまえば回復は早い。
 少しゆっくり目に会議室へと向かうシンジ。
 会議室には、ミサトとレイがいた。

「あ、シンジ君、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。」

 説明を始めるミサト。

「今回の敵、第7使徒イスラフェルは、お互いに連携して行動を行っていることが分かったわ。
 よって、相手を倒す方法はただ一つ。二つの核への同時攻撃しかないの。」
「「はい……」」

 悪戯っぽく微笑んでみせるミサト。
 そこに悪寒を感じるシンジ。

「よって、あなた達二人には、体内リズムを合わせる必要があるわ。
 そのために、体内リズムを合わせるための作戦を行うわ。」
「つまり……?」
「これから4日間、同じ部屋で暮らしてもらいます。」
「はい……」
「はい。
 ……
 ………」

「えぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!!」

 叫ぶシンジ。
 レイは何がおかしいのか分からず、きょとんとしている。

「ぼぼぼ、僕たち男子と女子なんですよ…?」
「大丈夫よ。シンジ君。
 シンちゃんにそんな度胸があったら、私は今までマトモに生きていられなかったわよ。」
「そりゃ、そうですけど……」
「じゃ、これがカードキーね。
 できれば今から一緒に行動して欲しいんだけど、準備とかあるだろうから、早くしていらっしゃい。」

 各自、荷物を取りに行く。
 シンジが何故あんなに慌てたのかが気になるレイは、マヤの元に相談に行った。
 レイの経験上、こう言うときにミサトとリツコは当てにならない。

「あの、伊吹二尉……」
「あら、どうしたの、レイ。」

 彼女がマヤの元に相談するときは、「レイらしくなく」思春期の悩みである。
 ヤシマ作戦の後から、時々マヤの元に相談に来ることもあった。
 そんなレイは妹のように思え、マヤも時間をわざわざ空けて相談に乗っている。

「それが……」

 レイから、先ほどミサトに受けた作戦の概要と、そのときのシンジの反応を説明されるマヤ。
 内心、『不潔ですぅぅぅ』と思いながらも、レイの手前、声に出すのはさける。
 しかし、続くレイの言葉で、危うくぶっ飛びそうになるマヤ。

「私は、私は碇君の傍にいると安心するのに、碇君はそれを拒絶しているんでしょうか……?」

≪レイ…知らないあいだに…≫

 レイの変化に驚きつつも、マヤは優しく諭すように言う。

「レイ。男の子はあのくらいの年頃になるとね、女の子と二人っきりって状態が苦手なのよ。
 だから、レイと一緒にいるのがイヤなのではないわ。ただ、恥ずかしがっているだけ……」
「そうですか……」

 しかしここで、マヤの潔癖性が警告する。

『レイは常識を知らない。
 こんなレイをシンジ君と二人っきりにしたら、シンジ君の暴走か失血死は目に見えている。
 なんとかしないと……』

 その後、レイがマヤによる『思春期の少女があるべき常識指導〜簡略版〜』を終えて、マヤの部屋から出てきたのは、実に1時間後だった。

「綾波、いったい今までどうしてたの…?」
「別に……」

 レイは頭の中で、さっき受けた指導内容を反復していた。


To be continued


【前話】   【次話】

あとがき

 どんどんよくワカラン展開に(爆)
 今回は、えらく長くなってしまったため、3パートに分割するかもしれません……

 次回をお楽しみに。

 m(_ _)m

柳井




ぜひあなたの感想を柳井ミレアさんまでお送りください >[yanai_eva@yahoo.co.jp]


【Together目次】   【投稿作品の目次】   【HOME】