ここは……?

『ここは、君の心の中……』


 僕の、心の中……?
 君は、誰?

『僕は、君さ。
君の中にいる、もう一人の自分。』


 もう一人の…僕?

『そうさ。』


 僕は、何故、何故エヴァに乗っているの?
 自分でも分からないんだ。

『そんなこと無いさ。
今日、アスカにも言われたじゃないか。
君は、綾波を護るために戦っているんだよ。』


 ただ、それだけのために…?

『それだけさ。
それだけで十分じゃないか?
誰かを護りたい、それは、何かの動機に十分になりうるさ。』



Together

第弐話 ― Bパート 瞬間、心重ねて

 突然目を覚ますシンジ。
 シンジは未だ落ち着けなかった。
 レイと二人で一つの部屋にいるからだけではない。
 夢――にしてはリアルすぎたが――のことでまだ悩んでいた。

≪僕は、綾波を護りたい……
 この感情……
 昔は味わうこと無かった。
 何故、綾波?
 ミサトさんでも、アスカでもなく、綾波……?
 ……何故……?
 好き……?
 そんな感情じゃなかった、けど……
 『あのとき』から、変わった気がする…… 
 綾波も、僕の気持ちも……
 でも……≫

 思考の渦に飲み込まれるままに飲み込まれ、やがてシンジはまた眠ってしまった。


「碇君……」
「ふみゅう……
 もう少し寝させて…」
「起床時間は6時半。
 もう6時29分よ。」

 そう言いながらも、シンジの寝顔に見とれてしまうレイ。
 と、ようやく起きあがってくるシンジ。

「おはよう碇君……」
「あ、おはよう、綾波……
 って、あれ?」

 何気なく答えてから、レイがいることで、一瞬パニックになりそうになるシンジ。
 しかし、まだ眠気の残る頭でかろうじて思い出し、すぐにパニックから脱出する。

「綾波…」
「なに?」
「着替えたいから、ちょっと洗面所借りるよ?」
「ええ……」

≪ミサトさんも、無茶な作戦たてるよな……≫

 シンジは内心深いため息をついた。


 レイとシンジは、朝食の後、ミサトによって呼び出された。
 ミサトにダンスの振り付けらしきものを見せられ、困惑する二人。

「なんですか、これ?」
「見て分からない?
 第7使徒の動きをMAGIでシミュレートした結果によると、
 こちら二人が同じ動きをすれば、必然的にあいても同じ動きで対応してくるらしいわ。
 つまり、二人とも同じ行動パターンをとる必要がある。
 一番手っ取り早いのが、こうやってユニゾンのダンスを覚える事ね。
 四日間で完璧に体にたたき込んで。」
「はい……」
「…はい。」

 腑に落ちないところもあるシンジ。
 しかし、命令である以上、拒否はできない。
 そんなシンジの内心を知ってか知らずか、意気揚々としたミサト。
 と、突然部屋に入ってくる加持。

「選曲と振り付けは俺ね。」
「アンタは出てこなくていいの!」

 ミサトに一喝されて、しょぼしょぼ出ていく加持。

「さ、気を取り直して、最初の部分、行くわよ!」
「え?
 さっきもらったばっかで、まだ覚えてないんですけど……」
「時間がないの、時間が!
 さ、いくわよ!
 ミュージック、スタートっ!」

 メロディーに合わせ、ぎこちなく体を動かすシンジ。
 レイはそんなシンジに合わせるようにして踊る。

 ミサトは正直舌を巻いていた。
 シンジがぎこちないのは仕方ないとして、レイがシンジをフォローするように踊っている。

≪あのレイが、人のペースに合わせている……?≫

 レイは不思議な感覚を覚えていた。
 シンジの心、そういったものがはっきりと感じられて。
 その心地よさ、その気持ちよさに陶酔するレイ。
 そして、シンジに合わせることでさらにその気持ちが高ぶることに気付くレイ。
 ペースが自然と合ってくる。

 シンジも同じような感覚を覚えていた。
 レイの心を見つけた気がして。

 彼ら自身でも気付かないうちに、見る見る息が合う二人。
 と、放っておいたらいつまでも踊っていそうな二人を見て、慌ててミサトが止める。

「ストップ、ストップ〜〜」

 名残惜しそうな表情をする二人。

「じゃ、今日は終わりね。
 昼食はどうする?
 私が材料買ってこようか?」
「ミサトさんが…ですか…?」

 とたんに凍り付くシンジ。
 が、ミサトの中ではすでにそれさえ折り込み済みであった。

「それがど〜してもイヤなら、レイとシンちゃんと二人で買ってきなさい。」
「あ、なら……
 って、僕と綾波と二人でですか?」

 うろたえるシンジ。
 ミサトは不気味な笑みを浮かべる。

「あ〜ら、レイと一緒にいるのが嫌なわけ?」
「碇君…私が傍にいると邪魔なの…?」
「べべべ、別にそういう訳じゃ…」

 レイとミサトに睨まれて、完璧に硬直するシンジ。
 それでも、頭をフル回転させて考えるシンジ。
 ミサトに買い物をさせるリスクと、レイと二人でいるところを目撃される危険……
 結論はすぐに出た。

「ミサトさん、じゃ、帰りに買っていきますから。」


 買い物、それは簡単に終わった。
 昼食と夕食の分を買う、ただそれだけのこと。
 若干気負いすぎていた自分が情けなくなるシンジ。

「綾波、昼ご飯は炒飯にするけど、何か苦手なものとかある?」
「…肉……」
「え?」
「肉は、嫌い…」


 与えられたワンルームマンションの台所で、炒飯を作るシンジ。
 叔父、叔母の元にいたときから家事全般は一通りやっていたため、炒飯ぐらいは楽勝であった。

「綾波、できたけど…?
 って、うわわわわわ!!」

 レイは、何気なく着替えているところだった。
 シンジの慌てようを見て、昨日マヤから受けた指導内容を思い出す。
 さしあたって、急いで着替えてしまうレイ。

「ご、ご免!!」
「何故碇君が謝るの…?
 碇君は悪くないのに……」

 気まずい空気が流れる。
 その空気を変えようとしてか、シンジが口を開く。

「綾波、ヤシマ作戦の時…
 僕は、綾波に、『何故エヴァに乗るか』って聞いたよね。
 最近、ようやく見つかったのかもしれない……」
「……?」
「僕は、綾波、君を護るために戦っているんだって。そう気付いたんだ。
 僕は、綾波を護りたい……
 綾波、僕に、ずっと護らせて欲しい……」

 文脈次第ではプロポーズともとれる発言をしたシンジ。
 しかし、お互いにそんなことを言ったとも、言われたとも気付いていない。

「碇君……」
「なに、綾波?」
「ありがとう……」

 拒否されなかった、シンジはそれだけで十分だった。


 MAGIが予想した侵攻の前日。
 シンジとレイは、最後の詰めとしてミサトの元に呼ばれていた。

「いくわよ?」
「「はい…」」

 音楽とともに踊りだす二人。
 もうその動きに迷いは見られない。

≪ほんの三日で、ここまで上手くなるとはね…≫

 はっきりいって、この作戦は無謀と思われた。
 人に対して心を開くことはない、といわれたレイ。
 そのレイに協調させること、それはまさしく無謀そのものだった。
 それでも、ここ最近のレイの変化に賭けたのだ。

「はい、OK〜〜
 シンジ君は帰っていいわ。
 レイはちょっち話があるから。」
「はい……」

 少し名残惜しそうな視線をレイの方に送りつつも立ち去っていくシンジ。
 シンジが出ていったことを確かめると、レイに話しかけるミサト。

「レイ、シンジ君のこと…好きなの?」

≪好き……?
 ヒトがヒトを愛すること……
 私には、その資格はあるの……?
 私は、ヒトではないのに……?≫
≪私が、碇君のことを……好き?
 分からない。
 でも、碇君を護りたい。
 碇君の傍にいたい……≫

 困惑するレイ。
 以前なら見られなかったようなレイの表情。
 そんなレイをいじらしいと思うミサト。
 自分の少女時代とも妙にダブって見える。
 不器用だった自分の少女時代に…

≪もっとも、レイはもっと不器用なのかもしれないけど…≫

「分かりません……」

 『好き』というモノ。それが何なのか分からないレイ。
 そのレイから帰ってくる返答としては、十二分に予想し得たもの。

「そう。ならいいわ。
 あ、それとね……」

 突然にやけ笑いを浮かべるミサト。
 他人に聞かれるのがまずい事なのかどうかは知らないが、レイにこっそり耳打ちする。

「分かりました……」
「じゃ、帰っていいわ。ガンバってね〜」

 何をガンバるのかは不明だが。


 シンジはレイがいないあいだ、ずっと考え事をしていた。

≪僕が、綾波のことを……?
 自分でも言っていたのに。
 『そういうのじゃなくて、昔に引き裂かれた自分自身みたいに感じている』って……
 どうなんだろう……?≫

 と、考えていた矢先にレイが帰ってくる。

「おかえり。」
「………」
「あ、あのさ、綾波……
 たとえ一時的なものでも、ここは綾波の住むところでも有るんだから……」
「私の住むところだから……?」
「『ただいま』っていえばいいと思うよ。」
「……ただいま。」

 しばらく硬直した後、夕食を出すシンジ。

「先に作っておいたから。」

 向かい合って夕食を食べる二人。
 シンジは内心、『明日、使徒が来たら、こんな生活は終わりか…』と思っていた。
 やっと慣れつつあったこの暮らし。
 シンジは少し残念だったが。

「じゃ、綾波……
 明日が本番だから、早く寝よう…」

 引いてある布団に入ろうとするシンジ。
 そんなシンジを見てレイは、ミサトに言われたことを思い出す。
 自分の布団を片づけるレイ。

「綾波…何しているの?」
「必要…無いから。」
「え?」

 レイは枕を抱えると、素早くシンジの横に潜り込む。
 慌てるシンジ。

「あああああやなみ、どどどどうして……」
「命令だもの。」
「めめめ、命令?」
「葛城一尉からの命令よ。
 『二人の体内リズムを合わせるのには、これが一番』らしいわ。」

 シンジは内心、「謀ったな、ミサトさん!」と叫んでいたらしい。

 お互いのことを気にしすぎて、寝付けないシンジとレイ。

≪何故、何故眠れないの……?
 碇君が横にいるから……?≫

≪変なこと考えちゃダメだ。変なことしちゃダメだ。
 変なこと考えちゃダメだ……≫

 結局、二人が寝付いたのは2時頃だった。


「目標再活動!強羅防衛戦突破まで、およそ10分です!」
「MAGIの予想より5時間も早いじゃないの!
 エヴァは?」
「初号機、弐号機ともに準備完了ですが、パイロットがまだ……」
「もぉ!あの二人、何やってんの!」

 予想より早い使徒の侵攻により、司令室はパニックだった。
 シンジとレイのマンションに向けて、愛車をとばすミサト。

「ったく……」

 見事なドリフトでマンションの前に停車。
 鬼神のごときスピードで階段を駆け上がる。

「シンジ君、レイっ!
 ……って……あんた達……」
「ふぁぁ、あ、おはよう、ミサトさん…」
「おはようどころじゃない!
 急いで、もう時間がないの!」

 シンジとレイを引っ張っていくミサト。

 エヴァに乗り込む二人。

「大丈夫かしら……」

 そんなミサトに、シンジが自信ありげに言う。

「大丈夫です。昨日はちゃんと睡眠もとれましたし。」
「最大戦速、内蔵電源が切れるまでの62秒で決めます。」

 レイも口を挟む。

「何なの…あの自信の源は…」

 あきれるミサトであった。

 射出されるエヴァ。
 シンジとレイは同時に飛び出す。
 もはや通信も必要ない。
 お互いの心が手に取るように分かるから。
 信じられないほどのスピードで、一気に使徒のコアを、同時にぶちのめす。

「終わりましたけど……」
「……すごいわ。」

 もはやそれしか言葉がなかった。

「「おやすみなさい……」」

 倒れ込むシンジとレイ。
 やはり、2時まで起きていた上に、起きていきなりこうもハードな運動では、限界だったのであろう。
 二人とも、幸せな寝息を立てていた。

「ワカラン。今回ばかりは……」


To be continued


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あとがき

とりあえず、使徒撃破です。
今回はアスカ様の出番なし(汗

m(_ _)m




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