この気持ち……何?
碇君がいないと、胸が痛い……
碇君が傍にいてくれないと、胸が痛む……
この気持ち……何?

それは、『寂しい』のよ。
碇君がいなくて、寂しいのよ。

『寂しい』……?
私、寂しいの……?

そう。

私、碇君の傍にいたい……
私、碇君と一緒にいたい……
でも、それは適わないこと……
私は、心を持つことが許されない……
司令の計画のために、私が心を持つことは邪魔になる……

何故、いつでもそう考えるの?
自分の生き方は、自分自身で決めること。
自分の心、それに正直でいなさい……


Together

第弐話 ― Cパート 休息

 シンジはレイのマンションで、レイの夕食を作っていた。
 シンジはここ数日、学校からの帰りにレイのマンションによって、とりとめのない話をして、レイの夕食を作っていた。
 それは、数日前、第7使徒を倒した帰りの会話がきっかけだった。


 第7使徒戦の帰り――見事なユニゾンで二つのコアを同時に破壊したシンジとレイは、いつものようにジオフロントから家へと向かっていた。
 並んで歩く二人。
 手を繋ぐわけでもなく、特別近い距離でもない。
 ただ、シンジの方からポツリ、ポツリと話しかけ、それにレイが答える程度の会話はあったが。

「そういえば綾波、食事、いつもどうしてるの?」
「食事……?」

 レイは自分のカバンの中から、錠剤のようなものを取り出す。
 驚きを隠せず、シンジはそこで固まってしまう。

「綾波、何かの病気なの……?」
「いえ、違うわ。
 赤木博士に、これで十分だと、必要な栄養素はすべてこれで摂取できると言われた。」
「………」

 シンジは呆然としてしまう。
 と、何を思いついたか、レイの方に話しかける。

「あ、あのさ、やっぱり、そういう錠剤より、なんていうか、普通の料理の方がいいと思うんだけど。
 その、もしよかったら……作ろうか?」

 自分でもよく分からないままに口にしてしまったと後悔するシンジ。
 そのまま真っ赤になってうつむいてしまう。
 しかしレイはシンジが真っ赤になった理由が分からない。
 そのまま額面通りに解釈する。

「……なら、お願いするわ……」


 その日から、毎日レイのマンションで料理を作っている。
 そんなシンジを、レイはずっと見つめている。
 見つめていることで心が安らぐ。
 未だその気持ちがなんなのかは分からないものの、その心地よさにずっと委ねていたくなる。
 と、料理ができたのか、レイの方を振り返る。

「綾波?
 どうかしたの?」
「問題ないわ。」

 うわべだけ冷酷を装ったものの、レイの声には焦りがこもっていた。
 そんなレイの変化にシンジ驚いた。
 今までシンジが見てきたレイの感情と言えば、笑っているところ、ぐらい。
 確かにそれはレイが心を持っていることを知るには十分だったが。
 笑うこと、それはシンジが勧めたことであり、そうでない、彼女自身が自然と知った心を持っていることは意外だった。
 何故か赤くなった自分をごまかすべくしてか、料理を渡すシンジ。
 シンジは第3新東京市に来る前は叔父の元にいた。
 そのとき叔父、叔母は明らかにシンジを避けていたものの、一応料理、掃除等家事一般はしつけられていた。
 料理は才能があったのか、その実力は折り紙付きであった。
 
「綾波、どう?
 今日はちょっといつもと違うもの入れてみたから…」
「……美味しい。」
「ありがとう……」

 と、ふと時計を見る。

≪そろそろ、帰らないとな…≫

 荷物カバンを持って、立ち上がろうとする。
 が、レイにシャツの裾を掴まれる。

「綾波……?」
「……寂しいの。」

 ボソッと、しかしシンジにしっかり聞こえるように言うレイ。

「碇君が帰ると、私、『寂しい』の……
 一緒にいて欲しい……」

 シンジの思考は一瞬にしてフリーズする。
 しかしレイの言葉には裏も表もなく、額面通りの意味で発されたのだと自分を納得させるシンジ。

「じゃあ、ミサトさんに相談してみようか……」

 ポケットから携帯電話を取り出すシンジ。
 今まで着信にしか使ってこなかった携帯電話。
 それをおもむろにプッシュした。

『ハイ、葛城です…』
「あ、ミサトさんですか?
 シンジです。」
『どうしたの?
 今夜はお泊まりとか……?』
「ちちちち、違いますよ!」

 どもるシンジ。

「綾波が、今の住居だと寂しいって言ってるんですけど……
 もしよかったら、うちにもう一部屋有るんで、そこで…と思ったんですけど……」
『そうね〜
 そうなったら押し倒し放題、襲い放題だもんえぇ……』
「えぇ、まぁ…
 って違いますよ!
 とにかく、父さんに許可もらっといて下さいね。」
『え、私がな……』
プツン。

 いい加減ミサトの冷やかしにも飽きたのか、ブツっと切ってしまった。

「じゃ、後はミサトさんが何とかしてくれるだろうから、明日にでも引っ越そうか。」
「ええ……」


 その翌日。
 シンジはいつものように学校で授業を受けている。
 教室の空席を見て、そこにはアスカがいるべきだったのかもしれないとの思いも抱きつつ。

 放課後、トウジ、ケンスケとともに下校する。
 今の彼らにとっては、使徒襲来よりもなによりも、明後日からの中間テストの方が重大だ。

「なあ碇、明後日からの中間テスト、どうする?」
「僕は……腹をくくるよ。」

 絶望的なまなざしのシンジ。
 やはり絶望的な光を目に湛えるトウジが聞く。

「おまえ、前の学校じゃ優等生だったんとちゃうんか……」
「仕方ないだろう、こっちに来てから勉強する暇なんて無かったんだし。」
「「「はぁ〜〜〜〜」」」

 見事にユニゾンする3人のため息。
 と、ケンスケが妙案を思いつく。

「今から、碇の家で作戦会議をしようぜ!」
「お、えぇな!」

 真意をくみ取ったトウジもすぐに賛成する。
 一人きょとんとするシンジ。

「どうして僕の家で…?」
「「ミサトさんに会えるから!」」
「今日はミサトさん会議だから、まだ帰ってないと思うけど……」

 所詮彼らの思考レベルはこんなものだったかと、今日何度目になるか分からないため息をついたシンジだった。


「ただいま〜」
「「お邪魔しま〜す」」

 特に誰にともいうわけでもなく――ペンペンは家にいたが――しかし家の中まで聞こえるような声でいうシンジ。
 と、リビングの方からぺたぺたと可愛い足音が聞こえてくる。
 何か変だと思いつつも、何が変なのか思い出せないシンジ。

「お帰りなさい……」

 シンジのカバンを取ると、にっこりと微笑みかけるレイ。
 その笑顔に魅せられ、シンジは危うく倒れてしまいそうになった。

『……おい、今、俺の見間違えじゃないよな?』
『ああ。確かに今、綾波の奴、笑ったで。』

「あ、ただいま」
「お米、研いでおいたから……」
「ありがとう。後は僕がやっておくから…」
「おい碇。テスト勉強するんだろうが。」
「ほらほら。とっとと行くぞ。」

 突然シンジを引きずっていく二人。
 シンジの部屋にはいると、早速シンジの方を恐ろしい目で睨みつけた。

「おい碇。どういうことか説明してもらおうやないか……」
「え?何か変だった?」

 全く状況を理解できていないシンジ。
 すでにそのシンジの鈍感さを知り、それが嘘でないことに気付いた二人は攻め方を変える。

「碇く〜ん、この家には誰が住んでいるのかなぁ?」
「え?
 僕と、ミサトさんと、ペンペンだけど。」
「じゃあ、さっき出迎えに来たのは誰かなぁ?」
「綾波じゃないか。
 …………あぁぁ!」
「……ようやく気付いたか。」
「遅いっ!」

 シンジの鈍さにあきれる二人。

「で、何故、綾波がこの家におるんかなぁ?」
「どどど、どうだって良いじゃないか、そんなこと……」
「どうでも良いことあらへんのや……
 あんな新婚さんみたいな所見せつけられるとなぁぁぁぁ!!!」

 トウジが吼える。
 その姿に恐怖を感じたシンジは後ずさりする。
 が、後ろもケンスケがブロックしている。
 もはや絶体絶命のシンジ。
 と、そのとき救世主が現れる。

「ただいま〜〜〜」
「お帰りなさい、葛城さん……」
「あら、レイじゃない。」

 とたんにシンジを突き飛ばして出迎えに出るトウジとケンスケ。

「「お邪魔しております!!!」」
「あ、そりゃあどうも……」

 その先ほどまでの怒りのエネルギーをも含む凄い勢いに気圧されてしまうミサト。
 と、ケンスケがミサトの襟章に目を留める。

「あっ、ミサトさん、昇進なされたんですか。おめでとうございます!」
「えっ、あ、ありがとう……」

 深々と礼をするケンスケ。
 反対に事情がつかめない二人。
 そんな二人を見かねてかケンスケが口を開く。

「二人とも、ミサトさんの襟章の線が一本から二本に増えているのに気がつかなかったのか!
 一尉から三佐に昇進なされたんですよね。」
「え、まぁ……」
「そんなところに気がつくのはお主だけやわっ!」
「しっかし、そうとなったら……!」

≪……怖い、この子。≫

 ミサトは背中に戦慄が走るのを禁じ得なかった。


「それでは、葛城さんの昇進及び綾波さんのお引っ越しを祝して、
 カンパ〜イ!」

 何故かケンスケによる祝賀会が企画された葛城邸。

「ったく……なんでいきなり焼き肉パーティーなんだか……」
「えぇやないか。食えるんなら。
 どうせ今回は全部ケンスケのおごりやし。」
「そこっ!何ヒソヒソやってんの?
 さあ食べて食べて!!」

 目敏いケンスケ。

「ねぇトウジ、試験の作戦会議じゃなかったの?」
「しゃあない。
 ワイも腹くくるで。」

 すでに諦め顔の二人。
 彼らのテストはどうなるのだろうか……

 と、シンジはふと隣のレイの方に目を向けた。
 実は最初から、肉を食べれないレイのことを気にとめてはいた。
 案の定、ほとんど食べていないらしい。
 心配になって声をかけるシンジ。

「綾波…食べていないの…?」
「肉……嫌いだから……」
「どうして?」
「肉…血の味がする……
 碇司令と食べに行ったとき、血の味がした…」
「え……」

 心の中にわき上がる憎悪と諦めの中で、言葉も出ないシンジ。

≪父さん、どんなものを食わせたんだ…≫

「綾波、焼き肉でも、よく焼けば血の味なんてしないから、食べてみれば?」

 と、近くにあった肉にひょいと手を伸ばす。

「ほら、食べてごらん……」
「…うん……」

 意を決して口にするレイ。
 と、食べたとたんに顔の苦そうな雰囲気がとれる。

「…美味しい…」
「よかった……」

 安堵するシンジ。
 と、突然後ろからの殺気を感じる。

「い〜〜かぁ〜〜りぃ〜〜」
「事情を説明してもらおう。
 事情次第で君の処遇が決まる。」

 恐ろしいプレッシャーで見下す二人。
 そこに、ミサトが助け船(?)を出す。

「大丈夫よ、二人とも。
 シンちゃんったらね、昨日突然レイの家から電話してきて。
『綾波は、僕の家で護ります!』なんていうんだからねぇ……」
「ななな、何言うんですか、僕は別にそんなこと……」
「碇……」
「コロス……」

 二つのどす黒いオーラによって、あわや殺されそうになるシンジ。
 が、直前で二人の手(と足)は止まる。
 後方の蒼いオーラはそれよりも強烈だった。

「碇君は…私が護るもの…」



こんなに楽しいとは思わなかった

こんなに楽しめるとは思わなかった

でも、こんな時は長くは続かない


だから、せめて今だけでも……


To be continued


【前話】   【次話】

あとがき

かろうじて完成です。

次からしばらく苦いので、ここでたくさん萌えて下さい(萌えれるか?)

m(_ _)m

4月19日、少々修正しました。
あまり変わっていないかもしれませんが…(汗




ぜひあなたの感想を柳井ミレアさんまでお送りください >[yanai_eva@yahoo.co.jp]


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