「使徒と……直接接触するというのかね?」
「危険すぎやしないか?」
「失敗すれば、セカンドインパクトの二の舞だぞ?」

 それぞれ勝手なことを言う男達。
 しかし彼らは一同に集っているわけではない。
 しかしそれでも集ってるように見えるのは、単なるホログラフィによるものだ。

「そもそも、何故に使徒を捕獲する必要があるのか?」
「もっともだ。
 無用な危険は犯さないに越したことはない。」
「……静粛に。」

 ざわつくことをやめない彼らを、キール議長が制した。
 しかし彼とて、この件に疑問がないわけではない。
 だが、今はゲンドウに任せてみよう、そう彼は思い、ゲンドウのホログラフを真っ直ぐに見つめて問うた。

「君の言いたいことは分かった。
 だが、失敗しては後がないということ、分かっているのだな?」
「……承知しております。」


Together

第参話 ― Bパート「心というもの」

 シンジは、屋上で何とも言えずため息をこぼしていた。
 ここ数日、全くレイを見かけない。
 と、そこに本部から電話がかかってきた。

「シンジ君?
 浅間山火口で使徒を確認したの。
 すぐに本部に来て!」
「分かりました……」

 ふとシンジは、『召集なら綾波もいるかもしれない』、そう思った。


「シンジ君?
 えっと、出撃の準備まで、ちょっとこっちで待ってて?」

 そうマヤが案内したのは、格納庫だった。
 そこにいたのは弐号機。
 ただし、潜水服のようなものを着ていた。

「これは……?」

 思わず口にするシンジ。
 しかし、意外な人物がその問に答えた。

「耐熱耐圧耐核防護装備、局地専用D型装備だ。
 シンジ。おまえはこれで出撃しろ。」

 ゲンドウだった。
 その後ろに隠れるようにしてレイもいる。

「分かったよ、父さん……」

 精神的に参ってしまったシンジに、いちいち父の高圧的な言い方に反抗する気力はなかった。

「ならいい。」

 そのままゲンドウは去っていった。
 シンジは若干手持ちぶたさそうな表情をすると、レイの方を向いた。

「綾波?」
「何?
 用がないなら……早くして。」

 『どこにいたの』、そういうつもりだったシンジは絶句した。
 レイの雰囲気、それは固く、心を知らないよう――初めて出会ったときのようだったから。
 そんなレイに取り乱し、逃げ出したい衝動に駆られたしたシンジは逃げるようにして立ち去っていく。
 レイはそんなシンジの背中をみて、一瞬何か言いたそうな目をしたが、それは本当に一瞬であった。


 トレーラーによって浅間山まで運ばれてきたエヴァ二機。
 今回、レイはバックアップとしてついてきている。

「シンジ君、いい?」

 リツコが通信を入れてくる。

「はい……」
「今回の作戦は、使徒の殲滅ではありません。
 使徒を出来る限り捕獲して下さい。
 もっとも、失敗時には殲滅してもらいますが。」
「分かりました……」
「あと、今回はアスカに頼んでもかまわないわ。」
「はい……」

 アスカに任せる――その方が確実かもしれない、そうシンジも思った。


 そんな浅間山を上から眺めるロープウェー。
 休日こそ観光客でにぎわうものの、今はネルフにより封鎖されている。
 ……筈であった。
 それにも関わらず、一つロープウェーが動いている。
 それの中に乗っているのは加持だった。

「使徒の捕獲…ねぇ。
 はたして、うまくいくものなんだろうか。」

 その問に答えるものはいなかった。


 シンジはマグマの中にいた。
 使徒捕獲作戦――その真意のかけらもつかめぬままに。
 アスカに弐号機のコントロールを任せ、殺風景なマグマに目を泳がせるしか今はすることがなかった。

≪綾波……なぜまた心を閉ざしてしまったの?
 君は……何を想い、何のために生きるの?≫

 そんなシンジを知ってか知らずか、アスカは弐号機を少し横に振った。


「想定深度到着。
 センサー等に未だ反応ありません。」
「そう……
 シンジ君、何か目視できない?」
「え?
 あ、いえ、何も…」

 あわてて見回すが、周りには同じマグマの風景だけ。
 飽きるほどに退屈であった。


『!?』

 その異変を最初に感じ取ったのはアスカだった。

『シンジ!モニターをチェックして!
 多分、アレ使徒だわ!』
「え、うん!」

 案の定、それは探し求めていた使徒――第八使徒サンダルフォンだった。
 観測室が再び騒々しくなる。

「なら、これより捕獲を開始して下さい!」

 そうとだけ告げるミサト。
 そのミサトを後目に、マコトがつぶやく。

「いいんですか?
 とっくに限界深度は超えてますよ?」
「責任者は私よ。
 それに、ここまで来て引き下がるわけにはいかないじゃないの。」

 時に人は、非情にならなければならない。
 それをなぜか、マコトは分かった気がした。

『捕獲アーム展開。
 これより捕獲します。』

 弐号機のアームが伸び、その蛹状の使徒を捕らえる。
 そのまま包み込み、使徒はあっけなくおさまった。

「ミサトさん、アスカが捕獲を完了しました。
 回収お願いします。」
「分かったわ。」

 ミサトの合図とともに、ケーブルが巻き上げられていく。
 そんな中、安堵のため息をもらす皆。

 が、突然なかの使徒が動き出した。

「まずいわ!
 予定より孵化が早まっているようだわ!
 捕獲は中止!
 目標の殲滅を!」

 弐号機はワイヤーをとくと、プログナイフを取り出した。
 そのまま孵化を始めているところの使徒に向かって斬りかかろうとする。
 が、高圧のマグマの中で耐え続けていた使徒にはさっぱり効かない。
 簡単にナイフをはじくと、そのままナイフはマグマの中へと落下していく。

『あっ!ナイフが!
 このぉ!
 このっ!』

 アスカが必死の肉弾戦を繰り広げるが、どうやら痛くも痒くもないようだ。
 逆にケーブルがみしみしと音を立てる。

「アスカッ!
 ケーブルが切れたら一巻の終わりよ!」
『分かってるけど!』

 と、唐突に使徒の方から攻勢に出た。
 強烈なタックルを喰らい、吹っ飛ぶ弐号機。
 ケーブルが2、3本切れる。
 体勢を崩し、さらに不利になる一方だ。
 アスカの戦いは続く。


 そのころ、レイは火口をのぞき込むようにしていた。
 中が見えるはずもないのだが、心の痛みが消えないのだ。
 ゲンドウによる命令で、シンジに「心」を見せなくなってからずっと感じている痛みが。
 ただでさえ辛いのを、今日はシンジが苦しい目に遭う度に、壊れそうなほどに痛む。
 レイはもう、いても立ってもいられなくなりつつあった。


『ダメ!
 全然効かない!』

 もうどうしようもない、といった感じのアスカ。
 と、ケーブルから出ている冷却ガスに目が止まる。
 アスカの決心は早かった。

『シンジ!
 全部の冷却ガスを、3番ホースに集めさせて!』
「え?
 ミサトさん!『全部の冷却ガスを、3番ホースに集めて!』だそうです!!」
「え?
 一体、何のつもり?」
「……なるほど。冷却するワケね。」

 リツコには瞬時で分かった。
 アスカは使徒に冷却ガスをかけるつもりなのだろう。
 そうすれば高温の使徒は脆くなり、プログナイフで切り裂くことが出来るだろう。
 しかし、肝心のナイフがない。
 リツコはレイに呼びかけた。

「レイ!
 プログナイフを、火口に投げ入れて!
 シンジ君に渡すのよ!」
「!?
 はい……」

 シンジのいる方向、シンジのことを強く想い、ナイフを投げ入れるレイ。
 そのナイフは、あり得ないほどの速さで弐号機へと向かっていった。


「ケーブル断線まで、後わずかしかありません!」
「急いで、アスカ!」
≪届いて…ナイフ…≫

 もはや彼らには、祈るぐらいしかなかった。


「アスカッ!
 ナイフ!」
『オーケイ!』

 アスカはそのナイフをつかみ取った。
 使徒は口を大きく開けて弐号機へと迫る。

『今だっ!』

 アスカは一気に冷却ガスを使徒へとかけた。
 たまらず「いやいや」のように逃げる使徒。
 しかしそこで怯むわけにはいかない。

≪なるべく粘って……≫

 そこにアスカは躊躇無くナイフを突き刺した。
 使徒はそのまま沈んでいく。

 第八使徒サンダルフォンは、無事、エヴァンゲリオン弐号機によって殲滅された。

「「「やったぁぁ!」」」
『ま、アタシにかかれば、こんなの昼飯前ってことよ!』
「アスカ?
 そういうの、普通は「朝飯前」っていうんだけど…」
『なに?文句あるわけ?』

 勝った余裕からか、ちょっとした軽口をたたく余裕も今のシンジにはあった。
 が。

ビシッ!

『「え?」』

ぷっつん。

 弐号機を支えていたケーブルの最後の一本が、音を立てて切れてしまった。
 支えを失った弐号機は、そのまま落下しようとする。

≪ここで……終わり?
 あっけなさすぎるわよぉ…≫

 しかし、弐号機は落ちなかった。
 とっさに飛び込んだ初号機が、弐号機を支えていた。
 初号機は耐熱装備を施されていないので、中のレイはとても暑いはずなのにも関わらず。

「綾波………」

 レイには自分の行動が不思議でならなかった。
 弐号機のケーブルが切れた瞬間、ほとんど反射的にレイは初号機を火口の中へと飛び込ませていた。
 そんな命令も、そんなつもりもなかったのに。
 ただ、どうやらシンジは無事だったらしい。
 そう思うと、レイは急に身体の力が抜けたような感じを覚えた。
 やはり耐熱装備なしではきつい。
 ふっと気を失ってしまった。


「綾波!」

 シンジは回収されるやいなや、レイの元へと走っていった。
 レイはいつかのようにぐったりした様子である。

「綾波!
 綾波……!!」

 と、レイがふと目を開けた。

「碇……く……ん?」
「綾波……よかった……」

 シンジはレイがちゃんと生きていたことに安堵した。
 レイはそんなシンジをみると、小さいけれどもシンジには聞こえるようにつぶやいた。

「うれしいときは……笑えばいいのね。」
「……うん……」

 レイは、ヤシマ作戦の時のように――いや、それ以上に綺麗に微笑んだ。
 シンジは、そんなレイを愛しく思った。


To be continued


【前話】   【次話】

あとがき

おまたせしました。Bパートです。
「シリアスとコミカルのはざまで」がモットーなので、多分Cパートは底抜けに明るいかと(汗

ではでは。
Cパートでお会いしましょう。

m(_ _)m




ぜひあなたの感想を柳井ミレアさんまでお送りください >[yanai_eva@yahoo.co.jp]


【Together目次】   【投稿作品の目次】   【HOME】