アスカを先頭、その後ろをシンジ、最後尾をレイ。
 3機の巨人が歩を進めていく。
 そして、一つ開けた縦抗へ出る。
 一応注意し、アスカが上へとライフルを向けたそのとき。

『きゃぁっ!
 何よコレっ!』

 アスカはとっさに後ずさるが、その拍子にパレットライフルを縦抗の下へと落としてしまった。
 不運なことに、ついでにシンジのパレットライフルも押しつぶしていたらしい。
 さらに不運なことには、停電騒ぎのせいでライフルが調達できず、レイはライフルを装備していない。
 つまり、彼らは火器を失ったことになる。

「ど、どうしたの……アスカ?」
「し……使徒。」

 シンジが慎重に顔を出すと、そこには4本足の黒く醜い蜘蛛がいた。


Together

第四話 ─ Cパート「FLY ME TO THE MOON」

『今、アタシ達の手にある武器について再確認するわよ?』
『パレットライフル、無し。』
「プログレッシブナイフ、3機が各一本。」
『……それだけ?』
「アスカもそれはわかってるだろ?」
『ったりまえでしょ。
 じゃあ、敵は溶解液で攻撃してくる物と思われる。
 いいわね?』
「じゃあ、どうやって戦う…?」
『ディフェンスがATフィールドを展開し、オフェンスの攻撃開始までをカウントで逆算。
 またそれまでの間はオフェンスもサイドより同様にATフィールドを展開してディフェンスの支援を。
 サポートは縦抗を降下、パレットライフルをオフェンスにパスします。
 そのままタイミングを合わせディフェンスが落下し、同時にオフェンスはライフルで使徒を狙撃。』
「綾波……どう割り振りを?」
『そりゃ決まってるじゃない、アタ…』
『今回の作戦においてはATフィールドを近接して展開するため、シンクロパターンの近い二人を選定する必要があります。
 また、その際には、シンクロ率の高いパイロットはオフェンスを、シンクロ率が低くフィードバックの少ないパイロットがディフェンスを務めます。』
「それって……」
『行きましょう。』

 なんだかよく分からないままに作戦が決まってしまった、そうシンジは思った。
 他に自分で作戦案など思いつかないし、アスカも反論しないあたりはこれが最善の案だと思うのだが、納得いかない。
 綾波は溶解液に身をさらし、一方の自分は後ろから狙撃するだけだ。
 守ってもらいっぱなし。
 だが、バッテリーはどんどん減っていく。時間がない。
 シンジはやむなく決断を下した。

「これから1万ミリセカンド後に射撃開始。」
『ディフェンス出ます。』
『オフェンスも出るわよ!』

 アスカは先頭を切って飛び出すと真っ逆さまに降下していった。
 使徒はそれを見て、溶解液での攻撃を試みる。
 そこにレイが飛び出すと、そのままつっかえ棒のように縦抗に張り付き、ATフィールドを展開した。
 しかしシンクロ率の高くないレイのATフィールドはやや弱く、零号機に負担がかかっているのが目に見えた。
 そんな様子を見て、シンジの中で何かが弾けた。

「綾波っ!」

 悠長に横からATフィールドを張っていられない。
 自分もそのままレイのすぐ下に突っ張り、ATフィールドを展開する。
 シンクロパターンが近いのと、お互いを信じる心の強さとでATフィールドは単純な二人分よりも強い物が形成される。

『ったくもう!
 カウント3,2,1…』

 アスカの舌打ちで我に返り、シンジは飛んできたライフルを受け取るとレイの体の横から手を回すようにして構え、照準もそこそこに乱射する。
 そして手を離すとそのまま同じく手を離したレイを抱きかかえるようにして降下する。
 とっさに体位を入れ替えて自分が盾になるようにするのも忘れてはならない。
 第九使徒は初のエヴァ3機の同時運用によって撃破された。


 シンジ達チルドレンは、ちょっとした丘に並んで転がり、まだ明かりの点らぬ第三新東京市を眺めていた。
 ヒカリが小さく感想を漏らす。

「いつもは町の灯りがじゃまでよく見えないけれど……星が綺麗ね。」

 セカンドインパクトで大気汚染、という物は確かにあったが、皮肉なことにその後人類の発展が足踏みしたことでかつて悲観されていたほどの空ではない。
 空には満天の星が輝いていた。
 しかし、シンジは町の灯がないのがどうも不安だった。

「僕は……町の明るさがないのは寂しいと思う。」
「人は…そう感じるのかもしれない。」

 珍しくレイがこのような会話に入ってきた。

「人は闇を恐れ、火を使い、闇を削って生きてきたわ。
 碇君のように感じる人がいても、おかしくない。」

 ヒカリもシンジも、レイの言ったことに少し、驚くようにしてレイを見つめる。
 照れ隠し、ではないだろうがレイは空を仰ぎ見た。

「月……」

 見れば月は綺麗に輝いていた。
 それを見るとシンジはやはりヤシマ作戦の時を思い出す。

『何がそんなに悲しいの?』
『悲しくて泣いてるんじゃないよ。綾波が生きていて嬉しいから泣いてるんじゃないか。』
『嬉しいときも、涙が出るのね。
 ごめんなさい、こんなとき、どんな顔をしたらいいか分からないの。』
『笑えばいいと思うよ。』

 あのときにレイが見せた純真無垢な、まさに天使という表現がぴったりの微笑み。
 あれは今もシンジの脳に強く残っている。

「月……綺麗だね。」
「綾波さんって、そうやってると、まるで月の女神みたい。」
「妙なこと……言わないで。」

 口ではそう言いつつも、顔を背けたレイの頬がわずかに紅潮しているであろうということはシンジにも彼女の口調からうかがい知れた。
 ふと、レイは息を吸うと、澄んだ声で歌い始めた。
 その曲はシンジにも覚えがあった。
 割と古い曲、「Fly me to the moon」。
 何となくS−DATに入れていた気がする。


 私を月へと連れて行って。そして星々の間で遊ばせて。
 私に火星や木星の春の様子を見せて。
 それは、手を繋いでほしいということ。
 それは、口づけしてほしいということ。

 その澄み切った歌声は、風のように流れ、動きつつある第三新東京市へも届いていた。
 それに気づく人はふと足を止め、レイの歌に聴き入っている。
 決して声量があるわけではないが、よく通る声。
 癒されるような思い。


 私の心を歌で満たして。そしていつまでも歌わせて。
 あなたは私の憧れるもの、好きなもの、尊敬しているもの。
 それは、 真実であってほしいということ。
 それは、あなたが好きということ。

 そしてレイが歌い終わるのを待っていたかのように、町に再び灯はともり始める。
 ヒカリもシンジも、一瞬間あってから盛大な拍手をレイに送った。
 レイはそんなシンジの方に近寄ると、ヒカリにも聞こえるぐらいの声で静かに、しかし深い念を込めていった。

「ありがとう……」

 シンジはそんなレイの肩を優しく抱いた。
 このまま時が止まってしまえば、使徒もなく、ただ二人で永遠にいられるのに…
 シンジはそんなありそうもない願いを抱いていた。


 シンジはリビングで、ソファーに座って休んでいた。
 ミサトは使徒戦の始末で今日も残業らしい。
 書類の山に突っ伏すミサトの姿が目に浮かぶような気がして、シンジは苦笑した。
 と、風呂場からレイが出てくる。
 ラフな格好にやや朱に染まった肌がかわいらしい。
 レイはそのままシンジの横に腰掛けた。
 そのまま、何も言わずに二人で寄り添う。
 それだけで十分だった。
 と、ふとカスミのことを思い出した。
 ユキヒコの姉。
 何故か使徒襲撃の方を知らせ聞いていた人物。

「不思議な人だね……」

 思わず口をついて出てしまった。
 レイが不思議そうな顔をして見ている。

「いや、カスミさん…」
「山田二尉……
 不思議な人……」
「そうだね。」

 二人はそのまま、二時間ほど寄り添っていたらしい。
 その翌日、レイがくしゃみ気味だったのはそのあたりが原因だろうか。


To be continued


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あとがき

決戦編、とした割には決戦の描写が少なかった今回です(汗
今回本文中にFly me to the moonが出てきますが、歌詞は著作権との兼ね合いにより出てきません。
また日本語訳は私による意訳です。
あまりアテになさらぬよう(ぇ

ではでは。また次回、第5話でお会いしましょう。

ミレア




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