< ペルエヴァ第0話 起きて、碇君 >




或る青く晴れ渡った9月の朝。
世間一般の小中高生は長い夏期休暇が明けてまた学校へ通う日々が始まる。
そして、彼らが暮らす街も朝の光を浴びて徐々に動き出してゆく。
そんな中、かなり大きな音量で目覚まし時計が鳴り響く部屋がある。

デジタル時計は7:30を表示している。

部屋の主らしい少年は死人を起こすのにも充分そうな音量の中でも平然と眠っている。
すると、部屋の扉が開き、小さな影が進入し目覚まし時計を止めて、またもとのように平然と出てゆく。
しかし、少年は気づく素振りを全く見せない・・・・・・


7:35、またもや部屋の扉が開き、人影が現れる。

どうやらさっきの侵入者とは違う人物らしい。
その肌は病的なほどに白く、髪の毛は明るい水色、そして魅惑的な紅い瞳。
アイドルと言っても充分に通じる可愛い少女だ。
少女は無言で未だベッドで眠り続ける少年へと歩み寄る。
その紅い瞳は少年の寝顔を優しげに見つめ、少女は妖しく微笑む。

「碇君、私と一つになりましょう・・・それはとても気持ちいいことなの」

そう呟くと、少女は碇君と呼ばれた、少年の唇に自分の唇を重ね合わせ、そのまま顔中にキスをする。



7:45

「はっ、いけない。ここに来た目的を忘れていたわ」

どうやら少女はキスをしに来たわけではないらしい。

「起こさないと・・・碇君、起きて」
「・・・・・・・・・・」
「・・・起きて、碇君」
(・・・・・ん?)
「起きて碇君、朝よ」
(・・朝?・・・朝・・・)

「そう、やっぱり・・・朝はお目覚めのキスじゃないと起きないのね」

さっきまで散々キスしていたはずだが・・・少女の中ではあれはお目覚めのキスとは別物らしい。
そのとき、突然背後から声が聞こえる。
蒼い髪の少女の後ろに立っていたのは、赤みがかった長髪、活力を秘めた青い瞳の、これまた美少女だ。
但し、とても不機嫌な様子だ。

「そんなわけないでしょ、そんなんじゃそのバカは一生かかっても起きやしないわよ・・・よく見ときなさい、バカシンジはこうやって起こすのよ。起きろ!!バカシンジ!!

と言いつつ耳元で大きな声で怒鳴る。
後ろに立っている人物を確認すると、それまで天使の微笑を浮かべていた紅い瞳の少女の顔は明らかに不機嫌なものへと変わっていく。
一方、さすがの少年も反応したようだ。

「んん、なんだ、アスカか・・・」

しかし、完全に目が覚めるにはまだまだのようだ。

「『何だ』とは何よ!それが、こうして、毎朝、遅刻しないように起こしに来てやってる幼馴染に捧げる感謝の言葉ぁ〜?全くもう!遅刻するわよ!さっさと起きなさいよ!!」
「・・・おはよう、碇君」
「んー、おはようアスカ、ありがとう感謝してるよ。だから・・・もう5分だけ寝かせて」

どうやら少年は紅い瞳の少女の存在には気づいてないようだ。

「何を言ってるのよ!もう8時よ!遅刻するわよ!起きなさい!」

青い瞳の少女は怒鳴りつつ少年の蒲団を無理やりはがす。

「何するんだよ〜」

少年は抗議の声を上げるが、直後に青い瞳の少女が振り下ろした手によって黙らされる。

「バシッ!!」

「エッチ!バカ!ヘンタイ!信じらんない!!」
「しょうがないだろ〜朝なんだから」

この年頃の女の子に、男の朝の生理現象を理解しろ、と言っても難しいだろう。
少年の左頬にはくっきりと赤い手形がついており、青い瞳の少女の顔は真っ赤に染まり、紅い瞳の少女の頬はわずかに赤く上気しているが、その目線は少年の身体の一部から離れない。

「碇君に乱暴しないで。何故貴方はいつも碇君に乱暴するの?」
「・・・綾波?何で・・・綾波が僕の部屋にいるの?」

少年がそう言うと、紅い瞳の少女は少年に非難の眼を向けた。

「・・・碇君を起こしに来たの・・・」
「あ、そうなんだ。アハハ。ありがとう綾波」
「ん、いいの。・・・絆だから」

二人のあいだに和やかな空間が広がる。

「(何よこいつら朝から!)いいから早く支度しなさいよ!バカシンジ!」
「碇君は馬鹿じゃないわ。それに碇君に乱暴しないで」
「何よ!こうしないと起きないバカシンジが悪いのよ!そうでしょシンジ?」
「えっ?いや、そのなんてゆーか・・・もう少し優しく起こしてくれると嬉しいかなーなんて、思ったりして」
「ぬわぁんですってー!!」
「・・・碇君は悪くないわ。貴女はもう用済み。これからは、私が碇君を起こすの」
「いや、シンジが悪い」
「「キャッ」」「ウワッ」

言い争う少女たちの背後に忽然と長身で赤いサングラスをかけた髭の男が現れた。

「父さん、驚かさないでよ」「おじさま、おはようございます」「・・・・・・」
「フッ、問題ない。シンジ、そもそもは朝自分で起きられないお前が悪いのだ。それなのに、毎朝わざわざ起こしに来てくれるアスカ君に対して文句を言うとは、言語道断。来月の小遣い30%カットだ」
「ええーそんなー」
「嫌ならば、自分ひとりで起きてみろ。どうせ出来はしないだろうがな」
「で、出来るさそれくらい!」
「シンジ・・・あんた本気?生まれてからこの方、自力で起きられたのは数えるくらいしかないのに・・・」
「うう、大丈夫だよ。多分・・・」

少年の言葉は段々小さくなっていく。

「よし、決まった。これからシンジは毎朝自分で起きる。アスカ君も、ん?君は?」
「綾波レイです」
「そうか、綾波君もシンジを起こしに来る必要はない」
「でも・・・シンジが自分で起きられるとは思えません」
「フッ、問題ない。シンジも男だ。男に二言はない」

そこへ先ほど目覚ましを止めた影が現れた。

「クワー、クワッ、クワッ!!」
「ん?ペンペンどうしたの?朝ご飯ならいつもの所にあるよ」
「碇君、彼は『遅刻するから早く学校行け』と言っているわ」
「綾波?何でわかるの?ってこんな時間だ!遅刻だー!」
「フッ、愚か者め」
「何言ってるんですか!おじさまもパジャマのままじゃないですか!」
「う、うむ問題ない」
「問題ありますよ!早く仕度して下さい!」
「クウェー、クウェクウェ、クワー」
「『全く、俺がついてないと駄目な奴らだな。しょうがねえ父子だぜ』といってるわ」
「「ペンペン!!」」
「クワッ」
「『フッ、無様だな』ですって」
この騒ぎはいつになったら終わるのだろう?













通学路を大声で喚きながら疾走する3人の少年少女たちがいる。

「やばい、新学期早々、遅刻だ〜」
「全く、何で、あたしまで一緒に遅刻しなきゃならないのよ!シンジお詫びに帰りにケーキ奢りなさいよ!」
「えー何で?!」
「何か文句あんの?あんたのせいでしょっ!」
「・・・貴女一人先に行けば問題ないわ。私は・・・碇君とだったら遅刻しても平気だから・・・」
「(クッこの女はー)うっさいわね!あんたには関係ないでしょっ!」


3人の横を青いルノーが交通法規無視の猛スピードで駆け抜けていく。












学校2−A


「ん?おいトウジ、碇たち来たぜ。惣流どころか綾波も一緒だぜ」

校門の方をビデオのファインダー越しに見ていたメガネの少年が背後の席に座る少年に話しかける。

「何やて、かぁー朝っぱらから、全く碇のヤツは羨ましいやっちゃのう」
「ほんとほんと、2学期早々から我が中学の誇る2大美女を独り占めか。また怨まれるなこりゃ」
「鈴原、馬鹿なこと言ってないで、先生が来る前に花瓶の水替えなさいよ。あんた週番でしょ!大体、普段はともかく始業式の日くらいちゃんと制服着てきなさいよ!」

どうやら関西弁の少年は夏休み明け早々に週番のようだ。
彼は何故か一人だけ黒いジャージを着ていた。
ジャージの少年が花瓶の水を換え終わると、教室に3人の少年少女がやってきた。

「おはよう碇、惣流、綾波」
「おはようさん」
「おはようアスカ。碇君に綾波さんも」

しかし3人は息が切れて話せないようだ。

「オッハヨー、シンジ良かったね、ミサト先生まだ来てなくて」
「おはようございます、碇君、惣流さん、綾波さん」
「おはよう、シンジ君。やっと会えたね。君に会えない日々がどんなにつらかったことか」

そこにまた新しい男女が3人現れる。

「おはよう、みんな」
「・・・おはよう」
「グーテンモルゲン!久しぶりねヒカリ」

3人ともやっと回復したようだ。








ガラッ

「ハイハーイ、みんな座って〜。HR始めるわよ〜」

どうやらこのクラスの担任らしい若い女性が教室に入ってくる。
とても活力に満ちた目をした、元気そうな女性だ。

しかし、9人の生徒は全く気づく様子もなく、会話を続けている。

「こ〜ら、そこの9人。もうHR始めるわよ」

その声でやっと担任の到来に気づき、ドタバタと席に着く9人。

「あんたたちお願いだから、始業式の最中は問題起こさないでよ〜。さて、2−Aの諸君!長い間会ってなかったけど元気だったかな〜?」

どうやら、外見通りの性格のようだ。

「「ハイッ」」

2−Aの生徒たちは口を揃え元気よく返事をする。
担任に似てノリのいい生徒たちのようだ。

「よ〜し、それじゃ、長い夏休み。恋に、勉強に有意義に過ごせたかな〜?」

「「ハイッ」」

生徒たちはまたもや全員一致で口を揃え返事する。

「よろしい。それじゃ今日の予定よ。この後は始業式。その後は授業だけど、これは午前中で終了よん。で、最後の授業は私だからそのままHRでプリント配って明日以降の予定を伝えて解散ね」

生徒たちから歓声が上がる。他のクラスの担任ではこうはいかないだろう。












体育館

始業式といえば校長の長い話が定番なのだが、この学校は校長が中高兼任なのでやたら話が短い。
しかし、代わりに生活指導の教師の話が長いのであった・・・。
20世紀末からの伝統である式の最中、貧血で倒れる生徒。
それは2015年になっても変わらなかった。
どうして立ったまま話を聞かせるのだろう?

運の悪いことに倒れた生徒の中に赤い瞳の少女がいた。
式の最中、ずっと隣の少女を盗み見していた黒髪の少年は咄嗟に少女を抱きかかえる。
それを見て逆上し、少年に襲い掛かる青い目の少女。
それに加わる銀髪の少年と茶髪の少女。
煽る黒ジャージ、撮影するメガネ。
金切り声を上げて騒ぎを止めようとする雀斑の少女。
さらに巻き添えをくらい、倒れるメガネの少女。
体育館には阿鼻叫喚の地獄絵図が広がり全校生徒の心に恐怖を刻み、始業式は終了となる。



2時間目、3時間目も同様の騒ぎは起こった。


2−Aの1生徒は語る。

「ええ、ホント良く生きてるなって自分でも不思議です。これからの人生の為にもあの9人には近づかないようにします。出来ればクラスを変えて欲しいですね」
(プライヴァシー保護の為、音声は変えています)
因みにこの学校、3年間同じクラスでクラス変更などというものはない。

ていーか普通何らかの処分が降るはずだが、この学校の教師はみな駄目駄目穏やかな性格なのであまり気にしなかった。
まあ、犯罪行為をするようなこともないし、多少騒がしいだけだろうと見られていた。










そして、4時間目・・・

「あんたたち・・・新学期初日から随分とまあやってくれたもんねぇ」

若い担任教師の顔は引きつった笑顔を浮かべていた。
9人はみな同時にここで逆らえば殺られると瞬時に悟った。
彼らの担任は普段は気さくだが怒ると学校でも1,2を争うほど怖かった。
(因みに彼女とトップ争いをしているのは金髪の女教師だ)

「罰として文化祭の準備をしてもらいます。空き教室の机を片付けて、掃除して私のところに報告に来なさい。そしたら重〜〜〜い機材を運んでもらうから」

「ええー!かなり時間がかかるじゃない!それにか弱い乙女に重い機材を運ばせるなんて!」









その瞬間、クラス全員の心が一つになった、
















誰がか弱いんだ?!






「アスカ・・・これはもう決定事項よ、反論は一切認めないわ」
「でもぉーーー」
「デモもストライキもないの!!自業自得でしょ」
「葛城先生・・・」
「んー、なあにレイ?」
「悪いのは総てその人。私と碇君は関係ないわ」
「ちょ、ちょっと!あんた何言ってるのよ!」
「レイ・・・さっきも言った通り、反論は受け付けないわ。あのね、言っておくけど貴方たちのせいで私、緊急職員会議という名の吊るし上げよ・・・学年主任にネチネチと他の先生たちの前で説教されるのよ・・・それでもまだ何か言いたいことはある?」

担任教師から表情が完全に消える。
それを見た9人は諦めすべてを受け入れ黙り込み、教師は沈黙を肯定と捉え満足したようだ。

「よろしい、それでは明日以降の予定を伝えます・・・」

しかし、彼らは知らなかった。彼女が怒られる理由は彼らが巻き起こした騒ぎだけでなく、彼女自身にもあるということに。
実は、彼女は新学期初日から遅刻寸前で、交通法規をこれでもか!
というくらい無視して学校にやってきて、それを学年主任に見つかったのだ。
警察沙汰にならないだけましである。
















空き教室

「あーあ、新学期初日から災難だよなー」
「全くや、昼飯もなしやで。ごっついきついわ」
「あ、鈴「あーもう、鬱陶しいわね!何時までも!」
「なんや偉そうに!もとはといえば惣流のせいやろ!」
「何よ!私が悪いって言うの!ふざけんじゃないわよ!」
「惣流、喧嘩なんかしてないで早く終わらそうよ」
「あんですってぇ?もとはと言えばあんたが悪いんでしょ!責任とって私の分もあんたがやりなさいよ!」
「ええっ?どうして僕がっ!?」
「あんたがアイツとイチャついてるのが悪いんでしょ!」

少年は助けを求めるように周りを見る。

「まあまあ、惣流。それよりみんな、『ペルソナ様』って知ってるか?」








その一言がすべての始まりだったんだ・・・








エンディングソング 「IT'S SHOWTIME!!」 by B'z(SINGLE)










「楽屋」

シンジ :お疲れ様で〜す。ペルエヴァ0話でした〜
アスカ :0話の癖に3話より後に書かれてるのってどういうこと?

ケンスケ:それはだな、単純に作者がバカだからだ

レイ  :単純に外伝扱いにしようと思っていたけど、気が変わったらしいわ
トウジ :ケンスケ、次回からどうなっても知らんで。そないなこと言ってしまってからに・・・
レイ  :さようなら相田君・・・
シンジ :グッバイ、ケンスケ・・・君の事は忘れないよ・・・
アスカ :あんたがいなくなれば私の出番も増えるわね!
ヒカリ :いくらなんでも言いすぎよアスカ。でも相田君は不思議と作者に好かれているからそれくらい問題ないわよ
アスカ :相田ばかり優遇されてるわね〜。出演率も高いし・・・全く、私なんてね〜
マユミ :あの〜それでも私よりはいいと思いますが・・・
マナ  :そうだよ〜アスカはまだいいほうだって!
レイ  :大体ここはLRS小説サイトなのよ。つまり、碇君と私のための場所・・・SALに用はないの・・・出番が少しでもあるだけ感謝しなさい
アスカ :それが許せないのよ!なんでアスカ様専用小説を書かないのよ!あの馬鹿は!!
シンジ :アスカ、そういうことを言うと、ますます出番が減るんじゃ・・・
アスカ :キー、超ムカツク!
レイ  :(クスクス)SALは用済みなの
アスカ :グワアアアアアーーー!!!ふざけるんじゃないわよーーー!!!
ケンスケ:やばい!アスカが切れた!逃げろ!
トウジ :シンジ、後は任せた!
ヒカリ :アスカ可哀想に・・・
マナ  :やっぱり、アスカはこうでないとね
マユミ :碇君大丈夫でしょうか?
アスカ :待てーーシンジーー!!
シンジ :どーして僕がーーー!!

ミサト :てなわけで次回もサービス!サービス!って私これだけー?!


































カヲル :ん?誰もいないのかい?・・・折角作者からの差し入れ(虎屋の羊羹)を持ってきたというのに
ペンペン:クワッ






後書き

アスカファンの方々、すいません。
実は僕、エヴァの女性キャラの中でアスカがあまり好きではありません・・・なもので扱いが酷いかもしれませんがお許しを。

謝罪終了。(マテ

この話は一応外伝にするつもりだったんですが、辞めました。
理由は、少し背景世界の説明が足りないと思ったからと、前半レイの出番が少ないので、無理矢理増やすためです。
全体的に伏線とかなしでギャグ要素しかないので、作品全体も明るくなるかなと思いましたがどうですか?
外伝はシンジ以外の視点で書く予定です。レイ、ケンスケですかね、今のところ想定しているのは。
どうでもいいですけど、原作では文化祭ではなく体育祭でした。
最後まで読んでいただきまして感謝します。




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