それは確かに聞き覚えのある声だった


そして、振り返ったその先にいた人は、僕らを驚かすには充分だった










< ペルエヴァ第5話 私が説明しましょうか? >






 「私が説明しましょうか?」

 その人は、繰り返し僕たちにそう告げた。

 「マ、マ、マヤ先生っ!!」

 僕らが振り返ったその先に居たのはマヤ先生だった。いつもとまったく変わらない穏やかで優しげな雰囲気でニコニコしながらこっちを見ていた。








 伊吹マヤ先生、23歳。
 うちの学校の数学教師だけど、その若々しい見た目(と言っても実際若い。今年教師2年目だ)と穏やかな雰囲気から数学教師に見られることがあまりない。とても家庭的な人で優しく、生徒から人気があり、憧れのお姉さん1位らしい。どうもリツコ先生の後輩らしく、『先輩』と呼んでは注意されているところをよく見かける。
 こう言ったら何だけど、マイペースと言うかのんびりしてると言うか、少し天然入ってるところがあると思う。




 「大丈夫?怪我はない?」
 「ありません、ってどうして伊吹先生がここにっ?」
 「『どうして?』って、葛城先生に頼まれてあなた達の様子を見に来たのよ」
 「それはそうと、1階からここまで何もなかったんですか?」
 「『何も』って、別に何もないわよ」

 病院の構造は変わってるし、人は全然いないしで変だとは思わなかったんだろうか?まあでも下の階が安全だということがわかっただけでもいいかも知れない。

 「そうだっ!!綾波、綾波を見ませんでしたかっ?先生っ!!」
 「・・・見てないけど、一緒じゃなかったの?」
 「それが、その、えっと・・・」
 「俺が説明するよ」

 何から説明していいものやら困惑する僕に代って状況を説明してくれたのは相田だった。いつも思うけど、相田だけじゃなくみんな凄いよな、と。それに引き換え僕は駄目なところばかりで・・・普段は気にならないけど、みんな何故僕と一緒にいるんだろうと思ってしまう。
 みんなの心を、友情を疑いたくないのに、それを信じきれない自分がいる。自分に自信が持てないから・・・どこかで僕は要らない人間なんだと叫ぶ自分がいる。それを自覚して暗く沈んでゆく自分。またそれに対して何故前向きに考えられないんだろう?と悩む自分。次から次に自分が出てくるけど、どれも暗くて、汚くて、ドロドロしている嫌な自分ばかりだ。自分を嫌いな自分、またそれを嫌いな自分、と際限なくどこまでも続いてゆく・・・・・・・。
 いつかここから抜け出せる日が来るんだろうか・・・・・・?







 「ふ〜ん、成る程ね〜そんなことがあったの。みんな頑張ったのね、偉いわ」

 テストでいい点を取ったときのように僕らを誉める先生。緊張感が全然伝わってこない・・・。相田が説明したことを、僕らが体験した事実を信じてくれていないのだろうか?

 「『成る程』って悠長に感心してる場合でもないと思うんですが・・・」
 「大体、あんたこの事態を説明してくれるんじゃなかったのっ?!!」
 「ごめんなさいね、私が説明できるのは『ペルソナ』のことだけで地震に始まる一連の事態は説明できないわ」


 「「「「「「ペルソナっっっ??!!」」」」」」


 「ええ、そうよ」
 「あ、あのよく分からないんで最初から説明して貰えますか?」

 正直言って訳がわからないことだらけだ。
 地震はまだいいとしても、一瞬にして構造の変わってしまった病院、行方不明の綾波、動く死体、そして『ペルソナ』・・・・・・どれをとっても、一つでも大変な出来事な上にそれらが一挙に押し寄せてきて僕らに襲い掛かってきた。まるで停まっていた時計が、停まっていた分まで取り戻すかのように凄い速さで針を進めている感じがする。そして僕たちは何もすることが出来ずにその時の濁流に流されている。
 でも、『ペルソナ』のことだけはわかるかもしれない。何故マヤ先生が『ペルソナ』について知っているかは謎だけど・・・。でも道は閉ざされてはいない、暗くて見えないだけで。だからきっと綾波も見つかる、そう信じよう。取り敢えずは『ペルソナ』について知らないと。今後、重要になる、そんな気がする。

 そしてマヤ先生は普段は見せない真剣な表情になると語りだした・・・・・・








 ペルソナ・・・・・・『仮面』と言う意味の言葉よ。

 人は誰しも仮面をつけているわ・・・あなたたちも、そして私もね。『ペルソナ』とはその『仮面』そのものなのよ。
 詳しく説明するとね。その名の通り、『ペルソナ』は自分の心の中に住むもう1人の自分。いえ、もう『1人』じゃないわね、自分の中にある可能性、複数の自分の事よ。意識と無意識の狭間でその人自身を形成する人格の欠片たち。色んな局面にあわせて出てくる自分、心の一番深いところにいる自分が、自分を覆い隠す為に被る『仮面』なのよ。
 例えば、優しいシンジ君、怒ってるシンジ君、喜んでるシンジ君、どれもシンジ君であって、シンジ君でないとも言えるわ。大げさに言えば全く別のシンジ君よね?

 ・・・シンジ君を表す無数のステータスがあると思ってくれる?その膨大な量のステータスの数値がほんの少し違うだけで、本質はシンジ君でも、少し違うシンジ君が出来るわよね?『ペルソナ』とはその違う自分そのものなのよ。

 本来あったかも知れない別の自分。

 もしかしたらシンジ君はもっと強気な性格になってたかもしれない、そんな可能性もあるわ。そして、その可能性が『ペルソナ』なの。もっと分かり易く言うなら、多重人格を形成する人格のひとつとも言えるわ、かなり乱暴だけどね。
 話を聞いて分かると思うけど『ペルソナ』は複数存在するわ。『ペルソナ』との相性も存在するし、強さのランクと言うのもあるのよ。あなたたちの意志の強さに応じて、強力な『ペルソナ』を使えるようになるわ。それと『ペルソナ』は何故か神話に出てくる神様や、伝説上の生物の姿をしているの。

 重要なことは『ペルソナ』は意志を持っているということ。それを制御できるのは主人格として今現在存在しているあなたたちの意志の強さによるものなの。だから、精神力の弱い人や、不安定なときは『ペルソナ』が暴走する恐れもあるわ。確かに『ペルソナ』は私達の呼び声に応じて『力』を貸してくれるけど、でも決して便利な『モノ』だけではないわ。憶えておいてね。

 『ペルソナ様』をして、フィレモンに会って自分の名前を言える意志の強い人間だけが得ることが出来る。 これは昔から変わらないみたいね。私もそうだったから・・・。
 それで、何故あなたたちが『ペルソナ』を使ったのが分かったかというと、『ペルソナ』を使える人―『ペルソナ使い』って呼んでるけど―は共振によって分かるのよ。尤も、共振といっても1人1人違う波動を持っているんだけど、『ペルソナ使い』だけが分かる特別な波動を放っているわ。これは訓練次第でその波動を抑え、隠したりできる様になるわ。だから、今の『ペルソナ』が使えるようになったばかりのあなたたちだと丸分かりという訳よ。良く知っている人なら、表情を読み取るようにその時の感情や状態が分かったりすることもあるわ。

 もっと詳しい話が聞きたければ『ベルベットルーム』に行くといいわ。








 マヤ先生の言ったことを要約すると、『ペルソナ様』をして『フィレモン』に自分の名前を言えると『ペルソナ』が使えるようになる。そして、『ペルソナ』ってのは自分自身の中に眠る別の自分とも言うべきものが具象化したものである、とこうなる。
 突然『ペルソナ』が使えるようになったときは驚いたけど、マヤ先生のおかげで『ペルソナ』に対する不安は少しは解消された。少なくとも恐怖は感じなくなった。まあ兎にも角にも、自分たちに起きた不思議な出来事のうち一つは疑問が解決したわけで少しは気分も落ち着いたんだけど、それでも心を覆う大きな不安の影を消すことは出来なかった。

 「成る程ね、そうと分かれば話は早いわ!『ペルソナ』を使って、この事件をあたしたちで解決すればいいのよっ!」

 それでもまだ惣流程にはポジティヴには考えられない・・・。

 「でも、原因が何かも分かってないんだよ?僕たちだけじゃ無理だよ」
 「何馬鹿なこと言ってるのよ!あんたあの優等生を助けたいんでしょ?!」
 「そうだけどさ、何も手がかりはないし、『ペルソナ』だって自由に使えるわけじゃないし・・・」

 まったくいつも思うけど惣流はどうしてこう無茶な考え方ばかりするんだろう?今僕らに分っているのは『ペルソナ』が何かということと、『ペルソナ』が使えるようになった理由だけで『ペルソナ』自由に使えるわけでもないし、この一連の事件の原因の糸口すら見えてないのに・・・。

 「そうね、碇君の言う通りよ、アスカ。無茶はいけないわ」
 「ヒカリぃ〜」

 委員長が僕に賛成すると、他のみんなも賛成してくれた。みんな心の中ではそう思っていても惣流が怒るから言い出せなかったみたいだ。惣流も全員に反対されてまで無理矢理な行動はしないと思うけど。

 「取り敢えず学校に戻りましょう?山岸さんや霧島さんにも話を聞きたいし」
 「ところで先生、『ベルベットルーム』って何処にあるんですか?」
 「『ベルベットルーム』は1箇所だけじゃなく、色々な所に入り口があるわ。『ペルソナ使い』にしか見えないようになってるけど、すぐに分かるわ」
 「・・・それじゃさっさと学校に戻りましょっ!!」


 と言うことで僕達は学校に戻ることにした。
 綾波のことが心配で仕方なかったけど、現時点では手がかりも何もなく、どうしようもなかった。
 尤もこの判断が、後に思わぬ結果を生み出すことになったんだけど・・・






 「ん?何か街の様子が変じゃない?」
 「?別に何も変わってないと思うけど?」
 「本っ当!にっぶいわねぇあんた!さっきあれだけの地震があったのよ!少しは街に影響がある筈でしょう?なのに何でこんなに静かなのよっ?!」

 言われて、町の様子を伺うと惣流の言う通りだった。本来ならこの時間この場所には人がいる筈、車が走ってる筈、なのにそれがない。それに地震があったのだから、騒がしくなるのが普通だ。でもこの静けさはなんだろう?町からは人の気配が感じられなかった。
 もしかしたら・・・
 僕がその最悪の仮定を何とか否定しようと真剣に悩み出した横で渚君があっさりと言い放つ。

 「ふむ、これはもしかしたらさっきの病院のような出来事が町でも起こっているのかもしれないね」
 「渚ぁ、何悠長なこと言ってるんだよ!それが本当だとしたら大変なことだぞ!」
 「そうよ!あんた何考えてるのよ!街にはあたしたちの家族や知り合いがいるのよ!」

 惣流が言うまで気付かなかったけど、みんな家族や友人がいる。
 僕にも家族がいる。もし父さんやペンペンに何かあったら?!
 父さんたちのことを思い出したその時、僕は何故だか急に昔のことを思い出した。
 あれは小学校の頃だった・・・
 僕らはいつもの −今はもう行かなくなった− 公園で遊んでいた。珍しく綾波もいた。でも、夕方になって、みんな次々に迎えが来て、家族の待つ家に帰っていった。残されたのは、それを見送った僕と綾波だけ。その時の僕は綾波の気持ちも考えられずに父さんが仕事で僕を構ってくれないことを愚痴ってしまった。それを聞いて、夕日に照らされた綾波は『でも私には・・・碇くんしかいないもの・・・』と、寂しそうに呟いたのを。

 「いや、でも少なくとも危険はないと思うよ。死体なんてそうそうないだろうしねぇ」
 「まあこの都市の災害対策は日本でもトップクラスだからな大丈夫だろ」
 「そ、そうよね。それにそう簡単にあんなこと起こらないわよ、きっと・・・」

 確かに死体はないかも知れないけど、もう何が起こっても不思議じゃないと思う。僕でもそれはわかるから渚君もわかっていて言ってるんだろう。しかし、いくらこの都市の対災害設備が日本でもトップクラスの最新鋭の物でも所詮それを管理するのは人なんだから絶対とは言い切れないと思うし。けれど、2次災害が起こったとしたら、こんなに静かな筈がない・・・だからそれはないと思う。でも辺りに人がいないのは何故だろう?・・・そう思った途端急に頭の中に嫌なイメージが湧いて来て僕は背筋が寒くなってきた。
 多分みんなもそうだったんだろう。渚君の一言が逆に想像力を刺激したようで、皆何も言えなくなってしまったみたいだ。

 「本当にそう思ってるの?ヒカリ」
 「・・・わからないわ。さっき病院で起きたことは事実だし・・・」
 「その為にも学校へ行って確かめてみようよ」

 どんなに考えても答えは出ない・・・情報が少な過ぎる。そんな中で唯一僕らに出来るのは学校へ行くだけ。少なくとも学校に行けば誰か人がいる筈。無闇にそこらを歩き回るよりは余程いい筈だ。
 学校へ行く。
 ただそれだけのことなんだけど、きっと僕1人だったらそれすらも思いつかなくて途方に暮れていたと思う。『ペルソナ』についてもそうだ。何で僕に?とも思ったけど、まあ害になるわけではなさそうなので気にしないことにした。使えるものは使うって感じかな?でも1人だったら到底こんなことは考えられなかっただろうな、と思う。みんなと一緒で良かったと心から思った。
でも僕はみんなと一緒かもしれないけど、綾波はきっと独りっきりで・・・・・・

 この時の僕の頭の中は綾波を助けることで一杯だった。勿論それは嘘でも何でもなく真剣そのものだったけど、でもそれは幼稚でくだらないヒロイズムに酔いしれていただけだったんだ・・・。独りぼっちの筈の綾波を助け出せば、それで済むと思ってた。『ペルソナ』が使えるようになったことに興奮して・・・アスカに注意をしても何のことはない一番現状を把握せずにいたのは僕だった。
 綾波のことを何も知らないで・・・綾波を助けられるのは自分だけだと、いい気になっていた。
 そして、僕が、僕の行動が、僕の存在が、思いあがった僕の心が、みんなの心を傷付けて・・・何より綾波にあの時のように悲しい想いをさせてしまったんだ。僕が馬鹿だったせいで・・・・・・







エンディングソング 「Calling」 by B'z(SINGLE)







楽屋

シンジ  :お疲れ様でした〜ペルエヴァ5話でした!!
アスカ  :『お待たせしました』の間違いじゃなくて?
ヒカリ  :確かに確か予定では9月15日にアップ予定だったのよね・・・
ケンスケ :今回はフォローのしようがないな・・・
トウジ  :ズズズっ!
カヲル  :『ペルソナ』の説明をするのが難しかったらしいよ、世界観も説明しないといけないしね
ケンスケ :意外と『ペルソナ』のこと知らない人が多かったんだよな〜
アスカ  :ムっでもそんなのわかってたことでしょっ!言い訳にはならないわっ!!
トウジ  :ズズズズッ
ヒカリ  :でもその間何もしてなかったわけじゃないし・・・ね?アスカ
シンジ  :そうだよ、10月に入ってからは2週間も連続で更新してるし
カヲル  :短編も3本投稿してるね
アスカ  :ムゥ、わかったわ。それはいいとしても・・・さっきから鈴原は何をしてるのよっ!!
トウジ  :蕎麦食っとんねん
シンジ  :作者のお土産?
トウジ  :おお、出雲蕎麦や言うてたで
ケンスケ :で?俺たちの分は?
トウジ  :・・・・・・ズズズッ
全員  :トウジーーーーーーー!!!!
ドタバタドタバタ


シンジ  :こんなんですいませんが、まだまだ続きますので見捨てないで下さいね!グエっ!!

マヤ  :次回もサービス!サービス!!



後書き

 申し訳ありません。1ヶ月も遅れてしまいました・・・しかし、意外と読んでる人がいることが判明しました。その方たちに続きを早く書けと言われました。いや嬉しい限りです。
 でも6話・・・10月中にアップできるかは微妙です。次は他のところで連載している「小悪魔」を書かないといけないので。すいません、出来るだけ急ぎますが一つ他の作品で間をつないでください。
 最後になりましたが、この作品を読んでいただきありがとうございます。では6話で。

追記 因みにこれ30000ヒット記念SSとなります。何故か?リクエストがペルエヴァ5話だったからです。






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