「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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fld_bell.gif 月影桜花姫の宝庫〔第零弾〕
投稿日 : 2020/12/25 07:49
投稿者 戦艦壱号
参照先
第一話

夜襲
人類史上最大級の大戦争…。世界最終戦争から十数年後の出来事である。大量破壊兵器によって旧世界の巨大産業文明は大崩壊…。世界各地の大都市部は荒廃したスラム街状態であり彼方此方が暴徒化した人間達の魔窟状態だったのである。当然として秩序は皆無であり暴徒化した生存者達は食糧の争奪戦…。殺し合ったのである。世界全体が弱肉強食の大混乱期時代であったが…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する大規模武装勢力が世界各地の彼方此方に暴発し始める。彼等は荒廃した新世界の主導権掌握を主目的に活動を開始したのである。とある某日の真夜中…。東南地帯の大陸に存在する亜大陸では複数の武装勢力が衝突したのである。
「突撃隊!敵軍を蹴散らせよ!」
主戦場は砂漠化した大平原であり周囲の様子は容易に確認出来る。武装集団の部隊長らしき人物の合図と同時にサバイバルナイフと護身用のハンドガンを装備した迷彩服の戦闘員達がとある敵軍の駐留地に突入する。
「ん!?奴等はブラッドウルフの突撃隊だぞ!」
ブラッドウルフとは小規模の統治領である〔亜大陸地帯〕を実効支配する新世界有数の大規模武装集団…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する軍閥の一大勢力である。駐留地の表門を警備する二人の警備兵がブラッドウルフの突撃隊を確認する。
「敵襲だ!敵襲だぞ!」
睡眠中だった大勢の戦闘員達が即座に反応したのである。
「敵襲だと!?ブラッドウルフの奴等だな!」
「奴等の襲撃か!?奇襲とは卑劣だな…」
突撃隊の人数は推計三百人前後…。相対する駐留地の常備軍は推計五百人規模であり総人員はブラッドウルフを上回る。
「防衛戦だ!防衛戦を開始せよ!」
駐留地内部では両勢力による銃撃戦が開始される。戦闘開始から二分間が経過…。双方で百人以上の死傷者が続出する。
「回転型機関砲を用意しろ…」
駐留地の常備軍は六連発の回転型機関砲を配備したのである。
「此奴でブラッドウルフの奴等を蹴散らしちまえ!」
「奴等に無数の弾丸をぶっ放せ!」
回転型機関砲の乱射によって十数人もの突撃隊を死傷させる。戦力では防衛戦を徹底する駐留地の常備軍が圧倒的に有利でありブラッドウルフの突撃隊は戦力が半減…。ブラッドウルフ突撃隊は撤退を余儀無くされる。
「全滅しちまう!逃げろ!」
戦意喪失によりブラッドウルフの突撃隊は敵前を逃亡する戦闘員達が出始め…。何人かの戦闘員が自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様達!?何故戦場から戻ったのだ!?誰が貴様等に戻れと命令した!?」
怒号する総大将に逃亡した戦闘員達は恐る恐る…。
「ですが総大将…今回の戦闘は圧倒的に不利ですぜ…」
「多勢に無勢ですぜ!総大将!サバイバルナイフとハンドガンだけでは奴等には対抗出来ませんぜ…一度出直して…」
「沈黙しろ!敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将は護身用のハンドガンで一人の戦闘員を射殺する。
「今度は誰が射殺されたいか?私に射殺されたければ返答するのだな…」
「ひっ!」
一人の戦闘員が銃殺され…。逃亡した周囲の戦闘員達が畏怖したのである。
「貴様等は泣く子も黙るブラッドウルフの勇士達なのだぞ!死にたくなければ即刻主戦場に戻れ…戻らなければ即刻射殺する!」
戦闘員達は極度の恐怖心からかビクビクした様子であり全身が膠着する。
「貴様等…」
『役立たずの弱卒が…』
彼等の様子に総大将は呆れ果てる。すると総大将の背後より…。
「【フィルヴァス】…こんな弱卒だけで戦闘に勝利するなんて夢物語だぞ…現実を見据えろ…」
ブラッドウルフ総大将フィルヴァスの背後にはフードを被った小柄の人物が佇立する。
「誰かと思いきや…貴様は最精鋭の【ストレンジキラー】か…」
「えっ!?」
「ストレンジキラーって…」
ストレンジキラーの名前に周囲の戦闘員達は驚愕したのである。
「此奴は…伝説の殺し屋の…」
「本物なのかよ?」
ストレンジキラーとは荒廃した新世界各地で活躍する伝説の殺し屋…。残虐非道の暗殺者として世界各地で畏怖される存在である。ストレンジキラーは世界的にも著名の人物であるが…。今現在彼自身に関連する詳細は不明瞭でありストレンジキラーの正体を熟知する人物は少数である。
「此奴は最近配属させた最強の即戦力でありブラッドウルフの最精鋭だ…伝説の殺し屋であるストレンジキラーなら百人力の大戦果は期待出来るだろう♪」
フィルヴァスは恐る恐るストレンジキラーに指示する。
「ストレンジキラーよ…敵軍の陣地に突入して敵兵達を殺し回るのだ…伝説の殺し屋である貴様なら出来るよな?」
「仕方ないな…」
ストレンジキラーはフィルヴァスの命令を掌握すると常人をも超越した超高速移動で移動したのである。ストレンジキラーのスピードに陣地の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーは…人間なのか!?」
「彼奴は怪物の間違いでは?」
するとフィルヴァスは陣地の戦闘員達に解説し始める。
「ストレンジキラーの正体は〔ポストヒューマン〕…十数年前の旧世界古代人達が創造した新人類の一人だぞ…」
「ポストヒューマンって?」
ポストヒューマンとは旧世界の高度の科学技術により創造された人工性生命体…。所謂人造人間の総称化である。世界最終戦争によりポストヒューマンに関連する大半の資料と研究施設は焼失したものの…。一部の残存資料ではポストヒューマンは人間を超越した身体能力と不老長寿の肉体である記述のみは現存する。
「ですが総大将…怪物みたいな百人力の兵隊を味方に出来ましたね…」
「ストレンジキラー…彼奴は単純に戦闘と殺戮さえ出来れば大満足らしいからな…兵士としては堅実的存在だ…」
『何よりも狂戦士のストレンジキラーをブラッドウルフの一兵卒として扱えるのは奇跡だったな…』
野心家のフィルヴァスにとって自身の目的の遂行にはストレンジキラーの好戦的性格は非常に好都合だったのである。同時刻…。ストレンジキラーは数秒間で常備軍の駐屯地に到達する。
「なっ!?此奴は敵軍の新手か!?」
「常人以上のスピードだったぞ!此奴は本当に人間なのか!?」
「一体何者だ!?」
ストレンジキラーの超人的スピードに最前線の敵味方の戦闘員達は強豪のストレンジキラーに注目したのである。直後…。改造された両手の義手先端から銀色の鉤爪が出現する。
「戦闘を開始する…」
ストレンジキラーは神速の身動きで敵兵の背後に接近した直後…。両腕に内蔵された鉤爪で敵兵を斬撃したのである。ストレンジキラーは数秒間で三人の敵兵を殺害…。床面にはバラバラに斬撃された敵兵達の鮮血やら肉片が無数に飛散する。
「うわっ!此奴は怪物みたいな兵隊だ!」
駐屯地の戦闘員達は人外のストレンジキラーに畏怖したのか機関銃は勿論…。回転型機関砲でストレンジキラーに攻撃を集中させる。
「集中攻撃だ!怪物みたいな兵士を打っ殺せ!」
数百発もの弾丸がストレンジキラーに集中するも…。ストレンジキラーは神速の身動きで数百発もの弾丸を容易に回避したのである。
「なっ!?一瞬で…」
「消失したぞ…敵兵は一体!?」
一瞬の身動きでストレンジキラーは敵軍の銃撃を回避…。常備軍の戦闘員達は周囲を警戒するのだがストレンジキラーの姿形は確認出来ない。
「敵軍の強兵は!?」
すると回転型機関砲を装備する戦闘員の背後より…。
「えっ…なっ!?」
ストレンジキラーは鉤爪で戦闘員を瞬殺する。ストレンジキラーの大攻勢により形勢は完全に逆転…。一時的に戦意喪失したブラッドウルフの突撃隊であるがストレンジキラーの参戦によって彼等の士気が発揚したのである。
「新米兵士が敵部隊の主力戦力を無力化させたぞ!反撃開始だ!」
突撃隊の猛反撃が開始される。十数分間の戦闘で駐留地の常備軍は撤退を開始…。彼等の駐留地はブラッドウルフに完全占拠されたのである。今回の夜襲作戦でブラッドウルフは百二十人以上の戦闘員達が死傷…。一方の駐留地常備軍は九十人以上の戦闘員達が死傷したのである。奇襲作戦に辛勝したブラッドウルフは駐留地に放置された多数の重火器を戦利品として確保…。五十五人もの敵軍戦闘員を捕虜として拘束したのである。戦闘終了後…。総大将のフィルヴァスは笑顔でストレンジキラーに近寄る。
「非常に見事だったぞ♪ストレンジキラー♪貴殿の孤軍奮闘で敵軍の駐留地を無事に占領出来たのだ!大戦果だぞ♪」
初戦の大戦果にフィルヴァスは大喜びしたのである。
「ストレンジキラーよ…貴殿は全軍の次期総帥候補に相応しい存在なのだ♪一兵卒では勿体無い人材だぞ…」
「えっ!?新米兵士のストレンジキラーが次期総帥候補って…」
「初戦で次期総帥に任命されるなんて凄過ぎる…ストレンジキラーは別格だな…」
周囲の戦闘員達は驚愕する。
「実際…今回の戦闘ではストレンジキラーが参戦しなかったら俺達は完全に敗北しただろうからな…ストレンジキラーがブラッドウルフの次期総帥に任命されるのも当然だろうよ…」
するとストレンジキラーは無表情で…。
「何が次期総帥候補だ…俺にとって次期総帥なんて地位は無価値だな…」
ストレンジキラーは次期総帥の地位を無価値であると断言する。
「無価値だと?」
ストレンジキラーの返答にフィルヴァスは勿論…。周囲の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーよ…ブラッドウルフの次期総帥は大名誉なのだぞ!貴殿は新時代の覇者として全世界を掌握したくないのか!?」
「全世界の覇者なんて…殺し屋の俺には無縁だな…」
ストレンジキラーは無関心そうな態度で返答したのである。
「俺は思う存分戦闘と殺戮さえ出来れば大満足だ…」
フィルヴァスは内心不服であったが…。
「ストレンジキラーが暴れ回りたければ今後も思う存分に暴れ回るのだ…恐らく今後とも各地では戦闘が頻発するだろうからな…」
大戦闘に勝利したブラッドウルフは本拠地亜大陸地帯へと戻ったのである。

第二話

山賊要塞
砂漠化した大平原での大戦闘から五日後の真昼…。ブラッドウルフ本拠地では最精鋭部隊が新編成されたのである。各メンバーはポストヒューマンであり最精鋭の一人であるストレンジキラー以下…。十三人の精鋭達が抜擢されたのである。
「勇士達は…全員集合したな…」
ブラッドウルフ本拠地にて最精鋭部隊が集結…。総大将のフィルヴァスが集結した各メンバーを確認したのである。
「突然であるが…貴様達最精鋭部隊に最重要任務だ…」
「はっ?俺達に最重要任務だって?」
「任務内容は?」
少数精鋭であるが彼等は面倒臭そうな態度でフィルヴァスに問い掛ける。
「貴様等少数精鋭は南方地帯の山賊要塞に潜入するのだ…」
山賊要塞とは西方地帯に聳え立つ岩山であり難攻不落の大要塞である。近年山賊要塞と命名される岩山では大勢の武装集団が拠点である岩山を占拠…。岩山全体は要塞化され山賊要塞内部には各地で回収された多数の重火器が配備されたのである。
「今回の作戦の最終目的として…山賊要塞の占拠と山賊要塞内部に配備された重戦車を多数強奪するのだ…最精鋭の貴様達であれば出来るよな?」
「はっ!?総大将は正気なのか!?」
今回の任務内容にストレンジキラー以外の各メンバー達が猛反発する。
「俺達が少数精鋭でも…十四人だけで山賊要塞全体を占拠するなんて無茶だろ!理不尽過ぎるぜ!」
「総大将…多勢に無勢だぜ…難攻不落の山賊要塞を完全占領したかったらブラッドウルフ全勢力で総動員するべきだ!俺達だけで山賊要塞を占領するなんて無謀過ぎるぞ…」
猛反発する彼等にフィルヴァスは一息したのである。
「であるからこそ最精鋭のストレンジキラーを今回の大作戦に抜擢させたのだ…」
前回の戦闘でストレンジキラーの戦闘力を熟知したフィルヴァスは今回の大作戦でも活躍出来ると判断する。
「ポストヒューマンであるストレンジキラーなら鬼に金棒だからな…最強の狂戦士である彼ならば百人力の大戦果は期待出来るだろう…」
「ストレンジキラーが最強の狂戦士でも…一人だけでは戦力に…」
すると直後である。ストレンジキラーは超高速移動により精鋭の一人を鉤爪で斬首…。精鋭の一人を即死させたのである。
「なっ!?」
「えっ…此奴…」
「ストレンジキラー…貴様!?」
地面には切断された精鋭の頭首と鮮血が流れ出る。
「ひっ!殺されちまう!」
「此奴…本当に仲間を打っ殺しやがったぞ!」
十二人の精鋭達は仲間にも容赦しないストレンジキラーに畏怖したのである。
「今度…俺に殺されたいのは誰だ?指名しろ…」
ストレンジキラーは無表情で十二人の精鋭達に問い掛ける。
『ストレンジキラー…此奴が殺し屋って噂話は本当らしいな…』
総大将のフィルヴァスもストレンジキラーの予想外の行為に一瞬動揺する。
「貴様達…今回ばかりは無謀かも知れないが…今現在ブラッドウルフは戦力不足なのだ…一度の戦闘に相当数の人員は配備出来ないのが現状だ…」
ブラッドウルフは前回の大規模戦闘で相当数の人員喪失により一度の戦闘で大勢の戦闘員達を主戦場に総動員するのは事実上不可能だったのである。
「今回の大作戦は非常に危険である反面…今回の任務に成功すれば貴様達には報酬として一年分の食糧品と酒類を提供するからな…約束する!」
「えっ!?」
「食糧と酒類を一年分だと!?本当かよ!?」
「一か八かのチャンスだな!山賊要塞で思う存分に大暴れするか♪」
「約束だぜ♪総大将♪存分に大暴れするからな!」
「任務に成功したら俺達に一年分の食糧と酒類を用意しやがれよ♪」
報酬の一言にストレンジキラーを除外する精鋭達の士気が発揚…。
「はぁ…」
一時的であるがフィルヴァスは内心ホッとする。
『如何やら一安心だな…彼等が単純で安心した…』
現実問題…。ブラッドウルフは慢性的に人員不足であり内輪揉めが原因で人員が喪失するのを回避したかったのである。
『生憎…ストレンジキラーには報酬は不要そうだが…』
ブラッドウルフ全軍にとってストレンジキラーは最強の主要戦力である一方…。フィルヴァスは危険人物である彼に裏切られないか極度の不安感と恐怖心を感じる。翌朝…。最精鋭部隊は西方地帯の山賊要塞へと移動を開始したのである。
「総大将の野郎も適当だよな…如何して俺達をこんな任務なんかに抜擢しやがった?正直無謀だぜ…」
最精鋭の一人が不満を愚痴り始める。
「仕方ないよ…六日前の戦闘では人員の大半を喪失したからな…当分の作戦では大人数は動員出来ないだろうよ…」
「山賊要塞の占領に成功すれば一年分の食糧をゲット出来るぞ…我慢しろよ♪」
活動拠点の亜大陸地帯から西方地帯は二十キロメートルの長距離であり比較的遠距離だったのである。移動を開始してより一時間半後…。彼等は目的地である西方地帯に到達したのである。
「無人地帯かよ…西方地帯は亜大陸地帯以上に殺風景だな♪」
「当然だが人気は感じられないぜ…ゴーストタウンみたいで薄気味悪いな…亜大陸地帯に戻りたいぜ…」
「幽霊が出現しそうな雰囲気だな…」
「何が幽霊だよ♪子供みたいな感想だぜ♪」
「子供かよ♪所詮幽霊なんて子供騙しだろうに…」
当然として西方地帯の住宅街も荒廃したゴーストタウンであり誰一人として居住者は確認出来ない。
「目的地の山賊要塞は?」
するとストレンジキラーが無表情で中心地に確認出来る巨山を指差したのである。
「ん?岩山みたいだな…」
中心地に聳え立つ岩山は標高五百メートル規模の巨山であり岩山の頂上には鉄塔が確認出来る。
「岩山が山賊要塞だな…」
小柄の戦闘員が恐る恐る…。
「山賊要塞を攻略するのであれば如何する?」
「こんな要塞であれば…直接的に真正面から突っ込むだけだ…」
今迄無言だったストレンジキラーが即答したのである。
「ストレンジキラーは正気か?真正面から突っ込むなんて…完全に自殺行為だぜ…」
「要塞に突っ込むならストレンジキラー一人で突っ込みやがれ…俺達は普通の人間だから御免だぜ…」
周囲の戦闘員達はストレンジキラーの意見に全否定する。無表情だったストレンジキラーであるが…。殺気を感じさせる表情で彼等を睥睨したのである。
「ひっ!」
『此奴…殺気か!?本気の殺意を感じるぜ…』
ストレンジキラーの殺気に戦闘員達は畏怖し始める。
「山賊要塞の敵兵達は俺が完膚なきまでに打っ殺す…貴様達雑魚は山賊要塞を占拠するのだな…」
ストレンジキラーは神速のスピードで山賊要塞へと突っ込んだのである。
「ストレンジキラーの野郎…気に入らないな…」
「彼奴…一人で突っ込んじまったな…」
現在地である住宅街から山賊要塞への距離は数キロメートルと近距離でありストレンジキラーは数秒間で到達する。
「敵陣には…」
ストレンジキラーは両目を瞑目させる。
『内部の敵兵は二百人前後か…』
ポストヒューマンとしての本能からか外部からでも瞬間的に内部に存在する生体反応を正確にキャッチ出来る。ストレンジキラーは山賊要塞から二百人前後の人間達の生体反応をキャッチしたのである。
「内部の敵兵を打っ殺すだけなら俺一人でも楽勝だな…」
数分間岩山の周囲を探索すると地下シェルターのハッチを発見する。
「ハッチだと?軍事用の地下シェルターか?」
ストレンジキラーは地下シェルターのハッチを開放させる。恐る恐る地下シェルター内部へと潜入したのである。
『山賊要塞に直結する地下通路か…』
地下シェルターは十数年前の世界最終戦争で住民達の避難所として利用された地下壕である。数十分後…。通路を直進し続けると目前より重厚に構築された鉄扉が確認出来る。
「此奴を破壊すれば敵地に侵入出来るな…」
左手の機械義手より内蔵された対物ライフルが出現する。
「鉄扉を破壊するだけなら此奴で事足りる…」
内蔵された対物ライフルで鉄扉を破壊したのである。周囲より爆発音が響き渡る。
「楽勝だな…」
破壊された鉄扉の奥側より…。二人の警備兵が破壊された鉄扉の瓦礫に近寄る。
「先程の爆発音は!?」
「一体何が発生しやがった!?ん!?」
二人の警備兵はストレンジキラーに気付いたのである。
「機械式の義手だと?貴様は一体何者だ!?」
「鉄扉を破壊したのは貴様か!?」
問い掛けられたストレンジキラーは無表情で…。
「であれば如何する?」
彼等はストレンジキラーの態度にピリピリする。
「貴様…」
「構わん!此奴は侵入者だ!徹底的に打っ殺せ!」
警備兵達は護身用のライフルを発砲したのである。ストレンジキラーは銃撃されたものの…。高速移動により警備兵達の銃撃を回避したのである。高速移動中に装備を対物ライフルから近接戦闘用の鉤爪に変換…。ストレンジキラーは一瞬の身動きで二人の警備兵を斬撃したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
鉄製の床面には彼等の鮮血で赤色に染色する。
「防衛拠点に移動するか…」
ストレンジキラーは山賊要塞の上層へと移動したのである。同時刻…。山賊要塞重要拠点内部では戦闘員達が立体映像である監視用のホログラムで地下通路の様子を確認したのである。ホログラムによってストレンジキラーが投影されると彼等はゾッとする。
「侵入者だぞ!」
「彼奴は伝説の殺し屋…ストレンジキラーだ!」
戦闘員達がストレンジキラーの出現に騒然としたのである。
「なっ!?ストレンジキラーだと!?本当なのか!?」
「ストレンジキラーって…ポストヒューマンの彼奴だよな!?如何して殺し屋の彼奴がブラッドウルフなんかに味方しやがった!?」
「如何するよ!?地下通路を突破されちまったぞ!拠点内部に侵入されるのは時間の問題だぞ…」
刻一刻と恐怖心が増大化する。拠点内部の戦闘員達はストレンジキラーの襲撃に畏怖したのである。すると疲弊する戦闘員達に大柄の戦闘員が怒号し始める。
「貴様等!狼狽えるな!所詮相手は一人だぞ…総動員で武装するのだ!総動員で攻撃すれば相手が殺し屋のストレンジキラーとて…」
彼等は即座に護身用の銃火器を装備したのである。基地内であるが拠点防衛用の重戦車も数量程度配置する。
「ストレンジキラーが通信室に侵入し次第…総攻撃だぞ!」
数秒後…。頑丈に構築された鉄扉が破壊される。
「えっ!?」
「なっ!?」
無傷のストレンジキラーが通信室に侵入したのである。
「此奴…」
するとストレンジキラーは無表情で周囲を確認…。
「俺を相手にするのであれば…山賊要塞の戦力では力不足だな…」
山賊要塞に侵入したストレンジキラーは内部の防衛網を簡単に突破したのである。
「総攻撃だ!ストレンジキラーを打っ殺せ!」
通信室の戦闘員達は護身用の機関銃は勿論…。バズーカ砲でストレンジキラーを総攻撃したのである。無数の弾丸やら砲弾が炸裂…。ストレンジキラーを急襲する。
『こんな程度の攻撃で…』
ストレンジキラーは神速の身動きによって内部の戦闘員達を瞬殺…。数分間で通信室の戦闘員達を全滅させたのである。
「雑魚は片付いたな…」
ストレンジキラーは山賊要塞から脱出すると待機中の精鋭部隊と合流する。
「ストレンジキラー!?山賊要塞から無事に戻れたのか!?」
「山賊要塞の雑魚は俺が排除した…貴様等は思う存分山賊要塞を占拠しろ…」
彼が単独で難攻不落の山賊要塞を陥落させた事実に彼等は驚愕したのである。
「はっ!?ストレンジキラーは一人で山賊要塞を陥落させたのかよ!?」
「ストレンジキラーは人型の兵器なのか?」
「兎にも角にも山賊要塞を占拠するぞ…」
ストレンジキラーが山賊要塞を攻略してより一時間後…。山賊要塞はブラッドウルフによって完全占拠されたのである。戦闘に勝利したブラッドウルフは多数の重火器は勿論…。輸送用の装甲車やら重戦車を数両確保したのである。今回の山賊要塞の完全占拠によってブラッドウルフの戦力は格段に急上昇する。

第三話

宣戦布告
同時期…。地球上の裏側ではネオサイクロプスと呼称される海面上の大規模勢力が各海域で大暴れしたのである。ネオサイクロプスは旧世界の大文明で開発された高度の巨大兵器を多数保有…。彼等の軍事力は非常に絶大であり荒廃した地球上の約半分を占拠出来る程度には強力だったのである。陸戦最強勢力の大規模軍閥ブラッドウルフが奮戦する同時期…。地球上の裏側の青海原ではネオサイクロプスの武装大型船が目的地である南極海の島嶼へと直航する。
「大将軍♪航海は順調ですぜ♪今度の戦闘も勝利出来ますよ♪」
武装大型船の艦長は【ヘルムフリート】と名乗る人物である。ヘルムフリートはネオサイクロプスの創設者であり総軍の最高指導者として統率する。大勢の部下達からは大将軍と呼称される一方…。自軍以外の各勢力では大海原の大魔王として畏怖されたのである。今現在でこそヘルムフリートは随一の軍人であるが十数年前に勃発した世界最終戦争では国連軍の少年兵として最前線で孤軍奮闘…。数多くの主戦場で大活躍した歴戦の猛者として知られる。
「油断は出来ない…今回の戦闘は俺達を敵対視する部落の徒党だぞ…不穏分子は徹底的に壊滅させなくては!」
ネオサイクロプスは荒廃した新世界の大規模軍閥の一大勢力であるが…。世界各地の軍閥勢力からは極悪非道の海賊集団として嫌悪されたのである。ネオサイクロプスは本拠地から出航してより一時間後…。小規模の島嶼が確認出来る距離へと到達する。
「大将軍!絶島を発見しましたぜ!」
「絶島だと?」
ヘルムフリートは双眼鏡で絶島を確認したのである。絶島は全域が要塞化された城郭地帯でありヘルムフリートは目的地のサウスアイランド諸島であると認識する。
「恐らく目的のサウスアイランド諸島だ…各乗員に伝播せよ!戦闘を開始すると!」
「承知しましたぜ!大将軍!」
同時刻…。サウスアイランド諸島では本島に駐屯中の武装集団が北方の海域から一隻の武装大型船を発見する。
「なっ!?所属不明の大型船だぞ!本島に接近中だ!」
鉄塔の警備兵が呼号したと同時に島内の戦闘員達が反応したのである。
「一体何事だ!?」
「大型船だって?」
「ひょっとしてネオサイクロプスの巨大戦艦なのか?」
今現在全長二百メートル以上の大型船を所有…。航行させられる軍閥勢力は実質皆無であり誰しもがネオサイクロプスであると察知したのである。ネオサイクロプスの出現に島内の戦闘員達は騒然とする。守備隊は各地に設置された各砲台へと配置したのである。
「敵艦に照準させろ!」
数秒後…。
「敵軍の巨大戦艦に総攻撃だ!砲撃開始せよ!」
島内に設置された各砲台が巨大戦艦を標的に砲弾が発射されたのである。無数の砲弾が発射された同時刻…。
「大将軍!砲撃です!」
「先制攻撃か…」
巨大戦艦の艦橋ではヘルムフリートが双眼鏡で敵軍の砲台を眺望する。直後…。数発の砲弾が巨大戦艦の甲板に着弾したのである。艦体全体が一瞬グラッと振動するものの…。砲弾が着弾した装甲は無傷であり艦体全体は実質ノーダメージだったのである。
「強襲戦艦〔フリングホルニ〕は難攻不落の海上移動要塞なのだ…本艦が数発の砲弾程度で簡単に撃沈出来るか…」
巨大強襲戦艦フリングホルニはネオサイクロプス海上部隊の旗艦であり難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金〔エターナルメタル〕が駆使され…。エターナルメタルの装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない強度の素材である。多数のミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射する電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には偵察用の無人機を二機搭載する。
「対地ミサイルで各地の砲台を徹底的に攻撃せよ…沿岸の守備隊を完膚なきまでに殲滅するのだ!」
ヘルムフリートの指示と同時に甲板の前後に設置された多数のミサイル発射機から十数発もの対地ミサイルが発射される。甲板から発射された対地ミサイルは数秒間で各地の固定砲台に着弾…。固定砲台は破壊されたのである。直後…。ヘルムフリートは艦内の双眼鏡で防衛機能を喪失した島内の状況を確認したのである。
「敵部隊の基地機能は低下したな…」
ヘルムフリートは即座にブリッジの乗組員達に上陸作戦を指示する。
「上陸作戦を開始する…艦内から上陸部隊を出撃させるのだ…」
フリングホルニの艦内から複数の上陸用舟艇が出撃を開始したのである。一隻の上陸用舟艇には武装した十数人もの戦闘員達が乗艇…。彼等は島内へと上陸したのである。島内では残存した守備隊との銃撃戦が展開されるも…。銃撃戦は数時間で鎮静化したのである。総司令官のヘルムフリートは再度島内の様子を双眼鏡で確認する。
「如何やら戦闘が鎮静化したみたいだな…」
「大将軍!今回もネオサイクロプスの大勝利ですね!」
フリングホルニ艦内ではネオサイクロプスの圧倒的大勝利によって乗組員達が大喜びしたのである。一人の乗組員がヘルムフリートに近寄る。
「こんなにも短時間で上陸作戦が成功するとは予想外でしたね♪大将軍♪」
笑顔の乗組員にヘルムフリートは無表情で返答する。
「予想外も何も…こんな小規模の戦闘で苦戦したのであれば…亜大陸のブラッドウルフには勝利出来ないだろう…」
ブラッドウルフの一言に周囲の乗組員達は絶句したのである。
「大将軍はブラッドウルフに宣戦を布告するのですか!?」
「大将軍は本気ですかい!?」
乗組員達はゾッとした表情でヘルムフリートに問い掛ける。
「当然だ…俺達ネオサイクロプスは旧世界連合軍の後身であり…滅亡した旧文明を復活させる新時代の覇者なのだからな…」
本来ネオサイクロプスは世界最終戦争で滅亡した旧世界連合軍の残存勢力でありネオサイクロプスの主力戦力である強襲戦艦フリングホルニも国連軍の海軍主力艦隊が保有した超弩級ミサイル艦である。勢力の中心人物であるヘルムフリートは新統一政権の樹立と旧文明の再興を主目的に活動する。
「今度の俺達の相手は仮想敵のブラッドウルフだ…」
すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「ですが大将軍…今現在ブラッドウルフには伝説の殺し屋…ストレンジキラーが参加したらしいですぜ…」
部下のストレンジキラーの一言にヘルムフリートは一瞬ピクッと反応する。
「ストレンジキラーとは…世界最強の暗殺者の名前だったな…」
『噂話ではストレンジキラーは旧文明の科学者達が誕生させた人工性の新人類…ポストヒューマンらしいな…』
ヘルムフリートは数秒間沈黙するものの…。
「伝説の殺し屋であるストレンジキラーが相手であれば一筋縄では不可能だが…抑止力である神器を駆使すればブラッドウルフの奴等も畏怖するさ…場合によっては戦闘が発生せずに投降するだろう…」
「なっ!?神器ですって!?」
神器の一言に乗組員達は身震いしたのである。
「大将軍!?大量破壊兵器の神器なんか駆使しちまったら…全世界が再度滅亡しちまうぜ!大将軍は本気なのですか!?」
神器とは所謂大量破壊兵器の一種でありネオサイクロプスは最終手段として神器を保有する。本来は抑止力としての代物であるが…。ヘルムフリートは仮想敵であるブラッドウルフとの大激戦に神器の使用も検討したのである。
「大将軍は世界最終戦争を再現させたいのですか!?」
周囲の部下達は神器の使用に猛反対する。
「俺達の目的は旧世界連合による統一政権の再興なのだ…ブラッドウルフの存在は俺達にとって脅威だからな…」
すると数人の乗組員がヘルムフリートの思惑に賛成したのである。
「俺達は大将軍の意向に賛成しますよ!」
「俺達にとってブラッドウルフは最大の大敵なのです!徹底的に奴等を壊滅させましょう!」
周囲の者達は一部の賛同者に絶句する。サウスアイランド諸島攻略作戦から一週間後…。ネオサイクロプスの存在は世界各地に知れ渡りブラッドウルフも彼等の存在を周知したのである。ブラッドウルフ総大将のフィルヴァスは本拠地の会議室にて三人の部下達と密談する。
「貴様達も噂話を熟知しただろうが…奴等が…海賊集団のネオサイクロプスが行動を開始したみたいだな…」
「総大将…如何されますか?恐らく奴等は俺達の本拠地である亜大陸地帯にも手出しするでしょう…ネオサイクロプスとの全面戦争は回避出来ませんよ…」
ブラッドウルフ内部でも戦闘員達はネオサイクロプスの脅威にビクビクしたのである。ネオサイクロプスが保有する大量破壊兵器の神器の存在は世界的にも有名であり彼等との戦闘は無謀であると誰しもが感じる。
「山賊要塞を占拠した影響でブラッドウルフの戦力は数段階強大化しましたが…ネオサイクロプスには大量破壊兵器の神器が存在しますからね…彼等との徹底抗戦は亜大陸地帯の焦土化を意味するでしょう…」
「奴等の神器とやらは非常に厄介だからな…」
すると一人の部下が恐る恐る発言する。
「ネオサイクロプスの総大将…ヘルムフリートとは一度会談するべきでは?ネオサイクロプスとの戦争は絶対に回避するべきです…最悪亜大陸地帯に神器が投下された場合…十七万人の総人口は一瞬で死滅するでしょう…」
フィルヴァスは不本意であるが…。
「止むを得ないか…大量破壊兵器の神器を駆使されては元も子もないからな…」
フィルヴァスは今回ばかりは部下の意見に同意したのである。
「ネオサイクロプスのヘルムフリートと会談して…談判するのが最良だな…」
すると直後…。
「敵軍の総大将と談判だと?愚か者が…」
「なっ!?」
「貴様は…」
最精鋭のストレンジキラーが会議室に無断で侵入したのである。
「ストレンジキラー…如何して貴様が会議室に?」
ストレンジキラーは殺気立った形相でフィルヴァスを凝視する。
「フィルヴァス…奴等との徹底抗戦を強行させろ…何が不戦の会談だ…滑稽だな…」
戦闘を強行させたいストレンジキラーにとって不戦の会談は言語道断…。ネオサイクロプスとの平和的交渉には猛反対だったのである。部下の一人が恐る恐る…。
「ストレンジキラー…好い加減にしろ!ネオサイクロプスとの大戦争は亜大陸地帯にとって存亡の危機なのだぞ!超人の貴様だって無事では…」
ストレンジキラーは右腕の義手から対物ライフルに変形させると部下の一人を殺害したのである。頭部は破壊され室内の彼方此方に血肉が飛散する。
「ストレンジキラー…」
「えっ…」
総大将のフィルヴァスは勿論…。二人の部下達はストレンジキラーの残虐性に畏怖したのである。ストレンジキラーは無表情で問い掛ける。
「今度は誰が俺に殺されたいか?指名したければ指名しろ…」
周囲の者達は沈黙したのである。
「俺からの至上命令だ…後日…ネオサイクロプスに宣戦布告を表明しろ…」
ストレンジキラーは退室する。
『ストレンジキラー…』
今回の出来事からフィルヴァスはストレンジキラーの存在がブラッドウルフ全体にとって厄介であると自覚…。今回の出来事以降フィルヴァスは外部の敵軍よりも部下であるストレンジキラーに畏怖したのである。ストレンジキラーの個人的強行によってネオサイクロプスとの無血の平和的会談は実現されず…。ブラッドウルフは止むを得ず仮想敵のネオサイクロプスに宣戦を布告したのである。

第四話

開戦
宣戦布告から三日後…。ブラッドウルフはネオサイクロプスとの戦闘を想定して沿岸一帯を要塞化させたのである。開戦の準備は万端であったが…。一触即発の事態に戦闘員達の戦意は実質的に皆無だったのである。総大将のフィルヴァスも今回は無謀であると想念するのだがストレンジキラーの暴発に畏怖…。表向きのみならネオサイクロプスに対する徹底抗戦を表明するも心情では消極的だったのである。フィルヴァスは双眼鏡を所持…。沿岸の要塞に設置された防波堤で敵軍の攻撃に警戒する。
「嵐の前の静けさか…非常に物静かだな…」
真昼の海面上は平穏でありフィルヴァスは不吉に感じる。すると四人の部下達が防波堤に移動…。偵察中のフィルヴァスに近寄る。
「総大将…あんたは本気ですか?」
「奴等…ネオサイクロプスとの戦争なんて無謀ですぜ…」
彼等はネオサイクロプスとの戦争に反対する者達でありフィルヴァスに問い掛けたのである。フィルヴァスは警戒した様子で…。
「当然として俺もネオサイクロプスとの全面戦争なんて御免であるが…今回ばかりは武闘派であるストレンジキラーの暴走を危惧しての判断なのだ…彼奴が自発的に発言するとは予想外であった…」
フィルヴァスは小声で本音を発言したのである。
「戦争の回避は俺達の死滅を意味する…彼奴は…ストレンジキラーは仲間の俺達にも容赦しないだろう…俺達を裏切る可能性も否定出来ない…」
ストレンジキラーの暴挙に四人の部下達は身震いし始める。
「ストレンジキラーが…総大将を誘導させやがったのか?」
「結局…彼奴が主犯格か…」
すると一人の部下が恐る恐る…。
「一か八か俺達だけでストレンジキラーを…暗殺するか?何方にせよ彼奴を野放しにし続けるのは危険過ぎるぜ…」
部下の突発的発言にフィルヴァスは制止する。
「暗殺を計画しても無意味だろう…貴様達ではストレンジキラーは仕留められない…彼奴は最強のポストヒューマンだ…常人では対抗出来ない…」
フィルヴァスにとってもブラッドウルフ全体にとっても軍内部の内紛は勝率を低下させる愚行であり回避したかったのである。
「こんな状況で内輪揉めは奴等にとって絶好機だからな…皮肉にも狂戦士のストレンジキラーはブラッドウルフにとって最強の戦力だ…」
強豪であるストレンジキラーがブラッドウルフを脱退すればブラッドウルフは確実に崩壊すると予測する。
「彼奴を軍内部から脱退させるかは…今回の事態が無事終焉してからだ…」
フィルヴァスは再度偵察を続行したのである。同時刻…。大海原の中心部に位置するネオサイクロプスの本拠地〔シートピア自治区〕軍港ではネオサイクロプス旗艦のフリングホルニと四隻の大型輸送艦が合流したのである。旧世界文明ではシートピア自治区は巨大工場都市として活用され…。世界最終戦争の戦後でも兵器工場としての一部の機能は健在である。資源さえ入手出来れば最低限の実弾兵器やら軍事用ドローンの製造は自前で製造出来る。フリングホルニのブリッジ内部では総司令官のヘルムフリートが全軍に出撃を伝播させる。
「全軍…出撃を開始する…攻略目標は南方大陸に位置する亜大陸…亜大陸地帯だ…」
旗艦フリングホルニを先頭に四隻の大型輸送艦が出航したのである。今回の作戦では大量破壊兵器である神器を旗艦のフリングホルニに搭載…。投入兵力は総勢九百人規模と荒廃した新世界としては最大級の大戦力だったのである。ネオサイクロプスの大艦隊は目的地である亜大陸地帯へと直進する。同日の真夜中…。ストレンジキラーは近辺の村道を単独で散歩したのである。
『面白くなったな…今度の戦闘では何人仕留められるか?』
ストレンジキラーは内心ワクワクする。
『凡人達は不必要にビクビクし過ぎだ…大量破壊兵器?こんなちっぽけな村里が消滅したからって…今更何が問題なのか?』
ストレンジキラーにとって大量破壊兵器…。神器の存在は問題外だったのである。すると道中…。
「ん?」
背後より人気を感じる。
『人気だと?』
ストレンジキラーは警戒した様子で背後を直視したのである。
「貴様等…こんな時間帯に散歩か?」
ストレンジキラーの背後には三人の無頼漢達が佇立する。
『仲間の人間っぽいな…』
彼等は迷彩服でありブラッドウルフの同志達であると認識したのである。無頼漢達は殺気立った形相でストレンジキラーを睥睨する。
「ストレンジキラー…貴様…」
三人の無頼漢達は極度の怒気により全身がプルプルと身震いしたのである。
「如何してボスを戦争なんかに誘導させやがった!?」
「貴様の横暴の所為で村里全体が焦土化しちまう…俺達の今迄の努力は何もかもが水の泡だ…」
ストレンジキラーの噂話はブラッドウルフ全体に出回る。
「誰かが密告しやがったみたいだな…」
ストレンジキラーは特段気にならなかったのか平然とする。
「ストレンジキラー…今回の問題以前に貴様は…」
仲間内にもストレンジキラーの行動には不信に感じる者達が出始める。
「であれば如何する?愚痴りたいなら仲間内で愚痴っとけ…」

第壱部

第一話

真夜中
太古の大昔…。極東の島国〔天球神国〕での出来事である。数百年間と長引いた弱肉強食の戦乱時代は終焉…。天球神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地の村里にて神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。戦乱時代から五十年後の世界暦五千二十二年五月上旬の時期…。南国に聳え立つ荒神山にて錫杖を所持した僧侶が真夜中の荒神山を一人で視察する。
「問題の荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
今現在南国の荒神山は魑魅魍魎の魔窟同然であり通常の人間は誰一人として魔窟の荒神山へは近寄れない。
『如何やら今回の相手も大群だな…』
僧侶の名前は【八正道】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんなにも重苦しい妖気だ…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が周囲に響き渡るのだが…。
「こんな場所…」
山中の空気は非常に重苦しく気味悪くなる。
「普通の人間なら荒神山には近寄りたくても近寄れないな…」
数分後…。八正道は荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
八正道は魑魅魍魎の征伐に尽力する僧侶の一人である。八正道は妖怪退治の専門家であり四六時中妖怪退治に専念する。
「即刻荒神山の妖怪達を撃退して…荒神山を元通りの観光地に戻さなくては…」
すると直後である。
「ん!?」
突如として無数の気配を察知…。
「無数の気配だ…」
無数の気配の出現に八正道は警戒したのである。
「此奴は妖怪特有の妖気か?」
気配の正体は妖怪特有の妖気であり姿形こそ不明瞭であるが…。
「如何やら相手は大群みたいだな…」
妖気は大群であると認識する。無数の妖気が自身に接近するのは認識出来る。無数の気配を察知した数秒後…。
「ん?」
暗闇の自然林より一体の人影を確認したのである。
『人影みたいだが…』
体格は非常に小柄であり正体不明の人影はふら付いた身動きで八正道に接近する。
「人影は人間とは無縁そうだな…」
周辺は漆黒の暗闇であり人影の正体は認識出来ないものの…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは確実である。正体不明の人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
『此奴は…』
正体不明の人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身であると認識出来る。
「此奴は亡霊妖怪…【悪食餓鬼】だな…」
人影の正体とは亡霊妖怪として認識される悪食餓鬼である。悪食餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した亡者達の無念が妖怪化した存在とされ…。特定の地域では純粋に疫病神やら悪霊とも呼称され夜行性からか真夜中に徘徊する。性格は非常に強欲であり人間の人肉が大好物とされる。彼等の性質上生身の人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「こんな場所にも悪食餓鬼が出現するとは…」
八正道は即座に法力を発動…。
『相手が悪食餓鬼程度なら…』
直後である。
「飢饉によって死去した亡者の末路よ…」
生者である八正道を食い殺そうと近寄る悪食餓鬼の肉体を自然発火…。悪食餓鬼は八正道の発動した法力によって燃焼したのである。
「成仏するのだ…」
八正道は焼死した悪食餓鬼に恐る恐る合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の悪食餓鬼が出現…。
「悪食餓鬼…今度は大群だな…」
無数の悪食餓鬼はふら付いた身動きで八正道に近寄る。
「如何やら荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
八正道は総勢数十体から数百体もの悪食餓鬼に包囲されたのである。
「多勢に無勢か…」
戦況は圧倒的に不利であったが…。八正道は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…」
八正道は再度法力を発動…。
「私は貴様達を成仏させる…」
法力によって殺到する無数の悪食餓鬼の肉体を自然発火させたのである。自然発火により八正道の周囲には無数の悪食餓鬼の焼死体が地面に埋没する。
「昇天されよ…」
直後…。地面に埋没した無数の悪食餓鬼の焼死体が消滅したのである。
「今度の相手は?」
自身の背後より不吉の妖気を感じる。
『此奴は悪食餓鬼よりも強大なる妖気だな…一体何が出現したのだ?』
妖気は悪食餓鬼よりも数十倍は強大であり八正道は恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉塊人間が出現する。一頭身の肉塊人間は巨体の人型肉団子であるが…。全身の体表には悪食餓鬼の頭部が無数に確認出来る。
「此奴は悪食餓鬼の親玉…【百鬼悪食餓鬼】か…」
百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体とされ亡霊妖怪の悪食餓鬼の亜種である。別名としては悪食餓鬼の親玉やら悪霊の集合体とも呼称される。
『厄介なのが出現したな…』
体表の無数の頭部が八正道を睥睨…。無数の悪食餓鬼の口先より高熱の熱風を放射したのである。
「熱風!?」
八正道は即座に法力の結界を発動…。百鬼悪食餓鬼の熱風を無力化したのである。
『絶大なる妖力だな…』
結界の発動で熱風の無力化には成功するものの…。八正道は結界の発動によって体力を消耗する。
『百鬼悪食餓鬼は予想以上に強力だな…』
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「極悪非道の妖怪よ…完膚なきまでに死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼悪食餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で体力が消耗…。極度の疲労からか八正道は法力が使用出来なくなる。
「百鬼悪食餓鬼は仕留めたか…」
八正道は周囲を警戒する。
『危険は回避されたのか?東国に戻ろうか…』
一安心した直後…。
「なっ!?」
複数の強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
『複数の妖気か!?』
すると周囲の自然林から三体もの百鬼悪食餓鬼が出現する。
「今度は百鬼悪食餓鬼が…」
『三体も出現するなんて…』
最早複数の百鬼悪食餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり八正道は撤退を余儀無くされる。
『不本意だが…撤退しなければ私自身が危険だな…』
止むを得ず撤退する直前である。
「えっ…」
今度は百鬼悪食餓鬼をも上回る不吉の妖気を察知する。
「今度は別物の妖気だ…一体何が出現したのだ!?」
極度の恐怖心からか正体不明の妖気に八正道は身震いしたのである。
『百鬼悪食餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪が出現したのか!?』
不吉の妖気は大妖怪に拮抗する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
「大妖怪なんて今現在の私では対応出来ない…」
『遭遇すれば私は確実に殺害されるな…』
基本的に妖怪退治に従事する僧侶が大妖怪と交戦する場合…。強大なる法力を駆使出来る僧侶が数人で対応するのが基本であり単独で大妖怪を相手に接戦出来る僧侶は実質一握りとされる。最悪僧侶が単独で強大なる大妖怪と遭遇した場合…。即座に撤退するのが鉄則である。
「止むを得ないな…即刻退散しなければ…」
八正道は退散する寸前…。
「えっ…」
八正道の背後には小柄の女性が佇立する。
『彼女は…人間の女性なのでしょうか?』
背後の女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は多種多様の煌びやかな花柄模様であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの…。彼女は非常に颯爽とした雰囲気である。
『彼女からは私に対する敵意も邪気も感じられないが…無数の妖気は感じられる…彼女の正体は妖怪なのか?』
女性の肉体からは無数の妖気が感じられ彼女が列記とした妖怪なのは確実であるが…。彼女からは人間の八正道に対する敵意も邪気も感じられない。すると妖怪の女性は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
妖怪の女性は氷結の妖術を発動すると三体の百鬼悪食餓鬼は一瞬で全身を氷結させたのである。
「なっ!?」
『三体の百鬼悪食餓鬼が…一瞬で氷結したぞ…彼女の妖術なのか?』
数秒後…。女性の妖術により氷結した百鬼悪食餓鬼の肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…片手間だったわ…」
すると妖怪の女性は無表情で八正道を凝視し始める。
「なっ!?」
八正道は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者ですか?」
八正道は強張った表情で恐る恐る妖怪の女性に問い掛ける。
「失礼かも知れませんが…貴女様が人外の存在なのは確実ですね…」
女性は笑顔で名前を名乗り始める。
「私の名前は【桜花姫】♪妖怪の一人よ♪」
桜花姫と名乗る女性は自身を妖怪の一人と自負したのである。
「貴女様の正体は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘純粋無垢の妖怪であるが…。彼女からは八正道に対する敵意も殺意も感じられない。
『桜花姫…姿形のみなら人間の小町娘ですが…』
八正道は再度警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。彼女からは敵意も悪意も感じられないものの…。正直妖怪の桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
『彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…』
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで♪別に私は非力の人間には手出ししないから…警戒しなくても大丈夫よ♪」
「えっ…」
『人間に…手出ししないって!?』
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪の一体であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
『摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が現実に存在するとは…ん?』
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
『一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?ひょっとして桜花姫は半妖なのか?』
すると桜花姫は冷笑した表情で八正道を凝視する。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は動揺する八正道に説明したのである。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが合体妖怪の私なのよ♪」
「桃子姫様とは…伝説の巫女の?」
桃子姫とは人間の巫女であり強大なる霊能力で多種多様の妖怪達を征伐…。伝説の巫女として有名だったのである。彼女はとある大妖怪との死闘により失踪…。今現在では彼女の行方は不明とされる。
「勿論♪」
桜花姫は桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した異例の集合体であり合体妖怪である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
『彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…』
八正道は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を殺傷せず…同族の妖怪である百鬼悪食餓鬼を攻撃されたのでしょうか?通常の妖怪であれば人間である私を殺傷するでしょう…」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなのよ♪今回は単純に百鬼悪食餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
『単純に気紛れだったのか…』
桜花姫を完全に理解するのは非常に困難であるが…。颯爽とした桜花姫の様子から八正道は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に八正道は一瞬畏怖したのである。
「私は合体妖怪の貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身今回の戦闘で実力不足が認識出来ましたし…妖力だけなら大妖怪に匹敵する桜花姫様を単独で征伐するなんて数十年間修行し続けても不可能でしょうし…」
「私の妖力が大妖怪なんて…あんたは大袈裟ね♪」
『私が大妖怪ですって♪』
八正道の大妖怪の一言に桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんた…名前は?」
八正道に名前を問い掛けたのである。
「えっ…私の名前ですと?」
八正道は桜花姫の問い掛けに一瞬動揺するも…。
「私の名前は…僧侶の八正道です…」
「あんたは八正道様って名前なのね…」
「私は退散しますね…」
八正道は自身の名前を名乗ると即座に荒神山から退散したのである。八正道が退散してより数秒後…。
「私も西国の村里に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。南国の荒神山から移動してより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ〔精霊山〕に移動したのである。
「精霊山の露天風呂に入浴しましょう♪」
片田舎の西国であるが…。天球神国の温泉郷とも呼称され時たま近隣の観光客達が西国の温泉に入浴する。精霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「精霊山の露天風呂だわ♪」
精霊山の露天風呂は非常に摩訶不思議の温泉であり妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
『折角だし♪変化の妖術を駆使しちゃおうかしら♪』
桜花姫はあらゆる妖怪達の集合体である。当然として彼女は変幻自在の変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やらあらゆる器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって精霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか光り輝く真夜中の星空を眺望する。
『妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も気に入らない妖怪と遭遇したら征伐しちゃおうかな?』
直後…。
「えっ?」
突如として背後の竹林より気配を感じる。
『気配だわ…』
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
『妖気かしら?』
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは同族の妖怪であると認識したのである。桜花姫は警戒した様子で背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
「桜花姫…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の美少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪妖気の正体はあんただったのね♪」
「桜花姫…あんたは入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形のみなら人間の小町娘であるが…。彼女も列記とした妖怪の一人であり異端者の桜花姫にとって唯一の悪友であり彼女の理解者である。桜花姫は笑顔で…。
「雪女郎♪折角だし♪あんたも私と一緒に入浴しましょうよ♪最高の湯加減よ♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は肉体の性質上熱湯の温泉が人一倍苦手である。
「私がこんな熱湯の温泉なんかに入浴すれば肉体が崩れ落ちちゃうわよ…あんたは粉雪妖怪の私を殺したいの!?」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪雪女郎♪」
桜花姫は笑顔で雪女郎に謝罪する。
「入浴しないなら…如何してあんたはこんな場所に?ひょっとして入浴中の私を覗き見とか♪あんたは相当の物好きなのね♪雪女郎♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんたね…私に殺されたいのかしら?誰があんたの全裸なんて覗き見するか…」
「私に用事かしら?雪女郎…」
桜花姫が真剣そうな表情で問い掛けると雪女郎は険悪化した表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?雪女郎?」
桜花姫は雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「数時間前の出来事だけど…あんたは南国の荒神山で三体の百鬼悪食餓鬼を殲滅したわよね?」
「荒神山での出来事かしら?問題だったの?」
「問題も何も…大問題よ!」
「えっ?大問題ですって?」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼悪食餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を前代未聞の愚行として批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…非常に面倒なのよ…」
荒神山での噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪も人間に加勢したってあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。一方の桜花姫は平気なのか極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
『えっ…桜花姫…』
「桜花姫は本当に気楽ね…あんたは天然なのかしら?」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪私は妖力だけなら大妖怪に拮抗するかも知れないわよ…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…あんたね…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は絶対に加勢しないわよ…あんたが一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「大妖怪が相手か…面白くなったわね♪」
桜花姫は内心大喜びする。

第二話

大海戦
南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ♪」
東国とは天球神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も天球神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は著名の和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
『誰かしら?僧侶っぽいわね…』
彼女の隣席には錫杖を所持した僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
『彼には見覚えが…』
桜花姫は隣席の僧侶らしき人物を凝視し続ける。
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の八正道である。奇遇にも僧侶の彼が東国の和菓子屋にて来店…。美味しそうに和菓子を頬張ったのである。
「ひょっとしてあんたは…八正道様かしら?」
すると八正道は身震いした様子で恐る恐る…。
「えっ…桜花姫様!?如何して貴女様がこんな場所に!?」
八正道は小声で桜花姫に問い掛ける。
「如何してって…私は単純に東国の和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
八正道は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を察知出来るのは私だけですが…」
桜花姫は警戒する八正道に問い掛ける。
「八正道様?あんたは私を信用出来ないの?私が妖怪だから?」
「信用するも何も…失礼かも知れませんが貴女様は魑魅魍魎の集合体なのです…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
八正道は妖怪を毛嫌いする一人であり人間に対する敵意が無くとも妖怪である桜花姫を信用出来なかったのである。実際に桜花姫が暴走した場合…。八正道が全身全霊で法力を駆使したとしても彼女の暴走を阻止するのは実質困難である。
「八正道様♪あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪無関係の人間には手出ししないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で八正道様に加勢しちゃったから…大勢の妖怪達に毛嫌いされちゃったのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
八正道は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪仲間の妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「えっ…一匹狼って…」
『同族の妖怪達に敵対視された?四面楚歌の状態で彼女は平気なのか?』
八正道は平気そうな彼女に不思議がる。
『桜花姫様…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…』
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。八正道は無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視…。
『彼女は列記とした妖怪の一人ですが…』
桜花姫は人一倍純粋無垢である。
『本当に人間味を感じさせる摩訶不思議の妖怪ですな…本当に桜花姫様は妖怪なのでしょうか?』
桜花姫が本物の人間みたいに感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視し始める。すると直後である。
「ん!?」
『別物の妖気を感じるぞ…妖怪が出現したのか?』
突如として妖気を察知…。八正道は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「八正道様も妖気を察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に強大なる妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「大妖怪の一歩手前なんて面白そうね♪今度も私の出番かしら♪」
「一大事です…私は即刻妖怪を退治しなくては…」
八正道は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?八正道様!?」
一方の桜花姫も全力で疾走…。八正道を追尾したのである。桜花姫は必死に八正道を追尾し続けるのだが…。八正道の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では神速の彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…一休みしないと…」
『八正道様を見失っちゃったわ…』
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「はぁ…仕方ないわね…」
『瞬間移動の妖術で八正道様を先回りしちゃいましょう♪』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。只管疾走し続ける八正道の目前に瞬間移動したのである。
「八正道様♪」
「うわっ!桜花姫様!?」
八正道は突如として自身の目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りされたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を一人で置いてきぼりなんて…八正道様は意地悪ね♪」
「仕方ないですね…桜花姫様…」
八正道は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「目的地に到着したわね♪八正道様♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻確認出来…。海岸の砂浜には十数人もの漁師達が確認出来る。漁師達は非常に困惑した様子であり八正道は恐る恐る彼等に問い掛ける。
「一体如何されましたか?」
漁師達は八正道に反応する。
「あんたは法師様ですか…」
「先程の出来事なのですが…突然近海に巨大妖怪が出現しましてね…」
「巨大妖怪ですと?」
「巨山みたいな巨大真蛸ですよ…抹香鯨なんかよりも数倍は巨体でしたね…」
数時間前の出来事である。漁師達は近海の海辺にて漁猟活動中…。突如として海面上から規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船が襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に漁船諸共食い殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…生憎妖怪の出現で漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとすると巨大真蛸の正体って…水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「水難妖怪…海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって溺死した亡者達の霊魂が妖怪化した海中の化身とされ…。目撃者達の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が共通である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没させられ…。海難入道と遭遇した人間は溺死するのが通例とされる。
「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻該当者である海難入道を仕留めなくては…」
八正道は即刻海難入道の退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様が!?」
突然の桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「小町娘の姉ちゃんよ…あんたは命知らずかい?相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…冗談かな?」
漁師達は桜花姫に呆れ果てる。
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」
「人間のあんたが妖怪だって?子供騙しかな?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と自負する桜花姫に漁師達は揶揄したのである。
「あんた達…仕方ないわね…」
桜花姫は冷笑すると木造の漁船を凝視し始める。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?如何してこんな超常現象が…」
「あんたは一体何を!?」
桜花姫の駆使する変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪器物だって別物に変化させられるわ♪」
漁師達は勿論…。八正道も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「人間の小娘に擬態したのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪なのよ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。
「折角だし…漁師のあんた達も変化の妖術で桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
「えっ…」
桜花姫の冗談に漁師達は身震いした様子で…。恐る恐る後退りし始める。
「ひっ!此奴は人間の小娘に変化した本物の妖怪だ!」
「妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走したのである。
「漁師さん…逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…桜花姫様が人前で荒唐無稽の妖術なんて駆使するから…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は水難妖怪の海難入道を征伐するわよ♪」
桜花姫は再度自身の肉体に変化の妖術を発動する。変化の妖術を発動すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化し始め…。黒髪の長髪は銀髪に発光したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
八正道は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき規格外の物体は何一つとして確認出来ない。
『こんなにも暗闇の海中だと海難入道は発見出来ないわね…』
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
『ひょっとして海難入道の妖気かしら?』
数秒後…。暗闇の遠方より巨岩らしき巨大移動物体が接近する。
「一体何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主頭であり全体的に巨大真蛸らしき巨大物体だったのである。
『巨大真蛸…』
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体の正体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は二町規模に相当する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様はあらゆる妖怪の集合体…合体妖怪の桜花姫だな…人魚の小娘に擬態するとは…」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹なのだ…邪魔するなら妖怪の貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり自身が空腹であれば相手が同族の妖怪であっても躊躇わず捕食する。
「あんたが空腹ね…私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では水難妖怪の俺を仕留められる海中の妖怪は皆無であるぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るものの…。海底下で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。妖怪では最上位に君臨する大妖怪であっても海中の海難入道を仕留めるのは困難である。
「貴様の噂話は熟知したぞ…近頃貴様は敵対すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を征伐したらしいな?」
桜花姫の噂話は地上界のみならず暗闇の海中でも出回り…。拡散したのである。
「私が人間に加勢したから何よ?私は鬱陶しい邪魔者を仕留めただけなのよね♪」
桜花姫は笑顔で反論する。
「妖怪の分際で…愚劣なる人間に加勢した愚か者が…貴様は気に入らないな…」
「気に入らないならあんたは私を如何するのかしら♪」
桜花姫は再度海難入道に挑発したのである。
「当然として妖怪の面汚しである貴様を食い殺す…」
海難入道は即座に巨大触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪海難入道♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念だったな…桜花姫よ…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「妖力を吸収するなんて…」
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。海難入道の吸収能力に一瞬動揺したのである。
『海難入道には妖術が通用しないのかしら?』
「不思議そうな表情だな…桜花姫よ…俺の肉体はあらゆる妖力を吸収出来…あらゆる妖術を無力化出来るのだ…」
海難入道の最強の特殊能力である吸収能力は自身の肉体に接触した多種多様の妖力を吸収出来…。あらゆる妖術を無力化出来る。基本的に妖力を駆使した攻撃法では海難入道は仕留められない。
「貴様があらゆる妖術を扱おうとも…貴様程度の妖術では俺を仕留められない!」
あらゆる魑魅魍魎の集合体である桜花姫でも…。妖力を吸収する妖怪を仕留めるのは非常に困難である。
『妖術が通用しないなんて…此奴は意外と厄介だわ…』
海中では圧倒的に不利であり桜花姫は恐る恐る後退りする。
『今回は出直そうかな?』
後退りする桜花姫に…。
「先程の威勢は如何したか?桜花姫よ…俺に恐怖したか?」
「別に…誰があんたなんかに恐怖するのかしら?」
海難入道に問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。
「貴様は妖力だけなら大妖怪に拮抗するな…是非とも貴様を捕食したい…」
「私を捕食ですって?」
「あらゆる妖怪の集合体である貴様を食い殺せば…俺は凡庸の妖怪から大妖怪の領域へと到達出来るのだからな♪」
大妖怪に到達出来ると豪語する海難入道に桜花姫は笑顔で…。
「私を捕食なんて…あんた程度の大妖怪の出来損ないに出来るかしら♪」
桜花姫は笑顔で挑発したのである。
「最強の水難妖怪である俺を大妖怪の出来損ないだと?貴様…本当に食い殺されたいらしいな…」
「食い殺せるのであれば私を食い殺しなさいよ♪大妖怪の出来損ない♪」
桜花姫は只管に挑発し続ける。
「妖怪の小娘風情が…貴様は本当に気に入らない小娘だな…」
すると海難入道は蛸足の巨大触手で人魚状態の桜花姫を拘束したのである。
「えっ?」
「貴様を食い殺す!覚悟しろ!桜花姫!」
海難入道は一口で桜花姫を捕食…。自身の口内で彼女を咀嚼したのである。
「所詮桜花姫はこんな程度の弱小妖怪なのだ…」
すると直後…。桜花姫を捕食した影響からか先程よりも海難入道の妖力が急上昇したのである。
「俺の妖力が増大化したぞ!」
妖力のみなら今現在の海難入道は大妖怪に匹敵…。海難入道は強大化した自身の妖力に大喜びしたのである。
「今日から俺も大妖怪の仲間入りだな♪雑魚妖怪でも桜花姫を捕食出来たのは何よりの幸運だ♪」
すると直後…。
「ん!?」
海難入道の全身が白煙に覆い包まれ…。推定二町規模の巨大さである海難入道の肉体が消滅したのである。すると白煙の内部から海難入道によって食い殺された桜花姫が再度出現…。彼女は無傷であり平気そうな様子だったのである。
「海難入道を仕留めたし♪」
『私は地上界に戻りましょう♪』
桜花姫は再度瞬間移動の妖術を駆使…。海岸の砂浜へと無事戻ったのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
桜花姫は海岸の砂浜にて僧侶の八正道と再合流する。
「八正道様♪海難入道は無事征伐したわ♪」
「海難入道を征伐されたみたいですね…一瞬桜花姫様の妖気が消滅したので海難入道に食い殺されたのかと…」
「一度海難入道に捕食されちゃったけれどね♪」
桜花姫は一時的に海難入道に捕食されたものの…。体内の胃袋から海難入道の肉体と同化したのである。
「反対に私が海難入道を捕食したのよ♪」
「えっ…桜花姫様が海難入道を捕食ですと?」
今現在海難入道は桜花姫の肉体の一部に変化する。
「兎にも角にも…海難入道は仕留めたから金輪際南国の海域は安全よ♪」
「事件は無事解決出来たので一件落着ですね…桜花姫様…」
八正道も一安心したのである。
「事件も解決出来たし♪戻りましょう♪」
「解散しますかね…」
桜花姫と八正道は解散…。二人は各自の村里へと戻ったのである。

第三話

巫女
南国での海難入道との大海戦から六日後の真夜中…。桜花姫は暇潰しに北国の村里にて散歩したのである。
「退屈ね…」
時間帯は深夜であり村人達は誰一人として確認出来ない。
「妖怪でも出現しないかしら?」
基本的に多数の百鬼夜行が活動するのは真夜中であり日中に出現するのは中堅以上の妖怪である。
「退屈だし…西国に戻ろうかな?」
彼女は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として自身の周囲より無数の気配を感じる。
『気配だわ…』
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒し始める。
『無数の妖気みたいね…』
「相手は妖怪の大群かしら?」
気配の正体は妖気であり無数の妖怪達が自身に接近するのを察知する。
「今回は何が出現するのかしら?」
すると直後である。
「悪食餓鬼の大群だわ…」
周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現…。桜花姫は彼等によって周囲を包囲されたのである。
『私に対する敵意も殺意も感じられるわね…』
突如として出現した悪食餓鬼の大群であるが…。彼等はふら付いた身動きで桜花姫に近寄る。
「如何やらあんた達…私が気に入らないみたいね♪」
本来亡霊妖怪の悪食餓鬼は同族の妖怪には手出ししない性質であるが…。彼等は同族の妖怪である桜花姫を敵対視した様子だったのである。直後…。悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到する。
「はぁ…あんた達は命知らずね…」
桜花姫は殺到する悪食餓鬼に呆れ果てるものの…。
「私が相手するわ…死滅しなさい♪」
桜花姫は念力の妖術を発動する。すると悪食餓鬼の全身が肥大化…。数秒後に肥大化した全身が破裂したのである。桜花姫の地面周辺には無数の鮮血やら肉片が散乱する。
『折角だから変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪』
「あんた達♪桜餅に変化しなさい♪」
今度は変化の妖術を発動…。すると周辺の肉片が小皿に配置された桜餅に変化したのである。
『変化の妖術♪成功だわ♪』
「悪食餓鬼は桜餅に変化したわね♪」
桜花姫は無数の桜餅に大喜びする。彼女は無我夢中に無数の桜餅を頬張り始める。数分後…。桜花姫は数百個もの桜餅を頬張ったのである。
「満足♪満足♪消耗しちゃった妖力も回復出来たわね♪」
今度こそ西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「今度も無数の妖気を感じるわ…」
周囲より無数の妖気を察知する。
「今度も雑魚妖怪の大群ね…」
すると周囲の地面より数十体から数百体もの悪食餓鬼の大群が出現…。今度は悪食餓鬼の亜種である親玉の百鬼悪食餓鬼が五体も確認出来る。
「先程よりも大群だわ…」
『強豪の百鬼悪食餓鬼が五体も出現するなんてね…』
桜花姫は五体の百鬼悪食餓鬼と悪食餓鬼の大群に包囲されたのである。
「毎度だけど…鬱陶しい奴等ね…」
無数の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼が面倒臭いと感じるのか体内の妖力を急上昇…。天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「あんた達…死滅しなさい♪」
桜花姫は落雷の妖術を発動…。黒雲から落雷が発生したのである。落雷が地面に直撃すると地面が抉られ…。周囲の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼を一掃させる。
「所詮は雑魚妖怪ね♪大妖怪に相当する私に挑戦するなんて無謀なのよ♪」
桜花姫は夜空の満月を眺望し始める。
「邪魔者は一掃出来たわ…今度こそ西国の村里に戻ろうかしら…」
直後である。
「えっ?」
突如として不吉の気配を感じる。
『何かしら?』
「妖気?」
不吉の妖気が一歩ずつ桜花姫に接近する。
『妖気なのは確実だけど…』
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。不吉の妖気に戦慄したのである。
『妖気は妖気でも…此奴は大妖怪の妖気ね…』
不吉の妖気は大妖怪の妖気であり桜花姫は警戒する。
「一体何が…」
『出現するのかしら?』
すると彼女の背後より…。
「貴様はあらゆる妖怪達の集合体…桜花姫か…」
「えっ!?」
桜花姫は警戒した様子で背後を直視したのである。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは芸者風の着物姿の女性であり彼女は無表情で桜花姫を凝視する。
「私は…【羅刹女】…大妖怪の一人だ…」
『えっ!?羅刹女って…大陸出身の…』
羅刹女とは大陸出身の大妖怪であるが…。外見のみなら小柄の人間の女性である。羅刹女は絶大なる妖力によって北国一帯を支配する大妖怪であり大勢の村人達は勿論…。数多の妖怪達が大妖怪である彼女に畏怖する。別名としては妖怪達の総大将とも呼称される。
「羅刹女…こんな場所で大妖怪のあんたと遭遇するなんてね…」
桜花姫は羅刹女に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
『如何して大陸の大妖怪がこんな片田舎みたいな場所に…』
すると羅刹女は後退りする桜花姫を直視…。冷笑したのである。
「貴様…私に対する恐怖心か?近頃の噂話では貴様は打倒すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を仕留めたらしいな…」
「私が人間に加勢したから何よ?私が気に入らない妖怪達を仕留めるのは私の勝手でしょう…鬱陶しいわね…」
「此奴…小娘の分際で…」
羅刹女は桜花姫の挑発的態度に苛立ったのか険悪化した形相で彼女に睥睨する。
「妖怪の小娘風情が…所詮貴様は百鬼夜行の面汚しなのだ…」
「私が百鬼夜行の面汚しだから何よ?」
羅刹女は妖刀を抜刀したのである。
「妖刀かしら?」
「百鬼夜行の面汚しである貴様は…俗界の征服者である私が徹底的に征伐する…」
すると羅刹女は神速の身動きで桜花姫の目前に急接近…。一瞬で桜花姫の目前へと瞬間的に移動したのである。
「えっ?」
「貴様を斬殺する…覚悟するのだな…桜花姫…」
羅刹女は妖刀の一振りにより桜花姫の肉体を一刀両断…。彼女の肉体は上半身と下半身に両断されたのである。
「桜花姫は所詮こんな程度の実力者か…他愛無いな…」
羅刹女は桜花姫の予想外の脆弱さに拍子抜けする。
『妖怪は妖怪でも…所詮桜花姫は雑魚妖怪が一体化した肉塊であり…結局は弱小妖怪だったか…』
妖刀の一振りで両断された桜花姫の肉体であるが…。
「ん?」
上半身と下半身から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「此奴は桜花姫の分身体か?」
すると羅刹女の背後より…。
「はぁ…危機一髪だったわ…」
「貴様…分身の妖術で私の攻撃を回避したみたいだな…悪知恵だけは抜群だ…」
桜花姫は分身の妖術の使用により危機一髪羅刹女の攻撃を回避したのである。
「残念だったわね♪羅刹女♪」
桜花姫は笑顔で彼女を挑発するのだが…。
『如何しましょう…私があらゆる妖術を駆使出来ても…大妖怪の羅刹女が相手では圧倒的に不利よね…』
桜花姫は恐る恐る後退りする。
「所詮は空元気か…貴様は雑魚妖怪だ…」
「えっ?」
羅刹女の様子に桜花姫は再度警戒…。
『羅刹女は一体何を?』
すると羅刹女は強烈なる眼力で桜花姫を睥睨したのである。
「私の統治する新世界に…貴様みたいな愚か者の弱小妖怪は不要なのだ…」
直後…。
「えっ!?」
『全身が!?』
桜花姫の全身が肥大化したのである。
「今度こそ死滅せよ…弱小妖怪の集合体…桜花姫…」
「ぎゃっ!」
肥大化した桜花姫の肉体が一瞬で破裂…。地面には無数の鮮血やら肉片が飛散したのである。
「桜花姫は時間が経過すれば復活するだろうが…」
『所詮こんな程度の妖力か…』
同時刻…。
『妖気!?』
八正道は東国の寺院で仮眠するのだが不吉の妖気を察知したのである。
『不吉だ…方角は北方か…』
「北国の村里だな…」
北国の村里から感じる強大なる妖気に八正道は戦慄する。
『北国の村里に一体何が出現した?』
気になった八正道は即座に行動を開始したのである。寺院から外出すると北方の北国へと直行する。移動してから一時間後…。八正道は北国の村里に到達する。
「北国だな…ぐっ!」
北国の村里に到達した八正道であるが…。強大なる妖気に接近した影響からか突如として胸部が重苦しくなる。
『恐らくは大妖怪の妖気だな…一体こんな場所に何が出現したのか?』
強大なる妖気に八正道はふら付いたのである。
「こんな妖気…普通の人間なら気絶するか…」
『場合によっては最悪…絶命するぞ…』
大妖怪の妖気は通常の妖怪とは桁違いに強力であり大妖怪が僅少でも妖力を発動した場合…。普通の人間であれば気絶するか最悪怪死する。強大なる法力を所持する僧侶の八正道でも大妖怪の妖気は非常に重苦しく感じる。すると直後…。
「路地裏か?」
近辺の路地裏より人外の気配を感じる。
『不吉だな…人気とは無縁そうだ…』
八正道は警戒した様子で恐る恐る路地裏へと移動する。民家の物陰から気配の感じる路地裏の様子を注視したのである。
『路地裏では一体何が…』
民家の路地裏では刀剣を所持した芸者風の女性は勿論…。周囲の地面には無数の人肉らしき肉片やら血肉が確認出来る。
『なっ!?彼女は一体何者だ!?地面の死骸も気になるが…』
芸者風の女性から不吉の妖気が感じられる。
『妖気だと!?』
八正道は芸者風の女性に畏怖したのである。
『彼女は人間の女性みたいな姿形だが…恐らく彼女の正体は妖怪だな…村里から感じられた妖気は彼女の妖気だったのか!?』
芸者風の女性は列記とした妖怪であると認識する。
『彼女は其処等の妖怪よりも桁外れの妖気だ…妖気の性質から判断して…彼女は恐らく大妖怪の一人だな…』
通常の妖怪であれば即座に対処するのだが…。彼女は別格の大妖怪であり八正道は畏怖したのである。
『私は如何するべきか?』
相手は本物の大妖怪であり強大なる法力を駆使する八正道であっても…。単独で大妖怪と交戦するのは非常に危険である。大妖怪との遭遇に八正道は混乱する。直後…。
「ん?」
何時の間にか芸者風の女性の姿形が路地裏から消失したのである。
「なっ!?彼女は一体…」
すると直後…。
「えっ?」
背後より強大なる妖気を感じる。八正道は背後の存在に戦慄するものの…。警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「貴女は一体…何者ですか?」
背後の人物とは先程の刀剣を所持した芸者風の女性である。彼女は無表情で八正道を凝視し続ける。
「私の名前は羅刹女…大陸の大妖怪とでも…」
芸者風の女性は自身を大妖怪の羅刹女と名乗る。
「なっ!?羅刹女って…妖怪達の総大将の!?」
羅刹女の名前に八正道は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
「貴様も…彼奴と同様の反応であるな…」
「えっ?彼奴とは…一体誰なのでしょうか?」
「弱小妖怪の肉塊…桜花姫だ…」
桜花姫の名前に八正道は無意識にも反応する。
「えっ…貴女は桜花姫様の…知人なのですか?」
「はっ?私が桜花姫の知人だと?」
八正道の知人の一言に羅刹女は苛立ったのである。
「彼奴は単なる魑魅魍魎の面汚しだ…桜花姫は妖怪の出来損ないであり…征伐すべき対象なのだ…」
羅刹女は無表情で八正道を凝視…。
「貴様は人間の僧侶だな…ひょっとして貴様か?近頃…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶とは…」
八正道は無言であるが一瞬身震いする。
「貴様の反応…如何やら図星みたいだな…」
すると羅刹女は再度妖刀を抜刀したのである。
「人間の僧侶よ…今度は守護者の出現は期待出来ないぞ…何故なら…民家の路地裏の血肉は弱小妖怪の集合体…桜花姫の血肉なのだからな…」
「えっ!?桜花姫様ですと!?」
『桜花姫様が…羅刹女に殺害されたのか!?』
八正道は衝撃の事実に絶句する。
「安心しろ…桜花姫は弱小妖怪の集合体でも不死身だからな…肉体を粉砕したとしても彼女は一定の時間差で復活する…」
「彼女は一定時間で復活するのですか…」
『桜花姫様…』
内心一安心したのである。
「貴様は人間の分際で…弱小妖怪の小娘を心配するとは…余程の物好きだな…」
羅刹女は身構える。
「安心しろ…人間の貴様は何方にせよ…私が仕留めるのだからな…人間の僧侶である貴様を辛苦の無間地獄に招待するぞ…」
「えっ…」
羅刹女は神速の身動きで八正道に接近すると妖刀で腹部を斬撃したのである。
「死滅せよ…人間の僧侶…」
八正道は羅刹女に腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
八正道は地面に横たわったのである。腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
「何方にせよ貴様は失血死する…私は撤収するか…」
羅刹女は何処かへと撤収する。
「ぐっ…」
八正道は口先から吐血したのである。
『私は…今日が…私の…私の命日なのか…』
疫病で病死した女房の笑顔が彼自身の脳裏に想起される。
『如何して女房の笑顔が?結局…私は憎悪した妖怪に殺される運命だったのか…』
彼が妖怪を人一倍憎悪する理由とは自身の家族である女房が亡霊妖怪の悪食餓鬼によって殺害されたからである。悪食餓鬼の攻撃で負傷した人間は再起不能の疫病を発症…。最終的には高熱により衰弱死する。
『私は妖怪達から一人でも大勢の村人を守護したかったが…今日で私の妖怪退治の人生も終了なのか…出来るなら殺伐とした無間地獄よりも…安楽の極楽浄土で女房と再会したいな…』
衰弱化した八正道は両目を瞑目させる。すると直後…。何者かが八正道の傷口に接触したのである。
『なっ!?誰だ!?』
神秘的雰囲気の巫女の女性が横たわった八正道の傷口に接触する。
『彼女は巫女の…女性でしょうか?彼女は非常に神秘的だが…』
傷口に接触するのは神秘さを感じさせる巫女の女性である。彼女は体格こそ小柄であるものの…。非常に神秘的であり容姿端麗の雰囲気だったのである。彼女の周囲には虹色の発光体が無数に確認出来る。
『彼女は一体何者でしょうか?妖怪とは無縁そうだ…邪気と妖気は勿論だが…彼女からは悪意すら感じられない…』
突如として出現した巫女は正体こそ不明であるが…。邪気も妖気も感じられず本物の聖母的女性だったのである。
『世の中は摩訶不思議だ…こんな神秘的雰囲気の人間が存在するとは…』
すると直後…。
「えっ!?」
羅刹女によって斬撃された傷口が一瞬で治癒したのである。
『傷口が治癒したぞ…ひょっとして彼女の正体は天空世界から降臨された…本物の女神様なのか!?』
巫女の霊能力かは不明瞭であるものの…。八正道の傷口は完全に治癒したのである。すると巫女は笑顔で…。
「貴方の傷口は私が完治させました…大丈夫ですよ♪法師様♪」
八正道は警戒するものの正体不明の巫女に感謝する。
「大変感謝します…巫女様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来ました…」
八正道は恐る恐る…。
「ですが貴女様は一体…何者なのでしょうか?ひょっとして貴女様は天空世界から降臨された女神様でしょうか?天女ですかね?」
八正道の問い掛けに巫女は自身の名前を名乗る。
「私の名前は…桃子姫です…」
『えっ!?桃子姫って…』
桃子姫の名前に八正道は驚愕する。
「私は所謂…合体妖怪である桜花姫の片鱗でしょうか…」
巫女の正体とは桜花姫の人間の部分である桃子姫…。彼女本人だったのである。
『彼女は本物の桃子姫様なのか!?』
八正道は恐る恐る彼女を直視…。桃子姫は半透明の霊体ではなく実体化した生身の存在であり列記とした人間の巫女である。
『彼女は人間の巫女だ…現実なのか?』
目前の出来事が現実なのか混乱する。八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「ですが如何して桜花姫様の片鱗である桃子姫様が…合体妖怪である桜花姫様の肉体から出現されたのでしょうか?」
問い掛けられた桃子姫は返答する。
「先程の羅刹女との戦闘により母体である桜花姫の肉体が粉砕された影響でしょうか…一時的に彼女の肉体から分離出来たのです…私自身は人間の肉体ですが彼女の肉体の一部ですからね…」
羅刹女の猛攻撃によって桜花姫の肉体は無数の血肉に粉砕され…。一時的に人間の片鱗である桃子姫が分離され行動したのである。
「今現在の桃子姫様は妖怪の集合体である桜花姫様から独立した状態で行動出来るのですね…」
「性格こそ桜花姫とは微妙に不一致ですが…私自身と桜花姫は一心同体の存在なのです…彼女が元通りの姿形に戻れば私の肉体は自然消滅するでしょう…私が自分の意思で行動出来るのは一時的に発生した超常現象ですから…」
「一時的ですか…」
八正道は内心寂然と感じる。すると数秒後…。
「えっ!?桃子姫様!?」
一時的に実体化した桃子姫の肉体であるが突如として半透明化し始める。
「如何やら時間みたいですね…」
「桃子姫様…貴女は消滅されるのですか…」
桃子姫の消滅に八正道は非常に残念がる。
「法師様♪私なら大丈夫ですよ♪貴方とは今度も再会出来ますから♪」
桃子姫は笑顔で返答する。すると彼女は赤面した様子で…。
「最後ですが…法師様?貴方の名前は?」
「えっ!?私の名前ですか!?」
突然の桃子姫の問い掛けに八正道は一瞬吃驚するも名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
「八正道様ですね…」
直後である。彼女の肉体は虹色の粒子状へと変化…。完全消滅したのである。
「桃子姫様…」
僅少であるが…。
『私は如何して…見ず知らずの相手に落涙するのか?』
八正道は無意識にも涙腺から涙が零れ落ちる。
「ん?」
『突然眠気か?』
疲労の影響からか八正道は再度安眠する。

第四話

復活
翌朝…。一連の闇夜から八正道は民家の裏庭で熟睡する。すると熟睡中…。
「八正道様?八正道様?」
女性らしき美声が自身の耳元に響き渡る。
『一体誰でしょうか?女性の…美声っぽいですが?』
女性の美声に八正道は目覚める。
「八正道様♪お早う御座います♪」
「えっ!?貴女様は桜花姫様!?」
女性らしき美声の正体とは誰であろう合体妖怪の桜花姫だったのである。桜花姫は元通りの状態であり八正道は驚愕する。
「無事だったのですか!?桜花姫様…」
「無事も何も…私は特段何も…」
「ですが桜花姫様…昨夜は…」
「私なら大丈夫よ♪八正道様は心配性なのね♪」
心配する八正道に桜花姫は笑顔で返答したのである。
「私は何度肉体を粉砕されても元通りに復活しちゃうからね♪八正道様が心配しなくても私は大丈夫なのよ♪」
「妖怪の肉体は変幻自在なのですね…」
『ですが桜花姫様の着物に鮮血が…昨夜の戦闘で桜花姫様の肉体が大妖怪の羅刹女によって粉砕されたのは事実みたいですね…』
桜花姫の着物には僅少の鮮血が確認出来る。
『昨夜の出来事は現実で…路地裏の血肉は本当に桜花姫様だったのですね…』
昨夜の出来事は現実であると実感する。
『彼女の様子から…元気そうですが…』
元気そうな彼女の様子に八正道は一安心したのである。
『ですが彼女の肉体の一部に…人間の巫女である桃子姫様の血肉が存在するのですね…桃子姫様…』
桃子姫の面影を想起する。
「如何しちゃったの?八正道様?」
突然の問い掛けに八正道は吃驚したのである。
「えっ!?失礼…」
すると八正道は恐る恐る…。
「大変恐縮なのですが…私は昨夜…大陸の大妖怪…羅刹女と命名される芸者風の女性妖怪と遭遇しまして…」
八正道は羅刹女と遭遇した闇夜の出来事を洗い浚い桜花姫に告白したのである。
「八正道様は大陸の大妖怪…羅刹女と遭遇したのね…」
桜花姫の表情が険悪化したのである。
『えっ…桜花姫様の表情が…』
普段は人一倍安穏そうな桜花姫であるが…。表情が険悪化する桜花姫に八正道は畏怖したのである。
「桜花姫様…羅刹女と名乗る大妖怪は…厳密には何者なのでしょうか?彼女の行動と言動から判断して…同族である桜花姫様を非常に憎悪した様子でしたが…」
「羅刹女は大陸全域と天球神国の北国を支配する世界屈指の大妖怪なの…」
「えっ…彼女は世界屈指の大妖怪ですか…」
『羅刹女は全世界規模の大妖怪だったのか…妖怪の総大将としての異名も本当みたいですね…』
羅刹女と自身との実力差に八正道は絶句する。
「遅かれ早かれ…俗界で彼女に対抗出来る妖怪が一握りなのは確実よ…」
「桜花姫様でも彼女には対抗出来ないのですか?」
「否定したいけれど…事実なのよね…」
八正道の問い掛けに桜花姫は即答したのである。
「何方にせよ…全世界は彼女に征服されるのですね…」
「天下無敵の彼女でも…唯一の弱点が存在するの…」
「唯一の弱点ですと!?彼女にとって何が弱点なのですか!?」
桜花姫は小声で…。
「私の体内で…永眠する桃子姫の存在よ…」
「えっ…桃子姫様ですか?」
「桃子姫はね…」
合体妖怪の桜花姫が誕生する三十年前の出来事である。人間の巫女であった桃子姫は絶大なる霊能力により多種多様の妖怪達を征伐…。各村落の村人達からは人間の巫女である彼女を救済の女神やら天女として崇拝されたのである。大勢の人間達からは救済の女神やら天女として崇拝される反面…。数多の妖怪達からは打倒すべき怨敵として憎悪されたのである。とある某月某日…。大陸一帯を支配する大妖怪羅刹女が天球神国を侵略しに一国である北国の村里へと出現したのである。北国の村里で桃子姫は大妖怪の羅刹女と直接対決…。戦闘は桃子姫が圧倒的に有利であり誰しもが桃子姫の勝利を確信したのである。桃子姫は霊能力が非常に絶大である反面…。肉体的には脆弱であり幼少期から人一倍病弱だったのである。桃子姫は羅刹女の奇襲により瀕死…。反対に大妖怪である羅刹女も桃子姫の霊能力により大半の妖力を浄化され弱体化したのである。桃子姫の奮闘によって羅刹女による天球神国侵略計画は阻止出来たものの…。桃子姫は瀕死状態であり祖国である西国の山奥へと逃走したのである。逃走するも桜花の山中で数多の妖怪達と遭遇…。桃子姫は虫の息であったが妖怪の大群と交戦したのである。桃子姫は自身の体内に数多の妖怪達を封印した状態で人間と妖怪の集合体として妖怪化…。魑魅魍魎の集合体である合体妖怪の桜花姫が桜花の山道で誕生したのである。誕生した当初は赤子の状態であったが…。彼女はとある人間の夫婦に拾われ桜花姫と名付けられる。
「予想しましたが…桜花姫様の過去は私達が想像する以上に壮絶だったのですね…」
すると八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「妖怪である貴女様を養育された義理の両親は?」
桜花姫は一瞬沈黙するも…。
「残念だけど…私の義理の両親は…人間の匪賊達の襲撃で殺されちゃったわ…」
彼女の義理の両親は二十年前に人間の匪賊達の夜襲によって殺害されたのである。
「殺害されたのですか…気の毒ですね…」
八正道は切なく感じる。
『ですが桃子姫様が交戦された大妖怪の正体とは…羅刹女だったのですね…』
八正道は桃子姫と交戦した大妖怪が羅刹女であると確信する。
「私にとっても彼女にとっても…羅刹女は因縁の関係なのよね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…大変失礼しました…今迄私は貴女を単なる極悪非道の妖怪とばかり…御免なさいね…」
桜花姫に謝罪したのである。すると桜花姫は笑顔で…。
「八正道様♪気にしないで♪私なら大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
桜花姫の様子に八正道は一安心したのである。
『桜花姫様…妖怪なのに天女みたいな女性ですね…桃子姫様と瓜二つです…』
桃子姫の面影からか合体妖怪の桜花姫が天空世界の天女みたいに感じられる。同時刻…。南国に位置する山奥のとある洞窟では白装束の集団が集結する。
「同志達よ…全員集結したな…」
集団の人数は六人であり松明を所持する集団の頭領が五人の若者達の人数を確認したのである。
「頭領…こんな洞窟に私達を集合させるなんて…一体何を?」
「今回は何事でしょうか…」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
「早速私が道案内する…各自…私に追尾せよ…」
頭領は洞窟の奥底へと移動する。数分後…。洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!?人間の木乃伊ですか!?」
彼等は木乃伊を直視すると一瞬畏怖する。木乃伊は野犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「一体…誰の遺体なのでしょうか?頭領?」
集団の一人が頭首に問い掛ける。
「彼こそは誰であろう私達南国の英雄であり…各領地の大名達から畏怖された戦乱時代最強の鬼神…泣く子も黙る【月影夜叉王】様の遺体であるぞ!」
「なっ!?木乃伊が月影夜叉王様ですか!?」
月影夜叉王とは戦乱時代に大活躍した南国最強の武士であり名門の月影一族の若武者である。生前では南軍の鬼神とも呼称され各領地の領主達は勿論…。敵味方の将兵達から畏怖されたのである。弱肉強食の戦乱時代当時は南軍最強の英雄として扱われるものの…。彼によって大勢の戦友達が惨殺され憎悪する者達により共存共栄の安穏時代では極悪非道の荒武者として扱われる。世間では極悪非道の大悪党と認識される反面…。一部の村里では今現在でも彼を英雄として神格化し続ける。
「えっ…私達の英雄…月影夜叉王様は死去されたのですか?」
「非常に残念であるが…鬼神の夜叉王様が死去されたのは事実だ…夜叉王様は遺体の状態から判断して…山中の野犬によって食い殺されたのかも知れない…」
「鬼神の夜叉王様が野犬を相手に食い殺されるなんて…正直信じ難いですね…」
今迄夜叉王は行方不明として扱われ生死は不明だったのである。夜叉王の死因こそは不明瞭であるものの…。今回で夜叉王が死亡したと判明する。
「勿論…事実を熟知したのは私達だけだぞ…夜叉王様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
集団の頭首は五十年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼神の月影夜叉王を神格化する一人であり奇遇にも夜叉王が死去した数日後に夜叉王の遺体を発見したのである。
「頭領は夜叉王様の遺体を如何されるのですか?」
頭領は恐る恐る一息する。
「黄泉の世界から死没者である月影夜叉王様を…完全なる生身の生者として復活させるのだ…」
「なっ!?」
彼等は頭領の突発的発言に驚愕したのである。
「最早死没者である夜叉王様を…完全なる生者として復活させられるのですか!?」
「黄泉の世界の死没者を俗界の生者として復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?非現実的では?」
周囲の者達は内心胡散臭いと感じるものの…。問い掛けられた頭領は即答する。
「実現出来るとも…無論黄泉の世界の死没者を完全なる生者として復活させるには相応の…犠牲が必要不可欠であるが…」
「相応の…犠牲ですと?犠牲とは一体…」
すると頭領は隠し持った拳銃を携帯したのである。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国で調達した最新式の拳銃だ…此奴で貴様達の生命力を頂戴する…私達の英雄…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様達の生命力が必要不可欠であるからな…覚悟せよ…」
「ひっ!」
「俺達は殺される!逃げろ!」
五人の若者達は頭領の所持する拳銃に畏怖したのか即座に逃走する。
「極楽浄土で未来永劫安眠せよ…」
頭領は背後から四人の若者達に発砲…。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
拳銃で四人を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…俺は死にたくないよ…」
若者は極度の恐怖心からか身震いした様子で涙腺からは涙が零れ落ちる。
「貴様が恐怖するのは勿論理解出来るが…本来死没者を完全なる生者として復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」
数千年前の太古の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに百人もの人間達を人身御供として利用した死者蘇生の儀式が各地の村里で実行されたのである。当時は頻繁に死者蘇生の儀式が実行されたが…。死者蘇生の儀式で死没者が復活した事例は実質皆無とされる。非人道的理由からか今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも死者蘇生の儀式は完全なる愚行として厳禁されたのである。
「私は今迄に九十五人もの人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだ…」
頭領は拳銃に弾丸を装填させる。
「南国の鬼神…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」
一発の銃弾が若者の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
彼を即死させたのである。
「夜叉王様を生身の生者として復活させるには…彼等の鮮血が必要だな…」
頭首は今迄に九十五人もの人間達を殺害…。夜叉王の木乃伊に殺害した人間の血液を含有させたのである。
「今回で五人の血液を入手出来たぞ…」
殺害した五人の遺体から鮮血を指先に採取…。
『五人の血液を…夜叉王様の肉体に…』
彼等の鮮血を夜叉王の木乃伊に接触させたのである。
「南国の英雄であり鬼神…月影夜叉王様♪」
死没者である夜叉王の復活に期待する。
「黄泉の世界から俗界に戻られよ…夜叉王様!」
一分間が経過するのだが…。
「何故だ!?何故…月影夜叉王様は生者として復活されないのだ!?」
夜叉王の木乃伊は復活するばかりか何一つとして身動きしない。
『ひょっとして儀式に不備が…』
すると直後である。
「えっ…」
突如として夜叉王の遺体が破裂…。洞窟内部に夜叉王の血肉が飛散する。
「ひっ!」
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「一体何が…なっ!?」
破裂した夜叉王の肉片に頭領は驚愕する。
「夜叉王様の…肉体が…」
『如何して…夜叉王様がこんな状態に…』
頭領は破裂した夜叉王の肉体を直視…。絶望したのである。
「こんな状態では夜叉王様は二度と復活出来なくなるぞ…』
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
「結局…死没者を復活させる死者蘇生の儀式とは…出鱈目だったのか…」
出鱈目の儀式に頭領は後悔したのである。
『結局…私は単なる人殺しだったのか…』
自身の行動が愚行であり単なる殺人であると自覚した直後…。背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を警戒…。背後を直視すると頭領の背後には刀剣を所持した芸者風の着物姿の女性が佇立する。
「貴様は一体何者だ!?女子か?」
すると芸者風の着物姿の女性が発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの同族を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…醜悪であるな…」
頭領は恐る恐る…。
「貴女様は一体何者なのでしょうか?」
問い掛けられた芸者風の女性は即答する。
「私は…大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
「大陸の大妖怪…羅刹女ですと?」
羅刹女は飛散した夜叉王の血肉を凝視始める。
「貴殿は…戦乱時代の月影夜叉王と名乗る…極悪非道の亡者を俗界に復活させたいみたいだな…」
問い掛けられた頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも…私にとって鬼神の月影夜叉王様は未来永劫南国の英雄であり…未来永劫南国の武神なのですから…」
「貴殿の崇拝する月影夜叉王を復活させたいのであれば…人柱として貴殿自身の生命力を私に授与せよ…」
「私自身の生命力ですか…」
「黄泉の世界の亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠なのだ…貴殿が拒否すれば鬼神の月影夜叉王は未来永劫俗界へは復活出来ない…」
頭領は一瞬躊躇うものの…。
「であれば羅刹女とやら…承知しました…私自身の生命力を月影夜叉王様に授与しましょう…」
『私自身の血肉で鬼神の夜叉王様が復活されるのであれば止むを得ないな…』
不本意であるが頭領は承諾したのである。
「であれば貴殿の生命力を代償に…死没者の月影夜叉王を最強の大妖怪として復活させる…」
直後…。
「なっ!?発火だと!?」
羅刹女の妖力からか頭領の皮膚が突発的に発火したのである。高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は一瞬で黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生し始め…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…大妖怪…月影夜叉王よ…」
夜叉王は素肌が死者を連想させる灰白色であったが…。生前と同様の姿形に復活したのである。
「如何して私がこんな場所に?私は…大勢の家臣達に暗殺されて…」
「夜叉王とやら…貴殿は…」
羅刹女は自身が復活した経緯を一部始終夜叉王に説明する。
「私は…黄泉の世界から復活したのか…」
「夜叉王よ…今現在の貴殿は私の妖力で大妖怪の肉体であるが…今現在の貴殿は生前よりも強力だ…其処等の弱小妖怪達とは別格の妖力であるぞ…」
普段は無表情の夜叉王であるが…。
『妖怪の肉体なのは…正直気に入らないが…』
微笑したのである。
「俗界で自由に暴れ回れるのであれば妖怪の肉体でも止むを得ないな♪」
すると羅刹女は復活させた代償として夜叉王に交換条件を提示したのである。
「交換条件として…貴殿は愚劣なる大勢の人間達は勿論…私が憎悪する妖怪の小娘…怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅するのだ…大妖怪として復活した貴殿であれば桜花姫を殲滅出来るよな?」
「桜花姫だと?桜花姫とは一体何者なのだ?」
「桜花姫は私が憎悪する妖怪だ…私にとって最大の怨敵であり復讐相手なのだ…姿形のみなら人間の小町娘であるが…正真正銘妖怪の小娘であるぞ…貴殿の絶大なる妖力で彼奴を完膚なきまでに殲滅するのだ…」
「桜花姫って名前の…女人の妖怪を殲滅する任務か…」
「貴殿が桜花姫を殲滅出来れば…未来永劫貴殿の自由を約束する…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「折角復活したのであれば…あんたとの約束は厳守するさ…」
両者は交渉成立する。夜叉王は羅刹女に問い掛ける。
「あんたは一体何者だ?女人の妖怪みたいだが…」
「私は大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
問い掛けられた羅刹女は自身を大陸の大妖怪と自負する。
「羅刹女だと?あんたは大陸の大妖怪か…其処等の妖怪とは別格みたいだな…」
数秒後…。
「鬼神の月影夜叉王よ…再度黄泉の世界に戻りたくなければ…俗界で思う存分醜悪なる人間達と怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅せよ…大妖怪としての貴殿の使命だ…」
すると羅刹女の姿形が消滅したのである。
「思う存分人間達と桜花姫と命名される妖怪を殲滅する任務とは…」
『女人の大妖怪に命令されるのは正直気に入らないが…大妖怪の肉体でも折角復活出来たのだからな…』
夜叉王の心情より人間達への殺意が芽生える。
「近日中にでも…」
『一先ずは桜花姫と名乗る…女人の妖怪を殲滅するべきだな…』
夜叉王は洞窟から脱出したのである。一連の出来事から三日後の真昼…。西国の村里では桜花姫の悪友である雪女郎が村道を散歩する。
「はぁ…退屈だわ…」
西国の村里は過疎地であり人間との揉め事も時たまである。平穏の日常に雪女郎は退屈に感じられる。
「退屈だし家屋敷に戻ろうかな?」
雪女郎は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。突如として不吉の気配を感じる。
「えっ!?」
『何かしら!?』
不吉の気配に雪女郎は周囲を警戒したのである。
『人間!?妖怪!?』
近辺より絶大なる邪気と殺意を感じる。
『気配の正体は不明だけど…邪気と殺気は感じられるわ…一体何かしら?』
すると彼女の背後より…。
『背後!?』
雪女郎は恐る恐る背後を警戒したのである。彼女の背後には鬼神を連想させる重厚なる甲冑を装備…。刀剣を所持した武士が佇立する。
『えっ…何者なの?武士?』
雪女郎の背後に存在するのは正体不明の武士であるが…。
『戦乱時代?今時甲冑の武士なんて…時代錯誤なのかしら?』
雪女郎は恐る恐る甲冑の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?」
すると武士は無表情で…。
「私は南軍の鬼神…月影夜叉王だ…」
甲冑の武士は自身を鬼神の月影夜叉王と名乗る。
『えっ…此奴…月影夜叉王なの!?』
夜叉王は本来人間であるものの戦乱時代の最中では数百体もの妖怪達を殺害…。人間のみならず数多の妖怪達からも畏怖されたのである。
『月影夜叉王って戦乱時代に活躍した人間よね?』
雪女郎は再度夜叉王に問い掛ける。
「如何して人間のあんたが…こんな場所に?」
「私を人間だと?」
「えっ?」
「今現在の私は…大妖怪だぞ…」
「えっ!?大妖怪ですって!?」
「厳密には…妖怪化した人間とでも…」
雪女郎は夜叉王の返答に驚愕したのである。冗談かと思いきや…。
『此奴の肉体から…妖力が感じられるわ…本当に此奴…妖怪化した人間なのね…』
雪女郎は夜叉王に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
『如何して人間の夜叉王が妖気を?ひょっとして此奴も合体妖怪の桜花姫みたいに人間と数多の妖怪達の集合体なのかしら?』
すると夜叉王は雪女郎を睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する夜叉王に雪女郎は戦慄する。
「貴様は…女人の妖怪…桜花姫か?」
『えっ!?桜花姫ですって!?』
夜叉王の問い掛けに雪女郎は絶句したのである。
『此奴も…桜花姫を敵対する妖怪の一人なのかしら?』
「貴様は女人の妖怪…桜花姫なのか?人違いであるか?」
「人違いよ…私は粉雪妖怪の…雪女郎だからね…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は人違いであると返答する。
「人違いであったか…残念であるが貴様は命拾いしたな…」
雪女郎は警戒した様子で恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「あんたは如何して桜花姫を?彼女に用事かしら?」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は即答する。
「私は彼奴を徹底的に殲滅する…今現在の私にとって桜花姫を殲滅するのは最大の使命であるからな…」
『此奴も桜花姫を敵対視する妖怪の一人なのね…面倒臭いわね…』
雪女郎は困惑したのである。
『如何しましょう…此奴は大妖怪っぽいし…凡庸の妖怪の私では大妖怪の夜叉王には対抗出来ないわ…』
すると夜叉王は再度雪女郎を凝視したのである。
「粉雪妖怪の雪女郎とやら…私からの最後の質問であるが…貴様は桜花姫と名乗る女人の妖怪の居場所を知らないか?」
「えっ?桜花姫の居場所ですって…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は困惑するのだが…。
「桜花姫なら…恐らくは南国の村里で散歩中でしょうね…」
「南国の村里か…」
直後である。夜叉王は神速の身動きで南国へと移動し始める。
『結局何者だったのかしら?彼奴…』
「何はともあれ…桜花姫に報告しないと!」
雪女郎は即座に桜花姫の家屋敷へと移動する。
「桜花姫!桜花姫!」
雪女郎は桜花姫の家屋敷の居間へと入室したのである。
「えっ…あんたは粉雪妖怪の雪女郎?突然如何しちゃったのよ?」
「如何しちゃったのも何も…一大事なのよ!桜花姫!」
「えっ?一大事ですって?今度は何事かしら?」
彼女の様子から判断して大事件発生だと察知する。
「何が発生したのよ?雪女郎?」
「月影夜叉王って名前の妖怪化した人間が…桜花姫に…桜花姫に…」
「月影夜叉王ですって?」
すると桜花姫は笑顔で…。
「ひょっとして夜叉王って妖怪が私に告白したのかしら♪夜叉王って妖怪は相当の物好きみたいね♪私に見惚れるなんてね♪」
他人事の桜花姫に雪女郎は呆れ果てる。
「桜花姫は本当に危機感が皆無ね!あんたは自分の立場を弁えなさい!一触即発の一大事なのよ!」
雪女郎は先程の出来事を一部始終桜花姫に告白したのである。
「月影夜叉王って大妖怪が私を殺しに?面白そうね…」
桜花姫は狂喜乱舞に感じる。
「私だって反撃するわよ♪相手が大妖怪だからって容赦しないからね…」
雪女郎は狂喜乱舞の桜花姫に内心呆れ果てる。
『桜花姫…折角命拾い出来たのに…』
桜花姫は雪女郎に問い掛ける。
「雪女郎?夜叉王って妖怪の居場所は?」
「彼奴なら南国よ…私が彼奴を南国の村里に誘導させたから一先ずは大丈夫…」
「南国の村里ね…承知したわ♪」
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。桜花姫の姿形が消滅する。
「桜花姫…」
『彼女は恐怖心が皆無なのかしら?』
畏怖しない彼女に羨望したのである。同時刻…。桜花姫は瞬間移動の妖術により一瞬で南国の村里へと到達する。
「夜叉王って妖怪は人間の武士みたいな妖怪だったわね?」
桜花姫は村里の風景を眺望するが…。確認出来るのは殺風景の農村地帯ばかりであり甲冑の武士らしき人物は誰一人として確認出来ない。
「甲冑の武士らしき妖怪なんて確認出来ないわね…出直そうかな?」
西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
背後より不吉の気配を感じる。
『気配だわ…一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは鬼神を連想させる甲冑と刀剣を装備した武士である。素顔は非常に美青年であるが…。素肌は灰白色であり武士の肉体からは強大なる邪気と妖気が感じられる。
『甲冑の武士…此奴の肉体から邪気と妖気を感じるわ…』
警戒する桜花姫に武士は問い掛ける。
「貴様は女人の妖怪…桜花姫か?人違いであるか?」
武士の問い掛けに桜花姫は笑顔で…。
「私は桜花姫よ♪ひょっとしてあんたは月影夜叉王って武士の妖怪かしら?」
桜花姫の問い掛けに夜叉王は即答する。
「無論である…厳密には妖怪化した人間の武士とでも…」
「あんたは妖怪化した人間なのね…」
「貴様が女人の妖怪…桜花姫であるなら…」
夜叉王は刀剣を抜刀したのである。
「私の使命だ…即刻貴様を殲滅する…」
「私を殲滅ですって?あんたなんかに出来るかしら?」
桜花姫は笑顔だが…。夜叉王に警戒したのである。
『月影夜叉王は其処等の妖怪よりは強力そうだけど…大妖怪の羅刹女と比較すれば私一人でも対処出来そうね♪』
夜叉王は身構える。
「女人の妖怪…桜花姫…死滅せよ…」
夜叉王は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近したのである。直後…。
「瞬殺だったな…」
刀剣で桜花姫の肉体を上下に両断したのである。
『桜花姫とやら…戦闘能力は其処等の弱小妖怪と同程度だな…』
手応えは感じられたものの…。上半身と下半身に両断された桜花姫の肉体から白煙が発生したのである。
「ん?」
両断された桜花姫の上半身と下半身は白煙に覆い包まれ…。消滅したのである。
「分身の妖術か…」
『桜花姫とやら…一筋縄では殲滅出来まいか…』
すると夜叉王の背後より…。
「残念だったわね♪夜叉王♪あんたが攻撃したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は余裕の様子であり夜叉王に挑発したのである。
「悪運だけは人一倍だな…桜花姫とやら…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は変化の妖術を発動する。
「夜叉王の刀剣よ…砂金に変化しなさい♪」
直後である。変化の妖術により夜叉王の所持する鋼鉄の刀剣が砂金へと変化…。地面には大量の砂金が零れ落ちる。
「刀剣が砂金に変化するとは…」
「如何するのかしら?刀剣が無ければあんたは私に攻撃出来ないわよ♪」
桜花姫は夜叉王を挑発する。
「刀剣が無くとも…」
夜叉王は自身の妖力を実体化…。無体の雷光の刀剣を形作る。
「貴様を仕留めるには…此奴で事足りる…」
「雷光の刀剣ね…」
「今度こそ…貴様を斬殺する…」
夜叉王は自身の妖力により雷光の刀剣を伸長させる。
「えっ?」
雷光の刀剣が自身に突き刺さる直前…。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁で雷光の刀剣を無力化する。
「桜花姫…貴様は結界で私の攻撃を無力化するとは…」
「私が不死身の肉体でも…斬撃は苦痛なのよ…」
雷光の刀剣が突き刺さったとしても桜花姫は不死身の肉体であり外傷は一瞬で再生するものの…。何度も大怪我するのは不死身の彼女でも非常に苦痛である。
「こんな程度の妖術では貴様を仕留めるのは不可能だな…」
夜叉王は妖力を急上昇させる。
「えっ?夜叉王?」
夜叉王の全身から瑠璃色の妖力が発生…。
『夜叉王の妖力が…肉眼でも直視出来るわ…』
上空を眺望すると南国全域が黒雲で覆い包まれたのである。
「黒雲だわ…」
「此奴は奥の手だ…死滅せよ…桜花姫…」
直後…。黒雲から無数の落雷が発生したのである。
「落雷!?」
落雷が地面に落下すると地面が抉れる。
『強力だわ…』
夜叉王が発動した落雷は無差別的に南国の各地へと落下…。村里の村人にも死傷者が出始める。
「村里が…」
『此奴を阻止しないと…非常に面倒ね…』
一発の落雷が桜花姫の直上へと落下したのである。
『えっ!?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪落雷を無力化したのである。
『直撃すれば私は粉砕されたでしょうね…』
「命拾いしたな…桜花姫…今度こそ…ん?」
突如として夜叉王は身動きしなくなる。
「ぐっ!」
「えっ?一体何が発生したの?」
夜叉王は周囲を警戒したのである。
「畜生が…無理に大技を発動した影響なのか?自由に身動き出来なくなるとは…」
「身動き出来ないですって?」
強大なる大妖怪として復活した夜叉王であるが…。彼自身妖怪としては未成熟であり一度に大量の妖力を消耗した影響からか戦闘を継続出来なくなる。
「如何やら…私は妖怪としては未熟みたいだ…」
「あんたは妖力が空っぽみたいね♪」
「命拾いしたな…桜花姫よ…」
夜叉王は桜花姫を凝視し始める。
「俺を殺せる絶好機だぞ…桜花姫…折角大妖怪として復活したが…如何やら今度も地獄の世界に逆戻りか…」
すると桜花姫は笑顔で返答する。
「今回は見逃すわ♪月影夜叉王♪」
「なっ!?」
『桜花姫…』
夜叉王は桜花姫の様子に意外であると感じる。
「あんたは私に対する敵意も悪意も無さそうだし…誰かに命令されたのよね?夜叉王は誰に命令されたのかしら?」
夜叉王は恐る恐る…。
「羅刹女と名乗る女人の大妖怪だ…羅刹女が亡者だった俺を大妖怪として復活させ…貴様の殲滅を強制したのだ…」
「羅刹女ですって…」
『彼奴が人間の武士だった夜叉王を…大妖怪として復活させたのね…』
羅刹女の名前に桜花姫の表情が険悪化する。
『羅刹女は仕留めないと…』
すると夜叉王は無表情で…。
「私は撤収する…貴様が羅刹女を殲滅したければ思う存分に殲滅しろ…」
「えっ?羅刹女はあんたの親玉でしょう?あんたは親玉の彼女を裏切って大丈夫なのかしら?」
夜叉王は桜花姫の発言に呆れ果てる。
「馬鹿者が…彼奴が俺の親玉だと?俺と羅刹女は三日前に対面しただけで…仲間でも上下関係も皆無だぞ…私は私自身の意志で自由に行動するだけだ…」
夜叉王の発言に桜花姫は微笑する。
「承知したわ♪夜叉王♪」
夜叉王は神速の身動きで退散したのである。
『夜叉王…大妖怪みたいだけど…久方振りに面白そうな妖怪と遭遇したわね♪』
桜花姫は夜叉王との遭遇に内心大喜びする。同時刻…。とある遠方の山奥から宿敵の羅刹女が桜花姫を凝視したのである。
「月影夜叉王…大妖怪だとしても弱小妖怪の桜花姫を相手に妖怪化した人間では力不足だったな…」
『妖怪としては未熟の貴様が…無理に大技を駆使するから妖力を消耗したのだ…桜花姫を仕留める直前に妖力の消耗で仕留め損なうとは…大妖怪の恥知らずが…』
羅刹女は夜叉王の無鉄砲さに呆れ果てる。
「結局…私自身が大攻勢を仕掛けなければ…無理みたいだな…」
夜叉王は期待出来ないと判断…。羅刹女は退散したのである。

第五話

能面
大妖怪の月影夜叉王との大戦闘から六日後の真夜中…。西国の村里に隣接する廃村の地面より野良犬に咀嚼された大量の血肉やら人骨が無数に発見されたのである。近隣の村人達からは無間地獄の亡者達が出没したとの噂話が国全体に出回る。同時刻…。東国近辺の辺境地より悪食餓鬼の大群が隣接する各地の村里に出没したのである。騒然とする村人達の噂話が気になった桜花姫は即刻問題の廃村へと直行する。
「廃村の無数の人骨と肉片…東国に出没した悪食餓鬼の大群…」
『無数の妖怪達が出現した因果関係は一体何かしら?』
西国の村里から非常に近辺なのか数分間で到着する近距離である。桜花姫は恐る恐る廃村の様子を眺望する。
「随分殺風景ね…廃村だし当然かしら?」
誰一人として村人が定住しない魔窟であり廃村から無数の妖気を察知したのである。
「廃村から無数の妖気を感じるわ…」
人気は皆無であり廃村の雰囲気から黄泉の世界を連想させる。
「気味悪いわね…」
『空気も息苦しいし…黄泉の世界みたいだわ…』
廃村は非常に息苦しい場所であり普通の人間であれば卒倒しそうな雰囲気である。
「今回の超常現象では何が出現するのかしら?」
『今回は海難入道よりも面倒臭いかも知れないわね…』
廃村の重苦しい空気からか非常に気味悪くなる。廃村の雰囲気から気力が無気力化するものの…。
「廃村中心部の楼閣が非常に不吉だわ…」
廃村中心地の楼閣から非常に重苦しい無数の妖気を察知したのである。
「妖力を消耗するのも面倒臭いからね…力任せで突破しちゃうわよ!」
彼女は鈍足であるものの…。真正面から廃村へと突入する。
「何かしら?」
すると周辺の地面より無数の悪食餓鬼が出現…。大勢で道中を通行する桜花姫に殺到したのである。
「悪食餓鬼?」
桜花姫は無数の悪食餓鬼に包囲される。
「彼等なりの挨拶かしら?」
『悪食餓鬼にとって私は最高の嗜好品みたいね…』
桜花姫は即座に妖力を発動…。半透明の妖力の防壁を発動したのである。防壁の表面より半透明化した血紅色の魔手を無数に出現させる。
「鬱陶しい奴等だわ…」
妖力の防壁から出現した無数の魔手は彼女に殺到する無数の悪食餓鬼の猛攻撃から本体を防備…。血紅色の魔手は桜花姫に殺到する悪食餓鬼を縦横無尽に蹴散らせる。
「人気者も災難だわ♪」
桜花姫は泰然自若とした様子であり無謀にも殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に死滅させたのである。桜花姫の発動した魔手に接触した悪食餓鬼は一瞬で肉体が粉砕される。桜花姫が通過した直後…。桜花姫の通過した地面には悪食餓鬼の無数の肉片やら血肉が彼女の路傍に散乱したのである。桜花姫は一直線に驀進し続ける。数分後…。廃村の中心地に位置する楼閣へと到達する。
「楼閣から不吉の妖気を感じるわね…」
楼閣の最上階から不吉の妖気が感じられる。桜花姫は一息すると恐る恐る楼閣へと潜入したのである。居室には異国風の調度品が散乱した状態であり居住者は誰一人として確認出来ない。
「如何やら大昔は富裕層の居住地だったのかしら…」
楼閣は全面的に洋式風の雰囲気である。
「室内の雰囲気は異国を意識したのかしら?異世界みたいだわ…」
洋式風の調度品ばかりであり全体的に異世界みたいに感じられる。
「最上層に移動しましょう…」
階段から最上層へと移動する。
「博物館みたいだわ…」
最上層へと到達すると楼閣の最上層は骨董品の貯蔵庫であり桜花姫は無尽蔵の異国風の骨董品に魅了されたのである。
「楼閣の骨董品を人間達に競売しちゃえば私も富裕層かしら♪」
すると貯蔵庫の中心部には摩訶不思議なる骨董品が非常に気になる。
「何かしら?ひょっとして能面?」
桜花姫が気になった代物とは精巧に形作られた能面であるものの…。
「表情が気味悪いわね…」
能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「芸術的だけど非常に悪趣味だわ…能面って外見的にも不吉なのよね…」
桜花姫は巨大能面を直視すると鳥肌が立つのか非常に気味悪くなる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…能面なんて気味悪いだけなのよ…私は大嫌いだわ…」
迂闊にも巨大能面に近寄ると恐る恐る巨大能面に接触したのである。
「普通の能面よりも随分特大なのね…単なる装飾品なのかしら?」
先程から不思議に感じるのか桜花姫が楼閣へと潜入した数分後…。
「えっ?内部の妖気が感じられなくなったわ…」
室内に充満した妖気が完全に消失する。
「室内の妖怪は別の場所に移動しちゃったのかしら?」
妖気が皆無であると判断したのである。
「楼閣から脱出しましょう…」
桜花姫は恐る恐る庭園へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。
「物音!?」
彼女は即座に背後を警戒したのである。先程の巨大能面に注目する。
「えっ…一体何事!?」
巨大能面に注目すると能面の両目部分が蛍光色へと変色した状態であり八本もの人間の細腕らしき脚部が形作られる。姿形は巨大化した巨大人面蜘蛛であり中心部の蜘蛛の胴体部分が巨大能面である。
「ひょっとしてあんたは器物の妖怪…【小面蜘蛛】かしら!?」
小面蜘蛛とは霊体妖怪の霊魂が器物である巨大能面へと憑霊…。妖怪化した憑依系統の器物妖怪の一体であり北国では別名として巨大能面の付喪神とも命名される。器物に憑霊出来る呪術により妖怪の集合体である桜花姫をも錯覚させたのである。小面蜘蛛の胴体部分である巨大能面の両目が桜花姫を凝視すると冷笑し始める。
「えっ…気味悪いわね…」
冷笑する小面蜘蛛に桜花姫は気味悪くなる。
『小面蜘蛛なんて…厄介なのが出現したわね…』
小面蜘蛛の出現に桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りする。すると小面蜘蛛は胴体の能面部分の口先より蛍光色の火の玉を無数に放出したのである。
「火の玉だわ…」
蛍光色の火の玉は桜花姫に接近する。
「こんな程度の妖術で…」
桜花姫は再度妖力の防壁を発動…。小面蜘蛛の火の玉を無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を仕留められないわよ♪小面蜘蛛♪」
桜花姫は妖術を発動…。
「焼失するのね…小面蜘蛛…」
小面蜘蛛に発火の妖術を発動したのである。直後…。
「えっ?」
不可解にも小面蜘蛛には発火の妖術が発動されない。
「一体如何してなの?」
『可笑しいわね…如何して小面蜘蛛には発火の妖術が発動されないのかしら?』
すると桜花姫は恐怖心からか身震いする。
『ひょっとして此奴の肉体…〔退魔巨樹〕かしら…』
退魔巨樹とは天球神国に存在する神秘の樹木であり天然記念物である。別名としては霊木とも呼称される。退魔巨樹は人間やら通常の動植物には人畜無害である反面…。超自然的存在とされる妖怪達にとっては最大の天敵である。妖怪が退魔巨樹に接触すると体内の妖力が吸収され…。急速に妖力を消耗する。妖怪が退魔巨樹の樹体に接触し続ければあらゆる妖怪が衰弱死…。屈強の大妖怪であっても衰弱死は回避出来ない。
『海難入道もだけど…此奴にも妖術は通用しないみたいね…如何しましょう?』
桜花姫は恐る恐る後退りしたのである。
『此奴を相手に…真正面からの徹底抗戦は自殺行為よね?』
妖術の通用しない小面蜘蛛との戦闘は圧倒的に不利であり桜花姫は即刻楼閣からの脱出を決意するのだが…。
「きゃっ!」
小面蜘蛛は体内より蜘蛛の白糸を放出したのである。桜花姫は粘着性の白糸に全身を拘束され…。身動き出来なくなったのである。
『迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…』
すると直後…。
「ぐっ!」
『体内の妖力が…』
小面蜘蛛の白糸に接触すると体内の妖力が消耗したのである。
『白糸の影響かしら?妖力が消耗するわ…』
桜花姫は極度の疲労からか極度の眠気を感じ始める。
『えっ…眠気が…』
直後…。
「桜花姫様!」
「えっ?」
突如として出現したのは僧侶の八正道だったのである。
「あんたは八正道様!?如何してこんな場所に!?」
突然の八正道の出現に桜花姫は驚愕する。
「桜花姫様!詳細は後回しです…小面蜘蛛は私が…」
八正道は法力により小面蜘蛛の身動きを封殺したのである。
「器物の妖怪よ…完全に浄化されよ!」
浄化の法術を駆使…。すると能面の体内に憑依した霊体妖怪が浄化され小面蜘蛛は元通りの巨大能面に戻ったのである。
「小面蜘蛛…成仏したか…」
八正道は恐る恐る巨大能面に合掌する。小面蜘蛛が浄化された影響により桜花姫を拘束した粘着性の白糸も消滅したのである。
「えっ?自由自在に身動き出来るわ…私…」
八正道は笑顔で…。
「危機一髪でしたね…桜花姫様♪無事で何よりです♪」
「八正道様♪感謝するわね♪」
桜花姫は人間の八正道が妖怪の天敵である器物妖怪の小面蜘蛛を仕留められたのか問い掛ける。
「如何して八正道様が器物妖怪の小面蜘蛛を簡単に仕留められたのかしら?彼奴は相当の強敵なのよ…」
「小面蜘蛛の能面は退魔巨樹で形作られた代物でしたからね…妖怪にとっては難敵でしょうが…妖力を駆使しない攻撃法によって小面蜘蛛は退治出来るのでしょう…」
小面蜘蛛は妖怪にとっては遭遇したくない強敵である反面…。妖力を駆使しない攻撃法では容易に仕留められる。
「今回ばかりは感謝するわね♪八正道様♪」
桜花姫は八正道に感謝するのだが…。
「前回の出来事ですが…羅刹女の襲撃によって虫の息だった私を貴女様は救済されたのです…当然の行為ですよ…」
「八正道様の傷口を治癒したのは私の体内の桃子姫よ…」
「桃子姫様と桜花姫様は一心同体の存在なのです…桜花姫様が私を瀕死の状態から救済したのも同然ですよ…」
「えっ…八正道様…」
桜花姫は赤面する。すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…」
桜花姫に俵型の麦飯と瓢箪を手渡したのである。
「えっ?麦飯かしら?」
「先程の戦闘で妖力を消耗したでしょう…思う存分に食べなされ…」
「八正道様…」
桜花姫は八正道に手渡された瓢箪の飲料水と麦飯を一瞬で平らげる。
『えっ…桜花姫様…相当空腹だったのですね…』
瓢箪の飲料水と麦飯を平らげた桜花姫に八正道は苦笑いしたのである。
「僅少だけど…多少妖力が戻ったわ…」
すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「如何して八正道様がこんな場所に?」
「桜花姫様に協力を要請したくて…桜花姫様の妖気を追尾して…廃村へと突入したのです…桜花姫様が器物妖怪の小面蜘蛛に苦戦されたのは予想外でしたが…」
「私に協力ですって?何かしら?」
八正道は恐る恐る…。
「今現在の東国なのですが…」
本日の夕方の出来事である。突如として密集地であり天球神国の中心地である東国に無数の百鬼夜行が出現…。彼等は無差別的に中心街の町民達を襲撃したのである。
「東国に無数の妖怪達が出現したの?」
「今現在武士団は勿論…仲間の修行僧達が数多の妖怪達と交戦中なのですが…多勢に無勢でして…桜花姫様の協力が必要不可欠なのです…」
桜花姫は困惑する。現実問題先程の小面蜘蛛との戦闘により大半の妖力を消耗…。単独で多数の妖怪を相手するのは正直不安だったのである。
『如何しましょう…』
桜花姫は困惑するも…。
『道中…遭遇した妖怪達を桜餅に変化させて食べちゃえば消耗した妖力は回復させられそうね…』
「私も協力するわ…八正道様♪」
桜花姫は八正道の依頼を承諾する。
「感謝します…桜花姫様…」
桜花姫と八正道は即座に楼閣から脱出したのである。二人は東国へと急行する。

第六話

強襲
桜花姫と八正道が行動を開始し始めた同時刻…。大陸の大妖怪羅刹女は主戦場の東国歓楽街で武士団と交戦する。
「貴様!?女人の妖怪か!?」
「将兵達!即刻此奴を包囲しろ!」
武士団は即座に羅刹女を包囲したのである。
「命知らずの人間風情が…」
羅刹女は呆れ果てたのか無表情で周囲を確認する。
「私の実力を発揮するには…貴様達程度では力不足だな…」
彼女の見透かした態度に武士団の将兵達は苛立ち始める。
「此奴…」
「相手が女人の妖怪とて構わん!即刻女人の妖怪を征伐せよ!」
刀剣を所持した十数人の武士達が羅刹女に殺到する。
「命知らずの愚か者達が…」
羅刹女は妖術を発動…。
「ん?」
「なっ!?」
突如として武士達は頭部が肥大化したのである。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女の妖術によって肥大化した武士達の頭部が破裂する。
「うわっ!妖術か!?」
「将兵達の頭部が突然破裂したぞ!」
後方の武士達は羅刹女の妖術に畏怖したのである。
「今度は貴様達が私に殺される出番だぞ…」
「ひっ!妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
「殺される!退却だ!全軍…退却せよ!」
周囲の武士達は必死に逃走するのだが…。
『人間風情が…』
「誰一人として…私からは逃げられないぞ…」
羅刹女は後方の武士達にも妖術を発動する。彼等も同様に頭部が肥大化…。破裂したのである。
「所詮人間は非力だな…」
武士団を全滅させた直後…。
「ん?」
彼女の背後より何者かが出現する。
「貴様は何者だ?」
羅刹女は背後を直視したのである。
「久方振りだな…羅刹女…」
「誰かと思いきや…貴殿は月影夜叉王…大妖怪の恥知らずか…」
「大妖怪…羅刹女…」
羅刹女の背後に出現したのは誰であろう南国の鬼神…。大妖怪の月影夜叉王である。
「夜叉王よ…今更私に用事か?ひょっとして貴殿は私の目的に協力するのか?協力するのであれば先日の失敗は黙認するが…」
羅刹女の発言に夜叉王は失笑する。
「誰があんたの協力なんて…」
夜叉王は無表情で雷光の刀剣を生成させる。
「貴殿は恩人である私を裏切るか?大妖怪…月影夜叉王よ…」
「羅刹女…あんたは亡者であった俺を大妖怪として復活させた功績だけは感謝しても感謝し切れないが…俺は人一倍あんたが気に入らない…何よりもあんたは妖怪だ…妖怪である羅刹女に服従するのは半妖の俺には不可能みたいだ…」
「夜叉王…弱小妖怪の桜花姫さえも仕留め切れなかった中途半端の貴殿が…大妖怪である私を仕留めると?所詮貴殿の妖力は宝の持ち腐れだな…」
羅刹女は夜叉王の妖力を宝の持ち腐れと揶揄したのである。羅刹女に揶揄された夜叉王であるが…。
「俺の妖力が宝の持ち腐れか如何なのかは…今回の戦闘で明確化出来る…俺の妖力が宝の持ち腐れであると断定するには早計だぞ…羅刹女…」
夜叉王は雷光の刀剣を生成させる。
「妖力を実体化させた雷光の刀剣か?であれば私は…」
羅刹女も自身の妖刀を抜刀したのである。両者は神速の身動きで突っ込む。両者の妖刀が接触した直後…。周囲に衝撃波が発生する。両者の衝撃波で中心街を徘徊する無数の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が吹っ飛ばされる。
「月影夜叉王…私は貴殿を役立たずと見縊ったが…意外と強力だな…」
両者は一度後退する。
「俺は生前…戦乱時代末期の人間だったが…今迄に九十九体もの妖怪達を仕留めたからな…羅刹女で百体目だ…」
「残念だが…所詮大妖怪の出来損ないである貴様では私を仕留められない…百体目の妖怪を仕留めるのは不可能だぞ…月影夜叉王…」
羅刹女は両手から超高温の火球を発射したのである。
「火球か…」
夜叉王は雷光の刀剣で火球を一刀両断…。左右に両断された火球は夜叉王の背後で爆散したのである。
「こんな程度の妖力なのか?羅刹女よ…貴様は自身を大陸の大妖怪と豪語するが…所詮は単なる称号だったか?」
「挑発だけは一人前だな…月影夜叉王…」
大妖怪の両者が対決する同時刻…。一方の桜花姫と八正道は東国の郊外へと到達したのである。
「東国だわ…」
「郊外に到達しましたね…桜花姫様…」
遠方から無数の火の粉が確認出来る。
「火の粉だわ…主戦場みたいね…」
「突如として無数の妖怪達が出現しましたからね…」
二人は東国と西国を直結する両国橋へと移動するのだが…。逃亡する避難民達やら敗走する将兵達が西国へと逃走したのである。
「如何やら相当の一大事みたいね…」
「何しろ多勢に無勢ですからね…武士団だけで今回の大事件を解決するには力不足でしょう…」
すると三人の修行僧達が八正道に近寄る。
「貴方は八正道様!?無事だったのですね…」
彼等は八正道の無事が確認出来て安心したのである。
「私も貴方達が無事で安心しましたよ…」
「私達は必死に妖怪退治に尽力しましたが…何しろ多勢に無勢でして…」
今回の大事件では大勢の僧侶達は勿論…。修行僧達も無数の妖怪達の鎮圧に派遣されたのである。
「中心街に大妖怪が二体も出現したと…」
「最早私達では二体の大妖怪を相手に対抗出来ません…」
「大変心苦しいのですが…私達では力不足です…」
すると八正道は笑顔で…。
「安心しなされ♪今回は大妖怪に対抗出来る最強の味方が参上しましたから♪」
「えっ?最強の味方ですと?」
「最強の味方とは…一体?」
彼等は最強の味方の一言に反応する。八正道は桜花姫を直視したのである。
「えっ…彼女は?町内の小町娘でしょうか?」
「八正道様…こんな状況下で冗談は非常識かと…」
二人の修行僧は呆れ果てる。二人の修行僧は呆れ果てるのだが…。小柄の修行僧が桜花姫を直視すると畏怖した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「えっ…彼女…」
「ん?」
小柄の修行僧は桜花姫に畏怖する。
「彼女の体内から…無数の妖気が…」
畏怖する小柄の修行僧に二人の修行僧も桜花姫に戦慄し始める。
「えっ!?無数の妖気だと!?」
「本当だ…彼女の肉体から妖気が感じられるぞ!彼女は一体…」
大柄の修行僧が桜花姫を睥睨したのである。
「貴様は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪だな!醜悪なる妖怪がか弱き人間の女性に擬態するとは卑劣だ…」
畏怖する修行僧達に周囲の武士団が近寄る。
「妖気だと!?こんな場所にも妖怪が出現したのか!?」
「妖怪は此奴です!此奴の正体は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪ですよ!」
「なっ!?此奴も妖怪の仲間なのか!?」
「か弱き人間の女子に擬態するとは言語道断だな!」
「此奴の正体が妖怪であるなら…即刻小娘の妖怪を征伐しなくては!」
武士団の将兵達は警戒した様子で即座に抜刀…。桜花姫を包囲したのである。すると八正道は必死に…。
「誤解です!彼女の正体が妖怪だとしても彼女は人間達には手出ししません!大丈夫ですよ…実際虫の息だった私は彼女に救済されました…彼女は伝説の巫女…桃子姫様の再来なのですよ!」
八正道は必死に誤解であると主張するものの…。武士団の将兵達は八正道の発言に猛反発する。
「何を!?貴様…女人の妖怪を庇護するのか!?何が桃子姫の再来だ!」
「貴様は何たる出鱈目を…無数の妖怪達によって俺達の戦友達は勿論!大勢の町民達が醜悪なる妖怪達に食い殺されたのだぞ…極悪非道の妖怪を庇護する貴様も同罪だ!」
「誰が貴様の発言を信用出来るか!女人の妖怪を庇護するのであれば僧侶の貴様も斬首するぞ!」
絶望的状況下であり誰しもが八正道の発言を信用出来なかったのである。最早絶体絶命かと思いきや…。一人の老人が無言の桜花姫に近寄る。若齢の修行僧が動揺した様子で恐る恐る…。
「えっ…貴方様は一体?」
二人の修行僧達も老人に動揺したのである。
「貴方は最長老様ですか!?」
最長老の一言に八正道も反応する。
「えっ?最長老様って…」
老人は僧侶達の最長老だったのである。すると若齢の修行僧が恐る恐る…。
「最長老様!此奴は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪なのですよ!近寄れば最長老様が女人の妖怪に食い殺されます!」
すると最長老は若齢の修行僧に睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する最長老に周囲の修行僧達は沈黙する。
「安心しなさい…妖気は感じられても…彼女からは邪気も殺意も感じられないから大丈夫だよ…彼女は人畜無害だ…」
「えっ…本当に此奴は大丈夫なのか!?」
最長老の発言に修行僧達は勿論…。武士団の将兵達も制止し始める。最長老は再度桜花姫を凝視する。
「貴女からは伝説の巫女…桃子姫様の気配が感じられます…ひょっとして貴女様は桃子姫様の再来なのでしょうか?」
「えっ!?彼女が伝説の巫女…桃子姫様の再来ですと?」
「先程の八正道様の発言は…事実だったのですか?」
最長老の発言に三人の修行僧達は驚愕したのである。すると無言だった桜花姫が発言し始める。
「私は人間の巫女の桃子姫と…数多の妖怪達が一体化した存在なの…所謂魑魅魍魎の集合体なのよね…」
「桃子姫様は大妖怪との死闘で生死不明でしたが…桃子姫様は妖怪の集合体として活動されたのですね…」
八正道は恐る恐る最長老に問い掛ける。
「最長老様は実際に伝説の巫女である桃子姫様と対面されたのですか?」
「勿論生前の桃子姫様とは対面したとも…一度だけだがね…」
最長老は即答する。
「彼女は俗界の女神様に相応しい唯一無二の女性だったよ…正真正銘絶世の美女だったね…」
最長老は戦乱時代末期の人物であり生前の桃子姫と対面した唯一の僧侶である。
「こんな場所で桃子姫様の面影を感じる人物に遭遇出来るなんて…私は幸福です…」
最長老は桃子姫の瓜二つである桜花姫との遭遇に感動したのか涙腺から涙が零れ落ちる。落涙する最長老に桜花姫は困惑…。
「えっ…はぁ…」
『最長老は号泣しちゃったけど…私は如何すれば?』
落涙する最長老に桜花姫は苦笑いしたのである。一方の八正道は疲れ果てたのか全身が脱力する。
「如何やら…大丈夫そうですね…」
最長老の介入により最悪の事態は回避出来…。
『最長老様…感謝しますよ…』
八正道は一安心したのである。すると最長老は笑顔で…。
「八正道よ♪彼女は誰よりも温厚篤実の妖怪だ…貴殿は確りと彼女を援護しなさい♪」
「勿論ですとも♪最長老様♪私は彼女に精一杯尽力しますよ!」
八正道は恐る恐る桜花姫を直視する。
「桜花姫様♪私と一緒に東国に出現した妖怪達を退治しましょう♪」
「私は一先ず消耗しちゃった妖力を回復させないとね…」
桜花姫と八正道は主戦場の東国中心街へと突入したのである。東国の中心街には其処等に肉片やら血肉が散乱…。無数の妖怪達が徘徊したのである。
『悲惨だな…』
無数の悪食餓鬼が数人の町民に殺到…。彼等は無我夢中に人肉を捕食したのである。戦慄の光景であったが…。
「猛反撃開始よ♪」
桜花姫は笑顔で食中の悪食餓鬼に近寄る。
「桜花姫様…」
すると徘徊中の悪食餓鬼が二人に気付いたのか数体の悪食餓鬼が二人に接近する。
「桜花姫様!悪食餓鬼です!反撃しましょう!」
「悪食餓鬼は私一人で片付けるわ♪」
「えっ?」
「私は妖力を回復させたいからね♪」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
数体の悪食餓鬼を大好きな桜餅に変化させたのである。
「悪食餓鬼が桜餅に…」
「私にとって悪食餓鬼は単なる餌食だからね♪」
桜花姫は桜餅に変化させた悪食餓鬼を頬張り始める。
「えっ…」
『桜花姫様は正気なのか?妖怪としては正常なのだろうか?』
生理的に無理なのか八正道は桜花姫が桜餅を頬張る様子に気味悪くなる。
「はぁ…食事中に…」
「如何やら妖怪達の新手ですね…」
すると今度は無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。
「桜花姫様…百鬼悪食餓鬼が五体も出現しました…」
「大物が五体も出現したわね♪好都合だわ♪」
百鬼悪食餓鬼の出現に桜花姫は大喜びする。すると五体の百鬼悪食餓鬼は体表の悪食餓鬼の口先から猛毒の瘴気を放射…。民家の木材やら地面の表土が腐敗したのである。
「黒煙でしょうか?」
「此奴は瘴気よ!八正道様!絶対に呼吸しないでよ!」
「承知しました!桜花姫様!」
八正道は一時的に呼吸を停止させる。
『桜花姫様は空気中の正気を体内に吸収しても大丈夫なのか?』
桜花姫は妖怪であり猛毒の瘴気が体内に潜入しても大丈夫だったのである。基本的に妖怪が放射する瘴気は人間には猛毒である反面…。同族の妖怪に使用しても毒死しない。
「反撃しちゃうわよ♪」
桜花姫は浄化の妖術を発動…。桜花姫の発動した浄化の妖術により百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化されたのである。
「八正道様♪百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化したわ♪呼吸しても大丈夫よ♪」
「感謝します…桜花姫様…」
「今度は♪」
五体の百鬼悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。五体の百鬼悪食餓鬼は桜花姫の大好きな桜餅に変化させる。
「桜花姫様…今度も桜餅ですか…」
八正道は苦笑いしたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させないとね♪」
桜花姫は桜餅に変化した百鬼悪食餓鬼を捕食…。美味しそうに頬張る。
『桜花姫様…悪食だな…』
桜花姫の悪食に八正道は絶句する。
「折角だし♪八正道様も桜餅を食べないかしら?中身は妖怪だけど桜餅は絶品よ♪」
「えっ…私は遠慮しますよ…」
八正道は苦笑いした様子で拒否したのである。
「美味しいのに残念ね…」
『姿形は桜餅でも…妖怪なんて絶対に食べられませんね…』
八正道は内心気味悪くなる。
「満足♪満足♪妖力も万全よ♪」
桜餅を頬張った影響からか桜花姫は消耗した妖力が回復したのである。
「桜花姫様…移動しましょう…ん?」
近辺より強大なる妖気を感じる。
「八正道様も感じるのね…大妖怪の妖気を…」
「二体の大妖怪の妖気でしょうか?如何やら両者は戦闘中みたいですね…一人は羅刹女の妖気でしょうが…相手方の妖気は何者でしょうか?」
「相手方の妖気は恐らく…南国の鬼神…月影夜叉王の妖気でしょうね…」
「えっ!?」
月影夜叉王の名前に八正道は驚愕したのである。
「月影夜叉王ですと!?」
「別に驚愕しなくても…」
「誰だって驚愕しますよ…月影夜叉王は戦乱時代に活躍された歴史的人物なのですからね!」
「死人だった夜叉王は羅刹女に大妖怪として復活させられたみたいなの…」
「夜叉王は妖怪化されたのですか…生前では月影夜叉王は極悪非道の人物だと認識されますからね…非常に厄介でしょう…ですが如何して両者は仲間同士で戦闘を?単純に仲間割れでしょうか?」
「理由は不明だけど二人を放置は出来ないわ…移動しましょう!八正道様…」
「勿論ですとも!桜花姫様!」
桜花姫と八正道は即座に二人の妖気を感じる場所に移動を開始する。数分後…。木材の瓦礫やら破壊された民家が十数軒確認出来る。
「うわぁ…民家が…ひょっとして二人の妖気が影響したのでしょうか?」
「こんな程度…序の口よ…」
「えっ…序の口ですと…」
直後…。八正道は空気が重苦しくなったのか深呼吸が目立ち始める。
「八正道様?大丈夫なの?」
桜花姫は八正道を心配したのである。
「失礼…心配させましたね…桜花姫様♪私なら大丈夫ですよ…」
八正道は苦笑いの表情で返答する。
「ですが正直…大妖怪が放出する妖気は人間には悪影響ですね…」
八正道は絶大なる法力を所持する僧侶の一人であるものの…。大妖怪の妖気は僧侶の彼でも非常に辛苦であり害悪だったのである。すると桜花姫は恐る恐る…。
「八正道様…無理強いしないわ…無理そうなら私一人でも…」
「大丈夫ですよ…桜花姫様!極悪非道の妖怪征伐は私の使命なのですから…私は一人の僧侶として桜花姫様に協力します!」
八正道は責任感が人一倍根強く自身は大丈夫であると断言する。
「八正道様…」
数秒後である。二人は目的地へと到達する。
「えっ?」
「なっ!?」
目的地には殺伐とした二体の大妖怪が対峙したのである。
「羅刹女と…月影夜叉王だわ…」
すると直後…。羅刹女と夜叉王は部外者の桜花姫と八正道に気付いたのである。
「ん?貴様達は?」
「貴様達は弱小妖怪の桜花姫と…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶か?」
「貴女様は羅刹女ですね…如何して大妖怪の貴女様がこんな場所に?羅刹女は一体何が目的なのですか?」
八正道は恐る恐る羅刹女に問い掛ける。
「何が目的なのか?当然として…妖怪達による地上界の天下統一に他ならない…」
羅刹女は全国各地の妖怪達を呼応…。天球神国の人口密集地である東国の中心街を総攻撃したのである。
「妖怪達による地上界の天下統一ですって?」
羅刹女は再度夜叉王を直視する。
「月影夜叉王よ…邪魔者が二人も参上したからな…貴様を仕留めるのは後回しだ…私は一時退散する…」
羅刹女の姿形が消滅したのである。
「羅刹女!?俺との真剣勝負を放棄するとは…」
「彼女…逃げちゃったわね…」
すると直後…。夜叉王は桜花姫と八正道に睥睨したのである。
「貴様等…」
「えっ?何よ?夜叉王…」
二人は夜叉王に警戒するのだが…。夜叉王は妖力で実体化させた雷光の妖刀を消失させたのである。
「あんたは…私達に手出ししないの?」
「今現在の俺に貴様等を仕留める理由は存在しないからな…今現在の俺の敵対者は羅刹女…彼奴だけだ…」
自分達を敵対視しない夜叉王に桜花姫と八正道は意外であると感じる。八正道は恐る恐る夜叉王を直視…。
『月影夜叉王の肉体からは妖力と邪気は勿論ですが…僅少の人気を感じられますね…月影夜叉王は一人の人間が妖怪化した特例の妖怪なのでしょうね…』
夜叉王は一人の人間が妖怪化した存在であり一人の人間と無数の妖怪達が融合化した桜花姫とは別物である。八正道は恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「夜叉王様?如何して貴方は主君である羅刹女に敵対視するのですか?妖怪であったとしても…彼女は貴方の仲間ですよね?」
「妖怪の彼奴が俺の仲間だと?愚か者が…」
夜叉王は失笑したのである。
「俺に妖怪の仲間なんて最初から存在しない…彼奴は俺を完全なる妖怪として復活させたが…俺は彼奴に服従する理由は存在しないし…何よりも俺は気紛れだからな…気に入らなければ相手が人間だろうと…女人の大妖怪だろうと打っ殺す…誰も俺には命令出来ないのだ…」
『此奴…自由奔放なのね…』
桜花姫は夜叉王の発言に苦笑いする。
「貴様等…今回だけは見逃すが…俺が気に入らなければ部外者である貴様等も打っ殺すから覚悟しろよ…」
夜叉王の警告するのだが一方の桜花姫は笑顔で…。
「今度は本気で私と勝負しない♪夜叉王♪」
「えっ!?桜花姫様!?夜叉王と勝負なんて本気ですか!?」
桜花姫の発言に八正道は畏怖したのか身震いする。
「桜花姫様は本気なのですか?相手は本物の大妖怪ですよ…」
「私は本気よ♪八正道様♪」
問い掛けられた桜花姫は再度笑顔で返答したのである。
「貴様との本気の真剣勝負か…大妖怪の俺と勝負したければ羅刹女を相手に殺されるなよ…桜花姫…」
『此奴との真剣勝負か…面白そうだな…桜花姫♪』
内心夜叉王も桜花姫とは真剣に勝負したくなる。
「あんたこそ♪死なないでよ♪夜叉王♪」
すると直後である。
「ん?」
「何かしら?」
「火球ですよ!」
「火球ですって?」
無数の火球が上空より飛来…。砲弾みたいに中心街の各地へと落下したのである。一発の火球が桜花姫一同の方向へと落下する。火球が落下する直前…。夜叉王は雷撃の結界を発動したのである。雷撃の結界により間一髪火球を無力化する。
「此奴は妖怪の仕業だな…羅刹女の新手か?」
無数の火球が東国の各地に落下…。爆撃されたのである。
「如何やら火球は東方の方角ですね…東海から妖気が感じられます…」
「妖気は海面上からね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「東海の妖怪は私が対応しましょう…」
「えっ?八正道様?」
「桜花姫様は羅刹女を仕留めるのです…」
八正道は東方の海辺へと直行したのである。
「八正道様!?」
突然の別行動に桜花姫は困惑する。背後より…。
「えっ?」
恐る恐る背後を警戒したのである。背後には巨大能面の付喪神…。器物妖怪の小面蜘蛛が三体も出現したのである。
「器物の妖怪…小面蜘蛛!?」
『三体も出現するなんて…』
桜花姫は極度の苦手意識からか三体の小面蜘蛛の出現に畏怖する。
「貴様…普段は強気なのにこんな雑魚妖怪を相手に戦慄するとは意外だな…」
器物妖怪の小面蜘蛛にはあらゆる妖術が通用せず…。妖力を吸収する性質から桜花姫とは相性が最悪である。
「此奴は妖怪の天敵なのよ…大妖怪のあんただって…」
「妖怪達の噂話では貴様の戦法は妖術ばかり…身体能力は雑魚らしいな…」
「なっ!?」
『私を雑魚ですって!』
夜叉王の発言には内心苛立ったものの…。自身の身体能力が脆弱なのは事実であり反論出来ない。
「三体の小面蜘蛛は俺が相手する…羅刹女は貴様が片付けるのだな…」
「承知したわ…夜叉王…」
桜花姫は即座に羅刹女の妖気を感じる場所へと直行したのである。同時刻…。東方の海辺へと直行した八正道は海岸へと到達する。
「海中から絶大なる妖気と邪気が感じられますね…」
海面上には何も存在しないのだが…。
「妖気は非常に強力ですね…」
直後である。
「なっ!?」
突如として海面上より推定二町もの巨大坊主頭が出現…。海面上から出現した巨大坊主頭は海岸の八正道を凝視する。
『此奴はひょっとして…』
巨大坊主頭は海中から八本もの巨大触手が確認され…。全体的に巨大真蛸らしき姿形だったのである。
「水難妖怪の…海難入道か?予想以上の巨大さだな…」
巨大坊主頭の正体とは水難妖怪…。巨体の海難入道だったのである。海難入道は大妖怪よりは若干下回る妖力であるものの…。海中では最上位の妖怪である。現段階では海中で海難入道に対抗出来る海中の妖怪は存在しない。
「貴様は命知らずの人間の僧侶か?」
すると海難入道が人語で発言する。
『人語とは…海難入道は人間と会話が出来るみたいですね…』
八正道は恐る恐る海難入道に問い掛ける。
「先程…東国の中心街で無数の火球を発射したのは海難入道ですか?」
「であれば如何する?人間の僧侶よ…何方にせよ非力の貴様は俺に殺される運命なのだ…大人しく俺に殺されろ!」
海難入道は海面上より複数の触手を出現させ高熱の火球を発射したのである。
『元凶は海難入道だったか…』
八正道は法力を発動…。
「はっ!」
法力の結界を形作り海難入道の火球攻撃を無力化したのである。
「法力で俺の攻撃を無力化するとは…貴様は上位陣に君臨する僧侶だな…」
海難入道は触手で攻撃する。
「今度は直接!貴様を粉砕する!覚悟しろ!」
触手が八正道の頭上に接触する直前…。
「ん?」
八正道は法力の結界で海難入道の触手を無力化する。
「命拾いするとは…人間の僧侶…」
「今度は私が反撃しますよ!海難入道!」
八正道は氷結の法術を発動…。
「なっ!?」
海難入道は規格外の巨大さであるが八正道の発動した氷結の法術により一瞬で氷結したのである。
「成仏せよ…」
氷結した海難入道は一瞬で肉体が崩れ落ちる。
「一先ずは安心ですね…」
海難入道を仕留めた八正道は一安心する。

第七話

血戦
大陸の大妖怪羅刹女は単独で東国の根城へと潜入したのである。根城の防衛網は厳重であったが羅刹女は絶大なる妖力により城内の将兵達を徹底的に仕留める。羅刹女は城内を移動中…。
「ん!?侵入者だと!?」
「如何してこんな場所に人間の女子が!?」
二人の将兵が羅刹女に殺到する。
「命知らずの雑兵が…」
羅刹女は妖刀を一振り…。二人の将兵を両断する。
「人間程度で私に挑戦するとは…自殺行為だな…」
周囲の将兵達は羅刹女に戦慄する。
「此奴は女人の妖怪だ…」
「殺されるぞ!逃げろ!」
将兵達は羅刹女から逃走するものの…。
「私からは誰一人として逃げられない…愚劣なる人間達は皆殺しだ…」
羅刹女は金縛りの妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は身動きを封殺されたのである。
『えっ…一体何が!?』
将兵達は必死に肉体を動かそうと踏ん張るのだが…。
『身動き出来ない…俺達は妖術で身動き出来ないのか?』
直後である。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女は念力の妖術を発動する。すると金縛りの妖術で身動き出来なくなった将兵達の全身が肥大化…。破裂したのである。室内全域には彼等の肉片やら血肉が飛散する。
「他愛無いな…」
羅刹女は移動を再開するのだが…。前方の通路より火縄銃を所持した将兵達が並列したのである。
「火縄銃か?」
すると侍大将らしき人物が発言し始める。
「此奴は異国で伝来された最新式の銃火器だぞ!」
鉄砲隊は即座に火縄銃に弾丸を装填…。
「鉄砲隊!女人の妖怪に狙撃せよ!」
鉄砲隊は羅刹女に発砲したのである。火縄銃の銃弾が数発…。羅刹女の肉体に直撃したのである。
「直撃だ!女人の妖怪を射殺出来たか!?」
銃弾の直撃した傷口からは鮮血が流れ出るものの…。羅刹女は平気なのか無表情だったのである。
「ん?」
「此奴…銃弾が直撃したのに平気なのか!?」
将兵達は銃弾が直撃しても平気そうな羅刹女に畏怖する。
「火縄銃とは…所詮はこんな程度か?」
すると直後…。羅刹女は体内の銃弾を無理矢理に抉り出したのである。
「残念だったな…こんな豆鉄砲では私は殺せないぞ…」
銃弾による傷口が一瞬で治癒する。
「此奴…」
火縄銃の通用しない羅刹女に侍大将は苛立ち始める。
「狼狽えるな!再度狙撃しろ!女人の妖怪を仕留めるのだ!」
「鬱陶しい奴等だ…」
羅刹女は妖術を発動する。
「えっ?」
侍大将と鉄砲隊の将兵達の頭部が肥大化…。破裂したのである。
「人間の武器が大妖怪である私に通用するか…」
羅刹女は根城の最上層へと移動する。
「なっ!?女人か!?」
最上層には十数人もの大名達は勿論…。二十数人の将兵が大名達を護衛する。突然の羅刹女の出現に彼等は驚愕したのである。
「貴殿は一体何者だ!?」
大名の一人が羅刹女に問い掛ける。
「私は…大妖怪…羅刹女だ…」
「羅刹女って…」
大妖怪と名乗る羅刹女に周囲の者達は畏怖したのである。
「大妖怪…羅刹女だと!?」
「此奴は大陸の妖怪なのか!?」
「貴殿は女人に変化したのか!?」
護衛の将兵達は即座に抜刀する。
「女人の妖怪!覚悟しろ!」
三人の将兵が羅刹女に殺到したのである。
「雑魚の分際で…」
羅刹女は鎌鼬の妖術を発動…。羅刹女は何も身動きせず三人の将兵は全身が小刻みに粉砕されたのである。
「うわっ!三人の将兵が…」
「妖術なのか!?」
羅刹女の妖術に周囲の者達は恐る恐る後退りする。すると一人の大名が恐る恐る…。
「城内の兵卒達は…」
「奴等か…私が一人ずつ徹底的に殲滅したからな…貴様達がこんな場所で待機し続けても兵卒達は誰一人として戻らないぞ…」
「全滅だと!?」
「狼狽えるな…此奴を殲滅せよ…」
小柄の大名が弱気で将兵達に殲滅を指示する。大名が羅刹女の退治を命令するものの…。護衛の将兵達は羅刹女の妖術に戦慄したのか身動き出来ない。
「貴様達!此奴を殲滅しないか!羅刹女は東国のみならず…天球神国にとって最大の脅威なのだぞ!」
すると戦意喪失した一人の将兵が恐る恐る…。
「無理ですよ…こんな怪物…俺達では如何にも…」
羅刹女の妖力を直視した彼等は完全に戦意喪失したのである。羅刹女は戦意喪失した将兵達に…。
「貴様達…安楽死せよ…」
羅刹女は吸魂の妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は霊魂を吸収され即死したのである。
「なっ!?将兵達が…」
将兵達の全滅に大名達は絶望する。
「私達は…死にたくない…」
「貴殿は何が目的なのだ!?」
「大妖怪の貴殿には村里?一国を授与するぞ…」
羅刹女は呆れ果てる。
「一国だと?問答無用だ…人間は殲滅すべき対象なのだ…」
彼女が東国の大名達を殺害する同時刻…。西国の村里では妖怪達が羅刹女と彼女の部下達による東国襲撃の噂話で狂騒する。
『妖怪達…随分と物騒ね…一体何事かしら?』
桜花姫の悪友である粉雪妖怪…。雪女郎は西国の村里に聳え立つ真夜中の妖怪歓楽街を一人で出歩いたのである。すると彼女の周囲より…。
「姉ちゃんよ♪」
「えっ?あんた達は?」
雪女郎の周囲には一体の赤鬼と四体の小鬼が彼女を包囲する。
「姉ちゃんは可愛らしいな♪」
「折角だし…姉ちゃんは俺達と一緒に夜遊びしないか?」
「俺達と一緒に東国で人間を打っ殺し…人肉でも味見しないか♪」
『うわっ…面倒臭いわね…』
彼等の問い掛けに雪女郎は呆れ果てる。
「はぁ…あんた達…夜遊びしたかったら私以外の女人妖怪と夜遊びすれば?私は常日頃から大忙しなの…悪いけど私以外の女人妖怪と夜遊びしなさい…」
「此奴!生意気だな!」
親玉らしき赤鬼の妖怪が苛立ったのか金棒で雪女郎に打撃するのだ…。雪女郎は打撃される直前に粉雪分身の妖術を発動したのである。
「兄貴…此奴は粉雪ですぜ…」
打撃された雪女郎の分身体は粉雪へと変化…。簡単に崩れ落ちる。
「此奴…分身の妖術で…」
すると彼等の背後より…。
「あんた達…鬱陶しいわね…」
「兄貴!此奴は生意気だ…全員で小娘を打っ殺そうぜ!」
「此奴は全員で袋叩きだ!」
四体の小鬼も金棒を所持したのである。
「はぁ…仕方ないわね…」
雪女郎は氷結の妖術を発動…。赤鬼と四体の小鬼の下半身を氷結させたのである。
「なっ!?下半身が突然…姉ちゃんは一体何を!?」
彼等は突発的に氷結した自身の肉体に吃驚する。
「私は粉雪妖怪の雪女郎なのよ♪あんた達程度で私に手出しするなんて無謀なの♪即刻出直しなさい♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖怪の雪女郎の姉貴なのかよ!?」
雪女郎は西国では著名の妖怪であり彼女の妖力は強者の部類だったのである。
「今回は見逃しちゃうけれど…今度は容赦しないからね…」
雪女郎は氷結の妖術を解除する。
「失礼しました!雪女郎の姉貴!」
親玉の赤鬼は勿論…。子分である四体の小鬼は即刻雪女郎に謝罪したのである。
「あんた達?桜花姫の居場所は知らないかしら?」
「桜花姫の姉貴ですかい?」
雪女郎の問い掛けに親玉の赤鬼が返答する。
「桜花姫の姉貴なら東国で暴れ回ったって噂話ですぜ…詳細は不明ですが…」
桜花姫が東国で各地の百鬼夜行と暴れ回ったとの噂話は各地方に出回る。
「何しろ桜花姫の姉貴は大妖怪の羅刹女を相手に…喧嘩を吹っ掛けやがったらしいからな…」
「桜花姫は東国にね…」
『彼奴…』
桜花姫の様子が気になるのか雪女郎は即座に東国への移動を開始したのである。
『羅刹女に喧嘩を吹っ掛けるなんて…桜花姫は馬鹿ね…』
雪女郎は正直億劫に感じるものの…。桜花姫は大昔からの悪友であり放置は出来ない。西国の村里から移動してより一時間が経過する。
「東国に到達したわね…」
雪女郎は東国の郊外へと到達したのである。東国の中心街からは無数の妖気と邪気は勿論…。多数の鮮血と死骸の悪臭が東国郊外にも蔓延したのである。
「主戦場ね…」
中心街からは無数の火の粉が確認され…。大勢の町民達の悲鳴が響き渡る。雪女郎は両国橋を通過…。東国の中心街へと進入する。
「悪趣味ね…」
殺害された数人の町民達の遺体に十数体もの悪食餓鬼が殺到…。彼等が生身の人肉を捕食する場面を直視したのである。
「生身の人肉なんて…美味しくないでしょうに…」
雪女郎は悪食の悪食餓鬼に嫌悪する。
「鬱陶しいわね…」
人肉を咀嚼する悪食餓鬼に気味悪くなったのか雪女郎は彼等に氷結の妖術を発動…。彼等の肉体は一瞬で氷結したのである。
「死滅しなさい…」
氷結した悪食餓鬼の肉体は崩れ落ちる。すると直後である。周囲で徘徊中だった無数の悪食餓鬼が雪女郎を直視…。彼女に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等ね…」
雪女郎は再度氷結の妖術を発動する。悪食餓鬼は即座に氷結…。肉体が崩れ落ちる。
「あんた達程度で私に挑戦するなんて無謀なのよ…」
『桜花姫はと…』
桜花姫の居場所に移動する直前…。近辺より大妖怪の妖気と三体の中堅妖怪の妖気を察知する。
『えっ!?大妖怪の妖気だわ…』
「ひょっとして…」
大妖怪の出現に雪女郎は身震いしたのである。
「私…西国に戻ろうかな?」
雪女郎は自身が場違いであると自覚し始める。
「如何しましょう?私…」
雪女郎は西国の村里に戻ろうかと困惑するものの…。戦闘の様子が非常に気になるのか大妖怪の妖気を感じる場所へと移動する。雪女郎は恐る恐る民家の物陰から様子を注視したのである。
『何かしら?』
周囲は破壊された十数軒もの木造の建造物が確認され…。一人の甲冑の武人と三体の巨大人面蜘蛛が確認出来る。
「妖怪だわ…交戦中なのかしら?」
『武士から其処等の妖怪とは比較出来ない妖気を感じるわ…妖気の正体は武士だったのかしら?』
雪女郎は武人の妖怪を凝視し続けた直後…。
『ひょっとして彼奴!?先日西国の村里で遭遇した…月影夜叉王かしら!?』
甲冑の武人とは先日遭遇したばかりの大妖怪の月影夜叉王だったのである。
『如何して夜叉王がこんな場所に!?相手は付喪神の小面蜘蛛よね!?私達妖怪にとって小面蜘蛛は天敵なのに…彼奴は一人で三体の小面蜘蛛を仕留められるのかしら?』
雪女郎は正直夜叉王が無茶であると感じるのだが…。夜叉王は護身用の懐刀を抜刀したのである。
『えっ!?彼奴…懐刀だけで…』
「小面蜘蛛を相手に無茶でしょうに…」
雪女郎は呆れ果てる。直後…。
「貴様達は妖怪の天敵であるとの噂話だが…懐刀だけで事足りる…」
夜叉王は神速の身動きにより三体の小面蜘蛛を懐刀だけで瞬殺したのである。
「楽勝だ…所詮は雑魚妖怪だったな!」
夜叉王は妖力を使用せず懐刀のみで小面蜘蛛の胴体部分に刺突…。三体の小面蜘蛛を仕留める。護身用の懐刀だけで三体の小面蜘蛛を仕留めた夜叉王に雪女郎は恐る恐る後退りしたのである。
『彼奴…懐刀だけで…小面蜘蛛の三体を一瞬で仕留めちゃったの…』
雪女郎は夜叉王の実力に圧倒され戦慄する。すると直後である。
「ん?妖怪の新手か?」
夜叉王は物陰の雪女郎に気付いたのか神速の身動きにより雪女郎の背後へと移動したのである。
「きゃっ!」
突然の夜叉王の出現に雪女郎は吃驚する。
「貴様は…西国の村里で遭遇した…粉雪妖怪の雪女郎か?」
「あんたは…月影夜叉王よね?妖怪化した人間妖怪のあんたが…三体の小面蜘蛛を瞬殺しちゃうなんてね…正直意外だわ…」
「小面蜘蛛は妖力さえ使用しなければ単なる雑魚妖怪だ…貴様達純血の妖怪は自身の妖力を過信し過ぎだ…」
すると雪女郎は恐る恐る…。
「あんたは今度如何するのよ?夜叉王?ひょっとしてあんたは私を…」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は呆れ果てる。
「貴様みたいな雑魚妖怪を仕留めても無意味だ…」
「はっ?」
『粉雪妖怪の私を雑魚妖怪ですって!?』
雑魚妖怪の一言に雪女郎は苛立ったのである。
「俺は大妖怪羅刹女の奮闘を見届ける…」
「えっ!?羅刹女を見届けるって!?」
「貴様は羅刹女に挑戦するのか?」
問い掛けられた雪女郎は即座に否定する。
「面白くない冗談ね…大妖怪の羅刹女に挑戦するなんて凡庸の私には絶対無理よ…自殺行為だわ…」
返答する雪女郎に…。
「当然だろうな…貴様みたいな雑魚妖怪が一人で羅刹女に挑戦したとしても瞬殺されるだろうからな…」
「なっ!?私を粉雪妖怪の雑魚妖怪ですって…」
『此奴!一言余計なのよ!』
夜叉王の発言に内心腹立たしくなる。
「補足だが…女人の妖怪…桜花姫も大妖怪の羅刹女を征伐しに出掛けたぜ…彼奴が羅刹女に勝利出来るかは保証出来ないけどな…」
「私は即刻桜花姫に加勢するわ!折角だし…あんたも私と一緒に同行しない?」
「俺は…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「暇潰しだ…桜花姫の奮闘も見届けるか…」
「交渉成立ね♪」
「仕方ないな…」
雪女郎と夜叉王は大妖怪の妖気を感じられる中心地の根城へと直行したのである。二人が移動を開始した同時刻…。東国武士団の根城へと移動した桜花姫であるが道中に数人の匪賊達と遭遇する。
「よっ♪姉ちゃんよ♪」
「あんた達は何者よ?」
『面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?』
接触する匪賊達に苛立ったのである。
『こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…』
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りしたのである。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちまえば姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若武者だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若武者ね…」
『匪賊の分際で何が若武者よ…』
桜花姫は彼等を軽蔑…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな片田舎の荒武者とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を片田舎の荒武者って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪姉ちゃんよ♪」
「姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって妖怪達に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…小娘…」
「相手は所詮人間の小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「私が人間の小娘ですって?」
『鬱陶しい奴等だわ…』
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
『雨蛙に変身しちゃえ♪』
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視した直後…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「此奴は妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪妖怪の一人よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が噂話の…西国の妖怪桜花姫なのか!?」
「本物なのかよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させたのである。
「狼狽えるな!桜花姫が妖怪だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば妖怪の小娘だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
『人間に対する禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪』
匪賊の一人に人間に対する禁断の妖術を発動する。
『飴玉に変化しちゃえ…』
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の人間に対する禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化しやがったぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は再度…。即座に東国の根城へと移動したのである。移動を再開してより数分後…。桜花姫は根城の表門へと到達する。
『城内から大妖怪の妖気を感じるわ…』
「羅刹女…覚悟しなさいよ…」
桜花姫は表門から恐る恐る根城の城内へと進入したのである。
「うわぁ…」
城内の庭園は全体的に血塗れであり其処等に将兵達の肉片やら血肉が飛散する。
「恐らくは羅刹女の仕業ね…」
根城の最上層から大妖怪の妖気を感じる。
『大妖怪の妖気だわ…羅刹女ね…』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。一瞬で根城の最上階へと移動したのである。最上階には斬殺された大名達の遺体が確認出来…。室内の中央には血塗れの刀剣を所持した羅刹女が確認出来る。
「あんたは羅刹女…」
「貴様は桜花姫か…怨敵の貴様が一番に私と遭遇出来たみたいだな…」
桜花姫は羅刹女を睥睨する。
「私を殺したいか?弱小妖怪の桜花姫…」
「如何やら私の体内に存在する…人間の巫女…桃子姫の血肉が無慈悲のあんたを征伐したいみたいよ♪私自身は特段羅刹女に対する執着は皆無だけどね♪」
「桃子姫だと?」
桃子姫の名前に羅刹女は一瞬反応したのである。
「大妖怪である私を弱体化させた病弱の巫女風情が…」
『桃子姫はこんな妖怪の小娘の体内で長生きし続けたのか…生命力だけなら油虫に匹敵するな…』
羅刹女は内心桃子姫の生命力を嫌悪する。すると桜花姫は両手より雷撃の妖術を発動…。羅刹女に雷撃したのである。
「こんな程度の妖術…」
羅刹女は自身の妖刀で桜花姫の雷撃を無力化する。
「私には通用しないぞ…」
羅刹女は両目を瞑目させる。
「桜花姫…貴様は無限の苦痛を存分に体感するのだ…」
直後である。桜花姫の視界が漆黒の暗闇に覆い包まれる。
「えっ…」
『幻術かしら?』
彼女の視界に存在するのは漆黒の暗闇ばかりか妖気すら感じられなくなる。
『妖気も感じられないなんて…』
羅刹女の駆使する幻術は妖気すら遮断させたのである。
『桜花姫…貴様は妖気すら感じられず…私の姿形も視認出来ないのだ…』
羅刹女は一歩ずつ身動き出来なくなった桜花姫に近寄り…。妖刀で桜花姫の腹部を刺突したのである。
「ぐっ!」
羅刹女の妖刀により腹部は貫通するが一瞬で再生する。
「貴様の肉体は不死身だが…貴様は半永久的に無限の苦痛を体感し続けるのだ…」
羅刹女は身動き出来なくなった桜花姫に何度も刺突し続けたのである。
「不死身の貴様は未来永劫封印するのが一番だな…早速…」
桜花姫に封印の妖術を発動する直前…。
「ぐっ!」
羅刹女の左手に雷光の刀剣が突き刺さったのである。
『雷光の刀剣だと?』
直後…。漆黒の暗闇が消失したのである。視界の暗闇が消滅すると桜花姫は羅刹女の幻術から解放されたのである。
「私…自由に身動き出来るわ♪」
「畜生が…邪魔者か…」
すると羅刹女の右側より…。
「羅刹女…残念だったな…」
「此奴が大妖怪の羅刹女なの?外見だけなら小柄の小娘みたいね…」
「あんた達は夜叉王と雪女郎♪」
大妖怪の夜叉王と粉雪妖怪の雪女郎が出現する。羅刹女は鬼神の形相で夜叉王を睥睨し始める。
「夜叉王…私の幻術を解除するとは…人間の貴殿を大妖怪として復活させたのは大間違いだったみたいだな…」
羅刹女は右手から超高温の火球を発射する。
「えっ!?」
「雪女郎!」
超高温の火球が夜叉王と雪女郎に直撃する直前…。突如として結界が出現すると超高温の火球から夜叉王と雪女郎を守護したのである。
「えっ?結界だわ…」
『妖気が感じられないわね…』
桜花姫の背後より…。
「如何やら間に合いましたね…桜花姫様!私も援護しますよ!」
「あんたは八正道様♪ひょっとして結界は八正道様が?」
「勿論私ですよ…」
雪女郎は驚愕した表情で八正道を直視する。
「えっ…人間の僧侶が…私達妖怪を?」
羅刹女も八正道を直視したのである。
「貴様…人間の分際で…妖怪達に加勢するとは…」
「妖怪だとしても!桜花姫様は人間の味方ですからね!恩返しですよ♪」
八正道は桜花姫が人間の味方であると断言する。
「何が人間の味方だ…所詮桜花姫は気紛れだろうに…」
羅刹女は八正道の発言を全否定したのである。すると直後…。
「油断大敵よ♪羅刹女♪」
「ん?」
桜花姫の両腕から真蛸の蛸足を連想させる触手を生成される。
「なっ!?」
桜花姫の両腕から生成された無数の触手は羅刹女の肉体を拘束したのである。
「ぐっ!」
羅刹女は桜花姫の体内から生成された触手によって身動き出来なくなる。
「羅刹女♪あんたの肉体…頂戴するわね♪」
「愚か者が…誰が貴様なんかに食い殺されるか…」
羅刹女は苦し紛れに幽体離脱の妖術を発動…。桜花姫に捕食される直前に本体である実体としての肉体から自身の霊魂を分離させたのである。羅刹女の肉体は桜花姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと捕食されたのである。
「桜花姫様♪黒幕の羅刹女を退治されたのですね♪一安心ですよ♪」
「最後は捕食だったけど…大妖怪の羅刹女を仕留めるなんてね♪桜花姫は妖力だけなら大妖怪に拮抗するわね♪」
八正道と雪女郎は大喜びするのだが…。桜花姫の表情が険悪化する。
「羅刹女は一時的に肉体と霊魂を分離させただけよ!油断しないで!」
「えっ!?肉体と霊魂の分離ですって!?」
「ひょっとして羅刹女は幽体離脱の妖術を駆使したのでしょうか!?」
一同は羅刹女の奇襲に警戒するものの…。本体から分離した羅刹女の霊魂の居場所が特定出来ず混乱したのである。
『一体如何すれば…』
羅刹女の姿形は勿論…。妖気と邪気を消失させた影響からか誰しもが彼女の霊体を特定出来ない。
『誰かが…羅刹女の霊体に憑依されるわ…』
すると直後…。
『桜花姫…桜花姫…』
何者かの美声が桜花姫の脳裏に響き渡る。
『えっ…誰なの?』
桜花姫の脳裏に響き渡る美声は女性であるが何者なのかは不明瞭である。
『あんたは誰なのよ?』
『私よ…桃子姫よ…』
美声の正体とは桜花姫の体内に永眠する人間の巫女…。桃子姫だったのである。
『あんたは桃子姫なの?』
すると桃子姫は恐る恐る…。
『桜花姫…私の霊能力を使用して…』
『えっ?あんたの霊能力を?』
『羅刹女の最大の弱点は霊能力よ…』
『あんたの霊能力が…羅刹女の弱点?』
生前の桃子姫は羅刹女との死闘で絶大なる霊能力により彼女を弱体化させたのである。結果的に羅刹女は仕留め切れなかったが…。彼女の弱体化には成功したのである。
『あんただったら大妖怪の羅刹女を仕留められるわ…私自身の霊能力を桜花姫に分け与えるわね…』
すると直後…。桜花姫は全身から瑠璃色の発光体が無数に出現したのである。
『ひょっとして…桃子姫の霊能力かしら?』
周囲の者達は桜花姫の肉体から発生する瑠璃色の発光体に注目する。
「桜花姫様の肉体から…」
「何かしら?妖力?随分異質的ね…」
瑠璃色の発光体は非常に神秘的であり八正道は勿論…。妖怪の雪女郎も瑠璃色の発光体に魅了される。
「霊力よ…」
桜花姫の肉体から発生した無数の発光体は桃子姫の霊力が実体化した超常現象である。生前当初の桃子姫は自身の霊力で極悪非道の妖怪達を退治…。浄化させたのである。
「霊力ですと?」
「霊力ですって?」
八正道と雪女郎は霊力の一言に反応する。
「羅刹女…覚悟なさい…」
桜花姫は霊力を混入させた変化の妖術を発動…。直後である。
「えっ!?桜餅だわ!?」
突如として雪女郎の目前より桜餅が出現する。
「如何して桜餅が出現したのですか?」
「私は羅刹女の霊体を桜餅に変化させたの♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「えっ!?桜餅は羅刹女なの!?」
「桜花姫様は変化の妖術で霊体さえも変化させられるのですか!?」
「勿論よ♪」
桜花姫の返答に周囲の者達は驚愕する。
「桜花姫…最早あんたは大妖怪をも超越した天道の化身ね…」
雪女郎は霊体をも桜餅に変化させた桜花姫を天道の化身と揶揄するのだが…。
「私が天道の化身なんて大袈裟ね♪」
『私が天道の化身ですって♪』
内心大喜びする。
「兎にも角にも…」
桜花姫は桜餅に近寄り…。桜餅を一口で平らげたのである。
「美味だわ♪」
すると八正道は恐る恐る…。
「ですが桜花姫様?如何して桜花姫様は巫女特有の霊力を駆使出来たのですか?桜花姫様の体内で一体何が発生したのでしょうか…」
「私が霊力を駆使出来た理由ですって…」
桜花姫は先程の出来事を洗い浚い周囲の者達に告白する。
「えっ!?巫女の桃子姫様が…桜花姫様に自身の霊力を分け与えられたのですか?」
「桃子姫は…羅刹女が雪女郎の肉体に憑霊するのを阻止したかったのよ…」
「えっ?彼奴…私に憑霊する寸前だったの!?」
雪女郎は身震いしたのである。
「私…下手したら羅刹女に憑依されたかも知れないのね…」
「兎にも角にも…羅刹女は仕留められたわ♪一安心ね♪」
東国を徘徊中だった大量の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が羅刹女の消滅に影響されたのか砂粒へと変化…。彼等の肉体は崩れ落ちたのである。
「東国では妖気も邪気も何一つ感じられません♪私達は羅刹女の野望を阻止出来たのですね♪」
「はぁ…安心して西国の村里に戻れそうね♪桜花姫♪」
「西国に戻って精霊山の露天風呂に入浴するわよ♪」
直後…。
「えっ?」
突如として桜花姫の体内から半透明の巫女装束の女性が出現したのである。
「えっ!?桜花姫の肉体から人間の巫女が出現したわ…桜花姫?彼女は一体何者なのかしら?」
「此奴は誰だ?人間の巫女なのか?」
「貴女様はひょっとして…」
突如として出現した巫女の霊体に一同は再度驚愕する。
「あんたは桃子姫?」
桜花姫の問い掛けに桃子姫は背後を直視したのである。
「桜花姫♪感謝するわね♪私は無事…昇天出来そうなのよ…」
「桃子姫…昇天ですって?」
昇天の一言に桜花姫は反応する。
「貴女が私の因縁である羅刹女を征伐したからね♪今日で私の巫女としての役目は無事終了よ♪」
羅刹女と桃子姫は因縁の関係であり彼女は桜花姫が誕生して以降…。彼女の体内で半永久的に永眠し続けた状態だったのである。今回の戦闘で羅刹女が消滅してより…。彼女との因縁は完全に消滅したのである。
「桃子姫様…」
八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「貴方は八正道様…」
「先日は感謝します…桃子姫様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来たのです…桃子姫様の救済は無ければ私は今頃…」
「貴方は今後…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を実現出来そうな人物だから…私にとっても…桜花姫にとっても貴方は必要なのよ…」
「私が…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を…」
八正道は一瞬困惑するが…。
「実現させますとも♪桃子姫様♪約束しましょう…」
すると桃子姫の霊体が消滅し始める。
「如何やら…時間みたいね…」
夜叉王以外の者達が消滅し始める桃子姫に反応したのである。
「えっ…桃子姫…」
「桃子姫様?」
「彼女…消滅しちゃうわ…」
桃子姫は笑顔で…。
「最後だけど…桜花姫♪三十年間…今迄私は貴女と一緒だったけれども♪私は幸福だったわ♪天上世界でも…貴女を見守るからね♪」
桃子姫は笑顔の表情で消滅したのである。桃子姫が消滅した直後…。桜花姫の肉体から人間の気配が完全に消失したのである。
「桜花姫様…」
「桜花姫?」
普段は笑顔の絶えない桜花姫であるが…。彼女の涙腺より涙が零れ落ちる。
『えっ!?桜花姫様が…落涙されるなんて…』
『桜花姫でも…落涙するのね…』
落涙する桜花姫に八正道と雪女郎は驚愕したのである。

最終話

対決
大妖怪羅刹女と部下達の東国襲撃から一週間後…。妖怪騒動によって各地の村里は騒然としたが半月が経過すれば自然と沈静化したのである。羅刹女による大事件以降…。僧侶の八正道は妖怪達と人間達が共存出来る理想の世界の実現に活動を開始する。桜花姫の悪友である粉雪妖怪の雪女郎は西国の村里でのんびりと生活したのである。今回の大事件解決の功労者である桜花姫は大妖怪の羅刹女を捕食したのを契機に…。大妖怪へと昇格したのである。桜花姫は各地の妖怪達から畏怖され…。誰しもが大妖怪である彼女に手出し出来なくなったのである。大事件終結から一月が経過…。桜花姫は西国と東国の国境へと移動したのである。
「はぁ…退屈だわ…」
『面白そうな大事件でも発生しないかしら?』
羅刹女の妖怪大事件以降…。妖怪達による妖怪関連の怪異事件は減少したのである。妖怪関連の怪異事件が一件も発生せず桜花姫は正直憂鬱に感じる。
『近頃は妖怪達が大人しいわね…』
すると直後…。
「えっ?」
『気配だわ…』
突如として背後より不吉の気配を感じる。
「妖気だわ…」
気配の正体は妖気だったのである。
「相当強力ね…大妖怪の妖気かしら?」
大妖怪の妖気に桜花姫は警戒し始める。
「何が出現するのかしら?」
すると彼女の背後より…。
「えっ…あんたは?」
桜花姫の背後には鬼神を連想させる甲冑を装備した武士が佇立する。
「久方振りだな…大妖怪…桜花姫よ…」
『誰かと思いきや…』
「あんたは大妖怪…月影夜叉王ね♪」
武士の正体とは大妖怪の月影夜叉王だったのである。
「久し振りね♪月影夜叉王♪あんたが元気そうで安心したわ♪」
夜叉王との再会に桜花姫は大喜びする。
「私に用事かしら?夜叉王♪」
問い掛けられた夜叉王は無表情で桜花姫を凝視したのである。
「桜花姫…俺は全身全霊で最強の存在である貴様と勝負したくなった…今度こそ俺と本気で勝負しろ…」
「私と勝負ですって?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「俺と貴様は妖力が拮抗する…何方が俗界で最強の妖怪なのか…明確化する絶好機だからな…」
桜花姫は恐る恐る周囲を確認したのである。
『周囲に人気は感じられないわね…』
周囲に人気は皆無であり桜花姫は一安心したのか笑顔で…。
「私も退屈だったのよ♪夜叉王♪暇潰しに私と勝負しましょう♪」
「であれば好都合だ…桜花姫…」
夜叉王も桜花姫の返答に内心大喜びだったのである。
「今度は本領を発揮しなさいよ♪月影夜叉王♪」
「貴様に指摘されずとも…」
夜叉王は左手に雷光の刀剣を形作る。
「今回は全力を発揮する!貴様も全身全霊の妖力を発揮しろよ!桜花姫!」
「勿論よ♪私も全身全霊であんたと勝負したかったの♪今回は手加減しないからね♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
完結

第弐部

第一話

車輪
大妖怪羅刹女との大戦闘から半年後…。大妖怪へと昇格した桜花姫は退屈なのか家屋敷の居間で寝転んだのである。
「はぁ…退屈だわ…」
何一つとして事件らしい事件が発生せず…。桜花姫は毎日の日常生活が憂鬱だったのである。
「大事件でも発生しないかしら?」
すると何者かが家屋敷の戸口を強打する。
「えっ?何かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には一人の僧侶が佇立…。
「誰かと思いきや…あんたは八正道様?」
僧侶は誰であろう八正道だったのである。
「桜花姫様…大変です…」
八正道は騒然とした表情であり桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「何が大変なのよ?八正道様?」
「北国で大事件が発生しました…」
「北国で大事件ですって♪一体何が発生したのかしら♪」
大事件発生に桜花姫は大喜びする。
「近頃の出来事なのですが…」
三日前の出来事である。真夜中…。北国の田舎町にて火炎に覆い包まれた車輪が出現するとの噂話が北国全域に出回る。真夜中に火炎に覆い包まれた牛車の車輪と遭遇した目撃者は高熱によって死去したのである。
「火炎に覆い包まれた牛車の車輪ね…」
「今現在北国では村人達が付喪神の呪詛だと大騒ぎですよ…」
「付喪神ね…」
桜花姫は一瞬瞑目する。
「恐らくだけど…車輪の付喪神から判断して…器物妖怪の【輪入道】かしら?」
「輪入道ですと?」
輪入道とは霊体妖怪が牛車の車輪に憑依した付喪神である。輪入道も小面蜘蛛と同様に器物妖怪の一種とされる。一説によると戦乱時代の最中…。頭首を斬首された僧侶達の無念が妖怪化した存在とされ器物である牛車の車輪に憑依したのが輪入道とされる。
「輪入道は器物妖怪の一体ですか…遭遇した人間を呪殺出来るとは非常に厄介ですね…即刻輪入道を退治しなくては…」
「早速北国に移動しましょう♪」
桜花姫と八正道は即座に外出すると西国の村里から北国の田舎町へと移動したのである。二人は移動を開始してより一時間後…。二人は事件現場とされる北国の田舎町へと到達したのである。時間帯は昼間であり人通りは確認出来る。すると桜花姫は近辺の町民に問い掛ける。
「御免あそばせ♪」
「はぁ?娘さん…如何されましたか?」
「単刀直入だけど…北国に輪入道が出現したらしいのよね…」
すると直後…。
「ひっ!輪入道ですって!?」
町民は輪入道の一言に畏怖した様子で一目散に桜花姫と八正道から逃走し始める。
「えっ?町民は逃げちゃったわ…八正道様…」
「如何やら先程の町民の様子から判断して…北国の町民達にとって輪入道とは相当畏怖すべき存在なのでしょうね…輪入道の名前を傾聴するだけでも畏怖するとは輪入道の呪詛は相当危険なのでしょう…」
「面白そうね♪同種の妖怪にも輪入道の呪詛が通用するのかしら♪」
桜花姫は輪入道と遭遇したくなる。すると二人の背後より…。
「貴方達は国外の旅人みたいですね…」
長老らしき高年齢の男性が桜花姫と八正道に近寄る。
「えっ?誰なの?」
「貴方様は?」
「私は北国の長老で医者の身分です…」
「貴方様は医者ですか…」
医者の長老は恐る恐る…。
「今現在北国には極悪非道の妖怪が出現したのです…こんな場所で余所者の貴方達が長居し続ければ妖怪に遭遇して…外部の貴方達が妖怪に呪詛されましょう…」
医者の長老は二人に警告したのである。
「北国は危険地帯です…即刻戻られるべきかと…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私達の目的は北国に出現した妖怪に遭遇するのが目的なの♪」
「妖怪に遭遇ですと?」
今度は八正道が説明する。
「私達は北国に出現した妖怪を退治しに北国に参上したのです…」
「妖怪を退治ですか…」
医者の長老は二人を凝視し始める。
「貴方が法師様なのは理解出来るのですが…相方の娘さんは都会の小町娘でしょうか?彼女が極悪非道の妖怪を退治出来るのですかね?」
桜花姫の姿形から妖怪を退治出来るのか疑問視したのである。
「長老様…彼女は姿形のみなら人間の少女ですが…彼女の正体は妖怪なのです…」
八正道は桜花姫の正体が妖怪であると説明する。
「えっ!?彼女の正体が妖怪ですと!?本当なのですか?姿形のみなら人間の少女にしか…」
医者の長老は驚愕したのである。
「私は正真正銘妖怪なのよ♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「信じ難いでしょうからね…私が本物の妖怪だって事実を証明するわよ♪」
桜花姫は医者の長老が所持する薬袋に変化の妖術を発動…。直後である。長老の所持する薬袋が飴玉に変化したのである。
「なっ!?薬袋が…飴玉に!?」
突然の桜花姫の妖術に長老は驚愕する。
「如何かしら♪変化の妖術よ♪」
桜花姫は変化の妖術を解除させる。すると飴玉が薬袋に戻ったのである。
「理解出来たでしょう♪私が本物の妖怪だって♪」
医者の長老は桜花姫に畏怖すると恐る恐る後退りする。
「心配されなくとも大丈夫ですよ…長老様…彼女は妖怪ですが…半年前の東国の騒動では彼女が妖怪達を退治したのですよ…妖怪の親玉である羅刹女も彼女にとって退治されましたからね…」
八正道は半年前の妖怪騒動の経緯を告白したのである。
「妖怪である彼女が…同族の妖怪を退治したと?」
「私自身も最初は驚愕しましたが…彼女は正真正銘人間の味方ですよ♪」
八正道は笑顔で主張する。
「先程の妖術もですが…人間の法師様が主張されるのであれば私も妖怪の娘さんを信用しましょう…」
「私は桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で自身の名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
八正道も名前を名乗ったのである。
「妖怪の娘さんが桜花姫様で…法師様が八正道様ですね…」
すると医者の長老は恐る恐る…。
「突然なのですが…」
「如何されましたか?長老様?」
医者の長老は二人を自身の家屋敷へと道案内したのである。
「えっ…」
「病人かしら?」
家屋敷に移動すると室内には十数人もの老若男女の患者達が高熱で寝転ぶ。誰しもが重苦しい深呼吸であり瀕死の状態だったのである。
「彼等は疫病の患者なのですが…全員妖怪に遭遇した当事者の家族なのです…」
輪入道の呪詛は真夜中に遭遇した当事者のみならず…。当事者の身内にも輪入道の呪詛が伝染したのである。
「疫病ですね…」
「十二人も絶命したのです…尽力しましたが治療法も存在しません…彼等も時間の問題でしょうね…」
長老は多種多様の薬品を使用するも…。効果は皆無であり三日間だけで十二人の患者が死去したのである。
「最早彼等を救済するには念仏以外…」
長老は涙腺から涙が零れ落ちる。
「長老様…」
八正道は絶句したのである。一方の桜花姫は無表情で目前の少女を凝視し続ける。少女は虫の息であり衰弱死寸前だったのである。
「彼女…」
桜花姫は恐る恐る少女の胸部に接触する。
「桜花姫様?一体何を?」
八正道は桜花姫に問い掛ける。数秒後…。虫の息だった少女の呼吸が正常に戻ったのである。
「なっ!?」
「現実なのか!?」
八正道と長老は驚愕する。少女は土気色だった顔色も正常に戻り始める。
「貴女様は一体何を?妖術なのですか?」
長老は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「私自身は妖怪の肉体だから大丈夫だけど…美味しくないわね…非力の人間が衰弱死するのは当然かしら…」
「桜花姫様は恐らく…妖術で少女の体内の毒素を吸収されたのでしょう…」
八正道は長老に説明する。
「毒素を吸収…」
八正道は桜花姫に依頼したのである。
「桜花姫様…貴女の妖術で患者達の毒素を吸収出来ませんか?」
「出来るけれど…」
桜花姫は内心不本意であるが…。彼女は各患者の皮膚に接触したのである。すると患者達の様子が正常化する。
「はぁ…」
桜花姫は草臥れたのか一息したのである。八正道は笑顔で…。
「桜花姫様♪感謝しますよ♪」
一方の長老も桜花姫に一礼する。
「感謝します!桜花姫様!」
「あんたは今度♪私に桜餅を頂戴しなさいね♪約束よ♪」
「承知しました♪」
長老は大喜びした様子で承諾したのである。
「患者達は大丈夫だけど…安静にさせるべきだわ…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると八正道は長老に問い掛ける。
「長老様…各地の噂話では北国に出現した妖怪は車輪の妖怪との内容なのですが…本当なのですかね?」
長老は恐る恐る…。
「患者達の証言では…牛車の車輪に人間の頭部が一体化した…異形の妖怪と遭遇したとの内容でしたね…ひょっとすると牛車の車輪の妖怪と目撃者達の疫病が関係するのかも知れませんね…」
桜花姫は恐る恐る発言する。
「恐らくだけど今夜も器物妖怪の輪入道が出現するでしょう…あんたは町民達に夜間の外出を禁止させて!人間が輪入道と遭遇すると最悪呪殺されるでしょうからね…」
「承知しました…桜花姫様…」
長老は桜花姫の指示を掌握する。
「私は…」
長老は外出すると田舎町の各家屋にて今夜の外出自粛を要請したのである。
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件名 妖怪奇譚※仮名
投稿日 : 2021/08/25 19:40
投稿者 月影桜花姫
参照先
第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。
「えっ…」
今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは相当の物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は魑魅魍魎の集合体です…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気か!?)
突如として妖気を察知…。三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪よ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は身震いした様子で恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき物体は何一つとして確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道の妖気かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。数秒後…。暗闇の遠方より白鯨らしき巨大移動物体が接近する。
「何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主であり全体的に真蛸らしき物体だったのである。
(巨大真蛸…)
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は大島に匹敵する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様は妖怪…月影桜花姫だな…人魚に変化したのか?」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹だ…邪魔するなら貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり相手が妖怪であっても捕食する。
「私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では俺を仕留められる妖怪は存在しないぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るが…。海中で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。
「噂話は熟知したぞ…近頃貴様は人間の僧侶に加勢して…同種の妖怪達を征伐したらしいな?」
「人間に加勢したから何よ?私は邪魔者を仕留めただけよ♪」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「貴様…気に入らないな…」
「如何する♪」
「死滅しろ…」
海難入道は即座に触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念であったな…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「吸収するなんて…」
(海難入道には妖術が通用しないのかしら…)
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件名 アフターウォーズ
投稿日 : 2021/08/25 19:36
投稿者 月影桜花姫
参照先
第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。荒廃した世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧やら領土の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。東方の亜大陸では旧文明の復興を主眼に活動する勢力が誕生したのである。某月某日…。荒廃した南方地帯の主要都市部では『ホープセイバーズ』と呼称される巨大武装勢力が敵対する国連軍残存勢力『地球新政府軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
ホープセイバーズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「ホープセイバーズの突撃隊が突撃を開始したぞ!即刻迎撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が迎撃を命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するホープセイバーズの突撃隊は地球新政府軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球新政府軍の銃撃に畏怖した突撃隊は即座に後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンやらダガーナイフのみである。人員でもホープセイバーズは二百五十人程度であるが…。地球新政府軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球新政府軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来ホープセイバーズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥組織であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?今更撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球新政府軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球新政府軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のホープセイバーズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪であり両手は黒色の手袋である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ノイザッグ】か…」
「ノイザッグだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も荒廃した各地で生存が確認される。
「ノイザッグって…暗闇の一匹狼だよな?」
ノイザッグは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがホープセイバーズに所属した?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にホープセイバーズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力の戦力だからな…」
ノイザッグの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。ルーヴェルハルトの指示にノイザッグは無言であるが承諾したのである。ノイザッグは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「ホープセイバーズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ノイザッグは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマンか?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「敵兵がネオヒューマンであれば…非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球新政府軍はノイザッグに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がノイザッグを急襲する。ノイザッグは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ノイザッグはノーダメージであり地球新政府軍の将兵達は絶句する。するとノイザッグは無表情で…。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
ノイザッグは超能力を発動すると軍事工場を守備する五両の重戦車をペシャンコに破壊したのである。
「えっ!?重戦車が…」
ノイザッグの超能力に敵味方は驚愕する。
「畜生…重戦車を破壊されたか…」
破壊された重戦車に地球新政府軍の兵士達は戦意喪失するが…。
「相手はネオヒューマン一人だ!彼奴を殲滅せよ!」
部隊長の命令にトーチカの兵士達は再度機関銃で攻撃したのである。
「無謀だな…」
ノイザッグは再度超能力を発動…。数千発もの機関銃の弾丸を停止させる。
「俺に金属類は通用しない…」
ノイザッグはあらゆる金属類を自由自在に操作出来る超能力であり彼に金属を使用した武器は通用しない。
「死滅しろ…」
停止させた無数の銃弾をトーチカの兵士達に返却したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
返却された無数の銃弾によりトーチカの兵士達は戦死する。
(勝利は目前だな…)
後方のルーヴェルハルトは勝利を確信したのである。
「敵軍は弱体化したぞ!総攻撃を開始しろ!」
ルーヴェルハルトは味方の戦闘員達に総攻撃を指示したのである。主力の突撃隊のみならず…。後方に位置する各戦闘員達も軍事工事への総攻撃に参加したのである。軍事工事はノイザッグの加勢により一時間程度で占拠…。地球新政府軍の守備隊は軍事工事から撤退したのである。
「総大将♪敵軍の奴等…撤退しましたぜ♪」
戦闘員達はホープセイバーズの勝利に大喜びする。
「初戦は冷や冷やしたが無事に軍事工場を確保出来たからな…結果オーライだ…」
ルーヴェルハルトはノイザッグに近寄るなり…。
「見事だったぞ♪ノイザッグ♪」
普段は厳格のルーヴェルハルトであるが笑顔で発言する。
「初戦でこんな大戦果とは…貴様は次期総帥候補決定だな♪」
「えっ!?次期総帥候補って…」
周囲の戦闘員達は次期総帥候補に任命されたノイザッグに驚愕したのである。
「此奴が…次期総帥候補だって!?」
「実質今回の戦闘でホープセイバーズが地球新政府軍に勝利出来たのはノイザッグの力戦がデカいからな…」
「今回の大戦果だ…ノイザッグが次期総帥候補に任命されても可笑しくないぞ…」
するとノイザッグは無表情で…。
「俺は単純に戦闘で気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…」
ノイザッグは人一倍好戦的であり戦闘に参加出来れば満足だったのである。
「総帥なんて称号は俺には不要だ…」
ノイザッグの返答に内心ガッカリするものの…。
「貴様が戦闘に参加したいのであれば思う存分戦闘しろ…恐らく今後も地球新政府軍との戦闘は予想されるからな…」
今回の軍事工場制圧作戦でホープセイバーズは四十三人の戦闘員が戦死するが軍事工場と戦闘車を十三両鹵獲したのである。未完成であるが…。航空戦力の戦闘用ドローンを十七機鹵獲する。

第二話

歓楽街

地球新政府軍の軍事工場を占拠してより三日後…。ホープセイバーズの戦闘員達は都市部の歓楽街の飲食店にてワイワイと泥酔する。南方地帯はスラム街ばかりだが…。歓楽街では飲食店も経営され大勢の人間達が飲食したのである。戦闘員達は店員と周囲の客人に自分達の武勇伝を自慢する。
「俺達は地球新政府軍の奴等を撃退したホープセイバーズの精鋭だぞ♪今度の南方地帯の支配者は俺達ホープセイバーズだからな♪」
「平伏するなら今後は俺達に平伏しろよ♪」
南方地帯全域は地球新政府軍の支配領域であったが…。三日前の戦闘の大敗北により地球新政府軍は撤退したのである。大袈裟に自慢し続ける彼等に周囲の店員や客人はポカンとする。すると一人の戦闘員が…。
「ん?彼奴は?」
「彼奴?誰だよ?」
「ノイザッグだよ…ノイザッグは?」
「ノイザッグなら出歩いたぜ…」
「一人で出歩きやがったのか?」
ノイザッグは酒場の雰囲気が大嫌いであり歓楽街を適当に出歩いたのである。すると道中…。とあるキャバクラを発見する。三人組のキャバ嬢がノイザッグを直視するなり…。
「男前の兵隊さん♪寄ってかない♪」
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件名 Re: 新世紀エヴァンゲリオン〔仮名〕※休止中
投稿日 : 2021/08/24 19:23
投稿者 月影桜花姫
参照先
第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上に落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。彼女の様子に正直意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪でも…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は妖怪の集合体です…正直桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気!?)
三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?漁船が…」
「桜餅に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは本当に妖怪なのか?」
「勿論♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来でも巨大真蛸らしき物体は確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。妖気が接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
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件名 アフターウォーズ
投稿日 : 2021/08/21 20:28
投稿者 月影桜花姫
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第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。旧文明の復興を主眼に活動する勢力も誕生したのである。某月某日…。荒廃した主要都市部では『ホープセイバーズ』と呼称される巨大武装勢力が敵対する国連軍残存勢力『地球革命軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
ホープセイバーズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「ホープセイバーズの突撃隊が突撃を開始したぞ!即刻迎撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が迎撃を命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するホープセイバーズの突撃隊は地球革命軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球革命軍の銃撃に畏怖した突撃隊は後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンやらダガーナイフのみである。人員でもホープセイバーズは二百五十人程度であるが…。地球革命軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球革命軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来ホープセイバーズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥組織であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?今更撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球革命軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球革命軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のホープセイバーズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ノイザッグ】か…」
「ノイザッグだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も各地で生存が確認される。
「ノイザッグって…暗闇の一匹狼だよな?」
ノイザッグは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがホープセイバーズに所属した?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にホープセイバーズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力の戦力だからな…」
ノイザッグの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。ルーヴェルハルトの指示にノイザッグは無言であるが承諾したのである。ノイザッグは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「ホープセイバーズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ノイザッグは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマンか?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「敵兵がネオヒューマンであれば…非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球革命軍はノイザッグに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がノイザッグを急襲する。ノイザッグは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ノイザッグはノーダメージであり地球革命軍の将兵達は絶句する。するとノイザッグは無表情で…。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
ノイザッグは超能力を発動すると軍事工場を守備する五両の重戦車をペシャンコに破壊したのである。
「えっ!?重戦車が…」
ノイザッグの超能力に敵味方は驚愕する。
「畜生…重戦車を破壊されたか…」
破壊された重戦車に地球革命軍の兵士達は戦意喪失するが…。
「相手はネオヒューマン一人だ!彼奴を殲滅せよ!」
部隊長の命令にトーチカの兵士達は再度機関銃で攻撃したのである。
「無謀だな…」
ノイザッグは再度超能力を発動…。数千発もの機関銃の弾丸を停止させる。
「俺に金属類は通用しない…」
ノイザッグはあらゆる金属類を自由自在に操作出来る超能力であり彼に金属を使用した武器は通用しない。
「死滅しろ…」
停止させた無数の銃弾をトーチカの兵士達に返却したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
返却された無数の銃弾によりトーチカの兵士達は戦死する。
(勝利は目前だな…)
後方のルーヴェルハルトは勝利を確信したのである。
「敵軍は弱体化したぞ!総攻撃を開始しろ!」
ルーヴェルハルトは味方の戦闘員達に総攻撃を指示したのである。主力の突撃隊のみならず…。後方に位置する各戦闘員達も軍事工事への総攻撃に参加したのである。軍事工事はノイザッグの加勢により一時間程度で占拠…。地球革命軍の守備隊は軍事工事から撤退したのである。
「総大将♪敵軍の奴等撤退しましたぜ♪」
戦闘員達は勝利に大喜びする。
「初戦は冷や冷やしたが無事に軍事工場を確保出来たからな…結果オーライだ…」
ルーヴェルハルトはノイザッグに近寄るなり…。
「見事だったぞ♪ノイザッグ♪」
普段は厳格のルーヴェルハルトであるが笑顔で発言する。
「初戦でこんな大戦果とは…貴様は次期総帥候補決定だな♪」
「えっ!?次期総帥候補って…」
周囲の戦闘員達は次期総帥候補に任命されたノイザッグに驚愕したのである。
「此奴が…次期総帥候補だって!?」
「実質今回の戦闘で地球革命軍に勝利出来たのはノイザッグの力戦だからな…次期総帥候補に任命されても可笑しくないぞ…」
するとノイザッグは無表情で…。
「俺は単純に戦闘で気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…」
ノイザッグは人一倍好戦的であり戦闘に参加出来れば満足だったのである。
「総帥なんて称号は俺には不要だ…」
ノイザッグの返答に内心ガッカリするものの…。
「貴様が戦闘に参加したいのであれば思う存分戦闘しろ…恐らく今後も地球革命軍との戦闘は予想されるからな…」
今回の戦闘でホープセイバーズは四十三人の戦闘員が戦死するが軍事工場と戦闘車を十三両鹵獲したのである。未完成であるが航空戦力の戦闘用ドローンを十七機鹵獲する。
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件名 メガラニカ大事変
投稿日 : 2021/08/20 09:25
投稿者 月影桜花姫
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第一話

開戦

世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。戦後の疲弊した世界各国を牛耳れる超大国としての地位と資源を獲得したのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の存在に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ解放区』と命名され太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ解放区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ解放区の勢力拡大を危惧した太平帝国はメガラニカ解放区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ解放区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンには太平帝国国家元首である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ解放区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ解放区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ解放区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ解放区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ解放区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ解放区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ解放区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ解放区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ解放軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ解放区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ解放区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ解放区の南方地帯全域を空爆せよ…非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ解放区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ解放区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ解放軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ解放軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ解放軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ解放軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ解放区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ解放軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ解放軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ解放区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ解放区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ解放区は圧倒的に不利である。メガラニカ解放軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ解放軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ解放軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ解放軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来たのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ解放軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ解放軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ解放軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『ティタニア』です…」
「超砲撃型戦艦…ティタニア?」
正式名は超砲撃型戦艦ティタニアであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがティタニアは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。
「戦艦ティタニアは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦ティタニアの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍に占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ解放軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…アポロゾーン基地だな…」
アポロゾーン基地とは最南端に位置する離島…。アポロゾーン本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻アポロゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?アポロゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「アポロゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…アポロゾーンに侵攻中のメガラニカ解放軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
アポロゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。アポロゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?アポロゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小国家だった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「敵味方諸共…殲滅するのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもアポロゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが承諾したのである。

第三話

攻防戦

五月二十七日早朝…。メガラニカ解放軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域アポロゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。アポロゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
「スーパーレーダーが反応したぞ!」
即座に立体映像のホログラムで確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ解放軍の艦隊だな…アポロゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!アポロゾーンは徹底的に死守しろ!」
守備隊の陸軍総司令官が各員に指示したのである。
「はっ!」
アポロゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありアポロゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ解放軍の大艦隊がアポロゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカの大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラムを作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…ドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のアポロゾーン防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。アポロゾーン防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。ドローン部隊の猛反撃からアポロゾーン防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にアポロゾーン総司令部は混乱する。
「ドローン部隊を使用したか…」
総司令官は一瞬沈黙するも…。
「守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始する!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「民間人は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ解放軍のドローン部隊がアポロゾーン領空へと到達する。
「メガラニカのドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?壊滅状態だと!?」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ解放軍の大艦隊が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…アポロゾーンの領海に到達したのか!?」
メガラニカ解放軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ解放軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ解放軍艦隊はノーダメージでアポロゾーンの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
総司令官が通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から潜水艦が一隻出動したと…」
「はっ?」
総司令官は絶句する。
「こんな状況で潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告に総司令官はピリピリする。
(アポロゾーンは陥落しろと?総本部は本土決戦を決断したのか?)
総司令官は決断したのである。
「総員…援軍は期待出来ないが…精一杯アポロゾーンを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるアポロゾーン上陸作戦が開始されたのである。
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件名 ギルゾッド
投稿日 : 2021/08/17 10:39
投稿者 月影桜花姫
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第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。旧文明の復興を主眼に活動する勢力も誕生したのである。某月某日…。荒廃した主要都市部では巨大武装勢力『リベレーターズ』が敵対する巨大軍事勢力『地球革命軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
リベレーターズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「リベレーターズの突撃隊が突撃を開始したぞ!攻撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するリベレーターズの突撃隊は地球革命軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球革命軍の銃撃に畏怖した突撃隊は後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンのみである。人員でもリベレーターズは二百五十人であるが…。地球革命軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球革命軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来リベレーターズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球革命軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球革命軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のリベレーターズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ギルゾッド】か…」
「ギルゾッドだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も各地で生存が確認される。
「ギルゾッドって…暗闇の一匹狼だよな?」
ギルゾッドは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがリベレーターズに?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にリベレーターズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力だろうからな…」
ギルゾッドの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。
「ギルゾッド…敵軍を蹴散らすのだぞ…」
ルーヴェルハルトの指示にギルゾッドは無言であるが承諾したのである。ギルゾッドは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「リベレーターズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ギルゾッドは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマン?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「であれば非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球革命軍はギルゾッドに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がギルゾッドを急襲する。ギルゾッドは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ギルゾッドはノーダメージであり地球革命軍の将兵達は絶句する。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
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件名 桜花姫※別作品
投稿日 : 2021/08/17 10:24
投稿者 月影桜花姫
参照先
第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の妖怪達が出現し始める。五十年後の天地暦四千二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の妖怪達が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は妖怪達の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
(何やら無数の妖気が感じられる…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
(普通の人間は近寄れないな…)
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外である。
「妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体は妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等か…」
総勢数十体もの食人餓鬼に包囲されるも…。三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼を発火させたのである。三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上に落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が妖怪なのは確実であるが敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの妖気を感じる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の妖怪の集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は妖怪の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談♪冗談♪御免あそばせ♪」
笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪でも…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は妖怪の集合体です…正直桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じる。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気!?)
三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾するのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「妖術で先回りしたのですか?」
「勿論♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿と大好きな桜餅に変化したのである。
「なっ!?漁船が…」
「桜餅に!?」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは本物の妖怪なのか?」
「勿論♪」
笑顔で即答する。すると漁師達は恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!殺されちまう!」
「逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じる。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:57
投稿者 月影桜花姫
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最終話

後日談

羅刹獣との大激戦から一週間後…。事件後アクアヴィーナスは無事にアクアユートピアに帰還したのである。スキュランと母親のウェンディーネにこっ酷く説教され大泣きするも…。翌日には無事を大喜びされる。ギクシャクしたスキュランとの関係も改善され今現在のアクアユートピアは本当の意味で楽園へと変化したのである。一方の氷麗姫は不倫により別居中だった亭主との関係改善に成功…。今現在では本当の夫婦として同居を再開する。一方居候生活を開始した小猫姫と冥王鬼の様子だが…。
「冥王鬼姉ちゃん♪蛇骨鬼婆ちゃんの墓参りしない♪」
「墓参りか…同行するよ…」
冥王鬼は小猫姫と一緒に蛇骨鬼の墓参りに移動したのである。墓場へと到達した彼女達は蛇骨鬼の墓石へと到達する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
小猫姫は恐る恐る合掌したのである。すると彼女の涙腺より一粒の涙が零れ落ちる。
「小猫姫…」
(彼女にとって蛇骨鬼との死別は相当辛かったのだろうな…)
冥王鬼は恐る恐る小猫姫に接触する。
「冥王鬼姉ちゃん?」
「蛇骨鬼は小猫姫と再会出来て…大喜びだろうよ♪」
「本当かな?」
「勿論だよ…蛇骨鬼にとって小猫姫は最愛の孫娘だからな♪」
「冥王鬼姉ちゃん♪」
「小猫姫には笑顔が一番だな…」
「本当?」
小猫姫に笑顔が戻ったのである。
「戻ろうか?小猫姫…」
「戻ろう♪戻ろう♪」
小猫姫は帰宅途中…。村里の村道にて小柄の若武者の美青年とぶつかったのである。
「きゃっ!」
「うわっ!」
小猫姫と若武者は地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫か!?」
ぶつかった若武者が恐る恐る…。
「失礼しました!御嬢さん…怪我は?大丈夫ですか?」
若武者は即座に謝罪したのである。
「私は…大丈夫よ…大丈夫だから…心配しないで…」
すると若武者と小猫姫は目線が合致…。
「えっ…」
「はぁ…」
両者は赤面したのである。若武者は内心…。
(俗界にこんな美人さんが存在するなんて…私は俗界の女神様と遭遇したのか!?)
一方の小猫姫も内心ドキドキする。
(如何してこんなに緊張するの!?ひょっとして…)
赤面する小猫姫に冥王鬼は微笑む。
(ひょっとすると小猫姫…恋心か♪)
すると直後である。半透明の白蛇が冥王鬼の背後に出現する。
(なっ!?)
「貴様は蛇神の蛇骨鬼か!?」
「冥王鬼よ…久方振りだね♪」
突如として冥王鬼の背後に出現したのは蛇神の蛇骨鬼だったのである。
「蛇骨鬼…如何して貴様が…」
「単なる挨拶だよ♪久方振りに大昔の悪友に再会したかったのさ♪元気そうで安心したよ…冥王鬼♪」
突然の超常現象に冥王鬼は混乱する。
「混乱するのも当然かね♪大丈夫♪時間は一時的に停止させたから♪」
冥王鬼は恐る恐る小猫姫と若武者を直視するなり…。
「如何やら今現在身動き出来るのは私と蛇骨鬼だけか…」
「蛇骨鬼よ…人一倍人間達を憎悪した貴様がこんなにも変化するとは…予想外だね♪」
「鬱陶しいな…貴様は…」
すると冥王鬼はボソッと小声で…。
「結局私は間違ったのか…」
「結果的に羅刹獣は桜花姫ちゃんによって仕留められた…遅かれ早かれ羅刹獣の封印は脆弱化した状態だったからね♪あんたが封印を解除しなくても封印は自力で解除されただろうよ…」
問い掛ける冥王鬼に蛇骨鬼は否定しなかったのである。
「人間達は野蛮だからね…あんたは今後も抑止力として活動しな♪悪人が出現すれば徹底的に征伐しなよ…勿論殺さない程度に♪」
「私が抑止力か…努力するよ…」
彼女は再度笑顔で…。
「今後も小猫姫と仲良くね♪」
「当然だ…彼女はあんたの孫娘だろう?」
「勿論だとも♪」
蛇骨鬼は笑顔で即答する。
「勿論…桜花姫ちゃんとも仲良くしなよ♪彼女も私の孫娘の一人だからね…」
「なっ!?」
桜花姫の名前にビクッと反応したのである。
(彼奴が蛇骨鬼の孫娘だと!?蛇骨鬼の感性が理解出来ないな…)
冥王鬼は桜花姫の名前にピリピリするが…。
「正直桜花姫は気に入らないが…努力するさ…」
すると突如として蛇骨鬼に肉体が消滅し始める。
「えっ…蛇骨鬼?」
「如何やら時間みたいだね…」
冥王鬼は恐る恐る…。
「消滅するのか…蛇骨鬼…」
「達者でね♪冥王鬼♪」
蛇骨鬼は消滅したのである。
「蛇骨鬼…」
蛇骨鬼が消滅すると停止された時間は再度経過し始める。すると若武者はホッとする。
「御嬢様に怪我が無さそうなので安心しましたよ♪」
若武者は恐る恐る…。
「御詫びなのですが…」
三両の小判を小猫姫に手渡したのである。
「えっ!?三両も!?」
純金の小判に小猫姫は驚愕する。
「怪我が無くても貴女様みたいな女性にぶつかっちゃいましたからね…是非とも貴女様に贖罪しなければ…」
「大袈裟だよ…別に私は大丈夫なのに…」
小猫姫は困惑したのである。
(人間にもこんな若武者が存在するのか…当分は様子見が必要だな…)
人一倍人間を憎悪する冥王鬼であるが…。若武者の行動に彼女は微笑む。すると冥王鬼は笑顔で…。
「人間の若者よ♪貴様は人一倍幸運だな…ぶつかったのが最上級妖女の桜花姫なら貴様みたいな小坊主…簡単に食い殺されただろうよ♪今回はぶつかった相手が小猫姫で幸運だったな…」
「えっ…小猫姫って…」
若武者の表情が変化する。
「貴女様…ひょっとして桜花姫様の妹分の…」
「私は…小猫姫…山猫妖女の小猫姫よ…」
小猫姫は恐る恐る名前を名乗る。すると若武者は大喜びしたのである。
「貴女様が山猫妖女の小猫姫様ですか♪私は小猫姫様が大好きでして…本日が休暇であれば…私と一緒に東国で遊歩しませんか?勿論料金は私が負担しますよ♪」
「えっ…」
(如何するべきなのかな?)
見ず知らずの若武者を相手に小猫姫は困惑するが…。冥王鬼は笑顔で発言する。
「折角の機会だ♪小猫姫よ…勉学として此奴と遊歩したら如何なのだ?」
小猫姫は赤面するが…。
「仕方ないね…」
承諾したのである。すると冥王鬼が若者に睥睨するなり…。
「人間の若武者よ…彼女は人一倍純粋だぞ…彼女を裏切れば私は即刻貴様を惨殺するから覚悟しろよ…」
「ひっ!承知しました…」
冥王鬼の表情に若武者はビクビクする。
(冥王鬼姉ちゃん…)
小猫姫は苦笑いしたのである。同時刻…。氷麗姫は暇潰しに東国の三蔵郎の寺院へと訪問する。
「三蔵郎?」
「誰かと思いきや…貴女様は氷麗姫ですか♪本日は如何されましたか?」
「暇潰しよ♪暇潰し♪」
「暇潰しですか…」
氷麗姫は周囲をキョロキョロしたのである。
「桜花姫は?」
桜花姫の居場所を問い掛けられた三蔵郎は恐る恐る…。
「桜花姫様なら先程桜餅を食べられてから…地獄に出掛けるとか…」
「えっ?地獄ですって?」
氷麗姫は珍紛漢紛だったのである。
「私自身も何が何やら…」
「彼奴は本当に気紛れね…」
同時刻…。
「口寄せの妖術成功♪」
桜花姫は口寄せの妖術により自分自身を死後の世界である地獄に口寄せしたのである。最早口寄せの妖術は死後の世界さえも行き来出来る領域へと到達する。死後の世界である地獄へと到達した彼女は周辺の景色を眺望するなり…。
「地獄は無数の悪霊が出現しそうな雰囲気ね♪」
(悪霊を仕留めるなら最適の場所だわ♪)
地獄の雰囲気にワクワクしたのである。彼女の目前には鬼神の甲冑を装着した武士が存在する。
「久し振りね♪鬼殺丸♪元気だったかしら?」
すると武士は警戒した様子で背後を直視したのである。
「なっ!?貴様は…」
「御免あそばせ♪」
武士は誰であろう地獄の住人…。鬼殺丸だったのである。
「貴様…月影桜花姫か!?二度と地獄へは逆戻りするなと忠告しただろ…」
鬼殺丸は桜花姫を睥睨…。非常に呆れ果てたのである。
「俗界は毎日が平和だから退屈なのよね♪地獄なら思う存分悪霊を征伐出来るし♪」
「貴様は相当の物好きだな…自分から地獄に参上するとは余程の単細胞か?」
すると直後…。周囲の亡者達が生者である桜花姫に気付いたのである。
「地獄の亡者達が生者である貴様に反応しやがったぞ…自分から地獄に参上したのを後悔するぜ…」
再度忠告された桜花姫であるが…。彼女は笑顔で返答する。
「後悔しないわ♪今度の私なら大丈夫よ♪」
「ん?」
(此奴…随分と余裕そうだな…)
桜花姫は余裕の様子であり鬼殺丸は非常に不思議がる。
「私には…」
桜花姫は瞳術である天道眼を発動…。血紅色だった瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
(桜花姫…)
「瞳孔が瑠璃色に発光するとは…」
「悪霊♪あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
周囲の亡者達に変化の妖術を発動したのである。
完結
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:55
投稿者 月影桜花姫
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第八話

最終決戦

同時刻…。小猫姫は南国の山道にて歔欷したのである。
(私は今後…如何すれば…蛇骨鬼婆ちゃんは死んじゃったし…私一人では何も出来ないよ…)
「私…死にたいよ…」
すると直後…。背後より摩訶不思議の気配を感じる。
「えっ?」
背後には白色の大蛇が歔欷し続ける小猫姫を凝視したのである。
「白蛇かな?」
小猫姫は恐る恐る白蛇に近寄る。すると白蛇が人語で…。
「小猫姫よ♪久し振りだね♪」
笑顔で発言したのである。
「えっ!?白蛇が喋った!?」
人語で発言する白蛇に小猫姫は驚愕する。
「別に吃驚しなくても♪私だよ♪蛇骨鬼♪」
白蛇は自身を蛇骨鬼と名乗る。
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃん?蛇骨鬼婆ちゃんなの?」
「勿論私だよ♪」
小猫姫は再度落涙するなり…。蛇骨鬼に密着したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん!」
「小猫姫…あんたは本当に甘えん坊だね♪」
すると蛇骨鬼は小声で…。
「心配させちゃったね…御免ね…小猫姫…今迄辛かっただろう?」
問い掛けられた小猫姫は小声で返答する。
「正直…」
「あんたは正直者だね♪」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「蛇骨鬼は死んじゃったのに如何して?」
小猫姫の問い掛けに蛇骨鬼は即答する。
「今現在の私は肉体こそ消滅しちゃったけど…私の霊魂は自然界と一体化したのさ♪」
蛇骨鬼は死後…。小猫姫の様子を観察した蛇骨鬼だがメソメソし続ける小猫姫を心配したのである。
「あんたの様子が気になってね♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…私…」
小猫姫は死にたくなった事実と桜花姫と絶縁した事実を洗い浚い告白したのである。
「桜花姫ちゃんと絶縁しちゃったのかね…」
「私…二度と桜花姫姉ちゃんとは…」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「私…本当は桜花姫姉ちゃんと仲直り出来るなら…仲直りしたいよ…」
仲直りしたいと本音を告白する小猫姫に蛇骨鬼は笑顔で…。
「安心しな♪小猫姫♪素直に謝罪すれば仲直り出来るさ♪」
「仲直り出来るかな?」
小猫姫は不安がる。
「桜花姫ちゃんは基本的に人間関係では無欲恬淡だからね♪」
「桜花姫姉ちゃんに謝罪するよ…」
小猫姫は内心不安であったが謝罪を決意する。すると蛇骨鬼は小猫姫を直視するなり…。
「小猫姫…あんたは小梅姫って名前の妖女と瓜二つだね…」
「小梅姫って誰なの?」
「小梅姫はね…元祖妖女…桃子姫の愛娘だよ♪」
桃子姫の名前に小猫姫は反応する。
「桃子姫って…千年前の妖女の…ひょっとして彼女の愛娘が私にそっくりなの?」
「勿論だよ♪」
すると蛇骨鬼は再度笑顔で…。
「ひょっとすると小猫姫は小梅姫の再来かも知れないね♪」
「えっ…私が…」
(元祖妖女の…愛娘の再来♪)
小猫姫は赤面するが内心では大喜びしたのである。一瞬であるが小猫姫はニコッと微笑む。
「おっ!小猫姫…笑顔が戻ったね♪」
「えっ?」
「小猫姫は笑顔が一番だよ♪」
すると直後…。実体化した蛇骨鬼の肉体であるが突如として半透明化したのである。
「えっ!?蛇骨鬼婆ちゃん!?肉体が半透明に…」
「如何やら時間みたいだね…」
「えっ…」
蛇骨鬼は最後に…。
「小猫姫…今後は大変かも知れないけどね…あんたはあんたらしく大勢の村人達と仲良く生活しな♪あんたは人一倍甘えん坊だけど人懐っこい性格だから大丈夫だよ♪勿論桜花姫ちゃんや三蔵郎とも仲良くね♪間違っても自害は駄目だよ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
「時たまだけど…私の墓参りは忘れずにね♪」
「約束するよ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
小猫姫は落涙し始める。
「最後だけどね…私にとってあんたとの生活は毎日が幸福だったよ♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
「感謝するね♪小猫姫♪」
半透明化した蛇骨鬼の肉体が消滅したのである。
「えっ…」
(蛇骨鬼婆ちゃんの肉体が…)
寂然と感じるが…。
「私…三蔵郎様の寺院に戻ろう…」
(戻って桜花姫姉ちゃんと三蔵郎様に謝罪しないと…)
小猫姫は三蔵郎の寺院へと直行したのである。同時刻…。寺院の庭園では桜花姫と冥王鬼が対峙する。
「死滅せよ…亡者の集合体…」
冥王鬼は木刀に自身の神力を集中…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を形成させる。
「雷球だわ…」
直後…。木刀の剣先から蛍光色の雷球が発射される。雷球が桜花姫に接近するが桜花姫は霊斬刀で一振り…。雷球を消滅させたのである。
「私の神力を消滅させるとは…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は自身の妖力を霊斬刀に集中させる。すると銀色だった霊斬刀の白刃は血紅色の霊気に覆い包まれる。
「貴様の所持する刀剣は妖刀だな…」
冥王鬼は勿論…。
(霊斬刀に血紅色の霊気…本物の妖刀みたいですね…)
三蔵郎も血紅色の霊気に覆い包まれた霊斬刀を直視すると正真正銘妖刀であると感じる。桜花姫は妖刀へと変化した霊斬刀を一振りする。すると直後…。霊斬刀の効力からか表門を消滅させる衝撃波を発生させる。寺院の前方近辺より推定二百メートル規模のクレーターが形作られる。
「えっ…」
桜花姫は勿論…。三蔵郎と霊斬刀の威力を直視するなり愕然とする。
(桜花姫様が妖力を集中させただけで…こんな威力を発揮出来るなんて…)
一方のアクアヴィーナスも…。
(恐らく桜花姫の魔力の効力よね…深海底魔女のスキュランが彼女に退治されるのも納得だわ…)
するとクレーターの中心部より結界を構築した冥王鬼が浮遊する。
「絶大なる妖力だ…貴様の力量は妖女のみならず…下手すると最高神に相当するかも知れないな…」
「私が…最高神に?」
冥王鬼は東国最高峰…。天空山を眺望したのである。
(桜花姫と仲間達を相手するのは後回しだ…)
冥王鬼は突如として姿形がパッと消滅する。
「冥王鬼!?」
(逃げられちゃった…)
桜花姫は身動き出来なくなった三蔵郎とアクアヴィーナスの金縛りを解除したのである。
「身動き出来るわ…」
「感謝しますね…桜花姫様…」
三蔵郎とアクアヴィーナスは桜花姫に感謝する。
「あんたは本当に最強ね…桜花姫…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫が最強であると発言したのである。
「勿論♪私は最上級妖女の月影桜花姫だからね♪」
彼女は笑顔で返答する。
「ですが桜花姫様が霊斬刀を一振りしただけで二町の陸地が一掃されるなんて…ひょっとすると霊斬刀は妖女が所持してこそ本来の力量を発揮するのかも知れませんね…」
直後である。
「えっ!?」
霊斬刀が虹色に発光したかと思いきや…。巫女装束の小柄の少女が霊斬刀の白刃から出現したのである。
「きゃっ!」
「うわっ!霊斬刀から女人が…」
「彼女は一体何者なの!?」
三蔵郎とアクアヴィーナスは驚愕する。桜花姫は突如として出現した巫女装束の女性に恐る恐る…。
「あんたは霊魂巨神木の精霊かしら?」
「私だ…」
霊魂巨神木の精霊は即答する。
「三蔵郎様から霊斬刀を私に手渡ししたのはあんたかしら?」
「無論である…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「彼女は一体何者なの?桜花姫…」
アクアヴィーナスの問い掛けに桜花姫は笑顔で返答する。
「彼女は世界樹の霊魂巨神木の精霊よ…姿形は小柄の少女だけど本体は世界樹だからね♪」
「貴女様は霊魂巨神木の精霊でしたか…」
(こんなにも美人なんて…)
三蔵郎は精霊に見惚れたのか赤面したのである。
「貴様はこんな私に見惚れたのか?」
問い掛けられた三蔵郎は動揺し始める。
「えっ!?私は別に…何も…」
三蔵郎は必死に誤魔化したのである。
(三蔵郎様は助平だわ♪)
桜花姫は三蔵郎の様子にニコッと微笑む。すると精霊は三蔵郎を直視するなりボソッと発言する。
「如何やら貴様が桜花姫の理解者である人間の僧侶か…悪霊の集合体に憑霊されても健康体とは…」
「意気衝天こそが私にとって美点ですからね♪私は一生涯現役ですよ!」
精霊に一生現役だと断言したのである。
「貴様だったら悪霊に憑霊されても大丈夫だな…」
すると今度は桜花姫が発言する。
「あんたは今迄雲隠れしたのね…」
霊魂巨神木の精霊は雲隠れした状態で桜花姫に追尾…。彼女と同行したのである。
「貴様には見破られたか…」
「当然でしょう♪私に雲隠れしても簡単に見破っちゃうからね♪」
桜花姫は最初から精霊が自身の背後に追尾したのを察知する。
「先程の絶大なる妖力だ…貴様だったら冥王鬼の暴走を阻止出来るかも知れないな…」
「早速冥王鬼を仕留めちゃいましょう♪」
「勿論ですとも♪桜花姫様♪即刻冥王鬼を降参させ…彼女の暴走から俗界を守護しましょう!」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「桜花姫?彼奴の居場所は?」
「冥王鬼の居場所なら千里眼の妖術で把握したから大丈夫♪」
桜花姫は冥王鬼が撤退した直後に千里眼の妖術を発動…。彼女の居場所を正確に把握したのである。
「冥王鬼の居場所は天空山の頂上よ♪」
「天空山とは東国の最高峰ですか…」
冥王鬼は天空山の頂上にて逃亡…。潜伏したのである。一同は天空山へと移動する直前…。
「えっ…」
とある白猫が桜花姫の目前に接近したのである。
「白猫かしら?」
桜花姫は恐る恐る近寄る。
「こんな場所に白猫が…」
すると直後である。白猫の肉体から白煙が発生する。
「えっ?」
白猫が白煙に覆い包まれたかと思いきや…。ポンッと小柄の少女が出現する。
「えっ!?白猫が女の子に!?」
アクアヴィーナスは驚愕したのである。
「小猫姫…」
白猫の正体は誰であろう山猫妖女の小猫姫…。彼女だったのである。
「白猫はあんただったのね…」
「桜花姫姉ちゃん…」
二人とも内心気まずいと感じる。小猫姫は多少強張った表情で落涙するなり…。
「桜花姫姉ちゃん…三蔵郎様…心配させちゃって御免なさい…」
小猫姫は二人に謝罪したのである。
「小猫姫様…」
「小猫姫…」
桜花姫も涙腺より涙が零れ落ちる。
「私こそ御免なさいね…小猫姫…」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫…」
(無慈悲の桜花姫でも…落涙するのね…)
落涙する桜花姫に三蔵郎とアクアヴィーナスは驚愕する。
「私は妹分の小猫姫に絶縁なんて…最低だよね…」
「私だって…何度も自害し掛けて…桜花姫姉ちゃんや三蔵郎様を心配させちゃったから…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私は何時迄もあんたの姉貴分だから心配しないでね♪」
桜花姫の発言に小猫姫も笑顔で返答する。
「勿論♪私だって何時迄も桜花姫姉ちゃんの妹分だよ♪」
彼女達は笑顔で断言したのである。
「金輪際自害は禁止だからね…小猫姫…約束出来るわよね?」
「大丈夫よ…蛇骨鬼婆ちゃんとも約束したから♪」
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃんって?」
彼女の発言に桜花姫は一瞬絶句する。小猫姫は先程の出来事を洗い浚い告白したのである。
「霊体だったけど…蛇骨鬼婆ちゃんと再会出来たから…私は大丈夫だよ♪」
「蛇骨鬼婆ちゃんは小猫姫が余程心配だったみたいね…」
(蛇骨鬼婆ちゃんも安心出来るよね…)
桜花姫は勿論…。三蔵郎も小猫姫の吹っ切れた様子に一先ずホッとする。
「ですが桜花姫様と小猫姫様が仲直り出来たので一安心ですね♪ホッとしましたよ♪」
「小猫姫との関係は一件落着だけど…冥王鬼を仕留めないとね…」
小猫姫は恐る恐る問い掛ける。
「冥王鬼って…誰なの?桜花姫姉ちゃん?」
「冥王鬼は神族の一員で…蛇骨鬼婆ちゃんの悪友よ…」
「蛇骨鬼婆ちゃんの…悪友?」
「彼女を復讐から…解放するのよ…」
普段の桜花姫であれば敵対者が人間であっても我先にと仕留めると断言するのだが…。今回ばかりは異例中の異例であると感じる。すると小猫姫は真剣そうな表情で…。
「桜花姫姉ちゃん!私にも協力させてよ!」
桜花姫はニコッと微笑む。
「勿論よ♪小猫姫♪協力してね!」
一同は再度直行する寸前…。
「悪友の私を放置するなんて意地悪ね♪桜花姫♪」
今度は粉雪妖女の氷麗姫が出現する。
「あんたは氷麗姫?」
すると氷麗姫はアクアヴィーナスの存在に気付くなり…。
「えっ?あんたは誰よ?異国の人間かしら?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で名前を名乗る。
「えっ…私は…アクアヴィーナスです…」
「彼女は人魚王国…アクアユートピアの人魚で私の悪友よ♪人一倍気弱だから意地悪しないでね♪」
「あんたは人魚なのね…」
(彼女…取っ付き難そうな性格だわ…根暗っぽいし仲良く出来なさそうね…)
氷麗姫は内心アクアヴィーナスと仲良くするのは困難であると感じる。桜花姫は周囲を確認する。
「全員集合したわね♪」
桜花姫は一息するなり…。
「今回は恐らく今迄の戦闘とは比較出来ない大激戦が予想されるわ…自宅に戻りたかったら遠慮せずに戻りなさい…無理強いしないから…」
桜花姫の発言に一同は即答する。
「私は桜花姫様に同行しますよ♪」
「私だって!」
「戻っても退屈だからね…協力するわ♪」
アクアヴィーナスも小声で返答する。
「私も…同行するわ…桜花姫…」
霊魂巨神木の精霊も…。
「貴様の奮闘…見届けるか…」
桜花姫の発言に一同は覚悟する。
(あんた達♪)
「成立ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「早速天空山の頂上に移動するわよ…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動する。自分自身の肉体と一同を天空山の頂上を目標にテレポート…。桜花姫一同は目的地である天空山の頂上へと無事に移動出来たのである。
「口寄せの妖術…成功♪」
「天空山の頂上ですか…」
「私達…一瞬で…」
周囲を眺望すると太平神国の村里全域が眺望出来る。
「絶景の景色だわ♪今日が観光だったら最高なのに…」
観光なら最高であると発言する氷麗姫に桜花姫が笑顔で…。
「冥王鬼を片付けてから思う存分観光しちゃえば♪」
「冥王鬼は?」
すると一同の背後より一人の小柄の女性が佇立する。
「貴様達は幸運だな…」
「冥王鬼!?」
一同は背後の冥王鬼に驚愕したのである。
「貴様達…儀式を開始する…」
「儀式ですって?一体何を?」
桜花姫が問い掛けると冥王鬼はニヤッとした表情で…。
「月影桜花姫よ…天道眼の本当の効力を直視するのだ…」
「天道眼の本当の効力ですって?」
精霊は身震いし始める。
「此奴は危険だ!」
普段は物静かな霊魂巨神木の精霊であるが…。非常にソワソワした様子であり一同は絶句する。
「一体如何しちゃったのよ!?」
「全員…死にたくなければ私か桜花姫の肉体に接触するのだ!」
「えっ…」
混乱した一同であるが三蔵郎と氷麗姫には精霊が接触…。アクアヴィーナスと小猫姫には桜花姫が接触したのである。すると数秒後…。冥王鬼は再度天道眼を発動する。
「神族を除外する地上界の愚劣なる生命体…冥界の愚劣なる亡者達よ…神族の神世界から完全に浄化せよ…」
直後である。地上界全域の人間達は勿論…。あらゆる生命体が粒子状の発光体に変化するなり消滅したのである。アクアユートピアではウェンディーネが消滅し始める自身の肉体に恐怖する。
「えっ!?全身が…」
ウェンディーネは肉体諸共消滅したのである。国境のスキュランはアクアユートピア全体をシールド魔法で守護するのだが…。彼女は恐る恐る消滅し始める自身の肉体を直視したのである。
「消滅の魔法かしら…」
(私…二度も殺されるのね…)
消滅の恐怖よりも空虚に感じられる。深海底のアクアユートピアの人魚達は勿論…。海中の生物達も消滅したのである。同時刻…。死後の世界である地獄では亡者達が粒子状の発光体に変化したのである。
「はっ?」
地獄の住人である鬼殺丸は周囲の悪霊が消滅する光景を直視する。
「亡者達が…」
周囲の悪霊が粒子状の発光体に変化…。消滅したのである。
「一体何が発生しやがった?ん?」
自身の肉体を直視すると無数の粒子状の発光体へと変化…。肉体が消滅し始める。
(畜生が…俺も消滅するのか…)
鬼殺丸も消滅したのである。死後の世界である地獄は虚無の世界であり亡者は誰一人として存在しない。同時刻…。天空山の頂上では冥王鬼が桜花姫一行を凝視する。
「非常に残念だな…貴様達だけは無事だったか…」
すると氷麗姫が恐る恐る…。
「えっ…一体何が発生したのよ!?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「何が発生したか?神族を除外する低次元の種族を…存在諸共消滅させたのだ…」
冥王鬼の発言に一同は絶句したのである。
「なっ!?」
「存在を…消滅ですって!?」
「地上界の下等生物達は無論…冥界の薄汚い亡者達も全員駆除したからな…神族の支配する神世界に薄汚い害虫の存在は相応しくない…駆除して当然であろう?」
冥王鬼の発動した消滅の効力により地上界は勿論…。死後の世界である冥界は無人地帯であり今現在無事なのは桜花姫一行だけである。
「天道眼と神通力を所持する桜花姫と霊魂巨神木を駆除出来なかったのは非常に残念だ…貴様達は幸運だったな…」
天道眼に対抗出来るのは神通力か天道眼を所持する妖女か霊魂巨神木のみであり冥王鬼の消滅の効力でも桜花姫と霊魂巨神木は消滅を無効化…。無事だったのである。
「えっ…ウェンディーネ母様は?」
恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスに冥王鬼は即答する。
「勿論アクアユートピアの人魚達も消滅した…」
「えっ…ウェンディーネ母様が…」
(死んじゃったの…)
「アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスは落涙したのである。
「勿論人魚の貴様も仕留めるから安心しろ…」
冥王鬼の横暴さに腹立たしくなった三蔵郎は即座に護身用の連発銃を所持…。
「冥王鬼!」
「えっ!?三蔵郎様!?」
周囲の者達は三蔵郎の様子に吃驚する。
「何が神族ですか!?何が神世界ですか!?神族であっても貴女様みたいな極悪非道の大悪党は絶対に看過出来ません!」
三蔵郎は鬼神の表情であり冥王鬼を睥睨したのである。
「えっ…」
(普段は誰よりも仏様みたいな三蔵郎様が…)
桜花姫は勿論…。
(えっ…三蔵郎様…仁王様みたい…)
(三蔵郎って…こんな人物だったっけ?)
小猫姫と氷麗姫も睥睨する三蔵郎に畏怖したのである。桜花姫は恐る恐る…。
「三蔵郎様…あんまり彼女を挑発すると…」
「ですが桜花姫様!彼女は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の大悪党なのですよ!今回の大罪は神族であっても絶対に許容出来ません!」
「三蔵郎様…相手は神族なのよ!?彼女に反抗すれば三蔵郎様が殺されちゃうわ…」
桜花姫は必死に三蔵郎を制止するのだが三蔵郎は只管に怒号する。
「冥王鬼!今回ばかりは私が神族である貴女様を征伐します!」
怒号し続ける三蔵郎に冥王鬼は呆れ果てる。
(人間風情が…)
「貴様は命知らずだな…人間の分際で天道眼を所持する私を征伐すると?片腹痛いわ…」
三蔵郎は最早後戻りが出来ないと覚悟する。
(一か八か…)
「冥王鬼…覚悟!」
三蔵郎は一か八か冥王鬼に連発銃を発砲したのである。
「所詮人間の玩具で…」
(無謀だな…)
冥王鬼は木刀でガードするのだが…。
「はっ!?」
連発銃の弾丸は木刀を屈折させ冥王鬼の胸部を貫通したのである。
「ぐっ…貴様…」
冥王鬼は口先から吐血する。
「えっ…」
一同は予想外の事態に再度絶句したのである。
「冥王鬼の…木刀が…」
本来なら鋼鉄をも両断出来る冥王鬼の木刀であるが…。一発の銃弾によって簡単に屈折したのである。三蔵郎は身震いした表情で恐る恐る…。
「冥王鬼…最後の最後で油断しましたね…油断大敵ですよ…」
すると桜花姫が不思議そうな表情で問い掛ける。
「如何して三蔵郎様の連発銃で…冥王鬼の木刀が簡単に屈折したのかしら?」
桜花姫の疑問に三蔵郎は即答する。
「彼女の木刀は恐らく小面蜘蛛と同質の素材で形作られた代物でしょう…」
冥王鬼の木刀は霊魂巨神木の小枝で形作られた代物である。冥王鬼の木刀は妖力を吸収出来る反面…。妖力を使用しない攻撃には無力である。
「彼女の木刀は妖力を吸収出来るかも知れませんが…妖力を使用しない攻撃なら通用するかも知れないと予想したのです…」
「人間である私の父様は此奴に殺されたのよ…」
すると霊魂巨神木の精霊が解説する。
「恐らくだが当時…貴様の父親…月影夜叉丸が彼女に殺害されたのは装備品の木刀に自身の神力を混入させたのであろう…」
冥王鬼の木刀は自身の神力を混入すると鋼鉄をも両断出来る。真逆に神力を混入しなければ単なる木刀同然である。
「完全に油断だったのね…」
「正直…一か八かの大博打でしたが…」
三蔵郎自身は大博打であり冥王鬼に反撃されるのを覚悟で発砲…。冥王鬼に殺害されるのは覚悟したのである。三蔵郎の大博打で胸部を怪我した冥王鬼であるが…。自身の神力により傷口を治癒させる。
「貴様等…地上界の存在で…全員死滅させる!」
冥王鬼は口寄せにより周囲の地面から三体の小面蜘蛛を出現させたのである。
「蜘蛛の怪物!?」
「ひっ!小面蜘蛛だわ!?」
「桜花姫姉ちゃん!撃退出来ないの!?」
三体の小面蜘蛛は桜花姫一行の周囲を包囲する。
「三体の小面蜘蛛よ!二人を除外して四人は妖女だ!食い殺せ!」
小面蜘蛛は死亡した神族の霊魂が器物に憑霊した悪霊である。霊魂巨神木から誕生した器物の存在であり妖力は通用しない。
「如何するのよ!?桜花姫!?小面蜘蛛には妖術は通用しないわよ!」
桜花姫以外の二人の妖女は勿論…。アクアヴィーナスはビクビクするなり力一杯桜花姫に密着する。妖女が小面蜘蛛を仕留めるのは実質困難であり妖力を使用しても吸収されるだけである。
「桜花姫様…武器を使用しても三体の小面蜘蛛を同時に相手では…」
正直多勢に無勢であり武器を所持する三蔵郎だけで三体の小面蜘蛛を仕留めるのは実質不可能…。桜花姫は一瞬瞑目する。
「一か八か…」
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は神通力を駆使しなければ発動出来ない口寄せの妖術を使用したのである。自身の細胞を三体の小面蜘蛛の体内に口寄せする。桜花姫の様子に冥王鬼は恐る恐る…。
「ん?貴様…一体何を発動した?妖術を駆使しても小面蜘蛛には通用しないぞ…」
「単なる大博打よ…」
桜花姫は即答する。
「大博打だと?」
すると数秒後…。三体の小面蜘蛛がポンッと白煙に覆い包まれる。
「なっ!?小面蜘蛛が…」
白煙に覆い包まれた三体の小面蜘蛛が三人の桜花姫に変化したのである。
「えっ!?如何して桜花姫が…」
「桜花姫姉ちゃんが三人も!?」
「ひょっとして彼女達は…桜花姫様の分身体でしょうか?」
「如何して蜘蛛の怪物が桜花姫に変化したのかしら?」
突然の出来事に一同は驚愕する。すると冥王鬼は桜花姫に睥睨するなり…。
「貴様…小面蜘蛛の体内に異物を混入させたな?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「口寄せの妖術で小面蜘蛛の体内に私自身の細胞を混入させたのよ♪」
彼女は口寄せの妖術で自身の細胞を小面蜘蛛の体内に混入…。侵食させ自身の分身体に変換させたのである。
「小面蜘蛛の肉体を利用して自身の分身体を形作るとは…貴様は小娘の外見とは裏腹に中身は怪物同然だな…」
冥王鬼の怪物発言にピリピリする。
(地上界の女神様である私を怪物ですって…)
「私の分身体!彼女の身動きを封殺しなさい!」
三体の分身体は冥王鬼に金縛りの妖術を発動…。
「ぐっ…」
冥王鬼は完全に身動き出来なくなる。
(木刀さえ破壊されなければ…畜生…)
最早木刀が無くなった状態では天道眼を所持しても桜花姫と三体の分身体に対抗するのは不可能である。
(神世界の再興は間近なのに…私はこんな小娘に殺されるのか…)
桜花姫は一歩ずつ身動き出来なくなった冥王鬼に近寄る。すると小猫姫が大声で…。
「桜花姫姉ちゃん!彼女を殺さないで!」
「えっ?小猫姫?」
制止する小猫姫に一同と冥王鬼はハッとした表情で小猫姫に注目する。
「冥王鬼は蛇骨鬼婆ちゃんの友人なのよ…彼女を殺しちゃったら蛇骨鬼婆ちゃん…絶対に悲しんじゃうよ…」
小猫姫は落涙したのである。すると桜花姫は笑顔で返答する。
「大丈夫よ♪小猫姫♪私は彼女を救済したいの♪蛇骨鬼婆ちゃんと約束したからね♪安心しなさい♪」
桜花姫は金縛りの妖術を解除…。解放したのである。
「えっ!?桜花姫!?折角此奴の身動きを封殺したのに…金縛りを解除しちゃうの!?」
アクアヴィーナスは警戒したのか恐る恐る後退りする。
「大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪彼女は大分弱体化したわ♪抵抗しないわよ…」
冥王鬼は先程の消滅の効力により神力を消耗…。最早抵抗出来ない状態である。冥王鬼はバタッと横たわる。
「大丈夫!?冥王鬼!?」
小猫姫が近寄る。冥王鬼は恐る恐る直視するなり…。
「小娘…敵対者である私を庇護するとは…」
「あんたは蛇骨鬼婆ちゃんの友人でしょう?庇護するのは当然だよ…」
小猫姫の発言に冥王鬼は苦笑した様子で返答する。
「貴様は蛇神の蛇骨鬼の知人か?神族の一員なのにこんな小娘と交流したのか…蛇骨鬼は…」
冥王鬼は蛇骨鬼に呆れ果てる。
「蛇骨鬼婆ちゃんにとって…私と桜花姫姉ちゃんは孫娘なの…」
「貴様達が…孫娘だと?」
すると小猫姫は再度涙が零れ落ちる。
「貴様…」
冥王鬼は恐る恐る小猫姫に問い掛ける。
「蛇骨鬼は?」
「蛇骨鬼婆ちゃんは…老衰で死んじゃったよ…」
「老衰か…」
(蛇骨鬼…)
冥王鬼は無表情であり沈黙したのである。沈黙する冥王鬼に桜花姫は再度問い掛ける。
「冥王鬼…如何するのよ?今度こそ私と勝負する?」
問い掛けられた冥王鬼は一瞬苛立つも…。
(今更桜花姫と勝負しても…)
「降参するよ…最早神力も空っぽの状態だ…こんな状態では貴様と勝負しても敗北するだけだからな…」
不本意であるが冥王鬼は降参する。
「あんた♪意外と潔白なのね♪」
(此奴…)
冥王鬼はヘラヘラする桜花姫にピリピリしたのである。すると三蔵郎は恐る恐る…。
「冥王鬼?貴女の神力で消滅された村人達を元通りには戻せませんか?」
問い掛けられた冥王鬼は一瞬困惑したのである。
「あんた…今度も私達に手出しするの?」
桜花姫が問い掛けると冥王鬼は彼女に睥睨するなり…。
「私の敗北だ…神世界の再興を実現出来ないのは残念だったが…人間達への復讐は達成したからな…今更貴様達に手出ししても無意味だ…」
冥王鬼の様子に一同はホッとする。
「再生は可能なのですか?」
「再度天道眼を発動すれば消滅した生命体を復活させられるが…生憎私には神力が消耗した状態だ…再度復活させるには莫大なる神力を回復させなくては…」
すると桜花姫が恐る恐る…。
「私にも出来ないかしら?」
桜花姫の問い掛けに冥王鬼は無表情で返答する。
「貴様自身も神族の眼光を所持する最上級妖女であるが…相当の妖力が必要不可欠だ…場合によっては術者が衰弱死するかも知れない…」
「えっ…」
「術者が…衰弱死ですと…」
桜花姫以外の一同は衰弱死の一言にビクッと反応したのである。
「あんた達♪心配しなくても私なら大丈夫よ♪」
「ですが桜花姫様…」
「あんたが死んじゃったら…」
「桜花姫姉ちゃんが死んじゃったら私…今度こそ…」
「あんた達…」
極度に心配する一同に困惑する。すると直後…。
「きゃっ!」
「地響きです!」
「今度も地震かしら!?」
再度グラグラッと地響きが発生したのである。
「なっ!?」
三蔵郎は東方の海面上に直視する。
「桜花姫様!?東海の海面上に岩石の巨島が此方に接近中です!」
海面上には標高のみでも天空に到達する規格外の巨大移動物体が出現…。
「岩石の巨島ですって?」
桜花姫も岩石の巨島に注目したのである。
「えっ…何かしら?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫に密着する。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「ひょっとして私が深海底で遭遇した…海亀の怪物かしら…」
「えっ…海亀の怪物?彼奴が…」
巨大移動物体は全体的に海亀の形状であり全身は凸凹した岩石の肉体…。尻尾の部分は巨大海蛇であり背中の甲羅部分には無数の巨大人面が確認出来る。
「地震の正体は彼奴だったのね…」
先程から自身が頻発したのは怪物が世界各地で暴れ回った影響である。すると冥王鬼が恐る恐る…。
「魔獣…羅刹獣だな…」
羅刹獣の一言に霊魂巨神木の精霊が反応する。
「羅刹獣だと?此奴が天空から出現した旧世界の魔獣か…こんなにも規格外の怪物だったとは…」
「羅刹獣は神族でも十二人の最高神が全身全霊で封印した規格外の怪物だぞ…封印解除直後であれば私一人でも仕留められる程度の実力だったが…」
氷麗姫は恐る恐る問い掛ける。
「えっ…彼奴はあんたでも仕留められないの!?」
「残念だが…」
羅刹獣は先程よりも魔力が増大化…。最早全盛期に匹敵する状態だったのである。
「こんなにも急速に魔力が増大化するとは予想外だった…」
(世界各地の大陸を暴食したのか?)
氷麗姫が恐る恐る問い掛ける。
「如何すれば彼奴を仕留められるのよ!?彼奴を仕留める方法とか…」
「私に神力が戻れば…一か八か…」
桜花姫が笑顔で…。
「私が羅刹獣を仕留めるわ♪」
仕留めると断言した桜花姫であるが周囲の者達は猛反対する。
「桜花姫様!?本気なのですか!?相手は全世界を破壊し兼ねない規格外の怪物なのですよ…」
「今回ばかりは桜花姫姉ちゃんでも…」
「あんた達は心配性ね♪私は最上級妖女なのよ♪今回だって大丈夫よ!」
周囲の者達の反応に桜花姫は只管笑顔で返答したのである。すると霊魂巨神木の精霊がボソッと一言…。
「仙女に覚醒すれば…」
「えっ?仙女ですって?」
一同は精霊に注目する。
「桜花姫が今度も仙女に覚醒出来れば…羅刹獣を仕留められる確率が上昇するかも知れない…」
「私が仙女に…」
半年前の霊魂巨神木との戦闘を想起したのである。
「桜花姫様が仙女に覚醒出来れば…羅刹獣を征伐出来るのですね!」
「完全に仕留められるかは断言出来ないが…何も実行しないよりは…」
桜花姫は精霊に近寄るなり…。
「早速仙女に覚醒するわ!一体如何すれば仙女に覚醒出来るかしら?」
問い掛けられた精霊は一瞬沈黙するも発言し始める。
「特定の妖女が仙女に覚醒するには莫大なる妖力は勿論…瞳術の天道眼が必要不可欠だ…貴様自身の妖力のみでは力不足であるからな…仙女に覚醒するのであれば周囲の者達の妖力を存分に吸収しろ…」
「妖力を吸収?」
桜花姫は背後の氷麗姫と小猫姫は勿論…。アクアヴィーナスを直視する。
「如何やら今回はあんた達の妖力が必要みたいね…」
すると小猫姫は笑顔で…。
「桜花姫姉ちゃん♪私の妖力…吸収して…」
小猫姫は桜花姫の左手に接触すると急速に妖力を消耗したのである。
「ぐっ!」
「小猫姫…大丈夫?」
心配する桜花姫であるが…。小猫姫は笑顔で返答する。
「私なら大丈夫よ♪桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫の妖力は非常に莫大であり彼女の妖力を吸収すると今迄よりも桁外れの妖力が体内に蓄積される。すると氷麗姫は恐る恐る…。
「止むを得ないわね…私の妖力も吸収しなさい…」
氷麗姫は右手で桜花姫の胸部に接触したのである。
「いや~ん♪」
「桜花姫♪あんたのおっぱいって…饅頭みたいね♪」
(氷麗姫…意外と助平なのね…)
乳房の接触により桜花姫は赤面する。
「なっ!?」
三蔵郎は赤面するも…。即座に瞑目したのである。必死に瞑目する三蔵郎に小猫姫は笑顔で…。
「三蔵郎様って意外と助平だね♪」
「えっ!?私は…別に…何も…」
三蔵郎は必死に誤魔化すものの赤面したのである。桜花姫の乳房を弄った氷麗姫であるが…。
「ぐっ…」
(桜花姫の吸収力は絶大ね…)
体内の妖力を吸収され数十秒で妖力の大半を消耗したのである。今度はアクアヴィーナスが近寄るなり…。
「桜花姫…私の魔力…吸収して…」
「アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であり恐る恐る桜花姫の右手に握手したのである。
「ぐっ!」
体内の魔力が急速に消耗…。桜花姫の体内へと吸収されたのである。
「御免ね…アクアヴィーナス…」
桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪する。
「大丈夫よ…桜花姫…気にしないで♪」
アクアヴィーナスは重苦しい状態だが…。笑顔で返答したのである。
「妖力は蓄積されたわ♪あんた達…感謝するわね♪」
桜花姫は彼女達に謝礼する。今度は三蔵郎を直視するなり…。
「三蔵郎様…」
「如何されましたか?」
霊斬刀を手渡したのである。
「返却するわね…今現在の私には不要みたい…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると直後…。桜花姫の全身がピカッと光り輝いたのである。
「なっ!?桜花姫様の肉体から閃光が…」
「一体何が…」
突然の彼女の発光に一同は瞑目する。数秒後…。周囲の者達が桜花姫に注目するが頂上の中心部には球状の発光体が確認出来る。
「発光体だわ…」
「桜花姫は?」
すると球状の発光体が女体を形成するなり…。巫女装束の女神へと変化したのである。
「えっ…女神様?」
「彼女は天女でしょうか…」
彼女は両目を瞑目した様子であり頭部には金冠…。背後の背中には円形の光背が確認出来る。三蔵郎は恐る恐る…。
「貴女様は…桜花姫様でしょうか?」
女性は三蔵郎を直視するなり笑顔で返答する。
「私よ♪桜花姫よ♪」
「桜花姫様ですか!?一瞬女神様かと…」
彼女は女神様の一言に赤面…。
「私が女神様なんて♪三蔵郎様は大袈裟ね♪」
内心では大喜びしたのである。
「あんた…桜花姫なの?別人みたいだわ…」
「普段よりも大人っぽいわね…」
氷麗姫とアクアヴィーナスも仙女である彼女に見惚れる。すると精霊が桜花姫に近寄るなり…。
「如何やら成功だな…月影桜花姫よ…今現在の貴様は半年前の貴様よりも強大であるぞ…今現在の貴様は百人力?千人力の妖女だな…」
「私は最上級妖女だから当然よ♪今回は小猫姫以外にも…氷麗姫とアクアヴィーナスの妖力も吸収したからね♪」
今迄で最大級の妖力を所持する。
「今現在の貴様であれば羅刹獣とも思う存分対抗出来そうだ…」
「勿論よ♪」
今度は冥王鬼が近寄る。
「月影桜花姫…貴様の神族の眼光と私の神力…吸収しろ…」
「えっ…冥王鬼…」
冥王鬼の表情を直視すると彼女の表情は先程の殺伐とした雰囲気は感じられない。
(彼女…仏様みたいな雰囲気ね…)
意外であると感じる。
「私は貴様の父親を殺害したからな…今現在の私に出来る唯一の贖罪だ…」
桜花姫はニコッと微笑む。
「気にしないで♪父様の一件は私の誕生日の前日の出来事でしょう♪私は気にしないから大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫姉ちゃん…」
「あんたは父親が殺されたのに…気にしないって…」
「桜花姫…彼女にとって家族の基準とは…」
気にしないと発言する桜花姫に周囲の者達は一瞬ドン引きしたのである。
「兎にも角にも…私は彼奴を仕留めるわね♪」
桜花姫は飛空の妖術を発動…。肉体が空中へと浮遊したのである。
「桜花姫様…御無事で…」
「桜花姫姉ちゃん!頑張って!」
「あんたらしく大暴れしなさいよ♪桜花姫♪」
一同は天空の桜花姫を見届ける。同時刻…。羅刹獣は太平神国に接近したのである。
「アトハココダケダ!チッポケナシマグニダガ…イガイトカミゴタメハアリソウダゾ…」
すると背中の甲羅部分の人面が発言し始める。
「此奴は島国か?小規模の島国だか…無数の生命体の気配を感じる…」
「生命体か♪こんな小規模の島国にも生命体が存在するのか?此奴は久方振りに満足出来そうだな♪」
「リクチノガイチュウモロトモシマグニヲクッテヤルゼ♪」
太平神国へと直行する羅刹獣であるが…。
「羅刹獣!あんたの相手は私よ!」
「ん!?」
「誰だ?」
「彼奴は?」
甲羅の無数の巨大人面が天空を浮遊する桜花姫を直視したのである。
「彼奴は天女の小娘か…」
「天女の小娘から妖力と神通力を感じるぞ…」
「天女の小娘が相手とは面白そうだ♪早速天女の小娘を打っ殺そうぜ♪」
甲羅の無数の巨大人面が会話し始める。すると前方の巨大海亀の頭部と尻尾部分の巨大海蛇が上空の桜花姫を直視したのである。
「アイツハテンニョノコムスメカ!?キサマハナニモノダ!?」
問い掛けられた桜花姫は即座に名前を名乗る。
「私は最上級妖女の月影桜花姫よ!羅刹獣!あんたを征伐するわ!」
征伐すると断言した桜花姫に甲羅の巨大人面の一部が反応したのである。
「貴様が私を征伐するだと?片腹痛いわ…」
「小娘は余程の命知らずみたいだな…手始めに天女の小娘を死滅させるか…」
すると海亀の頭部が再度発言する。
「シマグニヲクウノハアトマワシダ!マズハテンニョノコムスメカラブッコロシテヤルゼ!」
直後…。甲羅の無数の巨大人面が上空の桜花姫を直視するなり口部を開口したのである。
「一体何を?」
桜花姫は警戒する。直後である。
「トットトシニヤガレ!」
甲羅部分の無数の巨大人面が無数の火球を発射する。一発一発の火球は数十メートル規模であり大気圏上空にて爆散…。上空全体に大陸をも消滅させる大爆発と衝撃波が何百発も頻発したのである。桜花姫は上空を直視する。
(規格外の威力だわ…羅刹獣の火球が一発でも太平神国に直撃すれば陸地は完全に消滅するわね…)
すると一発の火球が上空の桜花姫に急接近…。
「なっ!?」
桜花姫は咄嗟に妖術を発動する。
(止むを得ないわね…)
異次元転送の妖術を発動…。自身に急接近する火球がパッと消滅したのである。火球は異次元空間へとテレポート…。異次元空間にて爆散する。
「危機一髪だったわ…」
羅刹獣の火球は一国をも消滅させる威力であり妖力の防壁でも防ぎ切れるか正直未知数だったのである。
「シブトイコムスメダナ!ヨウジュツデオレノコウゲキヲカイヒシヤガッタカ…」
すると甲羅の巨大人面が発言する。
「ひょっとすると天女の小娘は太古の最高神以上に厄介かも知れないな…」
甲羅の巨大人面は仙女の桜花姫を警戒したのである。
「勿論私は最上級妖女なのよ!即刻あんたを片付けちゃうから安心しなさい♪」
桜花姫の発言に苛立ったのか羅刹獣の海亀の頭部がギロッと天空の彼女を睥睨する。
「コイツ…コムスメノブンザイデ…ナメヤガッテ…ドウヤラコムスメハオレニコロサレタイミタイダナ…」
「今度は私が反撃するわよ!」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。高熱の雷球を形成したのである。
「死滅しなさい!」
羅刹獣の背中の甲羅を目標に高熱の雷球を発射…。背中の甲羅に直撃させたのである。
「直撃したわ!」
直撃したと同時に周辺がピカッと発光…。数十キロメートルもの大爆発を発生させたのである。地上界全域に衝撃波が発生…。絶大なる破壊力により天空山の頂上から桜花姫の奮闘を見守る一同も彼女の神通力に愕然とする。
「桜花姫様…神話の領域ですね…」
「現実なのかしら…」
「異次元の領域だわ…」
桜花姫の荒唐無稽の戦闘に恐怖すら感じる。同時刻…。桜花姫は爆心地を眺望する。
「羅刹獣は?えっ…」
羅刹獣は無傷であり掠り傷すら皆無だったのである。
「コノテイドノコウゲキリョクカ?キサマゴトキ…ショボイヨウジュツデハオレヲタオスコトハデキナイ…」
甲羅の巨大人面も桜花姫を直視…。失笑し始める。
「所詮貴様は小娘だ…」
「貴様程度の神通力では私は仕留められないぞ…」
(羅刹獣…予想以上に頑強ね…)
羅刹獣の肉体は金剛石をも上回る強度であり外部から羅刹獣の皮膚を直接破壊するのは困難である。桜花姫は羅刹獣の様子を直視するなり…。
(此奴の体内から何百体…何千体もの神族の怨念を感じるわ…)
古代の神族との大戦で羅刹獣は数百体から数千体もの神族を食い殺したのである。彼等の怨念が桜花姫を気味悪がらせる。
(羅刹獣を仕留めるには体内の神族の怨念を浄化しないと仕留められないわね…)
すると羅刹獣は海亀の頭部…。甲羅の無数の人面と尻尾の海蛇から雷撃の光線を全身から拡散…。発射したのである。
「えっ!?」
桜花姫は即座に神通力の防壁を発動…。雷撃の光線をガードしたのである。拡散された雷撃の光線は天空山の頂上にも発射される。危機を察知した桜花姫の三人の分身体が妖力の防壁を発動…。雷撃の光線から一同を守護したのである。一人の分身体が背後を直視…。
「大丈夫かしら?」
分身体の問い掛けに三蔵郎は笑顔で返答する。
「大丈夫ですよ♪感謝します…桜花姫様の分身体♪」
三蔵郎は一礼したのである。すると氷麗姫が恐る恐る…。
「こんな戦闘…全世界が滅亡しても可笑しくないわね…大昔の神族はこんな怪物を封印したのよね?」
霊魂巨神木の精霊が返答する。
「神族でも最上級に君臨する十二人の最高神でも…羅刹獣を封印するのが精一杯だった…神力の消耗と戦闘による後遺症で最高神は全滅したからな…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫かな?一人で羅刹獣を征伐出来るのかな?」
小猫姫は非常に不安がる。
「大丈夫よ…桜花姫なら…」
普段は小心者のアクアヴィーナスであるが…。大丈夫だと断言する。
「数週間前の出来事だけど私の祖国…アクアユートピアは極悪非道の魔女と無数のアンデッドに侵略されちゃったけど彼女の奮闘でアクアユートピアに平和が戻ったのよ…今回だって大丈夫よ…」
「えっ!?桜花姫様が貴女様の祖国を?」
三蔵郎は勿論…。一同は驚愕したのである。
「桜花姫…彼奴は私達に内緒で…」
「桜花姫姉ちゃんが異国でも悪霊を征伐したなんて…」
「恐らく彼女に私達の常識なんて通用しないわ…」
アクアヴィーナスの発言に精霊も賛同する。
「彼奴は存在自体が荒唐無稽だ…多分私達の常識は通用しないだろう…予想を裏切るであろうな…」
普段は無表情の精霊であるが…。僅少にも苦笑いする。三蔵郎は笑顔で…。
「兎にも角にも…私達に出来るのは桜花姫様の勝利の祈願です!桜花姫様の勝利を精一杯祈願しましょう♪」
同時刻…。
(直接攻撃は通用しないし…如何すれば?)
困惑した桜花姫であるがハッとしたのである。
(霊魂巨神木の悪霊を浄化させた…秘術は如何かしら?)
半年前の霊魂巨神木に憑霊した悪霊の集合体を浄化させた秘術…。日輪光を想起したのである。
(日輪光だったら…羅刹獣の体内の怨念を浄化出来るかも知れないわ…)
羅刹獣に通用するかは未知数だが…。一か八か日輪光の使用を決意する。桜花姫は両目を瞑目させる。突如として両目を瞑目させる桜花姫に羅刹獣は警戒したのである。すると甲羅の人面が会話し始める。
「ん?彼奴…一体何を?」
「小娘は恐怖で身動き出来なくなったか?」
海亀の頭部が返答する。
「イヤ…コイツハフシゼンダゾ…ナニカハジメルツモリダ…コムスメハナニカタクランデイヤガルニチガイナイゾ…」
「小細工か…」
桜花姫は再度両目を開眼させる。
「今度こそあんたを仕留めるわ!羅刹獣!」
「オレヲシトメルダト?キサマテイドノヨウジュツデハオレハシトメラレナイゾ…モハヤウツテガナイキサマガ…ドウヤッテオレヲシトメルトイウノダ?」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。虹色の粒子状の発光体が桜花姫の両手より収縮されたのである。
「ン?キサマ…イッタイナニヲスルキダ?」
直後…。
(秘術…)
「日輪光…発動!」
あらゆる怨念を浄化させる日輪光を発動する。両手に収縮された神通力の閃光を発射したのである。日輪光は羅刹獣の甲羅に直撃…。周囲全体が虹色に光り輝いたのである。光り輝く虹色の閃光に三蔵郎は感動…。涙腺より涙が零れ落ちる。
「神聖なる閃光ですね…桜花姫様でしょうか?」
「桜花姫姉ちゃんの…妖術なの?」
「彼女の発動したのは秘術…日輪光だ…」
精霊が解説する。
「日輪光って?」
「日輪光とは成仏出来ない亡者達を浄化させる史上最強の最終奥義だ…私も半年前に彼女の日輪光で悪霊の集合体から解放されたのだ…」
「彼女が…霊魂巨神木を…」
冥王鬼は桜花姫に対する認識が変化し始める。
(彼女なら…)
同時刻…。桜花姫によって日輪光を発射された羅刹獣だが怯まない。
「ナンダ?タダノヒカリカ?イタクモカユクモナイゼ!」
日輪光は怨念を浄化させる閃光であり殺傷能力は発揮されない。
(大丈夫…羅刹獣の体内の怨念は着実に弱体化したわ…)
桜花姫は冷静であり羅刹獣は不思議がる。
「ン?コムスメ?」
(レイセイダナ…)
数秒後…。
「神族の怨念!浄化されなさい!」
全力で日輪光を照射したのである。すると羅刹獣の全身より数千体もの神族の霊魂が出現…。日輪光の閃光により浄化されたのである。
「ナッ!?シンゾクノタマシイガ…ジョウカサレタダト!?」
体内の神族の霊魂は浄化され羅刹獣は弱体化…。甲羅の人面も沈黙したのである。
「羅刹獣…弱体化したわね♪」
「キサマ…」
羅刹獣は天空の桜花姫を睥睨する。
「観念しなさい…」
「コムスメガ…ナメタマネヲシヤガッテ!」
「古代の魔獣…あんたは桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は変化の妖術を発動したのである。規格外の巨大さの羅刹獣であるが…。変化の妖術の効力により白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
(羅刹獣は桜餅に変化したわね♪)
自分自身に口寄せの妖術を発動…。海面上にて移動したのである。海面上にプカプカと浮動し続ける桜餅を発見する。
「桜餅♪発見♪」
桜餅をパクっと頬張ったのである。
「美味だわ♪」
桜花姫は大喜びする。日輪光の使用によって神通力を消耗するも桜餅を頬張ると消耗した神通力が回復したのである。
「神通力は蓄積されたし♪天空山に戻りましょう♪」
再度口寄せの妖術を発動…。天空山の頂上へと無事戻ったのである。天空山の頂上にて突然ポンっと白煙が発生…。桜花姫が出現する。
「うわっ!桜花姫様!?」
「きゃっ!桜花姫!?」
突如として出現する桜花姫に周囲の者達は愕然とする。
「突然桜花姫姉ちゃんが出現するから吃驚したよ…」
「御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪したのである。
「ですが無事に戻られたのですね…桜花姫様…」
三蔵郎は感動の再会に落涙する。
「三蔵郎様…」
すると霊魂巨神木の精霊が近寄るなり…。
「見事だったぞ!月影桜花姫!十二人の最高神でも封印するのが精一杯だった羅刹獣を一人で征伐するとは…」
「羅刹獣を征伐出来たのは小猫姫達が協力したからよ…私一人では仕留められなかったわ…」
今度は冥王鬼が発言する。
「貴様が最高神を上回ったのは事実だ…最早俗界で貴様と拮抗出来る存在は皆無だぞ…貴様は最強の存在だ…」
「大袈裟ね…」
(私って…本当に最強の存在なのね♪)
内心では大喜びしたのである。今度は小猫姫と氷麗姫が近寄る。
「桜花姫姉ちゃんが無事に戻れたから一安心だよ♪」
「羅刹獣みたいな規格外の怪物を一人で仕留めちゃったからね…私は一生涯桜花姫には反抗出来ないわ…」
「あんた達♪」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「本当…あんたは私達の常識が通用しないわね…」
「私は地上界の女神様だからね♪」
地上界の女神様を自称する桜花姫に一同は苦笑いする。
「あんた達…如何して苦笑いするのかしら?」
桜花姫はムッとしたのである。数分後…。
「消滅した…人間達…羅刹獣によって破壊された世界各地の大陸を元通りに再生させるわね…」
天地創造の再生の妖術を発動する。冥王鬼によって消滅した人間達やら動物達は勿論…。羅刹獣の暴走で暴食された世界各地の大陸が元通りに再生したのである。
「完了♪消滅した民衆達と破壊された陸地が元通りに戻ったわ♪」
「桜花姫様…本物の女神様ですな…」
最早天道の領域であり一同は愕然とする。
「事件は無事に解決したわ♪戻りましょう♪」
戻ろうかと思いきや…。桜花姫は極度の疲労によりバタッと横たわる。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」
「桜花姫様!?」
「桜花姫!?」
神通力の消耗からか仙女の姿形から元通りの桜花姫に戻ったのである。
「桜花姫姉ちゃんが…元通りに…」
すると冥王鬼が恐る恐る接触する。
「安心しろ…彼女は極度の疲労で一時的に衰弱化しただけだ…」
「単純に疲労しただけなのですね…」
「人騒がせね…」
一同は一安心したのである。
「私達の出番は終了ね…」
桜花姫の三体の分身体が自然消滅する。
「えっ…桜花姫様の分身体が…」
「事件が無事に解決したからな…私も退散する…」
今度は霊魂巨神木の精霊が消滅したのである。
「今度は精霊が消滅したわ…」
すると氷麗姫が恐る恐る周囲の者達に問い掛ける。
「あんた達は如何するの?」
三蔵郎は返答する。
「私は寺院に戻りますよ…疲労された桜花姫様を介抱しなくては…」
「私も南国の天女の村里に戻ろうかな♪」
小猫姫は笑顔で返答したのである。アクアヴィーナスはソワソワした表情で…。
「私はアクアユートピアに戻らないと…母様達が心配するし…」
氷麗姫は恐る恐る冥王鬼に問い掛ける。
「あんたは如何するのよ?冥王鬼…」
「私は…」
正直気まずいのか冥王鬼は沈黙したのである。すると小猫姫が笑顔で彼女の両手を接触するなり…。
「冥王鬼姉ちゃん♪私と一緒に居候しない♪」
「えっ!?小猫姫?」
小猫姫の居候発言に氷麗姫は驚愕したのである。冥王鬼は恐る恐る…。
「こんな私で大丈夫なのか?山猫妖女の小猫姫よ…私は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の罪人だぞ…」
困惑した冥王鬼であるが小猫姫は平気そうな様子であり笑顔で返答する。
「消滅しちゃった人間達は元通りに戻れたのよ♪大丈夫よ♪」
「小猫姫…」
無表情の冥王鬼であったが…。彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。
(蛇骨鬼…彼女は…小猫姫は人一倍純粋だな…如何して蛇骨鬼が彼女を深愛するのか…理解出来るよ…)
「兎にも角にも…事件は無事に解決したのです♪戻りましょう♪」
三蔵郎は笑顔で発言する。事件が無事に解決すると一同は解散したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:54
投稿者 月影桜花姫
参照先
第七話

魔獣

一週間後の早朝…。太平神国の裏側に位置する孤島では神族の冥王鬼が到達する。
「今現在でも近海の海底下に…」
(十二人の最高神によって封印された魔獣が存在するか…)
数百万年前の超古代時代…。神族の最盛期であり地上界には高度化された無数の神族による文明社会が構築されたのである。とある望月某日…。天空より全長が小大陸規模もの魔獣が出現したのである。魔獣は世界各地で暴れ回り大勢の神族やら人間達を虐殺…。大陸の陸地をバリバリと食い散らかしたのである。神族でも最強の部類である十二人の最高神と交戦…。長期戦であったが最高神の神通力によって魔獣は深海底にて封印されたのである。魔獣の封印には成功するも…。十二人の最高神は神通力の消耗によって衰弱死したのである。魔獣の暴走によって地形が大幅に変化…。魔獣の暴走こそ神族が弱体化する決定的要因だったのである。
「今回は超古代に神族を殺害した魔獣を復活させ…地上界の人間達を駆逐する…」
冥王鬼は天道眼の効力により結界を発動…。目的地である深海底へと移動したのである。数分後…。冥王鬼は目的地の海底下へと到達する。周辺は暗闇の海中であったが目的地の海底下中心部には規格外の巨大海亀らしき岩石物体が確認出来る。
「此奴が…魔獣…【羅刹獣】か…」
羅刹獣は全身が凸凹の岩石の肉体である。凸凹した岩石の甲羅には無数の巨大人面…。尻尾の部分は巨大海蛇が確認出来る。封印された羅刹獣の全身には金剛石で形作られた巨大鉄鎖により封殺され…。完全に身動き出来ない状態である。すると冥王鬼の神通力に反応したのか巨大人面の一部が海中を浮遊する冥王鬼をギロッと直視する。
「こんな深海底に小娘か?貴様…一体何者だ?」
巨大人面は人語で発言したのである。
「私は…冥王鬼…神族の一員だ…」
「貴様…神族の小娘か?今度こそ封印された私を死滅させるか?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「貴様を封印から解放する…」
封印から解放すると発言した冥王鬼であるが…。羅刹獣の巨大人面は失笑したのである。
「貴様正気か?最高神ですら衰弱化させた私を貴様みたいな小娘が解放するとは…貴様は余程の命知らずであるな…」
「鬱陶しい…貴様は解放されたくないのか?」
「復活させた瞬間…私は再度暴れ回る…今度こそ全世界の滅亡は確定的であるぞ…」
「地上界全域を滅亡させるには貴様の絶大なる魔力が必要不可欠なのだ…地上界の滅亡は私にとって好都合…」
「地上界の滅亡か…」
すると今度は別の巨大人面が発言する。
「貴様が私を封印から解放するのか!?であれば即刻封印を解除させろ!今度こそ大暴れして全世界を打っ壊すからよ♪」
別の巨大人面は失笑するなり…。
「私を復活させた瞬間…チビッ子の姉ちゃんを食い殺しちまうぜ♪」
巨大人面の発言に冥王鬼は呆れ果てる。
「封印から解放させたとしても今現在の羅刹獣は弱体化した状態だ…間違っても天道眼を所持する私を殺せないぞ…」
長期間の封印の効力からか羅刹獣の魔力は超古代時代から相当弱体化したのである。
「畜生が…本調子であればこんな小娘簡単に打っ殺せるのだが…」
「今現在の状態であれば…貴様に協力するのが正解みたいだな…」
「神族の小娘に協力するのは気に入らないが…止むを得ない…」
(交渉成立だな…)
冥王鬼は微笑する。
「早速貴様の封印を解除する…」
冥王鬼は瞑目するなり…。
「天道眼…発動!」
群青色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「羅刹獣…貴様の封印を解除する…はっ!」
直後…。念力の効力により羅刹獣の全身の身動きを封殺した金剛石の巨大鉄鎖がバリっと破壊されたのである。すると封印が全面的に解除され…。本体の先端部分に位置する頭部がハイテンションで大喜びしたのである。
「ヤッタゼ!トウトウフウインガカイジョサレタカ!ヒサカタブリニチジョウデオオアバレシテヤルゼ!」
本体の先端に位置する頭部部分が冥王鬼を直視するなり…。
「フウインヲカイジョシタノハシンゾクノネエチャンカ!?アリガトサンヨ♪チジョウノガイチュウドモヲクイコロシニデカケルカ!」
(此奴…下手すれば扱い切れないかも知れないな…)
羅刹獣は殺戮と破壊のみの破壊者である。本来の魔力が戻れば天道眼を駆使しても羅刹獣をコントロールするのは非常に困難であると感じる。
(羅刹獣が多少弱体化したのが何よりだな…)
同時刻…。深海底地帯のアクアユートピアでは深海底魔女のスキュランが魔法の水晶玉で深海底の異変をキャッチする。
「えっ?」
(水晶玉が反応したわ…)
魔法の水晶玉を直視するなり…。
「なっ!?此奴は…」
魔法の水晶玉には冥王鬼と封印が解除された羅刹獣が映写される。
「此奴は超古代に地上界で暴れ回った魔獣…羅刹獣だったかしら?」
(胸騒ぎの原因は此奴だったのね…)
スキュランは恐怖心からか全身がプルプルする。
「伝承では羅刹獣の大暴れで全世界が滅亡寸前だったとか…」
魔法の水晶玉に映写された冥王鬼を直視したのである。
(羅刹獣は封印が解除されたのかしら?ひょっとして小柄の少女が羅刹獣の封印を…)
「兎にも角にも…アクアユートピアの人魚達には国外の外出を徹底的に禁止させないと…」
スキュランは即刻国外への外出禁止をアクアユートピア全域に発令…。国外への外出は全面禁止され国境は完全に封鎖されたのである。二人の人魚の側近がスキュランの家屋敷に訪問する。
「スキュラン様…国外への外出禁止を発令しました!」
「国境もシールド魔法で封鎖しました…国内の安全は確保出来た模様です」
「完了したのね…上出来だわ…」
するとドアがノックされたのである。
「誰かしら?」
ウェンディーネがソワソワした様子で入室する。
「スキュラン!大変よ!」
「えっ!?今度は何事!」
ウェンディーネの様子にスキュランは吃驚したのである。
「アクアヴィーナスが…出掛けちゃったの…」
彼女は落涙する。
「えっ…アクアヴィーナス…国外に出掛けちゃったの!?」
スキュランは呆れ果てる。
「はぁ…」
(彼女は人一倍弱虫なのにトラブルメーカーね…)
すると側近は恐る恐る…。
「スキュラン様…彼女を救出しますか?」
スキュランは一息する。
「彼女には悪いけれど…救出は出来ないわ…」
「えっ!?スキュラン!?」
スキュランの発言にウェンディーネはビクッと反応したのである。
「アクアヴィーナスは如何なるのよ!?」
「正直私にはアクアユートピアの国内を守護するのが精一杯なの…彼女には悪いけど…」
「スキュラン…」
ウェンディーネは絶望する。同時刻…。国外へと出掛けたアクアヴィーナスは深海底を移動中に極度の胸騒ぎを感じる。
(先程から胸騒ぎを感じるわ…)
恐怖心によりビクビクする。
「アクアユートピアに戻ろうかな…」
戻ろうかと思いきや…。海底下を直視すると岩石の塊状が移動するのを発見する。
「えっ…」
(何かしら…)
岩石の移動物体は規格外の巨大さである。海底下の移動物体を凝視し続けると上部の表面には無数の巨大人面が確認出来る。
「ひっ!」
(人面だわ…)
無数の巨大人面にアクアヴィーナスは畏怖したのである。移動物体を凝視し続けると小大陸規模の規格外の巨大海亀であると認識する。
(ひょっとして海亀の怪物かしら?)
すると甲羅の表面に存在する巨大人面の一部が直上のアクアヴィーナスを発見するなり…。
「ん?彼奴は人魚の小娘か?」
巨大人面は人語で発言したのである。
「如何やら人魚の小娘みたいだな…」
「肩慣らしには好都合だが…如何する?」
「人魚の小娘を食い殺しちまうか?」
無数の人面が相談し始める。すると本体の先端に位置する海亀の頭部が大声で…。
「セナカノガンメン!サッキカラコソコソハナシヤガッテ…オレハクウフクナンダ!ダイチヲクウノガサキダ!アンナコバンザメデハハラノタシニモナラン…ホウチシテオケ!」
海亀の頭部が怒号すると甲羅の無数の人面は沈黙したのである。海亀の怪物は大南海へと直進…。アクアヴィーナスは命拾いしたのである。
「はぁ…はぁ…」
(一瞬食い殺されるかと…)
アクアヴィーナスは周辺を警戒するなり…。
(先程の怪物は一体何者だったのかしら?)
「イーストユートピアの桜花姫なら海亀の怪物を退治出来るかな?」
アクアヴィーナスは即刻太平神国に直行したのである。同時刻…。桜花姫は暇潰しに東国の茶店に来店したのである。彼女は大好きな桜餅を頬張る。
「桜餅は美味ね♪」
すると彼女の背後より…。
「桜花姫♪」
何者かが彼女の背中を接触する。
「きゃっ!」
桜花姫は驚愕したのである。
「誰よ!?吃驚するじゃない!」
背後を直視すると背後の人物は氷麗姫…。彼女だったのである。
「えっ?氷麗姫…あんただったのね…」
「御免あそばせ♪」
笑顔で謝罪する。
「あんた…吃驚させないでよね…折角の娯楽が台無しじゃない…」
「御免♪御免♪」
氷麗姫も同席したのである。
「今日は何事かしら?」
桜花姫が問い掛けると氷麗姫は真剣そうな表情で…。
「あんたの妹分の小猫姫だけどね…今日の早朝に自害し掛けたの…」
「えっ…小猫姫が自害ですって…」
蛇骨鬼が老衰してより小猫姫は精神的に参ったのか出刃包丁で自害し掛けたのである。
「今日は私が阻止したから大丈夫だったけど…」
今回は氷麗姫の参上により氷結の妖術を駆使…。危機一髪自害を阻止したのである。
「一歩間違えれば…彼女…本当に自殺しちゃうかも…」
「小猫姫…」
蛇骨鬼の霊体との会話により自然界と一体化した事実を小猫姫に説明するも…。彼女は納得しなかったのである。
「小猫姫は?」
「三蔵郎の寺院よ…」
今現在小猫姫は三蔵郎の寺院で寝転び…。三蔵郎が彼女の様子を見守る。
「三蔵郎様…大丈夫かな?」
(正直不安だわ…)
小猫姫が脱走しないか正直不安だったのである。
「大丈夫よ…桜花姫♪三蔵郎は人間だけど死霊餓狼とも互角に接戦した実力者なのよ♪小猫姫でも簡単には…」
直後…。桜花姫の姿形が消失する。
「えっ!?桜花姫は!?」
同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により三蔵郎の寺院へと瞬間移動したのである。
「三蔵郎様?」
玄関の戸口をノックするのだが…。
「無反応ね…」
桜花姫は恐る恐る寺院へと進入したのである。
「三蔵郎様は…」
客室へと入室すると客室では三蔵郎がグッタリとした表情で横たわる。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫はソワソワした表情で三蔵郎に近寄るなり安否を確認する。
「はぁ…」
(三蔵郎様は大丈夫そうね…)
ホッとしたのか一安心したのである。すると横たわる三蔵郎の左側の真横には木魚が確認出来る。
「如何して木魚がこんな場所に…」
すると横たわった三蔵郎が目覚める。
「うっ!私は…」
「三蔵郎様?大丈夫?」
「えっ?桜花姫様でしたか…ん!?小猫姫様…」
「小猫姫?」
三蔵郎は恐る恐る…。
「私は…小猫姫様に木魚で殴打されて…」
「えっ!?小猫姫が!?」
桜花姫はゾッとしたのである。
(ひょっとして彼女…)
彼女は恐怖心からか全身が身震いする。即座に二階の居間へと移動したのである。
「えっ?桜花姫様?」
二階の居間に到達すると屏風を直視する。
「小猫姫…」
屏風に装飾された霊斬刀が無くなったのである。
「えっ!?私の霊斬刀が…」
三蔵郎は精神的ショックからか全身が脱力する。
「一体誰が…私の霊斬刀を窃盗したのでしょうか…」
桜花姫は小声で…。
「小猫姫かしら…」
「えっ?小猫姫様が?」
「三蔵郎様…御免なさいね…」
桜花姫は自分自身に口寄せの妖術で小猫姫の居場所へと自身を口寄せしたのである。小猫姫は霊斬刀を所持した状態で東国と南国の国境に位置する山道にて移動する。
「えっ…桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は突発的に出現した桜花姫と遭遇…。一時的に佇立する。
「私からは逃げられないわよ…大人しく霊斬刀を渡しなさい…」
すると小猫姫は睥睨するなり…。
「渡さない…今日は私の命日なの…」
小猫姫は落涙したのである。
「私を死なせてよ…桜花姫姉ちゃん…」
「はぁ…小猫姫…」
桜花姫は呆れ果てる。
「あんたが自害したって…誰も大喜びしないわよ…」
「私は一人では何も出来ないし…未来に希望なんて無いよ…」
「あんた…」
「私を殺したければ殺せば?桜花姫姉ちゃんの大好きな桜餅に変化させて私を食い殺しちゃえば?」
苛立った桜花姫は無表情で…。
「小猫姫?」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
力一杯小猫姫の頬っぺたを引っ叩いたのである。
「きゃっ!」
小猫姫は地面に横たわる。
「あんたみたいな意気地なしは桜餅に変化させても不味いだけよ…」
桜花姫は無表情であり霊斬刀を回収する。
「霊斬刀は三蔵様の所有物だからね…」
すると桜花姫は再度無表情で発言したのである。
「今日からあんたとは絶縁ね…自害したければ勝手に自害しなさい…」
桜花姫は退散したのである。移動中…。
(小猫姫の馬鹿…)
涙腺より涙が零れ落ちる。小猫姫の様子が気になるのか再度戻ろうかと思いきや…。突発的にグラグラッと地面が地響きにより震動したのである。
「なっ!?」
(ひょっとして地震かしら…)
地響きは数秒間で沈静する。
「先程の地響きは一体何だったのかしら?」
すると彼女の前方より…。
「桜花姫!」
「えっ…」
ピンク色のロングドレスと赤髪の小柄の女性が桜花姫に近寄る。
「あんたはアクアユートピアのアクアヴィーナス?」
「はぁ…はぁ…桜花姫…」
赤髪の女性はアクアユートピアのアクアヴィーナスであり非常にソワソワした様子だったのである。
「大丈夫?アクアヴィーナス?今度は何事かしら?」
「桜花姫…大変なの!」
アクアヴィーナスは真剣そうな表情で…。
「西海の深海底で海亀みたいな怪物が出現したの!陸地みたいに巨体だったわ…」
「海亀みたいな怪物?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
(幼少期に蛇骨鬼婆ちゃんが…先程の地震は怪物の仕業かしら?)
神族の昔話で旧世界を襲撃した巨体の怪物の伝承を想起したのである。
(大昔の伝承と関連するかしら…)
「気になるわね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「如何しましょう…」
彼女は恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。
「海亀の怪物の正体が旧世界を襲撃した魔獣であれば…私以外では対抗出来ないわ…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは絶望により沈黙する。
(最上級妖女の私でも全世界規模の怪物を攻略出来るかしら…)
普段なら大喜びで征伐に出掛けるのだが…。今回の戦闘は今迄の戦闘とはスケールが桁外れであり自身の妖力のみで怪物に対抗出来るかは正直未知数だったのである。
「アクアヴィーナスは東国の三蔵郎様の寺院で待機しなさい…寺院へは私が案内するから…」
「えっ?三蔵郎様って誰なの?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「三蔵郎様は人間の僧侶よ♪仏様を擬人化した存在だから大丈夫よ♪」
「えっ?はぁ…」
アクアヴィーナスは珍紛漢紛であったが桜花姫と一緒に東国の寺院へと急行したのである。
「三蔵郎様!」
桜花姫は玄関をノックする。
「えっ?桜花姫様…ん?同行者の女性は?」
アクアヴィーナスは恐る恐る名前を名乗る。
「私は…アクアヴィーナスです…」
すると桜花姫が笑顔で紹介する。
「彼女は人魚王国のアクアユートピアの人魚なの♪」
「貴女様は異国の人魚の女性ですか♪」
三蔵郎は一瞬アクアヴィーナスに見惚れる。
「三蔵郎様…一定の時間だけど…彼女を保護出来ないかしら?」
「保護ですと?」
桜花姫は超古代の魔獣が出現した事実を洗い浚い報告したのである。
「えっ!?旧世界に封印された魔獣が出現したのですか!?」
するとアクアヴィーナスがボソッと一言…。
「私は深海底で海亀みたいな怪物と遭遇しました…遭遇した当初は魔獣に食い殺されるかと…」
アクアヴィーナスは恐怖心から涙腺から涙が零れ落ちる。
「ですがアクアヴィーナス様が無事なのが何よりですよ♪」
「感謝します…」
桜花姫は三蔵郎に霊斬刀を手渡したのである。
「三蔵郎様?」
「えっ?霊斬刀…」
すると三蔵郎は恐る恐る…。
「小猫姫様は無事ですか?」
問い掛けられた桜花姫は一瞬ビクッと反応するも笑顔で返答する。
「彼女なら…大丈夫よ♪小猫姫は自害しないって約束したから♪」
「であれば一安心ですね♪」
「小猫姫はソッとしましょう…」
「承知しました♪」
直後である。再度地面がグラグラッと震動する。
「なっ!?」
「地響きだわ!」
「今度も地震だわ…」
(魔獣の仕業かしら?)
突然…。近辺より摩訶不思議の神力を感じる。
(えっ?何かしら?神通力でも妖力でも無いわね…ひょっとして神族!?)
桜花姫は警戒したのである。
「三蔵郎様!アクアヴィーナスは即刻寺院に避難して!」
「えっ!?桜花姫!?」
「一体何が発生したのですか?」
桜花姫は恐る恐る…。
「神族が接近中なの…」
「神族ですと!?」
「危険そうなの…」
「下手すれば殺されるかも…」
三蔵郎は承諾する。
「承知しました…桜花姫様…」
すると寺院の表門より…。木刀を所持した青色の着物姿の女性が進入したのである。
「彼女は…」
「誰かしら?」
桜花姫は恐る恐る…。
「彼女は冥王鬼…神族の一員よ…」
「彼女が神族ですか?人間の女性みたいですね…」
すると冥王鬼は無表情で発言する。
「亡者の集合体…月影桜花姫よ…貴様は死後の世界である地獄から脱出するとは…」
「私は天国でも地獄でも脱出するから安心しなさい…」
「悪運だけは人一倍だな…」
直後…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「貴様…神族の眼光を…」
「残念だったわね♪あんたから一時的に天道眼を奪取されたけど霊魂巨神木の精霊から再度頂戴したのよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に冥王鬼は内心苛立ったのか一言…。
「霊魂巨神木はこんな小娘に味方するとは…」
「私は即刻魔獣を仕留めたいの…邪魔しないで…」
冥王鬼は魔獣の一言に反応する。
「魔獣か…」
普段は無表情の冥王鬼であるが微笑したのである。
「何が可笑しいのよ?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「魔獣を封印から解放させたのは誰であろう私だからな…今頃は世界各地で大暴れだろうよ…」
「えっ!?あんたが!?」
彼女の発言に一同は反応したのである。すると三蔵郎は恐る恐る…。
「魔獣とは…ひょっとして伝説の羅刹獣でしょうか?」
「羅刹獣って?」
「羅刹獣は太古の旧世界で大暴れした海亀の怪物ですよ…伝承では十二人の最高神によって封印されたと…」
三蔵郎は桜花姫とアクアヴィーナスに説明する。
「ですが如何して神族の一員である冥王鬼が…古代の怪物を復活させたのですか?怪物によって数百人もの神族が惨殺されたのですよね?」
三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。すると冥王鬼は即答する。
「大勢の仲間達が羅刹獣によって殺されたが…今現在の私は羅刹獣以上に地上界を君臨する人間達こそ殲滅したい…」
「冥王鬼は如何して人間達を殲滅したいのですか?」
「私が人間達を殲滅したい理由だと?」
冥王鬼は一息するなり…。
「貴様達も人類の歴史学を勉学すれば理解出来るだろうが…人間の歴史は戦争と自然界を汚染させるばかりだ…恐らく未来の世界でも戦争は何度も勃発するだろう…」
彼女の発言に桜花姫はハッとする。
(スキュランの時空の光球…)
桜花姫は時空の光球で発現された数多の戦争の光景を想起したのである。
(今後も戦乱時代みたいな時代が何度も到来するのかしら?)
正直自身も戦乱時代を体験出来ればと希求する。
(面白そうだわ♪今後の時代を見届けたいわね…)
するとアクアヴィーナスが恐る恐る問い掛ける。
「如何してあんたは本来仕留めるべき相手を復活させたのよ?あんたは神族だし…人間達を仕留めるなら一人でも簡単でしょう?」
問い掛けられた冥王鬼はアクアヴィーナスに返答する。
「地上界の人間達だけを殲滅するなら私一人でも容易いが…太平神国には数多くの妖女が安住する桃源郷だ…最上級妖女である桜花姫が死後の地獄から生還したからには…」
正直桜花姫が俗界に戻ったのは予想外であり目的を達成するのに数多の妖女と彼女の存在は不都合だったのである。今度は三蔵郎が質問する。
「人間達を殲滅したとしても羅刹獣と神族である冥王鬼は敵対関係です…羅刹獣は大勢の神族を殺害した強者ですし貴女様も殺される可能性だって否定出来ませんよ…」
「であれば今度は羅刹獣を殲滅するだけだ…今現在の羅刹獣は長年の封印で相当弱体化した状態だ…私単独でも簡単に仕留められる…」
「私から天道眼を奪取したのは魔獣の羅刹獣の封印を解除したかったからなのね…」
「えっ!?桜花姫様?天道眼を奪取されたって…」
「先日の出来事だけどね…」
問い掛けられた桜花姫は先日の出来事を洗い浚い公言したのである。
「桜花姫様は彼女に天道眼を奪取されたなんて…」
「死後の世界にも幽閉されちゃったし…一苦労だったわ…」
所詮羅刹獣は人間達を殲滅する手駒であり瞳術の天道眼を所持した冥王鬼にとって弱体化した羅刹獣は目的を完遂させる手駒だったのである。
「遅かれ早かれ羅刹獣の封印を解除した以上…全世界が滅亡するのは時間の問題だ…」
すると冥王鬼は天道眼を発動…。
「貴様達の身動きを封殺する…」
直後である。冥王鬼の金縛りによって三蔵郎とアクアヴィーナスは身動き出来なくなる。
「なっ!?」
「えっ!?」
二人は身動きを封殺される。
「三蔵郎様!?アクアヴィーナス!?」
(金縛りでしょうか?)
三蔵郎は身動きしたいが金縛りにより身動き出来ない。
(身動き出来ないよ…)
アクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。
「二人の身動きは封殺出来たが…月影桜花姫…妖女である貴様には私の金縛りが通用しなかったか…」
桜花姫には冥王鬼の金縛りが発動されず自由自在に身動き出来たのである。桜花姫は冥王鬼を睥睨するなり…。
「冥王鬼…あんたは本当に気に入らないわ…」
(蛇骨鬼婆ちゃんからは此奴を救済してって依頼されたけれど…)
天道眼を所持する冥王鬼と交戦するなら全力で力戦しなければ勝利出来ないと確信する。
(中途半端では今度こそ地獄に逆戻りね…)
桜花姫も天道眼を発動したのである。
「貴様も天道眼を発動したか…天道眼を発動したとしても私の木刀は妖力を吸収する神器…貴様が勝利する可能性は皆無だぞ…」
冥王鬼の木刀は霊魂巨神木の小枝から形作られた神器であり妖力による攻撃は木刀に吸収される。桜花姫は恐る恐る後退りする。
(天道眼を使用出来ても…単独で此奴を仕留められるかしら?)
すると直後である。
(えっ?霊斬刀が…)
三蔵郎の所持する霊斬刀がカタカタッと振動したかと思いきや…。空中を浮遊したのである。数秒後…。桜花姫の目前に落下したのである。
「えっ?霊斬刀?」
(ひょっとして所持しろと?)
摩訶不思議の超常現象であったが…。桜花姫は恐る恐る霊斬刀を所持したのである。
「霊斬刀だと?牢固石の刀剣か?」
冥王鬼は警戒する。
「私でも対抗出来るかも知れないわね…」
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