「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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fld_bell.gif 月影桜花姫の宝庫〔第零弾〕
投稿日 : 2020/12/25 07:49
投稿者 戦艦壱号
参照先
第一話

夜襲
人類史上最大級の大戦争…。世界最終戦争から十数年後の出来事である。大量破壊兵器によって旧世界の巨大産業文明は大崩壊…。世界各地の大都市部は荒廃したスラム街状態であり彼方此方が暴徒化した人間達の魔窟状態だったのである。当然として秩序は皆無であり暴徒化した生存者達は食糧の争奪戦…。殺し合ったのである。世界全体が弱肉強食の大混乱期時代であったが…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する大規模武装勢力が世界各地の彼方此方に暴発し始める。彼等は荒廃した新世界の主導権掌握を主目的に活動を開始したのである。とある某日の真夜中…。東南地帯の大陸に存在する亜大陸では複数の武装勢力が衝突したのである。
「突撃隊!敵軍を蹴散らせよ!」
主戦場は砂漠化した大平原であり周囲の様子は容易に確認出来る。武装集団の部隊長らしき人物の合図と同時にサバイバルナイフと護身用のハンドガンを装備した迷彩服の戦闘員達がとある敵軍の駐留地に突入する。
「ん!?奴等はブラッドウルフの突撃隊だぞ!」
ブラッドウルフとは小規模の統治領である〔亜大陸地帯〕を実効支配する新世界有数の大規模武装集団…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する軍閥の一大勢力である。駐留地の表門を警備する二人の警備兵がブラッドウルフの突撃隊を確認する。
「敵襲だ!敵襲だぞ!」
睡眠中だった大勢の戦闘員達が即座に反応したのである。
「敵襲だと!?ブラッドウルフの奴等だな!」
「奴等の襲撃か!?奇襲とは卑劣だな…」
突撃隊の人数は推計三百人前後…。相対する駐留地の常備軍は推計五百人規模であり総人員はブラッドウルフを上回る。
「防衛戦だ!防衛戦を開始せよ!」
駐留地内部では両勢力による銃撃戦が開始される。戦闘開始から二分間が経過…。双方で百人以上の死傷者が続出する。
「回転型機関砲を用意しろ…」
駐留地の常備軍は六連発の回転型機関砲を配備したのである。
「此奴でブラッドウルフの奴等を蹴散らしちまえ!」
「奴等に無数の弾丸をぶっ放せ!」
回転型機関砲の乱射によって十数人もの突撃隊を死傷させる。戦力では防衛戦を徹底する駐留地の常備軍が圧倒的に有利でありブラッドウルフの突撃隊は戦力が半減…。ブラッドウルフ突撃隊は撤退を余儀無くされる。
「全滅しちまう!逃げろ!」
戦意喪失によりブラッドウルフの突撃隊は敵前を逃亡する戦闘員達が出始め…。何人かの戦闘員が自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様達!?何故戦場から戻ったのだ!?誰が貴様等に戻れと命令した!?」
怒号する総大将に逃亡した戦闘員達は恐る恐る…。
「ですが総大将…今回の戦闘は圧倒的に不利ですぜ…」
「多勢に無勢ですぜ!総大将!サバイバルナイフとハンドガンだけでは奴等には対抗出来ませんぜ…一度出直して…」
「沈黙しろ!敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将は護身用のハンドガンで一人の戦闘員を射殺する。
「今度は誰が射殺されたいか?私に射殺されたければ返答するのだな…」
「ひっ!」
一人の戦闘員が銃殺され…。逃亡した周囲の戦闘員達が畏怖したのである。
「貴様等は泣く子も黙るブラッドウルフの勇士達なのだぞ!死にたくなければ即刻主戦場に戻れ…戻らなければ即刻射殺する!」
戦闘員達は極度の恐怖心からかビクビクした様子であり全身が膠着する。
「貴様等…」
『役立たずの弱卒が…』
彼等の様子に総大将は呆れ果てる。すると総大将の背後より…。
「【フィルヴァス】…こんな弱卒だけで戦闘に勝利するなんて夢物語だぞ…現実を見据えろ…」
ブラッドウルフ総大将フィルヴァスの背後にはフードを被った小柄の人物が佇立する。
「誰かと思いきや…貴様は最精鋭の【ストレンジキラー】か…」
「えっ!?」
「ストレンジキラーって…」
ストレンジキラーの名前に周囲の戦闘員達は驚愕したのである。
「此奴は…伝説の殺し屋の…」
「本物なのかよ?」
ストレンジキラーとは荒廃した新世界各地で活躍する伝説の殺し屋…。残虐非道の暗殺者として世界各地で畏怖される存在である。ストレンジキラーは世界的にも著名の人物であるが…。今現在彼自身に関連する詳細は不明瞭でありストレンジキラーの正体を熟知する人物は少数である。
「此奴は最近配属させた最強の即戦力でありブラッドウルフの最精鋭だ…伝説の殺し屋であるストレンジキラーなら百人力の大戦果は期待出来るだろう♪」
フィルヴァスは恐る恐るストレンジキラーに指示する。
「ストレンジキラーよ…敵軍の陣地に突入して敵兵達を殺し回るのだ…伝説の殺し屋である貴様なら出来るよな?」
「仕方ないな…」
ストレンジキラーはフィルヴァスの命令を掌握すると常人をも超越した超高速移動で移動したのである。ストレンジキラーのスピードに陣地の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーは…人間なのか!?」
「彼奴は怪物の間違いでは?」
するとフィルヴァスは陣地の戦闘員達に解説し始める。
「ストレンジキラーの正体は〔ポストヒューマン〕…十数年前の旧世界古代人達が創造した新人類の一人だぞ…」
「ポストヒューマンって?」
ポストヒューマンとは旧世界の高度の科学技術により創造された人工性生命体…。所謂人造人間の総称化である。世界最終戦争によりポストヒューマンに関連する大半の資料と研究施設は焼失したものの…。一部の残存資料ではポストヒューマンは人間を超越した身体能力と不老長寿の肉体である記述のみは現存する。
「ですが総大将…怪物みたいな百人力の兵隊を味方に出来ましたね…」
「ストレンジキラー…彼奴は単純に戦闘と殺戮さえ出来れば大満足らしいからな…兵士としては堅実的存在だ…」
『何よりも狂戦士のストレンジキラーをブラッドウルフの一兵卒として扱えるのは奇跡だったな…』
野心家のフィルヴァスにとって自身の目的の遂行にはストレンジキラーの好戦的性格は非常に好都合だったのである。同時刻…。ストレンジキラーは数秒間で常備軍の駐屯地に到達する。
「なっ!?此奴は敵軍の新手か!?」
「常人以上のスピードだったぞ!此奴は本当に人間なのか!?」
「一体何者だ!?」
ストレンジキラーの超人的スピードに最前線の敵味方の戦闘員達は強豪のストレンジキラーに注目したのである。直後…。改造された両手の義手先端から銀色の鉤爪が出現する。
「戦闘を開始する…」
ストレンジキラーは神速の身動きで敵兵の背後に接近した直後…。両腕に内蔵された鉤爪で敵兵を斬撃したのである。ストレンジキラーは数秒間で三人の敵兵を殺害…。床面にはバラバラに斬撃された敵兵達の鮮血やら肉片が無数に飛散する。
「うわっ!此奴は怪物みたいな兵隊だ!」
駐屯地の戦闘員達は人外のストレンジキラーに畏怖したのか機関銃は勿論…。回転型機関砲でストレンジキラーに攻撃を集中させる。
「集中攻撃だ!怪物みたいな兵士を打っ殺せ!」
数百発もの弾丸がストレンジキラーに集中するも…。ストレンジキラーは神速の身動きで数百発もの弾丸を容易に回避したのである。
「なっ!?一瞬で…」
「消失したぞ…敵兵は一体!?」
一瞬の身動きでストレンジキラーは敵軍の銃撃を回避…。常備軍の戦闘員達は周囲を警戒するのだがストレンジキラーの姿形は確認出来ない。
「敵軍の強兵は!?」
すると回転型機関砲を装備する戦闘員の背後より…。
「えっ…なっ!?」
ストレンジキラーは鉤爪で戦闘員を瞬殺する。ストレンジキラーの大攻勢により形勢は完全に逆転…。一時的に戦意喪失したブラッドウルフの突撃隊であるがストレンジキラーの参戦によって彼等の士気が発揚したのである。
「新米兵士が敵部隊の主力戦力を無力化させたぞ!反撃開始だ!」
突撃隊の猛反撃が開始される。十数分間の戦闘で駐留地の常備軍は撤退を開始…。彼等の駐留地はブラッドウルフに完全占拠されたのである。今回の夜襲作戦でブラッドウルフは百二十人以上の戦闘員達が死傷…。一方の駐留地常備軍は九十人以上の戦闘員達が死傷したのである。奇襲作戦に辛勝したブラッドウルフは駐留地に放置された多数の重火器を戦利品として確保…。五十五人もの敵軍戦闘員を捕虜として拘束したのである。戦闘終了後…。総大将のフィルヴァスは笑顔でストレンジキラーに近寄る。
「非常に見事だったぞ♪ストレンジキラー♪貴殿の孤軍奮闘で敵軍の駐留地を無事に占領出来たのだ!大戦果だぞ♪」
初戦の大戦果にフィルヴァスは大喜びしたのである。
「ストレンジキラーよ…貴殿は全軍の次期総帥候補に相応しい存在なのだ♪一兵卒では勿体無い人材だぞ…」
「えっ!?新米兵士のストレンジキラーが次期総帥候補って…」
「初戦で次期総帥に任命されるなんて凄過ぎる…ストレンジキラーは別格だな…」
周囲の戦闘員達は驚愕する。
「実際…今回の戦闘ではストレンジキラーが参戦しなかったら俺達は完全に敗北しただろうからな…ストレンジキラーがブラッドウルフの次期総帥に任命されるのも当然だろうよ…」
するとストレンジキラーは無表情で…。
「何が次期総帥候補だ…俺にとって次期総帥なんて地位は無価値だな…」
ストレンジキラーは次期総帥の地位を無価値であると断言する。
「無価値だと?」
ストレンジキラーの返答にフィルヴァスは勿論…。周囲の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーよ…ブラッドウルフの次期総帥は大名誉なのだぞ!貴殿は新時代の覇者として全世界を掌握したくないのか!?」
「全世界の覇者なんて…殺し屋の俺には無縁だな…」
ストレンジキラーは無関心そうな態度で返答したのである。
「俺は思う存分戦闘と殺戮さえ出来れば大満足だ…」
フィルヴァスは内心不服であったが…。
「ストレンジキラーが暴れ回りたければ今後も思う存分に暴れ回るのだ…恐らく今後とも各地では戦闘が頻発するだろうからな…」
大戦闘に勝利したブラッドウルフは本拠地亜大陸地帯へと戻ったのである。

第二話

山賊要塞
砂漠化した大平原での大戦闘から五日後の真昼…。ブラッドウルフ本拠地では最精鋭部隊が新編成されたのである。各メンバーはポストヒューマンであり最精鋭の一人であるストレンジキラー以下…。十三人の精鋭達が抜擢されたのである。
「勇士達は…全員集合したな…」
ブラッドウルフ本拠地にて最精鋭部隊が集結…。総大将のフィルヴァスが集結した各メンバーを確認したのである。
「突然であるが…貴様達最精鋭部隊に最重要任務だ…」
「はっ?俺達に最重要任務だって?」
「任務内容は?」
少数精鋭であるが彼等は面倒臭そうな態度でフィルヴァスに問い掛ける。
「貴様等少数精鋭は南方地帯の山賊要塞に潜入するのだ…」
山賊要塞とは西方地帯に聳え立つ岩山であり難攻不落の大要塞である。近年山賊要塞と命名される岩山では大勢の武装集団が拠点である岩山を占拠…。岩山全体は要塞化され山賊要塞内部には各地で回収された多数の重火器が配備されたのである。
「今回の作戦の最終目的として…山賊要塞の占拠と山賊要塞内部に配備された重戦車を多数強奪するのだ…最精鋭の貴様達であれば出来るよな?」
「はっ!?総大将は正気なのか!?」
今回の任務内容にストレンジキラー以外の各メンバー達が猛反発する。
「俺達が少数精鋭でも…十四人だけで山賊要塞全体を占拠するなんて無茶だろ!理不尽過ぎるぜ!」
「総大将…多勢に無勢だぜ…難攻不落の山賊要塞を完全占領したかったらブラッドウルフ全勢力で総動員するべきだ!俺達だけで山賊要塞を占領するなんて無謀過ぎるぞ…」
猛反発する彼等にフィルヴァスは一息したのである。
「であるからこそ最精鋭のストレンジキラーを今回の大作戦に抜擢させたのだ…」
前回の戦闘でストレンジキラーの戦闘力を熟知したフィルヴァスは今回の大作戦でも活躍出来ると判断する。
「ポストヒューマンであるストレンジキラーなら鬼に金棒だからな…最強の狂戦士である彼ならば百人力の大戦果は期待出来るだろう…」
「ストレンジキラーが最強の狂戦士でも…一人だけでは戦力に…」
すると直後である。ストレンジキラーは超高速移動により精鋭の一人を鉤爪で斬首…。精鋭の一人を即死させたのである。
「なっ!?」
「えっ…此奴…」
「ストレンジキラー…貴様!?」
地面には切断された精鋭の頭首と鮮血が流れ出る。
「ひっ!殺されちまう!」
「此奴…本当に仲間を打っ殺しやがったぞ!」
十二人の精鋭達は仲間にも容赦しないストレンジキラーに畏怖したのである。
「今度…俺に殺されたいのは誰だ?指名しろ…」
ストレンジキラーは無表情で十二人の精鋭達に問い掛ける。
『ストレンジキラー…此奴が殺し屋って噂話は本当らしいな…』
総大将のフィルヴァスもストレンジキラーの予想外の行為に一瞬動揺する。
「貴様達…今回ばかりは無謀かも知れないが…今現在ブラッドウルフは戦力不足なのだ…一度の戦闘に相当数の人員は配備出来ないのが現状だ…」
ブラッドウルフは前回の大規模戦闘で相当数の人員喪失により一度の戦闘で大勢の戦闘員達を主戦場に総動員するのは事実上不可能だったのである。
「今回の大作戦は非常に危険である反面…今回の任務に成功すれば貴様達には報酬として一年分の食糧品と酒類を提供するからな…約束する!」
「えっ!?」
「食糧と酒類を一年分だと!?本当かよ!?」
「一か八かのチャンスだな!山賊要塞で思う存分に大暴れするか♪」
「約束だぜ♪総大将♪存分に大暴れするからな!」
「任務に成功したら俺達に一年分の食糧と酒類を用意しやがれよ♪」
報酬の一言にストレンジキラーを除外する精鋭達の士気が発揚…。
「はぁ…」
一時的であるがフィルヴァスは内心ホッとする。
『如何やら一安心だな…彼等が単純で安心した…』
現実問題…。ブラッドウルフは慢性的に人員不足であり内輪揉めが原因で人員が喪失するのを回避したかったのである。
『生憎…ストレンジキラーには報酬は不要そうだが…』
ブラッドウルフ全軍にとってストレンジキラーは最強の主要戦力である一方…。フィルヴァスは危険人物である彼に裏切られないか極度の不安感と恐怖心を感じる。翌朝…。最精鋭部隊は西方地帯の山賊要塞へと移動を開始したのである。
「総大将の野郎も適当だよな…如何して俺達をこんな任務なんかに抜擢しやがった?正直無謀だぜ…」
最精鋭の一人が不満を愚痴り始める。
「仕方ないよ…六日前の戦闘では人員の大半を喪失したからな…当分の作戦では大人数は動員出来ないだろうよ…」
「山賊要塞の占領に成功すれば一年分の食糧をゲット出来るぞ…我慢しろよ♪」
活動拠点の亜大陸地帯から西方地帯は二十キロメートルの長距離であり比較的遠距離だったのである。移動を開始してより一時間半後…。彼等は目的地である西方地帯に到達したのである。
「無人地帯かよ…西方地帯は亜大陸地帯以上に殺風景だな♪」
「当然だが人気は感じられないぜ…ゴーストタウンみたいで薄気味悪いな…亜大陸地帯に戻りたいぜ…」
「幽霊が出現しそうな雰囲気だな…」
「何が幽霊だよ♪子供みたいな感想だぜ♪」
「子供かよ♪所詮幽霊なんて子供騙しだろうに…」
当然として西方地帯の住宅街も荒廃したゴーストタウンであり誰一人として居住者は確認出来ない。
「目的地の山賊要塞は?」
するとストレンジキラーが無表情で中心地に確認出来る巨山を指差したのである。
「ん?岩山みたいだな…」
中心地に聳え立つ岩山は標高五百メートル規模の巨山であり岩山の頂上には鉄塔が確認出来る。
「岩山が山賊要塞だな…」
小柄の戦闘員が恐る恐る…。
「山賊要塞を攻略するのであれば如何する?」
「こんな要塞であれば…直接的に真正面から突っ込むだけだ…」
今迄無言だったストレンジキラーが即答したのである。
「ストレンジキラーは正気か?真正面から突っ込むなんて…完全に自殺行為だぜ…」
「要塞に突っ込むならストレンジキラー一人で突っ込みやがれ…俺達は普通の人間だから御免だぜ…」
周囲の戦闘員達はストレンジキラーの意見に全否定する。無表情だったストレンジキラーであるが…。殺気を感じさせる表情で彼等を睥睨したのである。
「ひっ!」
『此奴…殺気か!?本気の殺意を感じるぜ…』
ストレンジキラーの殺気に戦闘員達は畏怖し始める。
「山賊要塞の敵兵達は俺が完膚なきまでに打っ殺す…貴様達雑魚は山賊要塞を占拠するのだな…」
ストレンジキラーは神速のスピードで山賊要塞へと突っ込んだのである。
「ストレンジキラーの野郎…気に入らないな…」
「彼奴…一人で突っ込んじまったな…」
現在地である住宅街から山賊要塞への距離は数キロメートルと近距離でありストレンジキラーは数秒間で到達する。
「敵陣には…」
ストレンジキラーは両目を瞑目させる。
『内部の敵兵は二百人前後か…』
ポストヒューマンとしての本能からか外部からでも瞬間的に内部に存在する生体反応を正確にキャッチ出来る。ストレンジキラーは山賊要塞から二百人前後の人間達の生体反応をキャッチしたのである。
「内部の敵兵を打っ殺すだけなら俺一人でも楽勝だな…」
数分間岩山の周囲を探索すると地下シェルターのハッチを発見する。
「ハッチだと?軍事用の地下シェルターか?」
ストレンジキラーは地下シェルターのハッチを開放させる。恐る恐る地下シェルター内部へと潜入したのである。
『山賊要塞に直結する地下通路か…』
地下シェルターは十数年前の世界最終戦争で住民達の避難所として利用された地下壕である。数十分後…。通路を直進し続けると目前より重厚に構築された鉄扉が確認出来る。
「此奴を破壊すれば敵地に侵入出来るな…」
左手の機械義手より内蔵された対物ライフルが出現する。
「鉄扉を破壊するだけなら此奴で事足りる…」
内蔵された対物ライフルで鉄扉を破壊したのである。周囲より爆発音が響き渡る。
「楽勝だな…」
破壊された鉄扉の奥側より…。二人の警備兵が破壊された鉄扉の瓦礫に近寄る。
「先程の爆発音は!?」
「一体何が発生しやがった!?ん!?」
二人の警備兵はストレンジキラーに気付いたのである。
「機械式の義手だと?貴様は一体何者だ!?」
「鉄扉を破壊したのは貴様か!?」
問い掛けられたストレンジキラーは無表情で…。
「であれば如何する?」
彼等はストレンジキラーの態度にピリピリする。
「貴様…」
「構わん!此奴は侵入者だ!徹底的に打っ殺せ!」
警備兵達は護身用のライフルを発砲したのである。ストレンジキラーは銃撃されたものの…。高速移動により警備兵達の銃撃を回避したのである。高速移動中に装備を対物ライフルから近接戦闘用の鉤爪に変換…。ストレンジキラーは一瞬の身動きで二人の警備兵を斬撃したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
鉄製の床面には彼等の鮮血で赤色に染色する。
「防衛拠点に移動するか…」
ストレンジキラーは山賊要塞の上層へと移動したのである。同時刻…。山賊要塞重要拠点内部では戦闘員達が立体映像である監視用のホログラムで地下通路の様子を確認したのである。ホログラムによってストレンジキラーが投影されると彼等はゾッとする。
「侵入者だぞ!」
「彼奴は伝説の殺し屋…ストレンジキラーだ!」
戦闘員達がストレンジキラーの出現に騒然としたのである。
「なっ!?ストレンジキラーだと!?本当なのか!?」
「ストレンジキラーって…ポストヒューマンの彼奴だよな!?如何して殺し屋の彼奴がブラッドウルフなんかに味方しやがった!?」
「如何するよ!?地下通路を突破されちまったぞ!拠点内部に侵入されるのは時間の問題だぞ…」
刻一刻と恐怖心が増大化する。拠点内部の戦闘員達はストレンジキラーの襲撃に畏怖したのである。すると疲弊する戦闘員達に大柄の戦闘員が怒号し始める。
「貴様等!狼狽えるな!所詮相手は一人だぞ…総動員で武装するのだ!総動員で攻撃すれば相手が殺し屋のストレンジキラーとて…」
彼等は即座に護身用の銃火器を装備したのである。基地内であるが拠点防衛用の重戦車も数量程度配置する。
「ストレンジキラーが通信室に侵入し次第…総攻撃だぞ!」
数秒後…。頑丈に構築された鉄扉が破壊される。
「えっ!?」
「なっ!?」
無傷のストレンジキラーが通信室に侵入したのである。
「此奴…」
するとストレンジキラーは無表情で周囲を確認…。
「俺を相手にするのであれば…山賊要塞の戦力では力不足だな…」
山賊要塞に侵入したストレンジキラーは内部の防衛網を簡単に突破したのである。
「総攻撃だ!ストレンジキラーを打っ殺せ!」
通信室の戦闘員達は護身用の機関銃は勿論…。バズーカ砲でストレンジキラーを総攻撃したのである。無数の弾丸やら砲弾が炸裂…。ストレンジキラーを急襲する。
『こんな程度の攻撃で…』
ストレンジキラーは神速の身動きによって内部の戦闘員達を瞬殺…。数分間で通信室の戦闘員達を全滅させたのである。
「雑魚は片付いたな…」
ストレンジキラーは山賊要塞から脱出すると待機中の精鋭部隊と合流する。
「ストレンジキラー!?山賊要塞から無事に戻れたのか!?」
「山賊要塞の雑魚は俺が排除した…貴様等は思う存分山賊要塞を占拠しろ…」
彼が単独で難攻不落の山賊要塞を陥落させた事実に彼等は驚愕したのである。
「はっ!?ストレンジキラーは一人で山賊要塞を陥落させたのかよ!?」
「ストレンジキラーは人型の兵器なのか?」
「兎にも角にも山賊要塞を占拠するぞ…」
ストレンジキラーが山賊要塞を攻略してより一時間後…。山賊要塞はブラッドウルフによって完全占拠されたのである。戦闘に勝利したブラッドウルフは多数の重火器は勿論…。輸送用の装甲車やら重戦車を数両確保したのである。今回の山賊要塞の完全占拠によってブラッドウルフの戦力は格段に急上昇する。

第三話

宣戦布告
同時期…。地球上の裏側ではネオサイクロプスと呼称される海面上の大規模勢力が各海域で大暴れしたのである。ネオサイクロプスは旧世界の大文明で開発された高度の巨大兵器を多数保有…。彼等の軍事力は非常に絶大であり荒廃した地球上の約半分を占拠出来る程度には強力だったのである。陸戦最強勢力の大規模軍閥ブラッドウルフが奮戦する同時期…。地球上の裏側の青海原ではネオサイクロプスの武装大型船が目的地である南極海の島嶼へと直航する。
「大将軍♪航海は順調ですぜ♪今度の戦闘も勝利出来ますよ♪」
武装大型船の艦長は【ヘルムフリート】と名乗る人物である。ヘルムフリートはネオサイクロプスの創設者であり総軍の最高指導者として統率する。大勢の部下達からは大将軍と呼称される一方…。自軍以外の各勢力では大海原の大魔王として畏怖されたのである。今現在でこそヘルムフリートは随一の軍人であるが十数年前に勃発した世界最終戦争では国連軍の少年兵として最前線で孤軍奮闘…。数多くの主戦場で大活躍した歴戦の猛者として知られる。
「油断は出来ない…今回の戦闘は俺達を敵対視する部落の徒党だぞ…不穏分子は徹底的に壊滅させなくては!」
ネオサイクロプスは荒廃した新世界の大規模軍閥の一大勢力であるが…。世界各地の軍閥勢力からは極悪非道の海賊集団として嫌悪されたのである。ネオサイクロプスは本拠地から出航してより一時間後…。小規模の島嶼が確認出来る距離へと到達する。
「大将軍!絶島を発見しましたぜ!」
「絶島だと?」
ヘルムフリートは双眼鏡で絶島を確認したのである。絶島は全域が要塞化された城郭地帯でありヘルムフリートは目的地のサウスアイランド諸島であると認識する。
「恐らく目的のサウスアイランド諸島だ…各乗員に伝播せよ!戦闘を開始すると!」
「承知しましたぜ!大将軍!」
同時刻…。サウスアイランド諸島では本島に駐屯中の武装集団が北方の海域から一隻の武装大型船を発見する。
「なっ!?所属不明の大型船だぞ!本島に接近中だ!」
鉄塔の警備兵が呼号したと同時に島内の戦闘員達が反応したのである。
「一体何事だ!?」
「大型船だって?」
「ひょっとしてネオサイクロプスの巨大戦艦なのか?」
今現在全長二百メートル以上の大型船を所有…。航行させられる軍閥勢力は実質皆無であり誰しもがネオサイクロプスであると察知したのである。ネオサイクロプスの出現に島内の戦闘員達は騒然とする。守備隊は各地に設置された各砲台へと配置したのである。
「敵艦に照準させろ!」
数秒後…。
「敵軍の巨大戦艦に総攻撃だ!砲撃開始せよ!」
島内に設置された各砲台が巨大戦艦を標的に砲弾が発射されたのである。無数の砲弾が発射された同時刻…。
「大将軍!砲撃です!」
「先制攻撃か…」
巨大戦艦の艦橋ではヘルムフリートが双眼鏡で敵軍の砲台を眺望する。直後…。数発の砲弾が巨大戦艦の甲板に着弾したのである。艦体全体が一瞬グラッと振動するものの…。砲弾が着弾した装甲は無傷であり艦体全体は実質ノーダメージだったのである。
「強襲戦艦〔フリングホルニ〕は難攻不落の海上移動要塞なのだ…本艦が数発の砲弾程度で簡単に撃沈出来るか…」
巨大強襲戦艦フリングホルニはネオサイクロプス海上部隊の旗艦であり難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金〔エターナルメタル〕が駆使され…。エターナルメタルの装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない強度の素材である。多数のミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射する電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には偵察用の無人機を二機搭載する。
「対地ミサイルで各地の砲台を徹底的に攻撃せよ…沿岸の守備隊を完膚なきまでに殲滅するのだ!」
ヘルムフリートの指示と同時に甲板の前後に設置された多数のミサイル発射機から十数発もの対地ミサイルが発射される。甲板から発射された対地ミサイルは数秒間で各地の固定砲台に着弾…。固定砲台は破壊されたのである。直後…。ヘルムフリートは艦内の双眼鏡で防衛機能を喪失した島内の状況を確認したのである。
「敵部隊の基地機能は低下したな…」
ヘルムフリートは即座にブリッジの乗組員達に上陸作戦を指示する。
「上陸作戦を開始する…艦内から上陸部隊を出撃させるのだ…」
フリングホルニの艦内から複数の上陸用舟艇が出撃を開始したのである。一隻の上陸用舟艇には武装した十数人もの戦闘員達が乗艇…。彼等は島内へと上陸したのである。島内では残存した守備隊との銃撃戦が展開されるも…。銃撃戦は数時間で鎮静化したのである。総司令官のヘルムフリートは再度島内の様子を双眼鏡で確認する。
「如何やら戦闘が鎮静化したみたいだな…」
「大将軍!今回もネオサイクロプスの大勝利ですね!」
フリングホルニ艦内ではネオサイクロプスの圧倒的大勝利によって乗組員達が大喜びしたのである。一人の乗組員がヘルムフリートに近寄る。
「こんなにも短時間で上陸作戦が成功するとは予想外でしたね♪大将軍♪」
笑顔の乗組員にヘルムフリートは無表情で返答する。
「予想外も何も…こんな小規模の戦闘で苦戦したのであれば…亜大陸のブラッドウルフには勝利出来ないだろう…」
ブラッドウルフの一言に周囲の乗組員達は絶句したのである。
「大将軍はブラッドウルフに宣戦を布告するのですか!?」
「大将軍は本気ですかい!?」
乗組員達はゾッとした表情でヘルムフリートに問い掛ける。
「当然だ…俺達ネオサイクロプスは旧世界連合軍の後身であり…滅亡した旧文明を復活させる新時代の覇者なのだからな…」
本来ネオサイクロプスは世界最終戦争で滅亡した旧世界連合軍の残存勢力でありネオサイクロプスの主力戦力である強襲戦艦フリングホルニも国連軍の海軍主力艦隊が保有した超弩級ミサイル艦である。勢力の中心人物であるヘルムフリートは新統一政権の樹立と旧文明の再興を主目的に活動する。
「今度の俺達の相手は仮想敵のブラッドウルフだ…」
すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「ですが大将軍…今現在ブラッドウルフには伝説の殺し屋…ストレンジキラーが参加したらしいですぜ…」
部下のストレンジキラーの一言にヘルムフリートは一瞬ピクッと反応する。
「ストレンジキラーとは…世界最強の暗殺者の名前だったな…」
『噂話ではストレンジキラーは旧文明の科学者達が誕生させた人工性の新人類…ポストヒューマンらしいな…』
ヘルムフリートは数秒間沈黙するものの…。
「伝説の殺し屋であるストレンジキラーが相手であれば一筋縄では不可能だが…抑止力である神器を駆使すればブラッドウルフの奴等も畏怖するさ…場合によっては戦闘が発生せずに投降するだろう…」
「なっ!?神器ですって!?」
神器の一言に乗組員達は身震いしたのである。
「大将軍!?大量破壊兵器の神器なんか駆使しちまったら…全世界が再度滅亡しちまうぜ!大将軍は本気なのですか!?」
神器とは所謂大量破壊兵器の一種でありネオサイクロプスは最終手段として神器を保有する。本来は抑止力としての代物であるが…。ヘルムフリートは仮想敵であるブラッドウルフとの大激戦に神器の使用も検討したのである。
「大将軍は世界最終戦争を再現させたいのですか!?」
周囲の部下達は神器の使用に猛反対する。
「俺達の目的は旧世界連合による統一政権の再興なのだ…ブラッドウルフの存在は俺達にとって脅威だからな…」
すると数人の乗組員がヘルムフリートの思惑に賛成したのである。
「俺達は大将軍の意向に賛成しますよ!」
「俺達にとってブラッドウルフは最大の大敵なのです!徹底的に奴等を壊滅させましょう!」
周囲の者達は一部の賛同者に絶句する。サウスアイランド諸島攻略作戦から一週間後…。ネオサイクロプスの存在は世界各地に知れ渡りブラッドウルフも彼等の存在を周知したのである。ブラッドウルフ総大将のフィルヴァスは本拠地の会議室にて三人の部下達と密談する。
「貴様達も噂話を熟知しただろうが…奴等が…海賊集団のネオサイクロプスが行動を開始したみたいだな…」
「総大将…如何されますか?恐らく奴等は俺達の本拠地である亜大陸地帯にも手出しするでしょう…ネオサイクロプスとの全面戦争は回避出来ませんよ…」
ブラッドウルフ内部でも戦闘員達はネオサイクロプスの脅威にビクビクしたのである。ネオサイクロプスが保有する大量破壊兵器の神器の存在は世界的にも有名であり彼等との戦闘は無謀であると誰しもが感じる。
「山賊要塞を占拠した影響でブラッドウルフの戦力は数段階強大化しましたが…ネオサイクロプスには大量破壊兵器の神器が存在しますからね…彼等との徹底抗戦は亜大陸地帯の焦土化を意味するでしょう…」
「奴等の神器とやらは非常に厄介だからな…」
すると一人の部下が恐る恐る発言する。
「ネオサイクロプスの総大将…ヘルムフリートとは一度会談するべきでは?ネオサイクロプスとの戦争は絶対に回避するべきです…最悪亜大陸地帯に神器が投下された場合…十七万人の総人口は一瞬で死滅するでしょう…」
フィルヴァスは不本意であるが…。
「止むを得ないか…大量破壊兵器の神器を駆使されては元も子もないからな…」
フィルヴァスは今回ばかりは部下の意見に同意したのである。
「ネオサイクロプスのヘルムフリートと会談して…談判するのが最良だな…」
すると直後…。
「敵軍の総大将と談判だと?愚か者が…」
「なっ!?」
「貴様は…」
最精鋭のストレンジキラーが会議室に無断で侵入したのである。
「ストレンジキラー…如何して貴様が会議室に?」
ストレンジキラーは殺気立った形相でフィルヴァスを凝視する。
「フィルヴァス…奴等との徹底抗戦を強行させろ…何が不戦の会談だ…滑稽だな…」
戦闘を強行させたいストレンジキラーにとって不戦の会談は言語道断…。ネオサイクロプスとの平和的交渉には猛反対だったのである。部下の一人が恐る恐る…。
「ストレンジキラー…好い加減にしろ!ネオサイクロプスとの大戦争は亜大陸地帯にとって存亡の危機なのだぞ!超人の貴様だって無事では…」
ストレンジキラーは右腕の義手から対物ライフルに変形させると部下の一人を殺害したのである。頭部は破壊され室内の彼方此方に血肉が飛散する。
「ストレンジキラー…」
「えっ…」
総大将のフィルヴァスは勿論…。二人の部下達はストレンジキラーの残虐性に畏怖したのである。ストレンジキラーは無表情で問い掛ける。
「今度は誰が俺に殺されたいか?指名したければ指名しろ…」
周囲の者達は沈黙したのである。
「俺からの至上命令だ…後日…ネオサイクロプスに宣戦布告を表明しろ…」
ストレンジキラーは退室する。
『ストレンジキラー…』
今回の出来事からフィルヴァスはストレンジキラーの存在がブラッドウルフ全体にとって厄介であると自覚…。今回の出来事以降フィルヴァスは外部の敵軍よりも部下であるストレンジキラーに畏怖したのである。ストレンジキラーの個人的強行によってネオサイクロプスとの無血の平和的会談は実現されず…。ブラッドウルフは止むを得ず仮想敵のネオサイクロプスに宣戦を布告したのである。

第四話

開戦
宣戦布告から三日後…。ブラッドウルフはネオサイクロプスとの戦闘を想定して沿岸一帯を要塞化させたのである。開戦の準備は万端であったが…。一触即発の事態に戦闘員達の戦意は実質的に皆無だったのである。総大将のフィルヴァスも今回は無謀であると想念するのだがストレンジキラーの暴発に畏怖…。表向きのみならネオサイクロプスに対する徹底抗戦を表明するも心情では消極的だったのである。フィルヴァスは双眼鏡を所持…。沿岸の要塞に設置された防波堤で敵軍の攻撃に警戒する。
「嵐の前の静けさか…非常に物静かだな…」
真昼の海面上は平穏でありフィルヴァスは不吉に感じる。すると四人の部下達が防波堤に移動…。偵察中のフィルヴァスに近寄る。
「総大将…あんたは本気ですか?」
「奴等…ネオサイクロプスとの戦争なんて無謀ですぜ…」
彼等はネオサイクロプスとの戦争に反対する者達でありフィルヴァスに問い掛けたのである。フィルヴァスは警戒した様子で…。
「当然として俺もネオサイクロプスとの全面戦争なんて御免であるが…今回ばかりは武闘派であるストレンジキラーの暴走を危惧しての判断なのだ…彼奴が自発的に発言するとは予想外であった…」
フィルヴァスは小声で本音を発言したのである。
「戦争の回避は俺達の死滅を意味する…彼奴は…ストレンジキラーは仲間の俺達にも容赦しないだろう…俺達を裏切る可能性も否定出来ない…」
ストレンジキラーの暴挙に四人の部下達は身震いし始める。
「ストレンジキラーが…総大将を誘導させやがったのか?」
「結局…彼奴が主犯格か…」
すると一人の部下が恐る恐る…。
「一か八か俺達だけでストレンジキラーを…暗殺するか?何方にせよ彼奴を野放しにし続けるのは危険過ぎるぜ…」
部下の突発的発言にフィルヴァスは制止する。
「暗殺を計画しても無意味だろう…貴様達ではストレンジキラーは仕留められない…彼奴は最強のポストヒューマンだ…常人では対抗出来ない…」
フィルヴァスにとってもブラッドウルフ全体にとっても軍内部の内紛は勝率を低下させる愚行であり回避したかったのである。
「こんな状況で内輪揉めは奴等にとって絶好機だからな…皮肉にも狂戦士のストレンジキラーはブラッドウルフにとって最強の戦力だ…」
強豪であるストレンジキラーがブラッドウルフを脱退すればブラッドウルフは確実に崩壊すると予測する。
「彼奴を軍内部から脱退させるかは…今回の事態が無事終焉してからだ…」
フィルヴァスは再度偵察を続行したのである。同時刻…。大海原の中心部に位置するネオサイクロプスの本拠地〔シートピア自治区〕軍港ではネオサイクロプス旗艦のフリングホルニと四隻の大型輸送艦が合流したのである。旧世界文明ではシートピア自治区は巨大工場都市として活用され…。世界最終戦争の戦後でも兵器工場としての一部の機能は健在である。資源さえ入手出来れば最低限の実弾兵器やら軍事用ドローンの製造は自前で製造出来る。フリングホルニのブリッジ内部では総司令官のヘルムフリートが全軍に出撃を伝播させる。
「全軍…出撃を開始する…攻略目標は南方大陸に位置する亜大陸…亜大陸地帯だ…」
旗艦フリングホルニを先頭に四隻の大型輸送艦が出航したのである。今回の作戦では大量破壊兵器である神器を旗艦のフリングホルニに搭載…。投入兵力は総勢九百人規模と荒廃した新世界としては最大級の大戦力だったのである。ネオサイクロプスの大艦隊は目的地である亜大陸地帯へと直進する。同日の真夜中…。ストレンジキラーは近辺の村道を単独で散歩したのである。
『面白くなったな…今度の戦闘では何人仕留められるか?』
ストレンジキラーは内心ワクワクする。
『凡人達は不必要にビクビクし過ぎだ…大量破壊兵器?こんなちっぽけな村里が消滅したからって…今更何が問題なのか?』
ストレンジキラーにとって大量破壊兵器…。神器の存在は問題外だったのである。すると道中…。
「ん?」
背後より人気を感じる。
『人気だと?』
ストレンジキラーは警戒した様子で背後を直視したのである。
「貴様等…こんな時間帯に散歩か?」
ストレンジキラーの背後には三人の無頼漢達が佇立する。
『仲間の人間っぽいな…』
彼等は迷彩服でありブラッドウルフの同志達であると認識したのである。無頼漢達は殺気立った形相でストレンジキラーを睥睨する。
「ストレンジキラー…貴様…」
三人の無頼漢達は極度の怒気により全身がプルプルと身震いしたのである。
「如何してボスを戦争なんかに誘導させやがった!?」
「貴様の横暴の所為で村里全体が焦土化しちまう…俺達の今迄の努力は何もかもが水の泡だ…」
ストレンジキラーの噂話はブラッドウルフ全体に出回る。
「誰かが密告しやがったみたいだな…」
ストレンジキラーは特段気にならなかったのか平然とする。
「ストレンジキラー…今回の問題以前に貴様は…」
仲間内にもストレンジキラーの行動には不信に感じる者達が出始める。
「であれば如何する?愚痴りたいなら仲間内で愚痴っとけ…」

第壱部

第一話

真夜中
太古の大昔…。極東の島国〔天球神国〕での出来事である。数百年間と長引いた弱肉強食の戦乱時代は終焉…。天球神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地の村里にて神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。戦乱時代から五十年後の世界暦五千二十二年五月上旬の時期…。南国に聳え立つ荒神山にて錫杖を所持した僧侶が真夜中の荒神山を一人で視察する。
「問題の荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
今現在南国の荒神山は魑魅魍魎の魔窟同然であり通常の人間は誰一人として魔窟の荒神山へは近寄れない。
『如何やら今回の相手も大群だな…』
僧侶の名前は【八正道】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんなにも重苦しい妖気だ…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が周囲に響き渡るのだが…。
「こんな場所…」
山中の空気は非常に重苦しく気味悪くなる。
「普通の人間なら荒神山には近寄りたくても近寄れないな…」
数分後…。八正道は荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
八正道は魑魅魍魎の征伐に尽力する僧侶の一人である。八正道は妖怪退治の専門家であり四六時中妖怪退治に専念する。
「即刻荒神山の妖怪達を撃退して…荒神山を元通りの観光地に戻さなくては…」
すると直後である。
「ん!?」
突如として無数の気配を察知…。
「無数の気配だ…」
無数の気配の出現に八正道は警戒したのである。
「此奴は妖怪特有の妖気か?」
気配の正体は妖怪特有の妖気であり姿形こそ不明瞭であるが…。
「如何やら相手は大群みたいだな…」
妖気は大群であると認識する。無数の妖気が自身に接近するのは認識出来る。無数の気配を察知した数秒後…。
「ん?」
暗闇の自然林より一体の人影を確認したのである。
『人影みたいだが…』
体格は非常に小柄であり正体不明の人影はふら付いた身動きで八正道に接近する。
「人影は人間とは無縁そうだな…」
周辺は漆黒の暗闇であり人影の正体は認識出来ないものの…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは確実である。正体不明の人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
『此奴は…』
正体不明の人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身であると認識出来る。
「此奴は亡霊妖怪…【悪食餓鬼】だな…」
人影の正体とは亡霊妖怪として認識される悪食餓鬼である。悪食餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した亡者達の無念が妖怪化した存在とされ…。特定の地域では純粋に疫病神やら悪霊とも呼称され夜行性からか真夜中に徘徊する。性格は非常に強欲であり人間の人肉が大好物とされる。彼等の性質上生身の人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「こんな場所にも悪食餓鬼が出現するとは…」
八正道は即座に法力を発動…。
『相手が悪食餓鬼程度なら…』
直後である。
「飢饉によって死去した亡者の末路よ…」
生者である八正道を食い殺そうと近寄る悪食餓鬼の肉体を自然発火…。悪食餓鬼は八正道の発動した法力によって燃焼したのである。
「成仏するのだ…」
八正道は焼死した悪食餓鬼に恐る恐る合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の悪食餓鬼が出現…。
「悪食餓鬼…今度は大群だな…」
無数の悪食餓鬼はふら付いた身動きで八正道に近寄る。
「如何やら荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
八正道は総勢数十体から数百体もの悪食餓鬼に包囲されたのである。
「多勢に無勢か…」
戦況は圧倒的に不利であったが…。八正道は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…」
八正道は再度法力を発動…。
「私は貴様達を成仏させる…」
法力によって殺到する無数の悪食餓鬼の肉体を自然発火させたのである。自然発火により八正道の周囲には無数の悪食餓鬼の焼死体が地面に埋没する。
「昇天されよ…」
直後…。地面に埋没した無数の悪食餓鬼の焼死体が消滅したのである。
「今度の相手は?」
自身の背後より不吉の妖気を感じる。
『此奴は悪食餓鬼よりも強大なる妖気だな…一体何が出現したのだ?』
妖気は悪食餓鬼よりも数十倍は強大であり八正道は恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉塊人間が出現する。一頭身の肉塊人間は巨体の人型肉団子であるが…。全身の体表には悪食餓鬼の頭部が無数に確認出来る。
「此奴は悪食餓鬼の親玉…【百鬼悪食餓鬼】か…」
百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体とされ亡霊妖怪の悪食餓鬼の亜種である。別名としては悪食餓鬼の親玉やら悪霊の集合体とも呼称される。
『厄介なのが出現したな…』
体表の無数の頭部が八正道を睥睨…。無数の悪食餓鬼の口先より高熱の熱風を放射したのである。
「熱風!?」
八正道は即座に法力の結界を発動…。百鬼悪食餓鬼の熱風を無力化したのである。
『絶大なる妖力だな…』
結界の発動で熱風の無力化には成功するものの…。八正道は結界の発動によって体力を消耗する。
『百鬼悪食餓鬼は予想以上に強力だな…』
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「極悪非道の妖怪よ…完膚なきまでに死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼悪食餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で体力が消耗…。極度の疲労からか八正道は法力が使用出来なくなる。
「百鬼悪食餓鬼は仕留めたか…」
八正道は周囲を警戒する。
『危険は回避されたのか?東国に戻ろうか…』
一安心した直後…。
「なっ!?」
複数の強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
『複数の妖気か!?』
すると周囲の自然林から三体もの百鬼悪食餓鬼が出現する。
「今度は百鬼悪食餓鬼が…」
『三体も出現するなんて…』
最早複数の百鬼悪食餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり八正道は撤退を余儀無くされる。
『不本意だが…撤退しなければ私自身が危険だな…』
止むを得ず撤退する直前である。
「えっ…」
今度は百鬼悪食餓鬼をも上回る不吉の妖気を察知する。
「今度は別物の妖気だ…一体何が出現したのだ!?」
極度の恐怖心からか正体不明の妖気に八正道は身震いしたのである。
『百鬼悪食餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪が出現したのか!?』
不吉の妖気は大妖怪に拮抗する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
「大妖怪なんて今現在の私では対応出来ない…」
『遭遇すれば私は確実に殺害されるな…』
基本的に妖怪退治に従事する僧侶が大妖怪と交戦する場合…。強大なる法力を駆使出来る僧侶が数人で対応するのが基本であり単独で大妖怪を相手に接戦出来る僧侶は実質一握りとされる。最悪僧侶が単独で強大なる大妖怪と遭遇した場合…。即座に撤退するのが鉄則である。
「止むを得ないな…即刻退散しなければ…」
八正道は退散する寸前…。
「えっ…」
八正道の背後には小柄の女性が佇立する。
『彼女は…人間の女性なのでしょうか?』
背後の女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は多種多様の煌びやかな花柄模様であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの…。彼女は非常に颯爽とした雰囲気である。
『彼女からは私に対する敵意も邪気も感じられないが…無数の妖気は感じられる…彼女の正体は妖怪なのか?』
女性の肉体からは無数の妖気が感じられ彼女が列記とした妖怪なのは確実であるが…。彼女からは人間の八正道に対する敵意も邪気も感じられない。すると妖怪の女性は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
妖怪の女性は氷結の妖術を発動すると三体の百鬼悪食餓鬼は一瞬で全身を氷結させたのである。
「なっ!?」
『三体の百鬼悪食餓鬼が…一瞬で氷結したぞ…彼女の妖術なのか?』
数秒後…。女性の妖術により氷結した百鬼悪食餓鬼の肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…片手間だったわ…」
すると妖怪の女性は無表情で八正道を凝視し始める。
「なっ!?」
八正道は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者ですか?」
八正道は強張った表情で恐る恐る妖怪の女性に問い掛ける。
「失礼かも知れませんが…貴女様が人外の存在なのは確実ですね…」
女性は笑顔で名前を名乗り始める。
「私の名前は【桜花姫】♪妖怪の一人よ♪」
桜花姫と名乗る女性は自身を妖怪の一人と自負したのである。
「貴女様の正体は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘純粋無垢の妖怪であるが…。彼女からは八正道に対する敵意も殺意も感じられない。
『桜花姫…姿形のみなら人間の小町娘ですが…』
八正道は再度警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。彼女からは敵意も悪意も感じられないものの…。正直妖怪の桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
『彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…』
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで♪別に私は非力の人間には手出ししないから…警戒しなくても大丈夫よ♪」
「えっ…」
『人間に…手出ししないって!?』
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪の一体であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
『摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が現実に存在するとは…ん?』
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
『一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?ひょっとして桜花姫は半妖なのか?』
すると桜花姫は冷笑した表情で八正道を凝視する。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は動揺する八正道に説明したのである。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが合体妖怪の私なのよ♪」
「桃子姫様とは…伝説の巫女の?」
桃子姫とは人間の巫女であり強大なる霊能力で多種多様の妖怪達を征伐…。伝説の巫女として有名だったのである。彼女はとある大妖怪との死闘により失踪…。今現在では彼女の行方は不明とされる。
「勿論♪」
桜花姫は桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した異例の集合体であり合体妖怪である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
『彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…』
八正道は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を殺傷せず…同族の妖怪である百鬼悪食餓鬼を攻撃されたのでしょうか?通常の妖怪であれば人間である私を殺傷するでしょう…」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなのよ♪今回は単純に百鬼悪食餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
『単純に気紛れだったのか…』
桜花姫を完全に理解するのは非常に困難であるが…。颯爽とした桜花姫の様子から八正道は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に八正道は一瞬畏怖したのである。
「私は合体妖怪の貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身今回の戦闘で実力不足が認識出来ましたし…妖力だけなら大妖怪に匹敵する桜花姫様を単独で征伐するなんて数十年間修行し続けても不可能でしょうし…」
「私の妖力が大妖怪なんて…あんたは大袈裟ね♪」
『私が大妖怪ですって♪』
八正道の大妖怪の一言に桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんた…名前は?」
八正道に名前を問い掛けたのである。
「えっ…私の名前ですと?」
八正道は桜花姫の問い掛けに一瞬動揺するも…。
「私の名前は…僧侶の八正道です…」
「あんたは八正道様って名前なのね…」
「私は退散しますね…」
八正道は自身の名前を名乗ると即座に荒神山から退散したのである。八正道が退散してより数秒後…。
「私も西国の村里に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。南国の荒神山から移動してより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ〔精霊山〕に移動したのである。
「精霊山の露天風呂に入浴しましょう♪」
片田舎の西国であるが…。天球神国の温泉郷とも呼称され時たま近隣の観光客達が西国の温泉に入浴する。精霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「精霊山の露天風呂だわ♪」
精霊山の露天風呂は非常に摩訶不思議の温泉であり妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
『折角だし♪変化の妖術を駆使しちゃおうかしら♪』
桜花姫はあらゆる妖怪達の集合体である。当然として彼女は変幻自在の変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やらあらゆる器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって精霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか光り輝く真夜中の星空を眺望する。
『妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も気に入らない妖怪と遭遇したら征伐しちゃおうかな?』
直後…。
「えっ?」
突如として背後の竹林より気配を感じる。
『気配だわ…』
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
『妖気かしら?』
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは同族の妖怪であると認識したのである。桜花姫は警戒した様子で背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
「桜花姫…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の美少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪妖気の正体はあんただったのね♪」
「桜花姫…あんたは入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形のみなら人間の小町娘であるが…。彼女も列記とした妖怪の一人であり異端者の桜花姫にとって唯一の悪友であり彼女の理解者である。桜花姫は笑顔で…。
「雪女郎♪折角だし♪あんたも私と一緒に入浴しましょうよ♪最高の湯加減よ♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は肉体の性質上熱湯の温泉が人一倍苦手である。
「私がこんな熱湯の温泉なんかに入浴すれば肉体が崩れ落ちちゃうわよ…あんたは粉雪妖怪の私を殺したいの!?」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪雪女郎♪」
桜花姫は笑顔で雪女郎に謝罪する。
「入浴しないなら…如何してあんたはこんな場所に?ひょっとして入浴中の私を覗き見とか♪あんたは相当の物好きなのね♪雪女郎♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんたね…私に殺されたいのかしら?誰があんたの全裸なんて覗き見するか…」
「私に用事かしら?雪女郎…」
桜花姫が真剣そうな表情で問い掛けると雪女郎は険悪化した表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?雪女郎?」
桜花姫は雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「数時間前の出来事だけど…あんたは南国の荒神山で三体の百鬼悪食餓鬼を殲滅したわよね?」
「荒神山での出来事かしら?問題だったの?」
「問題も何も…大問題よ!」
「えっ?大問題ですって?」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼悪食餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を前代未聞の愚行として批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…非常に面倒なのよ…」
荒神山での噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪も人間に加勢したってあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。一方の桜花姫は平気なのか極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
『えっ…桜花姫…』
「桜花姫は本当に気楽ね…あんたは天然なのかしら?」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪私は妖力だけなら大妖怪に拮抗するかも知れないわよ…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…あんたね…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は絶対に加勢しないわよ…あんたが一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「大妖怪が相手か…面白くなったわね♪」
桜花姫は内心大喜びする。

第二話

大海戦
南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ♪」
東国とは天球神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も天球神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は著名の和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
『誰かしら?僧侶っぽいわね…』
彼女の隣席には錫杖を所持した僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
『彼には見覚えが…』
桜花姫は隣席の僧侶らしき人物を凝視し続ける。
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の八正道である。奇遇にも僧侶の彼が東国の和菓子屋にて来店…。美味しそうに和菓子を頬張ったのである。
「ひょっとしてあんたは…八正道様かしら?」
すると八正道は身震いした様子で恐る恐る…。
「えっ…桜花姫様!?如何して貴女様がこんな場所に!?」
八正道は小声で桜花姫に問い掛ける。
「如何してって…私は単純に東国の和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
八正道は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を察知出来るのは私だけですが…」
桜花姫は警戒する八正道に問い掛ける。
「八正道様?あんたは私を信用出来ないの?私が妖怪だから?」
「信用するも何も…失礼かも知れませんが貴女様は魑魅魍魎の集合体なのです…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
八正道は妖怪を毛嫌いする一人であり人間に対する敵意が無くとも妖怪である桜花姫を信用出来なかったのである。実際に桜花姫が暴走した場合…。八正道が全身全霊で法力を駆使したとしても彼女の暴走を阻止するのは実質困難である。
「八正道様♪あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪無関係の人間には手出ししないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で八正道様に加勢しちゃったから…大勢の妖怪達に毛嫌いされちゃったのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
八正道は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪仲間の妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「えっ…一匹狼って…」
『同族の妖怪達に敵対視された?四面楚歌の状態で彼女は平気なのか?』
八正道は平気そうな彼女に不思議がる。
『桜花姫様…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…』
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。八正道は無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視…。
『彼女は列記とした妖怪の一人ですが…』
桜花姫は人一倍純粋無垢である。
『本当に人間味を感じさせる摩訶不思議の妖怪ですな…本当に桜花姫様は妖怪なのでしょうか?』
桜花姫が本物の人間みたいに感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視し始める。すると直後である。
「ん!?」
『別物の妖気を感じるぞ…妖怪が出現したのか?』
突如として妖気を察知…。八正道は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「八正道様も妖気を察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に強大なる妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「大妖怪の一歩手前なんて面白そうね♪今度も私の出番かしら♪」
「一大事です…私は即刻妖怪を退治しなくては…」
八正道は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?八正道様!?」
一方の桜花姫も全力で疾走…。八正道を追尾したのである。桜花姫は必死に八正道を追尾し続けるのだが…。八正道の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では神速の彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…一休みしないと…」
『八正道様を見失っちゃったわ…』
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「はぁ…仕方ないわね…」
『瞬間移動の妖術で八正道様を先回りしちゃいましょう♪』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。只管疾走し続ける八正道の目前に瞬間移動したのである。
「八正道様♪」
「うわっ!桜花姫様!?」
八正道は突如として自身の目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りされたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を一人で置いてきぼりなんて…八正道様は意地悪ね♪」
「仕方ないですね…桜花姫様…」
八正道は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「目的地に到着したわね♪八正道様♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻確認出来…。海岸の砂浜には十数人もの漁師達が確認出来る。漁師達は非常に困惑した様子であり八正道は恐る恐る彼等に問い掛ける。
「一体如何されましたか?」
漁師達は八正道に反応する。
「あんたは法師様ですか…」
「先程の出来事なのですが…突然近海に巨大妖怪が出現しましてね…」
「巨大妖怪ですと?」
「巨山みたいな巨大真蛸ですよ…抹香鯨なんかよりも数倍は巨体でしたね…」
数時間前の出来事である。漁師達は近海の海辺にて漁猟活動中…。突如として海面上から規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船が襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に漁船諸共食い殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…生憎妖怪の出現で漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとすると巨大真蛸の正体って…水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「水難妖怪…海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって溺死した亡者達の霊魂が妖怪化した海中の化身とされ…。目撃者達の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が共通である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没させられ…。海難入道と遭遇した人間は溺死するのが通例とされる。
「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻該当者である海難入道を仕留めなくては…」
八正道は即刻海難入道の退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様が!?」
突然の桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「小町娘の姉ちゃんよ…あんたは命知らずかい?相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…冗談かな?」
漁師達は桜花姫に呆れ果てる。
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」
「人間のあんたが妖怪だって?子供騙しかな?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と自負する桜花姫に漁師達は揶揄したのである。
「あんた達…仕方ないわね…」
桜花姫は冷笑すると木造の漁船を凝視し始める。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?如何してこんな超常現象が…」
「あんたは一体何を!?」
桜花姫の駆使する変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪器物だって別物に変化させられるわ♪」
漁師達は勿論…。八正道も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「人間の小娘に擬態したのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪なのよ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。
「折角だし…漁師のあんた達も変化の妖術で桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
「えっ…」
桜花姫の冗談に漁師達は身震いした様子で…。恐る恐る後退りし始める。
「ひっ!此奴は人間の小娘に変化した本物の妖怪だ!」
「妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走したのである。
「漁師さん…逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…桜花姫様が人前で荒唐無稽の妖術なんて駆使するから…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は水難妖怪の海難入道を征伐するわよ♪」
桜花姫は再度自身の肉体に変化の妖術を発動する。変化の妖術を発動すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化し始め…。黒髪の長髪は銀髪に発光したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
八正道は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき規格外の物体は何一つとして確認出来ない。
『こんなにも暗闇の海中だと海難入道は発見出来ないわね…』
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
『ひょっとして海難入道の妖気かしら?』
数秒後…。暗闇の遠方より巨岩らしき巨大移動物体が接近する。
「一体何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主頭であり全体的に巨大真蛸らしき巨大物体だったのである。
『巨大真蛸…』
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体の正体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は二町規模に相当する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様はあらゆる妖怪の集合体…合体妖怪の桜花姫だな…人魚の小娘に擬態するとは…」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹なのだ…邪魔するなら妖怪の貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり自身が空腹であれば相手が同族の妖怪であっても躊躇わず捕食する。
「あんたが空腹ね…私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では水難妖怪の俺を仕留められる海中の妖怪は皆無であるぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るものの…。海底下で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。妖怪では最上位に君臨する大妖怪であっても海中の海難入道を仕留めるのは困難である。
「貴様の噂話は熟知したぞ…近頃貴様は敵対すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を征伐したらしいな?」
桜花姫の噂話は地上界のみならず暗闇の海中でも出回り…。拡散したのである。
「私が人間に加勢したから何よ?私は鬱陶しい邪魔者を仕留めただけなのよね♪」
桜花姫は笑顔で反論する。
「妖怪の分際で…愚劣なる人間に加勢した愚か者が…貴様は気に入らないな…」
「気に入らないならあんたは私を如何するのかしら♪」
桜花姫は再度海難入道に挑発したのである。
「当然として妖怪の面汚しである貴様を食い殺す…」
海難入道は即座に巨大触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪海難入道♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念だったな…桜花姫よ…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「妖力を吸収するなんて…」
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。海難入道の吸収能力に一瞬動揺したのである。
『海難入道には妖術が通用しないのかしら?』
「不思議そうな表情だな…桜花姫よ…俺の肉体はあらゆる妖力を吸収出来…あらゆる妖術を無力化出来るのだ…」
海難入道の最強の特殊能力である吸収能力は自身の肉体に接触した多種多様の妖力を吸収出来…。あらゆる妖術を無力化出来る。基本的に妖力を駆使した攻撃法では海難入道は仕留められない。
「貴様があらゆる妖術を扱おうとも…貴様程度の妖術では俺を仕留められない!」
あらゆる魑魅魍魎の集合体である桜花姫でも…。妖力を吸収する妖怪を仕留めるのは非常に困難である。
『妖術が通用しないなんて…此奴は意外と厄介だわ…』
海中では圧倒的に不利であり桜花姫は恐る恐る後退りする。
『今回は出直そうかな?』
後退りする桜花姫に…。
「先程の威勢は如何したか?桜花姫よ…俺に恐怖したか?」
「別に…誰があんたなんかに恐怖するのかしら?」
海難入道に問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。
「貴様は妖力だけなら大妖怪に拮抗するな…是非とも貴様を捕食したい…」
「私を捕食ですって?」
「あらゆる妖怪の集合体である貴様を食い殺せば…俺は凡庸の妖怪から大妖怪の領域へと到達出来るのだからな♪」
大妖怪に到達出来ると豪語する海難入道に桜花姫は笑顔で…。
「私を捕食なんて…あんた程度の大妖怪の出来損ないに出来るかしら♪」
桜花姫は笑顔で挑発したのである。
「最強の水難妖怪である俺を大妖怪の出来損ないだと?貴様…本当に食い殺されたいらしいな…」
「食い殺せるのであれば私を食い殺しなさいよ♪大妖怪の出来損ない♪」
桜花姫は只管に挑発し続ける。
「妖怪の小娘風情が…貴様は本当に気に入らない小娘だな…」
すると海難入道は蛸足の巨大触手で人魚状態の桜花姫を拘束したのである。
「えっ?」
「貴様を食い殺す!覚悟しろ!桜花姫!」
海難入道は一口で桜花姫を捕食…。自身の口内で彼女を咀嚼したのである。
「所詮桜花姫はこんな程度の弱小妖怪なのだ…」
すると直後…。桜花姫を捕食した影響からか先程よりも海難入道の妖力が急上昇したのである。
「俺の妖力が増大化したぞ!」
妖力のみなら今現在の海難入道は大妖怪に匹敵…。海難入道は強大化した自身の妖力に大喜びしたのである。
「今日から俺も大妖怪の仲間入りだな♪雑魚妖怪でも桜花姫を捕食出来たのは何よりの幸運だ♪」
すると直後…。
「ん!?」
海難入道の全身が白煙に覆い包まれ…。推定二町規模の巨大さである海難入道の肉体が消滅したのである。すると白煙の内部から海難入道によって食い殺された桜花姫が再度出現…。彼女は無傷であり平気そうな様子だったのである。
「海難入道を仕留めたし♪」
『私は地上界に戻りましょう♪』
桜花姫は再度瞬間移動の妖術を駆使…。海岸の砂浜へと無事戻ったのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
桜花姫は海岸の砂浜にて僧侶の八正道と再合流する。
「八正道様♪海難入道は無事征伐したわ♪」
「海難入道を征伐されたみたいですね…一瞬桜花姫様の妖気が消滅したので海難入道に食い殺されたのかと…」
「一度海難入道に捕食されちゃったけれどね♪」
桜花姫は一時的に海難入道に捕食されたものの…。体内の胃袋から海難入道の肉体と同化したのである。
「反対に私が海難入道を捕食したのよ♪」
「えっ…桜花姫様が海難入道を捕食ですと?」
今現在海難入道は桜花姫の肉体の一部に変化する。
「兎にも角にも…海難入道は仕留めたから金輪際南国の海域は安全よ♪」
「事件は無事解決出来たので一件落着ですね…桜花姫様…」
八正道も一安心したのである。
「事件も解決出来たし♪戻りましょう♪」
「解散しますかね…」
桜花姫と八正道は解散…。二人は各自の村里へと戻ったのである。

第三話

巫女
南国での海難入道との大海戦から六日後の真夜中…。桜花姫は暇潰しに北国の村里にて散歩したのである。
「退屈ね…」
時間帯は深夜であり村人達は誰一人として確認出来ない。
「妖怪でも出現しないかしら?」
基本的に多数の百鬼夜行が活動するのは真夜中であり日中に出現するのは中堅以上の妖怪である。
「退屈だし…西国に戻ろうかな?」
彼女は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として自身の周囲より無数の気配を感じる。
『気配だわ…』
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒し始める。
『無数の妖気みたいね…』
「相手は妖怪の大群かしら?」
気配の正体は妖気であり無数の妖怪達が自身に接近するのを察知する。
「今回は何が出現するのかしら?」
すると直後である。
「悪食餓鬼の大群だわ…」
周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現…。桜花姫は彼等によって周囲を包囲されたのである。
『私に対する敵意も殺意も感じられるわね…』
突如として出現した悪食餓鬼の大群であるが…。彼等はふら付いた身動きで桜花姫に近寄る。
「如何やらあんた達…私が気に入らないみたいね♪」
本来亡霊妖怪の悪食餓鬼は同族の妖怪には手出ししない性質であるが…。彼等は同族の妖怪である桜花姫を敵対視した様子だったのである。直後…。悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到する。
「はぁ…あんた達は命知らずね…」
桜花姫は殺到する悪食餓鬼に呆れ果てるものの…。
「私が相手するわ…死滅しなさい♪」
桜花姫は念力の妖術を発動する。すると悪食餓鬼の全身が肥大化…。数秒後に肥大化した全身が破裂したのである。桜花姫の地面周辺には無数の鮮血やら肉片が散乱する。
『折角だから変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪』
「あんた達♪桜餅に変化しなさい♪」
今度は変化の妖術を発動…。すると周辺の肉片が小皿に配置された桜餅に変化したのである。
『変化の妖術♪成功だわ♪』
「悪食餓鬼は桜餅に変化したわね♪」
桜花姫は無数の桜餅に大喜びする。彼女は無我夢中に無数の桜餅を頬張り始める。数分後…。桜花姫は数百個もの桜餅を頬張ったのである。
「満足♪満足♪消耗しちゃった妖力も回復出来たわね♪」
今度こそ西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「今度も無数の妖気を感じるわ…」
周囲より無数の妖気を察知する。
「今度も雑魚妖怪の大群ね…」
すると周囲の地面より数十体から数百体もの悪食餓鬼の大群が出現…。今度は悪食餓鬼の亜種である親玉の百鬼悪食餓鬼が五体も確認出来る。
「先程よりも大群だわ…」
『強豪の百鬼悪食餓鬼が五体も出現するなんてね…』
桜花姫は五体の百鬼悪食餓鬼と悪食餓鬼の大群に包囲されたのである。
「毎度だけど…鬱陶しい奴等ね…」
無数の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼が面倒臭いと感じるのか体内の妖力を急上昇…。天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「あんた達…死滅しなさい♪」
桜花姫は落雷の妖術を発動…。黒雲から落雷が発生したのである。落雷が地面に直撃すると地面が抉られ…。周囲の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼を一掃させる。
「所詮は雑魚妖怪ね♪大妖怪に相当する私に挑戦するなんて無謀なのよ♪」
桜花姫は夜空の満月を眺望し始める。
「邪魔者は一掃出来たわ…今度こそ西国の村里に戻ろうかしら…」
直後である。
「えっ?」
突如として不吉の気配を感じる。
『何かしら?』
「妖気?」
不吉の妖気が一歩ずつ桜花姫に接近する。
『妖気なのは確実だけど…』
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。不吉の妖気に戦慄したのである。
『妖気は妖気でも…此奴は大妖怪の妖気ね…』
不吉の妖気は大妖怪の妖気であり桜花姫は警戒する。
「一体何が…」
『出現するのかしら?』
すると彼女の背後より…。
「貴様はあらゆる妖怪達の集合体…桜花姫か…」
「えっ!?」
桜花姫は警戒した様子で背後を直視したのである。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは芸者風の着物姿の女性であり彼女は無表情で桜花姫を凝視する。
「私は…【羅刹女】…大妖怪の一人だ…」
『えっ!?羅刹女って…大陸出身の…』
羅刹女とは大陸出身の大妖怪であるが…。外見のみなら小柄の人間の女性である。羅刹女は絶大なる妖力によって北国一帯を支配する大妖怪であり大勢の村人達は勿論…。数多の妖怪達が大妖怪である彼女に畏怖する。別名としては妖怪達の総大将とも呼称される。
「羅刹女…こんな場所で大妖怪のあんたと遭遇するなんてね…」
桜花姫は羅刹女に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
『如何して大陸の大妖怪がこんな片田舎みたいな場所に…』
すると羅刹女は後退りする桜花姫を直視…。冷笑したのである。
「貴様…私に対する恐怖心か?近頃の噂話では貴様は打倒すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を仕留めたらしいな…」
「私が人間に加勢したから何よ?私が気に入らない妖怪達を仕留めるのは私の勝手でしょう…鬱陶しいわね…」
「此奴…小娘の分際で…」
羅刹女は桜花姫の挑発的態度に苛立ったのか険悪化した形相で彼女に睥睨する。
「妖怪の小娘風情が…所詮貴様は百鬼夜行の面汚しなのだ…」
「私が百鬼夜行の面汚しだから何よ?」
羅刹女は妖刀を抜刀したのである。
「妖刀かしら?」
「百鬼夜行の面汚しである貴様は…俗界の征服者である私が徹底的に征伐する…」
すると羅刹女は神速の身動きで桜花姫の目前に急接近…。一瞬で桜花姫の目前へと瞬間的に移動したのである。
「えっ?」
「貴様を斬殺する…覚悟するのだな…桜花姫…」
羅刹女は妖刀の一振りにより桜花姫の肉体を一刀両断…。彼女の肉体は上半身と下半身に両断されたのである。
「桜花姫は所詮こんな程度の実力者か…他愛無いな…」
羅刹女は桜花姫の予想外の脆弱さに拍子抜けする。
『妖怪は妖怪でも…所詮桜花姫は雑魚妖怪が一体化した肉塊であり…結局は弱小妖怪だったか…』
妖刀の一振りで両断された桜花姫の肉体であるが…。
「ん?」
上半身と下半身から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「此奴は桜花姫の分身体か?」
すると羅刹女の背後より…。
「はぁ…危機一髪だったわ…」
「貴様…分身の妖術で私の攻撃を回避したみたいだな…悪知恵だけは抜群だ…」
桜花姫は分身の妖術の使用により危機一髪羅刹女の攻撃を回避したのである。
「残念だったわね♪羅刹女♪」
桜花姫は笑顔で彼女を挑発するのだが…。
『如何しましょう…私があらゆる妖術を駆使出来ても…大妖怪の羅刹女が相手では圧倒的に不利よね…』
桜花姫は恐る恐る後退りする。
「所詮は空元気か…貴様は雑魚妖怪だ…」
「えっ?」
羅刹女の様子に桜花姫は再度警戒…。
『羅刹女は一体何を?』
すると羅刹女は強烈なる眼力で桜花姫を睥睨したのである。
「私の統治する新世界に…貴様みたいな愚か者の弱小妖怪は不要なのだ…」
直後…。
「えっ!?」
『全身が!?』
桜花姫の全身が肥大化したのである。
「今度こそ死滅せよ…弱小妖怪の集合体…桜花姫…」
「ぎゃっ!」
肥大化した桜花姫の肉体が一瞬で破裂…。地面には無数の鮮血やら肉片が飛散したのである。
「桜花姫は時間が経過すれば復活するだろうが…」
『所詮こんな程度の妖力か…』
同時刻…。
『妖気!?』
八正道は東国の寺院で仮眠するのだが不吉の妖気を察知したのである。
『不吉だ…方角は北方か…』
「北国の村里だな…」
北国の村里から感じる強大なる妖気に八正道は戦慄する。
『北国の村里に一体何が出現した?』
気になった八正道は即座に行動を開始したのである。寺院から外出すると北方の北国へと直行する。移動してから一時間後…。八正道は北国の村里に到達する。
「北国だな…ぐっ!」
北国の村里に到達した八正道であるが…。強大なる妖気に接近した影響からか突如として胸部が重苦しくなる。
『恐らくは大妖怪の妖気だな…一体こんな場所に何が出現したのか?』
強大なる妖気に八正道はふら付いたのである。
「こんな妖気…普通の人間なら気絶するか…」
『場合によっては最悪…絶命するぞ…』
大妖怪の妖気は通常の妖怪とは桁違いに強力であり大妖怪が僅少でも妖力を発動した場合…。普通の人間であれば気絶するか最悪怪死する。強大なる法力を所持する僧侶の八正道でも大妖怪の妖気は非常に重苦しく感じる。すると直後…。
「路地裏か?」
近辺の路地裏より人外の気配を感じる。
『不吉だな…人気とは無縁そうだ…』
八正道は警戒した様子で恐る恐る路地裏へと移動する。民家の物陰から気配の感じる路地裏の様子を注視したのである。
『路地裏では一体何が…』
民家の路地裏では刀剣を所持した芸者風の女性は勿論…。周囲の地面には無数の人肉らしき肉片やら血肉が確認出来る。
『なっ!?彼女は一体何者だ!?地面の死骸も気になるが…』
芸者風の女性から不吉の妖気が感じられる。
『妖気だと!?』
八正道は芸者風の女性に畏怖したのである。
『彼女は人間の女性みたいな姿形だが…恐らく彼女の正体は妖怪だな…村里から感じられた妖気は彼女の妖気だったのか!?』
芸者風の女性は列記とした妖怪であると認識する。
『彼女は其処等の妖怪よりも桁外れの妖気だ…妖気の性質から判断して…彼女は恐らく大妖怪の一人だな…』
通常の妖怪であれば即座に対処するのだが…。彼女は別格の大妖怪であり八正道は畏怖したのである。
『私は如何するべきか?』
相手は本物の大妖怪であり強大なる法力を駆使する八正道であっても…。単独で大妖怪と交戦するのは非常に危険である。大妖怪との遭遇に八正道は混乱する。直後…。
「ん?」
何時の間にか芸者風の女性の姿形が路地裏から消失したのである。
「なっ!?彼女は一体…」
すると直後…。
「えっ?」
背後より強大なる妖気を感じる。八正道は背後の存在に戦慄するものの…。警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「貴女は一体…何者ですか?」
背後の人物とは先程の刀剣を所持した芸者風の女性である。彼女は無表情で八正道を凝視し続ける。
「私の名前は羅刹女…大陸の大妖怪とでも…」
芸者風の女性は自身を大妖怪の羅刹女と名乗る。
「なっ!?羅刹女って…妖怪達の総大将の!?」
羅刹女の名前に八正道は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
「貴様も…彼奴と同様の反応であるな…」
「えっ?彼奴とは…一体誰なのでしょうか?」
「弱小妖怪の肉塊…桜花姫だ…」
桜花姫の名前に八正道は無意識にも反応する。
「えっ…貴女は桜花姫様の…知人なのですか?」
「はっ?私が桜花姫の知人だと?」
八正道の知人の一言に羅刹女は苛立ったのである。
「彼奴は単なる魑魅魍魎の面汚しだ…桜花姫は妖怪の出来損ないであり…征伐すべき対象なのだ…」
羅刹女は無表情で八正道を凝視…。
「貴様は人間の僧侶だな…ひょっとして貴様か?近頃…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶とは…」
八正道は無言であるが一瞬身震いする。
「貴様の反応…如何やら図星みたいだな…」
すると羅刹女は再度妖刀を抜刀したのである。
「人間の僧侶よ…今度は守護者の出現は期待出来ないぞ…何故なら…民家の路地裏の血肉は弱小妖怪の集合体…桜花姫の血肉なのだからな…」
「えっ!?桜花姫様ですと!?」
『桜花姫様が…羅刹女に殺害されたのか!?』
八正道は衝撃の事実に絶句する。
「安心しろ…桜花姫は弱小妖怪の集合体でも不死身だからな…肉体を粉砕したとしても彼女は一定の時間差で復活する…」
「彼女は一定時間で復活するのですか…」
『桜花姫様…』
内心一安心したのである。
「貴様は人間の分際で…弱小妖怪の小娘を心配するとは…余程の物好きだな…」
羅刹女は身構える。
「安心しろ…人間の貴様は何方にせよ…私が仕留めるのだからな…人間の僧侶である貴様を辛苦の無間地獄に招待するぞ…」
「えっ…」
羅刹女は神速の身動きで八正道に接近すると妖刀で腹部を斬撃したのである。
「死滅せよ…人間の僧侶…」
八正道は羅刹女に腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
八正道は地面に横たわったのである。腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
「何方にせよ貴様は失血死する…私は撤収するか…」
羅刹女は何処かへと撤収する。
「ぐっ…」
八正道は口先から吐血したのである。
『私は…今日が…私の…私の命日なのか…』
疫病で病死した女房の笑顔が彼自身の脳裏に想起される。
『如何して女房の笑顔が?結局…私は憎悪した妖怪に殺される運命だったのか…』
彼が妖怪を人一倍憎悪する理由とは自身の家族である女房が亡霊妖怪の悪食餓鬼によって殺害されたからである。悪食餓鬼の攻撃で負傷した人間は再起不能の疫病を発症…。最終的には高熱により衰弱死する。
『私は妖怪達から一人でも大勢の村人を守護したかったが…今日で私の妖怪退治の人生も終了なのか…出来るなら殺伐とした無間地獄よりも…安楽の極楽浄土で女房と再会したいな…』
衰弱化した八正道は両目を瞑目させる。すると直後…。何者かが八正道の傷口に接触したのである。
『なっ!?誰だ!?』
神秘的雰囲気の巫女の女性が横たわった八正道の傷口に接触する。
『彼女は巫女の…女性でしょうか?彼女は非常に神秘的だが…』
傷口に接触するのは神秘さを感じさせる巫女の女性である。彼女は体格こそ小柄であるものの…。非常に神秘的であり容姿端麗の雰囲気だったのである。彼女の周囲には虹色の発光体が無数に確認出来る。
『彼女は一体何者でしょうか?妖怪とは無縁そうだ…邪気と妖気は勿論だが…彼女からは悪意すら感じられない…』
突如として出現した巫女は正体こそ不明であるが…。邪気も妖気も感じられず本物の聖母的女性だったのである。
『世の中は摩訶不思議だ…こんな神秘的雰囲気の人間が存在するとは…』
すると直後…。
「えっ!?」
羅刹女によって斬撃された傷口が一瞬で治癒したのである。
『傷口が治癒したぞ…ひょっとして彼女の正体は天空世界から降臨された…本物の女神様なのか!?』
巫女の霊能力かは不明瞭であるものの…。八正道の傷口は完全に治癒したのである。すると巫女は笑顔で…。
「貴方の傷口は私が完治させました…大丈夫ですよ♪法師様♪」
八正道は警戒するものの正体不明の巫女に感謝する。
「大変感謝します…巫女様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来ました…」
八正道は恐る恐る…。
「ですが貴女様は一体…何者なのでしょうか?ひょっとして貴女様は天空世界から降臨された女神様でしょうか?天女ですかね?」
八正道の問い掛けに巫女は自身の名前を名乗る。
「私の名前は…桃子姫です…」
『えっ!?桃子姫って…』
桃子姫の名前に八正道は驚愕する。
「私は所謂…合体妖怪である桜花姫の片鱗でしょうか…」
巫女の正体とは桜花姫の人間の部分である桃子姫…。彼女本人だったのである。
『彼女は本物の桃子姫様なのか!?』
八正道は恐る恐る彼女を直視…。桃子姫は半透明の霊体ではなく実体化した生身の存在であり列記とした人間の巫女である。
『彼女は人間の巫女だ…現実なのか?』
目前の出来事が現実なのか混乱する。八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「ですが如何して桜花姫様の片鱗である桃子姫様が…合体妖怪である桜花姫様の肉体から出現されたのでしょうか?」
問い掛けられた桃子姫は返答する。
「先程の羅刹女との戦闘により母体である桜花姫の肉体が粉砕された影響でしょうか…一時的に彼女の肉体から分離出来たのです…私自身は人間の肉体ですが彼女の肉体の一部ですからね…」
羅刹女の猛攻撃によって桜花姫の肉体は無数の血肉に粉砕され…。一時的に人間の片鱗である桃子姫が分離され行動したのである。
「今現在の桃子姫様は妖怪の集合体である桜花姫様から独立した状態で行動出来るのですね…」
「性格こそ桜花姫とは微妙に不一致ですが…私自身と桜花姫は一心同体の存在なのです…彼女が元通りの姿形に戻れば私の肉体は自然消滅するでしょう…私が自分の意思で行動出来るのは一時的に発生した超常現象ですから…」
「一時的ですか…」
八正道は内心寂然と感じる。すると数秒後…。
「えっ!?桃子姫様!?」
一時的に実体化した桃子姫の肉体であるが突如として半透明化し始める。
「如何やら時間みたいですね…」
「桃子姫様…貴女は消滅されるのですか…」
桃子姫の消滅に八正道は非常に残念がる。
「法師様♪私なら大丈夫ですよ♪貴方とは今度も再会出来ますから♪」
桃子姫は笑顔で返答する。すると彼女は赤面した様子で…。
「最後ですが…法師様?貴方の名前は?」
「えっ!?私の名前ですか!?」
突然の桃子姫の問い掛けに八正道は一瞬吃驚するも名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
「八正道様ですね…」
直後である。彼女の肉体は虹色の粒子状へと変化…。完全消滅したのである。
「桃子姫様…」
僅少であるが…。
『私は如何して…見ず知らずの相手に落涙するのか?』
八正道は無意識にも涙腺から涙が零れ落ちる。
「ん?」
『突然眠気か?』
疲労の影響からか八正道は再度安眠する。

第四話

復活
翌朝…。一連の闇夜から八正道は民家の裏庭で熟睡する。すると熟睡中…。
「八正道様?八正道様?」
女性らしき美声が自身の耳元に響き渡る。
『一体誰でしょうか?女性の…美声っぽいですが?』
女性の美声に八正道は目覚める。
「八正道様♪お早う御座います♪」
「えっ!?貴女様は桜花姫様!?」
女性らしき美声の正体とは誰であろう合体妖怪の桜花姫だったのである。桜花姫は元通りの状態であり八正道は驚愕する。
「無事だったのですか!?桜花姫様…」
「無事も何も…私は特段何も…」
「ですが桜花姫様…昨夜は…」
「私なら大丈夫よ♪八正道様は心配性なのね♪」
心配する八正道に桜花姫は笑顔で返答したのである。
「私は何度肉体を粉砕されても元通りに復活しちゃうからね♪八正道様が心配しなくても私は大丈夫なのよ♪」
「妖怪の肉体は変幻自在なのですね…」
『ですが桜花姫様の着物に鮮血が…昨夜の戦闘で桜花姫様の肉体が大妖怪の羅刹女によって粉砕されたのは事実みたいですね…』
桜花姫の着物には僅少の鮮血が確認出来る。
『昨夜の出来事は現実で…路地裏の血肉は本当に桜花姫様だったのですね…』
昨夜の出来事は現実であると実感する。
『彼女の様子から…元気そうですが…』
元気そうな彼女の様子に八正道は一安心したのである。
『ですが彼女の肉体の一部に…人間の巫女である桃子姫様の血肉が存在するのですね…桃子姫様…』
桃子姫の面影を想起する。
「如何しちゃったの?八正道様?」
突然の問い掛けに八正道は吃驚したのである。
「えっ!?失礼…」
すると八正道は恐る恐る…。
「大変恐縮なのですが…私は昨夜…大陸の大妖怪…羅刹女と命名される芸者風の女性妖怪と遭遇しまして…」
八正道は羅刹女と遭遇した闇夜の出来事を洗い浚い桜花姫に告白したのである。
「八正道様は大陸の大妖怪…羅刹女と遭遇したのね…」
桜花姫の表情が険悪化したのである。
『えっ…桜花姫様の表情が…』
普段は人一倍安穏そうな桜花姫であるが…。表情が険悪化する桜花姫に八正道は畏怖したのである。
「桜花姫様…羅刹女と名乗る大妖怪は…厳密には何者なのでしょうか?彼女の行動と言動から判断して…同族である桜花姫様を非常に憎悪した様子でしたが…」
「羅刹女は大陸全域と天球神国の北国を支配する世界屈指の大妖怪なの…」
「えっ…彼女は世界屈指の大妖怪ですか…」
『羅刹女は全世界規模の大妖怪だったのか…妖怪の総大将としての異名も本当みたいですね…』
羅刹女と自身との実力差に八正道は絶句する。
「遅かれ早かれ…俗界で彼女に対抗出来る妖怪が一握りなのは確実よ…」
「桜花姫様でも彼女には対抗出来ないのですか?」
「否定したいけれど…事実なのよね…」
八正道の問い掛けに桜花姫は即答したのである。
「何方にせよ…全世界は彼女に征服されるのですね…」
「天下無敵の彼女でも…唯一の弱点が存在するの…」
「唯一の弱点ですと!?彼女にとって何が弱点なのですか!?」
桜花姫は小声で…。
「私の体内で…永眠する桃子姫の存在よ…」
「えっ…桃子姫様ですか?」
「桃子姫はね…」
合体妖怪の桜花姫が誕生する三十年前の出来事である。人間の巫女であった桃子姫は絶大なる霊能力により多種多様の妖怪達を征伐…。各村落の村人達からは人間の巫女である彼女を救済の女神やら天女として崇拝されたのである。大勢の人間達からは救済の女神やら天女として崇拝される反面…。数多の妖怪達からは打倒すべき怨敵として憎悪されたのである。とある某月某日…。大陸一帯を支配する大妖怪羅刹女が天球神国を侵略しに一国である北国の村里へと出現したのである。北国の村里で桃子姫は大妖怪の羅刹女と直接対決…。戦闘は桃子姫が圧倒的に有利であり誰しもが桃子姫の勝利を確信したのである。桃子姫は霊能力が非常に絶大である反面…。肉体的には脆弱であり幼少期から人一倍病弱だったのである。桃子姫は羅刹女の奇襲により瀕死…。反対に大妖怪である羅刹女も桃子姫の霊能力により大半の妖力を浄化され弱体化したのである。桃子姫の奮闘によって羅刹女による天球神国侵略計画は阻止出来たものの…。桃子姫は瀕死状態であり祖国である西国の山奥へと逃走したのである。逃走するも桜花の山中で数多の妖怪達と遭遇…。桃子姫は虫の息であったが妖怪の大群と交戦したのである。桃子姫は自身の体内に数多の妖怪達を封印した状態で人間と妖怪の集合体として妖怪化…。魑魅魍魎の集合体である合体妖怪の桜花姫が桜花の山道で誕生したのである。誕生した当初は赤子の状態であったが…。彼女はとある人間の夫婦に拾われ桜花姫と名付けられる。
「予想しましたが…桜花姫様の過去は私達が想像する以上に壮絶だったのですね…」
すると八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「妖怪である貴女様を養育された義理の両親は?」
桜花姫は一瞬沈黙するも…。
「残念だけど…私の義理の両親は…人間の匪賊達の襲撃で殺されちゃったわ…」
彼女の義理の両親は二十年前に人間の匪賊達の夜襲によって殺害されたのである。
「殺害されたのですか…気の毒ですね…」
八正道は切なく感じる。
『ですが桃子姫様が交戦された大妖怪の正体とは…羅刹女だったのですね…』
八正道は桃子姫と交戦した大妖怪が羅刹女であると確信する。
「私にとっても彼女にとっても…羅刹女は因縁の関係なのよね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…大変失礼しました…今迄私は貴女を単なる極悪非道の妖怪とばかり…御免なさいね…」
桜花姫に謝罪したのである。すると桜花姫は笑顔で…。
「八正道様♪気にしないで♪私なら大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
桜花姫の様子に八正道は一安心したのである。
『桜花姫様…妖怪なのに天女みたいな女性ですね…桃子姫様と瓜二つです…』
桃子姫の面影からか合体妖怪の桜花姫が天空世界の天女みたいに感じられる。同時刻…。南国に位置する山奥のとある洞窟では白装束の集団が集結する。
「同志達よ…全員集結したな…」
集団の人数は六人であり松明を所持する集団の頭領が五人の若者達の人数を確認したのである。
「頭領…こんな洞窟に私達を集合させるなんて…一体何を?」
「今回は何事でしょうか…」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
「早速私が道案内する…各自…私に追尾せよ…」
頭領は洞窟の奥底へと移動する。数分後…。洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!?人間の木乃伊ですか!?」
彼等は木乃伊を直視すると一瞬畏怖する。木乃伊は野犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「一体…誰の遺体なのでしょうか?頭領?」
集団の一人が頭首に問い掛ける。
「彼こそは誰であろう私達南国の英雄であり…各領地の大名達から畏怖された戦乱時代最強の鬼神…泣く子も黙る【月影夜叉王】様の遺体であるぞ!」
「なっ!?木乃伊が月影夜叉王様ですか!?」
月影夜叉王とは戦乱時代に大活躍した南国最強の武士であり名門の月影一族の若武者である。生前では南軍の鬼神とも呼称され各領地の領主達は勿論…。敵味方の将兵達から畏怖されたのである。弱肉強食の戦乱時代当時は南軍最強の英雄として扱われるものの…。彼によって大勢の戦友達が惨殺され憎悪する者達により共存共栄の安穏時代では極悪非道の荒武者として扱われる。世間では極悪非道の大悪党と認識される反面…。一部の村里では今現在でも彼を英雄として神格化し続ける。
「えっ…私達の英雄…月影夜叉王様は死去されたのですか?」
「非常に残念であるが…鬼神の夜叉王様が死去されたのは事実だ…夜叉王様は遺体の状態から判断して…山中の野犬によって食い殺されたのかも知れない…」
「鬼神の夜叉王様が野犬を相手に食い殺されるなんて…正直信じ難いですね…」
今迄夜叉王は行方不明として扱われ生死は不明だったのである。夜叉王の死因こそは不明瞭であるものの…。今回で夜叉王が死亡したと判明する。
「勿論…事実を熟知したのは私達だけだぞ…夜叉王様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
集団の頭首は五十年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼神の月影夜叉王を神格化する一人であり奇遇にも夜叉王が死去した数日後に夜叉王の遺体を発見したのである。
「頭領は夜叉王様の遺体を如何されるのですか?」
頭領は恐る恐る一息する。
「黄泉の世界から死没者である月影夜叉王様を…完全なる生身の生者として復活させるのだ…」
「なっ!?」
彼等は頭領の突発的発言に驚愕したのである。
「最早死没者である夜叉王様を…完全なる生者として復活させられるのですか!?」
「黄泉の世界の死没者を俗界の生者として復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?非現実的では?」
周囲の者達は内心胡散臭いと感じるものの…。問い掛けられた頭領は即答する。
「実現出来るとも…無論黄泉の世界の死没者を完全なる生者として復活させるには相応の…犠牲が必要不可欠であるが…」
「相応の…犠牲ですと?犠牲とは一体…」
すると頭領は隠し持った拳銃を携帯したのである。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国で調達した最新式の拳銃だ…此奴で貴様達の生命力を頂戴する…私達の英雄…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様達の生命力が必要不可欠であるからな…覚悟せよ…」
「ひっ!」
「俺達は殺される!逃げろ!」
五人の若者達は頭領の所持する拳銃に畏怖したのか即座に逃走する。
「極楽浄土で未来永劫安眠せよ…」
頭領は背後から四人の若者達に発砲…。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
拳銃で四人を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…俺は死にたくないよ…」
若者は極度の恐怖心からか身震いした様子で涙腺からは涙が零れ落ちる。
「貴様が恐怖するのは勿論理解出来るが…本来死没者を完全なる生者として復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」
数千年前の太古の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに百人もの人間達を人身御供として利用した死者蘇生の儀式が各地の村里で実行されたのである。当時は頻繁に死者蘇生の儀式が実行されたが…。死者蘇生の儀式で死没者が復活した事例は実質皆無とされる。非人道的理由からか今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも死者蘇生の儀式は完全なる愚行として厳禁されたのである。
「私は今迄に九十五人もの人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだ…」
頭領は拳銃に弾丸を装填させる。
「南国の鬼神…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」
一発の銃弾が若者の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
彼を即死させたのである。
「夜叉王様を生身の生者として復活させるには…彼等の鮮血が必要だな…」
頭首は今迄に九十五人もの人間達を殺害…。夜叉王の木乃伊に殺害した人間の血液を含有させたのである。
「今回で五人の血液を入手出来たぞ…」
殺害した五人の遺体から鮮血を指先に採取…。
『五人の血液を…夜叉王様の肉体に…』
彼等の鮮血を夜叉王の木乃伊に接触させたのである。
「南国の英雄であり鬼神…月影夜叉王様♪」
死没者である夜叉王の復活に期待する。
「黄泉の世界から俗界に戻られよ…夜叉王様!」
一分間が経過するのだが…。
「何故だ!?何故…月影夜叉王様は生者として復活されないのだ!?」
夜叉王の木乃伊は復活するばかりか何一つとして身動きしない。
『ひょっとして儀式に不備が…』
すると直後である。
「えっ…」
突如として夜叉王の遺体が破裂…。洞窟内部に夜叉王の血肉が飛散する。
「ひっ!」
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「一体何が…なっ!?」
破裂した夜叉王の肉片に頭領は驚愕する。
「夜叉王様の…肉体が…」
『如何して…夜叉王様がこんな状態に…』
頭領は破裂した夜叉王の肉体を直視…。絶望したのである。
「こんな状態では夜叉王様は二度と復活出来なくなるぞ…』
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
「結局…死没者を復活させる死者蘇生の儀式とは…出鱈目だったのか…」
出鱈目の儀式に頭領は後悔したのである。
『結局…私は単なる人殺しだったのか…』
自身の行動が愚行であり単なる殺人であると自覚した直後…。背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を警戒…。背後を直視すると頭領の背後には刀剣を所持した芸者風の着物姿の女性が佇立する。
「貴様は一体何者だ!?女子か?」
すると芸者風の着物姿の女性が発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの同族を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…醜悪であるな…」
頭領は恐る恐る…。
「貴女様は一体何者なのでしょうか?」
問い掛けられた芸者風の女性は即答する。
「私は…大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
「大陸の大妖怪…羅刹女ですと?」
羅刹女は飛散した夜叉王の血肉を凝視始める。
「貴殿は…戦乱時代の月影夜叉王と名乗る…極悪非道の亡者を俗界に復活させたいみたいだな…」
問い掛けられた頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも…私にとって鬼神の月影夜叉王様は未来永劫南国の英雄であり…未来永劫南国の武神なのですから…」
「貴殿の崇拝する月影夜叉王を復活させたいのであれば…人柱として貴殿自身の生命力を私に授与せよ…」
「私自身の生命力ですか…」
「黄泉の世界の亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠なのだ…貴殿が拒否すれば鬼神の月影夜叉王は未来永劫俗界へは復活出来ない…」
頭領は一瞬躊躇うものの…。
「であれば羅刹女とやら…承知しました…私自身の生命力を月影夜叉王様に授与しましょう…」
『私自身の血肉で鬼神の夜叉王様が復活されるのであれば止むを得ないな…』
不本意であるが頭領は承諾したのである。
「であれば貴殿の生命力を代償に…死没者の月影夜叉王を最強の大妖怪として復活させる…」
直後…。
「なっ!?発火だと!?」
羅刹女の妖力からか頭領の皮膚が突発的に発火したのである。高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は一瞬で黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生し始め…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…大妖怪…月影夜叉王よ…」
夜叉王は素肌が死者を連想させる灰白色であったが…。生前と同様の姿形に復活したのである。
「如何して私がこんな場所に?私は…大勢の家臣達に暗殺されて…」
「夜叉王とやら…貴殿は…」
羅刹女は自身が復活した経緯を一部始終夜叉王に説明する。
「私は…黄泉の世界から復活したのか…」
「夜叉王よ…今現在の貴殿は私の妖力で大妖怪の肉体であるが…今現在の貴殿は生前よりも強力だ…其処等の弱小妖怪達とは別格の妖力であるぞ…」
普段は無表情の夜叉王であるが…。
『妖怪の肉体なのは…正直気に入らないが…』
微笑したのである。
「俗界で自由に暴れ回れるのであれば妖怪の肉体でも止むを得ないな♪」
すると羅刹女は復活させた代償として夜叉王に交換条件を提示したのである。
「交換条件として…貴殿は愚劣なる大勢の人間達は勿論…私が憎悪する妖怪の小娘…怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅するのだ…大妖怪として復活した貴殿であれば桜花姫を殲滅出来るよな?」
「桜花姫だと?桜花姫とは一体何者なのだ?」
「桜花姫は私が憎悪する妖怪だ…私にとって最大の怨敵であり復讐相手なのだ…姿形のみなら人間の小町娘であるが…正真正銘妖怪の小娘であるぞ…貴殿の絶大なる妖力で彼奴を完膚なきまでに殲滅するのだ…」
「桜花姫って名前の…女人の妖怪を殲滅する任務か…」
「貴殿が桜花姫を殲滅出来れば…未来永劫貴殿の自由を約束する…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「折角復活したのであれば…あんたとの約束は厳守するさ…」
両者は交渉成立する。夜叉王は羅刹女に問い掛ける。
「あんたは一体何者だ?女人の妖怪みたいだが…」
「私は大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
問い掛けられた羅刹女は自身を大陸の大妖怪と自負する。
「羅刹女だと?あんたは大陸の大妖怪か…其処等の妖怪とは別格みたいだな…」
数秒後…。
「鬼神の月影夜叉王よ…再度黄泉の世界に戻りたくなければ…俗界で思う存分醜悪なる人間達と怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅せよ…大妖怪としての貴殿の使命だ…」
すると羅刹女の姿形が消滅したのである。
「思う存分人間達と桜花姫と命名される妖怪を殲滅する任務とは…」
『女人の大妖怪に命令されるのは正直気に入らないが…大妖怪の肉体でも折角復活出来たのだからな…』
夜叉王の心情より人間達への殺意が芽生える。
「近日中にでも…」
『一先ずは桜花姫と名乗る…女人の妖怪を殲滅するべきだな…』
夜叉王は洞窟から脱出したのである。一連の出来事から三日後の真昼…。西国の村里では桜花姫の悪友である雪女郎が村道を散歩する。
「はぁ…退屈だわ…」
西国の村里は過疎地であり人間との揉め事も時たまである。平穏の日常に雪女郎は退屈に感じられる。
「退屈だし家屋敷に戻ろうかな?」
雪女郎は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。突如として不吉の気配を感じる。
「えっ!?」
『何かしら!?』
不吉の気配に雪女郎は周囲を警戒したのである。
『人間!?妖怪!?』
近辺より絶大なる邪気と殺意を感じる。
『気配の正体は不明だけど…邪気と殺気は感じられるわ…一体何かしら?』
すると彼女の背後より…。
『背後!?』
雪女郎は恐る恐る背後を警戒したのである。彼女の背後には鬼神を連想させる重厚なる甲冑を装備…。刀剣を所持した武士が佇立する。
『えっ…何者なの?武士?』
雪女郎の背後に存在するのは正体不明の武士であるが…。
『戦乱時代?今時甲冑の武士なんて…時代錯誤なのかしら?』
雪女郎は恐る恐る甲冑の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?」
すると武士は無表情で…。
「私は南軍の鬼神…月影夜叉王だ…」
甲冑の武士は自身を鬼神の月影夜叉王と名乗る。
『えっ…此奴…月影夜叉王なの!?』
夜叉王は本来人間であるものの戦乱時代の最中では数百体もの妖怪達を殺害…。人間のみならず数多の妖怪達からも畏怖されたのである。
『月影夜叉王って戦乱時代に活躍した人間よね?』
雪女郎は再度夜叉王に問い掛ける。
「如何して人間のあんたが…こんな場所に?」
「私を人間だと?」
「えっ?」
「今現在の私は…大妖怪だぞ…」
「えっ!?大妖怪ですって!?」
「厳密には…妖怪化した人間とでも…」
雪女郎は夜叉王の返答に驚愕したのである。冗談かと思いきや…。
『此奴の肉体から…妖力が感じられるわ…本当に此奴…妖怪化した人間なのね…』
雪女郎は夜叉王に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
『如何して人間の夜叉王が妖気を?ひょっとして此奴も合体妖怪の桜花姫みたいに人間と数多の妖怪達の集合体なのかしら?』
すると夜叉王は雪女郎を睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する夜叉王に雪女郎は戦慄する。
「貴様は…女人の妖怪…桜花姫か?」
『えっ!?桜花姫ですって!?』
夜叉王の問い掛けに雪女郎は絶句したのである。
『此奴も…桜花姫を敵対する妖怪の一人なのかしら?』
「貴様は女人の妖怪…桜花姫なのか?人違いであるか?」
「人違いよ…私は粉雪妖怪の…雪女郎だからね…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は人違いであると返答する。
「人違いであったか…残念であるが貴様は命拾いしたな…」
雪女郎は警戒した様子で恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「あんたは如何して桜花姫を?彼女に用事かしら?」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は即答する。
「私は彼奴を徹底的に殲滅する…今現在の私にとって桜花姫を殲滅するのは最大の使命であるからな…」
『此奴も桜花姫を敵対視する妖怪の一人なのね…面倒臭いわね…』
雪女郎は困惑したのである。
『如何しましょう…此奴は大妖怪っぽいし…凡庸の妖怪の私では大妖怪の夜叉王には対抗出来ないわ…』
すると夜叉王は再度雪女郎を凝視したのである。
「粉雪妖怪の雪女郎とやら…私からの最後の質問であるが…貴様は桜花姫と名乗る女人の妖怪の居場所を知らないか?」
「えっ?桜花姫の居場所ですって…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は困惑するのだが…。
「桜花姫なら…恐らくは南国の村里で散歩中でしょうね…」
「南国の村里か…」
直後である。夜叉王は神速の身動きで南国へと移動し始める。
『結局何者だったのかしら?彼奴…』
「何はともあれ…桜花姫に報告しないと!」
雪女郎は即座に桜花姫の家屋敷へと移動する。
「桜花姫!桜花姫!」
雪女郎は桜花姫の家屋敷の居間へと入室したのである。
「えっ…あんたは粉雪妖怪の雪女郎?突然如何しちゃったのよ?」
「如何しちゃったのも何も…一大事なのよ!桜花姫!」
「えっ?一大事ですって?今度は何事かしら?」
彼女の様子から判断して大事件発生だと察知する。
「何が発生したのよ?雪女郎?」
「月影夜叉王って名前の妖怪化した人間が…桜花姫に…桜花姫に…」
「月影夜叉王ですって?」
すると桜花姫は笑顔で…。
「ひょっとして夜叉王って妖怪が私に告白したのかしら♪夜叉王って妖怪は相当の物好きみたいね♪私に見惚れるなんてね♪」
他人事の桜花姫に雪女郎は呆れ果てる。
「桜花姫は本当に危機感が皆無ね!あんたは自分の立場を弁えなさい!一触即発の一大事なのよ!」
雪女郎は先程の出来事を一部始終桜花姫に告白したのである。
「月影夜叉王って大妖怪が私を殺しに?面白そうね…」
桜花姫は狂喜乱舞に感じる。
「私だって反撃するわよ♪相手が大妖怪だからって容赦しないからね…」
雪女郎は狂喜乱舞の桜花姫に内心呆れ果てる。
『桜花姫…折角命拾い出来たのに…』
桜花姫は雪女郎に問い掛ける。
「雪女郎?夜叉王って妖怪の居場所は?」
「彼奴なら南国よ…私が彼奴を南国の村里に誘導させたから一先ずは大丈夫…」
「南国の村里ね…承知したわ♪」
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。桜花姫の姿形が消滅する。
「桜花姫…」
『彼女は恐怖心が皆無なのかしら?』
畏怖しない彼女に羨望したのである。同時刻…。桜花姫は瞬間移動の妖術により一瞬で南国の村里へと到達する。
「夜叉王って妖怪は人間の武士みたいな妖怪だったわね?」
桜花姫は村里の風景を眺望するが…。確認出来るのは殺風景の農村地帯ばかりであり甲冑の武士らしき人物は誰一人として確認出来ない。
「甲冑の武士らしき妖怪なんて確認出来ないわね…出直そうかな?」
西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
背後より不吉の気配を感じる。
『気配だわ…一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは鬼神を連想させる甲冑と刀剣を装備した武士である。素顔は非常に美青年であるが…。素肌は灰白色であり武士の肉体からは強大なる邪気と妖気が感じられる。
『甲冑の武士…此奴の肉体から邪気と妖気を感じるわ…』
警戒する桜花姫に武士は問い掛ける。
「貴様は女人の妖怪…桜花姫か?人違いであるか?」
武士の問い掛けに桜花姫は笑顔で…。
「私は桜花姫よ♪ひょっとしてあんたは月影夜叉王って武士の妖怪かしら?」
桜花姫の問い掛けに夜叉王は即答する。
「無論である…厳密には妖怪化した人間の武士とでも…」
「あんたは妖怪化した人間なのね…」
「貴様が女人の妖怪…桜花姫であるなら…」
夜叉王は刀剣を抜刀したのである。
「私の使命だ…即刻貴様を殲滅する…」
「私を殲滅ですって?あんたなんかに出来るかしら?」
桜花姫は笑顔だが…。夜叉王に警戒したのである。
『月影夜叉王は其処等の妖怪よりは強力そうだけど…大妖怪の羅刹女と比較すれば私一人でも対処出来そうね♪』
夜叉王は身構える。
「女人の妖怪…桜花姫…死滅せよ…」
夜叉王は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近したのである。直後…。
「瞬殺だったな…」
刀剣で桜花姫の肉体を上下に両断したのである。
『桜花姫とやら…戦闘能力は其処等の弱小妖怪と同程度だな…』
手応えは感じられたものの…。上半身と下半身に両断された桜花姫の肉体から白煙が発生したのである。
「ん?」
両断された桜花姫の上半身と下半身は白煙に覆い包まれ…。消滅したのである。
「分身の妖術か…」
『桜花姫とやら…一筋縄では殲滅出来まいか…』
すると夜叉王の背後より…。
「残念だったわね♪夜叉王♪あんたが攻撃したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は余裕の様子であり夜叉王に挑発したのである。
「悪運だけは人一倍だな…桜花姫とやら…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は変化の妖術を発動する。
「夜叉王の刀剣よ…砂金に変化しなさい♪」
直後である。変化の妖術により夜叉王の所持する鋼鉄の刀剣が砂金へと変化…。地面には大量の砂金が零れ落ちる。
「刀剣が砂金に変化するとは…」
「如何するのかしら?刀剣が無ければあんたは私に攻撃出来ないわよ♪」
桜花姫は夜叉王を挑発する。
「刀剣が無くとも…」
夜叉王は自身の妖力を実体化…。無体の雷光の刀剣を形作る。
「貴様を仕留めるには…此奴で事足りる…」
「雷光の刀剣ね…」
「今度こそ…貴様を斬殺する…」
夜叉王は自身の妖力により雷光の刀剣を伸長させる。
「えっ?」
雷光の刀剣が自身に突き刺さる直前…。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁で雷光の刀剣を無力化する。
「桜花姫…貴様は結界で私の攻撃を無力化するとは…」
「私が不死身の肉体でも…斬撃は苦痛なのよ…」
雷光の刀剣が突き刺さったとしても桜花姫は不死身の肉体であり外傷は一瞬で再生するものの…。何度も大怪我するのは不死身の彼女でも非常に苦痛である。
「こんな程度の妖術では貴様を仕留めるのは不可能だな…」
夜叉王は妖力を急上昇させる。
「えっ?夜叉王?」
夜叉王の全身から瑠璃色の妖力が発生…。
『夜叉王の妖力が…肉眼でも直視出来るわ…』
上空を眺望すると南国全域が黒雲で覆い包まれたのである。
「黒雲だわ…」
「此奴は奥の手だ…死滅せよ…桜花姫…」
直後…。黒雲から無数の落雷が発生したのである。
「落雷!?」
落雷が地面に落下すると地面が抉れる。
『強力だわ…』
夜叉王が発動した落雷は無差別的に南国の各地へと落下…。村里の村人にも死傷者が出始める。
「村里が…」
『此奴を阻止しないと…非常に面倒ね…』
一発の落雷が桜花姫の直上へと落下したのである。
『えっ!?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪落雷を無力化したのである。
『直撃すれば私は粉砕されたでしょうね…』
「命拾いしたな…桜花姫…今度こそ…ん?」
突如として夜叉王は身動きしなくなる。
「ぐっ!」
「えっ?一体何が発生したの?」
夜叉王は周囲を警戒したのである。
「畜生が…無理に大技を発動した影響なのか?自由に身動き出来なくなるとは…」
「身動き出来ないですって?」
強大なる大妖怪として復活した夜叉王であるが…。彼自身妖怪としては未成熟であり一度に大量の妖力を消耗した影響からか戦闘を継続出来なくなる。
「如何やら…私は妖怪としては未熟みたいだ…」
「あんたは妖力が空っぽみたいね♪」
「命拾いしたな…桜花姫よ…」
夜叉王は桜花姫を凝視し始める。
「俺を殺せる絶好機だぞ…桜花姫…折角大妖怪として復活したが…如何やら今度も地獄の世界に逆戻りか…」
すると桜花姫は笑顔で返答する。
「今回は見逃すわ♪月影夜叉王♪」
「なっ!?」
『桜花姫…』
夜叉王は桜花姫の様子に意外であると感じる。
「あんたは私に対する敵意も悪意も無さそうだし…誰かに命令されたのよね?夜叉王は誰に命令されたのかしら?」
夜叉王は恐る恐る…。
「羅刹女と名乗る女人の大妖怪だ…羅刹女が亡者だった俺を大妖怪として復活させ…貴様の殲滅を強制したのだ…」
「羅刹女ですって…」
『彼奴が人間の武士だった夜叉王を…大妖怪として復活させたのね…』
羅刹女の名前に桜花姫の表情が険悪化する。
『羅刹女は仕留めないと…』
すると夜叉王は無表情で…。
「私は撤収する…貴様が羅刹女を殲滅したければ思う存分に殲滅しろ…」
「えっ?羅刹女はあんたの親玉でしょう?あんたは親玉の彼女を裏切って大丈夫なのかしら?」
夜叉王は桜花姫の発言に呆れ果てる。
「馬鹿者が…彼奴が俺の親玉だと?俺と羅刹女は三日前に対面しただけで…仲間でも上下関係も皆無だぞ…私は私自身の意志で自由に行動するだけだ…」
夜叉王の発言に桜花姫は微笑する。
「承知したわ♪夜叉王♪」
夜叉王は神速の身動きで退散したのである。
『夜叉王…大妖怪みたいだけど…久方振りに面白そうな妖怪と遭遇したわね♪』
桜花姫は夜叉王との遭遇に内心大喜びする。同時刻…。とある遠方の山奥から宿敵の羅刹女が桜花姫を凝視したのである。
「月影夜叉王…大妖怪だとしても弱小妖怪の桜花姫を相手に妖怪化した人間では力不足だったな…」
『妖怪としては未熟の貴様が…無理に大技を駆使するから妖力を消耗したのだ…桜花姫を仕留める直前に妖力の消耗で仕留め損なうとは…大妖怪の恥知らずが…』
羅刹女は夜叉王の無鉄砲さに呆れ果てる。
「結局…私自身が大攻勢を仕掛けなければ…無理みたいだな…」
夜叉王は期待出来ないと判断…。羅刹女は退散したのである。

第五話

能面
大妖怪の月影夜叉王との大戦闘から六日後の真夜中…。西国の村里に隣接する廃村の地面より野良犬に咀嚼された大量の血肉やら人骨が無数に発見されたのである。近隣の村人達からは無間地獄の亡者達が出没したとの噂話が国全体に出回る。同時刻…。東国近辺の辺境地より悪食餓鬼の大群が隣接する各地の村里に出没したのである。騒然とする村人達の噂話が気になった桜花姫は即刻問題の廃村へと直行する。
「廃村の無数の人骨と肉片…東国に出没した悪食餓鬼の大群…」
『無数の妖怪達が出現した因果関係は一体何かしら?』
西国の村里から非常に近辺なのか数分間で到着する近距離である。桜花姫は恐る恐る廃村の様子を眺望する。
「随分殺風景ね…廃村だし当然かしら?」
誰一人として村人が定住しない魔窟であり廃村から無数の妖気を察知したのである。
「廃村から無数の妖気を感じるわ…」
人気は皆無であり廃村の雰囲気から黄泉の世界を連想させる。
「気味悪いわね…」
『空気も息苦しいし…黄泉の世界みたいだわ…』
廃村は非常に息苦しい場所であり普通の人間であれば卒倒しそうな雰囲気である。
「今回の超常現象では何が出現するのかしら?」
『今回は海難入道よりも面倒臭いかも知れないわね…』
廃村の重苦しい空気からか非常に気味悪くなる。廃村の雰囲気から気力が無気力化するものの…。
「廃村中心部の楼閣が非常に不吉だわ…」
廃村中心地の楼閣から非常に重苦しい無数の妖気を察知したのである。
「妖力を消耗するのも面倒臭いからね…力任せで突破しちゃうわよ!」
彼女は鈍足であるものの…。真正面から廃村へと突入する。
「何かしら?」
すると周辺の地面より無数の悪食餓鬼が出現…。大勢で道中を通行する桜花姫に殺到したのである。
「悪食餓鬼?」
桜花姫は無数の悪食餓鬼に包囲される。
「彼等なりの挨拶かしら?」
『悪食餓鬼にとって私は最高の嗜好品みたいね…』
桜花姫は即座に妖力を発動…。半透明の妖力の防壁を発動したのである。防壁の表面より半透明化した血紅色の魔手を無数に出現させる。
「鬱陶しい奴等だわ…」
妖力の防壁から出現した無数の魔手は彼女に殺到する無数の悪食餓鬼の猛攻撃から本体を防備…。血紅色の魔手は桜花姫に殺到する悪食餓鬼を縦横無尽に蹴散らせる。
「人気者も災難だわ♪」
桜花姫は泰然自若とした様子であり無謀にも殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に死滅させたのである。桜花姫の発動した魔手に接触した悪食餓鬼は一瞬で肉体が粉砕される。桜花姫が通過した直後…。桜花姫の通過した地面には悪食餓鬼の無数の肉片やら血肉が彼女の路傍に散乱したのである。桜花姫は一直線に驀進し続ける。数分後…。廃村の中心地に位置する楼閣へと到達する。
「楼閣から不吉の妖気を感じるわね…」
楼閣の最上階から不吉の妖気が感じられる。桜花姫は一息すると恐る恐る楼閣へと潜入したのである。居室には異国風の調度品が散乱した状態であり居住者は誰一人として確認出来ない。
「如何やら大昔は富裕層の居住地だったのかしら…」
楼閣は全面的に洋式風の雰囲気である。
「室内の雰囲気は異国を意識したのかしら?異世界みたいだわ…」
洋式風の調度品ばかりであり全体的に異世界みたいに感じられる。
「最上層に移動しましょう…」
階段から最上層へと移動する。
「博物館みたいだわ…」
最上層へと到達すると楼閣の最上層は骨董品の貯蔵庫であり桜花姫は無尽蔵の異国風の骨董品に魅了されたのである。
「楼閣の骨董品を人間達に競売しちゃえば私も富裕層かしら♪」
すると貯蔵庫の中心部には摩訶不思議なる骨董品が非常に気になる。
「何かしら?ひょっとして能面?」
桜花姫が気になった代物とは精巧に形作られた能面であるものの…。
「表情が気味悪いわね…」
能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「芸術的だけど非常に悪趣味だわ…能面って外見的にも不吉なのよね…」
桜花姫は巨大能面を直視すると鳥肌が立つのか非常に気味悪くなる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…能面なんて気味悪いだけなのよ…私は大嫌いだわ…」
迂闊にも巨大能面に近寄ると恐る恐る巨大能面に接触したのである。
「普通の能面よりも随分特大なのね…単なる装飾品なのかしら?」
先程から不思議に感じるのか桜花姫が楼閣へと潜入した数分後…。
「えっ?内部の妖気が感じられなくなったわ…」
室内に充満した妖気が完全に消失する。
「室内の妖怪は別の場所に移動しちゃったのかしら?」
妖気が皆無であると判断したのである。
「楼閣から脱出しましょう…」
桜花姫は恐る恐る庭園へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。
「物音!?」
彼女は即座に背後を警戒したのである。先程の巨大能面に注目する。
「えっ…一体何事!?」
巨大能面に注目すると能面の両目部分が蛍光色へと変色した状態であり八本もの人間の細腕らしき脚部が形作られる。姿形は巨大化した巨大人面蜘蛛であり中心部の蜘蛛の胴体部分が巨大能面である。
「ひょっとしてあんたは器物の妖怪…【小面蜘蛛】かしら!?」
小面蜘蛛とは霊体妖怪の霊魂が器物である巨大能面へと憑霊…。妖怪化した憑依系統の器物妖怪の一体であり北国では別名として巨大能面の付喪神とも命名される。器物に憑霊出来る呪術により妖怪の集合体である桜花姫をも錯覚させたのである。小面蜘蛛の胴体部分である巨大能面の両目が桜花姫を凝視すると冷笑し始める。
「えっ…気味悪いわね…」
冷笑する小面蜘蛛に桜花姫は気味悪くなる。
『小面蜘蛛なんて…厄介なのが出現したわね…』
小面蜘蛛の出現に桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りする。すると小面蜘蛛は胴体の能面部分の口先より蛍光色の火の玉を無数に放出したのである。
「火の玉だわ…」
蛍光色の火の玉は桜花姫に接近する。
「こんな程度の妖術で…」
桜花姫は再度妖力の防壁を発動…。小面蜘蛛の火の玉を無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を仕留められないわよ♪小面蜘蛛♪」
桜花姫は妖術を発動…。
「焼失するのね…小面蜘蛛…」
小面蜘蛛に発火の妖術を発動したのである。直後…。
「えっ?」
不可解にも小面蜘蛛には発火の妖術が発動されない。
「一体如何してなの?」
『可笑しいわね…如何して小面蜘蛛には発火の妖術が発動されないのかしら?』
すると桜花姫は恐怖心からか身震いする。
『ひょっとして此奴の肉体…〔退魔巨樹〕かしら…』
退魔巨樹とは天球神国に存在する神秘の樹木であり天然記念物である。別名としては霊木とも呼称される。退魔巨樹は人間やら通常の動植物には人畜無害である反面…。超自然的存在とされる妖怪達にとっては最大の天敵である。妖怪が退魔巨樹に接触すると体内の妖力が吸収され…。急速に妖力を消耗する。妖怪が退魔巨樹の樹体に接触し続ければあらゆる妖怪が衰弱死…。屈強の大妖怪であっても衰弱死は回避出来ない。
『海難入道もだけど…此奴にも妖術は通用しないみたいね…如何しましょう?』
桜花姫は恐る恐る後退りしたのである。
『此奴を相手に…真正面からの徹底抗戦は自殺行為よね?』
妖術の通用しない小面蜘蛛との戦闘は圧倒的に不利であり桜花姫は即刻楼閣からの脱出を決意するのだが…。
「きゃっ!」
小面蜘蛛は体内より蜘蛛の白糸を放出したのである。桜花姫は粘着性の白糸に全身を拘束され…。身動き出来なくなったのである。
『迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…』
すると直後…。
「ぐっ!」
『体内の妖力が…』
小面蜘蛛の白糸に接触すると体内の妖力が消耗したのである。
『白糸の影響かしら?妖力が消耗するわ…』
桜花姫は極度の疲労からか極度の眠気を感じ始める。
『えっ…眠気が…』
直後…。
「桜花姫様!」
「えっ?」
突如として出現したのは僧侶の八正道だったのである。
「あんたは八正道様!?如何してこんな場所に!?」
突然の八正道の出現に桜花姫は驚愕する。
「桜花姫様!詳細は後回しです…小面蜘蛛は私が…」
八正道は法力により小面蜘蛛の身動きを封殺したのである。
「器物の妖怪よ…完全に浄化されよ!」
浄化の法術を駆使…。すると能面の体内に憑依した霊体妖怪が浄化され小面蜘蛛は元通りの巨大能面に戻ったのである。
「小面蜘蛛…成仏したか…」
八正道は恐る恐る巨大能面に合掌する。小面蜘蛛が浄化された影響により桜花姫を拘束した粘着性の白糸も消滅したのである。
「えっ?自由自在に身動き出来るわ…私…」
八正道は笑顔で…。
「危機一髪でしたね…桜花姫様♪無事で何よりです♪」
「八正道様♪感謝するわね♪」
桜花姫は人間の八正道が妖怪の天敵である器物妖怪の小面蜘蛛を仕留められたのか問い掛ける。
「如何して八正道様が器物妖怪の小面蜘蛛を簡単に仕留められたのかしら?彼奴は相当の強敵なのよ…」
「小面蜘蛛の能面は退魔巨樹で形作られた代物でしたからね…妖怪にとっては難敵でしょうが…妖力を駆使しない攻撃法によって小面蜘蛛は退治出来るのでしょう…」
小面蜘蛛は妖怪にとっては遭遇したくない強敵である反面…。妖力を駆使しない攻撃法では容易に仕留められる。
「今回ばかりは感謝するわね♪八正道様♪」
桜花姫は八正道に感謝するのだが…。
「前回の出来事ですが…羅刹女の襲撃によって虫の息だった私を貴女様は救済されたのです…当然の行為ですよ…」
「八正道様の傷口を治癒したのは私の体内の桃子姫よ…」
「桃子姫様と桜花姫様は一心同体の存在なのです…桜花姫様が私を瀕死の状態から救済したのも同然ですよ…」
「えっ…八正道様…」
桜花姫は赤面する。すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…」
桜花姫に俵型の麦飯と瓢箪を手渡したのである。
「えっ?麦飯かしら?」
「先程の戦闘で妖力を消耗したでしょう…思う存分に食べなされ…」
「八正道様…」
桜花姫は八正道に手渡された瓢箪の飲料水と麦飯を一瞬で平らげる。
『えっ…桜花姫様…相当空腹だったのですね…』
瓢箪の飲料水と麦飯を平らげた桜花姫に八正道は苦笑いしたのである。
「僅少だけど…多少妖力が戻ったわ…」
すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「如何して八正道様がこんな場所に?」
「桜花姫様に協力を要請したくて…桜花姫様の妖気を追尾して…廃村へと突入したのです…桜花姫様が器物妖怪の小面蜘蛛に苦戦されたのは予想外でしたが…」
「私に協力ですって?何かしら?」
八正道は恐る恐る…。
「今現在の東国なのですが…」
本日の夕方の出来事である。突如として密集地であり天球神国の中心地である東国に無数の百鬼夜行が出現…。彼等は無差別的に中心街の町民達を襲撃したのである。
「東国に無数の妖怪達が出現したの?」
「今現在武士団は勿論…仲間の修行僧達が数多の妖怪達と交戦中なのですが…多勢に無勢でして…桜花姫様の協力が必要不可欠なのです…」
桜花姫は困惑する。現実問題先程の小面蜘蛛との戦闘により大半の妖力を消耗…。単独で多数の妖怪を相手するのは正直不安だったのである。
『如何しましょう…』
桜花姫は困惑するも…。
『道中…遭遇した妖怪達を桜餅に変化させて食べちゃえば消耗した妖力は回復させられそうね…』
「私も協力するわ…八正道様♪」
桜花姫は八正道の依頼を承諾する。
「感謝します…桜花姫様…」
桜花姫と八正道は即座に楼閣から脱出したのである。二人は東国へと急行する。

第六話

強襲
桜花姫と八正道が行動を開始し始めた同時刻…。大陸の大妖怪羅刹女は主戦場の東国歓楽街で武士団と交戦する。
「貴様!?女人の妖怪か!?」
「将兵達!即刻此奴を包囲しろ!」
武士団は即座に羅刹女を包囲したのである。
「命知らずの人間風情が…」
羅刹女は呆れ果てたのか無表情で周囲を確認する。
「私の実力を発揮するには…貴様達程度では力不足だな…」
彼女の見透かした態度に武士団の将兵達は苛立ち始める。
「此奴…」
「相手が女人の妖怪とて構わん!即刻女人の妖怪を征伐せよ!」
刀剣を所持した十数人の武士達が羅刹女に殺到する。
「命知らずの愚か者達が…」
羅刹女は妖術を発動…。
「ん?」
「なっ!?」
突如として武士達は頭部が肥大化したのである。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女の妖術によって肥大化した武士達の頭部が破裂する。
「うわっ!妖術か!?」
「将兵達の頭部が突然破裂したぞ!」
後方の武士達は羅刹女の妖術に畏怖したのである。
「今度は貴様達が私に殺される出番だぞ…」
「ひっ!妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
「殺される!退却だ!全軍…退却せよ!」
周囲の武士達は必死に逃走するのだが…。
『人間風情が…』
「誰一人として…私からは逃げられないぞ…」
羅刹女は後方の武士達にも妖術を発動する。彼等も同様に頭部が肥大化…。破裂したのである。
「所詮人間は非力だな…」
武士団を全滅させた直後…。
「ん?」
彼女の背後より何者かが出現する。
「貴様は何者だ?」
羅刹女は背後を直視したのである。
「久方振りだな…羅刹女…」
「誰かと思いきや…貴殿は月影夜叉王…大妖怪の恥知らずか…」
「大妖怪…羅刹女…」
羅刹女の背後に出現したのは誰であろう南国の鬼神…。大妖怪の月影夜叉王である。
「夜叉王よ…今更私に用事か?ひょっとして貴殿は私の目的に協力するのか?協力するのであれば先日の失敗は黙認するが…」
羅刹女の発言に夜叉王は失笑する。
「誰があんたの協力なんて…」
夜叉王は無表情で雷光の刀剣を生成させる。
「貴殿は恩人である私を裏切るか?大妖怪…月影夜叉王よ…」
「羅刹女…あんたは亡者であった俺を大妖怪として復活させた功績だけは感謝しても感謝し切れないが…俺は人一倍あんたが気に入らない…何よりもあんたは妖怪だ…妖怪である羅刹女に服従するのは半妖の俺には不可能みたいだ…」
「夜叉王…弱小妖怪の桜花姫さえも仕留め切れなかった中途半端の貴殿が…大妖怪である私を仕留めると?所詮貴殿の妖力は宝の持ち腐れだな…」
羅刹女は夜叉王の妖力を宝の持ち腐れと揶揄したのである。羅刹女に揶揄された夜叉王であるが…。
「俺の妖力が宝の持ち腐れか如何なのかは…今回の戦闘で明確化出来る…俺の妖力が宝の持ち腐れであると断定するには早計だぞ…羅刹女…」
夜叉王は雷光の刀剣を生成させる。
「妖力を実体化させた雷光の刀剣か?であれば私は…」
羅刹女も自身の妖刀を抜刀したのである。両者は神速の身動きで突っ込む。両者の妖刀が接触した直後…。周囲に衝撃波が発生する。両者の衝撃波で中心街を徘徊する無数の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が吹っ飛ばされる。
「月影夜叉王…私は貴殿を役立たずと見縊ったが…意外と強力だな…」
両者は一度後退する。
「俺は生前…戦乱時代末期の人間だったが…今迄に九十九体もの妖怪達を仕留めたからな…羅刹女で百体目だ…」
「残念だが…所詮大妖怪の出来損ないである貴様では私を仕留められない…百体目の妖怪を仕留めるのは不可能だぞ…月影夜叉王…」
羅刹女は両手から超高温の火球を発射したのである。
「火球か…」
夜叉王は雷光の刀剣で火球を一刀両断…。左右に両断された火球は夜叉王の背後で爆散したのである。
「こんな程度の妖力なのか?羅刹女よ…貴様は自身を大陸の大妖怪と豪語するが…所詮は単なる称号だったか?」
「挑発だけは一人前だな…月影夜叉王…」
大妖怪の両者が対決する同時刻…。一方の桜花姫と八正道は東国の郊外へと到達したのである。
「東国だわ…」
「郊外に到達しましたね…桜花姫様…」
遠方から無数の火の粉が確認出来る。
「火の粉だわ…主戦場みたいね…」
「突如として無数の妖怪達が出現しましたからね…」
二人は東国と西国を直結する両国橋へと移動するのだが…。逃亡する避難民達やら敗走する将兵達が西国へと逃走したのである。
「如何やら相当の一大事みたいね…」
「何しろ多勢に無勢ですからね…武士団だけで今回の大事件を解決するには力不足でしょう…」
すると三人の修行僧達が八正道に近寄る。
「貴方は八正道様!?無事だったのですね…」
彼等は八正道の無事が確認出来て安心したのである。
「私も貴方達が無事で安心しましたよ…」
「私達は必死に妖怪退治に尽力しましたが…何しろ多勢に無勢でして…」
今回の大事件では大勢の僧侶達は勿論…。修行僧達も無数の妖怪達の鎮圧に派遣されたのである。
「中心街に大妖怪が二体も出現したと…」
「最早私達では二体の大妖怪を相手に対抗出来ません…」
「大変心苦しいのですが…私達では力不足です…」
すると八正道は笑顔で…。
「安心しなされ♪今回は大妖怪に対抗出来る最強の味方が参上しましたから♪」
「えっ?最強の味方ですと?」
「最強の味方とは…一体?」
彼等は最強の味方の一言に反応する。八正道は桜花姫を直視したのである。
「えっ…彼女は?町内の小町娘でしょうか?」
「八正道様…こんな状況下で冗談は非常識かと…」
二人の修行僧は呆れ果てる。二人の修行僧は呆れ果てるのだが…。小柄の修行僧が桜花姫を直視すると畏怖した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「えっ…彼女…」
「ん?」
小柄の修行僧は桜花姫に畏怖する。
「彼女の体内から…無数の妖気が…」
畏怖する小柄の修行僧に二人の修行僧も桜花姫に戦慄し始める。
「えっ!?無数の妖気だと!?」
「本当だ…彼女の肉体から妖気が感じられるぞ!彼女は一体…」
大柄の修行僧が桜花姫を睥睨したのである。
「貴様は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪だな!醜悪なる妖怪がか弱き人間の女性に擬態するとは卑劣だ…」
畏怖する修行僧達に周囲の武士団が近寄る。
「妖気だと!?こんな場所にも妖怪が出現したのか!?」
「妖怪は此奴です!此奴の正体は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪ですよ!」
「なっ!?此奴も妖怪の仲間なのか!?」
「か弱き人間の女子に擬態するとは言語道断だな!」
「此奴の正体が妖怪であるなら…即刻小娘の妖怪を征伐しなくては!」
武士団の将兵達は警戒した様子で即座に抜刀…。桜花姫を包囲したのである。すると八正道は必死に…。
「誤解です!彼女の正体が妖怪だとしても彼女は人間達には手出ししません!大丈夫ですよ…実際虫の息だった私は彼女に救済されました…彼女は伝説の巫女…桃子姫様の再来なのですよ!」
八正道は必死に誤解であると主張するものの…。武士団の将兵達は八正道の発言に猛反発する。
「何を!?貴様…女人の妖怪を庇護するのか!?何が桃子姫の再来だ!」
「貴様は何たる出鱈目を…無数の妖怪達によって俺達の戦友達は勿論!大勢の町民達が醜悪なる妖怪達に食い殺されたのだぞ…極悪非道の妖怪を庇護する貴様も同罪だ!」
「誰が貴様の発言を信用出来るか!女人の妖怪を庇護するのであれば僧侶の貴様も斬首するぞ!」
絶望的状況下であり誰しもが八正道の発言を信用出来なかったのである。最早絶体絶命かと思いきや…。一人の老人が無言の桜花姫に近寄る。若齢の修行僧が動揺した様子で恐る恐る…。
「えっ…貴方様は一体?」
二人の修行僧達も老人に動揺したのである。
「貴方は最長老様ですか!?」
最長老の一言に八正道も反応する。
「えっ?最長老様って…」
老人は僧侶達の最長老だったのである。すると若齢の修行僧が恐る恐る…。
「最長老様!此奴は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪なのですよ!近寄れば最長老様が女人の妖怪に食い殺されます!」
すると最長老は若齢の修行僧に睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する最長老に周囲の修行僧達は沈黙する。
「安心しなさい…妖気は感じられても…彼女からは邪気も殺意も感じられないから大丈夫だよ…彼女は人畜無害だ…」
「えっ…本当に此奴は大丈夫なのか!?」
最長老の発言に修行僧達は勿論…。武士団の将兵達も制止し始める。最長老は再度桜花姫を凝視する。
「貴女からは伝説の巫女…桃子姫様の気配が感じられます…ひょっとして貴女様は桃子姫様の再来なのでしょうか?」
「えっ!?彼女が伝説の巫女…桃子姫様の再来ですと?」
「先程の八正道様の発言は…事実だったのですか?」
最長老の発言に三人の修行僧達は驚愕したのである。すると無言だった桜花姫が発言し始める。
「私は人間の巫女の桃子姫と…数多の妖怪達が一体化した存在なの…所謂魑魅魍魎の集合体なのよね…」
「桃子姫様は大妖怪との死闘で生死不明でしたが…桃子姫様は妖怪の集合体として活動されたのですね…」
八正道は恐る恐る最長老に問い掛ける。
「最長老様は実際に伝説の巫女である桃子姫様と対面されたのですか?」
「勿論生前の桃子姫様とは対面したとも…一度だけだがね…」
最長老は即答する。
「彼女は俗界の女神様に相応しい唯一無二の女性だったよ…正真正銘絶世の美女だったね…」
最長老は戦乱時代末期の人物であり生前の桃子姫と対面した唯一の僧侶である。
「こんな場所で桃子姫様の面影を感じる人物に遭遇出来るなんて…私は幸福です…」
最長老は桃子姫の瓜二つである桜花姫との遭遇に感動したのか涙腺から涙が零れ落ちる。落涙する最長老に桜花姫は困惑…。
「えっ…はぁ…」
『最長老は号泣しちゃったけど…私は如何すれば?』
落涙する最長老に桜花姫は苦笑いしたのである。一方の八正道は疲れ果てたのか全身が脱力する。
「如何やら…大丈夫そうですね…」
最長老の介入により最悪の事態は回避出来…。
『最長老様…感謝しますよ…』
八正道は一安心したのである。すると最長老は笑顔で…。
「八正道よ♪彼女は誰よりも温厚篤実の妖怪だ…貴殿は確りと彼女を援護しなさい♪」
「勿論ですとも♪最長老様♪私は彼女に精一杯尽力しますよ!」
八正道は恐る恐る桜花姫を直視する。
「桜花姫様♪私と一緒に東国に出現した妖怪達を退治しましょう♪」
「私は一先ず消耗しちゃった妖力を回復させないとね…」
桜花姫と八正道は主戦場の東国中心街へと突入したのである。東国の中心街には其処等に肉片やら血肉が散乱…。無数の妖怪達が徘徊したのである。
『悲惨だな…』
無数の悪食餓鬼が数人の町民に殺到…。彼等は無我夢中に人肉を捕食したのである。戦慄の光景であったが…。
「猛反撃開始よ♪」
桜花姫は笑顔で食中の悪食餓鬼に近寄る。
「桜花姫様…」
すると徘徊中の悪食餓鬼が二人に気付いたのか数体の悪食餓鬼が二人に接近する。
「桜花姫様!悪食餓鬼です!反撃しましょう!」
「悪食餓鬼は私一人で片付けるわ♪」
「えっ?」
「私は妖力を回復させたいからね♪」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
数体の悪食餓鬼を大好きな桜餅に変化させたのである。
「悪食餓鬼が桜餅に…」
「私にとって悪食餓鬼は単なる餌食だからね♪」
桜花姫は桜餅に変化させた悪食餓鬼を頬張り始める。
「えっ…」
『桜花姫様は正気なのか?妖怪としては正常なのだろうか?』
生理的に無理なのか八正道は桜花姫が桜餅を頬張る様子に気味悪くなる。
「はぁ…食事中に…」
「如何やら妖怪達の新手ですね…」
すると今度は無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。
「桜花姫様…百鬼悪食餓鬼が五体も出現しました…」
「大物が五体も出現したわね♪好都合だわ♪」
百鬼悪食餓鬼の出現に桜花姫は大喜びする。すると五体の百鬼悪食餓鬼は体表の悪食餓鬼の口先から猛毒の瘴気を放射…。民家の木材やら地面の表土が腐敗したのである。
「黒煙でしょうか?」
「此奴は瘴気よ!八正道様!絶対に呼吸しないでよ!」
「承知しました!桜花姫様!」
八正道は一時的に呼吸を停止させる。
『桜花姫様は空気中の正気を体内に吸収しても大丈夫なのか?』
桜花姫は妖怪であり猛毒の瘴気が体内に潜入しても大丈夫だったのである。基本的に妖怪が放射する瘴気は人間には猛毒である反面…。同族の妖怪に使用しても毒死しない。
「反撃しちゃうわよ♪」
桜花姫は浄化の妖術を発動…。桜花姫の発動した浄化の妖術により百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化されたのである。
「八正道様♪百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化したわ♪呼吸しても大丈夫よ♪」
「感謝します…桜花姫様…」
「今度は♪」
五体の百鬼悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。五体の百鬼悪食餓鬼は桜花姫の大好きな桜餅に変化させる。
「桜花姫様…今度も桜餅ですか…」
八正道は苦笑いしたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させないとね♪」
桜花姫は桜餅に変化した百鬼悪食餓鬼を捕食…。美味しそうに頬張る。
『桜花姫様…悪食だな…』
桜花姫の悪食に八正道は絶句する。
「折角だし♪八正道様も桜餅を食べないかしら?中身は妖怪だけど桜餅は絶品よ♪」
「えっ…私は遠慮しますよ…」
八正道は苦笑いした様子で拒否したのである。
「美味しいのに残念ね…」
『姿形は桜餅でも…妖怪なんて絶対に食べられませんね…』
八正道は内心気味悪くなる。
「満足♪満足♪妖力も万全よ♪」
桜餅を頬張った影響からか桜花姫は消耗した妖力が回復したのである。
「桜花姫様…移動しましょう…ん?」
近辺より強大なる妖気を感じる。
「八正道様も感じるのね…大妖怪の妖気を…」
「二体の大妖怪の妖気でしょうか?如何やら両者は戦闘中みたいですね…一人は羅刹女の妖気でしょうが…相手方の妖気は何者でしょうか?」
「相手方の妖気は恐らく…南国の鬼神…月影夜叉王の妖気でしょうね…」
「えっ!?」
月影夜叉王の名前に八正道は驚愕したのである。
「月影夜叉王ですと!?」
「別に驚愕しなくても…」
「誰だって驚愕しますよ…月影夜叉王は戦乱時代に活躍された歴史的人物なのですからね!」
「死人だった夜叉王は羅刹女に大妖怪として復活させられたみたいなの…」
「夜叉王は妖怪化されたのですか…生前では月影夜叉王は極悪非道の人物だと認識されますからね…非常に厄介でしょう…ですが如何して両者は仲間同士で戦闘を?単純に仲間割れでしょうか?」
「理由は不明だけど二人を放置は出来ないわ…移動しましょう!八正道様…」
「勿論ですとも!桜花姫様!」
桜花姫と八正道は即座に二人の妖気を感じる場所に移動を開始する。数分後…。木材の瓦礫やら破壊された民家が十数軒確認出来る。
「うわぁ…民家が…ひょっとして二人の妖気が影響したのでしょうか?」
「こんな程度…序の口よ…」
「えっ…序の口ですと…」
直後…。八正道は空気が重苦しくなったのか深呼吸が目立ち始める。
「八正道様?大丈夫なの?」
桜花姫は八正道を心配したのである。
「失礼…心配させましたね…桜花姫様♪私なら大丈夫ですよ…」
八正道は苦笑いの表情で返答する。
「ですが正直…大妖怪が放出する妖気は人間には悪影響ですね…」
八正道は絶大なる法力を所持する僧侶の一人であるものの…。大妖怪の妖気は僧侶の彼でも非常に辛苦であり害悪だったのである。すると桜花姫は恐る恐る…。
「八正道様…無理強いしないわ…無理そうなら私一人でも…」
「大丈夫ですよ…桜花姫様!極悪非道の妖怪征伐は私の使命なのですから…私は一人の僧侶として桜花姫様に協力します!」
八正道は責任感が人一倍根強く自身は大丈夫であると断言する。
「八正道様…」
数秒後である。二人は目的地へと到達する。
「えっ?」
「なっ!?」
目的地には殺伐とした二体の大妖怪が対峙したのである。
「羅刹女と…月影夜叉王だわ…」
すると直後…。羅刹女と夜叉王は部外者の桜花姫と八正道に気付いたのである。
「ん?貴様達は?」
「貴様達は弱小妖怪の桜花姫と…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶か?」
「貴女様は羅刹女ですね…如何して大妖怪の貴女様がこんな場所に?羅刹女は一体何が目的なのですか?」
八正道は恐る恐る羅刹女に問い掛ける。
「何が目的なのか?当然として…妖怪達による地上界の天下統一に他ならない…」
羅刹女は全国各地の妖怪達を呼応…。天球神国の人口密集地である東国の中心街を総攻撃したのである。
「妖怪達による地上界の天下統一ですって?」
羅刹女は再度夜叉王を直視する。
「月影夜叉王よ…邪魔者が二人も参上したからな…貴様を仕留めるのは後回しだ…私は一時退散する…」
羅刹女の姿形が消滅したのである。
「羅刹女!?俺との真剣勝負を放棄するとは…」
「彼女…逃げちゃったわね…」
すると直後…。夜叉王は桜花姫と八正道に睥睨したのである。
「貴様等…」
「えっ?何よ?夜叉王…」
二人は夜叉王に警戒するのだが…。夜叉王は妖力で実体化させた雷光の妖刀を消失させたのである。
「あんたは…私達に手出ししないの?」
「今現在の俺に貴様等を仕留める理由は存在しないからな…今現在の俺の敵対者は羅刹女…彼奴だけだ…」
自分達を敵対視しない夜叉王に桜花姫と八正道は意外であると感じる。八正道は恐る恐る夜叉王を直視…。
『月影夜叉王の肉体からは妖力と邪気は勿論ですが…僅少の人気を感じられますね…月影夜叉王は一人の人間が妖怪化した特例の妖怪なのでしょうね…』
夜叉王は一人の人間が妖怪化した存在であり一人の人間と無数の妖怪達が融合化した桜花姫とは別物である。八正道は恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「夜叉王様?如何して貴方は主君である羅刹女に敵対視するのですか?妖怪であったとしても…彼女は貴方の仲間ですよね?」
「妖怪の彼奴が俺の仲間だと?愚か者が…」
夜叉王は失笑したのである。
「俺に妖怪の仲間なんて最初から存在しない…彼奴は俺を完全なる妖怪として復活させたが…俺は彼奴に服従する理由は存在しないし…何よりも俺は気紛れだからな…気に入らなければ相手が人間だろうと…女人の大妖怪だろうと打っ殺す…誰も俺には命令出来ないのだ…」
『此奴…自由奔放なのね…』
桜花姫は夜叉王の発言に苦笑いする。
「貴様等…今回だけは見逃すが…俺が気に入らなければ部外者である貴様等も打っ殺すから覚悟しろよ…」
夜叉王の警告するのだが一方の桜花姫は笑顔で…。
「今度は本気で私と勝負しない♪夜叉王♪」
「えっ!?桜花姫様!?夜叉王と勝負なんて本気ですか!?」
桜花姫の発言に八正道は畏怖したのか身震いする。
「桜花姫様は本気なのですか?相手は本物の大妖怪ですよ…」
「私は本気よ♪八正道様♪」
問い掛けられた桜花姫は再度笑顔で返答したのである。
「貴様との本気の真剣勝負か…大妖怪の俺と勝負したければ羅刹女を相手に殺されるなよ…桜花姫…」
『此奴との真剣勝負か…面白そうだな…桜花姫♪』
内心夜叉王も桜花姫とは真剣に勝負したくなる。
「あんたこそ♪死なないでよ♪夜叉王♪」
すると直後である。
「ん?」
「何かしら?」
「火球ですよ!」
「火球ですって?」
無数の火球が上空より飛来…。砲弾みたいに中心街の各地へと落下したのである。一発の火球が桜花姫一同の方向へと落下する。火球が落下する直前…。夜叉王は雷撃の結界を発動したのである。雷撃の結界により間一髪火球を無力化する。
「此奴は妖怪の仕業だな…羅刹女の新手か?」
無数の火球が東国の各地に落下…。爆撃されたのである。
「如何やら火球は東方の方角ですね…東海から妖気が感じられます…」
「妖気は海面上からね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「東海の妖怪は私が対応しましょう…」
「えっ?八正道様?」
「桜花姫様は羅刹女を仕留めるのです…」
八正道は東方の海辺へと直行したのである。
「八正道様!?」
突然の別行動に桜花姫は困惑する。背後より…。
「えっ?」
恐る恐る背後を警戒したのである。背後には巨大能面の付喪神…。器物妖怪の小面蜘蛛が三体も出現したのである。
「器物の妖怪…小面蜘蛛!?」
『三体も出現するなんて…』
桜花姫は極度の苦手意識からか三体の小面蜘蛛の出現に畏怖する。
「貴様…普段は強気なのにこんな雑魚妖怪を相手に戦慄するとは意外だな…」
器物妖怪の小面蜘蛛にはあらゆる妖術が通用せず…。妖力を吸収する性質から桜花姫とは相性が最悪である。
「此奴は妖怪の天敵なのよ…大妖怪のあんただって…」
「妖怪達の噂話では貴様の戦法は妖術ばかり…身体能力は雑魚らしいな…」
「なっ!?」
『私を雑魚ですって!』
夜叉王の発言には内心苛立ったものの…。自身の身体能力が脆弱なのは事実であり反論出来ない。
「三体の小面蜘蛛は俺が相手する…羅刹女は貴様が片付けるのだな…」
「承知したわ…夜叉王…」
桜花姫は即座に羅刹女の妖気を感じる場所へと直行したのである。同時刻…。東方の海辺へと直行した八正道は海岸へと到達する。
「海中から絶大なる妖気と邪気が感じられますね…」
海面上には何も存在しないのだが…。
「妖気は非常に強力ですね…」
直後である。
「なっ!?」
突如として海面上より推定二町もの巨大坊主頭が出現…。海面上から出現した巨大坊主頭は海岸の八正道を凝視する。
『此奴はひょっとして…』
巨大坊主頭は海中から八本もの巨大触手が確認され…。全体的に巨大真蛸らしき姿形だったのである。
「水難妖怪の…海難入道か?予想以上の巨大さだな…」
巨大坊主頭の正体とは水難妖怪…。巨体の海難入道だったのである。海難入道は大妖怪よりは若干下回る妖力であるものの…。海中では最上位の妖怪である。現段階では海中で海難入道に対抗出来る海中の妖怪は存在しない。
「貴様は命知らずの人間の僧侶か?」
すると海難入道が人語で発言する。
『人語とは…海難入道は人間と会話が出来るみたいですね…』
八正道は恐る恐る海難入道に問い掛ける。
「先程…東国の中心街で無数の火球を発射したのは海難入道ですか?」
「であれば如何する?人間の僧侶よ…何方にせよ非力の貴様は俺に殺される運命なのだ…大人しく俺に殺されろ!」
海難入道は海面上より複数の触手を出現させ高熱の火球を発射したのである。
『元凶は海難入道だったか…』
八正道は法力を発動…。
「はっ!」
法力の結界を形作り海難入道の火球攻撃を無力化したのである。
「法力で俺の攻撃を無力化するとは…貴様は上位陣に君臨する僧侶だな…」
海難入道は触手で攻撃する。
「今度は直接!貴様を粉砕する!覚悟しろ!」
触手が八正道の頭上に接触する直前…。
「ん?」
八正道は法力の結界で海難入道の触手を無力化する。
「命拾いするとは…人間の僧侶…」
「今度は私が反撃しますよ!海難入道!」
八正道は氷結の法術を発動…。
「なっ!?」
海難入道は規格外の巨大さであるが八正道の発動した氷結の法術により一瞬で氷結したのである。
「成仏せよ…」
氷結した海難入道は一瞬で肉体が崩れ落ちる。
「一先ずは安心ですね…」
海難入道を仕留めた八正道は一安心する。

第七話

血戦
大陸の大妖怪羅刹女は単独で東国の根城へと潜入したのである。根城の防衛網は厳重であったが羅刹女は絶大なる妖力により城内の将兵達を徹底的に仕留める。羅刹女は城内を移動中…。
「ん!?侵入者だと!?」
「如何してこんな場所に人間の女子が!?」
二人の将兵が羅刹女に殺到する。
「命知らずの雑兵が…」
羅刹女は妖刀を一振り…。二人の将兵を両断する。
「人間程度で私に挑戦するとは…自殺行為だな…」
周囲の将兵達は羅刹女に戦慄する。
「此奴は女人の妖怪だ…」
「殺されるぞ!逃げろ!」
将兵達は羅刹女から逃走するものの…。
「私からは誰一人として逃げられない…愚劣なる人間達は皆殺しだ…」
羅刹女は金縛りの妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は身動きを封殺されたのである。
『えっ…一体何が!?』
将兵達は必死に肉体を動かそうと踏ん張るのだが…。
『身動き出来ない…俺達は妖術で身動き出来ないのか?』
直後である。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女は念力の妖術を発動する。すると金縛りの妖術で身動き出来なくなった将兵達の全身が肥大化…。破裂したのである。室内全域には彼等の肉片やら血肉が飛散する。
「他愛無いな…」
羅刹女は移動を再開するのだが…。前方の通路より火縄銃を所持した将兵達が並列したのである。
「火縄銃か?」
すると侍大将らしき人物が発言し始める。
「此奴は異国で伝来された最新式の銃火器だぞ!」
鉄砲隊は即座に火縄銃に弾丸を装填…。
「鉄砲隊!女人の妖怪に狙撃せよ!」
鉄砲隊は羅刹女に発砲したのである。火縄銃の銃弾が数発…。羅刹女の肉体に直撃したのである。
「直撃だ!女人の妖怪を射殺出来たか!?」
銃弾の直撃した傷口からは鮮血が流れ出るものの…。羅刹女は平気なのか無表情だったのである。
「ん?」
「此奴…銃弾が直撃したのに平気なのか!?」
将兵達は銃弾が直撃しても平気そうな羅刹女に畏怖する。
「火縄銃とは…所詮はこんな程度か?」
すると直後…。羅刹女は体内の銃弾を無理矢理に抉り出したのである。
「残念だったな…こんな豆鉄砲では私は殺せないぞ…」
銃弾による傷口が一瞬で治癒する。
「此奴…」
火縄銃の通用しない羅刹女に侍大将は苛立ち始める。
「狼狽えるな!再度狙撃しろ!女人の妖怪を仕留めるのだ!」
「鬱陶しい奴等だ…」
羅刹女は妖術を発動する。
「えっ?」
侍大将と鉄砲隊の将兵達の頭部が肥大化…。破裂したのである。
「人間の武器が大妖怪である私に通用するか…」
羅刹女は根城の最上層へと移動する。
「なっ!?女人か!?」
最上層には十数人もの大名達は勿論…。二十数人の将兵が大名達を護衛する。突然の羅刹女の出現に彼等は驚愕したのである。
「貴殿は一体何者だ!?」
大名の一人が羅刹女に問い掛ける。
「私は…大妖怪…羅刹女だ…」
「羅刹女って…」
大妖怪と名乗る羅刹女に周囲の者達は畏怖したのである。
「大妖怪…羅刹女だと!?」
「此奴は大陸の妖怪なのか!?」
「貴殿は女人に変化したのか!?」
護衛の将兵達は即座に抜刀する。
「女人の妖怪!覚悟しろ!」
三人の将兵が羅刹女に殺到したのである。
「雑魚の分際で…」
羅刹女は鎌鼬の妖術を発動…。羅刹女は何も身動きせず三人の将兵は全身が小刻みに粉砕されたのである。
「うわっ!三人の将兵が…」
「妖術なのか!?」
羅刹女の妖術に周囲の者達は恐る恐る後退りする。すると一人の大名が恐る恐る…。
「城内の兵卒達は…」
「奴等か…私が一人ずつ徹底的に殲滅したからな…貴様達がこんな場所で待機し続けても兵卒達は誰一人として戻らないぞ…」
「全滅だと!?」
「狼狽えるな…此奴を殲滅せよ…」
小柄の大名が弱気で将兵達に殲滅を指示する。大名が羅刹女の退治を命令するものの…。護衛の将兵達は羅刹女の妖術に戦慄したのか身動き出来ない。
「貴様達!此奴を殲滅しないか!羅刹女は東国のみならず…天球神国にとって最大の脅威なのだぞ!」
すると戦意喪失した一人の将兵が恐る恐る…。
「無理ですよ…こんな怪物…俺達では如何にも…」
羅刹女の妖力を直視した彼等は完全に戦意喪失したのである。羅刹女は戦意喪失した将兵達に…。
「貴様達…安楽死せよ…」
羅刹女は吸魂の妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は霊魂を吸収され即死したのである。
「なっ!?将兵達が…」
将兵達の全滅に大名達は絶望する。
「私達は…死にたくない…」
「貴殿は何が目的なのだ!?」
「大妖怪の貴殿には村里?一国を授与するぞ…」
羅刹女は呆れ果てる。
「一国だと?問答無用だ…人間は殲滅すべき対象なのだ…」
彼女が東国の大名達を殺害する同時刻…。西国の村里では妖怪達が羅刹女と彼女の部下達による東国襲撃の噂話で狂騒する。
『妖怪達…随分と物騒ね…一体何事かしら?』
桜花姫の悪友である粉雪妖怪…。雪女郎は西国の村里に聳え立つ真夜中の妖怪歓楽街を一人で出歩いたのである。すると彼女の周囲より…。
「姉ちゃんよ♪」
「えっ?あんた達は?」
雪女郎の周囲には一体の赤鬼と四体の小鬼が彼女を包囲する。
「姉ちゃんは可愛らしいな♪」
「折角だし…姉ちゃんは俺達と一緒に夜遊びしないか?」
「俺達と一緒に東国で人間を打っ殺し…人肉でも味見しないか♪」
『うわっ…面倒臭いわね…』
彼等の問い掛けに雪女郎は呆れ果てる。
「はぁ…あんた達…夜遊びしたかったら私以外の女人妖怪と夜遊びすれば?私は常日頃から大忙しなの…悪いけど私以外の女人妖怪と夜遊びしなさい…」
「此奴!生意気だな!」
親玉らしき赤鬼の妖怪が苛立ったのか金棒で雪女郎に打撃するのだ…。雪女郎は打撃される直前に粉雪分身の妖術を発動したのである。
「兄貴…此奴は粉雪ですぜ…」
打撃された雪女郎の分身体は粉雪へと変化…。簡単に崩れ落ちる。
「此奴…分身の妖術で…」
すると彼等の背後より…。
「あんた達…鬱陶しいわね…」
「兄貴!此奴は生意気だ…全員で小娘を打っ殺そうぜ!」
「此奴は全員で袋叩きだ!」
四体の小鬼も金棒を所持したのである。
「はぁ…仕方ないわね…」
雪女郎は氷結の妖術を発動…。赤鬼と四体の小鬼の下半身を氷結させたのである。
「なっ!?下半身が突然…姉ちゃんは一体何を!?」
彼等は突発的に氷結した自身の肉体に吃驚する。
「私は粉雪妖怪の雪女郎なのよ♪あんた達程度で私に手出しするなんて無謀なの♪即刻出直しなさい♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖怪の雪女郎の姉貴なのかよ!?」
雪女郎は西国では著名の妖怪であり彼女の妖力は強者の部類だったのである。
「今回は見逃しちゃうけれど…今度は容赦しないからね…」
雪女郎は氷結の妖術を解除する。
「失礼しました!雪女郎の姉貴!」
親玉の赤鬼は勿論…。子分である四体の小鬼は即刻雪女郎に謝罪したのである。
「あんた達?桜花姫の居場所は知らないかしら?」
「桜花姫の姉貴ですかい?」
雪女郎の問い掛けに親玉の赤鬼が返答する。
「桜花姫の姉貴なら東国で暴れ回ったって噂話ですぜ…詳細は不明ですが…」
桜花姫が東国で各地の百鬼夜行と暴れ回ったとの噂話は各地方に出回る。
「何しろ桜花姫の姉貴は大妖怪の羅刹女を相手に…喧嘩を吹っ掛けやがったらしいからな…」
「桜花姫は東国にね…」
『彼奴…』
桜花姫の様子が気になるのか雪女郎は即座に東国への移動を開始したのである。
『羅刹女に喧嘩を吹っ掛けるなんて…桜花姫は馬鹿ね…』
雪女郎は正直億劫に感じるものの…。桜花姫は大昔からの悪友であり放置は出来ない。西国の村里から移動してより一時間が経過する。
「東国に到達したわね…」
雪女郎は東国の郊外へと到達したのである。東国の中心街からは無数の妖気と邪気は勿論…。多数の鮮血と死骸の悪臭が東国郊外にも蔓延したのである。
「主戦場ね…」
中心街からは無数の火の粉が確認され…。大勢の町民達の悲鳴が響き渡る。雪女郎は両国橋を通過…。東国の中心街へと進入する。
「悪趣味ね…」
殺害された数人の町民達の遺体に十数体もの悪食餓鬼が殺到…。彼等が生身の人肉を捕食する場面を直視したのである。
「生身の人肉なんて…美味しくないでしょうに…」
雪女郎は悪食の悪食餓鬼に嫌悪する。
「鬱陶しいわね…」
人肉を咀嚼する悪食餓鬼に気味悪くなったのか雪女郎は彼等に氷結の妖術を発動…。彼等の肉体は一瞬で氷結したのである。
「死滅しなさい…」
氷結した悪食餓鬼の肉体は崩れ落ちる。すると直後である。周囲で徘徊中だった無数の悪食餓鬼が雪女郎を直視…。彼女に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等ね…」
雪女郎は再度氷結の妖術を発動する。悪食餓鬼は即座に氷結…。肉体が崩れ落ちる。
「あんた達程度で私に挑戦するなんて無謀なのよ…」
『桜花姫はと…』
桜花姫の居場所に移動する直前…。近辺より大妖怪の妖気と三体の中堅妖怪の妖気を察知する。
『えっ!?大妖怪の妖気だわ…』
「ひょっとして…」
大妖怪の出現に雪女郎は身震いしたのである。
「私…西国に戻ろうかな?」
雪女郎は自身が場違いであると自覚し始める。
「如何しましょう?私…」
雪女郎は西国の村里に戻ろうかと困惑するものの…。戦闘の様子が非常に気になるのか大妖怪の妖気を感じる場所へと移動する。雪女郎は恐る恐る民家の物陰から様子を注視したのである。
『何かしら?』
周囲は破壊された十数軒もの木造の建造物が確認され…。一人の甲冑の武人と三体の巨大人面蜘蛛が確認出来る。
「妖怪だわ…交戦中なのかしら?」
『武士から其処等の妖怪とは比較出来ない妖気を感じるわ…妖気の正体は武士だったのかしら?』
雪女郎は武人の妖怪を凝視し続けた直後…。
『ひょっとして彼奴!?先日西国の村里で遭遇した…月影夜叉王かしら!?』
甲冑の武人とは先日遭遇したばかりの大妖怪の月影夜叉王だったのである。
『如何して夜叉王がこんな場所に!?相手は付喪神の小面蜘蛛よね!?私達妖怪にとって小面蜘蛛は天敵なのに…彼奴は一人で三体の小面蜘蛛を仕留められるのかしら?』
雪女郎は正直夜叉王が無茶であると感じるのだが…。夜叉王は護身用の懐刀を抜刀したのである。
『えっ!?彼奴…懐刀だけで…』
「小面蜘蛛を相手に無茶でしょうに…」
雪女郎は呆れ果てる。直後…。
「貴様達は妖怪の天敵であるとの噂話だが…懐刀だけで事足りる…」
夜叉王は神速の身動きにより三体の小面蜘蛛を懐刀だけで瞬殺したのである。
「楽勝だ…所詮は雑魚妖怪だったな!」
夜叉王は妖力を使用せず懐刀のみで小面蜘蛛の胴体部分に刺突…。三体の小面蜘蛛を仕留める。護身用の懐刀だけで三体の小面蜘蛛を仕留めた夜叉王に雪女郎は恐る恐る後退りしたのである。
『彼奴…懐刀だけで…小面蜘蛛の三体を一瞬で仕留めちゃったの…』
雪女郎は夜叉王の実力に圧倒され戦慄する。すると直後である。
「ん?妖怪の新手か?」
夜叉王は物陰の雪女郎に気付いたのか神速の身動きにより雪女郎の背後へと移動したのである。
「きゃっ!」
突然の夜叉王の出現に雪女郎は吃驚する。
「貴様は…西国の村里で遭遇した…粉雪妖怪の雪女郎か?」
「あんたは…月影夜叉王よね?妖怪化した人間妖怪のあんたが…三体の小面蜘蛛を瞬殺しちゃうなんてね…正直意外だわ…」
「小面蜘蛛は妖力さえ使用しなければ単なる雑魚妖怪だ…貴様達純血の妖怪は自身の妖力を過信し過ぎだ…」
すると雪女郎は恐る恐る…。
「あんたは今度如何するのよ?夜叉王?ひょっとしてあんたは私を…」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は呆れ果てる。
「貴様みたいな雑魚妖怪を仕留めても無意味だ…」
「はっ?」
『粉雪妖怪の私を雑魚妖怪ですって!?』
雑魚妖怪の一言に雪女郎は苛立ったのである。
「俺は大妖怪羅刹女の奮闘を見届ける…」
「えっ!?羅刹女を見届けるって!?」
「貴様は羅刹女に挑戦するのか?」
問い掛けられた雪女郎は即座に否定する。
「面白くない冗談ね…大妖怪の羅刹女に挑戦するなんて凡庸の私には絶対無理よ…自殺行為だわ…」
返答する雪女郎に…。
「当然だろうな…貴様みたいな雑魚妖怪が一人で羅刹女に挑戦したとしても瞬殺されるだろうからな…」
「なっ!?私を粉雪妖怪の雑魚妖怪ですって…」
『此奴!一言余計なのよ!』
夜叉王の発言に内心腹立たしくなる。
「補足だが…女人の妖怪…桜花姫も大妖怪の羅刹女を征伐しに出掛けたぜ…彼奴が羅刹女に勝利出来るかは保証出来ないけどな…」
「私は即刻桜花姫に加勢するわ!折角だし…あんたも私と一緒に同行しない?」
「俺は…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「暇潰しだ…桜花姫の奮闘も見届けるか…」
「交渉成立ね♪」
「仕方ないな…」
雪女郎と夜叉王は大妖怪の妖気を感じられる中心地の根城へと直行したのである。二人が移動を開始した同時刻…。東国武士団の根城へと移動した桜花姫であるが道中に数人の匪賊達と遭遇する。
「よっ♪姉ちゃんよ♪」
「あんた達は何者よ?」
『面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?』
接触する匪賊達に苛立ったのである。
『こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…』
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りしたのである。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちまえば姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若武者だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若武者ね…」
『匪賊の分際で何が若武者よ…』
桜花姫は彼等を軽蔑…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな片田舎の荒武者とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を片田舎の荒武者って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪姉ちゃんよ♪」
「姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって妖怪達に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…小娘…」
「相手は所詮人間の小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「私が人間の小娘ですって?」
『鬱陶しい奴等だわ…』
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
『雨蛙に変身しちゃえ♪』
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視した直後…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「此奴は妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪妖怪の一人よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が噂話の…西国の妖怪桜花姫なのか!?」
「本物なのかよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させたのである。
「狼狽えるな!桜花姫が妖怪だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば妖怪の小娘だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
『人間に対する禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪』
匪賊の一人に人間に対する禁断の妖術を発動する。
『飴玉に変化しちゃえ…』
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の人間に対する禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化しやがったぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は再度…。即座に東国の根城へと移動したのである。移動を再開してより数分後…。桜花姫は根城の表門へと到達する。
『城内から大妖怪の妖気を感じるわ…』
「羅刹女…覚悟しなさいよ…」
桜花姫は表門から恐る恐る根城の城内へと進入したのである。
「うわぁ…」
城内の庭園は全体的に血塗れであり其処等に将兵達の肉片やら血肉が飛散する。
「恐らくは羅刹女の仕業ね…」
根城の最上層から大妖怪の妖気を感じる。
『大妖怪の妖気だわ…羅刹女ね…』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。一瞬で根城の最上階へと移動したのである。最上階には斬殺された大名達の遺体が確認出来…。室内の中央には血塗れの刀剣を所持した羅刹女が確認出来る。
「あんたは羅刹女…」
「貴様は桜花姫か…怨敵の貴様が一番に私と遭遇出来たみたいだな…」
桜花姫は羅刹女を睥睨する。
「私を殺したいか?弱小妖怪の桜花姫…」
「如何やら私の体内に存在する…人間の巫女…桃子姫の血肉が無慈悲のあんたを征伐したいみたいよ♪私自身は特段羅刹女に対する執着は皆無だけどね♪」
「桃子姫だと?」
桃子姫の名前に羅刹女は一瞬反応したのである。
「大妖怪である私を弱体化させた病弱の巫女風情が…」
『桃子姫はこんな妖怪の小娘の体内で長生きし続けたのか…生命力だけなら油虫に匹敵するな…』
羅刹女は内心桃子姫の生命力を嫌悪する。すると桜花姫は両手より雷撃の妖術を発動…。羅刹女に雷撃したのである。
「こんな程度の妖術…」
羅刹女は自身の妖刀で桜花姫の雷撃を無力化する。
「私には通用しないぞ…」
羅刹女は両目を瞑目させる。
「桜花姫…貴様は無限の苦痛を存分に体感するのだ…」
直後である。桜花姫の視界が漆黒の暗闇に覆い包まれる。
「えっ…」
『幻術かしら?』
彼女の視界に存在するのは漆黒の暗闇ばかりか妖気すら感じられなくなる。
『妖気も感じられないなんて…』
羅刹女の駆使する幻術は妖気すら遮断させたのである。
『桜花姫…貴様は妖気すら感じられず…私の姿形も視認出来ないのだ…』
羅刹女は一歩ずつ身動き出来なくなった桜花姫に近寄り…。妖刀で桜花姫の腹部を刺突したのである。
「ぐっ!」
羅刹女の妖刀により腹部は貫通するが一瞬で再生する。
「貴様の肉体は不死身だが…貴様は半永久的に無限の苦痛を体感し続けるのだ…」
羅刹女は身動き出来なくなった桜花姫に何度も刺突し続けたのである。
「不死身の貴様は未来永劫封印するのが一番だな…早速…」
桜花姫に封印の妖術を発動する直前…。
「ぐっ!」
羅刹女の左手に雷光の刀剣が突き刺さったのである。
『雷光の刀剣だと?』
直後…。漆黒の暗闇が消失したのである。視界の暗闇が消滅すると桜花姫は羅刹女の幻術から解放されたのである。
「私…自由に身動き出来るわ♪」
「畜生が…邪魔者か…」
すると羅刹女の右側より…。
「羅刹女…残念だったな…」
「此奴が大妖怪の羅刹女なの?外見だけなら小柄の小娘みたいね…」
「あんた達は夜叉王と雪女郎♪」
大妖怪の夜叉王と粉雪妖怪の雪女郎が出現する。羅刹女は鬼神の形相で夜叉王を睥睨し始める。
「夜叉王…私の幻術を解除するとは…人間の貴殿を大妖怪として復活させたのは大間違いだったみたいだな…」
羅刹女は右手から超高温の火球を発射する。
「えっ!?」
「雪女郎!」
超高温の火球が夜叉王と雪女郎に直撃する直前…。突如として結界が出現すると超高温の火球から夜叉王と雪女郎を守護したのである。
「えっ?結界だわ…」
『妖気が感じられないわね…』
桜花姫の背後より…。
「如何やら間に合いましたね…桜花姫様!私も援護しますよ!」
「あんたは八正道様♪ひょっとして結界は八正道様が?」
「勿論私ですよ…」
雪女郎は驚愕した表情で八正道を直視する。
「えっ…人間の僧侶が…私達妖怪を?」
羅刹女も八正道を直視したのである。
「貴様…人間の分際で…妖怪達に加勢するとは…」
「妖怪だとしても!桜花姫様は人間の味方ですからね!恩返しですよ♪」
八正道は桜花姫が人間の味方であると断言する。
「何が人間の味方だ…所詮桜花姫は気紛れだろうに…」
羅刹女は八正道の発言を全否定したのである。すると直後…。
「油断大敵よ♪羅刹女♪」
「ん?」
桜花姫の両腕から真蛸の蛸足を連想させる触手を生成される。
「なっ!?」
桜花姫の両腕から生成された無数の触手は羅刹女の肉体を拘束したのである。
「ぐっ!」
羅刹女は桜花姫の体内から生成された触手によって身動き出来なくなる。
「羅刹女♪あんたの肉体…頂戴するわね♪」
「愚か者が…誰が貴様なんかに食い殺されるか…」
羅刹女は苦し紛れに幽体離脱の妖術を発動…。桜花姫に捕食される直前に本体である実体としての肉体から自身の霊魂を分離させたのである。羅刹女の肉体は桜花姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと捕食されたのである。
「桜花姫様♪黒幕の羅刹女を退治されたのですね♪一安心ですよ♪」
「最後は捕食だったけど…大妖怪の羅刹女を仕留めるなんてね♪桜花姫は妖力だけなら大妖怪に拮抗するわね♪」
八正道と雪女郎は大喜びするのだが…。桜花姫の表情が険悪化する。
「羅刹女は一時的に肉体と霊魂を分離させただけよ!油断しないで!」
「えっ!?肉体と霊魂の分離ですって!?」
「ひょっとして羅刹女は幽体離脱の妖術を駆使したのでしょうか!?」
一同は羅刹女の奇襲に警戒するものの…。本体から分離した羅刹女の霊魂の居場所が特定出来ず混乱したのである。
『一体如何すれば…』
羅刹女の姿形は勿論…。妖気と邪気を消失させた影響からか誰しもが彼女の霊体を特定出来ない。
『誰かが…羅刹女の霊体に憑依されるわ…』
すると直後…。
『桜花姫…桜花姫…』
何者かの美声が桜花姫の脳裏に響き渡る。
『えっ…誰なの?』
桜花姫の脳裏に響き渡る美声は女性であるが何者なのかは不明瞭である。
『あんたは誰なのよ?』
『私よ…桃子姫よ…』
美声の正体とは桜花姫の体内に永眠する人間の巫女…。桃子姫だったのである。
『あんたは桃子姫なの?』
すると桃子姫は恐る恐る…。
『桜花姫…私の霊能力を使用して…』
『えっ?あんたの霊能力を?』
『羅刹女の最大の弱点は霊能力よ…』
『あんたの霊能力が…羅刹女の弱点?』
生前の桃子姫は羅刹女との死闘で絶大なる霊能力により彼女を弱体化させたのである。結果的に羅刹女は仕留め切れなかったが…。彼女の弱体化には成功したのである。
『あんただったら大妖怪の羅刹女を仕留められるわ…私自身の霊能力を桜花姫に分け与えるわね…』
すると直後…。桜花姫は全身から瑠璃色の発光体が無数に出現したのである。
『ひょっとして…桃子姫の霊能力かしら?』
周囲の者達は桜花姫の肉体から発生する瑠璃色の発光体に注目する。
「桜花姫様の肉体から…」
「何かしら?妖力?随分異質的ね…」
瑠璃色の発光体は非常に神秘的であり八正道は勿論…。妖怪の雪女郎も瑠璃色の発光体に魅了される。
「霊力よ…」
桜花姫の肉体から発生した無数の発光体は桃子姫の霊力が実体化した超常現象である。生前当初の桃子姫は自身の霊力で極悪非道の妖怪達を退治…。浄化させたのである。
「霊力ですと?」
「霊力ですって?」
八正道と雪女郎は霊力の一言に反応する。
「羅刹女…覚悟なさい…」
桜花姫は霊力を混入させた変化の妖術を発動…。直後である。
「えっ!?桜餅だわ!?」
突如として雪女郎の目前より桜餅が出現する。
「如何して桜餅が出現したのですか?」
「私は羅刹女の霊体を桜餅に変化させたの♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「えっ!?桜餅は羅刹女なの!?」
「桜花姫様は変化の妖術で霊体さえも変化させられるのですか!?」
「勿論よ♪」
桜花姫の返答に周囲の者達は驚愕する。
「桜花姫…最早あんたは大妖怪をも超越した天道の化身ね…」
雪女郎は霊体をも桜餅に変化させた桜花姫を天道の化身と揶揄するのだが…。
「私が天道の化身なんて大袈裟ね♪」
『私が天道の化身ですって♪』
内心大喜びする。
「兎にも角にも…」
桜花姫は桜餅に近寄り…。桜餅を一口で平らげたのである。
「美味だわ♪」
すると八正道は恐る恐る…。
「ですが桜花姫様?如何して桜花姫様は巫女特有の霊力を駆使出来たのですか?桜花姫様の体内で一体何が発生したのでしょうか…」
「私が霊力を駆使出来た理由ですって…」
桜花姫は先程の出来事を洗い浚い周囲の者達に告白する。
「えっ!?巫女の桃子姫様が…桜花姫様に自身の霊力を分け与えられたのですか?」
「桃子姫は…羅刹女が雪女郎の肉体に憑霊するのを阻止したかったのよ…」
「えっ?彼奴…私に憑霊する寸前だったの!?」
雪女郎は身震いしたのである。
「私…下手したら羅刹女に憑依されたかも知れないのね…」
「兎にも角にも…羅刹女は仕留められたわ♪一安心ね♪」
東国を徘徊中だった大量の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が羅刹女の消滅に影響されたのか砂粒へと変化…。彼等の肉体は崩れ落ちたのである。
「東国では妖気も邪気も何一つ感じられません♪私達は羅刹女の野望を阻止出来たのですね♪」
「はぁ…安心して西国の村里に戻れそうね♪桜花姫♪」
「西国に戻って精霊山の露天風呂に入浴するわよ♪」
直後…。
「えっ?」
突如として桜花姫の体内から半透明の巫女装束の女性が出現したのである。
「えっ!?桜花姫の肉体から人間の巫女が出現したわ…桜花姫?彼女は一体何者なのかしら?」
「此奴は誰だ?人間の巫女なのか?」
「貴女様はひょっとして…」
突如として出現した巫女の霊体に一同は再度驚愕する。
「あんたは桃子姫?」
桜花姫の問い掛けに桃子姫は背後を直視したのである。
「桜花姫♪感謝するわね♪私は無事…昇天出来そうなのよ…」
「桃子姫…昇天ですって?」
昇天の一言に桜花姫は反応する。
「貴女が私の因縁である羅刹女を征伐したからね♪今日で私の巫女としての役目は無事終了よ♪」
羅刹女と桃子姫は因縁の関係であり彼女は桜花姫が誕生して以降…。彼女の体内で半永久的に永眠し続けた状態だったのである。今回の戦闘で羅刹女が消滅してより…。彼女との因縁は完全に消滅したのである。
「桃子姫様…」
八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「貴方は八正道様…」
「先日は感謝します…桃子姫様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来たのです…桃子姫様の救済は無ければ私は今頃…」
「貴方は今後…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を実現出来そうな人物だから…私にとっても…桜花姫にとっても貴方は必要なのよ…」
「私が…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を…」
八正道は一瞬困惑するが…。
「実現させますとも♪桃子姫様♪約束しましょう…」
すると桃子姫の霊体が消滅し始める。
「如何やら…時間みたいね…」
夜叉王以外の者達が消滅し始める桃子姫に反応したのである。
「えっ…桃子姫…」
「桃子姫様?」
「彼女…消滅しちゃうわ…」
桃子姫は笑顔で…。
「最後だけど…桜花姫♪三十年間…今迄私は貴女と一緒だったけれども♪私は幸福だったわ♪天上世界でも…貴女を見守るからね♪」
桃子姫は笑顔の表情で消滅したのである。桃子姫が消滅した直後…。桜花姫の肉体から人間の気配が完全に消失したのである。
「桜花姫様…」
「桜花姫?」
普段は笑顔の絶えない桜花姫であるが…。彼女の涙腺より涙が零れ落ちる。
『えっ!?桜花姫様が…落涙されるなんて…』
『桜花姫でも…落涙するのね…』
落涙する桜花姫に八正道と雪女郎は驚愕したのである。

最終話

対決
大妖怪羅刹女と部下達の東国襲撃から一週間後…。妖怪騒動によって各地の村里は騒然としたが半月が経過すれば自然と沈静化したのである。羅刹女による大事件以降…。僧侶の八正道は妖怪達と人間達が共存出来る理想の世界の実現に活動を開始する。桜花姫の悪友である粉雪妖怪の雪女郎は西国の村里でのんびりと生活したのである。今回の大事件解決の功労者である桜花姫は大妖怪の羅刹女を捕食したのを契機に…。大妖怪へと昇格したのである。桜花姫は各地の妖怪達から畏怖され…。誰しもが大妖怪である彼女に手出し出来なくなったのである。大事件終結から一月が経過…。桜花姫は西国と東国の国境へと移動したのである。
「はぁ…退屈だわ…」
『面白そうな大事件でも発生しないかしら?』
羅刹女の妖怪大事件以降…。妖怪達による妖怪関連の怪異事件は減少したのである。妖怪関連の怪異事件が一件も発生せず桜花姫は正直憂鬱に感じる。
『近頃は妖怪達が大人しいわね…』
すると直後…。
「えっ?」
『気配だわ…』
突如として背後より不吉の気配を感じる。
「妖気だわ…」
気配の正体は妖気だったのである。
「相当強力ね…大妖怪の妖気かしら?」
大妖怪の妖気に桜花姫は警戒し始める。
「何が出現するのかしら?」
すると彼女の背後より…。
「えっ…あんたは?」
桜花姫の背後には鬼神を連想させる甲冑を装備した武士が佇立する。
「久方振りだな…大妖怪…桜花姫よ…」
『誰かと思いきや…』
「あんたは大妖怪…月影夜叉王ね♪」
武士の正体とは大妖怪の月影夜叉王だったのである。
「久し振りね♪月影夜叉王♪あんたが元気そうで安心したわ♪」
夜叉王との再会に桜花姫は大喜びする。
「私に用事かしら?夜叉王♪」
問い掛けられた夜叉王は無表情で桜花姫を凝視したのである。
「桜花姫…俺は全身全霊で最強の存在である貴様と勝負したくなった…今度こそ俺と本気で勝負しろ…」
「私と勝負ですって?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「俺と貴様は妖力が拮抗する…何方が俗界で最強の妖怪なのか…明確化する絶好機だからな…」
桜花姫は恐る恐る周囲を確認したのである。
『周囲に人気は感じられないわね…』
周囲に人気は皆無であり桜花姫は一安心したのか笑顔で…。
「私も退屈だったのよ♪夜叉王♪暇潰しに私と勝負しましょう♪」
「であれば好都合だ…桜花姫…」
夜叉王も桜花姫の返答に内心大喜びだったのである。
「今度は本領を発揮しなさいよ♪月影夜叉王♪」
「貴様に指摘されずとも…」
夜叉王は左手に雷光の刀剣を形作る。
「今回は全力を発揮する!貴様も全身全霊の妖力を発揮しろよ!桜花姫!」
「勿論よ♪私も全身全霊であんたと勝負したかったの♪今回は手加減しないからね♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
完結

第弐部

第一話

車輪
大妖怪羅刹女との大戦闘から半年後…。大妖怪へと昇格した桜花姫は退屈なのか家屋敷の居間で寝転んだのである。
「はぁ…退屈だわ…」
何一つとして事件らしい事件が発生せず…。桜花姫は毎日の日常生活が憂鬱だったのである。
「大事件でも発生しないかしら?」
すると何者かが家屋敷の戸口を強打する。
「えっ?何かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には一人の僧侶が佇立…。
「誰かと思いきや…あんたは八正道様?」
僧侶は誰であろう八正道だったのである。
「桜花姫様…大変です…」
八正道は騒然とした表情であり桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「何が大変なのよ?八正道様?」
「北国で大事件が発生しました…」
「北国で大事件ですって♪一体何が発生したのかしら♪」
大事件発生に桜花姫は大喜びする。
「近頃の出来事なのですが…」
三日前の出来事である。真夜中…。北国の田舎町にて火炎に覆い包まれた車輪が出現するとの噂話が北国全域に出回る。真夜中に火炎に覆い包まれた牛車の車輪と遭遇した目撃者は高熱によって死去したのである。
「火炎に覆い包まれた牛車の車輪ね…」
「今現在北国では村人達が付喪神の呪詛だと大騒ぎですよ…」
「付喪神ね…」
桜花姫は一瞬瞑目する。
「恐らくだけど…車輪の付喪神から判断して…器物妖怪の【輪入道】かしら?」
「輪入道ですと?」
輪入道とは霊体妖怪が牛車の車輪に憑依した付喪神である。輪入道も小面蜘蛛と同様に器物妖怪の一種とされる。一説によると戦乱時代の最中…。頭首を斬首された僧侶達の無念が妖怪化した存在とされ器物である牛車の車輪に憑依したのが輪入道とされる。
「輪入道は器物妖怪の一体ですか…遭遇した人間を呪殺出来るとは非常に厄介ですね…即刻輪入道を退治しなくては…」
「早速北国に移動しましょう♪」
桜花姫と八正道は即座に外出すると西国の村里から北国の田舎町へと移動したのである。二人は移動を開始してより一時間後…。二人は事件現場とされる北国の田舎町へと到達したのである。時間帯は昼間であり人通りは確認出来る。すると桜花姫は近辺の町民に問い掛ける。
「御免あそばせ♪」
「はぁ?娘さん…如何されましたか?」
「単刀直入だけど…北国に輪入道が出現したらしいのよね…」
すると直後…。
「ひっ!輪入道ですって!?」
町民は輪入道の一言に畏怖した様子で一目散に桜花姫と八正道から逃走し始める。
「えっ?町民は逃げちゃったわ…八正道様…」
「如何やら先程の町民の様子から判断して…北国の町民達にとって輪入道とは相当畏怖すべき存在なのでしょうね…輪入道の名前を傾聴するだけでも畏怖するとは輪入道の呪詛は相当危険なのでしょう…」
「面白そうね♪同種の妖怪にも輪入道の呪詛が通用するのかしら♪」
桜花姫は輪入道と遭遇したくなる。すると二人の背後より…。
「貴方達は国外の旅人みたいですね…」
長老らしき高年齢の男性が桜花姫と八正道に近寄る。
「えっ?誰なの?」
「貴方様は?」
「私は北国の長老で医者の身分です…」
「貴方様は医者ですか…」
医者の長老は恐る恐る…。
「今現在北国には極悪非道の妖怪が出現したのです…こんな場所で余所者の貴方達が長居し続ければ妖怪に遭遇して…外部の貴方達が妖怪に呪詛されましょう…」
医者の長老は二人に警告したのである。
「北国は危険地帯です…即刻戻られるべきかと…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私達の目的は北国に出現した妖怪に遭遇するのが目的なの♪」
「妖怪に遭遇ですと?」
今度は八正道が説明する。
「私達は北国に出現した妖怪を退治しに北国に参上したのです…」
「妖怪を退治ですか…」
医者の長老は二人を凝視し始める。
「貴方が法師様なのは理解出来るのですが…相方の娘さんは都会の小町娘でしょうか?彼女が極悪非道の妖怪を退治出来るのですかね?」
桜花姫の姿形から妖怪を退治出来るのか疑問視したのである。
「長老様…彼女は姿形のみなら人間の少女ですが…彼女の正体は妖怪なのです…」
八正道は桜花姫の正体が妖怪であると説明する。
「えっ!?彼女の正体が妖怪ですと!?本当なのですか?姿形のみなら人間の少女にしか…」
医者の長老は驚愕したのである。
「私は正真正銘妖怪なのよ♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「信じ難いでしょうからね…私が本物の妖怪だって事実を証明するわよ♪」
桜花姫は医者の長老が所持する薬袋に変化の妖術を発動…。直後である。長老の所持する薬袋が飴玉に変化したのである。
「なっ!?薬袋が…飴玉に!?」
突然の桜花姫の妖術に長老は驚愕する。
「如何かしら♪変化の妖術よ♪」
桜花姫は変化の妖術を解除させる。すると飴玉が薬袋に戻ったのである。
「理解出来たでしょう♪私が本物の妖怪だって♪」
医者の長老は桜花姫に畏怖すると恐る恐る後退りする。
「心配されなくとも大丈夫ですよ…長老様…彼女は妖怪ですが…半年前の東国の騒動では彼女が妖怪達を退治したのですよ…妖怪の親玉である羅刹女も彼女にとって退治されましたからね…」
八正道は半年前の妖怪騒動の経緯を告白したのである。
「妖怪である彼女が…同族の妖怪を退治したと?」
「私自身も最初は驚愕しましたが…彼女は正真正銘人間の味方ですよ♪」
八正道は笑顔で主張する。
「先程の妖術もですが…人間の法師様が主張されるのであれば私も妖怪の娘さんを信用しましょう…」
「私は桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で自身の名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
八正道も名前を名乗ったのである。
「妖怪の娘さんが桜花姫様で…法師様が八正道様ですね…」
すると医者の長老は恐る恐る…。
「突然なのですが…」
「如何されましたか?長老様?」
医者の長老は二人を自身の家屋敷へと道案内したのである。
「えっ…」
「病人かしら?」
家屋敷に移動すると室内には十数人もの老若男女の患者達が高熱で寝転ぶ。誰しもが重苦しい深呼吸であり瀕死の状態だったのである。
「彼等は疫病の患者なのですが…全員妖怪に遭遇した当事者の家族なのです…」
輪入道の呪詛は真夜中に遭遇した当事者のみならず…。当事者の身内にも輪入道の呪詛が伝染したのである。
「疫病ですね…」
「十二人も絶命したのです…尽力しましたが治療法も存在しません…彼等も時間の問題でしょうね…」
長老は多種多様の薬品を使用するも…。効果は皆無であり三日間だけで十二人の患者が死去したのである。
「最早彼等を救済するには念仏以外…」
長老は涙腺から涙が零れ落ちる。
「長老様…」
八正道は絶句したのである。一方の桜花姫は無表情で目前の少女を凝視し続ける。少女は虫の息であり衰弱死寸前だったのである。
「彼女…」
桜花姫は恐る恐る少女の胸部に接触する。
「桜花姫様?一体何を?」
八正道は桜花姫に問い掛ける。数秒後…。虫の息だった少女の呼吸が正常に戻ったのである。
「なっ!?」
「現実なのか!?」
八正道と長老は驚愕する。少女は土気色だった顔色も正常に戻り始める。
「貴女様は一体何を?妖術なのですか?」
長老は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「私自身は妖怪の肉体だから大丈夫だけど…美味しくないわね…非力の人間が衰弱死するのは当然かしら…」
「桜花姫様は恐らく…妖術で少女の体内の毒素を吸収されたのでしょう…」
八正道は長老に説明する。
「毒素を吸収…」
八正道は桜花姫に依頼したのである。
「桜花姫様…貴女の妖術で患者達の毒素を吸収出来ませんか?」
「出来るけれど…」
桜花姫は内心不本意であるが…。彼女は各患者の皮膚に接触したのである。すると患者達の様子が正常化する。
「はぁ…」
桜花姫は草臥れたのか一息したのである。八正道は笑顔で…。
「桜花姫様♪感謝しますよ♪」
一方の長老も桜花姫に一礼する。
「感謝します!桜花姫様!」
「あんたは今度♪私に桜餅を頂戴しなさいね♪約束よ♪」
「承知しました♪」
長老は大喜びした様子で承諾したのである。
「患者達は大丈夫だけど…安静にさせるべきだわ…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると八正道は長老に問い掛ける。
「長老様…各地の噂話では北国に出現した妖怪は車輪の妖怪との内容なのですが…本当なのですかね?」
長老は恐る恐る…。
「患者達の証言では…牛車の車輪に人間の頭部が一体化した…異形の妖怪と遭遇したとの内容でしたね…ひょっとすると牛車の車輪の妖怪と目撃者達の疫病が関係するのかも知れませんね…」
桜花姫は恐る恐る発言する。
「恐らくだけど今夜も器物妖怪の輪入道が出現するでしょう…あんたは町民達に夜間の外出を禁止させて!人間が輪入道と遭遇すると最悪呪殺されるでしょうからね…」
「承知しました…桜花姫様…」
長老は桜花姫の指示を掌握する。
「私は…」
長老は外出すると田舎町の各家屋にて今夜の外出自粛を要請したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:43
投稿者 月影桜花姫
参照先
第六話

魔王城

アクアヴィーナスは桜花姫と移動中…。
(月影桜花姫…人一倍ヘタレの私でも彼女と一緒だったら…危険区域のネクロデストピアに到達したとしても生還出来るかも知れないわ…)
普段は人一倍ネガティブ思考のアクアヴィーナスであるものの桜花姫と一緒に行動すると希望が芽生える。すると突如として周辺が暗闇に覆い包まれる。
「暗闇だわ…」
「ネクロデストピアは間近っぽいわね…」
「目的地は目前なのね♪」
桜花姫は非常にワクワクする。暗闇の周辺より無数の殺気と霊力を感じる。
(ん?無数の霊力を感じるわ…)
「悪霊かしら♪」
「悪霊って…アンデッドが出現したの!?」
アクアヴィーナスはビクビクするなり…。力一杯桜花姫に密着する。
「アクアヴィーナスは大袈裟ね♪戦慄しなくても大丈夫よ♪」
「御免なさい桜花姫…結局私一人では力不足だし何一つ出来ないから…」
(先程の彼女の度胸は何だったのかしら?)
極度に畏怖するアクアヴィーナスの様子に桜花姫は苦笑いしたのである。暗闇の海中を直進し続けると無数の殺気と霊力を感じる。
(無数の霊力を感じるわ…敵陣だからかしら?)
桜花姫は即座に天道眼を発動…。妖力の防壁を形作る。
「悪霊が接近中ね♪」
暗闇の海中より数百体…。数千体ものネクロマーメイドとダークフィッシュが移動中の桜花姫とアクアヴィーナスに殺到する。
「きゃっ!アンデッドの大群よ!食べられちゃうわ!」
一人で大騒ぎするアクアヴィーナスに桜花姫は大袈裟であると感じる。
「アクアヴィーナスは本当に大袈裟ね…」
ネクロマーメイドとダークフィッシュの大群が彼女達に接触する直前…。妖力の防壁から半透明の血紅色の魔手を形作る。
「悪霊の分際で私に接触するなんて無謀なのよ♪」
ネクロマーメイドとダークフィッシュの大群は桜花姫とアクアヴィーナスに殺到するものの…。妖力の防壁から出現した無数の血紅色の魔手によって瞬殺される。防壁の魔手に接触したネクロマーメイドとダークフィッシュは肉体が粉砕…。暗闇の海中にて無数の血肉が散乱したのである。
「シールド魔法から紅色の魔手が…一体何かしら?」
「妖力の防壁を攻撃用に応用しただけよ♪」
「桜花姫の魔法は本当に万能なのね…」
「私にとっては序の口だから♪」
桜花姫の返答にアクアヴィーナスは絶句する。
「こんなにも荒唐無稽なのに序の口って…」
(桜花姫に私達の常識なんて通用しないわね…)
桜花姫の荒唐無稽さにアクアヴィーナスは普段の自分達の常識が微細に感じられる。暗闇の海中を直進し続けると遠方より異国風の根城らしきシルエットが確認出来る。
「えっ?何かしら?」
「如何やら根城っぽいわね…」
「ひょっとすると根城は魔女の本拠地かも知れないわね♪」
正体不明のシルエットに接近するとシルエットの正体は暗闇に覆い包まれた根城であると確信する。
「魔女の本拠地かしら…」
「根城の内部から人魚達の妖力と無数の霊力を感じるわね♪」
「妖力と霊力ですって?」
「あんた達の認識では魔力だったわね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る魔王城を直視するなり…。
「魔女の本拠地にアクアヴィーナスが…」
「アクアヴィーナス…根城に潜入するわよ♪魔女に遭遇したら即刻彼女を食い殺してアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を救出しましょう♪」
(魔女を食い殺すって…)
アクアヴィーナスは魔女を食い殺すと笑顔で発言する桜花姫に内心ゾッとしたのである。彼女達は恐る恐る魔王城の表門へと近寄る。
「念力で粉砕しちゃいましょう♪」
桜花姫は念力の妖術によって魔王城の表門を粉砕…。
「潜入するわよ…アクアヴィーナス♪」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る魔王城へと潜入する。魔王城の城内では無数のダークフィッシュとネクロマーメイドが徘徊中である。侵入者である桜花姫とアクアヴィーナスを直視するなり彼女達に殺到する。
「あんた達は命知らずね♪」
桜花姫は念力の妖術を発動…。体内からアンデッドの肉体を破裂させる。
「こんなにもアンデッドの大群を瞬殺しちゃうなんて…」
「根城の守備陣は蹴散らしたわ♪最上階に直行しましょう♪」
彼女達は魔王城の最上階へと直進する。直進中にも無数のダークフィッシュとネクロマーメイドに遭遇するも桜花姫の猛反撃によって蹴散らされる。
「アクアクリスタルの効力かしら♪妖力の消耗が気にならなくなったわ♪」
桜餅に変化させたアクアクリスタルの効力により深海底地帯の自然環境でも妖力の消耗が緩和されたのである。彼女達は魔王城の最上階へと到達する。
「如何やら根城の最上階っぽいわね…ん?」
最上階の中心部より下半身が真蛸の女性が確認出来る。
「誰かしら?」
するとアクアヴィーナスがプルプルと身震いするなり…。
「彼女が…」
「えっ?如何しちゃったのよ?アクアヴィーナス?」
「彼女が…」
「えっ?彼女?」
「彼女が…私達のアクアユートピアを襲撃した魔女よ…」
(此奴が魔女ね…)
「彼女があんたの祖国を侵略した魔女なのね♪真蛸みたいだわ♪」
すると桜花姫の真蛸発言にスキュランはピクッと反応するなり…。
「誰が真蛸ですって!?失礼しちゃうわね…私は深海底の魔女…スキュランよ!」
真蛸と揶揄されたスキュランは桜花姫を睥睨したのである。
「スキュラン…」
「あんたが今回の事件の黒幕っぽいわね♪」
「ワーム型アンデッドのネクロシーワームと最上級アンデッドのアクアラーミアンを死滅させ…ノーダメージで魔王城の最上階に到達するなんて異国の魔法使いは予想外に手強いわね…」
「勿論私は最上級妖女だからね♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「即刻あんたを仕留めて連行されたアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を無事に救出するわよ♪」
「彼女達を無事に救出出来るかしら?現実を直視しない単細胞のあんた達に…」
スキュランは平常心の様子であり桜花姫は警戒したのである。
(スキュランは随分冷静ね…妖力だけならアクアラーミアンよりも数段階下回るのに…如何して彼女は冷静なのかしら?)
するとアクアヴィーナスは恐る恐るスキュランに問い掛ける。
「如何してスキュランは私達のアクアユートピアを侵略したのよ?」
「私がアクアユートピアを侵略した理由ですって?」
スキュランは一息するなり…。
「深海底のアクアユートピアでは…無尽蔵の魔法石…アクアクリスタルを入手出来るからね…」
「アクアクリスタルですって?」
アクアクリスタルの一言に桜花姫とアクアヴィーナスは反応する。
「魔法石のアクアクリスタルは米粒大のサイズだとしても地上界の一国を引っ繰り返せる魔力を発揮出来るのよ♪米粒大のアクアクリスタルでも超一流の魔法使いが所持すれば一国を陥落させられるし…一国の征服だって実現出来る魔力を入手出来るからね♪」
魔法石のアクアクリスタルは消耗した魔力の回復だけではなく超一流の魔女がアクアクリスタルを所持した場合…。体内の魔力を数十倍から数百倍にも増大化させられる。一国のスケールにアクアヴィーナスは勿論…。桜花姫も絶句したのである。
「米粒大のアクアクリスタルだけで…一国ですって…」
「如何して魔女のスキュランに魔法石のアクアクリスタルが必要なのよ?魔法石のアクアクリスタルを所持しなくてもあんたの魔力は桁外れに強力でしょう…」
スキュランの魔力を高評価したアクアヴィーナスであるが…。スキュランは一瞬沈黙したのである。
「私は莫大なるアクアクリスタルで私自身の魔力を増大化させ…魔法の海水で地上界全域を水没させるのよ♪地上界全域を水没させるには私自身の魔力だけでは力不足だからね…アクアユートピアのアクアクリスタルで私自身の魔力を数百倍に増大化させたかったのよ♪」
スキュランの主目的に桜花姫とアクアヴィーナスは沈黙する。
「極悪非道の人間達を溺死させ…全世界を魔法の海水で覆い包ませるのよ♪」
「スキュラン?」
桜花姫は恐る恐るスキュランに問い掛ける。
「何よ?」
「あんたも…人間達が大嫌いなの?」
「無論よ…」
桜花姫の問い掛けにスキュランは即答したのである。
「如何してあんたは地上界の人間達を溺死させたいのよ?」
再度問い掛けられたスキュランは無言で魔法を発動…。桜花姫とアクアヴィーナスの目前に蛍光色の発光体を発生させる。
「何かしら?」
「時空の光球よ…」
「時空の光球?」
「時空の光球は…」
時空の光球とは別名予言の発光体とも命名される予言魔法である。蛍光色の発光体に接触すると超古代から超未来は勿論…。あらゆる並行世界で発生する出来事を実体験出来る魔法の発光体であり幻術とは別物である。
「面白そうだわ♪接触しましょう♪アクアヴィーナス♪」
「えっ…大丈夫なの?火傷しないかな…」
アクアヴィーナスは極度に不安がる。
「安心しなさい…火傷しないから…」
スキュランは火傷しないと発言するのだが…。アクアヴィーナスはビクビクした様子で恐る恐る時空の光球に接触したのである。
「本当に…大丈夫かな…」
「私も♪」
桜花姫は娯楽感覚で時空の光球に接触する。すると彼女達の脳内にとある平野にて獣類の毛皮を羽織った大勢の部族が尖頭器を所持…。闘争する光景が鮮明に発現されたのである。
(えっ?何かしら?)
するとパッと闘争の光景が消滅したかと思いきや…。今度はとある海峡での合戦場の様子である。とある巨大船団と別の巨大船団が衝突する光景であり主戦場が船上で足場が不安定であるが両勢力とも必死に奮闘する。パッと戦闘の光景が消滅したのである。今度は数百隻もの異国の軍船がとある砂浜にて上陸を開始…。巨漢の兵士達が火薬を投擲して甲冑を装備した武士達に攻撃する光景が発現される。暴風雨により無数の軍船が沈没…。大勢の兵士達が溺死する光景も確認出来る。暴風雨の光景が消滅すると今度は各勢力が多種多様の家紋を掲揚した甲冑の武士達がとある荒野にて奮闘する光景が発現される。
(ひょっとして戦乱時代の様子かしら?)
桜花姫は戦乱時代を連想したのである。総大将らしき武将の目前には斬首された武士達の生首が並列される。すると今度は炎上する家屋にて一人の家臣に裏切られた武将が自害する光景である。場面が一変すると今度の光景は蒸気を放出する異国の巨大軍船が馴染み深いとある湾港に上陸する光景が発現され…。異国の軍服を着用した巨漢男性と和服の男性達が会話する光景が確認出来る。すると場面は一変…。異国の軍服と鉄砲を所持した異国風の軍勢と和服と甲冑を装備した古風の軍勢が交戦する。
(一体何が…)
両勢力の戦闘の光景が消滅すると今度は鉄砲を所持した異国風の黒服の兵士達がとある丘陵地にて突撃する場面が発現…。突撃する大勢の兵士達が丘陵地の狙撃兵達により銃殺されたのである。場面が一変すると今度はとある青海原にて数十隻もの鋼鉄の巨大軍船が突入する数十隻もの鋼鉄の巨大軍船を無数の大砲で砲撃する光景が発現される。すると今度は鋼鉄の無数の鳥類がとある異国の湾港にて飛行中…。湾港に停泊中の巨大軍船を鋼鉄の火薬で攻撃する光景が発現されたのである。十数隻もの巨大軍船が沈没…。大勢の兵士達が鋼鉄の火薬で吹っ飛ばされる。直後…。とある諸島にて鋼鉄の火薬を抱き抱えた鋼鉄の鳥類が大砲を装備した鋼鉄の巨大軍船に自爆攻撃する光景が発現される。すると今度は鋼鉄の火薬を抱き抱えた小柄の少年兵が大砲を装備した鋼鉄の巨大牛車に突撃…。鋼鉄の巨大牛車諸共自爆攻撃する光景も発現されたのである。先程の光景が消滅…。今度は無数の鋼鉄の鳥類がとある城下町に鋼鉄の火薬を投下する光景が発現される。火炎に覆い包まれた村人達…。頭巾の女性達が必死に炎上する家屋敷を消火する光景が発現されたのである。場面が一変すると突然ピカッと高熱の閃光が一面に光り輝いたかと思いきや…。とある村里全域にてどす黒いキノコ雲と黒色の雨水も確認出来る。焦土化した陸地では眼球と全身の皮膚がドロドロに焼け爛れた大勢の村人達が各地を彷徨する。焦土化した各地には無数の焼死体が埋没…。無数の蛆虫が発生したのである。
「如何してこんな…」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が溢れ出る。全身がプルプルするなり膠着したのである。
「アクアヴィーナス…」
(如何やら彼女は限界みたいね…)
すると時空の光球はパッと消滅する。スキュランは無表情で桜花姫を直視するなり…。
「常日頃から単細胞のあんた達でも理解出来たでしょう?人間達の野蛮さを…」
「先程の光景は幻術かしら?」
桜花姫の返答にスキュランは全否定する。
「幻術なんて甘っちょろい子供騙しの魔法とは別物よ!時空の光球は超古代から超未来は勿論…無限の並行世界で発生する出来事を鮮明に再現させる予言の魔法なの…」
「予言の…魔法?」
「先程の光景は超古代から超未来の戦乱は勿論…別の時間軸で勃発する一連の戦乱なのよ…醜悪なる人間達の悪行かしら…」
桜花姫は沈黙する。
「こんなにも同族同士で殺し合って…自然界の自然環境を汚染させる全人類を滅亡させたいからこそ…私はアクアクリスタルの絶大なる魔力を利用して地上界全域を水没させたいのよ…」
すると桜花姫は無表情で…。
「別にあんたが人間達を溺死させたいのであれば思う存分殺しなさいよ…先程の光景を直視させられちゃったら人間界を守護するのも笑止千万だわ…所詮人間達があんたの魔法で溺死しちゃうのも自業自得でしょう…」
「あんたって意外だね…」
スキュランは桜花姫の返答に意外であると感じる。
「えっ?何が意外なのよ?」
「正直あんたは姿形も発想も世間知らずの単細胞って印象だったけど…思考力だけなら赤髪の女友達よりは大人の女性みたいね♪正直ホッとしたわ♪」
(鬱陶しい真蛸ね…何が大人の女性みたいな思考力よ…)
スキュランから大人と認識された桜花姫であるが内心ではピリピリする。
「あんたが私の主目的に協力するのであれば赤髪の女友達もアクアユートピアの人魚達も無事に解放するけれど♪」
「誰が真蛸のあんたなんかに協力するか…」
桜花姫は協力を拒否したのである。
「地上界を水没させちゃうと太平神国の桜餅は二度と食べられなくなるし…三蔵郎様と小猫姫が溺死しちゃうからね…何よりも悪霊征伐と匪賊征伐が出来なくなるわ♪」
数秒後…。
「悪いけどあんたの野望には賛同出来ないわね…」
笑顔で返答する桜花姫にスキュランはピリッと苛立ったのである。
「異国の魔法使いが…所詮あんたも人間達に味方するのね…」
苛立ったスキュランは桜花姫とアクアヴィーナスに魔法を発動する。
「えっ?」
すると突如…。
(なっ!?突然身動き出来なくなったわ…一体何が?)
彼女達は金縛りにより身動き出来なくなる。
(ひょっとして金縛りの魔法かしら?)
スキュランは金縛りの魔法によって桜花姫とアクアヴィーナスの身動きを封殺したのである。
「身動き出来なくなったわね♪」
身動き出来なくなった桜花姫とアクアヴィーナスに催眠術魔法を発動する。
「えっ…」
(何かしら?)
(突然眠気が…)
すると桜花姫とアクアヴィーナスは極度の眠気により熟睡したのである。
「あんた達は精一杯熟睡しなさい♪」
スキュランは熟睡した桜花姫に恐る恐る接触するなり…。
「異国の魔法使いは生意気で腹立たしい小娘だったけど…熟睡すると寝顔だけは人一倍美人さんだわ♪非常に勿体無いわね♪」
(早速彼女達をピチピチの甘海老に変化させちゃおうかしら♪)
魔法によって睡眠中の桜花姫とアクアヴィーナスを小指サイズの甘海老に変化させたのである。
「美味しそうな甘海老ね♪異国の魔法使いはピチピチした素肌の感触が誰よりも美味しそうだわ♪」
即刻頬張ろうかと思いきや…。ポンッと小指サイズの甘海老に変化した桜花姫の肉体が突発的に消滅したのである。
「えっ!?一体何が…如何して彼女の肉体が消滅したのよ!?」
突然消滅した甘海老の桜花姫にスキュランは驚愕する。
「彼女は一体!?」
すると背後より何者かがポンッとスキュランの背中に接触したのである。
「きゃっ!」
突然の出来事によりスキュランはビクッと反応する。
「御免あそばせ♪」
「えっ!?あんたは…」
スキュランの背中を接触したのは誰であろう桜花姫だったのである。
「あんたは異国の魔法使い!?如何して元通りに…あんたは私が魔法で甘海老に変化させたのよ…」
元通りに戻った桜花姫にスキュランは動揺する。不思議がるスキュランに桜花姫は笑顔で説明したのである。
「あんたが妖術で甘海老に変化させたのは私の分身体なのよ♪残念だったわね♪」
「分身体ですって!?」
スキュランが魔法を発動する直前に分身の妖術を発動…。スキュランの魔法で小指サイズの甘海老に変化したのは桜花姫の分身体であり彼女の本体は無事だったのである。
「分身体の魔法で私の魔法を無力化するなんて…異国の魔法使いは悪知恵も超一流みたいね…」
「残念だったわね♪真蛸の小母さん♪私こそあんたを桜餅に変化させて頬張っちゃうわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫にスキュランは恐る恐る忠告する。
「私を食い殺せば…甘海老に変化させたあんたの女友達は勿論…アクアユートピアの人魚達も二度と元通りには戻れなくなるわよ…」
忠告された桜花姫であるが…。
「別に♪元通りに戻れないから何よ?」
「えっ!?仲間が元通りに戻れなくなるのにあんたは正気なの!?」
桜花姫の予想外の返答にスキュランは愕然としたのである。
「私は正気よ♪私はあんたが気に入らないからあんたを食い殺したいだけなのよ♪」
「あんたは外見とは裏腹に悪魔みたいね…」
悪魔と誹謗された桜花姫であるが…。
「悪魔だから何よ♪鬱陶しいあんたは桜餅に変化しちゃいなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するとスキュランを大好きな桜餅に変化させる。一口で桜餅に変化したスキュランをパクッと頬張る。
「桜餅は美味だわ♪」
甘海老に変化したアクアヴィーナスを直視するなり…。
「口寄せの妖術でスキュランを元通りに復活させれば問題解決なのよね♪」
即座に口寄せの妖術を発動する。先程変化の妖術で食い殺したスキュランを元通りに復活させたのである。
「えっ?私は一体?」
「元通りに戻れたわね♪スキュラン♪」
スキュランは無表情であり何も反応しない。姿形は生前と瓜二つであるが術者である桜花姫によって自我を掌握された状態であり今現在のスキュランは彼女の傀儡人形である。
「スキュラン♪あんたの魔法によって甘海老に変化させられちゃったアクアヴィーナスとアクアユートピアの人魚達を元通りに戻しちゃいなさい♪」
「承知したわ…」
スキュランは桜花姫の命令を承諾…。即座に魔法を解除したのである。魔法を解除されたアクアヴィーナスは勿論…。魔王城で拘束された人魚達も甘海老の状態から元通りの人魚の姿形へと戻れたのである。熟睡中だったアクアヴィーナスが恐る恐る目覚める。
「えっ?私は一体何を?」
彼女は寝惚けた様子であったがスキュランを直視するなりビクッとした反応で戦慄したのである。
「えっ!?スキュラン!?」
「あんたは本当に小心者ね…アクアヴィーナス♪」
「桜花姫!?」
アクアヴィーナスは恐る恐るスキュランを直視するなり…。
「えっ?彼女は無反応だわ…無感情のビスクドールみたいね…」
スキュランはアクアヴィーナスにジーッと凝視されても無反応であり無表情だったのである。
「今現在の彼女は口寄せの妖術で復活させた傀儡人形だからね♪本物のスキュランなら私が征伐しちゃったから大丈夫よ♪」
「えっ?征伐って…あんたが本物のスキュランを仕留めちゃったの!?」
「勿論よ♪」
(桜花姫…あんただったらアクアクリスタルの魔力を使用しなくても一国を征服出来そうね…)
アクアヴィーナスは桜花姫が黒幕であるスキュランを仕留めた事実に驚愕する。
「スキュランに魔法を解除させたからあんたは勿論♪今頃はアクアユートピアの人魚達も無事に解放されたでしょうね♪」
「アクアヴィーナスも解放されたのね…」
すると背後の鉄扉が解放されるなり金髪の人魚がウェンディーネに近寄るなり力一杯密着する。
「アクアヴィーナス♪」
「ウェンディーネ母様!?無事だったのね…」
アクアヴィーナスは母親のウェンディーネとの再会に涙腺から涙が零れ落ちる。
「アクアヴィーナス…私…母様が魔女に殺されちゃうかと…」
「大丈夫よ…大丈夫だからね…ウェンディーネ母様…」
「アクアヴィーナス…」
「母様が無事で何よりだわ…」
ウェンディーネ自身も殺害される恐怖心によって落涙したものの無事に解放され…。大喜びしたのである。
「私だけ逃げちゃって御免なさいね…ウェンディーネ母様…私は母様を見殺しに…」
謝罪するアクアヴィーナスであるがウェンディーネは笑顔で…。
「気にしないで♪アクアヴィーナス♪無事に戻れただけでも結果オーライでしょう♪」
「ウェンディーネ…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。
「えっ?彼女は誰かしら?」
するとウェンディーネは桜花姫に気付いたのである。
「ウェンディーネ母様…桜花姫に感謝してよね…彼女の協力が無ければ母様は今頃魔女に食い殺されちゃったかも知れないのよ…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫を直視するなり…。
「ひょっとして貴女様がイーストユートピアの伝説の魔法使いである月影桜花姫様ですか!?」
「勿論♪私が誰よりも温厚篤実で最上級妖女であり…地上界の女神様♪桜花姫…月影桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
(人一倍短気で無慈悲のあんたが地上界の女神様を自称するなんて…)
地上界の女神様を自称する桜花姫にアクアヴィーナスは苦笑いする。
「あんたがアクアヴィーナスの母様ね♪美人さんだわ♪」
「私が美人さんなんて…桜花姫様は大袈裟ですわね♪」
するとウェンディーネは桜花姫に謝意する。
「大変感謝しますわ♪桜花姫様♪」
アクアヴィーナスも恐る恐る桜花姫に謝意したのである。
「私からも感謝するわ…桜花姫…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。
「あんたの孤軍奮闘で私達は勿論!アクアユートピアの人魚達が無事に解放されたわ…私達にとって桜花姫…あんたは正真正銘本物の救世主…地上界の女神様よ…」
落涙するアクアヴィーナスに桜花姫は困惑したのである。
「私が地上界の女神様なんて…あんた達は大袈裟ね♪私にとって悪霊征伐なんて所詮道楽だし夜遊びと一緒なのよ♪今回の悪霊事件で暇潰し出来たからね♪感謝したいのは私自身だから♪」
「桜花姫…」
「桜花姫様…」
桜花姫は先程から無言のスキュランを凝視するなり…。
「スキュラン…あんたはアクアユートピアの守護神として活動しなさい♪金輪際アクアユートピアを侵略するなんて悪巧みは厳禁だからね♪」
「承知したわ…」
スキュランは無表情であるものの承諾したのである。スキュランはテレポート魔法を発動…。アクアユートピアへと瞬間移動したのである。
「一件落着ね♪」
一安心した直後…。
「えっ?」
桜花姫は突如として息苦しくなる。
「ぐっ!」
(疲労感かしら…)
突然息苦しくなる桜花姫にアクアヴィーナスとウェンディーネはゾッとしたのである。
「えっ!?桜花姫!?如何しちゃったのよ…」
「大丈夫ですか!?桜花姫様!?」
「妖力の消耗かしら…突然息苦しくなったのよ…」
桜花姫は息苦しいのか小声で返答…。正直返答するだけでも辛苦の状態だったのである。
「ひょっとすると桜花姫は魔力の消耗で長時間の人魚の状態が維持出来なくなったのかも知れないわ…」
「ウェンディーネ母様…早急に地上界に戻らないと桜花姫様が溺死しちゃうわ!如何しましょう!?」
「私は即刻桜花姫を地上界に浮上させるわよ!」
「えっ?アクアヴィーナス!?」
アクアヴィーナスは衰弱化した桜花姫を力一杯抱き抱えるなり海面上へと急行したのである。
(死なないでよ…桜花姫…死んじゃったら承知しないわよ!)
アクアヴィーナスは全身全霊の力泳によりとある無人島へと漂着する。無人島に漂着した直後…。桜花姫の変化の妖術が解除される。
「桜花姫!?大丈夫!?」
数秒後…。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は深呼吸したのである。
「えっ?私は一体…」
「桜花姫…意識が戻ったみたいね…」
アクアヴィーナスは意識が戻った桜花姫の様子にホッとする。
「アクアヴィーナス?えっ?」
桜花姫は真夜中の天空を直視するなり…。地上界であると認識する。
「私は地上界に?何時の間にか戻っちゃったのかしら?」
「突然あんたが息苦しくなるからビクビクしちゃったわよ…もう少しであんた…窒息死しちゃうかと…」
「心配させちゃったわね…御免あそばせ♪」
「あんたが無事で何よりだわ…」
周辺を眺望するのだが視界一面が無人島である。遠方は闇夜の青海原であり陸地は何一つ確認出来ない。
「アクアユートピアから随分遠方に移動しちゃったからね…」
「口寄せの妖術で私達諸共目的地に口寄せしましょう♪」
「えっ!?目的地にワープ出来るの!?」
「一か八か…」
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動…。自分自身とアクアヴィーナスを太平神国の西国を目印に口寄せしたのである。彼女達は一瞬で西国の天霊山の頂上へと瞬間移動する。
「ひょっとしてイーストユートピアの小山かしら?」
「如何やら私達は無事に太平神国に戻れたみたいね♪」
「私達…一瞬で陸地に瞬間移動しちゃったの!?」
「勿論よ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る天霊山の頂上から西国の村里を眺望したのである。
「あんたの祖国だったわね…」
「私とあんたが遭遇した場所よ♪」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が零れ落ちる。
「一日間の出来事なのに…長期間の長旅に感じられるわね…」
「私も極度の疲労感が蓄積したから…久方振りに天霊山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら♪」
桜花姫は着物を脱衣し始める。人前で着物を脱衣する桜花姫にアクアヴィーナスは赤面したのである。
「えっ!?桜花姫!?人前で何するのよ!?」
「何って…入浴するから脱衣しただけよ♪」
「えっ!?あんたは人前なのに平気なの!?」
アクアヴィーナスに問い掛けられた桜花姫であるが…。桜花姫は笑顔で即答する。
「別に♪人前だからって何よ♪折角だしあんたも一緒に入浴しましょうよ♪女同士だから全裸でも平気でしょう♪」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で周囲を警戒するなり…。
(人気は無さそうだわ…)
「折角だし…私も入浴しちゃおうかしら…」
彼女は赤面した表情で恐る恐る衣服を脱衣したのである。衣服を脱衣するとアクアヴィーナスは警戒した様子で露天風呂へと入浴する。するとアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…」
「何よ?アクアヴィーナス?」
「御免なさいね…桜花姫…何も謝礼が出来なくて…」
謝罪するアクアヴィーナスに桜花姫は笑顔で即答する。
「別に謝礼なんて…気にしないの♪」
「私自身足手纏いで桜花姫に守護されてばかりだし…」
アクアヴィーナスは赤面した表情で…。
「アクアユートピアに平和が戻ったから…私からの恩返しに今度はショートケーキでも如何かなって…あんたは人一倍スイーツが大好きみたいだし…」
「ショートケーキですって♪」
ショートケーキに反応したのか桜花姫は大喜びしたのである。
「あんたのショートケーキは本当に美味しかったから…是非とも今度食べさせてよ♪」
「勿論よ♪桜花姫♪」
アクアヴィーナスは笑顔で即答する。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:42
投稿者 月影桜花姫
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第五話

ネクロデストピア

同時刻…。失楽園ネクロデストピアの魔王城にて魔女のスキュランは恐る恐る地下壕の牢獄へと移動する。
「人魚と異国の魔法使いが魔王城に到達するのも時間の問題だからね…」
鉄格子の奥側には上半身が巨体の人間の女性…。下半身が巨大海蛇の巨大女性型アンデッドが収容される。巨体の女性型アンデッドがスキュランをギラギラと睥睨するなり…。
「あんたは真蛸の小母さん…如何してあんたが地下壕の牢獄なんかに?今更食いしん坊の私に何を要求するのよ?」
スキュランは上半身が人間の女性であり下半身は真蛸である。女性型アンデッドの真蛸発言にピリピリする。
「真蛸って…」
(失礼しちゃうわね…鬱陶しいビッチだわ…)
彼女の発言に苛立ったスキュランであるが…。
「最上級アンデッド…【アクアラーミアン】…あんたを解放するわよ…」
「えっ!?解放ですって!?」
アクアラーミアンとはスキュランが自身の血肉から魔法で誕生させた最上級の巨大女性型アンデッドであり魔力のみならスキュランをも上回る。素肌は水色で頭髪は青色…。赤色の口紅とリング状の純金のイヤリングが特徴的である。アクアラーミアンは非常に暴れん坊で食いしん坊のアンデッドであり魔女のスキュランでさえも彼女を抑制させるのに体内の魔力を消耗…。彼女を抑制させるだけでも精一杯であり今現在では地下壕の牢獄にて封印されたのである。封印により身動き出来ないアクアラーミアンであるが…。
「あんたは本当に私を解放するの♪」
スキュランの牢獄からの解放の一言に反応する。
「勿論よ…アクアラーミアンを解放するわよ…」
スキュランはビクビクした様子で返答したのである。
「今更私を解放するなんて♪私はあんたを食い殺すかも知れないのに♪ひょっとしてあんたは食いしん坊の私に食い殺されたいのかしら♪」
アクアラーミアンはスキュランを揶揄する。
「沈黙しなさい…あんたの大好きな人魚の血肉がネクロデストピアに接近中なのよ…」
「えっ!?人魚がネクロデストピアに接近中ですって♪」
アクアラーミアンは大喜びする。
「即刻解放してよ♪空腹だから人魚を頬張りたいわ♪」
彼女は両目をキラキラさせた表情でスキュランに問い掛ける。
「今回の人魚は?」
「今回の餌食は…赤毛の人魚と人魚にも変身出来る異国の魔法使いよ…」
「えっ?」
アクアラーミアンは異国の魔法使いに反応したのである。
「異国の魔法使いですって!?面白そうだわ♪一体何者かしら♪」
大喜びするアクアラーミアンであるが…。腹部から腹鳴がグーッと響き渡る。
「私は空腹なのよ♪異国の魔法使いを捕食したいわ♪私を牢獄から解放してよ♪」
スキュランはプルプルと身震いした様子で…。鉄格子の封印魔法を解除したのである。アクアラーミアンはワクワクした様子で鉄格子を破壊するなり…。
「久方振りに大食い出来るわね♪」
尻尾でスキュランを力任せに拘束する。
「なっ!?私を…如何するのよ!?」
スキュランは極度の戦慄によりビクビクしたのである。
「恐怖心かしら♪あんたは私をこんなにも小汚い牢獄に十年間も封印し続けたからね♪」
アクアラーミアンは笑顔で発言するが…。
「本来なら私を封印したあんたを即刻食い殺したいのだけれどね…スキュランを捕食するのは後回しだからね♪私は即刻異国の魔法使いと赤毛の人魚を食い殺しに出掛けるわ♪」
アクアラーミアンはスキュランを解放するなり外部へと直行する。
「一瞬彼女に食い殺されるかと…」
スキュランは命拾いしたのか内心ホッとする。
(兎にも角にもアクアラーミアンが異国の魔法使いと潰し合えば確実に共倒れか…何方かが食い殺されるでしょうね…)
桜花姫とアクアラーミアンが潰し合えば高確率で両者ともが魔力を消耗…。潰し合いで魔力を消耗した両者を殲滅するのがスキュランの魂胆である。
「今回でトラブルメーカーは排除出来るし…アクアユートピア全域も無事に征服出来るわ♪」
(一石二鳥ね♪)
同時刻…。移動中の桜花姫とアクアヴィーナスであるが遠方の海中より強大なる妖力を感じる。
「えっ?妖力かしら…」
「妖力ですって?」
「遠方から妖力を感じるのよ…」
「妖力って…ひょっとして今度もネクロマーメイドかしら?」
「ネクロマーメイドとは別物みたいだわ…」
「ネクロマーメイドとは別物ですって?」
「非常に強力だわ…一体何かしら?」
妖力の正体は不明であるものの…。彼女達は警戒する。すると遠方より正体不明の移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。
「えっ!?何かしら!?」
移動物体は猛スピードで力泳するなり彼女達の目前に出現する。
「海蛇の…悪霊みたいね…」
移動物体の正体とは上半身が巨体の人間の女性であるものの…。下半身は巨体の海蛇である。
「彼女は海蛇の女王…アクアラーミアンだわ!最上級のアンデッドよ!」
「最上級のアンデッドですって♪早速面白くなったわね♪」
桜花姫は強敵との遭遇により非常にワクワクする。するとアクアラーミアンは蛍光色の瞳孔で桜花姫をジロジロと凝視するなり…。
「如何やらあんたが異国の魔法使いみたいね♪美味しそうだわ♪」
「私もあんたを桜餅に変化させて食べちゃいたいわ♪」
笑顔で発言するアクアラーミアンに桜花姫も笑顔で返答したのである。
「アクアラーミアンだったかしら?あんたは桜餅に変化しなさい♪」
彼女に変化の妖術を発動するのだが…。アクアラーミアンは桜餅に変化しない。
「えっ?あんたは私に何したのかしら♪」
アクアラーミアンはピンピンした様子であり桜花姫は動揺する。
「えっ!?如何して変化の妖術が発動しないのよ!?」
「桜花姫の魔法が無力化された!?」
(アクアラーミアンには桜花姫の魔法が通用しないのかしら?)
アクアヴィーナスは恐る恐るアクアラーミアンに問い掛ける。
「あんたは一体何したのよ?アクアラーミアン…」
アクアヴィーナスの質問にアクアラーミアンは笑顔で返答したのである。
「何って♪私は彼女の魔力をペロペロッと平らげただけよ♪」
「平らげたって…ひょっとして彼女も吸収能力で私の妖力を…」
先程は余裕だった桜花姫であるが…。恐る恐る後退りする。
「えっ?桜花姫?」
桜花姫の様子を直視すると彼女は全身がプルプルと身震いした様子である。
(ひょっとして彼女は恐怖心を…)
恐怖心からかプルプルと身震いする桜花姫を直視するなりアクアヴィーナスは極度の不安感が芽生える。
(私一人では何も出来ないし…一体如何すれば…)
深海底地帯の自然環境では妖力の消耗は桁外れであり吸収能力を保持するアンデッドは最悪の難敵である。圧倒的に不利であると判断した桜花姫は苦し紛れに…。
「アクアヴィーナス…あんたは即刻アクアユートピアに戻りなさい…戻らなければあんただって確実に殺されるかも知れないわよ…」
桜花姫は恐る恐る彼女に指示するのだがアクアヴィーナスは強張った表情で桜花姫の指示を拒否する。
「私は…一人でアクアユートピアへは戻れないよ…恩人の桜花姫を見殺しになんて出来ないわ…」
本心では逃げられるのであれば一目散に逃げたいアクアヴィーナスであるが…。母親のウェンディーネを見殺した自身への無力感と罪悪感に影響され桜花姫を見殺しには出来なかったのである。
「見殺しって…今回ばかりは私だって殺されるかも知れないのに!一人では何も出来ないあんたは正直足手纏いなのよ!」
「えっ…」
アクアヴィーナスは足手纏い発言にピクッと反応する。
「はっ!?」
(私は一体何を…)
本音を口走り桜花姫はハッとした表情で…。
「御免なさい…アクアヴィーナス…気にしないで…」
桜花姫は即座にアクアヴィーナスに謝罪する。謝罪した桜花姫であるもののアクアヴィーナスは無表情で…。
「別に…私は気にしないから大丈夫よ…私が足手纏いなのは事実だし…」
「アクアヴィーナス…」
すると沈黙したアクアラーミアンが笑顔で発言する。
「女同士の雑談は終了したかしら♪あんた達は私の餌食決定だからね♪二人とも私に仲良く食い殺されちゃいなさい♪」
アクアラーミアンは召喚魔法を発動…。彼女達の背後より四体のネクロマーメイドが召喚される。
「えっ!?ネクロマーメイド!?」
「ネクロマーメイド♪彼女達を拘束しなさい♪」
四体のネクロマーメイドは彼女達に密着すると力任せに彼女達の身動きを封殺したのである。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
アクアラーミアンは身動き出来なくなった桜花姫に近寄るなり…。
「異国の魔法使い♪手始めにあんたから味見するわね♪」
するとアクアヴィーナスは力一杯鼓舞するなり恐る恐る発言する。
「彼女を…桜花姫を見逃して!本来彼女は無関係なのよ…食い殺したければ私だけを食い殺しなさい!」
(えっ!?アクアヴィーナス!?)
アクアヴィーナスの突発的発言に桜花姫は驚愕したのである。
「小判鮫の分際で…」
苛立ったアクアラーミアンはギロッとアクアヴィーナスを睥睨するなり…。
「別に心配しなくても小判鮫のあんたも食い殺すから安心しなさい♪私は異国の魔法使いから食事したいの♪食事中に私に口出しするのであれば私の魔法であんたを喋れなくしちゃうわよ…」
「ひっ!」
アクアラーミアンの恫喝にアクアヴィーナスは畏怖したのである。アクアラーミアンは桜花姫の頬っぺたをペロペロする。
「異国の魔法使い♪あんたみたいな可愛らしい小娘は大好きよ♪食い殺しちゃうのが勿体無いわね♪」
(彼女は余程の物好きなのかしら?悪霊に気に入られるなんて…)
桜花姫は内心苦笑いしたのである。
「ぐっ!」
アクアラーミアンに接触された悪影響により桜花姫は体内の妖力が消耗する。
(妖力が一瞬で消耗しちゃうんなんて…ひょっとしてアクアラーミアンの吸収能力かしら…)
「あんたの魔力は誰よりも美味だわ♪肉体諸共食べちゃおうかしら♪」
アクアラーミアンが桜花姫に接触した直後…。
(桜花姫がアクアラーミアンに食べられちゃうわ!)
アクアヴィーナスは咄嗟の判断により背後のネクロマーメイドに力一杯頭突きしたのである。
「ギャッ!」
「アクアヴィーナス!?」
アクアヴィーナスは力一杯の頭突きにより背後のネクロマーメイドを怯ませる。
「桜花姫!」
アクアヴィーナスは咄嗟に所持品のアクアクリスタルを力一杯投擲する。
(アクアヴィーナス!)
桜花姫は即座にアクアヴィーナスの方向を直視するなり…。力一杯投擲されたアクアクリスタルを大好きな桜餅に変化させたのである。桜花姫は桜餅に変化したアクアクリスタルをパクッと頬張る。
「こんなにも絶体絶命の状況下で異国のスイーツなんて食べちゃって如何するのよ♪」
アクアラーミアンは失笑するものの…。桜花姫の妖力が先程よりも増大化したのである。
(えっ?彼女の魔力が先程よりも桁違いに増大化したわ…一体如何してなの?)
妖力が増大化した桜花姫に不思議がる。不思議がるアクアラーミアンにアクアヴィーナスが解説する。
「残念だったわね!アクアラーミアン!私が桜花姫に食べさせたアイテムは魔法石のアクアクリスタルよ!」
「アクアクリスタルだって!?」
アクアクリスタルの一言にアクアラーミアンは驚愕したのである。
「桜花姫は異国のスイーツに変化させたアクアクリスタルを頬張ったのよ…魔力だけなら確実にあんたを上回ったわ…」
「妖力が戻ったからね♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。
「あんた達は即刻桜餅に変化しちゃいなさい♪」
背後で桜花姫とアクアヴィーナスを拘束する四体のネクロマーメイドを大好きな桜餅に変化させる。
「えっ…私のネクロマーメイドが…」
「如何やらアクアラーミアンには変化の妖術は通用しなかったみたいね♪」
桜花姫の余裕の様子にアクアラーミアンは苛立ったのである。
(此奴…小娘の分際で…)
「異国の魔法使いが…私には魔力による攻撃法は通用しないからね!」
アクアラーミアンは変化の妖術を発動した桜花姫の妖力を吸収能力によって即座に吸収する。
「今度の攻撃であんたを仕留めるわ…」
桜花姫の発言にアクアラーミアンは反論したのである。
「私を仕留めるって?私よりも魔力が上回ったとしてもあんた達は圧倒的に不利なのよ…私に魔法なんて通用しないのにあんた達に何が出来るの?」
「鬱陶しいあんたは…」
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動する。
「えっ?」
口寄せの妖術を発動するとアクアラーミアンの背後より異次元空間が出現したのである。
「異次元空間かしら?」
直後…。異次元空間の中心部より近代兵器である魚雷を口寄せしたのである。
「なっ!?」
(異次元の空間から魚型の武器が召喚されるなんて…)
アクアラーミアンの背後に魚雷が出現するなり…。アクアラーミアンの背後より魚雷が一直線に突っ込む。彼女の背中に魚雷が接触した直後…。魚雷が爆散する。
「ぎゃっ!」
アクアラーミアンは魚雷攻撃によって全身がバラバラに粉砕されたのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。爆散した魚雷の水圧から危機一髪本体を防備する。同行者のアクアヴィーナスにも妖力の防壁を発動…。アクアヴィーナスも無事だったのである。
「一件落着♪アクアヴィーナス…大丈夫かしら?」
「私なら大丈夫よ…感謝するわね♪桜花姫♪」
アクアヴィーナスもホッとしたのか微笑む。
「アクアヴィーナス♪微笑んだわね♪」
「えっ!?」
アクアヴィーナスはハッとした表情から赤面するなり…。表情を無理矢理に強張らせる。
「アクアヴィーナス…」
(彼女は強情ね…無理に表情を強張らせなくても…)
無理矢理に表情を強張らせるアクアヴィーナスに桜花姫は苦笑いしたのである。
「妖力を消耗したからね♪」
桜花姫は魚雷攻撃によってバラバラに粉砕されたアクアラーミアンの無数の血肉を直視するなり…。
「今度こそ桜餅に変化しちゃえ♪」
変化の妖術でバラバラに粉砕されたアクアラーミアンの無数の血肉を桜餅に変化させる。
「アクアヴィーナス♪あんたも味見しない?」
「私は食べたくないわ…遠慮するわね…」
アクアヴィーナスは苦笑いの様子であり遠慮したのである。桜花姫は即座に散乱した桜餅をムシャムシャと平らげる。数分後…。桜餅を完食したのである。
「食べ過ぎちゃったわね♪」
桜花姫の腹部がプクプクの状態であり肥満化する。
「食べ過ぎでしょう…桜花姫…」
アクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「御免あそばせ♪即刻ネクロデストピアに直行するわよ!」
彼女達はネクロデストピアの魔王城へと直行する。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:41
投稿者 月影桜花姫
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第四話

アクアユートピア

人魚に変身した桜花姫とアクアヴィーナスが深海底地帯のアクアユートピアへと移動中…。深海底地帯の失楽園『ネクロデストピア』では魔女が魔法の水晶玉にて直進中の彼女達の様子を観察する。
「えっ?アクアユートピアの赤毛の人魚と…同行者の小娘は一体何者なのかしら?」
魔法の水晶玉に投影された桜花姫を直視するなり彼女が何者なのか非常に気になる。
「異国の人魚みたいだわ…彼女は一体何者なの?」
深海底の魔女は死霊魔術を発動するなり…。殺害した人魚達を女性型アンデッドとして復活させる。
「下級アンデッド…【ネクロマーメイド】…彼女達を食い殺しなさい…」
ネクロマーメイドとは死霊魔術によって復活した人魚の女性型アンデッドであり嗜好品は生命体の血肉である。基本的には魚介類やら鯨類の血肉を捕食するものの…。場合によっては陸生動物やら人間の血肉をも捕食する。同時刻…。必死に力泳する桜花姫であるが移動中に極度の疲労を感じる。
「桜花姫?大丈夫なの?先程からあんたの顔色が…」
アクアヴィーナスは疲労する桜花姫を心配する。
「私なら大丈夫よ…」
「本当に大丈夫なの?」
「アクアヴィーナスは極度の心配性なのね…」
(正直息苦しいわ…)
心配するアクアヴィーナスに桜花姫は苦笑いの表情で返答したのである。
(深海底って予想外に体力と妖力を消耗するわね…)
深海底の自然環境は予想外に苛烈であり苦難に感じる。すると突如として無数の殺気を感じる。
(殺気だわ…一体何かしら?)
周辺は暗闇の深海底であるものの…。無数の殺気が彼女達に急接近するのを感じる。警戒する桜花姫にアクアヴィーナスは不安がる。
「桜花姫…如何しちゃったの!?」
「殺気を感じるの…」
「殺気ですって!?」
すると遠方の海中より全身血塗れの人魚達が出現…。彼女達に急接近する。
「えっ?人魚かしら?」
「えっ…」
「えっ?アクアヴィーナス?」
血塗れの人魚を直視したアクアヴィーナスはビクビクした様子で…。
「奴等は…ネクロマーメイドよ!」
「ネクロマーメイドって?」
「死亡した人魚の下級アンデッドよ…彼女達は色んな生命体の血肉を捕食するわ…」
「悪霊の食人餓鬼みたいな奴等ね♪」
桜花姫は即座に瞳術の天道眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。アクアヴィーナスは桜花姫の瞳孔を直視すると驚愕したのである。
「桜花姫の瞳孔が…」
(彼女の瞳孔はレッドアイだったのに…半透明のアクアカラーに発光するなんて…)
桜花姫は殺到する無数のネクロマーメイドを睥睨するなり…。
「深海底の悪霊…死滅しなさい♪」
直後である。突如としてネクロマーメイドが身動きしなくなったかと思いきや…。彼女達の全身が肥大化するとパンッと一瞬で破裂したのである。
「きゃっ!」
桜花姫の念力の妖術によって無数のネクロマーメイドは仕留められたものの…。予想外の超常現象にアクアヴィーナスはビクビクした様子で戦慄する。
「戦慄しなくても大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪」
アクアヴィーナスは極度の戦慄によりビクビクと身震いしたのである。周辺はネクロマーメイドの無数の血肉が散乱する。
「念力の妖術で妖力を消耗しちゃったからね…」
今度は変化の妖術を発動…。念力の妖術により仕留めたネクロマーメイドの無数の血肉を大好きな桜餅に変化させる。
「人魚に変化した状態で妖術を発動しちゃうと全身の疲労が蓄積されちゃうのよね♪」
桜花姫はパクパクと桜餅を頬張り始める。
「アクアヴィーナス♪あんたも味見しないかしら♪桜餅は絶品よ♪」
「私は…遠慮するわ…」
アクアヴィーナスは悪食の桜花姫にドン引きしたのか気味悪くなる。
(異国の魔法使いはこんなにも荒唐無稽の魔法を使用するのね…)
数分後…。桜花姫は桜餅を完食する。
「アクアユートピアに直行して…極悪非道の魔女を仕留めるわよ♪」
同時刻…。ネクロデストピアでは魔女が水晶玉で桜花姫の様子を観察するのだが彼女の荒唐無稽の妖術に驚愕したのである。
(げっ!魔法で殺害したネクロマーメイドの肉片を異国のスイーツに変化させて頬張るなんて…)
「異国の魔法使いは予想外に厄介だし…何よりも発想が下劣だわ…」
殺害したネクロマーメイドの肉片を大好きな桜餅に変化…。無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視するなり気味悪くなる。
(異国の魔法使いってこんなにも悪食で下劣なのね…)
魔女は一息するなり…。
「異国の魔法使いを相手するなら彼が適任かしら?」
魔女は召喚魔法を発動する。直後…。規格外に巨体の超大型クリーチャーを召喚したのである。
「彼なら異国の魔法使いが相手でも捕食出来るでしょうね…」
魔女が召喚魔法で召喚した異類の超大型クリーチャーは規格外に巨体であり本拠地の外部にて召喚される。姿形はワーム型の巨大生命体であり全身の皮膚には無数の人面が確認出来る。魔女は本拠地の窓際から巨体のクリーチャーに命令する。
「ワーム型アンデッド…【ネクロシーワーム】よ…あんたは即刻異国の魔法使いと小判鮫の人魚を捕食しなさい♪」
ネクロシーワームとは規格外に巨体のワーム型アンデッドであり溺死した人間達は勿論…。多種多様の魚介類の怨念が融合化した集合体である。性格は獰猛で強欲であり鯨類やら人魚は勿論…。場合によっては海面上の船舶を襲撃して人間の船員をも捕食する。ネクロシーワームは魔女の命令に服従…。即座に移動を開始したのである。同時刻…。桜花姫とアクアヴィーナスは必死にアクアユートピアへと直行する。
「一息頑張ればアクアユートピアに到達するわよ…」
アクアヴィーナスは桜花姫を直視したのである。
「えっ…桜花姫?」
桜花姫は非常に険悪化した表情であり彼女の息苦しそうな表情を直視するとアクアヴィーナスは極度に不安がる。
(大丈夫なのかしら?桜花姫…)
アクアヴィーナスは桜花姫に恐る恐る大丈夫なのか如何なのか問い掛ける。
「桜花姫?一体如何しちゃったの?大丈夫?」
すると桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
「アクアヴィーナス…規格外の霊力が接近中よ…」
「えっ?規格外の…霊力ですって?」
(今度は何が出現するのよ!?)
アクアヴィーナスは全身がブルブルした様子で桜花姫に密着する。すると遠方の暗闇の海中より正体不明の移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。
「一体何かしら?」
規格外に巨体のワーム型の巨大クリーチャーが出現する。
「ひっ!」
アクアヴィーナスはワーム型の巨大クリーチャーを直視すると極度に戦慄したのである。
「こんな怪物に畏怖するなんてアクアヴィーナスは大袈裟ね…」
桜花姫は極度に戦慄するアクアヴィーナスに苦笑いする。
(小心者のアクアヴィーナスが太平神国の悪霊と遭遇しちゃえば確実に気絶するでしょうね♪)
アクアヴィーナスが太平神国の悪霊と遭遇する場面を想像すると桜花姫は内心大笑いしたのである。アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫は…アンデッドに遭遇しても平気なの?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「別に♪こんな怪物と遭遇するのは太平神国では日常茶飯事だからね♪」
「日常茶飯事って…」
(イーストユートピアって名前とは裏腹に相当物騒なのかしら?)
桜花姫の返答にアクアヴィーナスは絶句したのである。
「深海底にはこんな怪物が生息するのね…巨大蚯蚓かしら?」
「此奴はワーム型の巨大アンデッド…ネクロシーワームよ!大型の鯨類だって簡単に食い殺しちゃうわ!」
「アンデッドって悪霊ね♪鯨類を捕食するなんて大物だわ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…即刻逃げましょう!」
「逃げましょうって…」
「ネクロシーワームはネクロマーメイドよりも厄介なのよ!あんたでも食い殺されちゃうわ!」
「食い殺されちゃうって…ネクロシーワームが私に食い殺されちゃうのかしら♪」
桜花姫は笑顔でネクロシーワームを凝視する。
「私の食欲は悪霊以上だからね♪相手が巨体のアンデッドでも私が食い殺しちゃうわよ♪」
「桜花姫…」
桜花姫は余裕の様子だったのである。すると直後…。
「きゃっ!」
ネクロシーワームは猛スピードで桜花姫に急接近すると彼女の肉体諸共パクッと桜花姫を捕食したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
桜花姫は一瞬でネクロシーワームに捕食され…。アクアヴィーナスは一瞬の出来事に混乱する。
(桜花姫が捕食されちゃった…)
桜花姫はネクロシーワームに捕食されアクアヴィーナスは絶望したのである。逃げられるのであれば一目散に逃げたい彼女であるが…。極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。ネクロシーワームは猛スピードでアクアヴィーナスに接近するなり…。
「きゃっ!」
アクアヴィーナスの全身を拘束したのである。ネクロシーワームは口先を開口する。
「ひっ!」
(私も…捕食されちゃうわ…)
アクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。ネクロシーワームは口先を開口した直後…。突如として身動きしなくなる。
「えっ!?」
(一体何が!?如何してネクロシーワームは身動きしなくなったのかしら…)
突如として身動きしなくなったネクロシーワームにアクアヴィーナスは何が発生したのか理解出来ない。すると数秒間が経過したのである。ネクロシーワームの全身がポンッと白煙に覆い包まれ消滅したかと思いきや…。桜餅と妖力の防壁を発動した桜花姫が出現したのである。
(えっ!?桜花姫!?)
桜花姫は妖力の防壁を解除するなり笑顔で桜餅をパクッと頬張る。
「悪霊でも桜餅に変化させちゃえば非常に美味だわ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に近寄るなり…。
「桜花姫…あんたはネクロシーワームに食べられちゃったのに無事だったのね…」
アクアヴィーナスは内心ホッとしたのか涙腺から涙が零れ落ちる。
「一瞬あんたがアンデッドに食い殺されちゃったのかと…」
「心配させちゃったわね♪御免あそばせ♪」
桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪する。
「最強クラスのアンデッドを簡単に仕留めちゃうなんて…桜花姫の魔法は想像以上に強力だわ…」
「勿論私は最上級の妖女だからね♪悪霊が私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
するとアクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫はネクロシーワームに捕食されたのに無事だったの?」
「私はネクロシーワームに捕食される直前に妖力の防壁を発動したの♪ネクロシーワームの胃袋で変化の妖術を発動したのよ♪」
「ネクロシーワームの体内で魔法を使用したのね…何よりもあんたが無事でホッとしたわ…」
アクアヴィーナスは一安心したのである。
同時刻…。失楽園のネクロデストピアでは魔女が魔法の水晶玉に投影された光景を直視する。
「えっ!?」
ネクロシーワームが桜花姫に仕留められた光景に魔女は愕然としたのである。
「最上級のアンデッドであるネクロシーワームが見ず知らずの異国の魔法使いに仕留められるなんて…」
(異国の魔法使い…彼女は想像以上に厄介だわ…)
ネクロシーワームが仕留められたのは正直予想外であり魔女は桜花姫の妖力の絶大さに畏怖し始める。
(異国の魔法使いに私の居場所を察知されると非常に不都合だわ…即刻彼奴の封印を…)
「彼女を解放させないと異国の魔法使いには対抗出来ないでしょうね…」
不本意であるものの…。
「一か八か牢獄に…」
魔女は恐る恐る地下壕の牢獄へと移動したのである。同時刻…。桜花姫とアクアヴィーナスは無事に深海底のアクアユートピアへと到達する。
「えっ!?深海底に村里だわ…」
「私の祖国…アクアユートピアなのよ…」
アクアユートピアは貝殻みたいなデザインの住宅地が無数に隣接…。全体的に独特の景観だったのである。
「あんたの祖国って異世界みたいね♪」
深海底地帯のアクアユートピアは異世界でありアクアユートピアの独特の雰囲気に桜花姫は非常にワクワクする。
「独特の雰囲気なのに殺風景ね…人気が感じられないわ…」
「アクアユートピアは魔女に侵略されちゃったからね…何よりもウェンディーネ母様が無事なのか心配だわ…」
「私は即刻あんたの母様を救出するわよ♪」
桜花姫は笑顔であるものの…。妖力の消耗により深呼吸が目立ち始める。
「大丈夫なの?桜花姫?先程から深呼吸が…」
「アクアヴィーナスは心配性ね…心配しなくても私なら大丈夫よ…」
(深海底の水圧と人魚に変身した影響かしら?妖力を回復させたのに数分間で消耗しちゃうなんて…)
水圧の影響からか深海底での長時間の人魚の変身は妖力と体力の消耗が桁違いである。人魚に変身し続けた場合深海底の水圧による溺死…。妖力の消耗による衰弱死の可能性すら否定出来ない。
(長時間の人魚の変化は衰弱死に直結するわね…変化を解除しちゃったら水圧で溺死するかも知れないし…今回の事件は短時間で解決させないと…)
当初は娯楽感覚であったものの…。妖力の消耗が予想外であり短時間での事件解決は困難であると実感する。
「アクアヴィーナス…アクアユートピアに潜入しましょう…」
彼女達は恐る恐る物静かなアクアユートピアに潜入したのである。
「アクアユートピアって普段からこんなにも物静かなの?」
「人魚は少数民族だし場所が暗闇の深海底だからね…魔女に侵略されてからは無人地帯みたいだわ…」
周囲を警戒するのだが…。人魚の住民は誰一人として確認出来ない。
「えっ?」
すると桜花姫は殺気を感じるなり民家の路地裏へと移動する。
「きゃっ!」
桜花姫の悲鳴に戦慄したのかアクアヴィーナスは恐る恐る居住地の路地裏へと移動するなり…。
「一体何事よ!?ひゃっ!」
路地裏には殺害された抹香鯨の水死体が転がった状態であり体表には無数の小魚によって食い破られた形跡が確認出来る。
「如何やら抹香鯨の水死体みたいね…ネクロマーメイドに食い殺されちゃったのかしら?」
「私にも何が何やらサッパリだわ…ひっ!」
突如として抹香鯨の体内がモゴモゴッと蠢動したかと思いきや…。
「今度は何かしら!?」
抹香鯨の体内を食い破るなり血塗れの肉食怪魚が無数に出現したのである。
「きゃっ!此奴は【ダークフィッシュ】だわ!」
「ダークフィッシュ!?」
ダークフィッシュとは深海魚の魚類型アンデッドでありネクロマーメイドによって食い殺された魚介類がアンデッドとして復活…。多種多様の新鮮なる魚介類やら大型海洋生物の血肉を捕食する。性格は非常に獰猛で強欲であり人魚は勿論…。場合によっては海面上を漂流する人間やら陸生動物の血肉さえも捕食する。
「相手が小魚の悪霊でも♪」
(桜餅に変化しなさい♪)
殺到する無数のダークフィッシュを桜餅に変化させる。
「私を捕食するなんて無謀なのよ♪」
桜餅に変化した無数のダークフィッシュを頬張る。
「正直あんたの魔法って荒唐無稽だけど便利ね…捕食者を食い殺しちゃうなんて…」
アクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「桜花姫…折角だし私の自宅で休憩しない?」
「勿論よ♪休憩しましょう♪」
桜花姫は大喜びするなりアクアヴィーナスの自宅へと同行する。
「私の自宅よ…」
「あんたの家屋敷なのね…地上界と比較すると随分独特の雰囲気ね♪」
アクアヴィーナスの家屋敷も貝殻のデザインであり非常に独特の雰囲気である。桜花姫はワクワクした様子でアクアヴィーナスの自宅に入室するのだが…。屋敷内は魔力によって防水された状態であり普通に呼吸出来る。
「えっ?普通に呼吸出来るわ…」
「防水用の魔法の効力で室内は呼吸出来るのよ…地上界みたいに普通に生活出来るわ…」
アクアユートピアの各家屋敷には防水用のシールド魔法によって通常の人間の状態でも生活出来る。
「元通りに戻れるのね♪」
桜花姫は即刻変化の妖術を解除…。元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「長時間の人魚の状態は疲れ果てるわね♪こんなにも疲れ果てたのは久方振りよ♪」
アクアヴィーナスも人間の姿形に変化する。
「私達人魚は真逆なのよね…大昔から深海底のアクアユートピアで生活し続けた影響かしら?」
アクアユートピアの人魚達は長期間の深海底での生活により魔力の消耗は軽微であり人魚に変身した状態でも平気である。すると桜花姫はソファーベッドの壁際に配置された写真の女性に注目する。
「えっ?本物みたいな似顔絵だわ…一体誰の似顔絵なのかしら?」
「写真よ…」
「写真って…何かしら?」
太平神国では長年の鎖国によって銃火器を除外する異国の科学技術は勿論…。異国の文化財は皆無であり桜花姫は写真に魅了されたのである。
「アクアユートピアではこんな代物が出来るのね♪」
「別に…今時写真なんて地上界でも普通に一般的でしょう…」
「写真の女性は誰なのよ?」
写真の女性が誰なのか気になる。
「彼女が私の母様…ウェンディーネ母様よ…」
「彼女があんたの母様なのね♪随分美人の女性だわ♪」
ウェンディーネは金髪碧眼の美少女である。
「正直ウェンディーネ母様が無事なのか不安だわ…」
するとアクアヴィーナスはフッと想起するなり…。書棚の宝石箱から水色の水晶玉を入手するなり恐る恐る桜花姫に手渡したのである。
「桜花姫…」
「えっ?何かしら…水晶玉?」
水晶玉に接触した直後…。消耗された妖力が一瞬で回復する。
「妖力が戻ったわ…一体如何して!?」
「水晶玉は魔法石の『アクアクリスタル』よ…」
「アクアクリスタルって?」
アクアクリスタルとは深海底地帯で採掘された魔法石であり人魚がアクアクリスタルに接触すると消耗した魔力が蓄積される。深海底では魔力の消耗が地上界とは桁違いでありアクアユートピアの人魚達が深海底の自然環境で適応出来るのはアクアクリスタルの効力である。
「私達人魚にとってアクアクリスタルは必要不可欠だからね…」
「私にとっての桜餅ね♪」
するとアクアヴィーナスは紅茶と洋菓子のショートケーキを用意する。
「何かしら?」
「紅茶とショートケーキよ…折角だし味見したら…」
「ショートケーキ?洋菓子かしら♪」
桜花姫はペロリとショートケーキを平らげる。
「洋菓子も美味だわ♪」
彼女はショートケーキの美味しさに大喜びする。
「ショートケーキを一瞬で平らげちゃうなんて…」
ショートケーキをペロリと平らげた桜花姫を直視するなりアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「休憩は終了よ!」
「大丈夫なの?」
アクアヴィーナスは桜花姫を心配するが…。桜花姫は笑顔で即答する。
「私なら大丈夫よ♪アクアヴィーナスは心配性ね…兎にも角にも私達は即刻あんたの母様を救出しないと!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。再度人魚に変身する。
「アクアヴィーナス…あんたも人魚に変身しちゃいなさい♪即刻あんたの母様を救出しに出掛けるわよ♪」
「承知したわ…」
アクアヴィーナスも変身魔法で人魚に変身したのである。人魚に変身した彼女達は恐る恐る外出する。すると道端には無数のダークフィッシュとネクロマーメイドが徘徊したのである。
「ひっ!ダークフィッシュとネクロマーメイドだわ…如何してアンデッドがこんなにも徘徊中なのよ…」
「深海底の魔女の仕業かしらね…」
魔女は召喚魔法により無数のダークフィッシュとネクロマーメイドをアクアユートピアの中心街にて召喚…。徘徊させる。無数のアンデッドがアクアユートピア全域に徘徊中であり最早アクアユートピアはアンデッドの巣窟である。徘徊する無数のアンデッドにアクアヴィーナスは極度に戦慄するが…。桜花姫は余裕の表情でありアンデッドの出現に大喜びする。
「悪霊がこんなにも徘徊中なんて♪私にとっては桜餅の調味料ね♪」
すると玄関口近辺には複数のネクロマーメイドと数匹のダークフィッシュが徘徊中であり玄関口の彼女達をギロッと睥睨するなり…。猛スピードで殺到したのである。
「きゃっ!」
「鬱陶しい奴等だわ♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。殺到するネクロマーメイドとダークフィッシュを桜餅に変化させる。
「桜花姫の魔法は荒唐無稽ね…」
桜花姫はムシャムシャと桜餅を頬張る。数分間で桜餅を食べ終わる。
「相手するのも面倒臭いし…口寄せの妖術で片付けましょうかね♪」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。先程仕留めた無数のダークフィッシュとネクロマーメイドを口寄せの妖術で復活させる。
「きゃっ!アンデッドだわ!」
アクアヴィーナスは突如として出現したネクロマーメイドとダークフィッシュを直視するなり…。ビクビクしたのである。
「アクアヴィーナスは大袈裟ね…大丈夫よ♪彼等は私が口寄せの妖術で復活させた手駒だから♪」
「如何して桜花姫はアンデッドを召喚出来るの?」
アクアヴィーナスの質問に桜花姫は即答する。
「口寄せの妖術は死滅した生命体は勿論…地獄の悪霊だって元通りに復活させられるからね♪」
「死滅した生命体を復活させるなんて…桜花姫は本物の女神様だわ…」
常識の通用しない荒唐無稽の妖術にアクアヴィーナスは理解出来なくなる。
「私が本物の女神様なんて…アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「あんた達♪アクアユートピアで徘徊中の悪霊を一掃しなさい♪」
無数のアンデッドは無言で承諾するなり…。周辺で徘徊中のネクロマーメイドとダークフィッシュに接触すると自爆したのである。アクアユートピアの彼方此方で爆発音が響き渡る。
「相手するのも面倒臭いからね♪」
「復活させたアンデッドを自爆に利用するなんて…」
アクアヴィーナスの発言に桜花姫は笑顔で即答する。
「所詮悪霊は自爆要員だからね♪」
復活させたアンデッドの自爆攻撃によってアクアユートピアに徘徊中のダークフィッシュとネクロマーメイドは一掃される。
「徘徊中の悪霊は一掃させたし…」
桜花姫は先程仕留めたネクロマーメイドの一体を口寄せの妖術により再復活させたのである。
「如何してネクロマーメイドを復活させたの?」
「情報収集よ♪」
「情報収集ですって?」
桜花姫はネクロマーメイドに質問する。
「あんたの親玉の居場所を告白しなさい…」
「告白ってネクロマーメイドはアンデッドなのよ…喋れないでしょう…」
喋れないと断言するアクアヴィーナスであるが…。ネクロマーメイドは恐る恐る人間の口言葉で発言し始めたのである。
「ワタシタチノ…ハハギミサマ…【スキュラン】サマノ…イバショハ…シツラクエン…ネクロデストピアノ…マオウジョウ…」
「えっ!?ネクロマーメイドって…普通に人語で喋れるのね…」
ネクロマーメイドは片言であるが人間界の公用語で喋れる。人語で発言するネクロマーメイドにアクアヴィーナスは驚愕する。
「スキュランって魔女があんた達悪霊の黒幕なのね♪即刻ネクロデストピアの魔女の本拠地に直行しないと♪」
黒幕の居場所を把握した桜花姫は即刻ネクロデストピアへの直行を決意したのである。
「情報収集感謝するわね♪」
桜花姫はネクロマーメイドに感謝するのだが…。
「折角だけど♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」
口寄せの妖術によって復活させたネクロマーメイドに変化の妖術を発動したのである。ネクロマーメイドは白煙に覆い包まれポンッと桜餅に変化…。桜花姫は即座に桜餅をパクッと平らげる。
「復活させたのに結局食い殺しちゃうのね…」
「私は空腹だから♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「空腹だからって…」
桜花姫の返答にアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「妖力も回復したわ♪アクアヴィーナス!即刻ネクロデストピアの魔王城に直行して魔女を仕留めるわよ♪」
意気込む桜花姫であるが…。ネクロデストピアに聳え立つ魔王城の場所が不明でありアクアヴィーナスに道案内を依頼する。
「道案内してよ♪アクアヴィーナス♪」
「道案内するけれど…ネクロデストピアはアンデッドの魔窟なのよね…」
ネクロデストピアはアンデッドの魔窟であり悪魔の海域として認識される危険区域である。ネクロデストピアに潜入した人魚で生還した人魚は皆無でありアクアユートピアでは禁止区域に指定される。
「ネクロデストピアに潜入した人魚で生還した人魚は皆無なのよね…私…死にたくないわ…」
ウジウジするアクアヴィーナスに桜花姫は苛立ったのか怒号する。
「確りしなさい!アクアヴィーナス!」
「えっ…桜花姫…」
「あんたは自分の母様を無事に救出したいのよね!?今更当事者のあんたが畏怖しちゃって如何するのよ!?」
桜花姫の怒号にアクアヴィーナスはハッとした表情で…。
「御免ね…桜花姫…私…恐怖心で畏怖しちゃったわ…ウェンディーネ母様を救出しないと…」
極度の恐怖心によりビクビクしたアクアヴィーナスであるが桜花姫の大目玉によって平常心に戻ったのである。
「道案内するわね…桜花姫…」
「勿論よ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に道案内する。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:40
投稿者 月影桜花姫
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第三話

人魚

南国の鬼面山から下山してより二時間後…。桜花姫は無事に西国へと戻ったのである。
「天霊山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら♪」
時間帯は夕方であり彼女は即刻天霊山天辺の露天風呂へと直行する。すると突然…。
「えっ!?何かしら!?」
突如として天霊山の天辺より摩訶不思議の妖力を感じる。
(妖力っぽいけれど…ひょっとして天霊山の天辺に妖女が?)
「一体誰かしら?」
気になった桜花姫は即座に天霊山の天辺へと急行したのである。すると露天風呂の中心部より一人の女性らしき人影を確認する。
(彼女は何者なのかしら?)
桜花姫は岩陰から恐る恐る入浴中の女性の様子を観察したのである。彼女の頭髪は赤髪のストレートロングであり頭髪には海星型のヘアアクセサリー…。両方の耳朶には金剛石のイヤリングが確認出来る。何よりも気になったのは彼女の巨乳のおっぱいであり桜花姫はジーッと凝視する。
(おっぱいは私に匹敵するかも…えっ!?)
彼女の下半身を直視した桜花姫は極度の驚愕により口走る。
「人魚!?」
露天風呂の水面より銀鱗の大魚の尾鰭を直視したのである。入浴中の女性の正体が人魚であると認識する。
(彼女が本物の人魚なのは確実ね…如何して人魚が地上界に?)
今現在では地上界で人魚の血族と断定出来るのは桜花姫のみであり彼女を除外すると人魚の血族は皆無である。
「今時私以外の人魚なんて希少価値だわ…」
すると直後…。人魚はピクッと背後の岩陰を警戒したのか恐る恐る背後の岩陰をジーッと凝視する。
(気付かれちゃったわ…即刻戻らないと…)
桜花姫は恐る恐る天霊山から下山したのである。無事に自宅へと帰宅するなりゴロゴロと寝転ぶ。
「結局先程の人魚は一体何者だったのかしら?」
彼女が何者なのか非常に気になり結局真夜中も寝付けなかったのである。翌朝…。桜花姫は娯楽目的にて東国の三蔵郎の寺院へと訪問する。
「お早う三蔵郎様♪」
「お早う御座います桜花姫様♪こんな早朝に訪問されるなんて…一体如何されましたか?」
「御免あそばせ♪霊魂巨神木の悪霊を仕留めてから毎日が退屈だったからね♪単なる暇潰しよ♪」
「暇潰しでしたか…折角なので緑茶と…菓子類を用意しなくては♪」
「御免あそばせ♪三蔵郎様♪」
桜花姫は大喜びするなり客室へと入室したのである。三蔵郎は緑茶と異国の洋菓子であるカステラケーキを用意する。
「何かしら♪異国の洋菓子?」
異国の菓子類は滅多に入手出来ない高額品の代物であり桜花姫は大喜びしたのである。
「カステラケーキと命名される異国の洋菓子ですよ♪昨晩北国の知人から頂戴しました♪太平神国では滅多に吟味出来ない貴重品ですからね♪是非とも桜花姫様にカステラケーキを提供しますよ…」
「感謝するわね♪三蔵郎様♪」
桜花姫は恐る恐る洋菓子のカステラケーキを味見する。
「美味だわ♪」
彼女はカステラケーキが大変美味しかったのか満足気の様子である。
「異国の洋菓子も絶品ね♪」
「桜花姫様が大喜びされたので安心しましたよ…」
すると桜花姫は昨夕の出来事を想起するなり…。
「三蔵郎様?」
「如何されましたか?桜花姫様?」
天霊山の露天風呂にて人魚と遭遇した出来事を三蔵郎に一部始終告白したのである。
「桜花姫様は天霊山の露天風呂で人魚の女性に遭遇されたのですか?」
「正直…島国の太平神国では私以外の人魚の血族なんて皆無でしょうし…私の遭遇した人魚は一体何者だったのかしら?」
三蔵郎は恐る恐る…。
「ひょっとすると桜花姫様が遭遇された人魚の女性とは…異国の人魚なのでは?」
「異国の人魚ですって?」
「異国でも人魚伝説は有名ですし…桜花姫様が昨夕に遭遇された人魚の女性とは太平神国に入国された異国の妖女なのでしょうね…」
「私が遭遇した人魚が異国の妖女である可能性も否定出来ないわね…」
「ですが正直私も遭遇したかったですよ♪異国の人魚に♪」
「勿論おっぱいは私に匹敵する巨乳ちゃんだったわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に三蔵郎は赤面…。動揺するも必死に誤魔化したのである。
「なっ!私は…別に…何も…」
(普段は生真面目の三蔵郎様でも変態男みたいね♪)
桜花姫は赤面する三蔵郎を揶揄する。
「ですが桜花姫様が遭遇された人魚の女性が何者なのかは非常に気になりますね…」
「今度彼女と遭遇したら会話したいわね…敵意は無さそうだったし…」
桜花姫はカステラケーキをペロリと頬張るなり…。西国へと戻ったのである。すると桜花姫の家屋敷の玄関口よりピンク色のロングドレスを着用した小柄の女性が佇立する。頭髪は赤髪のストレートロングであり頭髪には海星型のヘアアクセサリーが確認出来る。
(えっ?彼女は一体誰なのかしら?)
桜花姫は恐る恐る女性の背後へと近寄るなり…。ポンッと彼女の背中に接触する。
「きゃっ!」
驚愕した彼女は即座に背後を直視したのである。彼女はアクアカラーの碧眼であり異国の人間であると認識出来る。
「突然何するのよ!吃驚するじゃない!」
「突然何するのよって…私の台詞よ!私に用事かしら…」
桜花姫が発言すると彼女は謝罪したのである。
「御免なさい…」
「別に…えっ?」
赤髪の女性を昨夕に遭遇した人魚であると確信する。
「ひょっとしてあんたは…昨夕に天霊山の露天風呂で入浴中だった…異国の人魚かしら?」
赤髪の女性はハッとするなり…。
「あんたは入浴中の私を覗き見した…小娘!?」
彼女の小娘発言にムッとしたのか即答する。
「なっ!誰が小娘ですって!?私は誰よりも温厚篤実の女神様なのよ!」
「自分で女神様って自称しちゃうなんて…」
赤髪の女性は女神様を自称する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんたの名前は?」
問い掛けられた赤髪の女性は恐る恐る名前を名乗る。
「私の名前は【アクアヴィーナス】…深海底の人魚王国『アクアユートピア』の人魚の末裔よ…」
「アクアユートピアって?」
「アクアユートピアは私の祖国よ…」
アクアユートピアとは深海底の理想郷であり大勢の人魚達が深海底のアクアユートピアで安住する。地上界では別名人魚王国とも呼称される。
「アクアヴィーナスは異国の人魚だったのね…」
「無論ね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「極東のイーストユートピアでは天下無敵の魔法使いが君臨するって…噂話が世界各地で出回ったのだけど…あんたは月影桜花姫って名前の魔法使いの居場所は知らないかしら?」
「えっ?」
(イーストユートピアって何かしら?)
世界各地では太平神国は極東の理想郷と認識され…。極東のイーストユートピアと呼称される。アクアヴィーナスの質問に桜花姫は即答したのである。
「私が月影桜花姫よ!魔法使いって何者よ!?私は妖女だからね…」
「妖女?極東のイーストユートピアでは魔法使いは妖女って呼称されるのね…意外だわ…」
世界各国では妖女は魔法使いか魔女と呼称されるのが通説である。
「勿論妖女は妖女でも…私は最上級妖女なのよ!留意しなさいね!」
「あんたが噂話の月影桜花姫だったのね…」
「勿論よ!私が最上級妖女の月影桜花姫様だからね♪」
アクアヴィーナスはボソッと本音を口走る。
「第一印象…あんたって世間知らずの小娘っぽいわね…正直最上級の魔法使いとは程遠い雰囲気だわ…」
「なっ!?」
アクアヴィーナスの本音に桜花姫はピリピリするなり…。
(此奴…)
「あんた…地上界の女神様である私に世間知らずの小娘ですって!」
「ひっ!」
アクアヴィーナスは怒号する桜花姫に畏怖したのである。桜花姫はアクアヴィーナスに変化の妖術を発動する。
「命知らずのあんたは溝鼠に変化しなさい…」
すると直後…。アクアヴィーナスは桜花姫の変化の妖術によって小汚い溝鼠に変化したのである。
「きゃっ!」
アクアヴィーナスは恐る恐る自分自身の肉体を凝視するなり…。
(えっ!?如何して私は溝鼠に!?)
アクアヴィーナスは桜花姫の妖術に戦慄する。
「地上界の女神様である私を世間知らずの小娘なんて…失言した天罰だからね♪」
桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。アクアヴィーナスを溝鼠の状態から元通りの姿形に戻したのである。
「えっ?私は元通りに戻れたのね…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であるがホッとする。
「反省しなさいね♪金輪際女神様の私に失言すれば…今度こそ桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね♪」
桜花姫は笑顔で忠告したのである。
「ひっ!」
笑顔で食い殺すと忠告する桜花姫に…。アクアヴィーナスは畏怖したのかビクビクする。
「御免なさい…月影桜花姫…」
「気にしないで♪金輪際失言しないのよ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に謝罪したのである。
「如何してあんたは島国の太平神国なんかに?」
問い掛けられたアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「私達の祖国であるアクアユートピアが極悪非道の魔女と手下達によって占拠されちゃったのよ…」
人魚達の理想郷アクアユートピアは極悪非道の深海底魔女と部下達によって侵略されたのである。魔女と部下達の襲撃からアクアユートピアの人魚達は必死に抵抗するのだが…。魔女の魔力は桁違いに強力であり魔女の猛反撃によって抵抗した大勢の人魚達が惨殺される。
「平和だったアクアユートピアが深海底の魔女に侵略されて…私の母様…【ウェンディーネ】母様が魔女に連行されちゃったの…」
「ウェンディーネってあんたの母様なの?」
「私の母様よ…魔女に連行されたの…」
ウェンディーネとはアクアヴィーナスの母親である。今現在深海底のアクアユートピアは魔女と部下達の魔窟であり母親のウェンディーネは魔女に連行される。幸運にも愛娘であるアクアヴィーナスは危機一髪アクアユートピアから脱出出来たものの…。母親のウェンディーネを見殺した事実に自分自身の無力さと極度の罪悪感が芽生え始める。
「結局私は何も出来ず…ウェンディーネ母様を見殺しに…」
アクアヴィーナスの涙腺から涙が零れ落ちる。
「私に依頼したかったのね♪」
「噂話ではあんたの母親も人魚の血族みたいだし…魔法使いのあんただったら魔女にも対抗出来るかなって…」
「あんたの祖国を牛耳る魔女を征伐するのね♪面白そうだわ♪」
魔女の征伐に桜花姫は非常にワクワクしたのである。
「最上級妖女の私が魔女を徹底的に蹴散らせるから安心しなさい♪」
桜花姫は笑顔で魔女を征伐すると宣言する。
(桜花姫の魔法は本物だったわ…最強の魔法使いである彼女なら…アクアユートピアを侵略した魔女が相手でも撃退出来るかも知れないわね…)
アクアヴィーナスは桜花姫の妖力の絶大さを実感したのである。
「即刻出掛けちゃおうかしら♪」
「下準備しなくても大丈夫なの?」
「大丈夫よ♪早速あんたの祖国に道案内してよ♪」
アクアヴィーナスは桜花姫に道案内するなり西国の海岸へと直行する。
「案外近辺なのね♪」
「人魚に変身するわね…」
アクアヴィーナスは変身魔法を発動したのである。アクアヴィーナスの全身が虹色に発光したかと思いきや…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。
「美人さんね♪アクアヴィーナス♪」
桜花姫の美人さん発言にアクアヴィーナスは赤面する。
「あんたも…桜花姫も人魚に変身出来るのよね?」
「勿論よ♪」
桜花姫は笑顔で即答したのである。変化の妖術を発動…。下半身が銀鱗の大魚へと変化する。するとアクアヴィーナスは赤面した表情で恐る恐る…。
「あんたも…人魚の桜花姫も…海水の女神様だよ…」
「私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」
(私が海水の女神様ですって♪)
ボソッと発言するアクアヴィーナスに桜花姫は内心大喜びしたのである。
「人魚に変化しちゃったし!私達は早速アクアユートピアに直行しましょう!」
「承知したわ…即刻アクアユートピアに道案内するわよ…」
彼女達は海中へと潜行するなり深海底のアクアユートピアへと驀進する。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:39
投稿者 月影桜花姫
参照先
第二話

鬼面山

椿女郎との死闘から四日後の真昼…。南国の鬼面山と命名される岩山にて無数の悪霊が出現したとの噂話が国全体に出回る。噂話が気になった桜花姫は悪霊征伐にワクワクしたのか西国から南国に聳え立つ鬼面山へと直行する。
「今度は南国の鬼面山に悪霊が出現したのね♪」
鬼面山とは標高九町の岩山であり大山全体が鬼面を連想させる外観から鬼面山と命名される。霊魂巨神木との戦闘から悪霊の出現は少数であったものの…。久方振りの悪霊の大群出現に桜花姫は大喜びしたのである。西国から徒歩により二時間後…。南国の村里に到達する。
「南国に到着したわね♪」
南国の村里は非常に殺風景であるものの…。大勢の農民達が農作業に尽力中である。
(今回は何が出現したのかしら♪半年前の荒神山の戦闘みたいに大量の悪霊が出現したら面白いわね♪)
半年前の荒神山での悪霊征伐を想起する。
「即刻鬼面山に移動しないと…」
目的地の鬼面山に直行したいが場所が不明瞭である。
(鬼面山の場所って…)
困惑した桜花姫は恐る恐る耕作中の農民に近寄るなり…。
「御免あそばせ♪百姓さん♪」
すると耕作中の農民が恐る恐る桜花姫を直視する。
「えっ?花魁の娘さんが南国の村里に訪問されるなんて…一体何事ですかね?」
農民の花魁発言に桜花姫は苛立ったのか即答したのである。
「なっ!失礼しちゃうわね…私は最上級妖女の月影桜花姫よ!花魁なんかと勘違いしないでよね!」
桜花姫の返答に農民は驚愕する。
「貴女様は伝説の最上級妖女の…月影桜花姫様ですか!?」
農民は即座に桜花姫に謝罪したのである。
「大変失礼しました!月影桜花姫様…花柄の着物姿だったので桜花姫様を花魁の娘さんと勘違いしちゃいました…」
「私自身奇抜だから花魁と見間違えるでしょうね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「ですがこんな早朝から如何して桜花姫様は南国に訪問されたのですか?南国はこんなにも田舎村ですよ…」
南国の領土の広大さは東国に匹敵するものの土地の大半は農村地帯であり娯楽は皆無である。
「近頃南国の鬼面山に悪霊の大群が出現したみたいだからね♪私は鬼面山に出現した悪霊の大群を征伐しに南国に出掛けたのよ♪」
「鬼面山の悪霊征伐ですね…」
桜花姫は恐る恐る鬼面山の場所を質問する。
「私は鬼面山の場所を知りたくて…あんたは知らないかしら?」
農民は北方の側面に位置する岩山を指差したのである。
「鬼面山であれば北方の岩山ですよ…」
「北方の岩山ですって?」
桜花姫は農民が指差した北方の岩山を眺望する。鬼面山は農村から非常に近辺であり徒歩でも十数分で到達出来る近距離である。
「案外近辺だったのね♪感謝するわね♪」
桜花姫は北方の岩山を目印に直進する。農村からは感じられなかったが鬼面山に近寄ると重苦しい無数の霊力を感じる。
「霊力かしら?」
(非常に重苦しいわね…)
鬼面山の表面は非常に暗闇であり無数の霊力の悪影響からか空気も全体的に重苦しい。
「こんなにも空気が重苦しいなんて…普通の人間なんて近寄れないでしょうね…」
桜花姫は恐る恐る鬼面山へと突入する。周辺はゴツゴツの岩壁ばかりで動植物は確認出来ない。
「昼間なのに真夜中みたいな雰囲気だわ…」
すると山道の周辺より…。
霊力だわ…悪霊かしら?」
無数の霊力が近寄るのを感じる。
(天道眼…発動!)
警戒した桜花姫は即座に瞳術の天道眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。直後…。目前の地面より無数の食人餓鬼が出現したのである。
「食人餓鬼の大群なんて…久方振りね♪」
彼女は久方振りの悪霊との遭遇に大喜びする。
「悪霊を蹴散らせるわよ♪」
地面から出現した無数の食人餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「死滅しなさい♪」
桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。殺到する無数の食人餓鬼の頭部を破裂させたのである。
「楽勝♪楽勝♪」
周辺の地面には頭部を破裂させられた無数の食人餓鬼の血肉が散乱する。桜花姫は一安心するものの…。背後からも無数の霊力を感じる。
「背後?」
背後の地面からも無数の食人餓鬼が出現したのである。
「鬱陶しい奴等だわ…」
苛立った桜花姫であるが…。
「あんた達も死滅しなさい♪」
背後から殺到する食人餓鬼を念力の妖術によって粉砕する。一瞬で食人餓鬼の大群を仕留めたのである。
「妖力を消耗しちゃったから桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
彼女はルンルンした気分で変化の妖術を発動…。破裂させた無数の食人餓鬼の肉片を自身の大好物である桜餅に変化させる。
「消耗しちゃった妖力を回復させないと♪」
本来は悪霊の血肉であるが桜花姫は無我夢中に無数の桜餅を頬張る。数分後…。道端に散乱した無数の桜餅をパクパクと平らげたのである。
「妖力は回復したわね♪」
桜餅によって妖力を回復させた直後…。
「えっ!?」
背後より複数の霊力を感じる。
「霊力を感じるわね…」
(食人餓鬼を上回る霊力だわ…一体何かしら?)
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「今度の相手は集合体の百鬼食人餓鬼かしら?悪霊の親玉が三体も出現するなんてね♪」
桜花姫の背後に出現した悪霊は無数の食人餓鬼が一体化した百鬼食人餓鬼であり三体も出現したのである。百鬼食人餓鬼の出現に桜花姫は大喜びする。
(私は空腹だから好都合だわ♪)
すると百鬼食人餓鬼の体表である無数の食人餓鬼がギョロッと桜花姫を睥睨したのである。
「気味悪さだけは抜群ね♪」
百鬼食人餓鬼の体表である食人餓鬼の口先から猛毒の瘴気を放出する。
(瘴気かしら?)
すると地面の石道が融解されたのである。
(百鬼食人餓鬼の瘴気は非常に強力ね…皮膚に接触すると危険そうだわ…)
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼食人餓鬼の瘴気を無力化したのである。
「鬱陶しいからあんた達は飴玉に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動…。三体の百鬼食人餓鬼を大好きな飴玉に変化させたのである。桜花姫は飴玉に変化した百鬼食人餓鬼をパクッと頬張る。
「美味だわ♪」
大喜びした桜花姫であるが直後である。鬼面山の天辺より強大なる霊力を感じる。
「今度は何かしら?」
(天辺から霊力を感じるわ…)
気になった桜花姫は一目散に鬼面山の天辺へと直行したのである。天辺に到達した桜花姫は周囲を警戒する。
「食人餓鬼を上回る霊力なのは確実ね…」
すると背後から強烈なる熱気を感じる。
「熱気!?」
彼女は恐る恐る背後を直視するなり…。
「天辺の霊力の正体はあんただったのね…」
桜花姫の背後に出現したのは空中を浮遊する牛車の車輪である。超高温の火炎に包まれた車輪の中心部には僧侶らしき頭部が確認出来る。
「あんたは車輪の悪霊…【天空輪入道】ね…」
(此奴は殺された僧侶の悪霊だったかしら?)
天空輪入道とは戦乱時代にて惨殺された僧侶達の悪霊の集合体である。すると天空輪入道は空中を浮遊した状態から桜花姫を睥睨する。
「命知らずの人間の小娘が…鬼面山の天辺に到達するとは無謀なり!」
天空輪入道は人間界の公用語で発言したのである。天空輪入道の人間の小娘発言に桜花姫は腹立たしくなる。
「誰が人間の小娘ですって!私は最上級妖女なのよ!」
桜花姫は強気で返答する。
「随分強気であるな…最上級妖女の小娘よ…」
「如何やら鬼面山の霊力の正体はあんただったみたいね♪」
「命知らずの妖女の小娘…俺に遭遇したのを後悔せよ!」
天空輪入道は口先に強烈なる火炎を凝縮させる。
(予想外ね…食人餓鬼は勿論…百鬼食人餓鬼の霊力よりも強力だわ…)
食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼をも上回る霊力に桜花姫は一瞬後退りする。
「戦慄したか!か弱き小娘の妖女よ!」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「誰が戦慄ですって♪」
天空輪入道の口先に凝縮された火炎は高熱の火球へと変化する。
「死滅せよ!」
天空輪入道は口先から高熱の火球を発射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。天空輪入道の火球を無力化したのである。
「危機一髪ね♪」
「妖力の防壁で無力化したか…」
「私も猛反撃しちゃうわよ♪桜餅に変化しちゃいなさい♪」
桜花姫は天空輪入道に変化の妖術を発動するものの…。天空輪入道は浮遊した状態であり桜餅に変化しない。
(えっ!?如何して!?)
「如何して妖術が発動しないの!?」
予想外の事態に桜花姫は驚愕する。
「残念だったな…妖女の小娘よ♪貴様の妖術は俺には通用しない!」
「念力の妖術だったら如何かしら…」
今度は天空輪入道に念力の妖術を発動するのだが…。天空輪入道は平然とした状態であり念力の妖術さえも発動されない。
「如何して私の妖術が無力化されるのよ…」
天空輪入道は動揺する桜花姫に…。
「本来俺の肉体は霊魂巨神木の肉片から誕生した器物であるからな♪貴様程度の妖術では俺は仕留められまい!貴様が俺に妖術を発動すれば貴様の妖力は必然的に俺の肉体に吸収されるだけだ!」
「妖力を吸収するなんて…小面蜘蛛みたいね…」
本来天空輪入道の肉体は霊魂巨神木の木材から誕生した器物の悪霊であり地方では付喪神とも呼称される。妖術で天空輪入道に攻撃すると本体の吸収能力によって妖力を吸収され…。妖術は無力化される。
「貴様程度の妖術では俺には勝利出来ない!観念せよ!」
豪語する天空輪入道であるが…。
「半年前の私だったら悪戦苦闘は確実だったかも知れないわね♪」
桜花姫は余裕の表情である。
「ん?」
(此奴…俺を相手に随分と余裕だな…)
すると桜花姫はニコッと微笑む。
「口寄せの妖術なら如何かしら♪」
「口寄せの妖術だと?」
桜花姫は神通力を利用するなり…。口寄せの妖術を発動する。桜花姫は俗界とは異世界より近代兵器である小型対空ミサイルを鬼面山天辺へと一瞬でワープさせる。
「なっ!?異次元空間から火箭弾を口寄せしたのか?」
口寄せの妖術は別名時空間妖術である。多種多様の生命体のみならず…。異世界に存在する物品すらも自由自在に口寄せ出来る。異世界から口寄せされた小型対空ミサイルの導火線に火炎の妖術で着火…。小型対空ミサイルは飛翔すると鬼面山の天辺に浮遊する天空輪入道へと直撃したのである。
「異世界の火箭弾で死滅するのね♪」
「ぎゃっ!」
小型対空ミサイルの直撃により天空輪入道の肉体はバラバラに粉砕される。地面には天空輪入道の肉片が彼方此方に散乱する。
「今度こそ桜餅に変化しなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を駆使するなり…。バラバラに粉砕された天空輪入道の肉片を大好きな桜餅に変化させる。
「空腹だし桜餅を食べちゃおうかしら♪」
彼女はムシャムシャと桜餅を平らげる。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫であるが…。背後より強大なる複数の霊力を感じる。
「えっ?」
(今度は何かしら?)
背後を警戒するなり…。
「鬱陶しいわね…天空輪入道が三体も出現するなんて…」
彼女の背後には三体の天空輪入道が出現したのである。
「こんな妖女の小娘が俺の分身体を死滅させるとは…」
「如何やら貴様は普通の妖女とは別格であるな…」
「ひょっとして貴様…一握りの最上級妖女だな?」
桜花姫は笑顔で発言する。
「勿論私は最上級妖女なのよ♪其処等の妖女とは別格だからね♪あんた達も変化の妖術で桜餅に変化させるわよ♪」
三体の天空輪入道は即答したのである。
「こんな小娘を相手に…本領を発揮させられるとは…」
三体の天空輪入道の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。
「えっ!?一体何事!?」
三体の天空輪入道が融合すると牛車の悪霊へと一体化したのである。
「ヨウジョノコムスメ…キサマヲヒキコロシテヤル…」
「厄介なのが出現したわね…」
(此奴は今迄に出現した悪霊とは桁違いの霊力だわ…)
桜花姫は牛車の悪霊を直視するなり恐る恐る後退りする。
「三体の天空輪入道が一体化して…牛車の悪霊…【朧戦車】が出現するなんて…」
(此奴…今迄出現した悪霊とは別格みたいだわ…)
朧戦車とは戦乱時代に斬首された武将達の怨念が融合化した集合体である。本体である牛車の前方部分には鬼首が確認出来る。霊力のみなら最上級の悪霊である。
(畜生…こんな悪霊は妖力を発動したとしても吸収されるでしょうね…如何しましょう…)
朧戦車の肉体も霊魂巨神木の木材から誕生した器物の悪霊であり妖力を駆使しても確実に吸収される。
「ヨウジョノコムスメヨ!シメツセヨ!」
口先より蛍光色の火球を発射する。直後…。桜花姫は妖力の防壁により火球を無力化するも火球の爆発力により吹っ飛ばされる。
「きゃっ!」
朧戦車の攻撃力は桁外れであり妖力の防壁でも本体を防ぎ切るのが精一杯だったのである。
(妖力の防壁を発動しなければ全身がバラバラだったわね…)
朧戦車の攻撃に吹っ飛ばされた桜花姫は地面に横たわる。
「コノママキサマヲヒキコロシテヤル…ヨウジョノコムスメ!カクゴセヨ!」
「ぐっ!」
(一か八か口寄せの妖術で…)
桜花姫は一か八かの苦肉の策により口寄せの妖術を発動する。朧戦車に轢死させられる寸前…。
「ナッ!?ニンゲンノツクッタタイホウダト!?」
桜花姫は口寄せの妖術によって超未来の世界で製造されたであろう最新式の巨大戦艦型固定砲台を口寄せしたのである。
「死滅するのはあんたよ!朧戦車!」
朧戦車の前面に出現した巨大戦艦型固定砲台が突進する朧戦車を砲撃…。
「ギャッ!」
巨大戦艦型固定砲台の砲撃によって朧戦車はバラバラに粉砕させる。
「朧戦車を仕留めたわね♪久方振りの強敵だったわ…」
すると鬼面山から霊力が感じられなくなる。
「無事に事件は解決かしら♪」
危機一髪朧戦車に辛勝した桜花姫は一安心する。
「消耗しちゃった妖力を回復させないと♪」
変化の妖術を発動するなりバラバラに粉砕された朧戦車の肉片を無数の桜餅に変化させる。桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張ったのである。
(満腹♪満腹♪)
「悪霊事件も無事に解決出来たし…西国に戻りましょう♪」
桜餅を腹一杯平らげた桜花姫は鬼面山から下山する。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/17 09:38
投稿者 月影桜花姫
参照先
第二部

第一話

斬首

世界樹の霊魂巨神木との死闘から半年後の天地歴四千二十年十二月中旬…。太平神国に安寧秩序が到来したものの近頃東国の中心街では何者かによって頭首を斬首される連続殺人事件が多発したのである。殺人事件の発生に町民達は畏怖する。真夜中に二人の鎮守府常備軍の邏卒が東国の中心街を夜番したのである。
「折角平穏が戻ったのに…殺人事件が三件も連続的に発生するなんて物騒だな…」
「恐らく匪賊の仕業だろうが…斬首するなんて随分悪質だよな…」
殺害された被害者達は三人とも頭首を斬首された状態であり翌朝には斬首された頭部と遺体が事件現場で発見される。すると小柄の邏卒がブルブルと寒気を感じる。
「こんな真夜中に人殺しなんかと出くわしたくないぜ…勘弁しろよな…」
「東国の武士団である俺達が人殺しに畏怖して如何する?こんな小事件で畏怖しちまったら俺達は世間様の笑い者だぜ…」
「今回も月影桜花姫様の出番だよな…彼女だったら百人力?千人力だろうし…」
邏卒が口走った月影桜花姫の一言に大柄の邏卒が苛立ち始める。
「桜花姫…桜花姫って…毎回不寝番の桜花姫に頼りっ放しだと東国の武士団は不必要だって村人達から造反されちまうよ!好い加減武士団の上役達も内部を改革させないと形骸化しちまうぞ…」
近年では不寝番の最上級妖女…。月影桜花姫の悪霊征伐により東国武士団の権威が失墜したのである。東国武士団の形骸化と他力本願が問題視され武士団内部からも改革派が出現…。武士団全体の再構築が公言されたのである。
「相手が匪賊だけなら俺達でも対処出来るかも知れないが…神出鬼没の悪霊なんて俺達では頑張っても如何にも出来ないだろ…」
「相手が悪霊だったらな…」
彼等が雑談中…。
「ん?」
東国と北国に国境に直結する両国橋より番傘を所持した赤色の着物姿の女性がポツンと佇立した様子であり天空の満月を眺望する。
「一体誰だろう?」
「こんな真夜中に女人が一人で何を…」
彼等は恐る恐る両国橋へと移動するなり…。番傘の女性の背後に近寄ったのである。女性は小柄の背丈であるが非常に美的の雰囲気であり頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。
「真夜中だぞ…近頃は斬首事件で物騒だしこんな真夜中にあんたみたいな小町娘が一人で出歩くのは危険だぜ!即刻家屋敷に戻りやがれ!」
大柄の邏卒は強気の態度で女性に命令する。大柄の邏卒は強気であったが女性は無反応であり見向きすらしなかったのである。
「此奴…」
(畜生が…無視しやがって!)
大柄の邏卒は女性の態度に苛立ったのかピリピリする。すると小柄の邏卒が恐る恐る…。
「失礼なのですが…貴女様みたいな美人さんがこんな真夜中に一人で出歩かれたら人攫いに遭遇するかも知れませんし…即刻家屋敷に戻られませんか?」
小柄の邏卒が物静かに発言するも女性は反応しない。
「此奴…聾者っぽいな…」
「彼女は雛人形みたいだな…私達の問い掛けには反応しないし…」
(不吉だな…)
ゾッとした小柄の邏卒は女性の雰囲気に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
「貴様…こんな小町娘に畏怖するなんて♪余程の小心者だな♪」
大柄の邏卒は女性の背後へと移動するなり…。
「外見だけなら可愛らしい雰囲気だな♪素顔は別嬪かな?」
小柄の邏卒はビクビクした様子で大柄の邏卒に制止する。
「女人に手出しするなよ!任務は如何する!?」
制止する小柄の邏卒に大柄の邏卒は強気で反論したのである。
「任務なんて後回しだよ♪後回し♪」
「後回しって…」
大柄の邏卒の無責任さに呆れ果てる。
「真夜中だし…人目は貴様だけだからな♪」
大柄の邏卒はムラムラした様子で赤面するなり…。
「小町娘の姉ちゃんよ♪俺と一緒に夜遊びしないか?」
小柄の邏卒は膠着したのである。
(一体如何すれば…)
困惑した直後…。女性が背後を直視したのである。
「えっ?」
女性は半透明の血紅色の瞳孔であり無表情で大柄の邏卒を凝視する。
「素顔も別嬪だな♪」
大柄の邏卒が微笑した直後…。大柄の邏卒の喉元から血液が流れ出る。
「えっ?流血だと?」
大柄の邏卒は恐る恐る喉元に接触する。
「如何して流血した?」
すると直後…。
「えっ?」
大柄の邏卒の頭首がポロッと橋板に落下したのである。
「ひっ!」
(一体何が!?)
小柄の邏卒は極度の恐怖心により恐る恐る後退り…。一目散に逃走したのである。翌朝…。東国と北国の国境に直結する両国橋にて斬首された大柄の邏卒の遺体が発見される。当日の真昼…。最上級妖女の月影桜花姫は久方振りに東国の三蔵郎の寺院へと訪問したのである。
「三蔵郎様♪」
「桜花姫様でしたか♪久方振りですな♪本日は如何されましたか?」
三蔵郎は久方振りの桜花姫の訪問に大喜びする。
「勿論暇潰しよ♪」
「承知しました♪折角ですし昼食でも如何でしょうか?」
「昼食ですって♪空腹だから頂戴するわね♪」
三蔵郎は桜花姫に客室へと案内したのである。
「早速食事を用意しますので…」
三蔵郎は客室から退室する。
「霊魂巨神木の事件は無事に解決したけれど…悪霊が出現しないと面白くないわね…」
半年前に発生した霊魂巨神木の事件は無事に解決したが…。
「毎日が退屈だわ…」
平和が到来すると非常に退屈なのか普通の日常生活が憂鬱に感じられる。
「今後如何しましょう…」
すると三蔵郎が恐る恐る客室へと戻ったのである。
「桜花姫♪」
「三蔵郎様…食事は何かしら?」
「本日の昼食は天丼ですよ♪」
三蔵郎が用意した食事は美味しそうな天丼であり桜花姫は頬張りたくなる。
「天丼なのね♪美味しそうだわ♪」
海老天を頬張る直前…。何者かが寺院の客室へと乱入したのである。
「失礼します!」
突然の出来事に桜花姫と三蔵郎は驚愕する。
「きゃっ!」
「うわっ!」
「突然何事よ!?」
客室へと乱入した人物とは小柄の邏卒である。
「誰かと思いきや…鎮守府の駐在員さんでしょうか?」
「如何して鎮守府の駐在員さんが三蔵郎様の寺院なんかに?」
小柄の邏卒は桜花姫を直視するなり…。
「ひっ!悪霊!?」
「なっ!」
邏卒の悪霊発言に桜花姫はムッとする。
「失礼しちゃうわね!地上界の女神様である私に悪霊ですって!」
失言した邏卒を睥睨するなり…。
「命知らずのあんたは招き猫に変化しなさい♪」
すると小柄の邏卒は桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられる。
「えっ!?駐在員さんが招き猫に!?」
三蔵郎は一瞬で招き猫に変化した邏卒を直視すると驚愕したのである。
「私の天道眼は変化の妖術で多種多様の物体を別物に変化させられるのよ♪悪霊は勿論…人間だって無条件に変化させられるからね♪」
すると三蔵郎は恐る恐る桜花姫に…。
「ですが桜花姫様…遣り過ぎでは?彼を元通りには戻せないのでしょうか?」
「勿論戻せるわよ♪」
変化の妖術を解除…。妖術で招き猫に変化させられた邏卒は元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「元通りに戻れた…」
小柄の邏卒はホッとする。
「反省しなさいね♪」
桜花姫は笑顔で発言したのである。すると邏卒はビクビクした様子で恐る恐る…。
「失礼しました…桜花姫様…」
桜花姫に謝罪したのである。
「気にしないで♪金輪際地上界の女神様である私に悪霊なんて失言したら今度こそ桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね♪」
邏卒は勿論…。
(桜花姫様…)
三蔵郎も苦笑いする。
「ですが突然如何されたのですか?重役である東国武士団の駐在員さんがこんな寺院に訪問されるなんて…事件でも発生したのでしょうか?」
「昨夜の出来事なのですが…」
邏卒は昨夜の出来事は勿論…。昨今に頻発した連続斬首事件を洗い浚い告白したのである。
「真夜中の連続斬首事件ですか…一大事ですね…」
「昨夜に遭遇した小町娘によって私の仲間が殺されましたからね…」
(小町娘?)
小町娘の一言に桜花姫が反応する。
「駐在員さんの仲間は小町娘に殺されたの?」
桜花姫が質問すると邏卒は恐る恐る…。
「彼女は妖術らしき摩訶不思議の効力で…私の仲間の頭首を斬首されたのです…被害者達は全員共通して頭首を斬撃された状態でしたからね…」
「ひょっとして妖女の仕業かしら?」
「妖女ですと?」
三蔵郎と邏卒は桜花姫の妖女の一言に反応したのである。
「真犯人が妖女なのかは現段階では断定は出来ないけれど…彼女の特徴とかは?」
桜花姫の質問に邏卒は恐る恐る返答する。
「私が遭遇した小町娘の特徴ですか…特徴であれば赤色の着物姿でしたね…頭髪には寒椿の髪装飾…右手には番傘でした…」
「赤色の着物姿…寒椿の髪装飾…番傘ね…」
桜花姫は一瞬沈黙したのである。
「桜花姫様…如何されましたか?」
「ひょっとすると今回の連続斬首事件も…悪霊の仕業かも知れないわ…」
「悪霊ですと!?」
三蔵郎と邏卒は悪霊の一言に反応する。
「ひょっとすると【椿女郎】って名前の小町娘の悪霊の仕業よ…」
「椿女郎ですと?椿女郎とは一体何者なのでしょうか?」
「椿女郎はね…」
椿女郎とは戦乱時代に極悪非道の荒武者によって頭部を斬首された村娘の亡霊である。外見のみなら容姿端麗の小町娘であるが…。霊力は非常に強力であり彼女の瞳孔を直視した人間は彼女の霊力により頭首を斬首される。今現在でも成仏出来ずに各地を徘徊しては遭遇した人間の頭首を自身の霊能力で斬首したのである。
「戦乱時代に斬首された村娘の悪霊でしたか…非常に気の毒ですね…」
「椿女郎の瞳孔を直視すれば彼女の霊能力によって頭首を斬首されるわ…」
「私が彼女に斬首されなかったのは…」
「あんたが斬首されなかったのは幸運にも彼女の瞳孔を直視しなかったからよ…」
命拾いした邏卒であるが…。
「ですが正直…私も彼女の素顔を拝見したかったですよ♪彼女は別嬪っぽかったし…」
「駐在員さんが死にたくなったら彼女の素顔を直視しなさいよ♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「桜花姫様は意地悪ですね♪」
談笑した桜花姫と邏卒であるが桜花姫は邏卒に質問したのである。
「如何してあんたは初対面の私を悪霊と勘違いしたのよ?」
邏卒は苦笑いするなり…。
「椿女郎と命名される悪霊が奇遇にも桜花姫様と姿形が一致しましてね…桜花姫様が一瞬悪霊かと勘違いしちゃったのですよ♪」
「桜花姫様は普段から赤色の着物姿ですからね♪」
「三蔵郎様も…失礼しちゃうわね…」
三蔵郎に揶揄された桜花姫は表情が赤面する。
「勿論桜花姫様は別嬪ですよ♪」
「勿論ですとも♪」
「私が別嬪なんて三蔵郎様も駐在員さんも大袈裟ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「椿女郎は即刻仕留めないと温厚篤実の女神様である私が悪霊と勘違いされちゃうからね!傍迷惑だわ…」
「桜花姫様の風評被害は勿論ですが…今回の問題を放置し続ければ大勢の町民達が斬首されますからね!」
三蔵郎は桜花姫を凝視するなり…。
「桜花姫様…即刻悪霊の椿女郎を征伐しなくては…」
「本来なら即刻征伐したいのだけれど…生憎椿女郎が出現するのは真夜中だけなのよね…」
椿女郎が出現するのは真夜中のみであり日中では出現しない。桜花姫は邏卒に指示する。
「駐在員さんは武士団の役人達に今夜の夜番活動を中止させなさい…勿論東国の町民達には夜間の外出を厳禁させてね♪」
「承知しました…私は失礼しますね…」
承諾した邏卒は外出したのである。
「ですが今回の悪霊事件も非常に厄介そうですね…」
「厄介かしら?悪霊退治屋の私にとっては好都合だけれどね♪何よりも悪霊征伐なんて久方振りだし♪」
久方振りの悪霊出現に桜花姫は大喜びする。
「ですが奇妙ですね…」
三蔵郎の表情が険悪化したのである。
「何が奇妙なの?三蔵郎様?」
「霊魂巨神木の悪霊の集合体を桜花姫様が成仏させたのに…今回は女人の悪霊が出現しました…」
半年前に霊魂巨神木に憑霊した悪霊の集合体は桜花姫の神通力によって成仏されたが…。近頃は各地に悪霊が再出現し始めたのである。少数であるが悪霊の再出現に三蔵郎は極度の胸騒ぎを感じる。
「桜花姫様…私は極度の胸騒ぎを感じるのです…」
「胸騒ぎですって…」
「今迄に出現した以上の悪霊が出現するかも知れません…」
三蔵郎は今迄に出現した悪霊とは桁外れの霊力を保持…。強大なる悪霊の出現を危惧したのである。三蔵郎は人一倍心配性の性格であるが桜花姫も悪霊の再出現は非常に気になる。
「兎にも角にも私は今回の悪霊を征伐するわね…」
「承知しました…桜花姫様…」
「早速昼食を頂戴するわね♪」
桜花姫と三蔵郎は昼食の天丼を食事したのである。当日の真夜中…。桜花姫は久方振りの悪霊征伐にワクワクした様子で闇夜の東国に直行する。
(椿女郎…今夜は出現するかしら♪)
一時間後…。東国の中心街へと到達する。
「真夜中の東国って普段は都会なのに無人の過疎地みたいだわ…」
日中は人通りが過多である東国の中心街であるが…。真夜中では人通りは皆無であり武士団の夜間の外出禁止命令によって町民は誰一人として確認出来ない。
「好都合ね♪」
今夜は武士団の巡邏も禁止される。
「悪霊を仕留めて思う存分熟睡するわよ♪」
適当に中心街を出回るのだが…。霊力らしい霊力を感じられず悪霊らしき物体は何一つ発見出来ない。
「はぁ…」
(霊力も感じられないわね…)
困惑した桜花姫であるが…。
「両国橋は如何かしら…」
事件現場である東国と北国を直結する両国橋を想起したのである。
「両国橋に直行するわよ♪」
即座に両国橋へと移動する。数分後…。両国橋へと到達したのである。
「両国橋に到着したけれど…」
周囲を警戒するが霊力も人影も皆無であり桜花姫は落胆する。
「如何しましょう…」
(真夜中に発見出来なければ悪霊を仕留められなくなるわ…)
一息したのである。
「今夜は出直しかしら…」
西国に戻ろうかと思いきや…。突如として背後より人気を感じる。
「えっ?」
(人気かしら?)
彼女は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「こんな真夜中に誰かしら?」
桜花姫の背後には番傘を所持した赤色の着物姿の女性が真夜中の満月を眺望する。彼女の頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。
(番傘と寒椿の髪装飾…ひょっとして彼女は…)
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る一歩ずつ番傘を所持する女性へと近寄る。
「あんたは悪霊の椿女郎ね…こんな真夜中にあんたみたいな村娘が一人で外出するなんて不自然だわ…」
桜花姫は女性に問い掛けるが…。番傘の女性は沈黙した様子であり只管天空の満月を眺望し続けるだけである。
(私の問い掛けに無視するなんて…腹立たしい悪霊ね…)
彼女の態度に桜花姫はピリピリする。すると椿女郎は背後に位置する桜花姫の方向を直視する直前…。
「えっ!?」
桜花姫は即座に両目を瞑目させる。
(危機一髪だったわ!下手に彼女の瞳孔を直視すると斬首されちゃうのよね…)
桜花姫は瞑目した状態で恐る恐る後退りする。
(非常に厄介だわ…如何しましょう…)
瞑目し続けた状態では身動きすら不安定であり妖術を発動したくても集中出来ず思う存分に妖術を発動出来ない。
(こんな状態では不利だわ…)
「一か八か逃げましょう!」
桜花姫は両国橋から一目散に逃走したのである。
(緊張しちゃったから変化の妖術も発動出来ないわね…)
緊張したのと椿女郎の素顔が気になり変化の妖術を発動したくても発動出来なかったのである。
(彼女の素顔も気になるし…)
「一か八か…」
桜花姫は斬首を覚悟…。再度両国橋へと戻ったのである。数分後…。桜花姫は両国橋に到達する。両国橋には満月を眺望し続ける椿女郎が確認出来る。
(椿女郎だわ…今度こそ妖術で仕留めるわよ♪)
桜花姫は恐る恐る椿女郎に近寄る。
「椿女郎!今度こそあんたを成仏させるからね!覚悟しなさいよ!」
すると数秒後…。椿女郎は桜花姫に反応したのか再度背後の彼女を直視するなり無表情で桜花姫を凝視する。
(椿女郎って…悪霊なのに意外と美人さんなのね♪)
彼女の素顔は非常に美的であり桜花姫でさえも容姿端麗であると感じる。
(本当に斬首されるかしら?)
数秒間が経過したものの…。何も発生しない。
「別に大丈夫そうね♪」
大丈夫であると確信した直後…。
「えっ?」
喉元からポタポタッと赤色の液体が流れ出る。
「何かしら?」
桜花姫は恐る恐る首筋の液体に接触したのである。
「流血だわ…」
皮膚から流れ出る赤色の液体が血液であると確信した直後…。桜花姫の頭首がポロっと橋板に落下したのである。椿女郎は霊能力で桜花姫の頭首を斬首すると不吉の表情で微笑する。彼女は再度満月を眺望するのだが…。
「残念だったわね♪椿女郎♪」
椿女郎は女性の美声に反応したのか背後を直視すると両目を瞑目した無傷の桜花姫が佇立する。すると椿女郎の霊能力によって斬首された桜花姫の肉体と頭首がポンッと白煙により消滅したのである。無表情だった椿女郎であるがハッとした表情で桜花姫を凝視する。
「あんたの表情を直視出来ないのは非常に残念だけれど♪あんたが霊能力で斬首したのは私の分身体なのよね♪」
桜花姫は分身の妖術で形作った分身体を利用して椿女郎と接触…。彼女の形相を認識させたのである。桜花姫は変化の妖術を発動…。
「あんたの素顔は分身体で確認したからね♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」
椿女郎を桜餅に変化させる。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜餅に変化した椿女郎をパクッと頬張る。
「美味だわ♪」
すると両国橋から感じられた不吉の霊力が消失する。
「事件解決ね♪私は西国に戻って思う存分熟睡するわよ♪」
無事事件を解決させた桜花姫は即座に西国へと戻ったのである。
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件名 メガラニカ大事変
投稿日 : 2021/08/17 09:02
投稿者 月影桜花姫
参照先
第一話

開戦

世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『アプセラス帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。戦後の疲弊した世界各国を牛耳れる超大国としての地位と資源を獲得したのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得したアプセラス帝国であるが…。アプセラス帝国の存在に反対する一部の反政府勢力と敗戦国の各残党勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ自由区』と命名されアプセラス帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ自由区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ自由区の勢力拡大を危惧したアプセラス帝国はメガラニカ自由区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ自由区本土を攻撃目標に直進したのである。アプセラス帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンにはアプセラス帝国国家元首である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ自由区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国であるアプセラス帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ自由区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ自由区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーはアプセラス帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在アプセラス帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年アプセラス帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶であるアプセラス帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。アプセラス帝国軍の大艦隊はメガラニカ自由区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ自由区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ自由区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。アプセラス帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「アプセラス帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ自由区なんて…」
乗組員達はアプセラス帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ自由区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…アプセラス帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ防衛隊が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ自由区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ自由区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景にアプセラス帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ自由区の南方地帯全域を空爆せよ…非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ自由区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死にアプセラス帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪アプセラス帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年ではアプセラス帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ自由区がアプセラス帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ防衛隊にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方のアプセラス帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕がアプセラス帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
アプセラス帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ防衛隊のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローンも艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…アプセラス帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状ではアプセラス帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければアプセラス帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始したアプセラス帝国軍の艦隊にメガラニカ防衛隊のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦でアプセラス帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ防衛隊はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。アプセラス帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ自由区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ防衛隊はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力によりアプセラス帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。アプセラス帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間でアプセラス帝国の統治領の約半分がメガラニカ防衛隊の猛反撃により占拠されました…アプセラス帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ自由区はアプセラス帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ自由区とアプセラス帝国の国力は一対十八でありメガラニカ自由区は圧倒的に不利である。メガラニカ防衛隊はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量のアプセラス帝国軍を圧倒する。メガラニカ防衛隊の快進撃によりアプセラス帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ防衛隊は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ防衛隊は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来るチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前のアプセラス帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治のアプセラス帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来たのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。アプセラス帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日ではアプセラス帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ防衛隊に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続けるアプセラス帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとはアプセラス帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ防衛隊のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦でアプセラス帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦でアプセラス帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ防衛隊のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『ティタニア』です…」
「超砲撃型戦艦…ティタニア?」
正式名は超砲撃型戦艦ティタニアであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがティタニアは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。
「戦艦ティタニアは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在アプセラス帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦ティタニアの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍に占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…部隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
「残念ですが…」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人ものアプセラス帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ防衛隊の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…アポロゾーン基地だな…」
アポロゾーン基地とは最南端に位置する離島…。アポロゾーン本島を防衛するアプセラス帝国軍守備隊の本拠地である。アプセラス帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻アポロゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?アポロゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「アポロゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…アポロゾーンに侵攻中のメガラニカ防衛隊を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
アポロゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。アポロゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?アポロゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小国家だったアプセラス帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「敵味方諸共…殲滅するのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもアポロゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが承諾したのである。

第三話

攻防戦

五月二十七日早朝…。メガラニカ防衛隊の大艦隊がアプセラス帝国最終防衛区域アポロゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。アポロゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
「スーパーレーダーが反応したぞ!」
即座に立体映像のホログラムで確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ防衛隊の艦隊だな…アポロゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
守備隊の陸軍総司令官が各員に指示したのである。
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!アポロゾーンは徹底的に死守しろ!」
アポロゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありアポロゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ防衛隊の大艦隊がアポロゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカの大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻もの魚雷艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:15
投稿者 月影桜花姫
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最終話

天女

無事に武士団の駐屯地から脱出した小梅姫と崇徳丸は東国の郊外に聳え立つ低山…。日和山に到達したのである。
「はぁ…はぁ…」
崇徳丸は恐る恐る…。
「百鬼食人餓鬼は小梅姫でも仕留められないのか?」
問い掛けられた小梅姫は即答する。
「本調子の私だったら百鬼食人餓鬼程度の悪霊なら十体以上出現しても簡単に仕留められるわ…」
百鬼食人餓鬼は所謂食人餓鬼の集合体であり人間が単独で仕留めるのは困難であるが…。摩訶不思議の妖術を駆使する妖女であれば容易に仕留められる程度の悪霊である。
「えっ…」
(本調子なら百鬼食人餓鬼を十体も仕留められるのか…)
小梅姫の発言に崇徳丸は絶句する。
「今現在の私の妖力は空っぽだからね…食人餓鬼も仕留められないわよ…」
「一休みするか…小梅姫?」
すると小梅姫は小声で発言する。
「天霊山の露天風呂にでも入浴出来れば…」
「ん?天霊山の露天風呂だと?」
崇徳丸は露天風呂の一言に反応したのである。
「天霊山って…西国の小山だったよな?」
「天霊山の露天風呂に入浴すれば消耗した妖力も回復させられるの…」
「即刻西国に移動するか…」
直後…。無数の霊力が日和山に接近するのを感じる。
「殺気か…」
「無数の霊力だわ…」
無数の霊力の正体とは百鬼食人餓鬼であり先程遭遇した百鬼食人餓鬼が日和山に出現したのである。
「此奴…」
「百鬼食人餓鬼だわ…私達を追尾したのね…」
すると崇徳丸は一息するなり…。
「久方振りに…此奴の出番だな…」
「えっ?父様?」
崇徳丸は牢固石の刀剣を抜刀したのである。
(父様…本物の武士みたいだわ…)
崇徳丸は身構える。
「悪霊との戦闘は三十年前以来だな…」
三十年前の死霊餓狼との死闘を想起したのである。
「成仏せよ…悪霊!」
百鬼食人餓鬼を睥睨するなり…。神速の身動きで百鬼食人餓鬼に接近したのである。
「瞬殺!?」
崇徳丸の斬撃で百鬼食人餓鬼は両断される。
(父様って…こんなに精強だったの!?)
小梅姫は崇徳丸の強大さに愕然とする。
「私は戦乱時代では東国の一兵卒だったからな…」
(父様…男前ね♪)
小梅姫は赤面…。崇徳丸に見惚れたのであり。すると両断された百鬼食人餓鬼が無数の肉片に分裂…。数十体もの食人餓鬼に変化したのである。
「此奴…食人餓鬼に分裂するとは…」
無数の食人餓鬼が崇徳丸に殺到する。
「父様!多勢に無勢だわ…逃げましょう!」
「食人餓鬼は私が仕留める…」
圧倒的に不利であるが崇徳丸は再度…。神速の身動きにより殺到する食人餓鬼を斬撃したのである。数分間で数十体の食人餓鬼を仕留める。
「此奴は意外と楽勝だったな…」
地面には無数の血肉が散乱したのである。小梅姫は沈黙する。
(父様が東国の軍神って噂話は本当だったのね…)
百鬼食人餓鬼との交戦で崇徳丸の精強さを再認識したのである。
「こんな程度の奴等なら私一人でも容易に仕留められそうだ…小梅姫は西国の天霊山で妖力を回復させろ…」
直後…。百鬼食人餓鬼をも上回る霊力を察知したのである。
「えっ!?何かしら!?」
(霊力だけど…今迄の悪霊とは桁違いだわ…一体何が出現したのかしら!?)
畏怖する小梅姫の様子に崇徳丸も極度の胸騒ぎを感じる。
(如何やら小梅姫も感じるみたいだな…)
すると背後の獣道より…。
「ん?なっ!?貴様は…」
崇徳丸は背後を直視すると身震いしたのである。
「えっ…誰なの!?」
獣道に出現したのは鬼神を連想させる甲冑を装備した武士…。崇徳丸を直視するなり睥睨したのである。
「父様?此奴は一体何者なの?」
(此奴の肉体から霊力を感じるわ…悪霊なのは確実だけど何者かしら?)
武士が悪霊なのは確実であり小梅姫は恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。問い掛けられた崇徳丸は一瞬後退りする。
「此奴は…北国の鬼神…鬼殺丸だ…」
「鬼殺丸?」
すると鬼殺丸は発言し始める。
「久方振りだな…夜桜崇徳丸…戦乱時代では人殺しだった貴様が…今現在では僧侶の身分とは呆れ果てるな…」
小梅姫は崇徳丸を直視するなり…。
「父様!此奴は悪霊よ!肉体から霊力を感じるわ!」
「えっ…悪霊だと!?」
鬼殺丸が悪霊である事実に崇徳丸は驚愕したのである。
「鬼殺丸?貴様…戦死したのか?」
崇徳丸の問い掛けに即答する。
「俺は野犬の亡霊に食い殺された…今現在の俺は悪霊の肉体だ…」
「野犬の亡霊とは…」
(死霊餓狼か…)
野犬の亡霊が死霊餓狼であると推測したのである。
「俺は皮肉にも悪霊の集合体によって復活させられた悪霊だ…」
「悪霊の集合体だと?」
「人間達を全滅させるのが俺の仕事だからな…手始めに復讐の対象者である崇徳丸…貴様から片付ける!」
すると小梅姫が発言する。
「父様を殺さないで!」
「ん?誰だ…貴様は?」
鬼殺丸は小梅姫を睥睨したのである。
「小梅姫…逃げろ…此奴は私が阻止する…」
崇徳丸は再度抜刀する。
「えっ?父様!?」
「安心しろ…私は死なないよ♪」
崇徳丸は笑顔で断言したのである。
「如何やら小娘は貴様の愛娘みたいだな…」
「私の愛娘に手出しさせない…貴様の相手は私だ…」
「安心しろ…貴様を打っ殺してから貴様の愛娘も打っ殺すからよ…」
鬼殺丸は右手に霊力を収縮…。雷光の刀剣を形作ったのである。
「雷光の刀剣だと?」
「貴様を仕留めるには…此奴で事足りる!」
両者は睥睨するなり…。
「覚悟しろ!鬼殺丸!」
「貴様こそ!」
両者は神速の身動きで移動し始める。
(えっ!?)
両者の身動きは肉眼では視認出来ず小梅姫は何が発生したのか理解出来なかったのである。
(一体全体何が!?)
直後…。両者の刀剣が交差したのである。
「崇徳丸…貴様の刀剣は私の霊剣と互角とは…」
「私の刀剣は牢固石だ!貴様の雷光の刀剣でも簡単には屈折しないぞ…」
すると鬼殺丸は後退…。雷光の刀剣は消滅する。
「ん?」
崇徳丸は警戒したのである。
(鬼殺丸は一体何を?)
鬼殺丸は左手より霊力の火球を形作る。
「死滅せよ…崇徳丸…」
高熱の火球を発射したのである。
(火球か…)
崇徳丸は火球を一刀両断…。左右に両断された火球は崇徳丸の背後で爆散したのである。
「鬼殺丸…貴様は其処等の悪霊とは桁外れだな…」
「当然だ…悪霊は悪霊でも俺は其処等の悪霊とは別格だからな!最上級の悪霊とでも…」
自身を最上級の悪霊と豪語する。
「であれば鬼殺丸よ…本来の貴様は死没者であるからな…死没者である貴様を死後の世界に戻らせる…」
「最上級の悪霊である私を死後の世界に戻らせるか…であれば私は貴様を死後の世界である地獄に招待するだけだ…」
鬼殺丸は崇徳丸の両足を直視…。
「えっ?」
「父様の両足が…」
すると崇徳丸の両足は氷結したのである。
「なっ!?氷結だと!?鬼殺丸…貴様一体何を?」
「残念だったな…崇徳丸…私の霊力で貴様の身動きを封殺した…」
両腕と両足の氷結により崇徳丸は完全に身動き出来なくなる。
「ぐっ…」
(迂闊だった…)
鬼殺丸は再度雷光の刀剣を発動したのである。
「今度こそ貴様を地獄に招待する…覚悟せよ!崇徳丸…」
一歩ずつ崇徳丸に近寄る。普段は冷静であり無表情の鬼殺丸であるが…。
(今回で復讐を達成出来るぞ♪)
今回ばかりは微笑したのである。
「覚悟しろ!崇徳丸!」
(今日が私の命日か…)
崇徳丸は最期を覚悟する。頭首を斬首される寸前…。
「父様を殺さないで!」
「はっ?」
「小梅姫…」
鬼殺丸と崇徳丸は小梅姫を直視する。
「鬼殺丸…父様を殺さないで…」
小梅姫は泣訴したのである。落涙する小梅姫に鬼殺丸は無表情で…。
「安心しろ…小娘…此奴を打っ殺してから愛娘の貴様も打っ殺すからよ…」
すると小梅姫は鬼殺丸を睥睨したのである。
「如何しても父様を殺したいのであれば…」
「はっ?」
小梅姫の全身より血紅色の妖力が全身から溢れ出る。
「小梅姫…一体何が…」
「小娘…」
小梅姫の妖力は肉眼でも視認出来る。普段の温厚篤実の彼女とは別人であり今現在の彼女は鬼神だったのである。
(小梅姫なのか!?別人みたいだ…)
崇徳丸は彼女に戦慄する。すると数秒後である。妖力の覚醒からか彼女の全身から溢れ出た妖力が小梅姫の全身を覆い包み…。小梅姫は常人よりも一回り巨体の化け猫らしき妖獣へと変化したのである。
「小娘…妖怪化したのか…」
無表情であった鬼殺丸も恐る恐る後退りする。
「私を殺せるなら殺しなさい!」
小梅姫は力一杯鬼殺丸を睥睨したのである。
(小娘の正体は妖獣だったのか…)
「死滅しろ!妖獣!」
高熱の火球で攻撃する。
「小梅姫!」
小梅姫は雷撃の結界で鬼殺丸の火球を無力化したのである。
「俺の攻撃を無力化しやがったか…」
直後…。
「なっ!?」
突如として身動き出来なくなる。
(ぐっ…身動き出来ないだと…)
小梅姫は鬼殺丸に金縛りの妖術を発動したのである。
「逃げられないわよ…悪霊!」
口先より高熱の雷光を凝縮…。雷光の火球を形成させる。
「完全に成仏しなさい!」
雷光の火球を発射したのである。
「えっ…」
前方の地面は高熱により焦土化…。黒焦げに抉れたのである。
「予想外の威力だ…」
(小梅姫の妖力は私の想像以上だな…)
小梅姫の妖力に崇徳丸は圧倒される。
「鬼殺丸は…仕留めたかしら…」
すると背後より…。
「小梅姫!食人餓鬼だ!」
「えっ?」
小梅姫の背後に一体の食人餓鬼が出現したのである。
「食人餓鬼程度なら…」
攻撃する直前…。食人餓鬼の肉体から白煙が発生したのである。食人餓鬼は白煙に覆い包まれ…。
「えっ…」
「此奴は…」
先程仕留められた鬼殺丸が再度出現したのである。
「残念だったな…小娘よ…」
「如何して鬼殺丸が?貴様は小梅姫の攻撃で…」
すると鬼殺丸は説明する。
「俺の肉体は悪霊だ…実体としての肉体が破壊されたとしても霊体のみでも活動出来るぞ…」
鬼殺丸は小梅姫に攻撃される寸前…。近辺で徘徊する食人餓鬼に憑霊したのである。
「俺は肉体を何度破壊されても他者の肉体に憑霊すれば何度でも復活出来るからな!」
鬼殺丸は豪語するが…。
(畜生が…先程の攻撃で肉体のみならず…霊体の大半が浄化されちまったからな…)
先程の小梅姫の攻撃は肉体の殲滅は無論であるが浄化作用により霊体も浄化出来る。
(鬼殺丸の様子…食人餓鬼に憑霊したみたいだが大分弱体化した様子だな…)
崇徳丸は鬼殺丸の様子を観察すると一時的に弱体化したのではと察知したのである。
(ひょっとすると攻撃する絶好機かも知れないな…)
崇徳丸は小梅姫に合図する。
「小梅姫!鬼殺丸は弱体化したぞ!今度こそ鬼殺丸を仕留められる!」
(なっ!?)
普段は無表情の鬼殺丸であるが…。一瞬動揺する。
「此奴に攻撃したいけれど…」
小梅姫は妖力の消耗により妖獣の形態から元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「えっ…小梅姫…」
(先程の威勢は一体…)
崇徳丸は沈黙する。一時的に妖力の覚醒で妖獣へと変化した小梅姫であるが小面蜘蛛との戦闘で大量の妖力を吸収され…。衰弱化した状態からの覚醒であり妖力の消耗が加速したのである。
(今度も攻撃されたら…俺は今度こそ地獄に逆戻りだったな…)
鬼殺丸は命拾いにより内心一安心する。小梅姫は妖力が空っぽ状態であり地面に横たわる。
「小梅姫!?」
鬼殺丸は横たわった小梅姫に近寄る。
「小娘…貴様は俺にとって復讐の対象者である崇徳丸の愛娘だからな…貴様も同罪だ…」
悪霊の鬼殺丸にとって小梅姫の存在は非常に厄介であり崇徳丸よりも脅威である。鬼殺丸は再度雷光の刀剣を形作る。
「鬼殺丸!貴様の復讐に彼女は無関係だぞ!復讐するなら私に復讐しろ!彼女に手出しするな!」
崇徳丸は必死に彼を制止するのだが…。
「俺にとって此奴は脅威だ…」
(折角俗界に戻れたのだ…二度も地獄に戻されるのは御免だからな…)
すると小梅姫は落涙した表情で崇徳丸を直視する。
「父様…」
「小梅姫…」
絶望的状況下であったが…。暗闇の黒雲で覆い包まれた天空であるが光り輝く発光体が降下したのである。
「発光体だわ…」
「今度は何が出現した…」
小梅姫と崇徳丸は勿論…。
「天空から発光体か?」
鬼殺丸も天空の発光体に注目する。発光体が日和山の頂上に着地したかと思いきや…。発光体の正体は巫女装束の女性だったのである。背丈は非常に小柄であり頭部には金冠…。背中には円形の光背が確認出来る。天女を連想させる女性に崇徳丸は愕然とする。
「えっ!?貴女様はひょっとして…」
天女は微笑むなり…。
「崇徳丸様♪久し振りね♪」
「勿論ですよ…桃子姫様…」
天女の正体とは三十年前に逝去した桃子姫だったのである。
(桃子姫って…私の母様…)
崇徳丸と小梅姫は桃子姫との再会に涙が零れ落ちる。すると鬼殺丸が桃子姫を睥睨するなり…。
「貴様は一体何者だ!?俺の復讐を邪魔するのであれば貴様を打っ殺す…」
鬼殺丸は威嚇するが桃子姫は無表情で返答する。
「私の家族には手出しさせないわよ…」
すると半透明の血紅色だった桃子姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「桃子姫様の両目が瑠璃色に発光した…」
崇徳丸は不思議がる。
「鬼殺丸だったかしら?貴方は死没者なのです!死後の住人である貴方は即刻黄泉の国に戻りなさい…」
直後である。
「なっ!?」
鬼殺丸は桃子姫の神通力によって身動き出来なくなったと同時に…。
「畜生が…」
(結局…地獄に逆戻りとは…)
肉体は虹色の粒子状の発光体へと変化したのである。無数の発光体へと変化した鬼殺丸は天空にて消滅する。
「鬼殺丸が…」
「消滅するなんて…」
小梅姫と崇徳丸は驚愕したのである。
「亡者達は全員浄化したわ♪」
桃子姫の神通力により各地で徘徊する食人餓鬼の大群と百鬼食人餓鬼は浄化され…。消滅したのである。
(霊力が消滅したわ…母様が一人で悪霊の大群を浄化したの?)
小梅姫は桃子姫の神通力の絶大さに愕然とする。
「一安心ですね♪桃子姫様♪」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「貴女は本当に…私の母様なのね…」
「勿論よ♪私は貴女の母親よ♪」
桃子姫は笑顔で即答する。
「小梅姫…貴女は美人さんに成長したわね♪」
美人の一言に小梅姫は赤面したのである。
「私が美人さんなんて…母様は大袈裟よ…」
赤面するが…。内心では大喜びだったのである。
「母様こそ…太陽神っぽくって容姿端麗よ…」
容姿端麗の一言に桃子姫は赤面する。
「私が容姿端麗なんて♪小梅姫は大袈裟ね♪」
桃子姫も内心では大喜びしたのである。
「ですが桃子姫様…貴女の救済で命拾い出来ました…大変感謝します…」
崇徳丸は桃子姫に一礼する。
「気にしないで♪崇徳丸様…貴方達が無事なのが何よりだから♪」
(桃子姫様は本当に救済の女神様だな…)
直後…。桃子姫の肉体が半透明化したのである。
「如何やら時間みたいね…」
「えっ…桃子姫様…」
「母様…」
小梅姫の涙腺から一粒の涙が零れ落ちる。
「小梅姫♪心配しなくても大丈夫よ♪私は天国で小梅姫を見守るからね♪」
「母様…約束だからね♪」
小梅姫に笑顔が戻ったのである。
「約束するわ♪勿論崇徳丸様もね♪」
「桃子姫様♪」
すると桃子姫は消滅する寸前…。
「私達…来世で再会しましょうね♪」
数秒後に桃子姫は消滅したのである。
(来世か…)
小梅姫は恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「父様?来世も私達…再会出来るかな?」
崇徳丸は一息するなり…。
「再会出来るさ♪」
笑顔で返答する。数分後…。
「解散するか?」
「解散しましょう…私も家屋敷に戻らないと女中達が心配するし…」
二人は解散したのである。今回の悪霊事件は桃子姫の化身により無事解決したが…。以後も小規模の悪霊事件は各地で頻発したのである。小梅姫は悪霊退治屋を自称…。多種多様の悪霊を征伐したのである。当初は差別的だった田舎村の村人達も妖女に対する認識も次第に変化し始める。悪霊征伐に専念した小梅姫は四年後の初春に東国出身者である領主の若殿と婚姻…。無事三人の子供を出産したのである。小梅姫が三人の妖女を出産して以後…。本格的に妖女の時代が到来する。
完結
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:14
投稿者 月影桜花姫
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第九話

強敵

亡霊女房が退治されてより三日後の真夜中…。北国に位置する山奥のとある洞窟では白装束の集団が集結する。
「全員終結したな…」
集団の人数は六人であり松明を所持する集団の頭領が五人の若者達の人数を確認したのである。
「頭領…こんな洞窟に私達を集合させるなんて…」
「今回は何事でしょうか…」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
「早速私が道案内する…私に追尾せよ…」
頭領は洞窟の奥底へと移動する。数分後…。洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!木乃伊ですか?」
彼等は木乃伊を直視すると一瞬畏怖する。木乃伊は野犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「一体誰の誰なのでしょうか?」
集団の一人が頭首に問い掛ける。
「彼こそは私達北国の英雄…鬼殺丸様の遺体であるぞ!」
「木乃伊が鬼殺丸様ですか!?」
鬼殺丸とは戦乱時代に活躍した北国最強の武士である。生前は北軍の鬼神と呼称され各国の領主達は勿論…。大勢の武士達から畏怖されたのである。戦乱時代当時は北国最強の英雄として扱われるものの…。彼によって大勢の味方も殺され憎悪する者達により安穏時代では極悪非道の人物として扱われる。世間では極悪非道の大悪党と認識される反面…。一部の村里では今現在でも英雄として神格化される。
「鬼殺丸様は死去されたのですか?」
「残念であるが鬼殺丸が死去されたのは事実だ…鬼殺丸様は山中の野犬によって食い殺されたのかも知れない…」
今迄鬼殺丸の生死は不明であったが…。死因こそは不明瞭であるものの鬼殺丸は死亡したと判明する。
「勿論事実を熟知したのは私達だけだぞ…鬼殺丸様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
集団の頭首は十五年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼殺丸を神格化する一人であり奇遇にも鬼殺丸が死去した数日後に鬼殺丸の遺体を発見したのである。
「頭領は鬼殺丸様の遺体を如何されるのですか?」
頭領は一息するなり…。
「黄泉の国から鬼殺丸様を…生者として復活させる…」
「なっ!?」
彼等は頭領の発言に驚愕したのである。
「最早死没者である鬼殺丸様を…完全なる生者として復活させられるのですか?」
「死没者を復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?」
問い掛けられた頭領は即答する。
「出来るとも…無論死没者を復活させるには犠牲が必要不可欠であるが…」
すると頭領は隠し持った拳銃を所持するなり…。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国の拳銃だ…貴様達の生命を頂戴する…」
「ひっ!」
「殺される!逃げろ!」
五人の若者達は頭領の所持する拳銃に畏怖したのか即座に逃走する。
「安眠せよ…」
頭領は背後から四人の若者達に発砲…。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
拳銃で四人を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…」
極度の恐怖心からか身震いした様子で涙腺からは涙が零れ落ちる。
「貴様が恐怖するのは勿論理解出来るが…本来死没者を復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」
戦乱時代以前の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに百人の人間を人身御供として利用した儀式が各地で実行されたのである。当時は頻繁に実行されたが死没者が復活した事例は実質皆無であり非人道的理由から今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも儀式は禁止される。
「私は今迄に九十五人の人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだ…」
弾丸を装填させるなり…。
「南国の鬼神…鬼殺丸様を完全なる生者として復活させるには貴様の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」
銃弾が若者の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
即死させたのである。
「鬼殺丸様を復活させるには…彼等の血液が必要だな…」
頭首は今迄に九十五人の人間達を殺害…。鬼殺丸の木乃伊に殺害した人間の血液を含有させたのである。
「今回で五人の血液を入手出来たぞ…」
(五人の血液を…)
殺害した五人の遺体から血液を指先に採取…。鬼殺丸の木乃伊に接触したのである。
「英雄…鬼殺丸様♪」
死没者である鬼殺丸の復活に期待する。
「黄泉の国から俗界に戻られよ…」
一分間が経過するのだが…。鬼殺丸の木乃伊は復活せず身動きしない。
「鬼殺丸様!?何故復活されない!?」
(ひょっとして儀式に不備が…)
直後である。突如として鬼殺丸の遺体が破裂…。洞窟内部に鬼殺丸の血肉が飛散する。
「ひっ!」
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「一体何が…なっ!?」
破裂した鬼殺丸の肉片に頭領は驚愕する。
「鬼殺丸様の…肉体が…」
(如何してこんな…こんな状態では鬼殺丸様は二度と復活出来ない…)
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
「死没者を復活させる儀式とは…出鱈目だったのか…」
頭領は出鱈目の儀式に後悔したのである。
(結局…私は単なる人殺しだったのか…)
自身の行動が単なる殺人であると自覚した直後…。背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を直視すると背後には不定形の黒雲が存在する。
「一体何が!?」
すると不定形の黒雲が人語で発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの人間を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…醜悪であるな…」
頭領は恐る恐る…。
「貴方様は一体何者なのでしょうか?」
問い掛けられた不定形の黒雲は即答する。
「私は…大勢の亡者達の集合体だ…」
「亡者達の…集合体ですと?」
不定形の黒雲は自身を大勢の亡者達から誕生した集合体であると名乗る。
「貴様は…戦乱時代の鬼殺丸と名乗る…極悪非道の亡者を復活させたいみたいだな…」
問い掛けられた頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも…私にとって鬼殺丸様は未来永劫北国の英雄であり…北国の武神なのですから…」
「貴様の崇拝する鬼殺丸を復活させたいのであれば…貴様自身の生命を授与せよ…」
「私自身の生命ですと…」
「亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠だ…」
頭領は一瞬躊躇うものの…。
「承知しました…私自身の生命を授与しましょう…」
不本意であるが頭領は承諾したのである。
「であれば鬼殺丸を…悪霊として復活させる…」
直後…。
「なっ!?発火!?」
頭領の皮膚が突発的に発火したのである。高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…鬼殺丸よ…」
鬼殺丸は素肌が灰白色であったが生前と同様の姿形に復活したのである。
「私は…野犬の亡霊に食い殺されて…」
「鬼殺丸…貴様は…」
不定形の黒雲が復活した経緯を説明する。
「私は黄泉の国から復活したのか…」
「悪霊の肉体であるが…今現在の貴様は生前よりも強力だ…其処等の悪霊とは別格の霊力であるぞ…」
普段は無表情の鬼殺丸であるが…。微笑したのである。
「悪霊の肉体なのは気に入らないが…彼奴に復讐出来るなら悪霊の肉体でも止むを得ないな♪」
「彼奴とは?」
鬼殺丸は即答する。
「東国の軍神…夜桜崇徳丸…私が唯一憎悪する人間だ…」
「貴様が夜桜崇徳丸と名乗る人間を殺したいのであれば思う存分殺せ…」
すると不定形の黒雲は復活した代償として条件を提示したのである。
「条件として…愚劣なる大勢の人間達を殲滅せよ…悪霊として復活した貴様であれば出来るよな?」
問い掛けられた鬼殺丸は一瞬沈黙するが…。
「折角復活したのであれば…貴様との約束は厳守するさ…」
交渉成立する。鬼殺丸は不定形の黒雲に問い掛ける。
「貴様は一体何者だ?人間達を憎悪するみたいだが…」
「私は亡者達の集合体とでも…」
問い掛けられた不定形の黒雲は自身を亡者達の集合体と名乗る。
「亡者達の集合体か…」
数秒後…。
「鬼殺丸よ…黄泉の国に戻りたくなければ思う存分人間達を殺せ…」
不定形の黒雲は消滅したのである。
「思う存分人間達を殺せとは…」
(亡者達の集合体に命令されるのは正直気に入らないが…悪霊の肉体でも折角復活出来たのだからな…)
心情より人間達への殺意が芽生える。
「近日中にでも…思う存分人間達を蹴散らせるか…」
六日後の早朝…。西国と東国の国境に位置する廃村から大量の人骨が発見されたのである。近隣の村里では地獄から出現した怨霊達の仕業であるとの噂話が国全体に出回る。同日の早朝には東国の連山から大量発生した食人餓鬼の大群が隣接する各農村にて出没したのである。気になった小梅姫は即刻問題の廃村へと出発する。
(村人達の行方不明事件と廃村の大量の人骨…そして食人餓鬼の大群…)
「今回の事件と無関係では無さそうだわ…」
東国からは非常に近辺なのか徒歩でも数分間で到着する短距離である。彼女は山岳地帯から貝塚村の様子を眺望するなり…。
(随分殺風景ね…)
村里の雰囲気から徘徊した無人の城下町であり中心地には廃城が確認出来る。
「悪霊が出現しても可笑しくない雰囲気ね…」
誰一人として人間が存在しない廃村であり無数の霊力が潜伏するのは察知出来る。時間帯は真昼であるものの…。廃村の雰囲気から夕方同然である。非常に重苦しい空気であり普通の人間であれば卒倒しても可笑しくない感覚である。
(恐らく今回は今迄の悪霊とは比較出来ない悪霊が出現しそうだわ…)
村里の雰囲気から気力が格段に低下したものの…。廃村の中心地に位置する廃城から強烈なる霊力を察知したのである。
(村里中心部の廃城が非常に奇怪だわ…)
「妖力を過剰に消耗するのも面倒臭いし…強行突破よ!」
彼女は鈍足であるものの廃村へと正面から進行し始める。すると周囲の土中から無数の食人餓鬼が出現…。
「食人餓鬼?」
無防備状態の小梅姫へと殺到する。
(彼等の招待状かしら?)
「大歓迎みたいね…」
小梅姫は即座に妖力の防壁を発生させたのである。今度は防壁を攻撃用に転用させた半透明の魔手を形成…。防壁の表面より無数の魔手が形作られる。魔手は外敵である食人餓鬼の猛攻から小梅姫本体を守備しては自動的に動作し続ける。
「鬱陶しいわね…」
魔手の発動によって殺到し続ける食人餓鬼の大群を容易に駆逐したのである。魔手に接触した食人餓鬼は只管全身が粉砕される。小梅姫が通過すれば大量の肉塊と鮮血が彼女の道端に散乱し続ける。一直線に進行し続ければ中心地の廃城へと到達する。
「廃城から霊力を感じるわね…」
恐る恐る廃城へと進入する。城内は家具が散乱した状態であり当然として住民は誰一人確認出来ない。
(戦乱時代で処分された根城かしら?)
全体的に純和風ではなく異国風の雰囲気である。
「異国の文化財だわ…」
(ひょっとして城主は異国愛好家かしらね…)
階段を利用しては最上階へと到達する。最上階には高価値の骨董品が発見されたのである。
(廃城の城主は異国の愛好家なのね…)
すると室内中心部にて摩訶不思議なる骨董品を発見する。
「一体何かしら?」
(ひょっとして能面?)
彼女が注目したのは内壁に装飾された能面であるものの…。能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「えっ…悪趣味だわ…」
(正直能面とか般若の仮面って外見的にも不吉なのよね…私は大嫌いだわ…)
彼女は室内に装飾された巨大能面を気味悪がる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…」
迂闊にも巨大能面に接触する。
「普通の能面よりも随分特大なのね…」
(本当に能面なのかしら?単なる装飾品っぽいわね…)
先程から疑問であったのか彼女が廃城へと進入した途端に城内の霊力が一瞬で消失したのである。
「霊力が感じられないわ…」
霊力が皆無であると判断した小梅姫は即座に石庭へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。
「えっ…」
彼女は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「一体何事かしら?」
背後の内壁に装飾された巨大能面の両目が蛍光色に発光した状態であり八本の蜘蛛脚が生成される。形状的には巨大蜘蛛であり中心部の胴体部分は巨大能面である。
「此奴はひょっとして…悪霊の小面蜘蛛かしら!?」
油断した小梅姫は愕然とする。内壁の巨大能面の正体とは器物の悪霊…。小面蜘蛛であり装飾品の巨大能面に憑依した悪霊である。特定の地方では付喪神とも呼称される。特定の道具への憑依が可能であり小梅姫をも油断させる。胴体の両目が小梅姫を凝視し始めるなり口先から白色の粘液を噴出する。粘液が彼女の皮膚に接触した瞬間…。体内の妖力が急速に消耗し始める。
(何かしら?妖力が消耗するなんて…)
妖力のみならず…。体力が半減したのか肉体の身動きすらも負担に感じられる。
「ぐっ…迂闊だったわ…」
(能面の正体が小面蜘蛛だったなんて…)
小面蜘蛛の体内から噴出される粘液は妖力を消耗させる効力を発揮出来る。妖力を多用する攻撃法では小面蜘蛛を攻略するのは非常に困難である。莫大なる妖力を所持…。自由自在に操作出来る小梅姫にとって小面蜘蛛を相手するのは圧倒的に不利である。
(私は小面蜘蛛の餌食に…)
小梅姫は莫大なる妖力によって力尽きたのか横たわる。寝転び始める彼女の視界間近に小面蜘蛛が急接近…。
「私を捕食したければ捕食しなさいよ…」
彼女は覚悟したものの…。
(妖女の私が…)
「こんな悪霊を相手に敗北するなんて…」
彼女は僅少の妖力によって時空間停止の妖術使用を決意する。
(一か八か…)
金縛りの妖術を発動すると一時的に小面蜘蛛は身動きしなくなる。金縛りの妖術は相手の身動きを長時間封殺出来る妖術である。
「今度は…」
瞬身の妖術を発動…。即座に安全地帯へと移動したのである。小梅姫は瞬身の妖術の使用により廃城から無事脱出…。近辺の山道へと移動したのである。
(危機一髪だったわね…)
「一瞬食い殺されるかと…」
小梅姫は恐る恐る周囲を警戒…。無事に廃城から脱出出来たのである。
「脱出には成功したみたいね…」
妖力の消耗によって妖術の使用は不可能であり一時的に退却を余儀無くさせられる。
(時空間停止の妖術は解除されたし…即刻戻らないと…)
東国の家屋敷へと戻ろうかと思いきや…。地面より数体の食人餓鬼が小梅姫の視界間近へと突発的に出現したのである。
「えっ!?今度は食人餓鬼!?」
最早小梅姫は妖力を消耗した満身創痍の状態であり本来ならば雑魚である複数の食人餓鬼ですらも攻略不可能である。
(本調子なら食人餓鬼なんて楽勝なのに…)
彼女にとって食人餓鬼程度は雑魚同然であるものの…。衰弱化した状態では非常に脅威である。
「きゃっ!」
大量の妖力を消耗した状態では食人餓鬼でさえも恐怖の対象であり小梅姫は一歩ずつ後退りする。
(私…食人餓鬼に捕食されるのね…)
食人餓鬼が彼女の視界間近へと殺到する寸前…。食人餓鬼は突発的に身動きしなくなる。
「えっ…」
(一体何が?)
彼等の足場を直視すれば白色の粘液を発見する。
「ひょっとして…」
彼等の背後には獲物である小梅姫を追撃する小面蜘蛛が急接近したのである。小面蜘蛛に畏怖した彼女は全身が膠着する。
「小面蜘蛛!?」
廃城からは危機一髪脱出したものの小面蜘蛛は彼女の妖力を目印に小梅姫の居場所を察知…。小梅姫の行方を見逃さなかったのである。小面蜘蛛は粘液によって捕獲した数体の食人餓鬼を捕食し始める。
(此奴…)
「仲間の食人餓鬼を食い殺すなんて…」
凄惨なる光景に小梅姫は恐怖したのである。最早自分自身も彼等と同様に捕食されるのかと思考すると自殺願望が芽生え始める。小面蜘蛛の鋭利なる脚部が小梅姫の胸部を貫通させる。
「ぐっ!」
心臓を貫通させられた直後…。彼女の胸部から大量の鮮血が流血し始める。流血により地面が赤色に染色したのである。
(私は今度こそ…小面蜘蛛に捕食されるのね…)
最早即死しても可笑しくない致命傷であるものの…。神経の麻痺によって苦痛すらも感じられなくなる。抵抗出来なくなった小梅姫は観念する。両目を瞑目したと同時に耳元から爆発音が響き渡る。
「えっ?」
(今度は何事かしら?)
恐る恐る両目を開眼すれば…。
(誰かしら?)
粉砕された小面蜘蛛の血肉が散乱した状態であり背後には焙烙火矢を装備した僧侶服の小柄の男性が横たわる小梅姫に近寄る。
「僧侶?」
「小梅姫…」
「貴方は…」
僧侶の正体とは父親の夜桜崇徳丸であり脆弱化した小梅姫にとって崇徳丸は救済の守護神同然である。
「ひょっとして父様なの…」
「大丈夫か?小梅姫…なっ!?」
小梅姫の胸部の外傷を直視すると身震いする。すると直後…。
「小梅姫…傷口が…」
小梅姫の腹部の外傷は妖力によって数秒間で治癒する。
「父様…私は大丈夫よ…外傷なら自力で治癒出来るから…」
「本当に大丈夫なのか?小梅姫…」
「私なら大丈夫よ…父様は心配性ね…」
(彼女は大丈夫そうだが…出血多量の影響で大分衰弱化した状態だな…)
小梅姫は肉体的にも精神的にも疲弊した様子である。
「父様…感謝するわね…私…もう少しで小面蜘蛛に食い殺されるかと…」
小梅姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「大丈夫だ…小梅姫…小梅姫が無事で何よりだ…」
「父様…」
すると小梅姫は恐る恐る…。
「如何して人間の父様が小面蜘蛛を簡単に仕留められたのよ?妖女の私がこんなにも苦戦した強敵なのに…」
「恐らく小面蜘蛛は妖力を使用しない方法によって退治出来る悪霊みたいだな…今回の相手は妖術を多用する妖女では最悪の天敵だろうよ…」
妖力を使用しない戦法こそが小面蜘蛛の弱点であると推測する。妖術を使用する妖女が相手では相性的にも最悪である反面…。武装した人間には滅法貧弱である。崇徳丸は彼女に麦飯を譲渡する。
「空腹だろ?」
「御免なさい…」
「小梅姫…一人で無茶するなよ…」
すると崇徳丸は笑顔で…。
「小梅姫は私の宝物だ♪悪霊なんかに殺されるなよ…」
「父様♪」
小梅姫は内心嬉しくなる。
「空腹だから食べろよ…」
小梅姫は麦飯を一瞬で頬張ったのである。
(相当空腹だったのか…)
麦飯を一瞬で頬張る小梅姫に崇徳丸は苦笑いする。小梅姫は極度の不安が解消したのか再活動を開始しなければと意気込み始める。
(こんな山道で長居し続ければ悪霊が村里全域に…)
「ん?小梅姫?」
「無数の霊力が国全体に蔓延したみたいなの…」
突如として莫大なる食人餓鬼の気配を瞬時に察知したのである。
「霊力だと?」
「恐らく食人餓鬼の仕業ね…」
「こんな短期間で国全体に蔓延するとは…」
「原因は不明なのよね…」
すると小梅姫は崇徳丸に依頼する。
「今回ばかりは父様の協力が必要なの…」
先程の戦闘によって彼女は余程自信を喪失したのである。
「勿論…私は小梅姫に協力するよ♪安心しろ♪」
「父様と一緒なら心強いわ♪」
二人は行動を開始する。強大なる無数の霊力の感じる東国へと急行したのである。
「えっ…」
「戦乱時代だな…」
東国は主戦場であり地面には赤色の鮮血…。散乱した臓器やら胃腸らしき肉塊が無数に確認出来る。先程遭遇した食人餓鬼の大群が爆発的に出現したらしく村人達に殺到しては村人達の人肉を咀嚼し始める。
「東国では一体何が…」
徘徊中である無数の食人餓鬼が移動中の小梅姫と崇徳丸に反応するなり…。二人に襲撃するものの小梅姫の火炎の妖術によって瞬殺される。地面には無数の焼死体が埋没する。
「浄化したわね…」
「小梅姫の妖術を肉眼で拝見したが…予想外に絶大だな…」
崇徳丸は小梅姫の摩訶不思議の妖術に驚愕したのである。小梅姫は只管村人達の遺体を捕食し続ける食人餓鬼の大群を相手に逆襲…。爆破の妖術により食人餓鬼を仕留めたのである。爆破の妖術で頭部を破壊された食人餓鬼は途端に身動きしなくなる。
「食人餓鬼が相手ならば…小梅姫の妖力は天下無敵だな…」
「天下無敵なんて大袈裟ね…」
(正直妖力の消耗で息苦しいのよね…)
彼女にとって通常の悪霊が相手ならば余裕であるものの…。先程の悪戦苦闘による妖力の消耗が影響したのか重苦しい深呼吸が目立ち始める。
「小梅姫?」
「何よ?」
「大丈夫か?先程から顔色が…」
崇徳丸は彼女の様子を心配する。
「別に…私なら大丈夫よ…」
「本当に大丈夫なのか?」
「私は大丈夫だよ…父様は極度の心配性なのね…」
城下町の中央区へと進行するものの生存者は誰一人として発見出来ない。
「無人地帯だわ…領民達は?」
「領民は根城に避難したみたいだな…最早東国は悪霊の巣窟だ…」
すると崇徳丸は彼女に助言する。
「妖力は非常に強力だが油断すれば食人餓鬼が相手でも苦戦するかも知れないからな…小梅姫も武器も装備するべきだ…」
「武器ですって?」
「私が武士団の駐屯地に案内する…」
崇徳丸は東国武士団の駐屯地へと案内したのである。
「廃屋だわ…」
「駐屯地も悪霊に襲撃されたからな…」
如何やら駐屯地は無人地帯であり駐屯地の守備隊は食人餓鬼の襲撃により撤退…。本拠地である都城へと移動したのである。
「鎮守府の守備隊は退却したのかしら?」
「今回の相手は悪霊の大群だからな…東国の武士達が屈強でも相手が大群では対抗出来ないよ…」
最早武器庫は警備が手薄状態であり無力の町民でも容易に潜入出来る。
「先程は私も武器庫で焙烙火矢を入手出来たからな…」
小梅姫は恐る恐る慎重に武器庫へと入室する。多種多様の刀剣やら弓矢は勿論…。火縄銃やら焙烙火矢が確認出来る。
「拳銃でも装備するか?此奴なら小梅姫でも扱えるよ…」
崇徳丸は比較的素人でも扱えそうな軽量の拳銃を小梅姫に手渡したのである。
「拳銃なんて物騒ね…」
小梅姫は武術が苦手であり拳銃の使用を拒否する。軽量の小刀を発見…。
「私は小刀を所持するわ…」
護身用に軽量の小刀を携帯したのである。
「小刀でも食人餓鬼なら仕留められるか…」
「駐屯地から脱出しましょう…父様…」
すると廊下から物音が響き渡る。
「ん?」
「物音だわ…一体何かしら?」
「物音は廊下からだな…」
(無数の霊力が一点に集中した状態だわ…今度は何が出現したのかしら?)
彼女は無数の霊力を瞬時に察知したのである。小梅姫と崇徳丸は警戒した四数で恐る恐る武器庫から脱出…。すると直後である。
「怪物!?」
(食人餓鬼とは別物だわ…此奴はひょっとして…)
小梅姫の視界間近に佇立する怪物とは無数の食人餓鬼が融合した人型の肉塊…。等身大の人間よりも一回り巨大であり廊下を牛歩する。すると小梅姫の背後より…。
「此奴は悪霊の百鬼食人餓鬼だな…」
「父様…厄介なのが出現したわね…」
体表の食人餓鬼の頭部が小梅姫と崇徳丸を睥睨したのである。
「私が万全の状態であれば食人餓鬼の集合体なんて楽勝に仕留められるでしょうけれども…」
すると百鬼食人餓鬼は全身の口先から高熱の熱風を放射し始める。小梅姫は咄嗟に妖力によって妖力の防壁を形成させたのである。無防備である崇徳丸にも防壁の形成によって守護する。
「父様…命拾いしたわね…」
「小梅姫…感謝する!」
(先程の同時結界で大半の妖力を消耗しちゃったのよね…)
百鬼食人餓鬼と交戦したとしても敗北は濃厚であると判断した小梅姫は崇徳丸に逃亡を合図したのである。
「父様!逃走しましょう…」
「逃走だと?」
小梅姫の様子を直視すると彼女は満身創痍の状態であると察知する。
(小梅姫…)
「承知した…」
小梅姫と崇徳丸は全力疾走により駐屯地から無事脱出したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:13
投稿者 月影桜花姫
参照先
第八話

悪霊征伐

天地暦三千四十年六月十七日…。人間の崇徳丸と妖女の桃子姫の混血である小梅姫は悪霊征伐に尽力したのである。彼女は生真面目で熱血漢である父親の崇徳丸を人一倍憧憬…。村人達を襲撃する無数の悪霊を退治したのである。近頃は各地で悪霊が出現するのだが各国の武士団は勿論…。東国の武士団に悪霊退治の依頼が殺到するも何方も静観状態であり実質無関心だったのである。戦乱時代に疲弊した武士達は悪霊を征伐する気力が皆無であり東国唯一の妖女…。小梅姫が悪霊の征伐を決意する。
「目的地の恐山に到着したわね…」
恐山は西国に聳え立つ小山…。温泉郷である天霊山とは対照的であり滅多に誰も近寄らない場所だったのである。近年では恐山の近辺で生活する村人達が悪霊に襲撃される事件が多発…。噂話は各地に出回ったのである。
「今回も悪霊を退治するわよ…」
普段は人一倍穏和の小梅姫だが…。一度決定した物事は徹底的に完遂させる生真面目の性格である。十数分後…。小梅姫は恐山の頂上へと到達する。
「えっ!?」
すると頂上には小柄の人影らしき気配が確認出来る。小梅姫は恐る恐る人影に近寄る。
「貴方は一体何者なの?」
彼女は非常に警戒した様子であるものの…。人影の正体とは小柄の老婆だったのである。
「誰かと思いきや…貴方は老婦人でしたか?失礼しました…」
小梅姫は小柄の老婦人に謝罪する。すると老婦人は笑顔で…。
「こんな私が老婦人なんて♪あんたは上品だね♪」
すると老婦人は名前を名乗る。
「私は単なる通りすがりの薬屋…蛇骨鬼だよ♪」
「蛇骨鬼様ですか…こんなにも不吉の恐山で一体何を?」
問い掛けられた蛇骨鬼は即答する。
「暇潰しだよ♪こんな暗闇の場所で食事するのが私の趣味なのさ♪」
「趣味でしたか…」
小梅姫は苦笑いしたのである。蛇骨鬼は地面の土石に土鍋を慎重に設置…。土鍋に野菜やら新鮮そうな魚類を調理する。
「あんたも如何かな?」
「私は…別に…」
すると直後…。小梅姫の腹部から腹鳴が響き渡る。
「えっ…」
小梅姫は赤面する。
「肉体は正直だね♪空腹だろ…」
蛇骨鬼は小梅姫に小皿を手渡したのである。
「折角ですし…私も頂戴しますね…」
一瞬躊躇したものの食いしん坊の小梅姫は遠慮しなかったのか率直に味見する。
「美味ですね♪」
鍋物の料理を頬張る。今度は瓢箪を小梅姫に手渡したのである。
「焼酎ですか?私は正直酒類が苦手で…」
「安心しな…天然水だから…」
「であれば安心ですね♪」
すると蛇骨鬼は問い掛ける。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですか?」
小梅姫は自身の名前を名乗る。
「私は小梅姫です♪出身地は西国ですが…今現在の住居は東国です…」
「あんた…東国の人間だったのかい?」
人間の一言に反応したのか小梅姫は恐る恐る…。
「失礼なのですが…私…本当は人間とは無縁の…妖女なのです…」
妖女の一言に蛇骨鬼は反応する。
「えっ!?妖女だって!?」
彼女は幼少期から一際美人と評判であり東国の小町娘からは疫病神の化身と揶揄されたのである。今迄は気にしなかったが近頃普通の人間には不可能である摩訶不思議の妖術に自覚し始める。直接特定の物体と接触しなくとも特定の物体を浮遊…。相手を睡眠させる妖術が無意識的に発動され自身が普通の人間とは異質的存在である妖女と自覚し始めたのである。
「あんたは妖女の子供なのかい?」
蛇骨鬼に問い掛けられると小梅姫は返答する。
「無論です…」
「こんなにも暗闇の恐山で妖女の子供と遭遇するなんて…奇遇だね♪」
蛇骨鬼は笑顔で発言したのである。
「私の母親は…桃子姫って名前の女性なのです…勿論彼女も妖女ですよ…」
「桃子姫か…」
今現在では西国出身者である桃子姫の存在は元祖妖女と認識され…。各地の村里では伝説の一人として熟知される。すると蛇骨鬼は笑顔で…。
「初見からあんたは普通の人間とは無縁だと認識出来たよ♪」
「えっ?蛇骨鬼様…」
「あんたの雰囲気は普通の人間の雰囲気とは異質的だったからね♪」
笑顔で発言する蛇骨鬼であるが…。突如として蛇骨鬼の表情が無表情に変化する。
「蛇骨鬼様?如何されましたか?」
蛇骨鬼の表情の変化に小梅姫は一瞬不安がる。すると蛇骨鬼は小声で…。
「私も…本当は神族の一員だからね…」
「えっ!?神族ですって!?」
神族の一言に小梅姫は驚愕したのである。
「あんたは大袈裟だね♪別に私が神族だからって驚愕しなくても…」
「ですが神族って…伝承では大昔に全滅したって…」
神族とは数百万年前の地上界を支配した伝説の種族…。多種多様の生命体の姿形に変化が可能であり摩訶不思議の特殊能力を所持する摩訶不思議の種族だったのである。
「大昔に人間達との大戦争で私以外の神族は全滅しちゃったけれどね…」
数万年前の古代時代に勃発した大戦争で大勢の神族が殺害…。迫害されたのである。今現在生存が確認出来るのは南国の蛇骨鬼のみである。
「古代時代の大戦争ですか…ですが如何して摩訶不思議の特殊能力を所持する神族が無力の人間達を相手に敗北したのでしょうか?」
小梅姫の問い掛けに蛇骨鬼は即答する。
「人間達と大戦争する以前の出来事だけどね…地上界の大天災として認識される魔獣との死闘で大半の神族が殺されちゃったのが最大の主要因だね…」
数百万年前の太古の出来事である。地上界の大天災として認識される天空の魔獣の出現により地上界は荒廃化され…。大勢の神族が殺害されたのである。天空の魔獣は神族の神力で暗闇の深海底に封印されたが…。魔獣との死闘の悪影響により神族は弱体化したのである。
「今現在では私以外の神族は死滅しちゃったよ…」
「大変でしたね…神族も…」
「あんたは信用するかい?今時は昔話だって揶揄されるがね…」
「私は信用しますよ!」
問い掛けられた小梅姫は信用すると断言する。
「あんたは純粋だね♪」
すると突然である。蛇骨鬼の肉体が白煙に覆い包まれ…。白色の大蛇に変化したのである。
「えっ!?蛇骨鬼様が…白色の大蛇に!?」
「吃驚したかい♪白色の大蛇こそ私の本来の姿形だよ…」
蛇骨鬼の正体は白色の蛇神であり本来の姿形は白色の大蛇であるが…。普段は小柄の老婦人として生活する。
「私と蛇骨鬼様…似た者同士ですね…」
変化を解除すると大蛇の状態から人間の老婦人の姿形に戻ったのである。
「小梅姫だったかね?大変だろうが…あんたも頑張りな♪」
「勿論ですとも♪」
すると蛇骨鬼は恐る恐る…。
「あんたはこんなにも不吉の恐山で一体何を?」
問い掛けられた小梅姫は即答する。
「勿論悪霊征伐ですよ!近頃は恐山に無数の悪霊が出現するとの噂話を熟知しましてね…」
「悪霊征伐ね…大変だろうが頑張りなよ♪最近は悪霊事件が各地で頻発するからね♪戦乱時代の反動だろうが…」
戦乱時代にも悪霊は出現するが安穏時代に突入してからは悪霊が出現する頻度が増加したのである。
「私はあんたを見届けるよ…悪霊なんかに殺されないでよね♪」
「勿論ですよ!」
断言した小梅姫は即座に下山し始める。彼女の周囲は森林浴であるものの…。真夜中では暗闇の樹海同然である。すると彼女の背後から異様の気配を察知する。
「突然胸騒ぎが…」
(一体何事かしら?)
恐る恐る慎重に背後を警戒するのだが…。彼女の背後には何も存在しない。
「私の勘違いかしら?」
誤認識かと思いきや…。
「何よ…」
背後の土中から小柄の人影が無数に出現したのである。
「えっ…怨霊達!?」
無数の人影は暗闇によって姿形の認識が非常に困難であるものの遺体の死臭が近辺を充満させる。全身が血塗れの状態であり全身の皮膚の腐敗が原因なのか左右両方の眼球と腹部の内臓やら胃腸が噴出した醜悪なる容姿…。そして皮膚と人骨のみの肉体であり全身は鮮血によって赤色へと変色した悪霊である。
「死滅した人間達の末路かしら…」
体格的には人間の女性よりも一回り小柄であり乳児の体格であるものの…。外見による男女の区別は出来ない。動作は非常に鈍足であり発語も支離滅裂である。
「此奴は悪霊の食人餓鬼だわ…」
無数の食人餓鬼は生者である小梅姫に殺到する。
「恐山の霊力の原因は食人餓鬼だったのね…」
普通の人間であれば畏怖しても可笑しくない光景であるが…。小梅姫は畏怖しなかったのである。彼等が小梅姫の視界間近へと到達する寸前…。
「業火で浄化されなさい!」
業火の妖術を発動すると食人餓鬼の皮膚が高熱の自然発火により燃焼し始める。食人餓鬼の肉体は高熱の怪火によって瞬間的に炭化する。
「彼等は浄化されたみたいね…」
彼女の足場周辺には無数の焼死体が埋没したのである。
「一安心だわ…」
一安心した直後…。再度背後より霊力を感じる。
「霊力かしら?」
警戒するなり恐る恐る背後を直視すると数十体もの食人餓鬼がふら付いた身動きで小梅姫に近寄る。
「今度も食人餓鬼ね…」
今度は雷撃の妖術を発動する。
「成仏しなさい!」
両手より高熱の雷撃を放出…。殺到する無数の食人餓鬼を雷撃で仕留めたのである。
「悪霊は片付けたかしら…」
恐山に出現した悪霊を仕留めたのが影響したのか突如として恐山の霊力が感じられなくなる。
(霊力が感じられなくなったわ…)
「恐山の霊気は浄化されたみたいね…」
小梅姫は一安心する。
「事件は無事解決ね…」
小梅姫は祖国である東国の家屋敷へと無事戻ったのである。恐山での戦闘から三日後の真昼…。小梅姫は娯楽を主目的に中心街へと出掛けたのである。甘党の和菓子屋にて大好物の蓬餅を頬張る。
「美味だわ♪」
彼女は無我夢中に和菓子を頬張るものの…。隣席には小柄の老婦人らしき老女が訪問する。
「えっ?」
(誰かしら…)
小柄の老婦人とは三日前に恐山にて遭遇した神族の蛇骨鬼であり奇遇にも彼女と遭遇したのである。小梅姫は蛇骨鬼に気付いた瞬間…。
「ひょっとして蛇骨鬼様!?」
「誰かと思いきや…あんたは小梅姫だね♪こんな場所であんたと再会するなんて奇遇だね…」
蛇骨鬼は小梅姫との再会に大喜びする。
「本当よ…蛇骨鬼様が和菓子屋に?」
「偶然だよ♪一休みしたいだけさ♪あんたは和菓子屋が大好きなのかい?」
問い掛けられると小梅姫は笑顔で即答したのである。
「勿論ですよ♪私は和菓子が大好きです!」
すると蛇骨鬼は突発的に顔色を変化させる。
「あんたは悪霊退治屋として活躍中だったね…」
「勿論ですとも♪悪霊征伐は私の専門なので♪」
小梅姫は笑顔で断言する。蛇骨鬼は恐る恐る…。
「北国の村人達からの噂話だけどね…」
「えっ?北国の噂話ですって?」
小梅姫は一瞬動作を停止させる。
「近頃北国では村里の赤子が神隠しに遭遇するって…誘拐事件が頻発したみたいだよ…」
「神隠しですって?一体何事でしょうか?」
「村里の情報源では数週間前の出来事かな?神隠しの正体が人為的なのか…悪霊の仕業なのかは断言出来ないけど…」
「数週間前ですか…」
小梅姫は突発的に興奮し始める。
「一大事だわ!即刻北国に移動しないと!」
「小梅姫よ…今回は匪賊の可能性も否定出来ないよ…相手が極悪非道の匪賊だったら如何するの?」
蛇骨鬼の問い掛けに小梅姫は即答する。
「勿論私だって相手が人間の悪党であれば徹底的に征伐しますよ!弱者を救済するのが私の使命ですから…」
普段は温厚篤実の小梅姫であっても残虐非道の大悪党には手加減しない。
「こんな俗界でもあんたみたいな天女が存在するなんてね…」
「私が天女なんて…蛇骨鬼様は大袈裟ですね…」
(えっ♪私が天女ですって♪)
天女の一言に小梅姫は内心大喜びする。
「慢心は危険だからね…油断大敵だよ…」
「大丈夫ですよ…私は…」
(今迄だって沢山の悪霊を退治出来たし…)
今迄の戦闘では苦戦しても敗北は皆無だったのである。
「小梅姫の妖力は非常に絶大かも知れないが…妖力の慢心は絶体絶命にも直結するからね…」
(蛇骨鬼様は極度の心配性ね…)
正直口喧しいと感じるものの…。小梅姫は蛇骨鬼に感謝する。
「助言…感謝しますね…蛇骨鬼様♪」
小梅姫は即座に北国へと急行したのである。
(彼女は行動が神速だね…)
蛇骨鬼は和菓子屋から出歩く彼女を見届ける。小梅姫は一時間程度の徒歩によって北国の村里へと到着する。北国は全体的に殺風景であり農村地帯ばかりの過疎化した村里だったのである。
(北国は随分と田舎村なのね…)
不可解にも村人が誰一人として存在しない。
「無人地帯だわ…」
適当に田畑を散歩し続ければ赤子を抱き抱えた白装束の黒髪の女性を発見する。
「えっ?村里の親子かしら?」
小梅姫は即座に女性の視界間近へと接近すれば…。
(鮮血だわ…)
着物は全体的に血塗れであり皮膚の表面には無数の外傷が確認出来る。小梅姫は一瞬膠着したものの彼女の安否を確認する。
「大怪我されたのでしょうか…大丈夫ですか?」
母親は小梅姫の問い掛けに無言であり彼女を凝視…。睥睨し始める。
「何よ?」
睥睨された小梅姫は腹立たしくなったのか母親に睥睨し返したのである。
(彼女って本当に人間なのかしら?)
すると数秒後…。母親は一目散に逃走し始める。
「えっ!?」
小梅姫は即座に逃走中の母親を追跡する。
「如何して母親は私から逃亡したのかしら?」
母親は墓場へと潜入したのである。
「墓場だわ…」
小梅姫は恐る恐る慎重に墓場へと急行する。
「先程の母親は一体何者なのかしら?」
(彼女からは霊力らしい霊力は感じられなかったけれども…)
霊力は感じられないが…。赤子を抱き抱える母親らしき人物が俗界の人間なのか如何なのかは非常に疑問である。
「姿形から判断して…」
(恐らく彼女は現世とは無縁の存在なのは確実でしょうね…)
すると先程の女性らしき人物を発見する。早速近寄ろうかと思いきや…。
「えっ!?如何して全裸なのよ!?」
女性は着物を脱衣したのか全裸の状態である。彼女は赤子を抱き抱えた状態から生身の乳房と赤子の頭部を密着させる。
「あんた一体何を!?」
処女の彼女にとって非常に刺激的光景であり一瞬膠着する。小梅姫は墓石から母親の様子を観察したのである。
(母親は一体何を!?)
すると赤子の肉体が液体化したのか赤子の肉体諸共母親の体内へと瞬時に吸収する。
「赤子の肉体を吸収出来る霊能力…母親の正体って…」
(ひょっとして彼女の正体は悪霊の亡霊女房かしら?)
亡霊女房とは戦乱時代の戦乱は勿論…。天災やら疫病によって実子を亡くした母親達の無念の集合体である。赤子を体内へと吸収する性行為は実子に対する愛情表現である。小梅姫は咄嗟に亡霊女房の視界間近へと急行する。
「子供を誘拐する悪霊は私が成仏させるわ!覚悟しなさい…亡霊女房…」
小梅姫は体内の妖力を蓄積させるなり…。黒雲を天空全域へと発生させたのである。天空全域が黒雲に覆い包まれたかと思いきや…。黒雲から落雷を発生させる。落雷は亡霊女房の頭頂部直上へと落下したのである。
「直撃…」
視界間近が雷光によって両目を一瞬閉眼させる。落雷の破壊力は地面を容易く半球型に陥没させたのである。
「亡霊女房は?」
亡霊女房は肉体が非常に柔軟であり大量の鮮血やら手足の肉片は勿論…。体内の臓器やら胃腸が地面に散乱する。
「亡霊女房は仕留めたかしら?」
両目を開眼するなり再確認したのである。
「如何やら彼女を仕留めたわね…」
(生身の状態で落雷を直撃させれば即死よね?)
凄惨なる光景であるものの…。小梅姫は手応えを感じる。
「亡霊女房を討伐出来たし…退散しましょう…」
小梅姫は一安心したのか東国の武家屋敷へと戻ろうかと思いきや…。
(一体何かしら!?)
彼女の背後から僅少なる霊力の気配を瞬時に察知したのである。小梅姫は早速背後を凝視するなり…。
「厄介だわ…」
全身を粉砕された亡霊女房の血肉が融合し始める。粉砕された亡霊女房の肉体は数秒間で元通りに再生…。完全に復活したのである。
「粉砕された肉体が一瞬で元通りに復活するなんて…再生能力かしら?」
(亡霊女房って不死身なのかしら…)
亡霊女房は小梅姫の愕然とした表情を凝視するなり微笑み始める。亡霊女房は口先から猛毒の溶解液を噴射する。
「毒液!?」
小梅姫は咄嗟に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁により溶解液から本体を守備したのである。防壁の周辺の地面は溶解液によって一瞬で液状化させる。
「如何やら危機一髪ね…」
(一歩間違えれば大怪我だったわね…)
小梅姫の表情が険悪化する。
「如何やら私は亡霊女房の霊能力を軽視し過ぎたのね…」
体内の妖力を蓄積…。今度は自爆の妖術を発動すると亡霊女房の肉体を内部から自爆させたのである。
「今度も復活するかしら?」
先程の自爆の妖術は試用であり亡霊女房の肉体が元通りに再生するのか如何なのかを再確認したかったのである。亡霊女房の肉体は自爆の妖術により破壊されたものの…。先程と同様に粉砕された肉体は元通りに再生する。
「見事に復活したわね…非常に厄介だわ…」
(彼女の弱点は何かしら?)
今度は天眼の妖術を発動したのである。天眼の妖術の透視化により亡霊女房の心臓内部から水晶玉らしき宝玉を発見する。
「えっ?水晶玉?」
(亡霊女房の魂魄かしら?)
小梅姫は再度自爆の妖術を発動…。見事に亡霊女房の肉体は自爆したのである。小梅姫は体内の心臓を発見するなり更なる自爆の妖術を再発動させる。すると亡霊女房の心臓が自爆の妖術により爆破されると心臓内部から水晶玉を摘出させたのである。
「水晶玉を発見したわ!」
水晶玉が地面に落下したかと思いきや…。水晶玉は浮遊すると蛍光色に点滅し始める。すると周辺に散乱した肉片が水晶玉へと接合したのである。
「如何やら水晶玉が亡霊女房の本体っぽいわね…」
亡霊女房の弱点を発見した小梅姫は念力の妖術を発動すると水晶玉を粉砕する。すると同時に亡霊女房の再生能力が発動しなくなったのである。業火の妖術によって粉砕された亡霊女房の肉体諸共水晶玉の破片を浄化させる。
「今度こそ浄化出来たみたいね…」
(亡霊女房は予想外に厄介だったわ…)
小梅姫は周辺を恐る恐る慎重に凝視するなり…。村里へと無事帰還する。自分自身の家屋へと無事帰宅すれば彼女は寝転び始める。
「随分派手に妖力を消耗した影響かしら…」
(極度に息苦しいのよね…)
妖力の消耗によって疲れ果てたのである。
(相手は実力的には私よりも脆弱だったけれども…妖女である私が悪霊を相手に苦戦しちゃうなんて…)
今回の出来事から自分自身の傲慢さと力不足を実感したのである。
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