「綾波レイの幸せ」掲示板 四人目/小説を語る掲示板・ネタバレあり注意
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fld_bell.gif 月影桜花姫の宝庫〔第零弾〕
投稿日 : 2020/12/25 07:49
投稿者 戦艦壱号
参照先
第一話

夜襲
人類史上最大級の大戦争…。世界最終戦争から十数年後の出来事である。大量破壊兵器によって旧世界の巨大産業文明は大崩壊…。世界各地の大都市部は荒廃したスラム街状態であり彼方此方が暴徒化した人間達の魔窟状態だったのである。当然として秩序は皆無であり暴徒化した生存者達は食糧の争奪戦…。殺し合ったのである。世界全体が弱肉強食の大混乱期時代であったが…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する大規模武装勢力が世界各地の彼方此方に暴発し始める。彼等は荒廃した新世界の主導権掌握を主目的に活動を開始したのである。とある某日の真夜中…。東南地帯の大陸に存在する亜大陸では複数の武装勢力が衝突したのである。
「突撃隊!敵軍を蹴散らせよ!」
主戦場は砂漠化した大平原であり周囲の様子は容易に確認出来る。武装集団の部隊長らしき人物の合図と同時にサバイバルナイフと護身用のハンドガンを装備した迷彩服の戦闘員達がとある敵軍の駐留地に突入する。
「ん!?奴等はブラッドウルフの突撃隊だぞ!」
ブラッドウルフとは小規模の統治領である〔亜大陸地帯〕を実効支配する新世界有数の大規模武装集団…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する軍閥の一大勢力である。駐留地の表門を警備する二人の警備兵がブラッドウルフの突撃隊を確認する。
「敵襲だ!敵襲だぞ!」
睡眠中だった大勢の戦闘員達が即座に反応したのである。
「敵襲だと!?ブラッドウルフの奴等だな!」
「奴等の襲撃か!?奇襲とは卑劣だな…」
突撃隊の人数は推計三百人前後…。相対する駐留地の常備軍は推計五百人規模であり総人員はブラッドウルフを上回る。
「防衛戦だ!防衛戦を開始せよ!」
駐留地内部では両勢力による銃撃戦が開始される。戦闘開始から二分間が経過…。双方で百人以上の死傷者が続出する。
「回転型機関砲を用意しろ…」
駐留地の常備軍は六連発の回転型機関砲を配備したのである。
「此奴でブラッドウルフの奴等を蹴散らしちまえ!」
「奴等に無数の弾丸をぶっ放せ!」
回転型機関砲の乱射によって十数人もの突撃隊を死傷させる。戦力では防衛戦を徹底する駐留地の常備軍が圧倒的に有利でありブラッドウルフの突撃隊は戦力が半減…。ブラッドウルフ突撃隊は撤退を余儀無くされる。
「全滅しちまう!逃げろ!」
戦意喪失によりブラッドウルフの突撃隊は敵前を逃亡する戦闘員達が出始め…。何人かの戦闘員が自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様達!?何故戦場から戻ったのだ!?誰が貴様等に戻れと命令した!?」
怒号する総大将に逃亡した戦闘員達は恐る恐る…。
「ですが総大将…今回の戦闘は圧倒的に不利ですぜ…」
「多勢に無勢ですぜ!総大将!サバイバルナイフとハンドガンだけでは奴等には対抗出来ませんぜ…一度出直して…」
「沈黙しろ!敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将は護身用のハンドガンで一人の戦闘員を射殺する。
「今度は誰が射殺されたいか?私に射殺されたければ返答するのだな…」
「ひっ!」
一人の戦闘員が銃殺され…。逃亡した周囲の戦闘員達が畏怖したのである。
「貴様等は泣く子も黙るブラッドウルフの勇士達なのだぞ!死にたくなければ即刻主戦場に戻れ…戻らなければ即刻射殺する!」
戦闘員達は極度の恐怖心からかビクビクした様子であり全身が膠着する。
「貴様等…」
『役立たずの弱卒が…』
彼等の様子に総大将は呆れ果てる。すると総大将の背後より…。
「【フィルヴァス】…こんな弱卒だけで戦闘に勝利するなんて夢物語だぞ…現実を見据えろ…」
ブラッドウルフ総大将フィルヴァスの背後にはフードを被った小柄の人物が佇立する。
「誰かと思いきや…貴様は最精鋭の【ストレンジキラー】か…」
「えっ!?」
「ストレンジキラーって…」
ストレンジキラーの名前に周囲の戦闘員達は驚愕したのである。
「此奴は…伝説の殺し屋の…」
「本物なのかよ?」
ストレンジキラーとは荒廃した新世界各地で活躍する伝説の殺し屋…。残虐非道の暗殺者として世界各地で畏怖される存在である。ストレンジキラーは世界的にも著名の人物であるが…。今現在彼自身に関連する詳細は不明瞭でありストレンジキラーの正体を熟知する人物は少数である。
「此奴は最近配属させた最強の即戦力でありブラッドウルフの最精鋭だ…伝説の殺し屋であるストレンジキラーなら百人力の大戦果は期待出来るだろう♪」
フィルヴァスは恐る恐るストレンジキラーに指示する。
「ストレンジキラーよ…敵軍の陣地に突入して敵兵達を殺し回るのだ…伝説の殺し屋である貴様なら出来るよな?」
「仕方ないな…」
ストレンジキラーはフィルヴァスの命令を掌握すると常人をも超越した超高速移動で移動したのである。ストレンジキラーのスピードに陣地の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーは…人間なのか!?」
「彼奴は怪物の間違いでは?」
するとフィルヴァスは陣地の戦闘員達に解説し始める。
「ストレンジキラーの正体は〔ポストヒューマン〕…十数年前の旧世界古代人達が創造した新人類の一人だぞ…」
「ポストヒューマンって?」
ポストヒューマンとは旧世界の高度の科学技術により創造された人工性生命体…。所謂人造人間の総称化である。世界最終戦争によりポストヒューマンに関連する大半の資料と研究施設は焼失したものの…。一部の残存資料ではポストヒューマンは人間を超越した身体能力と不老長寿の肉体である記述のみは現存する。
「ですが総大将…怪物みたいな百人力の兵隊を味方に出来ましたね…」
「ストレンジキラー…彼奴は単純に戦闘と殺戮さえ出来れば大満足らしいからな…兵士としては堅実的存在だ…」
『何よりも狂戦士のストレンジキラーをブラッドウルフの一兵卒として扱えるのは奇跡だったな…』
野心家のフィルヴァスにとって自身の目的の遂行にはストレンジキラーの好戦的性格は非常に好都合だったのである。同時刻…。ストレンジキラーは数秒間で常備軍の駐屯地に到達する。
「なっ!?此奴は敵軍の新手か!?」
「常人以上のスピードだったぞ!此奴は本当に人間なのか!?」
「一体何者だ!?」
ストレンジキラーの超人的スピードに最前線の敵味方の戦闘員達は強豪のストレンジキラーに注目したのである。直後…。改造された両手の義手先端から銀色の鉤爪が出現する。
「戦闘を開始する…」
ストレンジキラーは神速の身動きで敵兵の背後に接近した直後…。両腕に内蔵された鉤爪で敵兵を斬撃したのである。ストレンジキラーは数秒間で三人の敵兵を殺害…。床面にはバラバラに斬撃された敵兵達の鮮血やら肉片が無数に飛散する。
「うわっ!此奴は怪物みたいな兵隊だ!」
駐屯地の戦闘員達は人外のストレンジキラーに畏怖したのか機関銃は勿論…。回転型機関砲でストレンジキラーに攻撃を集中させる。
「集中攻撃だ!怪物みたいな兵士を打っ殺せ!」
数百発もの弾丸がストレンジキラーに集中するも…。ストレンジキラーは神速の身動きで数百発もの弾丸を容易に回避したのである。
「なっ!?一瞬で…」
「消失したぞ…敵兵は一体!?」
一瞬の身動きでストレンジキラーは敵軍の銃撃を回避…。常備軍の戦闘員達は周囲を警戒するのだがストレンジキラーの姿形は確認出来ない。
「敵軍の強兵は!?」
すると回転型機関砲を装備する戦闘員の背後より…。
「えっ…なっ!?」
ストレンジキラーは鉤爪で戦闘員を瞬殺する。ストレンジキラーの大攻勢により形勢は完全に逆転…。一時的に戦意喪失したブラッドウルフの突撃隊であるがストレンジキラーの参戦によって彼等の士気が発揚したのである。
「新米兵士が敵部隊の主力戦力を無力化させたぞ!反撃開始だ!」
突撃隊の猛反撃が開始される。十数分間の戦闘で駐留地の常備軍は撤退を開始…。彼等の駐留地はブラッドウルフに完全占拠されたのである。今回の夜襲作戦でブラッドウルフは百二十人以上の戦闘員達が死傷…。一方の駐留地常備軍は九十人以上の戦闘員達が死傷したのである。奇襲作戦に辛勝したブラッドウルフは駐留地に放置された多数の重火器を戦利品として確保…。五十五人もの敵軍戦闘員を捕虜として拘束したのである。戦闘終了後…。総大将のフィルヴァスは笑顔でストレンジキラーに近寄る。
「非常に見事だったぞ♪ストレンジキラー♪貴殿の孤軍奮闘で敵軍の駐留地を無事に占領出来たのだ!大戦果だぞ♪」
初戦の大戦果にフィルヴァスは大喜びしたのである。
「ストレンジキラーよ…貴殿は全軍の次期総帥候補に相応しい存在なのだ♪一兵卒では勿体無い人材だぞ…」
「えっ!?新米兵士のストレンジキラーが次期総帥候補って…」
「初戦で次期総帥に任命されるなんて凄過ぎる…ストレンジキラーは別格だな…」
周囲の戦闘員達は驚愕する。
「実際…今回の戦闘ではストレンジキラーが参戦しなかったら俺達は完全に敗北しただろうからな…ストレンジキラーがブラッドウルフの次期総帥に任命されるのも当然だろうよ…」
するとストレンジキラーは無表情で…。
「何が次期総帥候補だ…俺にとって次期総帥なんて地位は無価値だな…」
ストレンジキラーは次期総帥の地位を無価値であると断言する。
「無価値だと?」
ストレンジキラーの返答にフィルヴァスは勿論…。周囲の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーよ…ブラッドウルフの次期総帥は大名誉なのだぞ!貴殿は新時代の覇者として全世界を掌握したくないのか!?」
「全世界の覇者なんて…殺し屋の俺には無縁だな…」
ストレンジキラーは無関心そうな態度で返答したのである。
「俺は思う存分戦闘と殺戮さえ出来れば大満足だ…」
フィルヴァスは内心不服であったが…。
「ストレンジキラーが暴れ回りたければ今後も思う存分に暴れ回るのだ…恐らく今後とも各地では戦闘が頻発するだろうからな…」
大戦闘に勝利したブラッドウルフは本拠地亜大陸地帯へと戻ったのである。

第二話

山賊要塞
砂漠化した大平原での大戦闘から五日後の真昼…。ブラッドウルフ本拠地では最精鋭部隊が新編成されたのである。各メンバーはポストヒューマンであり最精鋭の一人であるストレンジキラー以下…。十三人の精鋭達が抜擢されたのである。
「勇士達は…全員集合したな…」
ブラッドウルフ本拠地にて最精鋭部隊が集結…。総大将のフィルヴァスが集結した各メンバーを確認したのである。
「突然であるが…貴様達最精鋭部隊に最重要任務だ…」
「はっ?俺達に最重要任務だって?」
「任務内容は?」
少数精鋭であるが彼等は面倒臭そうな態度でフィルヴァスに問い掛ける。
「貴様等少数精鋭は南方地帯の山賊要塞に潜入するのだ…」
山賊要塞とは西方地帯に聳え立つ岩山であり難攻不落の大要塞である。近年山賊要塞と命名される岩山では大勢の武装集団が拠点である岩山を占拠…。岩山全体は要塞化され山賊要塞内部には各地で回収された多数の重火器が配備されたのである。
「今回の作戦の最終目的として…山賊要塞の占拠と山賊要塞内部に配備された重戦車を多数強奪するのだ…最精鋭の貴様達であれば出来るよな?」
「はっ!?総大将は正気なのか!?」
今回の任務内容にストレンジキラー以外の各メンバー達が猛反発する。
「俺達が少数精鋭でも…十四人だけで山賊要塞全体を占拠するなんて無茶だろ!理不尽過ぎるぜ!」
「総大将…多勢に無勢だぜ…難攻不落の山賊要塞を完全占領したかったらブラッドウルフ全勢力で総動員するべきだ!俺達だけで山賊要塞を占領するなんて無謀過ぎるぞ…」
猛反発する彼等にフィルヴァスは一息したのである。
「であるからこそ最精鋭のストレンジキラーを今回の大作戦に抜擢させたのだ…」
前回の戦闘でストレンジキラーの戦闘力を熟知したフィルヴァスは今回の大作戦でも活躍出来ると判断する。
「ポストヒューマンであるストレンジキラーなら鬼に金棒だからな…最強の狂戦士である彼ならば百人力の大戦果は期待出来るだろう…」
「ストレンジキラーが最強の狂戦士でも…一人だけでは戦力に…」
すると直後である。ストレンジキラーは超高速移動により精鋭の一人を鉤爪で斬首…。精鋭の一人を即死させたのである。
「なっ!?」
「えっ…此奴…」
「ストレンジキラー…貴様!?」
地面には切断された精鋭の頭首と鮮血が流れ出る。
「ひっ!殺されちまう!」
「此奴…本当に仲間を打っ殺しやがったぞ!」
十二人の精鋭達は仲間にも容赦しないストレンジキラーに畏怖したのである。
「今度…俺に殺されたいのは誰だ?指名しろ…」
ストレンジキラーは無表情で十二人の精鋭達に問い掛ける。
『ストレンジキラー…此奴が殺し屋って噂話は本当らしいな…』
総大将のフィルヴァスもストレンジキラーの予想外の行為に一瞬動揺する。
「貴様達…今回ばかりは無謀かも知れないが…今現在ブラッドウルフは戦力不足なのだ…一度の戦闘に相当数の人員は配備出来ないのが現状だ…」
ブラッドウルフは前回の大規模戦闘で相当数の人員喪失により一度の戦闘で大勢の戦闘員達を主戦場に総動員するのは事実上不可能だったのである。
「今回の大作戦は非常に危険である反面…今回の任務に成功すれば貴様達には報酬として一年分の食糧品と酒類を提供するからな…約束する!」
「えっ!?」
「食糧と酒類を一年分だと!?本当かよ!?」
「一か八かのチャンスだな!山賊要塞で思う存分に大暴れするか♪」
「約束だぜ♪総大将♪存分に大暴れするからな!」
「任務に成功したら俺達に一年分の食糧と酒類を用意しやがれよ♪」
報酬の一言にストレンジキラーを除外する精鋭達の士気が発揚…。
「はぁ…」
一時的であるがフィルヴァスは内心ホッとする。
『如何やら一安心だな…彼等が単純で安心した…』
現実問題…。ブラッドウルフは慢性的に人員不足であり内輪揉めが原因で人員が喪失するのを回避したかったのである。
『生憎…ストレンジキラーには報酬は不要そうだが…』
ブラッドウルフ全軍にとってストレンジキラーは最強の主要戦力である一方…。フィルヴァスは危険人物である彼に裏切られないか極度の不安感と恐怖心を感じる。翌朝…。最精鋭部隊は西方地帯の山賊要塞へと移動を開始したのである。
「総大将の野郎も適当だよな…如何して俺達をこんな任務なんかに抜擢しやがった?正直無謀だぜ…」
最精鋭の一人が不満を愚痴り始める。
「仕方ないよ…六日前の戦闘では人員の大半を喪失したからな…当分の作戦では大人数は動員出来ないだろうよ…」
「山賊要塞の占領に成功すれば一年分の食糧をゲット出来るぞ…我慢しろよ♪」
活動拠点の亜大陸地帯から西方地帯は二十キロメートルの長距離であり比較的遠距離だったのである。移動を開始してより一時間半後…。彼等は目的地である西方地帯に到達したのである。
「無人地帯かよ…西方地帯は亜大陸地帯以上に殺風景だな♪」
「当然だが人気は感じられないぜ…ゴーストタウンみたいで薄気味悪いな…亜大陸地帯に戻りたいぜ…」
「幽霊が出現しそうな雰囲気だな…」
「何が幽霊だよ♪子供みたいな感想だぜ♪」
「子供かよ♪所詮幽霊なんて子供騙しだろうに…」
当然として西方地帯の住宅街も荒廃したゴーストタウンであり誰一人として居住者は確認出来ない。
「目的地の山賊要塞は?」
するとストレンジキラーが無表情で中心地に確認出来る巨山を指差したのである。
「ん?岩山みたいだな…」
中心地に聳え立つ岩山は標高五百メートル規模の巨山であり岩山の頂上には鉄塔が確認出来る。
「岩山が山賊要塞だな…」
小柄の戦闘員が恐る恐る…。
「山賊要塞を攻略するのであれば如何する?」
「こんな要塞であれば…直接的に真正面から突っ込むだけだ…」
今迄無言だったストレンジキラーが即答したのである。
「ストレンジキラーは正気か?真正面から突っ込むなんて…完全に自殺行為だぜ…」
「要塞に突っ込むならストレンジキラー一人で突っ込みやがれ…俺達は普通の人間だから御免だぜ…」
周囲の戦闘員達はストレンジキラーの意見に全否定する。無表情だったストレンジキラーであるが…。殺気を感じさせる表情で彼等を睥睨したのである。
「ひっ!」
『此奴…殺気か!?本気の殺意を感じるぜ…』
ストレンジキラーの殺気に戦闘員達は畏怖し始める。
「山賊要塞の敵兵達は俺が完膚なきまでに打っ殺す…貴様達雑魚は山賊要塞を占拠するのだな…」
ストレンジキラーは神速のスピードで山賊要塞へと突っ込んだのである。
「ストレンジキラーの野郎…気に入らないな…」
「彼奴…一人で突っ込んじまったな…」
現在地である住宅街から山賊要塞への距離は数キロメートルと近距離でありストレンジキラーは数秒間で到達する。
「敵陣には…」
ストレンジキラーは両目を瞑目させる。
『内部の敵兵は二百人前後か…』
ポストヒューマンとしての本能からか外部からでも瞬間的に内部に存在する生体反応を正確にキャッチ出来る。ストレンジキラーは山賊要塞から二百人前後の人間達の生体反応をキャッチしたのである。
「内部の敵兵を打っ殺すだけなら俺一人でも楽勝だな…」
数分間岩山の周囲を探索すると地下シェルターのハッチを発見する。
「ハッチだと?軍事用の地下シェルターか?」
ストレンジキラーは地下シェルターのハッチを開放させる。恐る恐る地下シェルター内部へと潜入したのである。
『山賊要塞に直結する地下通路か…』
地下シェルターは十数年前の世界最終戦争で住民達の避難所として利用された地下壕である。数十分後…。通路を直進し続けると目前より重厚に構築された鉄扉が確認出来る。
「此奴を破壊すれば敵地に侵入出来るな…」
左手の機械義手より内蔵された対物ライフルが出現する。
「鉄扉を破壊するだけなら此奴で事足りる…」
内蔵された対物ライフルで鉄扉を破壊したのである。周囲より爆発音が響き渡る。
「楽勝だな…」
破壊された鉄扉の奥側より…。二人の警備兵が破壊された鉄扉の瓦礫に近寄る。
「先程の爆発音は!?」
「一体何が発生しやがった!?ん!?」
二人の警備兵はストレンジキラーに気付いたのである。
「機械式の義手だと?貴様は一体何者だ!?」
「鉄扉を破壊したのは貴様か!?」
問い掛けられたストレンジキラーは無表情で…。
「であれば如何する?」
彼等はストレンジキラーの態度にピリピリする。
「貴様…」
「構わん!此奴は侵入者だ!徹底的に打っ殺せ!」
警備兵達は護身用のライフルを発砲したのである。ストレンジキラーは銃撃されたものの…。高速移動により警備兵達の銃撃を回避したのである。高速移動中に装備を対物ライフルから近接戦闘用の鉤爪に変換…。ストレンジキラーは一瞬の身動きで二人の警備兵を斬撃したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
鉄製の床面には彼等の鮮血で赤色に染色する。
「防衛拠点に移動するか…」
ストレンジキラーは山賊要塞の上層へと移動したのである。同時刻…。山賊要塞重要拠点内部では戦闘員達が立体映像である監視用のホログラムで地下通路の様子を確認したのである。ホログラムによってストレンジキラーが投影されると彼等はゾッとする。
「侵入者だぞ!」
「彼奴は伝説の殺し屋…ストレンジキラーだ!」
戦闘員達がストレンジキラーの出現に騒然としたのである。
「なっ!?ストレンジキラーだと!?本当なのか!?」
「ストレンジキラーって…ポストヒューマンの彼奴だよな!?如何して殺し屋の彼奴がブラッドウルフなんかに味方しやがった!?」
「如何するよ!?地下通路を突破されちまったぞ!拠点内部に侵入されるのは時間の問題だぞ…」
刻一刻と恐怖心が増大化する。拠点内部の戦闘員達はストレンジキラーの襲撃に畏怖したのである。すると疲弊する戦闘員達に大柄の戦闘員が怒号し始める。
「貴様等!狼狽えるな!所詮相手は一人だぞ…総動員で武装するのだ!総動員で攻撃すれば相手が殺し屋のストレンジキラーとて…」
彼等は即座に護身用の銃火器を装備したのである。基地内であるが拠点防衛用の重戦車も数量程度配置する。
「ストレンジキラーが通信室に侵入し次第…総攻撃だぞ!」
数秒後…。頑丈に構築された鉄扉が破壊される。
「えっ!?」
「なっ!?」
無傷のストレンジキラーが通信室に侵入したのである。
「此奴…」
するとストレンジキラーは無表情で周囲を確認…。
「俺を相手にするのであれば…山賊要塞の戦力では力不足だな…」
山賊要塞に侵入したストレンジキラーは内部の防衛網を簡単に突破したのである。
「総攻撃だ!ストレンジキラーを打っ殺せ!」
通信室の戦闘員達は護身用の機関銃は勿論…。バズーカ砲でストレンジキラーを総攻撃したのである。無数の弾丸やら砲弾が炸裂…。ストレンジキラーを急襲する。
『こんな程度の攻撃で…』
ストレンジキラーは神速の身動きによって内部の戦闘員達を瞬殺…。数分間で通信室の戦闘員達を全滅させたのである。
「雑魚は片付いたな…」
ストレンジキラーは山賊要塞から脱出すると待機中の精鋭部隊と合流する。
「ストレンジキラー!?山賊要塞から無事に戻れたのか!?」
「山賊要塞の雑魚は俺が排除した…貴様等は思う存分山賊要塞を占拠しろ…」
彼が単独で難攻不落の山賊要塞を陥落させた事実に彼等は驚愕したのである。
「はっ!?ストレンジキラーは一人で山賊要塞を陥落させたのかよ!?」
「ストレンジキラーは人型の兵器なのか?」
「兎にも角にも山賊要塞を占拠するぞ…」
ストレンジキラーが山賊要塞を攻略してより一時間後…。山賊要塞はブラッドウルフによって完全占拠されたのである。戦闘に勝利したブラッドウルフは多数の重火器は勿論…。輸送用の装甲車やら重戦車を数両確保したのである。今回の山賊要塞の完全占拠によってブラッドウルフの戦力は格段に急上昇する。

第三話

宣戦布告
同時期…。地球上の裏側ではネオサイクロプスと呼称される海面上の大規模勢力が各海域で大暴れしたのである。ネオサイクロプスは旧世界の大文明で開発された高度の巨大兵器を多数保有…。彼等の軍事力は非常に絶大であり荒廃した地球上の約半分を占拠出来る程度には強力だったのである。陸戦最強勢力の大規模軍閥ブラッドウルフが奮戦する同時期…。地球上の裏側の青海原ではネオサイクロプスの武装大型船が目的地である南極海の島嶼へと直航する。
「大将軍♪航海は順調ですぜ♪今度の戦闘も勝利出来ますよ♪」
武装大型船の艦長は【ヘルムフリート】と名乗る人物である。ヘルムフリートはネオサイクロプスの創設者であり総軍の最高指導者として統率する。大勢の部下達からは大将軍と呼称される一方…。自軍以外の各勢力では大海原の大魔王として畏怖されたのである。今現在でこそヘルムフリートは随一の軍人であるが十数年前に勃発した世界最終戦争では国連軍の少年兵として最前線で孤軍奮闘…。数多くの主戦場で大活躍した歴戦の猛者として知られる。
「油断は出来ない…今回の戦闘は俺達を敵対視する部落の徒党だぞ…不穏分子は徹底的に壊滅させなくては!」
ネオサイクロプスは荒廃した新世界の大規模軍閥の一大勢力であるが…。世界各地の軍閥勢力からは極悪非道の海賊集団として嫌悪されたのである。ネオサイクロプスは本拠地から出航してより一時間後…。小規模の島嶼が確認出来る距離へと到達する。
「大将軍!絶島を発見しましたぜ!」
「絶島だと?」
ヘルムフリートは双眼鏡で絶島を確認したのである。絶島は全域が要塞化された城郭地帯でありヘルムフリートは目的地のサウスアイランド諸島であると認識する。
「恐らく目的のサウスアイランド諸島だ…各乗員に伝播せよ!戦闘を開始すると!」
「承知しましたぜ!大将軍!」
同時刻…。サウスアイランド諸島では本島に駐屯中の武装集団が北方の海域から一隻の武装大型船を発見する。
「なっ!?所属不明の大型船だぞ!本島に接近中だ!」
鉄塔の警備兵が呼号したと同時に島内の戦闘員達が反応したのである。
「一体何事だ!?」
「大型船だって?」
「ひょっとしてネオサイクロプスの巨大戦艦なのか?」
今現在全長二百メートル以上の大型船を所有…。航行させられる軍閥勢力は実質皆無であり誰しもがネオサイクロプスであると察知したのである。ネオサイクロプスの出現に島内の戦闘員達は騒然とする。守備隊は各地に設置された各砲台へと配置したのである。
「敵艦に照準させろ!」
数秒後…。
「敵軍の巨大戦艦に総攻撃だ!砲撃開始せよ!」
島内に設置された各砲台が巨大戦艦を標的に砲弾が発射されたのである。無数の砲弾が発射された同時刻…。
「大将軍!砲撃です!」
「先制攻撃か…」
巨大戦艦の艦橋ではヘルムフリートが双眼鏡で敵軍の砲台を眺望する。直後…。数発の砲弾が巨大戦艦の甲板に着弾したのである。艦体全体が一瞬グラッと振動するものの…。砲弾が着弾した装甲は無傷であり艦体全体は実質ノーダメージだったのである。
「強襲戦艦〔フリングホルニ〕は難攻不落の海上移動要塞なのだ…本艦が数発の砲弾程度で簡単に撃沈出来るか…」
巨大強襲戦艦フリングホルニはネオサイクロプス海上部隊の旗艦であり難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金〔エターナルメタル〕が駆使され…。エターナルメタルの装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない強度の素材である。多数のミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射する電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には偵察用の無人機を二機搭載する。
「対地ミサイルで各地の砲台を徹底的に攻撃せよ…沿岸の守備隊を完膚なきまでに殲滅するのだ!」
ヘルムフリートの指示と同時に甲板の前後に設置された多数のミサイル発射機から十数発もの対地ミサイルが発射される。甲板から発射された対地ミサイルは数秒間で各地の固定砲台に着弾…。固定砲台は破壊されたのである。直後…。ヘルムフリートは艦内の双眼鏡で防衛機能を喪失した島内の状況を確認したのである。
「敵部隊の基地機能は低下したな…」
ヘルムフリートは即座にブリッジの乗組員達に上陸作戦を指示する。
「上陸作戦を開始する…艦内から上陸部隊を出撃させるのだ…」
フリングホルニの艦内から複数の上陸用舟艇が出撃を開始したのである。一隻の上陸用舟艇には武装した十数人もの戦闘員達が乗艇…。彼等は島内へと上陸したのである。島内では残存した守備隊との銃撃戦が展開されるも…。銃撃戦は数時間で鎮静化したのである。総司令官のヘルムフリートは再度島内の様子を双眼鏡で確認する。
「如何やら戦闘が鎮静化したみたいだな…」
「大将軍!今回もネオサイクロプスの大勝利ですね!」
フリングホルニ艦内ではネオサイクロプスの圧倒的大勝利によって乗組員達が大喜びしたのである。一人の乗組員がヘルムフリートに近寄る。
「こんなにも短時間で上陸作戦が成功するとは予想外でしたね♪大将軍♪」
笑顔の乗組員にヘルムフリートは無表情で返答する。
「予想外も何も…こんな小規模の戦闘で苦戦したのであれば…亜大陸のブラッドウルフには勝利出来ないだろう…」
ブラッドウルフの一言に周囲の乗組員達は絶句したのである。
「大将軍はブラッドウルフに宣戦を布告するのですか!?」
「大将軍は本気ですかい!?」
乗組員達はゾッとした表情でヘルムフリートに問い掛ける。
「当然だ…俺達ネオサイクロプスは旧世界連合軍の後身であり…滅亡した旧文明を復活させる新時代の覇者なのだからな…」
本来ネオサイクロプスは世界最終戦争で滅亡した旧世界連合軍の残存勢力でありネオサイクロプスの主力戦力である強襲戦艦フリングホルニも国連軍の海軍主力艦隊が保有した超弩級ミサイル艦である。勢力の中心人物であるヘルムフリートは新統一政権の樹立と旧文明の再興を主目的に活動する。
「今度の俺達の相手は仮想敵のブラッドウルフだ…」
すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「ですが大将軍…今現在ブラッドウルフには伝説の殺し屋…ストレンジキラーが参加したらしいですぜ…」
部下のストレンジキラーの一言にヘルムフリートは一瞬ピクッと反応する。
「ストレンジキラーとは…世界最強の暗殺者の名前だったな…」
『噂話ではストレンジキラーは旧文明の科学者達が誕生させた人工性の新人類…ポストヒューマンらしいな…』
ヘルムフリートは数秒間沈黙するものの…。
「伝説の殺し屋であるストレンジキラーが相手であれば一筋縄では不可能だが…抑止力である神器を駆使すればブラッドウルフの奴等も畏怖するさ…場合によっては戦闘が発生せずに投降するだろう…」
「なっ!?神器ですって!?」
神器の一言に乗組員達は身震いしたのである。
「大将軍!?大量破壊兵器の神器なんか駆使しちまったら…全世界が再度滅亡しちまうぜ!大将軍は本気なのですか!?」
神器とは所謂大量破壊兵器の一種でありネオサイクロプスは最終手段として神器を保有する。本来は抑止力としての代物であるが…。ヘルムフリートは仮想敵であるブラッドウルフとの大激戦に神器の使用も検討したのである。
「大将軍は世界最終戦争を再現させたいのですか!?」
周囲の部下達は神器の使用に猛反対する。
「俺達の目的は旧世界連合による統一政権の再興なのだ…ブラッドウルフの存在は俺達にとって脅威だからな…」
すると数人の乗組員がヘルムフリートの思惑に賛成したのである。
「俺達は大将軍の意向に賛成しますよ!」
「俺達にとってブラッドウルフは最大の大敵なのです!徹底的に奴等を壊滅させましょう!」
周囲の者達は一部の賛同者に絶句する。サウスアイランド諸島攻略作戦から一週間後…。ネオサイクロプスの存在は世界各地に知れ渡りブラッドウルフも彼等の存在を周知したのである。ブラッドウルフ総大将のフィルヴァスは本拠地の会議室にて三人の部下達と密談する。
「貴様達も噂話を熟知しただろうが…奴等が…海賊集団のネオサイクロプスが行動を開始したみたいだな…」
「総大将…如何されますか?恐らく奴等は俺達の本拠地である亜大陸地帯にも手出しするでしょう…ネオサイクロプスとの全面戦争は回避出来ませんよ…」
ブラッドウルフ内部でも戦闘員達はネオサイクロプスの脅威にビクビクしたのである。ネオサイクロプスが保有する大量破壊兵器の神器の存在は世界的にも有名であり彼等との戦闘は無謀であると誰しもが感じる。
「山賊要塞を占拠した影響でブラッドウルフの戦力は数段階強大化しましたが…ネオサイクロプスには大量破壊兵器の神器が存在しますからね…彼等との徹底抗戦は亜大陸地帯の焦土化を意味するでしょう…」
「奴等の神器とやらは非常に厄介だからな…」
すると一人の部下が恐る恐る発言する。
「ネオサイクロプスの総大将…ヘルムフリートとは一度会談するべきでは?ネオサイクロプスとの戦争は絶対に回避するべきです…最悪亜大陸地帯に神器が投下された場合…十七万人の総人口は一瞬で死滅するでしょう…」
フィルヴァスは不本意であるが…。
「止むを得ないか…大量破壊兵器の神器を駆使されては元も子もないからな…」
フィルヴァスは今回ばかりは部下の意見に同意したのである。
「ネオサイクロプスのヘルムフリートと会談して…談判するのが最良だな…」
すると直後…。
「敵軍の総大将と談判だと?愚か者が…」
「なっ!?」
「貴様は…」
最精鋭のストレンジキラーが会議室に無断で侵入したのである。
「ストレンジキラー…如何して貴様が会議室に?」
ストレンジキラーは殺気立った形相でフィルヴァスを凝視する。
「フィルヴァス…奴等との徹底抗戦を強行させろ…何が不戦の会談だ…滑稽だな…」
戦闘を強行させたいストレンジキラーにとって不戦の会談は言語道断…。ネオサイクロプスとの平和的交渉には猛反対だったのである。部下の一人が恐る恐る…。
「ストレンジキラー…好い加減にしろ!ネオサイクロプスとの大戦争は亜大陸地帯にとって存亡の危機なのだぞ!超人の貴様だって無事では…」
ストレンジキラーは右腕の義手から対物ライフルに変形させると部下の一人を殺害したのである。頭部は破壊され室内の彼方此方に血肉が飛散する。
「ストレンジキラー…」
「えっ…」
総大将のフィルヴァスは勿論…。二人の部下達はストレンジキラーの残虐性に畏怖したのである。ストレンジキラーは無表情で問い掛ける。
「今度は誰が俺に殺されたいか?指名したければ指名しろ…」
周囲の者達は沈黙したのである。
「俺からの至上命令だ…後日…ネオサイクロプスに宣戦布告を表明しろ…」
ストレンジキラーは退室する。
『ストレンジキラー…』
今回の出来事からフィルヴァスはストレンジキラーの存在がブラッドウルフ全体にとって厄介であると自覚…。今回の出来事以降フィルヴァスは外部の敵軍よりも部下であるストレンジキラーに畏怖したのである。ストレンジキラーの個人的強行によってネオサイクロプスとの無血の平和的会談は実現されず…。ブラッドウルフは止むを得ず仮想敵のネオサイクロプスに宣戦を布告したのである。

第四話

開戦
宣戦布告から三日後…。ブラッドウルフはネオサイクロプスとの戦闘を想定して沿岸一帯を要塞化させたのである。開戦の準備は万端であったが…。一触即発の事態に戦闘員達の戦意は実質的に皆無だったのである。総大将のフィルヴァスも今回は無謀であると想念するのだがストレンジキラーの暴発に畏怖…。表向きのみならネオサイクロプスに対する徹底抗戦を表明するも心情では消極的だったのである。フィルヴァスは双眼鏡を所持…。沿岸の要塞に設置された防波堤で敵軍の攻撃に警戒する。
「嵐の前の静けさか…非常に物静かだな…」
真昼の海面上は平穏でありフィルヴァスは不吉に感じる。すると四人の部下達が防波堤に移動…。偵察中のフィルヴァスに近寄る。
「総大将…あんたは本気ですか?」
「奴等…ネオサイクロプスとの戦争なんて無謀ですぜ…」
彼等はネオサイクロプスとの戦争に反対する者達でありフィルヴァスに問い掛けたのである。フィルヴァスは警戒した様子で…。
「当然として俺もネオサイクロプスとの全面戦争なんて御免であるが…今回ばかりは武闘派であるストレンジキラーの暴走を危惧しての判断なのだ…彼奴が自発的に発言するとは予想外であった…」
フィルヴァスは小声で本音を発言したのである。
「戦争の回避は俺達の死滅を意味する…彼奴は…ストレンジキラーは仲間の俺達にも容赦しないだろう…俺達を裏切る可能性も否定出来ない…」
ストレンジキラーの暴挙に四人の部下達は身震いし始める。
「ストレンジキラーが…総大将を誘導させやがったのか?」
「結局…彼奴が主犯格か…」
すると一人の部下が恐る恐る…。
「一か八か俺達だけでストレンジキラーを…暗殺するか?何方にせよ彼奴を野放しにし続けるのは危険過ぎるぜ…」
部下の突発的発言にフィルヴァスは制止する。
「暗殺を計画しても無意味だろう…貴様達ではストレンジキラーは仕留められない…彼奴は最強のポストヒューマンだ…常人では対抗出来ない…」
フィルヴァスにとってもブラッドウルフ全体にとっても軍内部の内紛は勝率を低下させる愚行であり回避したかったのである。
「こんな状況で内輪揉めは奴等にとって絶好機だからな…皮肉にも狂戦士のストレンジキラーはブラッドウルフにとって最強の戦力だ…」
強豪であるストレンジキラーがブラッドウルフを脱退すればブラッドウルフは確実に崩壊すると予測する。
「彼奴を軍内部から脱退させるかは…今回の事態が無事終焉してからだ…」
フィルヴァスは再度偵察を続行したのである。同時刻…。大海原の中心部に位置するネオサイクロプスの本拠地〔シートピア自治区〕軍港ではネオサイクロプス旗艦のフリングホルニと四隻の大型輸送艦が合流したのである。旧世界文明ではシートピア自治区は巨大工場都市として活用され…。世界最終戦争の戦後でも兵器工場としての一部の機能は健在である。資源さえ入手出来れば最低限の実弾兵器やら軍事用ドローンの製造は自前で製造出来る。フリングホルニのブリッジ内部では総司令官のヘルムフリートが全軍に出撃を伝播させる。
「全軍…出撃を開始する…攻略目標は南方大陸に位置する亜大陸…亜大陸地帯だ…」
旗艦フリングホルニを先頭に四隻の大型輸送艦が出航したのである。今回の作戦では大量破壊兵器である神器を旗艦のフリングホルニに搭載…。投入兵力は総勢九百人規模と荒廃した新世界としては最大級の大戦力だったのである。ネオサイクロプスの大艦隊は目的地である亜大陸地帯へと直進する。同日の真夜中…。ストレンジキラーは近辺の村道を単独で散歩したのである。
『面白くなったな…今度の戦闘では何人仕留められるか?』
ストレンジキラーは内心ワクワクする。
『凡人達は不必要にビクビクし過ぎだ…大量破壊兵器?こんなちっぽけな村里が消滅したからって…今更何が問題なのか?』
ストレンジキラーにとって大量破壊兵器…。神器の存在は問題外だったのである。すると道中…。
「ん?」
背後より人気を感じる。
『人気だと?』
ストレンジキラーは警戒した様子で背後を直視したのである。
「貴様等…こんな時間帯に散歩か?」
ストレンジキラーの背後には三人の無頼漢達が佇立する。
『仲間の人間っぽいな…』
彼等は迷彩服でありブラッドウルフの同志達であると認識したのである。無頼漢達は殺気立った形相でストレンジキラーを睥睨する。
「ストレンジキラー…貴様…」
三人の無頼漢達は極度の怒気により全身がプルプルと身震いしたのである。
「如何してボスを戦争なんかに誘導させやがった!?」
「貴様の横暴の所為で村里全体が焦土化しちまう…俺達の今迄の努力は何もかもが水の泡だ…」
ストレンジキラーの噂話はブラッドウルフ全体に出回る。
「誰かが密告しやがったみたいだな…」
ストレンジキラーは特段気にならなかったのか平然とする。
「ストレンジキラー…今回の問題以前に貴様は…」
仲間内にもストレンジキラーの行動には不信に感じる者達が出始める。
「であれば如何する?愚痴りたいなら仲間内で愚痴っとけ…」

第壱部

第一話

真夜中
太古の大昔…。極東の島国〔天球神国〕での出来事である。数百年間と長引いた弱肉強食の戦乱時代は終焉…。天球神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地の村里にて神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。戦乱時代から五十年後の世界暦五千二十二年五月上旬の時期…。南国に聳え立つ荒神山にて錫杖を所持した僧侶が真夜中の荒神山を一人で視察する。
「問題の荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
今現在南国の荒神山は魑魅魍魎の魔窟同然であり通常の人間は誰一人として魔窟の荒神山へは近寄れない。
『如何やら今回の相手も大群だな…』
僧侶の名前は【八正道】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんなにも重苦しい妖気だ…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が周囲に響き渡るのだが…。
「こんな場所…」
山中の空気は非常に重苦しく気味悪くなる。
「普通の人間なら荒神山には近寄りたくても近寄れないな…」
数分後…。八正道は荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
八正道は魑魅魍魎の征伐に尽力する僧侶の一人である。八正道は妖怪退治の専門家であり四六時中妖怪退治に専念する。
「即刻荒神山の妖怪達を撃退して…荒神山を元通りの観光地に戻さなくては…」
すると直後である。
「ん!?」
突如として無数の気配を察知…。
「無数の気配だ…」
無数の気配の出現に八正道は警戒したのである。
「此奴は妖怪特有の妖気か?」
気配の正体は妖怪特有の妖気であり姿形こそ不明瞭であるが…。
「如何やら相手は大群みたいだな…」
妖気は大群であると認識する。無数の妖気が自身に接近するのは認識出来る。無数の気配を察知した数秒後…。
「ん?」
暗闇の自然林より一体の人影を確認したのである。
『人影みたいだが…』
体格は非常に小柄であり正体不明の人影はふら付いた身動きで八正道に接近する。
「人影は人間とは無縁そうだな…」
周辺は漆黒の暗闇であり人影の正体は認識出来ないものの…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは確実である。正体不明の人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
『此奴は…』
正体不明の人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身であると認識出来る。
「此奴は亡霊妖怪…【悪食餓鬼】だな…」
人影の正体とは亡霊妖怪として認識される悪食餓鬼である。悪食餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した亡者達の無念が妖怪化した存在とされ…。特定の地域では純粋に疫病神やら悪霊とも呼称され夜行性からか真夜中に徘徊する。性格は非常に強欲であり人間の人肉が大好物とされる。彼等の性質上生身の人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「こんな場所にも悪食餓鬼が出現するとは…」
八正道は即座に法力を発動…。
『相手が悪食餓鬼程度なら…』
直後である。
「飢饉によって死去した亡者の末路よ…」
生者である八正道を食い殺そうと近寄る悪食餓鬼の肉体を自然発火…。悪食餓鬼は八正道の発動した法力によって燃焼したのである。
「成仏するのだ…」
八正道は焼死した悪食餓鬼に恐る恐る合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の悪食餓鬼が出現…。
「悪食餓鬼…今度は大群だな…」
無数の悪食餓鬼はふら付いた身動きで八正道に近寄る。
「如何やら荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
八正道は総勢数十体から数百体もの悪食餓鬼に包囲されたのである。
「多勢に無勢か…」
戦況は圧倒的に不利であったが…。八正道は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…」
八正道は再度法力を発動…。
「私は貴様達を成仏させる…」
法力によって殺到する無数の悪食餓鬼の肉体を自然発火させたのである。自然発火により八正道の周囲には無数の悪食餓鬼の焼死体が地面に埋没する。
「昇天されよ…」
直後…。地面に埋没した無数の悪食餓鬼の焼死体が消滅したのである。
「今度の相手は?」
自身の背後より不吉の妖気を感じる。
『此奴は悪食餓鬼よりも強大なる妖気だな…一体何が出現したのだ?』
妖気は悪食餓鬼よりも数十倍は強大であり八正道は恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉塊人間が出現する。一頭身の肉塊人間は巨体の人型肉団子であるが…。全身の体表には悪食餓鬼の頭部が無数に確認出来る。
「此奴は悪食餓鬼の親玉…【百鬼悪食餓鬼】か…」
百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体とされ亡霊妖怪の悪食餓鬼の亜種である。別名としては悪食餓鬼の親玉やら悪霊の集合体とも呼称される。
『厄介なのが出現したな…』
体表の無数の頭部が八正道を睥睨…。無数の悪食餓鬼の口先より高熱の熱風を放射したのである。
「熱風!?」
八正道は即座に法力の結界を発動…。百鬼悪食餓鬼の熱風を無力化したのである。
『絶大なる妖力だな…』
結界の発動で熱風の無力化には成功するものの…。八正道は結界の発動によって体力を消耗する。
『百鬼悪食餓鬼は予想以上に強力だな…』
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「極悪非道の妖怪よ…完膚なきまでに死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼悪食餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で体力が消耗…。極度の疲労からか八正道は法力が使用出来なくなる。
「百鬼悪食餓鬼は仕留めたか…」
八正道は周囲を警戒する。
『危険は回避されたのか?東国に戻ろうか…』
一安心した直後…。
「なっ!?」
複数の強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
『複数の妖気か!?』
すると周囲の自然林から三体もの百鬼悪食餓鬼が出現する。
「今度は百鬼悪食餓鬼が…」
『三体も出現するなんて…』
最早複数の百鬼悪食餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり八正道は撤退を余儀無くされる。
『不本意だが…撤退しなければ私自身が危険だな…』
止むを得ず撤退する直前である。
「えっ…」
今度は百鬼悪食餓鬼をも上回る不吉の妖気を察知する。
「今度は別物の妖気だ…一体何が出現したのだ!?」
極度の恐怖心からか正体不明の妖気に八正道は身震いしたのである。
『百鬼悪食餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪が出現したのか!?』
不吉の妖気は大妖怪に拮抗する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
「大妖怪なんて今現在の私では対応出来ない…」
『遭遇すれば私は確実に殺害されるな…』
基本的に妖怪退治に従事する僧侶が大妖怪と交戦する場合…。強大なる法力を駆使出来る僧侶が数人で対応するのが基本であり単独で大妖怪を相手に接戦出来る僧侶は実質一握りとされる。最悪僧侶が単独で強大なる大妖怪と遭遇した場合…。即座に撤退するのが鉄則である。
「止むを得ないな…即刻退散しなければ…」
八正道は退散する寸前…。
「えっ…」
八正道の背後には小柄の女性が佇立する。
『彼女は…人間の女性なのでしょうか?』
背後の女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は多種多様の煌びやかな花柄模様であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの…。彼女は非常に颯爽とした雰囲気である。
『彼女からは私に対する敵意も邪気も感じられないが…無数の妖気は感じられる…彼女の正体は妖怪なのか?』
女性の肉体からは無数の妖気が感じられ彼女が列記とした妖怪なのは確実であるが…。彼女からは人間の八正道に対する敵意も邪気も感じられない。すると妖怪の女性は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
妖怪の女性は氷結の妖術を発動すると三体の百鬼悪食餓鬼は一瞬で全身を氷結させたのである。
「なっ!?」
『三体の百鬼悪食餓鬼が…一瞬で氷結したぞ…彼女の妖術なのか?』
数秒後…。女性の妖術により氷結した百鬼悪食餓鬼の肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…片手間だったわ…」
すると妖怪の女性は無表情で八正道を凝視し始める。
「なっ!?」
八正道は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者ですか?」
八正道は強張った表情で恐る恐る妖怪の女性に問い掛ける。
「失礼かも知れませんが…貴女様が人外の存在なのは確実ですね…」
女性は笑顔で名前を名乗り始める。
「私の名前は【桜花姫】♪妖怪の一人よ♪」
桜花姫と名乗る女性は自身を妖怪の一人と自負したのである。
「貴女様の正体は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘純粋無垢の妖怪であるが…。彼女からは八正道に対する敵意も殺意も感じられない。
『桜花姫…姿形のみなら人間の小町娘ですが…』
八正道は再度警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。彼女からは敵意も悪意も感じられないものの…。正直妖怪の桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
『彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…』
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで♪別に私は非力の人間には手出ししないから…警戒しなくても大丈夫よ♪」
「えっ…」
『人間に…手出ししないって!?』
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪の一体であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
『摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が現実に存在するとは…ん?』
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
『一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?ひょっとして桜花姫は半妖なのか?』
すると桜花姫は冷笑した表情で八正道を凝視する。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は動揺する八正道に説明したのである。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが合体妖怪の私なのよ♪」
「桃子姫様とは…伝説の巫女の?」
桃子姫とは人間の巫女であり強大なる霊能力で多種多様の妖怪達を征伐…。伝説の巫女として有名だったのである。彼女はとある大妖怪との死闘により失踪…。今現在では彼女の行方は不明とされる。
「勿論♪」
桜花姫は桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した異例の集合体であり合体妖怪である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
『彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…』
八正道は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を殺傷せず…同族の妖怪である百鬼悪食餓鬼を攻撃されたのでしょうか?通常の妖怪であれば人間である私を殺傷するでしょう…」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなのよ♪今回は単純に百鬼悪食餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
『単純に気紛れだったのか…』
桜花姫を完全に理解するのは非常に困難であるが…。颯爽とした桜花姫の様子から八正道は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に八正道は一瞬畏怖したのである。
「私は合体妖怪の貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身今回の戦闘で実力不足が認識出来ましたし…妖力だけなら大妖怪に匹敵する桜花姫様を単独で征伐するなんて数十年間修行し続けても不可能でしょうし…」
「私の妖力が大妖怪なんて…あんたは大袈裟ね♪」
『私が大妖怪ですって♪』
八正道の大妖怪の一言に桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんた…名前は?」
八正道に名前を問い掛けたのである。
「えっ…私の名前ですと?」
八正道は桜花姫の問い掛けに一瞬動揺するも…。
「私の名前は…僧侶の八正道です…」
「あんたは八正道様って名前なのね…」
「私は退散しますね…」
八正道は自身の名前を名乗ると即座に荒神山から退散したのである。八正道が退散してより数秒後…。
「私も西国の村里に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。南国の荒神山から移動してより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ〔精霊山〕に移動したのである。
「精霊山の露天風呂に入浴しましょう♪」
片田舎の西国であるが…。天球神国の温泉郷とも呼称され時たま近隣の観光客達が西国の温泉に入浴する。精霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「精霊山の露天風呂だわ♪」
精霊山の露天風呂は非常に摩訶不思議の温泉であり妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
『折角だし♪変化の妖術を駆使しちゃおうかしら♪』
桜花姫はあらゆる妖怪達の集合体である。当然として彼女は変幻自在の変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やらあらゆる器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって精霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか光り輝く真夜中の星空を眺望する。
『妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も気に入らない妖怪と遭遇したら征伐しちゃおうかな?』
直後…。
「えっ?」
突如として背後の竹林より気配を感じる。
『気配だわ…』
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
『妖気かしら?』
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは同族の妖怪であると認識したのである。桜花姫は警戒した様子で背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
「桜花姫…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の美少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪妖気の正体はあんただったのね♪」
「桜花姫…あんたは入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形のみなら人間の小町娘であるが…。彼女も列記とした妖怪の一人であり異端者の桜花姫にとって唯一の悪友であり彼女の理解者である。桜花姫は笑顔で…。
「雪女郎♪折角だし♪あんたも私と一緒に入浴しましょうよ♪最高の湯加減よ♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は肉体の性質上熱湯の温泉が人一倍苦手である。
「私がこんな熱湯の温泉なんかに入浴すれば肉体が崩れ落ちちゃうわよ…あんたは粉雪妖怪の私を殺したいの!?」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪雪女郎♪」
桜花姫は笑顔で雪女郎に謝罪する。
「入浴しないなら…如何してあんたはこんな場所に?ひょっとして入浴中の私を覗き見とか♪あんたは相当の物好きなのね♪雪女郎♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんたね…私に殺されたいのかしら?誰があんたの全裸なんて覗き見するか…」
「私に用事かしら?雪女郎…」
桜花姫が真剣そうな表情で問い掛けると雪女郎は険悪化した表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?雪女郎?」
桜花姫は雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「数時間前の出来事だけど…あんたは南国の荒神山で三体の百鬼悪食餓鬼を殲滅したわよね?」
「荒神山での出来事かしら?問題だったの?」
「問題も何も…大問題よ!」
「えっ?大問題ですって?」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼悪食餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を前代未聞の愚行として批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…非常に面倒なのよ…」
荒神山での噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪も人間に加勢したってあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。一方の桜花姫は平気なのか極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
『えっ…桜花姫…』
「桜花姫は本当に気楽ね…あんたは天然なのかしら?」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪私は妖力だけなら大妖怪に拮抗するかも知れないわよ…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…あんたね…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は絶対に加勢しないわよ…あんたが一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「大妖怪が相手か…面白くなったわね♪」
桜花姫は内心大喜びする。

第二話

大海戦
南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ♪」
東国とは天球神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も天球神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は著名の和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
『誰かしら?僧侶っぽいわね…』
彼女の隣席には錫杖を所持した僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
『彼には見覚えが…』
桜花姫は隣席の僧侶らしき人物を凝視し続ける。
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の八正道である。奇遇にも僧侶の彼が東国の和菓子屋にて来店…。美味しそうに和菓子を頬張ったのである。
「ひょっとしてあんたは…八正道様かしら?」
すると八正道は身震いした様子で恐る恐る…。
「えっ…桜花姫様!?如何して貴女様がこんな場所に!?」
八正道は小声で桜花姫に問い掛ける。
「如何してって…私は単純に東国の和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
八正道は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を察知出来るのは私だけですが…」
桜花姫は警戒する八正道に問い掛ける。
「八正道様?あんたは私を信用出来ないの?私が妖怪だから?」
「信用するも何も…失礼かも知れませんが貴女様は魑魅魍魎の集合体なのです…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
八正道は妖怪を毛嫌いする一人であり人間に対する敵意が無くとも妖怪である桜花姫を信用出来なかったのである。実際に桜花姫が暴走した場合…。八正道が全身全霊で法力を駆使したとしても彼女の暴走を阻止するのは実質困難である。
「八正道様♪あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪無関係の人間には手出ししないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で八正道様に加勢しちゃったから…大勢の妖怪達に毛嫌いされちゃったのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
八正道は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪仲間の妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「えっ…一匹狼って…」
『同族の妖怪達に敵対視された?四面楚歌の状態で彼女は平気なのか?』
八正道は平気そうな彼女に不思議がる。
『桜花姫様…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…』
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。八正道は無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視…。
『彼女は列記とした妖怪の一人ですが…』
桜花姫は人一倍純粋無垢である。
『本当に人間味を感じさせる摩訶不思議の妖怪ですな…本当に桜花姫様は妖怪なのでしょうか?』
桜花姫が本物の人間みたいに感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視し始める。すると直後である。
「ん!?」
『別物の妖気を感じるぞ…妖怪が出現したのか?』
突如として妖気を察知…。八正道は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「八正道様も妖気を察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に強大なる妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「大妖怪の一歩手前なんて面白そうね♪今度も私の出番かしら♪」
「一大事です…私は即刻妖怪を退治しなくては…」
八正道は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?八正道様!?」
一方の桜花姫も全力で疾走…。八正道を追尾したのである。桜花姫は必死に八正道を追尾し続けるのだが…。八正道の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では神速の彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…一休みしないと…」
『八正道様を見失っちゃったわ…』
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「はぁ…仕方ないわね…」
『瞬間移動の妖術で八正道様を先回りしちゃいましょう♪』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。只管疾走し続ける八正道の目前に瞬間移動したのである。
「八正道様♪」
「うわっ!桜花姫様!?」
八正道は突如として自身の目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りされたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を一人で置いてきぼりなんて…八正道様は意地悪ね♪」
「仕方ないですね…桜花姫様…」
八正道は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「目的地に到着したわね♪八正道様♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻確認出来…。海岸の砂浜には十数人もの漁師達が確認出来る。漁師達は非常に困惑した様子であり八正道は恐る恐る彼等に問い掛ける。
「一体如何されましたか?」
漁師達は八正道に反応する。
「あんたは法師様ですか…」
「先程の出来事なのですが…突然近海に巨大妖怪が出現しましてね…」
「巨大妖怪ですと?」
「巨山みたいな巨大真蛸ですよ…抹香鯨なんかよりも数倍は巨体でしたね…」
数時間前の出来事である。漁師達は近海の海辺にて漁猟活動中…。突如として海面上から規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船が襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に漁船諸共食い殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…生憎妖怪の出現で漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとすると巨大真蛸の正体って…水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「水難妖怪…海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって溺死した亡者達の霊魂が妖怪化した海中の化身とされ…。目撃者達の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が共通である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没させられ…。海難入道と遭遇した人間は溺死するのが通例とされる。
「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻該当者である海難入道を仕留めなくては…」
八正道は即刻海難入道の退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様が!?」
突然の桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「小町娘の姉ちゃんよ…あんたは命知らずかい?相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…冗談かな?」
漁師達は桜花姫に呆れ果てる。
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」
「人間のあんたが妖怪だって?子供騙しかな?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と自負する桜花姫に漁師達は揶揄したのである。
「あんた達…仕方ないわね…」
桜花姫は冷笑すると木造の漁船を凝視し始める。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?如何してこんな超常現象が…」
「あんたは一体何を!?」
桜花姫の駆使する変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪器物だって別物に変化させられるわ♪」
漁師達は勿論…。八正道も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「人間の小娘に擬態したのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪なのよ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。
「折角だし…漁師のあんた達も変化の妖術で桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
「えっ…」
桜花姫の冗談に漁師達は身震いした様子で…。恐る恐る後退りし始める。
「ひっ!此奴は人間の小娘に変化した本物の妖怪だ!」
「妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走したのである。
「漁師さん…逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…桜花姫様が人前で荒唐無稽の妖術なんて駆使するから…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は水難妖怪の海難入道を征伐するわよ♪」
桜花姫は再度自身の肉体に変化の妖術を発動する。変化の妖術を発動すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化し始め…。黒髪の長髪は銀髪に発光したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
八正道は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき規格外の物体は何一つとして確認出来ない。
『こんなにも暗闇の海中だと海難入道は発見出来ないわね…』
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
『ひょっとして海難入道の妖気かしら?』
数秒後…。暗闇の遠方より巨岩らしき巨大移動物体が接近する。
「一体何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主頭であり全体的に巨大真蛸らしき巨大物体だったのである。
『巨大真蛸…』
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体の正体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は二町規模に相当する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様はあらゆる妖怪の集合体…合体妖怪の桜花姫だな…人魚の小娘に擬態するとは…」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹なのだ…邪魔するなら妖怪の貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり自身が空腹であれば相手が同族の妖怪であっても躊躇わず捕食する。
「あんたが空腹ね…私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では水難妖怪の俺を仕留められる海中の妖怪は皆無であるぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るものの…。海底下で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。妖怪では最上位に君臨する大妖怪であっても海中の海難入道を仕留めるのは困難である。
「貴様の噂話は熟知したぞ…近頃貴様は敵対すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を征伐したらしいな?」
桜花姫の噂話は地上界のみならず暗闇の海中でも出回り…。拡散したのである。
「私が人間に加勢したから何よ?私は鬱陶しい邪魔者を仕留めただけなのよね♪」
桜花姫は笑顔で反論する。
「妖怪の分際で…愚劣なる人間に加勢した愚か者が…貴様は気に入らないな…」
「気に入らないならあんたは私を如何するのかしら♪」
桜花姫は再度海難入道に挑発したのである。
「当然として妖怪の面汚しである貴様を食い殺す…」
海難入道は即座に巨大触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪海難入道♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念だったな…桜花姫よ…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「妖力を吸収するなんて…」
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。海難入道の吸収能力に一瞬動揺したのである。
『海難入道には妖術が通用しないのかしら?』
「不思議そうな表情だな…桜花姫よ…俺の肉体はあらゆる妖力を吸収出来…あらゆる妖術を無力化出来るのだ…」
海難入道の最強の特殊能力である吸収能力は自身の肉体に接触した多種多様の妖力を吸収出来…。あらゆる妖術を無力化出来る。基本的に妖力を駆使した攻撃法では海難入道は仕留められない。
「貴様があらゆる妖術を扱おうとも…貴様程度の妖術では俺を仕留められない!」
あらゆる魑魅魍魎の集合体である桜花姫でも…。妖力を吸収する妖怪を仕留めるのは非常に困難である。
『妖術が通用しないなんて…此奴は意外と厄介だわ…』
海中では圧倒的に不利であり桜花姫は恐る恐る後退りする。
『今回は出直そうかな?』
後退りする桜花姫に…。
「先程の威勢は如何したか?桜花姫よ…俺に恐怖したか?」
「別に…誰があんたなんかに恐怖するのかしら?」
海難入道に問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。
「貴様は妖力だけなら大妖怪に拮抗するな…是非とも貴様を捕食したい…」
「私を捕食ですって?」
「あらゆる妖怪の集合体である貴様を食い殺せば…俺は凡庸の妖怪から大妖怪の領域へと到達出来るのだからな♪」
大妖怪に到達出来ると豪語する海難入道に桜花姫は笑顔で…。
「私を捕食なんて…あんた程度の大妖怪の出来損ないに出来るかしら♪」
桜花姫は笑顔で挑発したのである。
「最強の水難妖怪である俺を大妖怪の出来損ないだと?貴様…本当に食い殺されたいらしいな…」
「食い殺せるのであれば私を食い殺しなさいよ♪大妖怪の出来損ない♪」
桜花姫は只管に挑発し続ける。
「妖怪の小娘風情が…貴様は本当に気に入らない小娘だな…」
すると海難入道は蛸足の巨大触手で人魚状態の桜花姫を拘束したのである。
「えっ?」
「貴様を食い殺す!覚悟しろ!桜花姫!」
海難入道は一口で桜花姫を捕食…。自身の口内で彼女を咀嚼したのである。
「所詮桜花姫はこんな程度の弱小妖怪なのだ…」
すると直後…。桜花姫を捕食した影響からか先程よりも海難入道の妖力が急上昇したのである。
「俺の妖力が増大化したぞ!」
妖力のみなら今現在の海難入道は大妖怪に匹敵…。海難入道は強大化した自身の妖力に大喜びしたのである。
「今日から俺も大妖怪の仲間入りだな♪雑魚妖怪でも桜花姫を捕食出来たのは何よりの幸運だ♪」
すると直後…。
「ん!?」
海難入道の全身が白煙に覆い包まれ…。推定二町規模の巨大さである海難入道の肉体が消滅したのである。すると白煙の内部から海難入道によって食い殺された桜花姫が再度出現…。彼女は無傷であり平気そうな様子だったのである。
「海難入道を仕留めたし♪」
『私は地上界に戻りましょう♪』
桜花姫は再度瞬間移動の妖術を駆使…。海岸の砂浜へと無事戻ったのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
桜花姫は海岸の砂浜にて僧侶の八正道と再合流する。
「八正道様♪海難入道は無事征伐したわ♪」
「海難入道を征伐されたみたいですね…一瞬桜花姫様の妖気が消滅したので海難入道に食い殺されたのかと…」
「一度海難入道に捕食されちゃったけれどね♪」
桜花姫は一時的に海難入道に捕食されたものの…。体内の胃袋から海難入道の肉体と同化したのである。
「反対に私が海難入道を捕食したのよ♪」
「えっ…桜花姫様が海難入道を捕食ですと?」
今現在海難入道は桜花姫の肉体の一部に変化する。
「兎にも角にも…海難入道は仕留めたから金輪際南国の海域は安全よ♪」
「事件は無事解決出来たので一件落着ですね…桜花姫様…」
八正道も一安心したのである。
「事件も解決出来たし♪戻りましょう♪」
「解散しますかね…」
桜花姫と八正道は解散…。二人は各自の村里へと戻ったのである。

第三話

巫女
南国での海難入道との大海戦から六日後の真夜中…。桜花姫は暇潰しに北国の村里にて散歩したのである。
「退屈ね…」
時間帯は深夜であり村人達は誰一人として確認出来ない。
「妖怪でも出現しないかしら?」
基本的に多数の百鬼夜行が活動するのは真夜中であり日中に出現するのは中堅以上の妖怪である。
「退屈だし…西国に戻ろうかな?」
彼女は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として自身の周囲より無数の気配を感じる。
『気配だわ…』
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒し始める。
『無数の妖気みたいね…』
「相手は妖怪の大群かしら?」
気配の正体は妖気であり無数の妖怪達が自身に接近するのを察知する。
「今回は何が出現するのかしら?」
すると直後である。
「悪食餓鬼の大群だわ…」
周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現…。桜花姫は彼等によって周囲を包囲されたのである。
『私に対する敵意も殺意も感じられるわね…』
突如として出現した悪食餓鬼の大群であるが…。彼等はふら付いた身動きで桜花姫に近寄る。
「如何やらあんた達…私が気に入らないみたいね♪」
本来亡霊妖怪の悪食餓鬼は同族の妖怪には手出ししない性質であるが…。彼等は同族の妖怪である桜花姫を敵対視した様子だったのである。直後…。悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到する。
「はぁ…あんた達は命知らずね…」
桜花姫は殺到する悪食餓鬼に呆れ果てるものの…。
「私が相手するわ…死滅しなさい♪」
桜花姫は念力の妖術を発動する。すると悪食餓鬼の全身が肥大化…。数秒後に肥大化した全身が破裂したのである。桜花姫の地面周辺には無数の鮮血やら肉片が散乱する。
『折角だから変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪』
「あんた達♪桜餅に変化しなさい♪」
今度は変化の妖術を発動…。すると周辺の肉片が小皿に配置された桜餅に変化したのである。
『変化の妖術♪成功だわ♪』
「悪食餓鬼は桜餅に変化したわね♪」
桜花姫は無数の桜餅に大喜びする。彼女は無我夢中に無数の桜餅を頬張り始める。数分後…。桜花姫は数百個もの桜餅を頬張ったのである。
「満足♪満足♪消耗しちゃった妖力も回復出来たわね♪」
今度こそ西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「今度も無数の妖気を感じるわ…」
周囲より無数の妖気を察知する。
「今度も雑魚妖怪の大群ね…」
すると周囲の地面より数十体から数百体もの悪食餓鬼の大群が出現…。今度は悪食餓鬼の亜種である親玉の百鬼悪食餓鬼が五体も確認出来る。
「先程よりも大群だわ…」
『強豪の百鬼悪食餓鬼が五体も出現するなんてね…』
桜花姫は五体の百鬼悪食餓鬼と悪食餓鬼の大群に包囲されたのである。
「毎度だけど…鬱陶しい奴等ね…」
無数の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼が面倒臭いと感じるのか体内の妖力を急上昇…。天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「あんた達…死滅しなさい♪」
桜花姫は落雷の妖術を発動…。黒雲から落雷が発生したのである。落雷が地面に直撃すると地面が抉られ…。周囲の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼を一掃させる。
「所詮は雑魚妖怪ね♪大妖怪に相当する私に挑戦するなんて無謀なのよ♪」
桜花姫は夜空の満月を眺望し始める。
「邪魔者は一掃出来たわ…今度こそ西国の村里に戻ろうかしら…」
直後である。
「えっ?」
突如として不吉の気配を感じる。
『何かしら?』
「妖気?」
不吉の妖気が一歩ずつ桜花姫に接近する。
『妖気なのは確実だけど…』
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。不吉の妖気に戦慄したのである。
『妖気は妖気でも…此奴は大妖怪の妖気ね…』
不吉の妖気は大妖怪の妖気であり桜花姫は警戒する。
「一体何が…」
『出現するのかしら?』
すると彼女の背後より…。
「貴様はあらゆる妖怪達の集合体…桜花姫か…」
「えっ!?」
桜花姫は警戒した様子で背後を直視したのである。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは芸者風の着物姿の女性であり彼女は無表情で桜花姫を凝視する。
「私は…【羅刹女】…大妖怪の一人だ…」
『えっ!?羅刹女って…大陸出身の…』
羅刹女とは大陸出身の大妖怪であるが…。外見のみなら小柄の人間の女性である。羅刹女は絶大なる妖力によって北国一帯を支配する大妖怪であり大勢の村人達は勿論…。数多の妖怪達が大妖怪である彼女に畏怖する。別名としては妖怪達の総大将とも呼称される。
「羅刹女…こんな場所で大妖怪のあんたと遭遇するなんてね…」
桜花姫は羅刹女に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
『如何して大陸の大妖怪がこんな片田舎みたいな場所に…』
すると羅刹女は後退りする桜花姫を直視…。冷笑したのである。
「貴様…私に対する恐怖心か?近頃の噂話では貴様は打倒すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を仕留めたらしいな…」
「私が人間に加勢したから何よ?私が気に入らない妖怪達を仕留めるのは私の勝手でしょう…鬱陶しいわね…」
「此奴…小娘の分際で…」
羅刹女は桜花姫の挑発的態度に苛立ったのか険悪化した形相で彼女に睥睨する。
「妖怪の小娘風情が…所詮貴様は百鬼夜行の面汚しなのだ…」
「私が百鬼夜行の面汚しだから何よ?」
羅刹女は妖刀を抜刀したのである。
「妖刀かしら?」
「百鬼夜行の面汚しである貴様は…俗界の征服者である私が徹底的に征伐する…」
すると羅刹女は神速の身動きで桜花姫の目前に急接近…。一瞬で桜花姫の目前へと瞬間的に移動したのである。
「えっ?」
「貴様を斬殺する…覚悟するのだな…桜花姫…」
羅刹女は妖刀の一振りにより桜花姫の肉体を一刀両断…。彼女の肉体は上半身と下半身に両断されたのである。
「桜花姫は所詮こんな程度の実力者か…他愛無いな…」
羅刹女は桜花姫の予想外の脆弱さに拍子抜けする。
『妖怪は妖怪でも…所詮桜花姫は雑魚妖怪が一体化した肉塊であり…結局は弱小妖怪だったか…』
妖刀の一振りで両断された桜花姫の肉体であるが…。
「ん?」
上半身と下半身から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「此奴は桜花姫の分身体か?」
すると羅刹女の背後より…。
「はぁ…危機一髪だったわ…」
「貴様…分身の妖術で私の攻撃を回避したみたいだな…悪知恵だけは抜群だ…」
桜花姫は分身の妖術の使用により危機一髪羅刹女の攻撃を回避したのである。
「残念だったわね♪羅刹女♪」
桜花姫は笑顔で彼女を挑発するのだが…。
『如何しましょう…私があらゆる妖術を駆使出来ても…大妖怪の羅刹女が相手では圧倒的に不利よね…』
桜花姫は恐る恐る後退りする。
「所詮は空元気か…貴様は雑魚妖怪だ…」
「えっ?」
羅刹女の様子に桜花姫は再度警戒…。
『羅刹女は一体何を?』
すると羅刹女は強烈なる眼力で桜花姫を睥睨したのである。
「私の統治する新世界に…貴様みたいな愚か者の弱小妖怪は不要なのだ…」
直後…。
「えっ!?」
『全身が!?』
桜花姫の全身が肥大化したのである。
「今度こそ死滅せよ…弱小妖怪の集合体…桜花姫…」
「ぎゃっ!」
肥大化した桜花姫の肉体が一瞬で破裂…。地面には無数の鮮血やら肉片が飛散したのである。
「桜花姫は時間が経過すれば復活するだろうが…」
『所詮こんな程度の妖力か…』
同時刻…。
『妖気!?』
八正道は東国の寺院で仮眠するのだが不吉の妖気を察知したのである。
『不吉だ…方角は北方か…』
「北国の村里だな…」
北国の村里から感じる強大なる妖気に八正道は戦慄する。
『北国の村里に一体何が出現した?』
気になった八正道は即座に行動を開始したのである。寺院から外出すると北方の北国へと直行する。移動してから一時間後…。八正道は北国の村里に到達する。
「北国だな…ぐっ!」
北国の村里に到達した八正道であるが…。強大なる妖気に接近した影響からか突如として胸部が重苦しくなる。
『恐らくは大妖怪の妖気だな…一体こんな場所に何が出現したのか?』
強大なる妖気に八正道はふら付いたのである。
「こんな妖気…普通の人間なら気絶するか…」
『場合によっては最悪…絶命するぞ…』
大妖怪の妖気は通常の妖怪とは桁違いに強力であり大妖怪が僅少でも妖力を発動した場合…。普通の人間であれば気絶するか最悪怪死する。強大なる法力を所持する僧侶の八正道でも大妖怪の妖気は非常に重苦しく感じる。すると直後…。
「路地裏か?」
近辺の路地裏より人外の気配を感じる。
『不吉だな…人気とは無縁そうだ…』
八正道は警戒した様子で恐る恐る路地裏へと移動する。民家の物陰から気配の感じる路地裏の様子を注視したのである。
『路地裏では一体何が…』
民家の路地裏では刀剣を所持した芸者風の女性は勿論…。周囲の地面には無数の人肉らしき肉片やら血肉が確認出来る。
『なっ!?彼女は一体何者だ!?地面の死骸も気になるが…』
芸者風の女性から不吉の妖気が感じられる。
『妖気だと!?』
八正道は芸者風の女性に畏怖したのである。
『彼女は人間の女性みたいな姿形だが…恐らく彼女の正体は妖怪だな…村里から感じられた妖気は彼女の妖気だったのか!?』
芸者風の女性は列記とした妖怪であると認識する。
『彼女は其処等の妖怪よりも桁外れの妖気だ…妖気の性質から判断して…彼女は恐らく大妖怪の一人だな…』
通常の妖怪であれば即座に対処するのだが…。彼女は別格の大妖怪であり八正道は畏怖したのである。
『私は如何するべきか?』
相手は本物の大妖怪であり強大なる法力を駆使する八正道であっても…。単独で大妖怪と交戦するのは非常に危険である。大妖怪との遭遇に八正道は混乱する。直後…。
「ん?」
何時の間にか芸者風の女性の姿形が路地裏から消失したのである。
「なっ!?彼女は一体…」
すると直後…。
「えっ?」
背後より強大なる妖気を感じる。八正道は背後の存在に戦慄するものの…。警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「貴女は一体…何者ですか?」
背後の人物とは先程の刀剣を所持した芸者風の女性である。彼女は無表情で八正道を凝視し続ける。
「私の名前は羅刹女…大陸の大妖怪とでも…」
芸者風の女性は自身を大妖怪の羅刹女と名乗る。
「なっ!?羅刹女って…妖怪達の総大将の!?」
羅刹女の名前に八正道は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
「貴様も…彼奴と同様の反応であるな…」
「えっ?彼奴とは…一体誰なのでしょうか?」
「弱小妖怪の肉塊…桜花姫だ…」
桜花姫の名前に八正道は無意識にも反応する。
「えっ…貴女は桜花姫様の…知人なのですか?」
「はっ?私が桜花姫の知人だと?」
八正道の知人の一言に羅刹女は苛立ったのである。
「彼奴は単なる魑魅魍魎の面汚しだ…桜花姫は妖怪の出来損ないであり…征伐すべき対象なのだ…」
羅刹女は無表情で八正道を凝視…。
「貴様は人間の僧侶だな…ひょっとして貴様か?近頃…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶とは…」
八正道は無言であるが一瞬身震いする。
「貴様の反応…如何やら図星みたいだな…」
すると羅刹女は再度妖刀を抜刀したのである。
「人間の僧侶よ…今度は守護者の出現は期待出来ないぞ…何故なら…民家の路地裏の血肉は弱小妖怪の集合体…桜花姫の血肉なのだからな…」
「えっ!?桜花姫様ですと!?」
『桜花姫様が…羅刹女に殺害されたのか!?』
八正道は衝撃の事実に絶句する。
「安心しろ…桜花姫は弱小妖怪の集合体でも不死身だからな…肉体を粉砕したとしても彼女は一定の時間差で復活する…」
「彼女は一定時間で復活するのですか…」
『桜花姫様…』
内心一安心したのである。
「貴様は人間の分際で…弱小妖怪の小娘を心配するとは…余程の物好きだな…」
羅刹女は身構える。
「安心しろ…人間の貴様は何方にせよ…私が仕留めるのだからな…人間の僧侶である貴様を辛苦の無間地獄に招待するぞ…」
「えっ…」
羅刹女は神速の身動きで八正道に接近すると妖刀で腹部を斬撃したのである。
「死滅せよ…人間の僧侶…」
八正道は羅刹女に腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
八正道は地面に横たわったのである。腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
「何方にせよ貴様は失血死する…私は撤収するか…」
羅刹女は何処かへと撤収する。
「ぐっ…」
八正道は口先から吐血したのである。
『私は…今日が…私の…私の命日なのか…』
疫病で病死した女房の笑顔が彼自身の脳裏に想起される。
『如何して女房の笑顔が?結局…私は憎悪した妖怪に殺される運命だったのか…』
彼が妖怪を人一倍憎悪する理由とは自身の家族である女房が亡霊妖怪の悪食餓鬼によって殺害されたからである。悪食餓鬼の攻撃で負傷した人間は再起不能の疫病を発症…。最終的には高熱により衰弱死する。
『私は妖怪達から一人でも大勢の村人を守護したかったが…今日で私の妖怪退治の人生も終了なのか…出来るなら殺伐とした無間地獄よりも…安楽の極楽浄土で女房と再会したいな…』
衰弱化した八正道は両目を瞑目させる。すると直後…。何者かが八正道の傷口に接触したのである。
『なっ!?誰だ!?』
神秘的雰囲気の巫女の女性が横たわった八正道の傷口に接触する。
『彼女は巫女の…女性でしょうか?彼女は非常に神秘的だが…』
傷口に接触するのは神秘さを感じさせる巫女の女性である。彼女は体格こそ小柄であるものの…。非常に神秘的であり容姿端麗の雰囲気だったのである。彼女の周囲には虹色の発光体が無数に確認出来る。
『彼女は一体何者でしょうか?妖怪とは無縁そうだ…邪気と妖気は勿論だが…彼女からは悪意すら感じられない…』
突如として出現した巫女は正体こそ不明であるが…。邪気も妖気も感じられず本物の聖母的女性だったのである。
『世の中は摩訶不思議だ…こんな神秘的雰囲気の人間が存在するとは…』
すると直後…。
「えっ!?」
羅刹女によって斬撃された傷口が一瞬で治癒したのである。
『傷口が治癒したぞ…ひょっとして彼女の正体は天空世界から降臨された…本物の女神様なのか!?』
巫女の霊能力かは不明瞭であるものの…。八正道の傷口は完全に治癒したのである。すると巫女は笑顔で…。
「貴方の傷口は私が完治させました…大丈夫ですよ♪法師様♪」
八正道は警戒するものの正体不明の巫女に感謝する。
「大変感謝します…巫女様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来ました…」
八正道は恐る恐る…。
「ですが貴女様は一体…何者なのでしょうか?ひょっとして貴女様は天空世界から降臨された女神様でしょうか?天女ですかね?」
八正道の問い掛けに巫女は自身の名前を名乗る。
「私の名前は…桃子姫です…」
『えっ!?桃子姫って…』
桃子姫の名前に八正道は驚愕する。
「私は所謂…合体妖怪である桜花姫の片鱗でしょうか…」
巫女の正体とは桜花姫の人間の部分である桃子姫…。彼女本人だったのである。
『彼女は本物の桃子姫様なのか!?』
八正道は恐る恐る彼女を直視…。桃子姫は半透明の霊体ではなく実体化した生身の存在であり列記とした人間の巫女である。
『彼女は人間の巫女だ…現実なのか?』
目前の出来事が現実なのか混乱する。八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「ですが如何して桜花姫様の片鱗である桃子姫様が…合体妖怪である桜花姫様の肉体から出現されたのでしょうか?」
問い掛けられた桃子姫は返答する。
「先程の羅刹女との戦闘により母体である桜花姫の肉体が粉砕された影響でしょうか…一時的に彼女の肉体から分離出来たのです…私自身は人間の肉体ですが彼女の肉体の一部ですからね…」
羅刹女の猛攻撃によって桜花姫の肉体は無数の血肉に粉砕され…。一時的に人間の片鱗である桃子姫が分離され行動したのである。
「今現在の桃子姫様は妖怪の集合体である桜花姫様から独立した状態で行動出来るのですね…」
「性格こそ桜花姫とは微妙に不一致ですが…私自身と桜花姫は一心同体の存在なのです…彼女が元通りの姿形に戻れば私の肉体は自然消滅するでしょう…私が自分の意思で行動出来るのは一時的に発生した超常現象ですから…」
「一時的ですか…」
八正道は内心寂然と感じる。すると数秒後…。
「えっ!?桃子姫様!?」
一時的に実体化した桃子姫の肉体であるが突如として半透明化し始める。
「如何やら時間みたいですね…」
「桃子姫様…貴女は消滅されるのですか…」
桃子姫の消滅に八正道は非常に残念がる。
「法師様♪私なら大丈夫ですよ♪貴方とは今度も再会出来ますから♪」
桃子姫は笑顔で返答する。すると彼女は赤面した様子で…。
「最後ですが…法師様?貴方の名前は?」
「えっ!?私の名前ですか!?」
突然の桃子姫の問い掛けに八正道は一瞬吃驚するも名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
「八正道様ですね…」
直後である。彼女の肉体は虹色の粒子状へと変化…。完全消滅したのである。
「桃子姫様…」
僅少であるが…。
『私は如何して…見ず知らずの相手に落涙するのか?』
八正道は無意識にも涙腺から涙が零れ落ちる。
「ん?」
『突然眠気か?』
疲労の影響からか八正道は再度安眠する。

第四話

復活
翌朝…。一連の闇夜から八正道は民家の裏庭で熟睡する。すると熟睡中…。
「八正道様?八正道様?」
女性らしき美声が自身の耳元に響き渡る。
『一体誰でしょうか?女性の…美声っぽいですが?』
女性の美声に八正道は目覚める。
「八正道様♪お早う御座います♪」
「えっ!?貴女様は桜花姫様!?」
女性らしき美声の正体とは誰であろう合体妖怪の桜花姫だったのである。桜花姫は元通りの状態であり八正道は驚愕する。
「無事だったのですか!?桜花姫様…」
「無事も何も…私は特段何も…」
「ですが桜花姫様…昨夜は…」
「私なら大丈夫よ♪八正道様は心配性なのね♪」
心配する八正道に桜花姫は笑顔で返答したのである。
「私は何度肉体を粉砕されても元通りに復活しちゃうからね♪八正道様が心配しなくても私は大丈夫なのよ♪」
「妖怪の肉体は変幻自在なのですね…」
『ですが桜花姫様の着物に鮮血が…昨夜の戦闘で桜花姫様の肉体が大妖怪の羅刹女によって粉砕されたのは事実みたいですね…』
桜花姫の着物には僅少の鮮血が確認出来る。
『昨夜の出来事は現実で…路地裏の血肉は本当に桜花姫様だったのですね…』
昨夜の出来事は現実であると実感する。
『彼女の様子から…元気そうですが…』
元気そうな彼女の様子に八正道は一安心したのである。
『ですが彼女の肉体の一部に…人間の巫女である桃子姫様の血肉が存在するのですね…桃子姫様…』
桃子姫の面影を想起する。
「如何しちゃったの?八正道様?」
突然の問い掛けに八正道は吃驚したのである。
「えっ!?失礼…」
すると八正道は恐る恐る…。
「大変恐縮なのですが…私は昨夜…大陸の大妖怪…羅刹女と命名される芸者風の女性妖怪と遭遇しまして…」
八正道は羅刹女と遭遇した闇夜の出来事を洗い浚い桜花姫に告白したのである。
「八正道様は大陸の大妖怪…羅刹女と遭遇したのね…」
桜花姫の表情が険悪化したのである。
『えっ…桜花姫様の表情が…』
普段は人一倍安穏そうな桜花姫であるが…。表情が険悪化する桜花姫に八正道は畏怖したのである。
「桜花姫様…羅刹女と名乗る大妖怪は…厳密には何者なのでしょうか?彼女の行動と言動から判断して…同族である桜花姫様を非常に憎悪した様子でしたが…」
「羅刹女は大陸全域と天球神国の北国を支配する世界屈指の大妖怪なの…」
「えっ…彼女は世界屈指の大妖怪ですか…」
『羅刹女は全世界規模の大妖怪だったのか…妖怪の総大将としての異名も本当みたいですね…』
羅刹女と自身との実力差に八正道は絶句する。
「遅かれ早かれ…俗界で彼女に対抗出来る妖怪が一握りなのは確実よ…」
「桜花姫様でも彼女には対抗出来ないのですか?」
「否定したいけれど…事実なのよね…」
八正道の問い掛けに桜花姫は即答したのである。
「何方にせよ…全世界は彼女に征服されるのですね…」
「天下無敵の彼女でも…唯一の弱点が存在するの…」
「唯一の弱点ですと!?彼女にとって何が弱点なのですか!?」
桜花姫は小声で…。
「私の体内で…永眠する桃子姫の存在よ…」
「えっ…桃子姫様ですか?」
「桃子姫はね…」
合体妖怪の桜花姫が誕生する三十年前の出来事である。人間の巫女であった桃子姫は絶大なる霊能力により多種多様の妖怪達を征伐…。各村落の村人達からは人間の巫女である彼女を救済の女神やら天女として崇拝されたのである。大勢の人間達からは救済の女神やら天女として崇拝される反面…。数多の妖怪達からは打倒すべき怨敵として憎悪されたのである。とある某月某日…。大陸一帯を支配する大妖怪羅刹女が天球神国を侵略しに一国である北国の村里へと出現したのである。北国の村里で桃子姫は大妖怪の羅刹女と直接対決…。戦闘は桃子姫が圧倒的に有利であり誰しもが桃子姫の勝利を確信したのである。桃子姫は霊能力が非常に絶大である反面…。肉体的には脆弱であり幼少期から人一倍病弱だったのである。桃子姫は羅刹女の奇襲により瀕死…。反対に大妖怪である羅刹女も桃子姫の霊能力により大半の妖力を浄化され弱体化したのである。桃子姫の奮闘によって羅刹女による天球神国侵略計画は阻止出来たものの…。桃子姫は瀕死状態であり祖国である西国の山奥へと逃走したのである。逃走するも桜花の山中で数多の妖怪達と遭遇…。桃子姫は虫の息であったが妖怪の大群と交戦したのである。桃子姫は自身の体内に数多の妖怪達を封印した状態で人間と妖怪の集合体として妖怪化…。魑魅魍魎の集合体である合体妖怪の桜花姫が桜花の山道で誕生したのである。誕生した当初は赤子の状態であったが…。彼女はとある人間の夫婦に拾われ桜花姫と名付けられる。
「予想しましたが…桜花姫様の過去は私達が想像する以上に壮絶だったのですね…」
すると八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「妖怪である貴女様を養育された義理の両親は?」
桜花姫は一瞬沈黙するも…。
「残念だけど…私の義理の両親は…人間の匪賊達の襲撃で殺されちゃったわ…」
彼女の義理の両親は二十年前に人間の匪賊達の夜襲によって殺害されたのである。
「殺害されたのですか…気の毒ですね…」
八正道は切なく感じる。
『ですが桃子姫様が交戦された大妖怪の正体とは…羅刹女だったのですね…』
八正道は桃子姫と交戦した大妖怪が羅刹女であると確信する。
「私にとっても彼女にとっても…羅刹女は因縁の関係なのよね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…大変失礼しました…今迄私は貴女を単なる極悪非道の妖怪とばかり…御免なさいね…」
桜花姫に謝罪したのである。すると桜花姫は笑顔で…。
「八正道様♪気にしないで♪私なら大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
桜花姫の様子に八正道は一安心したのである。
『桜花姫様…妖怪なのに天女みたいな女性ですね…桃子姫様と瓜二つです…』
桃子姫の面影からか合体妖怪の桜花姫が天空世界の天女みたいに感じられる。同時刻…。南国に位置する山奥のとある洞窟では白装束の集団が集結する。
「同志達よ…全員集結したな…」
集団の人数は六人であり松明を所持する集団の頭領が五人の若者達の人数を確認したのである。
「頭領…こんな洞窟に私達を集合させるなんて…一体何を?」
「今回は何事でしょうか…」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
「早速私が道案内する…各自…私に追尾せよ…」
頭領は洞窟の奥底へと移動する。数分後…。洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!?人間の木乃伊ですか!?」
彼等は木乃伊を直視すると一瞬畏怖する。木乃伊は野犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「一体…誰の遺体なのでしょうか?頭領?」
集団の一人が頭首に問い掛ける。
「彼こそは誰であろう私達南国の英雄であり…各領地の大名達から畏怖された戦乱時代最強の鬼神…泣く子も黙る【月影夜叉王】様の遺体であるぞ!」
「なっ!?木乃伊が月影夜叉王様ですか!?」
月影夜叉王とは戦乱時代に大活躍した南国最強の武士であり名門の月影一族の若武者である。生前では南軍の鬼神とも呼称され各領地の領主達は勿論…。敵味方の将兵達から畏怖されたのである。弱肉強食の戦乱時代当時は南軍最強の英雄として扱われるものの…。彼によって大勢の戦友達が惨殺され憎悪する者達により共存共栄の安穏時代では極悪非道の荒武者として扱われる。世間では極悪非道の大悪党と認識される反面…。一部の村里では今現在でも彼を英雄として神格化し続ける。
「えっ…私達の英雄…月影夜叉王様は死去されたのですか?」
「非常に残念であるが…鬼神の夜叉王様が死去されたのは事実だ…夜叉王様は遺体の状態から判断して…山中の野犬によって食い殺されたのかも知れない…」
「鬼神の夜叉王様が野犬を相手に食い殺されるなんて…正直信じ難いですね…」
今迄夜叉王は行方不明として扱われ生死は不明だったのである。夜叉王の死因こそは不明瞭であるものの…。今回で夜叉王が死亡したと判明する。
「勿論…事実を熟知したのは私達だけだぞ…夜叉王様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
集団の頭首は五十年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼神の月影夜叉王を神格化する一人であり奇遇にも夜叉王が死去した数日後に夜叉王の遺体を発見したのである。
「頭領は夜叉王様の遺体を如何されるのですか?」
頭領は恐る恐る一息する。
「黄泉の世界から死没者である月影夜叉王様を…完全なる生身の生者として復活させるのだ…」
「なっ!?」
彼等は頭領の突発的発言に驚愕したのである。
「最早死没者である夜叉王様を…完全なる生者として復活させられるのですか!?」
「黄泉の世界の死没者を俗界の生者として復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?非現実的では?」
周囲の者達は内心胡散臭いと感じるものの…。問い掛けられた頭領は即答する。
「実現出来るとも…無論黄泉の世界の死没者を完全なる生者として復活させるには相応の…犠牲が必要不可欠であるが…」
「相応の…犠牲ですと?犠牲とは一体…」
すると頭領は隠し持った拳銃を携帯したのである。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国で調達した最新式の拳銃だ…此奴で貴様達の生命力を頂戴する…私達の英雄…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様達の生命力が必要不可欠であるからな…覚悟せよ…」
「ひっ!」
「俺達は殺される!逃げろ!」
五人の若者達は頭領の所持する拳銃に畏怖したのか即座に逃走する。
「極楽浄土で未来永劫安眠せよ…」
頭領は背後から四人の若者達に発砲…。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
拳銃で四人を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…俺は死にたくないよ…」
若者は極度の恐怖心からか身震いした様子で涙腺からは涙が零れ落ちる。
「貴様が恐怖するのは勿論理解出来るが…本来死没者を完全なる生者として復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」
数千年前の太古の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに百人もの人間達を人身御供として利用した死者蘇生の儀式が各地の村里で実行されたのである。当時は頻繁に死者蘇生の儀式が実行されたが…。死者蘇生の儀式で死没者が復活した事例は実質皆無とされる。非人道的理由からか今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも死者蘇生の儀式は完全なる愚行として厳禁されたのである。
「私は今迄に九十五人もの人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだ…」
頭領は拳銃に弾丸を装填させる。
「南国の鬼神…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」
一発の銃弾が若者の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
彼を即死させたのである。
「夜叉王様を生身の生者として復活させるには…彼等の鮮血が必要だな…」
頭首は今迄に九十五人もの人間達を殺害…。夜叉王の木乃伊に殺害した人間の血液を含有させたのである。
「今回で五人の血液を入手出来たぞ…」
殺害した五人の遺体から鮮血を指先に採取…。
『五人の血液を…夜叉王様の肉体に…』
彼等の鮮血を夜叉王の木乃伊に接触させたのである。
「南国の英雄であり鬼神…月影夜叉王様♪」
死没者である夜叉王の復活に期待する。
「黄泉の世界から俗界に戻られよ…夜叉王様!」
一分間が経過するのだが…。
「何故だ!?何故…月影夜叉王様は生者として復活されないのだ!?」
夜叉王の木乃伊は復活するばかりか何一つとして身動きしない。
『ひょっとして儀式に不備が…』
すると直後である。
「えっ…」
突如として夜叉王の遺体が破裂…。洞窟内部に夜叉王の血肉が飛散する。
「ひっ!」
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「一体何が…なっ!?」
破裂した夜叉王の肉片に頭領は驚愕する。
「夜叉王様の…肉体が…」
『如何して…夜叉王様がこんな状態に…』
頭領は破裂した夜叉王の肉体を直視…。絶望したのである。
「こんな状態では夜叉王様は二度と復活出来なくなるぞ…』
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
「結局…死没者を復活させる死者蘇生の儀式とは…出鱈目だったのか…」
出鱈目の儀式に頭領は後悔したのである。
『結局…私は単なる人殺しだったのか…』
自身の行動が愚行であり単なる殺人であると自覚した直後…。背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を警戒…。背後を直視すると頭領の背後には刀剣を所持した芸者風の着物姿の女性が佇立する。
「貴様は一体何者だ!?女子か?」
すると芸者風の着物姿の女性が発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの同族を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…醜悪であるな…」
頭領は恐る恐る…。
「貴女様は一体何者なのでしょうか?」
問い掛けられた芸者風の女性は即答する。
「私は…大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
「大陸の大妖怪…羅刹女ですと?」
羅刹女は飛散した夜叉王の血肉を凝視始める。
「貴殿は…戦乱時代の月影夜叉王と名乗る…極悪非道の亡者を俗界に復活させたいみたいだな…」
問い掛けられた頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも…私にとって鬼神の月影夜叉王様は未来永劫南国の英雄であり…未来永劫南国の武神なのですから…」
「貴殿の崇拝する月影夜叉王を復活させたいのであれば…人柱として貴殿自身の生命力を私に授与せよ…」
「私自身の生命力ですか…」
「黄泉の世界の亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠なのだ…貴殿が拒否すれば鬼神の月影夜叉王は未来永劫俗界へは復活出来ない…」
頭領は一瞬躊躇うものの…。
「であれば羅刹女とやら…承知しました…私自身の生命力を月影夜叉王様に授与しましょう…」
『私自身の血肉で鬼神の夜叉王様が復活されるのであれば止むを得ないな…』
不本意であるが頭領は承諾したのである。
「であれば貴殿の生命力を代償に…死没者の月影夜叉王を最強の大妖怪として復活させる…」
直後…。
「なっ!?発火だと!?」
羅刹女の妖力からか頭領の皮膚が突発的に発火したのである。高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は一瞬で黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生し始め…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…大妖怪…月影夜叉王よ…」
夜叉王は素肌が死者を連想させる灰白色であったが…。生前と同様の姿形に復活したのである。
「如何して私がこんな場所に?私は…大勢の家臣達に暗殺されて…」
「夜叉王とやら…貴殿は…」
羅刹女は自身が復活した経緯を一部始終夜叉王に説明する。
「私は…黄泉の世界から復活したのか…」
「夜叉王よ…今現在の貴殿は私の妖力で大妖怪の肉体であるが…今現在の貴殿は生前よりも強力だ…其処等の弱小妖怪達とは別格の妖力であるぞ…」
普段は無表情の夜叉王であるが…。
『妖怪の肉体なのは…正直気に入らないが…』
微笑したのである。
「俗界で自由に暴れ回れるのであれば妖怪の肉体でも止むを得ないな♪」
すると羅刹女は復活させた代償として夜叉王に交換条件を提示したのである。
「交換条件として…貴殿は愚劣なる大勢の人間達は勿論…私が憎悪する妖怪の小娘…怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅するのだ…大妖怪として復活した貴殿であれば桜花姫を殲滅出来るよな?」
「桜花姫だと?桜花姫とは一体何者なのだ?」
「桜花姫は私が憎悪する妖怪だ…私にとって最大の怨敵であり復讐相手なのだ…姿形のみなら人間の小町娘であるが…正真正銘妖怪の小娘であるぞ…貴殿の絶大なる妖力で彼奴を完膚なきまでに殲滅するのだ…」
「桜花姫って名前の…女人の妖怪を殲滅する任務か…」
「貴殿が桜花姫を殲滅出来れば…未来永劫貴殿の自由を約束する…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「折角復活したのであれば…あんたとの約束は厳守するさ…」
両者は交渉成立する。夜叉王は羅刹女に問い掛ける。
「あんたは一体何者だ?女人の妖怪みたいだが…」
「私は大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
問い掛けられた羅刹女は自身を大陸の大妖怪と自負する。
「羅刹女だと?あんたは大陸の大妖怪か…其処等の妖怪とは別格みたいだな…」
数秒後…。
「鬼神の月影夜叉王よ…再度黄泉の世界に戻りたくなければ…俗界で思う存分醜悪なる人間達と怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅せよ…大妖怪としての貴殿の使命だ…」
すると羅刹女の姿形が消滅したのである。
「思う存分人間達と桜花姫と命名される妖怪を殲滅する任務とは…」
『女人の大妖怪に命令されるのは正直気に入らないが…大妖怪の肉体でも折角復活出来たのだからな…』
夜叉王の心情より人間達への殺意が芽生える。
「近日中にでも…」
『一先ずは桜花姫と名乗る…女人の妖怪を殲滅するべきだな…』
夜叉王は洞窟から脱出したのである。一連の出来事から三日後の真昼…。西国の村里では桜花姫の悪友である雪女郎が村道を散歩する。
「はぁ…退屈だわ…」
西国の村里は過疎地であり人間との揉め事も時たまである。平穏の日常に雪女郎は退屈に感じられる。
「退屈だし家屋敷に戻ろうかな?」
雪女郎は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。突如として不吉の気配を感じる。
「えっ!?」
『何かしら!?』
不吉の気配に雪女郎は周囲を警戒したのである。
『人間!?妖怪!?』
近辺より絶大なる邪気と殺意を感じる。
『気配の正体は不明だけど…邪気と殺気は感じられるわ…一体何かしら?』
すると彼女の背後より…。
『背後!?』
雪女郎は恐る恐る背後を警戒したのである。彼女の背後には鬼神を連想させる重厚なる甲冑を装備…。刀剣を所持した武士が佇立する。
『えっ…何者なの?武士?』
雪女郎の背後に存在するのは正体不明の武士であるが…。
『戦乱時代?今時甲冑の武士なんて…時代錯誤なのかしら?』
雪女郎は恐る恐る甲冑の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?」
すると武士は無表情で…。
「私は南軍の鬼神…月影夜叉王だ…」
甲冑の武士は自身を鬼神の月影夜叉王と名乗る。
『えっ…此奴…月影夜叉王なの!?』
夜叉王は本来人間であるものの戦乱時代の最中では数百体もの妖怪達を殺害…。人間のみならず数多の妖怪達からも畏怖されたのである。
『月影夜叉王って戦乱時代に活躍した人間よね?』
雪女郎は再度夜叉王に問い掛ける。
「如何して人間のあんたが…こんな場所に?」
「私を人間だと?」
「えっ?」
「今現在の私は…大妖怪だぞ…」
「えっ!?大妖怪ですって!?」
「厳密には…妖怪化した人間とでも…」
雪女郎は夜叉王の返答に驚愕したのである。冗談かと思いきや…。
『此奴の肉体から…妖力が感じられるわ…本当に此奴…妖怪化した人間なのね…』
雪女郎は夜叉王に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
『如何して人間の夜叉王が妖気を?ひょっとして此奴も合体妖怪の桜花姫みたいに人間と数多の妖怪達の集合体なのかしら?』
すると夜叉王は雪女郎を睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する夜叉王に雪女郎は戦慄する。
「貴様は…女人の妖怪…桜花姫か?」
『えっ!?桜花姫ですって!?』
夜叉王の問い掛けに雪女郎は絶句したのである。
『此奴も…桜花姫を敵対する妖怪の一人なのかしら?』
「貴様は女人の妖怪…桜花姫なのか?人違いであるか?」
「人違いよ…私は粉雪妖怪の…雪女郎だからね…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は人違いであると返答する。
「人違いであったか…残念であるが貴様は命拾いしたな…」
雪女郎は警戒した様子で恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「あんたは如何して桜花姫を?彼女に用事かしら?」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は即答する。
「私は彼奴を徹底的に殲滅する…今現在の私にとって桜花姫を殲滅するのは最大の使命であるからな…」
『此奴も桜花姫を敵対視する妖怪の一人なのね…面倒臭いわね…』
雪女郎は困惑したのである。
『如何しましょう…此奴は大妖怪っぽいし…凡庸の妖怪の私では大妖怪の夜叉王には対抗出来ないわ…』
すると夜叉王は再度雪女郎を凝視したのである。
「粉雪妖怪の雪女郎とやら…私からの最後の質問であるが…貴様は桜花姫と名乗る女人の妖怪の居場所を知らないか?」
「えっ?桜花姫の居場所ですって…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は困惑するのだが…。
「桜花姫なら…恐らくは南国の村里で散歩中でしょうね…」
「南国の村里か…」
直後である。夜叉王は神速の身動きで南国へと移動し始める。
『結局何者だったのかしら?彼奴…』
「何はともあれ…桜花姫に報告しないと!」
雪女郎は即座に桜花姫の家屋敷へと移動する。
「桜花姫!桜花姫!」
雪女郎は桜花姫の家屋敷の居間へと入室したのである。
「えっ…あんたは粉雪妖怪の雪女郎?突然如何しちゃったのよ?」
「如何しちゃったのも何も…一大事なのよ!桜花姫!」
「えっ?一大事ですって?今度は何事かしら?」
彼女の様子から判断して大事件発生だと察知する。
「何が発生したのよ?雪女郎?」
「月影夜叉王って名前の妖怪化した人間が…桜花姫に…桜花姫に…」
「月影夜叉王ですって?」
すると桜花姫は笑顔で…。
「ひょっとして夜叉王って妖怪が私に告白したのかしら♪夜叉王って妖怪は相当の物好きみたいね♪私に見惚れるなんてね♪」
他人事の桜花姫に雪女郎は呆れ果てる。
「桜花姫は本当に危機感が皆無ね!あんたは自分の立場を弁えなさい!一触即発の一大事なのよ!」
雪女郎は先程の出来事を一部始終桜花姫に告白したのである。
「月影夜叉王って大妖怪が私を殺しに?面白そうね…」
桜花姫は狂喜乱舞に感じる。
「私だって反撃するわよ♪相手が大妖怪だからって容赦しないからね…」
雪女郎は狂喜乱舞の桜花姫に内心呆れ果てる。
『桜花姫…折角命拾い出来たのに…』
桜花姫は雪女郎に問い掛ける。
「雪女郎?夜叉王って妖怪の居場所は?」
「彼奴なら南国よ…私が彼奴を南国の村里に誘導させたから一先ずは大丈夫…」
「南国の村里ね…承知したわ♪」
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。桜花姫の姿形が消滅する。
「桜花姫…」
『彼女は恐怖心が皆無なのかしら?』
畏怖しない彼女に羨望したのである。同時刻…。桜花姫は瞬間移動の妖術により一瞬で南国の村里へと到達する。
「夜叉王って妖怪は人間の武士みたいな妖怪だったわね?」
桜花姫は村里の風景を眺望するが…。確認出来るのは殺風景の農村地帯ばかりであり甲冑の武士らしき人物は誰一人として確認出来ない。
「甲冑の武士らしき妖怪なんて確認出来ないわね…出直そうかな?」
西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
背後より不吉の気配を感じる。
『気配だわ…一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは鬼神を連想させる甲冑と刀剣を装備した武士である。素顔は非常に美青年であるが…。素肌は灰白色であり武士の肉体からは強大なる邪気と妖気が感じられる。
『甲冑の武士…此奴の肉体から邪気と妖気を感じるわ…』
警戒する桜花姫に武士は問い掛ける。
「貴様は女人の妖怪…桜花姫か?人違いであるか?」
武士の問い掛けに桜花姫は笑顔で…。
「私は桜花姫よ♪ひょっとしてあんたは月影夜叉王って武士の妖怪かしら?」
桜花姫の問い掛けに夜叉王は即答する。
「無論である…厳密には妖怪化した人間の武士とでも…」
「あんたは妖怪化した人間なのね…」
「貴様が女人の妖怪…桜花姫であるなら…」
夜叉王は刀剣を抜刀したのである。
「私の使命だ…即刻貴様を殲滅する…」
「私を殲滅ですって?あんたなんかに出来るかしら?」
桜花姫は笑顔だが…。夜叉王に警戒したのである。
『月影夜叉王は其処等の妖怪よりは強力そうだけど…大妖怪の羅刹女と比較すれば私一人でも対処出来そうね♪』
夜叉王は身構える。
「女人の妖怪…桜花姫…死滅せよ…」
夜叉王は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近したのである。直後…。
「瞬殺だったな…」
刀剣で桜花姫の肉体を上下に両断したのである。
『桜花姫とやら…戦闘能力は其処等の弱小妖怪と同程度だな…』
手応えは感じられたものの…。上半身と下半身に両断された桜花姫の肉体から白煙が発生したのである。
「ん?」
両断された桜花姫の上半身と下半身は白煙に覆い包まれ…。消滅したのである。
「分身の妖術か…」
『桜花姫とやら…一筋縄では殲滅出来まいか…』
すると夜叉王の背後より…。
「残念だったわね♪夜叉王♪あんたが攻撃したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は余裕の様子であり夜叉王に挑発したのである。
「悪運だけは人一倍だな…桜花姫とやら…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は変化の妖術を発動する。
「夜叉王の刀剣よ…砂金に変化しなさい♪」
直後である。変化の妖術により夜叉王の所持する鋼鉄の刀剣が砂金へと変化…。地面には大量の砂金が零れ落ちる。
「刀剣が砂金に変化するとは…」
「如何するのかしら?刀剣が無ければあんたは私に攻撃出来ないわよ♪」
桜花姫は夜叉王を挑発する。
「刀剣が無くとも…」
夜叉王は自身の妖力を実体化…。無体の雷光の刀剣を形作る。
「貴様を仕留めるには…此奴で事足りる…」
「雷光の刀剣ね…」
「今度こそ…貴様を斬殺する…」
夜叉王は自身の妖力により雷光の刀剣を伸長させる。
「えっ?」
雷光の刀剣が自身に突き刺さる直前…。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁で雷光の刀剣を無力化する。
「桜花姫…貴様は結界で私の攻撃を無力化するとは…」
「私が不死身の肉体でも…斬撃は苦痛なのよ…」
雷光の刀剣が突き刺さったとしても桜花姫は不死身の肉体であり外傷は一瞬で再生するものの…。何度も大怪我するのは不死身の彼女でも非常に苦痛である。
「こんな程度の妖術では貴様を仕留めるのは不可能だな…」
夜叉王は妖力を急上昇させる。
「えっ?夜叉王?」
夜叉王の全身から瑠璃色の妖力が発生…。
『夜叉王の妖力が…肉眼でも直視出来るわ…』
上空を眺望すると南国全域が黒雲で覆い包まれたのである。
「黒雲だわ…」
「此奴は奥の手だ…死滅せよ…桜花姫…」
直後…。黒雲から無数の落雷が発生したのである。
「落雷!?」
落雷が地面に落下すると地面が抉れる。
『強力だわ…』
夜叉王が発動した落雷は無差別的に南国の各地へと落下…。村里の村人にも死傷者が出始める。
「村里が…」
『此奴を阻止しないと…非常に面倒ね…』
一発の落雷が桜花姫の直上へと落下したのである。
『えっ!?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪落雷を無力化したのである。
『直撃すれば私は粉砕されたでしょうね…』
「命拾いしたな…桜花姫…今度こそ…ん?」
突如として夜叉王は身動きしなくなる。
「ぐっ!」
「えっ?一体何が発生したの?」
夜叉王は周囲を警戒したのである。
「畜生が…無理に大技を発動した影響なのか?自由に身動き出来なくなるとは…」
「身動き出来ないですって?」
強大なる大妖怪として復活した夜叉王であるが…。彼自身妖怪としては未成熟であり一度に大量の妖力を消耗した影響からか戦闘を継続出来なくなる。
「如何やら…私は妖怪としては未熟みたいだ…」
「あんたは妖力が空っぽみたいね♪」
「命拾いしたな…桜花姫よ…」
夜叉王は桜花姫を凝視し始める。
「俺を殺せる絶好機だぞ…桜花姫…折角大妖怪として復活したが…如何やら今度も地獄の世界に逆戻りか…」
すると桜花姫は笑顔で返答する。
「今回は見逃すわ♪月影夜叉王♪」
「なっ!?」
『桜花姫…』
夜叉王は桜花姫の様子に意外であると感じる。
「あんたは私に対する敵意も悪意も無さそうだし…誰かに命令されたのよね?夜叉王は誰に命令されたのかしら?」
夜叉王は恐る恐る…。
「羅刹女と名乗る女人の大妖怪だ…羅刹女が亡者だった俺を大妖怪として復活させ…貴様の殲滅を強制したのだ…」
「羅刹女ですって…」
『彼奴が人間の武士だった夜叉王を…大妖怪として復活させたのね…』
羅刹女の名前に桜花姫の表情が険悪化する。
『羅刹女は仕留めないと…』
すると夜叉王は無表情で…。
「私は撤収する…貴様が羅刹女を殲滅したければ思う存分に殲滅しろ…」
「えっ?羅刹女はあんたの親玉でしょう?あんたは親玉の彼女を裏切って大丈夫なのかしら?」
夜叉王は桜花姫の発言に呆れ果てる。
「馬鹿者が…彼奴が俺の親玉だと?俺と羅刹女は三日前に対面しただけで…仲間でも上下関係も皆無だぞ…私は私自身の意志で自由に行動するだけだ…」
夜叉王の発言に桜花姫は微笑する。
「承知したわ♪夜叉王♪」
夜叉王は神速の身動きで退散したのである。
『夜叉王…大妖怪みたいだけど…久方振りに面白そうな妖怪と遭遇したわね♪』
桜花姫は夜叉王との遭遇に内心大喜びする。同時刻…。とある遠方の山奥から宿敵の羅刹女が桜花姫を凝視したのである。
「月影夜叉王…大妖怪だとしても弱小妖怪の桜花姫を相手に妖怪化した人間では力不足だったな…」
『妖怪としては未熟の貴様が…無理に大技を駆使するから妖力を消耗したのだ…桜花姫を仕留める直前に妖力の消耗で仕留め損なうとは…大妖怪の恥知らずが…』
羅刹女は夜叉王の無鉄砲さに呆れ果てる。
「結局…私自身が大攻勢を仕掛けなければ…無理みたいだな…」
夜叉王は期待出来ないと判断…。羅刹女は退散したのである。

第五話

能面
大妖怪の月影夜叉王との大戦闘から六日後の真夜中…。西国の村里に隣接する廃村の地面より野良犬に咀嚼された大量の血肉やら人骨が無数に発見されたのである。近隣の村人達からは無間地獄の亡者達が出没したとの噂話が国全体に出回る。同時刻…。東国近辺の辺境地より悪食餓鬼の大群が隣接する各地の村里に出没したのである。騒然とする村人達の噂話が気になった桜花姫は即刻問題の廃村へと直行する。
「廃村の無数の人骨と肉片…東国に出没した悪食餓鬼の大群…」
『無数の妖怪達が出現した因果関係は一体何かしら?』
西国の村里から非常に近辺なのか数分間で到着する近距離である。桜花姫は恐る恐る廃村の様子を眺望する。
「随分殺風景ね…廃村だし当然かしら?」
誰一人として村人が定住しない魔窟であり廃村から無数の妖気を察知したのである。
「廃村から無数の妖気を感じるわ…」
人気は皆無であり廃村の雰囲気から黄泉の世界を連想させる。
「気味悪いわね…」
『空気も息苦しいし…黄泉の世界みたいだわ…』
廃村は非常に息苦しい場所であり普通の人間であれば卒倒しそうな雰囲気である。
「今回の超常現象では何が出現するのかしら?」
『今回は海難入道よりも面倒臭いかも知れないわね…』
廃村の重苦しい空気からか非常に気味悪くなる。廃村の雰囲気から気力が無気力化するものの…。
「廃村中心部の楼閣が非常に不吉だわ…」
廃村中心地の楼閣から非常に重苦しい無数の妖気を察知したのである。
「妖力を消耗するのも面倒臭いからね…力任せで突破しちゃうわよ!」
彼女は鈍足であるものの…。真正面から廃村へと突入する。
「何かしら?」
すると周辺の地面より無数の悪食餓鬼が出現…。大勢で道中を通行する桜花姫に殺到したのである。
「悪食餓鬼?」
桜花姫は無数の悪食餓鬼に包囲される。
「彼等なりの挨拶かしら?」
『悪食餓鬼にとって私は最高の嗜好品みたいね…』
桜花姫は即座に妖力を発動…。半透明の妖力の防壁を発動したのである。防壁の表面より半透明化した血紅色の魔手を無数に出現させる。
「鬱陶しい奴等だわ…」
妖力の防壁から出現した無数の魔手は彼女に殺到する無数の悪食餓鬼の猛攻撃から本体を防備…。血紅色の魔手は桜花姫に殺到する悪食餓鬼を縦横無尽に蹴散らせる。
「人気者も災難だわ♪」
桜花姫は泰然自若とした様子であり無謀にも殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に死滅させたのである。桜花姫の発動した魔手に接触した悪食餓鬼は一瞬で肉体が粉砕される。桜花姫が通過した直後…。桜花姫の通過した地面には悪食餓鬼の無数の肉片やら血肉が彼女の路傍に散乱したのである。桜花姫は一直線に驀進し続ける。数分後…。廃村の中心地に位置する楼閣へと到達する。
「楼閣から不吉の妖気を感じるわね…」
楼閣の最上階から不吉の妖気が感じられる。桜花姫は一息すると恐る恐る楼閣へと潜入したのである。居室には異国風の調度品が散乱した状態であり居住者は誰一人として確認出来ない。
「如何やら大昔は富裕層の居住地だったのかしら…」
楼閣は全面的に洋式風の雰囲気である。
「室内の雰囲気は異国を意識したのかしら?異世界みたいだわ…」
洋式風の調度品ばかりであり全体的に異世界みたいに感じられる。
「最上層に移動しましょう…」
階段から最上層へと移動する。
「博物館みたいだわ…」
最上層へと到達すると楼閣の最上層は骨董品の貯蔵庫であり桜花姫は無尽蔵の異国風の骨董品に魅了されたのである。
「楼閣の骨董品を人間達に競売しちゃえば私も富裕層かしら♪」
すると貯蔵庫の中心部には摩訶不思議なる骨董品が非常に気になる。
「何かしら?ひょっとして能面?」
桜花姫が気になった代物とは精巧に形作られた能面であるものの…。
「表情が気味悪いわね…」
能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「芸術的だけど非常に悪趣味だわ…能面って外見的にも不吉なのよね…」
桜花姫は巨大能面を直視すると鳥肌が立つのか非常に気味悪くなる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…能面なんて気味悪いだけなのよ…私は大嫌いだわ…」
迂闊にも巨大能面に近寄ると恐る恐る巨大能面に接触したのである。
「普通の能面よりも随分特大なのね…単なる装飾品なのかしら?」
先程から不思議に感じるのか桜花姫が楼閣へと潜入した数分後…。
「えっ?内部の妖気が感じられなくなったわ…」
室内に充満した妖気が完全に消失する。
「室内の妖怪は別の場所に移動しちゃったのかしら?」
妖気が皆無であると判断したのである。
「楼閣から脱出しましょう…」
桜花姫は恐る恐る庭園へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。
「物音!?」
彼女は即座に背後を警戒したのである。先程の巨大能面に注目する。
「えっ…一体何事!?」
巨大能面に注目すると能面の両目部分が蛍光色へと変色した状態であり八本もの人間の細腕らしき脚部が形作られる。姿形は巨大化した巨大人面蜘蛛であり中心部の蜘蛛の胴体部分が巨大能面である。
「ひょっとしてあんたは器物の妖怪…【小面蜘蛛】かしら!?」
小面蜘蛛とは霊体妖怪の霊魂が器物である巨大能面へと憑霊…。妖怪化した憑依系統の器物妖怪の一体であり北国では別名として巨大能面の付喪神とも命名される。器物に憑霊出来る呪術により妖怪の集合体である桜花姫をも錯覚させたのである。小面蜘蛛の胴体部分である巨大能面の両目が桜花姫を凝視すると冷笑し始める。
「えっ…気味悪いわね…」
冷笑する小面蜘蛛に桜花姫は気味悪くなる。
『小面蜘蛛なんて…厄介なのが出現したわね…』
小面蜘蛛の出現に桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りする。すると小面蜘蛛は胴体の能面部分の口先より蛍光色の火の玉を無数に放出したのである。
「火の玉だわ…」
蛍光色の火の玉は桜花姫に接近する。
「こんな程度の妖術で…」
桜花姫は再度妖力の防壁を発動…。小面蜘蛛の火の玉を無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を仕留められないわよ♪小面蜘蛛♪」
桜花姫は妖術を発動…。
「焼失するのね…小面蜘蛛…」
小面蜘蛛に発火の妖術を発動したのである。直後…。
「えっ?」
不可解にも小面蜘蛛には発火の妖術が発動されない。
「一体如何してなの?」
『可笑しいわね…如何して小面蜘蛛には発火の妖術が発動されないのかしら?』
すると桜花姫は恐怖心からか身震いする。
『ひょっとして此奴の肉体…〔退魔巨樹〕かしら…』
退魔巨樹とは天球神国に存在する神秘の樹木であり天然記念物である。別名としては霊木とも呼称される。退魔巨樹は人間やら通常の動植物には人畜無害である反面…。超自然的存在とされる妖怪達にとっては最大の天敵である。妖怪が退魔巨樹に接触すると体内の妖力が吸収され…。急速に妖力を消耗する。妖怪が退魔巨樹の樹体に接触し続ければあらゆる妖怪が衰弱死…。屈強の大妖怪であっても衰弱死は回避出来ない。
『海難入道もだけど…此奴にも妖術は通用しないみたいね…如何しましょう?』
桜花姫は恐る恐る後退りしたのである。
『此奴を相手に…真正面からの徹底抗戦は自殺行為よね?』
妖術の通用しない小面蜘蛛との戦闘は圧倒的に不利であり桜花姫は即刻楼閣からの脱出を決意するのだが…。
「きゃっ!」
小面蜘蛛は体内より蜘蛛の白糸を放出したのである。桜花姫は粘着性の白糸に全身を拘束され…。身動き出来なくなったのである。
『迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…』
すると直後…。
「ぐっ!」
『体内の妖力が…』
小面蜘蛛の白糸に接触すると体内の妖力が消耗したのである。
『白糸の影響かしら?妖力が消耗するわ…』
桜花姫は極度の疲労からか極度の眠気を感じ始める。
『えっ…眠気が…』
直後…。
「桜花姫様!」
「えっ?」
突如として出現したのは僧侶の八正道だったのである。
「あんたは八正道様!?如何してこんな場所に!?」
突然の八正道の出現に桜花姫は驚愕する。
「桜花姫様!詳細は後回しです…小面蜘蛛は私が…」
八正道は法力により小面蜘蛛の身動きを封殺したのである。
「器物の妖怪よ…完全に浄化されよ!」
浄化の法術を駆使…。すると能面の体内に憑依した霊体妖怪が浄化され小面蜘蛛は元通りの巨大能面に戻ったのである。
「小面蜘蛛…成仏したか…」
八正道は恐る恐る巨大能面に合掌する。小面蜘蛛が浄化された影響により桜花姫を拘束した粘着性の白糸も消滅したのである。
「えっ?自由自在に身動き出来るわ…私…」
八正道は笑顔で…。
「危機一髪でしたね…桜花姫様♪無事で何よりです♪」
「八正道様♪感謝するわね♪」
桜花姫は人間の八正道が妖怪の天敵である器物妖怪の小面蜘蛛を仕留められたのか問い掛ける。
「如何して八正道様が器物妖怪の小面蜘蛛を簡単に仕留められたのかしら?彼奴は相当の強敵なのよ…」
「小面蜘蛛の能面は退魔巨樹で形作られた代物でしたからね…妖怪にとっては難敵でしょうが…妖力を駆使しない攻撃法によって小面蜘蛛は退治出来るのでしょう…」
小面蜘蛛は妖怪にとっては遭遇したくない強敵である反面…。妖力を駆使しない攻撃法では容易に仕留められる。
「今回ばかりは感謝するわね♪八正道様♪」
桜花姫は八正道に感謝するのだが…。
「前回の出来事ですが…羅刹女の襲撃によって虫の息だった私を貴女様は救済されたのです…当然の行為ですよ…」
「八正道様の傷口を治癒したのは私の体内の桃子姫よ…」
「桃子姫様と桜花姫様は一心同体の存在なのです…桜花姫様が私を瀕死の状態から救済したのも同然ですよ…」
「えっ…八正道様…」
桜花姫は赤面する。すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…」
桜花姫に俵型の麦飯と瓢箪を手渡したのである。
「えっ?麦飯かしら?」
「先程の戦闘で妖力を消耗したでしょう…思う存分に食べなされ…」
「八正道様…」
桜花姫は八正道に手渡された瓢箪の飲料水と麦飯を一瞬で平らげる。
『えっ…桜花姫様…相当空腹だったのですね…』
瓢箪の飲料水と麦飯を平らげた桜花姫に八正道は苦笑いしたのである。
「僅少だけど…多少妖力が戻ったわ…」
すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「如何して八正道様がこんな場所に?」
「桜花姫様に協力を要請したくて…桜花姫様の妖気を追尾して…廃村へと突入したのです…桜花姫様が器物妖怪の小面蜘蛛に苦戦されたのは予想外でしたが…」
「私に協力ですって?何かしら?」
八正道は恐る恐る…。
「今現在の東国なのですが…」
本日の夕方の出来事である。突如として密集地であり天球神国の中心地である東国に無数の百鬼夜行が出現…。彼等は無差別的に中心街の町民達を襲撃したのである。
「東国に無数の妖怪達が出現したの?」
「今現在武士団は勿論…仲間の修行僧達が数多の妖怪達と交戦中なのですが…多勢に無勢でして…桜花姫様の協力が必要不可欠なのです…」
桜花姫は困惑する。現実問題先程の小面蜘蛛との戦闘により大半の妖力を消耗…。単独で多数の妖怪を相手するのは正直不安だったのである。
『如何しましょう…』
桜花姫は困惑するも…。
『道中…遭遇した妖怪達を桜餅に変化させて食べちゃえば消耗した妖力は回復させられそうね…』
「私も協力するわ…八正道様♪」
桜花姫は八正道の依頼を承諾する。
「感謝します…桜花姫様…」
桜花姫と八正道は即座に楼閣から脱出したのである。二人は東国へと急行する。

第六話

強襲
桜花姫と八正道が行動を開始し始めた同時刻…。大陸の大妖怪羅刹女は主戦場の東国歓楽街で武士団と交戦する。
「貴様!?女人の妖怪か!?」
「将兵達!即刻此奴を包囲しろ!」
武士団は即座に羅刹女を包囲したのである。
「命知らずの人間風情が…」
羅刹女は呆れ果てたのか無表情で周囲を確認する。
「私の実力を発揮するには…貴様達程度では力不足だな…」
彼女の見透かした態度に武士団の将兵達は苛立ち始める。
「此奴…」
「相手が女人の妖怪とて構わん!即刻女人の妖怪を征伐せよ!」
刀剣を所持した十数人の武士達が羅刹女に殺到する。
「命知らずの愚か者達が…」
羅刹女は妖術を発動…。
「ん?」
「なっ!?」
突如として武士達は頭部が肥大化したのである。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女の妖術によって肥大化した武士達の頭部が破裂する。
「うわっ!妖術か!?」
「将兵達の頭部が突然破裂したぞ!」
後方の武士達は羅刹女の妖術に畏怖したのである。
「今度は貴様達が私に殺される出番だぞ…」
「ひっ!妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
「殺される!退却だ!全軍…退却せよ!」
周囲の武士達は必死に逃走するのだが…。
『人間風情が…』
「誰一人として…私からは逃げられないぞ…」
羅刹女は後方の武士達にも妖術を発動する。彼等も同様に頭部が肥大化…。破裂したのである。
「所詮人間は非力だな…」
武士団を全滅させた直後…。
「ん?」
彼女の背後より何者かが出現する。
「貴様は何者だ?」
羅刹女は背後を直視したのである。
「久方振りだな…羅刹女…」
「誰かと思いきや…貴殿は月影夜叉王…大妖怪の恥知らずか…」
「大妖怪…羅刹女…」
羅刹女の背後に出現したのは誰であろう南国の鬼神…。大妖怪の月影夜叉王である。
「夜叉王よ…今更私に用事か?ひょっとして貴殿は私の目的に協力するのか?協力するのであれば先日の失敗は黙認するが…」
羅刹女の発言に夜叉王は失笑する。
「誰があんたの協力なんて…」
夜叉王は無表情で雷光の刀剣を生成させる。
「貴殿は恩人である私を裏切るか?大妖怪…月影夜叉王よ…」
「羅刹女…あんたは亡者であった俺を大妖怪として復活させた功績だけは感謝しても感謝し切れないが…俺は人一倍あんたが気に入らない…何よりもあんたは妖怪だ…妖怪である羅刹女に服従するのは半妖の俺には不可能みたいだ…」
「夜叉王…弱小妖怪の桜花姫さえも仕留め切れなかった中途半端の貴殿が…大妖怪である私を仕留めると?所詮貴殿の妖力は宝の持ち腐れだな…」
羅刹女は夜叉王の妖力を宝の持ち腐れと揶揄したのである。羅刹女に揶揄された夜叉王であるが…。
「俺の妖力が宝の持ち腐れか如何なのかは…今回の戦闘で明確化出来る…俺の妖力が宝の持ち腐れであると断定するには早計だぞ…羅刹女…」
夜叉王は雷光の刀剣を生成させる。
「妖力を実体化させた雷光の刀剣か?であれば私は…」
羅刹女も自身の妖刀を抜刀したのである。両者は神速の身動きで突っ込む。両者の妖刀が接触した直後…。周囲に衝撃波が発生する。両者の衝撃波で中心街を徘徊する無数の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が吹っ飛ばされる。
「月影夜叉王…私は貴殿を役立たずと見縊ったが…意外と強力だな…」
両者は一度後退する。
「俺は生前…戦乱時代末期の人間だったが…今迄に九十九体もの妖怪達を仕留めたからな…羅刹女で百体目だ…」
「残念だが…所詮大妖怪の出来損ないである貴様では私を仕留められない…百体目の妖怪を仕留めるのは不可能だぞ…月影夜叉王…」
羅刹女は両手から超高温の火球を発射したのである。
「火球か…」
夜叉王は雷光の刀剣で火球を一刀両断…。左右に両断された火球は夜叉王の背後で爆散したのである。
「こんな程度の妖力なのか?羅刹女よ…貴様は自身を大陸の大妖怪と豪語するが…所詮は単なる称号だったか?」
「挑発だけは一人前だな…月影夜叉王…」
大妖怪の両者が対決する同時刻…。一方の桜花姫と八正道は東国の郊外へと到達したのである。
「東国だわ…」
「郊外に到達しましたね…桜花姫様…」
遠方から無数の火の粉が確認出来る。
「火の粉だわ…主戦場みたいね…」
「突如として無数の妖怪達が出現しましたからね…」
二人は東国と西国を直結する両国橋へと移動するのだが…。逃亡する避難民達やら敗走する将兵達が西国へと逃走したのである。
「如何やら相当の一大事みたいね…」
「何しろ多勢に無勢ですからね…武士団だけで今回の大事件を解決するには力不足でしょう…」
すると三人の修行僧達が八正道に近寄る。
「貴方は八正道様!?無事だったのですね…」
彼等は八正道の無事が確認出来て安心したのである。
「私も貴方達が無事で安心しましたよ…」
「私達は必死に妖怪退治に尽力しましたが…何しろ多勢に無勢でして…」
今回の大事件では大勢の僧侶達は勿論…。修行僧達も無数の妖怪達の鎮圧に派遣されたのである。
「中心街に大妖怪が二体も出現したと…」
「最早私達では二体の大妖怪を相手に対抗出来ません…」
「大変心苦しいのですが…私達では力不足です…」
すると八正道は笑顔で…。
「安心しなされ♪今回は大妖怪に対抗出来る最強の味方が参上しましたから♪」
「えっ?最強の味方ですと?」
「最強の味方とは…一体?」
彼等は最強の味方の一言に反応する。八正道は桜花姫を直視したのである。
「えっ…彼女は?町内の小町娘でしょうか?」
「八正道様…こんな状況下で冗談は非常識かと…」
二人の修行僧は呆れ果てる。二人の修行僧は呆れ果てるのだが…。小柄の修行僧が桜花姫を直視すると畏怖した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「えっ…彼女…」
「ん?」
小柄の修行僧は桜花姫に畏怖する。
「彼女の体内から…無数の妖気が…」
畏怖する小柄の修行僧に二人の修行僧も桜花姫に戦慄し始める。
「えっ!?無数の妖気だと!?」
「本当だ…彼女の肉体から妖気が感じられるぞ!彼女は一体…」
大柄の修行僧が桜花姫を睥睨したのである。
「貴様は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪だな!醜悪なる妖怪がか弱き人間の女性に擬態するとは卑劣だ…」
畏怖する修行僧達に周囲の武士団が近寄る。
「妖気だと!?こんな場所にも妖怪が出現したのか!?」
「妖怪は此奴です!此奴の正体は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪ですよ!」
「なっ!?此奴も妖怪の仲間なのか!?」
「か弱き人間の女子に擬態するとは言語道断だな!」
「此奴の正体が妖怪であるなら…即刻小娘の妖怪を征伐しなくては!」
武士団の将兵達は警戒した様子で即座に抜刀…。桜花姫を包囲したのである。すると八正道は必死に…。
「誤解です!彼女の正体が妖怪だとしても彼女は人間達には手出ししません!大丈夫ですよ…実際虫の息だった私は彼女に救済されました…彼女は伝説の巫女…桃子姫様の再来なのですよ!」
八正道は必死に誤解であると主張するものの…。武士団の将兵達は八正道の発言に猛反発する。
「何を!?貴様…女人の妖怪を庇護するのか!?何が桃子姫の再来だ!」
「貴様は何たる出鱈目を…無数の妖怪達によって俺達の戦友達は勿論!大勢の町民達が醜悪なる妖怪達に食い殺されたのだぞ…極悪非道の妖怪を庇護する貴様も同罪だ!」
「誰が貴様の発言を信用出来るか!女人の妖怪を庇護するのであれば僧侶の貴様も斬首するぞ!」
絶望的状況下であり誰しもが八正道の発言を信用出来なかったのである。最早絶体絶命かと思いきや…。一人の老人が無言の桜花姫に近寄る。若齢の修行僧が動揺した様子で恐る恐る…。
「えっ…貴方様は一体?」
二人の修行僧達も老人に動揺したのである。
「貴方は最長老様ですか!?」
最長老の一言に八正道も反応する。
「えっ?最長老様って…」
老人は僧侶達の最長老だったのである。すると若齢の修行僧が恐る恐る…。
「最長老様!此奴は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪なのですよ!近寄れば最長老様が女人の妖怪に食い殺されます!」
すると最長老は若齢の修行僧に睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する最長老に周囲の修行僧達は沈黙する。
「安心しなさい…妖気は感じられても…彼女からは邪気も殺意も感じられないから大丈夫だよ…彼女は人畜無害だ…」
「えっ…本当に此奴は大丈夫なのか!?」
最長老の発言に修行僧達は勿論…。武士団の将兵達も制止し始める。最長老は再度桜花姫を凝視する。
「貴女からは伝説の巫女…桃子姫様の気配が感じられます…ひょっとして貴女様は桃子姫様の再来なのでしょうか?」
「えっ!?彼女が伝説の巫女…桃子姫様の再来ですと?」
「先程の八正道様の発言は…事実だったのですか?」
最長老の発言に三人の修行僧達は驚愕したのである。すると無言だった桜花姫が発言し始める。
「私は人間の巫女の桃子姫と…数多の妖怪達が一体化した存在なの…所謂魑魅魍魎の集合体なのよね…」
「桃子姫様は大妖怪との死闘で生死不明でしたが…桃子姫様は妖怪の集合体として活動されたのですね…」
八正道は恐る恐る最長老に問い掛ける。
「最長老様は実際に伝説の巫女である桃子姫様と対面されたのですか?」
「勿論生前の桃子姫様とは対面したとも…一度だけだがね…」
最長老は即答する。
「彼女は俗界の女神様に相応しい唯一無二の女性だったよ…正真正銘絶世の美女だったね…」
最長老は戦乱時代末期の人物であり生前の桃子姫と対面した唯一の僧侶である。
「こんな場所で桃子姫様の面影を感じる人物に遭遇出来るなんて…私は幸福です…」
最長老は桃子姫の瓜二つである桜花姫との遭遇に感動したのか涙腺から涙が零れ落ちる。落涙する最長老に桜花姫は困惑…。
「えっ…はぁ…」
『最長老は号泣しちゃったけど…私は如何すれば?』
落涙する最長老に桜花姫は苦笑いしたのである。一方の八正道は疲れ果てたのか全身が脱力する。
「如何やら…大丈夫そうですね…」
最長老の介入により最悪の事態は回避出来…。
『最長老様…感謝しますよ…』
八正道は一安心したのである。すると最長老は笑顔で…。
「八正道よ♪彼女は誰よりも温厚篤実の妖怪だ…貴殿は確りと彼女を援護しなさい♪」
「勿論ですとも♪最長老様♪私は彼女に精一杯尽力しますよ!」
八正道は恐る恐る桜花姫を直視する。
「桜花姫様♪私と一緒に東国に出現した妖怪達を退治しましょう♪」
「私は一先ず消耗しちゃった妖力を回復させないとね…」
桜花姫と八正道は主戦場の東国中心街へと突入したのである。東国の中心街には其処等に肉片やら血肉が散乱…。無数の妖怪達が徘徊したのである。
『悲惨だな…』
無数の悪食餓鬼が数人の町民に殺到…。彼等は無我夢中に人肉を捕食したのである。戦慄の光景であったが…。
「猛反撃開始よ♪」
桜花姫は笑顔で食中の悪食餓鬼に近寄る。
「桜花姫様…」
すると徘徊中の悪食餓鬼が二人に気付いたのか数体の悪食餓鬼が二人に接近する。
「桜花姫様!悪食餓鬼です!反撃しましょう!」
「悪食餓鬼は私一人で片付けるわ♪」
「えっ?」
「私は妖力を回復させたいからね♪」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
数体の悪食餓鬼を大好きな桜餅に変化させたのである。
「悪食餓鬼が桜餅に…」
「私にとって悪食餓鬼は単なる餌食だからね♪」
桜花姫は桜餅に変化させた悪食餓鬼を頬張り始める。
「えっ…」
『桜花姫様は正気なのか?妖怪としては正常なのだろうか?』
生理的に無理なのか八正道は桜花姫が桜餅を頬張る様子に気味悪くなる。
「はぁ…食事中に…」
「如何やら妖怪達の新手ですね…」
すると今度は無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。
「桜花姫様…百鬼悪食餓鬼が五体も出現しました…」
「大物が五体も出現したわね♪好都合だわ♪」
百鬼悪食餓鬼の出現に桜花姫は大喜びする。すると五体の百鬼悪食餓鬼は体表の悪食餓鬼の口先から猛毒の瘴気を放射…。民家の木材やら地面の表土が腐敗したのである。
「黒煙でしょうか?」
「此奴は瘴気よ!八正道様!絶対に呼吸しないでよ!」
「承知しました!桜花姫様!」
八正道は一時的に呼吸を停止させる。
『桜花姫様は空気中の正気を体内に吸収しても大丈夫なのか?』
桜花姫は妖怪であり猛毒の瘴気が体内に潜入しても大丈夫だったのである。基本的に妖怪が放射する瘴気は人間には猛毒である反面…。同族の妖怪に使用しても毒死しない。
「反撃しちゃうわよ♪」
桜花姫は浄化の妖術を発動…。桜花姫の発動した浄化の妖術により百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化されたのである。
「八正道様♪百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化したわ♪呼吸しても大丈夫よ♪」
「感謝します…桜花姫様…」
「今度は♪」
五体の百鬼悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。五体の百鬼悪食餓鬼は桜花姫の大好きな桜餅に変化させる。
「桜花姫様…今度も桜餅ですか…」
八正道は苦笑いしたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させないとね♪」
桜花姫は桜餅に変化した百鬼悪食餓鬼を捕食…。美味しそうに頬張る。
『桜花姫様…悪食だな…』
桜花姫の悪食に八正道は絶句する。
「折角だし♪八正道様も桜餅を食べないかしら?中身は妖怪だけど桜餅は絶品よ♪」
「えっ…私は遠慮しますよ…」
八正道は苦笑いした様子で拒否したのである。
「美味しいのに残念ね…」
『姿形は桜餅でも…妖怪なんて絶対に食べられませんね…』
八正道は内心気味悪くなる。
「満足♪満足♪妖力も万全よ♪」
桜餅を頬張った影響からか桜花姫は消耗した妖力が回復したのである。
「桜花姫様…移動しましょう…ん?」
近辺より強大なる妖気を感じる。
「八正道様も感じるのね…大妖怪の妖気を…」
「二体の大妖怪の妖気でしょうか?如何やら両者は戦闘中みたいですね…一人は羅刹女の妖気でしょうが…相手方の妖気は何者でしょうか?」
「相手方の妖気は恐らく…南国の鬼神…月影夜叉王の妖気でしょうね…」
「えっ!?」
月影夜叉王の名前に八正道は驚愕したのである。
「月影夜叉王ですと!?」
「別に驚愕しなくても…」
「誰だって驚愕しますよ…月影夜叉王は戦乱時代に活躍された歴史的人物なのですからね!」
「死人だった夜叉王は羅刹女に大妖怪として復活させられたみたいなの…」
「夜叉王は妖怪化されたのですか…生前では月影夜叉王は極悪非道の人物だと認識されますからね…非常に厄介でしょう…ですが如何して両者は仲間同士で戦闘を?単純に仲間割れでしょうか?」
「理由は不明だけど二人を放置は出来ないわ…移動しましょう!八正道様…」
「勿論ですとも!桜花姫様!」
桜花姫と八正道は即座に二人の妖気を感じる場所に移動を開始する。数分後…。木材の瓦礫やら破壊された民家が十数軒確認出来る。
「うわぁ…民家が…ひょっとして二人の妖気が影響したのでしょうか?」
「こんな程度…序の口よ…」
「えっ…序の口ですと…」
直後…。八正道は空気が重苦しくなったのか深呼吸が目立ち始める。
「八正道様?大丈夫なの?」
桜花姫は八正道を心配したのである。
「失礼…心配させましたね…桜花姫様♪私なら大丈夫ですよ…」
八正道は苦笑いの表情で返答する。
「ですが正直…大妖怪が放出する妖気は人間には悪影響ですね…」
八正道は絶大なる法力を所持する僧侶の一人であるものの…。大妖怪の妖気は僧侶の彼でも非常に辛苦であり害悪だったのである。すると桜花姫は恐る恐る…。
「八正道様…無理強いしないわ…無理そうなら私一人でも…」
「大丈夫ですよ…桜花姫様!極悪非道の妖怪征伐は私の使命なのですから…私は一人の僧侶として桜花姫様に協力します!」
八正道は責任感が人一倍根強く自身は大丈夫であると断言する。
「八正道様…」
数秒後である。二人は目的地へと到達する。
「えっ?」
「なっ!?」
目的地には殺伐とした二体の大妖怪が対峙したのである。
「羅刹女と…月影夜叉王だわ…」
すると直後…。羅刹女と夜叉王は部外者の桜花姫と八正道に気付いたのである。
「ん?貴様達は?」
「貴様達は弱小妖怪の桜花姫と…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶か?」
「貴女様は羅刹女ですね…如何して大妖怪の貴女様がこんな場所に?羅刹女は一体何が目的なのですか?」
八正道は恐る恐る羅刹女に問い掛ける。
「何が目的なのか?当然として…妖怪達による地上界の天下統一に他ならない…」
羅刹女は全国各地の妖怪達を呼応…。天球神国の人口密集地である東国の中心街を総攻撃したのである。
「妖怪達による地上界の天下統一ですって?」
羅刹女は再度夜叉王を直視する。
「月影夜叉王よ…邪魔者が二人も参上したからな…貴様を仕留めるのは後回しだ…私は一時退散する…」
羅刹女の姿形が消滅したのである。
「羅刹女!?俺との真剣勝負を放棄するとは…」
「彼女…逃げちゃったわね…」
すると直後…。夜叉王は桜花姫と八正道に睥睨したのである。
「貴様等…」
「えっ?何よ?夜叉王…」
二人は夜叉王に警戒するのだが…。夜叉王は妖力で実体化させた雷光の妖刀を消失させたのである。
「あんたは…私達に手出ししないの?」
「今現在の俺に貴様等を仕留める理由は存在しないからな…今現在の俺の敵対者は羅刹女…彼奴だけだ…」
自分達を敵対視しない夜叉王に桜花姫と八正道は意外であると感じる。八正道は恐る恐る夜叉王を直視…。
『月影夜叉王の肉体からは妖力と邪気は勿論ですが…僅少の人気を感じられますね…月影夜叉王は一人の人間が妖怪化した特例の妖怪なのでしょうね…』
夜叉王は一人の人間が妖怪化した存在であり一人の人間と無数の妖怪達が融合化した桜花姫とは別物である。八正道は恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「夜叉王様?如何して貴方は主君である羅刹女に敵対視するのですか?妖怪であったとしても…彼女は貴方の仲間ですよね?」
「妖怪の彼奴が俺の仲間だと?愚か者が…」
夜叉王は失笑したのである。
「俺に妖怪の仲間なんて最初から存在しない…彼奴は俺を完全なる妖怪として復活させたが…俺は彼奴に服従する理由は存在しないし…何よりも俺は気紛れだからな…気に入らなければ相手が人間だろうと…女人の大妖怪だろうと打っ殺す…誰も俺には命令出来ないのだ…」
『此奴…自由奔放なのね…』
桜花姫は夜叉王の発言に苦笑いする。
「貴様等…今回だけは見逃すが…俺が気に入らなければ部外者である貴様等も打っ殺すから覚悟しろよ…」
夜叉王の警告するのだが一方の桜花姫は笑顔で…。
「今度は本気で私と勝負しない♪夜叉王♪」
「えっ!?桜花姫様!?夜叉王と勝負なんて本気ですか!?」
桜花姫の発言に八正道は畏怖したのか身震いする。
「桜花姫様は本気なのですか?相手は本物の大妖怪ですよ…」
「私は本気よ♪八正道様♪」
問い掛けられた桜花姫は再度笑顔で返答したのである。
「貴様との本気の真剣勝負か…大妖怪の俺と勝負したければ羅刹女を相手に殺されるなよ…桜花姫…」
『此奴との真剣勝負か…面白そうだな…桜花姫♪』
内心夜叉王も桜花姫とは真剣に勝負したくなる。
「あんたこそ♪死なないでよ♪夜叉王♪」
すると直後である。
「ん?」
「何かしら?」
「火球ですよ!」
「火球ですって?」
無数の火球が上空より飛来…。砲弾みたいに中心街の各地へと落下したのである。一発の火球が桜花姫一同の方向へと落下する。火球が落下する直前…。夜叉王は雷撃の結界を発動したのである。雷撃の結界により間一髪火球を無力化する。
「此奴は妖怪の仕業だな…羅刹女の新手か?」
無数の火球が東国の各地に落下…。爆撃されたのである。
「如何やら火球は東方の方角ですね…東海から妖気が感じられます…」
「妖気は海面上からね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「東海の妖怪は私が対応しましょう…」
「えっ?八正道様?」
「桜花姫様は羅刹女を仕留めるのです…」
八正道は東方の海辺へと直行したのである。
「八正道様!?」
突然の別行動に桜花姫は困惑する。背後より…。
「えっ?」
恐る恐る背後を警戒したのである。背後には巨大能面の付喪神…。器物妖怪の小面蜘蛛が三体も出現したのである。
「器物の妖怪…小面蜘蛛!?」
『三体も出現するなんて…』
桜花姫は極度の苦手意識からか三体の小面蜘蛛の出現に畏怖する。
「貴様…普段は強気なのにこんな雑魚妖怪を相手に戦慄するとは意外だな…」
器物妖怪の小面蜘蛛にはあらゆる妖術が通用せず…。妖力を吸収する性質から桜花姫とは相性が最悪である。
「此奴は妖怪の天敵なのよ…大妖怪のあんただって…」
「妖怪達の噂話では貴様の戦法は妖術ばかり…身体能力は雑魚らしいな…」
「なっ!?」
『私を雑魚ですって!』
夜叉王の発言には内心苛立ったものの…。自身の身体能力が脆弱なのは事実であり反論出来ない。
「三体の小面蜘蛛は俺が相手する…羅刹女は貴様が片付けるのだな…」
「承知したわ…夜叉王…」
桜花姫は即座に羅刹女の妖気を感じる場所へと直行したのである。同時刻…。東方の海辺へと直行した八正道は海岸へと到達する。
「海中から絶大なる妖気と邪気が感じられますね…」
海面上には何も存在しないのだが…。
「妖気は非常に強力ですね…」
直後である。
「なっ!?」
突如として海面上より推定二町もの巨大坊主頭が出現…。海面上から出現した巨大坊主頭は海岸の八正道を凝視する。
『此奴はひょっとして…』
巨大坊主頭は海中から八本もの巨大触手が確認され…。全体的に巨大真蛸らしき姿形だったのである。
「水難妖怪の…海難入道か?予想以上の巨大さだな…」
巨大坊主頭の正体とは水難妖怪…。巨体の海難入道だったのである。海難入道は大妖怪よりは若干下回る妖力であるものの…。海中では最上位の妖怪である。現段階では海中で海難入道に対抗出来る海中の妖怪は存在しない。
「貴様は命知らずの人間の僧侶か?」
すると海難入道が人語で発言する。
『人語とは…海難入道は人間と会話が出来るみたいですね…』
八正道は恐る恐る海難入道に問い掛ける。
「先程…東国の中心街で無数の火球を発射したのは海難入道ですか?」
「であれば如何する?人間の僧侶よ…何方にせよ非力の貴様は俺に殺される運命なのだ…大人しく俺に殺されろ!」
海難入道は海面上より複数の触手を出現させ高熱の火球を発射したのである。
『元凶は海難入道だったか…』
八正道は法力を発動…。
「はっ!」
法力の結界を形作り海難入道の火球攻撃を無力化したのである。
「法力で俺の攻撃を無力化するとは…貴様は上位陣に君臨する僧侶だな…」
海難入道は触手で攻撃する。
「今度は直接!貴様を粉砕する!覚悟しろ!」
触手が八正道の頭上に接触する直前…。
「ん?」
八正道は法力の結界で海難入道の触手を無力化する。
「命拾いするとは…人間の僧侶…」
「今度は私が反撃しますよ!海難入道!」
八正道は氷結の法術を発動…。
「なっ!?」
海難入道は規格外の巨大さであるが八正道の発動した氷結の法術により一瞬で氷結したのである。
「成仏せよ…」
氷結した海難入道は一瞬で肉体が崩れ落ちる。
「一先ずは安心ですね…」
海難入道を仕留めた八正道は一安心する。

第七話

血戦
大陸の大妖怪羅刹女は単独で東国の根城へと潜入したのである。根城の防衛網は厳重であったが羅刹女は絶大なる妖力により城内の将兵達を徹底的に仕留める。羅刹女は城内を移動中…。
「ん!?侵入者だと!?」
「如何してこんな場所に人間の女子が!?」
二人の将兵が羅刹女に殺到する。
「命知らずの雑兵が…」
羅刹女は妖刀を一振り…。二人の将兵を両断する。
「人間程度で私に挑戦するとは…自殺行為だな…」
周囲の将兵達は羅刹女に戦慄する。
「此奴は女人の妖怪だ…」
「殺されるぞ!逃げろ!」
将兵達は羅刹女から逃走するものの…。
「私からは誰一人として逃げられない…愚劣なる人間達は皆殺しだ…」
羅刹女は金縛りの妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は身動きを封殺されたのである。
『えっ…一体何が!?』
将兵達は必死に肉体を動かそうと踏ん張るのだが…。
『身動き出来ない…俺達は妖術で身動き出来ないのか?』
直後である。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女は念力の妖術を発動する。すると金縛りの妖術で身動き出来なくなった将兵達の全身が肥大化…。破裂したのである。室内全域には彼等の肉片やら血肉が飛散する。
「他愛無いな…」
羅刹女は移動を再開するのだが…。前方の通路より火縄銃を所持した将兵達が並列したのである。
「火縄銃か?」
すると侍大将らしき人物が発言し始める。
「此奴は異国で伝来された最新式の銃火器だぞ!」
鉄砲隊は即座に火縄銃に弾丸を装填…。
「鉄砲隊!女人の妖怪に狙撃せよ!」
鉄砲隊は羅刹女に発砲したのである。火縄銃の銃弾が数発…。羅刹女の肉体に直撃したのである。
「直撃だ!女人の妖怪を射殺出来たか!?」
銃弾の直撃した傷口からは鮮血が流れ出るものの…。羅刹女は平気なのか無表情だったのである。
「ん?」
「此奴…銃弾が直撃したのに平気なのか!?」
将兵達は銃弾が直撃しても平気そうな羅刹女に畏怖する。
「火縄銃とは…所詮はこんな程度か?」
すると直後…。羅刹女は体内の銃弾を無理矢理に抉り出したのである。
「残念だったな…こんな豆鉄砲では私は殺せないぞ…」
銃弾による傷口が一瞬で治癒する。
「此奴…」
火縄銃の通用しない羅刹女に侍大将は苛立ち始める。
「狼狽えるな!再度狙撃しろ!女人の妖怪を仕留めるのだ!」
「鬱陶しい奴等だ…」
羅刹女は妖術を発動する。
「えっ?」
侍大将と鉄砲隊の将兵達の頭部が肥大化…。破裂したのである。
「人間の武器が大妖怪である私に通用するか…」
羅刹女は根城の最上層へと移動する。
「なっ!?女人か!?」
最上層には十数人もの大名達は勿論…。二十数人の将兵が大名達を護衛する。突然の羅刹女の出現に彼等は驚愕したのである。
「貴殿は一体何者だ!?」
大名の一人が羅刹女に問い掛ける。
「私は…大妖怪…羅刹女だ…」
「羅刹女って…」
大妖怪と名乗る羅刹女に周囲の者達は畏怖したのである。
「大妖怪…羅刹女だと!?」
「此奴は大陸の妖怪なのか!?」
「貴殿は女人に変化したのか!?」
護衛の将兵達は即座に抜刀する。
「女人の妖怪!覚悟しろ!」
三人の将兵が羅刹女に殺到したのである。
「雑魚の分際で…」
羅刹女は鎌鼬の妖術を発動…。羅刹女は何も身動きせず三人の将兵は全身が小刻みに粉砕されたのである。
「うわっ!三人の将兵が…」
「妖術なのか!?」
羅刹女の妖術に周囲の者達は恐る恐る後退りする。すると一人の大名が恐る恐る…。
「城内の兵卒達は…」
「奴等か…私が一人ずつ徹底的に殲滅したからな…貴様達がこんな場所で待機し続けても兵卒達は誰一人として戻らないぞ…」
「全滅だと!?」
「狼狽えるな…此奴を殲滅せよ…」
小柄の大名が弱気で将兵達に殲滅を指示する。大名が羅刹女の退治を命令するものの…。護衛の将兵達は羅刹女の妖術に戦慄したのか身動き出来ない。
「貴様達!此奴を殲滅しないか!羅刹女は東国のみならず…天球神国にとって最大の脅威なのだぞ!」
すると戦意喪失した一人の将兵が恐る恐る…。
「無理ですよ…こんな怪物…俺達では如何にも…」
羅刹女の妖力を直視した彼等は完全に戦意喪失したのである。羅刹女は戦意喪失した将兵達に…。
「貴様達…安楽死せよ…」
羅刹女は吸魂の妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は霊魂を吸収され即死したのである。
「なっ!?将兵達が…」
将兵達の全滅に大名達は絶望する。
「私達は…死にたくない…」
「貴殿は何が目的なのだ!?」
「大妖怪の貴殿には村里?一国を授与するぞ…」
羅刹女は呆れ果てる。
「一国だと?問答無用だ…人間は殲滅すべき対象なのだ…」
彼女が東国の大名達を殺害する同時刻…。西国の村里では妖怪達が羅刹女と彼女の部下達による東国襲撃の噂話で狂騒する。
『妖怪達…随分と物騒ね…一体何事かしら?』
桜花姫の悪友である粉雪妖怪…。雪女郎は西国の村里に聳え立つ真夜中の妖怪歓楽街を一人で出歩いたのである。すると彼女の周囲より…。
「姉ちゃんよ♪」
「えっ?あんた達は?」
雪女郎の周囲には一体の赤鬼と四体の小鬼が彼女を包囲する。
「姉ちゃんは可愛らしいな♪」
「折角だし…姉ちゃんは俺達と一緒に夜遊びしないか?」
「俺達と一緒に東国で人間を打っ殺し…人肉でも味見しないか♪」
『うわっ…面倒臭いわね…』
彼等の問い掛けに雪女郎は呆れ果てる。
「はぁ…あんた達…夜遊びしたかったら私以外の女人妖怪と夜遊びすれば?私は常日頃から大忙しなの…悪いけど私以外の女人妖怪と夜遊びしなさい…」
「此奴!生意気だな!」
親玉らしき赤鬼の妖怪が苛立ったのか金棒で雪女郎に打撃するのだ…。雪女郎は打撃される直前に粉雪分身の妖術を発動したのである。
「兄貴…此奴は粉雪ですぜ…」
打撃された雪女郎の分身体は粉雪へと変化…。簡単に崩れ落ちる。
「此奴…分身の妖術で…」
すると彼等の背後より…。
「あんた達…鬱陶しいわね…」
「兄貴!此奴は生意気だ…全員で小娘を打っ殺そうぜ!」
「此奴は全員で袋叩きだ!」
四体の小鬼も金棒を所持したのである。
「はぁ…仕方ないわね…」
雪女郎は氷結の妖術を発動…。赤鬼と四体の小鬼の下半身を氷結させたのである。
「なっ!?下半身が突然…姉ちゃんは一体何を!?」
彼等は突発的に氷結した自身の肉体に吃驚する。
「私は粉雪妖怪の雪女郎なのよ♪あんた達程度で私に手出しするなんて無謀なの♪即刻出直しなさい♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖怪の雪女郎の姉貴なのかよ!?」
雪女郎は西国では著名の妖怪であり彼女の妖力は強者の部類だったのである。
「今回は見逃しちゃうけれど…今度は容赦しないからね…」
雪女郎は氷結の妖術を解除する。
「失礼しました!雪女郎の姉貴!」
親玉の赤鬼は勿論…。子分である四体の小鬼は即刻雪女郎に謝罪したのである。
「あんた達?桜花姫の居場所は知らないかしら?」
「桜花姫の姉貴ですかい?」
雪女郎の問い掛けに親玉の赤鬼が返答する。
「桜花姫の姉貴なら東国で暴れ回ったって噂話ですぜ…詳細は不明ですが…」
桜花姫が東国で各地の百鬼夜行と暴れ回ったとの噂話は各地方に出回る。
「何しろ桜花姫の姉貴は大妖怪の羅刹女を相手に…喧嘩を吹っ掛けやがったらしいからな…」
「桜花姫は東国にね…」
『彼奴…』
桜花姫の様子が気になるのか雪女郎は即座に東国への移動を開始したのである。
『羅刹女に喧嘩を吹っ掛けるなんて…桜花姫は馬鹿ね…』
雪女郎は正直億劫に感じるものの…。桜花姫は大昔からの悪友であり放置は出来ない。西国の村里から移動してより一時間が経過する。
「東国に到達したわね…」
雪女郎は東国の郊外へと到達したのである。東国の中心街からは無数の妖気と邪気は勿論…。多数の鮮血と死骸の悪臭が東国郊外にも蔓延したのである。
「主戦場ね…」
中心街からは無数の火の粉が確認され…。大勢の町民達の悲鳴が響き渡る。雪女郎は両国橋を通過…。東国の中心街へと進入する。
「悪趣味ね…」
殺害された数人の町民達の遺体に十数体もの悪食餓鬼が殺到…。彼等が生身の人肉を捕食する場面を直視したのである。
「生身の人肉なんて…美味しくないでしょうに…」
雪女郎は悪食の悪食餓鬼に嫌悪する。
「鬱陶しいわね…」
人肉を咀嚼する悪食餓鬼に気味悪くなったのか雪女郎は彼等に氷結の妖術を発動…。彼等の肉体は一瞬で氷結したのである。
「死滅しなさい…」
氷結した悪食餓鬼の肉体は崩れ落ちる。すると直後である。周囲で徘徊中だった無数の悪食餓鬼が雪女郎を直視…。彼女に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等ね…」
雪女郎は再度氷結の妖術を発動する。悪食餓鬼は即座に氷結…。肉体が崩れ落ちる。
「あんた達程度で私に挑戦するなんて無謀なのよ…」
『桜花姫はと…』
桜花姫の居場所に移動する直前…。近辺より大妖怪の妖気と三体の中堅妖怪の妖気を察知する。
『えっ!?大妖怪の妖気だわ…』
「ひょっとして…」
大妖怪の出現に雪女郎は身震いしたのである。
「私…西国に戻ろうかな?」
雪女郎は自身が場違いであると自覚し始める。
「如何しましょう?私…」
雪女郎は西国の村里に戻ろうかと困惑するものの…。戦闘の様子が非常に気になるのか大妖怪の妖気を感じる場所へと移動する。雪女郎は恐る恐る民家の物陰から様子を注視したのである。
『何かしら?』
周囲は破壊された十数軒もの木造の建造物が確認され…。一人の甲冑の武人と三体の巨大人面蜘蛛が確認出来る。
「妖怪だわ…交戦中なのかしら?」
『武士から其処等の妖怪とは比較出来ない妖気を感じるわ…妖気の正体は武士だったのかしら?』
雪女郎は武人の妖怪を凝視し続けた直後…。
『ひょっとして彼奴!?先日西国の村里で遭遇した…月影夜叉王かしら!?』
甲冑の武人とは先日遭遇したばかりの大妖怪の月影夜叉王だったのである。
『如何して夜叉王がこんな場所に!?相手は付喪神の小面蜘蛛よね!?私達妖怪にとって小面蜘蛛は天敵なのに…彼奴は一人で三体の小面蜘蛛を仕留められるのかしら?』
雪女郎は正直夜叉王が無茶であると感じるのだが…。夜叉王は護身用の懐刀を抜刀したのである。
『えっ!?彼奴…懐刀だけで…』
「小面蜘蛛を相手に無茶でしょうに…」
雪女郎は呆れ果てる。直後…。
「貴様達は妖怪の天敵であるとの噂話だが…懐刀だけで事足りる…」
夜叉王は神速の身動きにより三体の小面蜘蛛を懐刀だけで瞬殺したのである。
「楽勝だ…所詮は雑魚妖怪だったな!」
夜叉王は妖力を使用せず懐刀のみで小面蜘蛛の胴体部分に刺突…。三体の小面蜘蛛を仕留める。護身用の懐刀だけで三体の小面蜘蛛を仕留めた夜叉王に雪女郎は恐る恐る後退りしたのである。
『彼奴…懐刀だけで…小面蜘蛛の三体を一瞬で仕留めちゃったの…』
雪女郎は夜叉王の実力に圧倒され戦慄する。すると直後である。
「ん?妖怪の新手か?」
夜叉王は物陰の雪女郎に気付いたのか神速の身動きにより雪女郎の背後へと移動したのである。
「きゃっ!」
突然の夜叉王の出現に雪女郎は吃驚する。
「貴様は…西国の村里で遭遇した…粉雪妖怪の雪女郎か?」
「あんたは…月影夜叉王よね?妖怪化した人間妖怪のあんたが…三体の小面蜘蛛を瞬殺しちゃうなんてね…正直意外だわ…」
「小面蜘蛛は妖力さえ使用しなければ単なる雑魚妖怪だ…貴様達純血の妖怪は自身の妖力を過信し過ぎだ…」
すると雪女郎は恐る恐る…。
「あんたは今度如何するのよ?夜叉王?ひょっとしてあんたは私を…」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は呆れ果てる。
「貴様みたいな雑魚妖怪を仕留めても無意味だ…」
「はっ?」
『粉雪妖怪の私を雑魚妖怪ですって!?』
雑魚妖怪の一言に雪女郎は苛立ったのである。
「俺は大妖怪羅刹女の奮闘を見届ける…」
「えっ!?羅刹女を見届けるって!?」
「貴様は羅刹女に挑戦するのか?」
問い掛けられた雪女郎は即座に否定する。
「面白くない冗談ね…大妖怪の羅刹女に挑戦するなんて凡庸の私には絶対無理よ…自殺行為だわ…」
返答する雪女郎に…。
「当然だろうな…貴様みたいな雑魚妖怪が一人で羅刹女に挑戦したとしても瞬殺されるだろうからな…」
「なっ!?私を粉雪妖怪の雑魚妖怪ですって…」
『此奴!一言余計なのよ!』
夜叉王の発言に内心腹立たしくなる。
「補足だが…女人の妖怪…桜花姫も大妖怪の羅刹女を征伐しに出掛けたぜ…彼奴が羅刹女に勝利出来るかは保証出来ないけどな…」
「私は即刻桜花姫に加勢するわ!折角だし…あんたも私と一緒に同行しない?」
「俺は…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「暇潰しだ…桜花姫の奮闘も見届けるか…」
「交渉成立ね♪」
「仕方ないな…」
雪女郎と夜叉王は大妖怪の妖気を感じられる中心地の根城へと直行したのである。二人が移動を開始した同時刻…。東国武士団の根城へと移動した桜花姫であるが道中に数人の匪賊達と遭遇する。
「よっ♪姉ちゃんよ♪」
「あんた達は何者よ?」
『面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?』
接触する匪賊達に苛立ったのである。
『こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…』
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りしたのである。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちまえば姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若武者だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若武者ね…」
『匪賊の分際で何が若武者よ…』
桜花姫は彼等を軽蔑…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな片田舎の荒武者とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を片田舎の荒武者って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪姉ちゃんよ♪」
「姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって妖怪達に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…小娘…」
「相手は所詮人間の小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「私が人間の小娘ですって?」
『鬱陶しい奴等だわ…』
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
『雨蛙に変身しちゃえ♪』
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視した直後…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「此奴は妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪妖怪の一人よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が噂話の…西国の妖怪桜花姫なのか!?」
「本物なのかよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させたのである。
「狼狽えるな!桜花姫が妖怪だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば妖怪の小娘だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
『人間に対する禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪』
匪賊の一人に人間に対する禁断の妖術を発動する。
『飴玉に変化しちゃえ…』
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の人間に対する禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化しやがったぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は再度…。即座に東国の根城へと移動したのである。移動を再開してより数分後…。桜花姫は根城の表門へと到達する。
『城内から大妖怪の妖気を感じるわ…』
「羅刹女…覚悟しなさいよ…」
桜花姫は表門から恐る恐る根城の城内へと進入したのである。
「うわぁ…」
城内の庭園は全体的に血塗れであり其処等に将兵達の肉片やら血肉が飛散する。
「恐らくは羅刹女の仕業ね…」
根城の最上層から大妖怪の妖気を感じる。
『大妖怪の妖気だわ…羅刹女ね…』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。一瞬で根城の最上階へと移動したのである。最上階には斬殺された大名達の遺体が確認出来…。室内の中央には血塗れの刀剣を所持した羅刹女が確認出来る。
「あんたは羅刹女…」
「貴様は桜花姫か…怨敵の貴様が一番に私と遭遇出来たみたいだな…」
桜花姫は羅刹女を睥睨する。
「私を殺したいか?弱小妖怪の桜花姫…」
「如何やら私の体内に存在する…人間の巫女…桃子姫の血肉が無慈悲のあんたを征伐したいみたいよ♪私自身は特段羅刹女に対する執着は皆無だけどね♪」
「桃子姫だと?」
桃子姫の名前に羅刹女は一瞬反応したのである。
「大妖怪である私を弱体化させた病弱の巫女風情が…」
『桃子姫はこんな妖怪の小娘の体内で長生きし続けたのか…生命力だけなら油虫に匹敵するな…』
羅刹女は内心桃子姫の生命力を嫌悪する。すると桜花姫は両手より雷撃の妖術を発動…。羅刹女に雷撃したのである。
「こんな程度の妖術…」
羅刹女は自身の妖刀で桜花姫の雷撃を無力化する。
「私には通用しないぞ…」
羅刹女は両目を瞑目させる。
「桜花姫…貴様は無限の苦痛を存分に体感するのだ…」
直後である。桜花姫の視界が漆黒の暗闇に覆い包まれる。
「えっ…」
『幻術かしら?』
彼女の視界に存在するのは漆黒の暗闇ばかりか妖気すら感じられなくなる。
『妖気も感じられないなんて…』
羅刹女の駆使する幻術は妖気すら遮断させたのである。
『桜花姫…貴様は妖気すら感じられず…私の姿形も視認出来ないのだ…』
羅刹女は一歩ずつ身動き出来なくなった桜花姫に近寄り…。妖刀で桜花姫の腹部を刺突したのである。
「ぐっ!」
羅刹女の妖刀により腹部は貫通するが一瞬で再生する。
「貴様の肉体は不死身だが…貴様は半永久的に無限の苦痛を体感し続けるのだ…」
羅刹女は身動き出来なくなった桜花姫に何度も刺突し続けたのである。
「不死身の貴様は未来永劫封印するのが一番だな…早速…」
桜花姫に封印の妖術を発動する直前…。
「ぐっ!」
羅刹女の左手に雷光の刀剣が突き刺さったのである。
『雷光の刀剣だと?』
直後…。漆黒の暗闇が消失したのである。視界の暗闇が消滅すると桜花姫は羅刹女の幻術から解放されたのである。
「私…自由に身動き出来るわ♪」
「畜生が…邪魔者か…」
すると羅刹女の右側より…。
「羅刹女…残念だったな…」
「此奴が大妖怪の羅刹女なの?外見だけなら小柄の小娘みたいね…」
「あんた達は夜叉王と雪女郎♪」
大妖怪の夜叉王と粉雪妖怪の雪女郎が出現する。羅刹女は鬼神の形相で夜叉王を睥睨し始める。
「夜叉王…私の幻術を解除するとは…人間の貴殿を大妖怪として復活させたのは大間違いだったみたいだな…」
羅刹女は右手から超高温の火球を発射する。
「えっ!?」
「雪女郎!」
超高温の火球が夜叉王と雪女郎に直撃する直前…。突如として結界が出現すると超高温の火球から夜叉王と雪女郎を守護したのである。
「えっ?結界だわ…」
『妖気が感じられないわね…』
桜花姫の背後より…。
「如何やら間に合いましたね…桜花姫様!私も援護しますよ!」
「あんたは八正道様♪ひょっとして結界は八正道様が?」
「勿論私ですよ…」
雪女郎は驚愕した表情で八正道を直視する。
「えっ…人間の僧侶が…私達妖怪を?」
羅刹女も八正道を直視したのである。
「貴様…人間の分際で…妖怪達に加勢するとは…」
「妖怪だとしても!桜花姫様は人間の味方ですからね!恩返しですよ♪」
八正道は桜花姫が人間の味方であると断言する。
「何が人間の味方だ…所詮桜花姫は気紛れだろうに…」
羅刹女は八正道の発言を全否定したのである。すると直後…。
「油断大敵よ♪羅刹女♪」
「ん?」
桜花姫の両腕から真蛸の蛸足を連想させる触手を生成される。
「なっ!?」
桜花姫の両腕から生成された無数の触手は羅刹女の肉体を拘束したのである。
「ぐっ!」
羅刹女は桜花姫の体内から生成された触手によって身動き出来なくなる。
「羅刹女♪あんたの肉体…頂戴するわね♪」
「愚か者が…誰が貴様なんかに食い殺されるか…」
羅刹女は苦し紛れに幽体離脱の妖術を発動…。桜花姫に捕食される直前に本体である実体としての肉体から自身の霊魂を分離させたのである。羅刹女の肉体は桜花姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと捕食されたのである。
「桜花姫様♪黒幕の羅刹女を退治されたのですね♪一安心ですよ♪」
「最後は捕食だったけど…大妖怪の羅刹女を仕留めるなんてね♪桜花姫は妖力だけなら大妖怪に拮抗するわね♪」
八正道と雪女郎は大喜びするのだが…。桜花姫の表情が険悪化する。
「羅刹女は一時的に肉体と霊魂を分離させただけよ!油断しないで!」
「えっ!?肉体と霊魂の分離ですって!?」
「ひょっとして羅刹女は幽体離脱の妖術を駆使したのでしょうか!?」
一同は羅刹女の奇襲に警戒するものの…。本体から分離した羅刹女の霊魂の居場所が特定出来ず混乱したのである。
『一体如何すれば…』
羅刹女の姿形は勿論…。妖気と邪気を消失させた影響からか誰しもが彼女の霊体を特定出来ない。
『誰かが…羅刹女の霊体に憑依されるわ…』
すると直後…。
『桜花姫…桜花姫…』
何者かの美声が桜花姫の脳裏に響き渡る。
『えっ…誰なの?』
桜花姫の脳裏に響き渡る美声は女性であるが何者なのかは不明瞭である。
『あんたは誰なのよ?』
『私よ…桃子姫よ…』
美声の正体とは桜花姫の体内に永眠する人間の巫女…。桃子姫だったのである。
『あんたは桃子姫なの?』
すると桃子姫は恐る恐る…。
『桜花姫…私の霊能力を使用して…』
『えっ?あんたの霊能力を?』
『羅刹女の最大の弱点は霊能力よ…』
『あんたの霊能力が…羅刹女の弱点?』
生前の桃子姫は羅刹女との死闘で絶大なる霊能力により彼女を弱体化させたのである。結果的に羅刹女は仕留め切れなかったが…。彼女の弱体化には成功したのである。
『あんただったら大妖怪の羅刹女を仕留められるわ…私自身の霊能力を桜花姫に分け与えるわね…』
すると直後…。桜花姫は全身から瑠璃色の発光体が無数に出現したのである。
『ひょっとして…桃子姫の霊能力かしら?』
周囲の者達は桜花姫の肉体から発生する瑠璃色の発光体に注目する。
「桜花姫様の肉体から…」
「何かしら?妖力?随分異質的ね…」
瑠璃色の発光体は非常に神秘的であり八正道は勿論…。妖怪の雪女郎も瑠璃色の発光体に魅了される。
「霊力よ…」
桜花姫の肉体から発生した無数の発光体は桃子姫の霊力が実体化した超常現象である。生前当初の桃子姫は自身の霊力で極悪非道の妖怪達を退治…。浄化させたのである。
「霊力ですと?」
「霊力ですって?」
八正道と雪女郎は霊力の一言に反応する。
「羅刹女…覚悟なさい…」
桜花姫は霊力を混入させた変化の妖術を発動…。直後である。
「えっ!?桜餅だわ!?」
突如として雪女郎の目前より桜餅が出現する。
「如何して桜餅が出現したのですか?」
「私は羅刹女の霊体を桜餅に変化させたの♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「えっ!?桜餅は羅刹女なの!?」
「桜花姫様は変化の妖術で霊体さえも変化させられるのですか!?」
「勿論よ♪」
桜花姫の返答に周囲の者達は驚愕する。
「桜花姫…最早あんたは大妖怪をも超越した天道の化身ね…」
雪女郎は霊体をも桜餅に変化させた桜花姫を天道の化身と揶揄するのだが…。
「私が天道の化身なんて大袈裟ね♪」
『私が天道の化身ですって♪』
内心大喜びする。
「兎にも角にも…」
桜花姫は桜餅に近寄り…。桜餅を一口で平らげたのである。
「美味だわ♪」
すると八正道は恐る恐る…。
「ですが桜花姫様?如何して桜花姫様は巫女特有の霊力を駆使出来たのですか?桜花姫様の体内で一体何が発生したのでしょうか…」
「私が霊力を駆使出来た理由ですって…」
桜花姫は先程の出来事を洗い浚い周囲の者達に告白する。
「えっ!?巫女の桃子姫様が…桜花姫様に自身の霊力を分け与えられたのですか?」
「桃子姫は…羅刹女が雪女郎の肉体に憑霊するのを阻止したかったのよ…」
「えっ?彼奴…私に憑霊する寸前だったの!?」
雪女郎は身震いしたのである。
「私…下手したら羅刹女に憑依されたかも知れないのね…」
「兎にも角にも…羅刹女は仕留められたわ♪一安心ね♪」
東国を徘徊中だった大量の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が羅刹女の消滅に影響されたのか砂粒へと変化…。彼等の肉体は崩れ落ちたのである。
「東国では妖気も邪気も何一つ感じられません♪私達は羅刹女の野望を阻止出来たのですね♪」
「はぁ…安心して西国の村里に戻れそうね♪桜花姫♪」
「西国に戻って精霊山の露天風呂に入浴するわよ♪」
直後…。
「えっ?」
突如として桜花姫の体内から半透明の巫女装束の女性が出現したのである。
「えっ!?桜花姫の肉体から人間の巫女が出現したわ…桜花姫?彼女は一体何者なのかしら?」
「此奴は誰だ?人間の巫女なのか?」
「貴女様はひょっとして…」
突如として出現した巫女の霊体に一同は再度驚愕する。
「あんたは桃子姫?」
桜花姫の問い掛けに桃子姫は背後を直視したのである。
「桜花姫♪感謝するわね♪私は無事…昇天出来そうなのよ…」
「桃子姫…昇天ですって?」
昇天の一言に桜花姫は反応する。
「貴女が私の因縁である羅刹女を征伐したからね♪今日で私の巫女としての役目は無事終了よ♪」
羅刹女と桃子姫は因縁の関係であり彼女は桜花姫が誕生して以降…。彼女の体内で半永久的に永眠し続けた状態だったのである。今回の戦闘で羅刹女が消滅してより…。彼女との因縁は完全に消滅したのである。
「桃子姫様…」
八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「貴方は八正道様…」
「先日は感謝します…桃子姫様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来たのです…桃子姫様の救済は無ければ私は今頃…」
「貴方は今後…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を実現出来そうな人物だから…私にとっても…桜花姫にとっても貴方は必要なのよ…」
「私が…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を…」
八正道は一瞬困惑するが…。
「実現させますとも♪桃子姫様♪約束しましょう…」
すると桃子姫の霊体が消滅し始める。
「如何やら…時間みたいね…」
夜叉王以外の者達が消滅し始める桃子姫に反応したのである。
「えっ…桃子姫…」
「桃子姫様?」
「彼女…消滅しちゃうわ…」
桃子姫は笑顔で…。
「最後だけど…桜花姫♪三十年間…今迄私は貴女と一緒だったけれども♪私は幸福だったわ♪天上世界でも…貴女を見守るからね♪」
桃子姫は笑顔の表情で消滅したのである。桃子姫が消滅した直後…。桜花姫の肉体から人間の気配が完全に消失したのである。
「桜花姫様…」
「桜花姫?」
普段は笑顔の絶えない桜花姫であるが…。彼女の涙腺より涙が零れ落ちる。
『えっ!?桜花姫様が…落涙されるなんて…』
『桜花姫でも…落涙するのね…』
落涙する桜花姫に八正道と雪女郎は驚愕したのである。

最終話

対決
大妖怪羅刹女と部下達の東国襲撃から一週間後…。妖怪騒動によって各地の村里は騒然としたが半月が経過すれば自然と沈静化したのである。羅刹女による大事件以降…。僧侶の八正道は妖怪達と人間達が共存出来る理想の世界の実現に活動を開始する。桜花姫の悪友である粉雪妖怪の雪女郎は西国の村里でのんびりと生活したのである。今回の大事件解決の功労者である桜花姫は大妖怪の羅刹女を捕食したのを契機に…。大妖怪へと昇格したのである。桜花姫は各地の妖怪達から畏怖され…。誰しもが大妖怪である彼女に手出し出来なくなったのである。大事件終結から一月が経過…。桜花姫は西国と東国の国境へと移動したのである。
「はぁ…退屈だわ…」
『面白そうな大事件でも発生しないかしら?』
羅刹女の妖怪大事件以降…。妖怪達による妖怪関連の怪異事件は減少したのである。妖怪関連の怪異事件が一件も発生せず桜花姫は正直憂鬱に感じる。
『近頃は妖怪達が大人しいわね…』
すると直後…。
「えっ?」
『気配だわ…』
突如として背後より不吉の気配を感じる。
「妖気だわ…」
気配の正体は妖気だったのである。
「相当強力ね…大妖怪の妖気かしら?」
大妖怪の妖気に桜花姫は警戒し始める。
「何が出現するのかしら?」
すると彼女の背後より…。
「えっ…あんたは?」
桜花姫の背後には鬼神を連想させる甲冑を装備した武士が佇立する。
「久方振りだな…大妖怪…桜花姫よ…」
『誰かと思いきや…』
「あんたは大妖怪…月影夜叉王ね♪」
武士の正体とは大妖怪の月影夜叉王だったのである。
「久し振りね♪月影夜叉王♪あんたが元気そうで安心したわ♪」
夜叉王との再会に桜花姫は大喜びする。
「私に用事かしら?夜叉王♪」
問い掛けられた夜叉王は無表情で桜花姫を凝視したのである。
「桜花姫…俺は全身全霊で最強の存在である貴様と勝負したくなった…今度こそ俺と本気で勝負しろ…」
「私と勝負ですって?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「俺と貴様は妖力が拮抗する…何方が俗界で最強の妖怪なのか…明確化する絶好機だからな…」
桜花姫は恐る恐る周囲を確認したのである。
『周囲に人気は感じられないわね…』
周囲に人気は皆無であり桜花姫は一安心したのか笑顔で…。
「私も退屈だったのよ♪夜叉王♪暇潰しに私と勝負しましょう♪」
「であれば好都合だ…桜花姫…」
夜叉王も桜花姫の返答に内心大喜びだったのである。
「今度は本領を発揮しなさいよ♪月影夜叉王♪」
「貴様に指摘されずとも…」
夜叉王は左手に雷光の刀剣を形作る。
「今回は全力を発揮する!貴様も全身全霊の妖力を発揮しろよ!桜花姫!」
「勿論よ♪私も全身全霊であんたと勝負したかったの♪今回は手加減しないからね♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
完結

第弐部

第一話

車輪
大妖怪羅刹女との大戦闘から半年後…。大妖怪へと昇格した桜花姫は退屈なのか家屋敷の居間で寝転んだのである。
「はぁ…退屈だわ…」
何一つとして事件らしい事件が発生せず…。桜花姫は毎日の日常生活が憂鬱だったのである。
「大事件でも発生しないかしら?」
すると何者かが家屋敷の戸口を強打する。
「えっ?何かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には一人の僧侶が佇立…。
「誰かと思いきや…あんたは八正道様?」
僧侶は誰であろう八正道だったのである。
「桜花姫様…大変です…」
八正道は騒然とした表情であり桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「何が大変なのよ?八正道様?」
「北国で大事件が発生しました…」
「北国で大事件ですって♪一体何が発生したのかしら♪」
大事件発生に桜花姫は大喜びする。
「近頃の出来事なのですが…」
三日前の出来事である。真夜中…。北国の田舎町にて火炎に覆い包まれた車輪が出現するとの噂話が北国全域に出回る。真夜中に火炎に覆い包まれた牛車の車輪と遭遇した目撃者は高熱によって死去したのである。
「火炎に覆い包まれた牛車の車輪ね…」
「今現在北国では村人達が付喪神の呪詛だと大騒ぎですよ…」
「付喪神ね…」
桜花姫は一瞬瞑目する。
「恐らくだけど…車輪の付喪神から判断して…器物妖怪の【輪入道】かしら?」
「輪入道ですと?」
輪入道とは霊体妖怪が牛車の車輪に憑依した付喪神である。輪入道も小面蜘蛛と同様に器物妖怪の一種とされる。一説によると戦乱時代の最中…。頭首を斬首された僧侶達の無念が妖怪化した存在とされ器物である牛車の車輪に憑依したのが輪入道とされる。
「輪入道は器物妖怪の一体ですか…遭遇した人間を呪殺出来るとは非常に厄介ですね…即刻輪入道を退治しなくては…」
「早速北国に移動しましょう♪」
桜花姫と八正道は即座に外出すると西国の村里から北国の田舎町へと移動したのである。二人は移動を開始してより一時間後…。二人は事件現場とされる北国の田舎町へと到達したのである。時間帯は昼間であり人通りは確認出来る。すると桜花姫は近辺の町民に問い掛ける。
「御免あそばせ♪」
「はぁ?娘さん…如何されましたか?」
「単刀直入だけど…北国に輪入道が出現したらしいのよね…」
すると直後…。
「ひっ!輪入道ですって!?」
町民は輪入道の一言に畏怖した様子で一目散に桜花姫と八正道から逃走し始める。
「えっ?町民は逃げちゃったわ…八正道様…」
「如何やら先程の町民の様子から判断して…北国の町民達にとって輪入道とは相当畏怖すべき存在なのでしょうね…輪入道の名前を傾聴するだけでも畏怖するとは輪入道の呪詛は相当危険なのでしょう…」
「面白そうね♪同種の妖怪にも輪入道の呪詛が通用するのかしら♪」
桜花姫は輪入道と遭遇したくなる。すると二人の背後より…。
「貴方達は国外の旅人みたいですね…」
長老らしき高年齢の男性が桜花姫と八正道に近寄る。
「えっ?誰なの?」
「貴方様は?」
「私は北国の長老で医者の身分です…」
「貴方様は医者ですか…」
医者の長老は恐る恐る…。
「今現在北国には極悪非道の妖怪が出現したのです…こんな場所で余所者の貴方達が長居し続ければ妖怪に遭遇して…外部の貴方達が妖怪に呪詛されましょう…」
医者の長老は二人に警告したのである。
「北国は危険地帯です…即刻戻られるべきかと…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私達の目的は北国に出現した妖怪に遭遇するのが目的なの♪」
「妖怪に遭遇ですと?」
今度は八正道が説明する。
「私達は北国に出現した妖怪を退治しに北国に参上したのです…」
「妖怪を退治ですか…」
医者の長老は二人を凝視し始める。
「貴方が法師様なのは理解出来るのですが…相方の娘さんは都会の小町娘でしょうか?彼女が極悪非道の妖怪を退治出来るのですかね?」
桜花姫の姿形から妖怪を退治出来るのか疑問視したのである。
「長老様…彼女は姿形のみなら人間の少女ですが…彼女の正体は妖怪なのです…」
八正道は桜花姫の正体が妖怪であると説明する。
「えっ!?彼女の正体が妖怪ですと!?本当なのですか?姿形のみなら人間の少女にしか…」
医者の長老は驚愕したのである。
「私は正真正銘妖怪なのよ♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「信じ難いでしょうからね…私が本物の妖怪だって事実を証明するわよ♪」
桜花姫は医者の長老が所持する薬袋に変化の妖術を発動…。直後である。長老の所持する薬袋が飴玉に変化したのである。
「なっ!?薬袋が…飴玉に!?」
突然の桜花姫の妖術に長老は驚愕する。
「如何かしら♪変化の妖術よ♪」
桜花姫は変化の妖術を解除させる。すると飴玉が薬袋に戻ったのである。
「理解出来たでしょう♪私が本物の妖怪だって♪」
医者の長老は桜花姫に畏怖すると恐る恐る後退りする。
「心配されなくとも大丈夫ですよ…長老様…彼女は妖怪ですが…半年前の東国の騒動では彼女が妖怪達を退治したのですよ…妖怪の親玉である羅刹女も彼女にとって退治されましたからね…」
八正道は半年前の妖怪騒動の経緯を告白したのである。
「妖怪である彼女が…同族の妖怪を退治したと?」
「私自身も最初は驚愕しましたが…彼女は正真正銘人間の味方ですよ♪」
八正道は笑顔で主張する。
「先程の妖術もですが…人間の法師様が主張されるのであれば私も妖怪の娘さんを信用しましょう…」
「私は桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で自身の名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
八正道も名前を名乗ったのである。
「妖怪の娘さんが桜花姫様で…法師様が八正道様ですね…」
すると医者の長老は恐る恐る…。
「突然なのですが…」
「如何されましたか?長老様?」
医者の長老は二人を自身の家屋敷へと道案内したのである。
「えっ…」
「病人かしら?」
家屋敷に移動すると室内には十数人もの老若男女の患者達が高熱で寝転ぶ。誰しもが重苦しい深呼吸であり瀕死の状態だったのである。
「彼等は疫病の患者なのですが…全員妖怪に遭遇した当事者の家族なのです…」
輪入道の呪詛は真夜中に遭遇した当事者のみならず…。当事者の身内にも輪入道の呪詛が伝染したのである。
「疫病ですね…」
「十二人も絶命したのです…尽力しましたが治療法も存在しません…彼等も時間の問題でしょうね…」
長老は多種多様の薬品を使用するも…。効果は皆無であり三日間だけで十二人の患者が死去したのである。
「最早彼等を救済するには念仏以外…」
長老は涙腺から涙が零れ落ちる。
「長老様…」
八正道は絶句したのである。一方の桜花姫は無表情で目前の少女を凝視し続ける。少女は虫の息であり衰弱死寸前だったのである。
「彼女…」
桜花姫は恐る恐る少女の胸部に接触する。
「桜花姫様?一体何を?」
八正道は桜花姫に問い掛ける。数秒後…。虫の息だった少女の呼吸が正常に戻ったのである。
「なっ!?」
「現実なのか!?」
八正道と長老は驚愕する。少女は土気色だった顔色も正常に戻り始める。
「貴女様は一体何を?妖術なのですか?」
長老は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「私自身は妖怪の肉体だから大丈夫だけど…美味しくないわね…非力の人間が衰弱死するのは当然かしら…」
「桜花姫様は恐らく…妖術で少女の体内の毒素を吸収されたのでしょう…」
八正道は長老に説明する。
「毒素を吸収…」
八正道は桜花姫に依頼したのである。
「桜花姫様…貴女の妖術で患者達の毒素を吸収出来ませんか?」
「出来るけれど…」
桜花姫は内心不本意であるが…。彼女は各患者の皮膚に接触したのである。すると患者達の様子が正常化する。
「はぁ…」
桜花姫は草臥れたのか一息したのである。八正道は笑顔で…。
「桜花姫様♪感謝しますよ♪」
一方の長老も桜花姫に一礼する。
「感謝します!桜花姫様!」
「あんたは今度♪私に桜餅を頂戴しなさいね♪約束よ♪」
「承知しました♪」
長老は大喜びした様子で承諾したのである。
「患者達は大丈夫だけど…安静にさせるべきだわ…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると八正道は長老に問い掛ける。
「長老様…各地の噂話では北国に出現した妖怪は車輪の妖怪との内容なのですが…本当なのですかね?」
長老は恐る恐る…。
「患者達の証言では…牛車の車輪に人間の頭部が一体化した…異形の妖怪と遭遇したとの内容でしたね…ひょっとすると牛車の車輪の妖怪と目撃者達の疫病が関係するのかも知れませんね…」
桜花姫は恐る恐る発言する。
「恐らくだけど今夜も器物妖怪の輪入道が出現するでしょう…あんたは町民達に夜間の外出を禁止させて!人間が輪入道と遭遇すると最悪呪殺されるでしょうからね…」
「承知しました…桜花姫様…」
長老は桜花姫の指示を掌握する。
「私は…」
長老は外出すると田舎町の各家屋にて今夜の外出自粛を要請したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:12
投稿者 月影桜花姫
参照先
第七話

野犬

天地歴三千五年八月中頃…。北国には【鬼殺丸】と名乗る最上級武士が北軍の強兵として各戦場で活躍する。鬼殺丸は年齢十五歳の青二才であるが…。外見のみなら好青年であり今迄の各戦場での功績から次期北軍の総大将に任命される。同年八月十五日の真昼の出来事である。鬼殺丸は久方振りの気分転換に南国の最高峰である荒神山の頂上より…。南国の絶景の景色を眺望する。
「南国はこんな時代に平穏だな…」
荒神山の頂上から眺望出来る景色は非常に絶妙であり空気も清涼である。荒神山全体は非常に物静かな雰囲気であり自然林からは僅少の風音が響き渡る。
「南国は荒武者の集合地帯って命名されるが…案外平和そうだな…」
南国は荒武者の集合地帯とも呼称され…。各国の領主達からは必要以上に畏怖される。領土の大半は農村地帯であり南軍の兵卒達も大半が農村の村人達である。
(長居し続けても無意味だな…)
「北国に戻ろうか…」
祖国の北国に戻ろうかと思いきや…。背後より気配を感じる。
(ん?)
「気配を感じるな…」
鬼殺丸は冷静の表情であるが…。警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。すると鬼殺丸の背後には白色の野犬が一匹…。無表情で鬼殺丸を凝視したのである。
「此奴は…単なる野犬か…」
一安心するものの…。
「折角だ…」
鬼殺丸は護身用の拳銃を携帯したのである。
(異国の拳銃とやらが本当に役立つのか…)
「此奴で試射するか…」
鬼殺丸の性格は人一倍負けず嫌いな性格であるが非常に獰猛で野蛮であり戦場であれば相手が無抵抗の女性やら子供は勿論…。無力の老人であっても平気で殺害する残虐非道の荒武者である。場合によっては敵軍の攻撃で瀕死状態だった仲間も殺害…。自軍の将兵達からも畏怖されたのである。
「野犬よ…私に遭遇したのを後悔するのだな…」
鬼殺丸は拳銃を発砲…。野犬の前頭部に拳銃の銃弾が直撃したのである。銃撃された野犬は即死…。地面に横たわったのである。地面には野犬の鮮血により赤色に染色する。
「人間を打っ殺す場合でも…案外此奴は役立ちそうだな…」
鬼殺丸は祖国の北国へと戻ったのである。同年の九月一日…。北軍は東国が牛耳る金剛山への侵攻作戦を開始したのである。金剛山は東国の支配領域であるが金剛山を攻略出来れば無尽蔵の牢固石が確保出来…。東国への侵攻が容易くなる。北国の領主は即座に兵卒達を集結させ東国の金剛山侵攻作戦を開始させる。北国の根城より大勢の兵卒達が集結したのである。
「全軍覚悟せよ!」
北軍の侍大将が発言する。
「今回東国の金剛山を陥落させれば大量の牢固石も確保出来…大敵の東国を弱体化させられる絶好の機会である!総軍で奮闘すれば確実に勝利出来る戦闘であるぞ!」
直後…。北軍の兵卒達の士気が鼓舞したのである。
「金剛山を守備する東軍の総兵力は俺達よりも数倍上回るが…所詮奴等は烏合の衆である!相対する貴様達は歴戦の勇士なのだ!貴様達歴戦の精鋭達が奮闘すれば…確実に東軍の烏合の衆を容易に蹴散らせられる!」
今回集結した北軍の総兵力は推計三百人…。金剛山を守備する東国の総兵力は最低でも推計九百人であり兵力では圧倒的に不利であるものの…。今回の作戦に抜擢された北軍の兵卒達は歴戦の勇士達であり北軍最強の鬼神と呼称される鬼殺丸も抜擢されたのである。
「全軍!即刻進撃を開始するぞ!」
侍大将を先頭に北軍は東国の支配領域である金剛山への侵攻作戦を開始する。移動中…。二人の足軽が私語する。
「あんた…敵兵を何人殺せるか俺と競争しないか♪」
小柄の足軽が競争を提案するのだが…。大柄の足軽は嫌悪した様子で返答する。
「他人事氏の競争なんて…不謹慎だな…俺は即刻村里に戻りたいのに…」
足軽は農民が大半であり村里に戻りたい兵卒達も少なくない。大柄の足軽が返答すると小柄の足軽が…。
「あんたは巨漢なのに随分弱腰だよな♪敵兵を二百人以上打っ殺せば三石の米俵を獲得出来る絶好の機会なのに♪」
北国では敵国の兵卒を二百人以上殺害した場合は褒美として三石の米俵を譲渡される。敵軍の総大将…。強豪の強兵を斬首した場合は領主の側近として一生涯従事出来る。すると小柄の足軽は無口の鬼殺丸に競争を提案したのである。
「兄ちゃんよ♪あんたも敵兵を何人殺せるか俺と敵兵打っ殺し競争しないか?」
(此奴…命知らずだな…)
小柄の足軽に大柄の足軽が命知らずであると感じる。すると鬼殺丸が睥睨した表情で返答する。
「鬱陶しい…貴様は私に殺されたいか?」
「ひっ!」
鬼殺丸の威厳と目力に圧倒されたのか小柄の足軽は勿論…。周囲の兵卒達が鬼殺丸に畏怖したのである。鬼殺丸は北軍では最強の武人である反面…。味方であっても気に入らなければ殺害する。鬼殺丸が発言すると周囲は即座に沈黙したのである。北軍が進撃してより二時間後…。北国と東国の国境へと到達する。
「国境に到達したぞ!目的地の金剛山は間近だ!」
侍大将を先頭に北軍は再度金剛山へと直行したのである。金剛山の天辺には東軍の根城が増築され根城の表門には二人の番兵が警備する。真夜中であるが表門の番兵が無数の足音に気付いたのである。
「足音だ…味方の軍勢か?」
「こんな真夜中に味方の軍勢が行動するか?」
直後…。真正面の山道より大勢の武士達が天辺の根城へと突入する。
「なっ!敵襲だ!」
「北軍の奴等だな!」
旗印を直視すると敵軍は北軍であると認識…。根城内部の兵卒達が番兵の呼号に気付いたのである。
「敵襲だと!?」
守備隊の兵卒達は即座に抜刀する。すると進撃中の北軍は攻城兵器である破城槌で真正面の表門を破壊…。
「表門が破壊されたぞ!」
表門を突破した北軍は城内へと進撃したのである。
「全軍!東国の荒武者達を打っ殺せ!」
北軍の侍大将が命令したと同時に北軍の足軽…。武士達が東国の兵卒達に襲撃する。
「根城を守備しろ!敵軍を撃退するのだ!」
根城の城内は乱戦状態であり敵味方の鮮血…。肉片が城内に散乱したのである。北軍最強の鬼神…。鬼殺丸は神速の身動きと剣術を駆使しては接近する東国の兵卒達を瞬殺する。戦闘開始からの五分間で東国の兵卒達を十二人殺害したのである。
(雑魚ばかりか…)
鬼殺丸は根城の最上階へと直行する。同時刻…。根城の最上階には東国の総大将と側近が停留する。
「総大将…敵軍は北軍みたいです…」
「北国の奴等か…恐らく奴等は金剛山に埋没する牢固石を確保したいみたいだな…」
すると障子の奥側より見張り役達の悲鳴が響き渡る。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
障子には赤色の血飛沫が飛散したのである。障子の血飛沫を直視すると総大将と側近は畏怖する。
「ひっ!」
「狼狽えるな…」
総大将は恐る恐る護身用の懐刀を抜刀したのである。すると障子が蹴破られる。
「貴様は一体…」
食人餓鬼を連想させる甲冑を装備した武士が出現したのである。右手には鮮血により赤色に染色した刀剣が確認出来る。
「私は…鬼殺丸…」
「鬼殺丸って…」
「貴様が北国最強の鬼神…鬼殺丸なのか!?」
鬼殺丸が名前を名乗ると総大将と側近は極度に畏怖するなり後退りする。
「貴様…城内の若武者達は?」
「今頃…撤退か…全滅しただろうな…」
総大将に問い掛けられた鬼殺丸は即答したのである。
「貴様…一体如何するのだ?」
恐る恐る問い掛ける総大将に鬼殺丸は再度即答する。
「如何するって…私は東国最強の軍神…夜桜崇徳丸みたいに相手が無抵抗でも手加減しない…」
直後…。鬼殺丸は神速の身動きにより総大将と側近の頭首を斬撃したのである。鬼殺丸は総大将の頭首を所持するなり…。最上階から脱出する。戦闘は継続中であり敵味方の兵卒達が乱戦したのである。鬼殺丸は一息するなり…。
「全員注目せよ!」
鬼殺丸の大声に敵味方の兵卒達が鬼殺丸に注目する。
「えっ?」
「一体何事だ?」
「鬼殺丸?」
鬼殺丸は東国総大将の頭首を敵味方に拝見させる。
「此奴を直視せよ!」
北軍は勿論…。東軍の兵卒達も愕然とした表情で東軍総大将の頭首を直視したのである。
「なっ!?総大将が…」
「斬首されたのか!?」
東軍の兵卒達は絶望したのか一目散に根城から逃走する。
「敵軍が撤退したぞ!俺達の大勝利だ!」
北軍の侍大将は勿論…。兵卒達は大喜びしたのである。侍大将は鬼殺丸に近寄るなり…。
「鬼殺丸♪見事だったぞ!今回で貴様は次期領主に確定したからな♪」
すると鬼殺丸は無表情で返答する。
「私には領主なんて不向きだ…」
「不向きだと?」
「私は徹底的に敵対者を斬首する…思う存分気に入らない人間を打っ殺せれば満足だ…」
鬼殺丸の発言に一瞬畏怖するも侍大将は笑顔で…。
「貴様らしい発言だな♪今後も思う存分大勢の敵兵を仕留めろよ…」
今回の戦闘で金剛山は北軍に襲撃され占拠されたのである。翌朝…。北軍は東軍の残存勢力殲滅を名目に金剛山の東側近辺に位置する村里への襲撃を実行したのである。村里を襲撃するものの…。東軍の残存勢力は皆無であり北軍の襲撃により数十人の村人が殺害される。
「畜生…結局東軍の残党は一目散に逃げやがったか…」
「ですが大量の米俵を入手出来ましたぜ♪」
東軍の残存勢力殲滅は達成出来なかったが…。大量の食糧を確保出来たのである。村里の中心地では兵卒達が飲酒するなり大声で談笑する。鬼殺丸は中心地のとある民家にて一人で焼酎を飲酒したのである。すると二人の兵卒達が民家に進入する。
「ん?あんたは鬼神の鬼殺丸か…」
大柄の兵卒が鬼殺丸に近寄る。
「あんたの昨日の活躍は絶大だったな♪」
「俺もあんたみたいに活躍したいぜ♪鬼殺丸みたいに活躍出来れば俺も今頃は北国の領主確定だな♪」
中柄の兵卒が発言する。すると鬼殺丸は無表情で…。
「私は単純に気に入らない人間を殺したいだけだ…私にとって地位も名誉も無価値であり不要…」
(此奴…無欲だな…)
二人とも鬼殺丸が無欲であると感じる。すると突然…。
「ん?誰だ?」
「村里の子供みたいだな…」
民家の板戸より血塗れの着物姿の少女が民家の玄関口へと進入したのである。少女の左手には出刃包丁が確認出来る。少女は鬼殺丸を睥睨するなり…。
「あんたが…あんたが私の父様と母様を殺した武士ね…」
少女は鬼神を連想させる表情で力一杯鬼殺丸を睥睨する。
「お嬢ちゃんよ…相手は北軍最強の武士だぜ♪お嬢ちゃんみたいな小娘なんて簡単に打っ殺されちまうぞ♪」
「此奴はお嬢ちゃんみたいな子供でも容赦しないからな♪死にたくなかったら即刻逃げちまいな♪」
鬼殺丸は無表情で少女に近寄る。すると少女は恐る恐る…。
「如何して…如何してあんたは私の父様と母様を殺したのよ…」
少女は目前で父親と母親が惨殺されたのである。少女の涙腺から涙が零れ落ちる。
「であればあんたも地獄で父ちゃんと母ちゃんに再会しな…」
「えっ?」
鬼殺丸は即座に抜刀すると少女の頭首を一刀両断…。室内には彼女の鮮血が飛散する。
「鬼殺丸…」
「此奴…本当に無慈悲だな…子供相手にも容赦しないとは…」
相手が子供でも容赦しない鬼殺丸に二人の兵卒達は畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
「であれば今度は貴様達も小娘みたいに斬首されたいか?」
「ひっ!」
鬼殺丸に畏怖した二人の兵卒達は一目散に逃走する。
「所詮奴等も小心者だな…」
同時刻…。東国の中心地に位置する本拠地では北国の領土拡大により根城全体が大騒ぎする。
「北軍の領土拡大なんて本当なのかよ!?」
「如何やら本当らしい…金剛山の根城が奴等の少数精鋭の軍勢によって陥落したって…」
「金剛山の総大将も斬首されたらしいな…」
東軍の武士達は北軍の進撃に畏怖したのである。東国の領主達は即座に討伐部隊を編成する。一番に討伐部隊に抜擢されたのは東国の軍神と呼称される夜桜崇徳丸である。崇徳丸は鬼神を連想させる甲冑を装備…。愛刀である牢固石の刀剣を護身用に所持したのである。崇徳丸以外には推計八百人もの精鋭達が北軍討伐部隊として抜擢されたのである。東国中心地の根城より討伐部隊が集結する。
「俺達は即刻東国の領内に侵攻する北軍を撃退する!全員で奮闘すれば確実に撃退出来る戦闘であるぞ!」
東軍は侍大将を先頭に討伐部隊が追尾したのである。移動中…。崇徳丸に隣接する若齢の足軽が恐る恐る発言する。
「あんたは夜桜一族の夜桜崇徳丸様だよな?」
すると崇徳丸は即答したのである。
「勿論ですが…如何されましたか?」
「こんな場所で発言するのも不謹慎だが…正直あんたは自分の村里へは戻りたくないのか?俺は正直一目散に戻りたいよ…」
崇徳丸は一瞬沈黙するものの…。
「正直私は…祖国よりも西国に安住したいですね…」
崇徳丸の発言に足軽は一瞬驚愕する。
「西国に?意外だね…あんたは祖国に戻りたくないのか?」
崇徳丸は困惑した表情で…。
「正直東国の風習は堅苦しい…出来るなら私は少人数の武陵桃源の土地で安住したいですね…」
崇徳丸にとって東国の風習は堅苦しく苦痛だったのである。戦乱時代が終焉したら何者にも束縛されない場所に安住したいと思考する。
「武陵桃源か…」
すると足軽は笑顔で発言する。
「東国が無事に天下統一出来れば…西国で安住しなされ♪」
「感謝します♪私は貴方様の無事を切願しますよ♪」
「崇徳丸様♪勿論俺も崇徳丸様の無事を切願しますよ♪」
彼等は握手したのである。本拠地から移動してより二時間後…。周囲は非常に物静かであり清涼の風音が響き渡る。討伐部隊は金剛山の近辺に位置する村里の郊外へと到達するのだが…。
「なっ!?」
「村里では一体何が?」
彼等が直視したのは荒廃した村里である。人気は皆無であり腐敗した鮮血の悪臭が村里全体に蔓延する。
「襲撃されたみたいだな…」
崇徳丸は一瞬瞑目するなり…。
(無数の殺気を感じる…)
崇徳丸は幼少期から気配やら殺気を察知する感知能力が顕著であり人一倍敏感である。すると侍大将が恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「崇徳丸?敵軍の兵力は何人か判別出来るか?」
問い掛けられた崇徳丸は即座に返答する。
「気配から判断して…敵軍の兵力は推定二百人前後かと…」
「二百人前後か…」
周囲の兵卒達は崇徳丸に驚愕したのである。
「崇徳丸はこんな場所からでも気配だけで敵軍の人数を判断出来るのか!?」
「本当に人間なのか?此奴は?」
侍大将が村里への突入を合図する。
「全軍…慎重に突入しろ…敵兵を発見すれば即座に仕留めよ…」
討伐部隊は侍大将の合図と同時に恐る恐る村里へと潜入したのである。村里に突入すると惨殺された村人達の遺体…。肉片やら鮮血が彼方此方に確認出来る。
「敵軍は村人達を殺したのか…」
すると移動中…。崇徳丸は腹部を斬撃された妊婦の遺体を発見する。
「奴等は妊婦にも手出ししたのか…」
崇徳丸は涙腺から涙が零れ落ちるなり…。恐る恐る両手で合掌したのである。先程一緒に談笑し合った足軽が恐る恐る崇徳丸に近寄る。
「あんたは敵兵からは極悪非道の悪鬼だって畏怖されるみたいだが…今現在のあんたは本当に仏様だよ…」
「こんな私が仏様か…」
足軽の一言に崇徳丸は内心嬉しくなる。
「俺達が頑張って殺し合いの世の中を終了させましょう!」
足軽の発言に…。
「勿論ですとも!」
彼等は再度村里の中心地へと直行する。討伐部隊は村里の中心地に到達したのである。村里の中心地には北軍の兵卒達が潜伏中であり東軍の彼等と対峙するなり…。
「奴等…東国の軍勢ですぜ…」
討伐部隊の総大将が恐る恐る北軍の兵卒達に問い掛ける。
「貴様達か!?村里を襲撃したのは…」
すると北軍の兵卒が即答する。
「勿論俺達だよ♪俺達にとって東国の領内に居住する奴等は全員殲滅の対象だからな!」
「俺達は相手が女人だろうと子供だろうと打っ殺すぜ♪服従するなら別だけどな♪」
討伐部隊の兵卒達が彼等の言動に腹立たしくなる。
「外道が…」
北軍の侍大将が刀剣を抜刀する。
「こんな場所に東軍の奴等が出向くとは…非常に好都合である♪」
北軍の侍大将は合図したのである。
「全軍!東国の奴等は憎悪すべき対象だ!皆殺しにせよ!」
侍大将の合図と同時に北軍の兵卒達が殺到する。
「奴等を討伐せよ!」
東軍の侍大将も反撃を合図したのである。北軍の軍勢と討伐部隊の軍勢が衝突…。乱戦状態へと発展する。同時刻…。大勢の将兵達の雄叫びが村里全域へと響き渡り移動中の崇徳丸と若齢の足軽が兵卒達の雄叫びに気付いたのである。
「如何やら中心地で戦闘が開始されたみたいですね…」
「俺達も参戦しましょう♪崇徳丸様!」
すると道中…。三人の北軍将兵と遭遇したのである。
「ん?貴様達は東軍の奴等か?」
三人の将兵達は即座に抜刀する。崇徳丸と若齢の足軽は警戒した様子で刀剣を抜刀したのである。
「如何やら北軍の敵兵みたいですね…」
「如何しますかい?崇徳丸様?」
「仕留めなければ私達が殺されます…」
すると北軍の兵卒が崇徳丸の名前を傾聴するなり…。
「貴様は東国の軍神…夜桜崇徳丸か?」
「貴様によって俺達の戦友は大勢殺されたのだ!復讐する!」
崇徳丸は今迄の戦闘で数十人もの敵兵を斬殺したのである。味方からは英雄として扱われるも…。敵軍からは憎悪すべき対象として認識されたのである。
「覚悟せよ!」
三人の兵卒達が崇徳丸に殺到するも…。崇徳丸は神速の身動きにより数秒間で三人の兵卒達を瞬殺したのである。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
彼等は地面に横たわる。三人の敵兵を瞬殺した崇徳丸に若齢の足軽は愕然とする。
「一瞬で三人の敵兵を瞬殺するなんて…あんたは本当に軍神だな…」
「私は人間ですよ…」
返答する崇徳丸に若齢の足軽は苦笑いしたのである。
「私達は即刻討伐部隊に合流して…敵軍に反撃しなくては…」
移動する直前…。
「なっ!」
(殺気!?)
「今度の相手は私だ…」
鬼神を連想させる甲冑を装備した武士が左手に拳銃…。右手には刀剣を装備した状態で拳銃を崇徳丸に発砲する。
「崇徳丸様!」
若齢の足軽が崇徳丸を庇護…。胸部に拳銃の銃弾が命中する。
「ぐっ!」
若齢の足軽が地面に横たわる。
「大丈夫ですか!?」
すると若齢の足軽が…。
「崇徳丸様…無事で…何よりです…」
若齢の足軽は息絶える。
(如何して気付けなかった…畜生…)
崇徳丸の涙腺より涙が零れ落ちる。すると敵軍の武士が落涙する崇徳丸に近寄る。
「今度こそ貴様を仕留める…東国の軍神…夜桜崇徳丸…」
崇徳丸は強烈なる目力で敵軍の武士を睥睨するなり…。
「私を殺したいか?崇徳丸…」
敵軍の武士は無表情で名前を名乗る。
「私の名前は北国の鬼神…鬼殺丸だ…貴様も地獄で仲間と再会しな♪」
普段は無表情の鬼殺丸であるが…。一瞬微笑したのである。
「鬼殺丸?」
(此奴が北軍最強の武人か…)
鬼殺丸も東国…。南国の武士達から畏怖される一人である。
「覚悟しろ!崇徳丸!」
鬼殺丸は神速で崇徳丸に急接近…。
「鬼殺丸!」
崇徳丸も全身全霊で鬼殺丸に突撃する。両者が交差した直後…。
「ぐっ!」
鬼殺丸が胸部より出血したのである。
「崇徳丸…貴様…」
崇徳丸の背中を睥睨するなり…。地面に横たわる。
「鬼殺丸…所詮貴様では私を殺せない…」
「畜生が…」
崇徳丸は無表情で横たわる鬼殺丸に近寄る。
「貴様は今迄…大勢の村人達を惨殺したみたいだな…」
「村人達を…惨殺だと?」
横たわる鬼殺丸に断言する。
「今後は罪滅ぼしとして大勢の村人達を守護しろ…急所は無事だ…貴様なら遣り直せる…」
崇徳丸は即座に村里の中心地へと移動したのである。
(何が…)
「何が罪滅ぼしだ!崇徳丸!貴様だって大勢の足軽を打っ殺しただろ!」
普段は冷静であり無表情の鬼殺丸であるが…。今回ばかりは崇徳丸の発言に鬼殺丸の表情が鬼神の表情へと変化する。同時刻…。崇徳丸は村里の中心地へと移動すると殺到する敵兵を無我夢中に仕留める。最初は互角に交戦するが崇徳丸の参戦により北軍は兵力の半分以上を喪失…。北軍は後退したのである。
「畜生!東軍の奴等!」
すると血塗れの兵卒が北軍の侍大将に近寄るなり…。
「戦闘を継続し続ければ軍勢が全滅します!金剛山に撤退しましょう!」
「止むを得ないな…」
侍大将は決断する。
「全軍金剛山に撤退するぞ!」
侍大将の撤退の合図と同時に北軍の軍勢は一目散に金剛山へと撤退したのである。討伐部隊の侍大将が笑顔で崇徳丸に近寄る。
「今回も見事だったぞ♪崇徳丸♪貴様の活躍で敵軍を撃退出来たぞ!」
崇徳丸は落涙する。
「ですが今回の悲劇で…大勢の仲間達…無関係の村人達が殺されたのです…」
「崇徳丸…」
侍大将は沈黙したのである。崇徳丸は精神的にも肉体的にも疲弊したのか東側に位置するとある民家にて一休みするのだが…。
「えっ!?」
民家には両目を失明した少女が血塗れの状態で横たわる。
「北軍の奴等はこんな少女にも…」
横たわった状態の少女に崇徳丸は悲痛に感じる。すると直後…。少女が再度呼吸し始めたのである。
「なっ!?」
少女は失明した状態であるが…。恐る恐る一休みする崇徳丸に接触したのである。
「貴方様は…味方の…将兵ですか?敵兵ですか?」
瀕死の少女に問い掛けられた崇徳丸は落涙した様子で…。
「安心しなさい…私は…味方の将兵だよ…」
崇徳丸が返答すると少女は微笑む。
「貴方様は…味方の…将兵でしたか…」
直後…。瀕死の少女は息絶える。
(力尽きたか…)
崇徳丸は戦闘の悲惨さを痛感する。崇徳丸は即座に中心地へと戻ったのである。
「侍大将…」
「崇徳丸か…大丈夫なのか?」
問い掛けられた崇徳丸は即答する。
「大丈夫です!」
崇徳丸の様子に侍大将は一安心したのである。すると崇徳丸は侍大将に意見する。
「即刻…北軍の奴等から金剛山を奪還しましょう!」
崇徳丸の意見に侍大将は困惑したのである。
「金剛山を奪還出来るのであれば奪還したいが…将兵達は体力を消耗した状態だ…北軍から金剛山を奪還するなら明日の早朝からでも…」
「明日の早朝なんて悠長過ぎます!敵軍の増援が到達すれば何もかもが水の泡ですよ!」
すると周囲の兵卒達も崇徳丸の意見に賛同する。
「勿論ですよ!即刻奴等から金剛山を奪還しましょう!」
「俺達なら思う存分大暴れ出来ますよ♪」
「金剛山から敵軍を蹴散らしましょう!」
侍大将は彼等の闘志に圧倒される。
「貴様達…」
侍大将は一瞬瞑目するなり…。
「即刻金剛山を奪還するか!」
奪還作戦を決断した討伐部隊は即座に金剛山奪還作戦を開始する。金剛山は間近であり十数分で到達したのである。占拠された根城からは無数の火縄銃…。火矢が乱射され討伐部隊は百人以上の将兵達が死傷するも洗い浚い突破したのである。金剛山の根城へと到達した討伐部隊の将兵達は全身全霊で敵陣へと突入…。北軍を圧倒したのである。崇徳丸も十四人の敵兵を斬殺…。最上階へと単身で移動したのである。
「最上階だな…」
すると背後より火縄銃を発砲されるも感知能力により火縄銃の銃弾を一刀両断…。
「あんたが総大将だな…」
火縄銃で狙撃したのは北軍の侍大将である。
「此奴は東国の軍神…夜桜崇徳丸か…」
侍大将は再度弾丸を装填させる。
「今度こそ夜桜崇徳丸!貴様を仕留める…軍神の貴様を仕留められれば東軍全体は総崩れしたのも同然であるからな♪」
侍大将が再度火縄銃で崇徳丸を狙撃する直前…。崇徳丸は神速の身動きにより火縄銃を両断したのである。
「なっ!?」
「降参しろ…あんたでは私は仕留められない…」
崇徳丸は最上階へと戻ろうかと思いきや…。背後より北軍の侍大将は護身用の懐刀で斬撃しに接近する。
「死滅しろ!崇徳丸!」
崇徳丸は即座に殺気を察知すると即座に猛反撃…。侍大将の胸部を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
侍大将は胸部を斬撃され即死する。崇徳丸は無表情の様子で最上階へと戻ったのである。敵軍の敗残兵は北国へと撤退…。侍大将の戦死により金剛山奪還作戦は北軍討伐部隊の勝利に終結する。同日の真夜中…。崇徳丸との戦闘で胸部を斬撃された北軍敗残兵である鬼殺丸は血塗れの状態で東国のとある山奥の夜道を徘徊する。
「ぐっ!」
(崇徳丸…)
崇徳丸の発言を想起すると腹立たしくなる。
「誰が贖罪なんて…」
(今度こそ…私が彼奴に復讐する…)
すると直後である。周囲より胸騒ぎを感じる。
(胸騒ぎか…)
「一体何が?」
突然の胸騒ぎにより周囲を警戒したのである。恐る恐る背後を直視するのだが…。
「背後には何も…」
気配は感じるも背後には何も存在しない。疲労による誤認識かと思いきや…。
「なっ!?」
鬼殺丸の前面より一体の異形の化身が出現したのである。
「此奴は一体…」
異形の化身とは全身の皮膚が血塗れであり小柄の肉体…。両目の眼球が噴出した不吉の風貌である。
「ひょっとして近頃村人達が大騒ぎした…悪霊か?」
(名前は…食人餓鬼だったか?)
食人餓鬼はふら付いた身動きで鬼殺丸に近寄る。彼自身悪霊の存在は否定的であり実際に悪霊と遭遇する以前は子供騙しであると揶揄したが…。
「こんな悪霊が本当に実在するなんて…」
鬼殺丸は睥睨すると即座に抜刀する。
「私と勝負するか…悪霊!?」
神速の身動きにより接近する食人餓鬼の頭部を斬首…。瞬殺したのである。
「悪霊でも所詮は雑魚か…」
(こんな程度では其処等の子供でも打っ殺せるな…所詮悪霊なんて…)
すると周辺の地中より無数の食人餓鬼が出現する。
「私を食い殺したいか?悪霊?」
無数の食人餓鬼が鬼殺丸に殺到するも食人餓鬼は非常に貧弱であり簡単に仕留められる。二分間で地面には数十体以上の食人餓鬼の肉片…。血肉が散乱したのである。
「終了したか?」
(他愛無いな…)
直後…。背後より無数の食人餓鬼が融合した人型の肉塊が出現する。
「今度の相手は百鬼食人餓鬼か…」
百鬼食人餓鬼の体表の頭部が鬼殺丸を睥睨するなり…。高熱の火炎を放射したのである。
「火炎攻撃か!?」
鬼殺丸は神速の身動きで火炎攻撃を回避する。
(此奴が相手なら多少手応えを感じられそうだな…)
神速の身動きにより百鬼食人餓鬼に接近すると一刀両断…。百鬼食人餓鬼の肉体が無数の肉片へと分裂したのである。
「ん?」
分裂した肉体が融合化すると複数の食人餓鬼に変化する。
(今度も食人餓鬼か…鬱陶しい…)
鬱陶しいと感じるも複数の食人餓鬼を瞬殺したのである。
「面白くないな…」
背後から別物の気配を察知…。背後を警戒すると甲冑を装備した巨体の骸骨が出現したのである。
「此奴は骸骨荒武者?戦死者達の亡霊か…」
(悪霊でも手応えを感じられそうな相手が出現したか♪)
鬼殺丸は内心大喜びする。二体の骸骨荒武者は抜刀すると鈍足で鬼殺丸に殺到したのである。
「鈍間が…」
骸骨荒武者は刀剣で斬撃するも容易に回避される。
(こんな鈍間では私には通用しないぞ…)
鬼殺丸は急接近…。刀剣で一体の骸骨荒武者に腹部を斬撃するのだが骸骨荒武者の鎧兜は予想以上に硬質であり鬼殺丸の刀剣が屈折したのである。
「なっ!?」
(私の刀剣が…)
愕然とした鬼殺丸に骸骨荒武者は鬼殺丸の左腕を斬撃…。
「ぐっ!」
鬼殺丸は左腕を切断されたのである。
(北国の鬼神である私が…悪霊相手に左腕を…)
地面は赤色の血液により染色する。
「畜生が…」
(本調子であれば…こんな悪霊…簡単に…)
最早戦闘継続は不可能であると判断…。鬼殺丸は一目散に逃走したのである。逃走してより十数分後…。悪霊から逃走し続けた鬼殺丸であるが精神的にも肉体的にも疲弊したのか獣道の道中にて横たわる。
(今夜が…私の最期みたいだな…)
出血多量が影響したのか鬼殺丸は瀕死の状態であり肉体は刻一刻と衰弱化する。
(夜桜崇徳丸…彼奴を仕留められなかったのは…非常に心残りだな…)
崇徳丸の存在を想起したのである。数分後…。極度の死臭と強烈なる殺気を感じる。
(極度の死臭と殺気…今度は何が出現した?)
正体不明の不吉の気配は刻一刻と横たわる鬼殺丸に急接近する。数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野犬が出現したのである。
「野犬?」
(随分巨体だな…)
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野犬は正真正銘悪霊であると認識出来る。
(野犬の…悪霊なのか?)
口先には咀嚼された肉片らしき物体を確認…。何かを捕食したのであると推測する。
「野犬の悪霊…俺を…食い殺したいか?」
すると野犬の悪霊は人語で発言し始める。
「私は死霊餓狼…」
(死霊餓狼…此奴は悪霊の分際で喋れるのか…)
鬼殺丸は衰弱化した小声で問い掛ける。
「死霊餓狼だったか?貴様は一体何者だ?」
すると死霊餓狼は即答する。
「私は貴様によって殺された野犬の悪霊である…」
死霊餓狼の発言に鬼殺丸は想起したのである。
(此奴…南国の荒神山で私が打っ殺した…野犬の亡霊だったのか…)
死霊餓狼の前頭部を直視すると銃弾の傷跡が確認出来る。
「俺が打っ殺した野犬の亡霊が…地獄から復活するとは…」
すると鬼殺丸は恐る恐る…。
「俺を食い殺したいか?死霊餓狼…俺を食い殺したければ思う存分食い殺せよ…最早俺の肉体は虫の息だぜ…」
死霊餓狼は返答する。
「極悪非道の人間よ…貴様は無間地獄で無限の苦痛を体感せよ…」
死霊餓狼の発言に鬼殺丸は僅少であるが微笑したのである。
「地獄か…」
(私にとっては本望だ…)
直後…。
「極悪非道の人間よ…貴様の肉体を頂戴する…」
死霊餓狼は衰弱化した鬼殺丸の肉体を咀嚼したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:10
投稿者 月影桜花姫
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第六話

愛娘

天地歴三千十年六月一日より夜桜崇徳丸は僧侶として活動…。同年五月三十日に誕生した愛娘は東国の武家屋敷にて養育される。崇徳丸が僧侶として活動してからも各村落では局地戦が頻発したのである。大勢の武士達は勿論…。村人達が局地戦によって死去したのである。西国にて出兵した南軍と北軍は妖女へと覚醒した桃子姫の猛反撃によって領主達と数百人もの兵卒達を喪失…。総兵力喪失の悪影響からか両勢力は唐突に弱体化したのである。弱体化した南国と北国の両勢力は東国により本格的に属国化…。東国の東軍は太平神国の東国武士団として太平神国全域を牛耳ったのである。東国の天下統一により百年以上長期化した弱肉強食の戦乱時代は本格的に終息…。天地歴三千十一年一月一日より太平神国は共存共栄と安寧秩序の安穏時代へと突入したのである。弱肉強食の戦乱時代から共存共栄の安穏時代へと変化した数年後…。桃子姫は伝説の元祖妖女として国全体の村人達から認識される。桃子姫が死没してより十二年後の天地歴三千二十年五月三十日の真昼…。各村落にて僧侶として活動中の夜桜崇徳丸は久方振りに祖国である東国の武家屋敷へと訪問したのである。すると武家屋敷の玄関口より小柄の美少女が笑顔で崇徳丸に力一杯密着する。
「父様♪」
「【小梅姫】だったか♪元気そうだな♪」
小梅姫とは崇徳丸と桃子姫の愛娘である。崇徳丸は小梅姫との久方振りの再会に大喜びする。
「小梅姫は人一倍容姿端麗で美人さんだな♪」
「私が美人さんなんて…父様は大袈裟ね♪」
小梅姫は赤面するものの内心では大喜びしたのである。
「小梅姫…私は毎日が一晩中大忙しだから悪かったな…」
謝罪する崇徳丸に小梅姫は笑顔で返答する。
「父様…気にしないで♪私は大丈夫だから♪」
「小梅姫…」
すると突然…。何者かが崇徳丸の背中に接触する。
「えっ!?」
(誰かが私の背中を…)
崇徳丸は人気を感じるなり恐る恐る背後を凝視するものの…。
(誰かの気配は感じるのだが…)
すると小梅姫が笑顔で発言する。
「父様♪二人の女神様だよ♪」
「えっ?二人の女神様だって?」
(ひょっとして桃子姫様と胡桃姫様が…)
崇徳丸は涙腺から涙が溢れ出る。
「父様…大丈夫?」
小梅姫は落涙する崇徳丸を心配したのである。
「心配させちゃったね…小梅姫…私なら大丈夫だよ♪」
崇徳丸は笑顔で…。
「ひょっとすると女神様の正体は小梅姫の母さん達かも知れないよ♪」
「私の母様?」
「小梅姫?久方振りに母さん達の墓参りに出掛けないか?」
「母様達の墓参りに?」
「無理強いしないが…小梅姫が墓参りしたら天国の母さん達が大喜びするかも知れないよ♪小梅姫は私と桃子姫母さんの愛娘だからな♪」
彼女は一瞬困惑するものの…。笑顔で承諾する。
「母様の…墓参りしないとね♪父様♪」
「小梅姫♪」
崇徳丸は小梅姫と一緒に桃子姫と胡桃姫の墓参りに出掛ける。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:09
投稿者 月影桜花姫
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第五話

妖女

同時刻…。桃子姫と胡桃姫は全身全霊で天霊山へと逃走する。天霊山の天辺へと到達したのである。
「桃子姫姉ちゃん…大丈夫?」
「胡桃姫…私が足手纏いなばかりに…」
「桃子姫姉ちゃん…気にしないで…」
桃子姫は精神的にも肉体的にも疲弊した状態であり山道に横たわったのである。
「桃子姫姉ちゃん!?大丈夫!?」
胡桃姫は横たわる桃子姫に近寄る。
「胡桃姫…足手纏いだよね…私…」
桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「桃子姫姉ちゃん…」
すると突然…。極度の陣痛を感じる。
「ぐっ!」
「桃子姫姉ちゃん!?」
胡桃姫は恐る恐る桃子姫の腹部に接触するなり…。
(ひょっとして出産かしら!?)
胡桃姫は困惑する。
「最悪だわ…」
(私は如何すれば…)
すると彼女達の背後より大勢の敵兵達が彼女達を追撃したのである。
「ん?貴様等は西国の女子達だな♪」
「こんなにも武陵桃源の田舎村に容姿端麗の女子達と出くわしちまうなんて俺達は福運だよな♪」
「如何するよ?正直打っ殺しちまうのが勿体無いよな♪」
火縄銃を武装する狙撃兵により桃子姫が狙撃される寸前…。
(桃子姫姉ちゃんが殺される!)
危惧した胡桃姫は咄嗟の判断により全力疾走したのである。危機一髪横たわった桃子姫を庇護した胡桃姫であるが…。
「ぐっ!」
胡桃姫は横たわる桃子姫の真正面にて敵兵の銃撃により狙撃されたのである。
(桃子姫姉ちゃん…)
胡桃姫は涙腺から涙が零れ落ちるなり地面に横たわる。地面は彼女の鮮血によって赤色に変色する。
「胡桃姫…胡桃姫!?」
桃子姫は力一杯横たわった胡桃姫に近寄る。
「胡桃姫…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何して私なんかを…胡桃姫…」
「桃子姫姉ちゃんが…無事で…何よりだわ…」
胡桃姫は衰弱化したのである。
「桃子姫姉ちゃん…死なないでね…無事に赤ちゃんを…出産してね…」
「胡桃姫…胡桃姫!?」
彼女は息絶える。
(胡桃姫が…死んじゃった…)
極度の無念と悲痛により無気力化するものの…。遠方の森林浴より無数の虹色の発光体を確認したのである。
「えっ…」
(虹色の発光体だわ…一体何かしら?)
桃子姫は精一杯虹色の発光体を目印に疾走する。
「小娘を追尾しろ…」
敵兵達は全力疾走する桃子姫を追撃したのである。彼女は虹色の発光体の居場所へと到達する。無数の発光体の中心部には虹色に発光する広葉樹が確認出来る。
(ひょっとして世界樹の…霊魂巨神木かしら…)
虹色に発光する広葉樹とは半年前に遭遇した世界樹の霊魂巨神木である。桃子姫は恐る恐る霊魂巨神木へと近寄るなり広葉樹の表面に接触する。
(私は…結局私は如何するべきだったの?本来なら私が殺されるべきだったのに…如何して胡桃姫が殺されたのよ?父様と母様だって如何して匪賊に殺されたのよ…)
桃子姫の両親は二十年前に匪賊によって惨殺されたのである。
(如何して私の家族は誰かに殺されるの?天罰なの?)
極度の悲哀と怒気が増大化する。すると霊魂巨神木の小枝から虹色に発光する果実を発見するなり…。
(虹色なんて…摩訶不思議の果実だわ…)
桃子姫は恐る恐る虹色の果実を確保する。確保した果実を無我夢中に菜食したのである。すると彼女は超常現象により全身から無数の血紅色の放射体が出現する。
「ん?一体何が?」
「小娘は妖怪化したのか…」
大勢の敵兵達が到達したものの彼女の雰囲気から恐る恐る後退りしたのである。
「狼狽えるな!妖怪化したとしても所詮は人間の小娘!大勢で小娘を根絶やしにせよ…」
桃子姫の血紅色であった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
「沈黙しなさい…」
彼女が殺気立った眼力によって周囲の敵兵達を力強く睥睨した直後…。
「なっ!?ぎゃっ!」
突如として最前線の敵兵達の頭部が破裂する。地面に無数の血肉と彼等の脳味噌が散乱したのである。
「ひっ!」
「うわっ!何事であるか!?」
背面の敵兵達は超常現象により戦慄する。
「一体何が!?如何してこんな…」
「狼狽えるな!小娘を根絶やしにせよ!打っ殺せ!」
敵兵達は大勢で無防備の桃子姫に殺到するものの…。桃子姫は全身から血紅色の放射体を炸裂するなり半透明化した血紅色の防壁を形作る。防壁の表面より無数の魔手が出現したのである。
「魔手だと!?」
無数の魔手が出現しては殺到する敵兵達に接触するなり…。敵兵達の肉体諸共圧縮したのである。大勢の敵兵達が魔手によって全身を圧縮…。血肉やら体内の臓物が噴出したのである。
「即刻撤退しましょう!」
「止むを得ないな…」
敵兵達は一目散に桃子姫から逃走したのである。同時刻…。南軍と北軍の本拠地では両陣営の総大将達が談笑する。
「本日は福徳円満ですな♪早朝には西国は私達の勢力圏ですし…西国の地中には無尽蔵の牢固石が採掘出来ます♪何よりも難敵である東国は滅亡されましょう…」
「一石三鳥ですな♪難敵の東国を打倒出来れば正真正銘太平神国全域が私達の支配圏ですからね♪」
すると本拠地より血塗れの一兵卒が一目散に乱入したのである。
「総大将!大変です!」
「突然何事であるか!?」
「随分大慌ての様子だな…」
総大将達は血塗れの一兵卒に驚愕する。
「西国の天霊山より…妖女が…妖女が出現しました!」
「妖女だと?」
「妖女なんて面白くない冗談だな…」
「妖女なんて実在するのか♪」
「貴様の見間違いだろ…妖女が出現したのが事実であるなら遭遇したくなるな♪」
総大将達は疲弊する一兵卒の発言を揶揄する。
「妖女が出現したのは本当です!妖女の猛反撃によって大勢の足軽が殺害されました!即刻西国から全軍の撤退を…」
直後である。
「なっ!?」
一兵卒の頭部が肥大化するなり…。
「ぎゃっ!」
数秒後破裂したのである。
「うわっ!」
「げっ!如何して頭部が!?一体全体何が…」
突発的出来事により総大将達は戦慄する。
「如何して頭部が破裂した…」
「ひょっとして妖女とやらの仕業なのか!?」
「先程の内容は事実であったのか…荒唐無稽の妖術で足軽の頭部を破裂させたのか…」
すると本拠地より小柄の女性が潜入したのである。
「ひっ!」
「うわっ!貴様は何者であるか!?」
着物は血塗れであり亡霊みたいな雰囲気の女性に総大将達は恐る恐る後退りする。
「ひょっとして貴様は…村娘の悪霊なのか…」
すると女性が無表情で総大将達を凝視するなり…。
「私は西国の…桃子姫よ…あんた達ね…私の胡桃姫を殺させたのは…」
「胡桃姫とは?」
「一体何者であるか?」
桃子姫は険悪化した表情で即答する。
「胡桃姫は…私の…私の実妹よ!」
数秒後…。
「あんた達も…死滅するのね…」
総大将達の頭部が肥大化するなり…。
「ぎゃっ!」
「がっ!」
数秒後彼等の頭部が破裂したのである。両陣営の総大将達の落命によって南軍と北軍は総崩れ…。事実上妖怪化した桃子姫の猛反撃により西国に出兵した南軍と北軍は全滅したのである。摩訶不思議の妖力で敵軍を撃退した桃子姫であるものの…。直後である。
「ぐっ!」
(陣痛かしら…)
桃子姫は極度の陣痛により地面に横たわる。同時刻…。火縄銃の弾丸によって横たわった崇徳丸であるが目覚めたのである。敵襲を警戒するなり恐る恐る一歩ずつ歩行する。
「随分物静かだな…」
主戦場であった西国であるものの…。周囲の物静かな雰囲気に身震いしたのである。
「如何してこんなにも物静かなのか…」
死霊餓狼の呪力と大量の出血によって眼前が朦朧とする。
「ぐっ!」
(畜生が…私は失血死するかも知れないな…)
崇徳丸は虫の息であり歩行するだけでも息苦しくなる。
「桃子姫様と胡桃姫様は…無事に避難されたでしょうか?」
すると桃子姫と胡桃姫が逃走した天霊山へと到達すると獣道の地面には敵兵達の鎧兜は勿論…。鮮血やら無数の肉片が散乱する。
「敵軍の!?」
(誰がこんなにも敵兵達を殺害したのか…)
西国には若武者は勿論…。力自慢の農民すら少数派であり統率された南軍と北軍の兵卒達を撃退出来る該当者は皆無である。
「如何して敵軍の兵卒達がこんなにも殺害されたのか?」
誰が敵軍の兵卒達を殺害したのか非常に気になる。
「赤子の産声!?」
すると遠方の自然林より赤子の産声が響き渡る。
「ひょっとして桃子姫様!?」
(桃子姫様…無事だったのですね♪)
天霊山の自然林から響き渡る産声に崇徳丸は一安心したのである。獣道の遠方より血塗れの着物姿の女性と抱き抱えられた赤子が確認出来る。
(ひょっとして桃子姫様!?如何やら無事だったみたいですね♪)
崇徳丸は恐る恐る女性に近寄る。
「桃子姫様でしたか♪無事だったのですね♪」
血塗れの着物姿の女性は正真正銘桃子姫だったのである。
「桃子姫様♪無事に再会出来て一安心ですよ♪」
「崇徳丸様…」
「えっ?」
崇徳丸は赤子を凝視するなり大喜びする。
「無事に赤ちゃんを出産されたのですね♪桃子姫様♪」
「赤ちゃんは無事に出産出来たわ…私達の赤ちゃん…女の子よ…」
「女の子ですか♪容姿端麗ですね♪えっ?」
崇徳丸は恐る恐る無表情の桃子姫を直視すると一瞬戦慄したのである。
(桃子姫様の表情が無表情!?一体何が…)
「桃子姫様…一体如何されたのですか?」
崇徳丸は恐る恐る彼女に問い掛ける。
「胡桃姫が…胡桃姫がね…」
「胡桃姫様が…如何されたのですか?」
桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「胡桃姫が敵軍の襲撃で…殺されちゃったのよ…」
「えっ!?胡桃姫様が敵軍に!?」
崇徳丸は驚愕した直後…。涙腺より涙が零れ落ちる。
(胡桃姫様が息絶えたなんて…)
桃子姫は先程の出来事を一部始終告白したのである。
「桃子姫様は霊魂巨神木の果実を!?」
「私が…摩訶不思議の神通力で敵軍を全滅させたのよ…」
(桃子姫様が敵軍を全滅させたって?先程から西国全域が物静かだったのは桃子姫様が霊魂巨神木の神通力で敵軍を全滅させたのか…)
崇徳丸は納得する。
「崇徳丸様は…こんなにも妖女みたいな私に戦慄しないの?」
桃子姫は崇徳丸に恐る恐る問い掛ける。
「私なら桃子姫様が人外の妖女でも戦慄しませんよ…桃子姫様が正真正銘妖女だったとしても桃子姫様は桃子姫様なのですから♪」
崇徳丸は笑顔で即答する。
「崇徳丸様…」
無表情だった桃子姫に笑顔が戻ったのである。
(桃子姫様♪)
笑顔が戻った桃子姫に崇徳丸は一安心する。
「崇徳丸様?」
「如何されましたか?桃子姫様?」
彼女は赤面した表情で瞑目するなり…。恐る恐る崇徳丸に接吻したのである。
「えっ…」
(桃子姫様!?)
桃子姫の接吻に驚愕するものの…。彼女の神通力による効力なのか外傷と呪力による体内の熱気が一瞬で浄化されたのである。
(体内の熱気と外傷が浄化されるなんて…ひょっとして桃子姫様の神通力とやらは治癒力は勿論…死霊餓狼の呪詛でさえも浄化出来るのか…)
すると突然…。
「ぐっ!」
桃子姫は吐血する。
「桃子姫様!?大丈夫ですか!?」
「崇徳丸様…」
桃子姫は恐る恐る崇徳丸に赤子を手渡したのである。
「崇徳丸様…私は…」
最早精神的にも肉体的にも疲弊した半死半生の状態であり深呼吸が非常に重苦しくなる。
「私にとって…崇徳丸様が居候してから…毎日が幸福だったのよ…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
(桃子姫様…)
「桃子姫様…私こそ…」
桃子姫は涙目で赤子を凝視するなり…。
「唯一の心残りなのは…無事に出産した赤ちゃんと…一緒に生活出来ないのが何よりも残念なのよね…」
すると彼女の肉体が血紅色の粒子状の発光体へと変化したのである。
「えっ?桃子姫様!?」
桃子姫は笑顔で密着するなり…。
「崇徳丸様…精一杯長生きしてね♪」
(私は未来永劫天国の胡桃姫と一緒に見守るからね♪)
無数の血紅色の発光体へと変化した彼女は天空にて消滅する。
(桃子姫様…勿論約束しますよ…)
崇徳丸は息絶えた桃子姫の安眠により一晩中落涙したのである。
(桃子姫様…私は如何すれば…)
後日の早朝…。東国から崇徳丸の家来が訪問する。
「西国では一体何が!?」
西国の農村地帯全域が血塗れであり武陵桃源とは程遠い地獄絵だったのである。
(崇徳丸様は無事なのでしょうか…)
家来は崇徳丸の安否が気になる。すると遠方の山間部より血塗れの武士が佇立するのを確認したのである。
「なっ!?何者でしょうか?」
家来は恐る恐る近寄るなり…。
「崇徳丸様!?崇徳丸様ですね!?」
崇徳丸は家来に気付いたのである。
「誰かと思いきや…貴様だったのか…如何して東国の貴様が西国なんかに?」
「敵国である南軍と北軍が西国に出兵するとの悪巧みを察知しましてね…私自身崇徳丸様の安否が気になったのですよ…」
「今更祖国を裏切った逆賊の安否を確認するなんて…貴様は馬鹿者だな…」
「祖国を裏切ったとしても崇徳丸様は正真正銘夜桜一族の最上級武士ですからね♪崇徳丸様が無事なのが何よりですよ♪」
家来は笑顔で発言する。
「えっ?崇徳丸様…誰の赤子なのでしょうか?」
家来は誰の赤子なのか気になったのである。
「誰のって…彼女は私の愛娘だよ…」
家来は驚愕する。
「えっ!?崇徳丸様の愛娘ですと!?」
家来は大喜びしたのである。
「ひょっとして崇徳丸様は西国で令夫人と婚姻されたのですね♪」
家来は大喜びするものの…。
「えっ?崇徳丸様?突然如何されたのですか?」
崇徳丸は涙腺から涙が零れ落ちる。
「私の女房は…」
崇徳丸は西国での出来事を一部始終告白したのである。
「崇徳丸様の令夫人は先程永眠されたのですね…」
崇徳丸は家来に要望する。
「所詮私は祖国を裏切った人間だからな…斬首刑は覚悟する…」
恐る恐る赤子を凝視するなり…。
「彼女を…私の愛娘を東国の村里で養育出来ないか?」
「何も斬首刑なんて…東軍の武士達には私が説得しますから!崇徳丸様の愛娘は是非とも東国で養育しますから♪彼女は正真正銘…夜桜崇徳丸様の愛娘なのですからね♪」
「感謝するよ…」
すると崇徳丸は断言したのである。
「本日より私は人殺しの武士ではなく…僧侶として活動したい…」
「なっ!?崇徳丸様が僧侶ですと!?突然如何されたのですか!?崇徳丸様らしくないですね…」
崇徳丸の発言に驚愕する。
「私は大勢の人間達を斬殺したからな…金輪際僧侶として私自身の悪逆非道を贖罪しなければ…」
「何も悪逆非道なんて…崇徳丸様は大勢の敵兵達を仕留められたかも知れませぬが…大勢の村人達は勿論…東国に粉骨砕身されたのも事実ですよ!」
「敵国の敵兵であっても所詮は人間…私が人殺しなのは事実であるからな…」
(崇徳丸様…)
崇徳丸の表情を直視するなり…。
「崇徳丸様が僧侶として活動されたいのであれば…私は尊重しますよ…」
家来は崇徳丸の意志を承諾したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/16 20:08
投稿者 月影桜花姫
参照先
第四話

襲撃

天地歴三千十年五月下旬の出来事である。真夜中…。南国の南軍侍大将と北国の北軍侍大将が武陵桃源の西国を視察するなり密談する。
「西国とは…殺風景の田舎村みたいですね…」
「こんなにも物静かな武陵桃源の西国で無尽蔵の牢固石が確保出来るのでしょうか…」
南国と北国は本来水と油の関係であり両勢力は敵対関係であったものの…。西国の地表に沈黙する無尽蔵の牢固石の確保と両勢力にとって共通の宿敵である東国の打倒を主目的に利害が一致する。
「西国総攻撃は本日の真夜中でしたね…」
「こんなにも田舎村ですからね…翌朝には西国の全域を占拠出来るでしょう…」
「面白くなりますな♪」
彼等は本国へと戻ったのである。同時刻…。妊娠により腹部が肥大化した桃子姫は非常に重苦しい様子であり自宅の居間で寝転ぶ。
「桃子姫姉ちゃん?大丈夫?」
胡桃姫は一日中重苦しく寝転ぶ桃子姫に恐る恐る近寄る。
「私なら大丈夫よ♪気にしなくても大丈夫だからね…胡桃姫…」
胡桃姫は笑顔で…。
「桃子姫姉ちゃん♪桃子姫姉ちゃんも…数日後には一児の母親なのね…」
「御免なさいね…胡桃姫…私は…正直足手纏いだよね?」
近頃の桃子姫は妊娠によって寝転ぶ状態が習慣化する。
「足手纏いなんて…気にしないで♪桃子姫姉ちゃん♪」
胡桃姫は笑顔で返答したのである。
「無事に赤ちゃんを出産出来たら…精一杯恩返しするから♪」
「桃子姫姉ちゃん…」
今現在でこそ胡桃姫は笑顔で接触するのだが桃子姫の妊娠が発覚した当初は猛反発…。当事者である崇徳丸に怒号したのである。数分後…。胡桃姫は家屋敷の庭園にて崇徳丸に接触する。
「崇徳丸様…」
「胡桃姫様…如何されましたか?」
二人は非常に気難しい雰囲気であったものの…。
「崇徳丸様…私は崇徳丸様に頭ごなしに怒号しちゃって御免なさいね…」
胡桃姫は恐る恐る崇徳丸に謝罪する。
「私は崇徳丸様に…崇徳丸様は何も悪くないのにね…」
(揉め事の発端である私が…何も悪くないのかな?)
崇徳丸は苦笑いしたのである。一息するなり…。
「胡桃姫様…私なら大丈夫ですよ♪私は気にしませんから…本来であれば今回の揉め事は胡桃姫様に秘密にした私こそが加害者であり…主原因なのですから…」
崇徳丸は笑顔で返答したのである。
「正直私は…私達は悪霊の死霊餓狼に呪詛された崇徳丸様に殺されるかも知れないって…毎日が息苦しい雰囲気だったのよね…」
「胡桃姫様…」
胡桃姫は一息するなり笑顔で…。
「崇徳丸様が悪霊を征伐してから毎日の生活が息苦しい雰囲気だったけどね♪助平だけど崇徳丸様は純粋に誰よりも人一倍温厚篤実で紳士的だったわ…私は不必要に悲観視し過ぎちゃったみたいね♪」
(助平なのは…)
胡桃姫の助平発言に苦笑いするものの…。崇徳丸は笑顔で返答したのである。
「別に私自身は気にしませんし♪最悪私が桃子姫様と胡桃姫様に手出ししそうになれば私は自害する覚悟ですからね♪」
「崇徳丸様…」
崇徳丸の様子に胡桃姫は一安心する。すると数秒後である。
「胡桃姫様…大変心苦しいのですが…」
何も喋れず数分間沈黙するのだが…。
「崇徳丸様?何が心苦しいの?」
「胡桃姫様…」
崇徳丸は突然涙腺から涙が溢れ出たのである。
「崇徳丸様!?突然如何しちゃったのよ?」
落涙する崇徳丸に胡桃姫は困惑する。
「胡桃姫様…桃子姫様の秘密なのですが…」
「えっ?桃子姫姉ちゃんの秘密ですって?」
崇徳丸は桃子姫が赤子を出産したかった本当の理由を告白したのである。
「えっ…桃子姫姉ちゃんが…不治の疫病に…」
胡桃姫は衝撃的事実に絶句するなり全身が膠着化する。
「桃子姫姉ちゃんは…不治の疫病と闘病中だったのね…」
数秒後…。胡桃姫は平常心に戻ったのである。
「胡桃姫様?」
「近頃…桃子姫姉ちゃんの顔色が病人みたいな様子だったから…」
彼女は涙腺から涙が零れ落ちるなり…。
「長生き出来ないのよね…桃子姫姉ちゃん…」
胡桃姫の発言に崇徳丸は小声で返答する。
「残念ですが…桃子姫様は…」
涙腺から涙が零れ落ちる胡桃姫であるものの彼女は笑顔で…。
「私達は精一杯桃子姫姉ちゃんに助力しないと…」
(胡桃姫様…)
胡桃姫の様子に崇徳丸は一安心したのである。
「勿論ですとも…胡桃姫様…」
胡桃姫と崇徳丸は約束する。同時刻…。南軍と北軍の軍勢が西国の山奥にて合流したのである。
「西国の国境に到達したぞ!総攻撃は本日の真夜中に決行する!」
「翌日の早朝には確実に西国全土を占拠するからな…全軍覚悟せよ!」
両陣営の侍大将が各兵卒達に伝播させる。
「翌日の早朝に西国全土を占拠出来るのか?」
「西国は過疎地だからな…遭遇するとすれば非武装の農民とか♪」
「相手が非武装の農民だったら楽勝だけどな♪」
「手前勝手の殺戮であるが…」
兵卒達は雑談したのである。
「南国の匪賊達の噂話だったかな?近頃何やら東国出身者の夜桜崇徳丸って若武者と遭遇しちまったらしいが…」
南国の匪賊達の噂話により両陣営の兵卒達は突如として戦慄する。
「夜桜崇徳丸だって!?本当なのか!?」
「夜桜崇徳丸って東軍の最上級武士だったよな!?如何して東国出身者の夜桜崇徳丸が過疎地の西国なんかに?」
崇徳丸は各勢力から危惧される剣客の有名人であり各勢力の武将達は勿論…。各勢力の領主達からも戦慄されたのである。
「所詮噂話であるからな…常識的にこんな過疎地に剣客の最上級武士が移住するなんて面白くない冗談だな…」
「戦慄させるなよ…」
両陣営の総大将達が兵卒達に怒号する。
「貴様達!沈黙せよ…」
兵卒達は即座に沈黙したのである。
「今回の総攻撃は非常に容易いが…楽観視するなよ!主戦場が過疎地だったとしても油断大敵であるからな…」
兵卒達が沈黙すると暗闇の森林浴から風音と川音が響き渡る。真夜中の出来事である。崇徳丸は家屋敷の庭園にて真夜中の夜空を眺望するなり極度の胸騒ぎを感じる。
「胸騒ぎかな…」
すると崇徳丸の背後より胡桃姫が恐る恐る近寄る。
「崇徳丸様?」
「うわっ!」
崇徳丸は驚愕する。
「誰かと思いきや…胡桃姫様でしたか…失礼しました…」
「大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
「崇徳丸様の表情が非常に重苦しいから…」
崇徳丸は苦笑いするなり返答したのである。
「私の表情が重苦しかったですかね?失礼しました♪」
崇徳丸は苦笑いするものの…。表情が険悪化する。
「ですが胡桃姫様…私は先程から極度の胸騒ぎを感じるのです…」
「胸騒ぎですって?ひょっとして今回も悪霊の気配とか!?」
崇徳丸は一息するなり…。
「大勢の人間達の殺気でしょうか…悪霊の気配とは別物ですね…」
近辺の山奥より大勢の殺気を感じる。
「人間達の殺気?ひょっとしてこんな真夜中に夜戦とか?」
「断言は出来ませんが…」
「武陵桃源の西国で夜戦なんて傍迷惑だわ…」
すると崇徳丸は発言したのである。
「胡桃姫様…私達は即刻家屋敷から脱出しなければ…」
「脱出ですって!?」
胡桃姫は崇徳丸の発言に驚愕する。
「不穏の気配を感じるのです…ひょっとすると今回も一大事かも知れません!即刻家屋敷から脱出しましょう!」
「脱出って…桃子姫姉ちゃんは寝転んだ状態なのよ…突然家屋敷から脱出するなんて無茶よ…」
二人の背後より桃子姫は重苦しい表情で近寄る。
「私なら…大丈夫よ…」
「桃子姫姉ちゃん!?」
「徒歩だけなら自力で出来るわ…」
桃子姫は息苦しい様子であり出歩くのは非常に困難の状態である。
「桃子姫姉ちゃん…無理しないで!桃子姫姉ちゃんには…赤ちゃんが…」
「私は足手纏いだからこそ…徒歩だけでも…」
桃子姫は断言する。
「桃子姫様…」
崇徳丸は承諾したのである。
「即刻桃子姫様も私達と一緒に家屋敷から脱出しましょう…」
すると突然…。南方の山奥より無数の大砲の砲撃音と村人達の阿鼻叫喚が西国全域に響き渡る。
「爆薬かしら!?」
「一触即発ですね…桃子姫様!胡桃姫様!即刻家屋敷から脱出しましょう!」
崇徳丸は敵軍の刺客に警戒するなり恐る恐る自宅から脱出したのである。外部は村人達の鮮血やら肉片が散乱する。
「きゃっ!」
「流血だわ!」
大勢の村人達が一目散に逃走したのである。すると南方の山奥より大勢の鎧兜の兵卒達が西国の麦畑へと進撃する。
「敵襲です!桃子姫様!胡桃姫様!即刻天霊山に避難しましょう!」
「崇徳丸様は如何するのよ!?」
「敵軍は私が撃退しますから…桃子姫様と胡桃姫様は即刻避難を…」
「一人で敵軍を撃退するなんて無謀よ!崇徳丸様も私達と一緒に脱出しましょう!崇徳丸様が殺されちゃったら…私は…」
桃子姫は必死に説得するものの…。
「私なら大丈夫ですよ♪私は東国の軍神です…確実に戻れますから♪約束しましょう…」
胡桃姫は不本意であるものの承諾する。
「無理しないでね…崇徳丸様…」
「胡桃姫!?如何して…」
「桃子姫姉ちゃん…私と一緒に天霊山に逃げましょう…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちるなり即刻天霊山へと逃走したのである。
(彼女達は…避難しましたね…)
崇徳丸は最前線の敵兵達を凝視すると武者震いする。
「敵軍は…南国と北国の軍勢だな…」
すると直後…。極度の熱気により殺意が芽生える。
(私自身…こんなにも殺意が…)
「ひょっとして死霊餓狼の呪力とやらの悪影響なのか…」
大勢の敵兵達が崇徳丸に気付いたのである。
「貴様は…東国の夜桜崇徳丸!?如何して貴様が西国に…」
「噂話は事実であったか…」
「理由は不明瞭だが…東軍の荒武者達によって大勢の戦友達が惨殺されちまったからな!今回は復讐する絶好機だぞ!」
崇徳丸の身体髪膚から無数の血紅色の発光体が出現したのである。
「ん!?」
「崇徳丸の肉体から…一体何が!?」
敵兵達は血紅色の発光体を凝視するなり…。
「ひっ!」
「崇徳丸は怪物なのか…」
彼等は豹変した崇徳丸に戦慄したのか恐る恐る後退りする。
「狼狽えるな!夜桜崇徳丸とて所詮は人間の若武者!斬殺しろ!」
大勢の敵兵達が崇徳丸に殺到した直後…。殺到した敵兵達の頭部が崇徳丸の眼力によって破裂したのである。
「ぎゃっ!」
地面には敵兵達の無数の肉片やら鮮血が散乱する。
「うわっ!」
「ひっ!怪物…」
崇徳丸本人も一瞬驚愕するものの…。平常心へと戻ったのである。
(死霊餓狼の呪力なのか…こんなにも絶大とは…)
敵兵達は崇徳丸に戦慄するものの…。
「鉄砲隊!夜桜崇徳丸を射殺しろ!」
鉄砲隊が最前線にて並列化するなり火縄銃で崇徳丸に狙撃する。崇徳丸は通常の人間をも上回る神速の身動きによって無数の火縄銃の弾丸を一刀両断…。斬撃により無数の弾丸を無力化したのである。崇徳丸は猛反撃するなり神速の身動きによって鉄砲隊に急接近…。鉄砲隊の数人を瞬殺する。
「ひっ!」
「撤退しろ!」
崇徳丸に戦慄した敵兵達は撤退したのである。
「敵軍は撃退したか…」
一安心した直後…。
「ぐっ!」
死霊餓狼の呪力によって右腕の皮膚が腐敗したのである。
(畜生が…死霊餓狼の呪力とやらの悪影響なのか…)
右腕は腐敗と出血により完全に麻痺する。
「右腕が麻痺するなんて…」
すると背後より…。敵軍の狙撃兵によって背中を狙撃されたのである。
「がっ!」
(迂闊だったか…畜生…)
狙撃された崇徳丸は横たわる。
(桃子姫様…胡桃姫様…無事に避難して…赤ちゃんを…)
呪力によって敵軍を撤退させた崇徳丸であるが…。死霊餓狼の呪力の悪影響と敵軍の狙撃により衰弱化したのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/14 22:13
投稿者 月影桜花姫
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第三話

世界樹

死霊餓狼の出現から数日後の出来事である。桃子姫は暇潰しに西方国の天霊山へと登山中…。摩訶不思議なる薫風と虹色に発光する広葉樹に魅了されたのである。
「何かしら…」
彼女は恐る恐る虹色の広葉樹へと近寄る。
「摩訶不思議の異世界みたいだわ…」
桃子姫は無我夢中に広葉樹の表面へと恐る恐る接触したのである。すると直後…。彼女は強烈なる睡魔によって熟睡したのである。同時刻…。家屋敷にて昼寝中だった崇徳丸は恐る恐る胡桃姫の自室へと入室する。
「胡桃姫様…失礼します…」
「崇徳丸様…何かしら?」
「胡桃姫様?桃子姫様は出掛けられたのですか?」
「桃子姫姉ちゃんなら暇潰しに登山中よ♪」
「桃子姫様は登山中でしたか…」
崇徳丸は桃子姫に対面したくなる。
「彼女が暇潰しであれば…私も暇潰しに…」
すると胡桃姫は険悪化した表情で…。
「崇徳丸様…桃子姫姉ちゃんには絶対に手出ししないでよ…」
「えっ…」
崇徳丸は赤面する。
「胡桃姫様!私は別に桃子姫様に手出しなんて…」
崇徳丸の返答に胡桃姫は赤面した表情で恐る恐る…。
「崇徳丸様は…人一倍変態男だから…」
「なっ!」
崇徳丸は胡桃姫の発言に気分が消沈したのである。
(私って…胡桃姫様にとって人一倍変態男なのかな…)
すると胡桃姫は身震いするなり恐る恐る問い掛ける。
「崇徳丸様?気分は大丈夫かしら?気味悪くない?」
「気味悪いって…別に私は何も気味悪くないですよ♪」
崇徳丸は笑顔で即答したのである。
「ですが突然如何されたのですか?胡桃姫様?ひょっとして心配事でも?」
「先日だけど崇徳丸様は…死霊餓狼を仕留めた直後に卒倒しちゃったから大丈夫かなって…正直不安だったのよ…」
(胡桃姫様♪こんな私なんかを心配して…)
心配する胡桃姫に崇徳丸は内心大喜びする。
「胡桃姫様は極度の心配性なのですね♪私なら胡桃姫様が気にされなくとも大丈夫ですよ♪意気衝天こそが私にとって唯一の美点ですから♪」
「意気衝天ね…」
断言する崇徳丸に胡桃姫は苦笑いしたのである。数秒後…。
「私は即刻出掛けますね…」
「崇徳丸様…」
崇徳丸は即座に出掛ける。
(桃子姫様の居場所は一体…)
すると突然…。
「えっ?天霊山の自然林から果実の薫風が…」
崇徳丸は果実の薫風を目印に天霊山へと直行したのである。すると天霊山の自然林より桃色の着物姿の女性が地面に横たわるのを発見する。
「えっ…女性!?」
崇徳丸は即座に横たわった女性に近寄る。
(彼女は…)
「桃子姫様!?」
横たわった女性は誰であろう桃子姫だったのである。崇徳丸は身震いした様子で桃子姫に接触したのである。
「桃子姫様!?大丈夫ですか!?桃子姫様!?」
数秒後…。桃子姫は横たわった状態から恐る恐る目覚める。
「えっ…崇徳丸様?何かしら?如何しちゃったの?」
「桃子姫様…一瞬驚愕しましたよ…大丈夫ですか?」
桃子姫の様子に一安心する。心配性の崇徳丸に桃子姫は微笑む。
「崇徳丸様は極度の心配性ね♪」
「桃子姫様…」
「崇徳丸様…汗水が…」
前額部から大量の汗水が流れ出るなり崇徳丸は赤面したのである。
「失礼しました…桃子姫様…」
すると桃子姫が恐る恐る背後を凝視するなり…。
「えっ…摩訶不思議の広葉樹は?」
「摩訶不思議の広葉樹ですと?」
「虹色の広葉樹…無くなったのかしら?ひょっとして私自身の幻覚だったのかしら?」
(虹色の広葉樹ですって?)
崇徳丸は恐る恐る発言する。
「先程…私が天霊山に到達出来たのは果実の薫風…ひょっとすると虹色の広葉樹とは世界樹の霊魂巨神木かも知れませんね…」
「霊魂巨神木ですって?」
崇徳丸は空覚えであるものの…。桃子姫に霊魂巨神木の伝承を説明したのである。
「霊魂巨神木とは森羅万象の造物主ですよ…大昔の伝承では世界樹として有名ですね…」
「森羅万象の造物主?」
「霊力やら神通力やら…摩訶不思議の広葉樹だと認識されますね…噂話では各村落の辺境地で出現するらしいのですが…桃子姫様が神出鬼没の霊魂巨神木に遭遇されたのは運命なのかも知れませんよ…」
「霊魂巨神木は本物の世界樹なのね…」
すると桃子姫は突発的に崇徳丸の腹部に力一杯密着する。
「桃子姫様!?」
力一杯密着する桃子姫に崇徳丸は驚愕する。恐る恐る彼女の表情を直視するなり…。
「桃子姫様…」
桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「崇徳丸様?」
「何ですか?」
「崇徳丸様は…私と胡桃姫に手出ししないよね?殺さないよね?」
崇徳丸は桃子姫の突発的発言に困惑する。
「私が桃子姫様と胡桃姫様に手出しですって!?突然如何されたのですか?」
「胡桃姫がね…」
桃子姫は一部始終崇徳丸に告白したのである。
「死霊餓狼の呪力の悪影響で…私が桃子姫様と胡桃姫様に手出しするのではと心配されたのですね…」
(ひょっとして近頃胡桃姫様が極度に身震いされたのは…死霊餓狼の呪力が主要因だったのか…)
崇徳丸は納得する。崇徳丸は桃子姫に笑顔で断言したのである。
「桃子姫様♪不用意に危惧されなくても大丈夫ですよ!私が死霊餓狼の呪詛なんかで桃子姫様と胡桃姫様に手出ししませんよ♪最悪手出しするのなら私は私自身で自害する覚悟ですから!一安心しなされ♪」
笑顔で断言する崇徳丸に桃子姫は一安心する。
(崇徳丸様…)
すると桃子姫は笑顔で…。
「崇徳丸様♪」
「如何されましたか?桃子姫様…」
彼女は赤面する。
「私と一緒に…天辺の露天風呂で混浴しないかしら?」
(えっ!?私が桃子姫様と混浴ですって!?)
桃子姫の衝撃的発言に崇徳丸は困惑したのである。
「桃子姫様が私みたいな人間なんかと混浴しても大丈夫なのですか?」
崇徳丸は非常に困惑するものの…。桃子姫は笑顔で即答する。
「勿論私は大丈夫よ♪相手が崇徳丸様なら一緒に混浴しても…胡桃姫には内緒にするからね♪」
「ですが混浴する相手が私なんかで本当に大丈夫でしょうか?」
心配する崇徳丸に桃子姫は笑顔で断言する。
「崇徳丸様だからこそ一緒に混浴したいのよ…遠慮しないでね♪」
「桃子姫様が平気なら一安心ですね…」
一息した崇徳丸と桃子姫は天霊山の天辺へと到達するなり…。石造りの露天風呂にて混浴したのである。
(桃子姫様と混浴出来るなんて♪)
崇徳丸は内心大喜びする。桃子姫は恐る恐る崇徳丸に近寄るなり力一杯密着したのである。
「桃子姫様!?突然如何されたのですか!?」
彼女に密着された崇徳丸は気恥ずかしくなる。桃子姫は表情が赤面するなり…。
「崇徳丸様…私は…私は崇徳丸様が…」
桃子姫は一息した直後である。
「崇徳丸様が大好きなの…」
桃子姫の一心不乱の恋心に一瞬膠着化するものの…。
「私だって桃子姫様が大好きですよ♪」
崇徳丸は笑顔で返答する。
「崇徳丸様…」
桃子姫は大喜びの様子であり涙腺から涙が零れ落ちる。
(私は人一倍福運だったわ…私にとって崇徳丸様は運命の男性だったのかも知れないわね…)
大喜びした桃子姫であるが直後…。
「ぐっ!」
桃子姫は突発的に吐血したのである。
「桃子姫様!?大丈夫ですか!?」
桃子姫は悲痛の表情で恐る恐る崇徳丸を凝視する。
「桃子姫様…」
(今迄秘密にしたのに…)
「崇徳丸様…御免なさいね…私は…幼少期から…人一倍病弱だったのよ…」
「病弱ですと!?」
(如何して秘密に…)
崇徳丸は一瞬腹立たしくなるものの…。
(桃子姫様…)
桃子姫の表情を直視するなり沈黙したのである。
「私は疫病で…近頃吐血が増悪しちゃったのよね…」
「疫病ですか…胡桃姫様には相談されなかったのですか?」
「胡桃姫にも相談しなかったのよ…」
「如何して彼女に相談しなかったのですか?」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「疫病神だって…胡桃姫に毛嫌いされたくなかったからよ…」
「ですが即刻胡桃姫様に相談しなければ!胡桃姫様が疫病を理由に桃子姫様を疫病神なんて毛嫌いしませんよ…」
「疫病神だって毛嫌いされるわよ…」
崇徳丸は必死に説得するものの…。桃子姫は納得しない。
(桃子姫様は人一倍頑固ですね…)
内心桃子姫を人一倍頑固であると感じる。
「私は長生き出来ないでしょうね…」
「桃子姫様…」
すると桃子姫は崇徳丸を凝視するなり…。
「私は赤ちゃんを出産したいのよ…」
「なっ!?出産ですって!?」
桃子姫の発言に驚愕する。
「こんなにも病弱なのに出産なんて桃子姫様は正気なのですか!?」
彼女は即答したのである。
「勿論私は正気よ…私自身長生き出来ないからね…」
「桃子姫様…」
崇徳丸は混乱するものの…。
「承知しました…桃子姫様♪」
笑顔で彼女の願望に承諾したのである。崇徳丸は笑顔で承諾したが内心では非常に心苦しくなる。
(桃子姫様が病弱だったなんて…)
崇徳丸は涙腺から涙が零れ落ちる。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/14 22:12
投稿者 月影桜花姫
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第二話

亡霊

桃子姫と胡桃姫との居候から一週間後…。安穏であった西方国では無数の悪霊による超常現象が頻発したのである。崇徳丸が昼寝中にて胡桃姫が大急ぎで…。
「崇徳丸様!大変よ!」
「うわっ!如何されましたか胡桃姫様!?」
大急ぎの彼女に崇徳丸は驚愕する。
「一体何事ですか?」
「村人が…村人が何者かによって殺されたの…」
「えっ!?村人が殺されたって?一体何が…」
崇徳丸は即刻胡桃姫と一緒に近隣の麦畑へと疾走したのである。麦畑には大勢の村人達が殺到する。
(何事でしょうか?)
崇徳丸と胡桃姫は恐る恐る麦畑へと潜入するなり…。崇徳丸と胡桃姫は身震いしたのである。
「一体何が…誰がこんな…」
麦畑の中心部には無数の肉片やら腐敗した血肉が散乱する。すると隣接する村人が恐る恐る発言したのである。
「野犬の悪霊の仕業だよ…」
「野犬の悪霊ですって?」
「先日の真夜中だったかな?俺は山奥の樹海で人間の血肉を咀嚼する野犬の悪霊を目撃しちまってよ…周辺は暗闇だったが確実に野犬の悪霊だって認識したよ…」
胡桃姫は恐る恐る隣接する村人に質問する。
「野犬の悪霊って何よ?」
「野犬の悪霊は別名【死霊餓狼】って命名される動植物の悪霊だよ…人間に殺されちまった怨恨で妖怪化しちまった野良犬の化身かな…」
「死霊餓狼ですか…」
死霊餓狼とは無数の動植物が妖怪化した悪霊であり非常に獰猛で肉食である。人間達によって惨殺された無数の動植物の怨恨が融合化した無念の集合体であり憎悪するべき人間が死霊餓狼に遭遇した場合…。遭遇した人間は即刻食い殺される。
「殺された村人は死霊餓狼によって惨殺されたのでしょうか…」
すると突然…。
「ん!?」
(胸騒ぎか!?)
崇徳丸は極度の胸騒ぎを感じる。
「崇徳丸様?大丈夫?」
警戒する崇徳丸に胡桃姫は非常に不安がる。
「胡桃姫様…戦慄させちゃいましたね…失礼しました♪」
崇徳丸は苦笑いするものの…。表情が険悪化したのである。
(私が感じるのは…ひょっとして殺気でしょうか!?)
険悪化した表情で恐る恐る胡桃姫を凝視するなり…。
「胡桃姫様…ひょっとすると一大事かも知れません…」
「一大事ですって?何が一大事なのよ?」
「先程から極度の胸騒ぎを感じるのです…胸騒ぎの正体が人間なのか悪霊なのかは断言出来ませんが…西方国に急接近中です…」
「ひょっとして死霊餓狼かしら…」
胡桃姫は恐る恐る返答する。
(死霊餓狼…)
「死霊餓狼の可能性は否定出来ませんね…」
崇徳丸は険悪化した表情で…。
「胡桃姫様…」
「何よ…崇徳丸様?」
「胡桃姫様は即刻家屋敷に戻りなされ…」
胡桃姫は崇徳丸の目力に圧倒される。
(普段は温厚篤実の大仏様みたいな崇徳丸様が…こんなにも仁王様みたいな表情なんて余程の一大事みたいね…)
胡桃姫は恐る恐る…。
「無理は禁物だからね…崇徳丸様…」
「勿論ですとも…胡桃姫様…」
胡桃姫は即刻自宅へと戻ったのである。
「胡桃姫様は自宅に戻られましたね…」
(私は即刻…)
崇徳丸は即座に殺気の感じる近辺の連山へと全力疾走する。連山の獣道を通過中…。先程よりも胸騒ぎの元凶が刻一刻と急接近するのである。
(殺気を感じる…)
「獣道では一体何が?」
すると背後より…。
「背後!?」
崇徳丸は即座に背後を警戒する。
「此奴は本物の怪物なのか…」
(こんなにも荒唐無稽の怪物が実在するなんて…)
崇徳丸の背後に出現したのは満身創痍の野犬の化身であり左脚と右側の前頭部は白骨化した状態である。
(ひょっとして此奴が…)
「野犬の悪霊…死霊餓狼だな…」
血塗れの腐敗した皮膚と極度の出血により極度の悪臭は勿論…。死霊餓狼の表情から極度の悲痛さを感じさせられる。
「此奴が悪霊なのは確実だな…」
崇徳丸は恐怖心からか身震いする。
(今回の敵対者は人間ではなく正真正銘悪霊だからな…私の『牢固石』の刀剣で仕留められるのか?)
牢固石とは南方国の金剛山で発掘された不朽性の鉄鉱石である。従来型の金剛石を傑出する金剛不壊さと半永久的に原物を持続し続けられる耐久性により名門の武家一族のみが保有を認許される。
「死霊餓狼よ…私が悪霊の貴様を成仏させる!」
強大なる悪霊相手の戦闘は前代未聞であるものの…。崇徳丸は即座に刀剣を抜刀する。死霊餓狼は崇徳丸を睥睨するなり超特急で突進したのである。
「即刻とは!」
崇徳丸は即座に死霊餓狼の突進を回避する。突進を回避した崇徳丸は即刻死霊餓狼に急接近するなり…。
「成仏せよ!」
死霊餓狼に斬撃したのである。
「なっ!?」
渾身の斬撃であったが寸前で回避される。
「私の斬撃を回避するなんて…」
すると死霊餓狼が全身を武者震いさせるなり…。
「ん?」
死霊餓狼は口先より超高温の火球を射出したのである。
「鬼火だと!?」
(ひょっとして妖術なのか!?)
崇徳丸は射出された火球を即座に一刀両断…。危機一髪死霊餓狼の火球を無力化したのである。寸前の一刀両断により火球は切断されたものの…。切断された火球は崇徳丸の背後にて爆散する。
(こんなにも規格外の破壊力とは…牢固石の刀剣ではなく凡庸の刀剣であれば確実に屈折したな…)
超高温の火球を切断した影響からか牢固石の刀剣が火球の熱量により灼熱したのである。
「死霊餓狼は予想外の強敵だが…」
(私が死霊餓狼に殺されれば十中八九桃子姫様と胡桃姫様が殺されるかも知れない…)
崇徳丸は如何するべきなのか混乱する。
(畜生…私は如何すれば…)
すると天空が黒雲により覆い包まれる。
「黒雲だと?」
死霊餓狼の霊力が先程よりも増大化したのである。
「死霊餓狼から極度の殺気を感じる…」
天空の黒雲を恐る恐る直視する。数秒後…。
「うわっ!」
落雷攻撃により黒雲から強烈なる稲光を落下させる。
(落雷なのか!?)
崇徳丸は即座に死霊餓狼の落雷攻撃を回避する。落雷には無事回避したものの…。落雷によって地面が半球型に陥没したのである。半球型に陥没した地面を直視するなり崇徳丸は戦慄する。
(こんなのが頭部にでも直撃すれば私は確実に絶体絶命だったな…)
死霊餓狼は背後から崇徳丸に突進するものの…。
(背後だと!?)
崇徳丸は即座に死霊餓狼の気配を察知する。背後から突進する死霊餓狼の左辺の前脚を斬撃…。左辺の前脚を切断された死霊餓狼は断末魔の悲鳴により横たわったのである。崇徳丸は恐る恐る横たわった死霊餓狼へと近寄る。
「悪霊…成仏しろ…」
斬撃する寸前…。
「畜生…」
死霊餓狼の悲憤慷慨の表情を直視すると非常に心苦しくなる。
(即座に死霊餓狼を仕留めなければ…西方国の村里は勿論…桃子姫様と胡桃姫様が殺されるかも知れないのに…)
すると突然…。
「愚劣なる人間よ…」
虫の息であった死霊餓狼が人間界の公用語で発語したのである。
「えっ?」
(死霊餓狼は喋れるのか!?)
崇徳丸は人語で発語した死霊餓狼に驚愕する。
「ひょっとして死霊餓狼は…喋れるのですか?」
驚愕した崇徳丸であるが恐る恐る死霊餓狼に問い掛けたのである。数秒後…。崇徳丸の問い掛けに死霊餓狼は即答したのである。
「無論である…」
普通なら驚愕する場面であるものの…。崇徳丸は人語の通じる相手に内心一安心したのである。死霊餓狼は崇徳丸を凝視するなり…。
「貴様は人間の…武士であるな…」
「如何して死霊餓狼は西方国の村人達を襲撃するのですか!?死霊餓狼にとって彼等は無関係なのでは…」
死霊餓狼は崇徳丸の発言に反論する。
「奴等が無関係であると?貴様達人間の殺し合いによって自然界は汚染された…私は人間達によって惨殺された動植物の霊魂の集合体である…」
「動植物の霊魂ですと…」
死霊餓狼とは人間達によって惨殺された多種多様の動植物の霊魂が融合化した悪霊の集合体であり各地で戦乱を頻発させる人間達を憎悪する。
「私自身も人間であり一兵卒の身分ですが…頻発する戦乱の世の中を毛嫌いするからこそ武陵桃源の西方国に移住したかったのです…悪霊の死霊餓狼も私達人間によって自然界を汚染されたかも知れませぬが…西方国の村人達には手出ししないと約束出来ないでしょうか?」
崇徳丸は死霊餓狼に哀願したのである。
「西方国は戦乱とは程遠い場所なのです…如何しても手出ししたいのであれば部外者である私のみで…」
死霊餓狼は崇徳丸の発言に影響されたのか霊力が弱体化する。
「貴様は武士の人間であるが非常に人格者であるな…是非とも勇猛果敢の貴様には呪詛しなければ…」
「呪詛ですと!?」
すると突然…。
「ぐっ!」
(全身から熱気が…)
体内より強烈なる熱気を感じる。
「人格者の貴様には私の呪力を分け与えた…戦乱を頻発させる大勢の極悪非道の人間達を呪殺するべし…」
「呪殺ですと?私に死霊餓狼の呪力で大勢の人間を殺せと…」
「勿論…貴様なら出来る…大勢の人間達を殺せ…」
返答した直後…。死霊餓狼は衰弱化するなり満身創痍の肉体が白骨化したのである。白骨化した死霊餓狼の死骸からは殺気は感じられない。
「死霊餓狼が…」
すると数秒後…。背後より桃子姫と胡桃姫が恐る恐る崇徳丸に近寄る。
「崇徳丸様!」
「崇徳丸様!?大丈夫ですか?」
「桃子姫様と胡桃姫様でしたか…」
桃子姫は力一杯崇徳丸に密着したのである。
「崇徳丸様が無事で…無事で何よりです…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
(桃子姫様…こんな私を心配して…)
内心嬉しくなる。崇徳丸は桃子姫に笑顔で…。
「ですが私にとって桃子姫様と胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪」
「崇徳丸様…」
すると胡桃姫が背後の白骨化した死霊餓狼に気付いたのである。
「ひょっとして野犬の遺骨かしら?」
「死霊餓狼の死骸ですよ…」
「死霊餓狼の?白骨化した野犬みたいね…」
胡桃姫は恐る恐る白骨化した死霊餓狼の死骸に接触する。
「えっ?」
「一体如何されましたか?胡桃姫様?」
胡桃姫は白骨化した死霊餓狼の頭蓋骨より正体不明の金属類の破片を発見したのである。
「何かしら?えっ…」
「如何やら金属類の…破片ですね…」
胡桃姫は愕然とした表情で…。
「ひょっとして火縄銃の弾丸かしら…」
すると崇徳丸が発言する。
「ひょっとすると死霊餓狼の正体は人間達によって惨殺された野犬の亡霊だったのでしょう…」
「死霊餓狼の正体は人間に殺された野犬の亡霊だったのね…」
一同は戦乱の悲劇を痛感したのである。
「如何して人間達って殺し合うのかしら…」
桃子姫は無表情で発言する。
「桃子姫様…」
「桃子姫姉ちゃん…」
崇徳丸と胡桃姫は困惑するものの…。
「人間とは非常に強欲ですからね…結局は誰しもが強欲だからこそ大勢で殺し合うのでしょうね…こんな私も彼等の一員ですがね…」
気難しく発言するが数秒後に崇徳丸は笑顔で断言する。
「ですが西方国は正真正銘武陵桃源です!私自身出身地の東方国よりも武陵桃源の西方国が大好きですよ♪今回みたいに神出鬼没の無礼者が出現したとしても私は全身全霊で西方国を守護しますから…」
崇徳丸は天空を眺望するなり恐る恐る…。
「戻りませんか?」
すると胡桃姫が笑顔で発言する。
「戻りましょう♪祝賀会よ♪」
「祝賀会ですと?誰の祝賀会でしょうか?」
崇徳丸は恐る恐る問い掛ける。
「勿論崇徳丸様の祝賀会よ♪」
「えっ…私の祝賀会ですか?」
崇徳丸は動揺する。
「私達は崇徳丸様に守護されてばかりだし♪私達からも精一杯恩返ししないとね…」
崇徳丸は非常に困惑したのである。
「別に恩返しなんて…大袈裟ですな…」
「崇徳丸様は遠慮深いのね♪」
「遠慮しないで崇徳丸様♪」
「生憎ですが私は別に…何も…」
崇徳丸は気恥ずかしくなる。桃子姫は恐る恐る…。
「崇徳丸様は梅酒とか大丈夫?」
崇徳丸は即答する。
「生憎ですが…私は酒類が苦手なのです…」
「意外だね…」
すると突然…。
「ぐっ!」
突発的に息苦しくなり卒倒したのである。
「崇徳丸様!?」
「崇徳丸様!?大丈夫!?」
すると崇徳丸の全身より血紅色の発光体が無数に出現する。
「きゃっ!血紅色の発光体だわ…」
「何かしら…」
彼女達は恐る恐る血紅色の発光体に接触するものの平然とした様子である。数秒後…。崇徳丸は平常心の様子で目覚める。
「えっ?桃子姫様と胡桃姫様?如何されたのですか?」
「崇徳丸様…大丈夫ですか?突然卒倒されて…」
桃子姫は極度の心配性であり崇徳丸に気遣ったのである。
「私が卒倒ですと!?一体私に何が…」
崇徳丸は驚愕する。
「あんたが突然気絶しちゃったから…一瞬膠着しちゃったわ…」
胡桃姫は不機嫌そうに発言したのである。
「心配させちゃいましたね…大変失礼しました…」
崇徳丸は二人に謝罪する。
「別に謝罪しなくても…」
桃子姫は苦笑いしたのである。
「桃子姫様と胡桃姫様…即刻家屋敷に戻りましょう!悪霊は退治しましたから一先ずは安心ですよ♪」
崇徳丸は笑顔で先走る。無表情だった胡桃姫は崇徳丸の様子に身震いするなり恐る恐る問い掛ける。
「桃子姫姉ちゃん?」
「何よ…胡桃姫…」
「彼って…悪霊の死霊餓狼に呪詛されちゃったのかも知れないわね…」
胡桃姫は超常現象やら超自然関連の宗教学が人一倍大好きであり独力で勉学したのである。
「呪詛ですって?」
「桃子姫姉ちゃんも肉眼で認識したでしょう?血紅色の発光体を…」
「血紅色の発光体…」
「崇徳丸様は死霊餓狼の怨恨に憑霊されちゃったのよ…」
「崇徳丸様が死霊餓狼の怨恨に憑霊されたって?」
桃子姫は胡桃姫の発言に困惑する。
「現段階では断言は出来ないけれども…今後私達も彼に…崇徳丸様に殺されちゃうかも知れないわ…」
不安視する胡桃姫に桃子姫が猛反発したのである。
「胡桃姫!崇徳丸様に失礼よ…彼が…誰よりも温厚篤実の崇徳丸様が私達に手出しするなんて荒唐無稽だわ…」
「桃子姫姉ちゃん!大昔の伝承では自然界の悪霊を征伐した人間が悪霊に憑霊されて…大勢の村人達を殺戮したのよ…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「崇徳丸様は…」
「桃子姫姉ちゃん…」
胡桃姫は桃子姫に接触するなり…。
「現時点では大丈夫かも知れないけれども…金輪際崇徳丸様とは注意深く接触しましょう…崇徳丸様が私達に手出しするのか如何なのかは断言出来ないけれどね…」
「胡桃姫…」
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/14 22:10
投稿者 月影桜花姫
参照先
特別編

第一話

武陵桃源

戦乱時代の出来事である。天地歴二千八百五十年の中頃より太平神国は東西南北の四国に分裂…。各陣営の領主達が全身全霊で国全体の主導権の争奪戦に尽力する。頻発する戦乱の悪影響からか各村落では神出鬼没の悪霊が出没するとの超状現象も日に日に頻発したのである。戦乱によって死去した亡者達は勿論…。動植物の亡霊も多数出現する。戦乱時代末期の出来事である。天地歴三千九年十一月中頃…。最大勢力である東方国よりとある若武者の美青年と家来が武陵桃源の西方国へと移動したのである。西方国へと到達すると家来が真夜中の田畑を眺望する。
「西方国に到着しましたよ!正真正銘武陵桃源ですな♪」
美青年の若武者も西方国の広大無辺の茶畑を眺望したのである。
「西方国が武陵桃源なのは事実だったのか…こんなにも戦乱が頻発する時代で…西方国だけは本当に桃源郷だな…」
若武者の名前は【夜桜崇徳丸】…。東方国出身の最上級武士であり名門の夜桜一族の長男である。家来は恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「ですが崇徳丸様?如何して崇徳丸様はこんなにも田舎村の西方国なんかに視察されたかったのですか?」
理由を問い掛けられた崇徳丸は一息するなり…。無表情で返答する。
「私は…武陵桃源の西方国で定住したかったからな…」
崇徳丸の返答に家来は驚愕したのである。
「崇徳丸様!?突発的に何を!?西方国に定住されるなんて…本気なのですか?」
驚愕する家来に崇徳丸は即答する。
「勿論…私は本気だよ…」
「崇徳丸様…突然如何されたのですか?ひょっとして再起不能の疫病にでも?」
「疫病なんて…貴様は大袈裟だな…」
「崇徳丸様は名門の夜桜一族の最上級武士なのですよ!最上級武士の崇徳丸様がこんなにも田舎村の西方国なんかに移住されるなんて♪」
夜桜一族は名門の武家一族であり崇徳丸は最上級武士としては勿論…。東方国の軍神として大勢の敵兵達を斬撃する。崇徳丸は家来の発言に苛立ったのか表情が険悪化するなり家来を睥睨したのである。
「結局は貴様も…」
「えっ?」
崇徳丸の目力に家来は圧倒される。
「崇徳丸様…如何されたのですか?」
崇徳丸は一息するなり…。
「本日より私は東方国…武家一族の夜桜一族とは絶縁する…金輪際私は東方国へは戻らないからな…」
「絶縁ですと!?崇徳丸様は突然何を…」
家来は崇徳丸の突発的発言に混乱したのである。警戒した様子で恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「絶縁なんて…崇徳丸様は本気なのですか!?」
「私は本気だよ…」
崇徳丸は即答したのである。
「是非とも貴様には感謝しなければ…こんな私なんかと一緒に田舎村の西方国に随伴して…」
「崇徳丸様?」
崇徳丸は即座に護身用の刀剣を抜刀するなり家来を威嚇したのである。
「なっ!?崇徳丸様!?一体何を!?」
崇徳丸の表情から本気の殺意を感じる。
「命拾いしたければ…即刻私から逃走しろ…」
「ひっ!」
家来は戦慄するなり闇夜の自然林へと一目散に逃走する。
「邪魔者は逃走したな…」
崇徳丸は恐る恐る西方国へと潜入したのである。田舎村の西方国は人口増の東方国とは桁違いの少人数であり崇徳丸は内心一安心する。
(西方国は極楽浄土を想念させる場所だな…)
すると西方国の天霊山と命名される低山から露天風呂の薫風が西方国全体に浸透化したのである。
「温泉郷の薫風っぽいな…」
気になった崇徳丸は薫風を目印に天霊山へと疾走する。数分間で天霊山の天辺へと到達…。天霊山の天辺中心部には神秘性を感じさせる石造りの露天風呂が確認出来る。
「正真正銘温泉郷だったとは…」
恐る恐る露天風呂を凝視し続けるなり…。
「ん?」
露天風呂には一人の女性らしき小柄の人影が確認出来る。
(誰かと思いきや…小柄の女性っぽいな…)
露天風呂の湯気によって誰が入浴中なのかは不明瞭であるものの…。小柄の人影は人間の女性であると認識出来る。驚愕した崇徳丸は胸騒ぎを感じるなり…。即座に岩陰にて入浴中の女性の様子を眺望する。
(入浴中みたいだが…彼女は一体何者なのか?人間なのかな?)
「本物の天女みたいだ…」
女性は非常に神秘的雰囲気であり崇徳丸は人間の女性なのか疑問視したのである。黒毛の長髪…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり非常に異質的である。何よりも気になったのは彼女の巨乳のおっぱいであり普段は人一倍生真面目の崇徳丸も女性のおっぱいに見惚れる。
「なっ!?」
(私は一体全体何を…私にとって本来の天敵とは私自身の下心なのかも知れないな…)
崇徳丸は極度の忍耐力により自分自身の性欲を抑圧するものの…。女性の様子が気になるのか赤面した様子で恐る恐る覗き見したのである。
(私は名門の武家一族…夜桜一族の最上級武士なのだぞ!)
すると崇徳丸の背後より…。突如として何者かが崇徳丸の後頭部を棍棒で力一杯打擲したのである。
「ぎゃっ!」
強烈なる打撃力により崇徳丸は地面に横たわる。
「助平!変態男!」
力一杯崇徳丸の後頭部を打擲したのは茶髪の小柄の女性であり地面に横たわった崇徳丸を凝視…。強烈なる目力で彼を睥睨する。
「ぐっ!貴様…突然何しやがる…」
腹立たしくなった崇徳丸も茶髪の女性に睥睨し返したのである。
「あんたは敵国の刺客ね!?私の【桃子姫】姉ちゃんに手出しするなら私は手加減しないからね!」
崇徳丸は強気の彼女に圧倒される。
「なっ!?私は…別に…何も…」
すると入浴中だった桃子姫が全裸の状態で恐る恐る岩陰へと近寄る。
「如何しちゃったの…【胡桃姫】?一体何事かしら?」
「桃子姫姉ちゃん!敵国の刺客よ!彼が入浴中の桃子姫姉ちゃんを覗き見したのよ…」
「えっ?覗き見ですって?誰が覗き見したの?」
桃子姫は極度の鈍感なのか危機感が皆無だったのである。
(桃子姫姉ちゃん…本当に鈍感だわ…)
桃子姫の様子に胡桃姫は苦笑いする。沈黙した崇徳丸であるが即座に反論したのである。
「別に覗き見なんて…私は敵国の刺客ではなく東方国出身の夜桜崇徳丸ですよ!一兵卒の身分ですが守護するべき女性には手出ししませんから…」
「東方国ですって?」
崇徳丸は彼女達に東方国から西方国に来訪した経緯を一部始終告白する。
「戦乱に嫌悪感がね…」
「ですが祖国と一族を絶縁するなんて…」
「何よりも私にとって祖国と一族は呪縛でしたからね…正直解放されたかったのですよ…」
すると崇徳丸は笑顔で…。
「ですが西方国が武陵桃源なのは事実みたいですね♪俗界の天国ですな…」
崇徳丸は満足気に発言する。
「夜桜崇徳丸様だったかしら?胡桃姫が勘違いしちゃったみたいで大変失礼しました…」
桃子姫は恐る恐る崇徳丸に謝罪したのである。謝罪する桃子姫に崇徳丸は笑顔で返答する。
「桃子姫様ですかね♪気になさらないで…私なら大丈夫ですから♪」
すると胡桃姫が笑顔で…。
「崇徳丸様が助平で変態男なのは事実よね♪」
揶揄する胡桃姫に崇徳丸は苦笑いする。
「私は別に…何も…」
すると桃子姫は崇徳丸を揶揄する胡桃姫に怒号したのである。
「胡桃姫!崇徳丸様に失礼でしょう!崇徳丸様に謝罪しなさい!」
「御免あそばせ♪夜桜崇徳丸様♪」
胡桃姫は笑顔で謝罪する。
「胡桃姫様…私なら気にしませんから大丈夫ですよ♪」
「崇徳丸様…」
胡桃姫は崇徳丸を人一倍温厚篤実であると感じる。
「私達は失礼しますね…」
桃子姫と胡桃姫は崇徳丸に黙礼するなり恐る恐る村里の家屋敷へと戻ったのである。すると胡桃姫は下山中に恐る恐る…。
「桃子姫姉ちゃん?」
「何よ…胡桃姫?」
「桃子姫姉ちゃんが赤面しちゃうなんてね♪ひょっとして桃子姫姉ちゃんは崇徳丸様に見惚れちゃったのかしら♪」
胡桃姫は桃子姫を揶揄する。
「胡桃姫!私は別に…崇徳丸様に恋心なんて…」
桃子姫は反論するものの…。
「崇徳丸様が誰よりも紳士的なのは事実かしらね…」
「崇徳丸様は助平で変態男だけどね♪」
「胡桃姫…彼に失礼よ…」
「御免あそばせ♪桃子姫姉ちゃん♪」
胡桃姫は笑顔で謝罪する。すると周辺の暗闇の自然林から無数の気配を感じる。
「えっ!?何かしら?」
「気配だわ…」
数秒後…。暗闇の自然林から四人の無頼漢達が出現するなり下山中の桃子姫と胡桃姫を包囲したのである。
「あんた達は一体何者よ!?」
「ひょっとして彼等は匪賊かしら?」
「匪賊なんて失礼だな…俺達は南方軍の最精鋭の最上級武士だぞ♪」
「姉ちゃん達よ♪殺されたくなったから大人しく俺達に金品を手渡しな…」
匪賊達は即座に刀剣を抜刀する。
「今回の相手は非武装の姉ちゃん達だからな♪俺達でも楽勝で打っ殺せるぜ♪」
胡桃姫は匪賊達に睥睨したのである。
「何が最精鋭の最上級武士よ!守護するべき女性に手出しするなんてあんた達は本当に最上級武士なの!?」
相手は屈強の無頼漢達であるものの…。胡桃姫は強烈なる目力により彼等に威嚇したのである。
「姉ちゃんよ…あんたは随分強気だな♪」
「俺達は南方軍の最上級武士だからな♪南方国の女子達だったら守備するぜ♪所詮姉ちゃん達は敵国の人間だから対象外なのさ♪」
匪賊達は失笑する。すると桃子姫は恐る恐る…。
「胡桃姫…私達殺されちゃうよ…」
桃子姫は極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。
「桃子姫姉ちゃん…」
(畜生…如何すれば…)
胡桃姫と桃子姫は戦慄したのか恐る恐る後退りしたのである。
「一安心しな♪姉ちゃん達は即刻安楽死させるからよ♪」
直後…。
「ぐっ!」
何者かによって投擲された石ころにより小柄の匪賊を気絶させる。
「なっ!?」
「一体誰が!?」
彼等は驚愕する。すると匪賊達の背後より…。
「貴様は一体何者だ!?」
匪賊達の背後には若齢の美青年が出現する。
「本来なら守備するべきか弱き女性を相手に…経世済民の武士達が多人数で手出しするとは言語道断だな!か弱き女性に手出しする愚人達は私が即刻征伐する…」
美青年の出現に桃子姫と胡桃姫は一安心したのである。
「ひょっとして夜桜崇徳丸様!?」
「あんただったのね♪」
すると匪賊達が恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「夜桜崇徳丸って…貴様は東方国の軍神…夜桜崇徳丸なのか!?」
匪賊達の問い掛けに崇徳丸は即答したのである。
「無論!私が東方国の若武者…夜桜崇徳丸だからな…」
「誰かと思いきや…貴様が名門の武家一族…夜桜一族の夜桜崇徳丸だったとは…」
すると巨漢の無頼漢が崇徳丸に睥睨するなり…。
「今回は俺達にとって好都合だ!俺達南方軍の戦友達は東方軍の荒武者達によって大勢惨殺されちまったからな…復讐するには絶好機!」
巨漢の匪賊が崇徳丸に殺到する。
「敗残兵の分際で…」
崇徳丸は無表情で即座に刀剣を抜刀するなり…。
「ぐっ!」
一瞬の身動きによって巨漢の匪賊を瞬殺したのである。巨漢の匪賊は多量の出血により地面に横たわる。崇徳丸の超人的瞬発力と剣術に周囲の匪賊達は勿論…。桃子姫と胡桃姫も愕然とする。
(崇徳丸様って誰よりも勇猛果敢で男前だわ♪)
桃子姫は崇徳丸の瞬発力と剣術を直視するなり…。崇徳丸に見惚れたのである。
(如何やら私は勘違いしたみたいね…崇徳丸様は単なる変態男ではなく正真正銘剣客だったのね…桃子姫姉ちゃんが崇徳丸様に見惚れちゃうのも納得出来るわ♪)
胡桃姫も崇徳丸に魅了される。
「私に殺されたくなければ即刻逃走するのだな…」
「ひっ!打っ殺されちまう!逃げろ!」
匪賊達は崇徳丸に戦慄したのか一目散に逃走する。
「大丈夫でしたか?桃子姫様?胡桃姫様?」
桃子姫は笑顔で即答したのである。
「私達なら大丈夫よ♪感謝します…崇徳丸様…」
「か弱き女性を守護するのは当然の行為です…桃子姫様と胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪」
すると胡桃姫が笑顔で発言する。
「あんたって正真正銘剣客だったのね♪誰よりも男前だし♪」
「私が男前なんて…胡桃姫様は非常に大袈裟ですな♪」
(私が男前ですって♪)
崇徳丸は胡桃姫の男前発言に赤面するものの…。内心では大喜びしたのである。
「崇徳丸様?」
桃子姫は赤面するなり…。
「如何されましたか?桃子姫様?」
「私達の家屋敷で居候しない?」
「居候ですと!?私が…」
崇徳丸は驚愕する。
「西方国は全体的に独特で閉鎖的だからね…」
「こんな見ず知らずの私が桃子姫様と胡桃姫様の家屋敷に居候しても大丈夫なのですか?」
桃子姫は笑顔で即答したのである。
「崇徳丸様が居候するなら私は大喜びですよ♪」
すると胡桃姫も笑顔で発言する。
「私も桃子姫姉ちゃんと同意見よ♪崇徳丸様が変態男だけど勇猛果敢で温厚篤実で人一倍男前だし♪是非とも居候してね♪夜桜崇徳丸様♪」
「えっ…」
(変態男って…)
崇徳丸は胡桃姫の変態男発言に苦笑いするものの…。恐る恐る承諾したのである。
「承知しました♪」
困惑した崇徳丸であるが…。内心では一安心した様子だったのである。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/14 22:07
投稿者 月影桜花姫
参照先
最終話

匪賊征伐

霊魂巨神木と無数の亡者達による天災地変から三週間後の早朝である。悪霊事件が解決してより太平神国に安寧秩序が戻ったものの…。南方国の荒神山は極悪非道の匪賊達により牛耳られたのである。近頃匪賊達による悪巧みの噂話が国全体に出回る。噂話が気になった桜花姫は即座に南方国の荒神山へと潜入したのである。
(荒神山では極悪非道の匪賊達が潜伏中みたいね…)
先日より桜花姫が荒神山に出没した悪霊の大群を仕留めて以降荒神山は元通りの観光地に戻ったものの…。近日では十数人の匪賊達により荒神山は完全占拠されたのである。桜花姫は南方国の荒神山に到達するなり…。
「何かしら?」
周辺の自然林より無数の人間達の殺気を感じる。
「人間達の殺気を感じるわ…」
登山中に一瞬身震いするものの…。
「手出しするなら相手が人間でも私は手加減しないわよ!」
桜花姫は警戒した様子で荒神山の天辺へと突入したのである。
「天道眼…」
桜花姫は瞳術の天道眼を発動…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が瑠璃色の碧眼へと発光する。
「天道眼を発動するのは久方振りね…」
霊魂巨神木に憑霊した無数の亡者達よる悪霊事件が解決してからは毎日が平穏の日常であり摩訶不思議の超常現象も悪霊も出現しなかったのである。平穏の日常は桜花姫にとって極度の憂鬱であったものの…。
「退屈中だったし…私にとって今回の大騒ぎは絶好機なのよね♪」
彼女にとって匪賊達の征伐は久方振りの道楽であり内心大喜びしたのである。すると突然…。周辺の自然林より人間達の殺気を感じる。
「人間達の殺気だわ…」
突如として周辺より無数の火縄銃の弾丸が乱射される。
(敵襲かしら!?)
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。火縄銃の弾丸を無力化したのである。近辺の地面には無数の弾丸が散乱する。
「陣地の見張り役は数人かしら?」
自然林から桜花姫を狙撃した見張り役の匪賊達は弾丸を無力化した彼女に戦慄したのである。
「畜生が…弾丸を無力化するなんて…」
「ひょっとして妖術で弾丸を無力化しやがったのか!?」
「如何やら侵入者は妖女みたいだな…」
匪賊達は恐る恐る後退りする。
「即刻本拠地に戻ろう…火縄銃では妖女は仕留められまい…」
天辺の本拠地に戻ろうかと思いきや…。
「ぎゃっ!」
突如として小柄の見張り役の頭部が肥大化したのである。周囲の匪賊達は肥大化した頭部を直視するなり戦慄する。
「頭部が…」
数秒後…。肥大化した頭部が破裂したのである。
「ひっ!」
「頭部が破裂しやがった!」
地面には無数の血肉やら脳味噌が散乱する。
「如何してこんな…」
「妖術で破裂させたのか!?」
戦慄した見張り役達は一目散に逃走したのである。数秒後…。桜花姫が自然林へと潜入する。
「如何やら見張り役は逃走しちゃったみたいね…えっ?」
地面に散乱した血肉やら脳味噌を直視するなり…。
(気味悪いわね…)
「桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
桜花姫は変化の妖術によって散乱した見張り役の血肉を大好きな桜餅に変化させたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させなくちゃね♪」
散乱した桜餅を頬張るなり消耗した妖力を回復させる。
「妖力も万全だし♪本拠地に潜伏中の匪賊達を蹴散らせないと…」
桜花姫は荒神山天辺の本拠地へと進行したのである。すると背後より…。
「雑魚の分際で鬱陶しいわね…」
異国の洋弓銃を装備した匪賊が出現する。
「侵入者は毒死しやがれ!」
洋弓銃から猛毒の毒矢を発射するなり…。桜花姫に射撃したのである。
(毒矢かしら?)
即座に妖力の防壁を発動…。毒矢を無力化する。
「雨蛙に変化しなさい♪」
すると匪賊は変化の妖術によって雨蛙に変化したのである。
「私は常日頃から大忙しなのよ♪」
獣道を通行中…。獣道の道端で一休みしたのである。
「私だけで匪賊達を全滅させるのは片手間だけれども…」
一息するなり…。
「禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪」
神通力による禁断の妖術を発動したくなる。地面の石ころを直視する。
「口寄せの妖術…発動!」
すると数秒後…。地面の石ころが蛍光体に変化したのである。蛍光体の石ころが等身大の女体を形作るなり…。白装束の女性が地面に横たわったのである。白装束の女性が恐る恐る目覚める。
「えっ?私は…」
白装束の女性は寝惚けた様子であったものの…。
「えっ?誰かしら…」
女性は桜花姫と目線が合致する。
「ひっ!あんたは!?」
白装束の女性が桜花姫に気付いたかと思いきや…。桜花姫を直視すると彼女は極度に戦慄する。
「戦慄しなくても大丈夫よ♪私よ…桜花姫よ♪」
「あんたは…月影桜花姫!?」
「久方振りね…氷麗姫♪元気そうで安心したわ♪」
口寄せの妖術によって俗界に口寄せされたのは数週間前の戦闘で桜花姫の変化の妖術により食い殺された粉雪妖女の氷麗姫だったのである。
「如何してあんたが!?私は桜花姫に捕食されて…食い殺されたのよ…」
「口寄せの妖術であんたを俗界に再臨させたのよ♪」
口寄せの妖術とは伝説の瞳術である天道眼と造物主の神通力を保有する妖女のみが使用出来る前代未聞の禁断の妖術…。所謂時空間妖術の一種であり黄泉の国の死没者でさえも元通りに復活させられる。
「捕食された私を復活させるなんて…あんたは本物の女神様だね…」
氷麗姫は苦笑いしたのである。
「私が女神様なんて…氷麗姫は大袈裟ね♪」
氷麗姫の女神様発言に桜花姫は内心大喜びする。
(黄泉の国から死没者を簡単に復活させちゃうなんて…桜花姫は末恐ろしくなるわね…)
黄泉の国の死没者でさえも元通りに復活させた桜花姫を氷麗姫は戦慄したのである。
「如何してあんたみたいな小娘がこんなにも夢物語みたいな妖術が扱えるのよ?口寄せの妖術って禁断の妖術だったわよね?」
氷麗姫の質問に桜花姫は経緯を洗い浚い告白する。
「あんたが森羅万象の造物主である霊魂巨神木を仕留めちゃったの!?霊魂巨神木って世界樹だったわよね?」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「無論ね♪霊魂巨神木は仕留められたけれど私一人では断然勝利出来なかったわよ…妹分の小猫姫と一緒に共闘したのだけれどね♪」
「仲間と共闘したとしても結果的にあんたみたいな小娘が森羅万象の造物主に勝利しちゃったみたいだからね…私みたいな凡庸の妖女では到達したくても到達出来ない領域だわ…」
氷麗姫にとって今現在の桜花姫は異次元の存在であり自身が低次元の微生物であると感じる。すると桜花姫は一息するなり…。
「口寄せの妖術は莫大の妖力を消耗しちゃうわね♪普通の妖女なら過労死するかも知れないわ…」
口寄せの妖術は通常の妖術とは桁違いの妖力が必要不可欠であり唯一瞳術の天道眼と造物主の神通力を扱える妖女のみが使用出来る。大量の妖力を所持した妖女を復活させるのであれば莫大なる妖力を消耗…。場合によっては術者の過労死も否定出来ない。桜花姫は口寄せの妖術を駆使した影響により大量の妖力を消耗する。
「普通の人間とか悪霊なら極小の妖力でも復活出来るけどね♪死滅した妖女を元通りに復活させるのは最上級妖女の私でも一苦労だわ…」
(人間と悪霊なら極小の妖力で復活出来るの!?)
桜花姫の発言に絶句する。
(ひょっとして桜花姫は天道の化身かしら?)
氷麗姫は桜花姫の正体が天道の化身なのではと連想したのである。すると桜花姫は氷麗姫に問い掛ける。
「如何して氷麗姫は西方国の廃村で村人達を氷結させちゃったのよ?」
氷麗姫は一瞬困惑するものの恐る恐る…。
「私の宿六が…不倫したからよ…」
「宿六の不倫ですって?」
「宿六の不倫に苛立って無関係の村人達を氷結させたの…」
「あんたは人騒がせな人妻ね…」
(完全に八つ当たりだわ…)
桜花姫は呆れ果てる。
「金輪際夫婦間の八つ当たりで無関係の人間には手出ししないのよ…」
桜花姫の警告に氷麗姫は恐る恐る承諾したのである。
「勿論よ…」
「苛立って無関係の誰かに手出しすれば今度こそ私が征伐するからね♪」
桜花姫は笑顔で断言する。不吉の笑顔で微笑む桜花姫に戦慄した氷麗姫であるが内心気恥ずかしくなったのか沈黙したのである。
「即刻本拠地に潜入しましょう♪」
「本拠地ですって?」
「荒神山を牛耳る匪賊達を徹底的に征伐するのよ♪勿論あんたも私に協力するわよね?」
氷麗姫は笑顔の桜花姫に戦慄する。
「勿論…私も協力するわよ…」
(折角元通りに復活出来たのに…桜花姫に協力しなかったら今回も食い殺されちゃうかも知れないからね…)
氷麗姫は折角第二の人生を満喫出来るのに殺されては元も子もないと感じる。氷麗姫は笑顔の桜花姫に身震いしたのである。
「勿論♪今回私が傍若無人のあんたを復活させたのは私自身の気紛れだからね♪」
桜花姫の傍若無人の一言に一瞬腹立たしくなる。
(傍若無人なのはあんただって一緒でしょうが!桜花姫!)
苛立った氷麗姫であるが堪忍する。
「先程の口寄せの妖術で私は空腹だし敵対視するのであれば即刻あんたを桜餅に変化させて食い殺しちゃうかも知れないわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に苛立つものの…。不本意であるが氷麗姫は桜花姫に服従したのである。
「別に敵対視しないわよ…裏切れば食い殺されるのは明白だし…」
「交渉成立ね♪」
桜花姫と氷麗姫は一致団結…。匪賊達の本拠地へと移動したのである。数分後…。彼女達は荒神山の天辺へと到達する。
「到達したわね♪」
「荒神山の天辺だわ…」
天辺の中心部には楼閣らしき家屋敷が確認出来る。
「家屋敷だわ…奴等の本拠地っぽいわね…」
「表門の門番は二人ね…」
家屋敷の表門には二人組の門番が見張り役として表門を警護する。
「門番を突破しちゃえば楽勝ね♪」
「如何するのよ?桜花姫?」
「勿論正面突破で門番達を仕留めるわよ♪」
「あんたらしいわね♪桜花姫♪」
彼女達は家屋敷の表門へと近寄る。すると桜花姫は笑顔で挨拶する。
「御免あそばせ♪」
「なっ!?貴様達は一体何者であるか!?」
表門の門番達は警戒するなり即座に抜刀したのである。
「花魁かと思いきや…貴様は妖女であるな!?」
「先程の妖女の噂話とやらは事実であったか!」
桜花姫は笑顔で発言する。
「あんた達…私に殺されたくなければ即刻表門を開放しなさい♪」
「何を!小娘の分際で!」
「斬首されたいか!?小娘!?」
桜花姫の発言に苛立った門番達は桜花姫に殺到したのである。
「地上界の女神様のである私に小娘なんて…あんた達は余程の命知らずなのね♪」
即座に念力の妖術を発動…。門番達の肉体を破裂させる。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
表門には彼等の血肉やら肉片が散乱する。
「桜花姫…あんたは相手が人間でも手加減しないのね…」
人間相手に手加減しない桜花姫に氷麗姫は気味悪がる。
「手加減するも何も…敵対者が人間だったとしても確実に仕留めるのが私だからね♪無論無抵抗の人間なら相手が匪賊だったとしても手出ししないから安心しなさい♪」
気味悪がる氷麗姫であるが…。桜花姫は笑顔で反論する。
「あんただって数週間前は八つ当たりで村人達を殺戮したでしょう♪私は八つ当たりでは相手が誰でも人間は殺さないからね♪」
桜花姫の反論に氷麗姫は沈黙したのである。
「一休みしましょう♪私は空腹なので♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するなり…。散乱した門番達の血肉を無数の桜餅に変化させたのである。
「えっ!?人間の血肉が桜餅に!?」
(半年前は私自身も桜花姫の変化の妖術で桜餅に変化させられて食い殺されたのよね…)
氷麗姫は数週間前の出来事を想起するなり身震いする。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜花姫は極度の空腹であり散乱する桜餅を無我夢中に頬張る。
「桜餅でも本来は人間の血肉なのよ…笑顔で頬張れるなんて…」
桜花姫の悪食に氷麗姫は気味悪くなる。
「人間の血肉でも妖術で変化させれば気にならないから大丈夫よ♪折角だから氷麗姫も一緒に味見しない?」
「私は味見したくないわ!」
(人間の血肉なんて桜餅でも食べたくないわね…)
氷麗姫は断然拒否する。数分後…。
「美味だわ♪」
桜花姫は表門に散乱した無数の桜餅を平らげたのである。
「数分間で無数の桜餅を平らげるなんて…」
数分間で無数の桜餅を桜花姫に氷麗姫は苦笑いする。
「妖力も回復出来たし♪」
「匪賊達を蹴散らせるのよね?」
「今回は普通に蹴散らせるのは面白くないから…」
「如何するのよ?」
桜花姫は地面の石ころを凝視するなり…。
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は口寄せの妖術を再発動する。口寄せの妖術を発動すると地面の石ころが蛍光体へと変化したかと思いきや…。一瞬で人間の姿形を形成したのである。数秒後…。先程念力の妖術で仕留めた門番の一人を元通りの姿形に復活させたのである。
「えっ!?先程仕留めた人間の門番だわ!ひょっとして彼も口寄せの妖術で復活させたの!?」
問い掛ける氷麗姫に桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論よ♪彼も私が口寄せの妖術で復活させたのよ♪口寄せの妖術は普通の人間は当然♪普通の悪霊程度なら微量の妖力で復活させられるから非常に便利でしょう♪」
口寄せの妖術は同種の妖女を復活させた場合妖力の消耗は通常の妖術よりも桁外れであるが人間は勿論…。通常の悪霊を復活させるには微量の妖力のみで復活させられる。
(こんな荒唐無稽の小娘が夢物語みたいな非人道的妖術を自由自在に扱えるなんて…)
黄泉の国からの死没者さえ元通りに復活させる口寄せの妖術に氷麗姫は再度末恐ろしくなる。
「えっ?如何しちゃったのかしら?門番は喋らないし無反応だわ…」
元通りに復活させた門番であるが…。沈黙した様子であり何一つとして身動きしない。
「身動きしないわよ…無表情の雛人形みたいね…」
「勿論♪身動き出来ないし彼自身は単なる傀儡人形だからね…」
本来口寄せの妖術で復活させた対象者は妖術を発動した使用者の傀儡人形として扱われる。無論対象者の自我は妖術の使用者に掌握…。妖術の使用者が掌握を軽減化させなければ復活した対象者は単なる手駒であり姿形が生身の傀儡人形同然である。
「あんたが意思表示を表現出来るのは私が掌握を軽減化しただけだからね♪本来なら口寄せの妖術で復活させた氷麗姫だって私の傀儡人形なのよ♪」
復活させた門番は微量の妖力で形作られた不良品であり姿形は元通りでも自我は皆無であり彼自身は自己の意思表示は出来ない。すると桜花姫は復活した門番に問い掛けたのである。
「あんた達の家屋敷では何人の匪賊達が潜伏中なのかしら?」
桜花姫の質問に門番は的確に即答する。
「本拠地には守備隊が十三人…地下壕の牢獄には六人の見張り役が四人の村娘達を監禁中である…」
「村娘ですって?」
村娘の一言が気になったのか桜花姫は門番に再質問したのである。
「村娘って何よ?」
「南方国の各村落から四人の村娘達を連行した…」
「如何してあんた達は村娘を四人も連行したのよ?」
門番は一瞬沈黙するなり…。
「連行した村娘達は異国に身売りされるからな…」
「身売りですって…」
門番の発言に彼女達は一瞬絶句する。
「ひ弱の女性を異国なんかに身売りさせるなんて極悪非道だわ…」
「今時身売りなんて完全に時代錯誤ね…」
桜花姫は勿論…。氷麗姫さえも腹立たしくなる。
「桜花姫…即刻彼女達を救出しましょう!」
「勿論よ!今回ばかりは地上界の女神様である私でも腹立たしくなったわ!」
(無慈悲のあんたが地上界の女神様って自称しちゃうなんて…)
氷麗姫は自分自身を地上界の女神様と自称する桜花姫に一瞬苦笑いしたのである。すると桜花姫は門番に接触するなり…。
「あんたは即刻本拠地に潜伏しなさい♪無事に潜伏出来たら匪賊の親玉諸共本拠地で自爆するのよ♪」
「えっ!?折角復活させたのに彼を自爆させるの!?」
桜花姫の自爆発言に氷麗姫は驚愕したのである。
「所詮門番は自爆要員だからね♪彼自身の自我は私が掌握したから意思表示も反論も出来ないわよ…」
桜花姫は再度門番に命令する。
「即刻あんたは本拠地に戻って親玉と部下の奴等諸共爆殺しなさい…勿論親玉には二人の妖女を仕留めたってちゃんと報告するのよ♪」
「承知した…」
桜花姫の命令を承諾した門番は表門から家屋敷へと入室…。家屋敷最上階の本拠地に戻ったのである。
「桜花姫…あんたも人一倍鬼畜ね…」
氷麗姫の発言に桜花姫は笑顔で即答する。
「無論私は敵対者には手加減しないからね♪手段が残虐非道でも敵対者は確実に仕留めるのが私だから…」
「あんたらしいわね♪桜花姫…」
氷麗姫は一瞬身震いするが笑顔で返答したのである。
「即刻監禁された女性達を救出しましょう♪」
彼女達は表門から恐る恐る家屋敷へと潜入する。
「屋敷内では人間達の気配は感じられないわね…」
周辺からは人間の気配も殺気も感じられない。
「門番の情報では連行された四人の村娘達の居場所は地下豪だったわね…」
すると通路の右側片隅に地下室への直階段を確認する。
「直階段だわ♪地下豪に潜入出来そうよ♪」
すると突然…。
「えっ!?」
(殺気かしら!?)
背後より殺気を感じる。
「桜花姫!敵襲よ!」
彼女達の背後には火縄銃を武装した匪賊が出現…。
「妖女!死滅しやがれ!」
桜花姫は背中を狙撃される。
「ぎゃっ!」
火縄銃で狙撃された桜花姫は多量の出血により横たわったのである。
「桜花姫!?大丈夫!?」
「氷麗姫…私…」
突発的出来事により氷麗姫は狼狽える。
「油断大敵ね…迂闊だったわ…ぐっ!」
桜花姫は吐血したのである。
「桜花姫!?」
(私は如何すれば…)
すると匪賊が狼狽える氷麗姫に近寄る。
「白装束の姉ちゃんよ♪即刻あんたも打っ殺すから覚悟しな♪」
氷麗姫は無表情で匪賊を睥睨するなり…。
「死滅するのはあんたよ…」
「はっ?」
氷麗姫は妖力により匪賊の肉体を一瞬で氷結させる。
「死滅しなさい!」
「なっ!?」
数秒後…。氷結された匪賊の肉体は一瞬で崩れ落ちる。
「桜花姫…大丈夫?」
氷麗姫は恐る恐る横たわった桜花姫に接触すると戦慄する。
「ひゃっ!」
(低体温だわ…)
桜花姫の肉体は非常に低体温であり氷麗姫は絶望したのである。
(最上級妖女の桜花姫が殺されちゃうなんて…)
絶望した直後…。突如として横たわった桜花姫の肉体から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「桜花姫!?」
突然消滅した桜花姫に氷麗姫は驚愕する。
「えっ?桜花姫の肉体は?」
すると背後より何者かが氷麗姫の背中に接触したのである。
「きゃっ!」
背中を接触された氷麗姫は驚愕する。
「氷麗姫♪」
「桜花姫!吃驚するじゃない!」
吃驚した氷麗姫は桜花姫に怒号したのである。
「御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「分身体だから大丈夫よ♪」
「分身体だったのね…」
先程狙撃された肉体が妖力によって形作られた桜花姫の分身体であり氷麗姫は一安心したのである。
「冷や冷やさせないでよ…一瞬あんたが本当に殺されちゃったのかと…」
「私に接吻したあんたが私を心配するなんてね♪感謝するわね♪」
すると氷麗姫は赤面した表情で否定する。
「勘違いしないで!私は別に…誰があんたの心配なんか…」
赤面した氷麗姫であるが…。彼女は無理矢理に表情を強張らせる。
(氷麗姫…表情を強張らせなくても…)
桜花姫は無理矢理に表情を強張らせる氷麗姫に苦笑いする。
「悪者はあんたが仕留めたみたいだから…即刻地下壕に潜入するわよ♪」
同時刻…。桜花姫の口寄せの妖術によって復活させられた門番は最上階の本拠地へと到達したのである。最上階には十三人の匪賊達と中心部には親玉らしき巨漢の無頼漢が集結する。
「ん?貴様は門番だな…何事かな?」
「二人組の妖女が出現してから随分大騒ぎみたいだが…通路は大丈夫なのかよ?」
門番は無表情で巨漢の無頼漢に報告したのである。
「親玉…」
「ん?」
門番は一息するなり…。
「噂話の二人組の妖女なら先程…俺が確実に仕留めたから安心しな…」
「妖女を確実に仕留めたって?」
匪賊達は門番が桜花姫と氷麗姫を本当に仕留めたのか疑問視する。
「貴様が二人組の妖女とやらを仕留めたのは事実であるか?」
「本当に妖女を仕留めたのかよ?」
「勿論…」
すると数秒後…。門番の体内から超高温の熱気が凝縮される。
「なっ!?此奴の体内から熱気だぞ…」
「一体何が!?」
直後…。門番の肉体が爆散したのである。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
門番の自爆によって周辺の匪賊達も爆殺される。家屋敷全域に爆発音が響き渡ったのである。同時刻…。地下豪では本拠地から響き渡った爆発音により六人の見張り役達が狼狽える。
「爆発音だと!?」
「最上階からだったよな…」
「如何して最上階から爆発音が…一体何が発生した!?」
連行された四人の村娘達も先程の爆発音に戦慄したのである。
「一体何かしら?」
「火薬の爆発音みたいね…」
「私達…こんな牢獄で殺されちゃうのかな…」
「私…こんな牢獄で死にたくないよ…」
彼女達は極度の戦慄により涙腺から涙が零れ落ちる。すると地下豪の鉄扉から二人組の妖女が潜入する。
「御免あそばせ♪」
笑顔で挨拶する桜花姫に見張り役達は戦慄したのである。
「うわっ!貴様達は!?」
「誰かと思いきや…貴様達は噂話の二人組の妖女だな…」
「如何して妖女が地下豪に潜入出来た!?」
「門番の奴等…警備をすっぽかしやがったのかよ!」
「結局俺達が尻拭いとは…」
桜花姫は笑顔で断言する。
「如何やらあんた達の門番が私達に寝返っちゃったみたいよ♪今頃仲間内で内輪揉めでしょうね♪」
「内輪揉めだって!?」
「門番が裏切りやがったのか!?」
問い掛けられた桜花姫であるが彼女は笑顔で…。
「さあね♪」
見張り役達は桜花姫の態度に苛立ったのである。
「此奴…」
「貴様出鱈目を…打っ殺されたいか!?」
桜花姫の返答に腹立たしくなった巨漢の見張り役が護身用の連発銃で桜花姫を狙撃…。
「桜花姫!?」
氷麗姫は畏怖したのである。狙撃された桜花姫であるものの…。危機一髪妖力の防壁を発動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
妖力の防壁により連発銃の弾丸を無力化…。氷麗姫は一安心する。
「あんたは本当に人騒がせね…」
「心配しなくても大丈夫よ♪氷麗姫♪」
見張り役達は恐る恐る後退りしたのである。
「畜生が…妖女の小娘は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
「弾丸では私は殺せないわよ♪私に手出ししたあんたは即刻招き猫に変化しなさいの♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。巨漢の見張り役を精巧に形作られた招き猫に変化させる。
「うわっ!人間が招き猫に!?」
見張り役達は勿論…。牢獄の村娘達も桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられた見張り役に驚愕したのである。
「人間が招き猫に変化するなんて…」
「妖術かしら?」
四人の村娘達は恐る恐る桜花姫に注目するなり…。
「えっ?ひょっとして彼女は…」
「西方国の月影桜花姫様かしら?」
「月影桜花姫だって!?冗談だろ…」
小柄の見張り役は身震いするなり戦慄したのである。
「狼狽えるな!西方国の月影桜花姫とて所詮は小娘!打っ殺しちまえ!」
見張り役達は連発銃で桜花姫に総攻撃するものの…。妖力の防壁によって連発銃の弾丸を無力化される。
「鬱陶しい奴等だわ…」
(飴玉に変化しなさい♪)
連発銃で狙撃した見張り役達を大好きな飴玉に変化させたのである。
「ひっ!」
唯一無抵抗だった小柄の匪賊が極度の恐怖心により落涙する。
「無事なのはあんただけね♪あんたは如何するかしら♪」
すると小柄の匪賊は恐る恐る…。
「俺は…降参するよ…」
匪賊は極度の戦慄により身震いしたのである。
「金輪際悪さしないから…今回は見逃して…」
身震いした様子で一歩ずつ後退りする。
「別に…私は誰よりも温厚篤実の女神様だからね♪匪賊でも無抵抗の人間には手出ししないから安心しなさい♪」
即座に匪賊の装備品を飴玉に変化させる。
「狙撃したくても出来なくなったわね♪」
桜花姫は牢獄を直視するなり…。
「即刻彼女達を救出しないと♪」
すると氷麗姫が牢獄の鉄格子に接触する。
「えっ?氷麗姫?如何するのよ?」
「桜花姫…私にも役立たせてよ…」
(彼女なりの罪滅ぼしかしら♪如何やら彼女も役立ちたいみたいね♪)
「承知したわ♪氷麗姫…思う存分役立ちなさい♪」
桜花姫は笑顔で承諾したのである。氷麗姫は四人の村娘達に警告する。
「あんた達…村里に戻りたかったら鉄格子には接触しないのよ…」
「承知しました…」
彼女達は恐る恐る後退りしたのである。すると氷麗姫は鉄格子に接触するなり…。一瞬で氷結させたのである。
「鉄格子が…」
「氷結するなんて…」
四人の村娘達は驚愕する。すると数秒後…。妖術で氷結させた鉄格子が一瞬で崩れ落ちる。
「鉄格子が崩れ落ちたわ…」
「私達…村里に戻れるのね♪」
解放された四人の村娘達は大喜びしたのである。
「桜花姫様と…誰でしたっけ?」
「私は氷麗姫よ…」
「氷麗姫様♪」
「大変感謝します♪桜花姫様と氷麗姫様が参上されなかったら私達は今頃異国に身売りされたかも知れません…」
桜花姫は笑顔で断言する。
「別に…あんた達が無事なのが何よりよ♪匪賊達を征伐するのも案外面白かったし♪」
「えっ?面白かったのかな?」
氷麗姫は笑顔で発言する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんた達…即刻地下壕から脱出しましょう♪」
すると氷麗姫が警戒した表情で…。
「油断大敵だよ…桜花姫…匪賊の残党が屋敷内に潜伏中かも知れないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「心配しなくても大丈夫よ♪氷麗姫♪匪賊の残党が襲撃したとしても私が即刻仕留めちゃうから♪」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る地下壕から脱出する。無事に匪賊達の家屋敷から脱出したのである。
「私達…戻れたのね…」
「無事に戻れるなんて…」
四人の村娘達は涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫様…氷麗姫様…貴女達には大変感謝します…」
「私達…貴女達に何も謝礼が出来なくて御免なさいね…」
彼女達は桜花姫と氷麗姫に謝罪する。
「別に謝礼なんて…」
謝罪された桜花姫は困惑するものの…。
「別に気にしないの♪私にとって匪賊征伐は道楽だから♪所詮夜遊びと一緒だからね♪あんた達は気にしなくても大丈夫なのよ♪」
事実桜花姫にとって悪霊征伐も匪賊征伐も娯楽であり報酬は不要である。匪賊征伐を夜遊びと断言する桜花姫に氷麗姫は苦笑いする。
(匪賊達を征伐するのが道楽って…桜花姫は人一倍異端者だわ…)
桜花姫は異端者であると感じる。
「あんた達…無事に戻りなさいね♪」
「承知しました♪」
「達者でね♪」
「桜花姫様と氷麗姫様も♪」
四人の村娘達は恐る恐る南方国の村里へと戻ったのである。桜花姫は背後の氷麗姫を直視するなり…。
「氷麗姫…あんたは今後如何するのよ?」
「桜花姫…私は…」
氷麗姫は一瞬沈黙するも笑顔で返答する。
「今回あんたと一緒に行動してから…私もあんたみたいに悪霊とか匪賊を征伐したくなったわ♪」
笑顔で発言した氷麗姫に桜花姫は微笑む。
「氷麗姫♪あんたの妖力でも匪賊程度なら確実に仕留められるでしょうね♪精一杯頑張りなさい♪」
「私も…八つ当たりで大勢の人間達を殺しちゃったからね…精一杯贖罪しないと!」
「反省したのね♪氷麗姫…」
改心した氷麗姫に感心する。
「桜花姫♪今回はあんたの気紛れかも知れないけれどね…感謝するわね♪」
「氷麗姫…」
(本来なら口寄せの妖術は非人道的妖術かも知れないけれど…結果的に悪くなかったのかも知れないわね♪)
数週間前は敵対者だった氷麗姫の変貌に一瞬驚愕するものの…。口寄せの妖術で復活させられたのは怪我の功名であると氷麗姫は感じる。
「私は第二の人生…精一杯長生きするからね…桜花姫♪」
断言する氷麗姫に桜花姫も笑顔で返答する。
「私もね♪」
数分後…。
「私は北方国に帰郷するわね…」
「達者でね♪」
彼女達は解散したのである。帰宅中…。
(久し振りに東方国の三蔵郎様に挨拶しましょうかね♪)
桜花姫は久方振りに東方国の三蔵郎の寺院へと訪問する。二時間後…。桜花姫は東方国の寺院に到達したのである。寺院の玄関にて桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様♪」
桜花姫の美声に反応したのか三蔵郎は超特急で玄関口へと移動する。
「誰かと思いきや…月影桜花姫様でしたか♪久方振りですな♪」
三蔵郎は桜花姫との再会に大喜びしたのである。
「三蔵郎様♪元気そうで安心したわ♪」
「桜花姫様こそ元気そうで何よりですよ♪折角ですし…茶話会でも如何でしょうか♪」
三蔵郎は桜花姫を客室に案内するなり麦茶と牡丹餅を用意したのである。
「牡丹餅だわ♪美味そうね♪」
桜花姫は牡丹餅に大喜びする。
「桜花姫様が大喜びの様子なので一安心ですよ♪本来であれば桜花姫様の大好きな桜餅を用意したかったのですが…生憎桜餅は和菓子屋でも完売しちゃったみたいですね…」
恐る恐る謝罪する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。
「気にしないで三蔵郎様♪桜餅なら先程腹一杯平らげたから♪」
「頬張ったのですね…桜餅を頬張ったのであれば一安心です♪」
桜花姫は先程の出来事を三蔵郎に洗い浚い告白する。
「荒神山で匪賊達を征伐しに出掛けられたのですか!?連行された村里の女性達を無事に救出されたのですね…」
「面白かったわよ♪」
「ですが私も桜花姫様と一緒に行動したかったですよ…今回は非常に残念ですね…」
三蔵郎は非常に残念であると感じる。
「今回ばかりは敵対者が匪賊だったとしても相手は普通の人間だからね…正直聖職者の三蔵郎様は呼び辛かったのよ♪三蔵郎様は人一倍温柔敦厚で心配性だから悪霊は征伐出来ても人殺しなんて出来ないでしょう?」
桜花姫は笑顔で発言する。
「桜花姫様…」
(彼女は正真正銘…太平神国の女神様ですね♪)
桜花姫と三蔵郎は談笑し合ったのである。真夜中の出来事である。大騒ぎが鎮静化した真夜中の荒神山では蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫が天辺へと到達する。
「なっ!?荒神山の天辺中心部にこんな家屋敷が築造されたなんて…」
「誰の家屋敷かな?」
すると家屋敷の表門に小柄の匪賊が横たわる。
「えっ?誰だろう?」
「ん?ひょっとして家屋敷の宿主かね?」
「大丈夫かな?」
蛇骨鬼は恐る恐る横たわる匪賊の若者に近寄る。匪賊の背中に接触するなり…。
「若者よ…大丈夫かね?」
接触しても匪賊は無反応である。
「如何やら気絶したみたいだね…」
「如何して表門で気絶しちゃったのかな?」
「私にも何が何やらさっぱりだね…」
すると数秒後…。気絶した匪賊が恐る恐る目覚める。
「ん?俺は…」
「目覚めたかね?若者よ…」
「大丈夫かな?」
匪賊は寝惚けた様子であったものの蛇骨鬼と小猫姫を直視した直後…。突如として身震いしたのである。
「ひっ!俺を食い殺さないで!」
彼女達を直視するなり非常に戦慄する。戦慄する匪賊に蛇骨鬼と小猫姫は驚愕したのである。
「如何しちゃったのかね?別に私達はあんたを食い殺したりしないよ…」
「心配しなくても私達は手出ししないから大丈夫だよ…」
蛇骨鬼は近寄るものの…。
「ひっ!鬼婆…俺に近寄るな!近寄らないで!」
匪賊の鬼婆発言に小猫姫は一瞬失笑する。
「蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんに鬼婆だって♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
匪賊に鬼婆と発言された蛇骨鬼は身震いするなり…。力強く睥睨した表情で匪賊に怒号したのである。
「誰が鬼婆だって!あんたは私に食い殺されたいのかい!?」
「ひっ!失礼しました…女神様…」
「蛇骨鬼婆ちゃんが女神様って♪」
匪賊の女神様発言に小猫姫は大笑いする。
「金輪際悪さしないから俺を食い殺さないで…」
匪賊は恐る恐る後退りするなり…。落涙した様子で一目散に荒神山から逃走したのである。
「妖女は懲り懲り!」
全力疾走する匪賊に蛇骨鬼と小猫姫は非常に困惑する。
「一体何事だったのかね?」
「如何して逃走しちゃったのかな?」
「私が精霊だからかね?私にも何が何やら…」
「蛇骨鬼婆ちゃんに鬼婆とか女神様って失言しちゃったのは大笑いしちゃったよ♪」
揶揄する小猫姫に蛇骨鬼は赤面したのである。
「小猫姫…今回の荒神山での出来事は私とあんただけの秘密だからね!絶対に誰かに喋ったら承知しないよ!」
蛇骨鬼は小猫姫に断言するものの…。
「今回の出来事を桜花姫姉ちゃんに喋っちゃおうかな♪面白かったし♪」
小猫姫の返答に蛇骨鬼は怒号する。
「小猫姫!桜花姫ちゃんに喋ったら承知しないからね!勿論私とあんたの二人だけの秘密だよ!」
すると小猫姫の腹部から腹鳴が響き渡る。
「えっ…」
「小猫姫♪空腹感かね…」
小猫姫は腹鳴により赤面する。
「戻って夕食だね♪小猫姫♪」
「勿論だよ♪蛇骨鬼婆ちゃん♪戻ろう♪戻ろう♪」
蛇骨鬼と小猫姫は西方国へと戻ったのである。
完結
編集 編集
件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/14 22:05
投稿者 月影桜花姫
参照先
第九話

仙女

同時刻…。三蔵郎は無事に東方国へと到達したのである。各家屋敷の路地裏を通行中…。とある血塗れの女性と遭遇したのである。三蔵郎は恐る恐る…。
「大丈夫ですか?」
女性は無表情であり三蔵郎を凝視し続けるだけである。
「如何されましたか?」
(不吉ですね…)
女性の様子に三蔵郎は非常に気味悪くなる。すると数秒後…。無表情の女性は突発的に卒倒したのである。
「うわっ!」
驚愕した三蔵郎は恐る恐る横たわった彼女の皮膚に接触するなり…。
「如何やら失血死したみたいですね…」
(悪霊によって殺害されたのでしょうか…無念です…)
数秒後に失血死した女性が佇立したのである。すると数秒後…。女性の肉体が一瞬で腐敗したのである。
「肉体が一瞬で腐敗するなんて…」
三蔵郎は気味悪がる。横たわった女性の肉体が腐敗したかと思いきや…。
「此奴は食人餓鬼!?」
腐敗した彼女の体内から小柄の食人餓鬼が出現したのである。
(ひょっとして食人餓鬼によって殺害された人間は食人餓鬼として復活するのでしょうか?)
突如として女性の体内から出現した食人餓鬼が三蔵郎に近寄るものの…。三蔵郎は即座に護身用の連発銃で食人餓鬼の頭部を狙撃したのである。すると頭部を狙撃された直後に食人餓鬼は身動きしなくなる。
「疫病みたいですね…」
すると背後に無数の殺気を感じる。
(殺気!?)
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「食人餓鬼と…村人達でしょうか?」
無数の食人餓鬼と血塗れの村人達が大勢で山奥へと移動する。
「彼等の目的地は一体?」
彼等の行動が気になった三蔵郎は彼等の背後から恐る恐る追尾したのである。数分後…。三蔵郎は日和山と命名される低山へと到達したのである。日和山の天辺には虹色に発光する摩訶不思議の広葉樹が確認出来る。
「摩訶不思議の広葉樹ですな…」
すると無数の食人餓鬼と血塗れの村人達が虹色に発光する広葉樹の表面へと殺到したのである。すると広葉樹の表面から無数の触手が出現するなり…。樹木の表面に密着する食人餓鬼と血塗れの村人達は広葉樹から出現した触手によって肉体諸共捕食されたのである。
「広葉樹が食人餓鬼と村人達を捕食するなんて…樹木の悪霊でしょうか…」
数秒後…。広葉樹の表面より無数の食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼が二体も出現したのである。
「百鬼食人餓鬼!?」
(悪霊の親玉が二体も出現するなんて…)
三蔵郎は気味悪がるなり恐る恐る後退りしたのである。すると突然…。金縛りによって身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
(一体何が!?身動き出来なくなるなんて…)
三蔵郎は身動き出来なくなった状態から突発的に衰弱化したのである。
(突然眠気が…桜花姫様…)
同時刻…。三蔵郎の気配を感じられなくなった桜花姫は即座に東方国近辺に位置する日和山へと急行する。
「突然三蔵郎様の気配が感じられなくなったわ…三蔵郎様は一体何に遭遇しちゃったのかしら?」
低山の日和山から食人餓鬼の無数の霊力とは別物の神通力を感じる。
「食人餓鬼の霊力なら感じるけれども…」
(中心部から百鬼食人餓鬼を上回る霊力?神通力を感じるわ…神通力の正体は何かしら?)
すると桜花姫の背後より無数の食人餓鬼は勿論…。二体の百鬼食人餓鬼が出現したのである。
「百鬼食人餓鬼が二体も出現するなんて…」
食人餓鬼の大群と二体の百鬼食人餓鬼が桜花姫に殺到する。
「鬱陶しい奴等だわ…多勢に無勢なら♪」
こんなにも絶体絶命であるものの…。桜花姫は平常心の様子である。
「あんた達…桜餅に変化しなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するなり無数の食人餓鬼は勿論…。二体の百鬼食人餓鬼を自身の大好物である桜餅に変化させる。
「美味しそうだわ♪消耗しちゃった妖力を回復させられるわね♪」
桜花姫は無尽蔵の桜餅を頬張る。
「美味しいわね♪」
無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「三蔵郎様の安否を確認しないと!」
すると彼女の背後より四人の匪賊達が近寄る。
「よっ♪花魁の姉ちゃんよ♪」
「あんた達は…何者よ?私は十中八九普通の小町娘だからね…花魁なんかと勘違いしないでよね…」
接触する匪賊達に苛立ったのである。
(面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…)
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒するなり恐る恐る後退りする。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちゃえば小町娘の姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若侍だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若侍ね…」
(匪賊の分際で何が若侍よ…)
桜花姫は彼等を軽蔑するなり…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな田舎侍とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を田舎侍って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪小町娘の姉ちゃんよ♪」
「小町娘の姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって悪霊に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…」
「相手は所詮小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等だわ…」
桜花姫は即座に天道眼を発動…。
(雨蛙に変身しちゃえ♪)
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視するなり…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は悪霊退治屋の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?月影桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が最上級妖女って噂話の…月影桜花姫なのか!?」
「本物かよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させる。
「狼狽えるな!桜花姫が最上級の妖女だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば最上級の妖女だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
(禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪)
匪賊の一人に禁断の妖術を発動する。
(飴玉に変化しちゃえ…)
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化したぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は摩訶不思議の神通力を目印に目的地の日和山へと到達したのである。
「虹色の広葉樹だわ…えっ?三蔵郎様!?」
天辺の中心部には虹色に発光した広葉樹と地面に横たわった三蔵郎らしき人物が確認出来る。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る横たわった三蔵郎に近寄るものの…。
「三蔵郎様だよね…」
普段の温柔敦厚の三蔵郎とは別人であり非常に薄気味悪い雰囲気だったのである。不吉にも人間である三蔵郎の肉体から摩訶不思議の神通力を感じる。
「三蔵郎様の肉体から神通力を感じるわ…」
すると横たわった三蔵郎が恐る恐る目覚める。
「三蔵郎様!?大丈夫なの?」
三蔵郎は無表情で桜花姫を凝視するなり…。
「三蔵郎だと?人違いであるな…」
「えっ?」
三蔵郎の返答に桜花姫は困惑したのである。
(姿形は三蔵郎様でも…別人みたいだわ…)
地上界の聖人である三蔵郎であるが雰囲気の変化に桜花姫は後退りする。すると三蔵郎らしき人物は睥睨した表情で…。
「私は【霊魂巨神木】である…」
三蔵郎らしき人物は自身を霊魂巨神木と名乗る。
「霊魂巨神木ですって!?」
「僧侶の肉体に憑霊した…」
(霊魂巨神木って…大昔の伝承では世界樹だったかしら?)
霊魂巨神木とは森羅万象の造物主であり太古の古代人達の伝承では森羅万象の世界樹として認識される。
(こんな小山みたいな日和山に本物の世界樹と遭遇しちゃうなんてね…)
霊魂巨神木は太古の大昔に存在した樹木であり死滅した神族の鮮血を養分として誕生したのである。古代人達から森羅万象の創造主やら世界樹として神格化されたものの…。戦乱時代末期の出来事である。とある田舎村の病弱だった村娘が霊魂巨神木の果実を菜食…。人間の女性であった彼女は超自然の妖女へと覚醒するなり摩訶不思議の妖力を入手したのである。霊魂巨神木の果実を菜食した彼女こそが事実上妖女の元祖であり今現在では昔話として伝承される。
「造物主である私と対峙して正気を維持出来るとは…妖女は妖女でも貴様は最上級の妖女であるな…」
桜花姫は三蔵郎の肉体に憑霊した霊魂巨神木を睥睨するなり…。
「霊魂巨神木…三蔵郎様を元通りに戻しなさい!」
桜花姫は勇往邁進の気構えで断言する。
「妖女の小娘よ…僧侶の肉体を元通りに戻したければ私に協力しろ…」
「協力ですって?何よ?」
霊魂巨神木は一息したのである。
「貴様の妖術で…全世界の人間達を殲滅せよ…」
「はっ?」
霊魂巨神木の発言に桜花姫は呆れ果てる。
「貴様の妖力は非常に強力である…最上級妖女の貴様であれば一日に一国の人間達を全滅させられるだろう…」
桜花姫は苛立った表情で睥睨する。
「面倒臭いわね…誰があんたの協力なんて…人間達を殲滅したいのであればあんたが一人で実行すれば?」
「であれば貴様の僧侶は一生涯元通りには戻れない…」
「卑劣だわ…あんた…」
「貴様だって一緒だろ…」
桜花姫の卑劣の一言に霊魂巨神木は反論したのである。すると桜花姫は睥睨した表情で問い掛ける。
「如何してこんなにも無数の悪霊が俗界に出現したのよ?世界樹のあんただったら天災地変の主要因を特定出来るわよね?」
すると問い掛けられた霊魂巨神木は断言する。
「今回大勢の亡者達を俗界に口寄せしたのは私自身の神通力である…」
(霊魂巨神木が…)
「神通力って…あんたが黒幕だったのね!」
桜花姫は突如として表情が強張ったのである。
「今回私が大勢の亡者達を口寄せさせた主原因とは…所詮人間達の自業自得であるからな…」
「人間達の自業自得ですって?」
「愚劣なる人間達は戦乱時代以前の太古の大昔から同族同士で殺し合い…自然界の多種多様の動植物を殺戮し続けたからな…」
戦乱時代以前からも人間達は同族で紛争し合い…。殺し合ったのである。
「私は彼等の野蛮さと傲慢さにより愚劣なる俗界の人間達を見限ったのだ…」
表情が強張った桜花姫であるものの霊魂巨神木の発言に意気投合…。否定しなかったのである。
「霊魂巨神木…あんたの主義主張も理解出来るかも知れないわ…内心私自身も人間達は大嫌いよ…私自身も幼少期は周囲の村人達に妖女だからって迫害されたのよね…人間達って野蛮で強欲よね?」
今現在でこそ桜花姫は悪霊退治屋として各地方で活躍するが…。幼少期は一部の村人達から疫病神と嫌悪され迫害されたのである。
「私自身も人間なんて誰一人として信頼出来なかったわ…」
桜花姫は幼少期に一部の村人達による偏見…。迫害から人間達を憎悪したのである。
「無論である…人間とは醜悪なる生命体であるからな…」
霊魂巨神木は即答する。
「結局人間は誰も信頼出来なかったけれどね…」
「ん?貴様は何を発言したいのであるか?」
数秒後…。
「三蔵郎様…彼だけは私の唯一の理解者であり…私にとって唯一信頼出来る人間だったのよ…」
「僧侶が唯一の貴様の理解者であると?」
「私にとって三蔵郎様は家族同然なのよ!私の家族である三蔵郎様に手出しするなら言語道断!あんたが世界樹だからって手加減しないからね!」
「であれば折角の機会である…私と真剣勝負でも如何かな?最上級妖女の小娘よ…」
霊魂巨神木が真剣勝負を提案する。
「私があんたと真剣勝負ですって?」
「無論小娘が私に敗戦したならば…貴様の寿命を収縮させる…貴様が家族であると豪語する僧侶も未来永劫呪詛し続ける…」
すると桜花姫は恐る恐る霊魂巨神木に質問したのである。
「反対に私が…あんたとの真剣勝負に勝利出来たら如何するのよ?」
「小娘が私に勝利したならば貴様の寿命を収縮させないし…貴様が家族であると豪語する僧侶も呪詛から無条件に解放する…無数の悪霊による天災地変も無事終息させるぞ…」
桜花姫は一瞬度重なる悪戦苦闘により困惑するものの…。霊魂巨神木の提案を承諾したのである。
「私は全身全霊であんたを仕留めるからね!」
すると三蔵郎の肉体は脱力により横たわる。三蔵郎に憑霊した霊魂巨神木の神通力が本体である広葉樹に戻ったのである。
「如何やら手加減しなくても大丈夫みたいね♪」
桜花姫は即座に天道眼を発動…。
(火球の妖術で…)
火球の妖術を発動すると手首より超高温の発光体を形成したのである。
「死滅しなさい!」
発射された発光体は非常に特大であり霊魂巨神木の表面に直撃…。爆散したのである。
「直撃♪」
仕留めたかと思いきや…。霊魂巨神木は神通力の防壁によって直撃した超高温の発光体を無力化したのである。
(私の妖力を無力化するなんて…)
霊魂巨神木は無数の人魂を口寄せするなり融合化…。特大の鬼火を形作る。
「鬼火かしら…」
(死滅した人魂の集合体である…死滅せよ!)
霊魂巨神木の発動した鬼火は死滅した人魂の集合体であり桜花姫に放射したのである。桜花姫は即座に寒風を発動…。霊魂巨神木の鬼火を消失させる。
(寒風で私の鬼火を無力化するとは…)
周辺の地面より半透明の触手を無数に出現…。
「触手!?」
桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁を発動すると半透明の触手の無力化に成功する。
「危機一髪ね♪」
霊魂巨神木は精神感応により桜花姫の脳裏に伝達したのである。
(天道眼の防壁で私の神通力を無力化するとは…)
「霊魂巨神木!?精神感応かしら?」
(太古の大昔から数多くの妖女が伝説の瞳術である天道眼を保有したが…貴様に匹敵する妖女は誰一人として皆無であった…)
桜花姫も精神感応で返答する。
(勿論私は最上級の妖女だからね♪其処等の妖女とは別格なのよ♪)
(無論貴様は屈強の最上級妖女であるが…所詮肉体はか弱き小娘…森羅万象の造物主である私には勝利出来ないであろう…)
(私が勝利出来ないかは…)
両手より雷光の光線を発動…。霊魂巨神木の樹木に直撃させる。
(絶大なる雷撃であるが…)
桜花姫の発動した雷光の光線を吸収したのである。
(私には貴様程度の妖術は通用しないぞ…)
「一筋縄ではあんたは仕留められないわね…」
霊魂巨神木は金縛りにより桜花姫の身動きを封殺したのである。
「ぐっ!」
(ひょっとして金縛りかしら?)
桜花姫は霊魂巨神木の金縛りによって身動き出来なくなる。
(妖女の小娘よ…貴様の妖力を頂戴するぞ…)
地面より半透明の無数の触手が出現…。桜花姫の全身に接触する。
「きゃっ!」
(私の妖力が…)
半透明の触手によって身動き出来なくなった桜花姫は霊魂巨神木の吸収能力により体内の妖力が一瞬で消耗させられる。
「妖力が…」
(吸収されちゃうわ…衰弱死しちゃうかも…)
覚悟した直後である。周囲の自然林から一匹の白猫が出現…。
「えっ…」
(白猫!?)
白猫の目力により衝撃波を発生させたのである。直後…。無数の触手を消滅させる。
「きゃっ!」
衝撃波の発生に桜花姫は地面に横たわる。白猫の体内から妖力を感じる。
(白猫の体内から妖力を感じるわね…ひょっとして白猫の正体は妖女かしら?)
白猫が人間の少女の姿形へと変化する。
「ひょっとしてあんたの正体は…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫?」
「あんたは山猫妖女の小猫姫!?」
白猫の正体は山猫妖女の小猫姫だったのである。小猫姫は変化の妖術によって白猫にも変化出来る。すると横たわった桜花姫の背後より大神族の蛇骨鬼が恐る恐る近寄る。
「桜花姫ちゃんよ…大丈夫かね?」
「蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんも?」
「最上級妖女の桜花姫ちゃんがこんなにも衰弱化しちゃうなんてね…」
蛇骨鬼は特殊能力によって左手を白蛇に変化…。恐る恐る桜花姫の背中に接触したのである。
「妖力が戻ったわ…」
桜花姫の消耗した妖力を回復させる。
「命拾いしたね…桜花姫ちゃん…」
「感謝するわ…蛇骨鬼婆ちゃん♪小猫姫♪」
蛇骨鬼の特殊能力によって桜花姫の消耗した妖力は回復したのである。蛇骨鬼は恐る恐る霊魂巨神木を凝視するなり…。
(今回の相手は世界樹の霊魂巨神木だね…)
「こんな荒唐無稽の造物主を相手に真正面から真剣勝負なんてね…普通の妖女なら暴虎馮河だよ…」
「私は三蔵郎様を元通りに戻したかったのよ…」
「三蔵郎様だって?三蔵郎とは誰かね?」
「三蔵郎様は…」
蛇骨鬼は桜花姫の背後に横たわる三蔵郎を直視する。
「誰かと思いきや…男前の僧侶だね♪」
「私にとって三蔵郎様は人間では唯一の理解者だから…」
(彼が桜花姫ちゃんの理解者とはね…こんな世の中でも温柔敦厚の人間が実在するなんて…)
蛇骨鬼は微笑むなり…。
「人間を人一倍毛嫌いした桜花姫ちゃんが本心から一人の人間を救済したいなんてね♪小猫姫よ♪」
「何よ?蛇骨鬼婆ちゃん?」
「桜花姫ちゃんに協力しな♪」
小猫姫は大喜びで承諾する。
「勿論だよ♪私は桜花姫姉ちゃんに協力するよ♪」
小猫姫は体内の妖力を増強化させるなり伝説の妖獣へと変化したのである。伝説の妖獣に変化した小猫姫を凝視するなり桜花姫は驚愕する。
「小猫姫が伝説の妖獣に!?」
「私も変化出来るのよ♪桜花姫姉ちゃん!私と精一杯共闘しましょう!」
(小猫姫が伝説の妖獣に変化出来るなんてね…非常に心強いわ!)
「勿論よ♪小猫姫♪」
桜花姫と小猫姫の一枚岩に危惧したのか霊魂巨神木の神通力が先程よりも増大化したのである。
(天道眼の小娘は勿論…妖獣の小娘も出現するとは…)
天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「先程よりも霊魂巨神木の神通力が増大化したわ…」
桜花姫は一瞬身震いしたのである。
「油断大敵よ…小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃんこそ油断大敵だからね♪」
直後…。
「えっ!?雷撃だわ!」
すると強烈なる落雷攻撃が彼女達の直上より落下する。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。霊魂巨神木の落雷攻撃を無力化したのである。小猫姫も雷光の防壁により霊魂巨神木の落雷を無力化する。
「死滅しろ!」
小猫姫は妖力を凝縮させるなり口先から高熱の雷球を発射したのである。小猫姫の高熱の雷球は霊魂巨神木の樹木表面に直撃するものの…。霊魂巨神木の吸収能力によって小猫姫の発射した高熱の雷球は無力化されたのである。
「私の妖力が吸収されちゃった…此奴は容易には仕留められないね!桜花姫姉ちゃん!」
「霊魂巨神木は本物の世界樹だからね…此奴には妖術は通用しないみたいよ…」
(私と小猫姫は妖力だけなら確実に霊魂巨神木を上回ったけれども…霊魂巨神木の吸収能力には妖術は無力化されるし…一体如何すれば霊魂巨神木を仕留められるのかしら?)
通常の妖術では無力化される霊魂巨神木に彼女達は困惑する。
「私にも此奴に対抗出来る神通力が扱えるなら…」
すると地獄耳の蛇骨鬼は桜花姫が口走った神通力の一言を傾聴するなり…。
「えっ?神通力だって?」
蛇骨鬼は頭陀袋からとある木材の破片を桜花姫に手渡したのである。
「えっ?何かしら?」
「何って…小面蜘蛛の肉片だよ♪」
蛇骨鬼は笑顔で木材の破片が小面蜘蛛の肉片であると即答する。
「げっ!小面蜘蛛の肉片ですって!?」
木材の破片が小面蜘蛛の肉片である事実に桜花姫は一瞬気味悪がる。
「桜花姫ちゃんよ…あんたも神通力を入手したかったら小面蜘蛛の肉片を頬張りな♪本来小面蜘蛛は霊魂巨神木の皮膚から形作られた能面だからね♪」
小面蜘蛛が誕生した経緯は不明であるが…。一説では古代の人間達によって迫害された神族の怨念が能面に憑霊した悪霊であるとも解釈される。
「小面蜘蛛の肉片を食べちゃえばあんたの天道眼を覚醒させられるかも知れないよ…」
「天道眼の覚醒ですって…」
(こんな老婆が小面蜘蛛の肉片を入手したとは…)
霊魂巨神木も小面蜘蛛の肉片を察知する。小面蜘蛛の肉片を手渡された桜花姫であったものの…。非常に困惑したのである。
(こんな代物…食いしん坊の私でも頬張りたくないわね…如何しましょう?)
生理的に小面蜘蛛の肉片を捕食したくない桜花姫であるものの…。
(一か八か…)
「桜餅に変化しなさい!」
変化の妖術を発動すると小面蜘蛛の肉片は桜花姫の大好きな桜餅に変化したのである。
「小面蜘蛛の肉片を…あんたの大好きな桜餅に変化させるなんてね…」
蛇骨鬼は苦笑いする。
「桜餅に変化しちゃえば小面蜘蛛の肉片だって吟味出来るからね♪」
桜花姫は変化の妖術で桜餅に変化した小面蜘蛛の肉片を一口で平らげる。
(所詮妖女の小娘が私の肉体の欠片である小面蜘蛛の肉片を捕食したとしても扱える神通力は微量…造物主の私には程遠い!)
霊魂巨神木は桜花姫を脆弱であると判断する。
「えっ?」
突如として桜花姫の肉体が粒子状の虹色の発光体に覆い包まれる。
「桜花姫ちゃん!?」
「桜花姫姉ちゃん!?」
蛇骨鬼と小猫姫は強烈なる虹色の発光体により瞑目したのである。すると数秒後…。無数の発光体の中心部より大日如来を連想させる巫女装束の女神が出現する。
「女神様かな?」
「えっ?あんたは仙女かね?」
巫女装束の女神の頭部には金無垢の金冠…。背中には大日如来を連想させる黄金色の輪光体が形作られる。蛇骨鬼と小猫姫は恐る恐る…。
「ひょっとしてあんたは…桜花姫ちゃんなのかい?」
「桜花姫姉ちゃんだよね?」
すると巫女装束の女神は背後の小猫姫と蛇骨鬼を直視するなり…。
「私よ…桜花姫よ♪」
蛇骨鬼は仙女へと覚醒した桜花姫に驚愕したのである。
「えっ…」
(桜花姫ちゃんが容姿端麗の仙女に覚醒するなんて…)
小猫姫は仙女の桜花姫に見惚れる。
「本物の女神様みたいだね♪桜花姫姉ちゃん♪」
「私が女神様なんて…小猫姫は大袈裟ね♪」
(私が女神様♪)
内心大喜びしたのである。
「私…普段よりも妖力が増強化したのかしら…」
霊魂巨神木は返答する。
(天道眼の覚醒によって小娘の体内の妖力が神通力に変化したが…貴様の体内の神通力は私よりも数段階下回る!所詮貴様はか弱き小娘…貴様程度の微弱の肉体では扱える神通力も微量である!造物主の私には程遠いぞ…)
「現段階の私だったら…圧倒的に劣勢かも知れないわね♪」
「えっ?桜花姫姉ちゃん?」
彼女は笑顔で背後の小猫姫を凝視するなり…。
「小猫姫♪」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
「小猫姫…あんたの妖力を私に♪」
小猫姫は変化の妖術を解除するなり伝説の妖獣から本来の美少女の姿形へと戻ったのである。恐る恐る桜花姫の背中に接触する。すると桜花姫の吸収能力により小猫姫の莫大なる妖力が一瞬で消耗したのである。
「ぐっ!妖力が一瞬で…」
「御免あそばせ♪小猫姫…」
(小猫姫…あんたの妖力を頂戴するわね…此奴を仕留めるにはあんたの妖力が必要なのよ…)
桜花姫は謝罪する。小猫姫は非常に息苦しくなるものの…。
「私なら大丈夫だから…気にしないで…桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫は笑顔で返答したのである。
「感謝するわね♪小猫姫♪」
桜花姫に吸収された小猫姫の妖力は彼女の体内にて神通力へと変化する。すると桜花姫の神通力は先程よりも数段階増大化したのである。
(微弱であった小娘の神通力が造物主である私に匹敵?上回るなんて…)
急速に神通力が増大する桜花姫に霊魂巨神木は驚愕する。小猫姫の妖力によって桜花姫の神通力が霊魂巨神木を数段階上回ったのである。
「桜花姫ちゃんが天道眼の覚醒と小猫姫の妖力によって造物主である霊魂巨神木の神通力を上回るなんてね…」
(ひょっとすると彼女は…桜花姫ちゃんは正真正銘戦乱時代に実在した元祖妖女の再来なのかも知れないね…)
蛇骨鬼は桜花姫を見守るなり大昔の伝説を連想…。桜花姫が大昔に実在した元祖妖女の再来なのではと推測する。
「霊魂巨神木…あんたの本体から戦乱時代の無念の亡者達の霊力を感じるわ…」
桜花姫は瞑目するなり…。
「私があんたの本体に憑霊する亡者達を成仏させるわ…」
(仙術…『日輪光』!)
虹色の神通力を諸手に凝縮させるなり…。両手より虹色の発光体を射出する。桜花姫が発動させた虹色の日輪光は霊魂巨神木に直撃したのである。
(こんな微弱の小娘が…仙術である日輪光を発動させるとは…)
霊魂巨神木は咄嗟に神通力の防壁にて樹木本体を防備するものの…。仙女へと覚醒した桜花姫の日輪光は霊魂巨神木の神通力の防壁を容易に無力化する。防壁を無力化した日輪光は霊魂巨神木の表面に直撃したのである。すると樹木に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚が国全体へと響き渡る。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
「小猫姫!?蛇骨鬼婆ちゃん!?」
霊魂巨神木の樹木本体に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚は蛇骨鬼と小猫姫は勿論…。各地の村人達をも卒倒させたのである。
(戦乱時代の亡者達は一筋縄では成仏出来ぬ!所詮小娘の貴様では…)
「沈黙するのね!」
桜花姫は即答する。桜花姫は全身全霊の神通力を発動…。
「戦乱時代の亡者達!好い加減成仏しなさい!」
全身全霊の神通力によって無念の亡者達の阿鼻叫喚を沈黙させたのである。数秒後…。
「はぁ…はぁ…」
神通力の消耗戦によって桜花姫は力尽きるなり地面に横たわる。桜花姫は仙女の状態から元通りの彼女に戻ったのである。霊魂巨神木からは醜悪なる亡者達の霊力は感じられない。すると霊魂巨神木は半透明の触手を発動…。
「霊魂巨神木…私を…如何するのよ…」
霊魂巨神木の触手が疲れ果てた桜花姫の皮膚に接触するなり消耗した妖力を回復させる。
(妖力が戻ったわ…)
「如何して私に妖力を…」
すると直後…。霊魂巨神木が樹木の状態から桜色の着物姿の女性に変化したのである。
「えっ!?あんたは樹木に憑霊する精霊かしら?」
(ひょっとして霊魂巨神木の正体は女体の精霊だったの?)
霊魂巨神木は桜花姫の質問に即答する。
(私の本来の姿形である…今迄は大勢の醜悪なる亡者達に憑霊されてより…本来の姿形には戻れなかった…)
霊魂巨神木の精霊は一息するなり…。
(貴様は戦乱時代の亡者達を無事に成仏させたからな…私は天道眼の所有者に無念の亡者達を成仏させたかった…)
「戦乱時代の亡者達…」
(大勢の成仏出来ぬ亡者達が私の体内に密集したからな…)
「ひょっとして今回の天災地変は…意図的に私の天道眼を覚醒させる魂胆だったのね…」
霊魂巨神木の精霊は恐る恐る返答する。
(人間達には傍迷惑だったかも知れないが…)
桜花姫は沈黙する。
(貴様にとって彼が…人間の僧侶が唯一の理解者なのか…)
桜花姫は地面に横たわった三蔵郎を凝視するなり即答したのである。
「勿論よ…あんたの神通力で三蔵郎様を元通りに戻しなさい…」
霊魂巨神木の精霊は返答する。
(貴様の僧侶を元通りに戻そう…貴様の神通力が…私の体内で忘却された戦乱時代の亡者達を無事成仏させられたからな…是非とも貴様には感謝しなければ…)
直後である。暗闇であった天空の黒雲も消失…。村里にて徘徊中だった食人餓鬼と百鬼食人餓鬼も霊魂巨神木の精霊の神通力によって白砂へと変化するなり成仏する。
(貴様の僧侶の肉体を無事元通りに戻した…太平神国の天災地変も終息させたからな…)
霊魂巨神木の精神感応が響き渡る。
(小娘よ…貴様の名前は?)
桜花姫は即答する。
「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」
(月影桜花姫と名乗る妖女よ…貴様は天道眼を所有する唯一の妖女…天寿によって貴様の肉体が死滅したとしても極楽浄土の守護神として覚醒する…月影桜花姫とやら…太古の妖女は戦乱で荒廃化した太平神国に安寧秩序を樹立させた…貴様の神通力であれば一天四海全域の安寧秩序を樹立させられるかも知れないな…)
「私が極楽浄土の守護神?一天四海の安寧秩序ですって?」
(貴様は彼女の後継者に相応しいからな…月影桜花姫よ…)
直後…。霊魂巨神木の精霊が無数の粒子状へと変化するなり天空にて消滅したのである。
「霊魂巨神木が…」
(神通力が感じられなくなったわ…霊魂巨神木が消滅するなんてね…)
すると地面に横たわった三蔵郎は勿論…。卒倒した蛇骨鬼と小猫姫が目覚める。
「えっ?私は一体何を?」
「桜花姫ちゃん?」
「桜花姫姉ちゃん?」
「三蔵郎様!」
桜花姫は力一杯三蔵郎に密着する。
「ぐっ!桜花姫様!?突然如何されたのですか!?」
突然の出来事に三蔵郎は困惑したのである。
「桜花姫姉ちゃん!私にも♪」
小猫姫は桜花姫の胸元に力一杯密着する。
「小猫姫…妹分のあんたでもおっぱいに密着されちゃったら…私…」
桜花姫は赤面したのである。
「最上級妖女でも人間の混血である桜花姫ちゃんが…造物主の霊魂巨神木を仕留めるなんてね…」
桜花姫は一瞬困惑するものの…。恐る恐る返答する。
「仕留めたわよ…」
(桜花姫ちゃん…)
蛇骨鬼は桜花姫の様子から察知する。桜花姫は恐る恐る蛇骨鬼に問い掛けたのである。
「如何して蛇骨鬼婆ちゃんが小面蜘蛛の破片を?」
「西方国の廃村で確保したのさ♪本来なら傷薬の原料品として役立てたかったけどね…」
「傷薬って…」
桜花姫は苦笑いする。
「私が神通力を扱えたのは小面蜘蛛の肉片を捕食したからなのよね♪小面蜘蛛の肉片を吟味しなかったら今頃私達は霊魂巨神木の悪霊に敗北したでしょうね…」
「こんな老婆の私でも桜花姫ちゃんに役立てたみたいだね♪」
蛇骨鬼は微笑む。すると小猫姫も桜花姫に密着した状態で…。
「私だって桜花姫姉ちゃんに協力したよ!私も役立てたでしょう!?桜花姫姉ちゃん!?」
「勿論小猫姫もね♪」
桜花姫は瞑目するなり恐る恐る小猫姫に接吻する。
「桜花姫様!?」
「桜花姫ちゃん!?」
三蔵郎と蛇骨鬼は驚愕したのである。桜花姫に接吻された小猫姫は無言で赤面するなり…。
「えっ!?」
(桜花姫姉ちゃん…)
彼女の身体髪膚が膠着化したのである。すると三蔵郎が恐る恐る…。
「談笑中に大変失礼なのですが…」
「何よ…三蔵郎様?」
「先日なのですが…私の隣人から良質の白米たっぷりの米俵と猪肉を提供されましてね♪是非とも今晩は私の寺院で食事しませんか?」
蛇骨鬼と小猫姫が反応する。
「食事だって♪私達も大丈夫かい♪」
「猪肉♪私も食事したいよ♪」
「勿論ですとも♪是非とも蛇骨鬼様も小猫姫様も一緒に食事しましょう!」
蛇骨鬼と小猫姫は大喜びしたのである。
「勿論…桜花姫様も一緒に食事しましょう♪」
「私も食事させてね♪」
桜花姫は一息するなり恐る恐る三蔵郎に近寄る。
「桜花姫様?如何されましたか?」
すると三蔵郎の耳元で…。
「私はね…人間では誰よりも三蔵郎様が大好きなの♪」
(桜花姫様…)
三蔵郎は一瞬驚愕するものの笑顔で返答する。
「私にとって桜花姫様は愛娘同然ですからね♪」
「精一杯長生きしてよね…三蔵郎様♪」
「勿論ですとも!桜花姫様も精一杯長生きするのですよ…」
桜花姫と三蔵郎は握手したのである。
(私は長生きするからね…)
桜花姫は精一杯長生きしなければと決心する。
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件名 桜花姫
投稿日 : 2021/08/14 22:03
投稿者 月影桜花姫
参照先
第八話

反撃

同時刻…。北方国のとある山道では旅先にて蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫が食人餓鬼の大群に追尾されたのである。
「ぐっ!」
「蛇骨鬼婆ちゃん!大丈夫!?」
蛇骨鬼は北方国の山奥にて食人餓鬼の大群から逃走中…。極度の腰痛により身動き出来なくなる。獣道にて蛇骨鬼は横たわる。
「畜生…」
(こんな状況下で腰痛なんて…)
すると彼女達の背後より無数の食人餓鬼が急接近したのである。
(私の命日かね…)
「本日で神族も全滅かも知れないね…」
蛇骨鬼は覚悟する。すると小猫姫は無表情で…。
「蛇骨鬼婆ちゃん…私…」
「小猫姫?」
小猫姫の体内より強大化した妖力を感じる。
「小猫姫!?」
(小猫姫から妖力を感じる…)
小猫姫の皮膚から蛍光色の秘められた妖力が表面化する。
「小柄の小猫姫に…こんなにも潜在的妖力が…」
(ひょっとすると小猫姫は妖力だけなら幼少期の桜花姫ちゃんに匹敵するかも知れないね…)
蛇骨鬼は小猫姫の潜在的妖力に驚愕したのである。すると小柄の小猫姫は肉体が変化するなり…。伝説の妖獣へと変化したのである。
「ひょっとして伝説の…妖獣!?」
(子供の小猫姫が…伝説の妖獣に変化出来るなんて…)
小猫姫の潜在能力に蛇骨鬼は勿論…。悪霊の食人餓鬼でさえも伝説の妖獣へと変化した小猫姫を直視するなり一瞬後退りしたのである。
「あんた達!蛇骨鬼婆ちゃんには…手出しさせないからね!覚悟しなよ!」
伝説の妖獣に変化した小猫姫は食人餓鬼の大群へと突進…。真正面に位置する数体の食人餓鬼を撃退する。極度に腐敗した食人餓鬼の肉体は非常に脆弱であり伝説の妖獣に変化した小猫姫が力一杯突進すると容易に粉砕されたのである。食人餓鬼の大群が再度小猫姫に殺到するものの…。小猫姫は口先を開口すると体内の妖力を凝縮させる。すると直後…。口先から高熱の雷球を射出したのである。高熱の雷球により獣道は焦土化…。一瞬で食人餓鬼の大群を消滅させ獣道の推定二町の界隈が焦土化したのである。圧倒的妖力により食人餓鬼の大群を消滅させた小猫姫であるが…。莫大なる妖力の消耗により小猫姫は元通りの姿形に戻ったのである。
「はぁ…はぁ…」
彼女は精神的にも肉体的にも疲弊したのか地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫かい!?」
すると小猫姫は疲れ果てた表情で返答する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…私なら大丈夫だよ…疲れ果てただけだから…」
「小猫姫…」
小猫姫の様子に蛇骨鬼は一安心したのである。
「桜花姫姉ちゃんは…大丈夫かな?」
彼女は桜花姫が大丈夫なのか非常に気になる。
「桜花姫ちゃんなら小猫姫が心配しなくても大丈夫だよ♪桜花姫ちゃんの場合妖女は妖女でも最上級の妖女だからね♪彼女の妖力は其処等の妖女とは別格だよ…」
蛇骨鬼は笑顔で断言する。
「桜花姫姉ちゃんなら…大丈夫だよね♪」
「桜花姫ちゃん…彼女なら今頃は…」
同時刻…。桜花姫と三蔵郎は無事に西方国へと到達する。
「如何やら西方国に到達したみたいですね♪桜花姫様の祖国ですか?」
「勿論よ♪無事に西方国に戻れたから一安心だわ…」
時間帯は真夜中であり物静かな暗闇の夜空を眺望すると桜花姫と三蔵郎は一安心したのである。
「夜空だわ…」
桜花姫は物静かな夜空を眺望したのである。すると三蔵郎が笑顔で…。
「田舎村の西方国へは食人餓鬼の襲撃は皆無だったみたいですね♪桜花姫様の祖国が無事なので一安心ですよ♪」
「油断大敵だけれどね…西方国は正真正銘武陵桃源だったみたいだわ…」
過疎地である西方国は総人口も比較的少人数であり神出鬼没の食人餓鬼の大群も襲撃しなかったのである。桜花姫と三蔵郎は桜花姫の自宅の近辺に隣接する天霊山へと直行する。
「目的地の天霊山よ…」
「天霊山とは…こんなにも低山だったのですね…」
三蔵郎は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「ですが天霊山の露天風呂なんかで…消耗された妖力を回復させられるのですか?」
「天霊山の露天風呂は私達妖女にとって極楽浄土だからね♪天霊山の露天風呂なら消耗しちゃった妖力だって回復させられるわ♪」
天霊山は非常に物静かであるが桜花姫は極度に周囲を警戒…。恐る恐る天霊山の天辺へと到達したのである。天霊山の天辺中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「天霊山の露天風呂…本物の幻想郷みたいですね♪」
「天霊山は神秘の場所よ♪私にとって天霊山の露天風呂で入浴するのが毎晩の醍醐味だからね♪」
桜花姫は毎晩天霊山の露天風呂で入浴する。
「自然界での入浴とは非常に健康的ですからね♪」
すると彼女は人前であるものの…。特段気にならなかった様子であり突如として着物を脱衣したのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
三蔵郎は公明正大に着物を脱衣する桜花姫に驚愕する。
「何かしら?三蔵郎様…」
桜花姫は無表情で返答したのである。
「桜花姫様…人前で何を!?」
彼女は平気そうな表情で…。
「何って…入浴するから着物を脱衣しただけよ…」
桜花姫は全裸の状態であり三蔵郎の表情が赤面する。すると赤面した三蔵郎の反応に桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様は大袈裟ね♪」
桜花姫は赤面する三蔵郎の様子に微笑ましくなる。
(生真面目の三蔵郎様も悩殺しちゃったわね♪)
三蔵郎は人前で脱衣しても平常心である桜花姫に愕然とする。
「私にとって三蔵郎様は特別だから大丈夫なのよ♪別に全裸だからって私は気にしないから…」
「気にしないって…桜花姫様は正真正銘女性なのですよ…」
桜花姫は全裸の状態であろうとも平常心の様子である。
「私自身全裸でも気にならないのよね♪人前で全裸だからって何よ?三蔵郎様は大袈裟ね♪」
「妖女とは…」
(妖女って私達人間とは感覚が別次元なのでしょうね…)
三蔵郎は摩訶不思議の妖女が人間とは異質的であると再認識する。
「変化の儀式を発動するわよ…」
「変化の儀式ですと?」
すると桜花姫の全身の皮膚が虹色に変化したかと思いきや…。
「桜花姫様!?」
三蔵郎は強烈なる無数の発光体によって両目を瞑目させる。すると桜花姫の血紅色であった両目が瑠璃色へと変化したのである。直後…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化するなり人間の女性から美貌を感じさせる人魚の肉体へと変化したのである。黒毛の頭髪が銀髪へと変色する。
(えっ…桜花姫様が…)
「人魚に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられるが自分自身の肉体をあらゆる動植物にも変化させられる。雰囲気の変化した彼女に三蔵郎は驚愕の様子であり…。内心人魚に変化した桜花姫に見惚れる。
「三蔵郎様♪如何かしら♪」
人魚に変化した桜花姫は普段の体格を一回り上回る巨体であり人魚の状態で入浴したのである。
(桜花姫様が人魚に変化出来る理由とは天道眼の効力なのでしょうか?)
「桜花姫様は人魚にも変化出来るのですね…」
「私の母様が人魚の血筋だからね♪」
彼女の母親である美海姫は純血の人魚であり桜花姫も美海姫の血筋により人魚に変化出来る。
「折角だし三蔵郎様も私と一緒に混浴しないかしら?適度の湯加減だし♪」
「えっ!?私が桜花姫様と混浴ですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。桜花姫に笑顔で歓迎されるものの…。今回ばかりは拒否したのである。
「桜花姫様…生憎ですが今回ばかりは私は遠慮しますよ…私は無事超常現象が解決してから桜花姫様と一緒に混浴でも♪」
三蔵郎は赤面する。
「三蔵郎様は遠慮深いのね♪」
桜花姫は満足気の様子であり度重なる悪戦苦闘によって消耗した妖力が体内に蓄積…。万全の状態へと戻ったのである。
(如何やら桜花姫様の妖力が回復したみたいですね…)
三蔵郎は露天風呂で水遊びする桜花姫を見守るものの…。
(今更なのですが…私も桜花姫様と一緒に混浴したかったな…如何して私は遠慮しちゃったのか…)
三蔵郎は後悔したのか無我夢中に水遊びする桜花姫の様子を注視し続けると内心彼女と混浴したくなる。
「天霊山の露天風呂は極楽浄土だわ…先程の悪戦苦闘が悪夢だったって感じられるのよね…」
桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
「ですが桜花姫様は今後如何されるのですか?食人餓鬼の大群は勿論ですが…百鬼食人餓鬼の暴走を黙殺し続ければ国全体が彼等に占拠されましょう…」
「体力と妖力を回復させたら即刻猛反撃するからね♪私が全身全霊で食人餓鬼の大群と百鬼食人餓鬼の大群を蹴散らしちゃうわよ!」
数分後…。露天風呂の効力によって桜花姫の妖力が完全に回復したのである。入浴終了後…。桜花姫は人魚の状態から人間の姿形へと元通りに戻ったのである。桜花姫は即座に脱衣した着物を着衣する。
「三蔵郎様…妖力は万全よ!万全の状態なら食人餓鬼の大群は勿論…百鬼食人餓鬼が襲撃したとしても撃退出来るわ!」
「如何やら本調子が戻ったみたいですね♪桜花姫様♪」
すると三蔵郎は突発的に彼女に提案したのである。
「桜花姫様?突発的なのですが別行動は如何でしょうか?」
「別行動ですって?」
「桜花姫様は東方国の城下町に出現した食人餓鬼の大群と親玉の百鬼食人餓鬼の征伐に全身全霊を…私は彼等の大群が出現した主要因を徹底的に探索します…」
「百鬼食人餓鬼は勿論…東方国の城下町には神出鬼没の食人餓鬼の大群が徘徊中なのよ…人間の三蔵郎様が単独で出歩くのは自害するのと一緒だわ…」
桜花姫は非常に危惧するものの三蔵郎は大丈夫であると断言する。
「私は先程武器庫で無尽蔵の弾薬と護身用の連発銃を確保しましたからね♪私なら大丈夫ですよ…」
「悪霊が大群であれば即座に避難するのよ…三蔵郎様…」
「承知しました…桜花姫様…」
桜花姫の心配事を把握するなり三蔵郎は恐る恐る東方国の城下町へと戻ったのである。桜花姫と三蔵郎は本格的に別行動を開始する。
「三蔵郎様は単独で大丈夫かしら…」
桜花姫は三蔵郎が単独で大丈夫なのか不安視したのである。桜花姫は天道眼を発動…。東方国の中心街を徘徊する百鬼食人餓鬼の居場所を察知する。
「百鬼食人餓鬼の気配を感じるわ…」
百鬼食人餓鬼の霊力は規格外であり周辺には無数の食人餓鬼が徘徊中であるものの…。容易に居場所を特定化出来る。
「百鬼食人餓鬼だけは規格外だからね…霊力が目立ち過ぎだわ…」
(霊力が強力だから容易に居場所を特定化出来るのよね♪)
桜花姫は即座に東方国へと直行する。獣道にて徘徊中の無数の食人餓鬼に遭遇するものの即座に念力の妖術を発動…。容易に彼等を蹴散らせる。
「周辺の妨害者達が鬱陶しいわね…」
無数の食人餓鬼が大勢で殺到するものの…。彼女の本体に接触する直前に彼等の肉体が念力の妖術によって粉砕されたのである。露天風呂の効力からか先程よりも桜花姫の妖力が増強化する。数分後…。
「百鬼食人餓鬼は中心街で徘徊中ね…」
桜花姫は東方国の中心街へと到達する。
(百鬼食人餓鬼は私が仕留めるからね♪)
「覚悟しなさいよ…」
桜花姫は恐る恐る東方国の中心街へと潜入したのである。
「村人達だわ…」
(非常に心苦しいわね…)
農村地帯は食人餓鬼の襲撃によって惨殺された村人達の血肉やら無数の肉片が散乱する。
「彼等は食人餓鬼の襲撃によって惨殺されたのね…」
すると横たわった村人達が突発的に身動きし始めたのである。彼等は通行中の桜花姫に殺到する。
「きゃっ!」
桜花姫は咄嗟に念力の妖術を発動…。
「死滅しなさい!」
殺到する村人達の腹部を念力の妖術で粉砕したのである。村人達を仕留めたかと思いきや…。
「えっ!?」
上半身のみで身動きするなり桜花姫に急接近する。
(上半身のみで身動き出来るなんて…)
即座に念力の妖術を再活用するなり食人餓鬼へと変化した村人達の頭部を粉砕…。すると頭部を粉砕された影響からか村人達は身動きしなくなる。
「脳味噌を粉砕しちゃえば身動き出来なくなるみたいね…」
如何して食人餓鬼によって殺害された村人達が突発的に身動きしたのか疑問視する。
「如何して食人餓鬼に食い殺された村人達が身動きしたのかしら…」
(ひょっとすると食人餓鬼に食い殺された人間も食人餓鬼として復活するのかしら?疫病みたいだわ…)
通常の食人餓鬼は捕食されても食人餓鬼には変化しなかったが今回の天災地変で出現した食人餓鬼は今迄に出現した食人餓鬼とは別物であり捕食…。殺害された人間も食人餓鬼として復活するのである。
「食人餓鬼に襲撃された人間達が食人餓鬼として復活するのであれば相当厄介だわ…」
最早祖国存亡の瀬戸際であり最悪の場合…。食人餓鬼の増大化による太平神国の滅亡が危惧される。
「東方国は勿論…最悪太平神国が滅亡するかも知れないわね…」
すると突発的に胸騒ぎを感じる。
「霊力かしら!?」
彼女の背後には無数の人面が融合化した百鬼食人餓鬼が佇立する。
「百鬼食人餓鬼だわ…」
百鬼食人餓鬼の無数の人面が桜花姫を睥睨の眼力で凝視するなり超高温の熱風を放射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。超高温の熱風から本体を防備したのである。
「危機一髪ね♪」
天道眼の効力により百鬼食人餓鬼の頭頂部から雷撃の妖術を発動する。
「死滅しなさい!百鬼食人餓鬼…」
すると高熱の落雷によって地面は陥没…。百鬼食人餓鬼の肉体が粉砕される。
「仕留めたかしら?」
落雷で粉砕された無数の肉片が小柄の人間体を形作るなり無数の食人餓鬼へと分裂したのである。
(粉砕された肉片が食人餓鬼に分裂したのね…)
桜花姫は超高温の火炎の妖術を発動…。分裂した食人餓鬼の大群を火炎の妖術で焼殺する。
「亡者達…成仏しなさい…」
火炎の妖術により数秒間で食人餓鬼の大群は完全焼失したのである。
「焼失したわね…楽勝だったわ♪」
桜花姫は手応えを感じる。
「三蔵郎様は大丈夫かしら?」
桜花姫は三蔵郎が無事なのか如何なのか非常に気になる。
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