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月影桜花姫の宝庫〔第零弾〕
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:53 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
第六話
精霊
一時的に死後の世界である地獄に幽閉された桜花姫であるが…。地獄の住人である鬼殺丸の協力により俗界と地獄の境目である地獄の石門を無事通過出来たのである。境目の空間にて衰弱化した桜花姫は自身の自宅にて目覚める。
(えっ…私は…)
周囲を直視するなり…。
「私の…家屋敷だわ…」
極度の安心感によりホッとしたのである。
「私…地獄から無事脱出出来たのね♪」
無事に地獄から戻れたと実感出来…。桜花姫は大喜びする。
(早速今回の出来事を誰かに喋っちゃおうかな♪)
すると直後である。何者かがトントンッと自宅の板戸をノックする。
「えっ?誰かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には粉雪妖女の氷麗姫が桜花姫の自宅に訪問したのである。
「氷麗姫?」
氷麗姫は非常に真剣そうな表情で桜花姫を凝視する。
「桜花姫…」
「何よ?」
氷麗姫は恐る恐る…。
「あんたの仲間…蛇骨鬼だったかしら?」
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃんが何よ…」
蛇骨鬼の名前に桜花姫はビクビクする。
「蛇骨鬼…危篤状態らしいの…」
「えっ…危篤ですって…」
蛇骨鬼は危篤状態であり今夜が山場だったのである。
「私と一緒に南国に直行しましょう…」
「承知したわ…」
外出すると時間帯は真夜中であり星空が眺望出来る。すると氷麗姫が桜花姫の方向を直視するなり…。
「あんた三日間も留守だったから心配したわよ…」
「えっ?三日間?」
桜花姫は三日間も地獄に滞在したのである。
(私…三日間も地獄に…)
時間の感覚が麻痺する。移動を開始してより一時間後…。桜花姫と氷麗姫は南国の天女の村里に到達する。
「南国だわ…」
「蛇骨鬼婆ちゃんの家屋敷は…」
数分後…。蛇骨鬼の自宅に到着したのである。
「桜花姫様…」
蛇骨鬼の自宅には三蔵郎と小猫姫…。居間の中心には衰弱化した蛇骨鬼が確認出来る。
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は落涙した様子で桜花姫を直視する。
「小猫姫…」
桜花姫は恐る恐る小猫姫に近寄る。
「御免ね…三日間も留守しちゃって…」
小猫姫に謝罪したのである。
「大丈夫…大丈夫よ…気にしないで桜花姫姉ちゃん…」
(小猫姫…)
桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「蛇骨鬼婆ちゃんは…」
衰弱化した蛇骨鬼は最早両目を瞑目させ素肌も土気色だったのである。
「老衰かしら…」
桜花姫は恐る恐る蛇骨鬼の皮膚に接触する。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
桜花姫が接触した直後…。蛇骨鬼はスーッと全身が脱力したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
蛇骨鬼は老衰により息絶える。
「老衰による自然死ですね…」
三蔵郎は両手で合掌する。沈黙した氷麗姫は内心…。
(こんな発言は桜花姫と小猫姫には出来ないけれど…死に方としては理想の死に方よね…)
不謹慎であるが蛇骨鬼の死に方は理想の死に方であると感じる。すると直後である。
「えっ?」
自然死した蛇骨鬼の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。白色の大蛇に変化したのである。
「なっ!?」
「大蛇だわ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん?」
数秒後…。白色の大蛇は粒子状の発光体に変化すると消滅したのである。
「如何やら…蛇骨鬼様は天空世界に旅立たれたのでしょうね…」
三蔵郎が発言すると氷麗姫も発言する。
「最期に白蛇に変化するなんて…摩訶不思議ね…」
小猫姫は沈黙した様子であり何も喋らない。一時間は沈黙の空気であり誰もが気まずいと感じる。沈黙の一時間から五分後…。一同は解散したのである。帰宅中…。桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
(本当に死んじゃったのね…)
再度涙腺から涙が零れ落ちる。三十分後…。無事に自宅へと戻ったのである。桜花姫は自宅の居間にて寝転ぶ。精神的にも肉体的にも疲れ果てたのか睡眠したのである。熟睡した桜花姫だが…。摩訶不思議の気配により目覚める。
(えっ…何かしら?)
桜花姫は恐る恐る外出したのである。すると周辺には虹色の発光体が無数に浮遊する。
「発光体だわ…」
(一体何かしら?)
今度は天霊山から摩訶不思議の神通力を察知したのである。
「ひょっとして神通力!?」
(天霊山ね…)
気になった桜花姫は即座に天霊山へと直行する。天霊山の天辺を直視すると天辺全体が虹色の発光により光り輝いたのである。移動してより数分後…。桜花姫は天霊山の頂上へと到達する。
「えっ!?」
天霊山の頂上には百尺サイズの巨大広葉樹が存在…。木枝には虹色の単葉やら果実が確認出来る。桜花姫は一息するなり…。
「ひょっとして…霊魂巨神木?」
天霊山の頂上に聳え立つ樹木とは世界樹の霊魂巨神木だったのである。
(如何して霊魂巨神木がこんな場所に…)
霊魂巨神木は突発的に出現する摩訶不思議の樹木であるが…。突然の出現に意味深さを感じる。すると突如として霊魂巨神木の樹木全体がピカッと虹色に発光したのである。
「きゃっ!」
突然の樹木の発光によって桜花姫は両目を力一杯瞑目させる。数秒後…。桜花姫は両目を見開くと彼女の目前には小柄の巫女装束の女性が佇立する。彼女は黒髪の長髪であり背丈は桜花姫よりも小柄である。女性の両目は半透明の瑠璃色の瞳孔であり桜花姫は驚愕する。
「あんた…一体何者なの?」
(彼女の両目…瑠璃色だわ…ひょっとして天道眼かしら…)
恐る恐る問い掛ける桜花姫に女性は名前を名乗る。
「私は霊魂巨神木の精霊…姿形は元祖妖女…桃子姫であるが…」
「霊魂巨神木の精霊ですって?」
雰囲気こそ以前とは若干変化したが…。霊魂巨神木の精霊との再会は半年前以来である。
「あんたの容姿…元祖妖女の桃子姫だったのね…」
「桃子姫の死後…彼女の魂魄は樹木である私と同化したからな…」
桜花姫は再度霊魂巨神木の精霊に問い掛ける。
「如何してあんたは天霊山の頂上に出現したの?」
すると霊魂巨神木の精霊は一息するなり…。
「桜花姫…冥王鬼と名乗る神族の暴走を阻止するのだ…」
「冥王鬼ですって!?」
桜花姫は冥王鬼の名前に反応する。
(彼奴は私の天道眼を奪取した神族の一員だったわね…)
冥王鬼の名前に腹立たしくなる。
「冥王鬼は神族でも最強に部類される存在だ…俗界で彼女を阻止出来るのは…最上級妖女である月影桜花姫…貴様のみ…」
霊魂巨神木の精霊は桜花姫の実力を高評価するのだが…。
「私…先日冥王鬼に天道眼を奪取されて…天道眼を駆使出来なくなったの…」
桜花姫は困惑したのである。
「冥王鬼に天道眼が奪取されたのは本当なのか…」
「残念だけど…今現在の私は妖術が使用出来ない下級妖女なのよ…」
問い掛けられた桜花姫は困惑した表情で返答する。
「先程の内容が事実であれば…地上界は勿論…全世界の滅亡は回避出来なくなるな…」
「全世界の滅亡ですって!?」
恐る恐る霊魂巨神木の精霊に問い掛ける。
「恐らく冥王鬼は貴様から奪取した天道眼の効力で全世界の種族を滅亡させ…神族の支配する神世界を創造するであろう…」
本来天道眼は神族でも最高神に部類される神族の所有物である。最高神が天道眼を発動すると無限の森羅万象をも翻弄出来る。
「如何すれば冥王鬼を阻止出来るの?」
「最終手段だ…」
突如として精霊の左手より虹色に発光する摩訶不思議の果実が出現…。
「虹色の…果実だわ…」
精霊は桜花姫に果実を手渡したのである。
「霊魂巨神木の神聖なる果実だ…此奴は戦乱時代に元祖妖女である桃子姫が菜食した代物であるぞ…」
霊魂巨神木の果実を菜食した人間は妖力を所持出来る。
「私の神聖なる果実を菜食すれば貴様は再度…天道眼を開眼出来る…」
「えっ…天道眼を?」
桜花姫は一息するなり…。恐る恐る手渡された果実を一口菜食したのである。
「えっ?」
直後…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「如何やら貴様に天道眼が戻ったみたいだな…」
「本当に♪天道眼が戻ったの♪」
肉体に妖力が戻ったかは無感覚であったが…。桜花姫は大喜びしたのである。数秒後…。
(妖力が戻った感覚だわ…)
天道眼の開眼により妖力も戻ったと自覚出来たのである。
「余談であるが…貴様が衰弱死しなかったのは奇跡だ…」
「えっ?何が奇跡なの?」
精霊はボソッと一言…。
「基本的に私の果実を菜食した人間は…即刻衰弱死する…」
霊魂巨神木の果実は別名禁断の果実であり普通の人間が菜食した場合…。数秒間で衰弱死する。誰しもが妖力は所持出来ない。
「桃子姫と私が死ななかったのは…」
「貴様と桃子姫は運命の存在であり…最初から妖女として覚醒すべき人間であった…」
「はぁ…」
(私には何が何やら…)
桜花姫は内心珍紛漢紛だったのである。
「兎にも角にも天道眼と妖力が戻ったし♪精霊には感謝するわね♪」
すると精霊は真剣そうな表情で…。
「折角だが…貴様に対面したい人物が三人存在する…」
「えっ?私に対面?誰なの…」
精霊は自身の神通力で三人の霊体を口寄せする。桜花姫の背後より三人の半透明の人物が出現…。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る三人の霊体を直視したのである。
「えっ!?」
半透明の人物とは老衰により死去した老婆の蛇骨鬼と群青色の着物姿の女性…。若齢の若武者が佇立する。
「あんたは蛇骨鬼婆ちゃんと…母様!?若武者は誰かしら…」
「若武者は貴様の実父…夜叉丸だ…」
「若武者は私の父様?」
群青色の着物姿の女性は母親の美海姫であり若齢の若武者は父親の夜叉丸である。すると蛇骨鬼は笑顔で…。
「桜花姫ちゃん♪あんたと再会出来て何よりだよ♪」
蛇骨鬼は桜花姫と再会出来大喜びする。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
一方の桜花姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「今現在の私は自然界と一体化した存在だよ♪」
蛇骨鬼は人間の老婆としての肉体は維持出来なくなったが…。彼女の魂魄は自然界と一体化する。
「消滅したのは実体としての肉体だけだからね♪あんまり悲観しないでね…」
「私は大丈夫だけど…小猫姫が…」
小猫姫は蛇骨鬼の自然死により彼女自身のショックは想像以上である。
「小猫姫は純粋だからね…」
「彼女を元気付けたいわ…」
小猫姫を元気付けたいと発言する桜花姫に蛇骨鬼は再度笑顔で…。
「彼女なら大丈夫だよ♪」
「えっ?」
「時間が解決するさ♪」
現状では精神的ショックにより気力が消失するが時間が解決すると蛇骨鬼は思考する。
(無理に元気付けないのが無難かしら…)
すると今度は母親の美海姫が笑顔で発言したのである。
「桜花姫♪久し振りね♪」
「母様…」
桜花姫は恐る恐る…。
「御免なさい…母様…私は母様を…」
謝罪した桜花姫であるが美海姫は笑顔で返答する。
「気にしないで♪桜花姫♪」
「えっ…私は妖力で母様を殺したのよ…」
美海姫は一息すると真実を告白する。
「私の本当の死因は…食人餓鬼の毒素が原因なの…」
「えっ?食人餓鬼の…毒素?」
美海姫は夜叉丸と婚姻する三年前…。食人餓鬼に襲撃され左手を怪我したのである。外傷自体は軽傷であったが十五年後…。食人餓鬼の毒液が全身に転移したのである。
「本当の原因は悪霊の毒素なのよ…桜花姫は自分を非難しないで…」
美海姫の発言により心情の罪悪感が解消される。
「あんたは悪くないのよ…桜花姫♪」
「母様…」
今迄は美海姫を殺害した罪悪感により辛苦されたが…。美海姫との再会により長年の罪悪感から解放されたのである。すると今度は父親の夜叉丸が発言する。
「桜花姫なのか…こんなに美人だったとは…」
美人の一言に桜花姫は赤面したのである。
「私が美人なんて…父様は大袈裟ね♪」
すると夜叉丸は小声で…。
「元気そうで安心した…今迄大変だったな…桜花姫…悪かったな…」
夜叉丸は桜花姫に謝罪したのである。
「別に謝罪しなくても…案外一人でも気楽だったし♪悪霊征伐は面白かったわよ♪」
「此奴…」
(外見とは裏腹に活気だな…)
か弱そうな外見とは裏腹に活気であると感じる。
「私は一人でも幸福よ♪」
「桜花姫が幸福であれば俺は満足だ…」
(父様…)
夜叉丸の発言に桜花姫は微笑む。意外と優男であると感じる。
「父様?」
「ん?如何した?」
「父様って…冥王鬼って名前の神族に殺されたの?」
桜花姫は真剣そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「彼奴か…」
問い掛けられると夜叉丸の表情が険悪化したのである。
「想起したくないが…俺が冥王鬼に殺されたのは事実だ…」
桜花姫はハッとする。
「父様が冥王鬼に殺されたのは本当だったのね…」
「冥王鬼か…」
蛇骨鬼は真剣そうな表情でボソッと発言する。すると美海姫がハッとした表情で反応したのである。
「えっ!?冥王鬼?神族ですって…夜叉丸様は悪霊に殺されたのでは!?」
当時は誰もが悪霊によって殺されたと認識する。
「当時の俺は悪霊を征伐しに出掛けたが…悪霊は木刀を所持した女人によって退治されたのだが…」
「木刀を所持した女人が冥王鬼だったのね…」
「嗚呼…」
「如何して冥王鬼って神族の一員が夜叉丸様を殺害されたのです?」
美海姫は恐る恐る夜叉丸に問い掛ける。
「恐らく肩慣らしだろうな…」
「冥王鬼は…」
今度は蛇骨鬼が発言する。
「彼奴は姿形こそ小柄の小娘だが…人間なんて瞬殺されるだろう…」
桜花姫は精霊を直視するなり…。
「彼奴の木刀は霊魂巨神木の小枝で形作られた代物だったわよね?」
「勿論だ…冥王鬼の木刀は私の肉体の一部から形作られた刀剣だ…鋼鉄の刀剣だって簡単に屈折させられるし妖術だって無力化出来る…」
(冥王鬼の木刀は厄介ね…私の妖術も無力化されるし…)
「冥王鬼に対抗するには如何すれば?」
桜花姫の問い掛けに精霊は即答する。
「天道眼と木刀を所持する冥王鬼に対抗するには…天道眼と霊斬刀が必要だな…」
「霊斬刀ですって?」
霊斬刀に夜叉丸が反応したのである。
「霊斬刀とは夜桜崇徳丸が所持した伝説の刀剣だな…牢固石の…」
「勿論…」
「霊斬刀は三蔵郎様が…」
「三蔵郎だと?一体誰だ?」
すると蛇骨鬼が笑顔で返答する。
「三蔵郎は桜花姫ちゃんの理解者だよ♪助平だけど僧侶だからね♪」
「助平って…」
桜花姫は苦笑いしたのである。
「人一倍内気だった桜花姫にも理解者がね♪三蔵郎様には感謝しないと…」
「こんな俗界にも聖者が存在するとは…」
美海姫も夜叉丸も一安心する。精霊は再度発言したのである。
「兎にも角にも今現在の冥王鬼は最高神に匹敵する存在だ…冥王鬼に対抗出来るのは桜花姫だけだからな…」
天道眼を開眼した冥王鬼は最早最高神に匹敵する存在へと進化…。最早彼女に対抗出来るのは天道眼を所持する桜花姫以外には存在しない。直後…。
「えっ?三人の肉体が…」
半透明だった三人の肉体が消滅し始める。
「如何やら時間みたいだね…」
蛇骨鬼は桜花姫を直視するなり…。
「桜花姫ちゃんよ…彼女を…冥王鬼を復讐から解放してね…」
「えっ?蛇骨鬼婆ちゃん?」
蛇骨鬼と冥王鬼は太古の大昔は悪友の関係だったのである。
「彼奴は神族だが…精神的には非常に未熟だからね♪」
正直冥王鬼の存在は気に入らなかったが…。
「努力するよ♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
笑顔で返答したのである。
「大変かも知れないけど小猫姫と仲良く支え合いな♪間違っても口寄せの妖術なんかで自然界の一部である私を復活させないでね…」
「えっ…」
桜花姫は一瞬困惑するものの…。蛇骨鬼の希望を尊重したのである。
「約束するよ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると今度は美海姫が発言する。
「桜花姫…達者でね♪私は何時迄も貴女を見守るから♪」
「母様…」
桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。今度は夜叉丸が発言する。
「桜花姫よ…今後も大変だろうが桜花姫は桜花姫らしく自由に生きろ…」
一息するなり…。
「冥王鬼なんかに殺されるな…精一杯頑張れよ…」
「父様…勿論よ♪」
数秒間が経過すると三人の肉体は完全に消滅したのである。
「はぁ…」
(三人には二度と再会出来ないのね…)
内心切なくなる。
「冥王鬼との戦闘は今迄とは比較出来ない大激戦だろう…最悪全世界の滅亡も否定出来ない…」
「私が彼奴を征伐するわよ…相手が神族だからって手加減しないから…」
桜花姫は断言する。
「であれば一安心だ…」
数秒後…。今度は精霊の肉体が消滅し始める。
「えっ?あんたの肉体が…」
「如何やら私も時間みたいだ…」
精霊は最後に…。
「最上級妖女の月影桜花姫よ…冥王鬼から全世界を救済しろ…最上級妖女の貴様なら…」
精霊の肉体は完全消滅したのである。
(全世界を救済なんて…)
「私に出来るかしら?」
精霊
一時的に死後の世界である地獄に幽閉された桜花姫であるが…。地獄の住人である鬼殺丸の協力により俗界と地獄の境目である地獄の石門を無事通過出来たのである。境目の空間にて衰弱化した桜花姫は自身の自宅にて目覚める。
(えっ…私は…)
周囲を直視するなり…。
「私の…家屋敷だわ…」
極度の安心感によりホッとしたのである。
「私…地獄から無事脱出出来たのね♪」
無事に地獄から戻れたと実感出来…。桜花姫は大喜びする。
(早速今回の出来事を誰かに喋っちゃおうかな♪)
すると直後である。何者かがトントンッと自宅の板戸をノックする。
「えっ?誰かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には粉雪妖女の氷麗姫が桜花姫の自宅に訪問したのである。
「氷麗姫?」
氷麗姫は非常に真剣そうな表情で桜花姫を凝視する。
「桜花姫…」
「何よ?」
氷麗姫は恐る恐る…。
「あんたの仲間…蛇骨鬼だったかしら?」
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃんが何よ…」
蛇骨鬼の名前に桜花姫はビクビクする。
「蛇骨鬼…危篤状態らしいの…」
「えっ…危篤ですって…」
蛇骨鬼は危篤状態であり今夜が山場だったのである。
「私と一緒に南国に直行しましょう…」
「承知したわ…」
外出すると時間帯は真夜中であり星空が眺望出来る。すると氷麗姫が桜花姫の方向を直視するなり…。
「あんた三日間も留守だったから心配したわよ…」
「えっ?三日間?」
桜花姫は三日間も地獄に滞在したのである。
(私…三日間も地獄に…)
時間の感覚が麻痺する。移動を開始してより一時間後…。桜花姫と氷麗姫は南国の天女の村里に到達する。
「南国だわ…」
「蛇骨鬼婆ちゃんの家屋敷は…」
数分後…。蛇骨鬼の自宅に到着したのである。
「桜花姫様…」
蛇骨鬼の自宅には三蔵郎と小猫姫…。居間の中心には衰弱化した蛇骨鬼が確認出来る。
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は落涙した様子で桜花姫を直視する。
「小猫姫…」
桜花姫は恐る恐る小猫姫に近寄る。
「御免ね…三日間も留守しちゃって…」
小猫姫に謝罪したのである。
「大丈夫…大丈夫よ…気にしないで桜花姫姉ちゃん…」
(小猫姫…)
桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「蛇骨鬼婆ちゃんは…」
衰弱化した蛇骨鬼は最早両目を瞑目させ素肌も土気色だったのである。
「老衰かしら…」
桜花姫は恐る恐る蛇骨鬼の皮膚に接触する。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
桜花姫が接触した直後…。蛇骨鬼はスーッと全身が脱力したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
蛇骨鬼は老衰により息絶える。
「老衰による自然死ですね…」
三蔵郎は両手で合掌する。沈黙した氷麗姫は内心…。
(こんな発言は桜花姫と小猫姫には出来ないけれど…死に方としては理想の死に方よね…)
不謹慎であるが蛇骨鬼の死に方は理想の死に方であると感じる。すると直後である。
「えっ?」
自然死した蛇骨鬼の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。白色の大蛇に変化したのである。
「なっ!?」
「大蛇だわ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん?」
数秒後…。白色の大蛇は粒子状の発光体に変化すると消滅したのである。
「如何やら…蛇骨鬼様は天空世界に旅立たれたのでしょうね…」
三蔵郎が発言すると氷麗姫も発言する。
「最期に白蛇に変化するなんて…摩訶不思議ね…」
小猫姫は沈黙した様子であり何も喋らない。一時間は沈黙の空気であり誰もが気まずいと感じる。沈黙の一時間から五分後…。一同は解散したのである。帰宅中…。桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
(本当に死んじゃったのね…)
再度涙腺から涙が零れ落ちる。三十分後…。無事に自宅へと戻ったのである。桜花姫は自宅の居間にて寝転ぶ。精神的にも肉体的にも疲れ果てたのか睡眠したのである。熟睡した桜花姫だが…。摩訶不思議の気配により目覚める。
(えっ…何かしら?)
桜花姫は恐る恐る外出したのである。すると周辺には虹色の発光体が無数に浮遊する。
「発光体だわ…」
(一体何かしら?)
今度は天霊山から摩訶不思議の神通力を察知したのである。
「ひょっとして神通力!?」
(天霊山ね…)
気になった桜花姫は即座に天霊山へと直行する。天霊山の天辺を直視すると天辺全体が虹色の発光により光り輝いたのである。移動してより数分後…。桜花姫は天霊山の頂上へと到達する。
「えっ!?」
天霊山の頂上には百尺サイズの巨大広葉樹が存在…。木枝には虹色の単葉やら果実が確認出来る。桜花姫は一息するなり…。
「ひょっとして…霊魂巨神木?」
天霊山の頂上に聳え立つ樹木とは世界樹の霊魂巨神木だったのである。
(如何して霊魂巨神木がこんな場所に…)
霊魂巨神木は突発的に出現する摩訶不思議の樹木であるが…。突然の出現に意味深さを感じる。すると突如として霊魂巨神木の樹木全体がピカッと虹色に発光したのである。
「きゃっ!」
突然の樹木の発光によって桜花姫は両目を力一杯瞑目させる。数秒後…。桜花姫は両目を見開くと彼女の目前には小柄の巫女装束の女性が佇立する。彼女は黒髪の長髪であり背丈は桜花姫よりも小柄である。女性の両目は半透明の瑠璃色の瞳孔であり桜花姫は驚愕する。
「あんた…一体何者なの?」
(彼女の両目…瑠璃色だわ…ひょっとして天道眼かしら…)
恐る恐る問い掛ける桜花姫に女性は名前を名乗る。
「私は霊魂巨神木の精霊…姿形は元祖妖女…桃子姫であるが…」
「霊魂巨神木の精霊ですって?」
雰囲気こそ以前とは若干変化したが…。霊魂巨神木の精霊との再会は半年前以来である。
「あんたの容姿…元祖妖女の桃子姫だったのね…」
「桃子姫の死後…彼女の魂魄は樹木である私と同化したからな…」
桜花姫は再度霊魂巨神木の精霊に問い掛ける。
「如何してあんたは天霊山の頂上に出現したの?」
すると霊魂巨神木の精霊は一息するなり…。
「桜花姫…冥王鬼と名乗る神族の暴走を阻止するのだ…」
「冥王鬼ですって!?」
桜花姫は冥王鬼の名前に反応する。
(彼奴は私の天道眼を奪取した神族の一員だったわね…)
冥王鬼の名前に腹立たしくなる。
「冥王鬼は神族でも最強に部類される存在だ…俗界で彼女を阻止出来るのは…最上級妖女である月影桜花姫…貴様のみ…」
霊魂巨神木の精霊は桜花姫の実力を高評価するのだが…。
「私…先日冥王鬼に天道眼を奪取されて…天道眼を駆使出来なくなったの…」
桜花姫は困惑したのである。
「冥王鬼に天道眼が奪取されたのは本当なのか…」
「残念だけど…今現在の私は妖術が使用出来ない下級妖女なのよ…」
問い掛けられた桜花姫は困惑した表情で返答する。
「先程の内容が事実であれば…地上界は勿論…全世界の滅亡は回避出来なくなるな…」
「全世界の滅亡ですって!?」
恐る恐る霊魂巨神木の精霊に問い掛ける。
「恐らく冥王鬼は貴様から奪取した天道眼の効力で全世界の種族を滅亡させ…神族の支配する神世界を創造するであろう…」
本来天道眼は神族でも最高神に部類される神族の所有物である。最高神が天道眼を発動すると無限の森羅万象をも翻弄出来る。
「如何すれば冥王鬼を阻止出来るの?」
「最終手段だ…」
突如として精霊の左手より虹色に発光する摩訶不思議の果実が出現…。
「虹色の…果実だわ…」
精霊は桜花姫に果実を手渡したのである。
「霊魂巨神木の神聖なる果実だ…此奴は戦乱時代に元祖妖女である桃子姫が菜食した代物であるぞ…」
霊魂巨神木の果実を菜食した人間は妖力を所持出来る。
「私の神聖なる果実を菜食すれば貴様は再度…天道眼を開眼出来る…」
「えっ…天道眼を?」
桜花姫は一息するなり…。恐る恐る手渡された果実を一口菜食したのである。
「えっ?」
直後…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「如何やら貴様に天道眼が戻ったみたいだな…」
「本当に♪天道眼が戻ったの♪」
肉体に妖力が戻ったかは無感覚であったが…。桜花姫は大喜びしたのである。数秒後…。
(妖力が戻った感覚だわ…)
天道眼の開眼により妖力も戻ったと自覚出来たのである。
「余談であるが…貴様が衰弱死しなかったのは奇跡だ…」
「えっ?何が奇跡なの?」
精霊はボソッと一言…。
「基本的に私の果実を菜食した人間は…即刻衰弱死する…」
霊魂巨神木の果実は別名禁断の果実であり普通の人間が菜食した場合…。数秒間で衰弱死する。誰しもが妖力は所持出来ない。
「桃子姫と私が死ななかったのは…」
「貴様と桃子姫は運命の存在であり…最初から妖女として覚醒すべき人間であった…」
「はぁ…」
(私には何が何やら…)
桜花姫は内心珍紛漢紛だったのである。
「兎にも角にも天道眼と妖力が戻ったし♪精霊には感謝するわね♪」
すると精霊は真剣そうな表情で…。
「折角だが…貴様に対面したい人物が三人存在する…」
「えっ?私に対面?誰なの…」
精霊は自身の神通力で三人の霊体を口寄せする。桜花姫の背後より三人の半透明の人物が出現…。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る三人の霊体を直視したのである。
「えっ!?」
半透明の人物とは老衰により死去した老婆の蛇骨鬼と群青色の着物姿の女性…。若齢の若武者が佇立する。
「あんたは蛇骨鬼婆ちゃんと…母様!?若武者は誰かしら…」
「若武者は貴様の実父…夜叉丸だ…」
「若武者は私の父様?」
群青色の着物姿の女性は母親の美海姫であり若齢の若武者は父親の夜叉丸である。すると蛇骨鬼は笑顔で…。
「桜花姫ちゃん♪あんたと再会出来て何よりだよ♪」
蛇骨鬼は桜花姫と再会出来大喜びする。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
一方の桜花姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「今現在の私は自然界と一体化した存在だよ♪」
蛇骨鬼は人間の老婆としての肉体は維持出来なくなったが…。彼女の魂魄は自然界と一体化する。
「消滅したのは実体としての肉体だけだからね♪あんまり悲観しないでね…」
「私は大丈夫だけど…小猫姫が…」
小猫姫は蛇骨鬼の自然死により彼女自身のショックは想像以上である。
「小猫姫は純粋だからね…」
「彼女を元気付けたいわ…」
小猫姫を元気付けたいと発言する桜花姫に蛇骨鬼は再度笑顔で…。
「彼女なら大丈夫だよ♪」
「えっ?」
「時間が解決するさ♪」
現状では精神的ショックにより気力が消失するが時間が解決すると蛇骨鬼は思考する。
(無理に元気付けないのが無難かしら…)
すると今度は母親の美海姫が笑顔で発言したのである。
「桜花姫♪久し振りね♪」
「母様…」
桜花姫は恐る恐る…。
「御免なさい…母様…私は母様を…」
謝罪した桜花姫であるが美海姫は笑顔で返答する。
「気にしないで♪桜花姫♪」
「えっ…私は妖力で母様を殺したのよ…」
美海姫は一息すると真実を告白する。
「私の本当の死因は…食人餓鬼の毒素が原因なの…」
「えっ?食人餓鬼の…毒素?」
美海姫は夜叉丸と婚姻する三年前…。食人餓鬼に襲撃され左手を怪我したのである。外傷自体は軽傷であったが十五年後…。食人餓鬼の毒液が全身に転移したのである。
「本当の原因は悪霊の毒素なのよ…桜花姫は自分を非難しないで…」
美海姫の発言により心情の罪悪感が解消される。
「あんたは悪くないのよ…桜花姫♪」
「母様…」
今迄は美海姫を殺害した罪悪感により辛苦されたが…。美海姫との再会により長年の罪悪感から解放されたのである。すると今度は父親の夜叉丸が発言する。
「桜花姫なのか…こんなに美人だったとは…」
美人の一言に桜花姫は赤面したのである。
「私が美人なんて…父様は大袈裟ね♪」
すると夜叉丸は小声で…。
「元気そうで安心した…今迄大変だったな…桜花姫…悪かったな…」
夜叉丸は桜花姫に謝罪したのである。
「別に謝罪しなくても…案外一人でも気楽だったし♪悪霊征伐は面白かったわよ♪」
「此奴…」
(外見とは裏腹に活気だな…)
か弱そうな外見とは裏腹に活気であると感じる。
「私は一人でも幸福よ♪」
「桜花姫が幸福であれば俺は満足だ…」
(父様…)
夜叉丸の発言に桜花姫は微笑む。意外と優男であると感じる。
「父様?」
「ん?如何した?」
「父様って…冥王鬼って名前の神族に殺されたの?」
桜花姫は真剣そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「彼奴か…」
問い掛けられると夜叉丸の表情が険悪化したのである。
「想起したくないが…俺が冥王鬼に殺されたのは事実だ…」
桜花姫はハッとする。
「父様が冥王鬼に殺されたのは本当だったのね…」
「冥王鬼か…」
蛇骨鬼は真剣そうな表情でボソッと発言する。すると美海姫がハッとした表情で反応したのである。
「えっ!?冥王鬼?神族ですって…夜叉丸様は悪霊に殺されたのでは!?」
当時は誰もが悪霊によって殺されたと認識する。
「当時の俺は悪霊を征伐しに出掛けたが…悪霊は木刀を所持した女人によって退治されたのだが…」
「木刀を所持した女人が冥王鬼だったのね…」
「嗚呼…」
「如何して冥王鬼って神族の一員が夜叉丸様を殺害されたのです?」
美海姫は恐る恐る夜叉丸に問い掛ける。
「恐らく肩慣らしだろうな…」
「冥王鬼は…」
今度は蛇骨鬼が発言する。
「彼奴は姿形こそ小柄の小娘だが…人間なんて瞬殺されるだろう…」
桜花姫は精霊を直視するなり…。
「彼奴の木刀は霊魂巨神木の小枝で形作られた代物だったわよね?」
「勿論だ…冥王鬼の木刀は私の肉体の一部から形作られた刀剣だ…鋼鉄の刀剣だって簡単に屈折させられるし妖術だって無力化出来る…」
(冥王鬼の木刀は厄介ね…私の妖術も無力化されるし…)
「冥王鬼に対抗するには如何すれば?」
桜花姫の問い掛けに精霊は即答する。
「天道眼と木刀を所持する冥王鬼に対抗するには…天道眼と霊斬刀が必要だな…」
「霊斬刀ですって?」
霊斬刀に夜叉丸が反応したのである。
「霊斬刀とは夜桜崇徳丸が所持した伝説の刀剣だな…牢固石の…」
「勿論…」
「霊斬刀は三蔵郎様が…」
「三蔵郎だと?一体誰だ?」
すると蛇骨鬼が笑顔で返答する。
「三蔵郎は桜花姫ちゃんの理解者だよ♪助平だけど僧侶だからね♪」
「助平って…」
桜花姫は苦笑いしたのである。
「人一倍内気だった桜花姫にも理解者がね♪三蔵郎様には感謝しないと…」
「こんな俗界にも聖者が存在するとは…」
美海姫も夜叉丸も一安心する。精霊は再度発言したのである。
「兎にも角にも今現在の冥王鬼は最高神に匹敵する存在だ…冥王鬼に対抗出来るのは桜花姫だけだからな…」
天道眼を開眼した冥王鬼は最早最高神に匹敵する存在へと進化…。最早彼女に対抗出来るのは天道眼を所持する桜花姫以外には存在しない。直後…。
「えっ?三人の肉体が…」
半透明だった三人の肉体が消滅し始める。
「如何やら時間みたいだね…」
蛇骨鬼は桜花姫を直視するなり…。
「桜花姫ちゃんよ…彼女を…冥王鬼を復讐から解放してね…」
「えっ?蛇骨鬼婆ちゃん?」
蛇骨鬼と冥王鬼は太古の大昔は悪友の関係だったのである。
「彼奴は神族だが…精神的には非常に未熟だからね♪」
正直冥王鬼の存在は気に入らなかったが…。
「努力するよ♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
笑顔で返答したのである。
「大変かも知れないけど小猫姫と仲良く支え合いな♪間違っても口寄せの妖術なんかで自然界の一部である私を復活させないでね…」
「えっ…」
桜花姫は一瞬困惑するものの…。蛇骨鬼の希望を尊重したのである。
「約束するよ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると今度は美海姫が発言する。
「桜花姫…達者でね♪私は何時迄も貴女を見守るから♪」
「母様…」
桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。今度は夜叉丸が発言する。
「桜花姫よ…今後も大変だろうが桜花姫は桜花姫らしく自由に生きろ…」
一息するなり…。
「冥王鬼なんかに殺されるな…精一杯頑張れよ…」
「父様…勿論よ♪」
数秒間が経過すると三人の肉体は完全に消滅したのである。
「はぁ…」
(三人には二度と再会出来ないのね…)
内心切なくなる。
「冥王鬼との戦闘は今迄とは比較出来ない大激戦だろう…最悪全世界の滅亡も否定出来ない…」
「私が彼奴を征伐するわよ…相手が神族だからって手加減しないから…」
桜花姫は断言する。
「であれば一安心だ…」
数秒後…。今度は精霊の肉体が消滅し始める。
「えっ?あんたの肉体が…」
「如何やら私も時間みたいだ…」
精霊は最後に…。
「最上級妖女の月影桜花姫よ…冥王鬼から全世界を救済しろ…最上級妖女の貴様なら…」
精霊の肉体は完全消滅したのである。
(全世界を救済なんて…)
「私に出来るかしら?」
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:52 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
第五話
地獄
魍魎姫と無数の分裂体との戦闘から二週間が経過…。桜花姫は自宅の居間でゴロゴロと寝転ぶ。
(蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫かな?)
蛇骨鬼の様子が気になったのである。蛇骨鬼は小猫姫により介抱されるも老衰からか体調は日に日に悪化…。虫の息だったのである。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
日に日に衰弱化し続ける蛇骨鬼が気になり食欲も減退…。極度の不安と憂鬱からか大好きな桜餅も食べたくなくなる。
「はぁ…」
気分転換に別の場所に移動したくなる。桜花姫は西国の海辺に移動したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫かな?」
遠方の水平線を眺望するのだが如何しても蛇骨鬼の様子が気になる。すると直後…。
「えっ?」
突如として何者かの気配を感じる。
(気配だわ…人間では無さそうね…)
恐る恐る背後を直視する。
「あんた…一体何者?」
桜花姫の背後には藍色の着物姿の女性が佇立…。体格は小柄であり左手には木刀を所持する。
(花魁かしら?外見だけだったら普通の人間っぽいけれど…)
両目は半透明の群青色であり神秘性を感じさせる。
(妖女でも無さそうだわ…)
彼女の雰囲気は非常に神秘的であり妖女とも別物である。すると女性は無表情で桜花姫を直視するなり…。
「貴様…最上級妖女の月影桜花姫だな…」
「えっ!?如何して見ず知らずのあんたが私の名前を…」
彼女とは初対面であるが桜花姫の名前を熟知する花魁らしき女性に驚愕したのである。
「あんたは一体何者なの!?」
「私は冥王鬼…神族の一員だ…」
問い掛けられた女性は自身を神族の一員…。冥王鬼であると名乗る。
「えっ!?あんたは神族の一員ですって!?」
神族の一言に桜花姫は驚愕する。
(蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は全滅したって…)
「不思議そうだな…妖女の小娘よ…私は正真正銘神族だぞ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は…大昔に全員殺されたって…」
「貴様の反応…彼奴と一緒だな…」
「彼奴って?誰なのよ?」
数秒後…。
「月影夜叉丸と名乗る…人間の武士だよ…」
「えっ…月影夜叉丸って…」
(父様の名前!?)
父親の夜叉丸の名前を熟知する冥王鬼に再度驚愕したのである。
「如何して見ず知らずのあんたが私の父様の名前を?」
桜花姫は恐る恐る冥王鬼に問い掛ける。
「貴様の父親…月影夜叉丸を殺害したのは誰であろう私だからな…」
「えっ…あんたが…私の父様を?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「私を憎悪するか?月影桜花姫よ…」
「別に…」
「はっ?」
桜花姫の反応に冥王鬼は不思議に感じる。
「貴様…身内が殺されて憎悪しないとは…」
「今更父様を殺したって発言されても…私は生前の父様を知らないし…」
実際問題夜叉丸が殺害されたのは桜花姫の出産日前日である。
「貴様は相当の奇人だな…」
「奇人だから何よ♪」
奇人と発言されても桜花姫は平気だったのかニコッと微笑む。
「あんたは神族みたいだけど…伝承では神族は全滅したって…」
今現在では神族の存在は伝説であり彼等に対する認識も架空の神話程度の認識だったのである。
「今現在では間違った認識が各地に出回ったのだな…」
「如何して神族の一員であるあんたが今更こんな場所に?」
桜花姫の質問に冥王鬼は即答する。
「貴様の天道眼を…入手したいからな…」
「えっ?天道眼?」
桜花姫は理解出来なかったのか混乱したのである。
「貴様の天道眼を入手出来れば…私の主目的である人間達を殲滅出来…神世界の再興が実現するからな…」
太古の大昔に神族は人間達との大戦に敗北…。冥王鬼は大勢の同胞達が殺され人間達を憎悪したのである。
「人間達に対する復讐であり…神世界を再興させる絶好の機会なのだ…」
「人間達の殲滅に…私の天道眼が必要なの?」
「勿論だ…天道眼は想像を実現させる効力が発揮出来るからな…」
「えっ!?」
(想像を実現ですって…)
天道眼は万能の瞳術であり術者の想像を現実世界で実現させる効力を発揮出来る。今迄桜花姫が多種多様の妖術を使用出来たのは彼女の想像が実現した結果である。
「貴様の天道眼を頂戴する…」
すると桜花姫はギロッと冥王鬼を睥睨する。
「天道眼を頂戴ですって?」
「私を妖術で仕留めるか?」
冥王鬼の発言に苛立ったのか天道眼を発動したのである。
「当然でしょう…」
「天道眼か…」
血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
「あんたは桜餅に変化しなさい!」
冥王鬼に変化の妖術を発動したのである。
「ん?」
変化の妖術を発動するのだが…。冥王鬼は桜餅に変化しない。
「えっ!?如何して冥王鬼は桜餅に変化しないの!?」
桜花姫は動揺したのである。
「貴様程度の妖術なんて私には通用しない…何故なら…」
桜花姫に木刀を誇示する。
「木刀?」
「私の木刀は木刀でも…其処等の木刀とは格別だぞ!此奴は霊魂巨神木の小枝から彫刻された神器である…」
「霊魂巨神木ですって!?」
桜花姫は驚愕したのである。冥王鬼の所持する木刀は霊魂巨神木の小枝から誕生した神器であり妖術を無力化…。妖力を吸収出来る。
「私の神聖なる木刀には貴様程度の妖術は通用しない…今度は私が貴様に反撃するぞ…」
冥王鬼は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近…。
「えっ?」
彼女の腹部を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
冥王鬼の所持する木刀は鋼鉄の刀剣に匹敵する強度…。相手を斬殺するのも可能である。腹部を斬撃された桜花姫は腹部から出血…。
「ぐっ…」
(迂闊だったわ…)
バタッと地面に横たわる。
「何が最上級妖女だ…所詮貴様は妖術を無力化すれば其処等のか弱き小娘同然なのだ…」
冥王鬼は桜花姫の右手に接触したのである。
「今度こそ貴様の天道眼を頂戴するぞ…」
直後…。桜花姫は身動き出来なくなる。
「えっ…」
(一体何が!?身動き出来ないわ!)
数秒後…。
「はっ!?」
身動き出来たのである。すると冥王鬼は微笑した表情で…。
「貴様から天道眼を頂戴した…」
冥王鬼の発言に桜花姫は愕然とする。
「えっ!?私の天道眼を!?」
「今現在の貴様は天道眼を使用出来ない…」
天道眼を奪取された桜花姫は多種多様の妖術を使用出来ず…。最早戦闘は不可能である。
「天道眼を…」
天道眼の発動を試行するが天道眼は発動されない。
(えっ…私…)
冥王鬼は険悪化した表情で…。
「貴様の肉体から数百体?数千体もの薄汚い亡者達の気配を感じる…貴様はか弱き小町娘とは裏腹に薄汚い亡者の集合体か…」
「なっ!?私を亡者の集合体ですって…」
桜花姫はギロッと冥王鬼を睥睨したのである。
「貴様みたいな薄汚い亡者の集合体なんかに神聖なる天道眼は宝の持ち腐れだ…」
本来なら冥王鬼に変化の妖術を発動したいが天道眼を使用出来ない状態ではあらゆる妖術を使用出来ない。
「天道眼とは本来は神族の眼光なのだ…」
「神族の眼光?」
神族の神世界では天道眼は別名神族の眼光と呼称される。
「神族の眼光は純血の神族である私にこそ相応しい…」
「如何して私に天道眼が…」
桜花姫の疑問に冥王鬼は即答する。
「小娘の分際である貴様が神聖なる天道眼を開眼出来たのは霊魂巨神木が関係する…」
霊魂巨神木は本来神族の鮮血を吸収した樹木である。千年前の戦乱時代に西国の桃子姫が霊魂巨神木の果実を採食…。神族の眼球である天道眼を開眼したのである。
「皮肉にも貴様は桃子姫と名乗る妖女の再来だ…であるからこそ神族の眼光を使用出来ただけだ…」
桜花姫は恐る恐る…。
「金輪際…私は妖術を使用出来ないの?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「当然だ…今迄桜花姫があらゆる妖術を使用出来たのは神聖なる天道眼の効力なのだよ!神族の眼光を使用出来なくなった貴様は金輪際何一つとして妖術を使用出来ない…本日より貴様は最上級妖女から下級妖女へと降格したのだ…」
「此奴…」
桜花姫は腹立たしくなる。直後…。斬撃された腹部の傷口が自然に治癒されたのである。
(私なら大丈夫…妖術が使用出来なくても…)
彼女は幼少期に天道眼を開眼する以前から妖力のみは通常の妖女の数十倍を所持…。妖力のみなら莫大だったのである。桜花姫は体内の妖力により自力で傷口を再生させる。
「妖術が使用出来ずとも…肉体が本能的に外傷を自然治癒するとは…」
(悪運だけは人一倍だな…)
すると半透明の群青色だった冥王鬼の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
「えっ!?天道眼だわ…」
冥王鬼は天道眼を発動したのである。
「神族の眼光だ…貴様は死後の世界…地獄に直行するのが相応しい…」
直後…。桜花姫は冥王鬼の発動した口寄せの妖術によって死後の世界である地獄へと連行されたのである。
(神族の眼光を無くした小娘は二度と俗界へは戻れなくなる…地獄で無限の苦痛を痛感せよ…)
冥王鬼の口寄せの妖術により強制的に地獄へと連行された桜花姫は気絶した状態で地面に横たわる。連行されてより数分後…。
(えっ?何かしら…)
目覚めた直後…。桜花姫は周辺の光景を直視するとハッとしたのである。
「えっ!?一体何が!?」
周辺を眺望すると地上全体が灼熱の火山地帯であり森林やら海水は何一つ確認出来ない。
「ひょっとして本物の地獄…」
(私…死んじゃったのかしら?)
生死は不明瞭であるが…。天道眼を使用出来ず極度の恐怖心により身震いする。
(私…今迄…)
今迄は天道眼の乱用により天下無敵の気分であったが…。天道眼を無くした今現在では自分自身の無力さに絶望する。
(一体如何すれば…)
すると周囲より…。
「えっ!?」
周囲をキョロキョロさせると自身の周囲には数体の食人餓鬼が出現したのである。
「彼等は食人餓鬼!?」
天道眼を発動出来れば大喜びであるが…。何一つとして妖術を使用出来ない無力の状態では食人餓鬼すらも脅威に感じる。
「止むを得ないわね…」
(逃げないと悪霊に食い殺されちゃうわ…)
桜花姫は落涙するなり…。一目散に逃走したのである。
「岩陰だわ…」
四町の距離より岩陰を発見した桜花姫は岩陰にて潜伏する。
「はぁ…はぁ…」
(今後は如何しましょう…)
一休みした桜花姫だが今後は如何するべきか苦悩したのである。一息した直後…。周囲の地中より気配を感じる。
(えっ…気配だわ…)
「霊力?」
彼女の感じる気配とは霊力であり食人餓鬼よりも強大である。数秒後…。地面より無数の食人餓鬼が一体化した百鬼食人餓鬼が五体も出現したのである。
「百鬼食人餓鬼!?」
百鬼食人餓鬼の出現に桜花姫は恐怖を感じる。実質天道眼を所持しない状態では通常の食人餓鬼すら仕留められず…。親玉である百鬼食人餓鬼を仕留めるのは確実に不可能である。
(天道眼が無くなった状態では百鬼食人餓鬼を仕留めるのは不可能だわ…)
「如何しましょう…」
桜花姫はビクビクした様子で後退りする。最期を覚悟した直後…。突如として右腕がモゴモゴッと蠢動したのである。
「えっ…私の右腕が…」
モゴモゴッと蠢動する右腕に気味悪くなる。数秒後である。桜花姫の右腕から無数の真蛸らしき触手が出現…。五体の百鬼食人餓鬼を拘束したのである。
「げっ!触手!?」
(ひょっとして魍魎姫の…)
右腕から出現した触手は魍魎姫の肉体の一部であり桜花姫は一週間前に彼女との戦闘で肉体を同化…。皮肉にも魍魎姫の肉体を吸収した影響で本能的に彼女の特殊能力が発動したのである。桜花姫は不本意であるが触手で拘束した五体の百鬼食人餓鬼の肉体を覆い包み…。自身の体内に吸収したのである。
「はぁ…魍魎姫みたいで気味悪いわ…」
自分の意思で悪霊を吸収するがドン引きする。
(天道眼を使用出来ないのであれば止むを得ないわね…)
覚悟した桜花姫は再度行動を開始したのである。行動を再開してより五分後…。今度は全身に鎧兜を装備した巨体の人骨が出現したのである。
(甲冑の人骨…)
「此奴は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…」
骸骨荒武者は戦乱時代に戦死した戦死者達の無念の集合体であり左手には金砕棒を所持する。
「相手が誰であろうと…」
体内から触手を生成させる直前…。骸骨荒武者は背後から何者かの攻撃によりバラバラに粉砕される。
「えっ!?一体何が!?」
桜花姫の目前には右手に雷光の刀剣を所持した小柄の武士が佇立する。鬼神を連想される甲冑を装備…。桜花姫を凝視したのである。
「こんな場所に貴様みたいなか弱き小娘が落下するとは…不運だな…」
「はっ?何が不運なのよ?」
「貴様…か弱き外見とは裏腹に相当の大悪人みたいだな…」
「なっ!?」
武士の大悪人の一言に反応したのか桜花姫はピリピリする。
(此奴…)
「地上界の女神様である私を大悪人ですって!?」
桜花姫は睥睨した表情で武士に怒号したのである。
「あんた…私に殺されたいのかしら?」
武士は無表情で返答する。
「俺は二度も殺された極悪非道の荒武者だぜ…」
「二度も殺されたって?」
(此奴…悪霊なのは確実だけど…其処等の悪霊とは随分異質的だわ…人間っぽいわね…)
桜花姫は恐る恐る亡者の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?名前は?」
すると武士は即座に名前を名乗る。
「俺は…北国最強の鬼神…鬼殺丸だ…」
「えっ!?鬼殺丸ですって!?」
鬼殺丸の名前に桜花姫は驚愕したのである。
(鬼殺丸って…)
「戦乱時代に活躍した北国の武士だったわよね?」
鬼殺丸とは戦乱時代に活躍した武士の一人…。北国出身者である。今現在では史上最悪の大悪党として大勢の大衆から嫌悪される。
「勿論だ…」
「歴史学では…生前のあんたは極悪非道の大悪党だって…」
「俺が大悪党か…」
大衆からは極悪非道の大悪党として扱われる鬼殺丸であるが…。彼自身は特段気にならなかったのである。
「俺は兎にも角にも誰かを打っ殺したいからな…俗界の愚民達が俺を悪人だの極悪非道だの扱おうが構わん…悪党で上等だ…」
(此奴は相当の異端者だわ…地獄でこんな大悪党と遭遇するなんて私は不運なのかも知れないわね…)
正直鬼殺丸との遭遇に面倒臭く感じる。すると鬼殺丸は桜花姫にボソッと発言する。
「貴様…二度目に俺を打っ殺した天女の小娘に瓜二つだな…」
桜花姫は天女の一言に反応したのである。
(えっ?)
「天女の小娘?誰なのかしら…」
鬼殺丸は険悪化した表情で…。
「桃子姫って…名前の天女の小娘だったか?貴様は雰囲気だけなら天女の彼奴にそっくりだ…」
(桃子姫って…元祖妖女の…)
桃子姫の名前を傾聴するなり桜花姫は内心大喜びする。
(最初は吃驚しちゃったけど…私の前世が元祖妖女なのは正直意外だったわ♪)
「当然として貴様と桃子姫では性格は似ても似つかないか…」
鬼殺丸の発言に桜花姫はピクッと反応したのである。
「えっ?」
「貴様は好戦的で強欲そうな雰囲気…正真正銘のじゃじゃ馬だな…」
「なっ!?」
(此奴…腹立たしいわね…)
鬼殺丸の失言にピリピリする。
「地上界の女神様である私にじゃじゃ馬ですって…」
変化の妖術を使用出来るのであれば即刻駆使したいが…。
(妖術さえ使用出来れば…こんな悪霊なんて簡単に…)
彼女にとって最大の十八番である天道眼が使用出来ないので変化の妖術も使用出来ず桜花姫は余計に苛立ったのである。
「貴様みたいなじゃじゃ馬の小娘が地上界の女神様を自称するとは…片腹痛いぜ…」
自身を地上界の女神様と自称する桜花姫を揶揄する。
「ぐっ…」
(此奴…今度食い殺すから覚悟しなさいよ…)
苛立った桜花姫であるが…。一息したのである。
「鬼殺丸?」
桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「私って…死んじゃったの?」
桜花姫の問い掛けに鬼殺丸は即答する。
「貴様の肉体は…生者の肉体だ…」
「えっ!?生者の肉体ですって…」
「今現在の貴様は仮死状態だ…」
(無事なのね♪)
桜花姫はホッとしたのである。
「であれば私は俗界に戻れるのね♪」
希望が芽生える。
「即刻地獄から脱出しないと…」
「俗界に戻りたければ…地獄の石門に移動するのだな…」
「地獄の石門ですって?」
地獄の石門とは俗界と黄泉の国との境目であり死者は通過出来ないが仮死状態…。生者であれば通過出来る。
「地獄の石門に移動すれば私は俗界に戻れるのね♪早速地獄の石門に移動しましょう♪」
桜花姫はルンルンの気分であるが…。
「地獄の石門を突破するには…朧戦車って門番の悪霊を仕留めなければ地獄の石門を通過出来ないぞ…」
「えっ…朧戦車って…」
朧戦車とは悪霊の一体であり俗界では最上級の悪霊として認識される。其処等の悪霊とは別格であり天道眼を所持しない状態では確実に苦戦…。場合によっては敗死する可能性も否定出来ない。
(朧戦車って…悪霊は悪霊でも最強の悪霊だったわよね…妖術を駆使出来ない私に朧戦車を攻略出来るかしら?)
非常に不安がる。恐る恐る鬼殺丸を直視するなり…。
(正直此奴も今一信用出来ないのよね…)
すると鬼殺丸はギロッと睥睨する。
「貴様…俺を信用出来ないか?」
「げっ!」
鬼殺丸が問い掛けると桜花姫はビクッと反応したのである。
「図星か…」
桜花姫はボソッと一言…。
「あんたは極悪非道の悪人だし…正直…」
「別に俺を信用せずとも構わんが…門番の朧戦車を仕留めなければ貴様は二度と俗界へは戻れなくなるぞ…」
「仕方ないわね…」
桜花姫は地獄の石門を目標に行動を開始する。移動してより三十分後…。周囲より無数の殺気を察知したのである。
「殺気だわ…」
(ひょっとして霊力…)
桜花姫はソワソワした様子で周囲を警戒する。数秒間が経過すると周囲の地面より数十体…。数百体もの食人餓鬼が出現したのである。
(食人餓鬼かしら?)
無数の食人餓鬼が桜花姫に殺到する。
「毎回…毎回鬱陶しい奴等ね…」
(食人餓鬼程度なら…)
桜花姫は両腕から無数の触手を生成…。殺到する無数の食人餓鬼を拘束したのである。
「頂戴するわね♪」
拘束した食人餓鬼の全身を覆い包み…。自身の体内へと吸収したのである。
「案外魍魎姫の特殊能力も役立つわね♪」
便利であると感じる。数分後…。石造りの四十尺サイズの城門らしき巨大物体を発見する。
(石造りの城門?)
「ひょっとして地獄の石門かしら…」
発見した城門らしき物体は地獄の石門である。
「此奴を通過出来れば私は地獄から脱出出来るのね♪」
(案外楽勝だわ…)
楽勝であると感じるも…。背後から強大なる霊力を感じる。
「えっ…霊力?」
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「此奴…ひょっとして…」
桜花姫の背後には鬼首と牛車が一体化した悪霊が出現…。ギロッとした表情で桜花姫を睥睨する。
「此奴は朧戦車だわ…」
朧戦車とは戦乱時代に斬首された武将達の無念の集合体であり最上級の悪霊である。
(如何やら朧戦車が出現するのは本当だったのね…)
以前出現した朧戦車は口寄せの妖術によって異世界に存在する巨大兵器を使用…。辛勝するも今回は天道眼が使用出来ず自力で朧戦車を仕留めるのは確実に不可能である。すると朧戦車の鬼首が人語で発語し始める。
「コムスメ…キサマハセイジャカ?イキテイルニンゲンガジゴクニオチルトハ…キサマハカヨワイコムスメノブンザイデアリナガラ…マレニミルソウトウノワルダナ…」
「此奴…」
朧戦車の発言に桜花姫はプルプルする。
「マアイイ…キサマハコノママイキテカエレルトハオモウナヨ!ココデキサマヲブッコロシテヤルゼ!」
朧戦車は鬼首の口部を開口するなり…。
「クライヤガレ!」
口先から霊力で形作った高熱の火球を発射したのである。
「一か八か!」
高熱の火球が直撃する直前…。桜花姫は両手から触手を生成させ高熱の火球を吸収したのである。
(魍魎姫の触手って…霊力も吸収出来るのね♪)
魍魎姫の吸収力は妖力と神通力は勿論…。霊力さえも無力化出来る。
(天道眼が無くても突破出来るかも知れないわ!)
すると朧戦車は再度口先を開口させる。
「オレノコウゲキヲムリョクカシタカ…」
口先より鋼鉄の大砲が出現したのである。
「えっ!?大砲!?」
「コイツハオクノテダ…タイホウデキサマヲフットバシテヤルゼ!カクゴシヤガレ!」
数秒後…。大砲から鋼鉄の砲弾が発射される。
(今度こそ一か八か…)
触手で肉塊の防壁を生成するのだが…。
「きゃっ!」
肉塊の防壁は破壊され桜花姫は吹っ飛ばされたのである。
「ぐっ…」
桜花姫は地面に横たわる。彼女は恐る恐る自身の両腕を直視…。
「えっ…」
桜花姫の両腕は朧戦車の砲撃により吹っ飛ばされ地面には大量の鮮血が流れ出る。
(迂闊だったわ…両腕が…)
先程の攻撃は実弾による攻撃であり魍魎姫の吸収能力も発揮されなかったのである。
「コンドコソトドメダ!コノママキサマヲヒキコロシテヤル!」
朧戦車は猛スピードで横たわった状態の桜花姫に急接近…。桜花姫は逃げたいが両腕が切断され逃げたくても逃げられない。
(俗界に戻れないわ…)
覚悟した直後…。
「ナンダト!?」
突如として朧戦車が爆散したのである。
「えっ!?」
突然の出来事に桜花姫はハッとする。
「一体何が…」
すると桜花姫の背後より…。
「こんな雑魚を相手に瀕死とは…」
「あんたは…鬼殺丸!?」
桜花姫の背後に出現したのは先程遭遇した鬼殺丸であり左手には携帯式の榴弾砲を装備する。
「如何して生者である私を…」
鬼殺丸はギロッと桜花姫を睥睨…。
「こんな場所で貴様に死なれちまうと面倒だからな…恐らく貴様の死後は地獄で確定だろうし…」
彼にとって地獄とは最高の楽園であり桜花姫が地獄に滞留するのは非常に不都合だったのである。
「私…今度こそ俗界に戻れるのね♪」
桜花姫は大喜びする。
「感謝するわね♪鬼殺丸♪私…あんたを誤解しちゃったみたい♪」
「貴様は鬱陶しい小娘だ…」
すると桜花姫はニコッとした表情で…。
「天道眼を無事奪還したら…あんたを生者として復活させるわね♪」
「残念だが俺は二度と俗界へは戻りたくないな…人間の肉体は脆弱で不自由だ…」
鬼殺丸にとっては今現在の悪霊の肉体で大満足であり人間として復活したくなかったのである。
「何よりも地獄は悪霊の魔窟だ…地獄であれば思う存分悪霊を仕留められるからな…」
すると桜花姫はニヤッと微笑む。
(私も旅立つなら天国なんかよりも地獄に旅立ちたいわね♪)
直後…。地獄の石門が開放されたのである。
「如何やら時間だ…」
「石門が開放されたわ…」
「生者である貴様に反応したみたいだ…」
桜花姫は笑顔で…。
「達者でね♪鬼殺丸♪」
すると鬼殺丸は問い掛ける。
「貴様…名前は?」
「えっ…」
桜花姫は一瞬表情が赤面するも…。笑顔で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」
「月影桜花姫か…」
鬼殺丸はボソッと発言する。
「桜花姫が戦乱時代の人間で俺と遭遇しちまったら…俺の人生は大分変化したのかも知れないな…」
「勿論私も一緒よ♪」
(私と桃子姫…誕生した時代を間違えちゃったみたいね…)
桜花姫は内心戦乱時代に羨望したのである。
「兎にも角にも貴様の居場所は俗界だろ?即刻俗界に戻りやがれ…正直目障りだ…」
「勿論よ♪」
桜花姫は恐る恐る地獄の石門を通過…。背後を直視すると地獄の石門が自動的に閉門される。
(地獄へは戻れなくなったのね…)
僅少であるが…。内心寂然に感じる。
「俗界に戻らないと三蔵郎様が心配するわよね…」
周辺を直視すると視界全体が暗闇の空間であり非常に不吉である。
(私…俗界に戻れるのかしら?)
不安に感じる。すると数秒後…。
「えっ…」
突如として強烈なる眠気を感じる。
(眠気だわ…)
突然の眠気により桜花姫はパタッと地面に横たわり…。極度の疲労からか衰弱化したのである。
地獄
魍魎姫と無数の分裂体との戦闘から二週間が経過…。桜花姫は自宅の居間でゴロゴロと寝転ぶ。
(蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫かな?)
蛇骨鬼の様子が気になったのである。蛇骨鬼は小猫姫により介抱されるも老衰からか体調は日に日に悪化…。虫の息だったのである。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
日に日に衰弱化し続ける蛇骨鬼が気になり食欲も減退…。極度の不安と憂鬱からか大好きな桜餅も食べたくなくなる。
「はぁ…」
気分転換に別の場所に移動したくなる。桜花姫は西国の海辺に移動したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫かな?」
遠方の水平線を眺望するのだが如何しても蛇骨鬼の様子が気になる。すると直後…。
「えっ?」
突如として何者かの気配を感じる。
(気配だわ…人間では無さそうね…)
恐る恐る背後を直視する。
「あんた…一体何者?」
桜花姫の背後には藍色の着物姿の女性が佇立…。体格は小柄であり左手には木刀を所持する。
(花魁かしら?外見だけだったら普通の人間っぽいけれど…)
両目は半透明の群青色であり神秘性を感じさせる。
(妖女でも無さそうだわ…)
彼女の雰囲気は非常に神秘的であり妖女とも別物である。すると女性は無表情で桜花姫を直視するなり…。
「貴様…最上級妖女の月影桜花姫だな…」
「えっ!?如何して見ず知らずのあんたが私の名前を…」
彼女とは初対面であるが桜花姫の名前を熟知する花魁らしき女性に驚愕したのである。
「あんたは一体何者なの!?」
「私は冥王鬼…神族の一員だ…」
問い掛けられた女性は自身を神族の一員…。冥王鬼であると名乗る。
「えっ!?あんたは神族の一員ですって!?」
神族の一言に桜花姫は驚愕する。
(蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は全滅したって…)
「不思議そうだな…妖女の小娘よ…私は正真正銘神族だぞ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は…大昔に全員殺されたって…」
「貴様の反応…彼奴と一緒だな…」
「彼奴って?誰なのよ?」
数秒後…。
「月影夜叉丸と名乗る…人間の武士だよ…」
「えっ…月影夜叉丸って…」
(父様の名前!?)
父親の夜叉丸の名前を熟知する冥王鬼に再度驚愕したのである。
「如何して見ず知らずのあんたが私の父様の名前を?」
桜花姫は恐る恐る冥王鬼に問い掛ける。
「貴様の父親…月影夜叉丸を殺害したのは誰であろう私だからな…」
「えっ…あんたが…私の父様を?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「私を憎悪するか?月影桜花姫よ…」
「別に…」
「はっ?」
桜花姫の反応に冥王鬼は不思議に感じる。
「貴様…身内が殺されて憎悪しないとは…」
「今更父様を殺したって発言されても…私は生前の父様を知らないし…」
実際問題夜叉丸が殺害されたのは桜花姫の出産日前日である。
「貴様は相当の奇人だな…」
「奇人だから何よ♪」
奇人と発言されても桜花姫は平気だったのかニコッと微笑む。
「あんたは神族みたいだけど…伝承では神族は全滅したって…」
今現在では神族の存在は伝説であり彼等に対する認識も架空の神話程度の認識だったのである。
「今現在では間違った認識が各地に出回ったのだな…」
「如何して神族の一員であるあんたが今更こんな場所に?」
桜花姫の質問に冥王鬼は即答する。
「貴様の天道眼を…入手したいからな…」
「えっ?天道眼?」
桜花姫は理解出来なかったのか混乱したのである。
「貴様の天道眼を入手出来れば…私の主目的である人間達を殲滅出来…神世界の再興が実現するからな…」
太古の大昔に神族は人間達との大戦に敗北…。冥王鬼は大勢の同胞達が殺され人間達を憎悪したのである。
「人間達に対する復讐であり…神世界を再興させる絶好の機会なのだ…」
「人間達の殲滅に…私の天道眼が必要なの?」
「勿論だ…天道眼は想像を実現させる効力が発揮出来るからな…」
「えっ!?」
(想像を実現ですって…)
天道眼は万能の瞳術であり術者の想像を現実世界で実現させる効力を発揮出来る。今迄桜花姫が多種多様の妖術を使用出来たのは彼女の想像が実現した結果である。
「貴様の天道眼を頂戴する…」
すると桜花姫はギロッと冥王鬼を睥睨する。
「天道眼を頂戴ですって?」
「私を妖術で仕留めるか?」
冥王鬼の発言に苛立ったのか天道眼を発動したのである。
「当然でしょう…」
「天道眼か…」
血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
「あんたは桜餅に変化しなさい!」
冥王鬼に変化の妖術を発動したのである。
「ん?」
変化の妖術を発動するのだが…。冥王鬼は桜餅に変化しない。
「えっ!?如何して冥王鬼は桜餅に変化しないの!?」
桜花姫は動揺したのである。
「貴様程度の妖術なんて私には通用しない…何故なら…」
桜花姫に木刀を誇示する。
「木刀?」
「私の木刀は木刀でも…其処等の木刀とは格別だぞ!此奴は霊魂巨神木の小枝から彫刻された神器である…」
「霊魂巨神木ですって!?」
桜花姫は驚愕したのである。冥王鬼の所持する木刀は霊魂巨神木の小枝から誕生した神器であり妖術を無力化…。妖力を吸収出来る。
「私の神聖なる木刀には貴様程度の妖術は通用しない…今度は私が貴様に反撃するぞ…」
冥王鬼は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近…。
「えっ?」
彼女の腹部を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
冥王鬼の所持する木刀は鋼鉄の刀剣に匹敵する強度…。相手を斬殺するのも可能である。腹部を斬撃された桜花姫は腹部から出血…。
「ぐっ…」
(迂闊だったわ…)
バタッと地面に横たわる。
「何が最上級妖女だ…所詮貴様は妖術を無力化すれば其処等のか弱き小娘同然なのだ…」
冥王鬼は桜花姫の右手に接触したのである。
「今度こそ貴様の天道眼を頂戴するぞ…」
直後…。桜花姫は身動き出来なくなる。
「えっ…」
(一体何が!?身動き出来ないわ!)
数秒後…。
「はっ!?」
身動き出来たのである。すると冥王鬼は微笑した表情で…。
「貴様から天道眼を頂戴した…」
冥王鬼の発言に桜花姫は愕然とする。
「えっ!?私の天道眼を!?」
「今現在の貴様は天道眼を使用出来ない…」
天道眼を奪取された桜花姫は多種多様の妖術を使用出来ず…。最早戦闘は不可能である。
「天道眼を…」
天道眼の発動を試行するが天道眼は発動されない。
(えっ…私…)
冥王鬼は険悪化した表情で…。
「貴様の肉体から数百体?数千体もの薄汚い亡者達の気配を感じる…貴様はか弱き小町娘とは裏腹に薄汚い亡者の集合体か…」
「なっ!?私を亡者の集合体ですって…」
桜花姫はギロッと冥王鬼を睥睨したのである。
「貴様みたいな薄汚い亡者の集合体なんかに神聖なる天道眼は宝の持ち腐れだ…」
本来なら冥王鬼に変化の妖術を発動したいが天道眼を使用出来ない状態ではあらゆる妖術を使用出来ない。
「天道眼とは本来は神族の眼光なのだ…」
「神族の眼光?」
神族の神世界では天道眼は別名神族の眼光と呼称される。
「神族の眼光は純血の神族である私にこそ相応しい…」
「如何して私に天道眼が…」
桜花姫の疑問に冥王鬼は即答する。
「小娘の分際である貴様が神聖なる天道眼を開眼出来たのは霊魂巨神木が関係する…」
霊魂巨神木は本来神族の鮮血を吸収した樹木である。千年前の戦乱時代に西国の桃子姫が霊魂巨神木の果実を採食…。神族の眼球である天道眼を開眼したのである。
「皮肉にも貴様は桃子姫と名乗る妖女の再来だ…であるからこそ神族の眼光を使用出来ただけだ…」
桜花姫は恐る恐る…。
「金輪際…私は妖術を使用出来ないの?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「当然だ…今迄桜花姫があらゆる妖術を使用出来たのは神聖なる天道眼の効力なのだよ!神族の眼光を使用出来なくなった貴様は金輪際何一つとして妖術を使用出来ない…本日より貴様は最上級妖女から下級妖女へと降格したのだ…」
「此奴…」
桜花姫は腹立たしくなる。直後…。斬撃された腹部の傷口が自然に治癒されたのである。
(私なら大丈夫…妖術が使用出来なくても…)
彼女は幼少期に天道眼を開眼する以前から妖力のみは通常の妖女の数十倍を所持…。妖力のみなら莫大だったのである。桜花姫は体内の妖力により自力で傷口を再生させる。
「妖術が使用出来ずとも…肉体が本能的に外傷を自然治癒するとは…」
(悪運だけは人一倍だな…)
すると半透明の群青色だった冥王鬼の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
「えっ!?天道眼だわ…」
冥王鬼は天道眼を発動したのである。
「神族の眼光だ…貴様は死後の世界…地獄に直行するのが相応しい…」
直後…。桜花姫は冥王鬼の発動した口寄せの妖術によって死後の世界である地獄へと連行されたのである。
(神族の眼光を無くした小娘は二度と俗界へは戻れなくなる…地獄で無限の苦痛を痛感せよ…)
冥王鬼の口寄せの妖術により強制的に地獄へと連行された桜花姫は気絶した状態で地面に横たわる。連行されてより数分後…。
(えっ?何かしら…)
目覚めた直後…。桜花姫は周辺の光景を直視するとハッとしたのである。
「えっ!?一体何が!?」
周辺を眺望すると地上全体が灼熱の火山地帯であり森林やら海水は何一つ確認出来ない。
「ひょっとして本物の地獄…」
(私…死んじゃったのかしら?)
生死は不明瞭であるが…。天道眼を使用出来ず極度の恐怖心により身震いする。
(私…今迄…)
今迄は天道眼の乱用により天下無敵の気分であったが…。天道眼を無くした今現在では自分自身の無力さに絶望する。
(一体如何すれば…)
すると周囲より…。
「えっ!?」
周囲をキョロキョロさせると自身の周囲には数体の食人餓鬼が出現したのである。
「彼等は食人餓鬼!?」
天道眼を発動出来れば大喜びであるが…。何一つとして妖術を使用出来ない無力の状態では食人餓鬼すらも脅威に感じる。
「止むを得ないわね…」
(逃げないと悪霊に食い殺されちゃうわ…)
桜花姫は落涙するなり…。一目散に逃走したのである。
「岩陰だわ…」
四町の距離より岩陰を発見した桜花姫は岩陰にて潜伏する。
「はぁ…はぁ…」
(今後は如何しましょう…)
一休みした桜花姫だが今後は如何するべきか苦悩したのである。一息した直後…。周囲の地中より気配を感じる。
(えっ…気配だわ…)
「霊力?」
彼女の感じる気配とは霊力であり食人餓鬼よりも強大である。数秒後…。地面より無数の食人餓鬼が一体化した百鬼食人餓鬼が五体も出現したのである。
「百鬼食人餓鬼!?」
百鬼食人餓鬼の出現に桜花姫は恐怖を感じる。実質天道眼を所持しない状態では通常の食人餓鬼すら仕留められず…。親玉である百鬼食人餓鬼を仕留めるのは確実に不可能である。
(天道眼が無くなった状態では百鬼食人餓鬼を仕留めるのは不可能だわ…)
「如何しましょう…」
桜花姫はビクビクした様子で後退りする。最期を覚悟した直後…。突如として右腕がモゴモゴッと蠢動したのである。
「えっ…私の右腕が…」
モゴモゴッと蠢動する右腕に気味悪くなる。数秒後である。桜花姫の右腕から無数の真蛸らしき触手が出現…。五体の百鬼食人餓鬼を拘束したのである。
「げっ!触手!?」
(ひょっとして魍魎姫の…)
右腕から出現した触手は魍魎姫の肉体の一部であり桜花姫は一週間前に彼女との戦闘で肉体を同化…。皮肉にも魍魎姫の肉体を吸収した影響で本能的に彼女の特殊能力が発動したのである。桜花姫は不本意であるが触手で拘束した五体の百鬼食人餓鬼の肉体を覆い包み…。自身の体内に吸収したのである。
「はぁ…魍魎姫みたいで気味悪いわ…」
自分の意思で悪霊を吸収するがドン引きする。
(天道眼を使用出来ないのであれば止むを得ないわね…)
覚悟した桜花姫は再度行動を開始したのである。行動を再開してより五分後…。今度は全身に鎧兜を装備した巨体の人骨が出現したのである。
(甲冑の人骨…)
「此奴は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…」
骸骨荒武者は戦乱時代に戦死した戦死者達の無念の集合体であり左手には金砕棒を所持する。
「相手が誰であろうと…」
体内から触手を生成させる直前…。骸骨荒武者は背後から何者かの攻撃によりバラバラに粉砕される。
「えっ!?一体何が!?」
桜花姫の目前には右手に雷光の刀剣を所持した小柄の武士が佇立する。鬼神を連想される甲冑を装備…。桜花姫を凝視したのである。
「こんな場所に貴様みたいなか弱き小娘が落下するとは…不運だな…」
「はっ?何が不運なのよ?」
「貴様…か弱き外見とは裏腹に相当の大悪人みたいだな…」
「なっ!?」
武士の大悪人の一言に反応したのか桜花姫はピリピリする。
(此奴…)
「地上界の女神様である私を大悪人ですって!?」
桜花姫は睥睨した表情で武士に怒号したのである。
「あんた…私に殺されたいのかしら?」
武士は無表情で返答する。
「俺は二度も殺された極悪非道の荒武者だぜ…」
「二度も殺されたって?」
(此奴…悪霊なのは確実だけど…其処等の悪霊とは随分異質的だわ…人間っぽいわね…)
桜花姫は恐る恐る亡者の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?名前は?」
すると武士は即座に名前を名乗る。
「俺は…北国最強の鬼神…鬼殺丸だ…」
「えっ!?鬼殺丸ですって!?」
鬼殺丸の名前に桜花姫は驚愕したのである。
(鬼殺丸って…)
「戦乱時代に活躍した北国の武士だったわよね?」
鬼殺丸とは戦乱時代に活躍した武士の一人…。北国出身者である。今現在では史上最悪の大悪党として大勢の大衆から嫌悪される。
「勿論だ…」
「歴史学では…生前のあんたは極悪非道の大悪党だって…」
「俺が大悪党か…」
大衆からは極悪非道の大悪党として扱われる鬼殺丸であるが…。彼自身は特段気にならなかったのである。
「俺は兎にも角にも誰かを打っ殺したいからな…俗界の愚民達が俺を悪人だの極悪非道だの扱おうが構わん…悪党で上等だ…」
(此奴は相当の異端者だわ…地獄でこんな大悪党と遭遇するなんて私は不運なのかも知れないわね…)
正直鬼殺丸との遭遇に面倒臭く感じる。すると鬼殺丸は桜花姫にボソッと発言する。
「貴様…二度目に俺を打っ殺した天女の小娘に瓜二つだな…」
桜花姫は天女の一言に反応したのである。
(えっ?)
「天女の小娘?誰なのかしら…」
鬼殺丸は険悪化した表情で…。
「桃子姫って…名前の天女の小娘だったか?貴様は雰囲気だけなら天女の彼奴にそっくりだ…」
(桃子姫って…元祖妖女の…)
桃子姫の名前を傾聴するなり桜花姫は内心大喜びする。
(最初は吃驚しちゃったけど…私の前世が元祖妖女なのは正直意外だったわ♪)
「当然として貴様と桃子姫では性格は似ても似つかないか…」
鬼殺丸の発言に桜花姫はピクッと反応したのである。
「えっ?」
「貴様は好戦的で強欲そうな雰囲気…正真正銘のじゃじゃ馬だな…」
「なっ!?」
(此奴…腹立たしいわね…)
鬼殺丸の失言にピリピリする。
「地上界の女神様である私にじゃじゃ馬ですって…」
変化の妖術を使用出来るのであれば即刻駆使したいが…。
(妖術さえ使用出来れば…こんな悪霊なんて簡単に…)
彼女にとって最大の十八番である天道眼が使用出来ないので変化の妖術も使用出来ず桜花姫は余計に苛立ったのである。
「貴様みたいなじゃじゃ馬の小娘が地上界の女神様を自称するとは…片腹痛いぜ…」
自身を地上界の女神様と自称する桜花姫を揶揄する。
「ぐっ…」
(此奴…今度食い殺すから覚悟しなさいよ…)
苛立った桜花姫であるが…。一息したのである。
「鬼殺丸?」
桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「私って…死んじゃったの?」
桜花姫の問い掛けに鬼殺丸は即答する。
「貴様の肉体は…生者の肉体だ…」
「えっ!?生者の肉体ですって…」
「今現在の貴様は仮死状態だ…」
(無事なのね♪)
桜花姫はホッとしたのである。
「であれば私は俗界に戻れるのね♪」
希望が芽生える。
「即刻地獄から脱出しないと…」
「俗界に戻りたければ…地獄の石門に移動するのだな…」
「地獄の石門ですって?」
地獄の石門とは俗界と黄泉の国との境目であり死者は通過出来ないが仮死状態…。生者であれば通過出来る。
「地獄の石門に移動すれば私は俗界に戻れるのね♪早速地獄の石門に移動しましょう♪」
桜花姫はルンルンの気分であるが…。
「地獄の石門を突破するには…朧戦車って門番の悪霊を仕留めなければ地獄の石門を通過出来ないぞ…」
「えっ…朧戦車って…」
朧戦車とは悪霊の一体であり俗界では最上級の悪霊として認識される。其処等の悪霊とは別格であり天道眼を所持しない状態では確実に苦戦…。場合によっては敗死する可能性も否定出来ない。
(朧戦車って…悪霊は悪霊でも最強の悪霊だったわよね…妖術を駆使出来ない私に朧戦車を攻略出来るかしら?)
非常に不安がる。恐る恐る鬼殺丸を直視するなり…。
(正直此奴も今一信用出来ないのよね…)
すると鬼殺丸はギロッと睥睨する。
「貴様…俺を信用出来ないか?」
「げっ!」
鬼殺丸が問い掛けると桜花姫はビクッと反応したのである。
「図星か…」
桜花姫はボソッと一言…。
「あんたは極悪非道の悪人だし…正直…」
「別に俺を信用せずとも構わんが…門番の朧戦車を仕留めなければ貴様は二度と俗界へは戻れなくなるぞ…」
「仕方ないわね…」
桜花姫は地獄の石門を目標に行動を開始する。移動してより三十分後…。周囲より無数の殺気を察知したのである。
「殺気だわ…」
(ひょっとして霊力…)
桜花姫はソワソワした様子で周囲を警戒する。数秒間が経過すると周囲の地面より数十体…。数百体もの食人餓鬼が出現したのである。
(食人餓鬼かしら?)
無数の食人餓鬼が桜花姫に殺到する。
「毎回…毎回鬱陶しい奴等ね…」
(食人餓鬼程度なら…)
桜花姫は両腕から無数の触手を生成…。殺到する無数の食人餓鬼を拘束したのである。
「頂戴するわね♪」
拘束した食人餓鬼の全身を覆い包み…。自身の体内へと吸収したのである。
「案外魍魎姫の特殊能力も役立つわね♪」
便利であると感じる。数分後…。石造りの四十尺サイズの城門らしき巨大物体を発見する。
(石造りの城門?)
「ひょっとして地獄の石門かしら…」
発見した城門らしき物体は地獄の石門である。
「此奴を通過出来れば私は地獄から脱出出来るのね♪」
(案外楽勝だわ…)
楽勝であると感じるも…。背後から強大なる霊力を感じる。
「えっ…霊力?」
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「此奴…ひょっとして…」
桜花姫の背後には鬼首と牛車が一体化した悪霊が出現…。ギロッとした表情で桜花姫を睥睨する。
「此奴は朧戦車だわ…」
朧戦車とは戦乱時代に斬首された武将達の無念の集合体であり最上級の悪霊である。
(如何やら朧戦車が出現するのは本当だったのね…)
以前出現した朧戦車は口寄せの妖術によって異世界に存在する巨大兵器を使用…。辛勝するも今回は天道眼が使用出来ず自力で朧戦車を仕留めるのは確実に不可能である。すると朧戦車の鬼首が人語で発語し始める。
「コムスメ…キサマハセイジャカ?イキテイルニンゲンガジゴクニオチルトハ…キサマハカヨワイコムスメノブンザイデアリナガラ…マレニミルソウトウノワルダナ…」
「此奴…」
朧戦車の発言に桜花姫はプルプルする。
「マアイイ…キサマハコノママイキテカエレルトハオモウナヨ!ココデキサマヲブッコロシテヤルゼ!」
朧戦車は鬼首の口部を開口するなり…。
「クライヤガレ!」
口先から霊力で形作った高熱の火球を発射したのである。
「一か八か!」
高熱の火球が直撃する直前…。桜花姫は両手から触手を生成させ高熱の火球を吸収したのである。
(魍魎姫の触手って…霊力も吸収出来るのね♪)
魍魎姫の吸収力は妖力と神通力は勿論…。霊力さえも無力化出来る。
(天道眼が無くても突破出来るかも知れないわ!)
すると朧戦車は再度口先を開口させる。
「オレノコウゲキヲムリョクカシタカ…」
口先より鋼鉄の大砲が出現したのである。
「えっ!?大砲!?」
「コイツハオクノテダ…タイホウデキサマヲフットバシテヤルゼ!カクゴシヤガレ!」
数秒後…。大砲から鋼鉄の砲弾が発射される。
(今度こそ一か八か…)
触手で肉塊の防壁を生成するのだが…。
「きゃっ!」
肉塊の防壁は破壊され桜花姫は吹っ飛ばされたのである。
「ぐっ…」
桜花姫は地面に横たわる。彼女は恐る恐る自身の両腕を直視…。
「えっ…」
桜花姫の両腕は朧戦車の砲撃により吹っ飛ばされ地面には大量の鮮血が流れ出る。
(迂闊だったわ…両腕が…)
先程の攻撃は実弾による攻撃であり魍魎姫の吸収能力も発揮されなかったのである。
「コンドコソトドメダ!コノママキサマヲヒキコロシテヤル!」
朧戦車は猛スピードで横たわった状態の桜花姫に急接近…。桜花姫は逃げたいが両腕が切断され逃げたくても逃げられない。
(俗界に戻れないわ…)
覚悟した直後…。
「ナンダト!?」
突如として朧戦車が爆散したのである。
「えっ!?」
突然の出来事に桜花姫はハッとする。
「一体何が…」
すると桜花姫の背後より…。
「こんな雑魚を相手に瀕死とは…」
「あんたは…鬼殺丸!?」
桜花姫の背後に出現したのは先程遭遇した鬼殺丸であり左手には携帯式の榴弾砲を装備する。
「如何して生者である私を…」
鬼殺丸はギロッと桜花姫を睥睨…。
「こんな場所で貴様に死なれちまうと面倒だからな…恐らく貴様の死後は地獄で確定だろうし…」
彼にとって地獄とは最高の楽園であり桜花姫が地獄に滞留するのは非常に不都合だったのである。
「私…今度こそ俗界に戻れるのね♪」
桜花姫は大喜びする。
「感謝するわね♪鬼殺丸♪私…あんたを誤解しちゃったみたい♪」
「貴様は鬱陶しい小娘だ…」
すると桜花姫はニコッとした表情で…。
「天道眼を無事奪還したら…あんたを生者として復活させるわね♪」
「残念だが俺は二度と俗界へは戻りたくないな…人間の肉体は脆弱で不自由だ…」
鬼殺丸にとっては今現在の悪霊の肉体で大満足であり人間として復活したくなかったのである。
「何よりも地獄は悪霊の魔窟だ…地獄であれば思う存分悪霊を仕留められるからな…」
すると桜花姫はニヤッと微笑む。
(私も旅立つなら天国なんかよりも地獄に旅立ちたいわね♪)
直後…。地獄の石門が開放されたのである。
「如何やら時間だ…」
「石門が開放されたわ…」
「生者である貴様に反応したみたいだ…」
桜花姫は笑顔で…。
「達者でね♪鬼殺丸♪」
すると鬼殺丸は問い掛ける。
「貴様…名前は?」
「えっ…」
桜花姫は一瞬表情が赤面するも…。笑顔で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」
「月影桜花姫か…」
鬼殺丸はボソッと発言する。
「桜花姫が戦乱時代の人間で俺と遭遇しちまったら…俺の人生は大分変化したのかも知れないな…」
「勿論私も一緒よ♪」
(私と桃子姫…誕生した時代を間違えちゃったみたいね…)
桜花姫は内心戦乱時代に羨望したのである。
「兎にも角にも貴様の居場所は俗界だろ?即刻俗界に戻りやがれ…正直目障りだ…」
「勿論よ♪」
桜花姫は恐る恐る地獄の石門を通過…。背後を直視すると地獄の石門が自動的に閉門される。
(地獄へは戻れなくなったのね…)
僅少であるが…。内心寂然に感じる。
「俗界に戻らないと三蔵郎様が心配するわよね…」
周辺を直視すると視界全体が暗闇の空間であり非常に不吉である。
(私…俗界に戻れるのかしら?)
不安に感じる。すると数秒後…。
「えっ…」
突如として強烈なる眠気を感じる。
(眠気だわ…)
突然の眠気により桜花姫はパタッと地面に横たわり…。極度の疲労からか衰弱化したのである。
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:51 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
第四話
増殖
真夜中の魍魎姫との戦闘から三日後…。魍魎姫とは遭遇しなかったが三人の若齢の村娘が神隠しに遭遇するとの行方不明事件が三件も連続的に発生したのである。近所の村人達は勿論…。東国の鎮守府も行方不明者である村娘達を捜索するのだが発見されない。神隠しに遭遇した村娘達は人外の妖女だったのである。神隠しの噂話は国全体に出回り桜花姫も神隠しの噂話を熟知する。噂話を熟知した当日…。暇潰しに東国の茶店で一休みしたのである。
(神隠しの事件ね…)
「行方不明者は三人とも妖女…」
彼女はフッと魍魎姫を連想する。
(今回の事件…魍魎姫…)
「彼奴の仕業なのは確実ね…」
すると直後…。
「桜花姫?」
「えっ?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫?」
花魁の氷麗姫が同席したのである。
「こんな茶店で一休みなんて…桜花姫らしいわね♪」
「和菓子屋は私にとって日課だからね…当然でしょう…」
机上には小皿と桜餅…。緑茶が確認出来る。
「如何してあんたはこんな場所に?」
問い掛けられた氷麗姫は笑顔で返答する。
「単なる気分転換よ♪気分転換♪」
すると氷麗姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何やら神隠しの事件が気になるみたいね…」
「今回の相手は今迄の悪霊よりも厄介そうだし…」
「最上級妖女のあんたでも厄介って感じるのであれば…余程手強いみたいね…私なんて場違いだわ…」
氷麗姫は魍魎姫を相手に命拾い出来た自身を驚愕する。
「魍魎姫は妖女を捕食しても妖力を潜伏させちゃうから妖力を感じられないのよね…」
魍魎姫は絶大なる妖力を保持するのだが体内の妖力を潜伏させられ…。彼女の居場所を特定するのは実質困難である。同時刻…。二人の東国武士団の邏卒が東国郊外に位置する山道を巡邏する。
「近頃は悪霊も匪賊も出現しなくなったが…物騒だよな…」
大柄の邏卒が発言すると小柄の邏卒が返答したのである。
「村娘が三人も行方不明だからな…神隠しにでも遭遇したか?」
「神隠しね…本当に神隠しだとすれば俺達では如何にも出来ないぞ…神隠しであれば西国の桜花姫様の出番だな…」
「桜花姫様だったら神隠しでも簡単に解決出来そうだな♪」
「正直今回の事件も彼女が適任だよな…」
直後…。
「ん?誰だろう…」
山道の道中より不吉の女性に遭遇する。
「女人?」
「こんな山道で女人が一人で出歩くなんて…」
女性は紫色の着物姿であり非常に小柄の体格であるのだが…。雰囲気は非常に異質的でありフラフラした様子で山道を歩行したのである。
「悪霊みたいで気味悪いな…」
すると女性は二人の邏卒を直視するなり…。
「食べたい♪」
ニコッとした表情で二人の邏卒を凝視したのである。
「はっ?食べたいって…何を?」
問い掛けられた女性は笑顔で…。
「あんた達♪人間♪食べたい♪私♪魍魎姫♪」
自身を魍魎姫と名乗る女性はヘラヘラした表情で二人の邏卒に近寄る。
「魍魎姫だって?」
「此奴…重度の痴人か?」
すると小柄の邏卒が抜刀する。
「近寄るな!近寄れば貴様を斬殺するぞ!」
威嚇された魍魎姫であるが…。彼女は只管にヘラヘラした様子であり彼等に近寄る。
「如何やら殺されたいらしいな…」
直後である。魍魎姫は両腕から無数の触手を生成…。
「なっ!?」
刀剣を抜刀した邏卒を拘束したのである。
「食べたい♪人間♪食べたい♪」
邏卒は魍魎姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと吸収される。
「ひっ!此奴は怪物だ!」
大柄の邏卒は恐怖心により一目散に逃走したのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
魍魎姫は大喜びするのだが…。
「えっ?」
突如として左腕がモゴモゴと蠢動し始める。数秒後…。魍魎姫の左腕から数十個ものビー玉サイズの肉塊が排出されたのである。
「ん?」
魍魎姫は体内から排出された無数の肉塊を凝視する。すると直後である。排出された無数の肉塊が人型を形成…。等身大の女体を形作る。肉塊は等身大の全裸の女性へと変化したのである。
「あんた達♪あんた達♪私の♪子供♪子供♪」
彼女の体内から排出された無数の肉塊は魍魎姫の分身体であり魍魎姫は大喜びする。すると周囲の分身体は母体である魍魎姫を直視するなりヘラヘラしたのである。
「あんた♪母体♪母体♪」
「私♪空腹♪空腹♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
彼女達はヘラヘラした表情で只管に食べたいと連呼する。同時刻…。桜花姫は西国の自宅にて昼寝するのだが無数の妖力を察知したのである。
「えっ!?何かしら?」
(無数の妖力がバラバラに砕け散った様子だわ…)
突如として出現した複数の妖力が一瞬でバラバラに分裂するのを察知…。
「ひょっとして魍魎姫の妖力かしら?」
魍魎姫の妖力であると予想したのである。無数の妖力が気になった桜花姫は即座に外出するなり無数の妖力の感じる場所へと直行する。同時刻…。各村落では魍魎姫の【分裂体】が出没しては遭遇した村人達を食い殺したのである。当然として魍魎姫の分裂体は大都市である東国にも出現する。
「何やら外部が非常に騒然としますね…」
(一体何事でしょうか?)
東国の寺院では三蔵郎が二階の雨戸を開放するなり恐る恐る外部の様子を直視したのである。
「なっ!?」
逃走する町民達は勿論…。背後には数十人もの全裸の女性がふら付いた様子で追尾したのである。
「女性でしょうか?」
直後…。彼女達の両腕が真蛸の触手に変化すると逃走する町民達を拘束したのである。町民達は全身を触手に覆い包まれ…。彼女達に捕食される。
「げっ!」
町民達が食い殺される場面を直視した三蔵郎は気味悪くなる。
(ひょっとして彼女達は女体の悪霊でしょうか?)
一瞬女体の悪霊と解釈するのだが…。
(ですが悪霊は元凶である死霊餓狼を桜花姫様が退治されたみたいなので…悪霊は該当しないでしょうね…)
「であれば彼女達の正体は一体…」
混乱したのである。すると一体の分裂体が二階の三蔵郎を直視する。
「えっ!?」
分裂体は三蔵郎を直視するなりニコッと微笑む。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
ゾッとした三蔵郎は即座に雨戸を密閉したのである。
(私も彼女達に食い殺されるかも知れない…)
三蔵郎は即座に自室へと移動…。屏風に装飾された霊斬刀を護身用に所持したのである。
「先程の女人は悪霊よりも厄介かも知れませんね…」
すると直後…。二階より一体の分裂体が進入する。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
三蔵郎は恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた分裂体はヘラヘラした様子で…。
「私♪魍魎姫の子供♪子供♪あんた♪食べたい♪」
彼女は只管に食べたいと連呼する。
(魍魎姫と呼称される人物が今回の元凶みたいですね…)
「止むを得ないですね…」
三蔵郎は即座に霊斬刀を抜刀したのである。
(正直相手が正体不明の怪物でも…か弱き女性の姿形では本領を発揮出来ませんが…)
「御免!」
神速の身動きでスパッと魍魎姫の分裂体を一刀両断…。分裂体は左右に両断されたのである。
「相手が悪霊であれば簡単に仕留められるのですが…」
一安心した直後…。両断された分裂体の半身がピクピクッと身動きしたのである。
「なっ!?」
左右両方の半身が再生され…。一体のみだった分裂体が二体の分裂体に分裂したのである。
(彼女はバラバラに砕け散ると増殖するのでしょうか…)
「であれば非常に厄介ですね…」
二体に分裂した分裂体は目覚めるなり三蔵郎を凝視する。
「食べたい♪」
「あんた♪人間♪食べたい♪」
彼女達はヘラヘラした表情で三蔵郎に近寄る。
(彼女達を迂闊に斬撃しても増殖するのは明白…一体如何すれば?)
三蔵郎は混乱したのである。後退りした直後…。突如として二体の分裂体が氷結により身動き出来なくなる。
「氷結ですと!?」
(突然何が!?)
すると背後より何者かがポンっと三蔵郎の背中を接触したのである。
「えっ?」
「危機一髪ね…三蔵郎…」
「貴女様は…粉雪妖女の氷麗姫様でしたか…」
氷麗姫は氷結の妖術によって二体の分裂体の身動きを一時的に封殺する。
「感謝しますね♪氷麗姫様♪氷麗姫様の加勢で命拾い出来ました♪」
三蔵郎は笑顔で謝礼するのだが…。
「勘違いしないで!あんたを守護しないと桜花姫が心配するからね…」
桜花姫の名前にハッとする。
(桜花姫様…)
「彼女は一体…」
「桜花姫…彼奴なら今頃…」
同時刻…。北国の国境へと到達した桜花姫であるが六体の分裂体に包囲される。
「あんた達…魍魎姫の分身体かしら?姿形は母体と瓜二つね…」
分裂体はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
彼女達は只管に妖女を食べたいと連呼する。
「私を食い殺したいのね♪あんた達に出来るかしら?妖女は妖女でも…私は其処等の妖女とは別格だからね♪」
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
六体の分裂体はヘラヘラした様子で桜花姫に近寄る。
「鬱陶しい奴等ね…」
桜花姫は天道眼を発動…。半透明の血紅色であった両方の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。
「あんた達…死になさい…」
直後…。六体の分裂体は念力の妖術によって全身が破裂したのである。地面には分裂体の血肉やら肉片が飛散する。
「他愛無いわね…」
楽勝であると感じるものの…。飛散した無数の肉片が再度等身大の女体を形成したのである。先程飛散した無数の血肉は数百体もの分裂体に変化する。
「面倒臭いわ…」
(彼女達はバラバラに粉砕しても肉片からでも再生して…増殖するみたいね…)
魍魎姫の分裂体は一体をバラバラに粉砕しても肉片からでも再生…。無限に増殖する。数百体もの分裂体が再度桜花姫を包囲したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
圧倒的に不利であり周囲は絶望的光景であるが…。桜花姫は余裕の様子だったのである。
「好都合だわ♪」
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒するなり…。
「あんた達…桜餅に変化しなさい!」
今度は変化の妖術を発動する。すると周囲の分裂体がポンっと白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「楽勝♪楽勝♪」
(妖力を消耗しちゃったから…妖力を回復させないと♪)
妖力の消耗により桜花姫は周囲の桜餅をパクパクと頬張る。すると背後より…。
「桜花姫だわ!」
「桜花姫様!」
氷麗姫と三蔵郎が近寄る。
「氷麗姫と三蔵郎様…」
「えっ?」
氷麗姫は地面の小皿を直視するなり…。
「ひょっとして小皿は全部…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論♪魍魎姫の分身体よ♪」
「変化の妖術を使用したのね…」
「勿論♪」
(桜花姫らしいわね…)
氷麗姫と三蔵郎は苦笑いしたのである。
「妖力は回復出来たし♪本体の魍魎姫を征伐しましょうかね♪」
「桜花姫様が出陣されなければ被害が増加しますからね…即刻母体である魍魎姫の征伐を…」
直後…。
「何かしら?」
「桜花姫様?如何されましたか?」
三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「複数の妖力を感じるわ…」
「複数の…妖力ですと?」
「氷麗姫も感じるでしょう?」
氷麗姫も妖力を感じる。
「私も感じるわね…此奴は非常に強力だわ…」
「人間の私には何が何やら…」
人間の三蔵郎には妖力は感じられない。数秒後…。国境の自然林より紫色の着物姿の女性がフラフラした状態で三人に近寄る。
「ん?彼女は村里の女性でしょうか?」
「私達が出向かなくても大丈夫そうね…」
すると紫色の着物の女性はニコッと微笑むなり…。
「妖女♪人間♪食べたい♪」
「魍魎姫だわ…」
三人の目前に出現した女性は魍魎姫の本体だったのである。
「魍魎姫…此奴が本体ね…」
「彼女が魍魎姫ですか…外見のみなら普通の小町娘っぽいですが…」
氷麗姫は恐る恐る後退りする。
「外見だけなら普通の小町娘だけれども…妖力だけなら桜花姫に匹敵するわね…」
「えっ!?桜花姫様に匹敵する妖力ですと!?」
氷麗姫の発言に三蔵郎は驚愕したのである。
「前回よりも桁外れに強大化したみたいだわ…何人の妖女を捕食したのかしら?」
魍魎姫は今迄に氷麗姫の粉雪分身と山茶花姫…。彼女達以外にも三人の妖女を捕食したのである。多数の妖女を捕食した結果…。最上級妖女である桜花姫にも対抗出来る妖力を保持したのである。最早彼女に妖力で対抗出来るのは最上級妖女の桜花姫…。実質彼女だけである。
「此奴を仕留めるには一筋縄では無理そうね…」
魍魎姫はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪美味しそう♪」
彼女はニコッとした表情で桜花姫を直視したのである。
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
すると魍魎姫は右手に妖力を凝縮させ高熱の火球を発射する。
「火球?」
桜花姫は妖力の防壁を形成…。魍魎姫の火球攻撃を無力化したのである。
「こんな程度で私を仕留めるなんて無理ね…」
今度は鎌鼬の妖術を発動…。突風の白刃が桜花姫を急襲する。
「鎌鼬の妖術かしら?」
再度妖力の防壁で無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を食い殺すなんて不可能だわ…」
(所詮妖力が強大なだけね…)
魍魎姫は妖力のみなら桜花姫と同等であるが…。自身の発動する妖術では桜花姫を仕留めるには力不足であり手応えを感じられない。
「食べたい♪妖女♪食べたい♪」
指摘された魍魎姫であるが…。彼女はヘラヘラした表情であり只管に食べたいと連呼し続ける。
「此奴…相当の痴人みたいね…」
桜花姫は呆れ果てる。
「あんたは桜餅に変化しなさい…」
変化の妖術を発動したのである。
「えっ?」
魍魎姫に変化の妖術を発動するのだが…。魍魎姫は桜餅に変化しない。
「あんたの妖力♪美味しい♪美味しい♪」
桜花姫の妖力を吸収すると魍魎姫は大喜びする。
「桜花姫の妖術が通用しないなんて…」
「ひょっとして彼女は桜花姫様の妖力を吸収されたのでしょうか?」
すると先程よりも魍魎姫の妖力が増幅される。
「此奴…私の妖力を吸収したみたいね…」
(面倒臭い相手だわ…)
桜花姫は背後の氷麗姫と三蔵郎に指示する。
「氷麗姫…三蔵郎様…あんた達は即刻逃げなさい…此奴は一筋縄では仕留められないわ…」
「桜花姫でも簡単には仕留められないのね…」
「承知しました…桜花姫様…」
直後である。
「えっ!?」
「桜花姫!?」
「なっ!?桜花姫様の両足に…」
何時の間にか桜花姫の両足に魍魎姫の触手が接触…。身動きを封殺したのである。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫は笑顔であり只管に食べたいと連呼する。
「ぐっ!」
(迂闊だったわ…)
触手の特性からか体内の妖力が魍魎姫の触手に吸収されたのである。
(妖力が吸収されるわ…)
触手により身動き出来なくなった桜花姫は全身を覆い包まれ…。魍魎姫の体内へと吸収されたのである。
「きゃっ!桜花姫が!」
「桜花姫様が食い殺されるなんて…」
氷麗姫と三蔵郎は絶望…。涙腺より涙が零れ落ちる。
「桜花姫様が…」
「最早私達では…」
(魍魎姫に対抗出来ないわ…)
魍魎姫は満足したのか笑顔で…。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
今迄よりも魍魎姫の妖力が桁外れに増幅されたのである。
(桜花姫の本体を吸収した影響かしら?魍魎姫の妖力が今迄以上に増幅されたわね…)
血紅色であった魍魎姫の瞳孔が半透明の瑠璃色に変化…。
「此奴…桜花姫の天道眼を…」
桜花姫の肉体を吸収した影響からか彼女の十八番である天道眼を開眼したのである。
「彼女…桜花姫様の天道眼を使用出来るなんて…」
魍魎姫は二人を凝視するなり…。ニコッと微笑む。
「今度はあんた達♪食べたい♪食べたい♪」
今現在の魍魎姫は最上級妖女をも上回る最強の怪物へと進化したのである。氷麗姫は恐る恐る…。
「三蔵郎…あんただけでも逃げなさい…」
「えっ…ですが氷麗姫様…」
三蔵郎は困惑したのである。
「正直人間のあんたでは此奴には対抗出来ないわ…」
三蔵郎は不本意であるが…。
「承知しました…」
三蔵郎は一目散に逃走したのである。
「二度も殺されるのね…私…」
氷麗姫は一息する。
(桜花姫?私は如何すれば…)
魍魎姫はヘラヘラした表情で氷麗姫に近寄る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「二度も死にたくないけれども…」
氷麗姫は覚悟する。魍魎姫は両手より触手を生成…。氷麗姫を拘束したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪」
氷麗姫は睥睨するなり…。
「私を食い殺したければ食い殺しなさいよ!」
全身が触手に覆い包まれる寸前である。
「ん?」
突如として魍魎姫は身動きしなくなる。
「えっ!?」
(彼女に一体何が!?)
先程はヘラヘラした表情だった魍魎姫であるが…。今現在の彼女は無表情であり氷麗姫は何が発生したのか理解出来ない。生成された触手が魍魎姫の体内へと戻ったのである。
「私を…食い殺さないの?」
すると直後…。魍魎姫の肉体がポンっと白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?桜餅!?」
(一体全体何が!?)
氷麗姫は恐る恐る桜餅に近寄る。
「如何して魍魎姫は桜餅に変化しちゃったのかしら?」
すると桜餅がポンっと白煙に覆い包まれ…。魍魎姫に食い殺された桜花姫が出現したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
(如何して彼女が…)
突如として出現した桜花姫に氷麗姫は驚愕…。彼女が本物の桜花姫なのか恐る恐る問い掛ける。
「一体何が発生したの?あんたは本物の桜花姫かしら?桜花姫は魍魎姫に食い殺されたのよ…」
すると桜花姫は氷麗姫の問い掛けに即答する。
「私は一時的に魍魎姫に吸収されたけれどね♪魍魎姫の体内で彼女を食い殺したのよ♪」
「えっ…魍魎姫の体内で彼女を食い殺したの?」
氷麗姫は想像するだけで気味悪くなる。
「最上級妖女の私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
魍魎姫は桜花姫の吸収により一時的に彼女の妖力を所持するが…。桜花姫の妖力は其処等の妖女とは桁外れであり彼女の妖力は扱い切れず真逆に内部から吸収されたのである。
(桜花姫…あんたは油虫かしら…)
氷麗姫は捕食されても死なない桜花姫を油虫であると感じる。
「桜花姫は不死身ね…如何すればあんたを殺せるのかしら?」
「多分寿命以外では無理でしょうね♪」
笑顔で即答する。
「寿命って…」
桜花姫の返答に氷麗姫は苦笑いしたのである。
「兎にも角にも♪各地で暴れ回る魍魎姫の分身体を一掃しないと♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。すると各地で徘徊する魍魎姫の分裂体を桜餅に変化させたのである。
「彼女達を浄化したわ♪一安心ね♪」
同時刻…。三蔵郎は逃走中に魍魎姫の分裂体に包囲されるも彼女達は突如として桜餅に変化したのである。
「桜餅!?」
(如何して彼女達は桜餅に変化したのでしょうか?)
突然の超常現象に三蔵郎は混乱するも…。
「北国の国境に戻りましょうかね…」
北国の国境へと直行したのである。
「氷麗姫様!」
「あんたは…三蔵郎…戻ったのね…」
すると桜花姫を直視するなり…。
「なっ!?桜花姫様!?」
驚愕したのである。
「三蔵郎様♪無事だったのね♪」
三蔵郎は桜花姫との再会に落涙したのである。
「桜花姫様!無事で良かったです…先程は桜花姫様が魍魎姫に食い殺されたとばかり…」
「心配させちゃったわね♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪したのである。
「桜花姫様が無事なのが何よりですよ♪ですが桜花姫様は肉体を魍魎姫に吸収されたのに如何して無事に戻れたのですか?」
問い掛けられた桜花姫は先程の経緯を説明する。
「体内から彼女の肉体を吸収されたのですか…」
三蔵郎は苦笑いしたのである。
「兎にも角にも…事件は無事に解決出来たし♪解散しましょう♪」
「折角ですし…私の寺院で茶会しませんか?桜餅も用意しますよ♪」
「桜餅ですって♪」
桜餅の一言に桜花姫は反応する。
「桜花姫…」
氷麗姫は苦笑いしたのである。
「早速寺院に移動しましょう♪氷麗姫は如何するかしら?」
「今回は私も参加するわ…」
一同は東国へと移動する直前…。背後より妖力を感じる。
「妖力だわ…」
「妖力ですと?」
一同の背後には山猫妖女の小猫姫がプルプルした様子で近寄る。
「はぁ…はぁ…」
「えっ…あんたは桜花姫の妹分の…小猫姫だっけ?」
「小猫姫?如何しちゃったのよ?」
小猫姫は小声で…。
「桜花姫姉ちゃん…」
すると彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。
「えっ!?小猫姫!?大丈夫!?」
「一体…如何されたのでしょうか?」
普段は人一倍人懐っこく笑顔の絶えない小猫姫であるが…。落涙する小猫姫に一同は何事かと心配したのである。
「大丈夫?小猫姫?一体如何したのよ
問い掛けられた小猫姫は桜花姫を直視するなり…。
「蛇骨鬼婆ちゃんが…蛇骨鬼婆ちゃんが…」
「蛇骨鬼婆ちゃんが如何したのよ?」
直後である。
「死にそうなの…」
「えっ…」
小猫姫の発言に桜花姫は勿論…。三蔵郎も氷麗姫も沈黙する。
「蛇骨鬼婆ちゃんが…」
小猫姫は一部始終口述したのである。蛇骨鬼は三日前以前から体調が悪化…。小猫姫には秘密にするも三日前に自宅の居間で昏倒したのである。本人は平気であると言明するのだが…。本日の早朝より吐血したのである。
「病院には?」
「蛇骨鬼婆ちゃんは受診を拒否したの…」
「承知したわ…」
すると三蔵郎は恐る恐る…。
「桜花姫様…如何されますか?」
「三蔵郎様…御免なさいね…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動すると自分自身を蛇骨鬼の家屋敷へと瞬間移動したのである。
「桜花姫様!?」
桜花姫は口寄せの妖術にて蛇骨鬼の家屋敷へと一瞬で瞬間移動する。蛇骨鬼はグッタリした様子であり居間で寝込む。
「誰かと思いきや…桜花姫ちゃんかね…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
桜花姫は恐る恐る寝込む蛇骨鬼に近寄る。
「大丈夫?」
問い掛けられた蛇骨鬼は瞑目するなり…。
「私の寿命は…恐らく数日だね…」
普段は誰よりも元気であり冗談が大好きな蛇骨鬼であるが今回ばかりは本当であると感じる。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
桜花姫は涙腺より涙か零れ落ちる。
「大丈夫かい?桜花姫ちゃんらしくないね…」
「蛇骨鬼婆ちゃん!」
桜花姫は力一杯密着したのである。
(桜花姫ちゃん…)
蛇骨鬼はボソッと発言する。
「あんたと小猫姫は私にとって…自慢の孫娘だよ…」
「私が…蛇骨鬼婆ちゃんの孫娘?」
孫娘の一言に桜花姫は内心嬉しくなる。
「私は老衰で旅立つかも知れないけれども…桜花姫ちゃんは桜花姫ちゃんらしく自由に生きな♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると蛇骨鬼はスヤスヤと熟睡したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…眠っちゃったな…」
増殖
真夜中の魍魎姫との戦闘から三日後…。魍魎姫とは遭遇しなかったが三人の若齢の村娘が神隠しに遭遇するとの行方不明事件が三件も連続的に発生したのである。近所の村人達は勿論…。東国の鎮守府も行方不明者である村娘達を捜索するのだが発見されない。神隠しに遭遇した村娘達は人外の妖女だったのである。神隠しの噂話は国全体に出回り桜花姫も神隠しの噂話を熟知する。噂話を熟知した当日…。暇潰しに東国の茶店で一休みしたのである。
(神隠しの事件ね…)
「行方不明者は三人とも妖女…」
彼女はフッと魍魎姫を連想する。
(今回の事件…魍魎姫…)
「彼奴の仕業なのは確実ね…」
すると直後…。
「桜花姫?」
「えっ?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫?」
花魁の氷麗姫が同席したのである。
「こんな茶店で一休みなんて…桜花姫らしいわね♪」
「和菓子屋は私にとって日課だからね…当然でしょう…」
机上には小皿と桜餅…。緑茶が確認出来る。
「如何してあんたはこんな場所に?」
問い掛けられた氷麗姫は笑顔で返答する。
「単なる気分転換よ♪気分転換♪」
すると氷麗姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何やら神隠しの事件が気になるみたいね…」
「今回の相手は今迄の悪霊よりも厄介そうだし…」
「最上級妖女のあんたでも厄介って感じるのであれば…余程手強いみたいね…私なんて場違いだわ…」
氷麗姫は魍魎姫を相手に命拾い出来た自身を驚愕する。
「魍魎姫は妖女を捕食しても妖力を潜伏させちゃうから妖力を感じられないのよね…」
魍魎姫は絶大なる妖力を保持するのだが体内の妖力を潜伏させられ…。彼女の居場所を特定するのは実質困難である。同時刻…。二人の東国武士団の邏卒が東国郊外に位置する山道を巡邏する。
「近頃は悪霊も匪賊も出現しなくなったが…物騒だよな…」
大柄の邏卒が発言すると小柄の邏卒が返答したのである。
「村娘が三人も行方不明だからな…神隠しにでも遭遇したか?」
「神隠しね…本当に神隠しだとすれば俺達では如何にも出来ないぞ…神隠しであれば西国の桜花姫様の出番だな…」
「桜花姫様だったら神隠しでも簡単に解決出来そうだな♪」
「正直今回の事件も彼女が適任だよな…」
直後…。
「ん?誰だろう…」
山道の道中より不吉の女性に遭遇する。
「女人?」
「こんな山道で女人が一人で出歩くなんて…」
女性は紫色の着物姿であり非常に小柄の体格であるのだが…。雰囲気は非常に異質的でありフラフラした様子で山道を歩行したのである。
「悪霊みたいで気味悪いな…」
すると女性は二人の邏卒を直視するなり…。
「食べたい♪」
ニコッとした表情で二人の邏卒を凝視したのである。
「はっ?食べたいって…何を?」
問い掛けられた女性は笑顔で…。
「あんた達♪人間♪食べたい♪私♪魍魎姫♪」
自身を魍魎姫と名乗る女性はヘラヘラした表情で二人の邏卒に近寄る。
「魍魎姫だって?」
「此奴…重度の痴人か?」
すると小柄の邏卒が抜刀する。
「近寄るな!近寄れば貴様を斬殺するぞ!」
威嚇された魍魎姫であるが…。彼女は只管にヘラヘラした様子であり彼等に近寄る。
「如何やら殺されたいらしいな…」
直後である。魍魎姫は両腕から無数の触手を生成…。
「なっ!?」
刀剣を抜刀した邏卒を拘束したのである。
「食べたい♪人間♪食べたい♪」
邏卒は魍魎姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと吸収される。
「ひっ!此奴は怪物だ!」
大柄の邏卒は恐怖心により一目散に逃走したのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
魍魎姫は大喜びするのだが…。
「えっ?」
突如として左腕がモゴモゴと蠢動し始める。数秒後…。魍魎姫の左腕から数十個ものビー玉サイズの肉塊が排出されたのである。
「ん?」
魍魎姫は体内から排出された無数の肉塊を凝視する。すると直後である。排出された無数の肉塊が人型を形成…。等身大の女体を形作る。肉塊は等身大の全裸の女性へと変化したのである。
「あんた達♪あんた達♪私の♪子供♪子供♪」
彼女の体内から排出された無数の肉塊は魍魎姫の分身体であり魍魎姫は大喜びする。すると周囲の分身体は母体である魍魎姫を直視するなりヘラヘラしたのである。
「あんた♪母体♪母体♪」
「私♪空腹♪空腹♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
彼女達はヘラヘラした表情で只管に食べたいと連呼する。同時刻…。桜花姫は西国の自宅にて昼寝するのだが無数の妖力を察知したのである。
「えっ!?何かしら?」
(無数の妖力がバラバラに砕け散った様子だわ…)
突如として出現した複数の妖力が一瞬でバラバラに分裂するのを察知…。
「ひょっとして魍魎姫の妖力かしら?」
魍魎姫の妖力であると予想したのである。無数の妖力が気になった桜花姫は即座に外出するなり無数の妖力の感じる場所へと直行する。同時刻…。各村落では魍魎姫の【分裂体】が出没しては遭遇した村人達を食い殺したのである。当然として魍魎姫の分裂体は大都市である東国にも出現する。
「何やら外部が非常に騒然としますね…」
(一体何事でしょうか?)
東国の寺院では三蔵郎が二階の雨戸を開放するなり恐る恐る外部の様子を直視したのである。
「なっ!?」
逃走する町民達は勿論…。背後には数十人もの全裸の女性がふら付いた様子で追尾したのである。
「女性でしょうか?」
直後…。彼女達の両腕が真蛸の触手に変化すると逃走する町民達を拘束したのである。町民達は全身を触手に覆い包まれ…。彼女達に捕食される。
「げっ!」
町民達が食い殺される場面を直視した三蔵郎は気味悪くなる。
(ひょっとして彼女達は女体の悪霊でしょうか?)
一瞬女体の悪霊と解釈するのだが…。
(ですが悪霊は元凶である死霊餓狼を桜花姫様が退治されたみたいなので…悪霊は該当しないでしょうね…)
「であれば彼女達の正体は一体…」
混乱したのである。すると一体の分裂体が二階の三蔵郎を直視する。
「えっ!?」
分裂体は三蔵郎を直視するなりニコッと微笑む。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
ゾッとした三蔵郎は即座に雨戸を密閉したのである。
(私も彼女達に食い殺されるかも知れない…)
三蔵郎は即座に自室へと移動…。屏風に装飾された霊斬刀を護身用に所持したのである。
「先程の女人は悪霊よりも厄介かも知れませんね…」
すると直後…。二階より一体の分裂体が進入する。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
三蔵郎は恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた分裂体はヘラヘラした様子で…。
「私♪魍魎姫の子供♪子供♪あんた♪食べたい♪」
彼女は只管に食べたいと連呼する。
(魍魎姫と呼称される人物が今回の元凶みたいですね…)
「止むを得ないですね…」
三蔵郎は即座に霊斬刀を抜刀したのである。
(正直相手が正体不明の怪物でも…か弱き女性の姿形では本領を発揮出来ませんが…)
「御免!」
神速の身動きでスパッと魍魎姫の分裂体を一刀両断…。分裂体は左右に両断されたのである。
「相手が悪霊であれば簡単に仕留められるのですが…」
一安心した直後…。両断された分裂体の半身がピクピクッと身動きしたのである。
「なっ!?」
左右両方の半身が再生され…。一体のみだった分裂体が二体の分裂体に分裂したのである。
(彼女はバラバラに砕け散ると増殖するのでしょうか…)
「であれば非常に厄介ですね…」
二体に分裂した分裂体は目覚めるなり三蔵郎を凝視する。
「食べたい♪」
「あんた♪人間♪食べたい♪」
彼女達はヘラヘラした表情で三蔵郎に近寄る。
(彼女達を迂闊に斬撃しても増殖するのは明白…一体如何すれば?)
三蔵郎は混乱したのである。後退りした直後…。突如として二体の分裂体が氷結により身動き出来なくなる。
「氷結ですと!?」
(突然何が!?)
すると背後より何者かがポンっと三蔵郎の背中を接触したのである。
「えっ?」
「危機一髪ね…三蔵郎…」
「貴女様は…粉雪妖女の氷麗姫様でしたか…」
氷麗姫は氷結の妖術によって二体の分裂体の身動きを一時的に封殺する。
「感謝しますね♪氷麗姫様♪氷麗姫様の加勢で命拾い出来ました♪」
三蔵郎は笑顔で謝礼するのだが…。
「勘違いしないで!あんたを守護しないと桜花姫が心配するからね…」
桜花姫の名前にハッとする。
(桜花姫様…)
「彼女は一体…」
「桜花姫…彼奴なら今頃…」
同時刻…。北国の国境へと到達した桜花姫であるが六体の分裂体に包囲される。
「あんた達…魍魎姫の分身体かしら?姿形は母体と瓜二つね…」
分裂体はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
彼女達は只管に妖女を食べたいと連呼する。
「私を食い殺したいのね♪あんた達に出来るかしら?妖女は妖女でも…私は其処等の妖女とは別格だからね♪」
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
六体の分裂体はヘラヘラした様子で桜花姫に近寄る。
「鬱陶しい奴等ね…」
桜花姫は天道眼を発動…。半透明の血紅色であった両方の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。
「あんた達…死になさい…」
直後…。六体の分裂体は念力の妖術によって全身が破裂したのである。地面には分裂体の血肉やら肉片が飛散する。
「他愛無いわね…」
楽勝であると感じるものの…。飛散した無数の肉片が再度等身大の女体を形成したのである。先程飛散した無数の血肉は数百体もの分裂体に変化する。
「面倒臭いわ…」
(彼女達はバラバラに粉砕しても肉片からでも再生して…増殖するみたいね…)
魍魎姫の分裂体は一体をバラバラに粉砕しても肉片からでも再生…。無限に増殖する。数百体もの分裂体が再度桜花姫を包囲したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
圧倒的に不利であり周囲は絶望的光景であるが…。桜花姫は余裕の様子だったのである。
「好都合だわ♪」
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒するなり…。
「あんた達…桜餅に変化しなさい!」
今度は変化の妖術を発動する。すると周囲の分裂体がポンっと白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「楽勝♪楽勝♪」
(妖力を消耗しちゃったから…妖力を回復させないと♪)
妖力の消耗により桜花姫は周囲の桜餅をパクパクと頬張る。すると背後より…。
「桜花姫だわ!」
「桜花姫様!」
氷麗姫と三蔵郎が近寄る。
「氷麗姫と三蔵郎様…」
「えっ?」
氷麗姫は地面の小皿を直視するなり…。
「ひょっとして小皿は全部…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論♪魍魎姫の分身体よ♪」
「変化の妖術を使用したのね…」
「勿論♪」
(桜花姫らしいわね…)
氷麗姫と三蔵郎は苦笑いしたのである。
「妖力は回復出来たし♪本体の魍魎姫を征伐しましょうかね♪」
「桜花姫様が出陣されなければ被害が増加しますからね…即刻母体である魍魎姫の征伐を…」
直後…。
「何かしら?」
「桜花姫様?如何されましたか?」
三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「複数の妖力を感じるわ…」
「複数の…妖力ですと?」
「氷麗姫も感じるでしょう?」
氷麗姫も妖力を感じる。
「私も感じるわね…此奴は非常に強力だわ…」
「人間の私には何が何やら…」
人間の三蔵郎には妖力は感じられない。数秒後…。国境の自然林より紫色の着物姿の女性がフラフラした状態で三人に近寄る。
「ん?彼女は村里の女性でしょうか?」
「私達が出向かなくても大丈夫そうね…」
すると紫色の着物の女性はニコッと微笑むなり…。
「妖女♪人間♪食べたい♪」
「魍魎姫だわ…」
三人の目前に出現した女性は魍魎姫の本体だったのである。
「魍魎姫…此奴が本体ね…」
「彼女が魍魎姫ですか…外見のみなら普通の小町娘っぽいですが…」
氷麗姫は恐る恐る後退りする。
「外見だけなら普通の小町娘だけれども…妖力だけなら桜花姫に匹敵するわね…」
「えっ!?桜花姫様に匹敵する妖力ですと!?」
氷麗姫の発言に三蔵郎は驚愕したのである。
「前回よりも桁外れに強大化したみたいだわ…何人の妖女を捕食したのかしら?」
魍魎姫は今迄に氷麗姫の粉雪分身と山茶花姫…。彼女達以外にも三人の妖女を捕食したのである。多数の妖女を捕食した結果…。最上級妖女である桜花姫にも対抗出来る妖力を保持したのである。最早彼女に妖力で対抗出来るのは最上級妖女の桜花姫…。実質彼女だけである。
「此奴を仕留めるには一筋縄では無理そうね…」
魍魎姫はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪美味しそう♪」
彼女はニコッとした表情で桜花姫を直視したのである。
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
すると魍魎姫は右手に妖力を凝縮させ高熱の火球を発射する。
「火球?」
桜花姫は妖力の防壁を形成…。魍魎姫の火球攻撃を無力化したのである。
「こんな程度で私を仕留めるなんて無理ね…」
今度は鎌鼬の妖術を発動…。突風の白刃が桜花姫を急襲する。
「鎌鼬の妖術かしら?」
再度妖力の防壁で無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を食い殺すなんて不可能だわ…」
(所詮妖力が強大なだけね…)
魍魎姫は妖力のみなら桜花姫と同等であるが…。自身の発動する妖術では桜花姫を仕留めるには力不足であり手応えを感じられない。
「食べたい♪妖女♪食べたい♪」
指摘された魍魎姫であるが…。彼女はヘラヘラした表情であり只管に食べたいと連呼し続ける。
「此奴…相当の痴人みたいね…」
桜花姫は呆れ果てる。
「あんたは桜餅に変化しなさい…」
変化の妖術を発動したのである。
「えっ?」
魍魎姫に変化の妖術を発動するのだが…。魍魎姫は桜餅に変化しない。
「あんたの妖力♪美味しい♪美味しい♪」
桜花姫の妖力を吸収すると魍魎姫は大喜びする。
「桜花姫の妖術が通用しないなんて…」
「ひょっとして彼女は桜花姫様の妖力を吸収されたのでしょうか?」
すると先程よりも魍魎姫の妖力が増幅される。
「此奴…私の妖力を吸収したみたいね…」
(面倒臭い相手だわ…)
桜花姫は背後の氷麗姫と三蔵郎に指示する。
「氷麗姫…三蔵郎様…あんた達は即刻逃げなさい…此奴は一筋縄では仕留められないわ…」
「桜花姫でも簡単には仕留められないのね…」
「承知しました…桜花姫様…」
直後である。
「えっ!?」
「桜花姫!?」
「なっ!?桜花姫様の両足に…」
何時の間にか桜花姫の両足に魍魎姫の触手が接触…。身動きを封殺したのである。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫は笑顔であり只管に食べたいと連呼する。
「ぐっ!」
(迂闊だったわ…)
触手の特性からか体内の妖力が魍魎姫の触手に吸収されたのである。
(妖力が吸収されるわ…)
触手により身動き出来なくなった桜花姫は全身を覆い包まれ…。魍魎姫の体内へと吸収されたのである。
「きゃっ!桜花姫が!」
「桜花姫様が食い殺されるなんて…」
氷麗姫と三蔵郎は絶望…。涙腺より涙が零れ落ちる。
「桜花姫様が…」
「最早私達では…」
(魍魎姫に対抗出来ないわ…)
魍魎姫は満足したのか笑顔で…。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
今迄よりも魍魎姫の妖力が桁外れに増幅されたのである。
(桜花姫の本体を吸収した影響かしら?魍魎姫の妖力が今迄以上に増幅されたわね…)
血紅色であった魍魎姫の瞳孔が半透明の瑠璃色に変化…。
「此奴…桜花姫の天道眼を…」
桜花姫の肉体を吸収した影響からか彼女の十八番である天道眼を開眼したのである。
「彼女…桜花姫様の天道眼を使用出来るなんて…」
魍魎姫は二人を凝視するなり…。ニコッと微笑む。
「今度はあんた達♪食べたい♪食べたい♪」
今現在の魍魎姫は最上級妖女をも上回る最強の怪物へと進化したのである。氷麗姫は恐る恐る…。
「三蔵郎…あんただけでも逃げなさい…」
「えっ…ですが氷麗姫様…」
三蔵郎は困惑したのである。
「正直人間のあんたでは此奴には対抗出来ないわ…」
三蔵郎は不本意であるが…。
「承知しました…」
三蔵郎は一目散に逃走したのである。
「二度も殺されるのね…私…」
氷麗姫は一息する。
(桜花姫?私は如何すれば…)
魍魎姫はヘラヘラした表情で氷麗姫に近寄る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「二度も死にたくないけれども…」
氷麗姫は覚悟する。魍魎姫は両手より触手を生成…。氷麗姫を拘束したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪」
氷麗姫は睥睨するなり…。
「私を食い殺したければ食い殺しなさいよ!」
全身が触手に覆い包まれる寸前である。
「ん?」
突如として魍魎姫は身動きしなくなる。
「えっ!?」
(彼女に一体何が!?)
先程はヘラヘラした表情だった魍魎姫であるが…。今現在の彼女は無表情であり氷麗姫は何が発生したのか理解出来ない。生成された触手が魍魎姫の体内へと戻ったのである。
「私を…食い殺さないの?」
すると直後…。魍魎姫の肉体がポンっと白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?桜餅!?」
(一体全体何が!?)
氷麗姫は恐る恐る桜餅に近寄る。
「如何して魍魎姫は桜餅に変化しちゃったのかしら?」
すると桜餅がポンっと白煙に覆い包まれ…。魍魎姫に食い殺された桜花姫が出現したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
(如何して彼女が…)
突如として出現した桜花姫に氷麗姫は驚愕…。彼女が本物の桜花姫なのか恐る恐る問い掛ける。
「一体何が発生したの?あんたは本物の桜花姫かしら?桜花姫は魍魎姫に食い殺されたのよ…」
すると桜花姫は氷麗姫の問い掛けに即答する。
「私は一時的に魍魎姫に吸収されたけれどね♪魍魎姫の体内で彼女を食い殺したのよ♪」
「えっ…魍魎姫の体内で彼女を食い殺したの?」
氷麗姫は想像するだけで気味悪くなる。
「最上級妖女の私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
魍魎姫は桜花姫の吸収により一時的に彼女の妖力を所持するが…。桜花姫の妖力は其処等の妖女とは桁外れであり彼女の妖力は扱い切れず真逆に内部から吸収されたのである。
(桜花姫…あんたは油虫かしら…)
氷麗姫は捕食されても死なない桜花姫を油虫であると感じる。
「桜花姫は不死身ね…如何すればあんたを殺せるのかしら?」
「多分寿命以外では無理でしょうね♪」
笑顔で即答する。
「寿命って…」
桜花姫の返答に氷麗姫は苦笑いしたのである。
「兎にも角にも♪各地で暴れ回る魍魎姫の分身体を一掃しないと♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。すると各地で徘徊する魍魎姫の分裂体を桜餅に変化させたのである。
「彼女達を浄化したわ♪一安心ね♪」
同時刻…。三蔵郎は逃走中に魍魎姫の分裂体に包囲されるも彼女達は突如として桜餅に変化したのである。
「桜餅!?」
(如何して彼女達は桜餅に変化したのでしょうか?)
突然の超常現象に三蔵郎は混乱するも…。
「北国の国境に戻りましょうかね…」
北国の国境へと直行したのである。
「氷麗姫様!」
「あんたは…三蔵郎…戻ったのね…」
すると桜花姫を直視するなり…。
「なっ!?桜花姫様!?」
驚愕したのである。
「三蔵郎様♪無事だったのね♪」
三蔵郎は桜花姫との再会に落涙したのである。
「桜花姫様!無事で良かったです…先程は桜花姫様が魍魎姫に食い殺されたとばかり…」
「心配させちゃったわね♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪したのである。
「桜花姫様が無事なのが何よりですよ♪ですが桜花姫様は肉体を魍魎姫に吸収されたのに如何して無事に戻れたのですか?」
問い掛けられた桜花姫は先程の経緯を説明する。
「体内から彼女の肉体を吸収されたのですか…」
三蔵郎は苦笑いしたのである。
「兎にも角にも…事件は無事に解決出来たし♪解散しましょう♪」
「折角ですし…私の寺院で茶会しませんか?桜餅も用意しますよ♪」
「桜餅ですって♪」
桜餅の一言に桜花姫は反応する。
「桜花姫…」
氷麗姫は苦笑いしたのである。
「早速寺院に移動しましょう♪氷麗姫は如何するかしら?」
「今回は私も参加するわ…」
一同は東国へと移動する直前…。背後より妖力を感じる。
「妖力だわ…」
「妖力ですと?」
一同の背後には山猫妖女の小猫姫がプルプルした様子で近寄る。
「はぁ…はぁ…」
「えっ…あんたは桜花姫の妹分の…小猫姫だっけ?」
「小猫姫?如何しちゃったのよ?」
小猫姫は小声で…。
「桜花姫姉ちゃん…」
すると彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。
「えっ!?小猫姫!?大丈夫!?」
「一体…如何されたのでしょうか?」
普段は人一倍人懐っこく笑顔の絶えない小猫姫であるが…。落涙する小猫姫に一同は何事かと心配したのである。
「大丈夫?小猫姫?一体如何したのよ
問い掛けられた小猫姫は桜花姫を直視するなり…。
「蛇骨鬼婆ちゃんが…蛇骨鬼婆ちゃんが…」
「蛇骨鬼婆ちゃんが如何したのよ?」
直後である。
「死にそうなの…」
「えっ…」
小猫姫の発言に桜花姫は勿論…。三蔵郎も氷麗姫も沈黙する。
「蛇骨鬼婆ちゃんが…」
小猫姫は一部始終口述したのである。蛇骨鬼は三日前以前から体調が悪化…。小猫姫には秘密にするも三日前に自宅の居間で昏倒したのである。本人は平気であると言明するのだが…。本日の早朝より吐血したのである。
「病院には?」
「蛇骨鬼婆ちゃんは受診を拒否したの…」
「承知したわ…」
すると三蔵郎は恐る恐る…。
「桜花姫様…如何されますか?」
「三蔵郎様…御免なさいね…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動すると自分自身を蛇骨鬼の家屋敷へと瞬間移動したのである。
「桜花姫様!?」
桜花姫は口寄せの妖術にて蛇骨鬼の家屋敷へと一瞬で瞬間移動する。蛇骨鬼はグッタリした様子であり居間で寝込む。
「誰かと思いきや…桜花姫ちゃんかね…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
桜花姫は恐る恐る寝込む蛇骨鬼に近寄る。
「大丈夫?」
問い掛けられた蛇骨鬼は瞑目するなり…。
「私の寿命は…恐らく数日だね…」
普段は誰よりも元気であり冗談が大好きな蛇骨鬼であるが今回ばかりは本当であると感じる。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
桜花姫は涙腺より涙か零れ落ちる。
「大丈夫かい?桜花姫ちゃんらしくないね…」
「蛇骨鬼婆ちゃん!」
桜花姫は力一杯密着したのである。
(桜花姫ちゃん…)
蛇骨鬼はボソッと発言する。
「あんたと小猫姫は私にとって…自慢の孫娘だよ…」
「私が…蛇骨鬼婆ちゃんの孫娘?」
孫娘の一言に桜花姫は内心嬉しくなる。
「私は老衰で旅立つかも知れないけれども…桜花姫ちゃんは桜花姫ちゃんらしく自由に生きな♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると蛇骨鬼はスヤスヤと熟睡したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…眠っちゃったな…」
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:50 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
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第三話
遭遇
同日の夕方…。最上級妖女の月影桜花姫は毎日の日課である天霊山の露天風呂に入浴したのである。
「極楽♪極楽♪」
露天風呂の適温の湯加減に桜花姫は満足する。
「天霊山の露天風呂は湯加減も適温だし…消耗しちゃった妖力も回復させられるから最高ね♪」
露天風呂の湯加減に満足した桜花姫であるが…。背後よりガサガサッと人気に気付いたのである。
(人気!?)
「一体何者!?」
警戒した様子で背後を直視する。すると背後の岩陰より茶髪の童顔美少女が出現したのである。
「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫の出現に桜花姫は笑顔で…。
「女の子なのに入浴中の女性を覗き見するなんて♪あんたは相当の物好きなのね♪三蔵郎様みたいだわ♪」
「私は…別に…」
小猫姫は苦笑いする。同時刻…。東国の寺院では三蔵郎がクシャミしたのである。
「一体何事でしょうか?誰か私の噂話でも…」
同時刻…。小猫姫は赤面した様子で着物を脱衣したのである。
「私も…天霊山の露天風呂に入浴したくて…」
小猫姫は恐る恐る周囲を警戒するなり…。石造りの露天風呂へと入浴したのである。
「小猫姫♪」
桜花姫は入浴中の小猫姫に近寄る。
「えっ…何よ?桜花姫姉ちゃん…」
「あんたのおっぱいって…饅頭みたいね♪」
「えっ?饅頭?」
桜花姫は赤面した表情で恐る恐る…。小猫姫の巨乳のおっぱいを力一杯弄ったのである。
「きゃっ!桜花姫姉ちゃんの助平!突然何するのよ!?」
突然の桜花姫の行為に小猫姫は動揺する。
「あんたのおっぱいは本当に饅頭みたいで可愛らしいわね♪」
(桜花姫姉ちゃん…)
小猫姫は赤面したのである。
「私だって!仕返ししちゃうよ!」
小猫姫も桜花姫に仕返しする。力一杯桜花姫の乳房を接触…。
「きゃっ!いや~ん♪」
桜花姫も赤面したのである。すると直後…。
「えっ?」
再度背後から気配を感じる。
「気配だわ…今度は誰かしら?」
「誰だろう?」
彼女達は恐る恐る背後を警戒すりなり…。岩陰より人気を感じる。
「誰なの?」
すると岩陰から水色の着物姿の花魁が出現する。
「あんたは…粉雪妖女の氷麗姫…」
「桜花姫…」
同時刻…。徘徊中の魍魎姫は東国の天空山頂上へと移動したのである。天空山とは東国の最高峰であり標高三キロメートルの巨山…。東国の観光地である。数年前は悪霊の出現により登山者は減少傾向であったが死霊餓狼の消滅以後…。再度登山者が増加し始める。天空山の頂上では鎖鎌を所持するとある童顔の美少女が修行に尽力する。
「修行して最上級妖女の月影桜花姫様は無理でも…妹分の小猫姫には勝利したいわね…」
彼女は妖女の【山茶花姫】…。年齢は小猫姫と同年代であり彼女の好敵手である。彼女の家系は最強の忍者一族であり戦乱時代は諜報活動…。要人の暗殺任務で活躍したのである。安穏時代は平和であり忍者の仕事は限定的であるが…。山茶花姫は唯一の女性忍者であり匪賊の暗殺任務に従事する。山茶花姫は鎖鎌の大鎌を投擲しては近辺の樹木をグルグルに絡まらせる。
「雷撃!」
両手より雷撃の妖術を発動…。体内から放電させた雷光を所持品の鎖鎌に流電させたのである。直後…。樹木が黒焦げに燃焼する。
「上出来♪上出来♪」
修行の成果に山茶花姫は大喜びしたのである。
「こんな私でも山猫妖女の小猫姫になら対抗出来そうね♪」
ホッとした直後…。
(えっ?)
僅少であるが突如として別の妖力が天空山頂上に接近するのを感じる。
(妖力を感じるわね…一体何かしら?)
警戒した山茶花姫は恐る恐る背後を直視する。
「あんた…何者よ?」
(妖女なのかしら…)
山茶花姫の背後には全裸の女性が佇立…。彼女はヘラヘラした表情で山茶花姫を凝視したのである。
(何者なの?此奴…悪霊みたいで気味悪いわね…)
すると全裸の女性は笑顔で…。
「私♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「魍魎姫?あんたみたいな妖女は初耳だわ…」
(彼女の体内から僅少の妖力は感じられるけれども…彼女は一体何者なのかしら?)
魍魎姫が妖女なのか疑問視する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「此奴…」
(先程から食べたい…食べたいって鬱陶しいわね…)
山茶花姫は只管食べたいと連呼する魍魎姫に大層苛立ったのである。
「あんたみたいな下級妖女…即刻死になさい!」
山茶花姫は即座に鎖鎌を投擲…。魍魎姫を捕縛したのである。身動き出来なくなった魍魎姫であるがヘラヘラする。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ヘラヘラする魍魎姫に山茶花姫は気味悪がる。
「あんたみたいな痴人と遭遇したのは初体験ね…」
山茶花姫は妖力を発動…。
「自爆しろ…」
山茶花姫は自爆の妖術を発動したのである。
「えっ♪」
直後…。魍魎姫の肉体は自爆の妖術によってバラバラに粉砕される。天空山頂上には魍魎姫の血肉やら肉片が飛散したのである。
「所詮は下級妖女…あんたみたいな下級妖女が私を食い殺すなんて無謀なのよ…」
戻ろうかと思いきや…。飛散した周辺の肉片がピクピクッと鼓動すると一瞬で融合化したのである。融合化した肉塊は女体を形作り…。元通りの魍魎姫に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
「なっ!?」
(此奴…肉体をバラバラに粉砕させても元通りに戻れるなんて…此奴は悪霊以上に厄介ね…)
山茶花姫は驚愕したのか恐る恐る後退りする。
「今度は私の出番♪私の出番♪私の出番♪」
魍魎姫は捕食した氷麗姫の氷結の妖術を発動…。山茶花姫の両足を氷結させたのである。
「なっ!?氷結!?」
山茶花姫は両足の氷結により身動き出来なくなる。
(迂闊だったわ…)
すると魍魎姫は両手より無数の触手を生成させるなり…。山茶花姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
触手の吸盤により身動きを封殺する。
「ぐっ!」
(迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…)
山茶花姫の身体髪膚は魍魎姫の触手に覆い包まれる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
数秒後…。
(馬鹿だったわ…私…こんな痴人に食い殺されるなんて…)
触手で覆い包まれた山茶花姫の肉体は触手諸共魍魎姫の体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪」
妖女の山茶花姫を食い殺した魍魎姫は天空山から退散する。同時刻…。氷麗姫は桜花姫の家屋敷にて真昼の出来事を一部始終告白したのである。
「あんたの粉雪の分身が魍魎姫なんて名前の…正体不明の女人に捕食されちゃったのね…」
「魍魎姫って女人の正体は…悪霊なのかな?」
小猫姫はボソッと発言する。
「悪霊なら霊力を感じられるでしょうし…私が即刻退治するわよ…悪霊は死霊餓狼が消滅しちゃったから俗界には出現しないわよ…」
死霊餓狼が消滅してより悪霊は出現しなくなる。
「昼間に遭遇した彼女からは霊力は感じられなかったわ…悪霊とは別物っぽかったけれど…妖女でも無さそうな雰囲気だったわね…」
現段階では魍魎姫の正体は不明であり彼女達はモヤモヤする。すると桜花姫は恐る恐る…。
「彼女の正体が悪霊でも…妖女にも該当しないのであれば…神族の一員の可能性は…」
「神族の一員ですって?」
神族の仮説に小猫姫は否定する。
「蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は大昔の大戦で全滅しちゃったらしいよ…」
「私も同感…」
「であれば魍魎姫って一体何者なのかしら?」
結局魍魎姫の正体が何者なのか不明であり彼女達はモヤモヤした様子で解散したのである。小猫姫は帰宅途中…。
「えっ?何だろう?」
南国国境の山道よりフラフラした状態で歩行し続ける人影を発見したのである。
(人影かな?)
周囲は暗闇であり人影の正体は不明であるが…。フラフラした身動きで小猫姫の方向に接近する。
(悪霊っぽいけれど…)
「悪霊は死霊餓狼が消滅しちゃったから出現しないし…こんな真夜中に一体何者だろう?」
人影がフラフラした状態で小猫姫の間近に近寄る。
「えっ!?」
(女の人!?)
人影の正体は全裸の女性であり小猫姫を直視するなりニコッと微笑む。
「あんた♪妖女♪食べたい♪」
彼女の口言葉に小猫姫はハッとする。
(食べたいって…ひょっとして彼女が氷麗姫様の粉雪分身を捕食した…魍魎姫!?)
全裸の女性が魍魎姫であると察知…。小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
(此奴が本当に魍魎姫であれば…)
小猫姫は睥睨するなり…。
「あんたが魍魎姫なら私が征伐するよ!」
「私♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で小猫姫に近寄ったのである。
「あんた何者よ!?私に近寄らないで!」
小猫姫は近寄る魍魎姫に睥睨する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
小猫姫に睥睨された魍魎姫であるが…。彼女はヘラヘラした様子である。
「此奴…」
小猫姫は非常に苛立ったのか大声で…。
「私に近寄るな!」
変化の妖術を発動すると伝説の妖獣に変化したのである。小猫姫の妖力は莫大であり近寄った魍魎姫の肉体は一瞬で粉砕され…。地面にはバラバラに粉砕された無数の血肉やら肉片が飛散したのである。
「簡単に仕留めちゃったね…全身に妖力を放出させただけなのに…」
小猫姫は全身に妖力を放出させただけであり魍魎姫の肉体は非常に脆弱なのか簡単に粉砕される。
「こんな場所で長居したくないし…」
(即刻戻らないと…蛇骨鬼婆ちゃんを心配させちゃうよね…)
南国の自宅に戻ろうかと思いきや…。バラバラに粉砕された魍魎姫の血肉が融合化すると元通りの女体の姿形に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
元通りに再生した魍魎姫の肉体に小猫姫は驚愕する。
「なっ!?」
(此奴…肉体がバラバラでも元通りに復活出来るの!?)
小猫姫は警戒した様子で口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!」
口先より高熱の雷球を発射…。高熱の雷球は魍魎姫の肉体に直撃すると彼女の肉体は簡単に粉砕されたのである。
「今度こそ…」
焦土化した山道には黒焦げの肉片が散乱する。
(今度こそ魍魎姫は死滅したかな?)
数秒後…。一部の小指サイズの肉片が等身大サイズに細胞分裂すると等身大の女体を形成させる。
(えっ!?魍魎姫は不死身!?)
小猫姫はゾッとしたのである。女体は魍魎姫の肉体へと形作られる。
「元通り♪復活♪復活♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で再度小猫姫に近寄る。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
小猫姫は再度高熱の雷球を発射するのだが…。魍魎姫は両手より無数の触手を発動すると高熱の雷球を吸収したのである。
「えっ!?雷球が…」
妖力の吸収能力によって小猫姫の雷球を無力化する。
「あんたの妖力♪美味しい♪妖力♪美味しい♪」
魍魎姫は大喜びしたのである。
「今度はあんた♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫は再度両手から無数の触手を発動…。妖獣形態の小猫姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
(身動き出来ない…如何すれば!?)
魍魎姫の触手により小猫姫は身動き出来なくなる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
彼女の触手が皮膚に密着すると全身の妖力が吸収され…。小猫姫は一瞬で元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「ぐっ!」
(変化の妖術が解除されちゃった…私…食い殺されちゃうよ…)
小猫姫は極度の恐怖心からか涙腺から涙が零れ落ちる。
(蛇骨鬼婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…)
魍魎姫の体内へと吸収される直前…。突如として魍魎姫の肉体がパンっと破裂したのである。
「きゃっ!」
突然の出来事に小猫姫は吃驚する。
「えっ!?」
(魍魎姫が…)
直後…。何者かが小猫姫の背中をポンッと接触する。
「ひゃっ!」
吃驚した小猫姫は即座に背後を直視…。
「桜花姫姉ちゃん!?」
小猫姫の背中を接触した人物は誰であろう最上級妖女…。桜花姫だったのである。
「御免あそばせ♪小猫姫♪」
「桜花姫姉ちゃん♪」
桜花姫の参上に小猫姫はホッとしたのか一安心する。
「桜花姫姉ちゃん…感謝するね…」
恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」
「あんたの妖力は勿論だけど…複数の妖女の妖力を察知したからね♪」
南国の国境より小猫姫と数人の妖女の妖力を察知したのである。
「此奴は魍魎姫だよ…」
直後…。念力の妖術でバラバラに粉砕された魍魎姫の血肉が融合化すると元通りに戻ったのである。
「元通り♪元通り♪復活♪復活♪」
復活した魍魎姫はヘラヘラした表情で桜花姫を凝視する。
「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「彼女が魍魎姫ね…」
(彼女の体内から小猫姫と氷麗姫の妖力と…別の誰かの妖力が感じられるわね…)
現段階では彼女が何者なのかは不明であるが…。複数の妖女の妖力を吸収したのは確実であると認識出来る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
すると魍魎姫は氷麗姫の氷結の妖術を発動したのである。氷結の妖術により桜花姫の両足が氷結され…。身動き出来なくなる。
(氷麗姫の妖術ね…)
身動き出来なくなった桜花姫であるが…。彼女は冷静である。直後…。魍魎姫は両手から無数の触手を生成させ氷結により身動き出来なくなった桜花姫を拘束する。
「桜花姫姉ちゃんが拘束されちゃった!」
拘束された桜花姫に小猫姫はハラハラしたのである。
「心配しなくても大丈夫よ…小猫姫…」
捕食されても可笑しくない状態であるが…。桜花姫は冷静であり小猫姫は不思議がる。
(食い殺されちゃうかも知れないのに…如何して桜花姫姉ちゃんは冷静なの?)
すると魍魎姫はヘラヘラした様子で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
桜花姫の肉体は魍魎姫の触手により覆い包まれる。
「桜花姫姉ちゃん!?」
(食べられちゃう!)
畏怖する小猫姫であるが…。魍魎姫の触手に覆い包まれた桜花姫の肉体から白煙が発生するとポンッと消滅したのである。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?桜花姫姉ちゃんは!?」
小猫姫は勿論…。
「えっ?妖女は?妖女は?」
魍魎姫でさえも何が発生したのか理解出来ない。すると魍魎姫の背後より何者かがポンッと彼女の背中を接触する。
「えっ?誰?誰?」
「残念だったわね♪魍魎姫♪」
「桜花姫姉ちゃん!?」
(無事だったのね…冷や冷やしちゃったよ…)
冷や冷やした小猫姫であるが…。桜花姫は健在であり彼女はホッとしたのである。
「妖女?妖女?」
「あんたが拘束したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は魍魎姫に食い殺される寸前…。分身の妖術を発動したのである。
「残念だったわね♪あんたみたいなお馬鹿さんが最上級妖女である私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
すると魍魎姫は周囲をキョロキョロさせる。
「覚悟しなさい♪」
魍魎姫は圧倒的に不利であると判断…。雷撃分身の妖術を発動したのである。雷撃分身の妖術とは自爆分身の妖術の類似妖術であり分身体を攻撃用に転用させた妖術…。分身体を自爆させ相手を感電死させる妖術である。魍魎姫の肉体が雷撃に変化…。桜花姫と小猫姫を急襲したのである。
「なっ!?」
(雷撃分身の妖術!?)
桜花姫は自身の肉体と小猫姫に防壁の妖術を発動…。雷撃分身による感電攻撃を無力化したのである。
「危機一髪だったわね♪」
桜花姫は一安心する。
「魍魎姫…結局逃げられちゃったね…」
魍魎姫は雷撃分身の妖術を発動したと同時に逃亡したのである。
「逃げられちゃったのは残念だわ…」
最早桜花姫でも妖力も感じられず…。逃亡した魍魎姫を追撃するのは不可能だったのである。
「今度遭遇したら確実に魍魎姫を仕留めましょう…」
(結局彼奴は何者なのかしらね?魍魎姫の体内からは妖力を感じられたけれど…違和感が…)
魍魎姫の体内からは妖力を感じられるのだが…。妖女と断言すると微妙に異質的だったのである。すると小猫姫が恐る恐る発言する。
「蛇骨鬼婆ちゃんだったら魍魎姫の正体が何者なのか判明出来るかも…」
「であれば即刻南国の村里に直行しましょう♪」
彼女達は南国の村里へと直行したのである。数分後…。蛇骨鬼の自宅へと到達する。
「今晩は♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
笑顔で挨拶するのだが…。
「えっ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん?」
蛇骨鬼は居間にグッタリと横たわった状態だったのである。小猫姫が蛇骨鬼に殺到する。
「蛇骨鬼婆ちゃん!?」
すると蛇骨鬼が恐る恐る目覚める。
「小猫姫かい…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫?」
問い掛けられた蛇骨鬼は小声で返答する。
「私は大丈夫だよ…常日頃の疲労が蓄積しちまっただけだから…」
「疲労だったの…」
小猫姫は一安心したのかホッとしたのである。すると桜花姫が恐る恐る質問する。
「蛇骨鬼婆ちゃん?質問なのだけど…」
「質問だって?」
桜花姫は先程の出来事を一部始終蛇骨鬼に口述したのである。
「魍魎姫と名乗る正体不明の女人ね…」
「彼女の正体が妖女なのか神族なのか…知りたくてね…」
すると蛇骨鬼は発言する。
「神族は該当しないね…俗界で私以外の神族は実質存在しないからね…」
「消去法で妖女かしら?」
「微妙だけど…妖女とも無縁かな…」
妖女も否定したのである。
「妖女とも無縁であれば…彼女は一体何者なのかしら?」
蛇骨鬼は一瞬沈黙するなり…。
「ひょっとすると魍魎姫の正体は…人工の妖女とか…」
「えっ!?人工の妖女ですって!?」
蛇骨鬼の人工の妖女発言に桜花姫と小猫姫は驚愕する。
「人工って…人間によって誕生した妖女なの?」
「人為的に妖女なんて出来るの?」
「五百年前の伝承だけれどね…」
五百年前の出来事である。とある村里の夫婦が疫病で死去した愛娘の遺体に世界樹として認識される霊魂巨神木の破片を愛娘の遺体に含有…。愛娘は元通りの姿形に復活したのである。愛娘の復活に大喜びした夫婦であったが…。復活した愛娘は生前とは別人であり姿形は人間の少女であるが悪霊以上の怪物だったのである。夫婦は彼女に食い殺され…。村里で暴れ回る。一晩中暴れ回った彼女は最終的に村里の妖女によって退治されたのである。
「人間の愚行による悲劇だね…」
すると桜花姫は一言…。
「結局は人間達の自業自得ね…」
桜花姫は愛娘を怪物として復活させた夫婦を自業自得であると感じる。
「先程の伝承から魍魎姫の正体が判明したわね…」
「ひょっとして魍魎姫の正体は人間の愚行によって復活した…女性の遺体だったの?」
「かも知れないね…」
断言は出来ないが魍魎姫の大凡の正体を把握した桜花姫は西国へと戻ったのである。
遭遇
同日の夕方…。最上級妖女の月影桜花姫は毎日の日課である天霊山の露天風呂に入浴したのである。
「極楽♪極楽♪」
露天風呂の適温の湯加減に桜花姫は満足する。
「天霊山の露天風呂は湯加減も適温だし…消耗しちゃった妖力も回復させられるから最高ね♪」
露天風呂の湯加減に満足した桜花姫であるが…。背後よりガサガサッと人気に気付いたのである。
(人気!?)
「一体何者!?」
警戒した様子で背後を直視する。すると背後の岩陰より茶髪の童顔美少女が出現したのである。
「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫の出現に桜花姫は笑顔で…。
「女の子なのに入浴中の女性を覗き見するなんて♪あんたは相当の物好きなのね♪三蔵郎様みたいだわ♪」
「私は…別に…」
小猫姫は苦笑いする。同時刻…。東国の寺院では三蔵郎がクシャミしたのである。
「一体何事でしょうか?誰か私の噂話でも…」
同時刻…。小猫姫は赤面した様子で着物を脱衣したのである。
「私も…天霊山の露天風呂に入浴したくて…」
小猫姫は恐る恐る周囲を警戒するなり…。石造りの露天風呂へと入浴したのである。
「小猫姫♪」
桜花姫は入浴中の小猫姫に近寄る。
「えっ…何よ?桜花姫姉ちゃん…」
「あんたのおっぱいって…饅頭みたいね♪」
「えっ?饅頭?」
桜花姫は赤面した表情で恐る恐る…。小猫姫の巨乳のおっぱいを力一杯弄ったのである。
「きゃっ!桜花姫姉ちゃんの助平!突然何するのよ!?」
突然の桜花姫の行為に小猫姫は動揺する。
「あんたのおっぱいは本当に饅頭みたいで可愛らしいわね♪」
(桜花姫姉ちゃん…)
小猫姫は赤面したのである。
「私だって!仕返ししちゃうよ!」
小猫姫も桜花姫に仕返しする。力一杯桜花姫の乳房を接触…。
「きゃっ!いや~ん♪」
桜花姫も赤面したのである。すると直後…。
「えっ?」
再度背後から気配を感じる。
「気配だわ…今度は誰かしら?」
「誰だろう?」
彼女達は恐る恐る背後を警戒すりなり…。岩陰より人気を感じる。
「誰なの?」
すると岩陰から水色の着物姿の花魁が出現する。
「あんたは…粉雪妖女の氷麗姫…」
「桜花姫…」
同時刻…。徘徊中の魍魎姫は東国の天空山頂上へと移動したのである。天空山とは東国の最高峰であり標高三キロメートルの巨山…。東国の観光地である。数年前は悪霊の出現により登山者は減少傾向であったが死霊餓狼の消滅以後…。再度登山者が増加し始める。天空山の頂上では鎖鎌を所持するとある童顔の美少女が修行に尽力する。
「修行して最上級妖女の月影桜花姫様は無理でも…妹分の小猫姫には勝利したいわね…」
彼女は妖女の【山茶花姫】…。年齢は小猫姫と同年代であり彼女の好敵手である。彼女の家系は最強の忍者一族であり戦乱時代は諜報活動…。要人の暗殺任務で活躍したのである。安穏時代は平和であり忍者の仕事は限定的であるが…。山茶花姫は唯一の女性忍者であり匪賊の暗殺任務に従事する。山茶花姫は鎖鎌の大鎌を投擲しては近辺の樹木をグルグルに絡まらせる。
「雷撃!」
両手より雷撃の妖術を発動…。体内から放電させた雷光を所持品の鎖鎌に流電させたのである。直後…。樹木が黒焦げに燃焼する。
「上出来♪上出来♪」
修行の成果に山茶花姫は大喜びしたのである。
「こんな私でも山猫妖女の小猫姫になら対抗出来そうね♪」
ホッとした直後…。
(えっ?)
僅少であるが突如として別の妖力が天空山頂上に接近するのを感じる。
(妖力を感じるわね…一体何かしら?)
警戒した山茶花姫は恐る恐る背後を直視する。
「あんた…何者よ?」
(妖女なのかしら…)
山茶花姫の背後には全裸の女性が佇立…。彼女はヘラヘラした表情で山茶花姫を凝視したのである。
(何者なの?此奴…悪霊みたいで気味悪いわね…)
すると全裸の女性は笑顔で…。
「私♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「魍魎姫?あんたみたいな妖女は初耳だわ…」
(彼女の体内から僅少の妖力は感じられるけれども…彼女は一体何者なのかしら?)
魍魎姫が妖女なのか疑問視する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「此奴…」
(先程から食べたい…食べたいって鬱陶しいわね…)
山茶花姫は只管食べたいと連呼する魍魎姫に大層苛立ったのである。
「あんたみたいな下級妖女…即刻死になさい!」
山茶花姫は即座に鎖鎌を投擲…。魍魎姫を捕縛したのである。身動き出来なくなった魍魎姫であるがヘラヘラする。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ヘラヘラする魍魎姫に山茶花姫は気味悪がる。
「あんたみたいな痴人と遭遇したのは初体験ね…」
山茶花姫は妖力を発動…。
「自爆しろ…」
山茶花姫は自爆の妖術を発動したのである。
「えっ♪」
直後…。魍魎姫の肉体は自爆の妖術によってバラバラに粉砕される。天空山頂上には魍魎姫の血肉やら肉片が飛散したのである。
「所詮は下級妖女…あんたみたいな下級妖女が私を食い殺すなんて無謀なのよ…」
戻ろうかと思いきや…。飛散した周辺の肉片がピクピクッと鼓動すると一瞬で融合化したのである。融合化した肉塊は女体を形作り…。元通りの魍魎姫に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
「なっ!?」
(此奴…肉体をバラバラに粉砕させても元通りに戻れるなんて…此奴は悪霊以上に厄介ね…)
山茶花姫は驚愕したのか恐る恐る後退りする。
「今度は私の出番♪私の出番♪私の出番♪」
魍魎姫は捕食した氷麗姫の氷結の妖術を発動…。山茶花姫の両足を氷結させたのである。
「なっ!?氷結!?」
山茶花姫は両足の氷結により身動き出来なくなる。
(迂闊だったわ…)
すると魍魎姫は両手より無数の触手を生成させるなり…。山茶花姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
触手の吸盤により身動きを封殺する。
「ぐっ!」
(迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…)
山茶花姫の身体髪膚は魍魎姫の触手に覆い包まれる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
数秒後…。
(馬鹿だったわ…私…こんな痴人に食い殺されるなんて…)
触手で覆い包まれた山茶花姫の肉体は触手諸共魍魎姫の体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪」
妖女の山茶花姫を食い殺した魍魎姫は天空山から退散する。同時刻…。氷麗姫は桜花姫の家屋敷にて真昼の出来事を一部始終告白したのである。
「あんたの粉雪の分身が魍魎姫なんて名前の…正体不明の女人に捕食されちゃったのね…」
「魍魎姫って女人の正体は…悪霊なのかな?」
小猫姫はボソッと発言する。
「悪霊なら霊力を感じられるでしょうし…私が即刻退治するわよ…悪霊は死霊餓狼が消滅しちゃったから俗界には出現しないわよ…」
死霊餓狼が消滅してより悪霊は出現しなくなる。
「昼間に遭遇した彼女からは霊力は感じられなかったわ…悪霊とは別物っぽかったけれど…妖女でも無さそうな雰囲気だったわね…」
現段階では魍魎姫の正体は不明であり彼女達はモヤモヤする。すると桜花姫は恐る恐る…。
「彼女の正体が悪霊でも…妖女にも該当しないのであれば…神族の一員の可能性は…」
「神族の一員ですって?」
神族の仮説に小猫姫は否定する。
「蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は大昔の大戦で全滅しちゃったらしいよ…」
「私も同感…」
「であれば魍魎姫って一体何者なのかしら?」
結局魍魎姫の正体が何者なのか不明であり彼女達はモヤモヤした様子で解散したのである。小猫姫は帰宅途中…。
「えっ?何だろう?」
南国国境の山道よりフラフラした状態で歩行し続ける人影を発見したのである。
(人影かな?)
周囲は暗闇であり人影の正体は不明であるが…。フラフラした身動きで小猫姫の方向に接近する。
(悪霊っぽいけれど…)
「悪霊は死霊餓狼が消滅しちゃったから出現しないし…こんな真夜中に一体何者だろう?」
人影がフラフラした状態で小猫姫の間近に近寄る。
「えっ!?」
(女の人!?)
人影の正体は全裸の女性であり小猫姫を直視するなりニコッと微笑む。
「あんた♪妖女♪食べたい♪」
彼女の口言葉に小猫姫はハッとする。
(食べたいって…ひょっとして彼女が氷麗姫様の粉雪分身を捕食した…魍魎姫!?)
全裸の女性が魍魎姫であると察知…。小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
(此奴が本当に魍魎姫であれば…)
小猫姫は睥睨するなり…。
「あんたが魍魎姫なら私が征伐するよ!」
「私♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で小猫姫に近寄ったのである。
「あんた何者よ!?私に近寄らないで!」
小猫姫は近寄る魍魎姫に睥睨する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
小猫姫に睥睨された魍魎姫であるが…。彼女はヘラヘラした様子である。
「此奴…」
小猫姫は非常に苛立ったのか大声で…。
「私に近寄るな!」
変化の妖術を発動すると伝説の妖獣に変化したのである。小猫姫の妖力は莫大であり近寄った魍魎姫の肉体は一瞬で粉砕され…。地面にはバラバラに粉砕された無数の血肉やら肉片が飛散したのである。
「簡単に仕留めちゃったね…全身に妖力を放出させただけなのに…」
小猫姫は全身に妖力を放出させただけであり魍魎姫の肉体は非常に脆弱なのか簡単に粉砕される。
「こんな場所で長居したくないし…」
(即刻戻らないと…蛇骨鬼婆ちゃんを心配させちゃうよね…)
南国の自宅に戻ろうかと思いきや…。バラバラに粉砕された魍魎姫の血肉が融合化すると元通りの女体の姿形に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
元通りに再生した魍魎姫の肉体に小猫姫は驚愕する。
「なっ!?」
(此奴…肉体がバラバラでも元通りに復活出来るの!?)
小猫姫は警戒した様子で口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!」
口先より高熱の雷球を発射…。高熱の雷球は魍魎姫の肉体に直撃すると彼女の肉体は簡単に粉砕されたのである。
「今度こそ…」
焦土化した山道には黒焦げの肉片が散乱する。
(今度こそ魍魎姫は死滅したかな?)
数秒後…。一部の小指サイズの肉片が等身大サイズに細胞分裂すると等身大の女体を形成させる。
(えっ!?魍魎姫は不死身!?)
小猫姫はゾッとしたのである。女体は魍魎姫の肉体へと形作られる。
「元通り♪復活♪復活♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で再度小猫姫に近寄る。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
小猫姫は再度高熱の雷球を発射するのだが…。魍魎姫は両手より無数の触手を発動すると高熱の雷球を吸収したのである。
「えっ!?雷球が…」
妖力の吸収能力によって小猫姫の雷球を無力化する。
「あんたの妖力♪美味しい♪妖力♪美味しい♪」
魍魎姫は大喜びしたのである。
「今度はあんた♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫は再度両手から無数の触手を発動…。妖獣形態の小猫姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
(身動き出来ない…如何すれば!?)
魍魎姫の触手により小猫姫は身動き出来なくなる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
彼女の触手が皮膚に密着すると全身の妖力が吸収され…。小猫姫は一瞬で元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「ぐっ!」
(変化の妖術が解除されちゃった…私…食い殺されちゃうよ…)
小猫姫は極度の恐怖心からか涙腺から涙が零れ落ちる。
(蛇骨鬼婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…)
魍魎姫の体内へと吸収される直前…。突如として魍魎姫の肉体がパンっと破裂したのである。
「きゃっ!」
突然の出来事に小猫姫は吃驚する。
「えっ!?」
(魍魎姫が…)
直後…。何者かが小猫姫の背中をポンッと接触する。
「ひゃっ!」
吃驚した小猫姫は即座に背後を直視…。
「桜花姫姉ちゃん!?」
小猫姫の背中を接触した人物は誰であろう最上級妖女…。桜花姫だったのである。
「御免あそばせ♪小猫姫♪」
「桜花姫姉ちゃん♪」
桜花姫の参上に小猫姫はホッとしたのか一安心する。
「桜花姫姉ちゃん…感謝するね…」
恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」
「あんたの妖力は勿論だけど…複数の妖女の妖力を察知したからね♪」
南国の国境より小猫姫と数人の妖女の妖力を察知したのである。
「此奴は魍魎姫だよ…」
直後…。念力の妖術でバラバラに粉砕された魍魎姫の血肉が融合化すると元通りに戻ったのである。
「元通り♪元通り♪復活♪復活♪」
復活した魍魎姫はヘラヘラした表情で桜花姫を凝視する。
「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「彼女が魍魎姫ね…」
(彼女の体内から小猫姫と氷麗姫の妖力と…別の誰かの妖力が感じられるわね…)
現段階では彼女が何者なのかは不明であるが…。複数の妖女の妖力を吸収したのは確実であると認識出来る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
すると魍魎姫は氷麗姫の氷結の妖術を発動したのである。氷結の妖術により桜花姫の両足が氷結され…。身動き出来なくなる。
(氷麗姫の妖術ね…)
身動き出来なくなった桜花姫であるが…。彼女は冷静である。直後…。魍魎姫は両手から無数の触手を生成させ氷結により身動き出来なくなった桜花姫を拘束する。
「桜花姫姉ちゃんが拘束されちゃった!」
拘束された桜花姫に小猫姫はハラハラしたのである。
「心配しなくても大丈夫よ…小猫姫…」
捕食されても可笑しくない状態であるが…。桜花姫は冷静であり小猫姫は不思議がる。
(食い殺されちゃうかも知れないのに…如何して桜花姫姉ちゃんは冷静なの?)
すると魍魎姫はヘラヘラした様子で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
桜花姫の肉体は魍魎姫の触手により覆い包まれる。
「桜花姫姉ちゃん!?」
(食べられちゃう!)
畏怖する小猫姫であるが…。魍魎姫の触手に覆い包まれた桜花姫の肉体から白煙が発生するとポンッと消滅したのである。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?桜花姫姉ちゃんは!?」
小猫姫は勿論…。
「えっ?妖女は?妖女は?」
魍魎姫でさえも何が発生したのか理解出来ない。すると魍魎姫の背後より何者かがポンッと彼女の背中を接触する。
「えっ?誰?誰?」
「残念だったわね♪魍魎姫♪」
「桜花姫姉ちゃん!?」
(無事だったのね…冷や冷やしちゃったよ…)
冷や冷やした小猫姫であるが…。桜花姫は健在であり彼女はホッとしたのである。
「妖女?妖女?」
「あんたが拘束したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は魍魎姫に食い殺される寸前…。分身の妖術を発動したのである。
「残念だったわね♪あんたみたいなお馬鹿さんが最上級妖女である私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
すると魍魎姫は周囲をキョロキョロさせる。
「覚悟しなさい♪」
魍魎姫は圧倒的に不利であると判断…。雷撃分身の妖術を発動したのである。雷撃分身の妖術とは自爆分身の妖術の類似妖術であり分身体を攻撃用に転用させた妖術…。分身体を自爆させ相手を感電死させる妖術である。魍魎姫の肉体が雷撃に変化…。桜花姫と小猫姫を急襲したのである。
「なっ!?」
(雷撃分身の妖術!?)
桜花姫は自身の肉体と小猫姫に防壁の妖術を発動…。雷撃分身による感電攻撃を無力化したのである。
「危機一髪だったわね♪」
桜花姫は一安心する。
「魍魎姫…結局逃げられちゃったね…」
魍魎姫は雷撃分身の妖術を発動したと同時に逃亡したのである。
「逃げられちゃったのは残念だわ…」
最早桜花姫でも妖力も感じられず…。逃亡した魍魎姫を追撃するのは不可能だったのである。
「今度遭遇したら確実に魍魎姫を仕留めましょう…」
(結局彼奴は何者なのかしらね?魍魎姫の体内からは妖力を感じられたけれど…違和感が…)
魍魎姫の体内からは妖力を感じられるのだが…。妖女と断言すると微妙に異質的だったのである。すると小猫姫が恐る恐る発言する。
「蛇骨鬼婆ちゃんだったら魍魎姫の正体が何者なのか判明出来るかも…」
「であれば即刻南国の村里に直行しましょう♪」
彼女達は南国の村里へと直行したのである。数分後…。蛇骨鬼の自宅へと到達する。
「今晩は♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
笑顔で挨拶するのだが…。
「えっ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん?」
蛇骨鬼は居間にグッタリと横たわった状態だったのである。小猫姫が蛇骨鬼に殺到する。
「蛇骨鬼婆ちゃん!?」
すると蛇骨鬼が恐る恐る目覚める。
「小猫姫かい…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫?」
問い掛けられた蛇骨鬼は小声で返答する。
「私は大丈夫だよ…常日頃の疲労が蓄積しちまっただけだから…」
「疲労だったの…」
小猫姫は一安心したのかホッとしたのである。すると桜花姫が恐る恐る質問する。
「蛇骨鬼婆ちゃん?質問なのだけど…」
「質問だって?」
桜花姫は先程の出来事を一部始終蛇骨鬼に口述したのである。
「魍魎姫と名乗る正体不明の女人ね…」
「彼女の正体が妖女なのか神族なのか…知りたくてね…」
すると蛇骨鬼は発言する。
「神族は該当しないね…俗界で私以外の神族は実質存在しないからね…」
「消去法で妖女かしら?」
「微妙だけど…妖女とも無縁かな…」
妖女も否定したのである。
「妖女とも無縁であれば…彼女は一体何者なのかしら?」
蛇骨鬼は一瞬沈黙するなり…。
「ひょっとすると魍魎姫の正体は…人工の妖女とか…」
「えっ!?人工の妖女ですって!?」
蛇骨鬼の人工の妖女発言に桜花姫と小猫姫は驚愕する。
「人工って…人間によって誕生した妖女なの?」
「人為的に妖女なんて出来るの?」
「五百年前の伝承だけれどね…」
五百年前の出来事である。とある村里の夫婦が疫病で死去した愛娘の遺体に世界樹として認識される霊魂巨神木の破片を愛娘の遺体に含有…。愛娘は元通りの姿形に復活したのである。愛娘の復活に大喜びした夫婦であったが…。復活した愛娘は生前とは別人であり姿形は人間の少女であるが悪霊以上の怪物だったのである。夫婦は彼女に食い殺され…。村里で暴れ回る。一晩中暴れ回った彼女は最終的に村里の妖女によって退治されたのである。
「人間の愚行による悲劇だね…」
すると桜花姫は一言…。
「結局は人間達の自業自得ね…」
桜花姫は愛娘を怪物として復活させた夫婦を自業自得であると感じる。
「先程の伝承から魍魎姫の正体が判明したわね…」
「ひょっとして魍魎姫の正体は人間の愚行によって復活した…女性の遺体だったの?」
「かも知れないね…」
断言は出来ないが魍魎姫の大凡の正体を把握した桜花姫は西国へと戻ったのである。
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:49 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
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第二話
人工妖女
天地暦四千二十年十二月二十八日の十六時半…。北国に聳え立つ天神山の洞窟ではとある集団が集結する。
「全員集合したな…」
首領らしき人物が頭陀袋から木材の破片を入手したのである。
「ん?木材の…破片ですか?」
首領らしき人物は一息するなり…。
「此奴は付喪神の肉片だよ♪」
「付喪神の肉片!?」
付喪神とは通称小面蜘蛛の肉片である。
「付喪神って…悪霊の小面蜘蛛ですよね…」
「勿論だとも♪半年前に西国の廃村で付喪神の肉片を回収したからな…」
「頭領…付喪神の肉片を如何されるのでしょうか?」
すると集団の頭領は恐る恐る背後の物体を直視する。
「女人の…死体?」
「死体なんて気味悪いですね…」
頭領の背後には腐敗した小柄の女性の遺体が確認出来る。女性の遺体は皮膚の劣化により遺体の一部は完全に白骨化した状態だったのである。
「此奴の体内に付喪神の肉片を含有させ…史上最強の人工の妖女を誕生させるのだよ…」
「なっ!?人工の妖女ですと!?」
「本気ですか!?頭領!?」
人工の妖女を誕生させる計画であるが…。周囲の者達は本当に人工の妖女が誕生するのか如何なのか疑問視したのである。
「人工の妖女なんて…実現出来るのでしょうか?」
「実現出来るかは断言出来ないが…一か八か…」
頭領は恐る恐る小面蜘蛛の肉片を女性の遺体の内部に混入させる。すると直後である。
「なっ!?」
女性の遺体に小面蜘蛛の肉片を混入させると一瞬であるが…。女性の遺体がピクッと身動きしたのである。
「死体が一瞬身動きしたぞ…」
彼等は恐る恐る女性の遺体に近寄る。彼等が近寄るが女性の遺体は停止した様子であり何も反応しない。
「彼女は…身動きしなくなったな…」
「先程の超常現象は一体…」
数秒後…。遺体の腐敗した部分が猛スピードで再生され遺体は新鮮なる生身の女体へと変化したのである。
「うわっ!本物なのか?」
すると生身の女体は深呼吸し始める。
「此奴は生者みたいだな…実験は成功したのか!?」
頭領は大喜びする。
「計画は成功した♪人工の妖女が誕生したぞ♪」
外見のみなら黒髪で長髪の童顔美少女であり体格は小柄であるが非常に容姿端麗である。直後…。瞑目した生身の女体が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…」
「此奴は人形みたいな女人だな…」
生身の女体は警戒した様子であり血紅色の瞳孔で周囲を恐る恐る凝視したのである。
「別に警戒しなくても大丈夫だぞ♪貴様の名前は…人工妖女…【魍魎姫】なんて如何かな?」
頭領は生身の女体を魍魎姫と名付ける。魍魎姫と名付けられた生身の女体は無表情で頭領を凝視し始める。
「ん?空腹なのか?」
彼女は無反応であり何も喋らない。
「彼女は喋れないのかな?」
すると直後である。魍魎姫はニコッと微笑むなり…。
「えっ?」
右腕より複数の真蛸らしき触手を生成させると頭領に密着させる。
「うわっ!何事だ!?」
頭領は魍魎姫の触手に全身が覆い包まれ…。ズルズルと彼女の体内に吸収される。
「ひっ!」
「此奴…頭領を捕食しやがったぞ!」
警戒した周囲の人間達は即座に抜刀したのである。
「此奴は欠陥だ!即刻仕留めろ!」
危惧した魍魎姫は即座に両腕から無数の触手を生成…。周囲の人間達を拘束したのである。触手の吸盤が皮膚に密着され身動き出来なくなる。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
彼等はズルズルと彼女の体内へと吸収される。数秒間が経過すると魍魎姫の肉体が元通りに戻ったのである。すると直後…。
「食べたい…人間を…食べたい…食べたい…」
魍魎姫は人間の口言葉で発語したのである。彼女は周囲を警戒するなり恐る恐る洞窟から脱出…。全裸の状態で山道を直進する。洞窟から脱出した魍魎姫であるが夕方…。三人の匪賊達と遭遇する。
「ん?誰だ?」
「村娘の姉ちゃんか?」
「全裸だが…村娘は誰かに犯されちまったのか♪」
大柄の匪賊は全裸の彼女にムラムラしたのである。
「姉ちゃんは巨乳で可愛らしいな♪犯しちまいたいぜ♪」
すると大柄の匪賊が彼女の乳房を弄る。
「饅頭みたいだな♪」
乳房を弄られた魍魎姫であるが…。
「ん?此奴…」
彼女は無反応であり無表情だったのである。
「此奴は人形みたいで気味悪いな…普通の女子だったら悲鳴か抵抗するだろうに…」
匪賊の一人が無抵抗の魍魎姫に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
「こんな小娘相手に畏怖しやがって♪」
大柄の匪賊は揶揄したのである。直後…。
「食べたい…」
「ん?」
彼女の食べたいと発言する一言に匪賊達は反応する。
「食べたいって…何を?」
大柄の匪賊に問い掛けられた魍魎姫はニコッと微笑む。
「人間…食べたい♪人間♪食べたい♪私♪空腹♪空腹♪」
「はっ?」
直後である。
「えっ!?」
魍魎姫の左腕から無数の触手が生成すると大柄の匪賊の肉体を覆い包み…。ズルズルと大柄の肉体諸共匪賊を体内に吸収したのである。
「ひっ!」
「此奴は怪物か!?」
魍魎姫に畏怖した二人の匪賊は一目散に逃走…。魍魎姫は一息する。
「今度は妖女♪妖女が食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」
大勢の人間達を捕食した影響からか先程よりは大人びた雰囲気へと変貌したのである。翌日の真昼…。桜花姫は久方振りに死去した父親の夜叉丸と母親の美海姫の墓参りに出掛けたのである。
(父様…母様…)
桜花姫は両目を瞑目させるなり恐る恐る合掌する。すると直後である。突然背後より…。
「桜花姫ちゃんが両親の墓参りとは珍妙だね♪」
「きゃっ!」
吃驚した桜花姫は即座に背後を直視したのである。
「誰かと思いきや…蛇骨鬼婆ちゃん…吃驚させないでよね…」
「御免よ♪御免よ♪吃驚させちゃったね♪」
蛇骨鬼は笑顔で謝罪する。
「最近は悪霊征伐で多忙だったからね…」
「久方振りに元気そうなあんたと対面出来て…両親も大喜びだろうよ♪」
蛇骨鬼が笑顔で発言するのだが…。
「如何かな?母様は私が殺しちゃったのよね…」
「桜花姫ちゃん…」
蛇骨鬼は桜花姫の雰囲気に一瞬気まずくなる。すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「私の父様って…どんな人物だったの?」
問い掛けられた蛇骨鬼は一瞬困惑するものの…。
「第一印象は優男とは程遠い印象だったかね…生真面目だけど必要以上に厳格だったかな?」
「三蔵郎様とは正反対みたいね…」
桜花姫は苦笑いする。
「普段の彼奴は…夜叉丸は厳格で一匹狼だったけれども…人一倍人情味で情熱的だったかな?」
「一匹狼なのは私みたいだね…父様♪」
桜花姫はニコッと微笑む。
「一匹狼っぽい部分は桜花姫ちゃんっぽいね♪」
「本当ね♪私も一人で行動するのが大好きだからね♪」
二人は談笑したのである。同時刻…。粉雪妖女の氷麗姫は北国の山道を通行したのである。
「はぁ…最近は退屈だわ…」
氷麗姫は花魁として活動中であったが…。時たま匪賊の征伐にも尽力したのである。死霊餓狼の消滅以後…。世の中は非常に平和であり匪賊の活動も小規模化したのである。
「匪賊達も桜花姫に畏怖しちゃったのかしら?本当に退屈だわ…」
(こんなにも世の中が平和だと…私が活躍したくても活躍出来ないわね…)
日常が退屈であると愚痴る氷麗姫であるが…。数メートルの近距離より全裸の女性が笑顔で歩行するのを確認する。
「えっ!?」
(如何して彼女は全裸なのよ!?)
気味悪いと感じるなり氷麗姫は素通りするのだが…。彼女は笑顔でジロジロと氷麗姫を凝視し続ける。無視したい氷麗姫であるが…。
「鬱陶しいわね!先程から何よ!?」
苛立った氷麗姫はヘラヘラする全裸の女性に怒号したのである。すると彼女は笑顔で…。
「私♪名前♪魍魎姫♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」
彼女は自身を魍魎姫と名乗る。魍魎姫はヘラヘラした様子であり氷麗姫は気味悪くなったのか恐る恐る後退りする。
「えっ…魍魎姫だって?」
(此奴…悪霊なの!?悪霊って死霊餓狼が浄化されちゃったから…悪霊とは別物よね?霊力は感じられないし…)
現段階では魍魎姫と名乗る全裸の女性が何者なのかは不明瞭であり氷麗姫は非常に気味悪がる。
(何方にせよ厄介だわ…此奴の正体は一体何者なのかしら?)
氷麗姫は魍魎姫に睥睨する。
「あんた…凍死しなさい…」
氷麗姫は粉雪妖術を発動…。魍魎姫の両足を氷結させ魍魎姫は身動き出来なくなる。
「ぎゃっ!身動き…出来ない…食べられない♪食べられない♪」
氷結の妖術で身動きを封殺された魍魎姫であるが…。こんな状態でも彼女はヘラヘラしたのである。
「えっ…」
(此奴…桜花姫以上に狂気ね…)
全身を氷結させる寸前…。魍魎姫は両手より蛸足を連想させる無数の触手を発動したのである。
「えっ!?」
魍魎姫の体内より出現した無数の触手が氷麗姫の全身に密着する。
「ひゃっ!」
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
触手の吸盤が皮膚に密着すると氷麗姫は気味悪くなる。
(畜生…一か八か…)
氷麗姫は一か八か粉雪分身の妖術を発動…。皮膚の表面より粉雪を地面に飛散させる。直後…。氷麗姫の全身は魍魎姫の触手に覆い包まれ触手諸共彼女の体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
氷麗姫を捕食した魍魎姫は大喜びする。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で移動したのである。魍魎姫が退散した数秒後…。飛散した粉雪が融合化すると女体を形作り氷麗姫が復活する。
「危機一髪だったわね…」
(粉雪分身の妖術を発動しなかったら…私は確実に食い殺されたわね…)
氷麗姫は周囲を警戒したのである。
「魍魎姫…下手すれば悪霊よりも厄介そうね…」
(桜花姫だったら…)
氷麗姫は即座に西国へと直行する。
人工妖女
天地暦四千二十年十二月二十八日の十六時半…。北国に聳え立つ天神山の洞窟ではとある集団が集結する。
「全員集合したな…」
首領らしき人物が頭陀袋から木材の破片を入手したのである。
「ん?木材の…破片ですか?」
首領らしき人物は一息するなり…。
「此奴は付喪神の肉片だよ♪」
「付喪神の肉片!?」
付喪神とは通称小面蜘蛛の肉片である。
「付喪神って…悪霊の小面蜘蛛ですよね…」
「勿論だとも♪半年前に西国の廃村で付喪神の肉片を回収したからな…」
「頭領…付喪神の肉片を如何されるのでしょうか?」
すると集団の頭領は恐る恐る背後の物体を直視する。
「女人の…死体?」
「死体なんて気味悪いですね…」
頭領の背後には腐敗した小柄の女性の遺体が確認出来る。女性の遺体は皮膚の劣化により遺体の一部は完全に白骨化した状態だったのである。
「此奴の体内に付喪神の肉片を含有させ…史上最強の人工の妖女を誕生させるのだよ…」
「なっ!?人工の妖女ですと!?」
「本気ですか!?頭領!?」
人工の妖女を誕生させる計画であるが…。周囲の者達は本当に人工の妖女が誕生するのか如何なのか疑問視したのである。
「人工の妖女なんて…実現出来るのでしょうか?」
「実現出来るかは断言出来ないが…一か八か…」
頭領は恐る恐る小面蜘蛛の肉片を女性の遺体の内部に混入させる。すると直後である。
「なっ!?」
女性の遺体に小面蜘蛛の肉片を混入させると一瞬であるが…。女性の遺体がピクッと身動きしたのである。
「死体が一瞬身動きしたぞ…」
彼等は恐る恐る女性の遺体に近寄る。彼等が近寄るが女性の遺体は停止した様子であり何も反応しない。
「彼女は…身動きしなくなったな…」
「先程の超常現象は一体…」
数秒後…。遺体の腐敗した部分が猛スピードで再生され遺体は新鮮なる生身の女体へと変化したのである。
「うわっ!本物なのか?」
すると生身の女体は深呼吸し始める。
「此奴は生者みたいだな…実験は成功したのか!?」
頭領は大喜びする。
「計画は成功した♪人工の妖女が誕生したぞ♪」
外見のみなら黒髪で長髪の童顔美少女であり体格は小柄であるが非常に容姿端麗である。直後…。瞑目した生身の女体が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…」
「此奴は人形みたいな女人だな…」
生身の女体は警戒した様子であり血紅色の瞳孔で周囲を恐る恐る凝視したのである。
「別に警戒しなくても大丈夫だぞ♪貴様の名前は…人工妖女…【魍魎姫】なんて如何かな?」
頭領は生身の女体を魍魎姫と名付ける。魍魎姫と名付けられた生身の女体は無表情で頭領を凝視し始める。
「ん?空腹なのか?」
彼女は無反応であり何も喋らない。
「彼女は喋れないのかな?」
すると直後である。魍魎姫はニコッと微笑むなり…。
「えっ?」
右腕より複数の真蛸らしき触手を生成させると頭領に密着させる。
「うわっ!何事だ!?」
頭領は魍魎姫の触手に全身が覆い包まれ…。ズルズルと彼女の体内に吸収される。
「ひっ!」
「此奴…頭領を捕食しやがったぞ!」
警戒した周囲の人間達は即座に抜刀したのである。
「此奴は欠陥だ!即刻仕留めろ!」
危惧した魍魎姫は即座に両腕から無数の触手を生成…。周囲の人間達を拘束したのである。触手の吸盤が皮膚に密着され身動き出来なくなる。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
彼等はズルズルと彼女の体内へと吸収される。数秒間が経過すると魍魎姫の肉体が元通りに戻ったのである。すると直後…。
「食べたい…人間を…食べたい…食べたい…」
魍魎姫は人間の口言葉で発語したのである。彼女は周囲を警戒するなり恐る恐る洞窟から脱出…。全裸の状態で山道を直進する。洞窟から脱出した魍魎姫であるが夕方…。三人の匪賊達と遭遇する。
「ん?誰だ?」
「村娘の姉ちゃんか?」
「全裸だが…村娘は誰かに犯されちまったのか♪」
大柄の匪賊は全裸の彼女にムラムラしたのである。
「姉ちゃんは巨乳で可愛らしいな♪犯しちまいたいぜ♪」
すると大柄の匪賊が彼女の乳房を弄る。
「饅頭みたいだな♪」
乳房を弄られた魍魎姫であるが…。
「ん?此奴…」
彼女は無反応であり無表情だったのである。
「此奴は人形みたいで気味悪いな…普通の女子だったら悲鳴か抵抗するだろうに…」
匪賊の一人が無抵抗の魍魎姫に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
「こんな小娘相手に畏怖しやがって♪」
大柄の匪賊は揶揄したのである。直後…。
「食べたい…」
「ん?」
彼女の食べたいと発言する一言に匪賊達は反応する。
「食べたいって…何を?」
大柄の匪賊に問い掛けられた魍魎姫はニコッと微笑む。
「人間…食べたい♪人間♪食べたい♪私♪空腹♪空腹♪」
「はっ?」
直後である。
「えっ!?」
魍魎姫の左腕から無数の触手が生成すると大柄の匪賊の肉体を覆い包み…。ズルズルと大柄の肉体諸共匪賊を体内に吸収したのである。
「ひっ!」
「此奴は怪物か!?」
魍魎姫に畏怖した二人の匪賊は一目散に逃走…。魍魎姫は一息する。
「今度は妖女♪妖女が食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」
大勢の人間達を捕食した影響からか先程よりは大人びた雰囲気へと変貌したのである。翌日の真昼…。桜花姫は久方振りに死去した父親の夜叉丸と母親の美海姫の墓参りに出掛けたのである。
(父様…母様…)
桜花姫は両目を瞑目させるなり恐る恐る合掌する。すると直後である。突然背後より…。
「桜花姫ちゃんが両親の墓参りとは珍妙だね♪」
「きゃっ!」
吃驚した桜花姫は即座に背後を直視したのである。
「誰かと思いきや…蛇骨鬼婆ちゃん…吃驚させないでよね…」
「御免よ♪御免よ♪吃驚させちゃったね♪」
蛇骨鬼は笑顔で謝罪する。
「最近は悪霊征伐で多忙だったからね…」
「久方振りに元気そうなあんたと対面出来て…両親も大喜びだろうよ♪」
蛇骨鬼が笑顔で発言するのだが…。
「如何かな?母様は私が殺しちゃったのよね…」
「桜花姫ちゃん…」
蛇骨鬼は桜花姫の雰囲気に一瞬気まずくなる。すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「私の父様って…どんな人物だったの?」
問い掛けられた蛇骨鬼は一瞬困惑するものの…。
「第一印象は優男とは程遠い印象だったかね…生真面目だけど必要以上に厳格だったかな?」
「三蔵郎様とは正反対みたいね…」
桜花姫は苦笑いする。
「普段の彼奴は…夜叉丸は厳格で一匹狼だったけれども…人一倍人情味で情熱的だったかな?」
「一匹狼なのは私みたいだね…父様♪」
桜花姫はニコッと微笑む。
「一匹狼っぽい部分は桜花姫ちゃんっぽいね♪」
「本当ね♪私も一人で行動するのが大好きだからね♪」
二人は談笑したのである。同時刻…。粉雪妖女の氷麗姫は北国の山道を通行したのである。
「はぁ…最近は退屈だわ…」
氷麗姫は花魁として活動中であったが…。時たま匪賊の征伐にも尽力したのである。死霊餓狼の消滅以後…。世の中は非常に平和であり匪賊の活動も小規模化したのである。
「匪賊達も桜花姫に畏怖しちゃったのかしら?本当に退屈だわ…」
(こんなにも世の中が平和だと…私が活躍したくても活躍出来ないわね…)
日常が退屈であると愚痴る氷麗姫であるが…。数メートルの近距離より全裸の女性が笑顔で歩行するのを確認する。
「えっ!?」
(如何して彼女は全裸なのよ!?)
気味悪いと感じるなり氷麗姫は素通りするのだが…。彼女は笑顔でジロジロと氷麗姫を凝視し続ける。無視したい氷麗姫であるが…。
「鬱陶しいわね!先程から何よ!?」
苛立った氷麗姫はヘラヘラする全裸の女性に怒号したのである。すると彼女は笑顔で…。
「私♪名前♪魍魎姫♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」
彼女は自身を魍魎姫と名乗る。魍魎姫はヘラヘラした様子であり氷麗姫は気味悪くなったのか恐る恐る後退りする。
「えっ…魍魎姫だって?」
(此奴…悪霊なの!?悪霊って死霊餓狼が浄化されちゃったから…悪霊とは別物よね?霊力は感じられないし…)
現段階では魍魎姫と名乗る全裸の女性が何者なのかは不明瞭であり氷麗姫は非常に気味悪がる。
(何方にせよ厄介だわ…此奴の正体は一体何者なのかしら?)
氷麗姫は魍魎姫に睥睨する。
「あんた…凍死しなさい…」
氷麗姫は粉雪妖術を発動…。魍魎姫の両足を氷結させ魍魎姫は身動き出来なくなる。
「ぎゃっ!身動き…出来ない…食べられない♪食べられない♪」
氷結の妖術で身動きを封殺された魍魎姫であるが…。こんな状態でも彼女はヘラヘラしたのである。
「えっ…」
(此奴…桜花姫以上に狂気ね…)
全身を氷結させる寸前…。魍魎姫は両手より蛸足を連想させる無数の触手を発動したのである。
「えっ!?」
魍魎姫の体内より出現した無数の触手が氷麗姫の全身に密着する。
「ひゃっ!」
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
触手の吸盤が皮膚に密着すると氷麗姫は気味悪くなる。
(畜生…一か八か…)
氷麗姫は一か八か粉雪分身の妖術を発動…。皮膚の表面より粉雪を地面に飛散させる。直後…。氷麗姫の全身は魍魎姫の触手に覆い包まれ触手諸共彼女の体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
氷麗姫を捕食した魍魎姫は大喜びする。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で移動したのである。魍魎姫が退散した数秒後…。飛散した粉雪が融合化すると女体を形作り氷麗姫が復活する。
「危機一髪だったわね…」
(粉雪分身の妖術を発動しなかったら…私は確実に食い殺されたわね…)
氷麗姫は周囲を警戒したのである。
「魍魎姫…下手すれば悪霊よりも厄介そうね…」
(桜花姫だったら…)
氷麗姫は即座に西国へと直行する。
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:48 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
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第三部
第一話
桜花
天地暦三千九百九十二年四月四日の真夜中…。東国武士団の夜番警備隊であった月影夜叉丸は東国の国境より出現した悪霊を征伐しに出掛ける。
「東国に悪霊が出現したか…」
近頃は悪霊の出現頻度が頻繁であり常日頃から多忙である夜叉丸は非常に苛立ったのである。東国武士団は悪霊征伐に対応出来る夜番警備隊を結成させるのだが…。安穏時代は長年の平和の弊害からか凄腕の剣豪は一握りだったのである。唯一剣豪と畏怖される武家一族の月影一族名手…。月影夜叉丸が悪霊征伐専門の夜番警備隊に抜擢されたのである。夜叉丸は安穏時代の太平神国では一番の剣豪であり彼に対抗出来る剣豪は今現在皆無とも断言出来る。性格は非常に生真面目で人一倍厳格であり一人での活動が大半であり仲間達からは一匹狼とも揶揄される。一時間後…。夜叉丸は東国の国境に到達する。
「悪霊が出現するって…噂話の場所だな…」
夜叉丸は周囲を警戒するのだが…。周囲は暗闇の自然林ばかりで何も確認出来ない。
「悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…」
数秒後…。突発的にゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。
(突然胸騒ぎが…)
「一体何が出現する?」
すると背後の地中より数体の食人餓鬼が出現したのである。
「此奴は食人餓鬼か…」
夜叉丸は即座に護身用の刀剣を抜刀するなり…。
「悪霊よ…即刻征伐する…」
護身用の刀剣を抜刀した夜叉丸は神速の身動きで食人餓鬼に接近すると斬撃したのである。頭首を斬撃された食人餓鬼は身動きしなくなる。一体の食人餓鬼を仕留めるのだが…。
「恐怖を感じられないのか?」
食人餓鬼は恐怖心が皆無であり彼等の大群は只管に夜叉丸へと殺到する。
「死滅せよ!」
夜叉丸は神速の身動きにより自身に殺到し続ける食人餓鬼を全滅させる。
「貴様達程度で私を食い殺そうなんて片腹痛いわ…」
自宅へと戻ろうかと思いきや…。背後より無数の殺気を感じる。
「ん?今度は…」
夜叉丸は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
「此奴は…」
背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉団子の怪物がノソノソと夜叉丸に近寄る。
「此奴は悪霊の集合体…百鬼食人餓鬼か…」
夜叉丸の背後に出現したのは無数の食人餓鬼が一体化した肉塊の悪霊…。百鬼食人餓鬼である。
「悪霊の親玉が出現するとは…」
百鬼食人餓鬼の体表に確認出来る無数の食人餓鬼の頭部が夜叉丸を凝視するなり…。口先から猛毒の瘴気を放射したのである。百鬼食人餓鬼の瘴気は黒煙であり黒煙に接触した地面…。周囲の植物が枯死したのである。
(此奴は瘴気か…)
純血の人間である夜叉丸にとって百鬼食人餓鬼の瘴気は致命傷であり僅少でも体内に吸収すれば毒死は回避出来ない。夜叉丸は呼吸を我慢した状態で百鬼食人餓鬼に接近したのである。
(成仏せよ!)
百鬼食人餓鬼の胴体を一刀両断…。両断された百鬼食人餓鬼は肉片がバラバラに散乱すると無数の食人餓鬼へと変化する。同時に瘴気は自然と浄化されたのである。
(瘴気は浄化されたが…)
「百鬼食人餓鬼の肉片から無数の食人餓鬼に変化するとは…」
無数の食人餓鬼が夜叉丸に殺到する。
「覚悟しろ!悪霊!」
数秒間で出現した無数の食人餓鬼を仕留めたのである。
「片付けたか…」
すると国境の殺気も感じられなくなる。
「如何やら無事に終了したか…」
無事に事件は解決…。夜叉丸は西国の自宅へと戻ったのである。
「夜叉丸様…お帰りなさい…」
「美海姫か…」
美海姫は真珠の耳装飾と群青色の着物が特徴的であり頭髪は黒毛の長髪…。両目は半透明の血紅色である。自宅へと戻った夜叉丸に女房の美海姫は恐る恐る…。
「今夜も無事に戻られましたね…」
美海姫は夜叉丸に緑茶を手渡したのである。夜叉丸は肥大化した美海姫の下腹を恐る恐る凝視するなり…。
「以前よりも満月みたいだな…」
「えっ…満月ですか?」
夜叉丸の発言に美海姫は赤面する。
「数日後に私達の赤ちゃんが誕生しますよ♪」
「数日後には…俺も父親なのか…」
普段は厳格の夜叉丸であるが…。今日の夜叉丸は普段の彼とは別人みたいに穏和だったのである。
(夜叉丸様♪)
夜叉丸の様子に美海姫はニコッと微笑む。すると夜叉丸は恐る恐る…。
「美海姫…明日は久方振りに近辺の川辺で散歩しないか?」
「えっ?」
夜叉丸の発言に美海姫は一瞬驚愕する。夜叉丸は基本的に一人で行動するのが大半であり自宅でも食事以外は単独行動が日常茶飯事だったのである。
「駄目か?」
「駄目なんて…一緒に散歩しましょう♪」
(夜叉丸様と散歩なんて♪)
美海姫は内心大喜びする。翌日の真昼…。夜叉丸と美海姫は近辺の川辺を散歩したのである。周囲は川音と風音の音色が村里全体に響き渡り…。満開に開花した桜花の樹木が川辺に確認出来る。夜叉丸は満開に開花した桜花の樹木を直視したのである。
「桜花の樹木が満開だな…」
「魅了されますね♪」
桜花の樹木に二人は感動する。すると桜花の樹木に魅了された夜叉丸は恐る恐る…。
「美海姫?」
「如何されましたか?夜叉丸様?」
夜叉丸は一瞬沈黙するのだがボソッと発言する。
「子供の名前だが…女の子だったら…桜花姫なんて如何かな?」
「えっ…桜花姫ですか?」
美海姫は一瞬沈黙するが…。ニコッと微笑んだのである。
「桜花姫♪春季の天女みたいで可愛らしい名前ですね♪」
「えっ!?桜花姫で大丈夫なのか?」
ハッとした表情の夜叉丸に美海姫は笑顔で即答する。
「勿論…私は大賛成ですよ♪」
「大賛成か…」
夜叉丸はホッとした表情であり内心大喜びしたのである。
「私自身は純血の妖女だから…多分子供は女の子でしょうね…」
基本的に妖女は同種の妖女しか出産出来ない。すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。
「美海姫よ…」
「如何されましたか?」
「美海姫は俺と一緒で幸福だったか?」
「えっ?突然如何されたのでしょうか!?」
突然の夜叉丸の問い掛けに美海姫は吃驚したのである。
「俺は…人一倍一匹狼の性格だからな…正直気難しいかなって…」
(夜叉丸様…自分の性格が気になるのかしら?)
すると美海姫は笑顔で返答する。
「私は今現在でも幸福ですよ♪私が夜叉丸様に見惚れたのですから♪三年前に夜叉丸様と対面しなければ私は今頃悪霊に食い殺されたでしょう…」
美海姫は三年前の真夜中の散歩中に悪霊と遭遇…。食い殺される寸前に夜番警備隊の夜叉丸に守護され夜叉丸に見惚れたのである。
「美海姫は単純だな…」
美海姫は赤面する。
「ですが三年前の悪霊事件に遭遇しなければ…私は夜叉丸様とは婚姻出来なかったのですからね♪」
「殺されたかも知れないからな…」
二人は自宅へと戻ったのである。翌日の早朝…。薬屋の蛇骨鬼が月影家の武家屋敷へと訪問する。
「邪魔するよ♪」
「蛇骨鬼婆様♪久し振りですね♪」
美海姫は蛇骨鬼との久方振りの再会に大喜びしたのである。
「美海姫ちゃんよ♪あんたが元気そうで安心したよ♪」
美海姫の元気そうな様子に蛇骨鬼は一安心する。
「ん?あんたの亭主は?」
「夜叉丸様なら東国の鎮守府に出掛けましたよ…」
「好都合だね…」
蛇骨鬼はホッとしたのである。
「本日は如何されたのでしょうか?」
問い掛けられた蛇骨鬼は即答する。
「あんたが月影夜叉丸って人間の武士と婚姻してから元気なのか如何なのか確認したかったのさ♪」
「私は毎日元気ですよ♪蛇骨鬼婆様は心配性ですね♪」
美海姫は笑顔で返答したのである。
「私でも心配するよ!あんたは天女の村里では一番の気弱で病弱だったからね…」
天女の村里とは南国に存在する小村落地帯であり両親を亡くした孤児達は勿論…。迫害された妖女の子供達が生活する安住の居住地である。幼少期では美海姫も蛇骨鬼に世話され…。南国の天女の村里で生活したのである。弱肉強食の戦乱時代では各地の戦乱やら疫病によって両親を亡くした大勢の孤児達を蛇骨鬼が養護…。子供達を世話したのである。
「人一倍気弱で病弱だったあんたが…数日後には一児の母親とはね♪」
美海姫は赤面した表情で…。
「私にも子供が出来ますからね♪」
すると蛇骨鬼はボソッと発言する。
「私も初孫と対面したいね♪」
「えっ?初孫ですって?」
蛇骨鬼の初孫の一言に反応したのである。
「初孫は初孫だよ!私にとってあんたは愛娘だからね♪当然としてあんたの愛娘は私にとって初孫だよ♪」
「蛇骨鬼婆様…」
美海姫は苦笑いする。
「何よりもあんたが元気そうで安心したよ♪私は退散するね♪」
蛇骨鬼は南国へと戻ったのである。
「蛇骨鬼婆様も元気そうで何よりだわ…」
翌日の真夜中…。夜叉丸は不吉の気配を察知したのである。
(殺気か!?)
警戒した様子で刀剣を所持…。外出したのである。美海姫は熟睡中であったがゴソゴソッと物音に気付いたのか目覚める。
「えっ?夜叉丸様は?」
屏風の刀剣と甲冑が無かったのである。
「ひょっとして夜叉丸様…」
外出したのであると察知する。同時刻…。夜叉丸は近辺に位置する廃神社にて無数の殺気を察知したのである。
「廃神社か…」
(ひょっとして悪霊の大群か!?)
暗闇の廃神社へと到達するのだが…。廃神社には無数の食人餓鬼の血肉が散乱する。廃神社の中心部には藍色の着物姿…。木刀を所持した小柄の花魁が確認出来る。
(彼女は花魁なのか?)
こんなにも真夜中に女性が一人で出歩くのを不自然に感じる。夜叉丸は恐る恐る…。
「悪霊が…貴様が退治したのか?」
問い掛けられた女性は背後の夜叉丸を直視する。
「貴様は…人間の武士だな…」
女性は両目が半透明の群青色であり姿形は人間であるが…。雰囲気から人間とは別物であると察知する。
(此奴…)
「女人…貴様は人間でも悪霊でも無さそうだな…一体何者だ?」
すると花魁は名前を名乗る。
「私は【冥王鬼】…神族の一員だ…」
「なっ!?貴様…神族だと!?」
自身を神族の一員と名乗る冥王鬼に夜叉丸は驚愕したのである。何故なら旧世界を支配した神族であるが戦乱時代以前の太古の大昔に人間達との大戦で敗北…。過半数以上の神族が人間達により殺され今現在生存を確認出来る神族は実質太平神国出身者の蛇骨鬼のみである。
「伝承では蛇骨鬼以外の神族は全員殺されたと…」
「如何やら今現在は間違った認識が出回ったみたいだな…人間達との大戦で瀕死だった私は同胞達と一緒に異国の土地で肉体を回復させたのだ…」
冥王鬼は数万年前…。人間達との大戦で瀕死の状態であり同胞と一緒に異国の土地へと逃亡したのである。
「瀕死から復活した私は以前よりも肉体が強化されたのだ…手始めに神聖なる土地に蔓延する虫けらを蹴散らしたが…こんな奴等では強化された私の実力を発揮するには力不足である…」
冥王鬼は夜叉丸を直視するなり…。
「人間であるが相当の実力者である貴様であれば…地面の薄汚い害虫よりは私の実力を発揮出来そうだな…」
冥王鬼の雰囲気に圧倒されたのか夜叉丸は恐る恐る後退りする。
(此奴は悪霊よりも厄介そうだ…人間の私では対処出来ない…)
夜叉丸は恐る恐る刀剣を抜刀したのである。
「相手が神族でも…」
(私が此奴を阻止しなければ…西国は勿論…何よりも美海姫と…桜花姫が…)
相手が自身よりも強大であっても阻止しなければ西国は勿論…。女房の美海姫と愛娘の桜花姫が殺害されるのは明白である。夜叉丸は冥王鬼に睥睨するなり…。
(姿形は女人でも…)
「冥王鬼とやら!覚悟しろ!」
神速の身動きによって冥王鬼に急接近すると即座に斬撃したのである。すると冥王鬼は自身の木刀で間一髪ガードする。
「貴様…人間としては非常に強力だな…」
直後…。
「なっ!?」
(此奴…木刀で…)
摩訶不思議の超常現象により夜叉丸の鋼鉄の刀剣がパリッと屈折したのである。
(妖術か!?)
「私の刀剣が一瞬で…」
突然の超常現象に夜叉丸はハッとしたのか全身が膠着する。
「貴様が不思議がるのも当然であるな…私の木刀は世界樹の霊魂巨神木の小枝で形作られた神剣だ…」
「霊魂巨神木だと?」
冥王鬼の所持する木刀は世界樹の霊魂巨神木から形作られた代物であり鋼鉄をも上回る硬質さである。
「私の木刀は鋼鉄をも上回る…死滅しろ!」
夜叉丸はザクッと腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
(木刀で…)
地面に横たわったのである。
「所詮貴様は脆弱なる人間だ…神族の一員である私には勝利出来ない…死滅せよ…無力の人間…」
直後…。冥王鬼は身動きしなくなる。
「今更瀕死の貴様を殺しても無意味だ…失血死するのだな…」
すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。
「貴様は…一体…何が目的だ?」
「私の目的だと?」
冥王鬼は即答する。
「太古の大昔に存在した…神族の神世界を再興させるだけだ…数万年前の大戦で私達神族は貴様達人間によって駆逐されたのだ…」
古代時代当時の神族は多種多様の超能力を所持した最強の少数民族であったが…。大勢の人間達を相手するには多勢に無勢であり大勢の神族が迫害され惨殺されたのである。
「今現在の強大化した私であれば…一国程度なら一日で破滅させられる…」
「私達…人間に…復讐するのか?あんたは…」
夜叉丸が問い掛けると冥王鬼は即答する。
「即刻全滅させたいが…幸運にも太平神国には無数の悪霊が蔓延中であるからな…彼等によって貴様達人間が駆逐されるのも時間の問題だ…私が手出しせずとも太平神国は無数の悪霊によって死滅させられるであろう…」
すると冥王鬼の姿形がパッと消失…。冥王鬼は退散したのである。
(畜生…迂闊だった…)
夜叉丸は血塗れの状態であるが…。
「ぐっ…」
(美海姫…)
夜叉丸は瀕死の状態で自宅へと戻ったのである。地面には傷口の鮮血がポトポトッと出血し続ける。
「ぐっ!」
(視界が…)
出血多量により視界が黒化…。
(今夜が俺の命日とは…畜生…)
全身がフラフラしたのである。夜叉丸は自宅の玄関へと到達するのだが…。バタッと力尽きる。
(美海姫…桜花姫…)
夜叉丸は衰弱化したのである。
(畜生が…明日は桜花姫の出産日かも知れないのに…桜花姫を抱けないのは…心残りだな…)
直後…。夜叉丸は息絶えたのである。玄関口の物音に気付いた美海姫は即座に玄関へと移動するなり…。
「えっ?夜叉丸様…夜叉丸様!?」
美海姫は夜叉丸に接触すると失血死したのだと察知する。
(えっ…如何して…夜叉丸様が…)
「夜叉丸様…如何して…」
涙腺より涙が零れ落ちる。夜叉丸が死去したのは桜花姫の誕生日の前日だったのである。夜叉丸が死去した翌朝…。愛娘の桜花姫が誕生したのである。
第一話
桜花
天地暦三千九百九十二年四月四日の真夜中…。東国武士団の夜番警備隊であった月影夜叉丸は東国の国境より出現した悪霊を征伐しに出掛ける。
「東国に悪霊が出現したか…」
近頃は悪霊の出現頻度が頻繁であり常日頃から多忙である夜叉丸は非常に苛立ったのである。東国武士団は悪霊征伐に対応出来る夜番警備隊を結成させるのだが…。安穏時代は長年の平和の弊害からか凄腕の剣豪は一握りだったのである。唯一剣豪と畏怖される武家一族の月影一族名手…。月影夜叉丸が悪霊征伐専門の夜番警備隊に抜擢されたのである。夜叉丸は安穏時代の太平神国では一番の剣豪であり彼に対抗出来る剣豪は今現在皆無とも断言出来る。性格は非常に生真面目で人一倍厳格であり一人での活動が大半であり仲間達からは一匹狼とも揶揄される。一時間後…。夜叉丸は東国の国境に到達する。
「悪霊が出現するって…噂話の場所だな…」
夜叉丸は周囲を警戒するのだが…。周囲は暗闇の自然林ばかりで何も確認出来ない。
「悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…」
数秒後…。突発的にゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。
(突然胸騒ぎが…)
「一体何が出現する?」
すると背後の地中より数体の食人餓鬼が出現したのである。
「此奴は食人餓鬼か…」
夜叉丸は即座に護身用の刀剣を抜刀するなり…。
「悪霊よ…即刻征伐する…」
護身用の刀剣を抜刀した夜叉丸は神速の身動きで食人餓鬼に接近すると斬撃したのである。頭首を斬撃された食人餓鬼は身動きしなくなる。一体の食人餓鬼を仕留めるのだが…。
「恐怖を感じられないのか?」
食人餓鬼は恐怖心が皆無であり彼等の大群は只管に夜叉丸へと殺到する。
「死滅せよ!」
夜叉丸は神速の身動きにより自身に殺到し続ける食人餓鬼を全滅させる。
「貴様達程度で私を食い殺そうなんて片腹痛いわ…」
自宅へと戻ろうかと思いきや…。背後より無数の殺気を感じる。
「ん?今度は…」
夜叉丸は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
「此奴は…」
背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉団子の怪物がノソノソと夜叉丸に近寄る。
「此奴は悪霊の集合体…百鬼食人餓鬼か…」
夜叉丸の背後に出現したのは無数の食人餓鬼が一体化した肉塊の悪霊…。百鬼食人餓鬼である。
「悪霊の親玉が出現するとは…」
百鬼食人餓鬼の体表に確認出来る無数の食人餓鬼の頭部が夜叉丸を凝視するなり…。口先から猛毒の瘴気を放射したのである。百鬼食人餓鬼の瘴気は黒煙であり黒煙に接触した地面…。周囲の植物が枯死したのである。
(此奴は瘴気か…)
純血の人間である夜叉丸にとって百鬼食人餓鬼の瘴気は致命傷であり僅少でも体内に吸収すれば毒死は回避出来ない。夜叉丸は呼吸を我慢した状態で百鬼食人餓鬼に接近したのである。
(成仏せよ!)
百鬼食人餓鬼の胴体を一刀両断…。両断された百鬼食人餓鬼は肉片がバラバラに散乱すると無数の食人餓鬼へと変化する。同時に瘴気は自然と浄化されたのである。
(瘴気は浄化されたが…)
「百鬼食人餓鬼の肉片から無数の食人餓鬼に変化するとは…」
無数の食人餓鬼が夜叉丸に殺到する。
「覚悟しろ!悪霊!」
数秒間で出現した無数の食人餓鬼を仕留めたのである。
「片付けたか…」
すると国境の殺気も感じられなくなる。
「如何やら無事に終了したか…」
無事に事件は解決…。夜叉丸は西国の自宅へと戻ったのである。
「夜叉丸様…お帰りなさい…」
「美海姫か…」
美海姫は真珠の耳装飾と群青色の着物が特徴的であり頭髪は黒毛の長髪…。両目は半透明の血紅色である。自宅へと戻った夜叉丸に女房の美海姫は恐る恐る…。
「今夜も無事に戻られましたね…」
美海姫は夜叉丸に緑茶を手渡したのである。夜叉丸は肥大化した美海姫の下腹を恐る恐る凝視するなり…。
「以前よりも満月みたいだな…」
「えっ…満月ですか?」
夜叉丸の発言に美海姫は赤面する。
「数日後に私達の赤ちゃんが誕生しますよ♪」
「数日後には…俺も父親なのか…」
普段は厳格の夜叉丸であるが…。今日の夜叉丸は普段の彼とは別人みたいに穏和だったのである。
(夜叉丸様♪)
夜叉丸の様子に美海姫はニコッと微笑む。すると夜叉丸は恐る恐る…。
「美海姫…明日は久方振りに近辺の川辺で散歩しないか?」
「えっ?」
夜叉丸の発言に美海姫は一瞬驚愕する。夜叉丸は基本的に一人で行動するのが大半であり自宅でも食事以外は単独行動が日常茶飯事だったのである。
「駄目か?」
「駄目なんて…一緒に散歩しましょう♪」
(夜叉丸様と散歩なんて♪)
美海姫は内心大喜びする。翌日の真昼…。夜叉丸と美海姫は近辺の川辺を散歩したのである。周囲は川音と風音の音色が村里全体に響き渡り…。満開に開花した桜花の樹木が川辺に確認出来る。夜叉丸は満開に開花した桜花の樹木を直視したのである。
「桜花の樹木が満開だな…」
「魅了されますね♪」
桜花の樹木に二人は感動する。すると桜花の樹木に魅了された夜叉丸は恐る恐る…。
「美海姫?」
「如何されましたか?夜叉丸様?」
夜叉丸は一瞬沈黙するのだがボソッと発言する。
「子供の名前だが…女の子だったら…桜花姫なんて如何かな?」
「えっ…桜花姫ですか?」
美海姫は一瞬沈黙するが…。ニコッと微笑んだのである。
「桜花姫♪春季の天女みたいで可愛らしい名前ですね♪」
「えっ!?桜花姫で大丈夫なのか?」
ハッとした表情の夜叉丸に美海姫は笑顔で即答する。
「勿論…私は大賛成ですよ♪」
「大賛成か…」
夜叉丸はホッとした表情であり内心大喜びしたのである。
「私自身は純血の妖女だから…多分子供は女の子でしょうね…」
基本的に妖女は同種の妖女しか出産出来ない。すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。
「美海姫よ…」
「如何されましたか?」
「美海姫は俺と一緒で幸福だったか?」
「えっ?突然如何されたのでしょうか!?」
突然の夜叉丸の問い掛けに美海姫は吃驚したのである。
「俺は…人一倍一匹狼の性格だからな…正直気難しいかなって…」
(夜叉丸様…自分の性格が気になるのかしら?)
すると美海姫は笑顔で返答する。
「私は今現在でも幸福ですよ♪私が夜叉丸様に見惚れたのですから♪三年前に夜叉丸様と対面しなければ私は今頃悪霊に食い殺されたでしょう…」
美海姫は三年前の真夜中の散歩中に悪霊と遭遇…。食い殺される寸前に夜番警備隊の夜叉丸に守護され夜叉丸に見惚れたのである。
「美海姫は単純だな…」
美海姫は赤面する。
「ですが三年前の悪霊事件に遭遇しなければ…私は夜叉丸様とは婚姻出来なかったのですからね♪」
「殺されたかも知れないからな…」
二人は自宅へと戻ったのである。翌日の早朝…。薬屋の蛇骨鬼が月影家の武家屋敷へと訪問する。
「邪魔するよ♪」
「蛇骨鬼婆様♪久し振りですね♪」
美海姫は蛇骨鬼との久方振りの再会に大喜びしたのである。
「美海姫ちゃんよ♪あんたが元気そうで安心したよ♪」
美海姫の元気そうな様子に蛇骨鬼は一安心する。
「ん?あんたの亭主は?」
「夜叉丸様なら東国の鎮守府に出掛けましたよ…」
「好都合だね…」
蛇骨鬼はホッとしたのである。
「本日は如何されたのでしょうか?」
問い掛けられた蛇骨鬼は即答する。
「あんたが月影夜叉丸って人間の武士と婚姻してから元気なのか如何なのか確認したかったのさ♪」
「私は毎日元気ですよ♪蛇骨鬼婆様は心配性ですね♪」
美海姫は笑顔で返答したのである。
「私でも心配するよ!あんたは天女の村里では一番の気弱で病弱だったからね…」
天女の村里とは南国に存在する小村落地帯であり両親を亡くした孤児達は勿論…。迫害された妖女の子供達が生活する安住の居住地である。幼少期では美海姫も蛇骨鬼に世話され…。南国の天女の村里で生活したのである。弱肉強食の戦乱時代では各地の戦乱やら疫病によって両親を亡くした大勢の孤児達を蛇骨鬼が養護…。子供達を世話したのである。
「人一倍気弱で病弱だったあんたが…数日後には一児の母親とはね♪」
美海姫は赤面した表情で…。
「私にも子供が出来ますからね♪」
すると蛇骨鬼はボソッと発言する。
「私も初孫と対面したいね♪」
「えっ?初孫ですって?」
蛇骨鬼の初孫の一言に反応したのである。
「初孫は初孫だよ!私にとってあんたは愛娘だからね♪当然としてあんたの愛娘は私にとって初孫だよ♪」
「蛇骨鬼婆様…」
美海姫は苦笑いする。
「何よりもあんたが元気そうで安心したよ♪私は退散するね♪」
蛇骨鬼は南国へと戻ったのである。
「蛇骨鬼婆様も元気そうで何よりだわ…」
翌日の真夜中…。夜叉丸は不吉の気配を察知したのである。
(殺気か!?)
警戒した様子で刀剣を所持…。外出したのである。美海姫は熟睡中であったがゴソゴソッと物音に気付いたのか目覚める。
「えっ?夜叉丸様は?」
屏風の刀剣と甲冑が無かったのである。
「ひょっとして夜叉丸様…」
外出したのであると察知する。同時刻…。夜叉丸は近辺に位置する廃神社にて無数の殺気を察知したのである。
「廃神社か…」
(ひょっとして悪霊の大群か!?)
暗闇の廃神社へと到達するのだが…。廃神社には無数の食人餓鬼の血肉が散乱する。廃神社の中心部には藍色の着物姿…。木刀を所持した小柄の花魁が確認出来る。
(彼女は花魁なのか?)
こんなにも真夜中に女性が一人で出歩くのを不自然に感じる。夜叉丸は恐る恐る…。
「悪霊が…貴様が退治したのか?」
問い掛けられた女性は背後の夜叉丸を直視する。
「貴様は…人間の武士だな…」
女性は両目が半透明の群青色であり姿形は人間であるが…。雰囲気から人間とは別物であると察知する。
(此奴…)
「女人…貴様は人間でも悪霊でも無さそうだな…一体何者だ?」
すると花魁は名前を名乗る。
「私は【冥王鬼】…神族の一員だ…」
「なっ!?貴様…神族だと!?」
自身を神族の一員と名乗る冥王鬼に夜叉丸は驚愕したのである。何故なら旧世界を支配した神族であるが戦乱時代以前の太古の大昔に人間達との大戦で敗北…。過半数以上の神族が人間達により殺され今現在生存を確認出来る神族は実質太平神国出身者の蛇骨鬼のみである。
「伝承では蛇骨鬼以外の神族は全員殺されたと…」
「如何やら今現在は間違った認識が出回ったみたいだな…人間達との大戦で瀕死だった私は同胞達と一緒に異国の土地で肉体を回復させたのだ…」
冥王鬼は数万年前…。人間達との大戦で瀕死の状態であり同胞と一緒に異国の土地へと逃亡したのである。
「瀕死から復活した私は以前よりも肉体が強化されたのだ…手始めに神聖なる土地に蔓延する虫けらを蹴散らしたが…こんな奴等では強化された私の実力を発揮するには力不足である…」
冥王鬼は夜叉丸を直視するなり…。
「人間であるが相当の実力者である貴様であれば…地面の薄汚い害虫よりは私の実力を発揮出来そうだな…」
冥王鬼の雰囲気に圧倒されたのか夜叉丸は恐る恐る後退りする。
(此奴は悪霊よりも厄介そうだ…人間の私では対処出来ない…)
夜叉丸は恐る恐る刀剣を抜刀したのである。
「相手が神族でも…」
(私が此奴を阻止しなければ…西国は勿論…何よりも美海姫と…桜花姫が…)
相手が自身よりも強大であっても阻止しなければ西国は勿論…。女房の美海姫と愛娘の桜花姫が殺害されるのは明白である。夜叉丸は冥王鬼に睥睨するなり…。
(姿形は女人でも…)
「冥王鬼とやら!覚悟しろ!」
神速の身動きによって冥王鬼に急接近すると即座に斬撃したのである。すると冥王鬼は自身の木刀で間一髪ガードする。
「貴様…人間としては非常に強力だな…」
直後…。
「なっ!?」
(此奴…木刀で…)
摩訶不思議の超常現象により夜叉丸の鋼鉄の刀剣がパリッと屈折したのである。
(妖術か!?)
「私の刀剣が一瞬で…」
突然の超常現象に夜叉丸はハッとしたのか全身が膠着する。
「貴様が不思議がるのも当然であるな…私の木刀は世界樹の霊魂巨神木の小枝で形作られた神剣だ…」
「霊魂巨神木だと?」
冥王鬼の所持する木刀は世界樹の霊魂巨神木から形作られた代物であり鋼鉄をも上回る硬質さである。
「私の木刀は鋼鉄をも上回る…死滅しろ!」
夜叉丸はザクッと腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
(木刀で…)
地面に横たわったのである。
「所詮貴様は脆弱なる人間だ…神族の一員である私には勝利出来ない…死滅せよ…無力の人間…」
直後…。冥王鬼は身動きしなくなる。
「今更瀕死の貴様を殺しても無意味だ…失血死するのだな…」
すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。
「貴様は…一体…何が目的だ?」
「私の目的だと?」
冥王鬼は即答する。
「太古の大昔に存在した…神族の神世界を再興させるだけだ…数万年前の大戦で私達神族は貴様達人間によって駆逐されたのだ…」
古代時代当時の神族は多種多様の超能力を所持した最強の少数民族であったが…。大勢の人間達を相手するには多勢に無勢であり大勢の神族が迫害され惨殺されたのである。
「今現在の強大化した私であれば…一国程度なら一日で破滅させられる…」
「私達…人間に…復讐するのか?あんたは…」
夜叉丸が問い掛けると冥王鬼は即答する。
「即刻全滅させたいが…幸運にも太平神国には無数の悪霊が蔓延中であるからな…彼等によって貴様達人間が駆逐されるのも時間の問題だ…私が手出しせずとも太平神国は無数の悪霊によって死滅させられるであろう…」
すると冥王鬼の姿形がパッと消失…。冥王鬼は退散したのである。
(畜生…迂闊だった…)
夜叉丸は血塗れの状態であるが…。
「ぐっ…」
(美海姫…)
夜叉丸は瀕死の状態で自宅へと戻ったのである。地面には傷口の鮮血がポトポトッと出血し続ける。
「ぐっ!」
(視界が…)
出血多量により視界が黒化…。
(今夜が俺の命日とは…畜生…)
全身がフラフラしたのである。夜叉丸は自宅の玄関へと到達するのだが…。バタッと力尽きる。
(美海姫…桜花姫…)
夜叉丸は衰弱化したのである。
(畜生が…明日は桜花姫の出産日かも知れないのに…桜花姫を抱けないのは…心残りだな…)
直後…。夜叉丸は息絶えたのである。玄関口の物音に気付いた美海姫は即座に玄関へと移動するなり…。
「えっ?夜叉丸様…夜叉丸様!?」
美海姫は夜叉丸に接触すると失血死したのだと察知する。
(えっ…如何して…夜叉丸様が…)
「夜叉丸様…如何して…」
涙腺より涙が零れ落ちる。夜叉丸が死去したのは桜花姫の誕生日の前日だったのである。夜叉丸が死去した翌朝…。愛娘の桜花姫が誕生したのである。
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:47 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
最終話
因縁
大黒島での戦闘から一週間後の早朝…。僧侶の三蔵郎は室内を清掃するのだが摩訶不思議の刀剣を発見したのである。
「えっ?ひょっとして刀剣でしょうか?」
三蔵郎は恐る恐る刀剣に接触する。
「なっ!?名刀の『霊斬刀』では!?」
霊斬刀とは国宝級の名刀であり戦乱時代の英雄…。夜桜崇徳丸が所持した牢固石の刀剣である。戦乱時代では単なる刀剣として扱われるも崇徳丸の死後…。神出鬼没の悪霊を征伐する名刀霊斬刀と命名されたのである。当時怨敵であった南国と北国からは今現在でも不吉の妖刀と皮肉られる。
「如何してこんな国宝級の代物が…私の寺院に?」
不思議がる三蔵郎であるがフッと想起するなり…。
「一昨年に知人に贈呈された代物でしたね♪」
一昨年に知人から霊斬刀を頂戴した内容を忘却したのである。
「清掃中に霊斬刀を発見したのは何かしらの運命なのかも知れませんね♪」
(折角なので…記念品として私の自室にでも装飾しますかね♪)
三蔵郎はルンルンした気分で自室の屏風に霊斬刀を装飾する。
「ですが霊斬刀が千年前の代物なんて…私には想像も出来ませんね…」
三蔵郎は霊斬刀に魅了される。
(こんな刀剣で大勢の悪者達を撃退出来れば…本物の武士みたいに大勢の村人達に敬愛されるのですがね…)
三蔵郎は妄想したのである。
「明日の早朝…暇潰しに西国の国境で素振りするのも悪くないですね♪」
翌日の早朝…。三蔵郎は霊斬刀を所持するなり東国と西国の国境に位置する山道へと移動したのである。恐る恐る周囲の人通りを警戒する。
「早朝であれば国境の山道でも人通りは少数ですし大丈夫でしょうね…」
時間帯は早朝で人通りも皆無であり三蔵郎は力一杯素振りしたのである。
「常日頃の気苦労も解消出来ますし…最高ですね♪」
(私も歴史人物の夜桜崇徳丸様みたいに大勢の悪者達を撃退して…誰かを守護したいですな♪)
三蔵郎にとって戦乱時代に活躍した崇徳丸は憧憬の対象であり三蔵郎は彼を意識する。無我夢中に何度も何度も素振りを反復し続けたのである。
(悪霊でも出現しませんかね?)
「霊斬刀で悪霊を仕留められるのであれば是非とも霊斬刀で悪霊を仕留めたいですな♪」
すると直後…。突如として極度の胸騒ぎを感じたのである。
「なっ!?」
(胸騒ぎでしょうか…)
突如として極度の死臭と強烈なる殺気が此方に接近するのを感じる。
(極度の死臭と殺気…一体何が?)
正体不明の不吉の気配は刻一刻と山道へと急接近する。数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野犬が国境の山道に出現したのである。
「えっ…野犬!?」
(巨体だな…)
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野犬は正真正銘悪霊であると認識出来る。
(此奴は…野犬の悪霊なのか!?)
口先には咀嚼された肉片らしき物体を確認…。何かを捕食したのであると推測する。
「悪霊は遭遇した野獣を食い殺したのでしょうか?」
三蔵郎は極度の恐怖心により恐る恐る後退りする。
(人間の私でも感じられる強烈なる殺気…非常に厄介かも知れませんね…)
殺されるかも知れないと危惧するのだが…。野犬の悪霊と対峙すると不自然にも霊斬刀がカタカタッと震え始める。
「えっ!?霊斬刀が…」
(ひょっとして私に野犬の悪霊を仕留めろと…)
逃亡出来るのであれば一目散に逃亡したい三蔵郎であるが…。
(現在地は東国と西国との国境…私が逃亡すれば東国にも西国にも悪影響が…)
戦闘を放棄して逃亡すれば命拾いは出来るものの戦闘を放棄すれば確実に大勢の村人達が悪霊によって惨殺されるのは明白である。
(私が逃亡すれば東国は勿論…西国にも被害が及びましょう…何よりも西国は桜花姫様が安住される桃源郷…)
「全身全霊私が死守しなくては!」
三蔵郎は決意する。三蔵郎の表情が変化すると野犬の悪霊がピクッと反応したのである。野犬の悪霊はギロッと三蔵郎を睥睨するなり…。
「なっ!」
野犬の悪霊は猛スピードで突進したのである。三蔵郎は咄嗟に野犬の悪霊の突進を間一髪回避…。野犬の悪霊は一直線に突進するなり三蔵郎の背後の岩壁へと突っ込んだのである。
(危機一髪…こんなのに突進されたら全身が粉砕されますね…)
野犬の悪霊の突進によって頑強なる岩壁が抉れる。三蔵郎は神速により野犬の悪霊の背後へと移動するなり背後から霊斬刀で斬撃する。
(悪霊を仕留めたか!?)
手応えは感じるものの…。野犬の悪霊の姿形がパッと消滅する。
(ひょっとして先程の姿形は残像なのか!?)
野犬の悪霊は神速によって三蔵郎の斬撃を回避したのである。
「残像だったか…」
野犬の悪霊は一瞬で三蔵郎の背後へと移動する。野犬の悪霊がギロッと睥睨した直後…。
「えっ?」
霊斬刀がピカッと蛍光色に発光したのである。
(霊斬刀が発光した…)
すると全身に重苦しい殺気を感じる。天空一面が黒雲により覆い包まれる。
(天空が…)
直後…。ピカッと落雷が三蔵郎の頭上より落下したのである。
「落雷!?」
三蔵郎は咄嗟の判断により落雷の回避に成功する。
「危機一髪だった…」
(ひょっとして霊斬刀は私に生命の危機を予知したのか…)
すると突然…。
「貴様は僧侶の身分であるが…彼奴に酷似する…」
突然人間の口言葉で発語した野犬の悪霊に驚愕したのである。
「なっ!悪霊は人語で喋れるのか!?」
「貴様も彼奴と同様の反応であるな…」
「彼奴とは…誰なのでしょうか?」
野犬の悪霊は即答する。
「夜桜崇徳丸と名乗る…愚劣なる人間の若武者である…」
(夜桜崇徳丸だって!?)
夜桜崇徳丸の名前を傾聴した直後…。三蔵郎は何が何やら困惑したのである。
「ひょっとすると僧侶の貴様は…戦乱時代の夜桜崇徳丸と名乗る武士の再来であるな…」
野犬の悪霊の発言に三蔵郎は絶句する。
(私が…崇徳丸様の再来ですと!?)
「雰囲気もだが…醜悪なる人間としては非常に清心であるからな…貴様は崇徳丸に共通する…」
(ですが私の前世が夜桜崇徳丸様ですか♪)
崇徳丸の再来である事実に三蔵郎は内心大喜びしたのである。三蔵郎は恐る恐る…。
「貴方様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた野犬の悪霊は即答する。
「私は死霊餓狼…千年前に醜悪なる人間によって惨殺された野犬の亡霊とでも…」
「死霊餓狼…」
死霊餓狼とは極悪非道の人間に惨殺された野犬の亡霊と認識される反面…。汚染された自然界から誕生した悪霊の集合体とも呼称される。共通する伝承では死霊餓狼は人間達に憎悪…。死霊餓狼と遭遇した人間は確実に食い殺されるのが通説である。死霊餓狼の肉体を死滅させたとしても死霊餓狼の呪力は本体を死滅させた人間に憑霊…。憑霊された人間に大勢の人間達を呪力で殺させる。大勢の人間達を殺害すると最終的には死霊餓狼の呪力に憑霊された人間の肉体は腐敗…。腐敗した肉体は確実に崩れ落ちる。
(悪霊は悪霊でも最初に遭遇した悪霊が死霊餓狼なんて…私は人一倍不運ですね…)
「ですが如何して今更死霊餓狼が出現したのですか?」
死霊餓狼は一瞬沈黙するなり…。
「今迄に愚劣なる人間の亡者達を利用したが…結局貴様達愚劣なる人間達を呪殺出来なかったからな…私自身が直接的に愚劣なる人間達を全滅しに顕現したのだ…」
死霊餓狼の発言に三蔵郎はピクッと反応する。
「ひょっとして今迄出現した悪霊は死霊餓狼が…」
死霊餓狼は即答したのである。
「勿論…半年前に世界樹である霊魂巨神木に憑霊して…大勢の亡者達を利用したのも私自身であるからな…」
「貴様が黒幕だったのか…」
霊魂巨神木は本来純粋無垢で無害の樹木であるが死霊餓狼の怨念が無害の霊魂巨神木に憑霊…。戦乱時代で死去した大勢の亡者達を復活させ各地の村人達を襲撃させたのである。
「結局…崇徳丸の花嫁の再来によって阻止されたが…」
「崇徳丸様の花嫁の再来とは…」
(ひょっとすると…桜花姫様でしょうか?)
三蔵郎は桜花姫を連想する。
「如何やら今回は幸運にも崇徳丸の花嫁の再来は不在であるからな…非常に好都合である!」
「ですが今回は私が全身全霊で貴方様の野望を阻止しますよ!今度も各地の村里を襲撃するみたいですからね!」
三蔵郎は強気で返答したのである。
「随分強気であるな…手始めに貴様を呪殺して…愚劣なる人間達を殲滅するか…」
(僧侶を呪殺して僧侶の肉体に憑霊すれば…花嫁の再来とて迂闊には手出し出来なくなるからな…)
死霊餓狼は口先より高熱の火球を発射したのである。
「死滅せよ!崇徳丸の再来!」
(火球!?)
三蔵郎は高熱の火球を一刀両断…。高熱の火球を斬撃したのである。両断された火球は三蔵郎の背後にて爆散…。背後の地面にはクレーターが形作られる。
(こんなのが直撃すれば即死でしょうね…)
火球の灼熱によって霊斬刀の白刃が赤化する。
「牢固石の白刃が高熱で赤化するなんて…」
(普通の刀剣なら確実に屈折するでしょうね…)
「今度こそ死滅しろ!崇徳丸の再来!」
死霊餓狼は再度口先から高熱の火球を発射したのである。
「なっ!?」
三蔵郎は咄嗟に火球を回避する。
(畜生…間一髪回避したか…)
「愚劣なる人間の分際で私の攻撃を回避するとは…貴様が崇徳丸の再来なのは決定的であるな…」
死霊餓狼は力一杯睥睨するなり…。
「崇徳丸の再来!」
(今度こそ死滅しろ!)
死霊餓狼は全身全霊で突進する。相手は猛スピードであり三蔵郎は回避出来ない。
(止むを得ないな…)
三蔵郎は咄嗟の斬撃で死霊餓狼の右側の前脚を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
間一髪死霊餓狼の右側の前脚を斬撃…。死霊餓狼の突進攻撃を無力化したのである。
(一歩間違えれば殺されたのは私だったでしょうね…)
死霊餓狼はバタッと地面に横たわる。三蔵郎は恐る恐る衰弱化した死霊餓狼へと近寄る。
(死霊餓狼を仕留めれば…東国も西国も無事に守護出来る…)
「戦乱時代の悪霊…成仏せよ…」
斬撃する寸前…。
「えっ!?」
三蔵郎は斬撃したいが死霊餓狼の悲哀の表情を直視すると殺せなくなる。
(私には殺せないな…死霊餓狼を仕留めなければ東国と西国の大勢の村人達が殺害されるかも知れないのに…)
相手が悪霊であっても衰弱化した表情を直視すると心苦しくなる。
「悪霊を相手に躊躇いとは…所詮貴様の慈悲は崇徳丸と同様であるな…貴様の躊躇いが愚劣なる人間達の殺戮に直結するのに…」
「なっ!?」
三蔵郎はゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。
(強烈なる殺意…死霊餓狼は一体何を?)
三蔵郎は警戒するなり恐る恐る後退りする。
「崇徳丸の再来よ…貴様の身動きを封殺する…」
「身動きを封殺ですと!?」
すると突然…。
「ぐっ!」
(一体何が!?)
突如として三蔵郎は身動き出来なくなる。
(ひょっとして金縛りか?身動き出来なくなるなんて…)
「金縛りで貴様の身動きを封殺した…最早身動きは出来まい…」
死霊餓狼は一息するなり…。
「貴様の肉体に憑霊する…最早野犬の肉体も不必要だ!」
すると死霊餓狼の肉体から黒煙が発生するなり三蔵郎の肉体へと憑霊する。
(なっ!?)
死霊餓狼の肉体から発生した黒煙こそが死霊餓狼の本体であり三蔵郎の肉体へと憑霊したのである。
「ぐっ!」
(視界が…)
三蔵郎は意識が喪失する。数秒後…。野犬の肉体が崩れ落ちる。
「人間の肉体に憑霊したな♪」
(人間は人間でも私が憎悪する崇徳丸の再来であるからな♪)
死霊餓狼は大喜びする。
「即刻愚劣なる人間達を呪殺したいが…」
(手始めに崇徳丸の花嫁の…再来から呪殺するか…)
死霊餓狼の霊体は三蔵郎の肉体に憑霊した状態で西国の村里へと直行したのである。同時刻…。
「えっ?何かしら?」
(霊力?)
桜花姫は自宅で昼寝したものの極悪非道の霊力を察知するなり起床する。
「無数の霊力を感じるわ…」
(東国との国境に悪霊が出現したのかしら?)
直後…。
「えっ!?」
霊力が突然パッと消失するなり感じられなくなる。
(如何して突然霊力が消失したのかしら?)
桜花姫は警戒したのかソワソワする。直後である。
「きゃっ!」
突然の板戸のノックに驚愕する。
(吃驚するじゃない…)
桜花姫は玄関の板戸へと移動するなり…。
(一体誰かしら?)
「何よ?」
彼女は恐る恐る玄関の板戸を開放すると玄関口には刀剣を所持した三蔵郎が佇立する。
「えっ!?三蔵郎様?」
突然の三蔵郎の訪問に桜花姫は驚愕したのである。
「三蔵郎様が私の家屋敷に訪問するなんて…」
何よりも気になるのは血塗れの刀剣であり僧侶である三蔵郎が如何してこんな代物を所持するのか非常に気になる。
(物騒だわ…如何して三蔵郎様は血塗れの刀剣を?)
三蔵郎の表情を直視すると無表情であり桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
(相手は三蔵郎様なのに…不吉だわ…)
人一倍温柔敦厚の三蔵郎が別人みたいに感じられる。
(普段の三蔵郎様とは別人みたいだわ…ひょっとして三蔵郎は前回みたいに何者かによって憑依されちゃったのかしら?)
桜花姫は三蔵郎を睥睨するなり…。
「あんたは一体何者よ?姿形は三蔵郎様本人でも…中身は別物よね?」
すると三蔵郎らしき人物が発言し始める。
「最上級の妖女である貴様には通用しまいか…一瞬で見破られるとは…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りするなり…。
「はっ?あんたは一体何者なのよ?」
三蔵郎らしき人物は即答する。
「私が誰かって?私は死霊餓狼…半年前に貴様によって成仏させられた悪霊の片鱗とでも…」
「悪霊の片鱗?死霊餓狼ですって?」
桜花姫は何が何やら理解出来なかったのか珍紛漢紛だったのである。
「私は半年前に世界樹の霊魂巨神木に憑霊した悪霊…所謂悪霊の集合体だよ…」
「霊魂巨神木!?」
桜花姫は霊魂巨神木の一言にピクッと反応する。
「あんたが霊魂巨神木に憑霊した悪霊の正体だったのね…」
「無論であるが…貴様の神通力で霊体の九分九厘が浄化されたのは非常に無念であるぞ…」
「今現在のあんたは悪霊の集合体の…残滓なのね…」
死霊餓狼は余裕の態度であり表情が変化しない。
「如何やら今現在の貴様は半年前みたいに莫大なる神通力を使用出来ないみたいだな…最強の妖女である貴様さえ呪殺出来れば愚劣なる人間達の殲滅は片手間である…」
(今現在の僧侶の肉体が死滅したとしても…再度別の人間に憑霊するだけだからな♪誰であっても私は仕留められない…相手が崇徳丸の花嫁でも♪)
本来死霊餓狼の本体は不定形の霊体であり多種多様の生命体は勿論…。多種多様の器物にも憑霊出来る。
「自身を最上級の妖女と豪語する貴様でも…私が憑霊した僧侶には手出し出来ないであろう♪」
桜花姫はピクッと反応する。
(私でも三蔵郎様には妖術なんて使用出来ないわ…一体如何すれば…)
困惑した桜花姫に死霊餓狼は失笑したのである。
「如何やら貴様は本当に手出し出来ないみたいだな♪」
(崇徳丸の再来に憑霊したのは正解であったな♪憑霊したのが別人であれば猛反撃されただろうが…)
死霊餓狼は霊斬刀で桜花姫の右手首を斬撃…。
「きゃっ!」
掠り傷であったが桜花姫はバタッと横たわったのである。
「最上級の妖女である貴様にとって…こんな人間の僧侶は妖術を駆使すれば簡単に仕留められるのに勿体無いな♪所詮貴様は妖術が使用出来なければ何も出来ない小娘同然なのだ♪」
(三蔵郎様…)
極度の悲痛により桜花姫は精神的に参ったのか落涙する。
「崇徳丸の花嫁の再来よ…本日が貴様にとって命日である!貴様が家族と豪語する人間の僧侶によって貴様は惨殺されるのだ!」
(勿論貴様の家族である僧侶も呪殺するから無間地獄で再会出来るが♪)
霊斬刀で斬撃される寸前…。
「ぐっ!」
突如として両手が氷結したのである。
「なっ!?氷結だと!?」
死霊餓狼の両手が突然の氷結により両手が使用出来なくなる。
「えっ!?氷結?」
「危機一髪だったわね…桜花姫♪」
死霊餓狼の背後には水色の着物姿の花魁が佇立する。
(えっ?花魁?)
「誰なの?ひょっとしてあんたも妖女かしら?」
花魁は笑顔で…。
「私よ…私♪粉雪妖女の氷麗姫よ♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫だったの!?」
粉雪妖女の氷麗姫は口寄せの妖術で復活してからは花魁として活動中だったのである。雰囲気が以前とは別人であり桜花姫は驚愕する。
(花魁の正体が氷麗姫だったなんて…一瞬別人かと…)
「氷麗姫…如何してあんたが?」
「西国の村里から薄気味悪い霊力を察知したのよ…場所があんたの家屋敷だったのは正直意外だったけどね♪」
「半年前は敵対者だったあんたが私に助太刀するなんて…」
桜花姫は氷麗姫の行動に意外であると感じる。死霊餓狼は恐る恐る背後を凝視するなり氷麗姫を睥睨したのである。
「如何やら貴様も…妖女の小娘みたいだな…」
「あんたは人間の僧侶みたいだね…桜花姫に手出しするなら私は手加減しないわよ!」
「氷麗姫!三蔵郎様には手出ししないで!」
氷麗姫は強気の様子であったが桜花姫は氷麗姫に切願する。
「えっ!?僧侶はあんたを殺そうと…」
「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけなの!彼を殺さないで…」
氷麗姫は瞑目するなり…。
(彼自身は普通の人間なのに僧侶の肉体から亡者達の霊力が感じられるわね…)
「僧侶は極悪非道の悪霊に憑霊されちゃったのね…」
彼女は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫?悪霊を除霊するとか…変化の妖術で僧侶を食い殺してから口寄せの妖術で再度僧侶を元通りに復活させるとか出来ないの?」
氷麗姫に問い掛けられた桜花姫であるが彼女は困惑した表情で…。
「生憎除霊の妖術は出来ないの…変化の妖術で三蔵郎様を桜餅に変化させて食べちゃえば簡単だけど…人一倍食いしん坊の私でも三蔵郎様を食い殺すなんて出来ないわ…」
(桜花姫にとって悪霊に憑霊された僧侶は余程大切なのね…)
氷麗姫は一瞬意外であると感じる。
(僧侶の身動きは封殺出来ても…私には除霊なんて出来ないし一体如何すれば?)
氷麗姫は困惑した直後…。
「如何やら間に合ったね♪」
「悪者は私が征伐するよ!」
「あんた達は蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんと山猫妖女の小猫姫!?如何してあんた達が…」
「西国の村里から極悪非道の霊力を察知したからね♪」
蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫も死霊餓狼の霊力を目印に桜花姫の家屋敷へと参上したのである。
「えっ?悪者は?」
小猫姫は家屋敷を警戒するものの…。
「小猫姫…悪者は…」
蛇骨鬼は苦笑いした表情で氷結により身動き出来なくなった三蔵郎を指差したのである。
「えっ?三蔵郎様でしょう?如何して刀剣を?」
蛇骨鬼は三蔵郎の肉体に憑霊した死霊餓狼を睥睨するなり…。
「死霊餓狼も執念深いね…最早戦乱時代は終焉したのに…」
(老婆の分際で…)
蛇骨鬼の発言に死霊餓狼は即答したのである。
「私を浄化したとしても愚劣なる人間達は未来永劫戦乱時代を頻発させる…愚劣なる人間達を全滅させなければ今後も自然界は汚染されるだけだぞ…」
(最早悪意の集合体である死霊餓狼に説得は無意味だね…)
死霊餓狼は亡者達の悪意の集合体であり説得は不可能であると判断する。
「覚悟しな…死霊餓狼…」
蛇骨鬼は左手が白蛇へと変化させるなり…。蛇骨鬼の白蛇が三蔵郎の肉体に接触したのである。直後…。
「ぐっ!」
(蛇神の蛇骨鬼…愚劣なる人間達によって迫害された純血の神族が人間達に加勢するとは…)
三蔵郎の肉体から不定形の黒雲が発生したのである。
「黒雲だわ…ひょっとして死霊餓狼の本体かしら?」
すると三蔵郎は意識が消失するなりバタッと横たわる。
「三蔵郎様が…」
「心配しなくても大丈夫だよ…死霊餓狼の霊体を除霊したから三蔵郎は一時的に気絶しただけだよ…」
すると小猫姫と氷麗姫がポカンとする。
「死霊餓狼の本体って?」
「私にも何が何やら…」
(小猫姫と氷麗姫には死霊餓狼の本体が認識出来ないのね…)
死霊餓狼の霊体を認識出来るのは特定の人物のみであり普通の人間は勿論…。凡庸の妖女でも死霊餓狼の霊体は認識出来ない。
「死霊餓狼の憑霊から無事に三蔵郎を解放したからかね…今度こそ桜花姫ちゃんの出番だよ♪」
桜花姫は蛇骨鬼の効力に驚愕する。
(物理的に三蔵郎様の肉体から死霊餓狼を除霊させちゃうなんて…)
驚愕した桜花姫であるが即座に変化の妖術を発動…。
「死霊餓狼!桜餅に変化しちゃえ!」
すると不定形の霊体である死霊餓狼がポンッと小皿と桜餅に変化したのである。小猫姫と氷麗姫は桜餅として実体化した死霊餓狼を直視するなり…。
「えっ!?突然桜餅が!?」
「霊体さえも桜餅に変化させちゃうなんて…桜花姫は天道の化身かしら?」
小猫姫と氷麗姫は苦笑いする。桜花姫はパクっと実体化した桜餅を頬張る。
「悪霊でも桜餅に変化させると美味だわ♪」
「本日で戦乱時代の因縁を完全に浄化させたね…桜花姫ちゃん♪」
小猫姫は蛇骨鬼に問い掛ける。
「蛇骨鬼婆ちゃん?結局死霊餓狼って何者だったの?」
「死霊餓狼は戦乱時代に人間に殺された野犬の悪霊だよ…自然界から誕生した悪霊で多種多様の怨念を吸収するから多種多様の悪霊を実体化させられるのさ♪所謂亡者達の悪意の集合体だね…」
「今迄に出現した悪霊は死霊餓狼が復活させたの?」
「勿論♪半年前に霊魂巨神木に憑霊して大量の悪霊を復活させたのも死霊餓狼の霊体だからね…半年前は桜花姫ちゃんと小猫姫の力戦で霊体の九分九厘を成仏させられたけど…今回は霊体の片鱗が三蔵郎に憑霊したみたいだね…」
すると蛇骨鬼は小声でボソッと発言したのである。
「千年前の元祖妖女…桃子姫が健康体なら死霊餓狼は完全に浄化されたのだけれどね…彼女は病弱だったから死霊餓狼を浄化し切れなかった…」
「桃子姫って誰なのよ?」
一同は桃子姫の名前に反応する。
「桃子姫は…所謂桜花姫ちゃんの前世だよ…」
桜花姫の前世の一言に一同は驚愕したのである。
「えっ!?桃子姫って妖女が桜花姫姉ちゃんの前世なの!?」
「桜花姫の前世が…元祖妖女ですって!?」
「桃子姫って妖女が…私の…前世?」
「桃子姫はね…」
蛇骨鬼は千年前の伝承である桃子姫の伝説を一部始終力説する。桃子姫の伝説を傾聴した一同は絶句したのである。
「想像以上に壮絶だったのね…戦乱時代って…」
(別に沈黙しなくても…)
沈黙した一同に蛇骨鬼は苦笑いする。
「何よりも今回で死霊餓狼は完全に浄化されたからね♪金輪際太平神国では悪霊は出現しなくなるだろうよ♪」
「えっ…」
「悪霊は金輪際出現しないのね♪」
「一安心だね♪」
小猫姫と氷麗姫は大喜びするものの…。桜花姫はパッとしなかったのか寂然の表情だったのである。こんな彼女に蛇骨鬼は恐る恐る問い掛ける。
「桜花姫ちゃん?大丈夫かい?」
「大丈夫だけれど…正直…悪霊征伐が出来なくなるから…今後は退屈だなって…」
桜花姫の発言に氷麗姫は呆れ果てる。
(退屈って…)
「あんたはお馬鹿さんね…悪霊なんて四六時中出現されたら傍迷惑でしょう!私は懲り懲りだわ!」
蛇骨鬼がボソッと発言したのである。
「今回で死霊餓狼が完全に浄化されたとしても…人間達が再度戦乱時代を頻発させた場合は第二…第三の死霊餓狼が出現するかも知れないからね…戦乱時代は絶対に阻止しないと…」
「勿論だよ!蛇骨鬼婆ちゃん!今後は私も桜花姫姉ちゃんと一緒に悪者を征伐するから安心してね!」
豪語する小猫姫に氷麗姫は苦笑いする。
(化け猫のお嬢ちゃんは…二代目の桜花姫だね…)
沈黙する桜花姫に蛇骨鬼が…。
「桜花姫ちゃんよ…あんたは金輪際匪賊征伐に専念しな♪」
桜花姫はボソッと返答する。
「勿論よ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると直後…。気絶した三蔵郎が恐る恐る目覚める。
「三蔵郎様!?」
「如何やら彼が目覚めたみたいだね…」
「えっ?私は今迄一体何を?」
三蔵郎は警戒した様子でハッとするなり…。
「桜花姫様ですか!?悪霊は!?即刻悪霊を征伐しなくては!」
蛇骨鬼は笑顔でポンっと接触する。
「一安心しな…悪霊なら桜花姫ちゃんが成仏させたからあんたが心配しなくても大丈夫だよ♪」
「えっ!?桜花姫様が…悪霊を成仏させられたのですか…」
三蔵郎は一安心したのかホッとしたのである。
「桜花姫様の妖術で悪霊は無事に征伐されたのですね…一件落着ですな♪」
すると桜花姫は落涙するなり…。
「うわっ!桜花姫様!?」
桜花姫は力一杯三蔵郎の腹部に密着したのである。
「一体如何されましたか?」
「三蔵郎様!」
(桜花姫様…)
氷麗姫が恐る恐る三蔵郎に近寄る。
「あんたの名前は三蔵郎だったわね…」
「私は三蔵郎ですが…一体如何されましたか?」
氷麗姫は三蔵郎を睥睨するなり…。
「三蔵郎は悪霊に憑霊されちゃったみたいだけどあんたは桜花姫に手出しする寸前だったのよ…あんたは即刻桜花姫に謝罪しなさい!下手すれば桜花姫は殺されるかも知れなかったのよ…」
「えっ!?僧侶である私が…桜花姫様を殺そうと…」
三蔵郎は絶句したのである。
(私が…桜花姫様に…)
三蔵郎の涙腺から涙が零れ落ちる。
「今回は私にとって人生最大の過誤です…」
落涙する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様…気にしないで♪」
「ですが桜花姫様…私は…」
「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけだから三蔵郎様は何も悪くないわよ♪三蔵郎様が無事で何よりだから♪」
「私は悪霊によって憑霊されたかも知れませんが桜花姫様に手出ししたのは事実みたいですし…私にとって今回の過誤は一生の不覚です…」
「気にしないの♪三蔵郎様♪」
「ですが私は桜花姫様に贖罪しなければ!」
彼自身今回の罪悪を贖罪しなければ一生後悔するのではと感じる。すると桜花姫は笑顔で発言するなり…。
「三蔵郎様が如何しても贖罪したいのであれば…和菓子屋で桜餅を頬張らせてよ♪」
「えっ!?桜餅って…」
「贖罪が桜餅なんて…」
(桜花姫ちゃんらしいね…)
桜花姫の発言に一同はポカンとした反応である。
「贖罪は贖罪でも桜花姫にとっての贖罪は非常に軽薄なのね…」
(桜花姫らしいけれども…)
一同は苦笑いする。
「三蔵郎様♪即刻東国の和菓子屋に直行しましょう♪」
「勿論ですとも♪桜花姫様♪」
桜花姫と三蔵郎は東国の和菓子屋へと直行したのである。
完結
因縁
大黒島での戦闘から一週間後の早朝…。僧侶の三蔵郎は室内を清掃するのだが摩訶不思議の刀剣を発見したのである。
「えっ?ひょっとして刀剣でしょうか?」
三蔵郎は恐る恐る刀剣に接触する。
「なっ!?名刀の『霊斬刀』では!?」
霊斬刀とは国宝級の名刀であり戦乱時代の英雄…。夜桜崇徳丸が所持した牢固石の刀剣である。戦乱時代では単なる刀剣として扱われるも崇徳丸の死後…。神出鬼没の悪霊を征伐する名刀霊斬刀と命名されたのである。当時怨敵であった南国と北国からは今現在でも不吉の妖刀と皮肉られる。
「如何してこんな国宝級の代物が…私の寺院に?」
不思議がる三蔵郎であるがフッと想起するなり…。
「一昨年に知人に贈呈された代物でしたね♪」
一昨年に知人から霊斬刀を頂戴した内容を忘却したのである。
「清掃中に霊斬刀を発見したのは何かしらの運命なのかも知れませんね♪」
(折角なので…記念品として私の自室にでも装飾しますかね♪)
三蔵郎はルンルンした気分で自室の屏風に霊斬刀を装飾する。
「ですが霊斬刀が千年前の代物なんて…私には想像も出来ませんね…」
三蔵郎は霊斬刀に魅了される。
(こんな刀剣で大勢の悪者達を撃退出来れば…本物の武士みたいに大勢の村人達に敬愛されるのですがね…)
三蔵郎は妄想したのである。
「明日の早朝…暇潰しに西国の国境で素振りするのも悪くないですね♪」
翌日の早朝…。三蔵郎は霊斬刀を所持するなり東国と西国の国境に位置する山道へと移動したのである。恐る恐る周囲の人通りを警戒する。
「早朝であれば国境の山道でも人通りは少数ですし大丈夫でしょうね…」
時間帯は早朝で人通りも皆無であり三蔵郎は力一杯素振りしたのである。
「常日頃の気苦労も解消出来ますし…最高ですね♪」
(私も歴史人物の夜桜崇徳丸様みたいに大勢の悪者達を撃退して…誰かを守護したいですな♪)
三蔵郎にとって戦乱時代に活躍した崇徳丸は憧憬の対象であり三蔵郎は彼を意識する。無我夢中に何度も何度も素振りを反復し続けたのである。
(悪霊でも出現しませんかね?)
「霊斬刀で悪霊を仕留められるのであれば是非とも霊斬刀で悪霊を仕留めたいですな♪」
すると直後…。突如として極度の胸騒ぎを感じたのである。
「なっ!?」
(胸騒ぎでしょうか…)
突如として極度の死臭と強烈なる殺気が此方に接近するのを感じる。
(極度の死臭と殺気…一体何が?)
正体不明の不吉の気配は刻一刻と山道へと急接近する。数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野犬が国境の山道に出現したのである。
「えっ…野犬!?」
(巨体だな…)
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野犬は正真正銘悪霊であると認識出来る。
(此奴は…野犬の悪霊なのか!?)
口先には咀嚼された肉片らしき物体を確認…。何かを捕食したのであると推測する。
「悪霊は遭遇した野獣を食い殺したのでしょうか?」
三蔵郎は極度の恐怖心により恐る恐る後退りする。
(人間の私でも感じられる強烈なる殺気…非常に厄介かも知れませんね…)
殺されるかも知れないと危惧するのだが…。野犬の悪霊と対峙すると不自然にも霊斬刀がカタカタッと震え始める。
「えっ!?霊斬刀が…」
(ひょっとして私に野犬の悪霊を仕留めろと…)
逃亡出来るのであれば一目散に逃亡したい三蔵郎であるが…。
(現在地は東国と西国との国境…私が逃亡すれば東国にも西国にも悪影響が…)
戦闘を放棄して逃亡すれば命拾いは出来るものの戦闘を放棄すれば確実に大勢の村人達が悪霊によって惨殺されるのは明白である。
(私が逃亡すれば東国は勿論…西国にも被害が及びましょう…何よりも西国は桜花姫様が安住される桃源郷…)
「全身全霊私が死守しなくては!」
三蔵郎は決意する。三蔵郎の表情が変化すると野犬の悪霊がピクッと反応したのである。野犬の悪霊はギロッと三蔵郎を睥睨するなり…。
「なっ!」
野犬の悪霊は猛スピードで突進したのである。三蔵郎は咄嗟に野犬の悪霊の突進を間一髪回避…。野犬の悪霊は一直線に突進するなり三蔵郎の背後の岩壁へと突っ込んだのである。
(危機一髪…こんなのに突進されたら全身が粉砕されますね…)
野犬の悪霊の突進によって頑強なる岩壁が抉れる。三蔵郎は神速により野犬の悪霊の背後へと移動するなり背後から霊斬刀で斬撃する。
(悪霊を仕留めたか!?)
手応えは感じるものの…。野犬の悪霊の姿形がパッと消滅する。
(ひょっとして先程の姿形は残像なのか!?)
野犬の悪霊は神速によって三蔵郎の斬撃を回避したのである。
「残像だったか…」
野犬の悪霊は一瞬で三蔵郎の背後へと移動する。野犬の悪霊がギロッと睥睨した直後…。
「えっ?」
霊斬刀がピカッと蛍光色に発光したのである。
(霊斬刀が発光した…)
すると全身に重苦しい殺気を感じる。天空一面が黒雲により覆い包まれる。
(天空が…)
直後…。ピカッと落雷が三蔵郎の頭上より落下したのである。
「落雷!?」
三蔵郎は咄嗟の判断により落雷の回避に成功する。
「危機一髪だった…」
(ひょっとして霊斬刀は私に生命の危機を予知したのか…)
すると突然…。
「貴様は僧侶の身分であるが…彼奴に酷似する…」
突然人間の口言葉で発語した野犬の悪霊に驚愕したのである。
「なっ!悪霊は人語で喋れるのか!?」
「貴様も彼奴と同様の反応であるな…」
「彼奴とは…誰なのでしょうか?」
野犬の悪霊は即答する。
「夜桜崇徳丸と名乗る…愚劣なる人間の若武者である…」
(夜桜崇徳丸だって!?)
夜桜崇徳丸の名前を傾聴した直後…。三蔵郎は何が何やら困惑したのである。
「ひょっとすると僧侶の貴様は…戦乱時代の夜桜崇徳丸と名乗る武士の再来であるな…」
野犬の悪霊の発言に三蔵郎は絶句する。
(私が…崇徳丸様の再来ですと!?)
「雰囲気もだが…醜悪なる人間としては非常に清心であるからな…貴様は崇徳丸に共通する…」
(ですが私の前世が夜桜崇徳丸様ですか♪)
崇徳丸の再来である事実に三蔵郎は内心大喜びしたのである。三蔵郎は恐る恐る…。
「貴方様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた野犬の悪霊は即答する。
「私は死霊餓狼…千年前に醜悪なる人間によって惨殺された野犬の亡霊とでも…」
「死霊餓狼…」
死霊餓狼とは極悪非道の人間に惨殺された野犬の亡霊と認識される反面…。汚染された自然界から誕生した悪霊の集合体とも呼称される。共通する伝承では死霊餓狼は人間達に憎悪…。死霊餓狼と遭遇した人間は確実に食い殺されるのが通説である。死霊餓狼の肉体を死滅させたとしても死霊餓狼の呪力は本体を死滅させた人間に憑霊…。憑霊された人間に大勢の人間達を呪力で殺させる。大勢の人間達を殺害すると最終的には死霊餓狼の呪力に憑霊された人間の肉体は腐敗…。腐敗した肉体は確実に崩れ落ちる。
(悪霊は悪霊でも最初に遭遇した悪霊が死霊餓狼なんて…私は人一倍不運ですね…)
「ですが如何して今更死霊餓狼が出現したのですか?」
死霊餓狼は一瞬沈黙するなり…。
「今迄に愚劣なる人間の亡者達を利用したが…結局貴様達愚劣なる人間達を呪殺出来なかったからな…私自身が直接的に愚劣なる人間達を全滅しに顕現したのだ…」
死霊餓狼の発言に三蔵郎はピクッと反応する。
「ひょっとして今迄出現した悪霊は死霊餓狼が…」
死霊餓狼は即答したのである。
「勿論…半年前に世界樹である霊魂巨神木に憑霊して…大勢の亡者達を利用したのも私自身であるからな…」
「貴様が黒幕だったのか…」
霊魂巨神木は本来純粋無垢で無害の樹木であるが死霊餓狼の怨念が無害の霊魂巨神木に憑霊…。戦乱時代で死去した大勢の亡者達を復活させ各地の村人達を襲撃させたのである。
「結局…崇徳丸の花嫁の再来によって阻止されたが…」
「崇徳丸様の花嫁の再来とは…」
(ひょっとすると…桜花姫様でしょうか?)
三蔵郎は桜花姫を連想する。
「如何やら今回は幸運にも崇徳丸の花嫁の再来は不在であるからな…非常に好都合である!」
「ですが今回は私が全身全霊で貴方様の野望を阻止しますよ!今度も各地の村里を襲撃するみたいですからね!」
三蔵郎は強気で返答したのである。
「随分強気であるな…手始めに貴様を呪殺して…愚劣なる人間達を殲滅するか…」
(僧侶を呪殺して僧侶の肉体に憑霊すれば…花嫁の再来とて迂闊には手出し出来なくなるからな…)
死霊餓狼は口先より高熱の火球を発射したのである。
「死滅せよ!崇徳丸の再来!」
(火球!?)
三蔵郎は高熱の火球を一刀両断…。高熱の火球を斬撃したのである。両断された火球は三蔵郎の背後にて爆散…。背後の地面にはクレーターが形作られる。
(こんなのが直撃すれば即死でしょうね…)
火球の灼熱によって霊斬刀の白刃が赤化する。
「牢固石の白刃が高熱で赤化するなんて…」
(普通の刀剣なら確実に屈折するでしょうね…)
「今度こそ死滅しろ!崇徳丸の再来!」
死霊餓狼は再度口先から高熱の火球を発射したのである。
「なっ!?」
三蔵郎は咄嗟に火球を回避する。
(畜生…間一髪回避したか…)
「愚劣なる人間の分際で私の攻撃を回避するとは…貴様が崇徳丸の再来なのは決定的であるな…」
死霊餓狼は力一杯睥睨するなり…。
「崇徳丸の再来!」
(今度こそ死滅しろ!)
死霊餓狼は全身全霊で突進する。相手は猛スピードであり三蔵郎は回避出来ない。
(止むを得ないな…)
三蔵郎は咄嗟の斬撃で死霊餓狼の右側の前脚を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
間一髪死霊餓狼の右側の前脚を斬撃…。死霊餓狼の突進攻撃を無力化したのである。
(一歩間違えれば殺されたのは私だったでしょうね…)
死霊餓狼はバタッと地面に横たわる。三蔵郎は恐る恐る衰弱化した死霊餓狼へと近寄る。
(死霊餓狼を仕留めれば…東国も西国も無事に守護出来る…)
「戦乱時代の悪霊…成仏せよ…」
斬撃する寸前…。
「えっ!?」
三蔵郎は斬撃したいが死霊餓狼の悲哀の表情を直視すると殺せなくなる。
(私には殺せないな…死霊餓狼を仕留めなければ東国と西国の大勢の村人達が殺害されるかも知れないのに…)
相手が悪霊であっても衰弱化した表情を直視すると心苦しくなる。
「悪霊を相手に躊躇いとは…所詮貴様の慈悲は崇徳丸と同様であるな…貴様の躊躇いが愚劣なる人間達の殺戮に直結するのに…」
「なっ!?」
三蔵郎はゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。
(強烈なる殺意…死霊餓狼は一体何を?)
三蔵郎は警戒するなり恐る恐る後退りする。
「崇徳丸の再来よ…貴様の身動きを封殺する…」
「身動きを封殺ですと!?」
すると突然…。
「ぐっ!」
(一体何が!?)
突如として三蔵郎は身動き出来なくなる。
(ひょっとして金縛りか?身動き出来なくなるなんて…)
「金縛りで貴様の身動きを封殺した…最早身動きは出来まい…」
死霊餓狼は一息するなり…。
「貴様の肉体に憑霊する…最早野犬の肉体も不必要だ!」
すると死霊餓狼の肉体から黒煙が発生するなり三蔵郎の肉体へと憑霊する。
(なっ!?)
死霊餓狼の肉体から発生した黒煙こそが死霊餓狼の本体であり三蔵郎の肉体へと憑霊したのである。
「ぐっ!」
(視界が…)
三蔵郎は意識が喪失する。数秒後…。野犬の肉体が崩れ落ちる。
「人間の肉体に憑霊したな♪」
(人間は人間でも私が憎悪する崇徳丸の再来であるからな♪)
死霊餓狼は大喜びする。
「即刻愚劣なる人間達を呪殺したいが…」
(手始めに崇徳丸の花嫁の…再来から呪殺するか…)
死霊餓狼の霊体は三蔵郎の肉体に憑霊した状態で西国の村里へと直行したのである。同時刻…。
「えっ?何かしら?」
(霊力?)
桜花姫は自宅で昼寝したものの極悪非道の霊力を察知するなり起床する。
「無数の霊力を感じるわ…」
(東国との国境に悪霊が出現したのかしら?)
直後…。
「えっ!?」
霊力が突然パッと消失するなり感じられなくなる。
(如何して突然霊力が消失したのかしら?)
桜花姫は警戒したのかソワソワする。直後である。
「きゃっ!」
突然の板戸のノックに驚愕する。
(吃驚するじゃない…)
桜花姫は玄関の板戸へと移動するなり…。
(一体誰かしら?)
「何よ?」
彼女は恐る恐る玄関の板戸を開放すると玄関口には刀剣を所持した三蔵郎が佇立する。
「えっ!?三蔵郎様?」
突然の三蔵郎の訪問に桜花姫は驚愕したのである。
「三蔵郎様が私の家屋敷に訪問するなんて…」
何よりも気になるのは血塗れの刀剣であり僧侶である三蔵郎が如何してこんな代物を所持するのか非常に気になる。
(物騒だわ…如何して三蔵郎様は血塗れの刀剣を?)
三蔵郎の表情を直視すると無表情であり桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
(相手は三蔵郎様なのに…不吉だわ…)
人一倍温柔敦厚の三蔵郎が別人みたいに感じられる。
(普段の三蔵郎様とは別人みたいだわ…ひょっとして三蔵郎は前回みたいに何者かによって憑依されちゃったのかしら?)
桜花姫は三蔵郎を睥睨するなり…。
「あんたは一体何者よ?姿形は三蔵郎様本人でも…中身は別物よね?」
すると三蔵郎らしき人物が発言し始める。
「最上級の妖女である貴様には通用しまいか…一瞬で見破られるとは…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りするなり…。
「はっ?あんたは一体何者なのよ?」
三蔵郎らしき人物は即答する。
「私が誰かって?私は死霊餓狼…半年前に貴様によって成仏させられた悪霊の片鱗とでも…」
「悪霊の片鱗?死霊餓狼ですって?」
桜花姫は何が何やら理解出来なかったのか珍紛漢紛だったのである。
「私は半年前に世界樹の霊魂巨神木に憑霊した悪霊…所謂悪霊の集合体だよ…」
「霊魂巨神木!?」
桜花姫は霊魂巨神木の一言にピクッと反応する。
「あんたが霊魂巨神木に憑霊した悪霊の正体だったのね…」
「無論であるが…貴様の神通力で霊体の九分九厘が浄化されたのは非常に無念であるぞ…」
「今現在のあんたは悪霊の集合体の…残滓なのね…」
死霊餓狼は余裕の態度であり表情が変化しない。
「如何やら今現在の貴様は半年前みたいに莫大なる神通力を使用出来ないみたいだな…最強の妖女である貴様さえ呪殺出来れば愚劣なる人間達の殲滅は片手間である…」
(今現在の僧侶の肉体が死滅したとしても…再度別の人間に憑霊するだけだからな♪誰であっても私は仕留められない…相手が崇徳丸の花嫁でも♪)
本来死霊餓狼の本体は不定形の霊体であり多種多様の生命体は勿論…。多種多様の器物にも憑霊出来る。
「自身を最上級の妖女と豪語する貴様でも…私が憑霊した僧侶には手出し出来ないであろう♪」
桜花姫はピクッと反応する。
(私でも三蔵郎様には妖術なんて使用出来ないわ…一体如何すれば…)
困惑した桜花姫に死霊餓狼は失笑したのである。
「如何やら貴様は本当に手出し出来ないみたいだな♪」
(崇徳丸の再来に憑霊したのは正解であったな♪憑霊したのが別人であれば猛反撃されただろうが…)
死霊餓狼は霊斬刀で桜花姫の右手首を斬撃…。
「きゃっ!」
掠り傷であったが桜花姫はバタッと横たわったのである。
「最上級の妖女である貴様にとって…こんな人間の僧侶は妖術を駆使すれば簡単に仕留められるのに勿体無いな♪所詮貴様は妖術が使用出来なければ何も出来ない小娘同然なのだ♪」
(三蔵郎様…)
極度の悲痛により桜花姫は精神的に参ったのか落涙する。
「崇徳丸の花嫁の再来よ…本日が貴様にとって命日である!貴様が家族と豪語する人間の僧侶によって貴様は惨殺されるのだ!」
(勿論貴様の家族である僧侶も呪殺するから無間地獄で再会出来るが♪)
霊斬刀で斬撃される寸前…。
「ぐっ!」
突如として両手が氷結したのである。
「なっ!?氷結だと!?」
死霊餓狼の両手が突然の氷結により両手が使用出来なくなる。
「えっ!?氷結?」
「危機一髪だったわね…桜花姫♪」
死霊餓狼の背後には水色の着物姿の花魁が佇立する。
(えっ?花魁?)
「誰なの?ひょっとしてあんたも妖女かしら?」
花魁は笑顔で…。
「私よ…私♪粉雪妖女の氷麗姫よ♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫だったの!?」
粉雪妖女の氷麗姫は口寄せの妖術で復活してからは花魁として活動中だったのである。雰囲気が以前とは別人であり桜花姫は驚愕する。
(花魁の正体が氷麗姫だったなんて…一瞬別人かと…)
「氷麗姫…如何してあんたが?」
「西国の村里から薄気味悪い霊力を察知したのよ…場所があんたの家屋敷だったのは正直意外だったけどね♪」
「半年前は敵対者だったあんたが私に助太刀するなんて…」
桜花姫は氷麗姫の行動に意外であると感じる。死霊餓狼は恐る恐る背後を凝視するなり氷麗姫を睥睨したのである。
「如何やら貴様も…妖女の小娘みたいだな…」
「あんたは人間の僧侶みたいだね…桜花姫に手出しするなら私は手加減しないわよ!」
「氷麗姫!三蔵郎様には手出ししないで!」
氷麗姫は強気の様子であったが桜花姫は氷麗姫に切願する。
「えっ!?僧侶はあんたを殺そうと…」
「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけなの!彼を殺さないで…」
氷麗姫は瞑目するなり…。
(彼自身は普通の人間なのに僧侶の肉体から亡者達の霊力が感じられるわね…)
「僧侶は極悪非道の悪霊に憑霊されちゃったのね…」
彼女は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫?悪霊を除霊するとか…変化の妖術で僧侶を食い殺してから口寄せの妖術で再度僧侶を元通りに復活させるとか出来ないの?」
氷麗姫に問い掛けられた桜花姫であるが彼女は困惑した表情で…。
「生憎除霊の妖術は出来ないの…変化の妖術で三蔵郎様を桜餅に変化させて食べちゃえば簡単だけど…人一倍食いしん坊の私でも三蔵郎様を食い殺すなんて出来ないわ…」
(桜花姫にとって悪霊に憑霊された僧侶は余程大切なのね…)
氷麗姫は一瞬意外であると感じる。
(僧侶の身動きは封殺出来ても…私には除霊なんて出来ないし一体如何すれば?)
氷麗姫は困惑した直後…。
「如何やら間に合ったね♪」
「悪者は私が征伐するよ!」
「あんた達は蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんと山猫妖女の小猫姫!?如何してあんた達が…」
「西国の村里から極悪非道の霊力を察知したからね♪」
蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫も死霊餓狼の霊力を目印に桜花姫の家屋敷へと参上したのである。
「えっ?悪者は?」
小猫姫は家屋敷を警戒するものの…。
「小猫姫…悪者は…」
蛇骨鬼は苦笑いした表情で氷結により身動き出来なくなった三蔵郎を指差したのである。
「えっ?三蔵郎様でしょう?如何して刀剣を?」
蛇骨鬼は三蔵郎の肉体に憑霊した死霊餓狼を睥睨するなり…。
「死霊餓狼も執念深いね…最早戦乱時代は終焉したのに…」
(老婆の分際で…)
蛇骨鬼の発言に死霊餓狼は即答したのである。
「私を浄化したとしても愚劣なる人間達は未来永劫戦乱時代を頻発させる…愚劣なる人間達を全滅させなければ今後も自然界は汚染されるだけだぞ…」
(最早悪意の集合体である死霊餓狼に説得は無意味だね…)
死霊餓狼は亡者達の悪意の集合体であり説得は不可能であると判断する。
「覚悟しな…死霊餓狼…」
蛇骨鬼は左手が白蛇へと変化させるなり…。蛇骨鬼の白蛇が三蔵郎の肉体に接触したのである。直後…。
「ぐっ!」
(蛇神の蛇骨鬼…愚劣なる人間達によって迫害された純血の神族が人間達に加勢するとは…)
三蔵郎の肉体から不定形の黒雲が発生したのである。
「黒雲だわ…ひょっとして死霊餓狼の本体かしら?」
すると三蔵郎は意識が消失するなりバタッと横たわる。
「三蔵郎様が…」
「心配しなくても大丈夫だよ…死霊餓狼の霊体を除霊したから三蔵郎は一時的に気絶しただけだよ…」
すると小猫姫と氷麗姫がポカンとする。
「死霊餓狼の本体って?」
「私にも何が何やら…」
(小猫姫と氷麗姫には死霊餓狼の本体が認識出来ないのね…)
死霊餓狼の霊体を認識出来るのは特定の人物のみであり普通の人間は勿論…。凡庸の妖女でも死霊餓狼の霊体は認識出来ない。
「死霊餓狼の憑霊から無事に三蔵郎を解放したからかね…今度こそ桜花姫ちゃんの出番だよ♪」
桜花姫は蛇骨鬼の効力に驚愕する。
(物理的に三蔵郎様の肉体から死霊餓狼を除霊させちゃうなんて…)
驚愕した桜花姫であるが即座に変化の妖術を発動…。
「死霊餓狼!桜餅に変化しちゃえ!」
すると不定形の霊体である死霊餓狼がポンッと小皿と桜餅に変化したのである。小猫姫と氷麗姫は桜餅として実体化した死霊餓狼を直視するなり…。
「えっ!?突然桜餅が!?」
「霊体さえも桜餅に変化させちゃうなんて…桜花姫は天道の化身かしら?」
小猫姫と氷麗姫は苦笑いする。桜花姫はパクっと実体化した桜餅を頬張る。
「悪霊でも桜餅に変化させると美味だわ♪」
「本日で戦乱時代の因縁を完全に浄化させたね…桜花姫ちゃん♪」
小猫姫は蛇骨鬼に問い掛ける。
「蛇骨鬼婆ちゃん?結局死霊餓狼って何者だったの?」
「死霊餓狼は戦乱時代に人間に殺された野犬の悪霊だよ…自然界から誕生した悪霊で多種多様の怨念を吸収するから多種多様の悪霊を実体化させられるのさ♪所謂亡者達の悪意の集合体だね…」
「今迄に出現した悪霊は死霊餓狼が復活させたの?」
「勿論♪半年前に霊魂巨神木に憑霊して大量の悪霊を復活させたのも死霊餓狼の霊体だからね…半年前は桜花姫ちゃんと小猫姫の力戦で霊体の九分九厘を成仏させられたけど…今回は霊体の片鱗が三蔵郎に憑霊したみたいだね…」
すると蛇骨鬼は小声でボソッと発言したのである。
「千年前の元祖妖女…桃子姫が健康体なら死霊餓狼は完全に浄化されたのだけれどね…彼女は病弱だったから死霊餓狼を浄化し切れなかった…」
「桃子姫って誰なのよ?」
一同は桃子姫の名前に反応する。
「桃子姫は…所謂桜花姫ちゃんの前世だよ…」
桜花姫の前世の一言に一同は驚愕したのである。
「えっ!?桃子姫って妖女が桜花姫姉ちゃんの前世なの!?」
「桜花姫の前世が…元祖妖女ですって!?」
「桃子姫って妖女が…私の…前世?」
「桃子姫はね…」
蛇骨鬼は千年前の伝承である桃子姫の伝説を一部始終力説する。桃子姫の伝説を傾聴した一同は絶句したのである。
「想像以上に壮絶だったのね…戦乱時代って…」
(別に沈黙しなくても…)
沈黙した一同に蛇骨鬼は苦笑いする。
「何よりも今回で死霊餓狼は完全に浄化されたからね♪金輪際太平神国では悪霊は出現しなくなるだろうよ♪」
「えっ…」
「悪霊は金輪際出現しないのね♪」
「一安心だね♪」
小猫姫と氷麗姫は大喜びするものの…。桜花姫はパッとしなかったのか寂然の表情だったのである。こんな彼女に蛇骨鬼は恐る恐る問い掛ける。
「桜花姫ちゃん?大丈夫かい?」
「大丈夫だけれど…正直…悪霊征伐が出来なくなるから…今後は退屈だなって…」
桜花姫の発言に氷麗姫は呆れ果てる。
(退屈って…)
「あんたはお馬鹿さんね…悪霊なんて四六時中出現されたら傍迷惑でしょう!私は懲り懲りだわ!」
蛇骨鬼がボソッと発言したのである。
「今回で死霊餓狼が完全に浄化されたとしても…人間達が再度戦乱時代を頻発させた場合は第二…第三の死霊餓狼が出現するかも知れないからね…戦乱時代は絶対に阻止しないと…」
「勿論だよ!蛇骨鬼婆ちゃん!今後は私も桜花姫姉ちゃんと一緒に悪者を征伐するから安心してね!」
豪語する小猫姫に氷麗姫は苦笑いする。
(化け猫のお嬢ちゃんは…二代目の桜花姫だね…)
沈黙する桜花姫に蛇骨鬼が…。
「桜花姫ちゃんよ…あんたは金輪際匪賊征伐に専念しな♪」
桜花姫はボソッと返答する。
「勿論よ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると直後…。気絶した三蔵郎が恐る恐る目覚める。
「三蔵郎様!?」
「如何やら彼が目覚めたみたいだね…」
「えっ?私は今迄一体何を?」
三蔵郎は警戒した様子でハッとするなり…。
「桜花姫様ですか!?悪霊は!?即刻悪霊を征伐しなくては!」
蛇骨鬼は笑顔でポンっと接触する。
「一安心しな…悪霊なら桜花姫ちゃんが成仏させたからあんたが心配しなくても大丈夫だよ♪」
「えっ!?桜花姫様が…悪霊を成仏させられたのですか…」
三蔵郎は一安心したのかホッとしたのである。
「桜花姫様の妖術で悪霊は無事に征伐されたのですね…一件落着ですな♪」
すると桜花姫は落涙するなり…。
「うわっ!桜花姫様!?」
桜花姫は力一杯三蔵郎の腹部に密着したのである。
「一体如何されましたか?」
「三蔵郎様!」
(桜花姫様…)
氷麗姫が恐る恐る三蔵郎に近寄る。
「あんたの名前は三蔵郎だったわね…」
「私は三蔵郎ですが…一体如何されましたか?」
氷麗姫は三蔵郎を睥睨するなり…。
「三蔵郎は悪霊に憑霊されちゃったみたいだけどあんたは桜花姫に手出しする寸前だったのよ…あんたは即刻桜花姫に謝罪しなさい!下手すれば桜花姫は殺されるかも知れなかったのよ…」
「えっ!?僧侶である私が…桜花姫様を殺そうと…」
三蔵郎は絶句したのである。
(私が…桜花姫様に…)
三蔵郎の涙腺から涙が零れ落ちる。
「今回は私にとって人生最大の過誤です…」
落涙する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様…気にしないで♪」
「ですが桜花姫様…私は…」
「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけだから三蔵郎様は何も悪くないわよ♪三蔵郎様が無事で何よりだから♪」
「私は悪霊によって憑霊されたかも知れませんが桜花姫様に手出ししたのは事実みたいですし…私にとって今回の過誤は一生の不覚です…」
「気にしないの♪三蔵郎様♪」
「ですが私は桜花姫様に贖罪しなければ!」
彼自身今回の罪悪を贖罪しなければ一生後悔するのではと感じる。すると桜花姫は笑顔で発言するなり…。
「三蔵郎様が如何しても贖罪したいのであれば…和菓子屋で桜餅を頬張らせてよ♪」
「えっ!?桜餅って…」
「贖罪が桜餅なんて…」
(桜花姫ちゃんらしいね…)
桜花姫の発言に一同はポカンとした反応である。
「贖罪は贖罪でも桜花姫にとっての贖罪は非常に軽薄なのね…」
(桜花姫らしいけれども…)
一同は苦笑いする。
「三蔵郎様♪即刻東国の和菓子屋に直行しましょう♪」
「勿論ですとも♪桜花姫様♪」
桜花姫と三蔵郎は東国の和菓子屋へと直行したのである。
完結
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:46 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
第九話
大黒島
アクアヴィーナス救出作戦から五日後の真夜中の出来事である。北国の最北端に位置する大黒島で無数の悪霊が出現…。大黒島を占拠したのである。翌日の真昼…。大黒島の悪霊出現の噂話を熟知した桜花姫は即座に北国へと直行したのである。
「大黒島に悪霊が出現するなんて…」
大黒島は今現在でこそ大勢の漁民達が移住する離島であるが…。大昔の戦乱時代では罪人達が配流された場所として有名である。
「今回は一体何が出現したのかしら?」
二時間後…。桜花姫は北国の海岸へと到達する。海岸の砂浜から海面上を眺望したのである。
「大黒島かしら?」
海面上を眺望し続けると小規模の孤島を発見する。
「大黒島っぽいわね…」
海岸の砂浜から大黒島への距離は推定五キロメートルの長距離であるが…。大黒島から漁民達の無数の鮮血と霊力を感じる。
(無数の鮮血と霊力を感じるわ…)
「大黒島の漁民達は悪霊に食い殺されたみたいね…」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。人魚に変化したのである。
「悪霊を征伐するわよ…」
桜花姫は人魚の状態で海面上を力泳…。大黒島へと直行したのである。大黒島へは数分間で到達する。
「到着したわね♪」
人魚の状態から元通りの姿形に戻ったのである。大黒島は非常に物静かであるが…。無数の霊力が徘徊するのを感じる。
「悪霊の気配だわ…」
桜花姫は即座に警戒…。天道眼を発動する。すると数秒後である。周囲の砂浜より数十体もの食人餓鬼が出現…。桜花姫を注視したのである。
「食人餓鬼だわ♪」
(早速出現したわね♪)
悪霊の出現に大喜び…。数十体の食人餓鬼が桜花姫に殺到し始める。
「あんた達は無謀ね…」
桜花姫は彼等の行動に呆れ果てる。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
殺到する無数の食人餓鬼に変化の妖術を発動…。食人餓鬼は数十個の桜餅と小皿に変化したのである。
「桜餅に変化したわね♪」
(消耗しちゃった妖力を回復させたいからね♪早速頂戴するわよ♪)
桜花姫は周辺の桜餅をパクパクッと食べ始める。数分後…。桜餅を完食する。
(妖力は回復したし…)
「悪霊を征伐しましょう♪」
桜花姫は住宅街へと移動したのである。
「住宅街から無数の妖力を感じるわね…」
(今度は何が出現するのかしら?)
同時刻…。
「はぁ…はぁ…」
大黒島の住宅街にて一人の村娘が無数の悪霊から逃走する。
(逃げないと…悪霊に食い殺されちゃう…)
村娘はとある住居へと進入…。潜伏したのである。恐怖心からか全身が身震いする。
(私…如何すれば…)
すると直後…。戸口よりガタガタッと物音が響き渡る。
「ひっ!」
(死にたくないよ…父ちゃん…母ちゃん…)
村娘は涙腺より涙が零れ落ちる。
「可愛らしい少女ね♪」
「えっ?」
恐る恐る背後を直視…。彼女の背後には花魁らしき女性が家屋敷の居間でビクビクする村娘を凝視し続ける。
「えっ…誰なの?」
花魁は非常に妖美の雰囲気であるが…。
「私はあんたみたいな純粋無垢の少女が大好きなのよ♪大人しく私に食べられちゃいなさい♪」
花魁の発言に極度の恐怖心を感じる。
「ひっ!」
(悪霊!?)
花魁は人外であると察知…。即座に家屋敷から脱走したのである。必死に逃走するのだが…。
「私からは逃げられないわよ♪」
先程遭遇した花魁が路地裏にて再度遭遇する。
「えっ!?」
(如何して…)
村娘は恐る恐る後退りしたのである。すると背後には二体の食人餓鬼がふら付いた身動きで村娘に近寄る。
「悪霊!?」
直後…。村娘は花魁に捕捉されたのである。
「きゃっ!」
「好い加減観念しなさい♪」
「きゃっ!誰か!誰か!」
村娘は必死に抵抗するものの…。花魁の女性は外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。
「村里で無事なのはあんただけね♪あんたの清心を頂戴するわね♪」
花魁は赤面した表情で無理矢理に接吻…。
「ぐっ!」
花魁に口移しされた直後である。村娘は全身が脱力…。意識が喪失した状態で地面に横たわる。花魁は満足気に…。
「美味しいわね♪女子の清心は純真無垢だから非常に美味だわ♪」
村娘の清心を完食した花魁は即座に退散したのである。数分後…。桜花姫が路地裏にて地面に横たわる村娘を発見する。
「彼女は村娘かしら?」
恐る恐る彼女に接触…。
「仮死状態ね…即刻悪霊を仕留めないと彼女が衰弱死するわ…」
直後である。突如として周囲より無数の気配を感じる。
「霊力かしら?」
すると地面より十数体もの食人餓鬼が出現する。
「毎度毎度…鬱陶しいわね…」
十数体の食人餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「はぁ…」
桜花姫は呆れ果てるものの…。
「砂金に変化しなさい…」
砂金の妖術を発動する。すると殺到する十数体の食人餓鬼がサラサラの砂金に変化…。一瞬で崩れ落ちる。
「楽勝♪楽勝♪」
食人餓鬼を一蹴した桜花姫であるが今度は背後から五体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「今度は百鬼食人餓鬼かしら?」
無数の食人餓鬼の顔面が桜花姫を睥睨したのである。
(私を殺したいみたいね…)
百鬼食人餓鬼は全身の食人餓鬼の顔面から高熱の熱風を放出…。桜花姫に攻撃したのである。
「熱風?」
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
「あんた達は…」
再度変化の妖術を発動…。五体の百鬼食人餓鬼を大好きな桜餅に変化させる。
「妖力が消耗しちゃったからね♪」
再度桜餅をパクッと頬張り始める。
「満腹♪満腹♪」
桜花姫は満足するが…。
「えっ?」
(殺気!?)
今度は人間達の殺気を感じる。
(人間達の殺気だわ…)
再度警戒する。直後…。周囲の家屋より十数人の刃物を所持した漁民達が桜花姫を包囲する。
「何よ?あんた達…」
(村人達かしら?)
彼等の表情は無表情であり人形みたいな雰囲気だったのである。
(人形みたいだわ…何者かに憑霊されたのかしら?)
漁民達が桜花姫に殺到する。
「仕方ないわね…」
桜花姫は即座に睡眠の妖術を発動…。睡眠の妖術を発動すると殺到する漁民達はバタッと横たわる。
「全員熟睡したみたいね…」
(えっ?)
背後より気配を感じる。
(気配だわ…悪霊かしら?)
恐る恐る背後を警戒…。背後には色白の花魁らしき女性が佇立する。
(花魁かしら?)
花魁の女性は桜花姫を直視するなりニコッと微笑む。桜花姫は恐る恐る…。
「あんたは悪霊の亡霊新婦ね…」
(幻術で村人達を傀儡人形みたいに操作したのかしら?)
亡霊新婦は亭主に殺害された令夫人の悪霊である。人語で会話も可能であり幻術を駆使出来る。亡霊新婦は人語で返答したのである。
「あんたは妖女の月影桜花姫かしら?折角だからあんたの清心も頂戴するわね♪」
「出来るかしら?私は最上級妖女なのよ…」
「勿論私だけでは最上級妖女のあんたを仕留められないからね…」
直後…。
「あんた達♪出番よ♪」
すると周辺の地面より数十体もの食人餓鬼が再度出現する。
「食人餓鬼?」
(如何やら幻術で操作したのね…)
亡霊新婦は幻術により悪霊さえも傀儡人形として利用出来る。
「こんな奴等で私を仕留めるなんて…あんたは余程のお馬鹿さんみたいね♪」
桜花姫は即座に氷結の妖術を発動…。周囲の食人餓鬼を凍結化させる。全身を凍結化された食人餓鬼は肉体がバリバリッと崩れ落ちる。
「此奴なら如何かしら?」
すると目前の地面より巨大能面が出現したかと思いきや…。八本の蜘蛛脚が生成される。
「えっ…此奴は…」
桜花姫も突如として出現した巨大能面にドキッとする。
「此奴は…小面蜘蛛…」
普段は霊性の桜花姫であるが…。突然の小面蜘蛛の出現により恐る恐る後退りする。
「桜花姫♪先程の威勢は如何しちゃったのかしら♪」
桜花姫にとって小面蜘蛛はトラウマであり恐怖心からか身震いしたのである。
「小面蜘蛛にあんたの妖術は通用しないわよ♪大人しく小面蜘蛛に食い殺されちゃいなさい♪」
すると小面蜘蛛は口先から蜘蛛糸を放出…。
「きゃっ!」
桜花姫を拘束したのである。蜘蛛糸で拘束された直後…。
「ぐっ!」
(妖力が…消耗するわ…)
身動き出来ないばかりか体内の妖力が吸収されたのである。
(衰弱死しちゃうわ…)
桜花姫は衰弱化…。バタッと横たわったのである。亡霊新婦が横たわる桜花姫に近寄る。
「早速…あんたの清心を頂戴するわね♪」
亡霊新婦は赤面した表情で…。身動き出来なくなった桜花姫に接吻したのである。
「ぐっ…」
スーッと全身が脱力…。桜花姫は意識が遠退き始める。
「美味しいわね♪あんたの清心も♪」
亡霊新婦は接吻により桜花姫の清心を吸収…。大喜びしたのである。
「えっ?」
直後…。突如として気味悪くなり亡霊新婦は吐血したのである。
「ぎゃっ!」
吐血した亡霊新婦は横たわった桜花姫を睥睨するなり…。
「如何やら彼女…純粋無垢とは程遠いみたいね…邪心だらけだわ…」
直後である。横たわる桜花姫の肉体から白煙が発生…。ポンッと消滅したのである。
「えっ!?一体何が!?」
すると亡霊新婦の背後より…。
「誰が邪心ですって?」
背後には桜花姫が佇立する。
「あんたは桜花姫!?」
「残念だったわね♪あんたが接吻したのは私の分身体よ♪」
「分身体だと!?」
亡霊新婦は畏怖したのは恐る恐る後退りしたのである。
「地上界の女神様である私を…邪心なんて失言するあんたは…」
桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊新婦は桜餅に変化したのである。
「妖力が通用しないあんたは…」
口寄せの妖術を発動…。上空より無人の小型爆撃機を口寄せしたのである。小型爆撃機は小面蜘蛛に爆弾一発を投下…。小面蜘蛛はバラバラに粉砕されたのである。亡霊新婦と小面蜘蛛を仕留めた影響からか大黒島の霊力が感じられなくなる。
(大黒島の霊力が消失したわ…)
「事件は無事解決ね♪」
桜花姫はパクッと桜餅を頬張る。数秒間が経過すると亡霊新婦に傀儡人形として利用された漁民達は勿論…。
「えっ?私は一体…」
先程亡霊新婦に清心を奪取された村娘も意識が戻ったのである。
大黒島
アクアヴィーナス救出作戦から五日後の真夜中の出来事である。北国の最北端に位置する大黒島で無数の悪霊が出現…。大黒島を占拠したのである。翌日の真昼…。大黒島の悪霊出現の噂話を熟知した桜花姫は即座に北国へと直行したのである。
「大黒島に悪霊が出現するなんて…」
大黒島は今現在でこそ大勢の漁民達が移住する離島であるが…。大昔の戦乱時代では罪人達が配流された場所として有名である。
「今回は一体何が出現したのかしら?」
二時間後…。桜花姫は北国の海岸へと到達する。海岸の砂浜から海面上を眺望したのである。
「大黒島かしら?」
海面上を眺望し続けると小規模の孤島を発見する。
「大黒島っぽいわね…」
海岸の砂浜から大黒島への距離は推定五キロメートルの長距離であるが…。大黒島から漁民達の無数の鮮血と霊力を感じる。
(無数の鮮血と霊力を感じるわ…)
「大黒島の漁民達は悪霊に食い殺されたみたいね…」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。人魚に変化したのである。
「悪霊を征伐するわよ…」
桜花姫は人魚の状態で海面上を力泳…。大黒島へと直行したのである。大黒島へは数分間で到達する。
「到着したわね♪」
人魚の状態から元通りの姿形に戻ったのである。大黒島は非常に物静かであるが…。無数の霊力が徘徊するのを感じる。
「悪霊の気配だわ…」
桜花姫は即座に警戒…。天道眼を発動する。すると数秒後である。周囲の砂浜より数十体もの食人餓鬼が出現…。桜花姫を注視したのである。
「食人餓鬼だわ♪」
(早速出現したわね♪)
悪霊の出現に大喜び…。数十体の食人餓鬼が桜花姫に殺到し始める。
「あんた達は無謀ね…」
桜花姫は彼等の行動に呆れ果てる。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
殺到する無数の食人餓鬼に変化の妖術を発動…。食人餓鬼は数十個の桜餅と小皿に変化したのである。
「桜餅に変化したわね♪」
(消耗しちゃった妖力を回復させたいからね♪早速頂戴するわよ♪)
桜花姫は周辺の桜餅をパクパクッと食べ始める。数分後…。桜餅を完食する。
(妖力は回復したし…)
「悪霊を征伐しましょう♪」
桜花姫は住宅街へと移動したのである。
「住宅街から無数の妖力を感じるわね…」
(今度は何が出現するのかしら?)
同時刻…。
「はぁ…はぁ…」
大黒島の住宅街にて一人の村娘が無数の悪霊から逃走する。
(逃げないと…悪霊に食い殺されちゃう…)
村娘はとある住居へと進入…。潜伏したのである。恐怖心からか全身が身震いする。
(私…如何すれば…)
すると直後…。戸口よりガタガタッと物音が響き渡る。
「ひっ!」
(死にたくないよ…父ちゃん…母ちゃん…)
村娘は涙腺より涙が零れ落ちる。
「可愛らしい少女ね♪」
「えっ?」
恐る恐る背後を直視…。彼女の背後には花魁らしき女性が家屋敷の居間でビクビクする村娘を凝視し続ける。
「えっ…誰なの?」
花魁は非常に妖美の雰囲気であるが…。
「私はあんたみたいな純粋無垢の少女が大好きなのよ♪大人しく私に食べられちゃいなさい♪」
花魁の発言に極度の恐怖心を感じる。
「ひっ!」
(悪霊!?)
花魁は人外であると察知…。即座に家屋敷から脱走したのである。必死に逃走するのだが…。
「私からは逃げられないわよ♪」
先程遭遇した花魁が路地裏にて再度遭遇する。
「えっ!?」
(如何して…)
村娘は恐る恐る後退りしたのである。すると背後には二体の食人餓鬼がふら付いた身動きで村娘に近寄る。
「悪霊!?」
直後…。村娘は花魁に捕捉されたのである。
「きゃっ!」
「好い加減観念しなさい♪」
「きゃっ!誰か!誰か!」
村娘は必死に抵抗するものの…。花魁の女性は外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。
「村里で無事なのはあんただけね♪あんたの清心を頂戴するわね♪」
花魁は赤面した表情で無理矢理に接吻…。
「ぐっ!」
花魁に口移しされた直後である。村娘は全身が脱力…。意識が喪失した状態で地面に横たわる。花魁は満足気に…。
「美味しいわね♪女子の清心は純真無垢だから非常に美味だわ♪」
村娘の清心を完食した花魁は即座に退散したのである。数分後…。桜花姫が路地裏にて地面に横たわる村娘を発見する。
「彼女は村娘かしら?」
恐る恐る彼女に接触…。
「仮死状態ね…即刻悪霊を仕留めないと彼女が衰弱死するわ…」
直後である。突如として周囲より無数の気配を感じる。
「霊力かしら?」
すると地面より十数体もの食人餓鬼が出現する。
「毎度毎度…鬱陶しいわね…」
十数体の食人餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「はぁ…」
桜花姫は呆れ果てるものの…。
「砂金に変化しなさい…」
砂金の妖術を発動する。すると殺到する十数体の食人餓鬼がサラサラの砂金に変化…。一瞬で崩れ落ちる。
「楽勝♪楽勝♪」
食人餓鬼を一蹴した桜花姫であるが今度は背後から五体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「今度は百鬼食人餓鬼かしら?」
無数の食人餓鬼の顔面が桜花姫を睥睨したのである。
(私を殺したいみたいね…)
百鬼食人餓鬼は全身の食人餓鬼の顔面から高熱の熱風を放出…。桜花姫に攻撃したのである。
「熱風?」
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
「あんた達は…」
再度変化の妖術を発動…。五体の百鬼食人餓鬼を大好きな桜餅に変化させる。
「妖力が消耗しちゃったからね♪」
再度桜餅をパクッと頬張り始める。
「満腹♪満腹♪」
桜花姫は満足するが…。
「えっ?」
(殺気!?)
今度は人間達の殺気を感じる。
(人間達の殺気だわ…)
再度警戒する。直後…。周囲の家屋より十数人の刃物を所持した漁民達が桜花姫を包囲する。
「何よ?あんた達…」
(村人達かしら?)
彼等の表情は無表情であり人形みたいな雰囲気だったのである。
(人形みたいだわ…何者かに憑霊されたのかしら?)
漁民達が桜花姫に殺到する。
「仕方ないわね…」
桜花姫は即座に睡眠の妖術を発動…。睡眠の妖術を発動すると殺到する漁民達はバタッと横たわる。
「全員熟睡したみたいね…」
(えっ?)
背後より気配を感じる。
(気配だわ…悪霊かしら?)
恐る恐る背後を警戒…。背後には色白の花魁らしき女性が佇立する。
(花魁かしら?)
花魁の女性は桜花姫を直視するなりニコッと微笑む。桜花姫は恐る恐る…。
「あんたは悪霊の亡霊新婦ね…」
(幻術で村人達を傀儡人形みたいに操作したのかしら?)
亡霊新婦は亭主に殺害された令夫人の悪霊である。人語で会話も可能であり幻術を駆使出来る。亡霊新婦は人語で返答したのである。
「あんたは妖女の月影桜花姫かしら?折角だからあんたの清心も頂戴するわね♪」
「出来るかしら?私は最上級妖女なのよ…」
「勿論私だけでは最上級妖女のあんたを仕留められないからね…」
直後…。
「あんた達♪出番よ♪」
すると周辺の地面より数十体もの食人餓鬼が再度出現する。
「食人餓鬼?」
(如何やら幻術で操作したのね…)
亡霊新婦は幻術により悪霊さえも傀儡人形として利用出来る。
「こんな奴等で私を仕留めるなんて…あんたは余程のお馬鹿さんみたいね♪」
桜花姫は即座に氷結の妖術を発動…。周囲の食人餓鬼を凍結化させる。全身を凍結化された食人餓鬼は肉体がバリバリッと崩れ落ちる。
「此奴なら如何かしら?」
すると目前の地面より巨大能面が出現したかと思いきや…。八本の蜘蛛脚が生成される。
「えっ…此奴は…」
桜花姫も突如として出現した巨大能面にドキッとする。
「此奴は…小面蜘蛛…」
普段は霊性の桜花姫であるが…。突然の小面蜘蛛の出現により恐る恐る後退りする。
「桜花姫♪先程の威勢は如何しちゃったのかしら♪」
桜花姫にとって小面蜘蛛はトラウマであり恐怖心からか身震いしたのである。
「小面蜘蛛にあんたの妖術は通用しないわよ♪大人しく小面蜘蛛に食い殺されちゃいなさい♪」
すると小面蜘蛛は口先から蜘蛛糸を放出…。
「きゃっ!」
桜花姫を拘束したのである。蜘蛛糸で拘束された直後…。
「ぐっ!」
(妖力が…消耗するわ…)
身動き出来ないばかりか体内の妖力が吸収されたのである。
(衰弱死しちゃうわ…)
桜花姫は衰弱化…。バタッと横たわったのである。亡霊新婦が横たわる桜花姫に近寄る。
「早速…あんたの清心を頂戴するわね♪」
亡霊新婦は赤面した表情で…。身動き出来なくなった桜花姫に接吻したのである。
「ぐっ…」
スーッと全身が脱力…。桜花姫は意識が遠退き始める。
「美味しいわね♪あんたの清心も♪」
亡霊新婦は接吻により桜花姫の清心を吸収…。大喜びしたのである。
「えっ?」
直後…。突如として気味悪くなり亡霊新婦は吐血したのである。
「ぎゃっ!」
吐血した亡霊新婦は横たわった桜花姫を睥睨するなり…。
「如何やら彼女…純粋無垢とは程遠いみたいね…邪心だらけだわ…」
直後である。横たわる桜花姫の肉体から白煙が発生…。ポンッと消滅したのである。
「えっ!?一体何が!?」
すると亡霊新婦の背後より…。
「誰が邪心ですって?」
背後には桜花姫が佇立する。
「あんたは桜花姫!?」
「残念だったわね♪あんたが接吻したのは私の分身体よ♪」
「分身体だと!?」
亡霊新婦は畏怖したのは恐る恐る後退りしたのである。
「地上界の女神様である私を…邪心なんて失言するあんたは…」
桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊新婦は桜餅に変化したのである。
「妖力が通用しないあんたは…」
口寄せの妖術を発動…。上空より無人の小型爆撃機を口寄せしたのである。小型爆撃機は小面蜘蛛に爆弾一発を投下…。小面蜘蛛はバラバラに粉砕されたのである。亡霊新婦と小面蜘蛛を仕留めた影響からか大黒島の霊力が感じられなくなる。
(大黒島の霊力が消失したわ…)
「事件は無事解決ね♪」
桜花姫はパクッと桜餅を頬張る。数秒間が経過すると亡霊新婦に傀儡人形として利用された漁民達は勿論…。
「えっ?私は一体…」
先程亡霊新婦に清心を奪取された村娘も意識が戻ったのである。
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:45 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
第八話
救出作戦
無数の悪霊と大生首との戦闘から四日後の夕方…。桜花姫は毎日の日課である天霊山の露天風呂にて入浴したのである。
「極楽♪極楽♪」
天霊山の露天風呂に入浴すると一日の浪費した妖力が蓄積される。
「天霊山の露天風呂は最高だわ♪」
(湯加減も良好だし♪)
すると彼女は変化の妖術を発動…。桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。同時に長髪の黒髪が銀髪に変色する。
「完了♪」
桜花姫は人魚に変化した状態から露天風呂にて遊泳したのである。西国は温泉郷として有名である反面…。天霊山の露天風呂に入浴するのは大半が桜花姫である。彼女を除外すると桜花姫以外の妖女やら人間は滅多に露天風呂へは入浴しない。天霊山の露天風呂は実質桜花姫が私物化した状態だったのである。すると突然…。
「なっ!?」
(妖力だわ…)
近辺より僅少の妖力が天霊山の露天風呂に接近するのを感じる。
(妖女なのは確実ね…)
「一体誰かしら?」
妖力を察知した桜花姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「えっ?あんたは…」
桜花姫の背後には水色のロングドレスを着用した金髪碧眼の白人美少女が佇立する。
「貴女様は月影桜花姫様でしょうか?」
「ひょっとしてあんたはアクアユートピアの…アクアヴィーナスの母様かしら?」
天霊山の露天風呂に来訪したのはアクアユートピア出身者…。アクアヴィーナスの母親のウェンディーネだったのである。
「如何しちゃったのよ?深海底のアクアユートピアからこんな場所に入国するなんて…」
するとウェンディーネは深刻そうな表情で…。
「桜花姫様!大変です!」
「えっ?何が大変なの?」
(ひょっとして今回も大事件発生かしら?)
ウェンディーネの様子から一大事であると察知する。ウェンディーネはソワソワした表情で恐る恐る…。
「一昨日の出来事なのですが…アクアヴィーナスが気分転換に地上界へと出掛けたのですが…全然戻らなくて…」
今日より二日前の出来事である。スキュランと無数のアンデッドによる大騒ぎから数日後…。アクアヴィーナスは久方振りの気分転換に地上界へと出掛けたのだが二日間が経過しても戻らなかったのである。
「アクアヴィーナスが戻らないの?」
「彼女が出掛けても普段なら四時間程度…場合によっては二時間程度で帰宅するのですが…」
アクアヴィーナスは人一倍小心者であり半日間出歩くだけでも彼女にとってはハードであり普段は短時間で帰宅するのが通例である。桜花姫は恐る恐るウェンディーネに問い掛ける。
「アクアヴィーナスの母様?魔女のスキュランには依頼しなかったのかしら?」
桜花姫が問い掛けるとウェンディーネはビクッと反応する。
「えっ!?」
(彼女の様子だと…魔女のスキュランには依頼しなかったみたいね…)
ウェンディーネの様子に桜花姫は苦笑いしたのである。
「御免なさい…私…人一倍深海底魔女のスキュランが苦手で…彼女に依頼は勿論…相談すら出来ませんでした…」
「彼女は深海底では最強の魔女だし…スキュランの魔法だったら小心者のアクアヴィーナスが行方不明でも簡単に発見出来そうよ…」
ウェンディーネにとって深海底魔女のスキュランはトラウマの対象であり桜花姫が口寄せの妖術により浄化された状態でスキュランは復活したものの…。国内では彼女を毛嫌いする人魚の平民も少なくない。
(彼女は一度アクアユートピアを侵略した張本人だからね…信用されないのは自業自得だから仕方ないわね…)
桜花姫はニコッと微笑むなり…。
「承知したわ♪協力するわよ♪」
「桜花姫様♪」
ウェンディーネは一安心したのか笑顔が戻ったのである。
「アクアヴィーナス…彼女の居場所を特定するなら…」
(こんな場合…千里眼の妖術が有効ね…)
桜花姫は両目を瞑目するなり…。
(千里眼の妖術…発動!)
千里眼の妖術とは広範囲に存在する物体やら特定の人物を正確に知覚出来る妖術である。背後からの透視能力も発揮出来る。千里眼の妖術を発動すると桜花姫の脳内より広大なる大海原を航行中の一隻の帆船が発現されたのである。
(何かしら?異国の…軍船?)
無数の大砲を装備…。人間の髑髏らしき旗印が確認出来る。すると船内の内部には拘束された状態の小柄の童顔美少女がソワソワした表情で落涙するのを発見…。
(えっ!?彼女は…)
童顔美少女はピンク色のロングドレスに頭髪は赤毛のストレートロングである。
(ひょっとして彼女はアクアヴィーナス!?拘束されたのかしら…)
拘束された童顔美少女がアクアヴィーナスであると確信する。桜花姫は恐る恐る…。
「母様…アクアヴィーナスを発見したわ…」
「えっ!?本当ですか!?」
するとウェンディーネはハッとした表情で反応する。
「アクアヴィーナスの居場所は一体?」
「アクアヴィーナスは異国の軍船に拘束されたみたいよ…」
桜花姫は険悪化した表情で発言したのである。
「異国の軍船ですって?」
「私が千里眼の妖術で確認したのは髑髏の旗印の軍船だったわ…アクアヴィーナスは軍船の船内で拘束された状態だったわ…」
髑髏の旗印にウェンディーネは反応する。
「桜花姫様が魔法で確認された異国の軍船って…ひょっとすると海賊団の海賊船では?」
「えっ?海賊団ですって?海賊団って…何かしら?」
太平神国では海賊団と命名される言語が皆無であり桜花姫は海賊団の意味が理解出来なかったのである。
「海賊団はね…」
海賊団とは海上で略奪行為を実行する盗賊達の集団であり近年では多数の海賊達が大海原を大航海…。無力の小国やら遭遇した多数の商船を襲撃したのである。
「海賊団って水軍みたいな奴等ね…」
戦乱時代では太平神国の海域にも極悪非道の水軍が活動…。各地の村里を襲撃しては村人達から畏怖されたのである。戦乱時代から安穏時代に変化する中頃には勢力の規模が縮小化…。今現在では完全に自然淘汰されたのである。
「アクアヴィーナスは海賊達に誘拐されたのですね…」
すると桜花姫は笑顔で断言する。
「私が誘拐されたアクアヴィーナスを救出してから…海賊団って名前の匪賊の集団を蹴散らせるわね♪」
「桜花姫様…」
同時刻…。海賊達により誘拐されたアクアヴィーナスは海賊船の船内密室にて拘束される。船内密室の天井中心部にはオレンジカラーのマリンランプが室内全体を発光させる。
(私…海賊達に殺されちゃうのかな?)
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。魔力の消耗により人魚の状態から人間の姿形に戻ったのである。
「下半身が人間の両足に戻ったわ…」
すると二人の海賊達が船内の密室に入室する。
「人魚の姉ちゃんよ♪魔法で人間に変身したのか?」
「人魚の姉ちゃんは人間の姿形でも可愛らしいけどな♪」
海賊達は横たわったアクアヴィーナスに近寄る。アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「私を…如何するの?殺しちゃうの?食べちゃうの?」
ビクビクするアクアヴィーナスに海賊達は大笑いする。
「傑作だな♪人魚の姉ちゃんよ♪」
「俺達は極悪非道の海賊団だが…人魚を食い殺しちまったら折角の賞金を頂戴出来なくなるからな♪」
すると小柄の船員がボソッと小声で…。
「正直…人魚の姉ちゃんを犯しちまいたいが…こんな場所で犯しちまったら折角の賞金が水の泡だ…」
小柄の船員はムラムラした様子で力一杯アクアヴィーナスの乳房に接触する。
「ひっ!」
「此奴は高値で密売出来そうだぜ♪」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか全身が膠着したのである。すると大柄の船員が恐る恐る…。
「貴様好い加減にしろよ…こんな人魚は激レアだから犯しちまいたいのは同意するが…」
注意する大柄の船員に小柄の船員が睥睨する。
「はっ?一般船員の分際で俺に指図するのか?」
小柄の船員は大柄の海賊に反抗する。
「必要以上に畏怖させて自害されちまったら元も子もないだろ…深海底の人魚なんて滅多に捕獲出来ない代物だぞ!こんな場所で人魚に自害されちまったら折角の賞金がワンゴールドも確保出来なくなるぞ…」
ワンゴールドとは金貨一枚分であり現実世界なら推計四百万円の高価値である。人魚は世界各国でも僅少の種族であり一人でも人魚を捕獲出来れば最低でも金貨五十枚は獲得出来る。
「此奴を無傷で密売出来れば最低でも五十ゴールドはゲット出来るぞ…」
「畜生が…」
制止された小柄の船員は大柄の船員を睥睨するなり後退りする。するとアクアヴィーナスは恐る恐る大柄の船員に…。
「結局…あんた達は私を如何するの?」
恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスの質問に大柄の船員は即答する。
「貴様は地上界の超大国に密売される…恐らく貴様一人でも金貨五十ゴールドは確実だからな…」
「ひょっとして身売りとか?」
「勿論…」
アクアヴィーナスの身売りの発言に大柄の船員は即答したのである。
「えっ…私…異国に身売りされちゃうの…」
するとアクアヴィーナスはビクビクするなり涙腺から涙が零れ落ちる。
「安心しろ…最低でも海賊船の船内では殺されないからな…」
すると小声で…。
「無論…超大国に密売されてからの生存は保証出来ないが…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは極度の精神的ショックからか意識を喪失…。再度横たわったのである。
「人魚が気絶しちまったぜ…如何するよ?」
「下手に船内で大騒ぎされるよりは…」
「随分大人しい人魚だったな…」
彼等は密室を退室するなり…。ドアを厳重にロックしたのである。同時刻…。桜花姫とウェンディーネは西国の海辺へと移動したのである。
「変化の妖術で人魚に変化しちゃいましょう♪」
桜花姫は変化の妖術を発動すると下半身が銀鱗の大魚へと変化…。ストレートロングの黒髪が銀髪へと変色したのである。桜花姫は小柄の身長であるが変化の妖術で人魚に変化すると体長は推定八尺程度に巨大化する。同行したウェンディーネが人魚に変化した桜花姫を直視すると恐る恐る…。
「桜花姫様は人魚に変身しても可愛らしいですね…誰よりも海水の女神様って雰囲気ですよ♪」
ウェンディーネが海水の女神様と発言すると桜花姫は赤面した様子で返答する。
「こんな私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスの母様は大袈裟ね♪」
(私が海水の女神様ですって♪)
大袈裟と発言するが内心では大喜びしたのである。ウェンディーネも魔法で人魚に変身する。下半身が大魚へと変化…。水色の魚鱗へと変化したのである。
「勿論母様も深海底の天女みたいで可愛らしいわよ♪」
桜花姫の深海底の天女発言にウェンディーネは大喜びする。
「私が深海底の天女なんて♪桜花姫様も大袈裟ですわね♪」
彼女達は即座に海中へと潜水したのである。ウェンディーネが恐る恐る…。
「桜花姫様?アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」
恐る恐る問い掛けるウェンディーネに桜花姫は笑顔で即答する。
「大丈夫よ♪母様♪アクアヴィーナスは海賊船の船内で気絶した状態だったけど無事だからね♪安心しなさい♪」
桜花姫は千里眼の妖術でアクアヴィーナスの状態を正確に知覚したのである。
「無事でしたか…」
(アクアヴィーナス…無事で良かったわ♪)
ウェンディーネはホッとしたのか一安心する。
「今回は人間相手だから楽勝ね♪」
桜花姫とウェンディーネはアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を目標に海中を直進したのである。すると海中を直進してより二時間後…。西国近海から推定五百キロメートルの海域よりとある無人島を発見する。
「母様…」
「えっ?桜花姫様?」
「無人島で休憩しましょう…」
桜花姫は人魚に変身した影響からか息苦しそうな表情だったのである。
「桜花姫様…」
(ひょっとして体内の魔力が消耗しちゃったのかしら?)
人魚に変身した状態で長時間力泳し続けると普段の戦闘よりも大量の妖力が消耗する。彼女達は無人島の砂浜へと上陸すると桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。元通りの童顔美少女へと戻ったのである。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は極度の疲労により深呼吸する。
(桜花姫様…苦痛そうだわ…)
ウェンディーネは恐る恐る…。
「桜花姫様?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ…私は平気だから♪心配しないで…」
桜花姫は疲労した様子であるが多少強張った笑顔で返答する。
「桜花姫様…」
(本当に大丈夫かしら…)
桜花姫は非常に強張った笑顔でありウェンディーネは不安がる。すると桜花姫は恐る恐る…。
「アクアヴィーナスの母様…御免なさいね…」
ウェンディーネに謝罪したのである。
「御免なさいって…一体如何されましたか?」
「アクアヴィーナスは私一人で救出するわね…正直人間の海賊団が相手でも妖力を消耗した状態では母様を守護出来ないわ…」
妖力を消耗した状態では同行者を守護して戦闘するのは非常に不利であり戦闘用の魔法を使用出来ないウェンディーネは正直足手纏いだったのである。
「承知しました…桜花姫様…」
桜花姫の発言にウェンディーネは承諾する。彼女は意外にも素直であり桜花姫は内心ホッとしたのである。
「アクアヴィーナスの母様は無人島で待機してね…」
「私は大丈夫ですけど…アクアヴィーナスは無事でしょうか?」
心配するウェンディーネに桜花姫は笑顔で即答する。
「彼女なら大丈夫よ♪無人島の近辺からアクアヴィーナスの妖力を感じるのよ♪」
拘束されたアクアヴィーナスの魔力が近辺より感じられる。海賊船は間近であると確信したのである。
「私は海賊達を蹴散らして…アクアヴィーナスを救出するからね!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。即座に人魚に変化すると再度海中へと潜水したのである。
「桜花姫様…」
ウェンディーネは桜花姫を見届ける。同時刻…。海中へと潜水した桜花姫であるが妖力の消耗は想像以上であり長時間人魚の状態を維持するのは不利であると確信する。
(今回も短時間で事件を解決させないと…私自身が衰弱死するわね…)
数分後…。数キロメートルの長距離より船体の船底を確認する。
(えっ?何かしら?)
桜花姫は即座に浮上…。海面上から数キロメートルの長距離より船影を確認する。
「船影だわ…」
(異国の…軍船かしら?)
形状的には木造の帆船であり髑髏の旗印が確認出来る。
(ひょっとして私が千里眼の妖術で発見した海賊船かしら?)
桜花姫は両目を瞑目させると船内から僅少の魔力を感じる。
(海賊船の船内からアクアヴィーナスの妖力を感じるわ…)
海賊船の船内よりアクアヴィーナスの妖力を察知…。木造の帆船がアクアヴィーナスを誘拐した海賊船であると確信する。
(短時間で奴等を蹴散らしましょう…)
桜花姫は変化の妖術を発動…。全長数十メートル規模の巨大真蛸の妖怪海坊主に変化したのである。
(妖怪海坊主に変化して海賊達を征伐しましょう♪)
桜花姫は即座に潜水するなり…。海中から恐る恐る海賊船に接近する。同時刻…。海賊船甲板の見張り役が数キロメートルの遠距離から正体不明の物体が潜水したのを発見したのである。
「数キロメートルの西海から正体不明の物体が海中に潜水したぞ…」
見張り役の発言に乗組員達が反応する。
「ん?正体不明の物体だと?」
乗組員の一人が双眼鏡で西方の海面上を確認するのだが…。
「何も確認出来ないぞ…単なる見間違いだろ…」
直後である。海賊船の船体全体がグラグラッと震動したのである。
「うわっ!」
「一体何が!?」
すると直後…。甲板より巨大真蛸の触手が出現するなり海賊船の甲板に密着する。
「ひっ!」
「此奴は触手!?」
数秒後…。海賊船の左舷中央から数十メートルサイズの巨大真蛸が海面上より出現したのである。
「うわっ!此奴はクラーケンか!?」
海賊船の乗組員達は突如として出現した巨大真蛸に驚愕する。
「即刻カノン砲を用意しろ!クラーケンを仕留めろ!」
同時刻…。船内の密室にて気絶したアクアヴィーナスであるが船体の震動により目覚めたのである。
「ひっ!」
(一体何が!?)
船体の震動にビクビクする。
(ウェンディーネ母様…桜花姫…私…死にたくないよ…)
極度の恐怖心からかアクアヴィーナスの涙腺より涙が零れ落ちる。海賊船の海賊達は突如として出現した巨大真蛸にカノン砲を発砲する直前…。巨大真蛸は体表から発生した白煙に覆い包まれポンッと一瞬で消滅したのである。
「なっ!?クラーケンが消滅しやがったぞ!」
「先程の光景は…幻影だったのか?」
すると直後…。
「なっ!?」
海賊船の左側の甲板には着物姿の小柄の女性が佇立する。
「此奴は異国の小娘か!?」
「貴様は一体何者だ!?如何してこんな場所に…」
海賊達は警戒した様子で恐る恐る女性に近寄る。すると女性は笑顔で…。
「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で名前を名乗ったのである。
「月影桜花姫だと?」
「先程のクラーケンの正体は貴様だったのか!?」
桜花姫は問い掛けられるも…。
「えっ?クラーケンって?」
「異国の魔女が!貴様を打っ殺す!」
乗組員の一人が護身用のピストルを入手するなり桜花姫に発砲したのである。桜花姫は妖力の防壁を発動…。発砲されたピストルの弾丸を無力化したのである。
「此奴!魔法で本体をガードしやがったのか!?」
すると桜花姫は無表情で…。
「私に手出しする愚者には…」
変化の妖術を発動する。
「あんたは桜餅に変化しなさい♪」
直後…。ピストルを所持した船員が小皿に配置された桜餅に変化させられたのである。
「えっ!?魔法なのか!?」
「人間が…異国のスイーツに!?」
海賊達は恐る恐る後退りする。
「此奴は魔法で俺達の仲間を異国のスイーツに変化させたのか…」
海賊達は恐怖心によりプルプルしたのである。
「此奴は女体の怪物だ!逃げろ!」
女体の怪物発言に桜花姫はピクッと反応する。
「誰が女体の怪物ですって!?地上界の女神様である私に女体の怪物なんて…失礼しちゃうわね…」
桜花姫は逃走する海賊達を睥睨するなり…。
「あんた達は全員…ショートケーキに変化しなさい♪」
変化の妖術を発動すると海賊船の乗組員達全員がショートケーキに変化させる。桜花姫は変化の妖術によってショートケーキに変化させた海賊船の乗組員達をパクパクと食い殺したのである。
「妖力が回復したわね♪」
ショートケーキを完食すると消耗した妖力が回復する。
「誘拐されたアクアヴィーナスを救出しないとね♪」
桜花姫はアクアヴィーナスの魔力を感じる密室へと移動したのである。数分後…。密室のドアへと到達する。
「室内から彼女の妖力を感じるわね…」
桜花姫は念力の妖術を発動するとロックされたドアを開放したのである。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「えっ…桜花姫!?」
アクアヴィーナスはホッとしたのか脱力する。
「大丈夫かしら?アクアヴィーナス?」
桜花姫はアクアヴィーナスに近寄る。
「桜花姫…」
アクアヴィーナスは力一杯彼女に密着すると涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫…私…身売りされちゃうかと…」
「安心しなさい♪海賊達は征伐したから…」
「感謝するわね…桜花姫…」
「あんたの母様も相当心配したのよ…人一倍小心者のあんたが海賊団に誘拐されたからね♪」
「ウェンディーネ母様が…」
すると桜花姫は口寄せの妖術を発動…。無人島にて待機中であった母親のウェンディーネが海賊船の密室にて強制的にテレポーテーションされたのである。
「えっ!?一体何が?」
ウェンディーネは突然の出来事に驚愕する。
「口寄せの妖術で母様を口寄せしたのよ♪」
「えっ?桜花姫様が私を…」
ポカンとするウェンディーネであるが…。アクアヴィーナスが恐る恐る近寄る。
「母様…」
「アクアヴィーナス…」
ウェンディーネは力一杯アクアヴィーナスに密着したのである。
「アクアヴィーナス!無事で良かった…」
ウェンディーネは涙腺から涙が零れ落ちる。
「御免なさいね…ウェンディーネ母様…心配させちゃって…」
「気にしないでアクアヴィーナス…貴女が無事なのが何よりよ…」
「一件落着ね♪」
桜花姫は一息するなり…。
「兎にも角にも…事件は無事に解決したから私は退散するわね♪」
直後である。アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫?」
「何よ?アクアヴィーナス?」
「折角だし…アクアユートピアでショートケーキでも…如何かしら?」
「えっ!?ショートケーキですって!?」
「前回は何も謝礼が出来なかったからね…今回こそは桜花姫に謝礼したいの…」
桜花姫は大喜びした様子であり笑顔で承諾したのである。
「即刻アクアユートピアに移動しましょう♪ショートケーキ食べたいわ♪」
「桜花姫には感謝したくても感謝し切れないからね…」
彼女達は人魚に変化すると深海底地帯のアクアユートピアへと直行する。
救出作戦
無数の悪霊と大生首との戦闘から四日後の夕方…。桜花姫は毎日の日課である天霊山の露天風呂にて入浴したのである。
「極楽♪極楽♪」
天霊山の露天風呂に入浴すると一日の浪費した妖力が蓄積される。
「天霊山の露天風呂は最高だわ♪」
(湯加減も良好だし♪)
すると彼女は変化の妖術を発動…。桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。同時に長髪の黒髪が銀髪に変色する。
「完了♪」
桜花姫は人魚に変化した状態から露天風呂にて遊泳したのである。西国は温泉郷として有名である反面…。天霊山の露天風呂に入浴するのは大半が桜花姫である。彼女を除外すると桜花姫以外の妖女やら人間は滅多に露天風呂へは入浴しない。天霊山の露天風呂は実質桜花姫が私物化した状態だったのである。すると突然…。
「なっ!?」
(妖力だわ…)
近辺より僅少の妖力が天霊山の露天風呂に接近するのを感じる。
(妖女なのは確実ね…)
「一体誰かしら?」
妖力を察知した桜花姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「えっ?あんたは…」
桜花姫の背後には水色のロングドレスを着用した金髪碧眼の白人美少女が佇立する。
「貴女様は月影桜花姫様でしょうか?」
「ひょっとしてあんたはアクアユートピアの…アクアヴィーナスの母様かしら?」
天霊山の露天風呂に来訪したのはアクアユートピア出身者…。アクアヴィーナスの母親のウェンディーネだったのである。
「如何しちゃったのよ?深海底のアクアユートピアからこんな場所に入国するなんて…」
するとウェンディーネは深刻そうな表情で…。
「桜花姫様!大変です!」
「えっ?何が大変なの?」
(ひょっとして今回も大事件発生かしら?)
ウェンディーネの様子から一大事であると察知する。ウェンディーネはソワソワした表情で恐る恐る…。
「一昨日の出来事なのですが…アクアヴィーナスが気分転換に地上界へと出掛けたのですが…全然戻らなくて…」
今日より二日前の出来事である。スキュランと無数のアンデッドによる大騒ぎから数日後…。アクアヴィーナスは久方振りの気分転換に地上界へと出掛けたのだが二日間が経過しても戻らなかったのである。
「アクアヴィーナスが戻らないの?」
「彼女が出掛けても普段なら四時間程度…場合によっては二時間程度で帰宅するのですが…」
アクアヴィーナスは人一倍小心者であり半日間出歩くだけでも彼女にとってはハードであり普段は短時間で帰宅するのが通例である。桜花姫は恐る恐るウェンディーネに問い掛ける。
「アクアヴィーナスの母様?魔女のスキュランには依頼しなかったのかしら?」
桜花姫が問い掛けるとウェンディーネはビクッと反応する。
「えっ!?」
(彼女の様子だと…魔女のスキュランには依頼しなかったみたいね…)
ウェンディーネの様子に桜花姫は苦笑いしたのである。
「御免なさい…私…人一倍深海底魔女のスキュランが苦手で…彼女に依頼は勿論…相談すら出来ませんでした…」
「彼女は深海底では最強の魔女だし…スキュランの魔法だったら小心者のアクアヴィーナスが行方不明でも簡単に発見出来そうよ…」
ウェンディーネにとって深海底魔女のスキュランはトラウマの対象であり桜花姫が口寄せの妖術により浄化された状態でスキュランは復活したものの…。国内では彼女を毛嫌いする人魚の平民も少なくない。
(彼女は一度アクアユートピアを侵略した張本人だからね…信用されないのは自業自得だから仕方ないわね…)
桜花姫はニコッと微笑むなり…。
「承知したわ♪協力するわよ♪」
「桜花姫様♪」
ウェンディーネは一安心したのか笑顔が戻ったのである。
「アクアヴィーナス…彼女の居場所を特定するなら…」
(こんな場合…千里眼の妖術が有効ね…)
桜花姫は両目を瞑目するなり…。
(千里眼の妖術…発動!)
千里眼の妖術とは広範囲に存在する物体やら特定の人物を正確に知覚出来る妖術である。背後からの透視能力も発揮出来る。千里眼の妖術を発動すると桜花姫の脳内より広大なる大海原を航行中の一隻の帆船が発現されたのである。
(何かしら?異国の…軍船?)
無数の大砲を装備…。人間の髑髏らしき旗印が確認出来る。すると船内の内部には拘束された状態の小柄の童顔美少女がソワソワした表情で落涙するのを発見…。
(えっ!?彼女は…)
童顔美少女はピンク色のロングドレスに頭髪は赤毛のストレートロングである。
(ひょっとして彼女はアクアヴィーナス!?拘束されたのかしら…)
拘束された童顔美少女がアクアヴィーナスであると確信する。桜花姫は恐る恐る…。
「母様…アクアヴィーナスを発見したわ…」
「えっ!?本当ですか!?」
するとウェンディーネはハッとした表情で反応する。
「アクアヴィーナスの居場所は一体?」
「アクアヴィーナスは異国の軍船に拘束されたみたいよ…」
桜花姫は険悪化した表情で発言したのである。
「異国の軍船ですって?」
「私が千里眼の妖術で確認したのは髑髏の旗印の軍船だったわ…アクアヴィーナスは軍船の船内で拘束された状態だったわ…」
髑髏の旗印にウェンディーネは反応する。
「桜花姫様が魔法で確認された異国の軍船って…ひょっとすると海賊団の海賊船では?」
「えっ?海賊団ですって?海賊団って…何かしら?」
太平神国では海賊団と命名される言語が皆無であり桜花姫は海賊団の意味が理解出来なかったのである。
「海賊団はね…」
海賊団とは海上で略奪行為を実行する盗賊達の集団であり近年では多数の海賊達が大海原を大航海…。無力の小国やら遭遇した多数の商船を襲撃したのである。
「海賊団って水軍みたいな奴等ね…」
戦乱時代では太平神国の海域にも極悪非道の水軍が活動…。各地の村里を襲撃しては村人達から畏怖されたのである。戦乱時代から安穏時代に変化する中頃には勢力の規模が縮小化…。今現在では完全に自然淘汰されたのである。
「アクアヴィーナスは海賊達に誘拐されたのですね…」
すると桜花姫は笑顔で断言する。
「私が誘拐されたアクアヴィーナスを救出してから…海賊団って名前の匪賊の集団を蹴散らせるわね♪」
「桜花姫様…」
同時刻…。海賊達により誘拐されたアクアヴィーナスは海賊船の船内密室にて拘束される。船内密室の天井中心部にはオレンジカラーのマリンランプが室内全体を発光させる。
(私…海賊達に殺されちゃうのかな?)
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。魔力の消耗により人魚の状態から人間の姿形に戻ったのである。
「下半身が人間の両足に戻ったわ…」
すると二人の海賊達が船内の密室に入室する。
「人魚の姉ちゃんよ♪魔法で人間に変身したのか?」
「人魚の姉ちゃんは人間の姿形でも可愛らしいけどな♪」
海賊達は横たわったアクアヴィーナスに近寄る。アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「私を…如何するの?殺しちゃうの?食べちゃうの?」
ビクビクするアクアヴィーナスに海賊達は大笑いする。
「傑作だな♪人魚の姉ちゃんよ♪」
「俺達は極悪非道の海賊団だが…人魚を食い殺しちまったら折角の賞金を頂戴出来なくなるからな♪」
すると小柄の船員がボソッと小声で…。
「正直…人魚の姉ちゃんを犯しちまいたいが…こんな場所で犯しちまったら折角の賞金が水の泡だ…」
小柄の船員はムラムラした様子で力一杯アクアヴィーナスの乳房に接触する。
「ひっ!」
「此奴は高値で密売出来そうだぜ♪」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか全身が膠着したのである。すると大柄の船員が恐る恐る…。
「貴様好い加減にしろよ…こんな人魚は激レアだから犯しちまいたいのは同意するが…」
注意する大柄の船員に小柄の船員が睥睨する。
「はっ?一般船員の分際で俺に指図するのか?」
小柄の船員は大柄の海賊に反抗する。
「必要以上に畏怖させて自害されちまったら元も子もないだろ…深海底の人魚なんて滅多に捕獲出来ない代物だぞ!こんな場所で人魚に自害されちまったら折角の賞金がワンゴールドも確保出来なくなるぞ…」
ワンゴールドとは金貨一枚分であり現実世界なら推計四百万円の高価値である。人魚は世界各国でも僅少の種族であり一人でも人魚を捕獲出来れば最低でも金貨五十枚は獲得出来る。
「此奴を無傷で密売出来れば最低でも五十ゴールドはゲット出来るぞ…」
「畜生が…」
制止された小柄の船員は大柄の船員を睥睨するなり後退りする。するとアクアヴィーナスは恐る恐る大柄の船員に…。
「結局…あんた達は私を如何するの?」
恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスの質問に大柄の船員は即答する。
「貴様は地上界の超大国に密売される…恐らく貴様一人でも金貨五十ゴールドは確実だからな…」
「ひょっとして身売りとか?」
「勿論…」
アクアヴィーナスの身売りの発言に大柄の船員は即答したのである。
「えっ…私…異国に身売りされちゃうの…」
するとアクアヴィーナスはビクビクするなり涙腺から涙が零れ落ちる。
「安心しろ…最低でも海賊船の船内では殺されないからな…」
すると小声で…。
「無論…超大国に密売されてからの生存は保証出来ないが…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは極度の精神的ショックからか意識を喪失…。再度横たわったのである。
「人魚が気絶しちまったぜ…如何するよ?」
「下手に船内で大騒ぎされるよりは…」
「随分大人しい人魚だったな…」
彼等は密室を退室するなり…。ドアを厳重にロックしたのである。同時刻…。桜花姫とウェンディーネは西国の海辺へと移動したのである。
「変化の妖術で人魚に変化しちゃいましょう♪」
桜花姫は変化の妖術を発動すると下半身が銀鱗の大魚へと変化…。ストレートロングの黒髪が銀髪へと変色したのである。桜花姫は小柄の身長であるが変化の妖術で人魚に変化すると体長は推定八尺程度に巨大化する。同行したウェンディーネが人魚に変化した桜花姫を直視すると恐る恐る…。
「桜花姫様は人魚に変身しても可愛らしいですね…誰よりも海水の女神様って雰囲気ですよ♪」
ウェンディーネが海水の女神様と発言すると桜花姫は赤面した様子で返答する。
「こんな私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスの母様は大袈裟ね♪」
(私が海水の女神様ですって♪)
大袈裟と発言するが内心では大喜びしたのである。ウェンディーネも魔法で人魚に変身する。下半身が大魚へと変化…。水色の魚鱗へと変化したのである。
「勿論母様も深海底の天女みたいで可愛らしいわよ♪」
桜花姫の深海底の天女発言にウェンディーネは大喜びする。
「私が深海底の天女なんて♪桜花姫様も大袈裟ですわね♪」
彼女達は即座に海中へと潜水したのである。ウェンディーネが恐る恐る…。
「桜花姫様?アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」
恐る恐る問い掛けるウェンディーネに桜花姫は笑顔で即答する。
「大丈夫よ♪母様♪アクアヴィーナスは海賊船の船内で気絶した状態だったけど無事だからね♪安心しなさい♪」
桜花姫は千里眼の妖術でアクアヴィーナスの状態を正確に知覚したのである。
「無事でしたか…」
(アクアヴィーナス…無事で良かったわ♪)
ウェンディーネはホッとしたのか一安心する。
「今回は人間相手だから楽勝ね♪」
桜花姫とウェンディーネはアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を目標に海中を直進したのである。すると海中を直進してより二時間後…。西国近海から推定五百キロメートルの海域よりとある無人島を発見する。
「母様…」
「えっ?桜花姫様?」
「無人島で休憩しましょう…」
桜花姫は人魚に変身した影響からか息苦しそうな表情だったのである。
「桜花姫様…」
(ひょっとして体内の魔力が消耗しちゃったのかしら?)
人魚に変身した状態で長時間力泳し続けると普段の戦闘よりも大量の妖力が消耗する。彼女達は無人島の砂浜へと上陸すると桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。元通りの童顔美少女へと戻ったのである。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は極度の疲労により深呼吸する。
(桜花姫様…苦痛そうだわ…)
ウェンディーネは恐る恐る…。
「桜花姫様?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ…私は平気だから♪心配しないで…」
桜花姫は疲労した様子であるが多少強張った笑顔で返答する。
「桜花姫様…」
(本当に大丈夫かしら…)
桜花姫は非常に強張った笑顔でありウェンディーネは不安がる。すると桜花姫は恐る恐る…。
「アクアヴィーナスの母様…御免なさいね…」
ウェンディーネに謝罪したのである。
「御免なさいって…一体如何されましたか?」
「アクアヴィーナスは私一人で救出するわね…正直人間の海賊団が相手でも妖力を消耗した状態では母様を守護出来ないわ…」
妖力を消耗した状態では同行者を守護して戦闘するのは非常に不利であり戦闘用の魔法を使用出来ないウェンディーネは正直足手纏いだったのである。
「承知しました…桜花姫様…」
桜花姫の発言にウェンディーネは承諾する。彼女は意外にも素直であり桜花姫は内心ホッとしたのである。
「アクアヴィーナスの母様は無人島で待機してね…」
「私は大丈夫ですけど…アクアヴィーナスは無事でしょうか?」
心配するウェンディーネに桜花姫は笑顔で即答する。
「彼女なら大丈夫よ♪無人島の近辺からアクアヴィーナスの妖力を感じるのよ♪」
拘束されたアクアヴィーナスの魔力が近辺より感じられる。海賊船は間近であると確信したのである。
「私は海賊達を蹴散らして…アクアヴィーナスを救出するからね!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。即座に人魚に変化すると再度海中へと潜水したのである。
「桜花姫様…」
ウェンディーネは桜花姫を見届ける。同時刻…。海中へと潜水した桜花姫であるが妖力の消耗は想像以上であり長時間人魚の状態を維持するのは不利であると確信する。
(今回も短時間で事件を解決させないと…私自身が衰弱死するわね…)
数分後…。数キロメートルの長距離より船体の船底を確認する。
(えっ?何かしら?)
桜花姫は即座に浮上…。海面上から数キロメートルの長距離より船影を確認する。
「船影だわ…」
(異国の…軍船かしら?)
形状的には木造の帆船であり髑髏の旗印が確認出来る。
(ひょっとして私が千里眼の妖術で発見した海賊船かしら?)
桜花姫は両目を瞑目させると船内から僅少の魔力を感じる。
(海賊船の船内からアクアヴィーナスの妖力を感じるわ…)
海賊船の船内よりアクアヴィーナスの妖力を察知…。木造の帆船がアクアヴィーナスを誘拐した海賊船であると確信する。
(短時間で奴等を蹴散らしましょう…)
桜花姫は変化の妖術を発動…。全長数十メートル規模の巨大真蛸の妖怪海坊主に変化したのである。
(妖怪海坊主に変化して海賊達を征伐しましょう♪)
桜花姫は即座に潜水するなり…。海中から恐る恐る海賊船に接近する。同時刻…。海賊船甲板の見張り役が数キロメートルの遠距離から正体不明の物体が潜水したのを発見したのである。
「数キロメートルの西海から正体不明の物体が海中に潜水したぞ…」
見張り役の発言に乗組員達が反応する。
「ん?正体不明の物体だと?」
乗組員の一人が双眼鏡で西方の海面上を確認するのだが…。
「何も確認出来ないぞ…単なる見間違いだろ…」
直後である。海賊船の船体全体がグラグラッと震動したのである。
「うわっ!」
「一体何が!?」
すると直後…。甲板より巨大真蛸の触手が出現するなり海賊船の甲板に密着する。
「ひっ!」
「此奴は触手!?」
数秒後…。海賊船の左舷中央から数十メートルサイズの巨大真蛸が海面上より出現したのである。
「うわっ!此奴はクラーケンか!?」
海賊船の乗組員達は突如として出現した巨大真蛸に驚愕する。
「即刻カノン砲を用意しろ!クラーケンを仕留めろ!」
同時刻…。船内の密室にて気絶したアクアヴィーナスであるが船体の震動により目覚めたのである。
「ひっ!」
(一体何が!?)
船体の震動にビクビクする。
(ウェンディーネ母様…桜花姫…私…死にたくないよ…)
極度の恐怖心からかアクアヴィーナスの涙腺より涙が零れ落ちる。海賊船の海賊達は突如として出現した巨大真蛸にカノン砲を発砲する直前…。巨大真蛸は体表から発生した白煙に覆い包まれポンッと一瞬で消滅したのである。
「なっ!?クラーケンが消滅しやがったぞ!」
「先程の光景は…幻影だったのか?」
すると直後…。
「なっ!?」
海賊船の左側の甲板には着物姿の小柄の女性が佇立する。
「此奴は異国の小娘か!?」
「貴様は一体何者だ!?如何してこんな場所に…」
海賊達は警戒した様子で恐る恐る女性に近寄る。すると女性は笑顔で…。
「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で名前を名乗ったのである。
「月影桜花姫だと?」
「先程のクラーケンの正体は貴様だったのか!?」
桜花姫は問い掛けられるも…。
「えっ?クラーケンって?」
「異国の魔女が!貴様を打っ殺す!」
乗組員の一人が護身用のピストルを入手するなり桜花姫に発砲したのである。桜花姫は妖力の防壁を発動…。発砲されたピストルの弾丸を無力化したのである。
「此奴!魔法で本体をガードしやがったのか!?」
すると桜花姫は無表情で…。
「私に手出しする愚者には…」
変化の妖術を発動する。
「あんたは桜餅に変化しなさい♪」
直後…。ピストルを所持した船員が小皿に配置された桜餅に変化させられたのである。
「えっ!?魔法なのか!?」
「人間が…異国のスイーツに!?」
海賊達は恐る恐る後退りする。
「此奴は魔法で俺達の仲間を異国のスイーツに変化させたのか…」
海賊達は恐怖心によりプルプルしたのである。
「此奴は女体の怪物だ!逃げろ!」
女体の怪物発言に桜花姫はピクッと反応する。
「誰が女体の怪物ですって!?地上界の女神様である私に女体の怪物なんて…失礼しちゃうわね…」
桜花姫は逃走する海賊達を睥睨するなり…。
「あんた達は全員…ショートケーキに変化しなさい♪」
変化の妖術を発動すると海賊船の乗組員達全員がショートケーキに変化させる。桜花姫は変化の妖術によってショートケーキに変化させた海賊船の乗組員達をパクパクと食い殺したのである。
「妖力が回復したわね♪」
ショートケーキを完食すると消耗した妖力が回復する。
「誘拐されたアクアヴィーナスを救出しないとね♪」
桜花姫はアクアヴィーナスの魔力を感じる密室へと移動したのである。数分後…。密室のドアへと到達する。
「室内から彼女の妖力を感じるわね…」
桜花姫は念力の妖術を発動するとロックされたドアを開放したのである。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「えっ…桜花姫!?」
アクアヴィーナスはホッとしたのか脱力する。
「大丈夫かしら?アクアヴィーナス?」
桜花姫はアクアヴィーナスに近寄る。
「桜花姫…」
アクアヴィーナスは力一杯彼女に密着すると涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫…私…身売りされちゃうかと…」
「安心しなさい♪海賊達は征伐したから…」
「感謝するわね…桜花姫…」
「あんたの母様も相当心配したのよ…人一倍小心者のあんたが海賊団に誘拐されたからね♪」
「ウェンディーネ母様が…」
すると桜花姫は口寄せの妖術を発動…。無人島にて待機中であった母親のウェンディーネが海賊船の密室にて強制的にテレポーテーションされたのである。
「えっ!?一体何が?」
ウェンディーネは突然の出来事に驚愕する。
「口寄せの妖術で母様を口寄せしたのよ♪」
「えっ?桜花姫様が私を…」
ポカンとするウェンディーネであるが…。アクアヴィーナスが恐る恐る近寄る。
「母様…」
「アクアヴィーナス…」
ウェンディーネは力一杯アクアヴィーナスに密着したのである。
「アクアヴィーナス!無事で良かった…」
ウェンディーネは涙腺から涙が零れ落ちる。
「御免なさいね…ウェンディーネ母様…心配させちゃって…」
「気にしないでアクアヴィーナス…貴女が無事なのが何よりよ…」
「一件落着ね♪」
桜花姫は一息するなり…。
「兎にも角にも…事件は無事に解決したから私は退散するわね♪」
直後である。アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫?」
「何よ?アクアヴィーナス?」
「折角だし…アクアユートピアでショートケーキでも…如何かしら?」
「えっ!?ショートケーキですって!?」
「前回は何も謝礼が出来なかったからね…今回こそは桜花姫に謝礼したいの…」
桜花姫は大喜びした様子であり笑顔で承諾したのである。
「即刻アクアユートピアに移動しましょう♪ショートケーキ食べたいわ♪」
「桜花姫には感謝したくても感謝し切れないからね…」
彼女達は人魚に変化すると深海底地帯のアクアユートピアへと直行する。
件名 | : 桜花姫 |
投稿日 | : 2021/08/17 09:44 |
投稿者 | : 月影桜花姫 |
参照先 | : |
第七話
廃神社
スキュランによるアクアユートピアでの事件が無事解決してより翌日の早朝…。桜花姫の妹分である山猫妖女の小猫姫は暇潰しに西国の廃神社にて一休みする。
「毎日毎日…退屈だな…」
(悪霊でも出現しないかな?)
霊魂巨神木との死闘以後…。小猫姫は桜花姫みたいに悪霊征伐に尽力するのだが近頃は悪霊も匪賊も出現せず退屈の毎日だったのである。
(悪霊が出現すれば…私でも桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を仕留めちゃうのに…)
小猫姫は一息した直後…。
「えっ?」
(一体何だろう?)
突如として極度の胸騒ぎを感じる。
「胸騒ぎかな…」
非常に気味悪くなり周囲を警戒したのである。
「ひょっとして出現したのかな?」
小猫姫は警戒するものの…。内心ワクワクしたのである。すると暗闇の天然林より無数の鬼火が出現する。
「えっ?悪霊かな?」
無数の鬼火の出現に小猫姫は内心大喜びしたのである。
「本物の悪霊っぽいね♪」
背後より強烈なる霊力を察知…。小猫姫は恐る恐る背後の鳥居を直視する。
「えっ?人間の…生首?」
(巨体だね…)
廃神社の鳥居から女性らしき巨体の生首が出現したのである。
「ひょっとして此奴は以前…桜花姫姉ちゃんが退治した大生首って悪霊かな?」
悪霊の正体は大生首であり浮遊した状態で小猫姫を直視するなり不吉の笑顔でニヤッと微笑む。
「早速私の出番みたいだね♪退治するよ!」
すると突然…。大生首は口先を開口すると周囲に浮遊する無数の鬼火を吸収したのである。
「えっ?一体何を?」
鬼火を吸収すると先程よりも大生首の霊力が増幅される。
「霊力が強化されたみたいだね…」
すると大生首は口先より無数の火の玉を放出したのである。
「火の玉?」
(変化の妖術で…)
小猫姫は変化の妖術を発動…。伝説の妖獣に変化したのである。大生首が放出した無数の火の玉が小猫姫に接近する。小猫姫は体内の妖力を増幅させるなり…。
「はっ!」
衝撃波を発生させる。小猫姫が衝撃波を発生させた直後…。大生首の火の玉は一瞬で消失したのである。
「あんた程度の火の玉なんて私には通用しないからね!」
小猫姫は口先より高熱の雷光を凝縮させる。
「死滅しろ!大生首!」
口先から高熱の雷球を放出したのである。小猫姫が放出した高熱の雷球は大生首に直撃するのだが…。大生首はパッと消滅したのである。
「えっ!?消滅した!?」
(大生首は?)
周囲を警戒するものの…。大生首は確認出来ない。
(霊力は感じられるけれど…)
霊力は感じるのだが大生首の居場所は不明である。
(先程の大生首は幻影かな?)
「本体は一体…」
すると突然…。周囲の地中より無数の食人餓鬼が出現したのである。
「えっ?今度は食人餓鬼の大群?」
無数の食人餓鬼が小猫姫に殺到したのである。
(食人餓鬼が相手なら…)
小猫姫は衝撃波を発動…。殺到する食人餓鬼の大群を一瞬でバラバラに粉砕したのである。食人餓鬼は肉体が非常に脆弱であり僅少の妖力で仕留められるものの…。多勢に無勢であり地中より更なる大量の食人餓鬼が再度出現する。
(こんなに出現するなんて…半年前の悪霊騒動以来だね…)
再度出現した無数の食人餓鬼は小猫姫に殺到…。小猫姫は口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!」
口先より高熱の雷球を発射…。殺到する食人餓鬼の大群を焼失させたのである。
「仕留めたね…」
小猫姫はホッとしたのか一安心した直後…。再度霊力を感じる。
(今度は何だろう?)
すると地面より無数の食人餓鬼が一体化した肉団子の悪霊…。百鬼食人餓鬼が出現したのである。体表には無数の食人餓鬼の顔面が確認出来る。
「此奴は…百鬼食人餓鬼?」
(以前桜花姫姉ちゃんが退治した食人餓鬼の集合体だったよね…)
百鬼食人餓鬼の体表の食人餓鬼が小猫姫を凝視する。
「気味悪いね…」
体表の無数の食人餓鬼が口先から高熱の火炎を放射したのである。小猫姫は即座に雷光の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の火炎を無力化したのである。
「こんな程度の火炎では私には通用しないよ!」
小猫姫は落雷の妖術を発動…。
「成仏しろ!」
天空が黒雲により覆い包まれる。すると黒雲の中心部より高熱の落雷が百鬼食人餓鬼に直撃…。百鬼食人餓鬼が佇立した地面が抉れる。百鬼食人餓鬼は高熱の落雷により消滅したのである。
「悪霊は消滅したね…」
百鬼食人餓鬼を仕留めた直後…。背後より強烈なる霊力が突発的に出現したのである。
「えっ!?」
(霊力?)
小猫姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「大生首…」
先程突然消失した大生首が再度出現したのである。大生首は小猫姫を直視するなりニヤッと不吉の笑顔で微笑む。
「あんたは本当に気味悪いね…」
小猫姫は高熱の雷球を発射する。発射された高熱の雷球は大生首に直撃するのだが…。パッと消失したのである。
「えっ!?今度も幻影?」
直後…。大生首の本体が小猫姫の目前より出現する。
「此奴が大生首の本体!?」
すると大生首は人間界の公用語で発語し始める。
「伝説の妖獣に変化出来る妖女の小娘よ…貴様の妖力は非常に絶大だ…」
「えっ!?」
(大生首って…喋れるの!?)
人語で発語する大生首に小猫姫は驚愕したのである。
「先程の戦闘で貴様の妖力は消耗した…」
すると小猫姫は妖力の消耗により変化の妖術が解除され…。伝説の妖獣から元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「えっ!?」
(戻っちゃった…)
妖力の消耗により小猫姫は身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
(迂闊だった…妖力の消耗で身動き出来なくなるなんて…)
大生首はニヤッと微笑むなり…。
「妖獣の小娘よ…貴様は私に食い殺される運命なのだ♪」
大生首は小猫姫に急接近する。
「妖獣の小娘よ…貴様の肉体を頂戴する♪」
「ひっ!」
(私…悪霊に食い殺されちゃうよ…蛇骨鬼婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…)
小猫姫は恐怖心により瞑目したのである。大生首に食い殺される直前…。
「桜餅に変化しなさい♪」
すると大生首はポンッと白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?」
(一体何が?)
小猫姫は恐る恐る両目を見開くと目前の地面には小皿と桜餅が確認出来る。
「えっ?如何して桜餅が?」
すると背後より桜花姫が近寄る。
「危機一髪だったわね♪小猫姫♪」
「えっ?桜花姫姉ちゃん?」
桜花姫は小皿に配置された桜餅をパクッと頬張る。
「ひょっとして桜餅の正体は…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論大生首よ♪」
桜花姫は変化の妖術で悪霊の大生首を桜餅に変化…。頬張ったのである。
「悪霊でも桜餅に変化させちゃえば美味ね♪」
(桜花姫姉ちゃん…悪霊を食べちゃうなんて…)
美味しそうに桜餅を頬張る桜花姫に小猫姫は苦笑いする。
「今回出現した大生首は前回私が征伐した大生首よりも強力だったみたいね…」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「桜花姫姉ちゃんは如何して私の居場所を?」
「近辺の神社であんたの妖力と悪霊の霊力を察知したのよ♪何よりもあんたの妖力は其処等の妖女よりも強力だから非常に目立つわよ♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は苦笑いしたのである。
「私に内緒で悪霊征伐なんて小猫姫の意地悪♪」
「意地悪も何も…結局大物は桜花姫姉ちゃんが仕留めちゃったけどね…」
「あんたも頑張ったみたいね♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は赤面するも内心では大喜びする。
廃神社
スキュランによるアクアユートピアでの事件が無事解決してより翌日の早朝…。桜花姫の妹分である山猫妖女の小猫姫は暇潰しに西国の廃神社にて一休みする。
「毎日毎日…退屈だな…」
(悪霊でも出現しないかな?)
霊魂巨神木との死闘以後…。小猫姫は桜花姫みたいに悪霊征伐に尽力するのだが近頃は悪霊も匪賊も出現せず退屈の毎日だったのである。
(悪霊が出現すれば…私でも桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を仕留めちゃうのに…)
小猫姫は一息した直後…。
「えっ?」
(一体何だろう?)
突如として極度の胸騒ぎを感じる。
「胸騒ぎかな…」
非常に気味悪くなり周囲を警戒したのである。
「ひょっとして出現したのかな?」
小猫姫は警戒するものの…。内心ワクワクしたのである。すると暗闇の天然林より無数の鬼火が出現する。
「えっ?悪霊かな?」
無数の鬼火の出現に小猫姫は内心大喜びしたのである。
「本物の悪霊っぽいね♪」
背後より強烈なる霊力を察知…。小猫姫は恐る恐る背後の鳥居を直視する。
「えっ?人間の…生首?」
(巨体だね…)
廃神社の鳥居から女性らしき巨体の生首が出現したのである。
「ひょっとして此奴は以前…桜花姫姉ちゃんが退治した大生首って悪霊かな?」
悪霊の正体は大生首であり浮遊した状態で小猫姫を直視するなり不吉の笑顔でニヤッと微笑む。
「早速私の出番みたいだね♪退治するよ!」
すると突然…。大生首は口先を開口すると周囲に浮遊する無数の鬼火を吸収したのである。
「えっ?一体何を?」
鬼火を吸収すると先程よりも大生首の霊力が増幅される。
「霊力が強化されたみたいだね…」
すると大生首は口先より無数の火の玉を放出したのである。
「火の玉?」
(変化の妖術で…)
小猫姫は変化の妖術を発動…。伝説の妖獣に変化したのである。大生首が放出した無数の火の玉が小猫姫に接近する。小猫姫は体内の妖力を増幅させるなり…。
「はっ!」
衝撃波を発生させる。小猫姫が衝撃波を発生させた直後…。大生首の火の玉は一瞬で消失したのである。
「あんた程度の火の玉なんて私には通用しないからね!」
小猫姫は口先より高熱の雷光を凝縮させる。
「死滅しろ!大生首!」
口先から高熱の雷球を放出したのである。小猫姫が放出した高熱の雷球は大生首に直撃するのだが…。大生首はパッと消滅したのである。
「えっ!?消滅した!?」
(大生首は?)
周囲を警戒するものの…。大生首は確認出来ない。
(霊力は感じられるけれど…)
霊力は感じるのだが大生首の居場所は不明である。
(先程の大生首は幻影かな?)
「本体は一体…」
すると突然…。周囲の地中より無数の食人餓鬼が出現したのである。
「えっ?今度は食人餓鬼の大群?」
無数の食人餓鬼が小猫姫に殺到したのである。
(食人餓鬼が相手なら…)
小猫姫は衝撃波を発動…。殺到する食人餓鬼の大群を一瞬でバラバラに粉砕したのである。食人餓鬼は肉体が非常に脆弱であり僅少の妖力で仕留められるものの…。多勢に無勢であり地中より更なる大量の食人餓鬼が再度出現する。
(こんなに出現するなんて…半年前の悪霊騒動以来だね…)
再度出現した無数の食人餓鬼は小猫姫に殺到…。小猫姫は口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!」
口先より高熱の雷球を発射…。殺到する食人餓鬼の大群を焼失させたのである。
「仕留めたね…」
小猫姫はホッとしたのか一安心した直後…。再度霊力を感じる。
(今度は何だろう?)
すると地面より無数の食人餓鬼が一体化した肉団子の悪霊…。百鬼食人餓鬼が出現したのである。体表には無数の食人餓鬼の顔面が確認出来る。
「此奴は…百鬼食人餓鬼?」
(以前桜花姫姉ちゃんが退治した食人餓鬼の集合体だったよね…)
百鬼食人餓鬼の体表の食人餓鬼が小猫姫を凝視する。
「気味悪いね…」
体表の無数の食人餓鬼が口先から高熱の火炎を放射したのである。小猫姫は即座に雷光の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の火炎を無力化したのである。
「こんな程度の火炎では私には通用しないよ!」
小猫姫は落雷の妖術を発動…。
「成仏しろ!」
天空が黒雲により覆い包まれる。すると黒雲の中心部より高熱の落雷が百鬼食人餓鬼に直撃…。百鬼食人餓鬼が佇立した地面が抉れる。百鬼食人餓鬼は高熱の落雷により消滅したのである。
「悪霊は消滅したね…」
百鬼食人餓鬼を仕留めた直後…。背後より強烈なる霊力が突発的に出現したのである。
「えっ!?」
(霊力?)
小猫姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「大生首…」
先程突然消失した大生首が再度出現したのである。大生首は小猫姫を直視するなりニヤッと不吉の笑顔で微笑む。
「あんたは本当に気味悪いね…」
小猫姫は高熱の雷球を発射する。発射された高熱の雷球は大生首に直撃するのだが…。パッと消失したのである。
「えっ!?今度も幻影?」
直後…。大生首の本体が小猫姫の目前より出現する。
「此奴が大生首の本体!?」
すると大生首は人間界の公用語で発語し始める。
「伝説の妖獣に変化出来る妖女の小娘よ…貴様の妖力は非常に絶大だ…」
「えっ!?」
(大生首って…喋れるの!?)
人語で発語する大生首に小猫姫は驚愕したのである。
「先程の戦闘で貴様の妖力は消耗した…」
すると小猫姫は妖力の消耗により変化の妖術が解除され…。伝説の妖獣から元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「えっ!?」
(戻っちゃった…)
妖力の消耗により小猫姫は身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
(迂闊だった…妖力の消耗で身動き出来なくなるなんて…)
大生首はニヤッと微笑むなり…。
「妖獣の小娘よ…貴様は私に食い殺される運命なのだ♪」
大生首は小猫姫に急接近する。
「妖獣の小娘よ…貴様の肉体を頂戴する♪」
「ひっ!」
(私…悪霊に食い殺されちゃうよ…蛇骨鬼婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…)
小猫姫は恐怖心により瞑目したのである。大生首に食い殺される直前…。
「桜餅に変化しなさい♪」
すると大生首はポンッと白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?」
(一体何が?)
小猫姫は恐る恐る両目を見開くと目前の地面には小皿と桜餅が確認出来る。
「えっ?如何して桜餅が?」
すると背後より桜花姫が近寄る。
「危機一髪だったわね♪小猫姫♪」
「えっ?桜花姫姉ちゃん?」
桜花姫は小皿に配置された桜餅をパクッと頬張る。
「ひょっとして桜餅の正体は…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論大生首よ♪」
桜花姫は変化の妖術で悪霊の大生首を桜餅に変化…。頬張ったのである。
「悪霊でも桜餅に変化させちゃえば美味ね♪」
(桜花姫姉ちゃん…悪霊を食べちゃうなんて…)
美味しそうに桜餅を頬張る桜花姫に小猫姫は苦笑いする。
「今回出現した大生首は前回私が征伐した大生首よりも強力だったみたいね…」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「桜花姫姉ちゃんは如何して私の居場所を?」
「近辺の神社であんたの妖力と悪霊の霊力を察知したのよ♪何よりもあんたの妖力は其処等の妖女よりも強力だから非常に目立つわよ♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は苦笑いしたのである。
「私に内緒で悪霊征伐なんて小猫姫の意地悪♪」
「意地悪も何も…結局大物は桜花姫姉ちゃんが仕留めちゃったけどね…」
「あんたも頑張ったみたいね♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は赤面するも内心では大喜びする。
夜襲
人類史上最大級の大戦争…。世界最終戦争から十数年後の出来事である。大量破壊兵器によって旧世界の巨大産業文明は大崩壊…。世界各地の大都市部は荒廃したスラム街状態であり彼方此方が暴徒化した人間達の魔窟状態だったのである。当然として秩序は皆無であり暴徒化した生存者達は食糧の争奪戦…。殺し合ったのである。世界全体が弱肉強食の大混乱期時代であったが…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する大規模武装勢力が世界各地の彼方此方に暴発し始める。彼等は荒廃した新世界の主導権掌握を主目的に活動を開始したのである。とある某日の真夜中…。東南地帯の大陸に存在する亜大陸では複数の武装勢力が衝突したのである。
「突撃隊!敵軍を蹴散らせよ!」
主戦場は砂漠化した大平原であり周囲の様子は容易に確認出来る。武装集団の部隊長らしき人物の合図と同時にサバイバルナイフと護身用のハンドガンを装備した迷彩服の戦闘員達がとある敵軍の駐留地に突入する。
「ん!?奴等はブラッドウルフの突撃隊だぞ!」
ブラッドウルフとは小規模の統治領である〔亜大陸地帯〕を実効支配する新世界有数の大規模武装集団…。新世界の主導権掌握を主目的に活動する軍閥の一大勢力である。駐留地の表門を警備する二人の警備兵がブラッドウルフの突撃隊を確認する。
「敵襲だ!敵襲だぞ!」
睡眠中だった大勢の戦闘員達が即座に反応したのである。
「敵襲だと!?ブラッドウルフの奴等だな!」
「奴等の襲撃か!?奇襲とは卑劣だな…」
突撃隊の人数は推計三百人前後…。相対する駐留地の常備軍は推計五百人規模であり総人員はブラッドウルフを上回る。
「防衛戦だ!防衛戦を開始せよ!」
駐留地内部では両勢力による銃撃戦が開始される。戦闘開始から二分間が経過…。双方で百人以上の死傷者が続出する。
「回転型機関砲を用意しろ…」
駐留地の常備軍は六連発の回転型機関砲を配備したのである。
「此奴でブラッドウルフの奴等を蹴散らしちまえ!」
「奴等に無数の弾丸をぶっ放せ!」
回転型機関砲の乱射によって十数人もの突撃隊を死傷させる。戦力では防衛戦を徹底する駐留地の常備軍が圧倒的に有利でありブラッドウルフの突撃隊は戦力が半減…。ブラッドウルフ突撃隊は撤退を余儀無くされる。
「全滅しちまう!逃げろ!」
戦意喪失によりブラッドウルフの突撃隊は敵前を逃亡する戦闘員達が出始め…。何人かの戦闘員が自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様達!?何故戦場から戻ったのだ!?誰が貴様等に戻れと命令した!?」
怒号する総大将に逃亡した戦闘員達は恐る恐る…。
「ですが総大将…今回の戦闘は圧倒的に不利ですぜ…」
「多勢に無勢ですぜ!総大将!サバイバルナイフとハンドガンだけでは奴等には対抗出来ませんぜ…一度出直して…」
「沈黙しろ!敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将は護身用のハンドガンで一人の戦闘員を射殺する。
「今度は誰が射殺されたいか?私に射殺されたければ返答するのだな…」
「ひっ!」
一人の戦闘員が銃殺され…。逃亡した周囲の戦闘員達が畏怖したのである。
「貴様等は泣く子も黙るブラッドウルフの勇士達なのだぞ!死にたくなければ即刻主戦場に戻れ…戻らなければ即刻射殺する!」
戦闘員達は極度の恐怖心からかビクビクした様子であり全身が膠着する。
「貴様等…」
『役立たずの弱卒が…』
彼等の様子に総大将は呆れ果てる。すると総大将の背後より…。
「【フィルヴァス】…こんな弱卒だけで戦闘に勝利するなんて夢物語だぞ…現実を見据えろ…」
ブラッドウルフ総大将フィルヴァスの背後にはフードを被った小柄の人物が佇立する。
「誰かと思いきや…貴様は最精鋭の【ストレンジキラー】か…」
「えっ!?」
「ストレンジキラーって…」
ストレンジキラーの名前に周囲の戦闘員達は驚愕したのである。
「此奴は…伝説の殺し屋の…」
「本物なのかよ?」
ストレンジキラーとは荒廃した新世界各地で活躍する伝説の殺し屋…。残虐非道の暗殺者として世界各地で畏怖される存在である。ストレンジキラーは世界的にも著名の人物であるが…。今現在彼自身に関連する詳細は不明瞭でありストレンジキラーの正体を熟知する人物は少数である。
「此奴は最近配属させた最強の即戦力でありブラッドウルフの最精鋭だ…伝説の殺し屋であるストレンジキラーなら百人力の大戦果は期待出来るだろう♪」
フィルヴァスは恐る恐るストレンジキラーに指示する。
「ストレンジキラーよ…敵軍の陣地に突入して敵兵達を殺し回るのだ…伝説の殺し屋である貴様なら出来るよな?」
「仕方ないな…」
ストレンジキラーはフィルヴァスの命令を掌握すると常人をも超越した超高速移動で移動したのである。ストレンジキラーのスピードに陣地の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーは…人間なのか!?」
「彼奴は怪物の間違いでは?」
するとフィルヴァスは陣地の戦闘員達に解説し始める。
「ストレンジキラーの正体は〔ポストヒューマン〕…十数年前の旧世界古代人達が創造した新人類の一人だぞ…」
「ポストヒューマンって?」
ポストヒューマンとは旧世界の高度の科学技術により創造された人工性生命体…。所謂人造人間の総称化である。世界最終戦争によりポストヒューマンに関連する大半の資料と研究施設は焼失したものの…。一部の残存資料ではポストヒューマンは人間を超越した身体能力と不老長寿の肉体である記述のみは現存する。
「ですが総大将…怪物みたいな百人力の兵隊を味方に出来ましたね…」
「ストレンジキラー…彼奴は単純に戦闘と殺戮さえ出来れば大満足らしいからな…兵士としては堅実的存在だ…」
『何よりも狂戦士のストレンジキラーをブラッドウルフの一兵卒として扱えるのは奇跡だったな…』
野心家のフィルヴァスにとって自身の目的の遂行にはストレンジキラーの好戦的性格は非常に好都合だったのである。同時刻…。ストレンジキラーは数秒間で常備軍の駐屯地に到達する。
「なっ!?此奴は敵軍の新手か!?」
「常人以上のスピードだったぞ!此奴は本当に人間なのか!?」
「一体何者だ!?」
ストレンジキラーの超人的スピードに最前線の敵味方の戦闘員達は強豪のストレンジキラーに注目したのである。直後…。改造された両手の義手先端から銀色の鉤爪が出現する。
「戦闘を開始する…」
ストレンジキラーは神速の身動きで敵兵の背後に接近した直後…。両腕に内蔵された鉤爪で敵兵を斬撃したのである。ストレンジキラーは数秒間で三人の敵兵を殺害…。床面にはバラバラに斬撃された敵兵達の鮮血やら肉片が無数に飛散する。
「うわっ!此奴は怪物みたいな兵隊だ!」
駐屯地の戦闘員達は人外のストレンジキラーに畏怖したのか機関銃は勿論…。回転型機関砲でストレンジキラーに攻撃を集中させる。
「集中攻撃だ!怪物みたいな兵士を打っ殺せ!」
数百発もの弾丸がストレンジキラーに集中するも…。ストレンジキラーは神速の身動きで数百発もの弾丸を容易に回避したのである。
「なっ!?一瞬で…」
「消失したぞ…敵兵は一体!?」
一瞬の身動きでストレンジキラーは敵軍の銃撃を回避…。常備軍の戦闘員達は周囲を警戒するのだがストレンジキラーの姿形は確認出来ない。
「敵軍の強兵は!?」
すると回転型機関砲を装備する戦闘員の背後より…。
「えっ…なっ!?」
ストレンジキラーは鉤爪で戦闘員を瞬殺する。ストレンジキラーの大攻勢により形勢は完全に逆転…。一時的に戦意喪失したブラッドウルフの突撃隊であるがストレンジキラーの参戦によって彼等の士気が発揚したのである。
「新米兵士が敵部隊の主力戦力を無力化させたぞ!反撃開始だ!」
突撃隊の猛反撃が開始される。十数分間の戦闘で駐留地の常備軍は撤退を開始…。彼等の駐留地はブラッドウルフに完全占拠されたのである。今回の夜襲作戦でブラッドウルフは百二十人以上の戦闘員達が死傷…。一方の駐留地常備軍は九十人以上の戦闘員達が死傷したのである。奇襲作戦に辛勝したブラッドウルフは駐留地に放置された多数の重火器を戦利品として確保…。五十五人もの敵軍戦闘員を捕虜として拘束したのである。戦闘終了後…。総大将のフィルヴァスは笑顔でストレンジキラーに近寄る。
「非常に見事だったぞ♪ストレンジキラー♪貴殿の孤軍奮闘で敵軍の駐留地を無事に占領出来たのだ!大戦果だぞ♪」
初戦の大戦果にフィルヴァスは大喜びしたのである。
「ストレンジキラーよ…貴殿は全軍の次期総帥候補に相応しい存在なのだ♪一兵卒では勿体無い人材だぞ…」
「えっ!?新米兵士のストレンジキラーが次期総帥候補って…」
「初戦で次期総帥に任命されるなんて凄過ぎる…ストレンジキラーは別格だな…」
周囲の戦闘員達は驚愕する。
「実際…今回の戦闘ではストレンジキラーが参戦しなかったら俺達は完全に敗北しただろうからな…ストレンジキラーがブラッドウルフの次期総帥に任命されるのも当然だろうよ…」
するとストレンジキラーは無表情で…。
「何が次期総帥候補だ…俺にとって次期総帥なんて地位は無価値だな…」
ストレンジキラーは次期総帥の地位を無価値であると断言する。
「無価値だと?」
ストレンジキラーの返答にフィルヴァスは勿論…。周囲の戦闘員達はハッとする。
「ストレンジキラーよ…ブラッドウルフの次期総帥は大名誉なのだぞ!貴殿は新時代の覇者として全世界を掌握したくないのか!?」
「全世界の覇者なんて…殺し屋の俺には無縁だな…」
ストレンジキラーは無関心そうな態度で返答したのである。
「俺は思う存分戦闘と殺戮さえ出来れば大満足だ…」
フィルヴァスは内心不服であったが…。
「ストレンジキラーが暴れ回りたければ今後も思う存分に暴れ回るのだ…恐らく今後とも各地では戦闘が頻発するだろうからな…」
大戦闘に勝利したブラッドウルフは本拠地亜大陸地帯へと戻ったのである。
第二話
山賊要塞
砂漠化した大平原での大戦闘から五日後の真昼…。ブラッドウルフ本拠地では最精鋭部隊が新編成されたのである。各メンバーはポストヒューマンであり最精鋭の一人であるストレンジキラー以下…。十三人の精鋭達が抜擢されたのである。
「勇士達は…全員集合したな…」
ブラッドウルフ本拠地にて最精鋭部隊が集結…。総大将のフィルヴァスが集結した各メンバーを確認したのである。
「突然であるが…貴様達最精鋭部隊に最重要任務だ…」
「はっ?俺達に最重要任務だって?」
「任務内容は?」
少数精鋭であるが彼等は面倒臭そうな態度でフィルヴァスに問い掛ける。
「貴様等少数精鋭は南方地帯の山賊要塞に潜入するのだ…」
山賊要塞とは西方地帯に聳え立つ岩山であり難攻不落の大要塞である。近年山賊要塞と命名される岩山では大勢の武装集団が拠点である岩山を占拠…。岩山全体は要塞化され山賊要塞内部には各地で回収された多数の重火器が配備されたのである。
「今回の作戦の最終目的として…山賊要塞の占拠と山賊要塞内部に配備された重戦車を多数強奪するのだ…最精鋭の貴様達であれば出来るよな?」
「はっ!?総大将は正気なのか!?」
今回の任務内容にストレンジキラー以外の各メンバー達が猛反発する。
「俺達が少数精鋭でも…十四人だけで山賊要塞全体を占拠するなんて無茶だろ!理不尽過ぎるぜ!」
「総大将…多勢に無勢だぜ…難攻不落の山賊要塞を完全占領したかったらブラッドウルフ全勢力で総動員するべきだ!俺達だけで山賊要塞を占領するなんて無謀過ぎるぞ…」
猛反発する彼等にフィルヴァスは一息したのである。
「であるからこそ最精鋭のストレンジキラーを今回の大作戦に抜擢させたのだ…」
前回の戦闘でストレンジキラーの戦闘力を熟知したフィルヴァスは今回の大作戦でも活躍出来ると判断する。
「ポストヒューマンであるストレンジキラーなら鬼に金棒だからな…最強の狂戦士である彼ならば百人力の大戦果は期待出来るだろう…」
「ストレンジキラーが最強の狂戦士でも…一人だけでは戦力に…」
すると直後である。ストレンジキラーは超高速移動により精鋭の一人を鉤爪で斬首…。精鋭の一人を即死させたのである。
「なっ!?」
「えっ…此奴…」
「ストレンジキラー…貴様!?」
地面には切断された精鋭の頭首と鮮血が流れ出る。
「ひっ!殺されちまう!」
「此奴…本当に仲間を打っ殺しやがったぞ!」
十二人の精鋭達は仲間にも容赦しないストレンジキラーに畏怖したのである。
「今度…俺に殺されたいのは誰だ?指名しろ…」
ストレンジキラーは無表情で十二人の精鋭達に問い掛ける。
『ストレンジキラー…此奴が殺し屋って噂話は本当らしいな…』
総大将のフィルヴァスもストレンジキラーの予想外の行為に一瞬動揺する。
「貴様達…今回ばかりは無謀かも知れないが…今現在ブラッドウルフは戦力不足なのだ…一度の戦闘に相当数の人員は配備出来ないのが現状だ…」
ブラッドウルフは前回の大規模戦闘で相当数の人員喪失により一度の戦闘で大勢の戦闘員達を主戦場に総動員するのは事実上不可能だったのである。
「今回の大作戦は非常に危険である反面…今回の任務に成功すれば貴様達には報酬として一年分の食糧品と酒類を提供するからな…約束する!」
「えっ!?」
「食糧と酒類を一年分だと!?本当かよ!?」
「一か八かのチャンスだな!山賊要塞で思う存分に大暴れするか♪」
「約束だぜ♪総大将♪存分に大暴れするからな!」
「任務に成功したら俺達に一年分の食糧と酒類を用意しやがれよ♪」
報酬の一言にストレンジキラーを除外する精鋭達の士気が発揚…。
「はぁ…」
一時的であるがフィルヴァスは内心ホッとする。
『如何やら一安心だな…彼等が単純で安心した…』
現実問題…。ブラッドウルフは慢性的に人員不足であり内輪揉めが原因で人員が喪失するのを回避したかったのである。
『生憎…ストレンジキラーには報酬は不要そうだが…』
ブラッドウルフ全軍にとってストレンジキラーは最強の主要戦力である一方…。フィルヴァスは危険人物である彼に裏切られないか極度の不安感と恐怖心を感じる。翌朝…。最精鋭部隊は西方地帯の山賊要塞へと移動を開始したのである。
「総大将の野郎も適当だよな…如何して俺達をこんな任務なんかに抜擢しやがった?正直無謀だぜ…」
最精鋭の一人が不満を愚痴り始める。
「仕方ないよ…六日前の戦闘では人員の大半を喪失したからな…当分の作戦では大人数は動員出来ないだろうよ…」
「山賊要塞の占領に成功すれば一年分の食糧をゲット出来るぞ…我慢しろよ♪」
活動拠点の亜大陸地帯から西方地帯は二十キロメートルの長距離であり比較的遠距離だったのである。移動を開始してより一時間半後…。彼等は目的地である西方地帯に到達したのである。
「無人地帯かよ…西方地帯は亜大陸地帯以上に殺風景だな♪」
「当然だが人気は感じられないぜ…ゴーストタウンみたいで薄気味悪いな…亜大陸地帯に戻りたいぜ…」
「幽霊が出現しそうな雰囲気だな…」
「何が幽霊だよ♪子供みたいな感想だぜ♪」
「子供かよ♪所詮幽霊なんて子供騙しだろうに…」
当然として西方地帯の住宅街も荒廃したゴーストタウンであり誰一人として居住者は確認出来ない。
「目的地の山賊要塞は?」
するとストレンジキラーが無表情で中心地に確認出来る巨山を指差したのである。
「ん?岩山みたいだな…」
中心地に聳え立つ岩山は標高五百メートル規模の巨山であり岩山の頂上には鉄塔が確認出来る。
「岩山が山賊要塞だな…」
小柄の戦闘員が恐る恐る…。
「山賊要塞を攻略するのであれば如何する?」
「こんな要塞であれば…直接的に真正面から突っ込むだけだ…」
今迄無言だったストレンジキラーが即答したのである。
「ストレンジキラーは正気か?真正面から突っ込むなんて…完全に自殺行為だぜ…」
「要塞に突っ込むならストレンジキラー一人で突っ込みやがれ…俺達は普通の人間だから御免だぜ…」
周囲の戦闘員達はストレンジキラーの意見に全否定する。無表情だったストレンジキラーであるが…。殺気を感じさせる表情で彼等を睥睨したのである。
「ひっ!」
『此奴…殺気か!?本気の殺意を感じるぜ…』
ストレンジキラーの殺気に戦闘員達は畏怖し始める。
「山賊要塞の敵兵達は俺が完膚なきまでに打っ殺す…貴様達雑魚は山賊要塞を占拠するのだな…」
ストレンジキラーは神速のスピードで山賊要塞へと突っ込んだのである。
「ストレンジキラーの野郎…気に入らないな…」
「彼奴…一人で突っ込んじまったな…」
現在地である住宅街から山賊要塞への距離は数キロメートルと近距離でありストレンジキラーは数秒間で到達する。
「敵陣には…」
ストレンジキラーは両目を瞑目させる。
『内部の敵兵は二百人前後か…』
ポストヒューマンとしての本能からか外部からでも瞬間的に内部に存在する生体反応を正確にキャッチ出来る。ストレンジキラーは山賊要塞から二百人前後の人間達の生体反応をキャッチしたのである。
「内部の敵兵を打っ殺すだけなら俺一人でも楽勝だな…」
数分間岩山の周囲を探索すると地下シェルターのハッチを発見する。
「ハッチだと?軍事用の地下シェルターか?」
ストレンジキラーは地下シェルターのハッチを開放させる。恐る恐る地下シェルター内部へと潜入したのである。
『山賊要塞に直結する地下通路か…』
地下シェルターは十数年前の世界最終戦争で住民達の避難所として利用された地下壕である。数十分後…。通路を直進し続けると目前より重厚に構築された鉄扉が確認出来る。
「此奴を破壊すれば敵地に侵入出来るな…」
左手の機械義手より内蔵された対物ライフルが出現する。
「鉄扉を破壊するだけなら此奴で事足りる…」
内蔵された対物ライフルで鉄扉を破壊したのである。周囲より爆発音が響き渡る。
「楽勝だな…」
破壊された鉄扉の奥側より…。二人の警備兵が破壊された鉄扉の瓦礫に近寄る。
「先程の爆発音は!?」
「一体何が発生しやがった!?ん!?」
二人の警備兵はストレンジキラーに気付いたのである。
「機械式の義手だと?貴様は一体何者だ!?」
「鉄扉を破壊したのは貴様か!?」
問い掛けられたストレンジキラーは無表情で…。
「であれば如何する?」
彼等はストレンジキラーの態度にピリピリする。
「貴様…」
「構わん!此奴は侵入者だ!徹底的に打っ殺せ!」
警備兵達は護身用のライフルを発砲したのである。ストレンジキラーは銃撃されたものの…。高速移動により警備兵達の銃撃を回避したのである。高速移動中に装備を対物ライフルから近接戦闘用の鉤爪に変換…。ストレンジキラーは一瞬の身動きで二人の警備兵を斬撃したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
鉄製の床面には彼等の鮮血で赤色に染色する。
「防衛拠点に移動するか…」
ストレンジキラーは山賊要塞の上層へと移動したのである。同時刻…。山賊要塞重要拠点内部では戦闘員達が立体映像である監視用のホログラムで地下通路の様子を確認したのである。ホログラムによってストレンジキラーが投影されると彼等はゾッとする。
「侵入者だぞ!」
「彼奴は伝説の殺し屋…ストレンジキラーだ!」
戦闘員達がストレンジキラーの出現に騒然としたのである。
「なっ!?ストレンジキラーだと!?本当なのか!?」
「ストレンジキラーって…ポストヒューマンの彼奴だよな!?如何して殺し屋の彼奴がブラッドウルフなんかに味方しやがった!?」
「如何するよ!?地下通路を突破されちまったぞ!拠点内部に侵入されるのは時間の問題だぞ…」
刻一刻と恐怖心が増大化する。拠点内部の戦闘員達はストレンジキラーの襲撃に畏怖したのである。すると疲弊する戦闘員達に大柄の戦闘員が怒号し始める。
「貴様等!狼狽えるな!所詮相手は一人だぞ…総動員で武装するのだ!総動員で攻撃すれば相手が殺し屋のストレンジキラーとて…」
彼等は即座に護身用の銃火器を装備したのである。基地内であるが拠点防衛用の重戦車も数量程度配置する。
「ストレンジキラーが通信室に侵入し次第…総攻撃だぞ!」
数秒後…。頑丈に構築された鉄扉が破壊される。
「えっ!?」
「なっ!?」
無傷のストレンジキラーが通信室に侵入したのである。
「此奴…」
するとストレンジキラーは無表情で周囲を確認…。
「俺を相手にするのであれば…山賊要塞の戦力では力不足だな…」
山賊要塞に侵入したストレンジキラーは内部の防衛網を簡単に突破したのである。
「総攻撃だ!ストレンジキラーを打っ殺せ!」
通信室の戦闘員達は護身用の機関銃は勿論…。バズーカ砲でストレンジキラーを総攻撃したのである。無数の弾丸やら砲弾が炸裂…。ストレンジキラーを急襲する。
『こんな程度の攻撃で…』
ストレンジキラーは神速の身動きによって内部の戦闘員達を瞬殺…。数分間で通信室の戦闘員達を全滅させたのである。
「雑魚は片付いたな…」
ストレンジキラーは山賊要塞から脱出すると待機中の精鋭部隊と合流する。
「ストレンジキラー!?山賊要塞から無事に戻れたのか!?」
「山賊要塞の雑魚は俺が排除した…貴様等は思う存分山賊要塞を占拠しろ…」
彼が単独で難攻不落の山賊要塞を陥落させた事実に彼等は驚愕したのである。
「はっ!?ストレンジキラーは一人で山賊要塞を陥落させたのかよ!?」
「ストレンジキラーは人型の兵器なのか?」
「兎にも角にも山賊要塞を占拠するぞ…」
ストレンジキラーが山賊要塞を攻略してより一時間後…。山賊要塞はブラッドウルフによって完全占拠されたのである。戦闘に勝利したブラッドウルフは多数の重火器は勿論…。輸送用の装甲車やら重戦車を数両確保したのである。今回の山賊要塞の完全占拠によってブラッドウルフの戦力は格段に急上昇する。
第三話
宣戦布告
同時期…。地球上の裏側ではネオサイクロプスと呼称される海面上の大規模勢力が各海域で大暴れしたのである。ネオサイクロプスは旧世界の大文明で開発された高度の巨大兵器を多数保有…。彼等の軍事力は非常に絶大であり荒廃した地球上の約半分を占拠出来る程度には強力だったのである。陸戦最強勢力の大規模軍閥ブラッドウルフが奮戦する同時期…。地球上の裏側の青海原ではネオサイクロプスの武装大型船が目的地である南極海の島嶼へと直航する。
「大将軍♪航海は順調ですぜ♪今度の戦闘も勝利出来ますよ♪」
武装大型船の艦長は【ヘルムフリート】と名乗る人物である。ヘルムフリートはネオサイクロプスの創設者であり総軍の最高指導者として統率する。大勢の部下達からは大将軍と呼称される一方…。自軍以外の各勢力では大海原の大魔王として畏怖されたのである。今現在でこそヘルムフリートは随一の軍人であるが十数年前に勃発した世界最終戦争では国連軍の少年兵として最前線で孤軍奮闘…。数多くの主戦場で大活躍した歴戦の猛者として知られる。
「油断は出来ない…今回の戦闘は俺達を敵対視する部落の徒党だぞ…不穏分子は徹底的に壊滅させなくては!」
ネオサイクロプスは荒廃した新世界の大規模軍閥の一大勢力であるが…。世界各地の軍閥勢力からは極悪非道の海賊集団として嫌悪されたのである。ネオサイクロプスは本拠地から出航してより一時間後…。小規模の島嶼が確認出来る距離へと到達する。
「大将軍!絶島を発見しましたぜ!」
「絶島だと?」
ヘルムフリートは双眼鏡で絶島を確認したのである。絶島は全域が要塞化された城郭地帯でありヘルムフリートは目的地のサウスアイランド諸島であると認識する。
「恐らく目的のサウスアイランド諸島だ…各乗員に伝播せよ!戦闘を開始すると!」
「承知しましたぜ!大将軍!」
同時刻…。サウスアイランド諸島では本島に駐屯中の武装集団が北方の海域から一隻の武装大型船を発見する。
「なっ!?所属不明の大型船だぞ!本島に接近中だ!」
鉄塔の警備兵が呼号したと同時に島内の戦闘員達が反応したのである。
「一体何事だ!?」
「大型船だって?」
「ひょっとしてネオサイクロプスの巨大戦艦なのか?」
今現在全長二百メートル以上の大型船を所有…。航行させられる軍閥勢力は実質皆無であり誰しもがネオサイクロプスであると察知したのである。ネオサイクロプスの出現に島内の戦闘員達は騒然とする。守備隊は各地に設置された各砲台へと配置したのである。
「敵艦に照準させろ!」
数秒後…。
「敵軍の巨大戦艦に総攻撃だ!砲撃開始せよ!」
島内に設置された各砲台が巨大戦艦を標的に砲弾が発射されたのである。無数の砲弾が発射された同時刻…。
「大将軍!砲撃です!」
「先制攻撃か…」
巨大戦艦の艦橋ではヘルムフリートが双眼鏡で敵軍の砲台を眺望する。直後…。数発の砲弾が巨大戦艦の甲板に着弾したのである。艦体全体が一瞬グラッと振動するものの…。砲弾が着弾した装甲は無傷であり艦体全体は実質ノーダメージだったのである。
「強襲戦艦〔フリングホルニ〕は難攻不落の海上移動要塞なのだ…本艦が数発の砲弾程度で簡単に撃沈出来るか…」
巨大強襲戦艦フリングホルニはネオサイクロプス海上部隊の旗艦であり難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金〔エターナルメタル〕が駆使され…。エターナルメタルの装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない強度の素材である。多数のミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射する電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には偵察用の無人機を二機搭載する。
「対地ミサイルで各地の砲台を徹底的に攻撃せよ…沿岸の守備隊を完膚なきまでに殲滅するのだ!」
ヘルムフリートの指示と同時に甲板の前後に設置された多数のミサイル発射機から十数発もの対地ミサイルが発射される。甲板から発射された対地ミサイルは数秒間で各地の固定砲台に着弾…。固定砲台は破壊されたのである。直後…。ヘルムフリートは艦内の双眼鏡で防衛機能を喪失した島内の状況を確認したのである。
「敵部隊の基地機能は低下したな…」
ヘルムフリートは即座にブリッジの乗組員達に上陸作戦を指示する。
「上陸作戦を開始する…艦内から上陸部隊を出撃させるのだ…」
フリングホルニの艦内から複数の上陸用舟艇が出撃を開始したのである。一隻の上陸用舟艇には武装した十数人もの戦闘員達が乗艇…。彼等は島内へと上陸したのである。島内では残存した守備隊との銃撃戦が展開されるも…。銃撃戦は数時間で鎮静化したのである。総司令官のヘルムフリートは再度島内の様子を双眼鏡で確認する。
「如何やら戦闘が鎮静化したみたいだな…」
「大将軍!今回もネオサイクロプスの大勝利ですね!」
フリングホルニ艦内ではネオサイクロプスの圧倒的大勝利によって乗組員達が大喜びしたのである。一人の乗組員がヘルムフリートに近寄る。
「こんなにも短時間で上陸作戦が成功するとは予想外でしたね♪大将軍♪」
笑顔の乗組員にヘルムフリートは無表情で返答する。
「予想外も何も…こんな小規模の戦闘で苦戦したのであれば…亜大陸のブラッドウルフには勝利出来ないだろう…」
ブラッドウルフの一言に周囲の乗組員達は絶句したのである。
「大将軍はブラッドウルフに宣戦を布告するのですか!?」
「大将軍は本気ですかい!?」
乗組員達はゾッとした表情でヘルムフリートに問い掛ける。
「当然だ…俺達ネオサイクロプスは旧世界連合軍の後身であり…滅亡した旧文明を復活させる新時代の覇者なのだからな…」
本来ネオサイクロプスは世界最終戦争で滅亡した旧世界連合軍の残存勢力でありネオサイクロプスの主力戦力である強襲戦艦フリングホルニも国連軍の海軍主力艦隊が保有した超弩級ミサイル艦である。勢力の中心人物であるヘルムフリートは新統一政権の樹立と旧文明の再興を主目的に活動する。
「今度の俺達の相手は仮想敵のブラッドウルフだ…」
すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「ですが大将軍…今現在ブラッドウルフには伝説の殺し屋…ストレンジキラーが参加したらしいですぜ…」
部下のストレンジキラーの一言にヘルムフリートは一瞬ピクッと反応する。
「ストレンジキラーとは…世界最強の暗殺者の名前だったな…」
『噂話ではストレンジキラーは旧文明の科学者達が誕生させた人工性の新人類…ポストヒューマンらしいな…』
ヘルムフリートは数秒間沈黙するものの…。
「伝説の殺し屋であるストレンジキラーが相手であれば一筋縄では不可能だが…抑止力である神器を駆使すればブラッドウルフの奴等も畏怖するさ…場合によっては戦闘が発生せずに投降するだろう…」
「なっ!?神器ですって!?」
神器の一言に乗組員達は身震いしたのである。
「大将軍!?大量破壊兵器の神器なんか駆使しちまったら…全世界が再度滅亡しちまうぜ!大将軍は本気なのですか!?」
神器とは所謂大量破壊兵器の一種でありネオサイクロプスは最終手段として神器を保有する。本来は抑止力としての代物であるが…。ヘルムフリートは仮想敵であるブラッドウルフとの大激戦に神器の使用も検討したのである。
「大将軍は世界最終戦争を再現させたいのですか!?」
周囲の部下達は神器の使用に猛反対する。
「俺達の目的は旧世界連合による統一政権の再興なのだ…ブラッドウルフの存在は俺達にとって脅威だからな…」
すると数人の乗組員がヘルムフリートの思惑に賛成したのである。
「俺達は大将軍の意向に賛成しますよ!」
「俺達にとってブラッドウルフは最大の大敵なのです!徹底的に奴等を壊滅させましょう!」
周囲の者達は一部の賛同者に絶句する。サウスアイランド諸島攻略作戦から一週間後…。ネオサイクロプスの存在は世界各地に知れ渡りブラッドウルフも彼等の存在を周知したのである。ブラッドウルフ総大将のフィルヴァスは本拠地の会議室にて三人の部下達と密談する。
「貴様達も噂話を熟知しただろうが…奴等が…海賊集団のネオサイクロプスが行動を開始したみたいだな…」
「総大将…如何されますか?恐らく奴等は俺達の本拠地である亜大陸地帯にも手出しするでしょう…ネオサイクロプスとの全面戦争は回避出来ませんよ…」
ブラッドウルフ内部でも戦闘員達はネオサイクロプスの脅威にビクビクしたのである。ネオサイクロプスが保有する大量破壊兵器の神器の存在は世界的にも有名であり彼等との戦闘は無謀であると誰しもが感じる。
「山賊要塞を占拠した影響でブラッドウルフの戦力は数段階強大化しましたが…ネオサイクロプスには大量破壊兵器の神器が存在しますからね…彼等との徹底抗戦は亜大陸地帯の焦土化を意味するでしょう…」
「奴等の神器とやらは非常に厄介だからな…」
すると一人の部下が恐る恐る発言する。
「ネオサイクロプスの総大将…ヘルムフリートとは一度会談するべきでは?ネオサイクロプスとの戦争は絶対に回避するべきです…最悪亜大陸地帯に神器が投下された場合…十七万人の総人口は一瞬で死滅するでしょう…」
フィルヴァスは不本意であるが…。
「止むを得ないか…大量破壊兵器の神器を駆使されては元も子もないからな…」
フィルヴァスは今回ばかりは部下の意見に同意したのである。
「ネオサイクロプスのヘルムフリートと会談して…談判するのが最良だな…」
すると直後…。
「敵軍の総大将と談判だと?愚か者が…」
「なっ!?」
「貴様は…」
最精鋭のストレンジキラーが会議室に無断で侵入したのである。
「ストレンジキラー…如何して貴様が会議室に?」
ストレンジキラーは殺気立った形相でフィルヴァスを凝視する。
「フィルヴァス…奴等との徹底抗戦を強行させろ…何が不戦の会談だ…滑稽だな…」
戦闘を強行させたいストレンジキラーにとって不戦の会談は言語道断…。ネオサイクロプスとの平和的交渉には猛反対だったのである。部下の一人が恐る恐る…。
「ストレンジキラー…好い加減にしろ!ネオサイクロプスとの大戦争は亜大陸地帯にとって存亡の危機なのだぞ!超人の貴様だって無事では…」
ストレンジキラーは右腕の義手から対物ライフルに変形させると部下の一人を殺害したのである。頭部は破壊され室内の彼方此方に血肉が飛散する。
「ストレンジキラー…」
「えっ…」
総大将のフィルヴァスは勿論…。二人の部下達はストレンジキラーの残虐性に畏怖したのである。ストレンジキラーは無表情で問い掛ける。
「今度は誰が俺に殺されたいか?指名したければ指名しろ…」
周囲の者達は沈黙したのである。
「俺からの至上命令だ…後日…ネオサイクロプスに宣戦布告を表明しろ…」
ストレンジキラーは退室する。
『ストレンジキラー…』
今回の出来事からフィルヴァスはストレンジキラーの存在がブラッドウルフ全体にとって厄介であると自覚…。今回の出来事以降フィルヴァスは外部の敵軍よりも部下であるストレンジキラーに畏怖したのである。ストレンジキラーの個人的強行によってネオサイクロプスとの無血の平和的会談は実現されず…。ブラッドウルフは止むを得ず仮想敵のネオサイクロプスに宣戦を布告したのである。
第四話
開戦
宣戦布告から三日後…。ブラッドウルフはネオサイクロプスとの戦闘を想定して沿岸一帯を要塞化させたのである。開戦の準備は万端であったが…。一触即発の事態に戦闘員達の戦意は実質的に皆無だったのである。総大将のフィルヴァスも今回は無謀であると想念するのだがストレンジキラーの暴発に畏怖…。表向きのみならネオサイクロプスに対する徹底抗戦を表明するも心情では消極的だったのである。フィルヴァスは双眼鏡を所持…。沿岸の要塞に設置された防波堤で敵軍の攻撃に警戒する。
「嵐の前の静けさか…非常に物静かだな…」
真昼の海面上は平穏でありフィルヴァスは不吉に感じる。すると四人の部下達が防波堤に移動…。偵察中のフィルヴァスに近寄る。
「総大将…あんたは本気ですか?」
「奴等…ネオサイクロプスとの戦争なんて無謀ですぜ…」
彼等はネオサイクロプスとの戦争に反対する者達でありフィルヴァスに問い掛けたのである。フィルヴァスは警戒した様子で…。
「当然として俺もネオサイクロプスとの全面戦争なんて御免であるが…今回ばかりは武闘派であるストレンジキラーの暴走を危惧しての判断なのだ…彼奴が自発的に発言するとは予想外であった…」
フィルヴァスは小声で本音を発言したのである。
「戦争の回避は俺達の死滅を意味する…彼奴は…ストレンジキラーは仲間の俺達にも容赦しないだろう…俺達を裏切る可能性も否定出来ない…」
ストレンジキラーの暴挙に四人の部下達は身震いし始める。
「ストレンジキラーが…総大将を誘導させやがったのか?」
「結局…彼奴が主犯格か…」
すると一人の部下が恐る恐る…。
「一か八か俺達だけでストレンジキラーを…暗殺するか?何方にせよ彼奴を野放しにし続けるのは危険過ぎるぜ…」
部下の突発的発言にフィルヴァスは制止する。
「暗殺を計画しても無意味だろう…貴様達ではストレンジキラーは仕留められない…彼奴は最強のポストヒューマンだ…常人では対抗出来ない…」
フィルヴァスにとってもブラッドウルフ全体にとっても軍内部の内紛は勝率を低下させる愚行であり回避したかったのである。
「こんな状況で内輪揉めは奴等にとって絶好機だからな…皮肉にも狂戦士のストレンジキラーはブラッドウルフにとって最強の戦力だ…」
強豪であるストレンジキラーがブラッドウルフを脱退すればブラッドウルフは確実に崩壊すると予測する。
「彼奴を軍内部から脱退させるかは…今回の事態が無事終焉してからだ…」
フィルヴァスは再度偵察を続行したのである。同時刻…。大海原の中心部に位置するネオサイクロプスの本拠地〔シートピア自治区〕軍港ではネオサイクロプス旗艦のフリングホルニと四隻の大型輸送艦が合流したのである。旧世界文明ではシートピア自治区は巨大工場都市として活用され…。世界最終戦争の戦後でも兵器工場としての一部の機能は健在である。資源さえ入手出来れば最低限の実弾兵器やら軍事用ドローンの製造は自前で製造出来る。フリングホルニのブリッジ内部では総司令官のヘルムフリートが全軍に出撃を伝播させる。
「全軍…出撃を開始する…攻略目標は南方大陸に位置する亜大陸…亜大陸地帯だ…」
旗艦フリングホルニを先頭に四隻の大型輸送艦が出航したのである。今回の作戦では大量破壊兵器である神器を旗艦のフリングホルニに搭載…。投入兵力は総勢九百人規模と荒廃した新世界としては最大級の大戦力だったのである。ネオサイクロプスの大艦隊は目的地である亜大陸地帯へと直進する。同日の真夜中…。ストレンジキラーは近辺の村道を単独で散歩したのである。
『面白くなったな…今度の戦闘では何人仕留められるか?』
ストレンジキラーは内心ワクワクする。
『凡人達は不必要にビクビクし過ぎだ…大量破壊兵器?こんなちっぽけな村里が消滅したからって…今更何が問題なのか?』
ストレンジキラーにとって大量破壊兵器…。神器の存在は問題外だったのである。すると道中…。
「ん?」
背後より人気を感じる。
『人気だと?』
ストレンジキラーは警戒した様子で背後を直視したのである。
「貴様等…こんな時間帯に散歩か?」
ストレンジキラーの背後には三人の無頼漢達が佇立する。
『仲間の人間っぽいな…』
彼等は迷彩服でありブラッドウルフの同志達であると認識したのである。無頼漢達は殺気立った形相でストレンジキラーを睥睨する。
「ストレンジキラー…貴様…」
三人の無頼漢達は極度の怒気により全身がプルプルと身震いしたのである。
「如何してボスを戦争なんかに誘導させやがった!?」
「貴様の横暴の所為で村里全体が焦土化しちまう…俺達の今迄の努力は何もかもが水の泡だ…」
ストレンジキラーの噂話はブラッドウルフ全体に出回る。
「誰かが密告しやがったみたいだな…」
ストレンジキラーは特段気にならなかったのか平然とする。
「ストレンジキラー…今回の問題以前に貴様は…」
仲間内にもストレンジキラーの行動には不信に感じる者達が出始める。
「であれば如何する?愚痴りたいなら仲間内で愚痴っとけ…」
第壱部
第一話
真夜中
太古の大昔…。極東の島国〔天球神国〕での出来事である。数百年間と長引いた弱肉強食の戦乱時代は終焉…。天球神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地の村里にて神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。戦乱時代から五十年後の世界暦五千二十二年五月上旬の時期…。南国に聳え立つ荒神山にて錫杖を所持した僧侶が真夜中の荒神山を一人で視察する。
「問題の荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
今現在南国の荒神山は魑魅魍魎の魔窟同然であり通常の人間は誰一人として魔窟の荒神山へは近寄れない。
『如何やら今回の相手も大群だな…』
僧侶の名前は【八正道】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんなにも重苦しい妖気だ…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が周囲に響き渡るのだが…。
「こんな場所…」
山中の空気は非常に重苦しく気味悪くなる。
「普通の人間なら荒神山には近寄りたくても近寄れないな…」
数分後…。八正道は荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
八正道は魑魅魍魎の征伐に尽力する僧侶の一人である。八正道は妖怪退治の専門家であり四六時中妖怪退治に専念する。
「即刻荒神山の妖怪達を撃退して…荒神山を元通りの観光地に戻さなくては…」
すると直後である。
「ん!?」
突如として無数の気配を察知…。
「無数の気配だ…」
無数の気配の出現に八正道は警戒したのである。
「此奴は妖怪特有の妖気か?」
気配の正体は妖怪特有の妖気であり姿形こそ不明瞭であるが…。
「如何やら相手は大群みたいだな…」
妖気は大群であると認識する。無数の妖気が自身に接近するのは認識出来る。無数の気配を察知した数秒後…。
「ん?」
暗闇の自然林より一体の人影を確認したのである。
『人影みたいだが…』
体格は非常に小柄であり正体不明の人影はふら付いた身動きで八正道に接近する。
「人影は人間とは無縁そうだな…」
周辺は漆黒の暗闇であり人影の正体は認識出来ないものの…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは確実である。正体不明の人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
『此奴は…』
正体不明の人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身であると認識出来る。
「此奴は亡霊妖怪…【悪食餓鬼】だな…」
人影の正体とは亡霊妖怪として認識される悪食餓鬼である。悪食餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した亡者達の無念が妖怪化した存在とされ…。特定の地域では純粋に疫病神やら悪霊とも呼称され夜行性からか真夜中に徘徊する。性格は非常に強欲であり人間の人肉が大好物とされる。彼等の性質上生身の人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「こんな場所にも悪食餓鬼が出現するとは…」
八正道は即座に法力を発動…。
『相手が悪食餓鬼程度なら…』
直後である。
「飢饉によって死去した亡者の末路よ…」
生者である八正道を食い殺そうと近寄る悪食餓鬼の肉体を自然発火…。悪食餓鬼は八正道の発動した法力によって燃焼したのである。
「成仏するのだ…」
八正道は焼死した悪食餓鬼に恐る恐る合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の悪食餓鬼が出現…。
「悪食餓鬼…今度は大群だな…」
無数の悪食餓鬼はふら付いた身動きで八正道に近寄る。
「如何やら荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
八正道は総勢数十体から数百体もの悪食餓鬼に包囲されたのである。
「多勢に無勢か…」
戦況は圧倒的に不利であったが…。八正道は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…」
八正道は再度法力を発動…。
「私は貴様達を成仏させる…」
法力によって殺到する無数の悪食餓鬼の肉体を自然発火させたのである。自然発火により八正道の周囲には無数の悪食餓鬼の焼死体が地面に埋没する。
「昇天されよ…」
直後…。地面に埋没した無数の悪食餓鬼の焼死体が消滅したのである。
「今度の相手は?」
自身の背後より不吉の妖気を感じる。
『此奴は悪食餓鬼よりも強大なる妖気だな…一体何が出現したのだ?』
妖気は悪食餓鬼よりも数十倍は強大であり八正道は恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の悪食餓鬼が融合化した一頭身の肉塊人間が出現する。一頭身の肉塊人間は巨体の人型肉団子であるが…。全身の体表には悪食餓鬼の頭部が無数に確認出来る。
「此奴は悪食餓鬼の親玉…【百鬼悪食餓鬼】か…」
百鬼悪食餓鬼は悪食餓鬼の集合体とされ亡霊妖怪の悪食餓鬼の亜種である。別名としては悪食餓鬼の親玉やら悪霊の集合体とも呼称される。
『厄介なのが出現したな…』
体表の無数の頭部が八正道を睥睨…。無数の悪食餓鬼の口先より高熱の熱風を放射したのである。
「熱風!?」
八正道は即座に法力の結界を発動…。百鬼悪食餓鬼の熱風を無力化したのである。
『絶大なる妖力だな…』
結界の発動で熱風の無力化には成功するものの…。八正道は結界の発動によって体力を消耗する。
『百鬼悪食餓鬼は予想以上に強力だな…』
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「極悪非道の妖怪よ…完膚なきまでに死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼悪食餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で体力が消耗…。極度の疲労からか八正道は法力が使用出来なくなる。
「百鬼悪食餓鬼は仕留めたか…」
八正道は周囲を警戒する。
『危険は回避されたのか?東国に戻ろうか…』
一安心した直後…。
「なっ!?」
複数の強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
『複数の妖気か!?』
すると周囲の自然林から三体もの百鬼悪食餓鬼が出現する。
「今度は百鬼悪食餓鬼が…」
『三体も出現するなんて…』
最早複数の百鬼悪食餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり八正道は撤退を余儀無くされる。
『不本意だが…撤退しなければ私自身が危険だな…』
止むを得ず撤退する直前である。
「えっ…」
今度は百鬼悪食餓鬼をも上回る不吉の妖気を察知する。
「今度は別物の妖気だ…一体何が出現したのだ!?」
極度の恐怖心からか正体不明の妖気に八正道は身震いしたのである。
『百鬼悪食餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪が出現したのか!?』
不吉の妖気は大妖怪に拮抗する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
「大妖怪なんて今現在の私では対応出来ない…」
『遭遇すれば私は確実に殺害されるな…』
基本的に妖怪退治に従事する僧侶が大妖怪と交戦する場合…。強大なる法力を駆使出来る僧侶が数人で対応するのが基本であり単独で大妖怪を相手に接戦出来る僧侶は実質一握りとされる。最悪僧侶が単独で強大なる大妖怪と遭遇した場合…。即座に撤退するのが鉄則である。
「止むを得ないな…即刻退散しなければ…」
八正道は退散する寸前…。
「えっ…」
八正道の背後には小柄の女性が佇立する。
『彼女は…人間の女性なのでしょうか?』
背後の女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は多種多様の煌びやかな花柄模様であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの…。彼女は非常に颯爽とした雰囲気である。
『彼女からは私に対する敵意も邪気も感じられないが…無数の妖気は感じられる…彼女の正体は妖怪なのか?』
女性の肉体からは無数の妖気が感じられ彼女が列記とした妖怪なのは確実であるが…。彼女からは人間の八正道に対する敵意も邪気も感じられない。すると妖怪の女性は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
妖怪の女性は氷結の妖術を発動すると三体の百鬼悪食餓鬼は一瞬で全身を氷結させたのである。
「なっ!?」
『三体の百鬼悪食餓鬼が…一瞬で氷結したぞ…彼女の妖術なのか?』
数秒後…。女性の妖術により氷結した百鬼悪食餓鬼の肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…片手間だったわ…」
すると妖怪の女性は無表情で八正道を凝視し始める。
「なっ!?」
八正道は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者ですか?」
八正道は強張った表情で恐る恐る妖怪の女性に問い掛ける。
「失礼かも知れませんが…貴女様が人外の存在なのは確実ですね…」
女性は笑顔で名前を名乗り始める。
「私の名前は【桜花姫】♪妖怪の一人よ♪」
桜花姫と名乗る女性は自身を妖怪の一人と自負したのである。
「貴女様の正体は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘純粋無垢の妖怪であるが…。彼女からは八正道に対する敵意も殺意も感じられない。
『桜花姫…姿形のみなら人間の小町娘ですが…』
八正道は再度警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。彼女からは敵意も悪意も感じられないものの…。正直妖怪の桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
『彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…』
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで♪別に私は非力の人間には手出ししないから…警戒しなくても大丈夫よ♪」
「えっ…」
『人間に…手出ししないって!?』
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪の一体であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
『摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が現実に存在するとは…ん?』
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
『一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?ひょっとして桜花姫は半妖なのか?』
すると桜花姫は冷笑した表情で八正道を凝視する。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は動揺する八正道に説明したのである。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが合体妖怪の私なのよ♪」
「桃子姫様とは…伝説の巫女の?」
桃子姫とは人間の巫女であり強大なる霊能力で多種多様の妖怪達を征伐…。伝説の巫女として有名だったのである。彼女はとある大妖怪との死闘により失踪…。今現在では彼女の行方は不明とされる。
「勿論♪」
桜花姫は桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した異例の集合体であり合体妖怪である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
『彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…』
八正道は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を殺傷せず…同族の妖怪である百鬼悪食餓鬼を攻撃されたのでしょうか?通常の妖怪であれば人間である私を殺傷するでしょう…」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなのよ♪今回は単純に百鬼悪食餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
『単純に気紛れだったのか…』
桜花姫を完全に理解するのは非常に困難であるが…。颯爽とした桜花姫の様子から八正道は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に八正道は一瞬畏怖したのである。
「私は合体妖怪の貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身今回の戦闘で実力不足が認識出来ましたし…妖力だけなら大妖怪に匹敵する桜花姫様を単独で征伐するなんて数十年間修行し続けても不可能でしょうし…」
「私の妖力が大妖怪なんて…あんたは大袈裟ね♪」
『私が大妖怪ですって♪』
八正道の大妖怪の一言に桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんた…名前は?」
八正道に名前を問い掛けたのである。
「えっ…私の名前ですと?」
八正道は桜花姫の問い掛けに一瞬動揺するも…。
「私の名前は…僧侶の八正道です…」
「あんたは八正道様って名前なのね…」
「私は退散しますね…」
八正道は自身の名前を名乗ると即座に荒神山から退散したのである。八正道が退散してより数秒後…。
「私も西国の村里に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。南国の荒神山から移動してより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ〔精霊山〕に移動したのである。
「精霊山の露天風呂に入浴しましょう♪」
片田舎の西国であるが…。天球神国の温泉郷とも呼称され時たま近隣の観光客達が西国の温泉に入浴する。精霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「精霊山の露天風呂だわ♪」
精霊山の露天風呂は非常に摩訶不思議の温泉であり妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
『折角だし♪変化の妖術を駆使しちゃおうかしら♪』
桜花姫はあらゆる妖怪達の集合体である。当然として彼女は変幻自在の変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やらあらゆる器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって精霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか光り輝く真夜中の星空を眺望する。
『妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も気に入らない妖怪と遭遇したら征伐しちゃおうかな?』
直後…。
「えっ?」
突如として背後の竹林より気配を感じる。
『気配だわ…』
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
『妖気かしら?』
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは同族の妖怪であると認識したのである。桜花姫は警戒した様子で背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
「桜花姫…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の美少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪妖気の正体はあんただったのね♪」
「桜花姫…あんたは入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形のみなら人間の小町娘であるが…。彼女も列記とした妖怪の一人であり異端者の桜花姫にとって唯一の悪友であり彼女の理解者である。桜花姫は笑顔で…。
「雪女郎♪折角だし♪あんたも私と一緒に入浴しましょうよ♪最高の湯加減よ♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は肉体の性質上熱湯の温泉が人一倍苦手である。
「私がこんな熱湯の温泉なんかに入浴すれば肉体が崩れ落ちちゃうわよ…あんたは粉雪妖怪の私を殺したいの!?」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪雪女郎♪」
桜花姫は笑顔で雪女郎に謝罪する。
「入浴しないなら…如何してあんたはこんな場所に?ひょっとして入浴中の私を覗き見とか♪あんたは相当の物好きなのね♪雪女郎♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんたね…私に殺されたいのかしら?誰があんたの全裸なんて覗き見するか…」
「私に用事かしら?雪女郎…」
桜花姫が真剣そうな表情で問い掛けると雪女郎は険悪化した表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?雪女郎?」
桜花姫は雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「数時間前の出来事だけど…あんたは南国の荒神山で三体の百鬼悪食餓鬼を殲滅したわよね?」
「荒神山での出来事かしら?問題だったの?」
「問題も何も…大問題よ!」
「えっ?大問題ですって?」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼悪食餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を前代未聞の愚行として批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…非常に面倒なのよ…」
荒神山での噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪も人間に加勢したってあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。一方の桜花姫は平気なのか極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
『えっ…桜花姫…』
「桜花姫は本当に気楽ね…あんたは天然なのかしら?」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪私は妖力だけなら大妖怪に拮抗するかも知れないわよ…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…あんたね…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は絶対に加勢しないわよ…あんたが一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「大妖怪が相手か…面白くなったわね♪」
桜花姫は内心大喜びする。
第二話
大海戦
南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ♪」
東国とは天球神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も天球神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は著名の和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
『誰かしら?僧侶っぽいわね…』
彼女の隣席には錫杖を所持した僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
『彼には見覚えが…』
桜花姫は隣席の僧侶らしき人物を凝視し続ける。
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の八正道である。奇遇にも僧侶の彼が東国の和菓子屋にて来店…。美味しそうに和菓子を頬張ったのである。
「ひょっとしてあんたは…八正道様かしら?」
すると八正道は身震いした様子で恐る恐る…。
「えっ…桜花姫様!?如何して貴女様がこんな場所に!?」
八正道は小声で桜花姫に問い掛ける。
「如何してって…私は単純に東国の和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
八正道は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を察知出来るのは私だけですが…」
桜花姫は警戒する八正道に問い掛ける。
「八正道様?あんたは私を信用出来ないの?私が妖怪だから?」
「信用するも何も…失礼かも知れませんが貴女様は魑魅魍魎の集合体なのです…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
八正道は妖怪を毛嫌いする一人であり人間に対する敵意が無くとも妖怪である桜花姫を信用出来なかったのである。実際に桜花姫が暴走した場合…。八正道が全身全霊で法力を駆使したとしても彼女の暴走を阻止するのは実質困難である。
「八正道様♪あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪無関係の人間には手出ししないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で八正道様に加勢しちゃったから…大勢の妖怪達に毛嫌いされちゃったのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
八正道は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪仲間の妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「えっ…一匹狼って…」
『同族の妖怪達に敵対視された?四面楚歌の状態で彼女は平気なのか?』
八正道は平気そうな彼女に不思議がる。
『桜花姫様…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…』
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。八正道は無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視…。
『彼女は列記とした妖怪の一人ですが…』
桜花姫は人一倍純粋無垢である。
『本当に人間味を感じさせる摩訶不思議の妖怪ですな…本当に桜花姫様は妖怪なのでしょうか?』
桜花姫が本物の人間みたいに感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視し始める。すると直後である。
「ん!?」
『別物の妖気を感じるぞ…妖怪が出現したのか?』
突如として妖気を察知…。八正道は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「八正道様も妖気を察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に強大なる妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「大妖怪の一歩手前なんて面白そうね♪今度も私の出番かしら♪」
「一大事です…私は即刻妖怪を退治しなくては…」
八正道は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?八正道様!?」
一方の桜花姫も全力で疾走…。八正道を追尾したのである。桜花姫は必死に八正道を追尾し続けるのだが…。八正道の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では神速の彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…一休みしないと…」
『八正道様を見失っちゃったわ…』
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「はぁ…仕方ないわね…」
『瞬間移動の妖術で八正道様を先回りしちゃいましょう♪』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。只管疾走し続ける八正道の目前に瞬間移動したのである。
「八正道様♪」
「うわっ!桜花姫様!?」
八正道は突如として自身の目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りされたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を一人で置いてきぼりなんて…八正道様は意地悪ね♪」
「仕方ないですね…桜花姫様…」
八正道は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「目的地に到着したわね♪八正道様♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻確認出来…。海岸の砂浜には十数人もの漁師達が確認出来る。漁師達は非常に困惑した様子であり八正道は恐る恐る彼等に問い掛ける。
「一体如何されましたか?」
漁師達は八正道に反応する。
「あんたは法師様ですか…」
「先程の出来事なのですが…突然近海に巨大妖怪が出現しましてね…」
「巨大妖怪ですと?」
「巨山みたいな巨大真蛸ですよ…抹香鯨なんかよりも数倍は巨体でしたね…」
数時間前の出来事である。漁師達は近海の海辺にて漁猟活動中…。突如として海面上から規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船が襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に漁船諸共食い殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…生憎妖怪の出現で漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとすると巨大真蛸の正体って…水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「水難妖怪…海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって溺死した亡者達の霊魂が妖怪化した海中の化身とされ…。目撃者達の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が共通である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没させられ…。海難入道と遭遇した人間は溺死するのが通例とされる。
「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻該当者である海難入道を仕留めなくては…」
八正道は即刻海難入道の退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様が!?」
突然の桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「小町娘の姉ちゃんよ…あんたは命知らずかい?相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…冗談かな?」
漁師達は桜花姫に呆れ果てる。
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」
「人間のあんたが妖怪だって?子供騙しかな?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と自負する桜花姫に漁師達は揶揄したのである。
「あんた達…仕方ないわね…」
桜花姫は冷笑すると木造の漁船を凝視し始める。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?如何してこんな超常現象が…」
「あんたは一体何を!?」
桜花姫の駆使する変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪器物だって別物に変化させられるわ♪」
漁師達は勿論…。八正道も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「人間の小娘に擬態したのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪なのよ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。
「折角だし…漁師のあんた達も変化の妖術で桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
「えっ…」
桜花姫の冗談に漁師達は身震いした様子で…。恐る恐る後退りし始める。
「ひっ!此奴は人間の小娘に変化した本物の妖怪だ!」
「妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走したのである。
「漁師さん…逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…桜花姫様が人前で荒唐無稽の妖術なんて駆使するから…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は水難妖怪の海難入道を征伐するわよ♪」
桜花姫は再度自身の肉体に変化の妖術を発動する。変化の妖術を発動すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化し始め…。黒髪の長髪は銀髪に発光したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
八正道は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき規格外の物体は何一つとして確認出来ない。
『こんなにも暗闇の海中だと海難入道は発見出来ないわね…』
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
『ひょっとして海難入道の妖気かしら?』
数秒後…。暗闇の遠方より巨岩らしき巨大移動物体が接近する。
「一体何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主頭であり全体的に巨大真蛸らしき巨大物体だったのである。
『巨大真蛸…』
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体の正体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は二町規模に相当する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様はあらゆる妖怪の集合体…合体妖怪の桜花姫だな…人魚の小娘に擬態するとは…」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹なのだ…邪魔するなら妖怪の貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり自身が空腹であれば相手が同族の妖怪であっても躊躇わず捕食する。
「あんたが空腹ね…私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では水難妖怪の俺を仕留められる海中の妖怪は皆無であるぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るものの…。海底下で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。妖怪では最上位に君臨する大妖怪であっても海中の海難入道を仕留めるのは困難である。
「貴様の噂話は熟知したぞ…近頃貴様は敵対すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を征伐したらしいな?」
桜花姫の噂話は地上界のみならず暗闇の海中でも出回り…。拡散したのである。
「私が人間に加勢したから何よ?私は鬱陶しい邪魔者を仕留めただけなのよね♪」
桜花姫は笑顔で反論する。
「妖怪の分際で…愚劣なる人間に加勢した愚か者が…貴様は気に入らないな…」
「気に入らないならあんたは私を如何するのかしら♪」
桜花姫は再度海難入道に挑発したのである。
「当然として妖怪の面汚しである貴様を食い殺す…」
海難入道は即座に巨大触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪海難入道♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念だったな…桜花姫よ…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「妖力を吸収するなんて…」
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。海難入道の吸収能力に一瞬動揺したのである。
『海難入道には妖術が通用しないのかしら?』
「不思議そうな表情だな…桜花姫よ…俺の肉体はあらゆる妖力を吸収出来…あらゆる妖術を無力化出来るのだ…」
海難入道の最強の特殊能力である吸収能力は自身の肉体に接触した多種多様の妖力を吸収出来…。あらゆる妖術を無力化出来る。基本的に妖力を駆使した攻撃法では海難入道は仕留められない。
「貴様があらゆる妖術を扱おうとも…貴様程度の妖術では俺を仕留められない!」
あらゆる魑魅魍魎の集合体である桜花姫でも…。妖力を吸収する妖怪を仕留めるのは非常に困難である。
『妖術が通用しないなんて…此奴は意外と厄介だわ…』
海中では圧倒的に不利であり桜花姫は恐る恐る後退りする。
『今回は出直そうかな?』
後退りする桜花姫に…。
「先程の威勢は如何したか?桜花姫よ…俺に恐怖したか?」
「別に…誰があんたなんかに恐怖するのかしら?」
海難入道に問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。
「貴様は妖力だけなら大妖怪に拮抗するな…是非とも貴様を捕食したい…」
「私を捕食ですって?」
「あらゆる妖怪の集合体である貴様を食い殺せば…俺は凡庸の妖怪から大妖怪の領域へと到達出来るのだからな♪」
大妖怪に到達出来ると豪語する海難入道に桜花姫は笑顔で…。
「私を捕食なんて…あんた程度の大妖怪の出来損ないに出来るかしら♪」
桜花姫は笑顔で挑発したのである。
「最強の水難妖怪である俺を大妖怪の出来損ないだと?貴様…本当に食い殺されたいらしいな…」
「食い殺せるのであれば私を食い殺しなさいよ♪大妖怪の出来損ない♪」
桜花姫は只管に挑発し続ける。
「妖怪の小娘風情が…貴様は本当に気に入らない小娘だな…」
すると海難入道は蛸足の巨大触手で人魚状態の桜花姫を拘束したのである。
「えっ?」
「貴様を食い殺す!覚悟しろ!桜花姫!」
海難入道は一口で桜花姫を捕食…。自身の口内で彼女を咀嚼したのである。
「所詮桜花姫はこんな程度の弱小妖怪なのだ…」
すると直後…。桜花姫を捕食した影響からか先程よりも海難入道の妖力が急上昇したのである。
「俺の妖力が増大化したぞ!」
妖力のみなら今現在の海難入道は大妖怪に匹敵…。海難入道は強大化した自身の妖力に大喜びしたのである。
「今日から俺も大妖怪の仲間入りだな♪雑魚妖怪でも桜花姫を捕食出来たのは何よりの幸運だ♪」
すると直後…。
「ん!?」
海難入道の全身が白煙に覆い包まれ…。推定二町規模の巨大さである海難入道の肉体が消滅したのである。すると白煙の内部から海難入道によって食い殺された桜花姫が再度出現…。彼女は無傷であり平気そうな様子だったのである。
「海難入道を仕留めたし♪」
『私は地上界に戻りましょう♪』
桜花姫は再度瞬間移動の妖術を駆使…。海岸の砂浜へと無事戻ったのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
桜花姫は海岸の砂浜にて僧侶の八正道と再合流する。
「八正道様♪海難入道は無事征伐したわ♪」
「海難入道を征伐されたみたいですね…一瞬桜花姫様の妖気が消滅したので海難入道に食い殺されたのかと…」
「一度海難入道に捕食されちゃったけれどね♪」
桜花姫は一時的に海難入道に捕食されたものの…。体内の胃袋から海難入道の肉体と同化したのである。
「反対に私が海難入道を捕食したのよ♪」
「えっ…桜花姫様が海難入道を捕食ですと?」
今現在海難入道は桜花姫の肉体の一部に変化する。
「兎にも角にも…海難入道は仕留めたから金輪際南国の海域は安全よ♪」
「事件は無事解決出来たので一件落着ですね…桜花姫様…」
八正道も一安心したのである。
「事件も解決出来たし♪戻りましょう♪」
「解散しますかね…」
桜花姫と八正道は解散…。二人は各自の村里へと戻ったのである。
第三話
巫女
南国での海難入道との大海戦から六日後の真夜中…。桜花姫は暇潰しに北国の村里にて散歩したのである。
「退屈ね…」
時間帯は深夜であり村人達は誰一人として確認出来ない。
「妖怪でも出現しないかしら?」
基本的に多数の百鬼夜行が活動するのは真夜中であり日中に出現するのは中堅以上の妖怪である。
「退屈だし…西国に戻ろうかな?」
彼女は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として自身の周囲より無数の気配を感じる。
『気配だわ…』
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒し始める。
『無数の妖気みたいね…』
「相手は妖怪の大群かしら?」
気配の正体は妖気であり無数の妖怪達が自身に接近するのを察知する。
「今回は何が出現するのかしら?」
すると直後である。
「悪食餓鬼の大群だわ…」
周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現…。桜花姫は彼等によって周囲を包囲されたのである。
『私に対する敵意も殺意も感じられるわね…』
突如として出現した悪食餓鬼の大群であるが…。彼等はふら付いた身動きで桜花姫に近寄る。
「如何やらあんた達…私が気に入らないみたいね♪」
本来亡霊妖怪の悪食餓鬼は同族の妖怪には手出ししない性質であるが…。彼等は同族の妖怪である桜花姫を敵対視した様子だったのである。直後…。悪食餓鬼の大群は桜花姫に殺到する。
「はぁ…あんた達は命知らずね…」
桜花姫は殺到する悪食餓鬼に呆れ果てるものの…。
「私が相手するわ…死滅しなさい♪」
桜花姫は念力の妖術を発動する。すると悪食餓鬼の全身が肥大化…。数秒後に肥大化した全身が破裂したのである。桜花姫の地面周辺には無数の鮮血やら肉片が散乱する。
『折角だから変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪』
「あんた達♪桜餅に変化しなさい♪」
今度は変化の妖術を発動…。すると周辺の肉片が小皿に配置された桜餅に変化したのである。
『変化の妖術♪成功だわ♪』
「悪食餓鬼は桜餅に変化したわね♪」
桜花姫は無数の桜餅に大喜びする。彼女は無我夢中に無数の桜餅を頬張り始める。数分後…。桜花姫は数百個もの桜餅を頬張ったのである。
「満足♪満足♪消耗しちゃった妖力も回復出来たわね♪」
今度こそ西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「今度も無数の妖気を感じるわ…」
周囲より無数の妖気を察知する。
「今度も雑魚妖怪の大群ね…」
すると周囲の地面より数十体から数百体もの悪食餓鬼の大群が出現…。今度は悪食餓鬼の亜種である親玉の百鬼悪食餓鬼が五体も確認出来る。
「先程よりも大群だわ…」
『強豪の百鬼悪食餓鬼が五体も出現するなんてね…』
桜花姫は五体の百鬼悪食餓鬼と悪食餓鬼の大群に包囲されたのである。
「毎度だけど…鬱陶しい奴等ね…」
無数の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼が面倒臭いと感じるのか体内の妖力を急上昇…。天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「あんた達…死滅しなさい♪」
桜花姫は落雷の妖術を発動…。黒雲から落雷が発生したのである。落雷が地面に直撃すると地面が抉られ…。周囲の悪食餓鬼と百鬼悪食餓鬼を一掃させる。
「所詮は雑魚妖怪ね♪大妖怪に相当する私に挑戦するなんて無謀なのよ♪」
桜花姫は夜空の満月を眺望し始める。
「邪魔者は一掃出来たわ…今度こそ西国の村里に戻ろうかしら…」
直後である。
「えっ?」
突如として不吉の気配を感じる。
『何かしら?』
「妖気?」
不吉の妖気が一歩ずつ桜花姫に接近する。
『妖気なのは確実だけど…』
普段は冷静沈着の桜花姫であるが…。不吉の妖気に戦慄したのである。
『妖気は妖気でも…此奴は大妖怪の妖気ね…』
不吉の妖気は大妖怪の妖気であり桜花姫は警戒する。
「一体何が…」
『出現するのかしら?』
すると彼女の背後より…。
「貴様はあらゆる妖怪達の集合体…桜花姫か…」
「えっ!?」
桜花姫は警戒した様子で背後を直視したのである。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは芸者風の着物姿の女性であり彼女は無表情で桜花姫を凝視する。
「私は…【羅刹女】…大妖怪の一人だ…」
『えっ!?羅刹女って…大陸出身の…』
羅刹女とは大陸出身の大妖怪であるが…。外見のみなら小柄の人間の女性である。羅刹女は絶大なる妖力によって北国一帯を支配する大妖怪であり大勢の村人達は勿論…。数多の妖怪達が大妖怪である彼女に畏怖する。別名としては妖怪達の総大将とも呼称される。
「羅刹女…こんな場所で大妖怪のあんたと遭遇するなんてね…」
桜花姫は羅刹女に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
『如何して大陸の大妖怪がこんな片田舎みたいな場所に…』
すると羅刹女は後退りする桜花姫を直視…。冷笑したのである。
「貴様…私に対する恐怖心か?近頃の噂話では貴様は打倒すべき人間の僧侶に加勢して…同族の妖怪達を仕留めたらしいな…」
「私が人間に加勢したから何よ?私が気に入らない妖怪達を仕留めるのは私の勝手でしょう…鬱陶しいわね…」
「此奴…小娘の分際で…」
羅刹女は桜花姫の挑発的態度に苛立ったのか険悪化した形相で彼女に睥睨する。
「妖怪の小娘風情が…所詮貴様は百鬼夜行の面汚しなのだ…」
「私が百鬼夜行の面汚しだから何よ?」
羅刹女は妖刀を抜刀したのである。
「妖刀かしら?」
「百鬼夜行の面汚しである貴様は…俗界の征服者である私が徹底的に征伐する…」
すると羅刹女は神速の身動きで桜花姫の目前に急接近…。一瞬で桜花姫の目前へと瞬間的に移動したのである。
「えっ?」
「貴様を斬殺する…覚悟するのだな…桜花姫…」
羅刹女は妖刀の一振りにより桜花姫の肉体を一刀両断…。彼女の肉体は上半身と下半身に両断されたのである。
「桜花姫は所詮こんな程度の実力者か…他愛無いな…」
羅刹女は桜花姫の予想外の脆弱さに拍子抜けする。
『妖怪は妖怪でも…所詮桜花姫は雑魚妖怪が一体化した肉塊であり…結局は弱小妖怪だったか…』
妖刀の一振りで両断された桜花姫の肉体であるが…。
「ん?」
上半身と下半身から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「此奴は桜花姫の分身体か?」
すると羅刹女の背後より…。
「はぁ…危機一髪だったわ…」
「貴様…分身の妖術で私の攻撃を回避したみたいだな…悪知恵だけは抜群だ…」
桜花姫は分身の妖術の使用により危機一髪羅刹女の攻撃を回避したのである。
「残念だったわね♪羅刹女♪」
桜花姫は笑顔で彼女を挑発するのだが…。
『如何しましょう…私があらゆる妖術を駆使出来ても…大妖怪の羅刹女が相手では圧倒的に不利よね…』
桜花姫は恐る恐る後退りする。
「所詮は空元気か…貴様は雑魚妖怪だ…」
「えっ?」
羅刹女の様子に桜花姫は再度警戒…。
『羅刹女は一体何を?』
すると羅刹女は強烈なる眼力で桜花姫を睥睨したのである。
「私の統治する新世界に…貴様みたいな愚か者の弱小妖怪は不要なのだ…」
直後…。
「えっ!?」
『全身が!?』
桜花姫の全身が肥大化したのである。
「今度こそ死滅せよ…弱小妖怪の集合体…桜花姫…」
「ぎゃっ!」
肥大化した桜花姫の肉体が一瞬で破裂…。地面には無数の鮮血やら肉片が飛散したのである。
「桜花姫は時間が経過すれば復活するだろうが…」
『所詮こんな程度の妖力か…』
同時刻…。
『妖気!?』
八正道は東国の寺院で仮眠するのだが不吉の妖気を察知したのである。
『不吉だ…方角は北方か…』
「北国の村里だな…」
北国の村里から感じる強大なる妖気に八正道は戦慄する。
『北国の村里に一体何が出現した?』
気になった八正道は即座に行動を開始したのである。寺院から外出すると北方の北国へと直行する。移動してから一時間後…。八正道は北国の村里に到達する。
「北国だな…ぐっ!」
北国の村里に到達した八正道であるが…。強大なる妖気に接近した影響からか突如として胸部が重苦しくなる。
『恐らくは大妖怪の妖気だな…一体こんな場所に何が出現したのか?』
強大なる妖気に八正道はふら付いたのである。
「こんな妖気…普通の人間なら気絶するか…」
『場合によっては最悪…絶命するぞ…』
大妖怪の妖気は通常の妖怪とは桁違いに強力であり大妖怪が僅少でも妖力を発動した場合…。普通の人間であれば気絶するか最悪怪死する。強大なる法力を所持する僧侶の八正道でも大妖怪の妖気は非常に重苦しく感じる。すると直後…。
「路地裏か?」
近辺の路地裏より人外の気配を感じる。
『不吉だな…人気とは無縁そうだ…』
八正道は警戒した様子で恐る恐る路地裏へと移動する。民家の物陰から気配の感じる路地裏の様子を注視したのである。
『路地裏では一体何が…』
民家の路地裏では刀剣を所持した芸者風の女性は勿論…。周囲の地面には無数の人肉らしき肉片やら血肉が確認出来る。
『なっ!?彼女は一体何者だ!?地面の死骸も気になるが…』
芸者風の女性から不吉の妖気が感じられる。
『妖気だと!?』
八正道は芸者風の女性に畏怖したのである。
『彼女は人間の女性みたいな姿形だが…恐らく彼女の正体は妖怪だな…村里から感じられた妖気は彼女の妖気だったのか!?』
芸者風の女性は列記とした妖怪であると認識する。
『彼女は其処等の妖怪よりも桁外れの妖気だ…妖気の性質から判断して…彼女は恐らく大妖怪の一人だな…』
通常の妖怪であれば即座に対処するのだが…。彼女は別格の大妖怪であり八正道は畏怖したのである。
『私は如何するべきか?』
相手は本物の大妖怪であり強大なる法力を駆使する八正道であっても…。単独で大妖怪と交戦するのは非常に危険である。大妖怪との遭遇に八正道は混乱する。直後…。
「ん?」
何時の間にか芸者風の女性の姿形が路地裏から消失したのである。
「なっ!?彼女は一体…」
すると直後…。
「えっ?」
背後より強大なる妖気を感じる。八正道は背後の存在に戦慄するものの…。警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「貴女は一体…何者ですか?」
背後の人物とは先程の刀剣を所持した芸者風の女性である。彼女は無表情で八正道を凝視し続ける。
「私の名前は羅刹女…大陸の大妖怪とでも…」
芸者風の女性は自身を大妖怪の羅刹女と名乗る。
「なっ!?羅刹女って…妖怪達の総大将の!?」
羅刹女の名前に八正道は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
「貴様も…彼奴と同様の反応であるな…」
「えっ?彼奴とは…一体誰なのでしょうか?」
「弱小妖怪の肉塊…桜花姫だ…」
桜花姫の名前に八正道は無意識にも反応する。
「えっ…貴女は桜花姫様の…知人なのですか?」
「はっ?私が桜花姫の知人だと?」
八正道の知人の一言に羅刹女は苛立ったのである。
「彼奴は単なる魑魅魍魎の面汚しだ…桜花姫は妖怪の出来損ないであり…征伐すべき対象なのだ…」
羅刹女は無表情で八正道を凝視…。
「貴様は人間の僧侶だな…ひょっとして貴様か?近頃…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶とは…」
八正道は無言であるが一瞬身震いする。
「貴様の反応…如何やら図星みたいだな…」
すると羅刹女は再度妖刀を抜刀したのである。
「人間の僧侶よ…今度は守護者の出現は期待出来ないぞ…何故なら…民家の路地裏の血肉は弱小妖怪の集合体…桜花姫の血肉なのだからな…」
「えっ!?桜花姫様ですと!?」
『桜花姫様が…羅刹女に殺害されたのか!?』
八正道は衝撃の事実に絶句する。
「安心しろ…桜花姫は弱小妖怪の集合体でも不死身だからな…肉体を粉砕したとしても彼女は一定の時間差で復活する…」
「彼女は一定時間で復活するのですか…」
『桜花姫様…』
内心一安心したのである。
「貴様は人間の分際で…弱小妖怪の小娘を心配するとは…余程の物好きだな…」
羅刹女は身構える。
「安心しろ…人間の貴様は何方にせよ…私が仕留めるのだからな…人間の僧侶である貴様を辛苦の無間地獄に招待するぞ…」
「えっ…」
羅刹女は神速の身動きで八正道に接近すると妖刀で腹部を斬撃したのである。
「死滅せよ…人間の僧侶…」
八正道は羅刹女に腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
八正道は地面に横たわったのである。腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
「何方にせよ貴様は失血死する…私は撤収するか…」
羅刹女は何処かへと撤収する。
「ぐっ…」
八正道は口先から吐血したのである。
『私は…今日が…私の…私の命日なのか…』
疫病で病死した女房の笑顔が彼自身の脳裏に想起される。
『如何して女房の笑顔が?結局…私は憎悪した妖怪に殺される運命だったのか…』
彼が妖怪を人一倍憎悪する理由とは自身の家族である女房が亡霊妖怪の悪食餓鬼によって殺害されたからである。悪食餓鬼の攻撃で負傷した人間は再起不能の疫病を発症…。最終的には高熱により衰弱死する。
『私は妖怪達から一人でも大勢の村人を守護したかったが…今日で私の妖怪退治の人生も終了なのか…出来るなら殺伐とした無間地獄よりも…安楽の極楽浄土で女房と再会したいな…』
衰弱化した八正道は両目を瞑目させる。すると直後…。何者かが八正道の傷口に接触したのである。
『なっ!?誰だ!?』
神秘的雰囲気の巫女の女性が横たわった八正道の傷口に接触する。
『彼女は巫女の…女性でしょうか?彼女は非常に神秘的だが…』
傷口に接触するのは神秘さを感じさせる巫女の女性である。彼女は体格こそ小柄であるものの…。非常に神秘的であり容姿端麗の雰囲気だったのである。彼女の周囲には虹色の発光体が無数に確認出来る。
『彼女は一体何者でしょうか?妖怪とは無縁そうだ…邪気と妖気は勿論だが…彼女からは悪意すら感じられない…』
突如として出現した巫女は正体こそ不明であるが…。邪気も妖気も感じられず本物の聖母的女性だったのである。
『世の中は摩訶不思議だ…こんな神秘的雰囲気の人間が存在するとは…』
すると直後…。
「えっ!?」
羅刹女によって斬撃された傷口が一瞬で治癒したのである。
『傷口が治癒したぞ…ひょっとして彼女の正体は天空世界から降臨された…本物の女神様なのか!?』
巫女の霊能力かは不明瞭であるものの…。八正道の傷口は完全に治癒したのである。すると巫女は笑顔で…。
「貴方の傷口は私が完治させました…大丈夫ですよ♪法師様♪」
八正道は警戒するものの正体不明の巫女に感謝する。
「大変感謝します…巫女様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来ました…」
八正道は恐る恐る…。
「ですが貴女様は一体…何者なのでしょうか?ひょっとして貴女様は天空世界から降臨された女神様でしょうか?天女ですかね?」
八正道の問い掛けに巫女は自身の名前を名乗る。
「私の名前は…桃子姫です…」
『えっ!?桃子姫って…』
桃子姫の名前に八正道は驚愕する。
「私は所謂…合体妖怪である桜花姫の片鱗でしょうか…」
巫女の正体とは桜花姫の人間の部分である桃子姫…。彼女本人だったのである。
『彼女は本物の桃子姫様なのか!?』
八正道は恐る恐る彼女を直視…。桃子姫は半透明の霊体ではなく実体化した生身の存在であり列記とした人間の巫女である。
『彼女は人間の巫女だ…現実なのか?』
目前の出来事が現実なのか混乱する。八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「ですが如何して桜花姫様の片鱗である桃子姫様が…合体妖怪である桜花姫様の肉体から出現されたのでしょうか?」
問い掛けられた桃子姫は返答する。
「先程の羅刹女との戦闘により母体である桜花姫の肉体が粉砕された影響でしょうか…一時的に彼女の肉体から分離出来たのです…私自身は人間の肉体ですが彼女の肉体の一部ですからね…」
羅刹女の猛攻撃によって桜花姫の肉体は無数の血肉に粉砕され…。一時的に人間の片鱗である桃子姫が分離され行動したのである。
「今現在の桃子姫様は妖怪の集合体である桜花姫様から独立した状態で行動出来るのですね…」
「性格こそ桜花姫とは微妙に不一致ですが…私自身と桜花姫は一心同体の存在なのです…彼女が元通りの姿形に戻れば私の肉体は自然消滅するでしょう…私が自分の意思で行動出来るのは一時的に発生した超常現象ですから…」
「一時的ですか…」
八正道は内心寂然と感じる。すると数秒後…。
「えっ!?桃子姫様!?」
一時的に実体化した桃子姫の肉体であるが突如として半透明化し始める。
「如何やら時間みたいですね…」
「桃子姫様…貴女は消滅されるのですか…」
桃子姫の消滅に八正道は非常に残念がる。
「法師様♪私なら大丈夫ですよ♪貴方とは今度も再会出来ますから♪」
桃子姫は笑顔で返答する。すると彼女は赤面した様子で…。
「最後ですが…法師様?貴方の名前は?」
「えっ!?私の名前ですか!?」
突然の桃子姫の問い掛けに八正道は一瞬吃驚するも名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
「八正道様ですね…」
直後である。彼女の肉体は虹色の粒子状へと変化…。完全消滅したのである。
「桃子姫様…」
僅少であるが…。
『私は如何して…見ず知らずの相手に落涙するのか?』
八正道は無意識にも涙腺から涙が零れ落ちる。
「ん?」
『突然眠気か?』
疲労の影響からか八正道は再度安眠する。
第四話
復活
翌朝…。一連の闇夜から八正道は民家の裏庭で熟睡する。すると熟睡中…。
「八正道様?八正道様?」
女性らしき美声が自身の耳元に響き渡る。
『一体誰でしょうか?女性の…美声っぽいですが?』
女性の美声に八正道は目覚める。
「八正道様♪お早う御座います♪」
「えっ!?貴女様は桜花姫様!?」
女性らしき美声の正体とは誰であろう合体妖怪の桜花姫だったのである。桜花姫は元通りの状態であり八正道は驚愕する。
「無事だったのですか!?桜花姫様…」
「無事も何も…私は特段何も…」
「ですが桜花姫様…昨夜は…」
「私なら大丈夫よ♪八正道様は心配性なのね♪」
心配する八正道に桜花姫は笑顔で返答したのである。
「私は何度肉体を粉砕されても元通りに復活しちゃうからね♪八正道様が心配しなくても私は大丈夫なのよ♪」
「妖怪の肉体は変幻自在なのですね…」
『ですが桜花姫様の着物に鮮血が…昨夜の戦闘で桜花姫様の肉体が大妖怪の羅刹女によって粉砕されたのは事実みたいですね…』
桜花姫の着物には僅少の鮮血が確認出来る。
『昨夜の出来事は現実で…路地裏の血肉は本当に桜花姫様だったのですね…』
昨夜の出来事は現実であると実感する。
『彼女の様子から…元気そうですが…』
元気そうな彼女の様子に八正道は一安心したのである。
『ですが彼女の肉体の一部に…人間の巫女である桃子姫様の血肉が存在するのですね…桃子姫様…』
桃子姫の面影を想起する。
「如何しちゃったの?八正道様?」
突然の問い掛けに八正道は吃驚したのである。
「えっ!?失礼…」
すると八正道は恐る恐る…。
「大変恐縮なのですが…私は昨夜…大陸の大妖怪…羅刹女と命名される芸者風の女性妖怪と遭遇しまして…」
八正道は羅刹女と遭遇した闇夜の出来事を洗い浚い桜花姫に告白したのである。
「八正道様は大陸の大妖怪…羅刹女と遭遇したのね…」
桜花姫の表情が険悪化したのである。
『えっ…桜花姫様の表情が…』
普段は人一倍安穏そうな桜花姫であるが…。表情が険悪化する桜花姫に八正道は畏怖したのである。
「桜花姫様…羅刹女と名乗る大妖怪は…厳密には何者なのでしょうか?彼女の行動と言動から判断して…同族である桜花姫様を非常に憎悪した様子でしたが…」
「羅刹女は大陸全域と天球神国の北国を支配する世界屈指の大妖怪なの…」
「えっ…彼女は世界屈指の大妖怪ですか…」
『羅刹女は全世界規模の大妖怪だったのか…妖怪の総大将としての異名も本当みたいですね…』
羅刹女と自身との実力差に八正道は絶句する。
「遅かれ早かれ…俗界で彼女に対抗出来る妖怪が一握りなのは確実よ…」
「桜花姫様でも彼女には対抗出来ないのですか?」
「否定したいけれど…事実なのよね…」
八正道の問い掛けに桜花姫は即答したのである。
「何方にせよ…全世界は彼女に征服されるのですね…」
「天下無敵の彼女でも…唯一の弱点が存在するの…」
「唯一の弱点ですと!?彼女にとって何が弱点なのですか!?」
桜花姫は小声で…。
「私の体内で…永眠する桃子姫の存在よ…」
「えっ…桃子姫様ですか?」
「桃子姫はね…」
合体妖怪の桜花姫が誕生する三十年前の出来事である。人間の巫女であった桃子姫は絶大なる霊能力により多種多様の妖怪達を征伐…。各村落の村人達からは人間の巫女である彼女を救済の女神やら天女として崇拝されたのである。大勢の人間達からは救済の女神やら天女として崇拝される反面…。数多の妖怪達からは打倒すべき怨敵として憎悪されたのである。とある某月某日…。大陸一帯を支配する大妖怪羅刹女が天球神国を侵略しに一国である北国の村里へと出現したのである。北国の村里で桃子姫は大妖怪の羅刹女と直接対決…。戦闘は桃子姫が圧倒的に有利であり誰しもが桃子姫の勝利を確信したのである。桃子姫は霊能力が非常に絶大である反面…。肉体的には脆弱であり幼少期から人一倍病弱だったのである。桃子姫は羅刹女の奇襲により瀕死…。反対に大妖怪である羅刹女も桃子姫の霊能力により大半の妖力を浄化され弱体化したのである。桃子姫の奮闘によって羅刹女による天球神国侵略計画は阻止出来たものの…。桃子姫は瀕死状態であり祖国である西国の山奥へと逃走したのである。逃走するも桜花の山中で数多の妖怪達と遭遇…。桃子姫は虫の息であったが妖怪の大群と交戦したのである。桃子姫は自身の体内に数多の妖怪達を封印した状態で人間と妖怪の集合体として妖怪化…。魑魅魍魎の集合体である合体妖怪の桜花姫が桜花の山道で誕生したのである。誕生した当初は赤子の状態であったが…。彼女はとある人間の夫婦に拾われ桜花姫と名付けられる。
「予想しましたが…桜花姫様の過去は私達が想像する以上に壮絶だったのですね…」
すると八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「妖怪である貴女様を養育された義理の両親は?」
桜花姫は一瞬沈黙するも…。
「残念だけど…私の義理の両親は…人間の匪賊達の襲撃で殺されちゃったわ…」
彼女の義理の両親は二十年前に人間の匪賊達の夜襲によって殺害されたのである。
「殺害されたのですか…気の毒ですね…」
八正道は切なく感じる。
『ですが桃子姫様が交戦された大妖怪の正体とは…羅刹女だったのですね…』
八正道は桃子姫と交戦した大妖怪が羅刹女であると確信する。
「私にとっても彼女にとっても…羅刹女は因縁の関係なのよね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…大変失礼しました…今迄私は貴女を単なる極悪非道の妖怪とばかり…御免なさいね…」
桜花姫に謝罪したのである。すると桜花姫は笑顔で…。
「八正道様♪気にしないで♪私なら大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
桜花姫の様子に八正道は一安心したのである。
『桜花姫様…妖怪なのに天女みたいな女性ですね…桃子姫様と瓜二つです…』
桃子姫の面影からか合体妖怪の桜花姫が天空世界の天女みたいに感じられる。同時刻…。南国に位置する山奥のとある洞窟では白装束の集団が集結する。
「同志達よ…全員集結したな…」
集団の人数は六人であり松明を所持する集団の頭領が五人の若者達の人数を確認したのである。
「頭領…こんな洞窟に私達を集合させるなんて…一体何を?」
「今回は何事でしょうか…」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
「早速私が道案内する…各自…私に追尾せよ…」
頭領は洞窟の奥底へと移動する。数分後…。洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!?人間の木乃伊ですか!?」
彼等は木乃伊を直視すると一瞬畏怖する。木乃伊は野犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「一体…誰の遺体なのでしょうか?頭領?」
集団の一人が頭首に問い掛ける。
「彼こそは誰であろう私達南国の英雄であり…各領地の大名達から畏怖された戦乱時代最強の鬼神…泣く子も黙る【月影夜叉王】様の遺体であるぞ!」
「なっ!?木乃伊が月影夜叉王様ですか!?」
月影夜叉王とは戦乱時代に大活躍した南国最強の武士であり名門の月影一族の若武者である。生前では南軍の鬼神とも呼称され各領地の領主達は勿論…。敵味方の将兵達から畏怖されたのである。弱肉強食の戦乱時代当時は南軍最強の英雄として扱われるものの…。彼によって大勢の戦友達が惨殺され憎悪する者達により共存共栄の安穏時代では極悪非道の荒武者として扱われる。世間では極悪非道の大悪党と認識される反面…。一部の村里では今現在でも彼を英雄として神格化し続ける。
「えっ…私達の英雄…月影夜叉王様は死去されたのですか?」
「非常に残念であるが…鬼神の夜叉王様が死去されたのは事実だ…夜叉王様は遺体の状態から判断して…山中の野犬によって食い殺されたのかも知れない…」
「鬼神の夜叉王様が野犬を相手に食い殺されるなんて…正直信じ難いですね…」
今迄夜叉王は行方不明として扱われ生死は不明だったのである。夜叉王の死因こそは不明瞭であるものの…。今回で夜叉王が死亡したと判明する。
「勿論…事実を熟知したのは私達だけだぞ…夜叉王様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
集団の頭首は五十年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼神の月影夜叉王を神格化する一人であり奇遇にも夜叉王が死去した数日後に夜叉王の遺体を発見したのである。
「頭領は夜叉王様の遺体を如何されるのですか?」
頭領は恐る恐る一息する。
「黄泉の世界から死没者である月影夜叉王様を…完全なる生身の生者として復活させるのだ…」
「なっ!?」
彼等は頭領の突発的発言に驚愕したのである。
「最早死没者である夜叉王様を…完全なる生者として復活させられるのですか!?」
「黄泉の世界の死没者を俗界の生者として復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?非現実的では?」
周囲の者達は内心胡散臭いと感じるものの…。問い掛けられた頭領は即答する。
「実現出来るとも…無論黄泉の世界の死没者を完全なる生者として復活させるには相応の…犠牲が必要不可欠であるが…」
「相応の…犠牲ですと?犠牲とは一体…」
すると頭領は隠し持った拳銃を携帯したのである。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国で調達した最新式の拳銃だ…此奴で貴様達の生命力を頂戴する…私達の英雄…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様達の生命力が必要不可欠であるからな…覚悟せよ…」
「ひっ!」
「俺達は殺される!逃げろ!」
五人の若者達は頭領の所持する拳銃に畏怖したのか即座に逃走する。
「極楽浄土で未来永劫安眠せよ…」
頭領は背後から四人の若者達に発砲…。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
拳銃で四人を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…俺は死にたくないよ…」
若者は極度の恐怖心からか身震いした様子で涙腺からは涙が零れ落ちる。
「貴様が恐怖するのは勿論理解出来るが…本来死没者を完全なる生者として復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」
数千年前の太古の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに百人もの人間達を人身御供として利用した死者蘇生の儀式が各地の村里で実行されたのである。当時は頻繁に死者蘇生の儀式が実行されたが…。死者蘇生の儀式で死没者が復活した事例は実質皆無とされる。非人道的理由からか今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも死者蘇生の儀式は完全なる愚行として厳禁されたのである。
「私は今迄に九十五人もの人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだ…」
頭領は拳銃に弾丸を装填させる。
「南国の鬼神…月影夜叉王様を完全なる生者として復活させるには貴様の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」
一発の銃弾が若者の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
彼を即死させたのである。
「夜叉王様を生身の生者として復活させるには…彼等の鮮血が必要だな…」
頭首は今迄に九十五人もの人間達を殺害…。夜叉王の木乃伊に殺害した人間の血液を含有させたのである。
「今回で五人の血液を入手出来たぞ…」
殺害した五人の遺体から鮮血を指先に採取…。
『五人の血液を…夜叉王様の肉体に…』
彼等の鮮血を夜叉王の木乃伊に接触させたのである。
「南国の英雄であり鬼神…月影夜叉王様♪」
死没者である夜叉王の復活に期待する。
「黄泉の世界から俗界に戻られよ…夜叉王様!」
一分間が経過するのだが…。
「何故だ!?何故…月影夜叉王様は生者として復活されないのだ!?」
夜叉王の木乃伊は復活するばかりか何一つとして身動きしない。
『ひょっとして儀式に不備が…』
すると直後である。
「えっ…」
突如として夜叉王の遺体が破裂…。洞窟内部に夜叉王の血肉が飛散する。
「ひっ!」
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「一体何が…なっ!?」
破裂した夜叉王の肉片に頭領は驚愕する。
「夜叉王様の…肉体が…」
『如何して…夜叉王様がこんな状態に…』
頭領は破裂した夜叉王の肉体を直視…。絶望したのである。
「こんな状態では夜叉王様は二度と復活出来なくなるぞ…』
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
「結局…死没者を復活させる死者蘇生の儀式とは…出鱈目だったのか…」
出鱈目の儀式に頭領は後悔したのである。
『結局…私は単なる人殺しだったのか…』
自身の行動が愚行であり単なる殺人であると自覚した直後…。背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を警戒…。背後を直視すると頭領の背後には刀剣を所持した芸者風の着物姿の女性が佇立する。
「貴様は一体何者だ!?女子か?」
すると芸者風の着物姿の女性が発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの同族を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…醜悪であるな…」
頭領は恐る恐る…。
「貴女様は一体何者なのでしょうか?」
問い掛けられた芸者風の女性は即答する。
「私は…大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
「大陸の大妖怪…羅刹女ですと?」
羅刹女は飛散した夜叉王の血肉を凝視始める。
「貴殿は…戦乱時代の月影夜叉王と名乗る…極悪非道の亡者を俗界に復活させたいみたいだな…」
問い掛けられた頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも…私にとって鬼神の月影夜叉王様は未来永劫南国の英雄であり…未来永劫南国の武神なのですから…」
「貴殿の崇拝する月影夜叉王を復活させたいのであれば…人柱として貴殿自身の生命力を私に授与せよ…」
「私自身の生命力ですか…」
「黄泉の世界の亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠なのだ…貴殿が拒否すれば鬼神の月影夜叉王は未来永劫俗界へは復活出来ない…」
頭領は一瞬躊躇うものの…。
「であれば羅刹女とやら…承知しました…私自身の生命力を月影夜叉王様に授与しましょう…」
『私自身の血肉で鬼神の夜叉王様が復活されるのであれば止むを得ないな…』
不本意であるが頭領は承諾したのである。
「であれば貴殿の生命力を代償に…死没者の月影夜叉王を最強の大妖怪として復活させる…」
直後…。
「なっ!?発火だと!?」
羅刹女の妖力からか頭領の皮膚が突発的に発火したのである。高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は一瞬で黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生し始め…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…大妖怪…月影夜叉王よ…」
夜叉王は素肌が死者を連想させる灰白色であったが…。生前と同様の姿形に復活したのである。
「如何して私がこんな場所に?私は…大勢の家臣達に暗殺されて…」
「夜叉王とやら…貴殿は…」
羅刹女は自身が復活した経緯を一部始終夜叉王に説明する。
「私は…黄泉の世界から復活したのか…」
「夜叉王よ…今現在の貴殿は私の妖力で大妖怪の肉体であるが…今現在の貴殿は生前よりも強力だ…其処等の弱小妖怪達とは別格の妖力であるぞ…」
普段は無表情の夜叉王であるが…。
『妖怪の肉体なのは…正直気に入らないが…』
微笑したのである。
「俗界で自由に暴れ回れるのであれば妖怪の肉体でも止むを得ないな♪」
すると羅刹女は復活させた代償として夜叉王に交換条件を提示したのである。
「交換条件として…貴殿は愚劣なる大勢の人間達は勿論…私が憎悪する妖怪の小娘…怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅するのだ…大妖怪として復活した貴殿であれば桜花姫を殲滅出来るよな?」
「桜花姫だと?桜花姫とは一体何者なのだ?」
「桜花姫は私が憎悪する妖怪だ…私にとって最大の怨敵であり復讐相手なのだ…姿形のみなら人間の小町娘であるが…正真正銘妖怪の小娘であるぞ…貴殿の絶大なる妖力で彼奴を完膚なきまでに殲滅するのだ…」
「桜花姫って名前の…女人の妖怪を殲滅する任務か…」
「貴殿が桜花姫を殲滅出来れば…未来永劫貴殿の自由を約束する…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「折角復活したのであれば…あんたとの約束は厳守するさ…」
両者は交渉成立する。夜叉王は羅刹女に問い掛ける。
「あんたは一体何者だ?女人の妖怪みたいだが…」
「私は大陸の大妖怪…羅刹女だ…」
問い掛けられた羅刹女は自身を大陸の大妖怪と自負する。
「羅刹女だと?あんたは大陸の大妖怪か…其処等の妖怪とは別格みたいだな…」
数秒後…。
「鬼神の月影夜叉王よ…再度黄泉の世界に戻りたくなければ…俗界で思う存分醜悪なる人間達と怨敵の桜花姫を完膚なきまでに殲滅せよ…大妖怪としての貴殿の使命だ…」
すると羅刹女の姿形が消滅したのである。
「思う存分人間達と桜花姫と命名される妖怪を殲滅する任務とは…」
『女人の大妖怪に命令されるのは正直気に入らないが…大妖怪の肉体でも折角復活出来たのだからな…』
夜叉王の心情より人間達への殺意が芽生える。
「近日中にでも…」
『一先ずは桜花姫と名乗る…女人の妖怪を殲滅するべきだな…』
夜叉王は洞窟から脱出したのである。一連の出来事から三日後の真昼…。西国の村里では桜花姫の悪友である雪女郎が村道を散歩する。
「はぁ…退屈だわ…」
西国の村里は過疎地であり人間との揉め事も時たまである。平穏の日常に雪女郎は退屈に感じられる。
「退屈だし家屋敷に戻ろうかな?」
雪女郎は家屋敷に戻ろうかと思いきや…。突如として不吉の気配を感じる。
「えっ!?」
『何かしら!?』
不吉の気配に雪女郎は周囲を警戒したのである。
『人間!?妖怪!?』
近辺より絶大なる邪気と殺意を感じる。
『気配の正体は不明だけど…邪気と殺気は感じられるわ…一体何かしら?』
すると彼女の背後より…。
『背後!?』
雪女郎は恐る恐る背後を警戒したのである。彼女の背後には鬼神を連想させる重厚なる甲冑を装備…。刀剣を所持した武士が佇立する。
『えっ…何者なの?武士?』
雪女郎の背後に存在するのは正体不明の武士であるが…。
『戦乱時代?今時甲冑の武士なんて…時代錯誤なのかしら?』
雪女郎は恐る恐る甲冑の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?」
すると武士は無表情で…。
「私は南軍の鬼神…月影夜叉王だ…」
甲冑の武士は自身を鬼神の月影夜叉王と名乗る。
『えっ…此奴…月影夜叉王なの!?』
夜叉王は本来人間であるものの戦乱時代の最中では数百体もの妖怪達を殺害…。人間のみならず数多の妖怪達からも畏怖されたのである。
『月影夜叉王って戦乱時代に活躍した人間よね?』
雪女郎は再度夜叉王に問い掛ける。
「如何して人間のあんたが…こんな場所に?」
「私を人間だと?」
「えっ?」
「今現在の私は…大妖怪だぞ…」
「えっ!?大妖怪ですって!?」
「厳密には…妖怪化した人間とでも…」
雪女郎は夜叉王の返答に驚愕したのである。冗談かと思いきや…。
『此奴の肉体から…妖力が感じられるわ…本当に此奴…妖怪化した人間なのね…』
雪女郎は夜叉王に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
『如何して人間の夜叉王が妖気を?ひょっとして此奴も合体妖怪の桜花姫みたいに人間と数多の妖怪達の集合体なのかしら?』
すると夜叉王は雪女郎を睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する夜叉王に雪女郎は戦慄する。
「貴様は…女人の妖怪…桜花姫か?」
『えっ!?桜花姫ですって!?』
夜叉王の問い掛けに雪女郎は絶句したのである。
『此奴も…桜花姫を敵対する妖怪の一人なのかしら?』
「貴様は女人の妖怪…桜花姫なのか?人違いであるか?」
「人違いよ…私は粉雪妖怪の…雪女郎だからね…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は人違いであると返答する。
「人違いであったか…残念であるが貴様は命拾いしたな…」
雪女郎は警戒した様子で恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「あんたは如何して桜花姫を?彼女に用事かしら?」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は即答する。
「私は彼奴を徹底的に殲滅する…今現在の私にとって桜花姫を殲滅するのは最大の使命であるからな…」
『此奴も桜花姫を敵対視する妖怪の一人なのね…面倒臭いわね…』
雪女郎は困惑したのである。
『如何しましょう…此奴は大妖怪っぽいし…凡庸の妖怪の私では大妖怪の夜叉王には対抗出来ないわ…』
すると夜叉王は再度雪女郎を凝視したのである。
「粉雪妖怪の雪女郎とやら…私からの最後の質問であるが…貴様は桜花姫と名乗る女人の妖怪の居場所を知らないか?」
「えっ?桜花姫の居場所ですって…」
夜叉王の問い掛けに雪女郎は困惑するのだが…。
「桜花姫なら…恐らくは南国の村里で散歩中でしょうね…」
「南国の村里か…」
直後である。夜叉王は神速の身動きで南国へと移動し始める。
『結局何者だったのかしら?彼奴…』
「何はともあれ…桜花姫に報告しないと!」
雪女郎は即座に桜花姫の家屋敷へと移動する。
「桜花姫!桜花姫!」
雪女郎は桜花姫の家屋敷の居間へと入室したのである。
「えっ…あんたは粉雪妖怪の雪女郎?突然如何しちゃったのよ?」
「如何しちゃったのも何も…一大事なのよ!桜花姫!」
「えっ?一大事ですって?今度は何事かしら?」
彼女の様子から判断して大事件発生だと察知する。
「何が発生したのよ?雪女郎?」
「月影夜叉王って名前の妖怪化した人間が…桜花姫に…桜花姫に…」
「月影夜叉王ですって?」
すると桜花姫は笑顔で…。
「ひょっとして夜叉王って妖怪が私に告白したのかしら♪夜叉王って妖怪は相当の物好きみたいね♪私に見惚れるなんてね♪」
他人事の桜花姫に雪女郎は呆れ果てる。
「桜花姫は本当に危機感が皆無ね!あんたは自分の立場を弁えなさい!一触即発の一大事なのよ!」
雪女郎は先程の出来事を一部始終桜花姫に告白したのである。
「月影夜叉王って大妖怪が私を殺しに?面白そうね…」
桜花姫は狂喜乱舞に感じる。
「私だって反撃するわよ♪相手が大妖怪だからって容赦しないからね…」
雪女郎は狂喜乱舞の桜花姫に内心呆れ果てる。
『桜花姫…折角命拾い出来たのに…』
桜花姫は雪女郎に問い掛ける。
「雪女郎?夜叉王って妖怪の居場所は?」
「彼奴なら南国よ…私が彼奴を南国の村里に誘導させたから一先ずは大丈夫…」
「南国の村里ね…承知したわ♪」
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。桜花姫の姿形が消滅する。
「桜花姫…」
『彼女は恐怖心が皆無なのかしら?』
畏怖しない彼女に羨望したのである。同時刻…。桜花姫は瞬間移動の妖術により一瞬で南国の村里へと到達する。
「夜叉王って妖怪は人間の武士みたいな妖怪だったわね?」
桜花姫は村里の風景を眺望するが…。確認出来るのは殺風景の農村地帯ばかりであり甲冑の武士らしき人物は誰一人として確認出来ない。
「甲冑の武士らしき妖怪なんて確認出来ないわね…出直そうかな?」
西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
背後より不吉の気配を感じる。
『気配だわ…一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を確認する。
「あんたは…」
桜花姫の背後に佇立するのは鬼神を連想させる甲冑と刀剣を装備した武士である。素顔は非常に美青年であるが…。素肌は灰白色であり武士の肉体からは強大なる邪気と妖気が感じられる。
『甲冑の武士…此奴の肉体から邪気と妖気を感じるわ…』
警戒する桜花姫に武士は問い掛ける。
「貴様は女人の妖怪…桜花姫か?人違いであるか?」
武士の問い掛けに桜花姫は笑顔で…。
「私は桜花姫よ♪ひょっとしてあんたは月影夜叉王って武士の妖怪かしら?」
桜花姫の問い掛けに夜叉王は即答する。
「無論である…厳密には妖怪化した人間の武士とでも…」
「あんたは妖怪化した人間なのね…」
「貴様が女人の妖怪…桜花姫であるなら…」
夜叉王は刀剣を抜刀したのである。
「私の使命だ…即刻貴様を殲滅する…」
「私を殲滅ですって?あんたなんかに出来るかしら?」
桜花姫は笑顔だが…。夜叉王に警戒したのである。
『月影夜叉王は其処等の妖怪よりは強力そうだけど…大妖怪の羅刹女と比較すれば私一人でも対処出来そうね♪』
夜叉王は身構える。
「女人の妖怪…桜花姫…死滅せよ…」
夜叉王は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近したのである。直後…。
「瞬殺だったな…」
刀剣で桜花姫の肉体を上下に両断したのである。
『桜花姫とやら…戦闘能力は其処等の弱小妖怪と同程度だな…』
手応えは感じられたものの…。上半身と下半身に両断された桜花姫の肉体から白煙が発生したのである。
「ん?」
両断された桜花姫の上半身と下半身は白煙に覆い包まれ…。消滅したのである。
「分身の妖術か…」
『桜花姫とやら…一筋縄では殲滅出来まいか…』
すると夜叉王の背後より…。
「残念だったわね♪夜叉王♪あんたが攻撃したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は余裕の様子であり夜叉王に挑発したのである。
「悪運だけは人一倍だな…桜花姫とやら…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は変化の妖術を発動する。
「夜叉王の刀剣よ…砂金に変化しなさい♪」
直後である。変化の妖術により夜叉王の所持する鋼鉄の刀剣が砂金へと変化…。地面には大量の砂金が零れ落ちる。
「刀剣が砂金に変化するとは…」
「如何するのかしら?刀剣が無ければあんたは私に攻撃出来ないわよ♪」
桜花姫は夜叉王を挑発する。
「刀剣が無くとも…」
夜叉王は自身の妖力を実体化…。無体の雷光の刀剣を形作る。
「貴様を仕留めるには…此奴で事足りる…」
「雷光の刀剣ね…」
「今度こそ…貴様を斬殺する…」
夜叉王は自身の妖力により雷光の刀剣を伸長させる。
「えっ?」
雷光の刀剣が自身に突き刺さる直前…。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁で雷光の刀剣を無力化する。
「桜花姫…貴様は結界で私の攻撃を無力化するとは…」
「私が不死身の肉体でも…斬撃は苦痛なのよ…」
雷光の刀剣が突き刺さったとしても桜花姫は不死身の肉体であり外傷は一瞬で再生するものの…。何度も大怪我するのは不死身の彼女でも非常に苦痛である。
「こんな程度の妖術では貴様を仕留めるのは不可能だな…」
夜叉王は妖力を急上昇させる。
「えっ?夜叉王?」
夜叉王の全身から瑠璃色の妖力が発生…。
『夜叉王の妖力が…肉眼でも直視出来るわ…』
上空を眺望すると南国全域が黒雲で覆い包まれたのである。
「黒雲だわ…」
「此奴は奥の手だ…死滅せよ…桜花姫…」
直後…。黒雲から無数の落雷が発生したのである。
「落雷!?」
落雷が地面に落下すると地面が抉れる。
『強力だわ…』
夜叉王が発動した落雷は無差別的に南国の各地へと落下…。村里の村人にも死傷者が出始める。
「村里が…」
『此奴を阻止しないと…非常に面倒ね…』
一発の落雷が桜花姫の直上へと落下したのである。
『えっ!?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。間一髪落雷を無力化したのである。
『直撃すれば私は粉砕されたでしょうね…』
「命拾いしたな…桜花姫…今度こそ…ん?」
突如として夜叉王は身動きしなくなる。
「ぐっ!」
「えっ?一体何が発生したの?」
夜叉王は周囲を警戒したのである。
「畜生が…無理に大技を発動した影響なのか?自由に身動き出来なくなるとは…」
「身動き出来ないですって?」
強大なる大妖怪として復活した夜叉王であるが…。彼自身妖怪としては未成熟であり一度に大量の妖力を消耗した影響からか戦闘を継続出来なくなる。
「如何やら…私は妖怪としては未熟みたいだ…」
「あんたは妖力が空っぽみたいね♪」
「命拾いしたな…桜花姫よ…」
夜叉王は桜花姫を凝視し始める。
「俺を殺せる絶好機だぞ…桜花姫…折角大妖怪として復活したが…如何やら今度も地獄の世界に逆戻りか…」
すると桜花姫は笑顔で返答する。
「今回は見逃すわ♪月影夜叉王♪」
「なっ!?」
『桜花姫…』
夜叉王は桜花姫の様子に意外であると感じる。
「あんたは私に対する敵意も悪意も無さそうだし…誰かに命令されたのよね?夜叉王は誰に命令されたのかしら?」
夜叉王は恐る恐る…。
「羅刹女と名乗る女人の大妖怪だ…羅刹女が亡者だった俺を大妖怪として復活させ…貴様の殲滅を強制したのだ…」
「羅刹女ですって…」
『彼奴が人間の武士だった夜叉王を…大妖怪として復活させたのね…』
羅刹女の名前に桜花姫の表情が険悪化する。
『羅刹女は仕留めないと…』
すると夜叉王は無表情で…。
「私は撤収する…貴様が羅刹女を殲滅したければ思う存分に殲滅しろ…」
「えっ?羅刹女はあんたの親玉でしょう?あんたは親玉の彼女を裏切って大丈夫なのかしら?」
夜叉王は桜花姫の発言に呆れ果てる。
「馬鹿者が…彼奴が俺の親玉だと?俺と羅刹女は三日前に対面しただけで…仲間でも上下関係も皆無だぞ…私は私自身の意志で自由に行動するだけだ…」
夜叉王の発言に桜花姫は微笑する。
「承知したわ♪夜叉王♪」
夜叉王は神速の身動きで退散したのである。
『夜叉王…大妖怪みたいだけど…久方振りに面白そうな妖怪と遭遇したわね♪』
桜花姫は夜叉王との遭遇に内心大喜びする。同時刻…。とある遠方の山奥から宿敵の羅刹女が桜花姫を凝視したのである。
「月影夜叉王…大妖怪だとしても弱小妖怪の桜花姫を相手に妖怪化した人間では力不足だったな…」
『妖怪としては未熟の貴様が…無理に大技を駆使するから妖力を消耗したのだ…桜花姫を仕留める直前に妖力の消耗で仕留め損なうとは…大妖怪の恥知らずが…』
羅刹女は夜叉王の無鉄砲さに呆れ果てる。
「結局…私自身が大攻勢を仕掛けなければ…無理みたいだな…」
夜叉王は期待出来ないと判断…。羅刹女は退散したのである。
第五話
能面
大妖怪の月影夜叉王との大戦闘から六日後の真夜中…。西国の村里に隣接する廃村の地面より野良犬に咀嚼された大量の血肉やら人骨が無数に発見されたのである。近隣の村人達からは無間地獄の亡者達が出没したとの噂話が国全体に出回る。同時刻…。東国近辺の辺境地より悪食餓鬼の大群が隣接する各地の村里に出没したのである。騒然とする村人達の噂話が気になった桜花姫は即刻問題の廃村へと直行する。
「廃村の無数の人骨と肉片…東国に出没した悪食餓鬼の大群…」
『無数の妖怪達が出現した因果関係は一体何かしら?』
西国の村里から非常に近辺なのか数分間で到着する近距離である。桜花姫は恐る恐る廃村の様子を眺望する。
「随分殺風景ね…廃村だし当然かしら?」
誰一人として村人が定住しない魔窟であり廃村から無数の妖気を察知したのである。
「廃村から無数の妖気を感じるわ…」
人気は皆無であり廃村の雰囲気から黄泉の世界を連想させる。
「気味悪いわね…」
『空気も息苦しいし…黄泉の世界みたいだわ…』
廃村は非常に息苦しい場所であり普通の人間であれば卒倒しそうな雰囲気である。
「今回の超常現象では何が出現するのかしら?」
『今回は海難入道よりも面倒臭いかも知れないわね…』
廃村の重苦しい空気からか非常に気味悪くなる。廃村の雰囲気から気力が無気力化するものの…。
「廃村中心部の楼閣が非常に不吉だわ…」
廃村中心地の楼閣から非常に重苦しい無数の妖気を察知したのである。
「妖力を消耗するのも面倒臭いからね…力任せで突破しちゃうわよ!」
彼女は鈍足であるものの…。真正面から廃村へと突入する。
「何かしら?」
すると周辺の地面より無数の悪食餓鬼が出現…。大勢で道中を通行する桜花姫に殺到したのである。
「悪食餓鬼?」
桜花姫は無数の悪食餓鬼に包囲される。
「彼等なりの挨拶かしら?」
『悪食餓鬼にとって私は最高の嗜好品みたいね…』
桜花姫は即座に妖力を発動…。半透明の妖力の防壁を発動したのである。防壁の表面より半透明化した血紅色の魔手を無数に出現させる。
「鬱陶しい奴等だわ…」
妖力の防壁から出現した無数の魔手は彼女に殺到する無数の悪食餓鬼の猛攻撃から本体を防備…。血紅色の魔手は桜花姫に殺到する悪食餓鬼を縦横無尽に蹴散らせる。
「人気者も災難だわ♪」
桜花姫は泰然自若とした様子であり無謀にも殺到し続ける悪食餓鬼の大群を容易に死滅させたのである。桜花姫の発動した魔手に接触した悪食餓鬼は一瞬で肉体が粉砕される。桜花姫が通過した直後…。桜花姫の通過した地面には悪食餓鬼の無数の肉片やら血肉が彼女の路傍に散乱したのである。桜花姫は一直線に驀進し続ける。数分後…。廃村の中心地に位置する楼閣へと到達する。
「楼閣から不吉の妖気を感じるわね…」
楼閣の最上階から不吉の妖気が感じられる。桜花姫は一息すると恐る恐る楼閣へと潜入したのである。居室には異国風の調度品が散乱した状態であり居住者は誰一人として確認出来ない。
「如何やら大昔は富裕層の居住地だったのかしら…」
楼閣は全面的に洋式風の雰囲気である。
「室内の雰囲気は異国を意識したのかしら?異世界みたいだわ…」
洋式風の調度品ばかりであり全体的に異世界みたいに感じられる。
「最上層に移動しましょう…」
階段から最上層へと移動する。
「博物館みたいだわ…」
最上層へと到達すると楼閣の最上層は骨董品の貯蔵庫であり桜花姫は無尽蔵の異国風の骨董品に魅了されたのである。
「楼閣の骨董品を人間達に競売しちゃえば私も富裕層かしら♪」
すると貯蔵庫の中心部には摩訶不思議なる骨董品が非常に気になる。
「何かしら?ひょっとして能面?」
桜花姫が気になった代物とは精巧に形作られた能面であるものの…。
「表情が気味悪いわね…」
能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「芸術的だけど非常に悪趣味だわ…能面って外見的にも不吉なのよね…」
桜花姫は巨大能面を直視すると鳥肌が立つのか非常に気味悪くなる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…能面なんて気味悪いだけなのよ…私は大嫌いだわ…」
迂闊にも巨大能面に近寄ると恐る恐る巨大能面に接触したのである。
「普通の能面よりも随分特大なのね…単なる装飾品なのかしら?」
先程から不思議に感じるのか桜花姫が楼閣へと潜入した数分後…。
「えっ?内部の妖気が感じられなくなったわ…」
室内に充満した妖気が完全に消失する。
「室内の妖怪は別の場所に移動しちゃったのかしら?」
妖気が皆無であると判断したのである。
「楼閣から脱出しましょう…」
桜花姫は恐る恐る庭園へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。
「物音!?」
彼女は即座に背後を警戒したのである。先程の巨大能面に注目する。
「えっ…一体何事!?」
巨大能面に注目すると能面の両目部分が蛍光色へと変色した状態であり八本もの人間の細腕らしき脚部が形作られる。姿形は巨大化した巨大人面蜘蛛であり中心部の蜘蛛の胴体部分が巨大能面である。
「ひょっとしてあんたは器物の妖怪…【小面蜘蛛】かしら!?」
小面蜘蛛とは霊体妖怪の霊魂が器物である巨大能面へと憑霊…。妖怪化した憑依系統の器物妖怪の一体であり北国では別名として巨大能面の付喪神とも命名される。器物に憑霊出来る呪術により妖怪の集合体である桜花姫をも錯覚させたのである。小面蜘蛛の胴体部分である巨大能面の両目が桜花姫を凝視すると冷笑し始める。
「えっ…気味悪いわね…」
冷笑する小面蜘蛛に桜花姫は気味悪くなる。
『小面蜘蛛なんて…厄介なのが出現したわね…』
小面蜘蛛の出現に桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りする。すると小面蜘蛛は胴体の能面部分の口先より蛍光色の火の玉を無数に放出したのである。
「火の玉だわ…」
蛍光色の火の玉は桜花姫に接近する。
「こんな程度の妖術で…」
桜花姫は再度妖力の防壁を発動…。小面蜘蛛の火の玉を無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を仕留められないわよ♪小面蜘蛛♪」
桜花姫は妖術を発動…。
「焼失するのね…小面蜘蛛…」
小面蜘蛛に発火の妖術を発動したのである。直後…。
「えっ?」
不可解にも小面蜘蛛には発火の妖術が発動されない。
「一体如何してなの?」
『可笑しいわね…如何して小面蜘蛛には発火の妖術が発動されないのかしら?』
すると桜花姫は恐怖心からか身震いする。
『ひょっとして此奴の肉体…〔退魔巨樹〕かしら…』
退魔巨樹とは天球神国に存在する神秘の樹木であり天然記念物である。別名としては霊木とも呼称される。退魔巨樹は人間やら通常の動植物には人畜無害である反面…。超自然的存在とされる妖怪達にとっては最大の天敵である。妖怪が退魔巨樹に接触すると体内の妖力が吸収され…。急速に妖力を消耗する。妖怪が退魔巨樹の樹体に接触し続ければあらゆる妖怪が衰弱死…。屈強の大妖怪であっても衰弱死は回避出来ない。
『海難入道もだけど…此奴にも妖術は通用しないみたいね…如何しましょう?』
桜花姫は恐る恐る後退りしたのである。
『此奴を相手に…真正面からの徹底抗戦は自殺行為よね?』
妖術の通用しない小面蜘蛛との戦闘は圧倒的に不利であり桜花姫は即刻楼閣からの脱出を決意するのだが…。
「きゃっ!」
小面蜘蛛は体内より蜘蛛の白糸を放出したのである。桜花姫は粘着性の白糸に全身を拘束され…。身動き出来なくなったのである。
『迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…』
すると直後…。
「ぐっ!」
『体内の妖力が…』
小面蜘蛛の白糸に接触すると体内の妖力が消耗したのである。
『白糸の影響かしら?妖力が消耗するわ…』
桜花姫は極度の疲労からか極度の眠気を感じ始める。
『えっ…眠気が…』
直後…。
「桜花姫様!」
「えっ?」
突如として出現したのは僧侶の八正道だったのである。
「あんたは八正道様!?如何してこんな場所に!?」
突然の八正道の出現に桜花姫は驚愕する。
「桜花姫様!詳細は後回しです…小面蜘蛛は私が…」
八正道は法力により小面蜘蛛の身動きを封殺したのである。
「器物の妖怪よ…完全に浄化されよ!」
浄化の法術を駆使…。すると能面の体内に憑依した霊体妖怪が浄化され小面蜘蛛は元通りの巨大能面に戻ったのである。
「小面蜘蛛…成仏したか…」
八正道は恐る恐る巨大能面に合掌する。小面蜘蛛が浄化された影響により桜花姫を拘束した粘着性の白糸も消滅したのである。
「えっ?自由自在に身動き出来るわ…私…」
八正道は笑顔で…。
「危機一髪でしたね…桜花姫様♪無事で何よりです♪」
「八正道様♪感謝するわね♪」
桜花姫は人間の八正道が妖怪の天敵である器物妖怪の小面蜘蛛を仕留められたのか問い掛ける。
「如何して八正道様が器物妖怪の小面蜘蛛を簡単に仕留められたのかしら?彼奴は相当の強敵なのよ…」
「小面蜘蛛の能面は退魔巨樹で形作られた代物でしたからね…妖怪にとっては難敵でしょうが…妖力を駆使しない攻撃法によって小面蜘蛛は退治出来るのでしょう…」
小面蜘蛛は妖怪にとっては遭遇したくない強敵である反面…。妖力を駆使しない攻撃法では容易に仕留められる。
「今回ばかりは感謝するわね♪八正道様♪」
桜花姫は八正道に感謝するのだが…。
「前回の出来事ですが…羅刹女の襲撃によって虫の息だった私を貴女様は救済されたのです…当然の行為ですよ…」
「八正道様の傷口を治癒したのは私の体内の桃子姫よ…」
「桃子姫様と桜花姫様は一心同体の存在なのです…桜花姫様が私を瀕死の状態から救済したのも同然ですよ…」
「えっ…八正道様…」
桜花姫は赤面する。すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…」
桜花姫に俵型の麦飯と瓢箪を手渡したのである。
「えっ?麦飯かしら?」
「先程の戦闘で妖力を消耗したでしょう…思う存分に食べなされ…」
「八正道様…」
桜花姫は八正道に手渡された瓢箪の飲料水と麦飯を一瞬で平らげる。
『えっ…桜花姫様…相当空腹だったのですね…』
瓢箪の飲料水と麦飯を平らげた桜花姫に八正道は苦笑いしたのである。
「僅少だけど…多少妖力が戻ったわ…」
すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「如何して八正道様がこんな場所に?」
「桜花姫様に協力を要請したくて…桜花姫様の妖気を追尾して…廃村へと突入したのです…桜花姫様が器物妖怪の小面蜘蛛に苦戦されたのは予想外でしたが…」
「私に協力ですって?何かしら?」
八正道は恐る恐る…。
「今現在の東国なのですが…」
本日の夕方の出来事である。突如として密集地であり天球神国の中心地である東国に無数の百鬼夜行が出現…。彼等は無差別的に中心街の町民達を襲撃したのである。
「東国に無数の妖怪達が出現したの?」
「今現在武士団は勿論…仲間の修行僧達が数多の妖怪達と交戦中なのですが…多勢に無勢でして…桜花姫様の協力が必要不可欠なのです…」
桜花姫は困惑する。現実問題先程の小面蜘蛛との戦闘により大半の妖力を消耗…。単独で多数の妖怪を相手するのは正直不安だったのである。
『如何しましょう…』
桜花姫は困惑するも…。
『道中…遭遇した妖怪達を桜餅に変化させて食べちゃえば消耗した妖力は回復させられそうね…』
「私も協力するわ…八正道様♪」
桜花姫は八正道の依頼を承諾する。
「感謝します…桜花姫様…」
桜花姫と八正道は即座に楼閣から脱出したのである。二人は東国へと急行する。
第六話
強襲
桜花姫と八正道が行動を開始し始めた同時刻…。大陸の大妖怪羅刹女は主戦場の東国歓楽街で武士団と交戦する。
「貴様!?女人の妖怪か!?」
「将兵達!即刻此奴を包囲しろ!」
武士団は即座に羅刹女を包囲したのである。
「命知らずの人間風情が…」
羅刹女は呆れ果てたのか無表情で周囲を確認する。
「私の実力を発揮するには…貴様達程度では力不足だな…」
彼女の見透かした態度に武士団の将兵達は苛立ち始める。
「此奴…」
「相手が女人の妖怪とて構わん!即刻女人の妖怪を征伐せよ!」
刀剣を所持した十数人の武士達が羅刹女に殺到する。
「命知らずの愚か者達が…」
羅刹女は妖術を発動…。
「ん?」
「なっ!?」
突如として武士達は頭部が肥大化したのである。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女の妖術によって肥大化した武士達の頭部が破裂する。
「うわっ!妖術か!?」
「将兵達の頭部が突然破裂したぞ!」
後方の武士達は羅刹女の妖術に畏怖したのである。
「今度は貴様達が私に殺される出番だぞ…」
「ひっ!妖怪に殺されちまう!逃げろ!」
「殺される!退却だ!全軍…退却せよ!」
周囲の武士達は必死に逃走するのだが…。
『人間風情が…』
「誰一人として…私からは逃げられないぞ…」
羅刹女は後方の武士達にも妖術を発動する。彼等も同様に頭部が肥大化…。破裂したのである。
「所詮人間は非力だな…」
武士団を全滅させた直後…。
「ん?」
彼女の背後より何者かが出現する。
「貴様は何者だ?」
羅刹女は背後を直視したのである。
「久方振りだな…羅刹女…」
「誰かと思いきや…貴殿は月影夜叉王…大妖怪の恥知らずか…」
「大妖怪…羅刹女…」
羅刹女の背後に出現したのは誰であろう南国の鬼神…。大妖怪の月影夜叉王である。
「夜叉王よ…今更私に用事か?ひょっとして貴殿は私の目的に協力するのか?協力するのであれば先日の失敗は黙認するが…」
羅刹女の発言に夜叉王は失笑する。
「誰があんたの協力なんて…」
夜叉王は無表情で雷光の刀剣を生成させる。
「貴殿は恩人である私を裏切るか?大妖怪…月影夜叉王よ…」
「羅刹女…あんたは亡者であった俺を大妖怪として復活させた功績だけは感謝しても感謝し切れないが…俺は人一倍あんたが気に入らない…何よりもあんたは妖怪だ…妖怪である羅刹女に服従するのは半妖の俺には不可能みたいだ…」
「夜叉王…弱小妖怪の桜花姫さえも仕留め切れなかった中途半端の貴殿が…大妖怪である私を仕留めると?所詮貴殿の妖力は宝の持ち腐れだな…」
羅刹女は夜叉王の妖力を宝の持ち腐れと揶揄したのである。羅刹女に揶揄された夜叉王であるが…。
「俺の妖力が宝の持ち腐れか如何なのかは…今回の戦闘で明確化出来る…俺の妖力が宝の持ち腐れであると断定するには早計だぞ…羅刹女…」
夜叉王は雷光の刀剣を生成させる。
「妖力を実体化させた雷光の刀剣か?であれば私は…」
羅刹女も自身の妖刀を抜刀したのである。両者は神速の身動きで突っ込む。両者の妖刀が接触した直後…。周囲に衝撃波が発生する。両者の衝撃波で中心街を徘徊する無数の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が吹っ飛ばされる。
「月影夜叉王…私は貴殿を役立たずと見縊ったが…意外と強力だな…」
両者は一度後退する。
「俺は生前…戦乱時代末期の人間だったが…今迄に九十九体もの妖怪達を仕留めたからな…羅刹女で百体目だ…」
「残念だが…所詮大妖怪の出来損ないである貴様では私を仕留められない…百体目の妖怪を仕留めるのは不可能だぞ…月影夜叉王…」
羅刹女は両手から超高温の火球を発射したのである。
「火球か…」
夜叉王は雷光の刀剣で火球を一刀両断…。左右に両断された火球は夜叉王の背後で爆散したのである。
「こんな程度の妖力なのか?羅刹女よ…貴様は自身を大陸の大妖怪と豪語するが…所詮は単なる称号だったか?」
「挑発だけは一人前だな…月影夜叉王…」
大妖怪の両者が対決する同時刻…。一方の桜花姫と八正道は東国の郊外へと到達したのである。
「東国だわ…」
「郊外に到達しましたね…桜花姫様…」
遠方から無数の火の粉が確認出来る。
「火の粉だわ…主戦場みたいね…」
「突如として無数の妖怪達が出現しましたからね…」
二人は東国と西国を直結する両国橋へと移動するのだが…。逃亡する避難民達やら敗走する将兵達が西国へと逃走したのである。
「如何やら相当の一大事みたいね…」
「何しろ多勢に無勢ですからね…武士団だけで今回の大事件を解決するには力不足でしょう…」
すると三人の修行僧達が八正道に近寄る。
「貴方は八正道様!?無事だったのですね…」
彼等は八正道の無事が確認出来て安心したのである。
「私も貴方達が無事で安心しましたよ…」
「私達は必死に妖怪退治に尽力しましたが…何しろ多勢に無勢でして…」
今回の大事件では大勢の僧侶達は勿論…。修行僧達も無数の妖怪達の鎮圧に派遣されたのである。
「中心街に大妖怪が二体も出現したと…」
「最早私達では二体の大妖怪を相手に対抗出来ません…」
「大変心苦しいのですが…私達では力不足です…」
すると八正道は笑顔で…。
「安心しなされ♪今回は大妖怪に対抗出来る最強の味方が参上しましたから♪」
「えっ?最強の味方ですと?」
「最強の味方とは…一体?」
彼等は最強の味方の一言に反応する。八正道は桜花姫を直視したのである。
「えっ…彼女は?町内の小町娘でしょうか?」
「八正道様…こんな状況下で冗談は非常識かと…」
二人の修行僧は呆れ果てる。二人の修行僧は呆れ果てるのだが…。小柄の修行僧が桜花姫を直視すると畏怖した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「えっ…彼女…」
「ん?」
小柄の修行僧は桜花姫に畏怖する。
「彼女の体内から…無数の妖気が…」
畏怖する小柄の修行僧に二人の修行僧も桜花姫に戦慄し始める。
「えっ!?無数の妖気だと!?」
「本当だ…彼女の肉体から妖気が感じられるぞ!彼女は一体…」
大柄の修行僧が桜花姫を睥睨したのである。
「貴様は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪だな!醜悪なる妖怪がか弱き人間の女性に擬態するとは卑劣だ…」
畏怖する修行僧達に周囲の武士団が近寄る。
「妖気だと!?こんな場所にも妖怪が出現したのか!?」
「妖怪は此奴です!此奴の正体は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪ですよ!」
「なっ!?此奴も妖怪の仲間なのか!?」
「か弱き人間の女子に擬態するとは言語道断だな!」
「此奴の正体が妖怪であるなら…即刻小娘の妖怪を征伐しなくては!」
武士団の将兵達は警戒した様子で即座に抜刀…。桜花姫を包囲したのである。すると八正道は必死に…。
「誤解です!彼女の正体が妖怪だとしても彼女は人間達には手出ししません!大丈夫ですよ…実際虫の息だった私は彼女に救済されました…彼女は伝説の巫女…桃子姫様の再来なのですよ!」
八正道は必死に誤解であると主張するものの…。武士団の将兵達は八正道の発言に猛反発する。
「何を!?貴様…女人の妖怪を庇護するのか!?何が桃子姫の再来だ!」
「貴様は何たる出鱈目を…無数の妖怪達によって俺達の戦友達は勿論!大勢の町民達が醜悪なる妖怪達に食い殺されたのだぞ…極悪非道の妖怪を庇護する貴様も同罪だ!」
「誰が貴様の発言を信用出来るか!女人の妖怪を庇護するのであれば僧侶の貴様も斬首するぞ!」
絶望的状況下であり誰しもが八正道の発言を信用出来なかったのである。最早絶体絶命かと思いきや…。一人の老人が無言の桜花姫に近寄る。若齢の修行僧が動揺した様子で恐る恐る…。
「えっ…貴方様は一体?」
二人の修行僧達も老人に動揺したのである。
「貴方は最長老様ですか!?」
最長老の一言に八正道も反応する。
「えっ?最長老様って…」
老人は僧侶達の最長老だったのである。すると若齢の修行僧が恐る恐る…。
「最長老様!此奴は人間の女性に擬態した極悪非道の妖怪なのですよ!近寄れば最長老様が女人の妖怪に食い殺されます!」
すると最長老は若齢の修行僧に睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨する最長老に周囲の修行僧達は沈黙する。
「安心しなさい…妖気は感じられても…彼女からは邪気も殺意も感じられないから大丈夫だよ…彼女は人畜無害だ…」
「えっ…本当に此奴は大丈夫なのか!?」
最長老の発言に修行僧達は勿論…。武士団の将兵達も制止し始める。最長老は再度桜花姫を凝視する。
「貴女からは伝説の巫女…桃子姫様の気配が感じられます…ひょっとして貴女様は桃子姫様の再来なのでしょうか?」
「えっ!?彼女が伝説の巫女…桃子姫様の再来ですと?」
「先程の八正道様の発言は…事実だったのですか?」
最長老の発言に三人の修行僧達は驚愕したのである。すると無言だった桜花姫が発言し始める。
「私は人間の巫女の桃子姫と…数多の妖怪達が一体化した存在なの…所謂魑魅魍魎の集合体なのよね…」
「桃子姫様は大妖怪との死闘で生死不明でしたが…桃子姫様は妖怪の集合体として活動されたのですね…」
八正道は恐る恐る最長老に問い掛ける。
「最長老様は実際に伝説の巫女である桃子姫様と対面されたのですか?」
「勿論生前の桃子姫様とは対面したとも…一度だけだがね…」
最長老は即答する。
「彼女は俗界の女神様に相応しい唯一無二の女性だったよ…正真正銘絶世の美女だったね…」
最長老は戦乱時代末期の人物であり生前の桃子姫と対面した唯一の僧侶である。
「こんな場所で桃子姫様の面影を感じる人物に遭遇出来るなんて…私は幸福です…」
最長老は桃子姫の瓜二つである桜花姫との遭遇に感動したのか涙腺から涙が零れ落ちる。落涙する最長老に桜花姫は困惑…。
「えっ…はぁ…」
『最長老は号泣しちゃったけど…私は如何すれば?』
落涙する最長老に桜花姫は苦笑いしたのである。一方の八正道は疲れ果てたのか全身が脱力する。
「如何やら…大丈夫そうですね…」
最長老の介入により最悪の事態は回避出来…。
『最長老様…感謝しますよ…』
八正道は一安心したのである。すると最長老は笑顔で…。
「八正道よ♪彼女は誰よりも温厚篤実の妖怪だ…貴殿は確りと彼女を援護しなさい♪」
「勿論ですとも♪最長老様♪私は彼女に精一杯尽力しますよ!」
八正道は恐る恐る桜花姫を直視する。
「桜花姫様♪私と一緒に東国に出現した妖怪達を退治しましょう♪」
「私は一先ず消耗しちゃった妖力を回復させないとね…」
桜花姫と八正道は主戦場の東国中心街へと突入したのである。東国の中心街には其処等に肉片やら血肉が散乱…。無数の妖怪達が徘徊したのである。
『悲惨だな…』
無数の悪食餓鬼が数人の町民に殺到…。彼等は無我夢中に人肉を捕食したのである。戦慄の光景であったが…。
「猛反撃開始よ♪」
桜花姫は笑顔で食中の悪食餓鬼に近寄る。
「桜花姫様…」
すると徘徊中の悪食餓鬼が二人に気付いたのか数体の悪食餓鬼が二人に接近する。
「桜花姫様!悪食餓鬼です!反撃しましょう!」
「悪食餓鬼は私一人で片付けるわ♪」
「えっ?」
「私は妖力を回復させたいからね♪」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
数体の悪食餓鬼を大好きな桜餅に変化させたのである。
「悪食餓鬼が桜餅に…」
「私にとって悪食餓鬼は単なる餌食だからね♪」
桜花姫は桜餅に変化させた悪食餓鬼を頬張り始める。
「えっ…」
『桜花姫様は正気なのか?妖怪としては正常なのだろうか?』
生理的に無理なのか八正道は桜花姫が桜餅を頬張る様子に気味悪くなる。
「はぁ…食事中に…」
「如何やら妖怪達の新手ですね…」
すると今度は無数の悪食餓鬼が一体化した百鬼悪食餓鬼が五体も出現したのである。
「桜花姫様…百鬼悪食餓鬼が五体も出現しました…」
「大物が五体も出現したわね♪好都合だわ♪」
百鬼悪食餓鬼の出現に桜花姫は大喜びする。すると五体の百鬼悪食餓鬼は体表の悪食餓鬼の口先から猛毒の瘴気を放射…。民家の木材やら地面の表土が腐敗したのである。
「黒煙でしょうか?」
「此奴は瘴気よ!八正道様!絶対に呼吸しないでよ!」
「承知しました!桜花姫様!」
八正道は一時的に呼吸を停止させる。
『桜花姫様は空気中の正気を体内に吸収しても大丈夫なのか?』
桜花姫は妖怪であり猛毒の瘴気が体内に潜入しても大丈夫だったのである。基本的に妖怪が放射する瘴気は人間には猛毒である反面…。同族の妖怪に使用しても毒死しない。
「反撃しちゃうわよ♪」
桜花姫は浄化の妖術を発動…。桜花姫の発動した浄化の妖術により百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化されたのである。
「八正道様♪百鬼悪食餓鬼の瘴気は浄化したわ♪呼吸しても大丈夫よ♪」
「感謝します…桜花姫様…」
「今度は♪」
五体の百鬼悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。五体の百鬼悪食餓鬼は桜花姫の大好きな桜餅に変化させる。
「桜花姫様…今度も桜餅ですか…」
八正道は苦笑いしたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させないとね♪」
桜花姫は桜餅に変化した百鬼悪食餓鬼を捕食…。美味しそうに頬張る。
『桜花姫様…悪食だな…』
桜花姫の悪食に八正道は絶句する。
「折角だし♪八正道様も桜餅を食べないかしら?中身は妖怪だけど桜餅は絶品よ♪」
「えっ…私は遠慮しますよ…」
八正道は苦笑いした様子で拒否したのである。
「美味しいのに残念ね…」
『姿形は桜餅でも…妖怪なんて絶対に食べられませんね…』
八正道は内心気味悪くなる。
「満足♪満足♪妖力も万全よ♪」
桜餅を頬張った影響からか桜花姫は消耗した妖力が回復したのである。
「桜花姫様…移動しましょう…ん?」
近辺より強大なる妖気を感じる。
「八正道様も感じるのね…大妖怪の妖気を…」
「二体の大妖怪の妖気でしょうか?如何やら両者は戦闘中みたいですね…一人は羅刹女の妖気でしょうが…相手方の妖気は何者でしょうか?」
「相手方の妖気は恐らく…南国の鬼神…月影夜叉王の妖気でしょうね…」
「えっ!?」
月影夜叉王の名前に八正道は驚愕したのである。
「月影夜叉王ですと!?」
「別に驚愕しなくても…」
「誰だって驚愕しますよ…月影夜叉王は戦乱時代に活躍された歴史的人物なのですからね!」
「死人だった夜叉王は羅刹女に大妖怪として復活させられたみたいなの…」
「夜叉王は妖怪化されたのですか…生前では月影夜叉王は極悪非道の人物だと認識されますからね…非常に厄介でしょう…ですが如何して両者は仲間同士で戦闘を?単純に仲間割れでしょうか?」
「理由は不明だけど二人を放置は出来ないわ…移動しましょう!八正道様…」
「勿論ですとも!桜花姫様!」
桜花姫と八正道は即座に二人の妖気を感じる場所に移動を開始する。数分後…。木材の瓦礫やら破壊された民家が十数軒確認出来る。
「うわぁ…民家が…ひょっとして二人の妖気が影響したのでしょうか?」
「こんな程度…序の口よ…」
「えっ…序の口ですと…」
直後…。八正道は空気が重苦しくなったのか深呼吸が目立ち始める。
「八正道様?大丈夫なの?」
桜花姫は八正道を心配したのである。
「失礼…心配させましたね…桜花姫様♪私なら大丈夫ですよ…」
八正道は苦笑いの表情で返答する。
「ですが正直…大妖怪が放出する妖気は人間には悪影響ですね…」
八正道は絶大なる法力を所持する僧侶の一人であるものの…。大妖怪の妖気は僧侶の彼でも非常に辛苦であり害悪だったのである。すると桜花姫は恐る恐る…。
「八正道様…無理強いしないわ…無理そうなら私一人でも…」
「大丈夫ですよ…桜花姫様!極悪非道の妖怪征伐は私の使命なのですから…私は一人の僧侶として桜花姫様に協力します!」
八正道は責任感が人一倍根強く自身は大丈夫であると断言する。
「八正道様…」
数秒後である。二人は目的地へと到達する。
「えっ?」
「なっ!?」
目的地には殺伐とした二体の大妖怪が対峙したのである。
「羅刹女と…月影夜叉王だわ…」
すると直後…。羅刹女と夜叉王は部外者の桜花姫と八正道に気付いたのである。
「ん?貴様達は?」
「貴様達は弱小妖怪の桜花姫と…桜花姫の加勢で命拾いした人間の僧侶か?」
「貴女様は羅刹女ですね…如何して大妖怪の貴女様がこんな場所に?羅刹女は一体何が目的なのですか?」
八正道は恐る恐る羅刹女に問い掛ける。
「何が目的なのか?当然として…妖怪達による地上界の天下統一に他ならない…」
羅刹女は全国各地の妖怪達を呼応…。天球神国の人口密集地である東国の中心街を総攻撃したのである。
「妖怪達による地上界の天下統一ですって?」
羅刹女は再度夜叉王を直視する。
「月影夜叉王よ…邪魔者が二人も参上したからな…貴様を仕留めるのは後回しだ…私は一時退散する…」
羅刹女の姿形が消滅したのである。
「羅刹女!?俺との真剣勝負を放棄するとは…」
「彼女…逃げちゃったわね…」
すると直後…。夜叉王は桜花姫と八正道に睥睨したのである。
「貴様等…」
「えっ?何よ?夜叉王…」
二人は夜叉王に警戒するのだが…。夜叉王は妖力で実体化させた雷光の妖刀を消失させたのである。
「あんたは…私達に手出ししないの?」
「今現在の俺に貴様等を仕留める理由は存在しないからな…今現在の俺の敵対者は羅刹女…彼奴だけだ…」
自分達を敵対視しない夜叉王に桜花姫と八正道は意外であると感じる。八正道は恐る恐る夜叉王を直視…。
『月影夜叉王の肉体からは妖力と邪気は勿論ですが…僅少の人気を感じられますね…月影夜叉王は一人の人間が妖怪化した特例の妖怪なのでしょうね…』
夜叉王は一人の人間が妖怪化した存在であり一人の人間と無数の妖怪達が融合化した桜花姫とは別物である。八正道は恐る恐る夜叉王に問い掛ける。
「夜叉王様?如何して貴方は主君である羅刹女に敵対視するのですか?妖怪であったとしても…彼女は貴方の仲間ですよね?」
「妖怪の彼奴が俺の仲間だと?愚か者が…」
夜叉王は失笑したのである。
「俺に妖怪の仲間なんて最初から存在しない…彼奴は俺を完全なる妖怪として復活させたが…俺は彼奴に服従する理由は存在しないし…何よりも俺は気紛れだからな…気に入らなければ相手が人間だろうと…女人の大妖怪だろうと打っ殺す…誰も俺には命令出来ないのだ…」
『此奴…自由奔放なのね…』
桜花姫は夜叉王の発言に苦笑いする。
「貴様等…今回だけは見逃すが…俺が気に入らなければ部外者である貴様等も打っ殺すから覚悟しろよ…」
夜叉王の警告するのだが一方の桜花姫は笑顔で…。
「今度は本気で私と勝負しない♪夜叉王♪」
「えっ!?桜花姫様!?夜叉王と勝負なんて本気ですか!?」
桜花姫の発言に八正道は畏怖したのか身震いする。
「桜花姫様は本気なのですか?相手は本物の大妖怪ですよ…」
「私は本気よ♪八正道様♪」
問い掛けられた桜花姫は再度笑顔で返答したのである。
「貴様との本気の真剣勝負か…大妖怪の俺と勝負したければ羅刹女を相手に殺されるなよ…桜花姫…」
『此奴との真剣勝負か…面白そうだな…桜花姫♪』
内心夜叉王も桜花姫とは真剣に勝負したくなる。
「あんたこそ♪死なないでよ♪夜叉王♪」
すると直後である。
「ん?」
「何かしら?」
「火球ですよ!」
「火球ですって?」
無数の火球が上空より飛来…。砲弾みたいに中心街の各地へと落下したのである。一発の火球が桜花姫一同の方向へと落下する。火球が落下する直前…。夜叉王は雷撃の結界を発動したのである。雷撃の結界により間一髪火球を無力化する。
「此奴は妖怪の仕業だな…羅刹女の新手か?」
無数の火球が東国の各地に落下…。爆撃されたのである。
「如何やら火球は東方の方角ですね…東海から妖気が感じられます…」
「妖気は海面上からね…」
すると八正道は恐る恐る…。
「東海の妖怪は私が対応しましょう…」
「えっ?八正道様?」
「桜花姫様は羅刹女を仕留めるのです…」
八正道は東方の海辺へと直行したのである。
「八正道様!?」
突然の別行動に桜花姫は困惑する。背後より…。
「えっ?」
恐る恐る背後を警戒したのである。背後には巨大能面の付喪神…。器物妖怪の小面蜘蛛が三体も出現したのである。
「器物の妖怪…小面蜘蛛!?」
『三体も出現するなんて…』
桜花姫は極度の苦手意識からか三体の小面蜘蛛の出現に畏怖する。
「貴様…普段は強気なのにこんな雑魚妖怪を相手に戦慄するとは意外だな…」
器物妖怪の小面蜘蛛にはあらゆる妖術が通用せず…。妖力を吸収する性質から桜花姫とは相性が最悪である。
「此奴は妖怪の天敵なのよ…大妖怪のあんただって…」
「妖怪達の噂話では貴様の戦法は妖術ばかり…身体能力は雑魚らしいな…」
「なっ!?」
『私を雑魚ですって!』
夜叉王の発言には内心苛立ったものの…。自身の身体能力が脆弱なのは事実であり反論出来ない。
「三体の小面蜘蛛は俺が相手する…羅刹女は貴様が片付けるのだな…」
「承知したわ…夜叉王…」
桜花姫は即座に羅刹女の妖気を感じる場所へと直行したのである。同時刻…。東方の海辺へと直行した八正道は海岸へと到達する。
「海中から絶大なる妖気と邪気が感じられますね…」
海面上には何も存在しないのだが…。
「妖気は非常に強力ですね…」
直後である。
「なっ!?」
突如として海面上より推定二町もの巨大坊主頭が出現…。海面上から出現した巨大坊主頭は海岸の八正道を凝視する。
『此奴はひょっとして…』
巨大坊主頭は海中から八本もの巨大触手が確認され…。全体的に巨大真蛸らしき姿形だったのである。
「水難妖怪の…海難入道か?予想以上の巨大さだな…」
巨大坊主頭の正体とは水難妖怪…。巨体の海難入道だったのである。海難入道は大妖怪よりは若干下回る妖力であるものの…。海中では最上位の妖怪である。現段階では海中で海難入道に対抗出来る海中の妖怪は存在しない。
「貴様は命知らずの人間の僧侶か?」
すると海難入道が人語で発言する。
『人語とは…海難入道は人間と会話が出来るみたいですね…』
八正道は恐る恐る海難入道に問い掛ける。
「先程…東国の中心街で無数の火球を発射したのは海難入道ですか?」
「であれば如何する?人間の僧侶よ…何方にせよ非力の貴様は俺に殺される運命なのだ…大人しく俺に殺されろ!」
海難入道は海面上より複数の触手を出現させ高熱の火球を発射したのである。
『元凶は海難入道だったか…』
八正道は法力を発動…。
「はっ!」
法力の結界を形作り海難入道の火球攻撃を無力化したのである。
「法力で俺の攻撃を無力化するとは…貴様は上位陣に君臨する僧侶だな…」
海難入道は触手で攻撃する。
「今度は直接!貴様を粉砕する!覚悟しろ!」
触手が八正道の頭上に接触する直前…。
「ん?」
八正道は法力の結界で海難入道の触手を無力化する。
「命拾いするとは…人間の僧侶…」
「今度は私が反撃しますよ!海難入道!」
八正道は氷結の法術を発動…。
「なっ!?」
海難入道は規格外の巨大さであるが八正道の発動した氷結の法術により一瞬で氷結したのである。
「成仏せよ…」
氷結した海難入道は一瞬で肉体が崩れ落ちる。
「一先ずは安心ですね…」
海難入道を仕留めた八正道は一安心する。
第七話
血戦
大陸の大妖怪羅刹女は単独で東国の根城へと潜入したのである。根城の防衛網は厳重であったが羅刹女は絶大なる妖力により城内の将兵達を徹底的に仕留める。羅刹女は城内を移動中…。
「ん!?侵入者だと!?」
「如何してこんな場所に人間の女子が!?」
二人の将兵が羅刹女に殺到する。
「命知らずの雑兵が…」
羅刹女は妖刀を一振り…。二人の将兵を両断する。
「人間程度で私に挑戦するとは…自殺行為だな…」
周囲の将兵達は羅刹女に戦慄する。
「此奴は女人の妖怪だ…」
「殺されるぞ!逃げろ!」
将兵達は羅刹女から逃走するものの…。
「私からは誰一人として逃げられない…愚劣なる人間達は皆殺しだ…」
羅刹女は金縛りの妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は身動きを封殺されたのである。
『えっ…一体何が!?』
将兵達は必死に肉体を動かそうと踏ん張るのだが…。
『身動き出来ない…俺達は妖術で身動き出来ないのか?』
直後である。
「死滅しろ…愚劣なる人間風情…」
羅刹女は念力の妖術を発動する。すると金縛りの妖術で身動き出来なくなった将兵達の全身が肥大化…。破裂したのである。室内全域には彼等の肉片やら血肉が飛散する。
「他愛無いな…」
羅刹女は移動を再開するのだが…。前方の通路より火縄銃を所持した将兵達が並列したのである。
「火縄銃か?」
すると侍大将らしき人物が発言し始める。
「此奴は異国で伝来された最新式の銃火器だぞ!」
鉄砲隊は即座に火縄銃に弾丸を装填…。
「鉄砲隊!女人の妖怪に狙撃せよ!」
鉄砲隊は羅刹女に発砲したのである。火縄銃の銃弾が数発…。羅刹女の肉体に直撃したのである。
「直撃だ!女人の妖怪を射殺出来たか!?」
銃弾の直撃した傷口からは鮮血が流れ出るものの…。羅刹女は平気なのか無表情だったのである。
「ん?」
「此奴…銃弾が直撃したのに平気なのか!?」
将兵達は銃弾が直撃しても平気そうな羅刹女に畏怖する。
「火縄銃とは…所詮はこんな程度か?」
すると直後…。羅刹女は体内の銃弾を無理矢理に抉り出したのである。
「残念だったな…こんな豆鉄砲では私は殺せないぞ…」
銃弾による傷口が一瞬で治癒する。
「此奴…」
火縄銃の通用しない羅刹女に侍大将は苛立ち始める。
「狼狽えるな!再度狙撃しろ!女人の妖怪を仕留めるのだ!」
「鬱陶しい奴等だ…」
羅刹女は妖術を発動する。
「えっ?」
侍大将と鉄砲隊の将兵達の頭部が肥大化…。破裂したのである。
「人間の武器が大妖怪である私に通用するか…」
羅刹女は根城の最上層へと移動する。
「なっ!?女人か!?」
最上層には十数人もの大名達は勿論…。二十数人の将兵が大名達を護衛する。突然の羅刹女の出現に彼等は驚愕したのである。
「貴殿は一体何者だ!?」
大名の一人が羅刹女に問い掛ける。
「私は…大妖怪…羅刹女だ…」
「羅刹女って…」
大妖怪と名乗る羅刹女に周囲の者達は畏怖したのである。
「大妖怪…羅刹女だと!?」
「此奴は大陸の妖怪なのか!?」
「貴殿は女人に変化したのか!?」
護衛の将兵達は即座に抜刀する。
「女人の妖怪!覚悟しろ!」
三人の将兵が羅刹女に殺到したのである。
「雑魚の分際で…」
羅刹女は鎌鼬の妖術を発動…。羅刹女は何も身動きせず三人の将兵は全身が小刻みに粉砕されたのである。
「うわっ!三人の将兵が…」
「妖術なのか!?」
羅刹女の妖術に周囲の者達は恐る恐る後退りする。すると一人の大名が恐る恐る…。
「城内の兵卒達は…」
「奴等か…私が一人ずつ徹底的に殲滅したからな…貴様達がこんな場所で待機し続けても兵卒達は誰一人として戻らないぞ…」
「全滅だと!?」
「狼狽えるな…此奴を殲滅せよ…」
小柄の大名が弱気で将兵達に殲滅を指示する。大名が羅刹女の退治を命令するものの…。護衛の将兵達は羅刹女の妖術に戦慄したのか身動き出来ない。
「貴様達!此奴を殲滅しないか!羅刹女は東国のみならず…天球神国にとって最大の脅威なのだぞ!」
すると戦意喪失した一人の将兵が恐る恐る…。
「無理ですよ…こんな怪物…俺達では如何にも…」
羅刹女の妖力を直視した彼等は完全に戦意喪失したのである。羅刹女は戦意喪失した将兵達に…。
「貴様達…安楽死せよ…」
羅刹女は吸魂の妖術を発動したのである。直後…。周囲の将兵達は霊魂を吸収され即死したのである。
「なっ!?将兵達が…」
将兵達の全滅に大名達は絶望する。
「私達は…死にたくない…」
「貴殿は何が目的なのだ!?」
「大妖怪の貴殿には村里?一国を授与するぞ…」
羅刹女は呆れ果てる。
「一国だと?問答無用だ…人間は殲滅すべき対象なのだ…」
彼女が東国の大名達を殺害する同時刻…。西国の村里では妖怪達が羅刹女と彼女の部下達による東国襲撃の噂話で狂騒する。
『妖怪達…随分と物騒ね…一体何事かしら?』
桜花姫の悪友である粉雪妖怪…。雪女郎は西国の村里に聳え立つ真夜中の妖怪歓楽街を一人で出歩いたのである。すると彼女の周囲より…。
「姉ちゃんよ♪」
「えっ?あんた達は?」
雪女郎の周囲には一体の赤鬼と四体の小鬼が彼女を包囲する。
「姉ちゃんは可愛らしいな♪」
「折角だし…姉ちゃんは俺達と一緒に夜遊びしないか?」
「俺達と一緒に東国で人間を打っ殺し…人肉でも味見しないか♪」
『うわっ…面倒臭いわね…』
彼等の問い掛けに雪女郎は呆れ果てる。
「はぁ…あんた達…夜遊びしたかったら私以外の女人妖怪と夜遊びすれば?私は常日頃から大忙しなの…悪いけど私以外の女人妖怪と夜遊びしなさい…」
「此奴!生意気だな!」
親玉らしき赤鬼の妖怪が苛立ったのか金棒で雪女郎に打撃するのだ…。雪女郎は打撃される直前に粉雪分身の妖術を発動したのである。
「兄貴…此奴は粉雪ですぜ…」
打撃された雪女郎の分身体は粉雪へと変化…。簡単に崩れ落ちる。
「此奴…分身の妖術で…」
すると彼等の背後より…。
「あんた達…鬱陶しいわね…」
「兄貴!此奴は生意気だ…全員で小娘を打っ殺そうぜ!」
「此奴は全員で袋叩きだ!」
四体の小鬼も金棒を所持したのである。
「はぁ…仕方ないわね…」
雪女郎は氷結の妖術を発動…。赤鬼と四体の小鬼の下半身を氷結させたのである。
「なっ!?下半身が突然…姉ちゃんは一体何を!?」
彼等は突発的に氷結した自身の肉体に吃驚する。
「私は粉雪妖怪の雪女郎なのよ♪あんた達程度で私に手出しするなんて無謀なの♪即刻出直しなさい♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖怪の雪女郎の姉貴なのかよ!?」
雪女郎は西国では著名の妖怪であり彼女の妖力は強者の部類だったのである。
「今回は見逃しちゃうけれど…今度は容赦しないからね…」
雪女郎は氷結の妖術を解除する。
「失礼しました!雪女郎の姉貴!」
親玉の赤鬼は勿論…。子分である四体の小鬼は即刻雪女郎に謝罪したのである。
「あんた達?桜花姫の居場所は知らないかしら?」
「桜花姫の姉貴ですかい?」
雪女郎の問い掛けに親玉の赤鬼が返答する。
「桜花姫の姉貴なら東国で暴れ回ったって噂話ですぜ…詳細は不明ですが…」
桜花姫が東国で各地の百鬼夜行と暴れ回ったとの噂話は各地方に出回る。
「何しろ桜花姫の姉貴は大妖怪の羅刹女を相手に…喧嘩を吹っ掛けやがったらしいからな…」
「桜花姫は東国にね…」
『彼奴…』
桜花姫の様子が気になるのか雪女郎は即座に東国への移動を開始したのである。
『羅刹女に喧嘩を吹っ掛けるなんて…桜花姫は馬鹿ね…』
雪女郎は正直億劫に感じるものの…。桜花姫は大昔からの悪友であり放置は出来ない。西国の村里から移動してより一時間が経過する。
「東国に到達したわね…」
雪女郎は東国の郊外へと到達したのである。東国の中心街からは無数の妖気と邪気は勿論…。多数の鮮血と死骸の悪臭が東国郊外にも蔓延したのである。
「主戦場ね…」
中心街からは無数の火の粉が確認され…。大勢の町民達の悲鳴が響き渡る。雪女郎は両国橋を通過…。東国の中心街へと進入する。
「悪趣味ね…」
殺害された数人の町民達の遺体に十数体もの悪食餓鬼が殺到…。彼等が生身の人肉を捕食する場面を直視したのである。
「生身の人肉なんて…美味しくないでしょうに…」
雪女郎は悪食の悪食餓鬼に嫌悪する。
「鬱陶しいわね…」
人肉を咀嚼する悪食餓鬼に気味悪くなったのか雪女郎は彼等に氷結の妖術を発動…。彼等の肉体は一瞬で氷結したのである。
「死滅しなさい…」
氷結した悪食餓鬼の肉体は崩れ落ちる。すると直後である。周囲で徘徊中だった無数の悪食餓鬼が雪女郎を直視…。彼女に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等ね…」
雪女郎は再度氷結の妖術を発動する。悪食餓鬼は即座に氷結…。肉体が崩れ落ちる。
「あんた達程度で私に挑戦するなんて無謀なのよ…」
『桜花姫はと…』
桜花姫の居場所に移動する直前…。近辺より大妖怪の妖気と三体の中堅妖怪の妖気を察知する。
『えっ!?大妖怪の妖気だわ…』
「ひょっとして…」
大妖怪の出現に雪女郎は身震いしたのである。
「私…西国に戻ろうかな?」
雪女郎は自身が場違いであると自覚し始める。
「如何しましょう?私…」
雪女郎は西国の村里に戻ろうかと困惑するものの…。戦闘の様子が非常に気になるのか大妖怪の妖気を感じる場所へと移動する。雪女郎は恐る恐る民家の物陰から様子を注視したのである。
『何かしら?』
周囲は破壊された十数軒もの木造の建造物が確認され…。一人の甲冑の武人と三体の巨大人面蜘蛛が確認出来る。
「妖怪だわ…交戦中なのかしら?」
『武士から其処等の妖怪とは比較出来ない妖気を感じるわ…妖気の正体は武士だったのかしら?』
雪女郎は武人の妖怪を凝視し続けた直後…。
『ひょっとして彼奴!?先日西国の村里で遭遇した…月影夜叉王かしら!?』
甲冑の武人とは先日遭遇したばかりの大妖怪の月影夜叉王だったのである。
『如何して夜叉王がこんな場所に!?相手は付喪神の小面蜘蛛よね!?私達妖怪にとって小面蜘蛛は天敵なのに…彼奴は一人で三体の小面蜘蛛を仕留められるのかしら?』
雪女郎は正直夜叉王が無茶であると感じるのだが…。夜叉王は護身用の懐刀を抜刀したのである。
『えっ!?彼奴…懐刀だけで…』
「小面蜘蛛を相手に無茶でしょうに…」
雪女郎は呆れ果てる。直後…。
「貴様達は妖怪の天敵であるとの噂話だが…懐刀だけで事足りる…」
夜叉王は神速の身動きにより三体の小面蜘蛛を懐刀だけで瞬殺したのである。
「楽勝だ…所詮は雑魚妖怪だったな!」
夜叉王は妖力を使用せず懐刀のみで小面蜘蛛の胴体部分に刺突…。三体の小面蜘蛛を仕留める。護身用の懐刀だけで三体の小面蜘蛛を仕留めた夜叉王に雪女郎は恐る恐る後退りしたのである。
『彼奴…懐刀だけで…小面蜘蛛の三体を一瞬で仕留めちゃったの…』
雪女郎は夜叉王の実力に圧倒され戦慄する。すると直後である。
「ん?妖怪の新手か?」
夜叉王は物陰の雪女郎に気付いたのか神速の身動きにより雪女郎の背後へと移動したのである。
「きゃっ!」
突然の夜叉王の出現に雪女郎は吃驚する。
「貴様は…西国の村里で遭遇した…粉雪妖怪の雪女郎か?」
「あんたは…月影夜叉王よね?妖怪化した人間妖怪のあんたが…三体の小面蜘蛛を瞬殺しちゃうなんてね…正直意外だわ…」
「小面蜘蛛は妖力さえ使用しなければ単なる雑魚妖怪だ…貴様達純血の妖怪は自身の妖力を過信し過ぎだ…」
すると雪女郎は恐る恐る…。
「あんたは今度如何するのよ?夜叉王?ひょっとしてあんたは私を…」
雪女郎の問い掛けに夜叉王は呆れ果てる。
「貴様みたいな雑魚妖怪を仕留めても無意味だ…」
「はっ?」
『粉雪妖怪の私を雑魚妖怪ですって!?』
雑魚妖怪の一言に雪女郎は苛立ったのである。
「俺は大妖怪羅刹女の奮闘を見届ける…」
「えっ!?羅刹女を見届けるって!?」
「貴様は羅刹女に挑戦するのか?」
問い掛けられた雪女郎は即座に否定する。
「面白くない冗談ね…大妖怪の羅刹女に挑戦するなんて凡庸の私には絶対無理よ…自殺行為だわ…」
返答する雪女郎に…。
「当然だろうな…貴様みたいな雑魚妖怪が一人で羅刹女に挑戦したとしても瞬殺されるだろうからな…」
「なっ!?私を粉雪妖怪の雑魚妖怪ですって…」
『此奴!一言余計なのよ!』
夜叉王の発言に内心腹立たしくなる。
「補足だが…女人の妖怪…桜花姫も大妖怪の羅刹女を征伐しに出掛けたぜ…彼奴が羅刹女に勝利出来るかは保証出来ないけどな…」
「私は即刻桜花姫に加勢するわ!折角だし…あんたも私と一緒に同行しない?」
「俺は…」
夜叉王は一瞬沈黙するが…。
「暇潰しだ…桜花姫の奮闘も見届けるか…」
「交渉成立ね♪」
「仕方ないな…」
雪女郎と夜叉王は大妖怪の妖気を感じられる中心地の根城へと直行したのである。二人が移動を開始した同時刻…。東国武士団の根城へと移動した桜花姫であるが道中に数人の匪賊達と遭遇する。
「よっ♪姉ちゃんよ♪」
「あんた達は何者よ?」
『面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?』
接触する匪賊達に苛立ったのである。
『こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…』
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒…。恐る恐る後退りしたのである。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちまえば姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若武者だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若武者ね…」
『匪賊の分際で何が若武者よ…』
桜花姫は彼等を軽蔑…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな片田舎の荒武者とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を片田舎の荒武者って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪姉ちゃんよ♪」
「姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって妖怪達に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…小娘…」
「相手は所詮人間の小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「私が人間の小娘ですって?」
『鬱陶しい奴等だわ…』
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。
『雨蛙に変身しちゃえ♪』
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視した直後…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「此奴は妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪妖怪の一人よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が噂話の…西国の妖怪桜花姫なのか!?」
「本物なのかよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させたのである。
「狼狽えるな!桜花姫が妖怪だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば妖怪の小娘だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
『人間に対する禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪』
匪賊の一人に人間に対する禁断の妖術を発動する。
『飴玉に変化しちゃえ…』
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の人間に対する禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化しやがったぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は再度…。即座に東国の根城へと移動したのである。移動を再開してより数分後…。桜花姫は根城の表門へと到達する。
『城内から大妖怪の妖気を感じるわ…』
「羅刹女…覚悟しなさいよ…」
桜花姫は表門から恐る恐る根城の城内へと進入したのである。
「うわぁ…」
城内の庭園は全体的に血塗れであり其処等に将兵達の肉片やら血肉が飛散する。
「恐らくは羅刹女の仕業ね…」
根城の最上層から大妖怪の妖気を感じる。
『大妖怪の妖気だわ…羅刹女ね…』
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。一瞬で根城の最上階へと移動したのである。最上階には斬殺された大名達の遺体が確認出来…。室内の中央には血塗れの刀剣を所持した羅刹女が確認出来る。
「あんたは羅刹女…」
「貴様は桜花姫か…怨敵の貴様が一番に私と遭遇出来たみたいだな…」
桜花姫は羅刹女を睥睨する。
「私を殺したいか?弱小妖怪の桜花姫…」
「如何やら私の体内に存在する…人間の巫女…桃子姫の血肉が無慈悲のあんたを征伐したいみたいよ♪私自身は特段羅刹女に対する執着は皆無だけどね♪」
「桃子姫だと?」
桃子姫の名前に羅刹女は一瞬反応したのである。
「大妖怪である私を弱体化させた病弱の巫女風情が…」
『桃子姫はこんな妖怪の小娘の体内で長生きし続けたのか…生命力だけなら油虫に匹敵するな…』
羅刹女は内心桃子姫の生命力を嫌悪する。すると桜花姫は両手より雷撃の妖術を発動…。羅刹女に雷撃したのである。
「こんな程度の妖術…」
羅刹女は自身の妖刀で桜花姫の雷撃を無力化する。
「私には通用しないぞ…」
羅刹女は両目を瞑目させる。
「桜花姫…貴様は無限の苦痛を存分に体感するのだ…」
直後である。桜花姫の視界が漆黒の暗闇に覆い包まれる。
「えっ…」
『幻術かしら?』
彼女の視界に存在するのは漆黒の暗闇ばかりか妖気すら感じられなくなる。
『妖気も感じられないなんて…』
羅刹女の駆使する幻術は妖気すら遮断させたのである。
『桜花姫…貴様は妖気すら感じられず…私の姿形も視認出来ないのだ…』
羅刹女は一歩ずつ身動き出来なくなった桜花姫に近寄り…。妖刀で桜花姫の腹部を刺突したのである。
「ぐっ!」
羅刹女の妖刀により腹部は貫通するが一瞬で再生する。
「貴様の肉体は不死身だが…貴様は半永久的に無限の苦痛を体感し続けるのだ…」
羅刹女は身動き出来なくなった桜花姫に何度も刺突し続けたのである。
「不死身の貴様は未来永劫封印するのが一番だな…早速…」
桜花姫に封印の妖術を発動する直前…。
「ぐっ!」
羅刹女の左手に雷光の刀剣が突き刺さったのである。
『雷光の刀剣だと?』
直後…。漆黒の暗闇が消失したのである。視界の暗闇が消滅すると桜花姫は羅刹女の幻術から解放されたのである。
「私…自由に身動き出来るわ♪」
「畜生が…邪魔者か…」
すると羅刹女の右側より…。
「羅刹女…残念だったな…」
「此奴が大妖怪の羅刹女なの?外見だけなら小柄の小娘みたいね…」
「あんた達は夜叉王と雪女郎♪」
大妖怪の夜叉王と粉雪妖怪の雪女郎が出現する。羅刹女は鬼神の形相で夜叉王を睥睨し始める。
「夜叉王…私の幻術を解除するとは…人間の貴殿を大妖怪として復活させたのは大間違いだったみたいだな…」
羅刹女は右手から超高温の火球を発射する。
「えっ!?」
「雪女郎!」
超高温の火球が夜叉王と雪女郎に直撃する直前…。突如として結界が出現すると超高温の火球から夜叉王と雪女郎を守護したのである。
「えっ?結界だわ…」
『妖気が感じられないわね…』
桜花姫の背後より…。
「如何やら間に合いましたね…桜花姫様!私も援護しますよ!」
「あんたは八正道様♪ひょっとして結界は八正道様が?」
「勿論私ですよ…」
雪女郎は驚愕した表情で八正道を直視する。
「えっ…人間の僧侶が…私達妖怪を?」
羅刹女も八正道を直視したのである。
「貴様…人間の分際で…妖怪達に加勢するとは…」
「妖怪だとしても!桜花姫様は人間の味方ですからね!恩返しですよ♪」
八正道は桜花姫が人間の味方であると断言する。
「何が人間の味方だ…所詮桜花姫は気紛れだろうに…」
羅刹女は八正道の発言を全否定したのである。すると直後…。
「油断大敵よ♪羅刹女♪」
「ん?」
桜花姫の両腕から真蛸の蛸足を連想させる触手を生成される。
「なっ!?」
桜花姫の両腕から生成された無数の触手は羅刹女の肉体を拘束したのである。
「ぐっ!」
羅刹女は桜花姫の体内から生成された触手によって身動き出来なくなる。
「羅刹女♪あんたの肉体…頂戴するわね♪」
「愚か者が…誰が貴様なんかに食い殺されるか…」
羅刹女は苦し紛れに幽体離脱の妖術を発動…。桜花姫に捕食される直前に本体である実体としての肉体から自身の霊魂を分離させたのである。羅刹女の肉体は桜花姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと捕食されたのである。
「桜花姫様♪黒幕の羅刹女を退治されたのですね♪一安心ですよ♪」
「最後は捕食だったけど…大妖怪の羅刹女を仕留めるなんてね♪桜花姫は妖力だけなら大妖怪に拮抗するわね♪」
八正道と雪女郎は大喜びするのだが…。桜花姫の表情が険悪化する。
「羅刹女は一時的に肉体と霊魂を分離させただけよ!油断しないで!」
「えっ!?肉体と霊魂の分離ですって!?」
「ひょっとして羅刹女は幽体離脱の妖術を駆使したのでしょうか!?」
一同は羅刹女の奇襲に警戒するものの…。本体から分離した羅刹女の霊魂の居場所が特定出来ず混乱したのである。
『一体如何すれば…』
羅刹女の姿形は勿論…。妖気と邪気を消失させた影響からか誰しもが彼女の霊体を特定出来ない。
『誰かが…羅刹女の霊体に憑依されるわ…』
すると直後…。
『桜花姫…桜花姫…』
何者かの美声が桜花姫の脳裏に響き渡る。
『えっ…誰なの?』
桜花姫の脳裏に響き渡る美声は女性であるが何者なのかは不明瞭である。
『あんたは誰なのよ?』
『私よ…桃子姫よ…』
美声の正体とは桜花姫の体内に永眠する人間の巫女…。桃子姫だったのである。
『あんたは桃子姫なの?』
すると桃子姫は恐る恐る…。
『桜花姫…私の霊能力を使用して…』
『えっ?あんたの霊能力を?』
『羅刹女の最大の弱点は霊能力よ…』
『あんたの霊能力が…羅刹女の弱点?』
生前の桃子姫は羅刹女との死闘で絶大なる霊能力により彼女を弱体化させたのである。結果的に羅刹女は仕留め切れなかったが…。彼女の弱体化には成功したのである。
『あんただったら大妖怪の羅刹女を仕留められるわ…私自身の霊能力を桜花姫に分け与えるわね…』
すると直後…。桜花姫は全身から瑠璃色の発光体が無数に出現したのである。
『ひょっとして…桃子姫の霊能力かしら?』
周囲の者達は桜花姫の肉体から発生する瑠璃色の発光体に注目する。
「桜花姫様の肉体から…」
「何かしら?妖力?随分異質的ね…」
瑠璃色の発光体は非常に神秘的であり八正道は勿論…。妖怪の雪女郎も瑠璃色の発光体に魅了される。
「霊力よ…」
桜花姫の肉体から発生した無数の発光体は桃子姫の霊力が実体化した超常現象である。生前当初の桃子姫は自身の霊力で極悪非道の妖怪達を退治…。浄化させたのである。
「霊力ですと?」
「霊力ですって?」
八正道と雪女郎は霊力の一言に反応する。
「羅刹女…覚悟なさい…」
桜花姫は霊力を混入させた変化の妖術を発動…。直後である。
「えっ!?桜餅だわ!?」
突如として雪女郎の目前より桜餅が出現する。
「如何して桜餅が出現したのですか?」
「私は羅刹女の霊体を桜餅に変化させたの♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「えっ!?桜餅は羅刹女なの!?」
「桜花姫様は変化の妖術で霊体さえも変化させられるのですか!?」
「勿論よ♪」
桜花姫の返答に周囲の者達は驚愕する。
「桜花姫…最早あんたは大妖怪をも超越した天道の化身ね…」
雪女郎は霊体をも桜餅に変化させた桜花姫を天道の化身と揶揄するのだが…。
「私が天道の化身なんて大袈裟ね♪」
『私が天道の化身ですって♪』
内心大喜びする。
「兎にも角にも…」
桜花姫は桜餅に近寄り…。桜餅を一口で平らげたのである。
「美味だわ♪」
すると八正道は恐る恐る…。
「ですが桜花姫様?如何して桜花姫様は巫女特有の霊力を駆使出来たのですか?桜花姫様の体内で一体何が発生したのでしょうか…」
「私が霊力を駆使出来た理由ですって…」
桜花姫は先程の出来事を洗い浚い周囲の者達に告白する。
「えっ!?巫女の桃子姫様が…桜花姫様に自身の霊力を分け与えられたのですか?」
「桃子姫は…羅刹女が雪女郎の肉体に憑霊するのを阻止したかったのよ…」
「えっ?彼奴…私に憑霊する寸前だったの!?」
雪女郎は身震いしたのである。
「私…下手したら羅刹女に憑依されたかも知れないのね…」
「兎にも角にも…羅刹女は仕留められたわ♪一安心ね♪」
東国を徘徊中だった大量の悪食餓鬼やら百鬼悪食餓鬼が羅刹女の消滅に影響されたのか砂粒へと変化…。彼等の肉体は崩れ落ちたのである。
「東国では妖気も邪気も何一つ感じられません♪私達は羅刹女の野望を阻止出来たのですね♪」
「はぁ…安心して西国の村里に戻れそうね♪桜花姫♪」
「西国に戻って精霊山の露天風呂に入浴するわよ♪」
直後…。
「えっ?」
突如として桜花姫の体内から半透明の巫女装束の女性が出現したのである。
「えっ!?桜花姫の肉体から人間の巫女が出現したわ…桜花姫?彼女は一体何者なのかしら?」
「此奴は誰だ?人間の巫女なのか?」
「貴女様はひょっとして…」
突如として出現した巫女の霊体に一同は再度驚愕する。
「あんたは桃子姫?」
桜花姫の問い掛けに桃子姫は背後を直視したのである。
「桜花姫♪感謝するわね♪私は無事…昇天出来そうなのよ…」
「桃子姫…昇天ですって?」
昇天の一言に桜花姫は反応する。
「貴女が私の因縁である羅刹女を征伐したからね♪今日で私の巫女としての役目は無事終了よ♪」
羅刹女と桃子姫は因縁の関係であり彼女は桜花姫が誕生して以降…。彼女の体内で半永久的に永眠し続けた状態だったのである。今回の戦闘で羅刹女が消滅してより…。彼女との因縁は完全に消滅したのである。
「桃子姫様…」
八正道は恐る恐る桃子姫に問い掛ける。
「貴方は八正道様…」
「先日は感謝します…桃子姫様…貴女様の霊能力で私は命拾い出来たのです…桃子姫様の救済は無ければ私は今頃…」
「貴方は今後…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を実現出来そうな人物だから…私にとっても…桜花姫にとっても貴方は必要なのよ…」
「私が…妖怪と人間が共存出来る理想の世界を…」
八正道は一瞬困惑するが…。
「実現させますとも♪桃子姫様♪約束しましょう…」
すると桃子姫の霊体が消滅し始める。
「如何やら…時間みたいね…」
夜叉王以外の者達が消滅し始める桃子姫に反応したのである。
「えっ…桃子姫…」
「桃子姫様?」
「彼女…消滅しちゃうわ…」
桃子姫は笑顔で…。
「最後だけど…桜花姫♪三十年間…今迄私は貴女と一緒だったけれども♪私は幸福だったわ♪天上世界でも…貴女を見守るからね♪」
桃子姫は笑顔の表情で消滅したのである。桃子姫が消滅した直後…。桜花姫の肉体から人間の気配が完全に消失したのである。
「桜花姫様…」
「桜花姫?」
普段は笑顔の絶えない桜花姫であるが…。彼女の涙腺より涙が零れ落ちる。
『えっ!?桜花姫様が…落涙されるなんて…』
『桜花姫でも…落涙するのね…』
落涙する桜花姫に八正道と雪女郎は驚愕したのである。
最終話
対決
大妖怪羅刹女と部下達の東国襲撃から一週間後…。妖怪騒動によって各地の村里は騒然としたが半月が経過すれば自然と沈静化したのである。羅刹女による大事件以降…。僧侶の八正道は妖怪達と人間達が共存出来る理想の世界の実現に活動を開始する。桜花姫の悪友である粉雪妖怪の雪女郎は西国の村里でのんびりと生活したのである。今回の大事件解決の功労者である桜花姫は大妖怪の羅刹女を捕食したのを契機に…。大妖怪へと昇格したのである。桜花姫は各地の妖怪達から畏怖され…。誰しもが大妖怪である彼女に手出し出来なくなったのである。大事件終結から一月が経過…。桜花姫は西国と東国の国境へと移動したのである。
「はぁ…退屈だわ…」
『面白そうな大事件でも発生しないかしら?』
羅刹女の妖怪大事件以降…。妖怪達による妖怪関連の怪異事件は減少したのである。妖怪関連の怪異事件が一件も発生せず桜花姫は正直憂鬱に感じる。
『近頃は妖怪達が大人しいわね…』
すると直後…。
「えっ?」
『気配だわ…』
突如として背後より不吉の気配を感じる。
「妖気だわ…」
気配の正体は妖気だったのである。
「相当強力ね…大妖怪の妖気かしら?」
大妖怪の妖気に桜花姫は警戒し始める。
「何が出現するのかしら?」
すると彼女の背後より…。
「えっ…あんたは?」
桜花姫の背後には鬼神を連想させる甲冑を装備した武士が佇立する。
「久方振りだな…大妖怪…桜花姫よ…」
『誰かと思いきや…』
「あんたは大妖怪…月影夜叉王ね♪」
武士の正体とは大妖怪の月影夜叉王だったのである。
「久し振りね♪月影夜叉王♪あんたが元気そうで安心したわ♪」
夜叉王との再会に桜花姫は大喜びする。
「私に用事かしら?夜叉王♪」
問い掛けられた夜叉王は無表情で桜花姫を凝視したのである。
「桜花姫…俺は全身全霊で最強の存在である貴様と勝負したくなった…今度こそ俺と本気で勝負しろ…」
「私と勝負ですって?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「俺と貴様は妖力が拮抗する…何方が俗界で最強の妖怪なのか…明確化する絶好機だからな…」
桜花姫は恐る恐る周囲を確認したのである。
『周囲に人気は感じられないわね…』
周囲に人気は皆無であり桜花姫は一安心したのか笑顔で…。
「私も退屈だったのよ♪夜叉王♪暇潰しに私と勝負しましょう♪」
「であれば好都合だ…桜花姫…」
夜叉王も桜花姫の返答に内心大喜びだったのである。
「今度は本領を発揮しなさいよ♪月影夜叉王♪」
「貴様に指摘されずとも…」
夜叉王は左手に雷光の刀剣を形作る。
「今回は全力を発揮する!貴様も全身全霊の妖力を発揮しろよ!桜花姫!」
「勿論よ♪私も全身全霊であんたと勝負したかったの♪今回は手加減しないからね♪」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
完結
第弐部
第一話
車輪
大妖怪羅刹女との大戦闘から半年後…。大妖怪へと昇格した桜花姫は退屈なのか家屋敷の居間で寝転んだのである。
「はぁ…退屈だわ…」
何一つとして事件らしい事件が発生せず…。桜花姫は毎日の日常生活が憂鬱だったのである。
「大事件でも発生しないかしら?」
すると何者かが家屋敷の戸口を強打する。
「えっ?何かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には一人の僧侶が佇立…。
「誰かと思いきや…あんたは八正道様?」
僧侶は誰であろう八正道だったのである。
「桜花姫様…大変です…」
八正道は騒然とした表情であり桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「何が大変なのよ?八正道様?」
「北国で大事件が発生しました…」
「北国で大事件ですって♪一体何が発生したのかしら♪」
大事件発生に桜花姫は大喜びする。
「近頃の出来事なのですが…」
三日前の出来事である。真夜中…。北国の田舎町にて火炎に覆い包まれた車輪が出現するとの噂話が北国全域に出回る。真夜中に火炎に覆い包まれた牛車の車輪と遭遇した目撃者は高熱によって死去したのである。
「火炎に覆い包まれた牛車の車輪ね…」
「今現在北国では村人達が付喪神の呪詛だと大騒ぎですよ…」
「付喪神ね…」
桜花姫は一瞬瞑目する。
「恐らくだけど…車輪の付喪神から判断して…器物妖怪の【輪入道】かしら?」
「輪入道ですと?」
輪入道とは霊体妖怪が牛車の車輪に憑依した付喪神である。輪入道も小面蜘蛛と同様に器物妖怪の一種とされる。一説によると戦乱時代の最中…。頭首を斬首された僧侶達の無念が妖怪化した存在とされ器物である牛車の車輪に憑依したのが輪入道とされる。
「輪入道は器物妖怪の一体ですか…遭遇した人間を呪殺出来るとは非常に厄介ですね…即刻輪入道を退治しなくては…」
「早速北国に移動しましょう♪」
桜花姫と八正道は即座に外出すると西国の村里から北国の田舎町へと移動したのである。二人は移動を開始してより一時間後…。二人は事件現場とされる北国の田舎町へと到達したのである。時間帯は昼間であり人通りは確認出来る。すると桜花姫は近辺の町民に問い掛ける。
「御免あそばせ♪」
「はぁ?娘さん…如何されましたか?」
「単刀直入だけど…北国に輪入道が出現したらしいのよね…」
すると直後…。
「ひっ!輪入道ですって!?」
町民は輪入道の一言に畏怖した様子で一目散に桜花姫と八正道から逃走し始める。
「えっ?町民は逃げちゃったわ…八正道様…」
「如何やら先程の町民の様子から判断して…北国の町民達にとって輪入道とは相当畏怖すべき存在なのでしょうね…輪入道の名前を傾聴するだけでも畏怖するとは輪入道の呪詛は相当危険なのでしょう…」
「面白そうね♪同種の妖怪にも輪入道の呪詛が通用するのかしら♪」
桜花姫は輪入道と遭遇したくなる。すると二人の背後より…。
「貴方達は国外の旅人みたいですね…」
長老らしき高年齢の男性が桜花姫と八正道に近寄る。
「えっ?誰なの?」
「貴方様は?」
「私は北国の長老で医者の身分です…」
「貴方様は医者ですか…」
医者の長老は恐る恐る…。
「今現在北国には極悪非道の妖怪が出現したのです…こんな場所で余所者の貴方達が長居し続ければ妖怪に遭遇して…外部の貴方達が妖怪に呪詛されましょう…」
医者の長老は二人に警告したのである。
「北国は危険地帯です…即刻戻られるべきかと…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私達の目的は北国に出現した妖怪に遭遇するのが目的なの♪」
「妖怪に遭遇ですと?」
今度は八正道が説明する。
「私達は北国に出現した妖怪を退治しに北国に参上したのです…」
「妖怪を退治ですか…」
医者の長老は二人を凝視し始める。
「貴方が法師様なのは理解出来るのですが…相方の娘さんは都会の小町娘でしょうか?彼女が極悪非道の妖怪を退治出来るのですかね?」
桜花姫の姿形から妖怪を退治出来るのか疑問視したのである。
「長老様…彼女は姿形のみなら人間の少女ですが…彼女の正体は妖怪なのです…」
八正道は桜花姫の正体が妖怪であると説明する。
「えっ!?彼女の正体が妖怪ですと!?本当なのですか?姿形のみなら人間の少女にしか…」
医者の長老は驚愕したのである。
「私は正真正銘妖怪なのよ♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「信じ難いでしょうからね…私が本物の妖怪だって事実を証明するわよ♪」
桜花姫は医者の長老が所持する薬袋に変化の妖術を発動…。直後である。長老の所持する薬袋が飴玉に変化したのである。
「なっ!?薬袋が…飴玉に!?」
突然の桜花姫の妖術に長老は驚愕する。
「如何かしら♪変化の妖術よ♪」
桜花姫は変化の妖術を解除させる。すると飴玉が薬袋に戻ったのである。
「理解出来たでしょう♪私が本物の妖怪だって♪」
医者の長老は桜花姫に畏怖すると恐る恐る後退りする。
「心配されなくとも大丈夫ですよ…長老様…彼女は妖怪ですが…半年前の東国の騒動では彼女が妖怪達を退治したのですよ…妖怪の親玉である羅刹女も彼女にとって退治されましたからね…」
八正道は半年前の妖怪騒動の経緯を告白したのである。
「妖怪である彼女が…同族の妖怪を退治したと?」
「私自身も最初は驚愕しましたが…彼女は正真正銘人間の味方ですよ♪」
八正道は笑顔で主張する。
「先程の妖術もですが…人間の法師様が主張されるのであれば私も妖怪の娘さんを信用しましょう…」
「私は桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で自身の名前を名乗る。
「私は僧侶の八正道です…」
八正道も名前を名乗ったのである。
「妖怪の娘さんが桜花姫様で…法師様が八正道様ですね…」
すると医者の長老は恐る恐る…。
「突然なのですが…」
「如何されましたか?長老様?」
医者の長老は二人を自身の家屋敷へと道案内したのである。
「えっ…」
「病人かしら?」
家屋敷に移動すると室内には十数人もの老若男女の患者達が高熱で寝転ぶ。誰しもが重苦しい深呼吸であり瀕死の状態だったのである。
「彼等は疫病の患者なのですが…全員妖怪に遭遇した当事者の家族なのです…」
輪入道の呪詛は真夜中に遭遇した当事者のみならず…。当事者の身内にも輪入道の呪詛が伝染したのである。
「疫病ですね…」
「十二人も絶命したのです…尽力しましたが治療法も存在しません…彼等も時間の問題でしょうね…」
長老は多種多様の薬品を使用するも…。効果は皆無であり三日間だけで十二人の患者が死去したのである。
「最早彼等を救済するには念仏以外…」
長老は涙腺から涙が零れ落ちる。
「長老様…」
八正道は絶句したのである。一方の桜花姫は無表情で目前の少女を凝視し続ける。少女は虫の息であり衰弱死寸前だったのである。
「彼女…」
桜花姫は恐る恐る少女の胸部に接触する。
「桜花姫様?一体何を?」
八正道は桜花姫に問い掛ける。数秒後…。虫の息だった少女の呼吸が正常に戻ったのである。
「なっ!?」
「現実なのか!?」
八正道と長老は驚愕する。少女は土気色だった顔色も正常に戻り始める。
「貴女様は一体何を?妖術なのですか?」
長老は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「私自身は妖怪の肉体だから大丈夫だけど…美味しくないわね…非力の人間が衰弱死するのは当然かしら…」
「桜花姫様は恐らく…妖術で少女の体内の毒素を吸収されたのでしょう…」
八正道は長老に説明する。
「毒素を吸収…」
八正道は桜花姫に依頼したのである。
「桜花姫様…貴女の妖術で患者達の毒素を吸収出来ませんか?」
「出来るけれど…」
桜花姫は内心不本意であるが…。彼女は各患者の皮膚に接触したのである。すると患者達の様子が正常化する。
「はぁ…」
桜花姫は草臥れたのか一息したのである。八正道は笑顔で…。
「桜花姫様♪感謝しますよ♪」
一方の長老も桜花姫に一礼する。
「感謝します!桜花姫様!」
「あんたは今度♪私に桜餅を頂戴しなさいね♪約束よ♪」
「承知しました♪」
長老は大喜びした様子で承諾したのである。
「患者達は大丈夫だけど…安静にさせるべきだわ…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると八正道は長老に問い掛ける。
「長老様…各地の噂話では北国に出現した妖怪は車輪の妖怪との内容なのですが…本当なのですかね?」
長老は恐る恐る…。
「患者達の証言では…牛車の車輪に人間の頭部が一体化した…異形の妖怪と遭遇したとの内容でしたね…ひょっとすると牛車の車輪の妖怪と目撃者達の疫病が関係するのかも知れませんね…」
桜花姫は恐る恐る発言する。
「恐らくだけど今夜も器物妖怪の輪入道が出現するでしょう…あんたは町民達に夜間の外出を禁止させて!人間が輪入道と遭遇すると最悪呪殺されるでしょうからね…」
「承知しました…桜花姫様…」
長老は桜花姫の指示を掌握する。
「私は…」
長老は外出すると田舎町の各家屋にて今夜の外出自粛を要請したのである。