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親父補完委員会((笑))【ゲンドウ
日時: 2011/10/25 23:53
名前: 何処

【ゲンドウ・心の向こう側−残渣−】


夢を見た。


懐かしい夢だった。


夢と言うより思い出か。

…否、夢物語の様な思い出だから夢かも知れない。

あれは何度目の事だったか、私が妻と映画館へ行った時の夢だ。

夢の中私は妻と映画を見ている。
妻と二人、ポップコーン片手に益躰も無い…いや、他愛ないストーリーを眺める。

隣には空虚な在り来たりの子供騙しを楽しむ妻。幸せに満ち日々の暮らしに充足した日常に育った女…

私は何故ここに…この女の隣に居るのだろう。

…自ら望んだ筈の存在になり居場所を得ながら、苛立ちを抑えられずに居心地の悪い椅子の上に身動ぎして一人背を伸ばす。

ふと掌を眺める。

何時でもこの掌が私を現実へ…過去へと引き戻す。
…あの地獄こそが私の現実だったから。

治療の甲斐無く倒れ行く飢えた難民、痩せ衰えこの手の内で息絶える子供、意味無く撃たれる市民、僅かな水と食糧の為身を売り盗み奪い殺し合う民衆、それを助長する狂信者共…

只一欠片の食糧が、只一錠の薬品が、只一本の注射が無いだけで目の前の死を避けられぬ人々を一体何人看取ったのだろう。

僅かな食糧の為子を売る親、援助物資を横流しする役人、薬品の注文書を書き換える上司、援助額を水増しする政府、支援の成果を吹聴する団体、これを機会に領土を狙う隣国、子供達を兵士に徴収する軍隊、利権に群がる企業…人間不信にもなろう。

…だが、私は彼等を笑えまい。自らの幸せこそが一番だと知った今となれば。

この手に残る死の感触を、私は忘れる事無く生きて来た…ユイの手を取るまで。
…良いのだろうか、このまま流されて…
今の私は…


気が付けば既に映画は終わっていた。
立ち去る人々を見送りながら私は座り心地の悪い椅子に沈んだまま。
その時、妻が私の耳許に囁いた。

妻は告げた…彼女が母になる事を。

その瞬間、私の掌は過去を取り落とした。

気が付けば、周囲の目も忘れ私の手は今を…妻ともう一人…二人かもしれないが…抱き上げていた。


▲▽▲



「夢か…」

仮眠室のベッドに靴も脱がず倒れこんだ姿のまま、一人呟く。
私を眠りから引き戻した原因…枕元の携帯端末機が呼んでいる…

身を起こし眼鏡を掛け携帯端末を開く

「…私だ。」

『お早うございます司令、現在06:07です、申し訳ございません指定時間より二分遅くなりました。』

「…構わん。誤差範囲内だ。本日のスケジュールは予定通りだな?」

「は。メインの零号機起動試験は1045予定変わらず。レイの体調も万全です。」

「…ご苦労…1015にはそちらに向かう、準備を頼む。」

「は。」


…一瞬、ユイと赤木君がだぶって見えた。

端末を切り、頭を振りながらシャワーを浴びる為浴室へ向かう。

「…男ならシンジ、女ならレイ…か…」

無意識に私は呟いていた。
…つい力が入った様だ。浴室の扉が音を立てた


△▼△


「レイ!?」

気が付いた時にはもう射出されたエントリープラグへ走り出していた。

非常口開閉ハンドルに手を伸ばす…余りの熱さに手を放しかけ、再びハンドルを握る。

掌が、焼ける。

苦痛が、襲う。


やっと開けたプラグの中…レイは生きていた。

一瞬、掌の痛みを、思い出を忘れた。



…眼鏡を無くした事に気付いたのは暫く後だった。



初音ミク 【VOiCE】

http://www.youtube.com/watch?v=yvTZnxm7u-I&sns=em

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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.48 )
日時: 2014/06/13 06:10
名前: 何処

旧東京。

セカンドインパクトによる地軸変動に伴い発生した海面上昇と核テロにより破壊されたとされる、半ば水没し放棄され廃墟と化した旧首都。

又の名を廃都東京。

ここはその廃都の直中に存在する。

 無数の廃墟の中をその中心部へ向かい進んで行けば、まるで切り取られた様に広大な空間が不意に出現する。
上空から見れば真円の更地と化しているそこの中央に立てば、周りを遠巻きに囲む無数の建造物の残骸達はまるで巨大な墓碑の如くに見える。

死と静寂に満ちた廃墟群の中、そこは虚無に満ちている。


“旧東京閉鎖区封印エリア”


ここはその存在を知る者達からそう呼ばれている。


 誰もいない、何も無い、虫も草も、およそ命の息吹きの欠片すら感じられない。
否、ここには死の香りすら存在しない。
全てが静止したかの様なここは正に虚無の地。

 そこには何故かナスカの地上絵を思わせる巨大な人型が描かれている。

その巨大さ故に遠景からしか確認出来ない人型の絵。
それの存在すら知らぬ者が殆どの世、大衆にはその由来を知る者も無く、だが今もそれは存在している。

 見る者も無く、変わる事も無く、それは只無為に存在していた。

だが今日は少し…否、ほんの僅か、微かにだが変化があった。


その人型の中心に、遠景からは肉眼ではまず判別出来ない程小さい何かが置いてある。

風に吹かれ微かに揺れる白い花弁達、回りを包む紙が作る円錐の底を纏める桃色のリボン。

その下側には幾つかの石で囲まれた棒状の香の束が揺らぐ煙をたなびかせている。

 彼方へと流れ消えて行くその煙と、僅かな風に擦れる花束の包装紙の発てる音が虚空へ彼方へとどこまでもどこまでも拡散してゆく。


ほんの数分前までは何も無かった筈のそこに捧げられた一つの花束と線香の煙、只それだけが虚無の地に色を乗せていた。


そして時は流れ…




【−月光(インターミッション −影絵− )−】




「どうした碇?急に呼び出しとは珍しいな。首相との会談が不首尾に終わったか?」

「首相の口からJAの名が出た。探りの為か恩を売るつもりかは不明だが、有難く拝聴させて貰った。」

「ほう?」

「…内閣府でも漸く国防省の動きに気付いた様だ。重工始め企業連への接近も話題に挙がったが…」

「国防省か、そう言えば戦自がポジトロンキャノン接収の件で未だゴネておったな。」

「ああ、自分達が半ば開発放棄…言わば見限った兵器をネルフに拾われ、しかもそれで使徒を倒されてしまったのが大分効いたようだ。」

「だろうな、戦自内部では国防省や幹部の批判に加えネルフと政府に恨み節を唱える一派が増えておるらしい。
ポジトロンキャノンの一件で国防省高官や現役戦自幹部達の面子は丸潰れだからな、当然か。」

「今まで彼等が抑えていた防衛庁解体を主張する自衛隊吸収統合派やUN軍への参加拒否を唱える反ネルフ派がここに来て又勢力を伸ばし出している。
現に戦自内の一部では政府がネルフに廻す予算が有れば戦自単独で使徒は倒せると公言しだした。
 国防省批判論や装備開発計画見直し論、果ては幹部更迭論も内部で出ているそうだ、その流れに乗った国防省右派と企業連の思惑が一致した結果がこれ(JA)のようだな。」

「それにしてもよりによってJA計画か。あまりに馬鹿馬鹿しいので気にもしておらんかったがまさか現実に開発中とは。
 しかしJA計画が机上のダミー企画で無かったとすれば…目眩ましか?」

「ああ、JA計画自体が他の極秘計画の隠れ蓑のようだ。
 会談中、首相宛に内調から連絡が届いた…国防省がJA計画に投入した筈の資材と予算、既に5機分が支出済みだ。試作機にしては多い。」

「そうか?通常なら試作機と試験機、同時に先行量産型を作るなら3から5機は…」

「“通常なら”だ。
国防省正規開発や戦自の独自開発なら兎も角ベンチャー事業の自主提案への補助事業、しかも未だ現物の無い代物だ。
戦時中ならいざ知らず、試作機完成前の量産型先行製作発注、それも実績の無い新型だ。
例え航空機や車両でもよほど将来的見込みが立たなければ現時点では流石に無い。」

「…横領にしても多過ぎるな、となれば…」

「何らかの方面への流用だろう。」

「表沙汰に出来ぬ計画への…か。」

「ああ、幾ら国防省の戦自関連予算内容詳細が機密指定で会計監査がザルとは言え流石に堂々とこの額は隠匿出資出来まい。
企業連の対使徒兵器自費開発計画は良い機会だったろう、国防省にとって渡りに舟だった筈だ。
それへの支援事業なら簿外出資の名目には絶好だ、堂々と請求出来る。」

「成る程、民間主導、しかも対使徒兵器開発への支援名目となれば資金貸与や物資調達は容易だろう…
しかし予算確保に懐かしの戦艦大和方式か、何処もやる事は一緒だな。」

「だが余りに遣り方が雑だ。
計画内容の仔細も改めて正式に確認したが低スペック過ぎて話にならない。
何しろ駆動機関は今更ながらのスチームタービン式核融合炉だ、そもそも使徒戦に核動力なぞ自滅以外何物でも無い。」

「話にならんな。
使徒相手にATフィールドすら持たん機械人形で対抗なぞ出来ん、おまけにスチームタービンだと?
よりによって格闘想定の機体に態々破損に弱い蒸気配管を組み込むとは…」

「ああ、増してやそもそも接近出来るかどうかすら怪しい上、融合炉など冷却出来ねばそれまでの代物を積んだ危険物をわざわざ使徒相手に繰り出すとは無謀過ぎる。」

「まぁ例え組み付けたとしても効果有る攻撃が出来るとは思えんな。
最後の手段で例え自爆したとしてもN2ですら滅せぬ使徒相手には大した効果は無かろう、只周辺への被害が増えるだけだ。」

「それだけなら未だ良い、このJAの遠隔操作装置は民製品転用の民間周波数仕様、
補助的に積んである自律行動プログラムは一般のソースコードで組んである…」

「!彼等にはセキュリティの概念は無いのか!?」

「しかも肝心の動力源…新型核融合機関は未だ開発が停滞中だ、もし完成が間に合わなければ試作機の動力源は核分裂炉仕様になるそうだ。」

「…セキュリティどころかセーフティまでそれか…古の核動力爆撃機宛らだな。」

「ああ。
だがその低性能振りもある程度は納得出来る、
例え実態は技術検証実験機とは言え他に使い道の無い張りぼてに誰も態々無駄に予算を注ぎ込みたくは無いだろうしな。
問題はJAが完成し、もし仮採用された場合だ。」

「うむ、そうなれば出資内容や会計報告も公にせねばならん。何を考えて…
まさか…失敗前提の計画か!?」

「恐らく。
計画に参加している各社の技術力からしてもこの設計は余りに不自然だ。
恐らく開発陣に渡った使徒戦に関する情報が操作されている。」

「失敗させる為にか…となれば…今回貧乏籤を引くのは重工企業連か。」

「正確には開発主導者だな、作る程赤字になるのが目に見える補助金頼みの事業なぞ企業連でも端から本気に押してはいないだろう。」

「ふむ、単なるデモンストレーターとして打ち上げた代物に他所が絡んで思わぬ大事になって退くに引けなくなったと言った所か。
企業連も頭が痛い所だろうな。」

「この計画、誰もが失敗を望んでいる。
 先ず我々ネルフには単なる障害物として除去対象だ。
 戦自にとってはポジトロンキャノンの件がある、ここでもし民間主導開発品が制式採用となれば…」

「…面子面目が立たんか。開発計画関係者の責任どころか自前の開発機関の存在意義まで問われるな。
下手を撃てば自分達の責任まで追及されかねん戦自幹部は皆、頭を抱えておるだろう。」

「ああ、それにもし制式採用となれば配備計画の再策定と作戦戦略見直しが必要となる。一先ず状況静観と言う所だろう。

 国防省は極秘資材の備蓄と機密予算確保が目的だ、証拠は残したくあるまい。
 加えて自ら手を汚さずネルフに圧力を掛ける道具にも使える。
 後はこれを口実に内部の不平分子や強硬派を粛清し、用済みのJA計画担当者の首一つと引き換えに全ての責任を失敗した企業連に端金で押し付ければ良い。

 企業連も重工側も例外では無い、一時的に名は落ちるが元々乗り気で無かった計画からJA開発の技術資料を獲た上で堂々と手を引ける。
 何より、JA計画関連のどの企業も成功失敗に関わらず今季決算では名目赤字を計上する事だ。
 実質国防省の全額出資事業で殆ど出資の無い企業が僅かな賠償支出で補助金の交付と法人税の減免措置を受けられ、加えて責任者の処分と併せて復興特需終了でだぶついている人員の整理を進められる。

 そして政府もだ。戦自とネルフに貸しを作り、会計監査に加える手心次第で企業連への影響力も強くなる。となれば…」

「…で、それが担当者を除く皆の望み通りの結末だとして…引導を誰が渡す?
悪役を担うのは何処になる?」

「何れにせよ、何処かが最終的に片を付ける羽目になるのは間違い無い。
そしてその準備も手打ちの仕方も皆用意済みだ。
だが、皆その準備を自分が使う気は無い…」

「皆が最後に引いたカード次第と言う所か。…ババ抜きだな。」

「ジョーカーは一枚で充分だ、一枚だからこそ切り札の価値がある。」

「…彼女は使わんのだな?」

「ああ、北極海の始末が先だ。
それに未だ奴に頼るべき局面には無い。」

「ではJA計画の進行状況は青葉に監視させよう、後は…」

「ああ、最も…彼等が恥を忍んで我々に泣き付く度胸があるなら悪役を引き受けるのもやむを得まい。
シナリオの進行具合によってだが最悪赤木君に動いて貰おう。」

「良いのか?」

「彼女も既に我々の計画構成員だ、共犯者としてAAAまでの情報を得た見返りに働いて貰う。」

「そうか、遂に彼女にも開示したか…だがまぁAAA程度までなら問題有るまい。
それにそこまで知ったならばもう抜けられぬ、計画の歯車の一つとしてここで仕事を任せるのも良いだろう…実行犯としてな。」

「子細は任せる。」

「うむ、ではその様に…」


―――


「ヘックシ!!」

『どうした?風邪か?』

「うんにゃ、まぁたどっかでアチシの美貌の噂してるみたい。」

『…元気そうで何よりだ。取り敢えず依頼の品、そちらの手荷物に入れておいた。』

「せんきゅータレ目、やっぱ婦人用品は日本製に限るからにゃあ。」

『お陰で随分白い目で見られたよ、貴重な体験だった。』

「まー君は下っ端だから仕方無いわな。
寧ろ世の御婦人方の苦労の末端を覗けた訳だし良かったぢゃん。
そんじゃま代金は後程って事で。」

『後程ねぇ…出来ればスーツケースも返して欲しいんだかな。』

「ケチだねー査察官殿は、んじゃそっちの監査終わったら取りに来な。
料金込みで渡したるにゃ。」

『はいはい、お嬢様の仰るが儘に。では後程…』


―――


「…しかし大人の事情に子供を巻き込むのはどうも気が引けるな…」


―――


「…やっぱ子供の事情に大人を巻き込むのは気が引けるにゃあ…」






【ALICE iN BLACK MAKERT】
http://www.youtube.com/watch?v=Yppk4jt0yo4&sns=em
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.49 )
日時: 2014/06/15 03:13
名前: tamb

よく思いつくなぁ、と感嘆せざるを得ない。なるほど、壱号機ね。
付いていくのに必死だ(笑)。
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.50 )
日時: 2014/07/05 10:09
名前: 何処

「ようこそ地獄へ、赤木リツコ博士」


女にそう告げながら、つい口元に歪んだ笑みが零れそうになるのを止められない。

私は自身のあまりにも芸の無い台詞に失笑していた。


…これではユイや冬月の事を笑えないな…


自嘲の笑みを消す事無く私は立ち竦む女に背を向け歩き出した…その自嘲の原因へと。



【−月光Y−】
《FIRST》
http://www.youtube.com/watch?v=tOxmalmfB0Y&sns=em



ヘブンズゲート

ここネルフにおいて、この名称には二つの意味がある。
一つは今私達の立つこの封印地区、ジオフロント深部地底湖を指す。

そしてもう一つは今私達の目前に在る。


これはジオフロント最深部への直通エレベーターだ。

冬月はこのエレベーターを前にしてある台詞を低く呟き、私は後にその台詞を刻んだ銘板をそこに貼り付けた。
見上げた先、未だ輝く銘板に刻まれた遥か過去の夢想家たる著名な芸術家の戯れ言が我々来訪者を嘲笑するかの様に迎えている。


“この門をくぐる者、一切の希望を棄てよ”


銘板を見上げる私の視線を追って同じ様にその碑文を読んだのだろう、背後から息を呑む気配がした。

口元を歪めたままエレベーター横の認証用カード読取り機にカードキーを挿し込みなから、私はこの扉を巡る過去の稚気じみたやりとりを思い浮かべていた…



―――



『…本当に付けたのか?』

『下手な捻りは要らんだろう。他に何と呼ぶ?』

『…蜘蛛の糸には細過ぎるな、羊の皮なら南極だったが。』

『確かに、砕氷船がアルゴノートとは出来過ぎだったが…』

『最もセイレーンから逃れられたのは子供1人だったがな。
否、寧ろ生存者が存在した事が驚異だったか。』

『ああ、正に奇跡的な…否、奇跡だろうな。』

『うむ、確かに奇跡の方が相応しいか…
最も調査隊の被害はまあ仕方有るまい、彼等を救う筈の唄い手は竪琴と共に地獄へ妻を迎えに行っていたのだからな。』

『随分と大きなエウリディーチェだな。
ならばこれからジオフロントを地獄と呼ぶか。』

『それも良かろう、冥王にその妻、三つ首に渡し舟…皆揃っておるしな。』

『…ならば石榴の実はレイか。』

『ほう、レイは冥府の女帝を地に縛る楔か。相応しいかも知れんな…まぁ、最も地獄と称するには現世浮世の方が相応しいだろうが。』

『止むを得まい、生きる為に殺し喰らい死に喰われる生命の一つ、それが人間だ。
人の思考なぞ所詮人の枠さ冬月、程度の差はあれ上を仰ぐか下を向くか程度のものだ。
幾ら神を騙り説こうとも人は生命の軛からは逃れられない。
その軛こそが世の摂理、人の意思がどう在ろうとも彼の意思たるこの世界を統べる摂理からは逃れられん。』

『見方を変えれば摂理に抗う事こそが彼の意図とも考えられる。
摂理に抗い逃れようとする意識や行為こそが可能性を生んで来た、即ち人の摂理への挑戦こそ彼の計画そのものかも知れない。』

『所詮釈迦の掌中か、天より見下ろせば我々は宛ら修羅道の悪鬼羅刹だろうな。』

『あら、ならば地獄から見れば現世は天国でしょうか?はい、紅茶です。』

『おお、丁度喉が渇いた所だ。有難う…
確かに修羅の住民にとっての日常は現世の住民には地獄だろう。だが反対はどうだね?
畜生道に落ち修羅道に生きる者に現世は天国か?
寧ろ地獄かも知れん。』

『冬月、いつからグノーシス派に鞍替えした?
最も、修羅から見れば現世こそ天国と地獄の入り交じる修羅場だろうな。』

『…ふむ、天国と地獄に挟まれし現世を修羅道と見るか。
ならば我々は修羅なればこそ修羅道を終わらせ現世を人の手に返さねばならん。』

『そもそも現世は人の物か?
最もロマンチストなら神の名を使い臆面も無く人の世を肯定しそうだな。』

『ローマの物はローマに返せ、神の物は神に返せ…ですか。』

『では人の…人間の物とは何だ?人の物なぞ無い。人は只神より命を授かり死して命を還すだけの存在だ。』

『人を神の創りし存在とするならそうかも知れんな。だが智恵の実を獲、楽園を出た時点で既に我々は神の手を離れてしまった。
果たして智恵を得た人々の意思は楽園への帰還を願うか?』

『…そもそも楽園(エデン)とは何だ?』

『…楽園か…』

『あら、お二人共そんな簡単な事を判らずに悩んでおられるのですか?』

『『?』』

『凡そ全ての生物にとって楽園とはですね…私達“女”のここ(子宮)ですわ。』

『!?は!こいつは一本取られたわ!』

『…成る程…』

『クスクス…先生、おかわりは如何です?あなたもどう?』

『頂こう…正に“母は偉大なり”だな、碇。』

『全く先生の仰る通りです。私にも頼む』



―――



長い長い沈黙の後、エレベーターは目的地に到着した。

開いたドアから一歩外へ、LCLの濃い匂いと共に酸素を肺に満たすべく深い息を吐き、吸う。

私の後に附いてきた女は匂いにむせた様に一瞬息を停めた。

嗅ぎ慣れた匂い、見慣れた背景、見慣れた機器。

そうだ。ここは、こここそが私の罪の証だ。

改めて周囲へ視線を巡らせる。
ここは10年以上他者の侵入を拒んできた。
S級メンテナンス要員ですら足を踏み入れた者はいない。
建造以来ここに来た者は僅か数名、私を除けば冬月とレイ以外にはいない…否、ユイもか…。

傍らの手摺に積もる埃が時間の経過を語っていた。



―――



数枚目の自動ドアの向こう側には先客が居た。


「…お待ちしていました司令、赤木博士。」

「ご苦労。」

「!?レイ?何故貴女がここに?退院許可は?確か貴女まだ入院加療の最中」「私が呼んだ」「!?」

「何故レイがここに居るか疑問の様だな?」

「当たり前です!レイは未だ…」

「レイ」

「はい」

「その手の包帯を取れ」

「はい」

「?な、何を…」


包帯を外しだし、湿布を剥がすレイ、その素肌に残る赤い低温火傷の跡…


「レイ、傷を治せ」

「はい」

「!?」


瞼を閉じ、何かを念じる様な表情を浮かべるレイ。
するとどうだ、レイの肌は見る見るうちに白く…ものの数秒でその肌は元の抜ける程白い肌へと…

蒼白な表情で女はレイの変化を見ている。


「…未だ骨折の修復は無理だが表皮程度ならばこの通り、これがエヴァンゲリオンパイロットとして生産されたファーストチルドレンの持つ力だ、その現在の能力は未だ不完全…今のは本来のスペックの一部だ。」

「…生…産?」

「レイ、槽の遮蔽板を上げろ。」

「はい。」


私の命令に応じレイは傍らの壁面へ手を伸ばし設置されたスイッチを入れる。

ゆっくりとスライドする前面壁

その向こうは…


「!?ヒイッ!?」

「…」「…」


ガタガタと震え血の気の失せた蒼白な表情の女は、その目を閉じる事も叶わず只目前に展開された衝撃的光景に圧倒されている。


「…こ…、こ…れは…これは一体…」


うわ言の様に震える声で呟く女の声に理性の欠片を感じ、私は内心安堵しながら冷徹に事実を告げる。


「見ての通り、エヴァンゲリオン素体…綾波レイのストックヤードだ。」


私の台詞に女はゆっくりと後退りしながらやはりゆっくりと首を回し、その恐怖に歪んだ表情で私とレイを涙を湛えた目で観畏遣った。
その視線を黙殺し、私はレイに問い掛ける。


「レイ…」

「はい。」

「お前は一体何者だ?」

「私は綾波レイ、エヴァンゲリオンパイロットファーストチルドレンです。」

「マギへの登録認証は?」

「HES・AーYA・NAーMi・XXー0」

「その意味は?」

「ヒューマノイドエヴァシステム ーモデルAーYA タイプNA クラスMi クロモコードXX ープロダクトNo.0。」

「何の為にお前は存在している?」

「私は使徒を倒す為に生み出されました。私はエヴァのパイロットとなるべく人の遺伝情報をベースにエヴァ初号機の肉体構成物質から創られた人造人間です。
同時に最後の審判においてリリスの意識を司る為更にリリス細胞によりインフィニティ化した存在でもあります。
私はリリスの意思の一部となりその行動の制御棒としてリリスに帰る為存在しています。

私自身は量産された複数の素体の内の一体に過ぎません。しかしながら複数の私の中で自我を得たのは私自身のみです。何故なら私はインフィニティ、言わばレギオンの1人。
則ち複数にして単数、1人にして複数、私の思考は全ての私と共有されています。
複数の私の意思は私に集約され、故にその感情のみが私を私個人と認識させています。
そして私は仮面により繋がりを断たれてはいますがリリスとも意思を共有しています。」

「…レイ、あ、貴女…こ、これが…こんな…こんな事が真実だなんて…」

「そうだ。これが事実であり、現実だ。」

淡々と事実を蒼白の顔をした女に告げ、更にもう1つの事実も語る。

「以前君は何故レイを廃墟に住まわせているか私に聞いたな?あの廃墟と中学校、ネルフ本部、そしてここ、ヘブンズゲートには熱核爆弾が仕掛けてある。万が一レイがリリス化した場合に備えてな。」

『司令、あ…貴方は…貴方ほ、本当に人…いえ、それでも人間ですか!』

『当然だ、ヒト以外に何がコレを創る?此程不完全な存在を創る愚かさこそがヒトの証だろう。』

『!?』

『レイ、包帯を元に戻せ。時間も時間だ。皆、食事にしよう。』

『はい。』

語るべき事を語り、次の行動予定を伝えて私は茫然と立ち尽くす女を背に歩き出した。
私の後ろを包帯を巻き直しながら、レイが付いてくる。漸くしてハイヒールの甲高い連弾音が私の靴音に混じった。

深淵を去り行く三つの影。

その背後でゆっくりと閉まってゆく壁面の向こう側、数多の石榴の果実達がその人影を淡い光に映し踊らせながらゆっくりと遠ざかる人影達の背に白痴の笑みで嘲笑を浴びせかけていた。




メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.51 )
日時: 2014/07/05 12:30
名前: 史燕

投稿お疲れ様です

ただただ「すごいなあ」と感嘆しておりました

>背後でゆっくりと閉まっている壁面の向こう側、数多の石榴の実達がその人影を踊らせながら私達の背に白痴の笑みで嘲笑を浴びせかけていた。

情景が絵に浮かぶ、絵に浮かぶからこそいいのでしょうが、そこはかとない不安感、ぞっとするような何かを感じました
彼女たちも、レイなのでしょうが、傷を治す無機質な反応のレイとは、なんとなく「別物」な印象を受けました
それだけ描写として洗練されているのですが……
メンテ
Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.52 )
日時: 2014/07/07 12:28
名前: 何処

「…何故なの…」


碇司令の後ろを只ぼんやりと附いて歩いていた筈の私は現状を未だ把握出来ずにいた。



【−月光Z−】



「親父、醤油豚骨ネギ抜きとニンニク豚骨チャーシュー抜き、それと…赤木君は何にする?」

「あ、味噌野菜で」

「味噌野菜一つだ。」

「あいよ。お姉さん七味は要るかい?あ、嬢ちゃん紅生姜と高菜は自由にそっから取っとくれ。」

「はい。」
「あ、はい、七味下さい。」


…改めて現状を説明しよう。
有り体に言って薄汚い屋台の長椅子に私達三人は並んで座っている。

 現実に圧倒され何も考えられず只司令の後を附いていた私は司令が地上への直通高速エレベーターに乗り込んだ時にも何の疑問も抱いていなかった。

…おかしいと疑念の一つすら抱けなかったのだ。

気が付けばもう暗い街角で街灯に照された屋台の前に私達は立っていた。

流石に異常な状況に気付いた私の口から思わず零れた台詞は端的だった。


「…どういう事なの…」


少し考えれば判る事だ、本来ネルフ総司令の立場上例え極秘でも地上に出るなら必ずSPの2〜3人は附けなければならない筈であろう。
これは保安規則に違反した行動だ、司令は規則を破る事などしないと言う私の認識は間違いだったのだろうか?。
否、そんな事より他に…

…有り過ぎてどれから考えれば…

湧き上がる色々な疑念や何やかやを混乱した私の頭脳は処理出来ない。
 思考を纏める事も出来ず、只混迷の底に居た私はその場の雰囲気に呑まれ周りに釣られてつい注文をしたものの、今私に食欲は無い。

こんな事は大学の実習以来だ。

…否、献体解剖実習の方が未だマシだった…

ふと目の前になみなみと水を湛え汗をかいたタンブラーが差し出される。

差し出されたタンブラーを掴んでいたのは包帯に覆われた白い…

慌てて横を向く。

そこには慣れた様子でピッチャーから皆のお冷やをタンブラーに注ぎ各々の前へ並べているレイの姿。

猛烈な違和感に襲われる。
これではさっきまでの光景が…


…嘘な訳は無い。


現に差し出されたタンブラーを握る手に巻かれた包帯はいかにも素人の巻いた乱れ様で

…それともあれは幻覚で私は質の悪い悪夢を見ていたのだろうか?

私の思考は現状を理解する努力だけで既に許容範囲を超えかけていた。

改めて隣の司令とその隣の少女を眺める。

…この男は一体何を考えているのだろう。

悪辣な程に非情な人間である事に間違いは無い。
何しろ幾ら対使徒戦の為とは言え、人間を量産するなどと倫理の欠片も無い、正しく神をも畏れぬ行為を平然と行い、それを人に伝えながら微塵も臆せず恥ずる事すら無い様子が全てを物語っている。

挙げ句その量産した人間を文字通り道具に使い、人体実験の贄に…リリス細胞に故意に汚染させるなど贄以外何だと言うのか?…使用した挙げ句、最後の手段とは言え何時でも処分出来る様に爆弾…それもN2どころかわざわざ水素熱核反応弾…を仕掛けておくなど…


…この男なら意外でも何でも無いか。


合理性の極みなこの男ならどんな人間であれ不要となれば簡単に切り捨てる。
私とて例外ではあるまい。
現に男は自分の息子ですらエヴァに乗らぬなら不要と言い切ったではないか。
 あの強烈な台詞は未だはっきりと覚えている。

“乗らないなら帰れ”

これを非情と言わずに何と呼ぶ?

…その男がSPも附けず薄汚れた屋台でエヴァの実験体とマギの為の道具を引き連れて食事を…食事?ここで?

改めて辺りを見回し、理解し難い現実を漸く把握した私の脳裏には疑問符しか出てこない。

何で屋台?何でラーメン?しかも何でよりによって屋台な訳?

一体何の冗談だろう?

 他に幾らでも考えなければならない事もあるだろうに、そんな的外れな思索に耽るしか無い私の嗅覚に不意に濃厚な豚骨とニンニクの薫りが無思慮に浸入してきた。

不意に誰かのお腹が鳴る。


「おや嬢ちゃん、そんなに腹空いてるのかい?」

「はい。」


…一寸待って。

…誰のお腹が鳴ったんですって?


「そうかい。じゃあ特別にモヤシとメンマサービスだ。」

「…有難うございます…」

「良かったな、レイ。」

「はい。」

「…へいお待ち、ニンニク豚骨チャーシュー抜きと醤油豚骨ネギ抜きね。」


2人のやり取りを聞いている内に、何だか全てが馬鹿らしくなってきた私の前に湯気を立てて味噌野菜ラーメンが現れた。


「…はいお待たせ、こっちのお姉さんは味噌野菜だね。」

「あ、どうも。」


受け取った丼から湯気と共に立ち上る味噌の薫りと炒めた野菜の彩りに、私は自分が空腹な事を認めざるを得なかった。


「では、頂こう。」
「頂きます。」
「…頂きます。」


一切が煩わしく面倒になり、私は思考を放棄し生存本能の発露たる食欲に身を任せる事にした。

…悔しい事に、味噌野菜は美味しかった。何が悔しいのかは分からないが。

食事を終え、屋台を出た所でレイが小さくゲップをしたので慌てて私は手持ちの口腔消臭剤を渡す。


「レイ、ニンニク臭い息はエチケット違反よ。」

「?ニンニクは臭いのですか?」

「他人の口臭は特にね、親しき仲にも礼儀は必要よ、迷惑になる可能性は減らすに越した事は無いから。」

「…司令、私の口臭は迷惑でしたか?」

「プライベートなら問題無い。他者との関わりが有る時は気を付けろ。」

「…了解…」


2人のどこかおかしいやり取りに何とも言えない気持ちになり、ふと見上げた空では煌々と輝く月が口を開けて私を笑っていた。



―――



その夜、私は悪夢を見た。

あの屋台で前掛け姿の司令と学生服に前掛け姿のレイがラーメンを出していて、何故かOLの私とミサトが酔っぱらいながら素面の後輩OLマヤを引き摺りそこに入りビールと餃子を頼み…
散々飲み食いしながら上司の愚痴が始まり…
…挙げ句財布を忘れたミサトと酔い潰れたマヤの為にリョウちゃんを携帯で呼び出そうとした所で私は目覚めた。

携帯の呼び出し音が目覚ましのアラームだったのだ。

…最悪な目覚め。

しかし凄い現実味の有る夢だった…余りのリアルさに暫くは自分がOLだと言う意識が抜けなかった程だ。
朝の珈琲を入れ、今日の予定を確認して漸くあれが夢だったと気付いた時の屈辱感と言ったらもう。

お陰でその日1日私の機嫌は最悪で、絡んで来たミサトに相当冷たく当たったのは単なる憂さ晴らしだった事は当面内緒にしておく。


【FLARE】
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.53 )
日時: 2014/07/13 01:34
名前: tamb

ユイ存命時からレイの名前が出てるのがひとつポイント(読み誤ってなければ)。
アヤナミという名の意味がこういう形で提示されたのは初めてかもしれない。

主観を共有することで他者の概念が消失するとすれば、複数の私はまさに「私」以外の何者でもない。そして意思、思考が感情の上に成立するとすれば、

> 複数の私の意思は私に集約され私自身を形作り故にその感情のみが私を私個人と認識させています。
> そして私は仮面により繋がりを断たれてはいますがリリスとも意思を共有しています。

これはあまりに重要な示唆だが、私はちゃんと読めてるだろうか?

そして屋台のラーメン屋というあまりの日常と、お冷やを並べお腹を鳴らすレイのあまりの人間くささ。この落差が凄すぎる。

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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.54 )
日時: 2014/07/21 22:15
名前: 何処

【−都合と思惑T−】


第三新東京港第4埠頭第2桟橋

数隻の曳船がゆっくりと台船を離岸させている。
その台船上には足場ごと防水布で覆われた球体が鎮座していた。


「…しっかし司令も太っ腹ですね、まさか使徒のサンプルを太平洋の向こう側へ送るとは…」

「米国ネルフからの要請よ、特に引渡しを断る理由は無いわ。
それに調査も終わってるし向こうに送るのはサンプルとしての一部分だけ、別に使徒丸々一体送る訳じゃ無いわ。」

「まあそうですけど。
しかし横浜で向こうの船に積み替えでしたか?又手間の掛かる事を…」

「仕方無いわ、こないだの戦闘被害復旧でこっちの港は立て込んでるから。」

「エヴァ輸送用全翼機使えれば話は早いんですが…
早く全翼輸送機の他国乗り入れ解禁になりませんかね。」

「あら?パイロットの血が騒ぐ?
今副司令が関係先と交渉調整中だけどどうも難しいらしいわ、解禁は未だ先の話になりそうね。」

「やっぱり。
それにしても今回の輸送、良く政府や戦自がゴネませんでしたねえ、てっきり…」

「何?“てっきりサンプルの所有権主張して騒ぐかと”とか?」

「ええ、そもそも使徒の遺骸をネルフと国連の合同調査団が分析するのにも文句垂れてましたし。」

「うげ…やな事思い出させないでよ日向くん、あれ司令に対応押し付けられてあたしが交渉したのよぉ…も、最悪。」

「うわ、それはご苦労様でした。」

「特に某大臣やら戦自の某陸将補にその幕僚団とかは凄かったわよぉ。

“我が国家の資産たる使徒のサンプル体を国の正式な調査団発足前に勝手に調査するとはけしからん!”とか

“況してや我が国の研究機関を後回しにして海外にその情報を流出させるなど国家機密漏洩罪の適応も視野に入れねばならん!”とか

“使徒の調査は本来我が国が責任を持って行うべき事案であり君達の今回の行動は国家主権に抵触している!”とかね。」

「あー…あの人なら言いそうな…」

「おまけに陸将補と取り巻きの幕僚団がまたね…

“そもそも使徒戦に際して我が国が国防観点上問題になるレベルの兵力を出しておる事を君達はどう思っておるのか!”

“そうだ、我々が戦闘後の総合戦力低下が懸念される程の膨大な兵力を抽出してまで君達ネルフを支援しているのに、それに対して今回の君達ネルフの対応は一体何だ!”

“現に今までの使徒迎撃戦により一部の部隊は兵力の損耗が激しく以後の国防作戦計画に支障を来す程になっておる。
だのに肝心の使徒の調査結果はUNからの公式発表を待てとはどう言う事だ!
戦場で戦う私達を差し置いて先に情報がUNに行くとは順序が逆ではないか!”

…とかまぁネェチネチネッチネチとこれが又しっっつこい事しつこい事。」

「…台詞全部覚えてられる程強烈だったんですね判ります。
と言うか口調でもう誰が誰だかありありと判るあたりが特に…」

「あ〜…大半君の古巣からの出向組だったわね…」

「出向と言うか厄介払い的な面が有りまして…私も含めてですけど。」

「え?…あぁ、なーる程ぉ〜了解了〜解…君も大変だったもんねー。」

「まあ命令違反には間違い無かったですし、正直馘にならなかっただけ儲け物でしたよ。」

「にしても航空教導隊主席から事務屋、更にそこから警務隊、輸送隊、内調、果てはうち(ネルフ)出向…」

「中々に華麗な職歴でしょ?葛城さんには負けますけど。」

「まーねー、しっかし何処も事情は似たような物ね〜。あたしもネルフから引き抜き掛けられた時にはまさか又日本に帰って来る事になるとは思わなかったわよ本当。」


語る2人の前を大きな影がゆっくりと過る。
曳船に牽かれた浮きドックだ。
その浮きドックに中からはみ出して見える程巨大な物体が載せられている。


「そう言えば…あれ、結局海没処理だそうですね?」

「うん。No.4と違ってNo.5は破損が酷くて“サンプル採った後処分”で方針は決まってたけど肝心の処分方法で揉めたからねー。」

「文科省なり戦自なりゴネた所が責任持って引き取ってくれませんかねー…」

「ねー?
…一応あっちこっちに打診はしたけどね、どこもサンプルだけで十分だってさ。」

「そりゃそうでしょ。
欲しがる所へトン単位でサンプル送り付けましたからね、皆懲りたんじゃないですか?。
そもそも数万トンからの代物丸々保存なんて造船所の大型ドック一つ専拠しないと無理ですし。」

「て事ね。で、処分は決まったけど一応あれ残骸とは言え使徒だった物じゃない?
散々揉めたけど結局それ(海没処分)しか選択肢が無かったのよ。」

「…まぁ汚染海域ならそもそも生物が存在出来ませんから妥当は妥当ですがね…」

「そーゆー事。」



―――



『…で?』

『は、彼等が実証実験用に製作中だった新型核融合リアクターは無事完成、先日試運転に成功したと報告がありました。』

『そうか、これでやっとJA計画の役目は終わったな。』

『やれやれ、一時はどうなる事かと…』

『全くですな、折角の投資が無駄になるかと冷や汗物でしたよ。』

『しかし無事完成して良かった。お陰で我が国のトライデント計画はこれで息を吹き返します。』

『ネックだった超小型リアクター開発が成功したとなれば当初計画通りに…』

『はい、これで三軍共同次期新兵器トライアルへ向けた試作機製作が間に合います。』

『うむ。しかし肝心のリアクターを我が国内で開発に失敗したのは痛かったな。』

『ええ、ですが案外安い対価で入手出来るのは幸いでした。』

『対価か。確か試作機と…』

『はい、トライデントの試作機と共に我々の保有するネルフとエヴァンゲリオン関連の機密情報を彼等の要求通り提供。
そしてその見返りに我々は新型リアクター実機の購入優遇及びそのライセンス製造権の有償取得を優先的に受ける…
と言う事になっております。』

『トライデント計画か…しかし概念図を見た時は思わず笑ってしまったよ。』

『ええ、覚えておりますよ。
“エヴァンゲリオンも大概だったがまさか我が国でもこんな玩具を真面目に開発するクレイジーな所があるとはな”と…』

『HAHA!やれやれ私とした事が君の記憶力を失念していたよ!』

『まぁあの概念図ならば君のその反応も仕方無いだろうよ、実は私も最初はそうだった。
“全領域行動可能な陸上巡洋艦”とはまた荒唐無稽な計画だと思ったが…』

『その実態は動く戦略弾道弾基地、歩く核サイロ…』

『加えて1個師団級の火力と全領域での高機動能力、言わば走るハリヤー型戦略原潜、それも自律兵器だ。
となれば核抜きにしてもその戦略的価値は計り知れん。』

『そう言えば彼等に引き渡す為貴社で建造予定の試作機…何と呼びましたかね?』

『“ライデン”だ。
制式名称トライデント型陸上軽巡洋艦試作3号“艦”ライデン。』

『ライデン…確か“サンダーボルト”の意味でしたな。』

『そうそう。で、その“雷電”だが、やはり例の生体デバイスを付けるのかね?』

『まさか!?“Aユニット”はその存在自体が極秘機密です、そもそも“Aユニット”は完全自律式兵器でもあるトライデントの脳髄にして三本の切っ先の一つ、超高機動戦闘能力の胆ですからそこまでサービスは出来ませんよ。』

『ではやはり?』

『ええ、3号までの試作機は非常用操縦席(コックピット)に火器管制席と補助操作席を“Aユニット”用スペースへ増設した完全有人機体になります。
加えて彼等に引き渡す機体はステルス塗装や廃熱処理装置も1世代前の艤装になりますね。』

『何だ、それでは在来兵器の延長に過ぎんな。』

『穂先が欠け刃も2本しか無いのではトライデントではあるまい。』

『モンキー向けモンキーモデル…すまん、失言だった。』

『お気になさらず。まぁその代わりと言っては何ですが向こうの要求通り大型陽電子砲を搭載予定…でしたね?』

『ああ、最もその方が彼等の求める防衛兵器としては最適だろう。
何しろエヴァンゲリオンの様な極端に専門特化した戦力は幾ら強大でも使い所に困るしな。
汎用性が有り克つ強力、これが軍の求める戦力だよ。』

『まああれは“対使徒用決戦兵器”ですからな。』

『仰る通り、第三新東京と言うサーキットでの戦闘に特化したフォーミュラーマシンとクロスカントリー車を比べる事自体が間違いですよ。
そうそう、エヴァンゲリオンで思い出しました。例の陸将補ですが、ネルフへ某大臣の鞄持ちで乗り込んだそうで…』

『…不味いな。SS機関の件もある、今ネルフとは揉めたく無い…』

『とは言え某氏には前々から我々が支援し色々と協力して貰っておる…』

『恐らく陸将補の派閥に担がれたのだろうな…。』

『しかし易々と甘言に乗るあたり“某”大臣も困った物で…』

『全くだ。それにしても彼等は何を考えているのやら。』

『新型リアクターと引き換えにまでしてネルフとエヴァンゲリオンの情報を求めるなど、彼等にはネルフこそが仮想敵のようですな。』

『“仮想敵”では無く“敵”なのでしょうね。
幾ら対使徒戦とは言え軍人から指揮権を取り上げれば将校達の反発は大きいでしょうし。』

『成る程、加えてネルフは国連傘下なだけに追い出しも表立って非難も出来ぬとなれば…』

『敵視も当然ですな。』

『ええ、何しろ得体の知れぬ怪しげな組織が自軍を顎で使っているのです。
軍が自国の指揮を離れる、この一点だけでも国粋主義者からすればさぞ許しがたい事でしょうな。』

『我が国ならば軍が反乱を起こすな。』

『つくづく使徒迎撃を日本で行う事になって良かったと思うよ。』

『国粋主義者か…厄介者は何処も変わらんな。』

『で、某氏ですが…用件は済んだ訳です、切りますか?』

『多少は役に立ったんだ。鞍まで取り上げる必要は無かろう。』

『うむ、繋がりは残しておこう。あの国の言い回しでは確か“ブシのナサケ”だったかな?』

『…さて、次の案件だ。
リアクターが完成しこれでJA計画は晴れて用済みになった訳だがその始末はどうするのかね?』

『は、どうせなら派手な花火になって貰おうかと。』

『ほう?』『…』『と言うと?』

『JA完成後の公開起動試験を利用します。
JAが起動した時点で機体のメインCPUに感染済みのウイルスが目覚め哀れJAは暴走、新型リアクターも制御不能となり自爆…』

『おいおい、良いのか?君の祖国の資産をそんな簡単にスクラップにして?』

『ましてやリアクターの暴走(メルトダウン)?歩く中性子爆弾なぞ付近は壊滅間違い無い、被害は甚大だぞ?』

『証拠は消すのが一番です、使えないと知れた代物は後生大事に取っておいても邪魔なだけですから。
それに何しろ実験場は廃都湾岸部、端から物的損失は無視して良いし人的被害も考慮せずに済みます。』

『クレイジー…リアクター関連特許を買い叩く為にそこまでやるのかね?』

『人材もだよ。新型リアクター開発計画を我が国の研究機関に任せた結果がこの現状だ。』

『散々事故と開発遅延を繰り返し予算超過の挙げ句出来た物は不良品…でしたな。』

『国防費削減が痛かったが、やはり外部依託事業は駄目だな。』

『加えて連中は自分達の失敗を棚に上げて堂々と予算の桁一つ平気で上乗せしますし。
我が社も頭を痛めておりましたが他にリアクターを新規開発出来る所は自国では…』

『そうですね、我々も折角持っている自前の開発組織を些か経済原理に拘り過ぎて蔑ろにして来た。
そろそろ方針を見直さねばならん時です。』

『しかし今からの開発部門建て直しなど容易で無い大事だぞ?』

『ええ、その為にもこれを期に一つ大規模な人材登用を』

『素直に引き抜きと言いたまえ、だが果たしてそう上手く行くかね?』

『なぁに、暴走した時点で既にその事実は残りますから此方の目的は半ば達成してます。
何しろそんな代物を売り付けようとしたのです、値引きの材料には事欠きませんし。』

『うむ。それに真っ先に疑われる存在(ネルフ)があの国に在る以上、我々の関与は先ず表には出まい。』

『表向きあくまで我々は他人だからな。それはそうとUNの委員会だが…』



《secret》
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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲンドウ ( No.55 )
日時: 2014/07/27 02:25
名前: tamb

 今明かされるマコトの経歴、といったところですが、なかなか凄まじいようですな。階級はもうちょっと上でもいいかもね(笑)。
 リツコが新卒で入ってるのは間違いのないところなんで、ミサトもそうかと思いがちですが違った模様。加持はどうなんだろう。というか、彼らはそれぞれ学部はどこなんですかね? マヤさんは新卒っぽいけど、青葉さんは? と考え出すとキリがない。

 後半はぶっちゃけよくわかんねw ヴィレに繋がるのかな?


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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.56 )
日時: 2014/07/27 15:50
名前: 何処

【−都合と思惑U−】




「おい、時田さんはどこだ?」

「格納庫ですよ、もう嬉しくて仕方無いんじゃないですかね?」

「だろうな、何しろアレ(JA)は時田さんの情熱の結晶だからな。」

「私達もですよ、あれは傑作ですからね。」

「そうだな…じゃ格納庫に行ってみるよ。」





「あ、いたいた。時田さーん!」

「おお、筑紫君か。見たまえ、このジェットアローンの勇姿を。」

「…漸く完成しましたね…。」

「ああ、やっとだ…
歩行試験も済んだ、後は調整中のS装置再搭載待ちだ、これさえ完成すればもう大丈夫だ、無駄な金食い虫のネルフはおろか役立たずの戦略自衛隊すら不要になる。」

「全くです、こいつの性能を見てネルフや戦略自衛隊の連中がどんな顔をするか楽しみですね。」

「ああ、空間偏向による物理的遮蔽技術なぞ奴等には真似出来んよ。」

「全くです、ミサイルもレーザーも絶対直撃出来ない、レーダーすら正確な位置を把握出来ない、将来的には完全ステルスによる光学迷彩効果も…」

「ステルス時の照準方式さえ確立出来れば現時点でも完全ステルスは可能だよ、まぁ“能力的には”だが。」

「戦闘モードでの連続使用は実機試験では05:28でしたね、設計上08:00以上持つ筈でしたが…」

「うん、残念ながらそれが現状だ。
リミッターを切り出力全開にした完全ステルス状態ならば概そ想定出来る稼働時間はその1/4弱…恐らく1分強程度で機器能力が限界になるだろう。
 最も使徒相手ならそれで充分だろうな。」

「何しろ相手の肉体は一応生物の域ですからね、パワーなら絶対値が違います。例え外装兵器無しでも殴り合いならこっちの勝ちですよ。
それにウチで納品したプログレッシブナイフは見事使徒に通用しましたからねぇ、格闘になれば腕部に仕込んだ内蔵型単分子切断刃の威力を発揮出来ます。」

「ああ、幾らエヴァンゲリオンが1万2千枚の特殊装甲に守られているとは言え所詮有人機だ。こちらは同等以上の装甲を備えた自律戦闘機械、端から比べ物にならんよ。
ましてや運用費は概算でエヴァンゲリオンの1/4以下、兵装内部搭載量はエヴァンゲリオンの数倍、実に護衛艦2隻分だ。
 加えて外部兵装携行も可能、行動制限時間は殆ど無し、量産可能、既存インフラで整備可能な上に平時には発電施設としても救難機器や重機代わりにもなる、将来的にはダウンサイジングも可能…」

「小型化すれば民生用も考えられますしね、これからですよ、時田さん!」

「ああ、これからだよ…そう、そうだ、これからだ。」



《CHILD ONLY》http://www.youtube.com/watch?v=mtNBkCE4SAE&sns=em


―――


「で、どうだ?」

「はい、トライデント計画への参加は認められました。
私達の持ち分はリアクター及び胴体装甲板の完全依託受注生産です。」

「そうか…これでやっと一息つけるな。」

「全くです…大型リアクターと違い民生用には需要の低い超小型リアクターでしたからね、
これを単価の高い軍事用として売り込めたのは成功でした。」

「他社はどうだ?」

「日ノ出が脚関節、東山がタービンを落札しました。」

「ふむ…妥当な所だな。どれも特殊技術だから単価が稼げる…これで各社から恨まれずに済むよ。」

「ええ、JA計画では大分借りを作りましたからね、彼等も単価で稼げる特殊部位を落とせて何よりでした。
 そもそもリアクターに限らず民生品は既存のインフラや規格に合わせて生産しないと各方面の既存権益に影響が出ますからね。
例え高効率かつ安価な新製品を開発出来てもインフラの更新頻度によってはそもそも販売しない場合がありますし。
…しかし自分で言うのも何ですが、質の悪い詐偽みたいな物ですね。」

「まぁそう言うな、我が社もそれで食っている以上人の事は言えんからな。
この絶対資本主義の元では折角の新製品も儲けが薄ければ無意味だ、技術陣には気の毒だが…」

「止むを得ませんな、革命的新製品で社会を変革するより先ずは我々の食い扶持を稼ぐのが先ですから。」

「全くだ…JA計画も余りに敵を作り過ぎた。
 今の我々では単独でJA計画を推進する余力は無い、さりとて現状では他の部門を切り捨てねばJAは量産出来ぬ上に特許の関係上造れば造る程赤字となる。
 負け戦と決まったJA計画の為に既存権益を賭ける様な馬鹿な真似をする訳にはいかんからな。」

「…只のデモンストレーター計画がとんだ化け物企画と化しましたな。
しかし勿体無い、折角の新技術を詰め込んだコンセプトモデルとしては完璧な開発機が完成前からスクラップ行き確定とは…」

「朗報もある。リアクターの売却先はJAを暴走させる気だ、こちらの裏プログラムに気付かずハッキングして来た。」

「では…ウイルスを?」

「うん。見事な出来らしい、間違い無く暴走するだろう。」

「…これで予定のリストラ計画に口実が出来ますね。」

「こちらで小細工を労せずにな、加えて向こうの尻尾も掴んだ。
これでもし向こうがパテント料で悪どくゴネてもいざとなればこいつで黙らせられる。」

「ほう、其程に悪質な代物でしたか?」

「ああ、解析担当者の報告によれば機体が暴走しリアクターも制御が切れ最終的に自爆する事になるそうだ…
機械的安全装置さえ無ければだが。」

「あの設計図に無い安全装置ですか…
しかしタイマーによる自動停止装置とは余りに原始的だと思いましたが…手は打っておく物ですね。」

「最もこの事実は私達しか知らん…つまり暴走の責任は現場に在り、と言う訳だ。」

「…時田君も気の毒に…」

「その分見返りは用意するさ、流石に我々の都合だけで彼程の技術者を使い捨てには出来まい。
当面開発部門の子会社へ技術顧問として出向して貰う、本社へ呼び戻すのはほどぼりが冷め…」


―――


「碇、青葉がJAの詳しいスペックを調べ上げて来たぞ。」

「そうか。」

「連中やけに自信を持っているなとは思っておったが…見ろ碇、こんな玩具をいつの間にか手に入れておった。」

「…ほう、これは…」

「うむ、擬似ATフィールド発生装置だ。」

「単独で開発出来る代物では無いな、恐らく例のペタニアベースから流出した情報を元に重工連が開発した代物だろう。」

「多分な。しかしこのS装置の正体がネルフから流出した技術だと知ればさぞ…
 否、そもそもATフィールドの正体が多層湾曲空間とは彼等は知らんか。」

「しかし擬似ATフィールド発生装置とは…我々も彼等の実力を侮っていた様だ、これなら確かに自信も頷ける。」

「相手が使徒以外ならば…だがな。」

「ああ、使徒相手には空間偏向など意味が無い…SS機関と核融合炉では絶対出力があまりに違い過ぎる、この程度の出力なら逆に無効化されて終わる。」

「全くだな…開発者には同情するよ。」

「最も実戦に出る前に破棄される運命の機体、開発者の目前で使徒にあえなく撃破される姿を見せる事は無い訳だ、それは或る意味救いだろう。」

「そう…だな…」


―――


信州・松代

旧軍総司令部として戦時中用意された地下壕跡は現在ネルフの予備頭脳たるMAGIー2ndを擁するもう一つのジオフロントの体を為している。

そのMAGIー2ndに緊急通信が入ったのはネルフ本部のMAGIが定期メンテナンスの為休眠状態に入った直後の事だった。



…生体細胞保持物質飽和液(LCL)生産装置保護用に現在製造中の人造蛋白壁(BBC)生産ラインにて何者かが侵入した形跡有り、ネルフ本部へ搬送済みの為現地にて汚染が無いか確認を依頼…

…該当輸送機内にて乗員以外の生体反応を感知、急遽新香港国際空港に検疫の為着陸を指示、乗員はP4施設にて120Hの隔離予定…

…機内点検の結果機器に異常は見付からず何者かが侵入していた可能性大なるも捜査員・捜索犬・各種センサー装備の無人捜索機の何れも対象を発見出来ず、尚捜査員、捜査犬も機内捜査終了後72Hの隔離を指示…

…現在機体より搬出した輸送物を調査中、調査後点検整備の後船便に積み換え第三新東京へ発送予定…

…搬入予定のBBCは到着次第精密検査の後、異常発見時には破棄処分とする。異常無しの場合はランクをCランクに格下げし、δユニット以降の部位へ使用制限を掛けるものとする…


―――


「お帰りマユミ、早かったね。」

「…ただいま帰りました、お義父さん。」

「うん。そう言えば今日は学校の企業見学会だったそうだが…見学先はどうだった?」

「良く…解りませんでした。途中で気分が悪くなって…」

「それはいけない!先生は病院へ連れて行ってくれたかい?」

「いいえ…救護室で休んだら良くなりましたし…貧血だろうと見学先の保健夫の方も…」

「そうか…しかし無理はいけないな、ちゃんと朝御飯は食べているのかい?
いつも残しているそうだが…家政婦さんも気にしていたよ、そう言えば夕食は?」

「いえ、未だ…」

「では今夜は久々に食べに出ようか、お父さん最近中華の美味しい店を紹介されてな、今度そこへ…」


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Re: 親父補完委員会((笑))【ゲン ( No.57 )
日時: 2014/07/27 16:06
名前: 何処

【−都合と思惑V−】


「失礼します。」「失礼します。」

「お、2人揃って来るとは珍しい、一体どうしたのかね?」

「は。首相、明日のスケジュールについてですが…山本、お前から説明しろ。」

「はい!では僭越ながら私が明日のスケジュールについてご説明させて頂きます。
 先ず第2東京国会議事堂にて行われている経済諮問会議の産業界代表による意見総括審議会が0830から0930、これへの出席を願います。
審議会終了後同会場別室にて婦人権利擁護団体代表との会談が0950まで、1000から1030までが全国知事会長とのTV会議です。
 1050リニアにて第三新東京へ移動、列車内にて外務省職員による某国大使との昼食会へのブリーフィングになります。
 1142第三新東京着、1200より1330昼食会になります。1355にVTOLにより先週の貨物船事故への視察団5名随行で三宅島へ向かって頂きます。
 1430現地到着、視察団と事故現場視察の後首相は別途1530からの救難隊表彰式へ出席願います。
表彰状授与後1600退席。
又、1730予定の第四次阪神工業地帯復興計画策定委員会は委員長の緊急入院により後日に延期となりました。
よってスケジュール調整により1610から小学校児童による歓迎会と老人養護センター視察、視察後の記念撮影にて現地養殖魚を試食して頂きます。
 1800第三新東京到着、後1830まで休憩、その後第三新東京防衛に当たるUN派遣自衛隊幹部とネルフ副司令冬月氏を交えた夕食会、その後は旧軽井沢での国連職員慰労会へのサプライズ出席が2000からとなります。
尚、明後日の主予定ですが旧東京集団墓地合同慰霊祭への表敬訪問と記帳はTV局からの要請で0840に前倒しとなりましたのでご了承下さい。旧松本空港跡地再開発事業計画の報告会議は1300からの予定です。」

「ほう、大分山本君も慣れて来た様だな。」

「血は争えませんね、私も彼の祖父には大分鍛えられましたが当時の私より数段出来が良い。
それと首相、ご依頼の那須ゴルフ場の予約ですが…日程に重工連からの招待が重なっておりますが?」

「ああ、例の公開試験だな。構わないよ、そっちには祝電を送れば十分だ。」

「宜しいのですか?」

「ああ、御披露目に箔を付けるだけの形式的招待だ、それに私が出れば制式化を推していると各方面に誤解を招きかねん。」

「?推進派の方々からは大分ご支援を頂いておりましたが?」

「…」

「山本!」

「!?し、失礼いたしました!」

「まあ良い…山本君、君は歴史に詳しいかね?」

「は?歴史…ですか?あまり詳しくは…」

「前大戦が連合国へのドイツの休戦協定締結とそれに伴う我が国の条件付き降伏により終結した事は?」

「?は、はぁ。その程度なら…」

「そう、連合国の勝利に終わった前大戦、その決め手は大陸反攻作戦の成功にある。
そしてその作戦計画中にとある新兵器が開発された…
その名はパンジャンドラム。」

「?パンジャ…ドラム?」

「そうだ、後は自分で調べたまえ。宿題だ。」

「はぁ…」

「山本」

「あ!は、はい!御教示有難う御座います!早速調べてみる事とします!」

「うん、下がって良いぞ。」

「は、はい!では失礼します!」

「…宜しいのですか?」

「ああ、仮にも政治家の秘書ならば事実を知って吹聴する低能ではあるまい。必要なら処分すれば良い。
 最も…只沈黙を守るだけの臆病者ならば一生秘書だろうな。
義憤に駈られ糾弾に回るなりこれ幸いと取引材料に使おうと情報収集するとかなら未だ見込みはある。
 それにどの道何時かは知る事だ、となればこの世界で生きる為にも表と裏を弁えて貰わねばな。」

「…珍しいですね、一喝で終わらせるかと思いましたが…」

「次世代育成は現役の義務だよ君…と言うのは表向き、今日は機嫌が良いからな。」

「?」

「何しろ久々のゴルフの予定だ、まぁ普段ならこんなサービスはせんよ。それに…
今の山本君は若い頃の私にそっくりだったからな。覚えているか?」

「覚えてますとも…あの山本の御祖父には私も散々怒鳴られた口ですし…」

「因果は巡るか…そうだ、次のゴルフには君も参加するんだぞ!いつぞやの敵取らせて貰うからな!」

「いきなり二年前の事を蒸し返さないで下さい。大体秘書官が首相とゴルフな…
…そう言えば首相も大臣秘書官の時に…」

「おう、あの時はお前が秘書官代理押し付けられたんだったな。この際爺さんへの意趣返しに山本を使え!」

「色々根に持ってますね…しかし私も一年はクラブを握ってませんからお相手が務まるか…」

「何?ならば私が大勝するチャンスだな、こんな機会逃す訳にはいかん。
絶対参加するんだぞ、この際君には徹底的に勝ってやるからな!」

「…やっぱり根に持ってますね…」


―――


「機甲科第三師団第一大隊第六戦車小隊第一分隊2号車操縦士浅利ケイタ一等陸士」
「はいっ!」
「特務科第二空挺団第四偵察隊特殊戦戦術情報官霧島マナ一等陸士」
「はい!」
「支援航空科第四ヘリコプター大隊第一対戦車飛行隊二番機射撃手ムサシ・リー・ストラスバーグ陸士長。」
「はっ!」

「ふっ、三人共何故ここに呼ばれたか判らん様子だな。安心しろ、貴様等を捕って喰いはせん!」

「うん、まぁ三人が三人共何の共通点も無い科の出身だからな、無理も無いだろう。曹長、続けたまえ。」

「は、では…科を跨いで貴様達に集合を掛けたのは他でもない、貴様等の適性を見込んだ特殊任務だ。
これより貴様ら3人は此方の一等陸尉の元へ配属となる。」

「摂津瑞穂一尉だ。君達の転属命令は既に発令している、よってこれより君達3人は私直属の部下となる。
本部にて転属命令受領後直ちに羅臼へ向かい特殊訓練を受けろ。内容につい…おい曹長、下がって良いぞ。」

「?いやしかし…は、了解しました。では後は宜しく願います。」

「…これより話す内容は機密事項に属する、他言無用だ。
 羅臼で1ヶ月の特殊訓練の後君達はカリフォルニアへ極秘輸送する精密機械の護衛任務に着く事になる。
尚、対象へ精密機器引渡しの後我々はフロリダへ飛び特殊機器を受領・更に1ヶ月慣熟訓練を受けこれと共に帰国予定となる。」

「はっ!」「了解しました!」「瑞穂三佐殿!質問が」

「質問は受け付けん。それと“殿”はいらん。
君達の部隊教育内容は知らん、が、旧軍の悪癖を引き継ぐ必要は無い。」

「?」「…」「…了解しました。」

「因みにこれから私は独り言を呟く、独り言だから聞く事も記憶に留める必要も無い。」

「「「?」」」

「…君達3人は特殊機器オペレーターに内部選考の結果選ばれた。
はっきり言えばフロリダで引き渡される特殊機器とは新兵器の事だ、君達は新兵器のパイロットとしてここに集められたのだ。」

「スゲェ!」「嘘…」「マジかよ…」

「我々の任務はこの兵器を受領し極秘裏に日本へ持ち帰る事だ。
既に機体は完成し我々の輸送する精密機器の組み込みを待っている。
 我々の護衛対象とはこの精密機械…言わばこの新兵器の心臓部だ。これにより新兵器は真に完成する。
そしてこの新兵器は既に命名済みだ。その名は…“ライデン”
制式名称トライデント級戦略機動兵器試作3号“雷電”だ。」

「へー…」「雷電…」「…気に入った。」

「尚、秘匿名称は“陸上軽巡洋艦”…だそうだ。」

「ガクッ」「何それ」「いきなり嘘臭いな」

「何処の国も官僚のネーミングセンスには期待出来ない証拠だな。最もこの秘匿名称なら誰も信じないからある意味正解か…
 さて、独り言は終わりだ。では諸君、これより本部へ出頭し、転属命令を正式に受領せよ。
受領後直ちにVTOLで羅臼へ向かうから直ぐに来い。私はヘリポートで待っている。以上!」

「「「はっ!」」」


―――


「マユミ、出発の準備はいいかい?」

「…はい、義父さん。」

「次に向かうのは日本だ。」

「…日本…」

「懐かしいかい?」

「…そう…ですね、日本に居たのは随分昔でしたから…」

「…マユミ、実はお父さんはもう転勤しないで済む様偉い人にお願いしてきたんだ。」

「…」

「お父さんも疲れたんだ。偉い人も話を聞いてくれたよ、どうやら出張以外は日本で済ませてくれるらしい。
これからはもうお父さんの都合でマユミも引っ越す必要は無くなる筈だ。」

「…そう…ですか…」

「色々苦労をかけたな、マユミ…
さぁ、飛行機の時間が近い、行こうか。」

「…はい…」



《デウス・エクス・マキナ》
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